ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L |
---|---|
管理番号 | 1389337 |
総通号数 | 10 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2022-10-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2022-06-16 |
確定日 | 2022-08-23 |
事件の表示 | 特願2022−503007「窒化物半導体ウェーハの製造方法及び窒化物半導体ウェーハ」拒絶査定不服審判事件〔請求項の数(3)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2021年(令和3年)4月8日(優先権主張 令和2年8月18日)を国際出願日とする出願であって、令和4年3月2日付けで拒絶理由通知がされ、同年4月15日に意見書が提出され、同年5月24日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、同年6月16日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。 第2 原査定の理由の概要 原査定(令和4年5月24日付け拒絶査定)の理由の概要は次のとおりである。 本願の請求項1、3に係る発明は、以下の引用文献1〜3に記載された発明に基づいて、また、本願の請求項2に係る発明は、以下の引用文献1〜3に記載された発明及び周知技術(引用文献4〜6)に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許を受けることができない。 引用文献等一覧 1.国際公開第2014/041736号 2.特開2012−151403号公報 3.特開2016−204201号公報 4.特開2009−130010号公報 5.特開2009−117583号公報 6.特開2011−023642号公報 第3 本願発明 本願請求項1〜3に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」〜「本願発明3」という。)は、願書に最初に添付した特許請求の範囲の請求項1〜3に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1は以下のとおりの発明である。 「【請求項1】 シリコン単結晶基板の上に気相成長により窒化物半導体薄膜を成長させる窒化物半導体ウェーハの製造方法であって、 前記シリコン単結晶基板として、抵抗率が1000Ω・cm以上であり、酸素濃度が1×1017atoms/cm3未満であり、厚さが1000μm以上であるシリコン単結晶基板を用い、該シリコン単結晶基板の上に気相成長により窒化物半導体薄膜を成長させることを特徴とする窒化物半導体ウェーハの製造方法。」 なお、本願発明2は、本願発明1を減縮した発明であり、本願発明3は、本願発明1に対応する物の発明である。 第4 引用文献、引用発明等 1 引用文献1について (1)原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(国際公開第2014/041736号)には、次の事項が記載されている(下線は当審が付した。以下、同様である。)。 「[0009] 本発明が解決しようとする課題は、窒化物半導体構造物を用いて製造されるデバイスの電流コラプスを抑制することである。」 「[0013] (第1の実施形態) 図1は、本発明の第1の実施形態に係る窒化物半導体構造物の断面図を示す。本実施形態に係る窒化物半導体構造物によると、窒化物半導体構造物を用いて製造されるトランジスタやダイオードの電流コラプスを抑制し、スイッチング特性の高いトランジスタやダイオードを製造することが可能となる。 [0014] −構造物の基本構成についての説明− 図1に示すように、本実施形態に係る窒化物半導体構造物は、例えば、抵抗率が1000Ωcm以上の半導体基板101と、半導体基板101の上に形成された、例えば、厚さ4μmの複数の窒化物半導体の多層膜からなるエピタキシャル層102とにより構成されている。ここで、半導体基板は、シリコン基板であることが好ましい。また、SOI基板(Silicon on Insulator)又はゲルマニウム基板であっても構わない。また、シリコン基板やゲルマニウム基板の上にシリコンゲルマニウム(SiGe)や炭化ケイ素(SiC)をエピタキシャル成長した基板であっても構わない。また、エピタキシャル層102の膜厚は少なくとも1000nm以上であることが好ましい。エピタキシャル層の膜厚が厚いと電流コラプスを抑制することができるからである。CZ法(Czochralski法)又はMCZ法(Magnetic field applied Czochralski法)でシリコン基板を作成すると酸素濃度の高いシリコン基板を作成できる。そのため、シリコン基板の機械的強度を高めることができ、エピタキシャル層102の膜厚が1000nmを超えてもクラックが発生せず、製造歩留まりを高めることが可能となる。 ・・・ [0016] また、エピタキシャル層102は、例えば有機金属気相成長法(Metal Organic Chemical Vapor Deposition:MOCVD)を用いて形成されることが好ましい。また、分子線エピタキシー法(Molecular Beam Epitaxiy:MBE)やパルスレーザー堆積法(Pulsed Laser Deposition:PLD)を用いても良い。そして、エピタキシャル層102を形成するための初期成長層としては、例えば、III族元素を含む窒化物半導体層であることが好ましい。なお、III族元素は、ホウ素、アルミニウム、ガリウム又はインジウムなどであることが好ましい。そして、初期成長層として、例えば、III族元素を含む窒化物半導体層を用いてエピタキシャル成長させることにより、多層膜からなるエピタキシャル層102を形成することが好ましい。」 「[0036] (第1の実施形態の第1の変形例) 本変形例に係る窒化物半導体構造物は、第1の実施形態と比較して、半導体基板101内部の酸素濃度の分布が異なる。具体的には、本変形例に係る窒化物半導体構造物は、図1の半導体基板101の表面領域101Aの酸素濃度が内部領域101Bの酸素濃度より低い構成となっている(図示せず)。このような構成にすることにより、表面領域101Aの機械的強度が内部領域101Bの機械的強度より低くなる。これにより、エピタキシャル層102を形成した際の格子不整合に起因する歪を表面領域101Aで吸収することが可能となる。内部領域101Bの酸素濃度は1×1017cm−3から5×1018cm−3の範囲であることが好ましく、表面領域101Aの酸素濃度は、内部領域101Bの酸素濃度より低ければ良い。」 「[0045] <トランジスタ構造の説明> 次に、第1の実施形態に係る窒化物半導体構造物を用いて製造されたトランジスタについて図6および図7を用いて説明する。 ・・・ [0052] また、ソース電極107と半導体基板101とが電気的に接続されていることが好ましい。これにより、半導体基板101の電位が安定する。また、ソース電極107と半導体基板101とを接続する代わりにドレイン電極108と半導体基板101とを接続してもよい。半導体基板101へのIII族元素の拡散を抑制することにより、半導体基板101の空乏層幅が広がり、空乏層で大きな電圧を保持できる。そのため、エピタキシャル層102の電圧分配を低減することができ、エピタキシャル層102内部の電界強度を低減することができる。また、半導体基板101の酸素濃度を1×1017cm−3から5×1018cm−3の範囲にすることにより、エピタキシャル層102の膜厚を大きくすることができるため、エピタキシャル層102内部の電界強度を低減することができる。これにより、電流コラプスを抑制し、良好なスイッチング特性を得ることが可能となる。」 「[図1] 」 上記[0014]、[0016]には、抵抗率が1000Ωcm以上の半導体基板101の上に、有機金属気相成長法を用いて、厚さ4μmの複数の窒化物半導体の多層膜からなるエピタキシャル層102を形成する窒化物半導体構造物の製造方法であって、半導体基板は、CZ法(Czochralski法)又はMCZ法(Magnetic field applied Czochralski法)で作成したシリコン基板であることが記載されているといえる。 また、上記[0036]には、半導体基板101の表面領域101Aの酸素濃度は、内部領域101Bの酸素濃度より低い構成となっていること、及び、内部領域101Bの酸素濃度は1×1017cm−3から5×1018cm−3の範囲であることが記載されている。 (2)引用発明 上記(1)によれば、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「抵抗率が1000Ωcm以上の半導体基板101の上に、有機金属気相成長法を用いて、厚さ4μmの複数の窒化物半導体の多層膜からなるエピタキシャル層102を形成する窒化物半導体構造物の製造方法であって、 前記半導体基板は、CZ法(Czochralski法)又はMCZ法(Magnetic field applied Czochralski法)で作成したシリコン基板であり、 前記半導体基板101の表面領域101Aの酸素濃度は、内部領域101Bの酸素濃度より低い構成となっており、 前記内部領域101Bの酸素濃度は1×1017cm−3から5×1018cm−3の範囲である窒化物半導体構造物の製造方法。」 2 引用文献2について 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2(特開2012−151403号公報)には、次の事項が記載されている。 「【0017】 図1に示すように、本実施形態による半導体基板10は、単結晶シリコン基板11と、単結晶シリコン基板11の最表面11sを除く表層領域に形成された不完全な絶縁性を有する埋め込み酸化層12と、埋め込み酸化層12の表面に形成されたバッファ層13と、バッファ層13の表面に形成されたGaN膜14とを備えている。 【0018】 シリコン基板11は、チョクラルスキー(CZ)法によって引き上げられたシリコンインゴットから切り出された面方位(111)のCZウェーハである。特に限定されるものではないが、シリコン基板11は、p型不純物としてのボロン(B)やn型不純物としてのリン(P)がドープされたものであり、これらの不純物に基づくシリコン基板11の比抵抗は0.001Ω・cm以上1000Ω・cm以下であることが好ましく、0.1Ω・cm以下であることがさらに好ましい。 【0019】 シリコン基板11の初期酸素濃度は特に限定されず、一般的に製造可能な酸素濃度の範囲であればよく、4×1017atoms/cm3以上2.4×1018atoms/cm3以下である。シリコン基板11の厚みは、反り対策の観点から厚いものほど良く、シリコン基板の口径にもよるが、好ましくは0.9mm以上2.5mm以下である。」 3 引用文献3について 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3(特開2016−204201号公報)には、次の事項が記載されている。 「【0016】 また、一実施の形態の窒化物半導体エピタキシャルウェハでは、 上記エピタキシャル成長用基板は、Si,SiC,ZnOおよびサファイアのうちの何れかである。 【0017】 また、一実施の形態の窒化物半導体エピタキシャルウェハでは、 上記エピタキシャル成長用基板の直径は3インチ以上であり、且つ厚さは1500μm以上である。」 第5 対比・判断 1 本願発明1について (1)対比 本願発明1と引用発明とを対比する。 ア 引用発明の「シリコン基板」は、「CZ法(Czochralski法)又はMCZ法(Magnetic field applied Czochralski法)で作成した」ものであるから単結晶であるといえる。 したがって、引用発明の「シリコン基板」である「半導体基板101」は、本願発明1の「シリコン単結晶基板」に相当する。 また、引用発明の「半導体基板101」の「抵抗率が1000Ωcm以上」であることは、本願発明1の「シリコン単結晶基板」の「抵抗率が1000Ω・cm以上」であることに相当する。 イ 引用発明の「有機金属気相成長法」、「厚さ4μmの複数の窒化物半導体の多層膜からなるエピタキシャル層102」は、それぞれ、本願発明1の「気相成長」、「窒化物半導体薄膜」に相当する。 ウ 上記ア及びイを参照すると、引用発明の「抵抗率が1000Ωcm以上の半導体基板101の上に、有機金属気相成長法を用いて、厚さ4μmの複数の窒化物半導体の多層膜からなるエピタキシャル層102を形成する」ことは、本願発明1の「シリコン単結晶基板の上に気相成長により窒化物半導体薄膜を成長させる」ことに相当する。 エ 引用発明の「窒化物半導体構造物の製造方法」は、本願発明1の「窒化物半導体ウェーハの製造方法」に対応する。 エ 以上から、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。 <一致点> 「シリコン単結晶基板の上に気相成長により窒化物半導体薄膜を成長させる窒化物半導体ウェーハの製造方法であって、 前記シリコン単結晶基板として、抵抗率が1000Ω・cm以上であるシリコン単結晶基板を用い、該シリコン単結晶基板の上に気相成長により窒化物半導体薄膜を成長させる窒化物半導体ウェーハの製造方法。」 <相違点> 相違点1:シリコン単結晶基板の酸素濃度について、本願発明1は、「酸素濃度が1×1017atoms/cm3未満」であるのに対し、引用発明は、「表面領域101Aの酸素濃度は、内部領域101Bの酸素濃度より低い構成となっており、 前記内部領域101Bの酸素濃度は1×1017cm−3から5×1018cm−3の範囲」である点。 相違点2:シリコン単結晶基板の厚さについて、本願発明1は、「1000μm以上」であるのに対し、引用発明は不明である点。 (2)相違点についての判断 ア 相違点1について (ア)引用発明において、「半導体基板101の表面領域101Aの酸素濃度は、内部領域101Bの酸素濃度より低い構成となっており、 前記内部領域101Bの酸素濃度は1×1017cm−3から5×1018cm−3の範囲」であるから、「表面領域101Aの酸素濃度」は、1×1017cm−3未満であるといえる。 ここで、引用文献1の[0009]の記載によれば、引用発明が解決しようとする課題は、「窒化物半導体構造物を用いて製造されるデバイスの電流コラプスを抑制すること」であるところ、同[0052]には、「半導体基板101の酸素濃度を1×1017cm−3から5×1018cm−3の範囲にすることにより、エピタキシャル層102の膜厚を大きくすることができるため、エピタキシャル層102内部の電界強度を低減することができる。これにより、電流コラプスを抑制し、良好なスイッチング特性を得ることが可能となる」と記載されているから、引用発明において、半導体基板101の内部領域101Bの酸素濃度を1×1017cm−3未満にして、半導体基板101全体の酸素濃度を1×1017cm−3未満にすると、エピタキシャル層102の膜厚を大きくすることができなくなり、エピタキシャル層102内部の電界強度を低減することができないため、結果的に電流コラプスを抑制することができなくなるといえる。 そうすると、引用発明において、半導体基板101の酸素濃度を1×1017cm−3未満に変更すると、上記課題を解決できなくなるから、当該変更することには阻害要因があり、このことは、引用文献2、3の記載に左右されるものではない。 したがって、引用発明において、相違点1に係る本願発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。 イ 小括 よって、相違点2について判断するまでもなく、本願発明1は、引用文献1〜3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものではない。 2 本願発明2について 本願発明2は、本願発明1を減縮した発明であり、相違点1に係る本願発明1の構成を有しているから、本願発明1と同様の理由により、引用文献1〜3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものではない。 3 本願発明3について 本願発明3は、本願発明1に対応する物の発明であり、相違点1に係る本願発明1と同様の構成を有しているから、本願発明1と同様の理由により、引用文献1〜3に記載された発明及び周知技術(引用文献4〜6)に基づいて、当業者が容易に発明できたものではない。 第6 むすび 以上のとおり、本願発明1、2は、引用文献1〜3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないし、本願発明3は、引用文献1〜3に記載された発明及び周知技術(引用文献4〜6)に基づいて、当業者が容易に発明できたものではない。 したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2022-08-10 |
出願番号 | P2022-503007 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(H01L)
|
最終処分 | 01 成立 |
特許庁審判長 |
瀧内 健夫 |
特許庁審判官 |
棚田 一也 河本 充雄 |
発明の名称 | 窒化物半導体ウェーハの製造方法及び窒化物半導体ウェーハ |
代理人 | 大塚 徹 |
代理人 | 小林 俊弘 |
代理人 | 好宮 幹夫 |