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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A63F
管理番号 1389327
総通号数 10 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-10-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2022-04-15 
確定日 2022-10-18 
事件の表示 特願2019−176844「遊技機」拒絶査定不服審判事件〔令和 3年 4月 8日出願公開、特開2021− 52886、請求項の数(1)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、令和1年9月27日の出願であって、令和3年5月24日に手続補正書が提出され、同年9月15日付けで拒絶の理由が通知され、同年11月29日に意見書及び手続補正書が提出されたところ、令和4年1月12日付け(送達日:同月25日)で拒絶査定(以下「原査定」という。)がなされ、それに対して、同年4月15日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正がなされ、同年6月3日付けで前置報告がなされたものである。


第2 原査定の概要

原査定の概要は次のとおりである。
本願の請求項1に係る発明は、引用文献1(特開2012−70851号公報)に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


第3 審判請求時の補正(令和4年4月15日付け手続補正)について

審判請求時の補正は、特許法第17条の2第3項から第6項までの要件に違反しているものとはいえない。
当該補正によって、補正前の請求項1について、発明を特定するために必要な事項である「スタートレバー」について、「リールが回転している状況にて、前記スタートレバーの操作を検出している場合は、前記リールに対応するストップスイッチが操作されても前記リールが停止せず、」という限定を加えるものであって、補正後の請求項1に係る発明は、補正前の請求項1に係る発明と、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、当該補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、審判請求時の補正により追加された上記限定は、当初明細書等の【0029】、【0081】に記載された事項であり、新規事項を追加するものではないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たす。


そして、「第4 本願発明」から「第6 対比・判断」までに示すように、当該補正後の請求項1に係る発明は、独立特許要件を満たすものであるから、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合する。


第4 本願発明

本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、令和4年4月15日付け手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次の発明である(記号A〜Dは、分説するため当審にて付した。)。
本願発明
「【請求項1】
A 操作部を備えたスタートレバーを備え、
A1 前記スタートレバーは初期位置から鉛直下方に向かう力で操作可能であるよう構成されており、
A2 前記スタートレバーは初期位置から鉛直上方に向かう力で操作可能であるよう構成されており、
A3 前記スタートレバーが初期位置から鉛直下方に向かう力で操作された場合よりも、前記スタートレバーが初期位置から鉛直上方に向かう力で操作された場合の方が、前記スタートレバーの操作が最初に検出可能となる検出位置まで操作されるときの前記操作部の中心の移動距離が長くなるよう構成されており、
B リールが回転している状況にて、前記スタートレバーの操作を検出している場合は、前記リールに対応するストップスイッチが操作されても前記リールが停止せず、
C1 前記スタートレバーが初期位置から鉛直上方に向かう力で操作されて限界位置(前記スタートレバーが初期位置から鉛直上方に向かう力で操作された場合に前記スタートレバーの操作を最初に検出可能となる検出位置を超えた位置であって前記操作部が鉛直上方に移動できない位置)まで移動してから、
C2 力を加えずに前記操作部が離されると、前記スタートレバーが初期位置から鉛直下方に向かう力で操作された場合に前記スタートレバーの操作を最初に検出可能な検出位置となるまで前記操作部が移動しないよう構成されている
D 遊技機。」


第5 引用文献等

1 引用文献1について
(1)記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特開2012−70851号公報)には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は、当審にて付した。以下同様。)。
ア 「【技術分野】
【0001】
この発明は、操作レバーの先端に設けた操作部を所定の方向に操作することによってスイッチングを行う遊技機用スイッチ装置、およびこの遊技機用スイッチ装置を備える遊技機に関するものである。」

イ 「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
・・・
すなわち、本願発明は、一連の操作で異なる操作信号を順次出力可能であり、かつ操作方向に応じて出力信号を選択可能な遊技機用スイッチ装置を提供することを第一の目的とする。また、第一の目的に加え、コンパクトに形成された遊技機用スイッチ装置を提供することを第二の目的とする。さらに、上記した遊技機用スイッチ装置を好適に機能させ得る遊技機を提供することを第三の目的とする。」

ウ 「【0046】
(スロットマシンS)
スロットマシンSは、図1に示すように、箱形の筐体2の正面側に板状の前扉3を開閉自在に取り付け、筐体2の内部には、3個の回転リール5Aを有するリールユニット5、メダルを貯留するとともに払い出すためのホッパーユニット6、スロットマシンSの作動を制御するための制御装置7を収納固定した構成となっている。・・・
・・・
【0050】
(スタートレバーユニット1)
次に、スタートレバーユニット1の構成を詳述する。
本実施の形態のスタートレバーユニット1は、操作レバー10を原点位置から1方向へ傾ける一連の傾動操作によって、スロット遊技の開始に関連する2つの処理(MAXベット処理・スタート処理)を所定の順序で実行可能に構成したものであって、これにより、遊技者の遊技操作の負担を軽減すると共に、遊技操作がスムーズに行えるようにしたものである。
スタートレバーユニット1は、大別すると、遊技者からの操作によって上下方向に傾動可能であるとともに軸方向前後にスライド可能な操作レバー10と、操作レバー10を傾動又はスライド可能に保持するレバー軸ホルダ20と、操作レバー10を原点位置に保持するための原点復帰機構30と、操作レバー10の操作を検知するためのセンサユニット50及び遮光部材80と、センサユニット50を内部に収納するとともに操作レバー10の後部をカバーするレバー軸ケース40と、より構成される。
【0051】
(操作レバー10)
操作レバー10は、図2及び図3に示すように、金属製のレバー軸11と、レバー軸11の端部に固定される操作部12と、レバー軸11に装着されるスリーブ13とを備えている。・・・
【0052】
前記操作部12は、遊技者によって所定の遊技操作(押下操作・押上操作・引出操作)が直接的に行われる略球体状の部材である。この操作部12は、その後部が球形状ではなく垂直な端面となる。・・・」

エ 「【0054】
また、レバー軸ホルダ20の中空部内周面の天井部分および底面部分には、図2に示すように、操作レバー10の傾動角度を規制するための規制部として、上側突部25および下側突部26が形成されている。上側突部25には、正面側から背面側に向かって下り傾斜するテーパ面25Aが、下側突部26には、正面側から背面側に向かって上り傾斜するテーパ面26Aが、それぞれ形成されており、操作レバー10が傾動操作されたときに、操作レバー10のスリーブ13を各テーパ面25A,26Aで受け止めるようになっている。・・・
【0055】
なお、操作レバー10の最大傾動角度は、上側突部25のテーパ面25Aと下側突部26のテーパ面26Aが成す角度によって決定される。この角度は、操作レバー10が上下方向へ傾動操作された場合に、センサユニット50に内蔵されたスタートセンサ60及びMAXベットセンサ70によって遮光部材80が検知可能となるような角度に設定されている。・・・」

オ 「【0058】
このように、原点復帰機構30によって、操作レバー10は、常態においては、大径軸部11Cおよびスリーブ13の後端面が揺動軸部材23の前端面に当接することで、後方へ付勢されつつ原点位置に留まることとなる。そして、操作部12を前方向に引くことにより操作レバー10が前方に引出操作された場合には、コイルバネ31の軸方向の復元力により原点位置に戻り、操作部12を押下又は押し上げることにより操作レバー10が下方又は上方に傾動操作された場合には、コイルバネ31の軸直交方向の復元力により原点位置に戻るようになっている。・・・」

カ 「【0073】
(操作レバー 10の操作方向とセンサからの出力信号)
ここで、本実施形態のスタートレバーユニット1では、MAXベット被検知部85がMAXベットセンサ70の検知部71を遮断した状態では、MAXベットセンサ70から直接出力される検知信号(以下MAXベット検知信号という)は「Hi」レベルであって、MAXベット被検知部85がMAXベットセンサ70の検知部71から離脱すると、MAXベット検知信号は「Hi」レベルから「Low」レベルへ変化する。同様に、スタート被検知部84がスタートセンサ60の検知部61を遮断した状態からスタートセンサ60の検知部61を離脱した状態となると、スタートセンサ60から直接出力される検知信号(以下スタート検知信号という)も、「Hi」レベルから「Low」レベルへ変化する。但し、これら各センサからの 検知信号は、 外部(メイン制御基板7A )へ直接出力されるのではなく、センサ回路基板56に形成されたセンサ信号処理回路によって処理された信号が外部へ出力されることとなる。具体的には、 センサ回路基板56からは、MAXベット検知信号に基づくMAXベット信号と、スタート検知信号に基づくスタート信号が出力される。
【0074】
次に、操作レバー10の操作方向に伴うスタートセンサ60及びMAXベットセンサ70の信号出力について説明する。前述したように、本実施形態のスタートレバーユニット1は、操作部12を操作することにより、操作レバー10の前方部を下方向(第一操作方向)、上方向(第二操作方向)及び前方向(第三操作方向)に移動させることができる。
まず、図11(A)、図12(A)、図13(A)に示すように、操作レバー10が原点位置にある場合、MAXベット被検知部85及びスタート被検知部84は、それぞれ、MAXベットセンサ70及びスタートセンサ60の検知部71,61を遮断した状態となっており、MAXベットセンサ70及びスタートセンサ60からの出力信号は「Hi」レベルとなっている。
【0075】
操作レバー10が第一操作方向である下方向へ傾動操作される(遮光板81が上方向へ移動する)場合、図11(B)に示すように、操作レバー10の傾斜角度が所定角度αに達すると、MAXベット被検知部85がMAXベットセンサ70の検知部71を離脱(上方向へ離脱)し、MAXベットセンサ70からの出力信号は「Low」レベルに変化する。但し、この時点で、スタート被検知部84はスタートセンサ60の検知部61を遮断したままである。そして、図11(C)に示すように、操作レバー10の傾斜角度が所定角度β(最大傾動角度)に達すると、スタート被検知部84がスタートセンサ60の検知部61を離脱し、スタートセンサ60からの出力信号も「Low」レベルに変化する。つまり、第一操作方向では、先にMAXベットセンサ70、次にスタートセンサ60の順に出力信号が変化する。・・・
【0076】
なお、操作レバー10の傾斜角度が最大傾動角度に達する前に、スタート被検知部84がスタートセンサ60の検知部61を離脱してスタートセンサ60がそれを検知するようにしても良い。
操作レバー10が第二操作方向である上方向へ傾動操作される(遮光板81が下方向へ移動する)場合、図12(B)に示すように、操作レバー10の傾斜角度が所定角度γに達すると、スタート被検知部84がスタートセンサ60の検知部61を離脱(下方向へ離脱)し、スタートセンサ60からの出力信号が「Low」レベルに変化する。・・・」

キ 「【0087】
回転リール5Aの回転中に、対応するストップスイッチ4Dを操作することにより、回転リール5Aが回転停止する。・・・」

ク 「【0095】
(変形例2)
第一の実施形態のスタートレバーユニット1では、操作レバー10の傾動範囲が上方向と下方向とで略同じ程度となるように構成されているが、これに限らず、例えば操作レバー10の上下に位置するストッパ(テーパ面25A,26A)の傾斜角度や形状を異ならせて、操作レバー10の傾動範囲が上方向と下方向とで異なるように構成しても良い。・・・」

ケ 図11
「【図11】



コ 図12
「【図12】




(2)認定事項
ア 認定事項1
【0076】の「操作レバー10が第二操作方向である上方向へ傾動操作される(遮光板81が下方向へ移動する)場合、図12(B)に示すように、操作レバー10の傾斜角度が所定角度γに達すると、スタート被検知部84がスタートセンサ60の検知部61を離脱(下方向へ離脱)し、スタートセンサ60からの出力信号が『Low』レベルに変化する。」との記載、及び、「操作レバー10の傾斜角度が最大傾動角度に達する前に、スタート被検知部84がスタートセンサ60の検知部61を離脱してスタートセンサ60がそれを検知するようにしても良い。」との記載から、引用文献1には、操作レバー10が上方向へ傾動操作される場合の最大傾動角度は、所定角度γより大きい角度であることが記載されているものと認められる(認定事項1)。

イ 認定事項2
第一の実施形態の変形例2に関する【0095】の「(変形例2)第一の実施形態のスタートレバーユニット1では、操作レバー10の傾動範囲が上方向と下方向とで略同じ程度となるように構成されているが、これに限らず、例えば操作レバー10の上下に位置するストッパ(テーパ面25A,26A)の傾斜角度や形状を異ならせて、操作レバー10の傾動範囲が上方向と下方向とで異なるように構成しても良い。」との記載、【0054】の「また、レバー軸ホルダ20の中空部内周面の天井部分および底面部分には、図2に示すように、操作レバー10の傾動角度を規制するための規制部として、上側突部25および下側突部26が形成されている。上側突部25には、正面側から背面側に向かって下り傾斜するテーパ面25Aが、下側突部26には、正面側から背面側に向かって上り傾斜するテーパ面26Aが、それぞれ形成されており、操作レバー10が傾動操作されたときに、操作レバー10のスリーブ13を各テーパ面25A,26Aで受け止めるようになっている。」との記載、及び、【0055】の「なお、操作レバー10の最大傾動角度は、上側突部25のテーパ面25Aと下側突部26のテーパ面26Aが成す角度によって決定される。」との記載を踏まえると、操作レバー10が上方向又は下方向に傾動操作される場合の「操作レバー10の傾動範囲」とは、「操作レバー10の最大傾動角度」を意味するものである。
そうすると、引用文献1には、操作レバー10の最大傾動角度が上方向と下方向とで異なるように構成されることが記載されているものと認められる(認定事項2)。

ウ 認定事項3
【0058】の「操作部12を押下又は押し上げることにより操作レバー10が下方又は上方に傾動操作された場合には、コイルバネ31の軸直交方向の復元力により原点位置に戻るようになっている。」との記載、及び、【0052】の「前記操作部12は、遊技者によって所定の遊技操作(押下操作・押上操作・引出操作)が直接的に行われる略球体状の部材である。」との記載に加え、操作レバー10は遊技者の手で操作され、操作レバー10が上方向に傾動操作された場合、遊技者の手が離されると当該操作が終了することが技術常識であることを踏まえると、引用文献1には、操作部12を押し上げることにより操作レバー10が上方向に傾動操作され、操作レバー10から遊技者の手が離された場合には、コイルバネ31の軸直交方向の復元力により原点位置に戻ることが記載されているものと認められる(認定事項3)。

(3)引用発明
上記(1)、(2)より、引用文献1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
引用発明
「操作部12を備えた操作レバー10を備え、
操作レバー10は、常態においては、原点位置に留まり、遊技者からの操作によって上下方向に傾動可能であり(【0050】、【0051】、【0058】)、
操作レバー10が下方向へ傾動操作される場合、操作レバー10の傾斜角度が所定角度αに達すると、MAXベット被検知部85がMAXベットセンサ70の検知部71を離脱し、MAXベットセンサ70からの出力信号は「Low」レベルに変化して、MAXベット検知信号に基づくMAXベット信号が出力され(【0073】、【0075】、図11(B))、操作レバー10の傾斜角度が所定角度βに達すると、スタート被検知部84がスタートセンサ60の検知部61を離脱し、スタートセンサ60からの出力信号が「Low」レベルに変化してスタート検知信号に基づくスタート信号が出力され(【0073】、【0075】、図11(C))、先にMAXベットセンサ70、次にスタートセンサ60の順に出力信号が変化するものであり(【0075】)、
操作レバー10が上方向へ傾動操作される場合、操作レバー10の傾斜角度が所定角度γに達すると、スタート被検知部84がスタートセンサ60の検知部61を離脱し、スタートセンサ60からの出力信号が「Low」レベルに変化してスタート検知信号に基づくスタート信号が出力され(【0073】、【0076】、図12(B))、
操作レバー10の傾動角度を規制するための規制部として、上側突部25および下側突部26が形成され、操作レバー10が傾動操作されたときに、操作レバー10のスリーブ13を上側突部25のテーパ面25Aと下側突部26のテーパ面26Aで受け止めるようになっていて、操作レバー10の最大傾動角度は、上側突部25のテーパ面25Aと下側突部26のテーパ面26Aが成す角度によって決定され(【0054】、【0055】)、
操作レバー10が上方向へ傾動操作される場合の最大傾斜角度は、所定角度γより大きい角度であり(認定事項1)、
操作レバー10の最大傾動角度が上方向と下方向とで異なるように構成され(認定事項2)、
回転リール5Aの回転中に、対応するストップスイッチ4Dを操作することにより、回転リール5Aが回転停止し(【0087】)、
操作部12を押し上げることにより操作レバー10が上方向に傾動操作され、操作レバー10から遊技者の手が離された場合には、コイルバネ31の軸直交方向の復元力により原点位置に戻るようになっている(認定事項3)
スロットマシンS(【0046】)。」

2 前置報告において示された周知技術について
前置報告においては、上記引用文献1に加え、周知技術を示す文献として、引用文献2(特開平7−213683号公報)、引用文献3(特開2003−169880号公報)が引用されている。
(1)引用文献2
引用文献2の【0014】に「前記リール表示窓2の近傍には、メダル投入口7の他、ゲームを実施するのに必要な構成として、ベットスイッチ4,始動レバー5,リール毎の停止釦スイッチ6などが配置される。」と記載され、【0019】に「図3は、前記プログラムに従った前記制御回路部20による制御手順をステップ1(図中「ST1」で示す)〜ステップ17で示しており、以下、同図に示す制御手順に従って上記スロットマシンの動作を説明する。」と記載され、【0021】に「つぎのステップ3では、始動レバースイッチ12がオンしたか否かが判定され、・・・始動レバー5の操作は有効化されてステップ5へ進み、3個のリール1A,1B,1Cが一斉に始動する。」と記載され、【0022】に「つぎのステップ6では、1番目の停止釦スイッチ6が押操作されたか否かが判定され、もし始動レバースイッチ12がオン状態のままであれば、ステップ6が「YES」、ステップ7が「NO」となり、停止釦スイッチ6の操作は有効化されない。」と記載されている。
これより、引用文献2には、始動レバー5とリール毎の停止釦スイッチ6が配置される(【0014】)スロットマシンにおいて(【0019】)、始動レバー5の操作が有効化されて3個のリール1A,1B,1Cが一斉に始動した後(【0021】)、1番目の停止釦スイッチ6が押操作されたか否かが判定され、もし始動レバースイッチ12がオン状態のままであれば、停止釦スイッチ6の操作は有効化されない(【0022】)技術が記載されている。

(2)引用文献3
引用文献3の【0026】に「スロットマシン1の前面扉は、」と記載され、【0040】に「スタートレバー11は、ゲームを開始する際に遊技者が操作するもので、その操作がスタートスイッチ41(図5参照)によって検出されると、リール駆動モータ3ML、3MC、3MRが駆動開始され、リール3L、3C、3Rが回転開始する。停止ボタン12L、12C、12Rは、それぞれ遊技者が所望のタイミングでリール3L、3C、3Rの回転を停止させるべく操作するボタンであり、その操作がストップスイッチ42L、42C、42R(図5参照)で検出されると、リール3L、3C、3Rの回転が停止される。」と記載され、【0084】に「ステップS205では、スタートスイッチ41の検出信号に基づいて、スタートレバー11が操作されているかどうかを判定する。スタートレバー11が操作されている間において遊技者が停止操作を行うことができなくするように、停止ボタン12L、12C、12Rの全てを操作無効とし、操作有効ランプ63L、63C、63Rを消灯させる(ステップS206)。」と記載されている。
これより、引用文献3には、スロットマシン1において(【0026】)、スタートレバー11の操作がスタートスイッチ41によって検出されるとリール3L、3C、3Rが回転開始し、停止ボタン12L、12C、12Rの操作がストップスイッチ42L、42C、42Rで検出されると、リール3L、3C、3Rの回転が停止され(【0040】)、スタートスイッチ41の検出信号に基づいて、スタートレバー11が操作されているかどうかを判定して、スタートレバー11が操作されている間において遊技者が停止操作を行うことができなくするように、停止ボタン12L、12C、12Rの全てを操作無効とする(【0084】)技術が記載されている。

(3)周知技術
上記(1)、(2)より、スロットマシンにおいて、リールが回転している状況にて、スタートレバーの操作を検出している場合は、リールに対応するストップスイッチが操作されてもリールが停止しないよう制御することは従来周知の技術(以下「周知技術」という。)であると認められる。


第6 対比・判断

1 本願発明について
(1)対比
本願発明と引用発明とを分説に従って対比する。
ア 構成A、A1、A2について
引用発明の「操作部12」、「操作レバー10」はそれぞれ、本願発明の「操作部」、「スタートレバー」に相当する。
また、引用発明の「常態において」「留ま」る「原点位置」、「遊技者からの操作によ」ること、「下方向」、「上方向」はそれぞれ、本願発明の「初期位置」、「操作可能である」こと、「鉛直下方」、「鉛直上方」に相当し、さらに、引用発明において、「上下方向に傾動可能」であることは、本願発明の「鉛直下方に向かう力で操作可能である」こと及び「鉛直上方に向かう力で操作可能である」ことのいずれにも相当するから、引用発明の「操作レバー10は、常態においては、原点位置に留まり、遊技者からの操作によって上下方向に傾動可能」であることは、本願発明の「前記スタートレバーは初期位置から鉛直下方に向かう力で操作可能であるよう構成されており、前記スタートレバーは初期位置から鉛直上方に向かう力で操作可能であるよう構成されて」いることに相当する。
してみれば、引用発明は、本願発明の構成A、A1、A2を具備している。

イ 構成A3について
(ア)引用発明の「操作レバー10が下方向へ傾動操作される場合」に、「スタート検知信号に基づくスタート信号が出力され」る契機となる「スタート被検知部84がスタートセンサ60の検知部61を離脱し、スタートセンサ60からの出力信号が「Low」レベルに変化」する位置、すなわち、「操作レバー10の傾斜角度が所定角度βに達する」位置は、本願発明の「前記スタートレバーが初期位置から鉛直下方に向かう力で操作された場合」に、「前記スタートレバーの操作が最初に検出可能となる検出位置」に相当する。
よって、引用発明において、「操作レバー10が下方向へ傾動操作される場合」に、「操作レバー10の傾斜角度が所定角度βに達する」ことは、本願発明において「前記スタートレバーが初期位置から鉛直下方に向かう力で操作された場合」に、「前記スタートレバーの操作が最初に検出可能となる検出位置まで」移動することに相当する。

(イ)また、引用発明の「操作レバー10が上方向へ傾動操作される場合」に、「スタート検知信号に基づくスタート信号が出力され」る契機となる「スタート被検知部84がスタートセンサ60の検知部61を離脱し、スタートセンサ60からの出力信号が「Low」レベルに変化」する位置、すなわち、「操作レバー10の傾斜角度が所定角度γに達する」位置は、本願発明の「前記スタートレバーが初期位置から鉛直上方に向かう力で操作された場合」に、「前記スタートレバーの操作が最初に検出可能となる検出位置」に相当する。
よって、引用発明において、「操作レバー10が上方向へ傾動操作される場合」に、「操作レバー10の傾斜角度が所定角度γに達する」ことは、本願発明において「前記スタートレバーが初期位置から鉛直上方に向かう力で操作された場合」に、「前記スタートレバーの操作が最初に検出可能となる検出位置まで」移動することに相当する。

(ウ)そうすると、引用発明と本願発明の構成A3とは、前記スタートレバーが初期位置から鉛直下方に向かう力で操作された場合に、前記スタートレバーの操作が最初に検出可能となる検出位置まで操作部は移動し、前記スタートレバーが初期位置から鉛直上方に向かう力で操作された場合に、前記スタートレバーの操作が最初に検出可能となる検出位置まで操作部は移動するという点で共通する。

ウ 構成Bについて
引用発明の「回転リール5A」、「回転中」であること、「対応」すること、「ストップスイッチ4D」、「操作すること」はそれぞれ、本願発明の「リール」、「回転している状況」、「対応する」こと、「ストップスイッチ」、「操作され」ていることに相当する。
よって、引用発明と本願発明の構成Bとは、リールが回転している状況にて、前記リールに対応するストップスイッチが操作可能である点で共通する。

エ 構成C1について
上記イ(イ)の検討を踏まえると、引用発明の「操作レバー10が上方向へ傾動操作される場合」に、「スタート検知信号に基づくスタート信号が出力され」る契機となる「スタート被検知部84がスタートセンサ60の検知部61を離脱し、スタートセンサ60からの出力信号が「Low」レベルに変化」する位置、すなわち、「操作レバー10の傾斜角度が所定角度γに達する」位置は、本願発明の「前記スタートレバーが初期位置から鉛直上方に向かう力で操作された場合に前記スタートレバーの操作を最初に検出可能となる検出位置」に相当する。
また、引用発明の「操作レバー10が上方向へ傾動操作される場合」に、「操作レバー10の傾動角度を規制するための規制部として」「形成された」「上側突部25」「のテーパ面26Aで受け止める」位置、すなわち、「所定角度γより大きい角度であ」る「操作レバー10が上方向へ傾動操作される場合の最大傾動角度」となる位置は、本願発明の「検出位置を超えた位置」及び「前記操作部が鉛直上方に移動できない位置」のいずれにも相当し、「限界位置」にも相当する。
したがって、引用発明の「操作レバー10が上方向へ傾動操作され」て、「所定角度γより大きい角度であ」る「最大傾動角度に達する」ことは、本願発明の「前記スタートレバーが初期位置から鉛直上方に向かう力で操作されて限界位置(前記スタートレバーが初期位置から鉛直上方に向かう力で操作された場合に前記スタートレバーの操作を最初に検出可能となる検出位置を超えた位置であって前記操作部が鉛直上方に移動できない位置)まで移動」することに相当する。
してみれば、引用発明は、本願発明の構成C1を具備している。

オ 構成C2について
引用発明の「操作部12を押し上げることにより操作レバー10が上方に傾動操作され、遊技者の手が離され」ることは、本願発明の「力を加えずに前記操作部が離される」ことに相当する。
よって、引用発明と本願発明の構成C2とは、力を加えずに前記操作部が離される点で共通する。

カ 構成Dについて
引用発明の「スロットマシンS」は、本願発明の「遊技機」に相当するから、引用発明は、本願発明の構成Dを具備している。

キ 上記ア〜カより、本願発明と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。
(一致点)
「A 操作部を備えたスタートレバーを備え、
A1 前記スタートレバーは初期位置から鉛直下方に向かう力で操作可能であるよう構成されており、
A2 前記スタートレバーは初期位置から鉛直上方に向かう力で操作可能であるよう構成されており、
A3’ 前記スタートレバーが初期位置から鉛直下方に向かう力で操作された場合に、前記スタートレバーの操作が最初に検出可能となる検出位置まで操作部は移動し、
前記スタートレバーが初期位置から鉛直上方に向かう力で操作された場合に、前記スタートレバーの操作が最初に検出可能となる検出位置まで操作部は移動し、
B’ リールが回転している状況にて、前記リールに対応するストップスイッチが操作可能であり、
C1 前記スタートレバーが初期位置から鉛直上方に向かう力で操作されて限界位置(前記スタートレバーが初期位置から鉛直上方に向かう力で操作された場合に前記スタートレバーの操作を最初に検出可能となる検出位置を超えた位置であって前記操作部が鉛直上方に移動できない位置)まで移動してから、
C2’ 力を加えずに前記操作部が離される
D 遊技機。」

(相違点)
ア 相違点1(構成A3について)
スタートレバーの操作が最初に検出可能となる検出位置まで操作されるときの操作部の中心の移動距離について、本願発明は、「前記スタートレバーが初期位置から鉛直下方に向かう力で操作された場合よりも、前記スタートレバーが初期位置から鉛直上方に向かう力で操作された場合の方が、」「長くなるよう構成されて」いるのに対し、引用発明は、「操作レバー10の傾動範囲が上方向と下方向とで異なるように構成され」ているものの、スタート検知信号に基づくスタート信号が出力されるときの操作レバー10の傾斜角度について、操作レバー10が下方向へ傾動操作される場合の「所定角度β」と、同上方向へ傾動操作される場合の「所定角度γ」との角度の大小が不明である点。

イ 相違点2(構成Bについて)
リールが回転している状況にて、リールに対応するストップスイッチが操作された場合の制御について、本願発明は、「前記スタートレバーの操作を検出している場合は、」「前記リールが停止せず」という構成を有するのに対し、引用発明は、そのような構成を有しない点。

ウ 相違点3(構成C2について)
スタートレバーが初期位置から鉛直上方に向かう力で操作されて限界位置まで移動してから、力を加えずに操作部が離される場合について、本願発明は、「前記スタートレバーが初期位置から鉛直下方に向かう力で操作された場合に前記スタートレバーの操作を最初に検出可能な検出位置となるまで前記操作部が移動しない」のに対し、引用発明は、そのような構成を備えていない点。

(2)相違点についての判断
相違点1について検討する。
ア まず、引用発明において、スタート検知信号に基づくスタート信号が出力されるときの操作レバー10の傾斜角度について、操作レバー10が下方向へ傾動操作される場合の「所定角度β」と、同上方向へ傾動操作される場合の「所定角度γ」との角度の大小は不明である。

イ 次に、引用発明は、「操作レバー10の最大傾動角度が上方向と下方向とで異なるように構成され」ているが、これは「操作レバー10の傾動角度を規制するための規制部」としての「最大傾斜角度」についての構成であり、上方向と下方向とで「スタート検知信号に基づくスタート信号が出力される」位置、すなわち、「スタート被検知部84がスタートセンサ60の検知部61を離脱し、スタートセンサ60からの出力信号が「Low」レベルに変化」する位置を示す角度である「所定角度β」及び「所定角度γ」(以下「検出位置」という。)についての構成ではない。そして、引用発明において、「最大傾斜角度」は「上側突部25のテーパ面25Aと下側突部26のテーパ面26Aが成す角度によって決定される」ものであるのに対して、「検出位置」(「所定角度β」及び「所定角度γ」)は、「スタート被検知部84」と「スタートセンサ60の検知部61」との位置関係により決定されるものであるから、「最大傾斜角度」を変更したとしても、必ずしも「検出位置」を変更する必要性が生じるものではない。さらに、引用発明は、「操作レバー10の最大傾動角度が上方向と下方向とで異なるように構成され」ているが、上方向と下方向のいずれの最大傾動角度を大きくするかは特定されていない。

ウ ここで、引用発明において、操作レバー10が上下方向に傾動操作されると、操作部12が円弧状の軌跡を描いて移動するから、操作レバー10が傾動操作される位置を表す「最大傾斜角度」、「所定角度β」及び「所定角度γ」が、操作レバー10に備えられた操作部12の中心の移動距離を表すことが明らかである。
そうすると、引用文献1には、操作レバー10が上方向又は下方向に傾動操作されたときの「検出位置」までの角度、すなわち、操作部12の中心の移動距離を、下方向に傾動操作されたときよりも上方向に傾動操作されたときの方が長くなるように構成することは記載も示唆もされていない。
また、前置報告において示された周知技術は、上記「第5 引用文献等」の「2 前置報告において示された周知技術」「(3)」に記載したとおりであるところ、当該周知技術は、スロットマシンにおいて、リールが回転している状況にて、スタートレバーの操作を検出している場合は、リールに対応するストップスイッチが操作されてもリールが停止しないよう制御するという相違点2に関連する技術であって、操作レバー10が上方向又は下方向に傾動操作されたときの移動距離を示す技術ではなく、上記相違点1に係る本願発明の構成が本願出願時に従来周知の技術であると認めることはできない。

エ 以上の検討より、引用発明において、操作レバー10が上方向又は下方向に傾動操作されたときの「検出位置」までの角度、すなわち、操作部12の中心の移動距離を、下方向に傾動操作されたときよりも上方向に傾動操作されたときの方が長くなるように構成することが容易であるとはいえない。
してみれば、上記相違点1に係る本願発明の構成については、当業者であっても引用発明に基いて容易に想到することはできない。

(3)まとめ
したがって、上記相違点2及び相違点3について判断するまでもなく、本願発明は、当業者であっても引用発明に基いて容易に発明できたものであるとはいえない。


第7 原査定について

原査定(特許法第29条第2項)について、本願発明の「前記スタートレバーが初期位置から鉛直下方に向かう力で操作された場合よりも、前記スタートレバーが初期位置から鉛直上方に向かう力で操作された場合の方が、前記スタートレバーの操作が最初に検出可能となる検出位置まで操作されるときの前記操作部の中心の移動距離が長くなるよう構成されており、」という事項について、上記「第6 対比・判断」の「(2)相違点についての判断」に記載したとおり、当業者であっても、原査定の拒絶の理由において引用された引用文献1に基いて、容易に発明できたものとはいえない。
したがって、原査定の理由を維持することはできない。


第8 むすび

以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。


 
審決日 2022-09-29 
出願番号 P2019-176844
審決分類 P 1 8・ 121- WY (A63F)
最終処分 01   成立
特許庁審判長 南 宏輔
特許庁審判官 ▲吉▼川 康史
蔵野 いづみ
発明の名称 遊技機  
代理人 大西 正悟  

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