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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A61L
審判 全部申し立て 2項進歩性  A61L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61L
管理番号 1389393
総通号数 10 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-10-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-10-06 
確定日 2022-07-26 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6854904号発明「血管新生剤およびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6854904号の明細書を、訂正請求書に添付された訂正明細書のとおり訂正することを認める。 特許第6854904号の請求項1〜15に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第6854904号(以下「本件特許」という。)の請求項1〜15に係る特許についての出願は、平成30年8月30日(優先権主張 平成29年8月30日、平成30年2月26日 いずれも日本国(JP))を国際出願日とする特願2019−539625号であって、令和3年3月18日にその特許権の設定登録(請求項の数:15)がなされ、令和3年4月7日に特許掲載公報が発行された。
本件特許異議の申立ての主な経緯は、次のとおりである。

令和3年10月 6日 :特許異議申立人 大村豊(以下「申立人」とい
う。)による請求項1〜15に係る特許に対す
る特許異議の申立て
令和4年 1月25日付け:取消理由通知書
同年 4月 1日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出

その後、令和4年4月12日付けで、当審から申立人に対して意見書を提出する機会を与えたが(特許法第120条の5第5項)、申立人から意見書は提出されなかった。

第2 訂正の適否についての判断

1 訂正の内容

訂正請求による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。なお、下線は当審合議体が付した。

明細書の段落【0022】に、
「(1)生体親和性高分子ブロック
(1−1)生体親和性高分子
・・・アクリル、ステンレス、チタン、シリコーン、・・・」
と記載されているのを、
「(1)生体親和性高分子ブロック
(1−1)生体親和性高分子
・・・アクリル、シリコーン、・・・」
に訂正する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否

本件訂正は、訂正前の段落【0022】における「生体親和性高分子」の説明において、生体親和性高分子の例として記載された「ステンレス、チタン」を除くものであり、「ステンレス、チタン」が金属であって生体親和性高分子ではないことは当業者に自明の技術的事項であるから、「ステンレス、チタン」は誤って記載されたものであって、これを除く本件訂正は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、本件訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

3 小括

以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、本件特許の明細書を、訂正請求書に添付された訂正明細書のとおり訂正することを認める。

第3 本件発明

本件特許の請求項1〜15に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1〜15に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(以下、それぞれ「本件発明1」〜「本件発明15」という。また、これらをまとめて「本件発明」ともいう。)。

「【請求項1】
(A)細胞構造体、および(B)前記細胞構造体を内包する免疫隔離膜、を含む血管新生剤であって、細胞構造体が、複数個の生体親和性高分子ブロックと、少なくとも一種の複数個の間葉系幹細胞とを含み、複数個の前記間葉系幹細胞の隙間に、少なくとも1個の前記生体親和性高分子ブロックが配置されている細胞構造体として、含まれている、血管新生剤。

【請求項2】
前記間葉系幹細胞が、脂肪由来間葉系幹細胞または骨髄由来間葉系幹細胞である、請求項1に記載の血管新生剤。

【請求項3】
前記免疫隔離膜が、ポリマーを含む多孔質膜である、請求項1または2に記載の血管新生剤。

【請求項4】
前記多孔質膜の最小孔径が0.02μm〜1.5μmである、請求項3に記載の血管新生剤。

【請求項5】
前記多孔質膜の厚みが10μm〜250μmである、請求項3または4に記載の血管新生剤。

【請求項6】
前記多孔質膜が、孔径が最小となる層状の緻密部位を内部に有し、前記緻密部位から前記多孔質膜の少なくとも一方の表面に向かって厚み方向で孔径が連続的に増加している、請求項3から5の何れか一項に記載の血管新生剤。

【請求項7】
前記緻密部位の厚みが0.5μm〜30μmである、請求項6に記載の血管新生剤。

【請求項8】
前記多孔質膜の最小孔径と最大孔径との比が3.0〜20.0である、請求項3から7の何れか一項に記載の血管新生剤。

【請求項9】
前記多孔質膜が少なくとも一種のポリスルホンおよびポリビニルピロリドンを含む、請求項3から8の何れか一項に記載の血管新生剤。

【請求項10】
多孔質膜が熱可塑性または熱硬化性のポリマーを含む、請求項3から9の何れか一項に記載の血管新生剤。

【請求項11】
前記生体親和性高分子ブロック一つの大きさが20μm以上200μm以下である、請求項1から10の何れか一項に記載の血管新生剤。

【請求項12】
前記生体親和性高分子ブロックにおいて、生体親和性高分子が熱、紫外線または酵素により架橋されている、請求項1から11の何れか一項に記載の血管新生剤。

【請求項13】
前記生体親和性高分子ブロックが不定形である、請求項1から12の何れか一項に記載の血管新生剤。

【請求項14】
前記細胞構造体が、細胞1個当り0.0000001μg以上1μg以下の生体親和性高分子ブロックを含む、請求項1から13の何れか一項に記載の血管新生剤。

【請求項15】
細胞構造体を免疫隔離膜で内包する工程を含む、請求項1から14の何れか一項に記載の血管新生剤の製造方法。」

第4 取消理由の概要

請求項1〜15に係る特許に対して、当審が特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。

[取消理由1](新規性)本件特許の下記の請求項に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するので、下記の請求項に係る特許は、同法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

・請求項1〜3、5、10、12、13、15に対して甲10

[取消理由2](進歩性)本件特許の下記の請求項に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、下記の請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

・請求項1に対して甲10
・請求項2、3に対して甲10、6、12
・請求項4、5、8〜15に対して甲10、6、9、12
・請求項1〜5、8〜15に対して甲9、6、10、12

[取消理由3](明確性)本件特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

・請求項1〜15

<甲号証一覧>
申立人が特許異議申立書に添付して提出した各甲号証を、簡略化して、「甲1」等と記載する。

甲1:国際公開第2017/126612号
甲2:STEM CELLS, 2012, Vol.30, Issue 6, pp.1286-1296
甲3:特開2011−160854号公報
甲4:特開2004−331643号公報
甲5:特表平11−506951号公報
甲6:STEM CELLS Transl. Med., 2016, Vol.5, Issue 6, pp.773-781
甲7:日消外会誌、1996年、29巻4号、911〜915頁
甲8:米国特許出願公開第2015/0335788号明細書
甲9:特表2016−516827号公報
甲10:Acta Biomaterialia, 2015, Vol.15, pp.65-76
甲11:国際公開第2014/133081号
甲12:科学研究費助成事業 研究成果報告書、機関番号14301、“間葉系幹細胞を活用した糖尿病に対する皮下細胞移植治療法の研究”、角昭一郎、2016年6月15日作成、2017年5月10日公開

第5 取消理由についての当審の判断

1 甲号証に記載された事項及び甲号証に記載された発明

(1)甲6、9、10、12に記載された事項

甲6、9、10、12には、以下の記載がある。なお、外国語で記載されている部分については、日本語訳で摘記する。下線は当審合議体が付した。以下同様である。

ア 甲6に記載された事項

(摘記6a)
「要約
間葉系幹細胞(MSC)ベースの治療法は、組織修復への応用について幅広い調査が行われているが、移植時の細胞の持続性と生着が不十分である。MSCスフェロイドは、in vitroでの生存率、抗炎症、血管新生の可能性の向上を示し、in vivoで移植すると血管新生を促進する。ただし、細胞が組織の細胞外マトリックスに関与し、凝集体から移動すると、これらの利点は失われる。細胞治療の有効性は、人工材料を使用すると一貫して改善され、スフェロイド機能を導くための生体材料の役割を調査する必要性を動機付ける。人工材料のスフェロイド活性に対する接着性の寄与を評価し、MSCの骨形成の可能性を促進するために、Arg−Gly−Asp(RGD)で修飾されたアルギン酸ヒドロゲルに閉じ込められたときのMSCスフェロイドの機能を非汚染の末修飾アルギン酸と比較した。材料に関係なく、MSCスフェロイドは、同数の解離細胞と比較して、カスパーゼ活性の低下と血管内皮増殖因子(VEGF)分泌の増加を示した。RGD修飾ヒドロゲルのMSCスフェロイドは、非修飾アルギン酸塩のスフェロイドよりも有意に高い細胞生存率を示した。培養5日後、RGD修飾ゲルのスフェロイドは同様のレベルのアポトーシスを示したが、非修飾ゲルのスフェロイドと比較してVEGF分泌が2倍以上増加した。全てのゲルは、皮下移植の8週間後に石灰化組織を含み、RGD修飾アルギン酸塩に捕捉された細胞は、非修飾ゲルの細胞よりも大きな石灰化を示した。免疫組織化学により、解離した対照と比較して、スフェロイドを含むゲルにおいてより拡散したオステオカルシン染色が確認された。この研究は、骨組織工学アプリケーションのためのMSCスフェロイドの生存と機能を指示する細胞教育生体材料の可能性を示している。」(773頁「ABSTRACT」の項)

(摘記6b)
「材料及び方法
細胞培養
単一のドナーからのヒト骨髄由来MSCは、Lonza(Walkersville、MD、http://www.lonza.com)から購人し、特性評価することなく使用した。細胞は、10%ウシ胎児血清(JR Scientific、カリフォルニア州ウッドランド、http://wwwojrscientific.com、100units/ml ペニシリン、及び100μg/mlストレプトマイシン(Mediatech、バージニア州マナッサス、http://wwwcellgro.com)で、6代継代して使用するまで標準的な条件下で培養した。」(774頁「MATERIALS AND METHODS」の「Cell Culture」の項)

イ 甲9に記載された事項

(摘記9a)
「【請求項1】
生きている細胞を保持するのに適した内部チャンバを備える生体分子カプセル化デバイスであって、前記内部チャンバは第1の半透層と第2の半透層との間に配置されると共に、前記第1の半透層及び前記第2の半透層は前記内部チャンバの周囲を取り囲む支持フレームに取り付けられており、前記支持フレームは第1のフレーム要素及び第2のフレーム要素を備えると共に、前記第1のフレーム要素及び前記第2のフレーム要素は協働して、前記第1の半透層及び前記第2の半透層同士の間が所定の離間距離となるように前記第1の半透層及び前記第2の半透層を位置決めしている、生体分子カプセル化デバイス。」(請求項1)

(摘記9b)
「【請求項9】
前記第1の半透層及び前記第2の半透層のそれぞれが、前記内部チャンバと接触した膜層と、前記内部チャンバの外部に対して前記膜層を覆っているメッシュ層と、を備える、請求項1〜3のいずれか一項に記載の生体分子カプセル化デバイス。」(請求項9)

(摘記9c)
「【請求項11】
前記内部チャンバ内にカプセル化された哺乳類細胞を保持するのに適している、請求項1〜10のいずれか一項に記載の生体分子カプセル化デバイス。」(請求項11)

(摘記9d)
「【請求項23】
生きている哺乳類内で治療用薬剤を産生するための方法であって、請求項1〜10のいずれか一項に記載された生体分子カプセル化デバイス内で治療用薬剤を産生するように改変された細胞をカプセル化するステップを含む方法。」(請求項23)

(摘記9e)
「【0025】
幾つかの実施形態では細胞は、ハイドロゲルなどチャンバ内の生物的適合性マトリックス材の内部に囲繞されることや、生物的適合性マトリックス材上に配置されることがある。適当なマトリックス材には、ポリビニルアルコール(PVA)、アルギン酸塩、アガロース、ゼラチン、コラーゲン、ポリエチレングリコール、フィブリン及びキトサンが含まれる。このマトリックスは、例えばゲル、ミクロビーズ又はスポンジの形態とすることがある。このマトリックスはチャンバに対してデバイスの製造中に(すなわち、チャンバに細胞が導入される前に)追加されることがあり、また別法としてこのマトリックスは細胞の装填と同時にチャンバに追加されることがある。幾つかの実施形態では細胞は先ずマトリックス(例えば、多孔性のミクロビーズ)と合成され、次いでマトリックスはチャンバ内に装填される細胞を備えることがある。」(【0025】)

(摘記9f)
「【0027】
[細胞]
本明細書に記載したデバイスにカプセル化し得る細胞は、任意のタイプの動物細胞(好ましくは哺乳類細胞)又はヒトの細胞を含むことが可能である。典型的にはこの細胞は、移植されると対象に対して治療上の恩恵となり得るものである。適当な細胞には、同種異系及び異種細胞、自家細胞又はこれらの派生種を含む。例えば、対象から幹細胞又は体細胞を取得しこれらの細胞から治療用細胞集団を導出することが望ましいことがある。このようなプロセスは典型的には、移植される細胞に対する免疫応答のリスクを低減させる。カプセル化デバイスでの使用に適した例示的な細胞型には、多能性幹細胞又はその派生種(好ましくは人工多能性幹(iPS)細胞、さらに好ましくはヒト人工多能性幹(hiPS)細胞)からなる凝集した又は単一の細胞懸濁液を含む。特定の実施形態では細胞は、膵臓始原細胞、グルコース応答性ベータ細胞、インスリン産生細胞、胚体内胚葉細胞、膵島細胞、腫瘍細胞、又はこれらの任意の組合せを備えることがある。」(【0027】)

(摘記9g)
「【0040】
一実施形態では半透層は、細胞の生存及び機能にとって重要な酸素や他の分子は半透層を通って移動できるが、細胞(例えば、カプセル化された細胞及び/又は宿主の免疫系細胞)はこの孔を透過又は横断できないような孔寸法を有する。
【0041】
デバイスによって1つ又は複数の生物学的に活性な薬剤(例えば、血管新生因子、成長因子又はホルモン)がさらにカプセル化されるような実施形態では、半透層はさらにカプセル化された関心対象の生物学的に活性な物質が、宿主の組織や有機体内でデバイスの外部の標的細胞へのアクセスを提供するように当該層を通過できるようにすることが好ましい。」(【0040】、【0041】)

(摘記9h)
「【0045】
幾つかの実施形態では半透層は2層以上の副層を備える(例えば、層状構造をしている)。例えば半透層は、2層、3層又は4層の副層を備えた積層構造とすることがある。特に好ましい実施形態では半透層は、内部チャンバと接触した第1の副層と、内部チャンバの外部に対して第1の副層を覆っている第2の副層と、を備える(すなわち、第1の副層がデバイスの内部に接した位置にあり且つ第2の副層がデバイスの外部に接した位置にある)。
・・・
【0048】
第2の副層は、典型的には血管新生膜の役割をするメッシュ層を備えることが好ましい。「血管新生膜」とは、この副層によってデバイスの周りにおいて宿主組織の脈管構造の成長が促進されることを意味する。第2の副層はまた、第1の副層に対する力学的支持又は力学的保護を提供することがある。」(【0045】〜【0048】)

ウ 甲10に記載された事項

(摘記10a)
「要約
生体材料に対する異物反応は、重度の線維症と限られた血管新生による多くの生物医学的デバイスの性能を損なう。間葉系幹細胞は、炎症状態を治療するためのサイトカインを分泌することが知られている。本研究では、脂肪由来間葉系幹細胞(ADSCs)のパラクリン産物が生体材料の微小環境に影響を及ぼすか、生体材料インプラントへの組織応答を改善できるかどうかを調査することを目的とする。モデルシステムは、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)ろ過膜からなるマクロカプセル化装置に、ADSCスフェロイドをロードすることによって構築された。インビトロでデバイスから拡散した可溶性ADSC因子は、内皮細胞の血管新生活性を促進し、マクロファージの分泌パターンに影響を及ぼした。インビボ試験は、ブランク又はADSC搭載デバイスをラットの皮下に埋め込むことによって行われた。4週間の移植後、ADSC搭載デバイスは、非細胞対照と比較して、血管新生がよくなり、線維性組織形成誘導が有意に低下した。この研究は、異物反応の理解を促進し、細胞ベースの治療のための生物医学的デバイスの組織反応を改善するための新しい方法を提案するだろう。」(65頁「Abstract」の項 )

(摘記10b)
「この研究では、化学物質以外に、細胞のパラクリン生成物を利用して、生体材料の生体適合性を改善できるかを調べることに興味がある。特に、間葉系幹細胞(MSC)は、骨髄、脂肪組織、臍帯、歯肉組織を含むさまざまな組織タイプに見られる多能性細胞である[19]。最近の臨床試験では、MSCは、移植片対宿主病や心筋梗塞などの免疫又は炎症状態の治療に治療効果を示している[20,21]。興味深いことに、これらの臨床研究の多くでは、MSCの注入/移植に起因する治療結果は、他のタイプの細胞に分化する能力ではなく、MSCによって産生される免疫調節又は抗炎症性パラクリン因子に起因すると考えられている[22,23]。実際、セクレトミック分析により、骨髄MSCは、プロスタグランジンE2(PGE2)、一酸化窒素(NO)、トランスフォーミング成長因子ベータ1(TGF−β1)などの免疫調節サイトカイン、血管内皮増殖因子(VEGF)や線維芽細胞増殖因子−2(FGF−2)などの血管新生促進因子を放出できることが示されている[21,24,25]。」(66頁左欄12〜30行)

(摘記10c)
「2.3.免疫隔離デバイスの準備
単層構造のPTFEろ過膜(BioporeTM、Millipore、米国)をモデルデバイスの作製のための免疫保護層として使用した。膜は厚さ25μmで、直径0.45μmの細孔を含ませた。ポリエチレンテレフタレート(PET)メッシュ(SAATItechTM、Satti、イタリア)を使用して、デバイスが完全な状態を保つための機械的支持を行った。メッシュの開口部の幅は250μmだった。デバイスを製造するために、PTFE膜とPETメッシュを適切な長方形にカットした。2枚の内側にあるPTFE膜は、PETメッシュの2つの層の間に置かれた。ポリエチレン(PE)チューブ(BD Biosciences、カリフォルニア州サンノゼ)を2つのPTFE層の間にアクセスポートとして配置した。膜は、PEチューブと一緒に金型内に配置され、20kHzの超音波溶接機(BNS−2020、中国、深セン)によって融合された。膜を密閉してチャンバを形成した後、デバイスの端を溶接領域に沿ってトリミングした。次に、デバイスを75%エタノール水溶液に少なくとも3時間浸し、滅菌PBSで洗浄し、将来の使用のために保管した。」(66頁右欄「2.3 Preparation of the immuneisolation device」の項)

(摘記10d)
「2.4. ADSCスフェロイドの培養、特性評価、ローディング
ADSCスフェロイドを生成するために、ADSCを1ウェルあたり100,000細胞の超低付着24ウェルマイクロプレートに播種した。マイクロプレートをオービタルシェーカーに置き、160rpmで回転させた。24時間後、25個のマイクロウェルから吸引して集めた多細胞スフェロイドを一緒にした。次に、スフェロイドをDPBSで洗浄し、1000rpmで5分間の遠心分離により沈殿させた。沈殿したスフェロイドは、合計250万個の細胞と約10μlの体積で、40μlのアガロースプレゲル溶液に再懸濁した。100μlの精密シリンジ(Hamilton、スイス)を介してポートチューブを通して免疫隔離チャンバに注入された。次に、ポートを滅菌シリコン医療用接着剤(Dow−corning、米国)で密封した。次に、デバイスを4℃に冷却し、その温度で10分間維持して、アガロースを固化した。次に、ロードした各デバイスを60mm培養皿に置き、さらに実験するために6mlの完全なADSC培地に浸した。
24ウェルマイクロプレート上で培養されたスフェロイドのサイズは、位相差画像(IX71、オリンパス、日本)によって分析された。各マイクロプレートについて、175個のスフェロイドがランダムに選択され、その直径がImageJソフトウェア分析によって決定された。高解像度の形態を得るために、スフェロイドを室温で30分間2.5%グルタルアルデヒド溶液に固定した。サンプルは、各ステップで15分間、段階的なエタノールシリーズ(30%から100%v/v)で脱水された。乾燥したら、サンプルを金でスパッタコーティングし、走査電子顕微鏡(SEM)(S−4800、日立、日本)で画像化した。」(66頁右欄〜67頁左欄「2.4 Culture, characterization and loading of the ADSC spheroids」の項)

(摘記10e)
「3.1. ADSCスフェロイド含有マクロカプセル化デバイスの製造
デバイスの内層と外層は、それぞれPTFEろ過膜(図1A)とPETメッシュ(図1B)で構成されていた。最終的なデバイスの画像を図1Cに示す。PTFEポリマーとPETポリマーの融点は異なるが、2つの膜は超音波溶着プロセスによってうまく融合した。溶接領域のエッジラインは、幅が約2mmだった。拡散チャンバの全体サイズは27(L)×14(W)mmだった。デバイスの内部容積は〜50μlである。
単層のPTFEろ過膜は、デバイス全体の輸送特性を決定する実際の障壁である。孔径は、免疫細胞が移植細胞を攻撃するのを防ぐように設計されている(図2A)。一方、孔径は、(i)外部組織からの小さな栄養性サイトカインと(ii)カプセル化された細胞からの治療用生成物の拡散のみを可能にすることにより、タンパク質の選択的透過に適している。私たちの研究では、カプセル化された細胞から分泌されるパラクリン因子は、血管新生を促進し、デバイス近くのマクロファージ応答を調節する能力について調査されている。炎症及び創傷治癒プロセスに寄与する重要なサイトカイン、ケモカイン、及び成長因子は、図2B[31−33]に示すように分類され、その発現はこの試験でin vitro又はin vivoで分析された。
回転楕円体形状の多細胞ADSC凝集体は、非接着表面での24時間の回転培養後に容易に形成された(図3A)。アガロース溶液に分散したスフェロイドは、デバイスに正常にロードされた。固化後、アガロースゲルは、ADSCスフェロイドの凝集を効果的に防ぎ、拡散チャンバ内で分離されたままであることが判明した(図3B)。SEM画像は、スフェロイドに凝集する個々のADSCがほとんど球形を採用していることを示している(図3C)。実際のサイズに関しては、ほとんどのスフェロイドは70〜160μmの範囲に収まっていた。また、ピークサイズが80〜90μmで、ピークが1つである分布であった(図3D)。
スフェロイドとして培養すると、ADSCは2次元単層培養の細胞と比較して、一連の遺伝子の発現の上昇を示した。(図4)ADSCスフェロイドでの幹細胞ホーミング[34]の重要な受容体であるCXCR−4の発現は、2−D単層(図4A)の発現と比較して7.5倍増加し、血管新生促進因子である、VEGF、FGF−2及び肝細胞成長因子(HGF)は、それぞれ2.6倍、3.3倍及び4.1倍増加した。インターロイキン−6(IL−6)及び誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS)は、マクロファージの炎症反応の調節に関与する2つの因子であり[35,36]、その発現はそれぞれ12.2及び3.0倍の増加を示した。アラキドン酸をPGE2に変換する酵素であるシクロオキシゲナーゼ−2(COX−2)は最も顕著にアップレギュレートされ、単層細胞での発現量より93.8倍の増加を示した。
遺伝子発現の分析を補完するために、ADSC−CMのVEGFの量、ADSCを含むデバイスの外側の培地、又はADSC単層の上清を測定した。図4Bに示すようにスフェロイド培養は単層培養と比較してADSCのVEGF産生をほぼ100%増加させたが、これは図4Aの遺伝子発現パターンと一致している。」(68頁左欄〜69頁右欄「3.1 Fabrication of ADSC spheroid-laden macroencapsulation devices」の項)

(摘記10f)
「3.2. in vitroでのADSCパラクリン因子の血管新生促進及び抗炎症効果
HUVEC活性に対するADSC−CMの影響を調査した。HUVECに適用した場合、ADSCスフェロイドから採取したADSC−CMのみが、ネガティブコントロールと比較して最大40%の細胞活性の増加を示すことにより、内皮細胞の増殖と移動を積極的に刺激することがわかった(図5A,B)ADSC単層からのADSC−CMは、ネガティブコントロールと比較して統計的な差が見られなかったため、そのような効果はなかった。
管形成アッセイでは、ADSCパラクリン因子の血管新生促進効果も有意だった:ADSC−CM(カプセル化されたスフェロイド)グループでより長い管成長が見られ、平均管長はネガティブコントロール又は単層由来のADSC−CMグループの約2.4倍である(図5C)。3つのHUVECアッセイ全てにおいて、統計分析ではADSC−CM(カプセル化されたスフェロイド)とポジティブコントロール群との間に差は認められなかった。
ADSCパラクリン因子の抗炎症効果を理解するために、ADSCを含むデバイスをLPS刺激MΦsと共培養した(図6A)。デバイスの膜を透過した因子は、デバイスの外部のMΦsに直接供給された。ADSC因子の影響下で、MΦsはより高いレベルの抗炎症マーカーであるアルギナーゼ−1(ARG−1)を発現したことがわかる。これは、アルギニンの尿素及びオルニチンへの加水分解を触媒する細胞質ゾル酵素である[37]。さらに、MΦs単独と比較して、共培養MΦsは、IL−10(3.6倍)、IL−6(3.9倍)、iNOS(4.7倍)、VEGF(2.9倍)のアップレギュレーション、及び腫瘍壊死因子アルファ(TNF−α)(0.7倍)、IL−1β(0.6倍)及びMMP−9(0.2倍)のダウンレギュレーションの表現型を示した(図6B)。
LPS刺激MΦsの存在下では、カプセル化されたADSCの上方制御された遺伝子プロファイルも、MΦsの影響なしの元の状態と比較して観察された(図6C)。特に、血管新生促進因子VEGF、FGF−2及びHGFの遺伝子は、MΦsなしで培養したADSCと比較して、それぞれ2.2倍、3.4倍及び2.8倍に増加した。一方、IL−6(32.9倍)、iNOS(196.1倍)、COX−2(68.9倍)の量が増加すると、ADSCの抗炎症性サイトカイン又は酵素の遺伝子発現も有意にアップレギュレートが観察された。」(69頁右欄〜70頁左欄「3.2 The pro-angiogenesis and anti-inflammatory effects of ADSC paracrine factors in vitro」の項)

(摘記10g)
「3.3. 生体内でのADSC含有マクロカプセル化インプラントに対する組織反応
ADSCを搭載したデバイスに対する宿主の反応を評価するために、ADSCスフェロイドを含む又は含まないマクロカプセル化デバイスを腹部に皮下移植し、4週間後に組織形態/組織を比較した。デバイスを取り外すと、拡散チャンバ内のADSCの存在に関係なく、成熟した血管網を含むカプセル組織がデバイス表面に付着しているのが観察された。以前の研究では、微小孔サイズの膜が移植の初期段階で表面の血管新生を可能にしたことが指摘されていたが[12]、線維症は線維層が厚くなるにつれて、時間の経過とともに血管を表面から遠ざけるであろう。私たちの研究では、ADSCスフェロイドを備えたデバイスの周囲の組織は、より白っぽいカプセル組織を持つことが観察された空の組織と比較して透明であることが観察された(図7)。血管形成に関しては、ADSCを搭載したデバイスを取り巻く血管の数と密度は、希少血管のみが見られる細胞のないデバイスを視覚的に上回った。また、血管が外側のPET支持メッシュの細孔を貫通する可能性があることも認められた(図7B)。これは、以前の研究と一致する結果である[12]。
H&E染色の組織切片では、全ての組織反応がPTFE膜の外表面上で発生し、宿主細胞のカプセル化チャンバへの侵入を効果的に阻止した。非細胞性ブランクデバイスのPTFE膜を取り巻く繊維組織の複数の層を特定できた(図8A)。ADSCを搭載したデバイス近傍の組織形態は劇的に異なっていた:線維性組織は薄く、ゆるく、一方、小さな血管が豊富であった(図8B)。拡大された画像では、細胞活性は2種類のインプラントで明確に異なっていた。ブランクデバイスを取り囲む細胞は、ほとんどが線維芽細胞であり、いくつかのマクロファージが膜表面に住んでいた(図8C)。対照的に、ADSCを搭載したデバイスに近接する組織では、リンパ球と肥満細胞が線維芽細胞と血管細胞とともに特定できた(図8D)。
定量的画像分析では、線維性組織はブランクデバイスを取り囲む230μmと同じ厚さだったが、ADSCを含むサンプルでは平均30μmだった(図9A)。装置から100μmの距離内にある血管プロファイル、又はいわゆる密接な血管構造は、カプセル化された細胞への栄養供給を維持するための鍵だった[12,38,39]。閉鎖血管構造の分析により、ADSC搭載デバイス近傍の血管数がブランクデバイスを最大5.6倍超えていることがわかる(図9B)。
拡散チャンバの内腔を調べたとき、ブランクデバイスはin vivoで十分に密封され、宿主からチャンバの細胞浸潤なしで無傷のままだった(図10A)。ADSCを搭載したデバイスでは、生細胞が見つかった。これらの細胞は、回転楕円体の凝集を維持していなかった。代わりに、PTFE膜の内面に平行に、通常は3セル又は4セルの厚さの全ての層が積層された(図10B)。
デバイス周囲の組織の遺伝子発現分析では、血管新生/創傷治癒を促進し、炎症を抑制するいくつかの要因がADSCを搭載したデバイスでアップレギュレートされた(図11)。特に、ADSCを搭載したデバイスから採取した組織を空のデバイスから採取した組織と比較すると、2.4倍のVEGF、8.1倍のIL−10、3.9倍のTGF−β1及び42倍のiNOSが観察された。例外は抗炎症性サイトカインであるIL−6であり、これはADSCグループで有意にダウンレギュレートされていた。炎症性サイトカインであるTNF−αも、ADSCがデバイスにカプセル化されたときに上方制御されていることがわかった。」(70頁左欄〜右欄「3.3 Tissue reaction to ADSC-laden macroencapsulation implants in vivo」の項)

(摘記10h)


図2 (A)免疫分離デバイスの模式図。カプセル化された細胞は、仮にパラクリン産物を放出し、それがカプセル化チャンバの外に拡散して装置外の細胞の挙動を調節していると考えられている。(B)本研究で解析したサイトカインと、FBRでの役割に応じた分類。」(69頁の図2)

(摘記10i)


図3 ADSCスフェロイドの画像と解析:非付着性マイクロプレート上に形成されたスフェロイド(A)とマクロカプセル化装置でカプセル化されたもの(B)の位相差画像、ADSCスフェロイドのSEM画像(C)及びマイクロプレートから採取したADSCスフェロイドのサイズ分布(D)。スケールバー:200μm(A、B)、50μm(C)。」(69頁の図3)

(摘記10j)


図7 移植4週間後に腹側から摘出したインプラントの代表的な肉眼画像:(A)厚い線維組織(矢印)に覆われ、血管構造を持たないブランクデバイス、(B)緻密な微細血管網に覆われたADSC入りデバイス、(挿入図)PETメッシュ(矢印)を貫通する血管(矢印)の拡大図。」(72頁の図7)

エ 甲12に記載された事項

(摘記12a)
「糖尿病のようにホルモン不足により発症する疾患は、原理的には当該ホルモンを適切に分泌する細胞あるいは組織の移植により治療できる。このような細胞・組織の移植部位は、細胞機能を維持し、ホルモンを体循環に送り込むに足る組織血流が確保されれば、体内のどの部位でも良い。この点で、皮下組織は低侵襲の移植部位として最適であるが、血流に乏しい。我々の研究グループは、血管新生を誘導する前処置により、皮下組織が膵島あるいはマクロカプセル化膵島の移植部位として使える事を確認している1−3。また、移植する細胞・組織は、血液や血球と直接に接触する必要はなく、ガス交換やホルモン・低分子栄養素等の透過を許容する半透膜等で免疫隔離された状態でも機能する。このような概念に基づいて、バイオ人工膵島などのバイオ人工臓器が研究されてきた。
間葉系幹細胞(MSC)は、骨髄や脂肪組織等から比較的容易に得られ、in vitroで旺盛な増殖能を示すとともに、中胚葉組織のみならず神経や肝細胞等、広範な分化能を有するとされる。また、多様な増殖因子等を分泌することで血管新生を誘導し、炎症反応を制御するなど、多くの利点があり、各種虚血性疾患や骨・軟骨疾患等の再生医療に広く応用が試みられている。近年、このようなMSCの機能に着日して、MSCや骨髄細胞を肝不全治療や膵島移植に応用する研究が行われている。我々は、MSCの利点を最大限に活用して疾患治療に結びつけるために、膵島細胞とMSCとの融合細胞を作製し、独自に開発したマクロカプセル化技術4と組み合わせてこれを皮下移植することにより、糖尿病の新しい治療法の可能性を探る本研究を立案した。」(「2.研究の目的」の1〜36行)

(2)甲9、10に記載された発明

ア 甲9に記載された発明

上記摘記9a〜c、e、f、hの記載によれば、甲9には以下の発明が記載されていると認められる。

「生きている細胞を保持するのに適した内部チャンバを備える生体分子カプセル化デバイスであって、前記内部チャンバは第1の半透層と第2の半透層との間に配置されると共に、前記第1の半透層及び前記第2の半透層は前記内部チャンバの周囲を取り囲む支持フレームに取り付けられており、前記支持フレームは第1のフレーム要素及び第2のフレーム要素を備えると共に、前記第1のフレーム要素及び前記第2のフレーム要素は協働して、前記第1の半透層及び前記第2の半透層同士の間が所定の離間距離となるように前記第1の半透層及び前記第2の半透層を位置決めしており、第1の半透層及び第2の半透層は、それぞれが内部チャンバと接触した膜層と内部チャンバの外部に対して膜層を覆っているメッシュ層とを備えており、当該メッシュ層は、デバイスの外側に位置して血管新生膜の役割をしてデバイスの周りにおいて宿主組織の脈管構造の成長を促進するものであって、前記内部チャンバ内に、生物的適合性マトリックス材の内部に囲繞された哺乳類細胞である多能性幹細胞又はその派生種が保持されている、生体分子カプセル化デバイス。」(以下「甲9発明1」という。)

また、上記摘記9a〜f、hの記載によれば、甲9には以下の発明が記載されていると認められる。

「生きている哺乳類内で治療用薬剤を産生するための方法であって、甲9発明1に係る生体分子カプセル化デバイス内で治療用薬剤を産生するように改変された細胞をカプセル化するステップを含む、方法。」(以下「甲9発明2」という。)

イ 甲10に記載された発明

上記摘記10a〜10jの記載によれば、甲10には以下の発明が記載されていると認められる。

「インビトロにおいてもインビボにおいても血管新生促進効果を示す、脂肪組織由来間葉系幹細胞(ADSC)含有マイクロカプセル化デバイスであって、膜の厚さ25μmで直径0.45μmの細孔を有する単層構造のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)ろ過膜が免疫保護層として内側に配置された内部容積50μl程度のチャンバ内に、アガロースプレゲル溶液に分散懸濁したADSCが注入され、そのアガロースプレゲル溶液に分散懸濁したADSCが分離されたまま固化している、ADSC含有マイクロカプセル化デバイス。」(以下「甲10発明1」という。)

「インビトロにおいてもインビボにおいても血管新生促進効果を示す、脂肪組織由来間葉系幹細胞(ADSC)含有マイクロカプセル化デバイスの製造方法であって、膜の厚さ25μmで直径0.45μmの細孔を有する単層構造のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)ろ過膜が免疫保護層として内側に配置された内部容積50μl程度のチャンバ内に、アガロースプレゲル溶液に分散懸濁したADSCを注入し、そのアガロースプレゲル溶液に分散懸濁したADSCが分離されたまま固化する、製造方法。」(以下「甲10発明2」という。)

2 取消理由1、2の「甲10を主引用例とする新規性欠如及び進歩性欠如」について

(1)本件発明1と甲10発明との対比、判断

ア 本件発明1と甲10発明1との対比

本件発明1と甲10発明1とを対比する。
甲10発明1の「アガロース」は、本件明細書【0022】の記載によれば、本件発明1の「生体親和性高分子」に相当する。
甲10発明1の「脂肪由来間葉系幹細胞(ADSC)」は、本件発明1の「間葉系幹細胞」に相当する。
甲10発明1の「免疫保護層」は「免疫隔離」のためのものである(摘記10c)から、本件発明1の「免疫隔離膜」に相当する。
甲10発明1の「アガロースプレゲル溶液に分散懸濁したADSCが注入され、そのアガロースプレゲル溶液に分散懸濁したADSCが分離されたまま固化している」ものは、間葉系幹細胞を含む生体親和性高分子である点に限り、本件発明1の「細胞構造体」に相当する。
そうすると、甲10発明1の「膜の厚さ25μmで直径0.45μmの細孔を有する単層構造のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)ろ過膜が免疫保護層として内側に配置された内部容積50μl程度のチャンバ内に、アガロースプレゲル溶液に分散懸濁したADSCが注入され」た「ADSC含有マイクロカプセル化デバイス」は、「免疫隔離膜」の内側に「間葉系幹細胞を含む生体親和性高分子」が注入されたものであることからみて、本件発明1の「細胞構造体を内包する免疫隔離膜」に相当するといえる。
甲10発明1の「ADSC含有マイクロカプセル化デバイス」が「インビトロにおいてもインビボにおいても血管新生促進効果を示す」ことからみて、甲10発明1の「ADSC含有マイクロカプセル化デバイス」は、本件発明1の「血管新生剤」にほかならない。

そうすると、本件発明1と甲10発明1とは、次の一致点及び相違点があると認められる。

<一致点>
「(A)細胞構造体、および
(B)前記細胞構造体を内包する免疫隔離膜、を含む血管新生剤であって、細胞構造体が、生体親和性高分子と複数個の間葉系幹細胞を含む、血管新生剤。」

<相違点1>
細胞構造体が、本件発明1では、「複数個の生体親和性高分子ブロック」「を含み、複数個の前記間葉系幹細胞の隙間に、少なくとも1個の前記生体親和性高分子ブロックが配置されている細胞構造体として、含まれている」ものであるのに対し、甲10発明1では、「アガロースプレゲル溶液に分散懸濁したADSCが注入され、そのアガロースプレゲル溶液に分散懸濁したADSCが分離されたまま固化している」ものである点。

イ 当審の判断

上記相違点1について検討する。

(ア)甲10発明1の「アガロースプレゲル溶液に分散懸濁した脂肪組織由来間葉系幹細胞(ADSC)が注入され、そのアガロースプレゲル溶液に分散懸濁したADSCが分離されたまま固化している」とは、甲10の図2、3によれば、アガロースプレゲル溶液が固化したアガロースゲルは、分離することなく一体としてADSCを担持していることが看取できる(摘記10h、i)。
そうすると、甲10発明1は、アガロースゲルが、複数個のブロックとなり、複数個の間葉系幹細胞の隙間に、そのブロックが配置されているものとはいえない。
したがって、上記相違点1は、実質的な相違点であり、本件発明1は、甲10に記載された発明であるとはいえない。

(イ)甲10には、細胞構造体を内包する免疫隔離膜を含む血管新生剤において、細胞構造体を「複数個の生体親和性高分子ブロックと、少なくとも一種の複数個の間葉系幹細胞とを含み、複数個の前記間葉系幹細胞の隙間に、少なくとも1個の前記生体親和性高分子ブロックが配置されている細胞構造体」とすることは記載されておらず、このことが本件優先日当時の技術常識であるともいえないから、甲10発明1において、アガロースゲルをブロックとして複数個の間葉系幹細胞の隙間に配置させ、相違点1に係る本件発明1の構成を備えたものとすることは、当業者といえども容易になし得たとはいえない。
そして、本件明細書には、本件発明1に係る細胞構造体と免疫隔離膜を有する細胞移植用デバイス(実施例1〜実施例5)が、細胞構造体のみを有する細胞移植用デバイス(比較例1)や細胞構造体を含まない細胞移植用デバイス(比較例2)と比較して、多くの血管新生を誘導していることが示されており、本件発明1の効果は、甲10の記載から当業者が予測できるものとはいえない。
したがって、本件発明1は、甲10に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件発明2〜5、8〜14と甲10発明との対比、判断

ア 本件発明2〜5、8〜14と甲10発明との対比

本件発明2〜5、8〜14は、本件発明1において、更に、間葉系幹細胞の種類、免疫隔離膜の形状や材質、生体親和性高分子ブロックの形状等を限定したものであるから、本件発明2〜5、8〜14と甲10発明1とは、少なくとも上記(1)アで指摘した相違点1の点で相違するものである。

イ 当審の判断

上記(1)イで説示したとおり、上記相違点1は、実質的な相違点であるから、本件発明2〜3、5、10、12、13は、甲10に記載された発明であるとはいえない。

また、甲6、9、12をみても、甲10発明1において、アガロースゲルをブロックとして複数個の間葉系幹細胞の隙間に配置させ、相違点1に係る本件発明2〜5、8〜14の構成を備えたものとすることは、当業者といえども容易になし得たとはいえない。
そして、本件発明2〜5、8〜14の効果も、甲10の記載から当業者が予測できるものとはいえない。
したがって、相違点1以外の相違点について検討するまでもなく、本件発明2〜5、8〜14は、甲10に記載された発明及び甲6、9、12記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)本件発明15と甲10発明2との対比、判断

ア 本件発明15と甲10発明2との対比

本件発明15と甲10発明2とを対比する。
上記(1)アを踏まえると、甲10発明2の「膜の厚さ25μmで直径0.45μmの細孔を有する単層構造のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)ろ過膜が免疫保護層として内側に配置された内部容積50μl程度のチャンバ内」に「アガロースプレゲル溶液に分散懸濁したADSCを注入」する工程は、本件発明15の「細胞構造体を免疫隔離膜で内包する工程」を含むものであるといえるから、本件発明15と甲10発明2とは、次の一致点及び相違点があると認められる。

<一致点>
「(A)細胞構造体、および
(B)前記細胞構造体を内包する免疫隔離膜、を含む血管新生剤であって、細胞構造体が、生体親和性高分子と複数個の間葉系幹細胞とを含む、血管新生剤の製造方法であって、細胞構造体を免疫隔離膜で内包する工程を含む、血管新生剤の製造方法。」

<相違点1’>
細胞構造体が、本件発明15では、「複数個の生体親和性高分子ブロックと、少なくとも一種の複数個の間葉系幹細胞とを含み、複数個の前記間葉系幹細胞の隙間に、少なくとも1個の前記生体親和性高分子ブロックが配置されている細胞構造体として、含まれている」ものであるのに対し、甲10発明2では、「アガロースプレゲル溶液に分散懸濁したADSCを注入し、そのアガロースプレゲル溶液に分散懸濁したADSCが分離されたまま固化する」ものである点。

イ 当審の判断

相違点1’は、上記(1)アに示した相違点1と同じである。
そうすると、相違点1’は、上記(1)イで説示したのと同様に実質的な相違点であるから、本件発明15は、甲10に記載された発明であるとはいえない。

また、甲6、9、12をみても、甲10発明2において、アガロースゲルをブロックとして複数個の間葉系幹細胞の隙間に配置させ、相違点1’に係る本件発明15の構成を備えたものとすることは、当業者といえども容易になし得たとはいえない。
そして、本件発明15の効果も、甲10の記載から当業者が予測できるものとはいえない。
したがって、本件発明15は、甲10に記載された発明及び甲6、9、12に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

3 取消理由2の「甲9を主引用例とする進歩性欠如」について

(1)本件発明1と甲9発明1との対比、判断

ア 本件発明1と甲9発明1との対比

本件発明1と甲9発明1とを対比する。
甲9発明1の「哺乳類細胞である多能性幹細胞又はその派生種」と本件発明1の「間葉系幹細胞」とは、「幹細胞」の一種である限りにおいて一致する。
甲9発明1の「生物的適合性マトリックス材の内部に囲繞された・・・又はその派生種」と本件発明1の「複数個の生体親和性高分子ブロックと、少なくとも一種の複数個の間葉系幹細胞とを含み、複数個の前記間葉系幹細胞の隙間に、少なくとも1個の前記生体親和性高分子ブロックが配置されている細胞構造体」とは、甲9発明1の「生物的適合性マトリックス材」には、生体親和性高分子である(本件明細書【0022】)アガロースやゼラチンが含まれる(摘記9e)ことからみて、幹細胞を含む生体親和性高分子である点に限り一致する。
甲9発明1の膜層は、生物学的に活性な薬剤は通過でき、カプセル化された細胞や宿主の免疫系の細胞は通過できないものである(摘記9g)から、本件発明1の「免疫隔離膜」に相当する。また、甲9発明1のメッシュ層は、デバイスの外側に位置して血管新生膜の役割をしてデバイスの周りにおいて宿主組織の脈管構造の成長を促進するものであるから、甲9発明1の生体分子カプセル化デバイスは、本件発明1の「血管新生剤」に相当する。
甲9発明1の「内部チャンバ」は、「第1の半透層と第2の半透層との間に配置される」ものであることからみて、甲9発明1の「生きている細胞を保持するのに適した内部チャンバを備える生体分子カプセル」は、「免疫隔離膜」で「生体親和性高分子と幹細胞とを含む細胞構造体」の周囲を取り囲んだものであるといえるから、本件発明1の「細胞構造体を内包する免疫隔離膜」に相当する。

そうすると、本件発明1と甲9発明1とは、次の一致点及び相違点があると認められる。

<一致点>
「(A)細胞構造体、および
(B)前記細胞構造体を内包する免疫隔離膜、を含む血管新生剤であって、細胞構造体が、生体親和性高分子と複数個の幹細胞を含む、血管新生剤。」

<相違点2>
細胞構造体に含まれる幹細胞が、本件発明1では「間葉系幹細胞」であるのに対し、甲9発明1においては、「哺乳類細胞である多能性幹細胞又はその派生種」である点。

<相違点3>
細胞構造体が、本件発明1では、「複数個の生体親和性高分子ブロック」「を含み」、「複数個の」「幹細胞の隙間に、少なくとも1個の前記生体親和性高分子ブロックが配置されている」ものであるのに対し、甲9発明1では、「生物的適合性マトリックス材の内部に囲繞された哺乳類細胞である多能性幹細胞又はその派生種が保持されている」ものである点。

イ 当審の判断

事案に鑑み、まず相違点3について検討する。

甲9には、「生物的適合性マトリックス材の内部に囲繞された」状態について、マトリックスは細胞の装填と同時にチャンバに追加されることや、細胞は先ずマトリックスと合成され、次いでマトリックスはチャンバ内に装填される細胞を備えることがあることが記載されている(摘記9e)ものの、アガロースゲルを複数個のブロックとして、複数個の間葉系幹細胞の隙間に、そのブロックを配置することは記載されておらず、甲10、6、12をみても、このことが本件優先日当時の技術常識であるともいえない。
そうすると、甲9発明1において、生物的適合性マトリックス材を複数のブロックとして幹細胞の隙間に配置させ、相違点3に係る本件発明1の構成を備えたものとすることは、当業者といえども容易になし得たとはいえない。
そして、本件明細書には、本件発明に係る細胞構造体と免疫隔離膜を有する細胞移植用デバイス(実施例1〜実施例5)が、細胞構造体のみを有する細胞移植用デバイス(比較例1)や細胞構造体を含まない細胞移植用デバイス(比較例2)と比較して、多くの血管新生を誘導していることが示されており、本件発明1の効果は、甲9の記載から当業者が予測できるものとはいえない。
したがって、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲9に記載された発明及び甲10、6、12に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件発明2〜5、8〜14と甲9発明1との対比、判断

ア 本件発明2〜5、8〜14と甲9発明1との対比

本件発明2〜5、8〜14は、本件発明1において、更に、間葉系幹細胞の種類、免疫隔離膜の形状や材質、生体親和性高分子ブロックの形状等を限定したものであるから、本件発明2〜5、8〜14と甲9発明1とは、少なくとも上記(1)アで指摘した相違点3の点で相違するものである。

イ 当審の判断

上記(1)イで説示したとおり、甲10、6、12をみても、甲9発明1において、生物的適合性マトリックス材を複数のブロックとして幹細胞の隙間に配置させ、相違点3に係る本件発明2〜5、8〜14の構成を備えたものとすることは、当業者といえども容易になし得たとはいえない。
そして、本件発明2〜5、8〜14の効果も、甲9の記載から当業者が予測できるものとはいえない。
したがって、相違点3以外の相違点について検討するまでもなく、本件発明2〜5、8〜14は、甲9に記載された発明及び甲10、6、12に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)本件発明15と甲9発明2との対比、判断

ア 本件発明15と甲9発明2との対比

本件発明15と甲9発明2とを対比する。
上記(1)アを踏まえると、甲9発明2の「生体分子カプセル化デバイス内」で「治療用薬剤を産生するように改変された細胞をカプセル化するステップ」は、本件発明15の「細胞構造体を免疫隔離膜で内包する工程」を含むものであるといえるから、本件発明15と甲9発明2とは、次の一致点及び相違点があると認められる。

<一致点>
「(A)細胞構造体、および
(B)前記細胞構造体を内包する免疫隔離膜、を含む血管新生剤であって、細胞構造体が、生体親和性高分子と複数個の幹細胞を含む、血管新生剤の製造方法であって、細胞構造体を免疫隔離膜で内包する工程を含む、血管新生剤の製造方法。」

<相違点2’>
細胞構造体に含まれる幹細胞が、本件発明15では「間葉系幹細胞」であるのに対し、甲9発明2においては、「哺乳類細胞である多能性幹細胞又はその派生種」である点。

<相違点3’>
細胞構造体が、本件発明15では、「複数個の生体親和性高分子ブロック」「を含み、複数個の」「幹細胞の隙間に、少なくとも1個の前記生体親和性高分子ブロックが配置されている」ものであるのに対し、甲9発明2では、「生物的適合性マトリックス材の内部に囲繞された哺乳類細胞である多能性幹細胞又はその派生種が保持されている」ものである点。

イ 当審の判断

事案に鑑み、まず相違点3’について検討する。
相違点3’は、上記(1)アに示した相違点3と同じである
そうすると、相違点3’は、上記(1)イで説示したのと同様に、甲10、6、12をみても、甲9発明2において、生物的適合性マトリックス材を複数のブロックとして幹細胞の隙間に配置させ、相違点3’に係る本件発明15の構成を備えたものとすることは、当業者といえども容易になし得たとはいえない。
そして、本件発明15の効果も、甲9の記載から当業者が予測できるものとはいえない。
したがって、本件発明15は、相違点2’について検討するまでもなく、甲9に記載された発明及び甲10、6、12に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

4 取消理由3(明確性要件違反)について

請求項1には、「生体親和性高分子ブロック」を含む細胞構造体を含む、血管新生剤に係る発明が記載されている。
請求項15には、「生体親和性高分子ブロック」を含む細胞構造体を含む、血管新生剤の製造方法に係る発明が記載されている。
ここで、本件訂正後の本件明細書【0022】には、「・・・本発明で用いる生体親和性高分子は、生体に親和性を有するものであれば、生体内で分解されるか否かは特に限定されないが、生分解性高分子であることが好ましい。非生分解性材料として具体的には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリウレタン、ポリプロピレン、ポリエステル、塩化ビニル、ポリカーボネート、アクリル、シリコーン、およびMPC(2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン)などが挙げられる。・・・」と記載されていることからみて、当業者は、本件発明の「生体親和性高分子」は、チタンやステンレスなどの金属を含まない生体親和性高分子であるという技術的な範囲を明確に把握することができるものである。
請求項1を引用して記載する請求項2〜14についても同様である。
よって、本件発明1〜15は、明確である。

第6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由についての、当審の判断

1 甲10を主引用例とする新規性欠如及び進歩性欠如について

(1)甲10を主引用例とする新規性欠如について(本件発明4、6〜9、11、14)

本件発明4、6〜9、11、14は、本件発明1において、更に、免疫隔離膜の形状や材質、生体親和性高分子ブロックの形状等を限定したものであるから、本件発明4、6〜9、11、14と甲10発明1とは、少なくとも上記第5 2(1)アで指摘した相違点1の点で相違するものである。

上記相違点1は、上記第5 2(1)イで説示したとおり、実質的な相違点であるから、本件発明4、6〜9、11、14は、甲10に記載された発明であるとはいえない。

(2)甲10を主引用例とする進歩性欠如について(本件発明6、7)

上記(1)のとおりであるから、本件発明6、7と甲10発明1とは、少なくとも上記第5 2(1)アで指摘した相違点1の点で相違するものである。
そして、甲1〜9、11、12をみても、甲10発明1において、アガロースゲルをブロックとして複数個の間葉系幹細胞の隙間に配置させ、相違点1に係る本件発明6、7の構成を備えたものとすることは、当業者といえども容易になし得たとはいえない。
そして、本件発明6、7の効果も、甲10の記載から当業者が予測できるものとはいえない。
したがって、相違点1以外の相違点について検討するまでもなく、本件発明6、7は、甲10に記載された発明及び甲1〜9、11、12に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

2 甲9を主引用例とする新規性欠如及び進歩性欠如について

(1)甲9を主引用例とする新規性欠如について(本件発明1〜15)

本件発明1は、少なくとも上記第5 3(1)アで指摘した相違点3の点で、甲9発明1と相違するものである。
本件発明2〜14は、本件発明1において、更に、間葉系幹細胞の種類、免疫隔離膜の形状や材質、生体親和性高分子ブロックの形状等を限定したものであるから、本件発明2〜14と甲9発明1とは、少なくとも上記第5 3(1)アで指摘した相違点3の点で相違するものである。
本件発明15は、少なくとも上記第5 3(3)アで指摘した相違点3’の点で、甲9発明2と相違するものである。

相違点3について検討すると、甲9には、「生物的適合性マトリックス材」を複数のブロックとして、幹細胞の隙間に配置することは記載されておらず、このことが本願優先日当時の技術常識であるともいえない。相違点3’についても同様である。
したがって、上記相違点3及び相違点3’は、実質的な相違点であり、本件発明1〜15は、甲9に記載された発明であるとはいえない。

(2)甲9を主引用例とする進歩性欠如について(本件発明6、7)

本件発明6、7は、本件発明1を限定した本件発明3において、多孔質膜の形状等を限定したものであるから、本件発明6、7と甲9発明1とは、少なくとも上記第5 3(1)アで指摘した相違点3の点で相違するものである。
そして、甲1〜8、10〜12をみても、甲9発明1において、生物的適合性マトリックス材を複数のブロックとして幹細胞の隙間に配置させ、相違点3に係る本件発明6、7の構成を備えたものとすることは、当業者といえども容易になし得たとはいえない。
そして、本件発明6、7の効果も、甲9の記載から当業者が予測できるものとはいえない。
したがって、相違点3以外の相違点について検討するまでもなく、本件発明6、7は、甲9に記載された発明及び甲1〜8、10〜12に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

3 甲8を主引用例とする新規性欠如及び進歩性欠如について(本件発明1〜15)

(1)甲8に記載された発明

甲8の記載(請求項1〜8、19、20、[0063]〜[0069])によれば、甲8には以下の発明が記載されていると認められる。

「ナノファイバーファブリックの少なくとも1つの層、ナノファイバーファブリックに埋め込まれた複数のブタ間葉系幹細胞及び複数のブタ間葉系幹細胞由来のパラクリン因子の少なくとも1つ、からなる、血管新生を促進するための治療パッチであって、ナノファイバーファブリックは生物学的材料を含む、血管新生を促進するための治療パッチ。」(以下「甲8発明1」という。)

「ナノファイバーファブリックの少なくとも1つの層、ナノファイバーファブリックに埋め込まれた複数のブタ間葉系幹細胞及び複数のブタ間葉系幹細胞由来のパラクリン因子の少なくとも1つ、からなる、血管新生を促進するための治療パッチであって、ナノファイバーファブリックは生物学的材料を含む、血管新生を促進するための治療パッチの製造方法であって、幹細胞を治療パッチに播種し、治療パッチで幹細胞をインキュベートする、血管新生を促進するための治療パッチの製造方法。」(以下「甲8発明2」という。)

(2)甲8に記載された発明との対比、判断

ア 本件発明1について

ア−1 本件発明1と甲8発明1との対比

本件発明1と甲8発明1とを対比する。
甲8発明1の「ブタ間葉系幹細胞」は、本件発明1の「間葉系幹細胞」に相当する。
甲8発明1の「ナノファイバーファブリックの少なくとも1つの層」は、[0036]に記載されるように、複数の細孔を有するものであって、細孔は、どの免疫細胞直径よりも小さくてもよく、それによって埋め込まれた細胞を免疫攻撃から保護するものであるから、本件発明1の「免疫隔離膜」に相当する。
甲8発明1の「ナノファイバーファブリックに埋め込まれた複数のブタ間葉系幹細胞」は、ブタ間葉系幹細胞がナノファイバーファブリックの内又は表面に固定されていることを意味する([0028])といえるから、ナノファイバーファブリックの内部にブタ間葉系幹細胞が存在する状態、すなわち、「免疫隔離膜」に内包されたブタ間葉系幹細胞を包含するものである。
甲8発明1の「血管新生を促進するための治療パッチ」は、本件発明1の「血管新生剤」にほかならない。

そうすると、本件発明1と甲8発明1とは、次の一致点及び相違点があると認められる。

<一致点>
「(A)間葉系幹細胞、および
(B)前記間葉系幹細胞を内包する免疫隔離膜、を含む血管新生剤。」

<相違点8>
本件発明1では、「複数個の生体親和性高分子ブロックと、少なくとも一種の複数個の間葉系幹細胞とを含み、複数個の前記間葉系幹細胞の隙間に、少なくとも1個の前記生体親和性高分子ブロックが配置されている細胞構造体」を含むものであるのに対し、甲8発明1では、そのような細胞構造体が特定されていない点。

ア−2 当審の判断

上記相違点8について検討する。

(ア)甲8発明1の「ナノファイバーファブリックに埋め込まれた複数のブタ間葉系幹細胞」は、ブタ間葉系幹細胞がナノファイバーファブリックの内又は表面に固定されていることを意味する([0028])といえるから、ナノファイバーファブリックとして一体となって分離することなくブタ間葉系幹細胞を固定していると解される。
そうすると、甲8発明1は、本件発明1の「複数個の生体親和性高分子ブロックと、少なくとも一種の複数個の間葉系幹細胞とを含み、複数個の前記間葉系幹細胞の隙間に、少なくとも1個の前記生体親和性高分子ブロックが配置されている細胞構造体」を含むとはいえないから、上記相違点8は、実質的な相違点であり、本件発明1は、甲8に記載された発明であるとはいえない。

(イ)甲8には、生物学的材料を含むナノファイバーファブリックを複数個のブロックとして、複数個の間葉系幹細胞の隙間に、そのブロックを配置することは記載されておらず、甲6、9、10、12を含むいずれの甲号証をみても、このことが本願優先日当時の技術常識であるともいえないから、甲8発明1の血管新生を促進するための治療パッチにおいて、生物学的材料を含むナノファイバーファブリックをブロックとして間葉系幹細胞の隙間に配置させ、相違点8に係る本件発明1の構成を備えたものとすることは、当業者といえども容易になし得たとはいえない。
そして、本件発明1の上記第5 2(1)イ(イ)に示した効果は、甲8の記載から当業者が予測できるものとはいえない。
したがって、本件発明1は、甲8に記載された発明及び甲1〜7、9〜12に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件発明2〜14について

イ−1 本件発明2〜14と甲8発明1との対比

本件発明2〜14は、本件発明1において、更に、間葉系幹細胞の種類、免疫隔離膜の形状や材質、生体親和性高分子ブロックの形状等を限定したものであるから、本件発明2〜14と甲8発明1とは、少なくとも上記ア−1で指摘した相違点8の点で相違するものである。

イ−2 当審の判断

上記ア−2で説示したとおり、上記相違点8は、実質的な相違点であり、本件発明2〜14は、甲8に記載された発明であるとはいえない。

また、いずれの甲号証をみても、甲8発明1の血管新生を促進するための治療パッチにおいて、生物学的材料を含むナノファイバーファブリックをブロックとして間葉系幹細胞の隙間に配置させ、相違点8に係る本件発明2〜14の構成を備えたものとすることは、当業者といえども容易になし得たとはいえない。
そして、本件発明2〜14の効果も、甲8の記載から当業者が予測できるものとはいえない。
したがって、相違点8以外の相違点について検討するまでもなく、本件発明2〜14は、甲8に記載された発明及び甲1〜7、9〜12に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 本件発明15について

ウ−1 本件発明15と甲8発明2との対比

本件発明15と甲8発明2とを対比する。

上記ア−1を踏まえると、本件発明15と甲8発明2とは、次の一致点及び相違点があると認められる。

<一致点>
「(A)間葉系幹細胞、および
(B)前記間葉系幹細胞を内包する免疫隔離膜、を含む血管新生剤の製造方法であって、間葉系幹細胞を免疫隔離膜で内包する工程を含む、血管新生剤の製造方法。」

<相違点8’>
本件発明15では、「複数個の生体親和性高分子ブロックと、少なくとも一種の複数個の間葉系幹細胞とを含み、複数個の前記間葉系幹細胞の隙間に、少なくとも1個の前記生体親和性高分子ブロックが配置されている細胞構造体」を含むものであるのに対し、甲8発明2では、対応する細胞構造体を含むことが特定されていない点。

<相違点8’’>
本件発明15では、「細胞構造体を免疫隔離膜で内包する工程」を含むものであるのに対し、甲8発明2では、「幹細胞を治療パッチに播種し、治療パッチで幹細胞をインキュベートする」ものである点。

ウ−2 当審の判断

上記相違点8’及び相違点8’’について検討する。
相違点8’は、上記ア−1に示した相違点8と同じである。
そうすると、相違点8’は、上記ア−2で説示したのと同様に実質的な相違点であるから、本件発明15は、甲8に記載された発明であるとはいえない。

また、いずれの甲号証をみても、甲8発明2の「血管新生を促進するための治療パッチ」において、生物学的材料を含むナノファイバーファブリックをブロックとして間葉系幹細胞の隙間に配置させ、相違点8’に係る本件発明15の構成を備えたものとすることは、当業者といえども容易になし得たとはいえない。
そして、本件発明15の効果も、甲8の記載から当業者が予測できるものとはいえない。
したがって、本件発明15は、相違点8’’について検討するまでもなく、甲8に記載された発明及び甲1〜7、9〜12に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

4 甲11を主引用例とする新規性欠如及び進歩性欠如について(本件発明1〜15)

(1)甲11に記載された発明

甲11の記載(実施例5、10〜16、図4、5)によれば、甲11には以下の発明が記載されていると認められる。

「リコンビナントペプチドであるCBE3を用いた多孔質体から製造されたペプチドブロックであるCBE3ブロックと、ヒト骨髄由来間葉系幹細胞(hMSC)からなるモザイク細胞塊であって、マウスに移植することによってモザイク細胞塊内部に血管を誘引することができる、モザイク細胞塊。」(以下「甲11発明」という。)

(2)甲11に記載された発明との対比、判断

ア 本件発明1について

ア−1 本件発明1と甲11発明との対比

本件発明1と甲11発明とを対比する。

甲11発明の「ヒト骨髄由来間葉系幹細胞(hMSC)」は、本件発明1の「間葉系幹細胞」に相当する。
甲11発明の「リコンビナントペプチドであるCBE3を用いた多孔質体から製造されたペプチドブロックであるCBE3ブロックと、ヒト骨髄由来間葉系幹細胞(hMSC)からなるモザイク細胞塊」は、ヒト骨髄由来間葉系幹細胞(hMSC)を含む増殖培地にCBE3ブロックを加えて作製されたものであって([0147][実施例10])、更に培養を行うことで、モザイク細胞塊同士の間を、外周部に配された細胞が結合させることで、モザイク細胞塊が自然に融合したものとなる([0151][実施例12]、[0152][実施例13])ものであるから、本件発明1の「複数個の生体親和性高分子ブロックと、少なくとも一種の複数個の間葉系幹細胞とを含み、複数個の前記間葉系幹細胞の隙間に、少なくとも1個の前記生体親和性高分子ブロックが配置されている細胞構造体」に相当する。
甲11発明の「モザイク細胞塊」は、「マウスに移植することによってモザイク細胞塊内部に血管を誘引することができる」ものであるから、血管新生剤にほかならない。

そうすると、本件発明1と甲11発明とは、次の一致点及び相違点があると認められる。

<一致点>
「(A)細胞構造体を含む血管新生剤であって、細胞構造体が、複数個の生体親和性高分子ブロックと、少なくとも一種の複数個の間葉系幹細胞とを含み、複数個の前記間葉系幹細胞の隙間に、少なくとも1個の前記生体親和性高分子ブロックが配置されている細胞構造体として、含まれている、血管新生剤。」

<相違点11>
本件発明1では、血管新生剤が「(B)前記細胞構造体を内包する免疫隔離膜」を含むものであるのに対し、甲11発明では、血管新生剤が「(B)前記細胞構造体を内包する免疫隔離膜」を含まないものである点。

ア−2 当審の判断

上記相違点11について検討する。

(ア)本件発明1が「細胞構造体を内包する免疫隔離膜」を含むものであるのに対し、甲11発明は「細胞構造体を内包する免疫隔離膜」を含むものではないから、両者は異なるものであることは明らかである。
したがって、本件発明1は、甲11に記載された発明であるとはいえない。

(イ)甲11発明のモザイク細胞塊を移植するとモザイク細胞塊内部に血管が誘引され、血管が形成されるものであり、甲11発明に係るモザイク細胞塊の周囲に、血管を構成する細胞を通過させない免疫隔離膜を設けると、モザイク細胞塊中の血管の形成を妨げることになることは明らかであるから、甲11発明に係るモザイク細胞塊の周囲に、血管を構成する細胞を通過させない免疫隔離膜を設けることについては、阻害要因があるといえる。
そうすると、いずれの甲号証を参酌しても、甲11に接した当業者が、甲11発明のモザイク細胞塊において、モザイク細胞塊を内包する免疫隔離膜を設けることを動機付けられたとはいえない。
そして、本件発明1の上記第5 2(1)イ(イ)に示した効果は、甲11の記載から当業者が予測できるものとはいえない。
したがって、本件発明1は、甲11に記載された発明及び甲1〜10、12に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件発明2〜14について

イ−1 本件発明2〜14と甲11発明との対比

本件発明2〜14は、本件発明1において、更に、間葉系幹細胞の種類、免疫隔離膜の形状や材質、生体親和性高分子ブロックの形状等を限定したものであるから、本件発明2〜14と甲11発明とは、少なくとも上記ア−1で指摘した相違点11の点で相違するものである。

イ−2 当審の判断

上記ア−2で説示したとおり、上記相違点11は、実質的な相違点であり、本件発明2〜14は、甲11に記載された発明であるとはいえない。

また、いずれの甲号証を参酌しても、甲11に接した当業者が、甲11発明のモザイク細胞塊において、モザイク細胞塊を内包する免疫隔離膜を設けることを動機付けられたとはいえない。
そして、本件発明2〜14の効果も、甲11の記載から当業者が予測できるものとはいえない。
したがって、相違点11以外の相違点について検討するまでもなく、本件発明2〜14は、甲11に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 本件発明15について

ウ−1 本件発明15と甲11発明との対比

本件発明15は、「細胞構造体を免疫隔離膜で内包する工程」を含む、本件発明1の血管新生剤の製造方法に係るものである。
そうすると、本件発明15と甲11発明とは、上記ア−1で述べた一致点及び相違点に加えて、以下の点で相違する。

<相違点11’>
本件発明15は、「細胞構造体を免疫隔離膜で内包する工程」を含む血管新生剤の製造方法の発明であるのに対し、甲11発明は、細胞構造体からなる血管新生剤の発明である点。

ウ−2 当審の判断

上記相違点11’について検討する。
本件発明15は、製造方法の発明であるから、物の発明である甲11発明と異なるものであることは明らかである。
よって、本件発明15は、甲11に記載された発明であるとはいえない。

また、上記ア−2(イ)で説示したように、甲11発明に係るモザイク細胞塊の周囲に、血管を構成する細胞を通過させない免疫隔離膜を設けることについては、阻害要因があるといえる。
そうすると、いずれの甲号証を参酌しても、甲11に接した当業者が、甲11発明のモザイク細胞塊において、モザイク細胞塊を免疫隔離膜で内包する工程を含む製造方法とすることを動機付けられたとはいえない。
そして、本件発明15の効果も、甲11の記載から当業者が予測できるものとはいえない。
したがって、本件発明15は、甲11に記載された発明及び甲1〜10、12に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

5 本件特許の請求項1〜15に係る発明に対する、サポート要件違反について

(1)当審の判断

本件明細書の【発明が解決しようとする課題】【0008】の記載によれば、本件発明の課題は、「宿主の細胞を透過させずに免疫拒絶反応からは保護された状態で、間葉系幹細胞による血管新生効果を十分に発揮できる血管新生剤、およびその製造方法を提供すること」にあるといえる。
ここで、発明の詳細な説明には、間葉系幹細胞として、脂肪由来間葉系幹細胞や骨髄由来間葉系幹細胞が使用できることが記載され(【0020】)、免疫隔離膜については、酸素、水、グルコース等の栄養分は透過させ、免疫拒絶反応に関与する免疫細胞等の透過を阻止する選択透過性の膜であって、用途に応じて選択透過性を調整すればよいことが記載されている(【0086】〜【0090】)。
また、実施例においては、ポリスルホン多孔質膜を免疫隔離膜としたデバイス(参考例13)に、マウス脂肪由来間葉系幹細胞(mADSC)と生体親和性高分子ブロック(参考例3)とともに培養して得られた均一な細胞構造体(参考例7)を封入して細胞移植用デバイス(血管新生剤)を作成したこと、その細胞移植用デバイス(血管新生剤)をマウスの背部皮下に埋植し、2週経過後に移植部位における組織学的な評価を実施したところ、細胞移植用デバイス近傍に局所的に多数の新生血管が誘導されていることが具体的に確認されたことが記載されている(【0172】[実施例1]、【0175】[実施例2]、【0176】[実施例3])。
上記の発明の詳細な説明の記載によれば、実施例1〜3において、具体的に確認された細胞移植用デバイス(血管新生剤)以外にも、本件発明1において特定された、「細胞構造体」と「免疫隔離膜」とを備えるものであれば、上記課題が解決できることを当業者であれば認識できる。
本件発明2〜15についても同様である。

(2)申立人の主張について

申立人の主張について検討する。
申立人は、申立書において、本件明細書において、具体的に課題を解決したものと認められるのは、特定の細胞構造体と特定の免疫隔離膜とを組み合わせた実施例のもののみである一方、本件発明1で規定された細胞構造体と免疫隔離膜は、いずれも極めて広範な概念を含むものであり、その配置も極めて広範な配置形態を包含するものであるから、本件明細書の実施例のような極めて特定の例のみをもって、前記課題が解決できるものとは到底認められない旨、主張している(申立書35〜39頁の「(A)サポート要件違反について」)。
しかしながら、上記のとおり、当業者は、本件明細書の記載から、本件発明が「宿主の細胞を透過させずに免疫拒絶反応からは保護された状態で、間葉系幹細胞による血管新生効果を十分に発揮できる血管新生剤」であることを理解できる。
また、申立人は、実施例以外の本件発明の血管新生剤が、本件発明の課題を解決できないとする具体的な理由を何ら示していない。
よって、申立人の上記主張を採用することはできない。

第7 むすび

以上のとおりであるから、令和4年1月25日付け取消理由通知書に記載した取消理由又は特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、請求項1〜15に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1〜15に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
別掲 【配列表】

 
発明の名称 (54)【発明の名称】血管新生剤およびその製造方法
【技術分野】
【0001】
本発明は、間葉系幹細胞および間葉系幹細胞を内包する免疫隔離膜を含む、血管新生剤に関する。本発明はさらに、血管新生剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、間葉系幹細胞(MSC)を用いた再生医療および細胞治療の研究が盛んになされている。例えば、特許文献1にはMSCを経静脈的に投与することによって、炎症性腸疾患を予防・治療するための方法が開示されている。いくつかの臨床研究や臨床試験も実施されている。しかしながら、現実的には十分な治療効果を示せていないことが分かってきた(非特許文献1)。また、特許文献2には、低酸素培養されたMSCを投与することによって、肝疾患を治療するための方法が開示されている。さらに、特許文献3には、模擬微小重力環境下で培養したMSCが中枢神経系疾患治療に好適であることが開示されている。さらに虚血性疾患に対する血管新生用途は広く研究がなされ、例えば、特許文献4には、脂肪由来間葉系幹細胞を含む虚血性肢疾患治療剤が開示されている。
【0003】
産業利用を考えた際に、工業的にMSCを取得していくことが課題である。その解決として、患者自身の細胞ではなく、他人の細胞(他家細胞)を用いることが現実的であるといわれており、実際の臨床研究や臨床試験においても他家MSCを用いた検討が多く実施されている。しかしながら、古くからの臓器移植の課題と同様、他家細胞を用いた治療では、患者自身の免疫反応により、移植された他家MSCが拒絶され排除されることが大きな課題となる。MSC自体が比較的免疫拒絶を受けにくい性質を有するとも言われるが、現実的には拒絶を受けることは当然のことであり、時間とともに体内から排除されてしまう。免疫抑制剤を併用することは臓器移植の場合と同様に一つの解決手段となるが、免疫抑制剤による副作用と永続的な使用が大きな負担となり、望ましい解決手段ではない。
【0004】
そこで、免疫抑制剤を用いずに免疫反応を逃れる方法が求められていた。一つの方法として免疫隔離膜という選択透過性の膜が、主に糖尿病治療を想定した膵島移植用デバイスとして研究されてきた。例えば、特許文献5には、インスリンを産生する膵島を移植するための免疫隔離膜デバイスが開示されているが、MSCを移植する方法は開示されていない。
【0005】
また、特許文献6には、生物活性物質を、それを必要とする対象に提供する埋め込み可能なデバイスであって、生物活性物質を産生可能な1種または複数の細胞をカプセル化している生体適合性の半透性ポーチと接触している微小血管構造体を備えたデバイスが記載されている。特許文献6記載のデバイスは、移植細胞の生存能及び機能を向上させるためのものであり、免疫隔離デバイスでもよいことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−7321号公報
【特許文献2】特開2016−138092号公報
【特許文献3】特許第5606008号公報
【特許文献4】特許第5290281号公報
【特許文献5】特表平7−508187号公報
【特許文献6】特表2008−541953号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Aliment Pharmacol Ther 2017;45:205−221
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、宿主の細胞を透過させずに免疫拒絶反応からは保護された状態で、間葉系幹細胞による血管新生効果を十分に発揮できる血管新生剤、およびその製造方法を提供することを解決すべき課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意検討した結果、間葉系幹細胞を免疫隔離膜に内包させることによって、免疫拒絶反応からは保護された状態で、間葉系幹細胞による血管新生効果を十分に発揮できる血管新生剤を提供できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明によれば、以下の発明が提供される。
(1)(A)間葉系幹細胞、および(B)上記間葉系幹細胞を内包する免疫隔離膜、を含む血管新生剤。
(2)上記間葉系幹細胞が、脂肪由来間葉系幹細胞または骨髄由来間葉系幹細胞である、(1)に記載の血管新生剤。
(3)上記免疫隔離膜が、ポリマーを含む多孔質膜である、(1)または(2)に記載の血管新生剤。
【0011】
(4)上記多孔質膜の最小孔径が0.02μm〜1.5μmである、(3)に記載の血管新生剤。
(5)上記多孔質膜の厚みが10μm〜250μmである、(3)または(4)に記載の血管新生剤。
(6)上記多孔質膜が、孔径が最小となる層状の緻密部位を内部に有し、上記緻密部位から上記多孔質膜の少なくとも一方の表面に向かって厚み方向で孔径が連続的に増加している、(3)から(5)の何れか一に記載の血管新生剤。
【0012】
(7)上記緻密部位の厚みが0.5μm〜30μmである、(6)に記載の血管新生剤。
(8)上記多孔質膜の最小孔径と最大孔径との比が3.0〜20.0である、(3)から(7)の何れか一に記載の血管新生剤。
(9)上記多孔質膜が少なくとも一種のポリスルホンおよびポリビニルピロリドンを含む、(3)から(8)の何れか一に記載の血管新生剤。
【0013】
(10)間葉系幹細胞が、複数個の生体親和性高分子ブロックと、少なくとも一種の複数個の間葉系幹細胞とを含み、複数個の上記間葉系幹細胞の隙間に、少なくとも1個の上記生体親和性高分子ブロックが配置されている細胞構造体として、含まれている、(1)から(9)の何れか一に記載の血管新生剤。
(11)上記生体親和性高分子ブロック一つの大きさが20μm以上200μm以下である、(10)に記載の血管新生剤。
(12)上記生体親和性高分子ブロックにおいて、生体親和性高分子が熱、紫外線または酵素により架橋されている、(10)または(11)に記載の血管新生剤。
【0014】
(13)上記生体親和性高分子ブロックが不定形である、(10)から(12)の何れか一に記載の血管新生剤。
(14)上記細胞構造体が、細胞1個当り0.0000001μg以上1μg以下の生体親和性高分子ブロックを含む、(10)から(13)の何れか一に記載の血管新生剤。
(15)間葉系幹細胞を免疫隔離膜で内包する工程を含む、(1)から(14)の何れか一に記載の血管新生剤の製造方法。
【0015】
さらに本発明によれば、以下の発明が提供される。
(16)(A)間葉系幹細胞、および(B)上記間葉系幹細胞を内包する免疫隔離膜、を含む細胞移植用デバイスを、血管新生を必要とする対象者に移植する工程を含む、血管新生方法。
(17)血管新生のための処置において使用するための細胞移植用デバイスであって、(A)間葉系幹細胞、および(B)上記間葉系幹細胞を内包する免疫隔離膜、を含む細胞移植用デバイス。
(18)血管新生剤の製造のための、(A)間葉系幹細胞、および(B)上記間葉系幹細胞を内包する免疫隔離膜、を含む細胞移植用デバイスの使用。
【発明の効果】
【0016】
本発明の血管新生剤は、免疫拒絶反応を生じる他家または異種の間葉系幹細胞(MSC)を移植して、血管新生の促進を行う際に有用である。本発明によれば、MSCを宿主細胞から保護しながら、MSCによる血管新生効果を十分に発揮することができる。本発明によればさらに、血管新生剤の周囲に局所的かつ高効率で血管を新生させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、条件Aに記載した実験の液温プロファイリングを示す。
【図2】図2は、条件Bに記載した実験の液温プロファイリングを示す。
【図3】図3は、条件Cに記載した実験の液温プロファイリングを示す。
【図4】図4は、参考例8の多孔質膜の膜断面のSEM撮影写真を示す。
【図5】図5は、参考例8の多孔質膜の厚さ方向の孔径分布を示す。
【図6】図6は、細胞移植用デバイス(免疫隔離膜のみ)の作製方法を示す。
【図7】図7は、参考例10の多孔質膜の膜断面のSEM撮影写真を示す。
【図8】図8は、参考例10の多孔質膜の厚さ方向の孔径分布を示す。
【図9】図9は、参考例12の多孔質膜の膜断面のSEM撮影写真を示す。
【図10】図10は、参考例12の多孔質膜の厚さ方向の孔径分布を示す。
【図11】図11は、細胞構造体を含む細胞移植用デバイスを移植した組織標本を示す。
【図12】図12は、細胞構造体のみを移植した組織標本を示す。
【図13】図13は、細胞移植用デバイス(免疫隔離膜のみ)を移植した組織標本を示す。
【図14】図14は、視野当たりの血管総面積の測定結果を示す。
【図15】図15は、視野当たりの血管本数の測定結果を示す。
【図16】図16は、視野当たりの血管総面積の測定結果を示す。
【図17】図17は、視野当たりの血管本数の測定結果を示す。
【図18】図18は、細胞構造体を含む細胞移植用デバイス、または細胞移植用デバイス(免疫隔離膜のみ)を移植したC57BL/6マウスの組織標本を示す。
【図19】図19は、細胞移植用デバイスのみを移植したC57BL/6マウスの組織標本を示す。
【図20】図20は、視野当たりの血管総面積の測定結果を示す。
【図21】図21は、視野当たりの血管本数の測定結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態を、詳細に説明する。本明細書において「〜」は、その前後に記載される数値をそれぞれ最小値および最大値として含む範囲を示すものとする。
本発明の血管新生剤は、(A)間葉系幹細胞、および(B)上記間葉系幹細胞を内包する免疫隔離膜、を含む。
【0019】
本発明の血管新生剤は、血管新生剤の周囲に局所的に血管を新生させることができ、移植細胞による長期の治療効果を発揮することができる。なお、本発明の血管新生剤それ自体には、微小血管は含まれておらず、この点において特許文献6に記載されているデバイスとは相違する。なお、産業利用を考えた場合には、他人の細胞または組織を移植するのが現実的であるが、特許文献6のような構成品においては、微小血管自体が宿主の免疫反応による拒絶の対象となってしまう。これは微小血管が細胞を含む場合には特に顕著であり、特許文献6でもそのことを考慮して、同種同系を用いることが記載されている。しかし、同種同系とは実験動物として遺伝学的に制御された動物間でのみ成立するものであり、実用上、例えば人間を対象とした際には同系は存在せず、使うことが出来ない。一方、本発明の血管新生剤は、外部由来の微小血管を含まず、あくまでも新たな血管を宿主の細胞により作成させるため、そのような制約を受けずに使用することが出来る点で大きく異なる。
【0020】
〈細胞〉
本発明で使用する細胞は、間葉系幹細胞(MSC)である。間葉系幹細胞の由来は特に限定されないが、脂肪由来間葉系幹細胞または骨髄由来間葉系幹細胞が好ましく、脂肪由来間葉系幹細胞がより好ましい。なお、間葉系幹細胞とは間葉系組織に存在する体性幹細胞をいい、間葉系組織に属する細胞への分化能を有する。間葉系組織とは、骨、軟骨、脂肪、血液、骨髄、骨格筋、真皮、靭帯、腱、心臓等の組織をいう。
【0021】
〈細胞構造体〉
本発明において使用する細胞は、そのまま使用してもよいが、細胞構造体として使用してもよい。本明細書で言う細胞構造体とは、複数個の生体親和性高分子ブロックと、少なくとも一種の複数個の細胞とを含み、複数個の上記細胞の隙間に、少なくとも1個の上記生体親和性高分子ブロックが配置されている細胞構造体である。細胞構造体は、本明細書中において、モザイク細胞塊(モザイク状になっている細胞塊)と称する場合もある。
【0022】
(1)生体親和性高分子ブロック
(1−1)生体親和性高分子
生体親和性とは、生体に接触した際に、長期的かつ慢性的な炎症反応などのような顕著な有害反応を惹起しないことを意味する。本発明で用いる生体親和性高分子は、生体に親和性を有するものであれば、生体内で分解されるか否かは特に限定されないが、生分解性高分子であることが好ましい。非生分解性材料として具体的には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリウレタン、ポリプロピレン、ポリエステル、塩化ビニル、ポリカーボネート、アクリル、シリコーン、およびMPC(2−メタクリロイルオキシエチルポスホリルコリン)などが挙げられる。生分解性材料としては、具体的には、天然由来のペプチド、リコンビナントペプチドまたは化学合成ペプチドなどのポリペプチド(例えば、以下に説明するゼラチン等)、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸・グリコール酸コポリマー(PLGA)、ヒアルロン酸、グリコサミノグリカン、プロテオグリカン、コンドロイチン、セルロース、アガロース、カルボキシメチルセルロース、キチン、およびキトサンなどが挙げられる。上記の中でも、リコンビナントペプチドが特に好ましい。これら生体親和性高分子には細胞接着性を高める工夫がなされていてもよい。具体的には、「基材表面に対する細胞接着基質(フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン)や細胞接着配列(アミノ酸一文字表記で表される、RGD配列、LDV配列、REDV配列、YIGSR配列、PDSGR配列、RYVVLPR配列、LGTIPG配列、RNIAEIIKDI配列、IKVAV配列、LRE配列、DGEA配列、およびHAV配列)ペプチドによるコーティング」、「基材表面のアミノ化、カチオン化」、または「基材表面のプラズマ処理、コロナ放電による親水性処理」といった方法を使用できる。
【0023】
リコンビナントペプチドまたは化学合成ペプチドを含むポリペプチドの種類は生体親和性を有するものであれば特に限定されないが、例えば、ゼラチン、コラーゲン、アテロコラーゲン、エラスチン、フィブロネクチン、プロネクチン、ラミニン、テネイシン、フィブリン、フィブロイン、エンタクチン、トロンボスポンジン、レトロネクチン(登録商標)が好ましく、最も好ましくはゼラチン、コラーゲン、アテロコラーゲンである。本発明で用いるためのゼラチンとしては、好ましくは、天然ゼラチン、リコンビナントゼラチンまたは化学合成ゼラチンであり、さらに好ましくはリコンビナントゼラチンである。ここでいう天然ゼラチンとは天然由来のコラーゲンより作られたゼラチンを意味する。
【0024】
化学合成ペプチドまたは化学合成ゼラチンとは、人工的に合成したペプチドまたはゼラチンを意味する。ゼラチン等のペプチドの合成は、固相合成でも液相合成でもよいが、好ましくは固相合成である。ペプチドの固相合成は当業者に公知であり、例えば、アミノ基の保護としてFmoc基(Fluorenyl−Methoxy−Carbonyl基)を使用するFmoc基合成法、並びにアミノ基の保護としてBoc基(tert−Butyl Oxy Carbonyl基)を使用するBoc基合成法などが挙げられる。なお、化学合成ゼラチンの好ましい態様は、本明細書中後記するリコンビナントゼラチンに記載した内容を当てはめることができる。
【0025】
生体親和性高分子の親水性値「1/IOB」値は、0から1.0が好ましい。より好ましくは、0から0.6であり、さらに好ましくは0から0.4である。IOBとは、藤田穆により提案された有機化合物の極性/非極性を表す有機概念図に基づく、親疎水性の指標であり、その詳細は、例えば、”Pharmaceutical Bulletin”,vol.2,2,pp.163−173(1954)、「化学の領域」vol.11,10,pp.719−725(1957)、「フレグランスジャーナル」,vol.50,pp.79−82(1981)等で説明されている。簡潔に言えば、全ての有機化合物の根源をメタン(CH4)とし、他の化合物はすべてメタンの誘導体とみなして、その炭素数、置換基、変態部、環等にそれぞれ一定の数値を設定し、そのスコアを加算して有機性値(OV)、無機性値(IV)を求め、この値を、有機性値をX軸、無機性値をY軸にとった図上にプロットしていくものである。有機概念図におけるIOBとは、有機概念図における有機性値(OV)に対する無機性値(IV)の比、すなわち「無機性値(IV)/有機性値(OV)」をいう。有機概念図の詳細については、「新版有機概念図−基礎と応用−」(甲田善生等著、三共出版、2008)を参照されたい。本明細書中では、IOBの逆数をとった「1/IOB」値で親疎水性を表している。「1/IOB」値が小さい(0に近づく)程、親水性であることを表す表記である。
【0026】
生体親和性高分子の「1/IOB」値を上記範囲とすることにより、親水性が高く、かつ、吸水性が高くなることから、栄養成分の保持に有効に作用し、結果として、本発明にかかる細胞構造体(モザイク細胞塊)における細胞の安定化・生存しやすさに寄与するものと推定される。
【0027】
生体親和性高分子がポリペプチドである場合は、Grandaverageofhydropathicity(GRAVY)値で表される親疎水性指標において、0.3以下、マイナス9.0以上であることが好ましく、0.0以下、マイナス7.0以上であることがさらに好ましい。Grandaverage of hydropathicity (GRAVY)値は、 『Gasteiger E., Hoogland C., Gattiker A., Duvaud S., Wilkins M. R., Appel R. D., Bairoch A.;Protein Identification and Analysis Tools on the ExPASy Server;(In) John M. Walker (ed):The Proteomics ProtocolsHandbook, Humana Press(2005). pp.571−607』および『Gasteiger E., Gattiker A., Hoogland C., Ivanyi I., Appel R. D., Bairoch A.;ExPASy: the proteomics server forin−depth protein knowledge and analysis.;Nucleic Acids Res. 31:3784−3788(2003)。』の方法により得ることができる。
【0028】
生体親和性高分子のGRAVY値を上記範囲とすることにより、親水性が高く、かつ、吸水性が高くなることから、栄養成分の保持に有効に作用し、結果として、本発明にかかる細胞構造体(モザイク細胞塊)における細胞の安定化・生存しやすさに寄与するものと推定される。
【0029】
(1−2)架橋
生体親和性高分子は、架橋されているものでもよいし、架橋されていないものでもよいが、架橋されているものが好ましい。架橋されている生体親和性高分子を使用することにより、培地中で培養する際および生体に移植した際に瞬時に分解してしまうことを防ぐという効果が得られる。一般的な架橋方法としては、熱架橋、アルデヒド類(例えば、ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒドなど)による架橋、縮合剤(カルボジイミド、シアナミドなど)による架橋、酵素架橋、光架橋、紫外線架橋、疎水性相互作用、水素結合、およびイオン性相互作用などが知られており、本発明においても上記の架橋方法を使用することができる。本発明で使用する架橋方法としては、さらに好ましくは熱架橋、紫外線架橋、または酵素架橋であり、特に好ましくは熱架橋である。
【0030】
酵素による架橋を行う場合、酵素としては、高分子材料間の架橋作用を有するものであれば特に限定されないが、好ましくはトランスグルタミナーゼまたはラッカーゼ、最も好ましくはトランスグルタミナーゼを用いて架橋を行うことができる。トランスグルタミナーゼで酵素架橋するタンパク質の具体例としては、リジン残基およびグルタミン残基を有するタンパク質であれば特に制限されない。トランスグルタミナーゼは、哺乳類由来のものであっても、微生物由来のものであってもよく、具体的には、味の素(株)製アクティバシリーズ、試薬として販売されている哺乳類由来のトランスグルタミナーゼ、例えば、オリエンタル酵母工業(株)製、Upstate USA Inc.製、Biodesign International製などのモルモット肝臓由来トランスグルタミナーゼ、ヤギ由来トランスグルタミナーゼ、ウサギ由来トランスグルタミナーゼなど、並びにヒト由来の血液凝固因子(Factor XIIIa、Haematologic Technologies, Inc.社)などが挙げられる。
【0031】
架橋(例えば、熱架橋)を行う際の反応温度は、架橋ができる限り特に限定されないが、好ましくは、−100℃〜500℃であり、より好ましくは0℃〜300℃であり、更に好ましくは50℃〜300℃であり、特に好ましくは100℃〜250℃であり、最も好ましくは120℃〜200℃である。
【0032】
(1−3)リコンビナントゼラチン
本発明で言うリコンビナントゼラチンとは、遺伝子組み換え技術により作られたゼラチン類似のアミノ酸配列を有するポリペプチドもしくは蛋白様物質を意味する。本発明で用いることができるリコンビナントゼラチンは、コラーゲンに特徴的なGly−X−Yで示される配列(XおよびYはそれぞれ独立にアミノ酸の何れかを示す)の繰り返しを有するものが好ましい。ここで、複数個のGly−X−Yはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。好ましくは、細胞接着シグナルが一分子中に2配列以上含まれている。本発明で用いるリコンビナントゼラチンとしては、コラーゲンの部分アミノ酸配列に由来するアミノ酸配列を有するリコンビナントゼラチンを用いることができる。例えばEP1014176、米国特許6992172号、国際公開WO2004/85473、国際公開WO2008/103041等に記載のものを用いることができるが、これらに限定されるものではない。本発明で用いるリコンビナントゼラチンとして好ましいものは、以下の態様のリコンビナントゼラチンである。
【0033】
リコンビナントゼラチンは、天然のゼラチン本来の性能から、生体親和性に優れ、且つ天然由来ではないことで牛海綿状脳症(BSE)などの懸念がなく、非感染性に優れている。また、リコンビナントゼラチンは天然ゼラチンと比べて均一であり、配列が決定されているので、強度および分解性においても架橋等によってブレを少なく精密に設計することが可能である。
【0034】
リコンビナントゼラチンの分子量は、特に限定されないが、好ましくは2000以上100000以下(2kDa(キロダルトン)以上100kDa以下)であり、より好ましくは2500以上95000以下(2.5kDa以上95kDa以下)であり、さらに好ましくは5000以上90000以下(5kDa以上90kDa以下)であり、最も好ましくは10000以上90000以下(10kDa以上90kDa以下)である。
【0035】
リコンビナントゼラチンは、コラーゲンに特徴的なGly−X−Yで示される配列の繰り返しを有することが好ましい。ここで、複数個のGly−X−Yはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。Gly−X−Yにおいて、Glyはグリシンを表し、XおよびYは、任意のアミノ酸(好ましくは、グリシン以外の任意のアミノ酸)を表す。コラーゲンに特徴的なGly−X−Yで示される配列とは、ゼラチン・コラーゲンのアミノ酸組成および配列における、他のタンパク質と比較して非常に特異的な部分構造である。この部分においてはグリシンが全体の約3分の1を占め、アミノ酸配列では3個に1個の繰り返しとなっている。グリシンは最も簡単なアミノ酸であり、分子鎖の配置への束縛も少なく、ゲル化に際してのヘリックス構造の再生に大きく寄与している。XおよびYで表されるアミノ酸はイミノ酸(プロリン、オキシプロリン)が多く含まれ、全体の10%〜45%を占めることが好ましい。好ましくは、リコンビナントゼラチンの配列の80%以上、更に好ましくは95%以上、最も好ましくは99%以上のアミノ酸が、Gly−X−Yの繰り返し構造である。
【0036】
一般的なゼラチンは、極性アミノ酸のうち電荷を持つものと無電荷のものが1:1で存在する。ここで、極性アミノ酸とは具体的にシステイン、アスパラギン酸、グルタミン酸、ヒスチジン、リジン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシンおよびアルギニンを指し、このうち極性無電荷アミノ酸とはシステイン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニンおよびチロシンを指す。本発明で用いるリコンビナントゼラチンにおいては、構成する全アミノ酸のうち、極性アミノ酸の割合が10〜40%であり、好ましくは20〜30%である。且つ上記極性アミノ酸中の無電荷アミノ酸の割合が5%以上20%未満、好ましくは5%以上10%未満であることが好ましい。さらに、セリン、スレオニン、アスパラギン、チロシンおよびシステインのうちいずれか1アミノ酸、好ましくは2以上のアミノ酸を配列上に含まないことが好ましい。
【0037】
一般にポリペプチドにおいて、細胞接着シグナルとして働く最小アミノ酸配列が知られている(例えば、株式会社永井出版発行「病態生理」Vol.9、No.7(1990年)527頁)。本発明で用いるリコンビナントゼラチンは、これらの細胞接着シグナルを一分子中に2以上有することが好ましい。具体的な配列としては、接着する細胞の種類が多いという点で、アミノ酸一文字表記で現わされる、RGD配列、LDV配列、REDV配列、YIGSR配列、PDSGR配列、RYVVLPR配列、LGTIPG配列、RNIAEIIKDI配列、IKVAV配列、LRE配列、DGEA配列、およびHAV配列の配列が好ましい。さらに好ましくはRGD配列、YIGSR配列、PDSGR配列、LGTIPG配列、IKVAV配列およびHAV配列、特に好ましくはRGD配列である。RGD配列のうち、好ましくはERGD配列である。細胞接着シグナルを有するリコンビナントゼラチンを用いることにより、細胞の基質産生量を向上させることができる。
【0038】
リコンビナントゼラチンにおけるRGD配列の配置としては、RGD間のアミノ酸数が0〜100の間で均一でないことが好ましく、RGD間のアミノ酸数が25〜60の間で均一でないことがより好ましい。
この最少アミノ酸配列の含有量は、細胞接着・増殖性の観点から、タンパク質1分子中に好ましくは3〜50個であり、さらに好ましくは4〜30個であり、特に好ましくは5〜20個であり、最も好ましくは12個である。
【0039】
リコンビナントゼラチンにおいて、アミノ酸総数に対するRGDモチーフの割合は少なくとも0.4%であることが好ましい。リコンビナントゼラチンが350以上のアミノ酸を含む場合、350のアミノ酸の各ストレッチが少なくとも1つのRGDモチーフを含むことが好ましい。アミノ酸総数に対するRGDモチーフの割合は、より好ましくは少なくとも0.6%であり、更に好ましくは少なくとも0.8%であり、更に一層好ましくは少なくとも1.0%であり、特に好ましくは少なくとも1.2%であり、最も好ましくは少なくとも1.5%である。リコンビナントペプチド内のRGDモチーフの数は、250のアミノ酸あたり、好ましくは少なくとも4、より好ましくは少なくとも6、更に好ましくは少なくとも8、特に好ましくは12以上16以下である。RGDモチーフの0.4%という割合は、250のアミノ酸あたり、少なくとも1つのRGD配列に対応する。RGDモチーフの数は整数であるので、0.4%の特徴を満たすには、251のアミノ酸からなるゼラチンは、少なくとも2つのRGD配列を含まなければならない。好ましくは、リコンビナントゼラチンは、250のアミノ酸あたり、少なくとも2つのRGD配列を含み、より好ましくは250のアミノ酸あたり、少なくとも3つのRGD配列を含み、さらに好ましくは250のアミノ酸あたり、少なくとも4つのRGD配列を含む。リコンビナントゼラチンのさらなる態様としては、好ましくは少なくとも4つのRGDモチーフを含み、より好ましくは少なくとも6つのRGDモチーフを含み、さらに好ましくは少なくとも8つのRGDモチーフを含み、特に好ましくは12以上16以下のRGDモチーフを含む。
【0040】
リコンビナントゼラチンは部分的に加水分解されていてもよい。
【0041】
好ましくは、リコンビナントゼラチンは、式1:A−[(Gly−X−Y)n]m−Bで示されるものである。n個のXはそれぞれ独立にアミノ酸の何れかを示し、n個のYはそれぞれ独立にアミノ酸の何れかを示す。mは好ましくは2〜10の整数を示し、より好ましくは3〜5の整数を示す。nは3〜100の整数が好ましく、15〜70の整数がさらに好ましく、50〜65の整数が最も好ましい。Aは任意のアミノ酸またはアミノ酸配列を示し、Bは任意のアミノ酸またはアミノ酸配列を示す。なお、n個のGly−X−Yはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。
【0042】
より好ましくは、リコンビナントゼラチンは、Gly−Ala−Pro−[(Gly−X−Y)63]3−Gly(式中、63個のXはそれぞれ独立にアミノ酸の何れかを示し、63個のYはそれぞれ独立にアミノ酸の何れかを示す。なお、63個のGly−X−Yはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。)で示されるものである。
【0043】
繰り返し単位には天然に存在するコラーゲンの配列単位を複数結合することが好ましい。ここで言う天然に存在するコラーゲンとは天然に存在するものであればいずれでも構わないが、好ましくはI型、II型、III型、IV型、またはV型コラーゲンである。より好ましくは、I型、II型、またはIII型コラーゲンである。別の形態によると、上記コラーゲンの由来は好ましくは、ヒト、ウシ、ブタ、マウスまたはラットであり、より好ましくはヒトである。
【0044】
リコンビナントゼラチンの等電点は、好ましくは5〜10であり、より好ましくは6〜10であり、さらに好ましくは7〜9.5である。リコンビナントゼラチンの等電点の測定は、等電点電気泳動法(Maxey,C.R.(1976;Phitogr.Gelatin 2, Editor Cox, P. J. Academic, London, Eng1.参照)に記載されたように、1質量%ゼラチン溶液をカチオンおよびアニオン交換樹脂の混晶カラムに通したあとのpHを測定することで実施することができる。
【0045】
好ましくは、リコンビナントゼラチンは脱アミン化されていない。
好ましくは、リコンビナントゼラチンはテロペプタイドを有さない。
好ましくは、リコンビナントゼラチンは、アミノ酸配列をコードする核酸により調製された実質的に純粋なポリペプチドである。
【0046】
リコンビナントゼラチンとして特に好ましくは、
(1)配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるペプチド;
(2)配列番号1に記載のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ生体親和性を有するペプチド;または
(3)配列番号1に記載のアミノ酸配列と80%以上(さらに好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上)の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ生体親和性を有するペプチド;
の何れかである。
【0047】
本発明における配列同一性は、以下の式で計算される値を指す。
%配列同一性=[(同一残基数)/(アラインメント長)]×100
2つのアミノ酸配列における配列同一性は当業者に公知の任意の方法で決定することができ、BLAST((Basic Local Alignment Search Tool))プログラム(J.Mol.Biol.215:403−410,1990)等を使用して決定することができる。
【0048】
「1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列」における「1若しくは数個」とは、好ましくは1〜20個、より好ましくは1〜10個、さらに好ましくは1〜5個、特に好ましくは1〜3個を意味する。
【0049】
リコンビナントゼラチンは、当業者に公知の遺伝子組み換え技術によって製造することができ、例えばEP1014176A2号公報、米国特許第6992172号公報、国際公開WO2004/85473号、国際公開WO2008/103041号等に記載の方法に準じて製造することができる。具体的には、所定のリコンビナントゼラチンのアミノ酸配列をコードする遺伝子を取得し、これを発現ベクターに組み込んで、組み換え発現ベクターを作製し、これを適当な宿主に導入して形質転換体を作製する。得られた形質転換体を適当な培地で培養することにより、リコンビナントゼラチンが産生されるので、培養物から産生されたリコンビナントゼラチンを回収することにより、本発明で用いるリコンビナントゼラチンを調製することができる。
【0050】
(1−4)生体親和性高分子ブロック
本発明においては、上記した生体親和性高分子からなるブロック(塊)を使用することができる。
本発明における生体親和性高分子ブロックの形状は特に限定されるものではない。例えば、不定形、球状、粒子状(顆粒)、粉状、多孔質状、繊維状、紡錘状、扁平状およびシート状であり、好ましくは、不定形、球状、粒子状(顆粒)、粉状および多孔質状である。不定形とは、表面形状が均一でないもののことを示し、例えば、岩のような凹凸を有する物を示す。なお、上記の形状の例示はそれぞれ別個のものではなく、例えば、粒子状(顆粒)の下位概念の一例として不定形となる場合もある。
【0051】
本発明における生体親和性高分子ブロックの形状は上記の通り特に限定されるものではないが、タップ密度が、好ましくは10mg/cm3以上500mg/cm3以下であり、より好ましくは20mg/cm3以上400mg/cm3以下であり、さらに好ましくは40mg/cm3以上220mg/cm3以下であり、特に好ましくは50mg/cm3以上150mg/cm3以下である。
【0052】
タップ密度は、ある体積にどれくらいのブロックを密に充填できるかを表す値であり、値が小さいほど、密に充填できない、すなわちブロックの構造が複雑であることが分かる。生体親和性高分子ブロックのタップ密度とは、生体親和性高分子ブロックの表面構造の複雑性、および生体親和性高分子ブロックを集合体として集めた場合に形成される空隙の量を表していると考えられる。タップ密度が小さい程、生体親和性高分子ブロック間の空隙が多くなり、細胞の生着領域が多くなる。また、小さ過ぎないことで、細胞同士の間に適度に生体親和性高分子ブロックが存在でき、細胞構造体とした場合に同構造体内部への栄養分送達を可能とすることから、上記の範囲に収まることが好適であると考えられる。
【0053】
本明細書でいうタップ密度は、特に限定されないが、以下のように測定できる。測定のために(直径6mm、長さ21.8mmの円筒状:容量0.616cm3)の容器(以下、キャップと記載する)を用意する。まず、キャップのみの質量を測定する。その後、キャップにロートを付け、ブロックがキャップに溜まるようにロートから流し込む。十分量のブロックを入れた後、キャップ部分を200回机などの硬いところにたたきつけ、ロートをはずし、スパチュラですりきりにする。このキャップにすりきり一杯入った状態で質量を測定する。キャップのみの質量との差からブロックのみの質量を算出し、キャップの体積で割ることで、タップ密度を求めることができる。
【0054】
本発明における生体親和性高分子ブロックの架橋度は、特に限定されないが、好ましくは2以上であり、さらに好ましくは2以上30以下であり、さらに好ましくは4以上25以下であり、特に好ましくは4以上22以下である。
【0055】
生体親和性高分子ブロックの架橋度(1分子当たりの架橋数)の測定方法は、特に限定されないが、生体親和性高分子がCBE3の場合には、例えば、後記実施例に記載のTNBS(2,4,6−トリニトロベンゼンスルホン酸)法で測定することができる。具体的には、生体親和性高分子ブロック、NaHCO3水溶液およびTNBS水溶液を混合して37℃で3時間反応させた後に反応停止したサンプルと、生体親和性高分子ブロック、NaHCO3水溶液およびTNBS水溶液を混合した直後に反応停止させたブランクとをそれぞれ調製し、純水で希釈したサンプルおよびブランクの吸光度(345nm)を測定し、以下の(式2)、および(式3)から架橋度(1分子当たりの架橋数)を算出することができる。
【0056】
(式2) (As−Ab)/14600×V/w
(式2)は、生体親和性高分子ブロック1g当たりのリジン量(モル等量)を示す。
(式中、Asはサンプル吸光度、Abはブランク吸光度、Vは反応液量(g)、wは生体親和性高分子ブロック質量(mg)を示す。)
【0057】
(式3) 1−(サンプル(式2)/未架橋の高分子(式2))×34
(式3)は、1分子あたりの架橋数を示す。
【0058】
本発明における生体親和性高分子ブロックの吸水率は、特に限定されないが、好ましくは300%以上、より好ましくは400%以上、さらに好ましくは500%以上、特に好ましくは600%以上、最も好ましくは700%以上である。なお吸水率の上限は特に限定されないが、一般的には4000%以下、または2000%以下である。
【0059】
生体親和性高分子ブロックの吸水率の測定方法は、特に限定されないが、例えば、後記実施例に記載の方法により測定することができる。具体的には、25℃において3cm×3cmのナイロンメッシュ製の袋の中に、生体親和性高分子ブロック約15mgを充填し、2時間イオン交換水中で膨潤させた後、10分風乾させ、それぞれの段階において質量を測定し、(式4)に従って吸水率を求めることができる。
【0060】
(式4)
吸水率=(w2−w1−w0)/w0
(式中、w0は、吸水前の材料の質量、w1は吸水後の空袋の質量、w2は吸水後の材料を含む袋全体の質量を示す。)
【0061】
本発明における生体親和性高分子ブロック一つの大きさは、特に限定されないが、好ましくは20μm以上200μm以下であり、より好ましくは20μm以上150μm以下であり、さらに好ましくは50μm以上120μm以下であり、特に好ましくは53μm以上106μm以下である。
生体親和性高分子ブロック一つの大きさを上記の範囲内にすることにより、外部から細胞構造体の内部への栄養送達を良好にすることができる。なお、生体親和性高分子ブロック一つの大きさとは、複数個の生体親和性高分子ブロックの大きさの平均値が上記範囲にあることを意味するものではなく、複数個の生体親和性高分子ブロックを篩にかけて得られる、一つ一つの生体親和性高分子ブロックのサイズを意味するものである。
【0062】
ブロック一つの大きさは、ブロックを分ける際に用いたふるいの大きさで定義することができる。例えば、180μmのふるいにかけ、通過したブロックを106μmのふるいにかけた際にふるいの上に残るブロックを、106〜180μmの大きさのブロックとすることができる。次に、106μmのふるいにかけ、通過したブロックを53μmのふるいにかけた際にふるいの上に残るブロックを、53〜106μmの大きさのブロックとすることができる。次に、53μmのふるいにかけ、通過したブロックを25μmのふるいにかけた際にふるいの上に残るブロックを、25〜53μmの大きさのブロックとすることができる。
【0063】
(1−5)生体親和性高分子ブロックの製造方法
生体親和性高分子ブロックの製造方法は、特に限定されないが、例えば、生体親和性高分子を含有する固形物(生体親和性高分子の多孔質体など)を、粉砕機(ニューパワーミルなど)を用いて粉砕することにより、生体親和性高分子ブロックを得ることができる。 生体親和性高分子を含有する固形物(多孔質体など)は、例えば、生体親和性高分子を含有する水溶液を凍結乾燥して得ることができる。
【0064】
上記の通り、生体親和性高分子を含有する固形物を粉砕することにより、表面形状が均一でない不定形の生体親和性高分子ブロックを製造することができる。
【0065】
生体親和性高分子の多孔質体を製造する方法としては、特に限定されないが、生体親和性高分子を含む水溶液を凍結乾燥させることによっても得ることができる。例えば、溶液内で最も液温の高い部分の液温(内部最高液温)が、未凍結状態で「溶媒融点−3℃」以下となる凍結工程を含めることによって、形成される氷は球状とすることができる。この工程を経て、氷が乾燥されることで、球状の等方的な空孔(球孔)を持つ多孔質体が得られる。溶液内で最も液温の高い部分の液温(内部最高液温)が、未凍結状態で「溶媒融点−3℃」以上となる凍結工程を含まずに、凍結されることで、形成される氷は柱/平板状とすることができる。この工程を経て、氷が乾燥されると、一軸あるいは二軸上に長い、柱状あるいは平板状の空孔(柱/平板孔)を持つ多孔質体が得られる。生体親和性高分子の多孔質体を、粉砕し、生体親和性高分子ブロックを製造する場合には、粉砕前の多孔質体の空孔が、得られる生体親和性高分子ブロックの形状に影響を与えるため、上記の通り、凍結乾燥の条件を調整することにより、得られる生体親和性高分子ブロックの形状を調整することができる。
【0066】
生体親和性高分子の多孔質体の製造方法の一例としては、
(a)溶液内で最も液温の高い部分の温度と溶液内で最も液温の低い部分の温度との差が2.5℃以下であり、かつ、溶液内で最も液温の高い部分の温度が溶媒の融点以下で、生体親和性高分子の溶液を、未凍結状態に冷却する工程、
(b)工程(a)で得られた生体親和性高分子の溶液を凍結する工程、および
(c)工程(b)で得られた凍結した生体親和性高分子を凍結乾燥する工程
を含む方法を挙げることができるが、上記方法に限定されるわけではない。
【0067】
生体親和性高分子の溶液を未凍結状態に冷却する際に、最も液温の高い部分の温度と溶液内で最も液温の低い部分の温度との差が2.5℃以下(好ましくは2.3℃以下、より好ましくは2.1℃以下)、つまり温度の差を小さくすることによって、得られる多孔質のポアの大きさのばらつきが少なくなる。なお最も液温の高い部分の温度と溶液内で最も液温の低い部分の温度との差の下限は特に限定されず、0℃以上であればよく、例えば0.1℃以上、0.5℃以上、0.8℃以上、または0.9℃以上でもよい。これにより、製造された多孔質体を用いて製造した生体親和性高分子ブロックを用いた細胞構造体は、高い細胞数を示すという効果が達成される。
【0068】
工程(a)の冷却は、例えば、水よりも熱伝導率の低い素材(好ましくは、テフロン(登録商標))を介して冷却することが好ましく、溶液内で最も液温の高い部分は、冷却側から最も遠い部分と擬制することができ、溶液内で最も液温の低い部分は、冷却面の液温と擬制することができる。
【0069】
好ましくは、工程(a)において、凝固熱発生直前の、溶液内で最も液温の高い部分の温度と溶液内で最も液温の低い部分の温度との差が2.5℃以下であり、より好ましくは2.3℃以下であり、さらに好ましくは2.1℃以下である。ここで「凝固熱発生直前の温度差」とは、凝固熱発生時の1秒前〜10秒前の間で最も温度差が大きくなるときの温度差を意味する。
【0070】
好ましくは、工程(a)において、溶液内で最も液温の低い部分の温度は、溶媒融点−5℃以下であり、より好ましくは溶媒融点−5℃以下かつ溶媒融点−20℃以上であり、更に好ましくは溶媒融点−6℃以下かつ溶媒融点−16℃以上である。なお、溶媒融点の溶媒とは、生体親和性高分子の溶液の溶媒である。
【0071】
工程(b)においては、工程(a)で得られた生体親和性高分子の溶液を凍結する。工程(b)にて凍結するための冷却温度は、特に制限されるものではなく、冷却する機器にもよるが、好ましくは、溶液内で最も液温の低い部分の温度より、3℃から30℃低い温度であり、より好ましくは、5℃から25℃低い温度であり、更に好ましくは、10℃から20℃低い温度である。
【0072】
工程(c)においては、工程(b)で得られた凍結した生体親和性高分子を凍結乾燥する。凍結乾燥は、常法により行うことができ、例えば、溶媒の融点より低い温度で真空乾燥を行い、さらに室温(20℃)で真空乾燥を行うことにより凍結乾燥を行うことができる。
【0073】
本発明では好ましくは、上記工程(c)で得られた多孔質体を粉砕することによって、生体親和性高分子ブロックを製造することができる。
【0074】
(2)細胞構造体
細胞構造体は、上記した複数個の生体親和性高分子ブロックと、少なくとも一種の複数個の細胞とを含み、複数個の上記細胞の隙間に、少なくとも1個の上記高分子ブロックが配置されている細胞構造体である。上記した生体親和性高分子ブロックと上記した細胞とを用いて、複数個の細胞の隙間に複数個の高分子ブロックをモザイク状に3次元的に配置させることによって、生体親和性高分子ブロックと細胞とがモザイク状に3次元配置されることにより、構造体中で細胞が均一に存在する細胞3次元構造体が形成され、物質透過能を有することとなる。
【0075】
細胞構造体は、複数個の細胞の隙間に複数個の高分子ブロックが配置されているが、ここで、「細胞の隙間」とは、構成される細胞により、閉じられた空間である必要はなく、細胞により挟まれていればよい。なお、すべての細胞に隙間がある必要はなく、細胞同士が接触している箇所があってもよい。高分子ブロックを介した細胞の隙間の距離、即ち、ある細胞とその細胞から最短距離に存在する細胞を選択した際の隙間距離は特に制限されるものではないが、高分子ブロックの大きさであることが好ましく、好適な距離も高分子ブロックの好適な大きさの範囲である。
【0076】
また、高分子ブロックは、細胞により挟まれた構成となるが、すべての高分子ブロック間に細胞がある必要はなく、高分子ブロック同士が接触している箇所があってもよい。細胞を介した高分子ブロック間の距離、即ち、高分子ブロックとその高分子ブロックから最短距離に存在する高分子ブロックを選択した際の距離は特に制限されるものではないが、使用される細胞が1〜数個集まった際の細胞の塊の大きさであることが好ましく、例えば、10μm以上1000μm以下であり、好ましくは10μm以上100μm以下であり、より好ましくは10μm以上50μm以下である。
【0077】
なお、本明細書中、「構造体中で細胞が均一に存在する細胞3次元構造体」等、「均一に存在する」との表現を使用しているが、完全な均一を意味するものではない。
【0078】
細胞構造体の厚さまたは直径は、所望の大きさとすることができるが、下限としては、100μm以上であることが好ましく、215μm以上であることがより好ましく、400μm以上がさらに好ましく、730μm以上であることが最も好ましい。厚さまたは直径の上限は特に限定されないが、使用上の一般的な範囲としては3cm以下が好ましく、2cm以下がより好ましく、1cm以下であることが更に好ましい。また、細胞構造体の厚さまたは直径の範囲として、好ましくは100μm以上3cm以下、より好ましくは400μm以上3cm以下、より一層好ましくは500μm以上2cm以下、更に好ましくは720μm以上1cm以下である。
【0079】
細胞構造体は、好ましくは、高分子ブロックからなる領域と細胞からなる領域がモザイク状に配置されている。尚、本明細書中における「細胞構造体の厚さまたは直径」とは、以下のことを示すものとする。細胞構造体中のある一点Aを選択した際に、その点Aを通る直線の内で、細胞構造体外界からの距離が最短になるように細胞構造体を分断する線分の長さを線分Aとする。細胞構造体中でその線分Aが最長となる点Aを選択し、その際の線分Aの長さのことを「細胞構造体の厚さまたは直径」とする。
【0080】
細胞構造体においては、細胞と高分子ブロックの比率は特に限定されないが、好ましくは細胞1個当りの高分子ブロックの質量が0.0000001μg以上1μg以下であることが好ましく、より好ましくは0.000001μg以上0.1μg以下、さらに好ましくは0.00001μg以上0.01μg以下、最も好ましくは0.00002μg以上0.006μg以下である。上記範囲とすることにより、より細胞を均一に存在させることができる。また、下限を上記範囲とすることにより、上記用途に使用した際に細胞の効果を発揮することができ、上限を上記範囲とすることにより、任意で存在する高分子ブロック中の成分を細胞に供給できる。ここで、高分子ブロック中の成分は特に制限されないが、後記する培地に含まれる成分が挙げられる。
【0081】
(3)細胞構造体の製造方法
細胞構造体は、生体親和性高分子ブロックと、少なくとも一種類の細胞とを混合することによって製造することができる。より具体的には、細胞構造体は、生体親和性高分子ブロック(生体親和性高分子からなる塊)と、細胞とを交互に配置することにより製造できる。なお、交互とは、完全な交互を意味するものではなく、例えば、生体親和性高分子ブロックと細胞とが混合された状態を意味する。製造方法は特に限定されないが、好ましくは高分子ブロックを形成したのち、細胞を播種する方法である。具体的には、生体親和性高分子ブロックと細胞含有培養液との混合物をインキュベートすることによって、細胞構造体を製造することができる。例えば、容器中、容器に保持される液体中で、細胞と、予め作製した生体親和性高分子ブロックをモザイク状に配置する。配置の手段としては、自然凝集、自然落下、遠心、攪拌を用いることで、細胞と生体親和性高分子ブロックからなるモザイク状の配列形成を、促進、制御することが好ましい。
【0082】
用いられる容器としては、細胞低接着性材料、細胞非接着性材料からなる容器が好ましく、より好ましくはポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ガラス、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレートからなる容器である。容器底面の形状は平底型、U字型、V字型であることが好ましい。
【0083】
上記の方法で得られたモザイク状細胞構造体は、例えば、(a)別々に調製したモザイク細胞塊同士を融合させる、または(b)分化培地または増殖培地下でボリュームアップさせる、などの方法により所望の大きさの細胞構造体を製造することができる。融合の方法、ボリュームアップの方法は特に限定されない。
【0084】
例えば、生体親和性高分子ブロックと細胞含有培養液との混合物をインキュベートする工程において、培地を分化培地または増殖培地に交換することによって、細胞構造体をボリュームアップさせることができる。好ましくは、生体親和性高分子ブロックと細胞含有培養液との混合物をインキュベートする工程において、生体親和性高分子ブロックをさらに添加することによって、所望の大きさの細胞構造体であって、細胞構造体中に細胞が均一に存在する細胞構造体を製造することができる。
【0085】
上記別々に調製したモザイク細胞塊同士を融合させる方法とは、具体的には、複数個の生体親和性高分子ブロックと、複数個の細胞とを含み、上記複数の細胞により形成される複数個の隙間の一部または全部に、一または複数個の上記生体親和性高分子ブロックが配置されている細胞構造体を複数個融合させる工程を含む、細胞構造体の製造方法である。
【0086】
〈免疫隔離膜〉
本明細書において、免疫隔離膜は免疫隔離のために用いられる膜を意味する。
免疫隔離は免疫拒絶反応の防止方法である。一般的には、免疫隔離は移植の際のレシピエントの免疫拒絶反応を防止する方法の一つである。ここで、免疫拒絶反応は、移植される細胞構造体に対するレシピエントの拒絶反応である。免疫隔離により、レシピエントの免疫拒絶反応から細胞構造体が隔離される。免疫拒絶反応としては、細胞性免疫応答によるものおよび液性免疫応答によるものが挙げられる。
【0087】
免疫隔離膜は酸素、水、グルコース等の栄養分は透過させ、免疫拒絶反応に関与する免疫細胞等の透過を阻止する選択透過性の膜である。免疫細胞としては、マクロファージ、樹状細胞、好中球、好酸球、好塩基球、ナチュラルキラー細胞、各種T細胞、B細胞、その他リンパ球が挙げられる。
免疫隔離膜は、用途に応じ、免疫グロブリン(IgMまたはIgG等)および補体のような高分子量タンパク質の透過を阻止することが好ましく、インスリンなどの比較的低分子量の生理活性物質を透過させることが好ましい。
【0088】
免疫隔離膜の選択透過性は用途に応じて調整すればよい。免疫隔離膜は、例えば、分子量500kDa以上、100kDa以上、80kDa以上、または50kDa以上などの物質を遮断する選択透過性の膜であればよい。例えば、免疫隔離膜は、抗体の中で最も小さいIgG(分子量約160kDa)の透過を阻止できることが好ましい。また、免疫隔離膜は、球体としてのサイズとして直径500nm以上、100nm以上、50nm以上、または10nm以上などの物質を遮断する選択透過性の膜であればよい。
【0089】
免疫隔離膜は、好ましくは、ポリマーを含む多孔質膜を含む。免疫隔離膜は、ポリマーを含む多孔質膜のみからなっていてもよく、または他の層を含んでいてもよい。他の層としては、ハイドロゲル膜が挙げられる。免疫隔離膜は、輸送等のために表面に容易に剥離可能な保護フィルムを有していてもよい。
【0090】
免疫隔離膜の厚みは、特に限定されないが、10μm〜500μmであればよく、20μm〜300μmであることが好ましく、30μm〜250μmであることがより好ましい。
【0091】
[多孔質膜]
(多孔質膜の構造)
多孔質膜は複数の孔を有する膜をいう。孔は例えば膜断面の走査型電子顕微鏡(SEM)撮影画像または透過型電子顕微鏡(TEM)撮影画像で確認することができる。
多孔質膜の厚みは、特に限定されないが、10μm〜500μmであることが好ましく、10μm〜300μmであることがより好ましく、10μm〜250μmであることがさらに好ましい。
【0092】
好ましくは、多孔質膜は、孔径が最小となる層状の緻密部位を内部に有し、この緻密部位から多孔質膜の少なくとも一方の表面に向かって厚み方向で孔径が連続的に増加している。孔径は、後述する区分の平均孔径で判断するものとする。
膜の表面とは主表面(膜の面積を示すおもて面または裏面)を意味し、膜の端の厚み方向の面を意味するものではない。多孔質膜の表面は他の層との界面であってもよい。なお、免疫隔離膜において、多孔質膜は孔径または孔径分布(厚み方向での孔径の差異)などについて全面積において一様の構造を有していることが好ましい。
【0093】
多孔質膜が孔径分布を有することにより、免疫隔離膜は、寿命を向上させることができる。実質的に異なる孔径の膜を用いて多段階の濾過を行なったような効果が得られ、膜の劣化を防止することができるからである。
【0094】
孔径は電子顕微鏡によって得られた膜断面の写真から測定すればよい。多孔質膜はミクロトーム等により切断し、断面が観察できる薄膜の切片として、多孔質膜断面の写真を得ることができる。
【0095】
本明細書において、膜の厚み方向の孔径の比較は、膜断面のSEM撮影写真を膜の厚み方向に分割して行なうものとする。分割数は膜の厚みから適宜選択できる。分割数は少なくとも5以上とし、例えば200μm厚の膜では後述する表面Xから20分割して行う。
なお、分割幅の大きさは、膜における厚み方向の幅の大きさを意味し、写真での幅の大きさを意味するものではない。膜の厚み方向の孔径の比較において、孔径は、各区分の平均孔径として比較される。各区分の平均孔径は、例えば、膜断面図の各区分の50個の孔の平均値であればよい。この場合の膜断面図は例えば80μm幅(表面と平行な方向において80μmの距離)で得てもよい。このとき、孔が大きく、50個測定できない区分については、その区分でとれる数だけ測定したものであればよい。また、このとき、孔が大きくその区分に収まるものでない場合は、ほかの区分にわたってその孔の大きさを計測する。
【0096】
孔径が最小となる層状の緻密部位は、上記膜断面の区分のうちで平均孔径が最小となる区分に相当する多孔質膜の層状の部位をいう。緻密部位は1つの区分に相当する部位からなっていても、2つ、3つなどの、平均孔径が最小となる区分の1.1倍以内の平均孔径を有する複数の区分に相当する部位からなっていてもよい。緻密部位の厚みは、0.5μm〜50μmであればよく、0.5μm〜30μmであることが好ましい。本明細書において、緻密部位の平均孔径を多孔質膜の最小孔径とする。多孔質膜の最小孔径は、0.02μm〜1.5μmであることが好ましく、0.02μm〜1.3μmであることがより好ましい。このような多孔質膜の最小孔径で少なくとも通常の細胞の透過を阻止することができるからである。ここで、緻密部位の平均孔径はASTMF 316−80により測定したものとする。
【0097】
多孔質膜は、緻密部位を内部に有する。内部とは膜の表面に接していないことを意味し、「緻密部位を内部に有する」とは、緻密部位が、膜のいずれかの表面にもっとも近い区分ではないことを意味する。免疫隔離膜においては、緻密部位を内部に有する構造の多孔質膜を用いることにより、同じ緻密部位を表面に接して有する多孔質膜を用いた場合よりも、透過させることが意図された物質の透過性が低下しにくい。いかなる理論にも拘泥するものではないが、緻密部位が内部にあることによりタンパク質の吸着が起こりにくくなっているためと考えられる。
【0098】
緻密部位は、多孔質膜の厚みの中央部位よりもいずれか一方の表面側に偏っていることが好ましい。具体的には、緻密部位が多孔質膜のいずれか一方の表面から多孔質膜の厚みの5分の2以内の距離にあることが好ましく、3分の1以内の距離にあることがより好ましく、4分の1以内の距離にあることがさらに好ましい。この距離は上述の膜断面写真において判断すればよい。本明細書において、緻密部位がより近い側の多孔質膜の表面を「表面X」という。
【0099】
多孔質膜においては緻密部位から少なくともいずれか一方の表面に向かって厚み方向で孔径が連続的に増加している。多孔質膜において、緻密部位から表面Xに向かって厚み方向で孔径が連続的に増加していてもよく、緻密部位から表面Xと反対側の表面に向かって厚み方向で孔径が連続的に増加していてもよく、緻密部位から多孔質膜のいずれの表面に厚み方向で向かうときも孔径が連続的に増加していてもよい。これらのうち、少なくとも緻密部位から表面Xと反対側の表面に向かって厚み方向で孔径が連続的に増加していることが好ましく、緻密部位から多孔質膜のいずれの表面に厚み方向で向かうときも孔径が連続的に増加していることがより好ましい。「厚み方向で孔径が連続的に増加」とは、厚み方向に隣り合う区分の間の平均孔径の差異が、最大平均孔径(最大孔径)と最小平均孔径(最小孔径)の差異の50%以下、好ましくは40%以下、より好ましくは30%以下となるように増加していることをいう。「連続的に増加」は、本質的には、減少がなく一律に増加することを意味するものであるが、減少している部位が偶発的に生じていてもよい。例えば、区分を表面から2つずつ組み合わせたときに、組み合わせの平均値が、一律に増加(表面から緻密部位に向かう場合は一律に減少)している場合は、「緻密部位から膜の表面に向かって厚み方向で孔径が連続的に増加している」と判断できる。
厚み方向で孔径が連続的に増加する多孔質膜の構造は、例えば後述する製造方法により実現することができる。
【0100】
多孔質膜の最大孔径は1.5μm超25μm以下であることが好ましく、1.8μm〜23μmであることがより好ましく、2.0μm〜21μmであることがさらに好ましい。本明細書において、上記膜断面の区分のうちで平均孔径が最大となる区分のその平均孔径を多孔質膜の最大孔径とする。
【0101】
緻密部の平均孔径と多孔質膜の最大孔径との比(多孔質膜の最小孔径と最大孔径との比であって、最大孔径を最小孔径で割った値、本明細書において「異方性比」ということもある。)は、3以上が好ましく、4以上がより好ましく、5以上がさらに好ましい。緻密部位以外の平均孔径を大きくし、多孔質膜の物質透過性を高くするためである。また、異方性比は、25以下であることが好ましく、20以下であることがより好ましい。多孔質膜の最小孔径と最大孔径との比は、例えば、3.0〜20.0とすることができる。
【0102】
平均孔径が最大となる区分は膜のいずれかの表面にもっとも近い区分またはその区分に接する区分であることが好ましい。
膜のいずれかの表面にもっとも近い区分においては、平均孔径が0.05μm超25μm以下であることが好ましく、0.08μm超23μm以下であることがより好ましく、0.5μm超21μm以下であることがさらに好ましい。また、膜のいずれかの表面にもっとも近い区分の平均孔径の緻密部の平均孔径との比は、1.2以上20以下であることが好ましく、1.5以上15以下であることがより好ましく、2以上13以下であることがさらに好ましい。
【0103】
(多孔質膜の元素分布)
多孔質膜は、少なくとも一方の表面において、式(I)および式(II)を満たすことが好ましい。
B/A ≦ 0.7 (I)
A ≧ 0.015 (II)
式中、Aは膜の表面におけるC元素(炭素原子)に対するN元素(窒素原子)の比率を示し、Bは同じ表面から30nmの深さにおけるC元素に対するN元素の比率を示す。
式(II)は多孔質膜の少なくとも一方の表面に一定量以上のN元素が存在することを示すものであり、式(I)は多孔質膜中のN元素が表面30nm未満に偏在していることを示しているものである。N元素は窒素含有ポリマーに由来することが好ましい。さらに、窒素含有ポリマーはポリビニルピロリドンであることが好ましい。
【0104】
表面が式(I)および式(II)を満たすことにより、多孔質膜の生体親和性、特に、式(I)および式(II)を満たす表面側の生体親和性が高くなる。
多孔質膜は、いずれか一方のみの表面が、式(I)および式(II)を満たしていてもよく、または両表面が式(I)および式(II)を満たしていてもよいが、両表面が式(I)および式(II)を満たしていることが好ましい。いずれか一方のみの表面が式(I)および式(II)を満たす場合、その表面は、後述の移植用チャンバーにおいて、内側であっても、または外側であってもよいが、内側であることが好ましい。また、いずれか一方のみの表面が式(I)および式(II)を満たす場合、式(I)および式(II)を満たす表面は表面Xであることが好ましい。
【0105】
本明細書において、膜表面のC元素に対するN元素の比率(A値)および表面から30nmの深さにおけるC元素に対するN元素の比率(B値)は、XPS測定結果を用いて算出したものとする。XPS測定はX線光電子分光法であり、膜表面にX線を照射し、膜表面から放出される光電子の運動エネルギーを計測することで、膜表面を構成する元素の組成を分析する方法である。実施例に記載する単色化Al−Kα線を用いた条件で、スパッタ開始時の結果からA値を計算し、スパッタレートから測定した膜の表面から30nmであると計算される時間の結果からB値を計算するものとする。
【0106】
B/Aは0.02以上であればよく、0.03以上であることが好ましく、0,05以上であることがより好ましい。
Aは0.050以上であることが好ましく、0.080以上であることがより好ましい。また、Aは0.20以下であればよく、0.15以下であることが好ましく、0.10以下であることがより好ましい。
Bは0.001〜0.10であればよく、0.002〜0.08であることが好ましく、0.003〜0.07であることがより好ましい。
【0107】
多孔質膜の元素分布、特にN元素の分布は、後述する多孔質膜の製造方法において、調温湿風中に含まれる水分濃度、調温湿風を当てる時間、凝固液の温度、浸漬時間、洗浄のためのジエチレングリコール浴の温度、洗浄のためのジエチレングリコール浴への浸漬時間、多孔質膜製造ラインの速度等によって制御することができる。なお、N元素の分布は、製膜原液中の含有水分量によっても制御することができる。
【0108】
(多孔質膜の組成)
多孔質膜はポリマーを含む。多孔質膜は本質的にポリマーから構成されていることが好ましい。
多孔質膜を形成するポリマーは生体適合性であることが好ましい。ここで、「生体適合性」とは、無毒性、非アレルギー誘発性を含む意味であるが、ポリマーが生体内において被包化される性質を含むものではない。
ポリマーは数平均分子量(Mn)が1,000〜10,000,000であるものが好ましく、5,000〜1,000,000であるものがより好ましい。
【0109】
ポリマーの例としては、熱可塑性または熱硬化性のポリマーが挙げられる。ポリマーの具体的な例としては、ポリスルホン、セルロースアシレート、ニトロセルロース、スルホン化ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアクリロニトリル、スチレンーアクリロニトリルコポリマー、スチレンーブタジエンコポリマー、エチレンー酢酸ビニルコポリマーのケン化物、ポリビニルアルコール、ポリカーボネート、オルガノシロキサンーポリカーボネートコポリマー、ポリエステルカーボネート、オルガノポリシロキサン、ポリフェニレンオキシド、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリベンズイミダゾール、エチレンビニルアルコール共重合体、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等を挙げることができる。これらは、溶解性、光学的物性、電気的物性、強度、弾性等の観点から、ホモポリマーであってもよいし、コポリマーやポリマーブレンド、ポリマーアロイとしてもよい。
これらのうち、ポリスルホン、セルロースアシレートが好ましく、ポリスルホンがより好ましい。
【0110】
多孔質膜はポリマー以外の他の成分を添加剤として含んでいてもよい。
上記添加剤としては、食塩、塩化リチウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硫酸ナトリウム、塩化亜鉛等の無機酸の金属塩、酢酸ナトリウム、ギ酸ナトリウム等の有機酸の金属塩、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン等の高分子、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム、ポリビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロライド等の高分子電解質、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、アルキルメチルタウリン酸ナトリウム等のイオン系界面活性剤等を挙げることができる。添加剤は多孔質構造のための膨張剤として作用していてもよい。
【0111】
多孔質膜は単一の層として1つの組成物から形成された膜であることが好ましく、複数層の積層構造ではないことが好ましい。
【0112】
(多孔質膜の製造方法)
多孔質膜の製造方法は、上述の構造の多孔質膜が形成できる限り、特に限定されず、通常のポリマー膜形成方法をいずれも用いることができる。ポリマー膜形成方法としては延伸法および流延法などが挙げられる。
例えば、流延法においては、製膜原液に用いる溶媒の種類および量や流延後の乾燥方法を調節することにより上述の構造を有する多孔質膜を作製することができる。
【0113】
流延法による多孔質膜の製造は、例えば以下(1)〜(4)をこの順で含む方法で行なうことができる。
(1)ポリマー、必要に応じて添加剤、および必要に応じて溶媒を含む製膜原液を溶解状態で支持体上に流延する。
(2)流延された液膜の表面に調温湿風を当てる。
(3)調温湿風を当てた後に得られる膜を凝固液に浸漬する。
(4)必要に応じて支持体を剥離する。
【0114】
調温湿風の温度は、4℃〜60℃、好ましくは10℃〜40℃であればよい。調温湿風の相対湿度は、30%〜70%、好ましくは40%〜50%であればよい。調温湿風の絶対湿度は、1.2〜605g/kg空気であることが好ましく、2.4〜300g/kg空気であることがより好ましい。調温湿風は、0.1m/秒〜10m/秒の風速で0.1秒間〜30秒間、好ましくは1秒間〜10秒間、当てていればよい。
緻密部位の平均孔径および位置は、調温湿風中に含まれる水分濃度、調温湿風を当てる時間によって制御することができる。なお、緻密部位の平均孔径は、製膜原液中の含有水分量によっても制御することができる。
【0115】
上記のように液膜の表面に調温湿風を当てることによって、溶媒の蒸発の制御を行い、液膜の表面から内部に向かってコアセルベーションを起こすことができる。この状態でポリマーの溶解性が低いがポリマーの溶媒に相溶性を有する溶媒を収容する凝固液に浸漬することによって、上記のコアセルベーション相を微細孔として固定させ微細孔以外の細孔も形成することができる。
【0116】
上記の凝固液に浸漬する過程において凝固液の温度は−10℃〜80℃であればよい。この間で温度を変化させることによって、緻密部位より支持体面側におけるコアセルベーション相の形成から凝固に至るまでの時間を調節し、支持体面側に至るまでの孔径の大きさを制御することが可能である。凝固液の温度を高くすると、コアセルベーション相の形成が早くなり凝固に至るまでの時間が長くなるため、支持体面側へ向かう孔径は大きくなりやすい。一方、凝固液の温度を低くすると、コアセルベーション相の形成が遅くなり凝固に至るまでの時間が短くなるため、支持体面側へ向かう孔径は大きくなりにくい。
【0117】
支持体としては、プラスチックフィルムまたはガラス板を用いればよい。プラスチックフィルムの材料の例としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)などのポリエステル、ポリカーボネート、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン、ポリアミド、ポリオレフィン、セルロース誘導体、シリコーンなどが挙げられる。支持体としてはガラス板またはPETが好ましく、PETがより好ましい。
【0118】
製膜原液は溶媒を含んでいてもよい。溶媒は使用するポリマーに応じて、使用するポリマーの溶解性が高い溶媒(以下、「良溶媒」ということがある)を用いればよい。良溶媒は、凝固液に浸漬した場合速やかに凝固液と置換されるものが好ましい。溶媒の例としては、ポリマーがポリスルホン等の場合、N−メチル−2−ピロリドン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドあるいはこれらの混合溶媒が挙げられ、ポリマーがポリアクリロニトリル等の場合、ジオキサン、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシドあるいはこれらの混合溶媒が挙げられ、ポリマーがポリアミド等の場合にはジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドあるいはこれらの混合溶媒が挙げられ、ポリマーがセルロースアセテート等の場合はアセトン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、N−メチル−2−ピロリドンあるいはこれらの混合溶媒が挙げられる。
【0119】
製膜原液は良溶媒のほか、ポリマーの溶解性が低いがポリマーの溶媒に相溶性を有する溶媒(以下、「非溶媒」ということがある)を用いることが好ましい。非溶媒としては、水、セルソルブ類、メタノール、エタノール、プロパノール、アセトン、テトラヒドロフラン、ポリエチレングリコール、グリセリン等が挙げられる。これらのうち、水を用いることが好ましい。
【0120】
製膜原液としてのポリマー濃度は、5質量%以上35質量%以下、好ましくは10質量%以上30質量%以下であればよい。35質量%以下であることにより、得られる多孔質膜に十分な透過性(例えば水の透過性)を与えることができ、5質量%以上とすることにより選択的に物質を透過する多孔質膜の形成を担保することができる。添加剤の添加量は添加によって製膜原液の均一性が失われることが無い限り特に制限は無いが、通常溶媒に対して0.5質量%以上10質量%以下である。製膜原液が非溶媒と良溶媒とを含む場合、非溶媒の良溶媒に対する割合は、混合液が均一状態を保てる範囲であれば特に制限はないが、1.0質量%〜50質量%が好ましく、2.0質量%〜30質量%がより好ましく、3.0質量%〜10質量%がさらに好ましい。
【0121】
凝固液としては、用いられるポリマーの溶解度が低い溶媒を用いることが好ましい。このような溶媒の例としては、水、メタノール、エタノール、ブタノールなどのアルコール類;エチレングリコール、ジエチレングリコールなどのグリコール類;エーテル、n−ヘキサン、n−ヘプタン等の脂肪族炭化水素類;グリセリン等のグリセロール類などが挙げられる。好ましい凝固液の例としては、水、アルコール類またはこれらの2種以上の混合物が挙げられる。これらのうち、水を用いることが好ましい。
【0122】
凝固液への浸漬の後、使用した凝固液とは異なる溶媒で洗浄を行なうことも好ましい。洗浄は、溶媒に浸漬することにより行なうことができる。洗浄溶媒としてはジエチレングリコールが好ましい。洗浄溶媒としてジエチレングリコールを用い、フィルムを浸漬するジエチレングリコールの温度および浸漬時間のいずれか一方または双方を調節することにより、多孔質膜中のN元素の分布を調節できる。特に、多孔質膜の製膜原液にポリビニルピロリドンを用いる場合において、ポリビニルピロリドンの膜への残量を制御することができる。ジエチレングリコールでの洗浄後さらに、水で洗浄してもよい。
【0123】
多孔質膜の製膜原液としては、ポリスルホンおよびポリビニルピロリドンをN−メチル−2−ピロリドンに溶解して水を加えてなる製膜原液が好ましい。
多孔質膜の製造方法については、特開平4−349927号公報、特公平4−68966号公報、特開平04−351645号公報、特開2010−235808号公報等を参照することができる。
【0124】
[他の層]
免疫隔離膜は多孔質膜以外の他の層を含んでいてもよい。他の層としては、ハイドロゲル膜が挙げられる。ハイドロゲル膜は、生体適合性であるものが好ましく、例としては、アルギン酸ゲル膜、アガロースゲル膜、ポリイソプロピルアクリルアミド膜、セルロースを含む膜、セルロース誘導体(例えばメチルセルロース)を含む膜、ポリビニルアルコール膜などが挙げられる。ハイドロゲル膜としては、アルギン酸ゲル膜が好ましい。アルギン酸ゲル膜の具体例としては、アルギン酸−ポリ−L−リジン−アルギン酸のポリイオンコンプレックス膜を挙げることができる。
【0125】
〈血管新生剤の製造方法〉
本発明の血管新生剤は、間葉系幹細胞を免疫隔離膜で内包する工程を含む方法によって製造することができる。
【0126】
本発明においては、免疫隔離膜は、間葉系幹細胞を内包するための移植用チャンバーの構成部材として用いられる。移植用チャンバーは、間葉系幹細胞をレシピエントに移植する際に、間葉系幹細胞を内包するための容器として用いられる。免疫隔離膜は移植用チャンバーの内部と外部とを形成する面の少なくとも一部に配置することができる。このように配置することにより、移植用チャンバーに内包される間葉系幹細胞を外部に存在する免疫細胞等から保護しつつ、水、酸素、グルコース等の栄養分を移植用チャンバーの外部から内部に取り込むことができる。
【0127】
免疫隔離膜は移植用チャンバーの内部と外部とを形成する面の全面に配置されていてもよく、全面に対し、例えば、1〜99%、5〜90%、10〜80%、20〜70%、30〜60%、40〜50%等の面積に相当する一部に配置されていてもよい。免疫隔離膜が配置される面は1つの連続した部分であってもよく、2つ以上の部分に分かれていてもよい。
【0128】
移植用チャンバーの形態は限定されず、袋状、バッグ状、チューブ状、マイクロカプセル状、太鼓状であればよい。例えば、太鼓状の移植用チャンバーはシリコーンリングの上下に免疫隔離膜を接着させて形成することができる。移植用チャンバーの形状は、血管新生剤としての使用の際に、レシピエント内における移動を防止できる形状であることが好ましい。移植用チャンバーの形状の具体例としては、円筒状、円盤状、矩形、卵型、星形、円形などが挙げられる。移植用チャンバーは、シート状、ストランド状、らせん状などであってもよい。移植用チャンバーは、細胞または細胞構造体を内包し、血管新生剤とした際に初めて上記の形状となるものであってもよい。
【0129】
移植用チャンバーは、容器としての形状や強度を維持するための生体適合性プラスチック等を含んでいてもよい。例えば、移植用チャンバーの内部と外部とを形成する面が免疫隔離漠および免疫隔離膜に該当しない生体適合性プラスチックからなっていてもよい。または実質的に内部と外部とを形成する面の全面に免疫隔離膜が配置されている移植用チャンバーは、強度の観点からさらに内部と外部とを形成する面の外側に網状構造の生体適合性プラスチックが配置されていてもよい。
【0130】
移植用チャンバーにおいては、多孔質膜の表面Xが内部側にあることが好ましい。すなわち、免疫隔離膜中の多孔質膜の緻密部位がより移植用チャンバーの内部に近くなるように、免疫隔離膜が配置されていることが好ましい。表面Xを移植用チャンバーの内部側にすることにより、生理活性物質の透過性をより高くすることができる。
【0131】
〈血管新生剤〉
本発明の血管新生剤は、間葉系幹細胞および免疫隔離膜を含む。血管新生剤においては、免疫隔離膜に間葉系幹細胞が内包されている。
【0132】
血管新生剤において、免疫隔離膜には、間葉系幹細胞(または間葉系幹細胞の細胞構造体)のみが内包されていてもよく、または、間葉系幹細胞(または間葉系幹細胞の細胞構造体)に加えて、それ以外の他の構成物または成分が内包されていてもよい。例えば、間葉系幹細胞(または間葉系幹細胞の細胞構造体)は、ハイドロゲルとともに、好ましくはハイドロゲルに内包された状態で、免疫隔離膜に内包されていてもよい。血管新生剤は、pH緩衝剤、無機塩、有機溶媒、アルブミンなどのタンパク質、ペプチドを含んでいてもよい。
血管新生剤において、間葉系幹細胞(または間葉系幹細胞の細胞構造体)は1種のみ含まれていてもよく、2種以上含まれていてもよい。
【0133】
血管新生剤は、例えば、レシピエントの腹腔内または皮下などに移植されるものであればよい。本明細書において、レシピエントは移植を受ける生体を意味する。レシピエントは哺乳動物であることが好ましく、ヒトであることがより好ましい。
血管新生剤の移植回数は、1回だけ移植してもよいし、必要に応じ2回以上の移植を行うこともできる。
【0134】
〈各種の用途〉
本発明によれば、(A)間葉系幹細胞、および(B)上記間葉系幹細胞を内包する免疫隔離膜、を含む細胞移植用デバイスを、血管新生を必要とする対象者に移植する工程を含む、血管新生方法が提供される。
本発明によれば、血管新生のための処置において使用するための細胞移植用デバイスであって、(A)間葉系幹細胞、および(B)上記間葉系幹細胞を内包する免疫隔離膜、を含む細胞移植用デバイスが提供される。
本発明によれば、血管新生剤の製造のための、(A)間葉系幹細胞、および(B)上記間葉系幹細胞を内包する免疫隔離膜、を含む細胞移植用デバイスの使用が提供される。
上記した各種用途において、好ましい態様は、前述と同様である。
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0135】
[参考例1]リコンビナントペプチド(リコンビナントゼラチン)
リコンビナントペプチド(リコンビナントゼラチン)として以下のCBE3を用意した(国際公開WO2008/103041号公報に記載)。
CBE3:
分子量:51.6kD
構造: GAP[(GXY)63]3G
アミノ酸数:571個
RGD配列:12個
イミノ酸含量:33%
ほぼ100%のアミノ酸がGXYの繰り返し構造である。CBE3のアミノ酸配列には、セリン、スレオニン、アスパラギン、チロシンおよびシステインは含まれていない。CBE3はERGD配列を有している。
等電点:9.34
GRAVY値:−0.682
1/IOB値:0.323
アミノ酸配列(配列表の配列番号1)(国際公開WO2008/103041号公報の配列番号3と同じ。但し末尾のXは「P」に修正)

【0136】
[参考例2] リコンビナントペプチド多孔質体の作製
[PTFE厚・円筒形容器]
底面厚さ3mm、直径51mm、側面厚さ8mm、高さ25mmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製円筒カップ状容器を用意した。円筒カップは曲面を側面としたとき、側面は8mmのPTFEで閉鎖されており、底面(平板の円形状)も3mmのPTFEで閉鎖されている。一方、上面は開放された形をしている。よって、円筒カップの内径は43mmになっている。以後、この容器のことをPTFE厚・円筒形容器と呼称する。
【0137】
[アルミ硝子板・円筒形容器]
厚さ1mm、直径47mmのアルミ製円筒カップ状容器を用意した。円筒カップは曲面を側面としたとき、側面は1mmのアルミで閉鎖されており、底面(平板の円形状)も1mmのアルミで閉鎖されている。一方、上面は開放された形をしている。また、側面の内部にのみ、肉厚1mmのテフロン(登録商標)を均一に敷き詰め、結果として円筒カップの内径は45mmになっている。また、この容器の底面にはアルミの外に2.2mmの硝子板を接合した状態にしておく。以後、この容器のことをアルミ硝子・円筒形容器と呼称する。
【0138】
[温度差の小さい凍結工程、および乾燥工程]
PTFE厚・円筒形容器またはアルミ硝子板・円筒形容器にCBE3水溶液を流し込み、真空凍結乾燥機(TF5−85ATNNN:宝製作所)内で冷却棚板を用いて底面からCBE3水溶液を冷却した。この際の容器、CBE3水溶液の最終濃度、液量、および棚板温度の設定の組み合わせは、以下に記載の通りで用意した。
【0139】
条件A:
PTFE厚・円筒形容器、CBE3水溶液の最終濃度4質量%、水溶液量4mL。棚板温度の設定は、−10℃になるまで冷却し、−10℃で1時間、その後−20℃で2時間、さらに−40℃で3時間、最後に−50℃で1時間凍結を行った。本凍結品はその後、棚板温度を−20℃設定に戻してから−20℃で24時間の真空乾燥を行い、24時間後にそのまま真空乾燥を続けた状態で棚板温度を20℃へ上昇させ、十分に真空度が下がる(1.9×105Pa)まで、さらに20℃で48時間の真空乾燥を実施した後に、真空凍結乾燥機から取り出した。それによって多孔質体を得た。
【0140】
条件B:
アルミ・硝子板・円筒形容器、CBE3水溶液の最終濃度4質量%、水溶液量4mL。 棚板温度の設定は、−10℃になるまで冷却し、−10℃で1時間、その後−20℃で2時間、さらに−40℃で3時間、最後に−50℃で1時間凍結を行った。本凍結品はその後、棚板温度を−20℃設定に戻してから−20℃で24時間の真空乾燥を行い、24時間後にそのまま真空乾燥を続けた状態で棚板温度を20℃へ上昇させ、十分に真空度が下がる(1.9×105Pa)まで、さらに20℃で48時間の真空乾燥を実施した後に、真空凍結乾燥機から取り出した。それによって多孔質体を得た。
【0141】
条件C:
PTFE厚・円筒形容器、CBE3水溶液の最終濃度4質量%、水溶液量10mL。棚板温度の設定は、−10℃になるまで冷却し、−10℃で1時間、その後−20℃で2時間、さらに−40℃で3時間、最後に−50℃で1時間凍結を行った。本凍結品はその後、棚板温度を−20℃設定に戻してから−20℃で24時間の真空乾燥を行い、24時間後にそのまま真空乾燥を続けた状態で棚板温度を20℃へ上昇させ、十分に真空度が下がる(1.9×105Pa)まで、さらに20℃で48時間の真空乾燥を実施した後に、真空凍結乾燥機から取り出した。それによって多孔質体を得た。
【0142】
[各凍結工程での温度測定]
条件A〜条件Cのそれぞれについて、溶液内で冷却側から最も遠い場所の液温(非冷却面液温)として容器内の円中心部の水表面液温を、また、溶液内で冷却側に最も近い液温(冷却面液温)として容器内の底部の液温を測定した。
その結果、それぞれの温度とその温度差のプロファイルは図1〜図3の通りとなった。
【0143】
図1、図2、図3から条件A、条件B、条件Cでは棚板温度−10℃設定区間(−20℃に下げる前)において液温が融点である0℃を下回り、かつその状態で凍結が起こっていない(未凍結・過冷却)状態であることがわかる。また、この状態で、冷却面液温と非冷却面液温の温度差が2.5℃以下となっていた。なお、本明細書において、「温度差」とは、「非冷却面液温」―「冷却面液温」を意味する。その後、棚板温度を−20℃へ更に下げていくことによって、液温が0℃付近へ急激に上昇するタイミングが確認され、ここで凝固熱が発生し凍結が開始されたことが分かる。また、そのタイミングで実際に氷形成が始まっていることも確認できた。その後、温度は0℃付近を一定時間経過していく。ここでは、水と氷の混合物が存在する状態となっていた。最後0℃から再び温度降下が始まるが、この時、液体部分はなくなり氷となっている。従って、測定している温度は氷内部の固体温度となり、つまり液温ではなくなる。
【0144】
以下に、条件A、条件B、条件Cについて、非冷却面液温が融点(0℃)になった時の温度差、棚板温度を−10℃から−20℃へ下げる直前の温度差と、凝固熱発生直前の温度差を記載する。なお、本発明で言う「直前の温度差」とは、イベント(凝固熱発生等)の1秒前〜20秒前までの間で検知可能な温度差の内、最も高い温度のことを表している。
【0145】
条件A
非冷却面液温が融点(0℃)になった時の温度差:1.1℃
−10℃から−20℃へ下げる直前の温度差:0.2℃
凝固熱発生直前の温度差:1.1℃
【0146】
条件B
非冷却面液温が融点(0℃)になった時の温度差:1.0℃
−10℃から−20℃へ下げる直前の温度差:0.1℃
凝固熱発生直前の温度差:0.9℃
【0147】
条件C
非冷却面液温が融点(0℃)になった時の温度差:1.8℃
−10℃から−20℃へ下げる直前の温度差:1.1℃
凝固熱発生直前の温度差:2.1℃
【0148】
[参考例3]生体親和性高分子ブロックの作製(多孔質体の粉砕と架橋)
参考例2で得られた条件Aおよび条件BのCBE3多孔質体をニューパワーミル(大阪ケミカル、ニューパワーミルPM−2005)で粉砕した。粉砕は、最大回転数で1分間×5回、計5分間の粉砕で行った。得られた粉砕物について、ステンレス製ふるいでサイズ分けし、25〜53μm、53〜106μm、106〜180μmの未架橋ブロックを得た。その後、減圧下160℃で熱架橋(架橋時間は8時間、16時間、24時間、48時間、72時間、96時間の6種類を実施した)を施して、生体親和性高分子ブロック(CBE3ブロック)を得た。
【0149】
以下、48時間架橋を施した条件Aの多孔質体由来ブロックをE、48時間架橋を施した条件Bの多孔質体由来ブロックをFと称する。EおよびFは温度差の小さい凍結工程により製造した多孔質体から作られた温度差小ブロックである。なお、架橋時間の違いは本実施例の評価においては性能に影響が見られなかったため、以後、48時間架橋したものを代表として使用した。また、EおよびFでは性能に差が見られなかった。以下の参考例、実施例および比較例では、条件A、サイズ53〜106μm、架橋時間48時間で作製した生体親和性高分子ブロックを使用した。
【0150】
[参考例4]生体親和性高分子ブロックのタップ密度測定
タップ密度は、ある体積にどれくらいのブロックを密に充填できるかを表す値であり、値が小さいほど、密に充填できない、すなわちブロックの構造が複雑であると言える。タップ密度は、以下のように測定した。まず、ロートの先にキャップ(直径6mm、長さ21.8mmの円筒状:容量0.616cm3)が付いたものを用意し、キャップのみの質量を測定した。その後、ロートにキャップを付け、ブロックがキャップに溜まるようにロートから流し込んだ。十分量のブロックを入れた後、キャップ部分を200回、机などの硬いところにたたきつけ、ロートをはずし、スパチュラですりきりにした。このキャップにすりきり一杯入った状態で質量を測定した。キャップのみの質量との差からブロックのみの質量を算出し、キャップの体積で割ることで、タップ密度を求めた。
その結果、参考例3の生体親和性高分子ブロックのタップ密度は98mg/cm3であった。
【0151】
[参考例5] 生体親和性高分子ブロックの架橋度測定
参考例3で架橋したブロックの架橋度(1分子当たりの架橋数)を算出した。測定はTNBS(2,4,6−トリニトロベンゼンスルホン酸)法を用いた。
〈サンプル調製〉
ガラスバイアルに、サンプル(約10mg)、4質量%NaHCO3水溶液(1mL)および1質量%のTNBS水溶液(2mL)を添加し、混合物を37℃で3時間振とうさせた。その後、37質量%塩酸(10mL)および純水(5mL)を加えた後、混合物を37℃で16時間以上静置し、サンプルとした。
【0152】
〈ブランク調整〉
ガラスバイアルに、サンプル(約10mg)、4質量%NaHCO3水溶液(1mL)および1質量%TNBS水溶液(2mL)を添加し、直後に37質量%塩酸(3mL)を加え、混合物を37℃で3時間振とうした。その後、37質量%塩酸(7mL)および純水(5mL)を加えた後、混合物を37℃で16時間以上静置し、ブランクとした。
純水で10倍希釈したサンプル、および、ブランクの吸光度(345nm)を測定し、以下の(式2)、および(式3)から架橋度(1分子当たりの架橋数)を算出した。
【0153】
(式2) (As−Ab)/14600×V/w
(式2)は、リコンビナントペプチド1g当たりのリジン量(モル等量)を示す。
(式中、Asはサンプル吸光度、Abはブランク吸光度、Vは反応液量(g)、wはリコンビナントペプチド質量(mg)を示す。)
【0154】
(式3) 1−(サンプル(式2)/未架橋リコンビナントペプチド(式2))×34
(式3)は、1分子あたりの架橋数を示す。
【0155】
その結果、参考例3の生体親和性高分子ブロックの架橋度は、4.2であった。
【0156】
[参考例6] 生体親和性高分子ブロックの吸水率測定
参考例3で作製した生体親和性高分子ブロックの吸水率を算出した。
25℃において、3cm×3cmのナイロンメッシュ製の袋の中に、生体親和性高分子ブロック約15mgを充填し、2時間イオン交換水中で膨潤させた後、10分風乾させた。それぞれの段階において質量を測定し、(式4)に従って、吸水率を求めた。
【0157】
(式4)
吸水率=(w2−w1−w0)/w0
(式中、w0は、吸水前の材料の質量、w1は吸水後の空袋の質量、w2は吸水後の材料を含む袋全体の質量を示す。)
【0158】
その結果、参考例3のブロックの吸水率は、786%であった。
【0159】
[参考例7]細胞構造体の作製
マウス脂肪由来間葉系幹細胞(mADSC)を10%FBS(ウシ胎児血清)含有のD−MEM培地(ダルベッコ改変イーグル培地)に懸濁し、そこに参考例3で作製した生体親和性高分子ブロック(53−106μm)を加えて、最終的にmADSC(1.2×108cells)と生体親和性高分子ブロック(0.25mg)が4mLの培地に懸濁された状態で、細胞非接着性の35mmディッシュであるEZSPHERE(登録商標)ディッシュType903(スフェロイドウェル口径800μm、スフェロイドウェル深さ300μm、スフェロイドウェル数〜約1,200ウェル。底面が窪み部を有する培養面であり、培養面の周縁に立設される側外壁部を有する。AGCテクノグラス製)に播種した。上記ディッシュをCO2インキュベーターで37℃で48時間静置することで、約1,200個の均一な細胞構造体を取得した。
【0160】
[参考例8]免疫隔離膜の作製と孔径評価
〈多孔質膜の作製〉
ポリスルホン(ソルベイ社製P3500)15質量部、ポリビニルピロリドン(日本触媒社製K−30)15質量部、塩化リチウム1質量部、および水2質量部をN−メチル−2−ピロリドン67質量部に溶解して製膜原液を得た。この製膜原液をPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム表面に乾燥厚み50μmとなるようなウェット膜厚で流延した。上記流延した液膜表面に30℃、相対湿度80%RHに調節した空気を2m/秒で5秒間当てた。その後直ちに水を満たした65℃の凝固液槽に浸漬した。PETフィルムを剥離して多孔質膜を得た。その後、80℃のジエチレングリコール浴に120秒間つけ、その後純水で洗浄し、乾燥厚み50μmの多孔質膜を得た。この多孔質膜を免疫隔離膜とした。
【0161】
〈バブルポイント評価〉
バブルポイントは、パームポロメータ(西華産業製CFE−1200AEX)を用いた細孔径分布測定試験において、GALWICK(Porous Materials,Inc社製)に完全に濡らした膜のサンプルに対して空気圧を5cm3/分で増大させて評価した。
参考例8の多孔質膜のバブルポイントは0.58kg/cm2であった。
【0162】
〈厚みおよび孔径評価〉
多孔質膜の厚みを膜断面のSEM撮影写真を用いて測定した。
多孔質膜の厚み方向の孔径の比較を、膜断面のSEM撮影写真を膜の厚み方向に20分割したときの19本の分割線における孔径の比較により行なった。分割線と交差するまたは接する孔を連続して50個以上選択し、それぞれの孔径を測定し、平均値を算出して平均孔径とする。ここで、孔径は、選択された孔が分割線と交差する部分の長さではなく、膜断面のSEM撮影写真からデジタイザーで孔をなぞり面積を算出し、得られた面積を真円の面積として算出される直径を用いる。このとき、孔が大きく、50個以上選択できない分割線については、膜断面を得るSEM撮影写真の視野を広げて50個測定するものとする。得られた平均孔径を分割線ごとで比較することにより膜の厚み方向の孔径の比較を行なった。そのとき最も小さな平均孔径を緻密部位の平均孔径とした。
【0163】
多孔質膜の緻密部位の厚みは以下の式から算出した。
(式)膜厚×[(最小孔径×1.3倍以内の孔径となる分割線の数)÷19]
【0164】
膜断面のSEM撮影写真を図4、厚さ方向の孔径分布を図5に示す。参考例8の多孔質膜の厚みおよび孔径評価の結果は以下であった。
多孔質膜の厚み:55μm
緻密部位の平均孔径(多孔質膜の最小孔径の平均値):0.8μm
多孔質膜の最小孔径と最大孔径の比:7.5
緻密部位の厚み:10.5μm
図5より、参考例8の多孔質膜は、分割線No.5〜8が緻密部位であり、本明細書の段落番号0097の定義から、分割線No.1〜5および分割線No.8〜19において、「緻密部位から膜の表面に向かって厚み方向で孔径が連続的に増加している」と判断できる。
【0165】
[参考例9]細胞移植用デバイス(免疫隔離膜のみ)の作製
参考例8で作製したポリスルホン多孔質膜を3cm×5cmに切り出した。製造時に空気を当てた側の面を内側にして2つ折りにした。
その後、富士インパルス社製茶袋シーラー(T−230K)を用い、3cm×2.5cmの長方形の長辺2辺および短辺1辺の3辺を、260℃に加熱した。なお温度は熱電対で測定した。その後Intramedicポリエチレンチューブ(PE200)の内側に金属棒を挿した状態で残った1辺に挿入し、その状態で同じシーラーを用いてそれぞれ、同じ温度で加熱した。その後、端部封止部の幅が1mmになるように周囲部をナイフで切断し、1cm×2cmとなるような細胞移植用デバイス(免疫隔離膜のみ)を作製した。作製方法を図6に示す。
【0166】
[参考例10]免疫隔離膜の作製と孔径評価
ポリスルホン(ソルベイ社製P3500)15質量部、ポリビニルピロリドン(日本触媒社製K−30)15質量部、塩化リチウム1質量部、および水2質量部をN−メチル−2−ピロリドン67質量部に溶解して製膜原液を得た。この製膜原液をPETフィルム表面に乾燥厚み83μmとなるようなウェット膜厚で流延した。上記流延した液膜表面に30℃、相対湿度57%RHに調節した空気を2m/秒で5秒間当てた。その後直ちに水を満たした70℃の凝固液槽に浸漬した。PETフィルムを剥離して多孔質膜を得た。その後、80℃のジエチレングリコール浴に120秒間つけ、その後純水で洗浄し、多孔質膜を得た。この多孔質膜を免疫隔離膜とした。
参考例10の多孔質膜のバブルポイントは0.66kg/cm2であった。
【0167】
参考例8と同様に、厚みおよび孔径を評価した。膜断面のSEM撮影写真を図7、厚さ方向の孔径分布を図8に示す。参考例10の多孔質膜の厚みおよび孔径評価の結果は以下であった。
多孔質膜の厚み:85μm
緻密部位の平均孔径(多孔質膜の最小孔径の平均値):0.73μm
多孔質膜の最小孔径と最大孔径の比:11.1
緻密部位の厚み:21.8μm
図8より、参考例10の多孔質膜は、分割線No.4〜8が緻密部位であり、本明細書の段落番号0097の定義から、分割線No.1〜4および分割線No.8〜19において、「緻密部位から膜の表面に向かって厚み方向で孔径が連続的に増加している」と判断できる。
【0168】
[参考例11]細胞移植用デバイスの作製
多孔質膜として参考例8で作製したポリスルホン多孔質膜の代わりに参考例10で作製したポリスルホン多孔質膜を用いて、参考例9と同様に細胞移植用デバイスを作製した。
【0169】
[参考例12]免疫隔離膜の作製と孔径評価
ポリスルホン(ソルベイ社製 P3500)18質量部、ポリビニルピロリドン(K−30)12質量部、塩化リチウム0.5質量部、水1質量部をN−メチル−2−ピロリドン68.5質量部に溶解して製膜原液を得た。この製膜原液をPETフィルム表面に乾燥厚み130μmとなるようなウェット膜厚で流延した。上記流延した液膜表面に30℃、相対湿度50%RHに調節した空気を2m/秒で5秒間当てた。その後直ちに水を満たした50℃の凝固液槽に浸漬した。PETフィルムを剥離して多孔質膜を得た。その後、80℃のジエチレングリコール浴に120秒間つけ、その後純水で洗浄し、多孔質膜を得た。この多孔質膜を免疫隔離膜とした。
参考例12の多孔質膜のバブルポイントは1.3kg/cm2であった。
【0170】
参考例8と同様に、厚みおよび孔径を評価した。膜断面のSEM撮影写真を図9、厚さ方向の孔径分布を図10に示す。参考例12の多孔質膜の厚みおよび孔径評価の結果は以下であった。
多孔質膜の厚み:142μm
緻密部位の平均孔径(多孔質膜の最小孔径の平均値):0.45μm
多孔質膜の最小孔径と最大孔径の比:12.2
緻密部位の厚み:27.4μm
図10より、参考例12の多孔質膜は、分割線No.2〜5が緻密部位であり、本明細書の段落番号0097の定義から、分割線No.1〜2および分割線No.5〜19において、「緻密部位から膜の表面に向かって厚み方向で孔径が連続的に増加している」と判断できる。
【0171】
[参考例13]細胞移植用デバイス(免疫隔離膜のみ)の作製
多孔質膜として参考例8で作製したポリスルホン多孔質膜の代わりに参考例12で作製したポリスルホン多孔質膜を用いて、参考例9と同様に細胞移植用デバイス(免疫隔離膜のみ)を作製した。
【0172】
[実施例1]生体内でのデバイス周囲への血管誘導能評価
参考例9、11および13で作製した細胞移植用デバイス(免疫隔離膜のみ)に参考例7で作製したmADSCの細胞構造体を1,600個封入し、注入部を封止して細胞移植用デバイス(血管新生剤)を完成させた。それらを、NOD/SCIDマウスの背部皮下に埋植し、2週経過後に移植部位の組織切片を作製し、組織学的な評価を実施した。2個体に移植した代表的な組織標本を図11に示した。その結果、間葉系幹細胞(MSC)の細胞構造体を含む細胞移植用デバイスでは、デバイス近傍に局所的に多数の新生血管が誘導されていることが分かった。
【0173】
[比較例1]生体内でのデバイス周囲への血管誘導能評価
参考例7で作製したmADSCの細胞構造体のみをNOD/SCIDマウスの背部皮下に埋植し、2週経過後に移植部位の組織切片を作製し、組織学的な評価を実施した。2個体に移植した代表的な組織標本を図12に示した。その結果、間葉系幹細胞(mADSC)の細胞構造体のみでは、新生血管はランダムな部位に誘導された。
【0174】
[比較例2]生体内でのデバイス周囲への血管誘導能評価
参考例9、11、13で作製した細胞移植用デバイスをNOD/SCIDマウスの背部皮下に埋植し、2週経過後に移植部位の組織切片を作製し、組織学的な評価を実施した。2個体に移植した代表的な組織標本を図13に示した。その結果、間葉系幹細胞(mADSC)の細胞構造体を含まない細胞移植用デバイスでは、新生血管の誘導は非常に少ないことが分かった。
【0175】
[実施例2]
実施例1および比較例1、2の結果について、視野当りの血管の総面積、および視野当りの血管本数で定量評価を行った。評価に当たっては4個体のデータを解析し、平均値と標準偏差を算出した。結果、「細胞構造体+細胞移植用デバイス」(実施例1)の移植結果では、デバイスの周囲において、視野当りの血管総面積が13,391±4,329μm2で、視野当りの血管本数が28.5±7.0本となった。一方で「細胞構造体のみ」(比較例1)の移植結果では、視野当りの血管総面積が1,571±1,264μm2で、視野当りの血管本数が8.0±3.2本となった。「細胞移植用デバイスのみ」(比較例2)の移植結果では、視野当りの血管総面積が3,519±3,826μm2で、視野当りの血管本数が8.5±7.1本となった。このことから、「細胞構造体+細胞移植用デバイス」では、「細胞構造体のみ」または「細胞移植用デバイスのみ」に比べて、デバイス周囲において顕著に多くの新生血管を誘導していることが定量的にも明らかとなった。図14〜17を参照。尚、統計学的解析についてもt検定により、血管総面積の評価結果、血管本数の評価結果いずれとも、「細胞構造体のみ」または「細胞移植用デバイスのみ」と「細胞構造体+細胞移植用デバイス」では有意な差のあることが分かった。(p<0.05)
【0176】
[実施例3]生体内でのデバイス周囲への血管誘導能評価(レシピエント動物違い)
参考例9で作製した細胞移植用デバイス(免疫隔離膜のみ)に参考例7で作製したmADSCの細胞構造体を1,600個封入し、注入部を封止して細胞移植用デバイスを完成させた。それらを、C57BL/6マウスの背部皮下に埋植し、2週経過後に移植部位の組織切片を作製し、組織学的な評価を実施した。尚、参考例9で作製した細胞移植用デバイスのみを移植した場合と比較した組織標本を図18に示した。その結果、細胞構造体を含む細胞移植用デバイスでは、C57BL/6マウスに移植した場合でも、細胞移植用デバイス(免疫隔離摸のみ)を移植した場合と比べて、デバイス近傍に多数の新生血管が誘導されることが分かった。
【0177】
[参考例14]スフェロイドの作製
マウス脂肪由来間葉系幹細胞(mADSC)1.2×108cellsを10%FBS(ウシ胎児血清)含有のD−MEM培地(ダルベッコ改変イーグル培地)に4mLに懸濁された状態で、細胞非接着性の35mmディッシュであるEZSPHERE(登録商標)ディッシュType903(スフェロイドウェル口径800μm、スフェロイドウェル深さ300μm、スフェロイドウェル数〜約1,200ウェル。底面が窪み部を有する培養面であり、培養面の周縁に立設される側外壁部を有する。AGCテクノグラス製)に播種した。上記ディッシュをCO2インキュベーターで37℃で48時間静置することで、約1,200個の均一なスフェロイドを取得した。
【0178】
[実施例4]生体内でのデバイス周囲への血管誘導能評価
参考例9で作製した細胞移植用デバイス(免疫隔離膜のみ)に参考例14で作製したmADSCのスフェロイドを1,600個封入し、注入部を封止して細胞移植用デバイス(血管新生剤)を完成させた。それらを、C57BL/6マウスの背部皮下に埋植し、2週経過後に移植部位の組織切片を作製し、組織学的な評価を実施した。2個体に移植した代表的な組織標本を図19に示した。その結果、間葉系幹細胞(MSC)を含む細胞移植用デバイスでは、デバイス近傍に新生血管が誘導されることが分かった。
【0179】
[実施例5]
実施例4の結果について、視野当りの血管の総面積、および視野当りの血管本数で定量評価を行った。評価に当たっては4個体のデータを解析し、平均値と標準偏差を算出した。結果、「細胞+細胞移植用デバイス」(実施例4)の移植結果では、視野当りの血管総面積が5871±1053μm2で、視野当りの血管本数が16±5.6本となった。実施例2および実施例4の結果から、「細胞+細胞移植用デバイス」では「細胞移植用デバイスのみ」に比べて、多くの新生血管を誘導していることが明らかとなった(図20および図21を参照)。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-07-14 
出願番号 P2019-539625
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (A61L)
P 1 651・ 537- YAA (A61L)
P 1 651・ 121- YAA (A61L)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 藤原 浩子
特許庁審判官 田中 耕一郎
原田 隆興
登録日 2021-03-18 
登録番号 6854904
権利者 富士フイルム株式会社
発明の名称 血管新生剤およびその製造方法  
代理人 特許業務法人特許事務所サイクス  
代理人 特許業務法人特許事務所サイクス  
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