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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A01N
管理番号 1389364
総通号数 10 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-10-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-01-15 
確定日 2022-06-30 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6723045号発明「シロアリ防除方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6723045号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1,2〕について訂正することを認める。 特許第6723045号の請求項1に係る特許を取り消す。 特許第6723045号の請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6723045号の請求項1〜2に係る特許についての出願は、平成28年3月30日に出願され、令和2年6月25日にその特許権の設定登録がなされ、同年7月15日に特許掲載公報が発行された。その特許についての本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和3年 1月15日 : 特許異議申立人遠藤楓実(以下、「申立人」という。)による特許異議の申立て
令和3年 5月 7日付け : 取消理由通知
令和3年 7月 7日 : 特許権者による訂正請求書・意見書の提出
令和3年 9月 6日付け : 特許法第120条の5第5項に基づく通知
令和3年12月24日付け : 取消理由通知(決定の予告)
なお、令和3年9月6日付けの通知に対し、申立人からは指定期間内に応答はなかった。
また、取消理由通知(決定の予告)に対し、特許権者からは指定期間内に応答はなかった。

第2 訂正請求について
1 請求の趣旨及び訂正の内容
(1)請求の趣旨
令和3年7月7日に特許権者が行った訂正請求に係る請求の趣旨は、「特許第6723045号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1および請求項2について訂正することを求める。」というものである。

(2)訂正の内容
令和3年7月7日に特許権者が行った訂正請求に係る訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下の訂正事項1〜2からなるものである。

[訂正事項1]
請求項1の「建物の外周の全長に渡って、前記建物の外周土壌に、所定間隔ごとに所定濃度でシロアリ防除剤を注入するシロアリ防除方法であって、注入圧力(P)が0.1MPa以上5MPa以下であり、外周土壌の単位体積当たりのシロアリ防除剤の質量である密度(D)が、0.08mg/cm3以上8mg/cm3以下であり、所定間隔(I)(cm)と、所定濃度(C)(質量%)とが、下記式(1)〜(2)の関係を満たすことを特徴とする、シロアリ防除方法。I>30C+0.8 (1) I<81C+59.4 (2)」を、「建物の外周の全長に渡って、前記建物の外周土壌に、所定間隔ごとに所定濃度で、土壌注入機を用いて、シロアリ防除剤を注入するシロアリ防除方法であって、注入圧力(P)が0.1MPa以上5MPa以下であり、前記シロアリ防除剤が注入された外周土壌の単位体積当たりのシロアリ防除剤の質量である密度(D)が、0.08mg/cm3以上8mg/cm3以下であり、所定間隔(I)(cm)と、所定濃度(C)(質量%)とが、下記式(1)〜(2)の関係を満たし、前記シロアリ防除剤が、クロチアニジンであることを特徴とする、シロアリ防除方法。I>30C+0.8 (1)I<81C+59.4 (2)」に訂正する。

[訂正事項2]
請求項2を削除する。

なお、訂正前の請求項2は、請求項1を引用する関係にあるから、上記訂正事項1及び訂正事項2は、特許法第120条の5第4項の規定に従い、この一群の請求項1〜2について請求されたものである。

2 訂正の適否
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的について
訂正事項1は、シロアリ防除剤の注入を、土壌注入機を用いて行うものに限定し、外周土壌をシロアリ防除剤が注入されたものに限定し、シロアリ防除剤をクロチアニジンに限定するものである。
よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 実質上特許請求の範囲の拡張又は変更するものであるかについて
訂正事項1は、上記のとおり、請求項の記載をシロアリ防除剤の注入を、土壌注入機を用いて行うものに限定し、外周土壌をシロアリ防除剤が注入されたものに限定し、シロアリ防除剤をクロチアニジンに限定するものにすぎず、カテゴリーを変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。

ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した範囲内であるかについて
訂正事項1の、シロアリ防除剤の注入を、土壌注入機を用いて行うものとする点は、願書に添付した明細書の段落0032に記載されており、外周土壌をシロアリ防除剤が注入されたものとする点は、願書に添付した明細書の段落0032に記載されており、シロアリ防除剤をクロチアニジンとする点は、願書に添付した特許請求の範囲の請求項2に記載されている。
よって、当該訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであり、新規事項の追加に該当しない。

(2)訂正事項2について
訂正前の請求項2を削除する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当し、実質上特許請求の範囲の拡張し、又は変更するものではなく、新規事項の追加に該当しないのは明らかである。

3 まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1,2〕について訂正することを認める。

第3 訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1〜2に係る発明は、訂正特許請求の範囲の請求項1〜2に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
建物の外周の全長に渡って、前記建物の外周土壌に、所定間隔ごとに所定濃度で、土壌注入機を用いて、シロアリ防除剤を注入するシロアリ防除方法であって、
注入圧力(P)が、0.1MPa以上5MPa以下であり、
前記シロアリ防除剤が注入された外周土壌の単位体積当たりのシロアリ防除剤の質量である密度(D)が、0.08mg/cm3以上8mg/cm3以下であり、
所定間隔(I)(cm)と、所定濃度(C)(質量%)とが、下記式(1)〜(2)の関係を満たし、
前記シロアリ防除剤が、クロチアニジンであることを特徴とする、シロアリ防除方法。
I>30C+0.8 (1)
I<81C+59.4 (2)」
(以下、「本件発明1」という。)

「【請求項2】(削除)」

第4 取消理由の概要
本件発明1に係る特許に対して、当審が令和3年12月24日付け取消理由通知(決定の予告)で特許権者に通知した取消理由の要旨は、以下のとおりである。

理由
1 本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
2 本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

第5 当審の判断
当審合議体は、以下の理由により、本件発明1は上記取消理由1及び2によって取り消すべきものであると判断する。

1 理由1(特許法第36条第6項第2号
(1)判断
請求項1では、シロアリ防除剤が注入された外周土壌の単位体積当たりのシロアリ防除剤の質量である密度(D)の範囲を規定していることから、当該単位体積の基となる「シロアリ防除剤が注入された外周土壌」の三次元での範囲が特定される必要がある。
すなわち、請求項1に係る発明は、「シロアリ防除剤が注入された外周土壌の単位体積当たりのシロアリ防除剤の質量である密度(D)が、0.08mg/cm3以上8mg/cm3以下であり」との特定事項を有し、「外周土壌の単位体積当たりのシロアリ防除剤の質量である密度(D)」の数値範囲を特定するものであって、該数値範囲に対して該当する範囲の明確性が確保されていることが前提となる。
しかしながら、当該単位体積の基となる「シロアリ防除剤が注入された外周土壌」の三次元での範囲が特定されない結果、同じ「シロアリ防除剤が注入された外周土壌」であっても、三次元で特定すべき範囲の大きさの違いや、同じ大きさであっても三次元で特定すべき場所の建物との距離や深さの違いによって、密度(D)の条件を満たす場合と満たさない場合が同一対象物に対して同時に存在することが容易に予測される。そのため、「シロアリ防除剤が注入された外周土壌」の三次元での範囲が特定されないことで密度(D)が一義的に定まらず、第三者に不測の不利益を与えることとなるといえる。
この点に関し、請求項1には「シロアリ防除剤が注入された外周土壌」の三次元での範囲を特定する記載はない。本件明細書においては、段落0030に、「建物の外周は、建物の周囲において、建物から一定距離離間した領域(無端帯領域)を含み、その距離は、例えば、5cm以上、好ましくは、10cm以上であり、また、例えば、2m以下、好ましくは、1m以下である。」との、建物からの距離についての好ましい範囲の例示はあるものの、明確な定義はなく、また、「シロアリ防除剤が注入された外周土壌」の三次元での範囲の特定に必要な深さの記載は一切ない。
したがって、当該単位体積の基となる「シロアリ防除剤が注入された外周土壌」の三次元での範囲は明確でなく、本件明細書の記載及び当該技術分野の技術常識を考慮しても、請求項1における密度(D)の規定により特定される状態が、当業者には理解できない。
よって、本件発明1は明確でない。

(2)特許権者の主張について
特許権者は、令和3年7月7日提出の意見書において、「土壌注入機を用いて、シロアリ防除剤を注入する」という限定事項及び密度(D)が「シロアリ防除剤が注入された外周土壌の単位体積当たりのシロアリ防除剤の質量である」という限定事項によって、密度(D)を求める際に必要になる「土壌の三次元での範囲」を明確にしたこと、「土壌の三次元での範囲」は、土壌に対して、土壌注入機が差し込まれて、シロアリ防除剤が注入された直下の土壌であり、実際には、土壌注入機と同径の円形の平面積かつ深さ方向5cmの体積であること、深さ方向5cmの根拠は、乙第1号証の社団法人日本木材保存協会規格集の土壌処理用防蟻剤等の防蟻効力試験方法における室内効力試験で、試験される処理土壌の幅が5cmであることから、イエシロアリの穿孔距離の評価において、穿孔距離の基準が5cmであるといえるからであることを主張している。
しかしながら、「土壌注入機を用いて、シロアリ防除剤を注入する」という限定事項及び密度(D)が「シロアリ防除剤が注入された外周土壌の単位体積当たりのシロアリ防除剤の質量である」という限定事項によっても、「外周土壌」の三次元での範囲が明確に特定されているとはいえない。
また、「シロアリ防除剤が注入された外周土壌」が、それだけの発明特定事項によって、土壌注入機が差し込まれて、シロアリ防除剤が注入された直下の土壌を意味することは、明細書、特許請求の範囲のいずれにも記載されておらず、出願時の技術常識を参酌しても、その根拠を見出すことはできない。
さらに、乙第1号証は、本件明細書の実施例でシロアリ防除効果の判定に用いられた土壌処理用防蟻剤等の防蟻効力試験(公益社団法人 日本木材保存協会規格(JWPS−TS−S))に関するものであるが、乙第1号証における室内効力試験での室内試験容器における処理土壌の幅が5cmであっても、試験に供される処理土壌の採取方法を示しているものでもなく、建物の外周土壌に土壌注入機でシロアリ防除剤を注入するシロアリ防除方法における、シロアリ防除剤の密度の測定対象である「外周土壌」の採取とは何ら関連性がないことから、「シロアリ防除剤が注入された外周土壌」が土壌注入機と同径の円形の平面積かつ深さ方向5cmの体積であるとすることが出願時の技術常識であることの根拠となるものではない。
よって、上記主張は採用できない。
したがって、上記(1)で述べたとおり、本件発明1は明確でない。

2 理由2(特許法第36条第6項第1号
(1)本件特許発明に関する特許法第36条第6項第1号の判断の前提
特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

(2)特許請求の範囲の記載
上記第3で述べたとおり、次のとおりに記載されている。
「【請求項1】
建物の外周の全長に渡って、前記建物の外周土壌に、所定間隔ごとに所定濃度で、土壌注入機を用いて、シロアリ防除剤を注入するシロアリ防除方法であって、
注入圧力(P)が、0.1MPa以上5MPa以下であり、
前記シロアリ防除剤が注入された外周土壌の単位体積当たりのシロアリ防除剤の質量である密度(D)が、0.08mg/cm3以上8mg/cm3以下であり、
所定間隔(I)(cm)と、所定濃度(C)(質量%)とが、下記式(1)〜(2)の関係を満たし、
前記シロアリ防除剤が、クロチアニジンであることを特徴とする、シロアリ防除方法。
I>30C+0.8 (1)
I<81C+59.4 (2)
【請求項2】(削除)」

(3)発明の詳細な説明の記載
発明の詳細な説明には、次のとおりに記載されている。

・記載(1)
「【0007】
本発明の目的は、環境に対する負荷を軽減しながら、シロアリ防除効果に優れるシロアリ防除方法を提供することにある。」

・記載(2)
「【実施例】
【0048】
1.シロアリ防除剤の注入試験
実施例1
家屋の外周土壌(家屋から30cm離間した領域、家屋の外周の全長20m)に、土壌注入機を土壌の表面から30cmまで差し込み、シロアリ防除剤(タケロックMC50スーパー(大阪ガスケミカル株式会社製、クロチアニジン含有マイクロカプセル化剤))を注入した。
【0049】
その際、注入圧力(P)は、0.1MPaであり、密度(D)は、0.9mg/cm3であり、注入間隔(I)は、1cmであり、シロアリ防除剤の注入濃度(C)は、0.005質量%であった。
【0050】
なお、シロアリ防除剤の注入濃度(C)は、水で希釈することにより調整した。
【0051】
実施例2〜45、比較例1〜99
注入圧力(P)と、密度(D)と、注入間隔(I)と、シロアリ防除剤の注入濃度(C)とを、表1〜4の記載に従って変更した以外は、実施例1と同様にして、シロアリ防除剤を注入した。
【0052】
【表1】


【0053】
【表2】


【0054】
【表3】


【0055】
【表4】


【0056】
2.評価
1)環境に対する負荷
汎用の土壌・地下水汚染における環境リスクシミュレーションシステムによって、地下水に流入したシロアリ防除剤の濃度を算出し、環境に対する負荷を判定した。なお、判定基準は以下の通りである。
【0057】
判定基準○:地下水に流入したシロアリ防除剤の濃度が、ADI(1日摂取許容量)および水棲生物のNOEC(無影響濃度)を下回る。
【0058】
×:地下水に流入したシロアリ防除剤の濃度が、ADI(1日摂取許容量)および水棲生物のNOEC(無影響濃度)を上回る。
【0059】
評価結果を、表1〜4に示す。
2)シロアリ防除効果
シロアリ防除剤を注入後、注入された土壌を採取し、土壌処理用防蟻剤等の防蟻効力試験(公益社団法人 日本木材保存協会規格(JWPS−TS−S))に準拠して、シロアリ防除効果を判定した。なお、判定基準は以下の通りである。
【0060】
判定基準○:性能基準を満足した。
【0061】
×:性能基準を満足していない。
【0062】
評価結果を、表1〜4に示す。
3.考察
注入圧力(P)が、0.05MPaである比較例(比較例1、比較例3、比較例6、比較例9、比較例15、比較例21、比較例27、比較例33、比較例35、比較例37、比較例39、比較例42、比較例48、比較例54、比較例60、比較例62、比較例64、比較例66、比較例72、比較例78、比較例84、比較例90、比較例92および比較例94)は、シロアリ防除剤が、均一に拡散されず、シロアリ防除効果が低下したことがわかった。
【0063】
また、注入圧力(P)が、7MPaである比較例(比較例2、比較例5、比較例8、比較例14、比較例20、比較例26、比較例32、比較例34、比較例36、比較例38、比較例41、比較例47、比較例53、比較例59、比較例61、比較例63、比較例65、比較例71、比較例77、比較例83、比較例89、比較例91、比較例93および比較例99)は、シロアリ防除剤を注入することが困難となることがわかった。
【0064】
密度(D)が、0.08mg/cm3未満である比較例(比較例4、比較例7、比較例9〜13、比較例15〜19、比較例21〜25、比較例40および比較例46)は、シロアリ防除効果が低下したことがわかった。
【0065】
また、密度(D)が、8mg/cm3を超過する比較例(比較例27〜30、比較例48〜52、比較例54〜57、比較例72〜76、比較例78〜81、および比較例84〜87)は、環境に対する負荷が増加したことがわかった。
【0066】
また、実施例1〜45と、比較例16〜19と、比較例95〜98とにおける注入間隔(I)および注入濃度(C)の関係を示すグラフを図1に示す。
【0067】
このとき、環境に対する負荷を軽減しながら、シロアリ防除効果に優れる注入間隔(I)および注入濃度(C)の関係(領域)は、図1の近似式により定められることがわかった。」

・記載(3)
「【図1】



(4)判断
ア 課題の認定
本件発明1は、特許請求の範囲、明細書の全体の記載事項(特に、記載(1))及び出願時の技術常識からみて、「環境に対する負荷を軽減しながら、シロアリ防除効果に優れるシロアリ防除方法」の提供を解決しようとする課題とするものであると認められる。

イ 課題を解決するための手段について
本件発明1は、所定間隔(I)(cm)と、所定濃度(C)(質量%)とが、式(1)〜(2)の関係を満たすことによっても、上記課題を解決したものであるから、複数のパラメーターにより特定された発明といえる。このような複数のパラメーターで特定された発明においては、パラメーターで特定された範囲が明確であるとともに、それらのパラメーターを導き出すための前提条件が示されるべきである。
これら複数のパラメーターは、発明の詳細な説明には、実施例において、環境に対する負荷及びシロアリ防除効果を評価した結果として図1の近似式によりまさに定められたものであることが示されている(記載(2)、(3))。
そこで、環境に対する負荷の評価及び当該評価を実施した土壌の種類について検討する。

ウ 環境に対する負荷の評価について
「環境に対する負荷」の評価については、発明の詳細な説明の【0056】に「汎用の土壌・地下水汚染における環境リスクシミュレーションシステムによって、地下水に流入したシロアリ防除剤の濃度を算出し、環境に対する負荷を判定した。」と記載されている(記載(2))のみで、出願時の技術常識に照らしても、「汎用の土壌・地下水汚染における環境リスクシミュレーションシステム」が具体的にいかなる前提条件下でのシミュレーションをおこなうものであるか、不明である。
そのため、本件発明1の複数のパラメーターは、発明の詳細な説明の表1〜4(記載(2))に示された環境に対する負荷の評価結果を、注入間隔(I)を縦軸に、注入濃度(C)を横軸にした図1の結果から導き出しているにも関わらず、評価結果を導き出すための前提条件が不明であるから、結果として、得られたパラメーターの範囲が妥当であるか否かも不明である。
してみると、出願時の技術常識に照らしても具体的にいかなる前提条件下でのシミュレーションをおこなうものかが不明な「汎用の土壌・地下水における環境リスクシミュレーションシステム」による「環境に対する負荷」の評価から導き出されたと認められる「I>30C+0.8 (1)」及び「I<81C+59.4 (2)」との関係を満たすことにより、「環境に対する負荷を軽減しながら、シロアリ防除効果に優れるシロアリ防除方法」を提供することができると、当業者は認識できない。

エ 土壌の種類について
出願時の技術常識では、シロアリ防除剤の残留性は、土壌の種類によっても大きく異なると考えられているところ(要すれば、異議申立書で証拠方法とされた甲第3号証−1である「農薬評価書 クロチアニジン」(2008年2月,食品安全委員会)の第14頁表4参照。)、実施例では、外周土壌の種類を特定する記載はない。
そのため、上記ウで述べたのと同様に、本件発明1の複数のパラメーターは、発明の詳細な説明の表1〜4(記載(2))に示された環境に対する負荷の評価結果を、注入間隔(I)を縦軸に、注入濃度(C)を横軸にした図1の結果から導き出しているにも関わらず、評価結果を導き出すための前提条件が不明である。
してみると、出願時の技術常識に照らして、いかなる外周土壌の種類であっても、実施例のシロアリ防除剤の注入試験から導き出されたと認められる「I>30C+0.8 (1)」及び「I<81C+59.4 (2)」との関係を満たすことにより、「環境に対する負荷を軽減しながら、シロアリ防除効果に優れるシロアリ防除方法」を提供することができると、当業者は認識できない。
よって、本件発明1は、発明の詳細な説明の記載により又は技術常識に照らして当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものとはいえない。

オ 小括
したがって、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載したものでない。

(5)特許権者の主張について
ア 環境に対する負荷の評価について
特許権者は、令和3年7月7日提出の意見書において、本件明細書の「汎用の土壌・地下水汚染における環境リスクシミュレーションシステム」とは、乙第2号証に記載されている「GERAS」であり、乙第3号証の表−1に、室内空気経路の曝露について、日本国内において、既存のリスク評価モデルで採用されているものとして、GERASとKT−RISKが記載されており、これらのモデルの内、KT−RISKは、乙第4号証で、「同社のコンサルティング業務で活用する(単体では販売しない。)日経アーキテクチュア2006年4月10日掲載」と記載され、単体では販売しないものであって、汎用のシステムではないことから、本願の出願当初において、このような汎用のシステムは、唯一、「GERAS」しかない旨主張している。 しかしながら、「汎用」とは、「広くいろいろの方面に用いること。」(精選版 日本国語大辞典)であり、「汎用の土壌・地下水汚染における環境リスクシミュレーションシステム」とは、必ずしも、日本国内における既存のリスク評価モデルとして一般的に知られていたという意味を示すとはいえないから、上記主張は採用できない。

イ 土壌の種類について
特許権者は、令和3年7月7日提出の意見書において、甲第3号証−1で示されているのは畑地状態及び水田状態などの土壌が挙げられており、これらの土壌は、本件発明1の「建物の外周土壌」である建物を建てることができる土壌とは異なること、乙第5号証に黒土(黒ボク土)、赤玉土(褐色森林土)および荒木田土(低地土)の3種類で日本の国土の75%を占めることが示されており、乙第6号証に、黒ボク土、褐色森林土、灰色低地土壌が国内の代表的な表面土壌であることが記載されていることから、建物を建てることができる土壌とは、黒土(黒ボク土)、赤玉土(褐色森林土)および荒木田土(低地土)の3種類であること、本件明細書の実施例は、この3種類の内、最もリスクが高い赤玉土(褐色森林土)を選択したものであること、並びに本件発明1の式1及び式2は、最もリスクの高い赤玉土(褐色森林土)の土壌に対してシロアリ防除剤の注入試験から導き出されたものであるから、黒土(黒ボク土)や荒木田土(低地土)でも赤玉土(褐色森林土)と同様に成立することを主張している。
しかしながら、本件明細書の実施例についての記載には、外周土壌の種類を特定する記載はなく、上記意見書の記載を検討しても、本件明細書の実施例で用いられた土壌が赤玉土(褐色森林土)という特定の土壌であることが明らかとはいえない上に、上述のとおり、本件発明1は、複数のパラメーターで特定した発明であって、外周土壌の種類によって、課題解決ができると認識できるパラメーターの範囲も異なることが明らかであることを考慮すると、本件発明1の式1及び式2は、最もリスクの高い赤玉土(褐色森林土)の土壌に対してシロアリ防除剤の注入試験から導き出されたものであることを前提とする上記主張は採用できない。

ウ 小括
したがって、上記(4)で述べたとおり、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載したものでない。

第6 むすび
以上のとおり、本件発明1は、特許法第36条第6項第2号、同法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、請求項1に係る本件特許は、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
そして、訂正前の請求項2は本件訂正により削除されているから、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により、請求項2に係る本件特許についての特許異議の申立てを却下する。
よって、結論のとおり決定する。

 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この決定に対する訴えは、この決定の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の外周の全長に渡って、前記建物の外周土壌に、所定間隔ごとに所定濃度で、土壌注入機を用いて、シロアリ防除剤を注入するシロアリ防除方法であって、
注入圧力(P)が、0.1MPa以上5MPa以下であり、
前記シロアリ防除剤が注入された外周土壌の単位体積当たりのシロアリ防除剤の質量である密度(D)が、0.08mg/cm3以上8mg/cm3以下であり、
所定間隔(I)(cm)と、所定濃度(C)(質量%)とが、下記式(1)〜(2)の関係を満たし、
前記シロアリ防除剤が、クロチアニジンであることを特徴とする、シロアリ防除方法。
I>30C+0.8 (1)
I<81C+59.4 (2)
【請求項2】(削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-05-20 
出願番号 P2016-069012
審決分類 P 1 651・ 537- ZAA (A01N)
最終処分 06   取消
特許庁審判長 瀬良 聡機
特許庁審判官 伊藤 佑一
関 美祝
登録日 2020-06-25 
登録番号 6723045
権利者 大阪ガスケミカル株式会社
発明の名称 シロアリ防除方法  
代理人 宇田 新一  
代理人 岡本 寛之  
代理人 宇田 新一  
代理人 岡本 寛之  

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