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審決分類 |
審判 一部申し立て 2項進歩性 B41J 審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載 B41J 審判 一部申し立て 発明同一 B41J 審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 B41J |
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管理番号 | 1389356 |
総通号数 | 10 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2022-10-28 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2020-04-08 |
確定日 | 2022-07-04 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6590797号発明「ダンパ、インクの循環方法及びインクの循環機構」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6590797号の請求項7ないし10、11に係る特許を取り消す。 同請求項1、2、4、6に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6590797号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし11に係る特許についての出願は、2015年(平成27年)5月15日(優先権主張 2014年(平成26年)5月16日、日本)を国際出願日とするものであって、令和1年9月27日にその特許権の設定登録がされ、令和1年10月16日に特許掲載公報が発行された。 本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。 令和 2年 4月 8日 : 特許異議申立人 小林 勝(以下、「申立人」という。)による請求項1、2、4、6ないし11に対する特許異議の申立て 令和 2年 7月 6日付け : 取消理由通知書 令和 2年 9月 7日 : 特許権者 株式会社ミマキエンジニアリング(以下、「特許権者」という。)による意見書及び訂正請求書の提出 令和 2年12月10日 : 申立人による意見書の提出 令和 3年 2月 9日付け : 訂正拒絶理由通知書 令和 3年 3月23日 : 特許権者による意見書及び手続補正書の提出 令和 3年 4月 6日付け : 審尋 令和 3年 4月27日 : 特許権者による回答書の提出 令和 3年 7月28日付け : 取消理由通知書(決定の予告) 令和 2年10月15日 : 特許権者による意見書及び訂正請求書の提出 令和 3年11月10日付け : 訂正拒絶理由通知書 令和 3年12月15日 : 特許権者による意見書の提出 令和 4年 3月 9日 : 申立人による意見書の提出 なお、令和2年9月7日に提出の訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取下げられたものとみなす。 第2 令和3年10月15日に特許権者が行った訂正の請求について 1 訂正の請求の内容について 令和3年10月15日に提出された訂正請求書(以下、「訂正請求書」という。)及びこれに添付した訂正特許請求の範囲の適否について検討する。(下線は、当審が付したものである。) (1) 訂正事項1 訂正前の特許請求の範囲の「【請求項7】 インクを貯留してインクタンクのインクを吐出するヘッドまで供給するためのインク供給路を有し、当該インク供給路の上流側から下流側にインクタンク、ダンパ、及びヘッドをこの順番で配置したインクジェットプリンタの前記ヘッド側と前記インクタンク側との間で前記インクを循環させるインクの循環方法において、 前記ダンパは、 前記インクを一旦収容する供給室と、 前記供給室と連通通路を介して連通しかつ前記ヘッドにインクを供給するインク室と、 前記連通通路を閉塞する封止体と、前記インク室を外側から覆うように取り付けられた可撓性フィルムと、前記可撓性フィルムに連動して前記封止体を開放する開放体と、前記開放体を前記インク室の外側方向に付勢する開放ばねとを有し、前記インク室内のインクが減少すると前記開放ばねの付勢力に抗して前記可撓性フィルムが前記インク室の内側に撓むことに連動して前記開放体によって前記封止体を一方側に移動させて前記連通通路を開放させるとともに、前記インク室内のインクが増加すると前記可撓性フィルムが前記インク室の外側に撓むことに連動して前記封止体が他方側に移動し前記連通通路を閉塞させる開閉バルブと、を備え、 前記ダンパは、前記可撓性フィルムへの前記開放ばねの付勢力により前記インク室内の内圧が調整されることで、前記インク室が前記ヘッドの内圧を調整しながら前記ヘッドに前記インクを供給するものであり、 前記インク供給路の供給管の前記ダンパ寄りの前記ダンパよりも上流側の端部と、前記供給管の前記インクタンク寄りの前記インクタンクよりも下流側の端部及び前記インクタンクのいずれか一方と、に循環用管が接続されており、 前記封止体が前記連通通路を閉塞した時に、ポンプを駆動させて、前記供給管と前記循環用管との間で前記インクを循環させており、 前記ポンプの駆動は、前記インクジェットプリンタの印刷停止時に行われる、 ことを特徴とするインクの循環方法。」を 「【請求項7】 インクを貯留してインクタンクのインクを吐出するヘッドまで供給するためのインク供給路を有し、当該インク供給路の上流側から下流側にインクタンク、ダンパ、及びヘッドをこの順番で配置したインクジェットプリンタの前記ヘッド側と前記インクタンク側との間で前記インクを循環させるインクの循環方法において、 前記ダンパは、 前記インクを一旦収容する供給室と、 前記供給室と連通通路を介して連通しかつ前記ヘッドにインクを供給するインク室と、 前記連通通路を閉塞する封止体と、前記インク室を外側から覆うように取り付けられた可撓性フィルムと、前記可撓性フィルムに連動して前記封止体を開放する開放体と、前記開放体を前記インク室の外側方向に付勢する開放ばねとを有し、前記インク室内のインクが減少すると前記開放ばねの付勢力に抗して前記可撓性フィルムが前記インク室の内側に撓むことに連動して前記開放体によって前記封止体を一方側に移動させて前記連通通路を開放させるとともに、前記インク室内のインクが増加すると前記可撓性フィルムが前記インク室の外側に撓むことに連動して前記封止体が他方側に移動し前記連通通路を閉塞させる開閉バルブと、を備え、 前記ダンパは、前記可撓性フィルムへの前記開放ばねの付勢力により前記インク室内の内圧が調整されることで、前記インク室が前記ヘッドの内圧を調整しながら前記ヘッドに前記インクを供給するものであり、 前記インク供給路は、一端が前記インクタンクの供給口に接続され、他端が前記ダンパのインク流入口に接続された供給管を有し、前記供給管の前記ダンパ寄りの前記ダンパよりも上流側の端部と、前記インクタンクと、をそれぞれ両端として循環用管が接続されており、 前記インクジェットプリンタの印刷が停止して、前記インク室内のインクが増加して前記可撓性フィルムが前記インク室内の外側に撓むことに連動して前記封止体が前記連通通路を閉塞した時に、ポンプを駆動させて、前記供給管と前記循環用管との間で前記インクを循環させる、 ことを特徴とするインクの循環方法。」と訂正する。 (請求項7の記載を引用する請求項9及び10も同様に訂正する) なお、訂正事項1は、複数箇所の訂正があるため、以下のとおり分割する。 ア 訂正事項1−1 訂正前の「前記インク供給路」を「(前記インク供給路)は、一端が前記インクタンクの供給口に接続され、他端が前記ダンパのインク流入口に接続された供給管を有し、前記」と訂正するもの。 イ 訂正事項1−2 訂正前の「循環用管の接続」に関し、「(前記供給管の前記ダンパ寄りの前記ダンパよりも上流側の端部と、前記インクタンクと、)をそれぞれ両端として(循環用管が接続)」と訂正するもの。 ウ 訂正事項1−3 訂正前の「インクを循環」することに関し、「前記インクジェットプリンタの印刷が停止して、前記インク室内のインクが増加して前記可撓性フィルムが前記インク室内の外側に撓むことに連動して(前記封止体が前記連通通路を閉塞した時に、ポンプを駆動させて、前記供給管と前記循環用管との間で前記インクを循環させる)」と訂正するもの。 (2)訂正事項2 請求項8を削除する。 (3)訂正事項3 訂正前の「【請求項10】 前記供給管は、前記インクジェットプリンタの印刷時に、前記インクタンクから前記インクを水頭差により前記ダンパを介して前記ヘッドに供給し、 前記ポンプは、前記循環用管のみに設けられる、 ことを特徴とする請求項7から請求項9のうちいずれか一項に記載のインクの循環方法。」を 「【請求項10】 前記供給管は、前記インクジェットプリンタの印刷時に、前記インクタンクから前記インクを水頭差により前記ダンパを介して前記ヘッドに供給し、 前記ポンプは、前記循環用管のみに設けられる、 ことを特徴とする請求項7または請求項9に記載のインクの循環方法。」と訂正する。 (4)訂正事項4 訂正前の「【請求項11】 インクを貯留してインクタンクのインクを吐出するヘッドまで供給するためのインク供給路を有し、当該インク供給路の上流側から下流側にインクタンク、ダンパ、及びヘッドをこの順番で配置したインクジェットプリンタの前記ヘッド側と前記インクタンク側との間で前記インクを循環させるインクの循環機構であって、 前記ダンパは、 前記インクを一旦収容する供給室と、 前記供給室と連通通路を介して連通しかつ前記ヘッドにインクを供給するインク室と、 前記連通通路を閉塞する封止体と、前記インク室を外側から覆うように取り付けられた可撓性フィルムと、前記可撓性フィルムに連動して前記封止体を開放する開放体と、前記開放体を前記インク室の外側方向に付勢する開放ばねとを有し、前記インク室内のインクが減少すると前記開放ばねの付勢力に抗して前記可撓性フィルムが前記インク室の内側に撓むことに連動して前記開放体によって前記封止体を一方側に移動させて前記連通通路を開放させるとともに、前記インク室内のインクが増加すると前記可撓性フィルムが前記インク室の外側に撓むことに連動して前記封止体が他方側に移動し前記連通通路を閉塞させる開閉バルブと、を備え、 前記インク供給路は、 前記インクタンクと前記ダンパとを接続する供給管と、 前記供給管の前記ダンパ寄りの前記ダンパよりも上流側の端部と、前記供給管の前記インクタンク寄りの前記インクタンクよりも下流側の端部及び前記インクタンクのいずれか一方と、を接続する循環用管と、を備え、 前記インクジェットプリンタの制御手段は、 前記封止体が前記連通通路を閉塞した時に、ポンプを駆動させて、前記供給管と前記循環用管との間で前記インクを循環させ、 前記ポンプの駆動を、前記インクジェットプリンタの印刷停止時に行うよう制御する、 ことを特徴とするインクの循環機構。」を 「【請求項11】 インクを貯留してインクタンクのインクを吐出するヘッドまで供給するためのインク供給路を有し、当該インク供給路の上流側から下流側にインクタンク、ダンパ、及びヘッドをこの順番で配置したインクジェットプリンタの前記ヘッド側と前記インクタンク側との間で前記インクを循環させるインクの循環機構であって、 前記ダンパは、 前記インクを一旦収容する供給室と、 前記供給室と連通通路を介して連通しかつ前記ヘッドにインクを供給するインク室と、 前記連通通路を閉塞する封止体と、前記インク室を外側から覆うように取り付けられた可撓性フィルムと、前記可撓性フィルムに連動して前記封止体を開放する開放体と、前記開放体を前記インク室の外側方向に付勢する開放ばねとを有し、前記インク室内のインクが減少すると前記開放ばねの付勢力に抗して前記可撓性フィルムが前記インク室の内側に撓むことに連動して前記開放体によって前記封止体を一方側に移動させて前記連通通路を開放させるとともに、前記インク室内のインクが増加すると前記可撓性フィルムが前記インク室の外側に撓むことに連動して前記封止体が他方側に移動し前記連通通路を閉塞させる開閉バルブと、を備え、 前記インク供給路は、 前記インクタンクと前記ダンパとを接続する供給管と、 前記供給管の前記ダンパ寄りの前記ダンパよりも上流側の端部と、前記供給管の前記インクタンク寄りの前記インクタンクよりも下流側の端部及び前記インクタンクのいずれか一方と、を接続する循環用管と、を備え、 前記インクタンク内は前記供給管に対して常時解放され、前記供給管は前記インクタンク内のインクを水頭差により前記ダンパに供給するものであり、 前記インクジェットプリンタの制御手段は、 前記インクジェットプリンタの印刷が停止して、前記インク室内のインクが増加して前記可撓性フィルムが前記インク室内の外側に撓むことに連動して前記封止体が前記連通通路を閉塞した時に、ポンプを駆動させて、前記供給管と前記循環用管との間で前記インクを循環させる、前記封止体が前記連通通路を閉塞した時に、ポンプを駆動させて、前記供給管と前記循環用管との間で前記インクを循環させる、 ことを特徴とするインクの循環機構。」と訂正する。 なお、訂正事項4は、複数箇所の訂正があるため、以下のとおり分割する。 ア 訂正事項4−1 「前記インクタンク内は前記供給管に対して常時解放され、前記供給管は前記インクタンク内のインクを水頭差により前記ダンパに供給されるものであり、」と訂正するもの。 イ 訂正事項4−2 訂正前の「インクを循環」することに関し、「前記インクジェットプリンタの印刷が停止して、前記インク室内のインクが増加して前記可撓性フィルムが前記インク室内の外側に撓むことに連動して(前記封止体が前記連通通路を閉塞した時に、ポンプを駆動させて、前記供給管と前記循環用管との間で前記インクを循環させる)」と訂正するもの。 2 訂正事項の訂正要件適合性について (1) 訂正事項1について ア 訂正事項1−3について 訂正事項1−3の訂正の内容は、上記「1、(1)、ウ」のとおりであって、当該訂正により、本件特許明細書の請求項7に係る発明(以下、「特許発明7」という。)において、「前記封止体が前記連通通路を閉塞した時に、ポンプを駆動させて、前記供給管と前記循環用管との間で前記インクを循環させており、前記ポンプの駆動は、前記インクジェットプリンタの印刷停止時に行われる」とされていたものを「前記インクジェットプリンタの印刷が停止して、前記インク室内のインクが増加して前記可撓性フィルムが前記インク室内の外側に撓むことに連動して前記封止体が前記連通通路を閉塞した時に、ポンプを駆動させて、前記供給管と前記循環用管との間で前記インクを循環させる」と訂正することで、ポンプを「インクジェットプリンタの印刷が停止して、インク室内のインクが増加して可撓性フィルムが前記インク室内の外側に撓むことに連動して封止体が前記連通通路を閉塞した時」に駆動させる点が特定されることとなった。 この点が、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものであるかについて以下検討する。 イ 願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の記載 本件特許明細書又は本件特許図面には、「ポンプを駆動」する条件である「インクジェットプリンタの印刷が停止」するタイミングについて、つぎの記載がされている。 (ア)「【0034】 また、上記インクの循環方法において、前記ポンプは、前記インクジェットプリンタの印刷停止時に駆動されて、前記インクを循環させるものとすることができる。この発明では、インクの循環を印刷停止時に行うことで、インクを循環させる際に、ダンパのインク室内の開閉バルブの動きを停止させることができる。この発明は、ダンパのインク室内にインクを満たした状態でインクジェットプリンタの印刷が停止されると、封止体が連通通路を閉塞した状態となる。したがって、この発明では、インクを循環させる際に、ダンパのインク室内の封止体を三方弁に代わりに用いることができ、インクを循環させている領域とヘッドの領域とを遮断することができ、ポンプによってインクを循環させても、ヘッドのメニスカス面を壊すことがなくなり、インク循環終了後もインクを正常に吐出することができる。」 (イ)「【0060】 次に、前述したインクジェットプリンタ100は、制御手段70に入力した印刷命令の印刷が完了すると待機状態に移行する。待機状態では、制御手段70は、ヘッド102の主走査方向の移動を停止し、ヘッド102と印刷媒体の副走査方向の移動を停止し、ヘッド102のノズル102aからのインクIの吐出を停止する。そして、インクジェットプリンタ100の制御手段70は、インクジェットプリンタ100の待機状態(印刷停止)時に、循環機構1を用いたインクの循環方法を実行する。インクの循環方法は、インクタンク101と、インクタンク101からインクIが水頭差により供給されるヘッド102との間でインクIを循環させる方法である。即ち、インクの循環方法は、ヘッド102側とインクタンク101側との間でインクIを循環させる方法である。 【0061】 インクの循環方法では、ヘッド102のノズル102aとダンパ40のヘッド102にインクIを供給する流路としてのヘッド用供給口48とを連通させた状態で、制御手段70は、ポンプ60を作動させる。このように、インクの循環方法では、ポンプ60は、インクジェットプリンタ100の印刷停止時に駆動されて、インクIを循環させる。インクの循環方法では、ポンプ60を作動させると、循環用管20及びインク循環口47などを介して、導出口50からインク室45内のインクIを吸引して、インク室45内のインクIを導出口50から循環用管20に導く。インクIは、循環用管20を介して供給管10に供給されて、ダンパ40内に供給される。そして、ダンパ40の連通通路49が封止体51及び開放体52により開閉されて、ダンパ40に供給されたインクIがインク室45に収容される。こうして、インクの循環方法は、インクタンク101とヘッド102との間でインクを循環させる。この際、制御手段70は、予め定められた回転数などでポンプ60を駆動する。なお、予め定められた回転数とは、インクIの圧力がヘッド102のノズル102a内のインクIのメニスカス面ISを維持することができる圧力となる回転数をいう。例えば、メニスカス強度がA(kPa:ゲージ圧)である場合には、ヘッド102のノズル102a内のインクIの圧力がA(kPa:ゲージ圧)よりも高い圧力となるように、制御手段70は、ポンプ60を駆動する。即ち、制御手段70は、ポンプ60をヘッド102のノズル102a先端に形成されるメニスカス面ISを維持するように駆動する。」 (ウ)「【0096】 次に、前述したインクジェットプリンタ100は、制御手段70に入力した印刷命令の印刷が完了すると待機状態に移行する。待機状態では、制御手段70は、ヘッド102の主走査方向の移動を停止し、ヘッド102と印刷媒体の副走査方向の移動を停止し、ヘッド102のノズル102aからのインクIの吐出を停止する。そして、インクジェットプリンタ100の制御手段70は、インクジェットプリンタ100の待機状態(印刷停止)時、即ち、封止体51が連通通路49を閉塞した時に、循環機構1を用いたインクの循環方法を実行する。インクの循環方法は、インクタンク101と、インクタンク101からインクIが水頭差により供給されるヘッド102との間でインクIを循環させる方法である。即ち、インクの循環方法は、ヘッド102側とインクタンク101側との間でインクIを循環させる方法である。 【0097】 インクの循環方法では、封止体51が連通通路49を閉塞した時に、制御手段70は、ポンプ60を作動させて、供給管10と循環用管20との間でインクIを循環させる。このように、インクの循環方法では、ポンプ60は、インクジェットプリンタ100の印刷停止時に駆動されて、インクIを循環させる。インクの循環方法では、ポンプ60を作動させると、循環用管20などを介して、供給管10の他端10b内のインクIを吸引して、供給管10内のインクIを循環用管20に導く。インクIは、循環用管20を介して供給管10の一端10aに供給される。こうして、インクの循環方法は、インクタンク101とヘッド102との間でインクを循環させる。この際、制御手段70は、予め定められた回転数などでポンプ60を駆動する。なお、予め定められた回転数とは、インクIの圧力がヘッド102のノズル102a内のインクIのメニスカス面ISを維持することができる圧力となる回転数をいう。例えば、メニスカス強度がA(kPa:ゲージ圧)である場合には、ヘッド102のノズル102a内のインクIの圧力がA(kPa:ゲージ圧)よりも高い圧力となるように、制御手段70は、ポンプ60を駆動する。即ち、制御手段70は、ポンプ60をヘッド102のノズル102a先端に形成されるメニスカス面ISを維持するように駆動する。(中略) 【0099】 さらに、実施形態2では、インクタンク101と、インクタンク101からインクIが水頭差により供給されるヘッド102との間でインクIを循環させる際に、制御手段70は、図13に示すように、封止体51が連通通路49を閉塞する方向のインクIの圧力が、ダンパ40−1の供給室44に作用するようにポンプ60を駆動させる。例えば、実施形態2では、制御手段70は、ダンパ40−1のインク室45内にインクIを満たした状態で、印刷を停止させる。 【0100】 以上の実施形態2に係るインクの循環方法によれば、封止体51が連通通路49を閉塞した時に、ポンプ60を駆動してインクIを循環させるので、ダンパ40−1の上流に三方弁を設けることなく、ノズル102aのメニスカス面ISを維持した状態でインクIを循環させることができる。また、ダンパ40−1は、開閉バルブ42を三方弁の代わりにして、三方弁を設けることなくインクIを循環できるので、低コスト化を図ることができる。また、インクIのヘッド102への供給とインクIの循環とを両立させることができるので、インクIの色材の沈殿を確実に抑制することができる。(中略) 【0102】 また、実施形態2では、インクの循環方法は、インクIの循環を印刷停止時に行うことで、インクIを循環させる際に、ダンパ40−1のインク室45内の開閉バルブ42の動きを停止させることができる。ダンパ40−1は、インク室45内にインクIを満たした状態でインクジェットプリンタ100の印刷が停止されると、封止体51が連通通路49を閉塞した状態となる。したがって、実施形態2では、インクIを循環させる際に、ダンパ40−1のインク室45内の封止体51を三方弁に代わりに用いることができ、インクIを循環させている領域とヘッド102の領域とを遮断することができ、ポンプ60によってインクIを循環させても、ヘッド102のメニスカス面ISを壊すことがなくなり、インクI循環終了後もインクIを正常に吐出することができる。(中略) 【0107】 実施形態2のインクの循環方法によれば、連通通路49を封止体41で閉塞する方向のインクIの圧力が供給室44に作用するようにポンプ60を駆動するので、インクIを循環させる際に、ダンパ40−1の供給室44に正圧をかけるようにポンプ60を駆動することとなる。したがって、インクの循環方法によれば、インクIを循環させる際に、連通通路49を封止体41で閉塞することができる。」 (エ)「【0113】 実施形態2の変形例1に係る循環機構1−1は、図14に示すように、循環用管20の他端20bをインクタンク101の供給口101aに直接接続している。 【0114】 前述した実施形態2の変形例1に係るインクの循環方法は、供給管10の他端10bからインクタンク101にインクIを導き、インクIの循環を印刷停止時に行うことで、インクIを循環させる際に、ダンパ40−1のインク室45内の封止体51を三方弁に代わりに用いることができ、低コスト化を図ることできる。さらに、実施形態2の変形例1に係るインクの循環方法は、循環用管20の他端20bをインクタンク101の供給口101aに直接接続しているので、インク供給路2だけでなくインクタンク101も含めてインクIの循環を行うことができる。また、実施形態2の変形例1に係るインクの循環方法は、インクIを循環させる経路を長くすることができるので、インクIの流路におけるインクIを循環させる経路の割合を増加させることができ、循環効率を向上させることができる。」 (オ)「【0116】 実施形態2の変形例2に係る循環機構1−1は、図15に示すように、供給管10の一端10aをインクタンク101の供給口101aに直接連結し、他端10bをダンパ40のインク流入口46に直接連結している。実施形態2の変形例2に係る循環機構1−1は、循環用管20の一端20aを供給管10の他端10bに直接連結し、他端20bを供給管10のインクタンク101に連結した一端10aに直接連結している。循環用管20は、インクジェットプリンタ100に設置された状態で、供給管10よりも上方に設置される。即ち、実施形態2の変形例2に係る循環機構1−1は、インクジェットプリンタ100に設置された状態で、循環用管20を供給管10よりも上方に設置して、循環時のインクIの流れる方向が実施形態2及び変形例1の逆向きである。 【0117】 前述した実施形態2の変形例2に係るインクの循環方法は、供給管10の他端10bからインクタンク101にインクIを導き、インクIの循環を印刷停止時に行うことで、インクIを循環させる際に、ダンパ40−1のインク室45内の封止体51を三方弁に代わりに用いることができ、低コスト化を図ることできる。」 (カ)「【0119】 実施形態2の変形例3に係る循環機構1−1は、図16に示すように、供給管10の一端10aをインクタンク101の供給口101aに直接連結し、他端10bをダンパ40のインク流入口46に直接連結している。実施形態2の変形例3に係る循環機構1−1は、循環用管20の一端20aを供給管10の他端10bに直接連結し、他端20bをインクタンク101の供給口101aに直接接続している。循環用管20は、インクジェットプリンタ100に設置された状態で、供給管10よりも上方に設置される。即ち、実施形態2の変形例3に係る循環機構1−1は、インクジェットプリンタ100に設置された状態で、循環用管20を供給管10よりも上方に設置して、循環時のインクIの流れる方向が実施形態2及び変形例1の逆向きである。 【0120】 前述した実施形態2の変形例3に係るインクの循環方法は、供給管10の他端10bからインクタンク101にインクIを導き、インクIの循環を印刷停止時に行うことで、インクIを循環させる際に、ダンパ40−1のインク室45内の封止体51を三方弁に代わりに用いることができ、低コスト化を図ることできる。」 ウ 当審の判断 訂正事項1−3により、訂正後の請求項7は、「インクジェットプリンタの印刷が停止」して、「インク室内のインクが増加して可撓性フィルムがインク室内の外側に撓むことに連動」して、「封止体が連通通路を閉塞」し、その閉塞した時に「ポンプを駆動」させることが特定された。 したがって、当該訂正により、訂正後の請求項7は、インクジェットプリンタの印刷が停止することによって、必ず「インク室内のインクが増加して可撓性フィルムが前記インク室内の外側に撓むことに連動」して「封止体が連通通路を閉塞」するものを含むものとなった。 しかしながら、インク室内のインクが増加するためには、インク室内にインクが供給される必要があり、それは、可撓性フィルムの内側に撓んだ状態にあって、封止体が連通通路を開放している状態を意味するところ、インクジェットプリンタの印刷が停止した時のインク室内のインク残量は定まっておらず、結果として「可撓性フィルムの状態(外側に撓んでいるか、内側に撓んでいるか)」、「封止体の状態(連通通路を閉塞しているか、閉塞していないか)」も、定まらないことは明らかである。 ここで、本件の発明の詳細な説明の段落【0058】には、以下の記載がある。 「インク室45内のインクIが減少して、インク室45内の内圧と開放ばね56の付勢力とを合わせた力が、可撓性フィルム53の外側に作用する大気圧を下回ると、可撓性フィルム53が開放ばね56の付勢力に抗してインク室45の内側に撓む。そして、可撓性フィルム53が撓むことに連動して、開放ばね56の付勢力に抗して開放体52を連通通路49に近づけて、開放体52の開放部52aによって封止体51を封止ばね55の付勢力に抗して連通通路49を開放する方向に押圧して、図5に示すように、封止体51を連通通路49の開口49aから離間する一方側に移動させて、連通通路49を開放させて、供給室44からインク室45へとインクIが供給される。」 ここでは、「可撓性フィルム」は「インク室が満充填時ほどには外側に撓んでいないものの、封止体は連通通路を閉塞している状態」があり得ることを示しており、この状態で「インクジェットプリンタの印刷が停止」しても、封止体が連通通路を閉塞しているため、インク室内のインクが増加することはないから、「前記インクジェットプリンタの印刷が停止して、前記インク室内のインクが増加して前記可撓性フィルムが前記インク室内の外側に撓むことに連動して前記封止体が前記連通通路を閉塞した時」は、想定されない。 そして、上記摘記した(ア)ないし(カ)の記載、並びに本件特許明細書の他の箇所及び本件特許図面を参酌しても、「インクジェットプリンタの印刷が停止」することによって、必ず「インク室内のインクが増加」つまり、インク室内にインクが供給され、「可撓性フィルムが前記インク室内の外側に撓むことに連動」して「封止体が連通通路を閉塞」するという一連の動作が行われることについて記載も示唆もなく、「インクジェットプリンタの印刷が停止」することによって、必ず「インク室内のインクが増加して可撓性フィルムが前記インク室内の外側に撓むことに連動」して「封止体が連通通路を閉塞」することが、本件特許が属する技術分野における技術常識であるとも認められない。 また、訂正後の請求項7は、「封止体が連通通路を閉塞した時」に「ポンプを駆動」させる、つまり、「封止体が連通通路を閉塞」していない時には「ポンプを駆動」させないものを含むものとなっているから、インクジェットプリンタの印刷が停止したときに、たまたま本件特許図面の【図5】のような連通通路が開放された状態である場合が考えられるが、その場合であっても「インク室内のインクが増加して可撓性フィルムが前記インク室内の外側に撓」むことに連動して「封止体が連通通路を閉塞」するまでは、ポンプを駆動することができないこととなるが、この点に関して、どのようにしてポンプの駆動制御を行っているのか、つまり「封止体が連通通路を閉塞」するタイミングを、いかにして知り得るのかについて、本件特許明細書又は本件特許図面のいずれにも記載されず、本件特許が属する技術分野における技術常識から、そのようなポンプの駆動制御が理解できるものであるとも認められない。 仮に、インクジェットプリンタの印刷が停止して、インクが連通通路を介してインク室内に充填され、インク室内のインクが増加して可撓性フィルムがインク室内の外側に撓むことに連動して封止体が連通通路を閉塞する状態が想定されるとしても、ポンプを駆動させるためには、封止体が連通通路を閉塞することを検知する必要があることについては、上述のとおりである。 したがって、訂正事項1−3に係る発明特定事項は、本件特許明細書又は本件特許図面のいずれにも記載されないものであり、それらから自明な事項でもない。 そして、訂正事項1−3により、訂正後の請求項7は、インクジェットプリンタの印刷が停止して、インク室内のインクが増加して可撓性フィルムがインク室内の外側に撓むことに連動して封止体が連通通路を閉塞した時にポンプを駆動させるためには、「封止体が連通通路を閉塞」することを検出するための手段を備えることを前提とするものになったといえ、訂正事項1−3は、本件特許明細書又は本件特許図面に記載した事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものであるから、本件特許明細書又は本件特許図面に記載した事項の範囲内においてしたものではない。 したがって、訂正事項1−3は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合しない。 エ 特許権者の意見について 特許権者は、令和3年12月15日提出の意見書における主張は、概ね以下のとおりである。 「印刷が停止して、ヘッドでインクが使用されない状態となると、インク室からヘッドへのインクの供給が停止するため、インク室のインクは増加する。可撓性フィルムがインク室内側に撓んでいる状態でも印刷の停止後、時間が経過すると、可撓性フィルムがインク室外側に撓む。また、印刷が停止すると、インク室内の圧力は上昇するので、封止体が連通通路を閉塞する。訂正後の請求項7に記載の発明は、『印刷が停止』し、『前記インク室内のインクが増加して前記可撓性フィルムが前記インク室内の外側に撓むことに連動して前記封止体が前記連通通路を閉塞した』状態で、ポンプが駆動し『前記供給管と前記循環用管との間で前記インクを循環させる』ものである。したがって、基本的には、印刷の停止時には『前記封止体が前記連通通路を閉塞』していない状態であるが、印刷の停止時に、必ず『封止体が連通通路を開放』していないといけないものではない。請求項7に記載の発明は、『連通通路を閉塞』した瞬間にポンプの駆動を開始させるものではなく、『前記封止体が前記連通通路を閉塞』した状態のときに、ポンプが駆動していることを限定している。したがって、請求項7に記載の発明に『連通通路を閉塞した時』を検出する機構は必須の構成要件ではなく、運転条件等に基づいてしたことを『封止体が前記連通通路を閉塞した』状態のときに、ポンプが駆動している状態を実行することができる。」 上記「エ 当審の判断」で述べたとおり、ある条件下において可撓性フィルムがインク室内側に撓んでいる状態において印刷の停止後、時間が経過すると、インクが供給されることで可撓性フィルムがインク室外側に撓み、封止体が連通通路を閉塞することは考えられ得るとしても、訂正後の請求項7に記載の発明は、封止体が連通通路を閉塞していない時(状態)にポンプを駆動させることを特定しておらず、少なくともポンプの駆動は「封止体が連通通路を閉塞した瞬間でないとしても、少なくとも「封止体が連通通路を閉塞」して以降の「封止体が連通通路を閉塞」している状態において行われると解するのが当業者の常識に照らして明らかである。 そして、「インクジェットプリンタの印刷が停止」して、「インク室内のインクが増加」して、「可撓性フィルムがインク室内の外側に撓むことに連動」して、「封止体が連通通路を閉塞」した時に、「ポンプを駆動」するための、作用機序については上記主張においても何ら明らかになっておらず、結局のところ、請求項7に記載の発明に「連通通路を閉塞した時」を検出する機構が必須の構成要件でないことについて、理解できない。 よって、権利者の上記主張を容れることはできない。 オ まとめ 訂正事項1−1ないし1−3は、いずれも請求項7についての訂正であるから、訂正事項1−3が上記のとおり訂正要件適合性を欠く以上、訂正事項1−1ないし1−3は一体不可分な訂正事項であるとして、いずれの訂正も認めることができない。 (2)訂正事項2及び3について 上述のとおり、本件訂正請求による訂正事項1に係る請求項7の訂正は認められない。 そして、本件訂正請求は、請求項7ないし10からなる一群の請求項ごとに訂正することを求めるものであるから、その余の請求項に係る訂正について検討するまでもなく、本件訂正は認められない。 したがって、訂正事項2及び3に係る訂正についても認めることはできない。 (3)訂正事項4について ア 訂正事項4−2について 訂正事項4−2の訂正の内容は、上記「1、(4)、イ」のとおりであって、その内容は、実質的に訂正事項1−3と同じである。 したがって、「2、(1)」で検討したとおり、訂正事項1−3は、本件特許明細書、本件特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内でするものということはできないから、同様の理由により、訂正事項4−2も、本件特許明細書、本件特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内でするものということはできない。 したがって、訂正事項4−2は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合しない。 イ まとめ 訂正事項4−1及び4−2は、いずれも請求項11についての訂正であるから、訂正事項4−2が上記のとおり訂正要件適合性を欠く以上、訂正事項4−1及び4−2は一体不可分な訂正事項であるとして、いずれの訂正も認めることができない。 3 むすび 以上のとおりであるから、訂正事項1ないし4に係る本件訂正は認められない。 第3 本件特許発明 上記「第2 令和3年10月15日に特許権者が行った訂正の請求について」で検討したとおり、本件訂正請求は認められないため、本件特許に係る発明は、登録時の特許請求の範囲の請求項1ないし11(以下「本件特許発明1」等といい、まとめて「本件特許発明」ともいう。)に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 インクジェットプリンタのインクタンクから水頭差により供給されるインクを、前記インクを吐出するヘッドに供給する水頭差式のダンパにおいて、 前記インクを一旦収容する供給室と、 前記供給室と連通通路を介して連通しかつ前記ヘッドにインクを供給するインク室と、 前記連通通路を閉塞する封止体と、前記インク室を外側から覆うように取り付けられた可撓性フィルムと、前記可撓性フィルムに連動して前記封止体を開放する開放体と、前記開放体を前記インク室の外側方向に付勢する開放ばねとを有し、前記インク室内のインクが減少すると前記開放ばねの付勢力に抗して前記可撓性フィルムが前記インク室の内側に撓むことに連動して前記開放体によって前記封止体を一方側に移動させて前記連通通路を開放させるとともに、前記インク室内のインクが増加すると前記可撓性フィルムが前記インク室の外側に撓むことに連動して前記封止体が他方側に移動し前記連通通路を閉塞させる開閉バルブと、を備え、 前記インクタンク側との間で前記インクを循環する循環用管に前記インクを導く導出口が、前記インク室内に開口している、 ことを特徴とするダンパ。 【請求項2】 前記インクジェットプリンタに設置された状態で、前記導出口が前記インク室内の前記連通通路の開口よりも下方に配置されることを特徴とする請求項1に記載のダンパ。 【請求項3】 前記インクジェットプリンタに設置された状態で、前記インクタンクからインクが供給されかつ供給されたインクを前記供給室に導くインク流入口と、前記導出口からの前記インク室内のインクを前記循環用管に導くインク循環口とが上面に設けられることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のダンパ。 【請求項4】 インクを貯留してインクタンクのインクを吐出するヘッドまで供給するためのインク供給路を有し、当該インク供給路の上流側から下流側にインクタンク、ダンパ、及びヘッドをこの順番で配置したインクジェットプリンタの前記ヘッド側と前記インクタンク側との間で前記インクを循環させるインクの循環方法において、 前記ダンパは、 前記インクを一旦収容する供給室と、 前記供給室と連通通路を介して連通しかつ前記ヘッドにインクを供給するインク室と、 前記連通通路を閉塞する封止体と、前記インク室を外側から覆うように取り付けられた可撓性フィルムと、前記可撓性フィルムに連動して前記封止体を開放する開放体と、前記開放体を前記インク室の外側方向に付勢する開放ばねとを有し、前記インク室内のインクが減少すると前記開放ばねの付勢力に抗して前記可撓性フィルムが前記インク室の内側に撓むことに連動して前記開放体によって前記封止体を一方側に移動させて前記連通通路を開放させるとともに、前記インク室内のインクが増加すると前記可撓性フィルムが前記インク室の外側に撓むことに連動して前記封止体が他方側に移動し前記連通通路を閉塞させる開閉バルブと、を備え、 前記ヘッドのノズルと前記ダンパのヘッドにインクを供給する流路とを連通させた状態で、前記ダンパのインク室内に開口した導出口から、前記インクタンク側へインクを循環させる循環用管を介して前記インク室内のインクを前記インク供給路の供給管と前記インクタンクとのうちの一方に導く、 ことを特徴とするインクの循環方法。 【請求項5】 前記インクタンクと前記ダンパのインク流入口とに前記供給管を直接連結し、前記ダンパのインク循環口と前記供給管に前記インク供給路の前記循環用管を直接連結し、前記循環用管に設けられたポンプを前記ヘッドのノズル先端に形成されるインクのメニスカス面を維持するように駆動する、 ことを特徴とする請求項4に記載のインクの循環方法。 【請求項6】 前記ダンパが前記インクジェットプリンタに設置された状態で、前記循環用管を前記供給管よりも下方に設置する、 ことを特徴とする請求項5に記載のインクの循環方法。 【請求項7】 インクを貯留してインクタンクのインクを吐出するヘッドまで供給するためのインク供給路を有し、当該インク供給路の上流側から下流側にインクタンク、ダンパ、及びヘッドをこの順番で配置したインクジェットプリンタの前記ヘッド側と前記インクタンク側との間で前記インクを循環させるインクの循環方法において、 前記ダンパは、 前記インクを一旦収容する供給室と、 前記供給室と連通通路を介して連通しかつ前記ヘッドにインクを供給するインク室と、 前記連通通路を閉塞する封止体と、前記インク室を外側から覆うように取り付けられた可撓性フィルムと、前記可撓性フィルムに連動して前記封止体を開放する開放体と、前記開放体を前記インク室の外側方向に付勢する開放ばねとを有し、前記インク室内のインクが減少すると前記開放ばねの付勢力に抗して前記可撓性フィルムが前記インク室の内側に撓むことに連動して前記開放体によって前記封止体を一方側に移動させて前記連通通路を開放させるとともに、前記インク室内のインクが増加すると前記可撓性フィルムが前記インク室の外側に撓むことに連動して前記封止体が他方側に移動し前記連通通路を閉塞させる開閉バルブと、を備え、 前記ダンパは、前記可撓性フィルムへの前記開放ばねの付勢力により前記インク室内の内圧が調整されることで、前記インク室が前記ヘッドの内圧を調整しながら前記ヘッドに前記インクを供給するものであり、 前記インク供給路の供給管の前記ダンパ寄りの前記ダンパよりも上流側の端部と、前記供給管の前記インクタンク寄りの前記インクタンクよりも下流側の端部及び前記インクタンクのいずれか一方と、に循環用管が接続されており、 前記封止体が前記連通通路を閉塞した時に、ポンプを駆動させて、前記供給管と前記循環用管との間で前記インクを循環させており、 前記ポンプの駆動は、前記インクジェットプリンタの印刷停止時に行われる、 ことを特徴とするインクの循環方法。 【請求項8】 前記循環用管は、前記インクタンクに接続される、 ことを特徴とする請求項7に記載のインクの循環方法。 【請求項9】 前記封止体が前記連通通路を閉塞する方向の前記インクの圧力が、前記供給室に作用するように前記ポンプを駆動させる、 ことを特徴とする請求項7に記載のインクの循環方法。 【請求項10】 前記供給管は、前記インクジェットプリンタの印刷時に、前記インクタンクから前記インクを水頭差により前記ダンパを介して前記ヘッドに供給し、 前記ポンプは、前記循環用管のみに設けられる、 ことを特徴とする請求項7から請求項9のうちいずれか一項に記載のインクの循環方法。 【請求項11】 インクを貯留してインクタンクのインクを吐出するヘッドまで供給するためのインク供給路を有し、当該インク供給路の上流側から下流側にインクタンク、ダンパ、及びヘッドをこの順番で配置したインクジェットプリンタの前記ヘッド側と前記インクタンク側との間で前記インクを循環させるインクの循環機構であって、 前記ダンパは、 前記インクを一旦収容する供給室と、 前記供給室と連通通路を介して連通しかつ前記ヘッドにインクを供給するインク室と、 前記連通通路を閉塞する封止体と、前記インク室を外側から覆うように取り付けられた可撓性フィルムと、前記可撓性フィルムに連動して前記封止体を開放する開放体と、前記開放体を前記インク室の外側方向に付勢する開放ばねとを有し、前記インク室内のインクが減少すると前記開放ばねの付勢力に抗して前記可撓性フィルムが前記インク室の内側に撓むことに連動して前記開放体によって前記封止体を一方側に移動させて前記連通通路を開放させるとともに、前記インク室内のインクが増加すると前記可撓性フィルムが前記インク室の外側に撓むことに連動して前記封止体が他方側に移動し前記連通通路を閉塞させる開閉バルブと、を備え、 前記インク供給路は、 前記インクタンクと前記ダンパとを接続する供給管と、 前記供給管の前記ダンパ寄りの前記ダンパよりも上流側の端部と、前記供給管の前記インクタンク寄りの前記インクタンクよりも下流側の端部及び前記インクタンクのいずれか一方と、を接続する循環用管と、を備え、 前記インクジェットプリンタの制御手段は、 前記封止体が前記連通通路を閉塞した時に、ポンプを駆動させて、前記供給管と前記循環用管との間で前記インクを循環させ、 前記ポンプの駆動を、前記インクジェットプリンタの印刷停止時に行うよう制御する、 ことを特徴とするインクの循環機構。」 第4.取消理由通知(決定の予告)の概要 本件特許発明7ないし11に対して、当審が令和2年7月6日に特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。 理由A 本件特許発明7、9、10、及び11は、その国際出願の日前の特許出願であって、その出願後に出願公開がされた特許出願の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載された発明(以下に記載する、甲第4号証に係る「先願発明」のこと)と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない。 したがって、本件特許発明7、9、10、及び11は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 理由B 本件特許発明7ないし10、及び11は、明確でないから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 したがって、本件の請求項7ないし10、及び11に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであって、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 理由C 本件特許発明7ないし10、及び11は、発明の詳細な説明に記載されていないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 したがって、本件の請求項7ないし10、及び11に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであって、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 第5 当審の判断 1 理由Aについて (1)請求項7、9、10、及び11に係る発明(以下、請求項7に係る発明を「本件特許発明7」という。また他の請求項に係る発明についても同様に「本件特許発明9」などという。)について ア 甲第4号証に記載された発明 甲第4号証:特願2013−40416号(特開2014−168854号公報) 甲第4号証には、以下の記載がある。 (ア)「【0020】 以下、液体を噴射可能な液体噴射装置の実施形態について、図を参照して説明する。 液体噴射装置は、例えば媒体に液体を噴射することによって印刷を行うプリンターである。」 (イ)「【0028】 液体供給源20は、例えば液体を収容可能な収容容器であり、収容容器を交換することで液体を補給するカートリッジであってもよいし、装着部25に固定された収容タンクであってもよい。装着部25は、液体供給源20がカートリッジである場合には、液体供給源20を着脱可能に保持する。装着部25は、例えば収容する液体の種類や色が異なる複数の液体供給源20を保持可能な構成であってもよい。」 (ウ)「【0033】 次に、液体供給部22の構成について詳述する。液体供給部22は、装着部25の後部に配置された送出機構30と、キャリッジ23に保持された圧力調整部31と、送出機構30と圧力調整部31との間に配置された流路形成部32と、流路形成部32を揺動可能に保持する流路保持部33とを有している。 【0034】 送出機構30、圧力調整部31及び流路形成部32は、液体供給源20の設置数に応じて複数配置してもよい。なお、図1においては、送出機構30、圧力調整部31及び流路形成部32は、複数の液体供給源20にそれぞれ対応するように複数図示している。 【0035】 流路形成部32は、液体供給源20と噴射ヘッド21とをつなぐ液体流路34を形成する。なお、図1においては、流路形成部32は例えば白インクを収容した液体供給源20に接続される1つのみを図示して、その他の流路形成部32の図示を省略している。図示を省略したその他の流路形成部32は、図示した流路形成部32と同じ構成でもよいし、異なる構成でもよい。 【0036】 流路形成部32は、第1中継部材35と、第2中継部材36と、第1流路形成部37と、第2流路形成部38と、第3流路形成部39と、循環流路形成部40とを有している。第2流路形成部38と循環流路形成部40とは長さがほぼ等しい。また、第2流路形成部38及び循環流路形成部40は第1流路形成部37及び第3流路形成部39よりも長く、例えば可撓性を有するチューブからなる。 【0037】 第1流路形成部37は上流端が送出機構30に接続される一方で下流端が第1中継部材35に接続される。第3流路形成部39は上流端が第2中継部材36に接続される一方で下流端が圧力調整部31に接続される。 【0038】 第2流路形成部38は上流端が第1中継部材35に接続される一方で下流端が第2中継部材36に接続される。循環流路形成部40は上流端が第2中継部材36に接続される一方、下流端が第1中継部材35に接続される。そして、第1中継部材35、第2中継部材36、第2流路形成部38及び循環流路形成部40は、図1に点線矢印で流れ方向を示す循環流路41を形成する。 【0039】 循環流路形成部40には、第1流路形成部37から供給された液体を図1に点線矢印で示す流れ方向に循環させるための循環ポンプ42と、循環ポンプ42の下流側に配置された一方向弁43とが配置されている。循環ポンプ42は、液体噴射装置11が液体を噴射しないときに駆動して循環流路41内に液体を循環させることによって、溶質の沈降等による液体の性状の変化を抑制する。 【0040】 循環ポンプ42は、例えば循環流路形成部40であるチューブを一方向に押し潰すことで液体を流動させるチューブポンプを採用することができる。また、一方向弁43は、循環ポンプ42の駆動によって循環流路形成部40内を流動する液体が第2中継部材36側から第1中継部材35側に流れるのを許容する一方、第1中継部材35側から第2中継部材36側に逆流するのを抑制する。」 (エ)「【0058】 次に、圧力調整部31の構成について詳述する。圧力調整部31は、流路形成部32と噴射ヘッド21との間に配置されたいわゆる自己封止弁であり、ノズル24の背圧となる噴射ヘッド21内の圧力を調整する。なお、圧力調整部31は噴射ヘッド21の上方に配置されるのが好ましい。 【0059】 図3に示すように、圧力調整部31は、第3流路形成部39と連通する供給室70と、ノズル24と連通する圧力室71と、走査方向Xに沿って撓み変位可能なダイヤフラム72と、弁体73と、供給室70に収容された第3付勢部材74とを備えている。第3付勢部材74は、例えばコイルばねである。 【0060】 供給室70と圧力室71とは連通孔75を通じて連通している。また、弁体73は、供給室70内において第3付勢部材74の走査方向+Xへの付勢力を受ける本体部76と、連通孔75を通じて先端が圧力室71側に突出する突部77とを有している。 【0061】 供給室70と、連通孔75と、圧力室71とは、走査方向Xに沿って並んでいる。そして、弁体73は第3付勢部材74の付勢力によって、図3に示すように連通孔75を閉塞可能な構成となっている。 【0062】 ダイヤフラム72は圧力室71の壁面の一部を構成し、外面側(図3では左面側)に大気圧を受ける一方で、内面側(図3では右面側)に圧力室71内にある液体の圧力を受ける。したがって、ダイヤフラム72は圧力室71内の圧力変化に応じて走査方向Xに沿って撓み変位する。 【0063】 ここで、圧力室71内は、ノズル24内に液体の噴射に適した凹状のメニスカスを形成するために、一定範囲の負圧状態に保持される。なお、メニスカスとは、液体がノズル24と接するときに働く付着力と液体分子間の凝集力の大小関係で生じる湾曲した液体表面のことをいう。 【0064】 一方、供給室70は、図3に点線矢印で示すように加圧されて送られてくる液体によって加圧状態に保持される。そして、噴射ヘッド21が液体を噴射しないときには、弁体73が第3付勢部材74の付勢力によって負圧状態の圧力室71と加圧状態の供給室70との連通を規制する。 【0065】 次に、圧力調整部31の作用を説明する。図4には、噴射ヘッド21が液体を噴射したときの圧力調整部31を示している。噴射ヘッド21が液体を噴射すると、図4に印で示すように圧力室71から液体が流出する。すると、圧力室71内の圧力が低下するので、走査方向−Xに撓み変位したダイヤフラム72が突部77に当接し、弁体73を第3付勢部材74の付勢力に抗して連通孔75から離間させる。これにより、加圧状態の供給室70から圧力室71内に液体が流入する。 【0066】 液体の流入により圧力室71内の圧力が上昇するにつれて、ダイヤフラム72が走査方向+Xに撓み変位する。すると、図3に示すように弁体73が再び連通孔75に当接して圧力室71と供給室70との連通を規制する。このように、圧力調整部31の圧力調整機能によって、圧力室71内は液体の噴射に適した負圧状態が保持される。」 (オ)「【0070】 以上説明したように、液体噴射装置11においては、液体を噴射しないときには循環ポンプ42の駆動によって循環流路41内で液体が流動する一方、循環ポンプ42が駆動しないときには保持フレーム14の移動に伴う流路形成部32の揺動によってその内部の液体が流動する。」 (カ)「【0092】 ・重力方向において、液体供給源20が噴射ヘッド21と同じ位置にあってもよいし、液体供給源20を噴射ヘッド21よりも高い位置に配置して、その水頭差によって液体供給源20から噴射ヘッド21に液体を供給するようにしてもよい。」 (キ)段落【0020】の「液体噴射装置は、例えば媒体に液体を噴射することによって印刷を行うプリンターである」の記載から、「液体噴射装置」は「インクジェットプリンタ」であること、「(液体噴射装置が噴射する)液体」は「インク」であることは、明らかである。 (ク)甲第4号証における「液体噴射装置(インクジェットプリンタ)」は、「液体(インク)」を収容可能な「収容タンク」の「液体(インク)」を、噴出する「噴射ヘッド」まで供給する供給路を有し、供給路の上流側から下流側に、収容タンク、圧力調整部、噴射ヘッドの順番で配置した「液体噴射装置(インクジェットプリンタ)」の、「噴射ヘッド(インクを吐出するヘッド)」側と「収容タンク」側との間で「液体(インク)」を循環させているから、甲第4号証には「液体(インク)の循環方法」に係る発明が記載されていることは明らかである。 (ケ)上記(エ)において、圧力室71内は一定範囲の負圧状態に保持されるのであるから、ダイヤフラム72が圧力室71の外側方向に付勢する力によって圧力室71内の内圧が調整されることで、圧力室71が噴射ヘッドの内圧を調整しながら噴射ヘッドに液体を供給するものであることは明らかである。 (コ)上記(エ)において、供給室70と圧力室71とは連通孔75を通じて連通しており、供給室70と圧力室71は「通路」によってつながっていることが看て取れ、弁体73が連通孔75を閉塞することは、「通路」を閉塞することになることは明らかである。 (サ)上記(キ)において、「液体噴射装置」は「インクジェットプリンタ」であること、「(液体噴射装置が噴射する)液体」は「インク」であることが明らかとなり、段落【0035】の「流路形成部32は、液体供給源20と噴射ヘッド21とをつなぐ液体流路34を形成する」の記載を踏まえると、「噴射ヘッド21」は「インクを吐出するヘッド」であることは、明らかである。 上記(ア)ないし(サ)より、甲第4号証には以下の発明(以下「先願発明」という。)が記載されていると認められる。 「インクを収容可能な収容容器である収容タンクとインクを吐出するヘッドとをつなぐ液体流路34を形成する流路形成部32を備え、 重力方向において収容タンクをインクを吐出するヘッドよりも高い位置に配置して、その水頭差によって収容タンクからインクを吐出するヘッドにインクを供給して、媒体にインクを噴射して印刷を行うプリンターであるインクジェットプリンタにおいて、 流路形成部32は、第1中継部材35と、第2中継部材36と、第1流路形成部37と、第2流路形成部38と、第3流路形成部39と、循環流路形成部40とを有し、 第1流路形成部37は、上流端が収容タンクから流路形成部32にインクを送出する送出機構30に、下流端が第1中継部材35に接続され、 第2流路形成部38は、上流端が第1中継部材35に、下流端が第2中継部材36に接続され、 第3流路形成部39は、上流端が第2中継部材36に、下流端が圧力調整部31に接続され、 循環流路形成部40は、上流端が第2中継部材36に、下流端が第1中継部材35に接続され、 第1中継部材35、第2中継部材36、第2流路形成部38及び循環流路形成部40は、循環流路41を形成し、 循環流路形成部40には、循環ポンプ42が配置され、 流路形成部32とインクを吐出するヘッドとの間であって、かつインクを吐出するヘッドの上方には圧力調整部31が配置され、 圧力調整部31は、第3流路形成部39と連通する供給室70と、ノズル24と連通する圧力室71と、走査方向Xに沿って撓み変位可能なダイヤフラム72と、弁体73と、供給室70に収容された第3付勢部材74とを備え、 供給室70と圧力室71とは連通孔75から通路を通じて連通し、弁体73は、供給室70内において第3付勢部材74の走査方向+Xへの付勢力を受ける本体部76と、連通孔75を通じて先端が圧力室71側に突出する突部77とを有するとともに、弁体73は第3付勢部材74の付勢力によって、連通孔75を閉塞することで通路を閉塞可能な構成となっており、 ダイヤフラム72は、ノズル24内にインクの噴射に適した凹状のメニスカスを形成するために、一定範囲の負圧状態に保持される圧力室71内の圧力変化に応じて走査方向Xに沿って撓み変位するものであって、ダイヤフラム72が圧力室71の外側方向に付勢する力によって圧力室71内の内圧が調整されることで、圧力室71が噴射ヘッドの内圧を調整しながら噴射ヘッドに液体を供給するものであり、 供給室70は、加圧されて送られてくるインクによって加圧状態に保持され、インクを吐出するヘッドがインクを噴射しないときには、弁体73が第3付勢部材74の付勢力によって負圧状態の圧力室71と加圧状態の供給室70との連通を規制し、 インクを吐出するヘッドがインクを噴射すると、圧力室71からインクが流出し、圧力室71内の圧力が低下すると、走査方向−Xに撓み変位したダイヤフラム72が突部77に当接して、弁体73を第3付勢部材74の付勢力に抗して連通孔75から離間させ、加圧状態の供給室70から圧力室71内にインクが流入し、インクの流入によって、圧力室71内の圧力が上昇するにつれて、ダイヤフラム72が走査方向+Xに撓み変位すると、弁体73が再び連通孔75に当接して圧力室71と供給室70との連通を規制するインクジェットプリンタにおいて、 循環ポンプ42は、インクジェットプリンタがインクを噴射しないときに駆動して循環流路41内にインクを循環させることによって、溶質の沈降等によるインクの性状の変化を抑制するインクの循環方法。」 イ 本件特許発明7について (ア)本件特許発明7と先願発明との対比 A 先願発明の「インク」は、本件特許発明7の「インク」に相当する。 B 先願発明の「収容タンク」は、本件特許発明7の「インクタンク」に相当する。 C 先願発明の「圧力調整部31」は、本件特許発明7の「ダンパ」に相当する。 D 先願発明の「インクを吐出するヘッド」は、本件特許発明7の「ヘッド」に相当する。 E 先願発明の「インクジェットプリンタ」は、本件特許発明7の「インクジェットプリンタ」に相当する。 F 先願発明の「供給室70」は、本件特許発明7の「供給室」に相当する。 G 先願発明の「連通孔75」は、本件特許発明7の「連通通路」の供給室側の開口に相当する。 H 先願発明の「圧力室71」は、本件特許発明7の「インク室」に相当する。 i 先願発明の「供給室70」と「圧力室71」をつなぐ「通路」は、本件特許発明7の「連通通路」に相当する。 J 先願発明の「弁体73」は、本件特許発明7の「封止体」に相当する。 K 先願発明の「ダイヤフラム72」は、本件特許発明7の「可撓性フィルム」に相当する。 L 先願発明は、インクを吐出するヘッドがインクを噴射すると、圧力室71からインクが流出し、圧力室71内の圧力が低下すると、走査方向−Xに撓み変位したダイヤフラム72が突部77に当接して、弁体73を連通孔75から離間させ、加圧状態の供給室70から圧力室71内にインクが流入し、インクの流入によって、圧力室71内の圧力が上昇するにつれて、ダイヤフラム72が走査方向+Xに撓み変位すると、弁体73が再び連通孔75に当接して圧力室71と供給室70との連通を規制するものであるから、先願発明の「ダイヤフラム72」と「弁体73」は、インク室内のインクが減少すると可撓性フィルムがインク室の内側に撓むことに連動して封止体を一方側に移動させて連通通路を開放させるとともに、インク室内のインクが増加すると可撓性フィルムが前記インク室の外側に撓むことに連動して封止体が他方側に移動し連通通路を閉塞させる点において、本件特許発明7の「開閉バルブ」に共通する。 M 先願発明の「液体流路34」は、「インクを収容可能な収容容器である収容タンクとインクを吐出するヘッドとをつなぐ液体流路」であるから、本件特許発明7の「インクを貯留してインクタンクのインクを吐出するヘッドまで供給するためのインク供給路」に相当する。 N 先願発明の「液体通路34」は、上流側から下流側に、「収容タンク」、「圧力調整部31」、「インクを吐出するヘッド」をこの順番で配置しているものである。 また、先願発明において、第1中継部材35、第2中継部材36、第2流路形成部38及び循環流路形成部40は循環流路41を形成しており、第2流路形成部38は、第1中継部材35から第2中継部材36までの間にあって、第1中継部材35の上流側には「収容タンク」が、第2中継部材36の下流側には「圧力調整部31」を介して「インクを吐出するヘッド」が接続されている。 さらに、循環流路形成部40は、第2中継部材36から第1中継部材35までの間にあって、該循環流路形成部40に設けられた循環ポンプ42によって循環流路41内にインクを循環させるものである。 したがって、先願発明と本件特許発明7は、「インク供給路の上流側から下流側にインクタンク、ダンパ、及びヘッドをこの順番で配置したインクジェットプリンタの前記ヘッド側と前記インクタンク側との間で前記インクを循環させるインクの循環方法」である点で共通する。 O 先願発明において、収容タンクに収容されているインクは、「第1中継部材35」、「第2流路形成部38」、「第2中継部材36」の順に供給され、「第2中継部材36」において、「圧力調整部31」を経て「インクを吐出するヘッド」に供給される分と、「循環流路形成部40」を経て「第1中継部材35」に還流する分とに分かれるから、先願発明の「第2中継部材36」は、「液体流路の圧力調整部31寄りの前記圧力調整部31よりも上流側の端部」に接続されているといえ、「第1中継部材35」は、「液体流路の収容タンク寄りの前記収容タンクよりも下流側の端部」に接続されているといえる。 したがって、先願発明と本件特許発明7は、「インク供給路の供給管のダンパ寄りの前記ダンパよりも上流側の端部と、前記供給管の前記インクタンク寄りの前記インクタンクよりも下流側の端部と、に循環用管が接続」されている点で共通する。 以上のことより、本件特許発明7と先願発明とは、以下の一致点で一致し、以下の相違点で相違する。 〈一致点〉 「インクを貯留してインクタンクのインクを吐出するヘッドまで供給するためのインク供給路を有し、当該インク供給路の上流側から下流側にインクタンク、ダンパ、及びヘッドをこの順番で配置したインクジェットプリンタの前記ヘッド側と前記インクタンク側との間で前記インクを循環させるインクの循環方法において、 前記ダンパは、 前記インクを一旦収容する供給室と、 前記供給室と連通通路を介して連通しかつ前記ヘッドにインクを供給するインク室と、 前記連通通路を閉塞する封止体と、前記インク室を外側から覆うように取り付けられた可撓性フィルムとを有し、前記インク室内のインクが減少すると前記可撓性フィルムが前記インク室の内側に撓むことに連動して前記封止体を一方側に移動させて前記連通通路を開放させるとともに、前記インク室内のインクが増加すると前記可撓性フィルムが前記インク室の外側に撓むことに連動して前記封止体が他方側に移動し前記連通通路を閉塞させる開閉バルブと、を備え、 前記ダンパは、前記可撓性フィルムへの前記開放ばねの付勢力により前記インク室内の内圧が調整されることで、前記インク室が前記ヘッドの内圧を調整しながら前記ヘッドに前記インクを供給するものであり、 前記インク供給路の供給管の前記ダンパ寄りの前記ダンパよりも上流側の端部と、前記供給管の前記インクタンク寄りの前記インクタンクよりも下流側の端部及び前記インクタンクのいずれか一方と、に循環用管が接続されており、 前記封止体が前記連通通路を閉塞した時に、ポンプを駆動させて、前記供給管と前記循環用管との間で前記インクを循環させており、 前記ポンプの駆動は、前記インクジェットプリンタの印刷停止時に行われる、 ことを特徴とするインクの循環方法。」 〈相違点1〉 本件特許発明7は、「可撓性フィルムに連動して前記封止体を開放する開放体と、前記開放体を前記インク室の外側方向に付勢する開放ばね」を有するものであるが、先願発明は、「『ダイヤフラム72』が、『弁体73』の『突部77』に当接し、該『弁体73』を『連通孔75から離間』」させているから「ダイヤフラムが弁体に当接して開放」しているといえるものの、「開放体」及び「開放ばね」を有するものではない点。 〈相違点2〉 本件特許発明7は「封止体が連通通路を閉塞した時に、ポンプを駆動させて、供給管と循環用管との間で前記インクを循環させ、前記ポンプの駆動は、インクジェットプリンタの印刷停止時に行われる」のに対して、先願発明の「循環ポンプ42」は「インクジェットプリンタがインクを噴射しないときに駆動して循環流路41内にインクを循環させる」ものではあるが、そのとき「弁体73が連通孔75及び通路を閉塞した状態」であるかが不明な点。 (イ)判断 a 相違点1について 相違点1に係る本件特許発明7の発明特定事項である、可撓性フィルムに連動して封止体を開放する「開放体」と、開放体を前記インク室の外側方向に付勢する「開放ばね」は、インクジェットプリンタ技術における周知技術にすぎず、本件特許発明7と先願発明との間の相違点1は課題解決のための具体化手段における微差、つまり周知技術の転換であって、新たな効果を奏するものではない。 必要であれば、周知技術として特開2011−46070号公報(甲第7号証)を参照されたい。 b 相違点2について 先願発明において、「インクジェットプリンタがインクを噴射しないとき」とは、印刷停止時のことであって、「圧力室71内のインクが消費されないとき」であることは明らかである。 また、先願発明が「圧力室71内の圧力が低下する」と、自動的に「加圧状態の供給室70から圧力室71内にインクが流入」して、圧力室71へのインク供給が行われるものであることに鑑みると、仮に、先願発明において「インクジェットプリンタがインクを噴射しないとき」に、圧力室71内のインクが消費されていたとしても、自動的に圧力室71内にインクが供給されることになるから、「インクジェットプリンタがインクを噴射しないとき」の圧力室71は、インクが充填された状態となっていることは明らかである。 つまり、循環ポンプ42が駆動される「インクジェットプリンタがインクを噴射しないとき」とは、「圧力室71にインクが充填された状態となっているとき」であることは明らかである。 そして、インクが充填された状態においてダイヤフラム72と弁体73の突部77は当接しない、つまり、弁体73が連通孔75及び通路を閉塞した状態になるから、先願発明は、相違点2に係る本件特許発明7の発明特定事項を備えていることになり、相違点2は実質的な相違点ではない。 (ウ)小括 以上のとおり、本件特許発明7は、先願発明と実質的に同一であるから、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものである。 ウ 本件特許発明9 (ア)本件特許発明9と先願発明との対比 本件特許発明9は、本件特許発明7に、請求項9に記載された発明特定事項を付加したものである。 そして、上記「イ 本件特許発明7について」で検討したとおり、本件特許発明9が引用する本件特許発明7と先願発明とが、実質的に同一であることを踏まえて、本件特許発明9と先願発明とを対比すると、両者の一致点は「イ 本件特許発明7について」で検討した上記の一致点と同じであり、相違点は上記の相違点1及び2に加えて以下の相違点3で相違する。 〈相違点3〉 本件特許発明9では「封止体が連通通路を閉塞する方向の前記インクの圧力が、供給室に作用するように前記ポンプを駆動」させるものであるのに対して、先願発明においてその点が不明である点。 (イ)判断 本件特許発明9の「封止体が連通通路を閉塞する方向のインクの圧力が、供給室に作用する」とは、供給室に対して、インクタンクからヘッドへとインクを供給する向きにインクの圧力が作用することである。 そして、先願発明において、第1中継部材35、第2流路形成部38、第2中継部材36、循環流路形成部40で形成された循環流路41において、循環流路形成部40に配置された循環ポンプ42が駆動されると、本件特許発明9の「供給室」に相当する、先願発明の「供給室70」に対して、収容タンクからインクを吐出するヘッドへとインクを供給する方向にインクの圧力が作用することになるのは自明である。 したがって、先願発明は、相違点3に係る本件特許発明9の発明特定事項を備えていることになり、相違点3は実質的な相違点ではない。 (ウ)小括 以上のとおり、本件特許発明9は、先願発明と実質的に同一であるから、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものである。 エ 本件特許発明10 (ア)本件特許発明10と先願発明との対比 上記「イ 本件特許発明7について」で検討したとおり、本件特許発明10が引用する本件特許発明7と先願発明とが、実質的に同一であることを踏まえて、本件特許発明10と先願発明とを対比する。 先願発明は、重力方向において収容タンクをインクを吐出するヘッドよりも高い位置に配置して、その水頭差によって収容タンクからインクを吐出するヘッドにインクを供給するものであり、循環ポンプ42は循環流路形成部40に設けられている。 水頭差で供給する場合、収容タンクからインクを吐出するヘッドにインクを供給するための送出機構が不要であることは技術常識であるから、先願発明においてポンプは「循環流路形成部40」のみに設けられていることは明らかである。 とすれば、先願発明において、「ポンプは循環用管のみに設けられる」ことになるから、先願発明は、本件特許発明10の発明特定事項を備えていることになる。 上記「イ 本件特許発明7について」で検討したとおり、本件特許発明7と先願発明とが、実質的に同一であって、その本件特許発明7においてさらに特定された本件特許発明10の発明特定事項を有する先願発明は、本件特許発明10と実質的に同一である。 (イ)小括 以上のとおり、本件特許発明10は、先願発明と実質的に同一であるから、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものである。 オ 本件特許発明11 (ア)本件特許発明11と先願発明との対比 本件特許発明11は、本件特許発明7において、「インク供給路」が「インクタンクと前記ダンパとを接続する供給管」を備えた点、ならびに「制御手段」が「前記封止体が前記連通通路を閉塞した時に、ポンプを駆動させて、前記供給管と前記循環用管との間で前記インクを循環させ、前記ポンプの駆動を、前記インクジェットプリンタの印刷停止時に行うよう制御」する点を、さらに特定した上で、「インクの循環機構」としたものである。 そして、上記「イ 本件特許発明7について」で検討したとおり、本件特許発明7と先願発明とが、実質的に同一であることを踏まえて、本件特許発明11と先願発明とを対比すると、両者の一致点は「イ 本件特許発明7について」で検討した上記の一致点と同じであり、相違点は上記の相違点1及び2に加えて以下の相違点4で相違する。 〈相違点4〉 本件特許発明11では「インク供給路がインクタンクと前記ダンパとを接続する供給管を備える」ものであるのに対して、先願発明においてその点が不明である点。 〈相違点5〉 本件特許発明11では「制御手段」が「前記封止体が前記連通通路を閉塞した時に、ポンプを駆動させて、前記供給管と前記循環用管との間で前記インクを循環させ、前記ポンプの駆動を、前記インクジェットプリンタの印刷停止時に行うよう制御」するものであるのに対して、先願発明において、インクジェットプリンタがインクを噴射しないときにインクを循環させているものの、制御手段については不明である点。 〈相違点6〉 本件特許発明11では「インクの循環機構」であるのに対して、先願発明は「インクの循環方法」であって「機構」については不明である点。 (イ)判断 a 相違点4について 先願発明において、液体流路34を形成する流路形成部32は、第1中継部材35と、第2中継部材36と、第1流路形成部37と、第2流路形成部38と、第3流路形成部39と、循環流路形成部40とを有するものである。 先願発明の「第2流路形成部38」を一部として有する「液体流路34」は、本件特許発明11の「インク供給路」に相当する。 また、上流端が第1中継部材35に、下流端が第2中継部材36に接続される第2流路形成部38は、第1中継部材35が収容タンクに、第2中継部材36が圧力調整部31に接続されているから、先願発明の「第2流路形成部38」は、本件特許発明11のインクタンクとダンパとを接続する「供給管」に相当することは明らかである。 とすれば、先願発明において、「インク供給路がインクタンクと前記ダンパとを接続する供給管を備える」ことになるから、先願発明は、相違点4に係る本件特許発明11の発明特定事項を備えていることは明らかである。 b 相違点5について 先願発明において、「循環ポンプ42は、インクジェットプリンタがインクを噴射しないときに駆動」しているものであるから、循環ポンプ42の駆動は、何らかの制御手段によって制御されていることは自明である。 したがって、先願発明は、相違点5に係る本件特許発明11の発明特定事項を備えていることになり、相違点5は実質的な相違点ではない。 c 相違点6 先願発明は「インクの循環方法」に係る発明であるところ、該循環方法を実施するためには、当然「インクの循環機構」を備えていることは当然のことである。 また、本件特許発明7と先願発明とが実質的に同一であること、上記相違点4及び5の判断を踏まえると、先願発明は、相違点6に係る本件特許発明11の発明特定事項を備えているといえることは明らかであるから、相違点6は実質的な相違点ではない。 したがって、先願発明は、本件特許発明11と実質的に同一である。 (ウ)小括 以上のとおり、本件特許発明11は、先願発明と実質的に同一であるから、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものである。 (2)理由Aのまとめ 以上のことより、本件特許発明7、9、10、11は、先願発明と実質的に同一であるから、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものである。 したがって、本件特許請求の範囲の請求項7、9、10、11に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものであって、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。 2 理由Bについて (1)請求項7ないし10について 請求項7には「インク供給路の供給管」と記載があり、「インク供給路」については、「インクを貯留してインクタンクのインクを吐出するヘッドまで供給するためのインク供給路」と記載されている。 これらの記載から、供給管がインク供給路にあることは理解できるが、供給管が具体的にインク供給路のどこであるかについては記載がない。 供給管が、インクタンクとダンパの間に設けられた供給路の一部のことを指すとしても、供給管の位置が具体的に特定されないため、「インク供給路の供給管の前記ダンパ寄りの前記ダンパよりも上流側の端部」、及び「(インク供給路の)前記供給管の前記インクタンク寄りの前記インクタンクよりも下流側の端部」が、どこを指すものであるかについて明確ではない。 したがって、請求項7に係る発明、及び請求項7を引用する請求項8ないし10に係る発明は、明確ではない。 (2)請求項7ないし11について 請求項7には「前記封止体が前記連通通路を閉塞した時に、ポンプを駆動させて」という記載と「前記ポンプの駆動は、前記インクジェットプリンタの印刷停止時に行われる」という記載がある。 これらの記載は、ポンプを駆動させるタイミングとして「封止体が連通通路を閉塞した時」と「インクジェットプリンタの印刷停止時」の2つの異なる特定をしていることから、両者が同じタイミングを意味しているものとは認められない。 また、両者の関係も定かでない。 そうすると、「ポンプの駆動」がどのような場合になされるのかが明確に特定されていない。 したがって、請求項7に係る発明、請求項7を引用する請求項8ないし10に係る発明、及び請求項7の上記摘記箇所と同様の記載がある請求項11に係る発明は、明確ではない。 (3)理由Bのまとめ 上記のとおり、本件特許発明7ないし11は、いずれも明確でないから、本件特許請求の範囲の請求項7ないし11の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たさない。 したがって、本件特許請求の範囲の請求項7ないし11に係る特許は、同号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであって、同法第113条第4号に該当するから、取り消されるべきものである。 3 理由Cについて (1)請求項7ないし11について 発明の詳細な説明の段落【0030】に「この発明は、ダンパの供給室を正圧となるようにポンプを駆動させて、封止体が連通通路を閉塞する方向に作用させることができる」、同段落【0031】に「ダンパの封止体が連通通路を閉塞するようにポンプを駆動するので、インクが循環する領域をヘッドから遮断することができるので、ヘッド内のインクが影響を受けることがない。したがって、この発明は、ヘッドのインクのメニスカス面を壊すことなく、インクを循環させることができる」と記載されており、発明の詳細な説明には「ダンパの封止体が連通通路を閉塞するようにポンプを駆動する」ことについては記載されていることが理解できる。 しかしながら、請求項7及び11に「前記封止体が前記連通通路を閉塞した時に、ポンプを駆動させて、前記供給管と前記循環用管との間で前記インクを循環させ」と記載されているとおり、請求項7及び11に係る発明は「封止体が連通通路を閉塞した時」を検出して、その検出結果に基づいて「ポンプを駆動させ」るものを含みうるものであり、その点について発明の詳細な説明には何ら記載はなく、出願時の技術常識に照らしても、請求項7及び11に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張し一般化できない。 なお、特許権者は、この理由Cに関し令和2年9月7日付け意見書において、本件訂正による訂正が認められることを前提として、概ね以下のとおり主張する。 「本願の明細書の段落【0096】には、「次に、前述したインクジェットプリンタ100は、制御手段70に入力した印刷命令の印刷が完了すると待機状態に移行する。待機状態では、制御手段70は、ヘッド102の主走査方向の移動を停止し、ヘッド102と印刷媒体の副走査方向の移動を停止し、ヘッド102のノズル102aからのインクIの吐出を停止する。そして、インクジェットプリンタ100の制御手段70は、インクジェットプリンタ100の待機状態(印刷停止)時、即ち、封止体51が連通通路49を閉塞した時に、循環機構1を用いたインクの循環方法を実行する。インクの循環方法は、インクタンク101と、インクタンク101からインクIが水頭差により供給されるヘッド102との間でインクIを循環させる方法である。即ち、インクの循環方法は、ヘッド102側とインクタンク101側との間でインクIを循環させる方法である。」と記載され、ポンプは前記インクジェットプリンタの印刷が停止して、前記封止体が前記連通通路を閉塞したときに、駆動されることが記載されており、請求項7、11に記載の発明は、明細書に記載されている。」 しかしながら、当該段落は「インクタンク101からインクIが水頭差により供給されるヘッド102との間でインクIを循環させる方法」に関するものであるところ、請求項7及び11には、その点が何ら特定されておらず、当該段落を請求項7及び11に記載の発明が明細書に記載されている根拠とすることはできない。 よって、請求項7及び11に係る発明、及び請求項7を引用する請求項8ないし10に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。 (2)理由Cのまとめ 本件の請求項7ないし11に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではないから、本件特許請求の範囲の請求項7ないし11の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たさない。 したがって、本件特許請求の範囲の請求項7ないし11に係る特許は、同号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであって、同法第1E13条第4号に該当するから、取り消されるべきものである。 第6 むすび 本件の請求項7、9、10、11に係る発明は、先願発明である甲4発明と実質的に同一であるから、請求項7、9、10、11に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してなされたものである。 したがって、本件の請求項7、9、10、11に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 本件の請求項7ないし11に係る発明は、明確でないから、請求項7ないし11に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。 したがって、本件の請求項7ないし11に係る特許は、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 本件の請求項7ないし11に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではないから、請求項7ないし11に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。 したがって、本件の請求項7ないし11に係る特許は、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 第7 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について 1 理由1 本件特許発明7、9、11は、甲第1号証(特開2011−42117号公報)に記載の発明に対して、新規性又は進歩性がない。 本件特許発明8、10は、甲第1号証及び甲第2号証(特開2013−75371号公報)に記載の発明に対して、進歩性がない。 なお、理由1は、各本件特許発明と該当する特許法の条文の関係が明確でないので、以下のとおり整理する。 理由1−1 本件特許発明7、9、11は、甲第1号証に記載の発明に対して、新規性がない。 理由1−2 本件特許発明7、9、11は、甲第1号証に記載の発明に対して、進歩性がない。 理由1−3 本件特許発明8、10は、甲第1号証及び甲第2号証に記載の発明に対して、進歩性がない。 2 理由2 本件特許発明7、8、9、11は、甲第3号証(特願2013−218426号(特開2015−80862号公報))に記載の発明と同一であり、拡大先願の規定に違反している。 3 理由4 本件特許発明1は、甲第5号証(特開2010−12710号公報)及び甲第7号証(特開2011−46070号公報)に記載の発明に対して、進歩性がない。 本件特許発明4は、甲第5号証に記載の発明に対して、新規性又は進歩性がない。 なお、理由4は、各本件特許発明と該当する特許法の条文の関係が明確でないので、以下のとおり整理する。 理由4−1 本件特許発明1は、甲第5号証及び甲第7号証に記載の発明に対して、進歩性がない。 理由4−2 本件特許発明4は、甲第5号証に記載の発明に対して、新規性がない。 理由4−3 本件特許発明4は、甲第5号証に記載の発明に対して、進歩性がない。 4 理由5 本件特許発明1、2は、甲第6号証(特開2014−24187号公報)及び甲第7号証に記載の発明に対して、進歩性がない。 本件特許発明4は、甲第6号証に記載の発明に対して、新規性又は進歩性がない。 なお、理由5は、各本件特許発明と該当する特許法の条文の関係が明確でないので、以下のとおり整理する。 理由5−1 本件特許発明1、2は、甲第6号証及び甲第7号証に記載の発明に対して、進歩性がない。 理由5−2 本件特許発明4は、甲第6号証に記載の発明に対して、新規性がない。 理由5−3 本件特許発明4は、甲第6号証に記載の発明に対して、進歩性がない。 5 理由6 本件特許発明6は、特許法第36条第6項第2号の規定に違反して特許されたものである。 2 各甲号証に記載された事項と記載された発明 (1)甲第1号証:特開2011−42117号公報 ア 記載事項 (ア)「【0017】 以下、本発明の流体噴射装置をインクジェット式プリンターに具体化した一実施形態を図面に基づいて説明する。 図1に示すように、流体噴射装置としてのインクジェット式プリンター11は平面視矩形状をなす本体フレーム12を備えており、該本体フレーム12内にはプラテン13が主走査方向となる左右方向に沿って延設されている。このプラテン13上には、図示しない紙送り機構により記録用紙Pが副走査方向となる前後方向に沿って給送されるようになっている。また、本体フレーム12内におけるプラテン13の上方には、該プラテン13の長手方向(左右方向)と平行に延びる棒状のガイド軸14が架設されている。」 (イ)「【0022】 そして、カートリッジホルダー21にインクカートリッジ22を装着した状態では、インクパック22bがインク供給チューブ23及び圧力調整弁19を介して記録ヘッド18と連通するとともに、空気室22cが加圧管25を介して加圧ポンプ24と連通するようになっている。なお、圧力調整弁19は流体供給路の下流端部を形成している。 【0023】 図1に示すように、インク供給チューブ23は、その途中位置に2つの分岐チューブ23a、23bに分岐する分岐部Bを有するとともに、該分岐部Bよりも下流側には分岐部Bで分岐した2つの分岐チューブ23a、23bが合流する合流部Gを有している。すなわち、インク供給チューブ23は分岐部Bと合流部Gとの間で2つの分岐チューブ23a、23bに分岐しており、該各分岐チューブ23a、23bはインク供給チューブ23の一部を構成している。 【0024】 各分岐チューブ23a、23bにはインクを貯留可能な流体貯留部としてのサブタンク26a、26bが1つずつ設けられている。すなわち、各サブタンク26a、26bは、並列に配置されている。各サブタンク26a、26bは、可撓性のフィルムを袋状にしてなり、その内部はインクを貯留可能なインク貯留室になっている。また、各サブタンク26a、26bには該各サブタンク26a、26bを外部から押圧して該各サブタンク26a、26b内のインクを加圧する加圧機構27a、27bがそれぞれ設けられており、該各加圧機構27a、27bは流動手段である加圧手段を構成している。」 (ウ)「【0031】 次に、圧力調整弁19の構成について詳述する。 図3(a)、(b)に示すように、圧力調整弁19は、合成樹脂からなる基材40を備えている。基材40の一側面には凹部41が形成されているとともに、該基材40の他側面には凹部42が形成されている。凹部42の側面には基材40に貫通するように形成された導入路43が開口しており、該導入路43はインク供給チューブ23と連通している。一方、凹部41の底面には基材40に貫通するように形成された吐出路44が開口しており、該吐出路44は記録ヘッド18と連通している。 【0032】 凹部42の開口には、該開口を塞ぐように、ばね受け座45が嵌着されている。また、基材40の他側面には、ばね受け座45の上から凹部42を覆うようにフィルム46が固着されている。これにより、凹部42の内面とフィルム46とで密閉状態に囲まれたインク供給室47が形成される。 【0033】 基材40の一側面には可撓性のフィルム48が凹部41側に弛みを持たせた状態で固着されており、該フィルム48により凹部41が密閉状態に封止されている。これにより、凹部41の内面とフィルム48とで密閉状態に囲まれた圧力室49が形成される。フィルム48における凹部41側と反対の面の中央部には、該凹部41と対応するとともに該凹部41よりも幅狭の受圧板50が固着されている。 【0034】 圧力室49とインク供給室47との間には両室49、47を区画する隔壁51が設けられており、該隔壁51には圧力室49とインク供給室47とを連通する連通孔52が貫通するように形成されている。インク供給室47には、コイルばね53を介してばね受け座45と連結される略円板状のベース部54aと、該ベース部54aの中央部から延設されて連通孔52に挿通される棒状のロッド部54bとを備えた弁体54が配置されている。この場合、弁体54のロッド部54bの先端は、圧力室49内におけるフィルム48の近接位置まで達している。 【0035】 弁体54のベース部54aにおける隔壁51側の面にはロッド部54bを囲むように円環状のシール部材55が設けられており、該シール部材55の内径は連通孔52の径よりも大きくなるように設定されている。そして、弁体54は、通常、コイルばね53によって付勢されて隔壁51に圧接された閉弁位置に位置している。すなわち、圧力調整弁19は、通常、コイルばね53の付勢力によって弁体54のベース部54aがシール部材55を介して隔壁51に密着し、該弁体54によって連通孔52が閉塞された閉弁状態(図3(a)に示す状態)になっている。 【0036】 そして、記録ヘッド18からインクが噴射されて該インクが消費されると、圧力室49内のインクが吐出路44から記録ヘッド18へ供給される。すると、圧力室49内のインク量の減少に伴って該圧力室49内に負圧が発生する。そして、圧力室49内に負圧が発生すると、特に受圧板50が固着された部分のフィルム48が、大気圧によって該受圧板50とともに凹部41側に押圧されて弁体54のロッド部54bの先端に当接する。 【0037】 さらに、圧力室49内のインク量が減少すると、該圧力室49内の負圧が大きくなり(圧力が下がり)、大気圧によるフィルム48の押圧力がコイルばね53の付勢力よりも大きくなった場合には、該付勢力に抗してロッド部54b(弁体54)がフィルム48を介して受圧板50によりばね受け座45側に押圧される。この押圧により、弁体54がばね受け座45側に移動され、圧力調整弁19はシール部材55と隔壁51とが離間した開弁状態(図3(b)に示す状態)になる。」 (エ)「【0045】 ここで、記録用紙Pの印刷完了後、長時間放置すると、各サブタンク26a、26b内やインク供給チューブ23内のインク中の顔料成分が沈降してインクの濃度に偏りが生じる。このため、この状態で、次回の印刷を行うと、記録用紙Pの印刷品質が著しく低下してしまうおそれがある。 【0046】 このため、本実施形態では、各サブタンク26a、26b内やインク供給チューブ23内のインクを、印刷ジョブ間、予め設定した時間、あるいはインクジェット式プリンター11の電源を入れた時などに、以下のような方法で撹拌することで、該インクの濃度を平均化している。 【0047】 さて、各サブタンク26a、26b内及びインク供給チューブ23内のインクを撹拌する場合には、まず、各下流側開閉弁28a、28bを開弁するとともに、上流側開閉弁29を閉弁する。続いて、加圧機構27bを停止した状態で加圧機構27aによりサブタンク26a内のインクを加圧すると、該インクは、分岐チューブ23a、分岐部B、及び分岐チューブ23bを介してサブタンク26bに流れ込むとともに、分岐チューブ23a、合流部G、及び分岐チューブ23bを介してサブタンク26bに流れ込む。 【0048】 続いて、加圧機構27aを停止した状態で加圧機構27bによりサブタンク26b内のインクを加圧すると、該インクは、分岐チューブ23b、分岐部B、及び分岐チューブ23aを介してサブタンク26aに流れ込むとともに、分岐チューブ23b、合流部G、及び分岐チューブ23aを介してサブタンク26aに流れ込む。 【0049】 これにより、各サブタンク26a、26b間でインクが相互に補給(流動)されるので、各サブタンク26a、26b内及び各分岐チューブ23a、23b(インク供給チューブ23)内のインクが効果的に撹拌される。この結果、インクの濃度が平均化される、すなわちインクの濃度の偏りが解消される。 【0050】 また、各サブタンク26a、26bから合流部Gまでの各分岐チューブ23a、23bの長さが長い場合には、各下流側開閉弁28a、28b及び上流側開閉弁29を閉弁した状態で、上述と同様に、各サブタンク26a、26b間でインクを相互に補給すればよい。このようにすれば、各サブタンク26a、26b間において、インクは、距離の短い分岐部Bを経由した流路を流れるが、距離の長い合流部Gを経由した流路を流れなくなる。この結果、各サブタンク26a、26bから合流部Gまでの各分岐チューブ23a、23bの長さが長い場合でもインクの撹拌効率が低下することを抑制することができる。因みに、この場合、各下流側開閉弁28a、28bを開弁すると、各サブタンク26a、26b間において距離の長い合流部Gを経由した流路にもインクが流れるため、各サブタンク26a、26b間でのインクの相互補給に時間がかかってしまい、インクの撹拌効率が低下してしまう。」 (オ)「【0065】 ・水頭差によってインクカートリッジ22内のインクが各サブタンク26a、26bへ送出されるように構成してもよい。この場合、加圧ポンプ24は不要となる。 ・インク供給チューブ23は、分岐部Bにおいて3つ以上の分岐チューブに分岐するように構成してもよい。」 イ 記載された発明(以下、「甲1発明」という。) 「カートリッジホルダー21にインクカートリッジ22を装着した状態において、インクパック22bがインク供給チューブ23及び圧力調整弁19を介して記録ヘッド18と連通するインクジェット式プリンターであって、 インクカートリッジ22内のインクの各サブタンク26a、26bへは、加圧ポンプ24もしくは水頭差によって送出され、 インク供給チューブ23は、その途中位置に2つの分岐チューブ23a、23bに分岐する分岐部Bを有するとともに、該分岐部Bよりも下流側には分岐部Bで分岐した2つの分岐チューブ23a、23bが合流する合流部Gを有し、 各分岐チューブ23a、23bにはインクを貯留可能な流体貯留部としてのサブタンク26a、26bが1つずつ並列に配置されて設けられ、 各サブタンク26a、26bには該各サブタンク26a、26bを外部から押圧して該各サブタンク26a、26b内のインクを加圧する加圧機構27a、27bがそれぞれ設けられ、 圧力調整弁19は、一側面には凹部41が形成され、他側面には凹部42が形成された基材40を備え、該凹部42の側面にはインク供給チューブ23と連通し基材40に貫通するように形成された導入路43が開口しており、該凹部41の底面には記録ヘッド18と連通し基材40に貫通するように形成された吐出路44が開口しており、 凹部42の開口には、該開口を塞ぐように、ばね受け座45が嵌着されるとともに基材40の他側面には、ばね受け座45の上から凹部42を覆うようにフィルム46が固着されて凹部42の内面とフィルム46とで密閉状態に囲まれたインク供給室47が形成され、 基材40の一側面には可撓性のフィルム48が凹部41側に弛みを持たせた状態で固着されており、該フィルム48により凹部41が密閉状態に封止されることにより、凹部41の内面とフィルム48とで密閉状態に囲まれた圧力室49が形成され、フィルム48における凹部41側と反対の面の中央部には、該凹部41と対応するとともに該凹部41よりも幅狭の受圧板50が固着され、 圧力室49とインク供給室47との間には両室49、47を区画するとともに、圧力室49とインク供給室47とを連通する連通孔52が貫通する隔壁51が設けられており、インク供給室47には、コイルばね53を介してばね受け座45と連結される略円板状のベース部54aと、該ベース部54aの中央部から延設されて連通孔52に挿通される棒状のロッド部54bとを備えた弁体54が配置され、弁体54のロッド部54bの先端は、圧力室49内におけるフィルム48の近接位置まで達することで、弁体54のベース部54aにおける隔壁51側の面にはロッド部54bを囲むように円環状のシール部材55が設けられており、該シール部材55の内径は連通孔52の径よりも大きくなるように設定されており、弁体54は、通常、コイルばね53の付勢力によって弁体54のベース部54aがシール部材55を介して隔壁51に密着し、該弁体54によって連通孔52が閉塞された閉弁状態にあるが、記録ヘッド18からインクが噴射されて該インクが消費されると、圧力室49内のインクが吐出路44から記録ヘッド18へ供給されると、圧力室49内のインク量の減少に伴って該圧力室49内に負圧が発生し、圧力室49内に負圧が発生すると、特に受圧板50が固着された部分のフィルム48が、大気圧によって該受圧板50とともに凹部41側に押圧されて弁体54のロッド部54bの先端に当接し、さらに、圧力室49内のインク量が減少すると、該圧力室49内の負圧が大きくなり、大気圧によるフィルム48の押圧力がコイルばね53の付勢力よりも大きくなった場合には、該付勢力に抗してロッド部54bがフィルム48を介して受圧板50によりばね受け座45側に押圧されて、弁体54がばね受け座45側に移動され、圧力調整弁19はシール部材55と隔壁51とが離間した開弁状態となるものにおいて、 各サブタンク26a、26b内やインク供給チューブ23内のインクを、印刷ジョブ間、予め設定した時間、あるいはインクジェット式プリンター11の電源を入れた時などに、撹拌する場合、各下流側開閉弁28a、28bを開弁するとともに、上流側開閉弁29を閉弁し、加圧機構27bを停止した状態で加圧機構27aによりサブタンク26a内のインクを加圧すると、該インクは、分岐チューブ23a、分岐部B、及び分岐チューブ23bを介してサブタンク26bに流れ込むとともに、分岐チューブ23a、合流部G、及び分岐チューブ23bを介してサブタンク26bに流れ込み、加圧機構27aを停止した状態で加圧機構27bによりサブタンク26b内のインクを加圧すると、該インクは、分岐チューブ23b、分岐部B、及び分岐チューブ23aを介してサブタンク26aに流れ込むとともに、分岐チューブ23b、合流部G、及び分岐チューブ23aを介してサブタンク26aに流れ込むことで、各サブタンク26a、26b間でインクが相互に補給されて、各サブタンク26a、26b内及び各分岐チューブ23a、23b内のインクが撹拌され、また、各サブタンク26a、26bから合流部Gまでの各分岐チューブ23a、23bの長さが長い場合には、各下流側開閉弁28a、28b及び上流側開閉弁29を閉弁した状態で、各サブタンク26a、26b間でインクを相互に補給する流体噴射装置。」 (2)甲第2号証:特開2013−75371号公報 ア 記載事項 (ア)「「【0001】 本発明は、液体供給装置およびインクジェット記録装置に関し、さらに詳細には、液体が収容された液体収容手段から供給される液体を所定量貯留する液体貯留室を備え、該液体貯留室から液体を吐出する液体吐出手段へ液体を供給する液体供給装置、および当該液体供給装置を備えたインクジェット記録装置に関する。」 (イ)「【0024】 当該液体供給装置10は、液体(ここでは、インク)2が収容された液体収容手段17(例えば、インクボトル)から供給されるインク2を貯留する液体貯留室30を備えている。なお、本実施形態に特徴的な液体貯留室30およびその周辺構成の詳細については後述する。 ここで、符合41は、液体収容手段17から液体貯留室30へインクを送液する液体導入路であり、符号44は、液体貯留室30から液体吐出手段としての記録ヘッド22へインクを送液する液体導出路である。さらに、本実施形態においては、液体導出路44における送液を行うための第2の送液手段(例えば、チューブポンプ等の送液ポンプ)52が液体導出路44途中(ここでは、液体貯留室30と後述のサブタンク32との間)に設けられている。ただし、水頭差で供給する場合には、第2の送液手段52は設けない構成とすることができる。 【0025】 また、液体供給装置10には、インクの脱気を行う脱気手段31が設けられていると共に、液体貯留室30から当該脱気手段31へインクを送液する第1の液体流路41、および当該脱気手段31で脱気されたインクを再び液体貯留室30へ戻す第2の液体流路42が設けられている。さらに、第1の液体流路41および第2の液体流路42における送液を行うための第1の送液手段(例えば、チューブポンプ等の送液ポンプ)51が第1の液体流路41途中に設けられている。なお、送液ポンプ51を第2の液体流路42途中に設ける構成とすることも考えられる。 【0026】 ここで、脱気手段31には、一例として中空糸膜を有する公知の脱気モジュールが用いられる。概略構成および作用を説明すると、当該脱気モジュールは、ケース内に脱気膜(ここでは、中空糸膜)を配設し、当該脱気膜の一方側をインクで満たすと共に、当該脱気膜の他方側を減圧する(本実施形態では、真空ポンプ54を接続して減圧する)ことによって、インク中の気体(空気)が脱気膜へ拡散する作用を利用して脱気を行うものである。 【0027】 また、本実施形態に係る液体供給装置10においては、液体貯留室30と記録ヘッド22との間の液体導出路44途中にインクを貯留するサブタンク32が設けられている。さらに、サブタンク32から再び液体貯留室30へ液体を戻す第3の液体流路43と、当該第3の液体流路43における送液を行うための第3の送液手段(例えば、チューブポンプ等の送液ポンプ)53が当該第3の液体流路43途中に設けられている。ここで、サブタンク32におけるインク2の貯留量は液面センサ33によって検知されて、所定量となるように、コントロールユニット24によって制御される。 なお、変形例として、第3の液体流路43、および第3の送液手段53を設けない構成とすることも考えられる。」 (ウ)「【0048】 次いで、記録ヘッド22におけるインクの消費量に応じて、コントロールユニット24からの制御信号に基づき、サブタンク32から記録ヘッド22へ液体導出路44を通ってインクが供給される。本実施形態においては、サブタンク32から、加圧ダンパーユニット23を介して、記録ヘッド22へインクが供給される。」 イ 記載された発明(以下、「甲2発明」という。) 「液体2が収容された液体収容手段17から供給されるインク2を貯留する液体貯留室30を備え、 液体貯留室30と記録ヘッド22との間の液体導出路44途中にインクを貯留するサブタンク32が設けられ、 記録ヘッド22におけるインクの消費量に応じて、コントロールユニット24からの制御信号に基づき、サブタンク32から記録ヘッド22へ加圧ダンパーユニット23を介してインクが供給されるインクジェット記録装置であって、 サブタンク32から液体貯留室30へ液体を戻す第3の液体流路43と、当該第3の液体流路43における送液を行うための第3の送液手段53が当該第3の液体流路43途中に設けられているインクジェット記録装置。」 (3)甲第3号証:特願2013-218426号(特開2015−80862号公報) ア 記載事項 (ア)「【0016】 [第1の実施形態] 図1は、本発明の第1の実施形態に係る液体吐出装置の概略斜視図である。図1に示す液体吐出装置はインクジェット記録装置であり、液体吐出ヘッド44(図2参照)と、液体供給装置5と、記録媒体搬送装置6と、回復装置16等を含む。液体吐出ヘッド44は、液体供給装置5の一部である圧力調整機構(詳細な構成については後述する)45とともに、液体吐出ヘッドユニット1(以下「ヘッドユニット1」と称する)を構成している。すなわち、ヘッドユニット1は、図2に示すように、吐出口19から液体を吐出する液体吐出ヘッド44と圧力調整機構45を含む。ヘッドユニット1は、キャリッジ10に着脱可能に取り付けられている。キャリッジ10は、キャリッジモータ11、キャリッジベルト12、およびプーリー13によって、スライド軸9に沿って往復移動可能である。従って、キャリッジ10に搭載されたヘッドユニット1は、キャリッジ10の移動に伴って、記録媒体搬送装置6のプラテン7の上方を往復移動する。記録媒体搬送装置6は、プラテン7と、ガイド14と、LFローラ群15を備えている。ロール状に巻回されてプラテン7の下方に回転自在に配置された記録媒体8は、ロールから順次引き出され、ガイド14およびLFローラ群15によってプラテン7上に間欠的に送り出される。この液体吐出装置では、ヘッドユニット1をプラテン7上で往復移動させながら、ヘッドユニット1からプラテン7上の記録媒体8に向けて液体インク等の液体を吐出する。その結果、プラテン7上の記録媒体8に連続的に記録が行われる。なお、キャリッジ10の往復移動および液体吐出と記録媒体8の搬送とを交互に行いながら記録を行うこのような液体吐出装置は、シリアル型インクジェット記録装置と呼ばれる。 【0017】 液体吐出装置は、ヘッドユニット1が液体吐出動作時に往復移動する範囲よりも外側に、ヘッドユニット1の吐出不良を回復するための回復装置16を備えている。図2に示すように、回復装置16は吸引ポンプ17とキャップ18を有する。ヘッドユニット1の吐出不良を回復する場合には、まず、ヘッドユニット1が回復装置16上に移動してキャップ18が液体吐出ヘッド44の吐出口面に押し当てられる。その後、吸引ポンプ17が負圧を発生させることにより、液体吐出ヘッド44の吐出口19内の液体が吸引除去される。仮に、液体が吐出口19内に残ったまま放置されると、吐出口19内の液体が増粘して吐出不良を引き起こすことがあるが、回復装置16によって吐出口19内に液体が残らなくなり、液体の増粘による吐出不良を防止できる。 【0018】 本実施形態の液体供給装置5は、液体タンク2と、バッファタンク(サブタンク)24と、第1〜3の液体供給管(第1〜3の流路)3、28、38と、ポンプ(第1のポンプ)29と、開閉弁(第1の開閉弁)23と、圧力調整機構45を含む。液体タンク2は液体吐出装置の筐体に着脱交換可能に取り付けられている。液体タンク2とバッファタンク24は、第1の液体供給管(第1の流路)3および第3の液体供給管(第3の流路)38を介して互いに接続されて循環流路を構成している。第1の液体供給管3内(供給流路内)には第1のポンプ29が配置され、第3の液体供給管38内(復帰流路内)には第1の開閉弁23が配置されている。この循環流路において、液体タンク2の内部の液体を、第1のポンプ29によって、液体タンク2から第1の液体供給管3を通してバッファタンク24へ供給することが可能である。また、バッファタンク24の内部の液体を、バッファタンク24から第3の液体供給管38を通して液体タンク2へ戻すことも可能である。バッファタンク24に供給された液体は、回復装置16の吸引ポンプ17によりヘッドユニット1内を減圧することによって、ヘッドユニット1の液体吐出ヘッド44の吐出口19まで供給される。液体吐出ヘッド44に供給された液体は、制御部100(図4参照)に制御されながら、プラテン7上に搬送された記録媒体8に向けて吐出される。」 (イ)「【0027】 液体吐出ヘッドユニット内には、液体吐出ヘッド44と、液体吐出ヘッド44内の圧力を調整する圧力調整機構45と、圧力調整機構45から液体吐出ヘッド44へインクを供給するためのヘッドユニット内流路40と、前記した第3の導入口39が存在する。第3の導入口39は、ヘッドユニット1の外部からゴム栓で塞がれるとともに、ヘッドユニット1の内部では開閉可能なヘッドユニット内流路弁50が挿入されている。圧力調整機構45は、もう1つのサブタンクとして作用する圧力調整室46と、バネ機構(弾性部材)48と、アーム49を有している。圧力調整室46は、壁の一部が可撓膜47により構成されており、可撓膜47は、液体の消費(減少)に伴う液体吐出ヘッド44内の圧力変化に応じて伸縮する。この可撓膜47は、図2に示すようにヘッドユニット1の外方へ膨らんだ(伸張した)状態を維持するようにバネ機構48により圧力調整室46の内側から外側に向けて常に付勢されている。可撓膜47の伸縮動作は、可撓膜47に接続されたアーム49を介してヘッドユニット内流路弁50に伝達され、圧力調整室46の液体が一定量未満になった場合にヘッドユニット内流路弁50が開かれる。 【0028】 液体吐出ヘッド44内には、液体を吐出する吐出口19まで液体を導く液体流路と、液体流路の途中に位置し吐出口19へのゴミの侵入を阻止するフィルタと、液体流路の一部を構成し吐出口19へ液体を供給する共通液室とが配設されている(図示せず)。吐出口19内には液体のメニスカスが形成され、圧力調整機構45のバネ機構48のバネ力により吐出口19内の液体は常に微負圧になっている。本実施形態では、吐出口19内の液体の圧力を大気圧−1kPa〜大気圧−3kPa程度に保つことが望ましい。」 (ウ)「【0037】 (液体吐出中の液体タンク内の液体の撹拌動作) 次に、本実施形態の主な特徴である液体タンク2の内部の液体の撹拌動作について詳細に説明する。液体吐出装置の一例であるインクジェット記録装置では、顔料粒子などの固形成分が含有された液体インク、特に顔料インクを用いる場合に、長期放置時に顔料粒子成分が沈降してしまうことがある。顔料成分が沈降すると、液体タンク2の上部のインクと下部のインクに濃度差が生じ、画像品位を低下させてしまう原因となる。このような顔料粒子の沈降の問題を解消するためにインクの撹拌動作を行う。この攪拌動作の詳細を、図6〜8を参照して説明する。」 (エ)「【0040】 撹拌動作の開始にあたって、まず第1の開閉弁23を閉じた状態にする(S104)。本実施形態の第1の開閉弁29はNCタイプなので、ソレノイドに通電しないことによって閉じた状態にする。さらに第2の開閉弁54も閉じた状態にする(S105)。その後、第1のポンプ29に駆動電圧(V1)を与えて第1のポンプ29を駆動する(S106)。具体的には、前記したように、第1のポンプ29のダイアフラムゴム30の伸縮動作を連続的に行ない、液体タンク2内の液体をバッファタンク24へ供給する。液体タンク2内の液体をバッファタンク24へ供給することでバッファタンク24内の液面は上昇し、液面センサ27はバッファタンクが満たされていることを検知する(図6(a)参照)。その後、第1のポンプ29の駆動をさらに続行して、圧力センサ55の検出値、すなわちバッファタンク27の内部の圧力値Phを、大気圧よりも高い所定の圧力Piまで上昇させる(S107)。すなわち、図8に示す時間T1から時間T2まで第1のポンプ29を駆動し(S106)、圧力センサ55の検出値がPiになったら(S107)、第1のポンプ29を一旦停止する(S108)。 【0041】 その後、第1の開閉弁23に駆動電圧(V2)を与えて第1の開閉弁23を開く(S109、時間T3)。第3の液体供給管38が遮断されていた状態から第1の開閉弁23を開くと、高圧(Pi)になっていたバッファタンク24内の液体が第3の液体供給管38を通って、第1の導入口22から液体タンク2内に一気に流入する(図6(b)参照)。液体タンク2の内部の圧力がバッファタンク24の内部の圧力と平衡するように高くなるまで、バッファタンク24から液体タンク2へ向かって一気に液体が流入する。この液体の激しい流入によって、液体タンク2内の下部に沈降していた顔料粒子などの固形成分が液体タンク2の上部へ上昇し、液体タンク2内の液体が撹拌される(時間T3〜T4)。なお、第1の開閉弁23を開くとバッファタンク24内の液体が一気に流れ出るため、バッファタンク24の内部の圧力値Phは、開放直前の圧力値Piから一気に下がる。そして、バッファタンク24の内部の圧力値がPjまで低下したことが圧力センサ55によって検出されたら(S110)、第1の開閉弁23を閉じて液体タンク2への液体の流入動作を停止する(S111)。以上の一連の動作S104〜S111が、1回目の液体タンクの撹拌動作である。そして、ステップS103において設定された撹拌動作回数だけ、撹拌動作(S104〜S111)を繰り返し行なう。」 (オ)「【0043】 (長時間放置後の撹拌動作) 液体タンク2を撹拌してから長時間経過した後に再び撹拌動作を行なう長時間放置後の撹拌動作について、図9〜10を参照して説明する。図9は本実施形態の長時間放置後の撹拌動作のフローチャートである。図10は本実施形態の長時間放置後の撹拌動作時のポンプ29と第1の開閉弁23に与える駆動電圧を示す波形図と、その撹拌動作時のバッファタンク24と液体タンク2の内部の圧力値を示すグラフである。 【0044】 液体タンク2を攪拌後に長時間放置すると、放置時間に応じて液体タンク2の底部への顔料粒子などの沈降が進む。液体タンク2内で顔料粒子の沈降が起こると、液体タンク2内の液体の濃度差が生じてしまうため、液体吐出により形成される画像の品位が保てない。また、沈降した顔料粒子を撹拌して濃度を均一にするためには、かなり長時間の撹拌動作時間が必要である。例えば、液体吐出中の液体タンク2の撹拌動作を行なった後に液体吐出装置の電源を切ってから、翌日以降に再び液体吐出装置の電源を入れるような場合には、前記したように攪拌後の長時間放置による濃度不均一の問題が生じる。そのような場合には、液体吐出装置の電源を入れてから液体吐出動作が開始されるまでの間に、液体吐出ヘッド44の回復動作などの立上げ動作が一定時間(数分間)行なわれるため、その間に、濃度が不均一になった液体タンク2内の液体の撹拌動作を行なう。 【0045】 図9のフローチャートでは、図6のフローチャート内の各ステップと実質的に同様なステップには同じ符号を付与し、類似しているが僅かな変更点があるステップには「’」を付け加えた符号を付与している。本実施形態では、液体吐出装置の電源を入れると、制御部100に含まれている不図示のタイマーが、前回の撹拌動作からの経過時間を計測する(S101)。計測した経過時間が予め設定した閾値を超えたと判断された場合(S102)には、制御部100のCPU101が、経過時間に基づいて撹拌動作時の圧力値Pmと撹拌動作の繰り返し動作回数を決定し(S103’)、撹拌動作を開始する。 【0046】 図6に示す初期充填時と同様に、第1の開閉弁23と第2の開閉弁54を閉じた状態にし(S104〜S105)、第1のポンプ29に駆動電圧(V1)を与えて第1のポンプ29を駆動する(S106)。第1のポンプ29を駆動することで、液体タンク2内の液体をバッファタンク24へ供給し、圧力センサ55の検出値、すなわちバッファタンク27の内部の圧力値Phを、設定された圧力Pmまで上昇させる(S107)。すなわち、図10に示す時間T1から時間T2まで第1のポンプ29を駆動し(S106)、圧力センサ55の検出値がPmになるまでバッファタンク24の内部の圧力を上昇させる(S107)。この圧力値Pmが前記した圧力値Piよりも高い圧力値であると(図10参照)、撹拌能力をより高めることが可能である。 【0047】 その後、第1の開閉弁23を開くと(S109、時間T3)、バッファタンク24内の液体が液体タンク2に一気に流れて液体タンク2内の液体は攪拌される(時間T3〜T4)。そして、バッファタンク24内の圧力値がPnまで低下したことが圧力センサ55によって検出されたら(S110’)、第1の開閉弁23を閉じて、液体タンク2への液体の流入動作を停止する(S111)。このような液体タンク2の撹拌動作(S109〜S111)を、S103’において設定された撹拌動作回数だけ繰り返す。設定された回数だけ攪拌動作を行ったことが確認されたら(S112)、第1のポンプ29を停止させる(S115)。そして、第2の開閉弁54を開いてバッファタンク24の内部を大気に開放する(S116)。これが本実施形態の長期放置後の撹拌動作の一連の動作である。 【0048】 以上説明した本実施形態の長期放置後の撹拌動作では、バッファタンク24内の液体の圧力値Pmと撹拌動作回数の設定値とが一定ではなく、放置時間に応じてそれぞれ変更することができる。また、撹拌動作時に第1のポンプ29を連続的に常時駆動することで、撹拌動作時間を短縮でき、前記したように液体吐出装置の電源を入れてから始まる回復動作などの立上げ動作の間に撹拌動作を行なうことが可能である。」 イ 記載された発明(以下、「甲3発明」という。) 「液体タンク2と、バッファタンク24と、第1〜3の液体供給管3、28、38と、ポンプ29と、開閉弁23と、圧力調整機構45を含むインクジェット記録装置であって、 液体タンク2とバッファタンク24は、第1の液体供給管(第1の流路)3および第3の液体供給管(第3の流路)38を介して互いに接続されて循環流路を構成し、 該循環流路において、液体タンク2の内部の液体を、第1のポンプ29によって、液体タンク2から第1の液体供給管3を通してバッファタンク24へ供給することが可能である。また、バッファタンク24の内部の液体を、バッファタンク24から第3の液体供給管38を通して液体タンク2へ戻すことができ、 液体吐出ヘッドユニット内には、液体吐出ヘッド44と、液体吐出ヘッド44内の圧力を調整する圧力調整機構45と、圧力調整機構45から液体吐出ヘッド44へインクを供給するためのヘッドユニット内流路40と、前記した第3の導入口39があり、 圧力調整機構45は、もう1つのサブタンクとして作用する圧力調整室46と、バネ機構48と、アーム49を有し、圧力調整室46は、壁の一部が可撓膜47により構成されており、可撓膜47は、液体の消費に伴う液体吐出ヘッド44内の圧力変化に応じて伸縮し、該可撓膜47は、ヘッドユニット1の外方へ膨らんだ状態を維持するようにバネ機構48により圧力調整室46の内側から外側に向けて常に付勢されているが、圧力調整室46の液体が一定量未満になった場合にヘッドユニット内流路弁50が開かれるものであって、 撹拌動作の開始にあたって、まず第1の開閉弁23及び第2の開閉弁54を閉じた状態にした後、第1のポンプ29を駆動して液体タンク2内の液体をバッファタンク24へ供給すると、液体タンク2内の液体がバッファタンク24へ供給されることでバッファタンク24内の液面は上昇し、バッファタンク27の内部の圧力値Phを、大気圧よりも高い所定の圧力Piまで上昇させて、第1のポンプ29を一旦停止し、第3の液体供給管38が遮断されていた状態から第1の開閉弁23を開くと、高圧になっていたバッファタンク24内の液体が第3の液体供給管38を通って、第1の導入口22から液体タンク2内に一気に流入することで、液体タンク2内の下部に沈降していた顔料粒子などの固形成分が液体タンク2の上部へ上昇し、液体タンク2内の液体が撹拌されるインクジェット記録装置。」 (4)甲第5号証:特開2010−12710号公報 ア 記載事項 (ア)「【0013】 図1は本発明の第1の実施の形態にかかるインクジェット記録装置100を示す斜視図である。インクジェット記録装置100には、外部には操作表示部3が備えられた本体1と印字ヘッド2が備えられており、本体1と印字ヘッド2は導管4で接続されている。 【0014】 ここでインクジェット記録装置100の動作原理について説明する。図2に示すように、インク容器18内のインクはポンプ25に吸引、加圧されてインク柱7となってノズル8から吐出される。ノズル8には、電歪素子9が備えられており、インクに所定の周波数で振動を加えてノズル8から吐出されるインク柱7を粒子化するようになっている。これにより生成されるインク粒子10の数は、電歪素子9に印加する励振電圧の周波数により決定され、その周波数と同数となる。インク粒子10は、印字情報に対応した大きさの電圧を帯電電極11にて印加することで電荷を与えられるようになっている。帯電電極11で帯電させられたインク粒子10は、偏向電極12間の電界中を飛翔している間、帯電量に比例した力を受けて偏向し、印字対象物13へ向かって飛翔して着弾する。その際、インク粒子10は帯電量に応じて偏向方向の着弾位置は変化し、さらに偏向方向と直行する方向に生産ラインが印字対象物13を移動させることで、偏向方向と直行した方向にも粒子を着弾させることが可能となり、複数の着弾粒子によって文字を構成し印字を行う。 【0015】 印字に使用しなかったインク粒子10は偏向電極12間を直線的に飛翔して、ガター14により補足された後に経路を経由して、主インク容器18に回収される。」 (イ)「【0025】 ガター14は、導管4内をとおる経路108を介して本体1内に配置されているインク中に混入している異物を除去するフィルタ29と接続されており、フィルタ29は、経路109を介してガター14により補足されたインク粒子10を吸引するポンプ26と接続されている。そして、ポンプ26は、経路110を介して吸引したインク粒子10を主インク容器18に回収する。」 (ウ)「【0024】 偏向電極12のインク飛翔方向側には、印字に使用されないために帯電、偏向されずに直線的に飛翔するインク粒子10を捕捉するガター14が配置されている。 【0025】 ガター14は、導管4内をとおる経路108を介して本体1内に配置されているインク中に混入している異物を除去するフィルタ29と接続されており、フィルタ29は、経路109を介してガター14により補足されたインク粒子10を吸引するポンプ26と接続されている。そして、ポンプ26は、経路110を介して吸引したインク粒子10を主インク容器18に回収する。」 (エ)「【0037】 圧力調整手段を実現するための構成について説明する。2次側流路51Bに連通する流路である圧力室51Cと、圧力室51Cと通じ1次側流路51Aに連通する流入孔51Dとを形成するボディ51と、圧力室51Cに流れる流体に直接接して管路内圧力を受けて変形するダイヤフラム53とを備えている。圧力室51C内のダイヤフラム53は、流体に直接接して管路内圧力を受けるためのもので、薄膜からなり、周囲にダイヤフラム53を固定するための溝が形成されている。ダイヤフラム53の機械的変形量に応じて中央軸方向に移動するパイロットピン54と、パイロットピン54と連動して軸方向に移動するパイロット弁55とが備えられている。パイロット弁55との当接部にゴム56Aを備えボディ51に固定されたバルブシート56と、パイロット弁55をバルブシート56に押圧するための第2のばね57と、ボディ51内部に1次側流路51Aを作成し第2のばね57を固定するためのピース58と、ピース58とバルブシート56に囲まれ1次側流路と連通する圧力調整室51Eと、圧力調整室51Eと圧力室51Cの弁部以外からのインクの流通を遮断するためにバルブシート56とピース58とボディ51とに接するOリング66とから構成されている。バルブシート56の、パイロット弁55との当接面には圧縮復元性を持つシール部材であるゴム56Aが接着されている。」 (オ)「【0042】 次に、本実施例の減圧弁30の動作について図4により説明する。まず、インクジェット記録装置100において、主インク容器18のインクをポンプ25にて吸引し、フィルタ28を介し、減圧弁30でインクを所定の値に減圧してノズル8からインクを噴出して印字する。印字に使用されなかったインクはガター14で補足され、ポンプ26で主インク容器18に戻される。 【0043】 再び図7および図8において、減圧弁30内で加圧されたインクは1次側流路51Aを通り圧力調整室51Eに流入し、圧力調整室51Eから圧力室51Cに流入する過程で所定のインク圧力に調整して、2次側流路51Bを通りインクをノズル8に供給している。1次側流路51Aおよび2次側流路51Bは常にインクで満たされており、ノズル8からインクが吐出している間は2次側流路51Bからノズル8へインクが供給されている。 【0044】 図9は減圧弁の動作を説明する模式図を示しており、ダイヤフラム53が受ける2次側の圧力と第2のばね57がパイロット弁55を押し上げる力の合計値は、ダイヤフラム53を挟んで反対側中央軸上に、ケース52内部に設置された第1のばね59がダイヤフラム53に加える荷重と、ほぼ釣り合うようになっている。 【0045】 図9(a)のように、圧力室51C内の2次側のインク圧力が、第1のばね59の押し圧より高い時は、ダイヤフラム53が圧力室51Cと反対の方向に変位するため、バルブシート56とパイロット弁55の間にギャップが無くなり、インクは流れない。しかし、圧力室51C内のインクは2次側流路51Bを通り少しずつノズル8へ供給されるため、圧力室51C内の2次側のインク圧力が下がり、ダイヤフラム53が圧力室51Cを狭くする方向に変位するように移行する。 【0046】 次に、図9(b)が示すように、圧力室51C内の2次側のインク圧力が、第1のばね59の押し圧より低い時は、ダイヤフラム53が圧力室51Cを狭くする方向に変位するため、プランジャー65と連動しパイロットピン54を介してパイロット弁55が押し下げられる方向に変位し、バルブシート56とパイロット弁55の間にギャップが形成されるため、インクは圧力調整室51Eから圧力室51Cに流入する。しかし、圧力室51Cへのインクの流入量が多くなり、2次側のインク圧力が上がり、ダイヤフラム53が圧力室51Cと反対の方向に変位するように移行する。減圧弁30は図9(a)と図9(b)の状態を繰り返し、2次側のインク圧力変動に合わせてインクの流れを制御することにより2次側のインク圧力を制御する。」 イ 記載された発明(以下、「甲5発明」という。) 「主インク容器18のインクをポンプ25にて吸引し、減圧弁30でインクを所定の値に減圧してノズル8からインクを噴出して印字するインクジェット記録装置100であって、 印字に使用しなかったインク粒子10は、ガター14により補足された後に経路108、経路109、ポンプ26、経路110を経由して、主インク容器18に回収され、 減圧弁30は、2次側流路51Bに連通する流路である圧力室51Cと、圧力室51Cと通じ1次側流路51Aに連通する流入孔51Dとを形成するボディ51と、圧力室51Cに流れる流体に直接接して管路内圧力を受けて変形するダイヤフラム53とを備え、 減圧弁30内で加圧されたインクは1次側流路51Aを通り圧力調整室51Eに流入し、圧力調整室51Eから圧力室51Cに流入する過程で所定のインク圧力に調整して、2次側流路51Bを通りインクをノズル8に供給するものであって、1次側流路51Aおよび2次側流路51Bは常にインクで満たされており、ノズル8からインクが吐出している間は2次側流路51Bからノズル8へインクが供給され、 ダイヤフラム53が受ける2次側の圧力と第2のばね57がパイロット弁55を押し上げる力の合計値は、ダイヤフラム53を挟んで反対側中央軸上に、ケース52内部に設置された第1のばね59がダイヤフラム53に加える荷重と、ほぼ釣り合うようになっており、 圧力室51C内の2次側のインク圧力が、第1のばね59の押し圧より高い時は、ダイヤフラム53が圧力室51Cと反対の方向に変位するため、バルブシート56とパイロット弁55の間にギャップが無くなり、インクは流れないが、圧力室51C内のインクは2次側流路51Bを通り少しずつノズル8へ供給されるため、圧力室51C内の2次側のインク圧力が下がり、ダイヤフラム53が圧力室51Cを狭くする方向に変位するように移行し、 圧力室51C内の2次側のインク圧力が、第1のばね59の押し圧より低い時は、ダイヤフラム53が圧力室51Cを狭くする方向に変位するため、プランジャー65と連動しパイロットピン54を介してパイロット弁55が押し下げられる方向に変位し、バルブシート56とパイロット弁55の間にギャップが形成されるため、インクは圧力調整室51Eから圧力室51Cに流入するものの、圧力室51Cへのインクの流入量が多くなり、2次側のインク圧力が上がり、ダイヤフラム53が圧力室51Cと反対の方向に変位するように移行するインクジェット記録装置100。」 (5)甲第6号証:特開2014−24187号公報 ア 記載事項 (ア)「【0005】 特許文献1に開示された発明では、記録ヘッドへのインクの供給方式は、サブタンクが大気と連通しているために、水頭差方式で行われている。しかし、近年は、高速かつ高密度記録が可能なインクジェット記録装置が求められており、水頭差方式では記録ヘッドへのインクの供給が間に合わず、高速かつ高密度記録が実現できないという問題がある。」 (イ)「【0017】 本実施形態のインクジェット記録装置の構造について説明すると、インクを収容するインクタンク1が、サブタンク5を介して記録ヘッド23に接続されており、インクタンク1の取り付け位置とサブタンク5の間に流路切換弁3と加圧ポンプ4が配置されている。サブタンク5および流路切換弁3と記録ヘッド23の間には、サブタンク5から記録ヘッド23に至る流路13、27と、記録ヘッド23から流路切換弁3に至る流路29、31が形成されている。サブタンク5から記録ヘッド23に至る流路13、27の途中には、圧力調整器14が配置されており、記録ヘッド23から流路切換弁3に至る流路29、31の途中には、圧力調整器14に接続されたマルチ弁30が配置されている。インクタンク1は、装置本体の取り付け位置を介して流路切換弁3に着脱可能に接続されている。サブタンク5は、大気と連通している大気開放弁7を有している。流路切換弁3は、サブタンク5と加圧ポンプ4とを接続させることができると共に、大気に連通可能である。 【0018】 このような構成の本実施形態のインクジェット記録装置によると、インクタンク1が取り付け位置に接続されている状態では、流路切換弁3がインクタンク1からサブタンク5への流路24、25、26を開く。そして、加圧ポンプ4がインクを加圧してインクタンク1からサブタンク5へインクを供給する。加圧されたインクは、さらに、サブタンク5から圧力調整器14を介して記録ヘッド23に送られる。記録ヘッド23に送られた加圧されたインクが記録ヘッド23から垂れ落ちないように、圧力調整器14がインクの圧力を適宜に調整する。記録ヘッド23のノズルからインクを吐出することによる記録動作に伴って記録ヘッド23の内部に発生したエアは、記録ヘッド23からマルチ弁30と流路切換弁3を介してサブタンク5に送られ、大気開放弁7から大気に流出する。また、インクタンク1が取り付け位置から取り外された場合であっても、加圧ポンプ4がインクの加圧およびサブタンク5から記録ヘッド23へのインクの供給を続行する。このとき、流路切換弁3が大気に開放され、大気からエアをサブタンク5へ送り込むことによって、サブタンク5に貯留されているインクを加圧して記録ヘッド23へ送ることができる。また、流路切換弁3がエアを取り込むために、流路切換弁3から加圧ポンプ4へ至る流路25が陰圧になってインクが逆流することはない。」 (ウ)「【0020】 インクタンク1は、インクを貯留したインク袋2を内部に有している。流路切換弁3は、インクタンク1に接続している流路24と、マルチ弁30に接続している流路31と、大気との連通口のいずれか一つを選択して、加圧ポンプ4に接続している流路25へ接続するように構成されている。サブタンク5は、加圧ポンプ4から送られてくる気体やインクを一時的に貯留する場所で、図2aから図2cに示すように、サブタンク5の内部にはタンク内のインクの量を電気的に検知する上部液面センサ6と下部液面センサ38が設けられている。さらに、このサブタンク5は、サブタンク5の内部のインクの液面に浮くフロートレバー8と、サブタンク5と大気開放弁7の連結部に位置するシール材9を有している。フロートレバー8は、支点39を中心にインクの液面に浮いて回動するため、インクの液面に浮くポリプロピレン(PP)で形成されるが、インクの液面に浮くその他の材質から形成されてもよい。大気開放弁7は、弁を閉鎖するためにボールバネ40と、大気シール材41と、ボール42と有しており、弁を開放させるために開放棒43と、開放バネ44を有している。また、この大気開放弁7は、大気開放弁7やサブタンク5の内部にゴミを侵入させないために弾性体の薄膜45で密閉されている。 【0021】 図3aから図3bに示すように、圧力調整器14は、サブタンク5から供給されるインクを貯留するインク室15と、インク室15へのインクの流入口22を開閉するインク室弁16と、インク室弁16と一体になっている作動子17を有している。さらに、圧力調整器14は、自在に撓むことができる薄い可撓膜18と、インク室弁16を閉鎖するように作動子17を付勢するバネ19を有している。」 (エ)「【0024】 (初期充填) サブタンク5の内部にインクがない状態で、インクタンク1を取り付け位置に接続すると、流路切換弁3が流路24と接続(第二の状態)され、加圧ポンプ4が稼働する。加圧ポンプ4が稼働すると、インクタンク1の内部に貯留されているインクに圧力がかけられて、流路24と流路切換弁3と流路25と加圧ポンプ4と流路26を通ってサブタンク5の内部へ、インクが加圧ポンプ4によって供給される。このとき、図2aに示すように、大気開放弁7は、ボールバネ40により大気シール材41をボール42が圧接して閉鎖されている。しかし、大気開放弁7を開放するための開放棒43が、インクタンク1が取り付け位置に接続されたという電気信号を受けて自動的に押し下げられ、大気シール材41とボール42の圧接を解除し、大気開放弁7を開放する。このようにして、大気開放弁7は開放されて大気と連通しているため、サブタンク5の内部のエアが大気中に逃げ、インクが流入するスペースを作り、サブタンク5にインクが供給される。サブタンク5のインクの量が増えてくると、図2bに示すようにインクの液面に浮いているフロートレバー8が支点39を中心に上部へ回動し、シール材9に接触して、サブタンク5と大気開放弁7の連通を遮断する。大気開放弁7が遮断されると、サブタンク5の内部のエアが抜けず、インクが流入するスペースができないため、インクがサブタンク5に流入されなくなる。一方で、フロートレバー8がシール材9に長時間接触していると、フロートレバー8がシール材9に固着して、動かなくなるおそれがある。そこで図2cに示すように、開放棒43がフロートレバー8がシール材9に所定時間以上接触しているという電気信号を受けて自動的に作用し、ボール42を介して突き棒10でフロートレバー8とシール材9を、強制的に引き離すことができる。 【0025】 サブタンク5の内部にインクが充填された後に、流路27の流れを開放または閉鎖する供給弁28とマルチ弁30は閉鎖される。供給弁28とマルチ弁30を閉鎖したら、キャップ32を記録ヘッド23に圧接させて、吸引ポンプ33がキャップ32に吸引をかけると、共通液室34と流路27と流路29に陰圧が発生する。その後に閉鎖していた供給弁28を開放すると、圧力調整器14の内部の流路27と連通しているインク室15に陰圧がかかる。図3aと図3bに示すように、インク室15に陰圧がかかると、可撓膜18が図3bの可撓膜18aのように圧力調整器14の容積を減らす方向に変形し、バネ19を圧縮させる方向に作動子17を移動させる。作動子17が移動することによって、インク室弁16がインクの流入口22を開放する。インクの流入口22が開放されると、サブタンク5に溜まっている加圧されたインクが流路13を通ってインク室15に入り、さらにインク室15から流路27を通って記録ヘッド23の共通液室34にインクが供給される。インクが、サブタンク5から流路13を経由してインク室15に所定量流入すると、インク室15と可撓膜18の間の体積がインクの流入によって増える。インク室15と可撓膜18の間の体積が増えると、可撓膜18がバネ19を拡張させる方向に変形し、作動子17が移動してインク室弁16がインクの流入口22を閉鎖する。インクの流入口22が閉鎖されると、インク室15と流路27と共通液室34と流路29の閉じた流路が再度形成される。このときの閉じた流路に、圧力調整器14の可撓膜18がバネ19を圧縮させる方向に変形させる陰圧が残っていると、可撓膜18がバネ19を圧縮させる方向に変形して、再びインク室弁16がインクの流入口22を開放する。このインクの流入口22の開閉が、残っている陰圧によって可撓膜18がバネ19を圧縮させる方向に変形させられなくなるまで、間欠的に繰り返される。インクの流入口22の開閉がなくなると、流路13とインク室15と流路27と共通液室34に所定の陰圧が作用された状態になり、インクが充填される。インクが充填された後に、ノズルからインクを吐出させて混色解消用の予備吐出を行う。予備吐出の後に、記録ヘッド23の吐出面をワイピングすれば初期充填が完了する。 【0026】 なお、キャップ32と吸引ポンプ33によって発生させられる陰圧は、−80Kpa程度である。 【0027】 (記録中のインクの供給) 記録媒体への記録によって、記録ヘッド23のノズルからインクが吐出し、共通液室34のインクが消費されて量が減ると、インクが減ったことによる陰圧が共通液室34と流路27に発生する。流路27と連通している圧力調整器14のインク室15にも同じ陰圧が生じるため、可撓膜18がバネ19を圧縮させる方向に移動し、作動子17を移動させてインク室弁16がインクの流入口22を開放する。インクの流入口22が開放されることで、加圧ポンプ4に加圧されたインクがサブタンク5と流路13を通って、インク室15に流入する。インク室15のインクが所定量流入すると、前述と同じ作用でインク室弁16が閉鎖される。インクの吐出は連続的に行われるために、インク室15への陰圧の作用とインクの流入も連続的に行われ、インク室弁16の開閉は間欠的に繰り返される。尚、加圧ポンプ4には、不図示の過加圧防止機構が設けられており、インクタンク1から流路24と流路切換弁3と流路25と加圧ポンプ4と流路26とサブタンク5と流路13において、過加圧による破壊が生じることはない。 【0028】 このように、記録媒体への記録中にも加圧ポンプ4によってインクが加圧されて供給されている一方で、圧力調整器14の内部のインク室弁16の開閉動作により、記録ヘッド23の共通液室34には所定値以上の圧力が付与されることはない。このため、記録ヘッド23のノズルへの圧力も所定値以上にならないため、ノズルからのインクの垂れ等が発生しない。よって、多くのインクを素早く記録ヘッド23に接続している圧力調整器14に供給することができるので、高速かつ高密度な記録を行うことができる。」 (オ)「【0029】 (記録ヘッドのエア抜き) 記録媒体へ記録を行っていると、記録ヘッド23のノズルからのインクの吐出時に発生した泡や、流路13と流路27で外部から取り込んだエアが、記録ヘッド23の共通液室34に溜まる。共通液室34に溜まる泡やエアの量が多くなると、インクの不吐出等による記録媒体の画像不良が発生する。この画像不良を抑制するために、共通液室34に溜まった泡やエアを取り除く必要がある。 【0030】 共通液室34の内部に設けられた記録ヘッド内液面センサ35が、泡やエアが一定量以上溜まったことを検知すると、流路切換弁3は流路24との接続から流路31との接続(第三の状態)に切り換えられる。これと同時にマルチ弁30が流路29から流路31の流れを許容するモードに切り換わる。すると、流路切換弁3から流路25と加圧ポンプ4と流路26とサブタンク5と流路13と圧力調整器14と流路27と共通液室34と流路29とマルチ弁30と流路31の循環流路ができる。この状態で加圧ポンプ4を稼働させると、共通液室34に陰圧がかかり、共通液室34の泡やエアが、流路29とマルチ弁30と流路31と流路切換弁3と流路25と加圧ポンプ4と流路26を通って、サブタンク5に流入する。サブタンク5に流入した泡やエアは、サブタンク5の上部へ移動し、貯留される。共通液室34の泡やエアが、加圧ポンプ4の作用によってサブタンク5に移動することによって、共通液室34には陰圧が発生する。この陰圧によって、圧力調整器14の可撓膜18が変形し、インク室弁16の開閉動作によってサブタンク5から共通液室34にインクが供給される。共通液室34にインクが供給されて、記録ヘッド内液面センサ35がインクの液面を検知すると、加圧ポンプ4を停止し、流路切換弁3を流路31との接続から流路24の接続に切り換え、マルチ弁30を閉鎖する。このように、記録ヘッド23に溜まった泡やエアをサブタンク5に循環させることで、共通液室34の内部の泡やエアが除去され、記録媒体における画像不良を抑制することができる。」 イ 記載された発明(以下、「甲6発明」という。) 「インクを収容するインクタンク1が、サブタンク5を介して記録ヘッド23に接続されており、インクタンク1の取り付け位置とサブタンク5の間に流路切換弁3と加圧ポンプ4が配置され、 サブタンク5および流路切換弁3と記録ヘッド23の間には、サブタンク5から記録ヘッド23に至る流路13、27と、記録ヘッド23から流路切換弁3に至る流路29、31が形成されており、 サブタンク5から記録ヘッド23に至る流路13、27の途中には、圧力調整器14が配置されており、記録ヘッド23から流路切換弁3に至る流路29、31の途中には、圧力調整器14に接続されたマルチ弁30が配置されているインクジェット記録装置であって、 圧力調整器14は、サブタンク5から供給されるインクを貯留するインク室15と、インク室15へのインクの流入口22を開閉するインク室弁16と、インク室弁16と一体になっている作動子17と、自在に撓むことができる薄い可撓膜18と、インク室弁16を閉鎖するように作動子17を付勢するバネ19を有し、 サブタンク5の内部にインクが充填された後に、流路27の流れを開放または閉鎖する供給弁28とマルチ弁30を閉鎖し、キャップ32を記録ヘッド23に圧接させて、吸引ポンプ33がキャップ32に吸引をかけると、共通液室34と流路27と流路29に陰圧が発生し、その後に閉鎖していた供給弁28を開放すると、圧力調整器14の内部の流路27と連通しているインク室15に陰圧がかかることで、可撓膜18が圧力調整器14の容積を減らす方向に変形し、バネ19を圧縮させる方向に作動子17を移動させて、インク室弁16がインクの流入口22を開放し、サブタンク5に溜まっている加圧されたインクが流路13を通ってインク室15に入り、さらにインク室15から流路27を通って記録ヘッド23の共通液室34にインクが供給され、 インクが、サブタンク5から流路13を経由してインク室15に所定量流入してインク室15と可撓膜18の間の体積がインクの流入によって増えると、可撓膜18がバネ19を拡張させる方向に変形し、作動子17が移動してインク室弁16がインクの流入口22を閉鎖され、 記録ヘッド23のノズルからインクが吐出し、共通液室34のインクが消費されて量が減ると、インクが減ったことによる陰圧が共通液室34と流路27に発生し、流路27と連通している圧力調整器14のインク室15にも同じ陰圧が生じるため、可撓膜18がバネ19を圧縮させる方向に移動し、作動子17を移動させてインク室弁16がインクの流入口22を開放することで、加圧ポンプ4に加圧されたインクがサブタンク5と流路13を通って、インク室15に流入し、 共通液室34の内部に設けられた記録ヘッド内液面センサ35が、泡やエアが一定量以上溜まったことを検知した場合、流路切換弁3は流路24との接続から流路31との接続に切り換えられ、これと同時にマルチ弁30が流路29から流路31の流れを許容するモードに切り換わり、流路切換弁3から流路25と加圧ポンプ4と流路26とサブタンク5と流路13と圧力調整器14と流路27と共通液室34と流路29とマルチ弁30と流路31の循環流路ができるインクジェット記録装置。」 (6)甲第7号証:特開2011−46070号公報 ア 記載事項 (ア)「【0002】 上記液体封止用膜部材は、例えばインクジェット型のプリンタ装置に搭載された調圧供給装置(サブタンク)に用いられており、まず、インクジェット型のプリンタ装置および調圧供給装置について簡単に説明する。上記プリンタ装置は一般的に、プリンタヘッドを印刷媒体に対して相対移動させながら、プリンタヘッドの下面に形成された吐出ノズルからインクを吐出させて、所定のパターンで印刷媒体に付着させて印刷を施すように構成されている。このプリンタヘッドから吐出されるインクは、例えばプリンタ装置に対して着脱可能に搭載されたインクカートリッジからチューブを介して供給される。」 (イ)「【0026】 図3の断面図には、インクカートリッジ18からプリンタヘッド22に至るインクの供給経路を示している。この図3から分かるように、インクカートリッジ18に貯留されたインクは、第1供給路25を経由して調圧ダンパ50へ供給されるとともに、調圧ダンパ50から第2供給路26を経由してプリンタヘッド22へ供給されるようになっている。調圧ダンパ50は、プリンタヘッド22の内圧を大気圧よりもわずかに低い所定微負圧に調圧しながらインクを供給するようになっており、これにより、プリンタヘッド22における吐出ノズルの先端部にメニスカスを形成させて、ぼた落ちを防止できるようになっている。この調圧ダンパ50の作動については後述する。」 イ 記載された発明(以下、「甲7発明」という。) 「インクカートリッジ18に貯留されたインクは、第1供給路25を経由して調圧ダンパ50へ供給されるとともに、調圧ダンパ50から第2供給路26を経由してプリンタヘッド22へ供給され、 調圧ダンパ50は、プリンタヘッド22の内圧を大気圧よりもわずかに低い所定微負圧に調圧しながらインクを供給することで、プリンタヘッド22における吐出ノズルの先端部にメニスカスを形成させて、ぼた落ちを防止できるインクジェット型のプリンタ装置」 (7)甲第8号証:特開2007−313742号公報 ア 記載事項 (ア)「【0030】 ここで、各インクカートリッジ31Y、31M、31C及び31K内のインクパックには、インク供給チューブ41の一方の端部が接続されている。そして、インク供給チューブ41の他方の端部は、記録部5のインク中継ユニット15iに接続されている。従って、インクパックに圧力が付与されると、インクパック内のインクがインク供給チューブ41を介してインク中継ユニット15iに供給される。なお、図1(a)において、構成をわかりやすく示すため、インク供給チューブ41の他方の端部側の図示を省略し、実線及び矢印を付記して接続先を明示した。 【0031】 上記の構成を有するインクジェット記録装置1は、紙送りモータ13の駆動が図示しない制御部によって制御され、紙送り装置3が記録用紙Pを記録ヘッド19に対向させながら、紙送り方向に間欠送りする。このとき、制御部は、キャリジモータ25の駆動を制御して、キャリジ17を主走査方向に往復移動させながら、記録ヘッド19の駆動を制御して、所定の位置でインク滴を吐出させる。このような動作によって、記録用紙Pにドットが形成され、この記録用紙Pに画像データなどの記録情報に基づく記録が行われる。 【0032】 ここで、記録部5の構成について、詳細を説明する。 本実施形態のインクジェット記録装置1は、イエロー、マゼンタ、シアン及びブラックの各色のインクが、5つのインク中継ユニット15iを介して、それぞれ個別の経路で記録ヘッド19に供給される。 (イ)「【0039】 インク中継ユニット15iは、内部の構成を模式的に示す図である図3(a)に示すように、基体71と、この基体71の各側面を覆う隔壁73と、流路開閉部75とを備えている。基体71には、図3(b)に示すように、インクの入口77と、第1ろ過室79と、第1インク室81と、第2インク室83と、第2ろ過室85と、インクの出口87とが形成されている。この基体71は、樹脂を射出成形することによって形成される。」 イ 記載された発明(以下、「甲8発明」という。) 「インクカートリッジ31Y、31M、31C及び31K内のインクパックには、インク供給チューブ41の一方の端部が接続され、インク供給チューブ41の他方の端部は、記録部5のインク中継ユニット15iに接続され、イエロー、マゼンタ、シアン及びブラックの各色のインクが、5つのインク中継ユニット15iを介して、それぞれ個別の経路で記録ヘッド19に供給されるインクジェット記録装置1であって、 インク中継ユニット15iは、基体71と、この基体71の各側面を覆う隔壁73と、流路開閉部75とを備えるとともに、インクの入口77と、第1ろ過室79と、第1インク室81と、第2インク室83と、第2ろ過室85と、インクの出口87とが形成されているインクジェット記録装置1。」 3 当審の判断 (1)理由1−1について ア 本件特許発明7について 本件特許発明7と甲1発明とを対比すると、少なくとも以下の相違点で両者は相違する。 なお、対比にあたっては、「第5 当審の判断」で行った、対比を援用しており、他の本件特許発明の判断における対比についても同様に援用している。 〔相違点7〕 本件特許発明7は、「インク供給路の供給管のダンパ寄りのダンパよりも上流側の端部と、供給管のインクタンク寄りのインクタンクよりも下流側の端部及びインクタンクのいずれか一方と、に循環用管が接続され」ており、「供給管と循環用管との間で前記インクを循環」させるものであるが、甲1発明は「各サブタンク26a、26b内及び各分岐チューブ23a、23b内のインクが撹拌」される点。 したがって、本件特許発明7と甲1発明とは、上記相違点7で相違するから、本件特許発明7は、甲1発明に記載されたものではない。 イ 本件特許発明9について 本件特許発明9は、本件特許発明7を引用し、さらに新たな発明特定事項を有するものである。 したがって、本件特許発明9と甲1発明とを比較すると、上記相違点7と同じ相違点を有することになるから、本件特許発明9は、甲1発明に記載されたものではない。 ウ 本件特許発明11について 本件特許発明11は、末尾の表記が異なるが、インクの循環機構に関して本件特許発明7と実質的に同じ発明特定事項を有するものである。 したがって、本件特許発明11と甲1発明とを比較すると、上記相違点7と同じ相違点を有することになるから、本件特許発明11は、甲1発明に記載されたものではない。 エ 小括 以上のとおり、本件特許発明7、9、11は、甲1発明ではないから、特許法第29条第1項第3号に該当するものではない。 (2)理由1−2について ア 本件特許発明7について 「(1)理由1−1について」で述べたとおり、本件特許発明7と甲1発明とを比較すると、上記相違点7で両者は相違する。 そして、上記相違点7に係る本件特許発明7の発明特定事項である「インク供給路の供給管のダンパ寄りのダンパよりも上流側の端部と、供給管のインクタンク寄りのインクタンクよりも下流側の端部及びインクタンクのいずれか一方と、に循環用管が接続され」ることについて、他の各甲号証に記載されておらず、また当業者にとって設計的事項程度の技術事項とも認めることはできない。 そして、本件特許発明7は、上記発明特定事項を有することにより、「インクを循環させる経路を長くすることができるので、インクの流路におけるインクを循環させる経路の割合を増加させることができ、循環効率を向上させることができる」という、明細書記載の顕著な効果を奏するものである。 したがって、本件特許発明7は、甲1発明から当業者が容易に想到し得るものということはできない。 イ 本件特許発明9について 本件特許発明9は、本件特許発明7を引用し、さらに新たな発明特定事項を有するものである。 そして、上記「ア 本件特許発明7について」で述べたとおり、本件特許発明7は、甲1発明から当業者が容易に想到し得るものということはできない以上、本件特許発明9も甲1発明から当業者が容易に想到し得るものということはできない。 ウ 本件特許発明11について 本件特許発明11は、末尾の表記が異なるが、インクの循環機構に関して本件特許発明7と実質的に同じ発明特定事項を有するものである。 したがって、上記「ア 本件特許発明7について」で述べたとおりの理由により本件特許発明11も甲1発明から当業者が容易に想到し得るものということはできない。 エ 小括 以上のとおり、本件特許発明7、9、11は、特許法第29条第2項の規定に違反するものではない。 (3)理由1−3について ア 本件特許発明8について 本件特許発明8と甲1発明とを比較すると、少なくとも以下の相違点で両者は相違する。 〔相違点8〕 本件特許発明7は、「インク供給路の供給管のダンパ寄りのダンパよりも上流側の端部と、インクタンクと、に循環用管が接続され」ているものであるが、甲1発明は「各サブタンク26a、26b内及び各分岐チューブ23a、23b内のインクが撹拌」される点。 そして、上記相違点8に係る本件特許発明8の発明特定事項である「インク供給路の供給管のダンパ寄りのダンパよりも上流側の端部と、インクタンクと、に循環用管が接続され」ることについて、他の各甲号証に記載されておらず、また当業者にとって設計的事項程度の技術事項とも認めることはできない。なお、甲2発明は「サブタンク32から液体貯留室30へ液体を戻す第3の液体流路43」を示すものでしかない。 そして、本件特許発明8は、上記発明特定事項を有することにより、「インクを循環させる経路を長くすることができるので、インクの流路におけるインクを循環させる経路の割合を増加させることができ、循環効率を向上させることができる」という効果に加えて、「循環用管をインクタンクに直接接続しているので、インクタンクも含めてインクの循環を行うことができる」という明細書記載の顕著な効果を奏するものである。 したがって、本件特許発明7は、甲1発明から当業者が容易に想到し得るものということはできない。 イ 本件特許発明10について 本件特許発明10は、本件特許発明7を引用し、さらに新たな発明特定事項を有するものである。 そして、上記「ア 本件特許発明7について」で述べたとおり、本件特許発明7は、甲1発明から当業者が容易に想到し得るものということはできない以上、本件特許発明10も甲1発明から当業者が容易に想到し得るものということはできない。 ウ 小括 以上のとおり、本件特許発明8、10は、特許法第29条第2項の規定に違反するものではない。 (4)理由2について ア 本件特許発明7について 本件特許発明7と先願発明である甲3発明とを比較すると、少なくとも以下の相違点で両者は相違する。 〔相違点9〕 本件特許発明7は、「インク供給路の供給管のダンパ寄りのダンパよりも上流側の端部と、供給管のインクタンク寄りのインクタンクよりも下流側の端部及びインクタンクのいずれか一方と、に循環用管が接続され」ており、「供給管と循環用管との間で前記インクを循環」させるものであるが、甲3発明は「液体タンク2内の液体をバッファタンク24へ供給」し、「バッファタンク24内の液体」が「液体タンク2内に一気に流入」することで「液体タンク2内の液体が撹拌」されるものである点。 したがって、本件特許発明7と甲3発明とは、上記相違点9で相違し、上記相違点9が、課題解決のための具体化手段における微差であるということもできないから、本件特許発明7は甲3発明と同一ではない。 イ 本件特許発明9について 本件特許発明9は、本件特許発明7を引用し、さらに新たな発明特定事項を有するものである。 したがって、本件特許発明9と甲3発明とを比較すると、上記相違点9と同じ相違点を有することになるから、本件特許発明9は甲3発明と同一ではない。 ウ 本件特許発明11について 本件特許発明11は、末尾の表記が異なるが、インクの循環機構に関して本件特許発明7と実質的に同じ発明特定事項を有するものである。 したがって、本件特許発明11と甲3発明とを比較すると、上記相違点9と同じ相違点を有することになるから、本件特許発明11は甲3発明と同一ではない。 エ 小括 以上のとおり、本件特許発明7、9、11は、甲3発明と同一ではないから、特許法第29条の2の規定に違反するものではない。 (5)理由4−1について ア 本件特許発明1について 本件特許発明1と甲5発明とを比較すると、少なくとも以下の相違点で両者は相違する。 〔相違点10〕 本件特許発明1は、「インクジェットプリンタのインクタンクから水頭差により供給されるインクを、前記インクを吐出するヘッドに供給する水頭差式のダンパ」であるが、甲5発明の減圧弁30は、水頭差式のものではない点。 〔相違点11〕 本件特許発明1は、「インクタンク側との間で前記インクを循環する循環用管に前記インクを導く導出口が、前記インク室内に開口している」のに対して、甲5発明では、印字に使用しなかったインク粒子10は、ガター14により補足された後に経路108、経路109、ポンプ26、経路110を経由して、主インク容器18に回収され、経路108ないし110が循環用管の一部であるとしても、該経路が減圧弁30の圧力室51Cに開口したものではない点。 事案に鑑み、相違点11について検討する。 上記相違点11に係る本件特許発明1の発明特定事項である「インクタンク側との間で前記インクを循環する循環用管に前記インクを導く導出口が、前記インク室内に開口」していることについて、他の各甲号証に記載されておらず、また当業者にとって設計的事項程度の技術事項とも認めることはできない。 そして、本件特許発明1は、上記発明特定事項を有することにより、「インクをヘッドとインクタンクとの間で循環させる際に、インク室のインクをインクタンクとの間で循環させることとなる。このために、ダンパのインク室内などのインクの色材の沈殿を抑制することができる」という、明細書記載の顕著な効果を奏するものである。 なお、申立人は「水頭差」に係る構成が甲第7号証に記載されていると主張しているが、甲第7号証には「水頭差」について何ら記載がない。 したがって、本件特許発明1は、甲1及び甲7発明から当業者が容易に想到し得るものということはできない。 (6)理由4−2について ア 本件特許発明1について 本件特許発明4と甲5発明とを比較すると、少なくとも以下の相違点で両者は相違する。 〔相違点12〕 本件特許発明4は、「ヘッドのノズルと前記ダンパのヘッドにインクを供給する流路とを連通させた状態で、前記ダンパのインク室内に開口した導出口から、前記インクタンク側へインクを循環させる循環用管を介して前記インク室内のインクを前記インク供給路の供給管と前記インクタンクとのうちの一方に導く」のに対して、甲5発明では、印字に使用しなかったインク粒子10は、ガター14により補足された後に経路108、経路109、ポンプ26、経路110を経由して、主インク容器18に回収され、経路108ないし110が循環用管の一部であるとしても、該経路が減圧弁30の圧力室51Cに開口したものではない点。 したがって、本件特許発明4と甲5発明とは、上記相違点12で相違するから、本件特許発明4は、甲5発明に記載されたものではない。 (7)理由4−3について ア 本件特許発明4について 本件特許発明4と甲5発明とを比較すると、上記「(6)理由4−2について」で検討したとおり相違点12で相違する。 相違点12について検討する。 相違点12に係る本件特許発明4の発明特定事項である「ヘッドのノズルと前記ダンパのヘッドにインクを供給する流路とを連通させた状態で、前記ダンパのインク室内に開口した導出口から、前記インクタンク側へインクを循環させる循環用管を介して前記インク室内のインクを前記インク供給路の供給管と前記インクタンクとのうちの一方に導く」ことについて、他の各甲号証に記載されておらず、また当業者にとって設計的事項程度の技術事項とも認めることはできない。 そして、本件特許発明4は、上記発明特定事項を有することにより、「インクのヘッドへの供給とインクの循環とを両立させることができる。したがって、印刷時にもインクを循環させることが可能となるので、インクの色材の沈殿を確実に抑制することができる」という明細書記載の顕著な効果を奏するものである。 したがって、本件特許発明4は、甲5発明から当業者が容易に想到し得るものということはできない。 (8)理由5−1について ア 本件特許発明1について 本件特許発明1と甲6発明とを比較すると、少なくとも以下の相違点で両者は相違する。 〔相違点13〕 本件特許発明1は、「インクジェットプリンタのインクタンクから水頭差により供給されるインクを、前記インクを吐出するヘッドに供給する水頭差式のダンパ」であるが、甲6発明の圧力調整器14は、水頭差式のものではない点。 〔相違点14〕 本件特許発明1は、「インクタンク側との間で前記インクを循環する循環用管に前記インクを導く導出口が、前記インク室内に開口している」のに対して、甲6発明では、流路切換弁3から流路25と加圧ポンプ4と流路26とサブタンク5と流路13と圧力調整器14と流路27と共通液室34と流路29とマルチ弁30と流路31の循環流路である点。 事案に鑑み、相違点14について検討する。 上記相違点14に係る本件特許発明1の発明特定事項である「インクタンク側との間で前記インクを循環する循環用管に前記インクを導く導出口が、前記インク室内に開口」していることについて、他の各甲号証に記載されておらず、また当業者にとって設計的事項程度の技術事項とも認めることはできない。 そして、本件特許発明1は、上記発明特定事項を有することにより、「インクをヘッドとインクタンクとの間で循環させる際に、インク室のインクをインクタンクとの間で循環させることとなる。このために、ダンパのインク室内などのインクの色材の沈殿を抑制することができる」という、明細書記載の顕著な効果を奏するものである。 なお、申立人は「水頭差」に係る構成が甲第7号証に記載されていると主張しているが、甲第7号証には「水頭差」について何ら記載がない。 したがって、本件特許発明1は、甲6及び甲7発明から当業者が容易に想到し得るものということはできない。 (9)理由5−2について ア 本件特許発明4について 本件特許発明4と甲6発明とを比較すると、少なくとも以下の相違点で両者は相違する。 〔相違点15〕 本件特許発明4は、「ヘッドのノズルと前記ダンパのヘッドにインクを供給する流路とを連通させた状態で、前記ダンパのインク室内に開口した導出口から、前記インクタンク側へインクを循環させる循環用管を介して前記インク室内のインクを前記インク供給路の供給管と前記インクタンクとのうちの一方に導く」のに対して、甲6発明では、流路切換弁3から流路25と加圧ポンプ4と流路26とサブタンク5と流路13と圧力調整器14と流路27と共通液室34と流路29とマルチ弁30と流路31の循環流路である点。 したがって、本件特許発明4と甲6発明とは、上記相違点15で相違するから、本件特許発明4は、甲6発明に記載されたものではない。 (10)理由5−3について ア 本件特許発明4について 本件特許発明4と甲6発明とを比較すると、上記「(9)理由5−2について」で検討したとおり相違点15で相違する。 相違点15について検討する。 相違点15に係る本件特許発明4の発明特定事項である「ヘッドのノズルと前記ダンパのヘッドにインクを供給する流路とを連通させた状態で、前記ダンパのインク室内に開口した導出口から、前記インクタンク側へインクを循環させる循環用管を介して前記インク室内のインクを前記インク供給路の供給管と前記インクタンクとのうちの一方に導く」ことについて、他の各甲号証に記載されておらず、また当業者にとって設計的事項程度の技術事項とも認めることはできない。 そして、本件特許発明4は、上記発明特定事項を有することにより、「インクのヘッドへの供給とインクの循環とを両立させることができる。したがって、印刷時にもインクを循環させることが可能となるので、インクの色材の沈殿を確実に抑制することができる」という明細書記載の顕著な効果を奏するものである。 したがって、本件特許発明4は、甲6発明から当業者が容易に想到し得るものということはできない。 (11)理由6について ア 異議申立人の主張する理由6の概要 請求項6に「ダンパが前記インクジェットプリンタに設置された状態で、前記循環用管を前記供給管よりも下方に設置」することが特定されているが、循環用管を供給管より下方に設置した場合、水筒差により、下方に位置する循環用管の圧力の方が、上方に位置する供給管の圧力よりも高い。 しかしながら、上記記載によれば、下方に位置する循環用管20内の圧力よりも、水頭差の圧力分、上方に位置する供給管10内の圧力が高いと説明されており、矛盾している。 したがって、その技術的意味が当業者には理解できないし、出願時の技術常識を考慮しても発明特定事項が不足しているか矛盾している。 よって、請求項6に係る本件発明6は不明確である。 イ 当審の判断 請求項6は、請求項5を介して請求項4を引用するものである。 したがって、循環用管と供給管に関する記載について整理すると、請求項6には、以下のとおりの「インクタンクとダンパのインク流入口とに供給管を直接連結し、前記ダンパのインク循環口と前記供給管に前記インク供給路の循環用管を直接連結し、前記循環用管に設けられたポンプをヘッドのノズル先端に形成されるインクのメニスカス面を維持するように駆動し、前記ダンパが前記インクジェットプリンタに設置された状態で、前記循環用管を前記供給管よりも下方に設置する」という技術事項が特定されていると認めることができる。 ここで、供給管の最下位の位置はダンパのインク流入口側の端部であり、最上位の位置はインクタンク側の端部である。 また、循環用管の最下位の位置はダンパのインク循環口側の端部であり、最上位の位置は供給管との接続端部であって、循環用管を供給管よりも下方に設置することを考慮すれば、循環用管の最上位の位置は、供給管の最上位の位置よりも高くなることはない。 とすれば、水頭差によって、循環用管より上方にある供給管内の圧力が、循環用管内の圧力より高いことは当然のことである。 したがって、請求項6に係る発明の詳細な説明の記載に矛盾はない。 よって、請求項6が、その技術的意味が当業者には理解できないということも、出願時の技術常識を考慮しても発明特定事項が不足しているか矛盾しているということも認めることはできず、請求項6に係る本件発明6は明確である。 第8 むすび 以上のとおり、本件の請求項7、9、10、11に係る発明は、先願発明である甲4発明と実質的に同一であるから、請求項7、9、10、11に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものであって、同法113条2号に該当し、取り消されるべきものである。 また、本件の請求項7ないし10及び11に係る発明は、明確でないから、請求項7ないし10及び11に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであって、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 さらに、本件の請求項7ないし10及び11に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではないから、請求項7ないし10及び11に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであって、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 取消理由通知書(決定の予告)に記載した取消理由又は特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、請求項1、2、4及び6に係る特許を取り消すことはできない。さらに、他に請求項1、2、4及び6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
別掲 |
(行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この決定に対する訴えは、この決定の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。 |
異議決定日 | 2022-05-18 |
出願番号 | P2016-519415 |
審決分類 |
P
1
652・
537-
ZE
(B41J)
P 1 652・ 161- ZE (B41J) P 1 652・ 113- ZE (B41J) P 1 652・ 121- ZE (B41J) |
最終処分 | 08 一部取消 |
特許庁審判長 |
藤本 義仁 |
特許庁審判官 |
藤田 年彦 吉村 尚 |
登録日 | 2019-09-27 |
登録番号 | 6590797 |
権利者 | 株式会社ミマキエンジニアリング |
発明の名称 | ダンパ、インクの循環方法及びインクの循環機構 |
代理人 | 特許業務法人酒井国際特許事務所 |
代理人 | 酒井 宏明 |