• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C03C
審判 全部申し立て 2項進歩性  C03C
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C03C
管理番号 1389394
総通号数 10 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-10-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-10-14 
確定日 2022-07-22 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6860056号発明「高周波デバイス用ガラス基板と高周波デバイス用回路基板」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6860056号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲とおり、訂正後の請求項〔1〜16〕について訂正することを認める。 特許第6860056号の請求項1〜4、6、7、9〜16に係る特許を維持する。 特許第6860056号の請求項5、8に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第6860056号(以下、「本件特許」という。)の請求項1〜16に係る特許についての出願は、2017年(平成29年)8月30日(優先権主張 平成28年9月13日(以下、「本件特許出願の優先日」という。) 平成29年3月17日)を国際出願日とする出願である特願2018−539619号の一部を令和元年11月18日に新たな特許出願としたものであって、令和3年3月30日にその特許権の設定登録がされ、同年4月14日に特許掲載公報が発行された。
その特許についての特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和3年10月14日 :特許異議申立人 鈴木憲治(以下「申立人」という。)による請求項1〜16に係る特許に対する特許異議の申立て
令和4年 1月18日付け:取消理由通知
同年 3月25日 :特許権者による意見書、訂正請求書の提出

なお、申立人は意見書の提出を希望しており、当審は令和4年3月25日に提出された訂正請求書による訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)について、同年4月5日付けの通知書によって意見を提出する機会を与えたが、申立人から期間内に応答はなかった。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
令和4年3月25日に提出された訂正請求書による訂正の内容は、以下のとおりである(当審注:下線は訂正箇所を示すため当審が付与した。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「酸化物基準のモル百分率で、アルカリ金属酸化物を合計含有量として0.001〜5%の範囲で含有すると共に、前記アルカリ金属酸化物のうちNa2O/(Na2O+K2O)で表されるモル比が0.01〜0.99の範囲であり、かつB2O3を18.5%以上含有し、Al2O3およびB2O3を合計含有量として18.5〜40%の範囲で含有すると共に、Al2O3/(Al2O3+B2O3)で表されるモル比が0〜0.45の範囲である、SiO2を主成分とするガラス基板」と記載されているのを、「酸化物基準のモル百分率で、アルカリ金属酸化物を合計含有量として0.001〜5%の範囲で含有すると共に、前記アルカリ金属酸化物のうちNa2O/(Na2O+K2O)で表されるモル比が0.6〜0.9の範囲であり、かつB2O3を18.5%以上含有し、Al2O3およびB2O3を合計含有量として18.5〜40%の範囲で含有すると共に、Al2O3/(Al2O3+B2O3)で表されるモル比が0〜0.45の範囲であり、アルカリ土類金属酸化物を合計含有量として0.1〜13%の範囲で含有し、β−OH値が0.05〜0.6mm−1の範囲である、SiO2を主成分とするガラス基板」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項6、7、9〜16も同様に訂正する)。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に「酸化物基準のモル百分率で、アルカリ金属酸化物を合計含有量として0.001〜5%の範囲で含有すると共に、前記アルカリ金属酸化物のうちNa2O/(Na2O+K2O)で表されるモル比が0.01〜0.99の範囲であり、かつB2O3を13%以上含有し、Al2O3を0.5%以上含有し、Al2O3およびB2O3を合計含有量として13.5〜40%の範囲で含有する、SiO2を主成分とするガラス基板」と記載されているのを、「酸化物基準のモル百分率で、アルカリ金属酸化物を合計含有量として0.001〜5%の範囲で含有すると共に、前記アルカリ金属酸化物のうちNa2O/(Na2O+K2O)で表されるモル比が0.6〜0.9の範囲であり、かつB2O3を13%以上含有し、Al2O3を0.5%以上含有し、Al2O3およびB2O3を合計含有量として13.5〜40%の範囲で含有すると共に、Al2O3/(Al2O3+B2O3)で表されるモル比が0超0.45以下の範囲であり、アルカリ土類金属酸化物を合計含有量として0.1〜13%の範囲で含有し、β−OH値が0.05〜0.6mm−1の範囲である、SiO2を主成分とするガラス基板」に訂正する(請求項2の記載を引用する請求項6、7、9〜16も同様に訂正する)。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に「酸化物基準のモル百分率で、アルカリ金属酸化物を合計含有量として0.001〜5%の範囲で含有すると共に、前記アルカリ金属酸化物のうちNa2O/(Na2O+K2O)で表されるモル比が0.01〜0.99の範囲であり、かつAl2O3およびB2O3を合計含有量として27〜40%の範囲で含有すると共に、Al2O3/(Al2O3+B2O3)で表されるモル比が0〜0.45の範囲である、SiO2を主成分とするガラス基板」と記載されているのを、「酸化物基準のモル百分率で、アルカリ金属酸化物を合計含有量として0.001〜5%の範囲で含有すると共に、前記アルカリ金属酸化物のうちNa2O/(Na2O+K2O)で表されるモル比が0.6〜0.9の範囲であり、かつAl2O3およびB2O3を合計含有量として27〜40%の範囲で含有すると共に、Al2O3/(Al2O3+B2O3)で表されるモル比が0〜0.45の範囲であり、アルカリ土類金属酸化物を合計含有量として0.1〜13%の範囲で含有し、β−OH値が0.05〜0.6mm−1の範囲である、SiO2を主成分とするガラス基板」に訂正する(請求項3の記載を引用する請求項6、7、9〜16も同様に訂正する)。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に「酸化物基準のモル百分率で、アルカリ金属酸化物を合計含有量として0.001〜5%の範囲で含有すると共に、前記アルカリ金属酸化物のうちNa2O/(Na2O+K2O)で表されるモル比が0.01〜0.99の範囲であり、B2O3を18.5〜36%含有し、かつアルカリ土類金属酸化物を合計含有量として0.1〜13%の範囲で含有する、SiO2を主成分とするガラス基板」と記載されているのを、「酸化物基準のモル百分率で、アルカリ金属酸化物を合計含有量として0.001〜5%の範囲で含有すると共に、前記アルカリ金属酸化物のうちNa2O/(Na2O+K2O)で表されるモル比が0.6〜0.9の範囲であり、B2O3を18.5〜36%含有し、Al2O3およびB2O3を合計含有量として18.5〜40%の範囲で含有すると共に、Al2O3/(Al2O3+B2O3)で表されるモル比が0〜0.45の範囲であり、アルカリ土類金属酸化物を合計含有量として0.1〜13%の範囲で含有し、β−OH値が0.05〜0.6mm−1の範囲である、SiO2を主成分とするガラス基板」に訂正する(請求項4の記載を引用する請求項6、7、9〜16も同様に訂正する。)。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5を削除する。

(6)訂正事項6
ア 訂正事項6−1
特許請求の範囲の請求項6に「酸化物基準のモル百分率で、B2O3の含有量が18.5〜30%の範囲であると共に、Al2O3の含有量が0〜10%の範囲である」と記載されているのを、「酸化物基準のモル百分率で、B2O3の含有量が18.5〜30%の範囲であると共に、Al2O3の含有量が0.5〜10%の範囲である」に訂正する(請求項6の記載を引用する請求項7、9〜16も同様に訂正する。)。

イ 訂正事項6−2
特許請求の範囲の請求項6に「請求項1〜5のいずれか一項に記載のガラス基板」と記載されているのを、「請求項1〜4のいずれか一項に記載のガラス基板」に訂正する(請求項6の記載を引用する請求項7、9〜16も同様に訂正する。)。

(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項7に「請求項1〜6のいずれか一項に記載のガラス基板」と記載されているのを、「請求項1〜4、6のいずれか一項に記載のガラス基板」に訂正する(請求項7の記載を引用する請求項9〜16も同様に訂正する。)。

(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項8を削除する。

(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項9に「請求項1〜8のいずれか一項に記載のガラス基板」と記載されているのを、「請求項1〜4、6、7のいずれか一項に記載のガラス基板」に訂正する(請求項9の記載を引用する請求項10〜16も同様に訂正する。)。

(10)訂正事項10
特許請求の範囲の請求項10に「請求項1〜9のいずれか一項に記載のガラス基板」と記載されているのを、「請求項1〜4、6、7、9のいずれか一項に記載のガラス基板」に訂正する(請求項10の記載を引用する請求項11〜16も同様に訂正する。)。

(11)訂正事項11
特許請求の範囲の請求項11に「請求項1〜10のいずれか一項に記載のガラス基板」と記載されているのを、「請求項1〜4、6、7、9、10のいずれか一項に記載のガラス基板」に訂正する(請求項11の記載を引用する請求項12〜16も同様に訂正する。)。

(12)訂正事項12
特許請求の範囲の請求項12に「請求項1〜11のいずれか一項に記載のガラス基板」と記載されているのを、「請求項1〜4、6、7、9〜11のいずれか一項に記載のガラス基板」に訂正する(請求項12の記載を引用する請求項13〜16も同様に訂正する。)。

(13)訂正事項13
特許請求の範囲の請求項13に「請求項1〜12のいずれか一項に記載のガラス基板」と記載されているのを、「請求項1〜4、6、7、9〜12のいずれか一項に記載のガラス基板」に訂正する(請求項13の記載を引用する請求項14〜16も同様に訂正する。)。

(14)訂正事項14
特許請求の範囲の請求項14に「請求項1〜13のいずれか一項に記載のガラス基板」と記載されているのを、「請求項1〜4、6、7、9〜13のいずれか一項に記載のガラス基板」に訂正する(請求項14の記載を引用する請求項15、16も同様に訂正する。)。

(15)訂正事項15
特許請求の範囲の請求項15に「請求項1〜14のいずれか一項に記載のガラス基板」と記載されているのを、「請求項1〜4、6、7、9〜14のいずれか一項に記載のガラス基板」に訂正する(請求項15の記載を引用する請求項16も同様に訂正する。)。

(16)訂正事項16
特許請求の範囲の請求項16に「請求項1〜15のいずれか一項に記載のガラス基板」と記載されているのを、「請求項1〜4、6、7、9〜15のいずれか一項に記載のガラス基板」に訂正する。

なお、本件訂正請求は、一群の請求項〔1〜16〕に対して請求されたものである。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1の「Na2O/(Na2O+K2O)で表されるモル比」、「アルカリ土類金属酸化物」の「合計含有量」及び「β−OH値」の範囲を限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
次に、訂正事項1のうち、「Na2O/(Na2O+K2O)で表されるモル比」の範囲を「0.6〜0.9」に限定する訂正は、訂正前の「0.01〜0.99」の範囲内において限定するものであるから、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「本件明細書等」という。)に記載されており、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
また、訂正事項1のうち、「アルカリ土類金属酸化物を合計含有量として0.1〜13%の範囲で含有」することを追加する訂正は、同【0024】、【0031】の記載に基づくものであるから、本件明細書等に記載されており、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
さらに、訂正事項1のうち、「β−OH値が0.05〜0.6mm−1の範囲である」ことを追加する訂正は、訂正前の請求項8の記載に基づくものであるから、本件明細書等に記載されており、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項2の「Na2O/(Na2O+K2O)で表されるモル比」、「Al2O3/(Al2O3+B2O3)で表されるモル比」、「アルカリ土類金属酸化物」の「合計含有量」及び「β−OH値」の範囲を限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
次に、訂正事項2のうち、「Na2O/(Na2O+K2O)で表されるモル比」の範囲を「0.6〜0.9」に限定する訂正、「アルカリ土類金属酸化物を合計含有量として0.1〜13%の範囲で含有」することを追加する訂正、及び、「β−OH値が0.05〜0.6mm−1の範囲である」ことを追加する訂正は、上記(1)で検討したとおり、いずれも本件明細書等に記載されており、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
また、訂正事項2のうち、「Al2O3/(Al2O3+B2O3)で表されるモル比が0超0.45の範囲であ」ることを追加する訂正は、訂正前の請求項5、及び、同【0023】の記載に基づき、当該記載の「0〜0.45」の範囲内において限定するものであるから、本件明細書等に記載されており、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)訂正事項3について
訂正事項3は、訂正前の請求項3の「Na2O/(Na2O+K2O)で表されるモル比」、「アルカリ土類金属酸化物」の「合計含有量」及び「β−OH値」の範囲を限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
次に、訂正事項3の、「Na2O/(Na2O+K2O)で表されるモル比」の範囲を「0.6〜0.9」に限定する訂正、「アルカリ土類金属酸化物を合計含有量として0.1〜13%の範囲で含有」することを追加する訂正、及び、「β−OH値が0.05〜0.6mm−1の範囲である」ことを追加する訂正は、上記(1)で検討したとおり、いずれも本件明細書等に記載されており、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(4)訂正事項4について
訂正事項4は、訂正前の請求項4の「Na2O/(Na2O+K2O)で表されるモル比」、「Al2O3およびB2O3」の「合計含有量」、「Al2O3/(Al2O3+B2O3)で表されるモル比」、及び、「β−OH値」の範囲を限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
次に、訂正事項4のうち、「Na2O/(Na2O+K2O)で表されるモル比」の範囲を「0.6〜0.9」に限定する訂正、「β−OH値が0.05〜0.6mm−1の範囲である」ことを追加する訂正は、上記(1)で検討したとおり、いずれも本件明細書等に記載されており、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
また、訂正事項4のうち、「Al2O3およびB2O3を合計含有量として18.5〜40%の範囲で含有する」ことを追加する訂正、及び、「Al2O3/(Al2O3+B2O3)で表されるモル比が0〜0.45の範囲であ」ることを追加する訂正は、訂正前の請求項5の記載に基づくものであるから、本件明細書等に記載されており、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(5)訂正事項5について
訂正事項5は、訂正前の請求項5を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(6)訂正事項6について
ア 訂正事項6−1は、訂正前の請求項6の「Al2O3の含有量」の範囲を限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
次に、訂正事項6−1は、訂正前の請求項2の「Al2O3を0.5%以上含有し」との記載に整合させるものであるから、本件明細書等に記載されており、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

イ 訂正事項6−2は、訂正事項5により請求項5が削除されたことに伴い、引用請求項から請求項5を削除する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(7)訂正事項7について
訂正事項7は、訂正事項5により請求項5が削除されたことに伴い、引用請求項から請求項5を削除する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(8)訂正事項8について
訂正事項8は、訂正前の請求項8を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(9)訂正事項9〜16について
訂正事項9〜16は、訂正事項5及び訂正事項8により請求項5及び請求項8が削除されたことに伴い、引用請求項から請求項5及び請求項8を削除する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3 まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜16〕について訂正することを認める。

第3 訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1〜16に係る発明(以下、「本件発明1〜16」といい、まとめて「本件発明」ともいう。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1〜16に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】 酸化物基準のモル百分率で、アルカリ金属酸化物を合計含有量として0.001〜5%の範囲で含有すると共に、前記アルカリ金属酸化物のうちNa2O/(Na2O+K2O)で表されるモル比が0.6〜0.9の範囲であり、かつB2O3を18.5%以上含有し、Al2O3およびB2O3を合計含有量として18.5〜40%の範囲で含有すると共に、Al2O3/(Al2O3+B2O3)で表されるモル比が0〜0.45の範囲であり、アルカリ土類金属酸化物を合計含有量として0.1〜13%の範囲で含有し、β−OH値が0.05〜0.6mm−1の範囲である、SiO2を主成分とするガラス基板であって、
前記ガラス基板の少なくとも1つの主表面の表面粗さが算術平均粗さRaの値として1.5nm以下であり、かつ35GHzにおける誘電正接が0.007以下である、10GHz以上の高周波信号を扱う高周波デバイスに用いられるガラス基板。
【請求項2】 酸化物基準のモル百分率で、アルカリ金属酸化物を合計含有量として0.001〜5%の範囲で含有すると共に、前記アルカリ金属酸化物のうちNa2O/(Na2O+K2O)で表されるモル比が0.6〜0.9の範囲であり、かつB2O3を13%以上含有し、Al2O3を0.5%以上含有し、Al2O3およびB2O3を合計含有量として13.5〜40%の範囲で含有すると共に、Al2O3/(Al2O3+B2O3)で表されるモル比が0超0.45以下の範囲であり、アルカリ土類金属酸化物を合計含有量として0.1〜13%の範囲で含有し、β−OH値が0.05〜0.6mm−1の範囲である、SiO2を主成分とするガラス基板であって、
前記ガラス基板の少なくとも1つの主表面の表面粗さが算術平均粗さRaの値として1.5nm以下であり、かつ35GHzにおける誘電正接が0.007以下である、10GHz以上の高周波信号を扱う高周波デバイスに用いられるガラス基板。
【請求項3】 酸化物基準のモル百分率で、アルカリ金属酸化物を合計含有量として0.001〜5%の範囲で含有すると共に、前記アルカリ金属酸化物のうちNa2O/(Na2O+K2O)で表されるモル比が0.6〜0.9の範囲であり、かつAl2O3およびB2O3を合計含有量として27〜40%の範囲で含有すると共に、Al2O3/(Al2O3+B2O3)で表されるモル比が0〜0.45の範囲であり、アルカリ土類金属酸化物を合計含有量として0.1〜13%の範囲で含有し、β−OH値が0.05〜0.6mm−1の範囲である、SiO2を主成分とするガラス基板であって、
前記ガラス基板の少なくとも1つの主表面の表面粗さが算術平均粗さRaの値として1.5nm以下であり、かつ35GHzにおける誘電正接が0.007以下である、10GHz以上の高周波信号を扱う高周波デバイスに用いられるガラス基板。
【請求項4】 酸化物基準のモル百分率で、アルカリ金属酸化物を合計含有量として0.001〜5%の範囲で含有すると共に、前記アルカリ金属酸化物のうちNa2O/(Na2O+K2O)で表されるモル比が0.6〜0.9の範囲であり、B2O3を18.5〜36%含有し、Al2O3およびB2O3を合計含有量として18.5〜40%の範囲で含有すると共に、Al2O3/(Al2O3+B2O3)で表されるモル比が0〜0.45の範囲であり、アルカリ土類金属酸化物を合計含有量として0.1〜13%の範囲で含有し、β−OH値が0.05〜0.6mm−1の範囲である、SiO2を主成分とするガラス基板であって、
前記ガラス基板の少なくとも1つの主表面の表面粗さが算術平均粗さRaの値として1.5nm以下であり、かつ35GHzにおける誘電正接が0.007以下である、10GHz以上の高周波信号を扱う高周波デバイスに用いられるガラス基板。
【請求項5】(削除)
【請求項6】 酸化物基準のモル百分率で、B2O3の含有量が18.5〜30%の範囲であると共に、Al2O3の含有量が0.5〜10%の範囲である、請求項1〜4のいずれか一項に記載のガラス基板。
【請求項7】 酸化物基準のモル百分率で、Fe2O3換算でのFeの含有量が0.012%以下である、請求項1〜4、6のいずれか一項に記載のガラス基板。
【請求項8】(削除)
【請求項9】 35GHzにおける比誘電率が10以下である、請求項1〜4、6、7のいずれか一項に記載のガラス基板。
【請求項10】 50〜350℃における平均熱膨張係数が3〜15ppm/℃の範囲である、請求項1〜4、6、7、9のいずれか一項に記載のガラス基板。
【請求項11】 ヤング率が40GPa以上である、請求項1〜4、6、7、9、10のいずれか一項に記載のガラス基板。
【請求項12】 気孔率が0.1%以下である、請求項1〜4、6、7、9〜11のいずれか一項に記載のガラス基板。
【請求項13】 波長350nmの透過率が50%以上である、請求項1〜4、6、7、9〜12のいずれか一項に記載のガラス基板。
【請求項14】 厚さが0.05〜1mmの範囲であると共に、基板面積が225〜10000cm2の範囲である、請求項1〜4、6、7、9〜13のいずれか一項に記載のガラス基板。
【請求項15】 非晶質である、請求項1〜4、6、7、9〜14のいずれか一項に記載のガラス基板。
【請求項16】 請求項1〜4、6、7、9〜15のいずれか一項に記載のガラス基板と、
前記ガラス基板の前記主表面上に形成された配線層とを具備し、
35GHzにおける伝送損失が1dB/cm以下である、10GHz以上の高周波信号を扱う高周波デバイスに用いられる回路基板。」

第4 取消理由通知に記載した取消理由について
訂正前の請求項1〜16に係る特許に対して、当審が令和4年1月18日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
1 取消理由1(サポート要件)
請求項1〜16に係る特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。

第5 当審の判断
1 取消理由1(サポート要件)について
(1) サポート要件の判断手法について
ア 特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号所定のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、本件明細書等の発明の詳細な説明(以下、単に「発明の詳細な説明」という。)の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識し得る範囲のものであるか否か、また、発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らして当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものと解される。

イ 本件明細書等の【0006】の記載によれば、本件発明が解決しようとする課題は、「高周波信号の誘電損失を低減することができ、かつ実用的な電子デバイスを提供することが可能な高周波デバイス用ガラス基板、およびそれを用いた高周波信号の伝送損失を低減することが可能な高周波デバイス用回路基板を提供する」ことである。

ウ(ア)本件発明1に係る請求項1の記載は、「ガラス基板」を、「酸化物基準のモル百分率で、アルカリ金属酸化物を合計含有量として0.001〜5%の範囲で含有すると共に、前記アルカリ金属酸化物のうちNa2O/(Na2O+K2O)で表されるモル比が0.6〜0.9の範囲であり、かつB2O3を18.5%以上含有し、Al2O3およびB2O3を合計含有量として18.5〜40%の範囲で含有すると共に、Al2O3/(Al2O3+B2O3)で表されるモル比が0〜0.45の範囲であり、アルカリ土類金属酸化物を合計含有量として0.1〜13%の範囲で含有し、β−OH値が0.05〜0.6mm−1の範囲である、SiO2を主成分とする」との発明特定事項(以下、「本件組成要件1」という。)、及び、「35GHzにおける誘電正接が0.007以下である」との発明特定事項(以下、「本件物性要件」という。)によって特定するものであり、そのうち、本件物性要件は、上記イにおける「高周波信号の誘電損失を低減することができ、かつ実用的な電子デバイスを提供することが可能な高周波デバイス用ガラス基板」を提供するとの課題(以下、「本件課題」という。)を、「0.007以下」という、35GHzにおける誘電正接により定量的に表現するものであって、本件組成要件1で特定されるガラス基板を、本件課題を解決できるものに限定するための要件であるということができる。

(イ)本件発明2に係る請求項2の記載は、「ガラス基板」を、「酸化物基準のモル百分率で、アルカリ金属酸化物を合計含有量として0.001〜5%の範囲で含有すると共に、前記アルカリ金属酸化物のうちNa2O/(Na2O+K2O)で表されるモル比が0.6〜0.9の範囲であり、かつB2O3を13%以上含有し、Al2O3を0.5%以上含有し、Al2O3およびB2O3を合計含有量として13.5〜40%の範囲で含有すると共に、Al2O3/(Al2O3+B2O3)で表されるモル比が0超0.45以下の範囲であり、アルカリ土類金属酸化物を合計含有量として0.1〜13%の範囲で含有し、β−OH値が0.05〜0.6mm−1の範囲である、SiO2を主成分とする」との発明特定事項(以下、「本件組成要件2」という。)及び、本件物性要件によって特定するものであり、そのうち、本件物性要件は、本件課題を、「0.007以下」という、35GHzにおける誘電正接により定量的に表現するものであって、本件組成要件2で特定されるガラス基板を、本件発明の課題を解決できるものに限定するための要件であるということができる。

(ウ)本件発明3に係る請求項3の記載は、「ガラス基板」を、「酸化物基準のモル百分率で、アルカリ金属酸化物を合計含有量として0.001〜5%の範囲で含有すると共に、前記アルカリ金属酸化物のうちNa2O/(Na2O+K2O)で表されるモル比が0.6〜0.9の範囲であり、かつAl2O3およびB2O3を合計含有量として27〜40%の範囲で含有すると共に、Al2O3/(Al2O3+B2O3)で表されるモル比が0〜0.45の範囲であり、アルカリ土類金属酸化物を合計含有量として0.1〜13%の範囲で含有し、β−OH値が0.05〜0.6mm−1の範囲である、SiO2を主成分とする」との発明特定事項(以下、「本件組成要件3」という。)及び、本件物性要件によって特定するものであり、そのうち、本件物性要件は、本件課題を、「0.007以下」という、35GHzにおける誘電正接により定量的に表現するものであって、本件組成要件3で特定されるガラス基板を、本件発明の課題を解決できるものに限定するための要件であるということができる。

(エ)本件発明4は、「酸化物基準のモル百分率で、アルカリ金属酸化物を合計含有量として0.001〜5%の範囲で含有すると共に、前記アルカリ金属酸化物のうちNa2O/(Na2O+K2O)で表されるモル比が0.6〜0.9の範囲であり、B2O3を18.5〜36%含有し、Al2O3およびB2O3を合計含有量として18.5〜40%の範囲で含有すると共に、Al2O3/(Al2O3+B2O3)で表されるモル比が0〜0.45の範囲であり、アルカリ土類金属酸化物を合計含有量として0.1〜13%の範囲で含有し、β−OH値が0.05〜0.6mm−1の範囲である、SiO2を主成分とする」との発明特定事項(以下、「本件組成要件4」という。)及び、本件物性要件によって特定するものであり、そのうち、本件物性要件は、本件課題を、「0.007以下」という、35GHzにおける誘電正接により定量的に表現するものであって、本件組成要件4で特定されるガラス基板を、本件発明の課題を解決できるものに限定するための要件であるということができる。

(オ)そして、このような本件発明1〜4に係る特許請求の範囲の構成からすれば、その記載がサポート要件に適合するといえるためには、本件組成要件1〜4で特定されるガラス基板が、いずれも発明の詳細な説明に記載されていることに加え、本件組成要件1〜4で特定されるガラス基板が高い蓋然性をもって本件物性要件を満たし得るものであることを、発明の詳細な説明の記載や示唆又は本件特許の出願時の技術常識から当業者が認識できることが必要である。

(2)そこで、以上の観点から、サポート要件の適否について検討する。
ア Na2O/(Na2O+K2O)で表されるモル比について
(ア)本件発明1〜4には、いずれも、「Na2O/(Na2O+K2O)で表されるモル比」(以下、単に「モル比」という。)が、「0.6〜0.9の範囲」であることが特定されている。

(イ)この点について、発明の詳細な説明には以下の記載がある(当審注:下線は当審が付与した。以下、同様である。)。
「【0026】
さらに、SiO2を主成分とするガラス状物質にNa2OとK2Oを共存させることで、言い換えるとNa2O/(Na2O+K2O)で表されるモル比を0.01〜0.99の範囲とすることで、アルカリ成分の移動が抑えられるため、ガラス基板2の低誘電損失性を高めることができる。Na2O/(Na2O+K2O)で表されるモル比は、0.98以下がより好ましく、0.95以下がさらに好ましく、0.9以下が特に好ましい。Na2O/(Na2O+K2O)で表されるモル比は、0.02以上がより好ましく、0.05以上がさらに好ましく、0.1以上が特に好ましい。」
また、発明の詳細な説明の実施例(【0067】〜【0093】)である例1〜3、7〜25では、「35GHzにおける誘電正接が0.007以下」であるガラス基板が得られており、上記モル比は0.62(例9)〜0.86(例22)の範囲である。
以上によれば、上記モル比が0.6〜0.9の範囲であることは、発明の詳細な説明に記載されているといえる。

イ 条件(1)〜(3)について
(ア)条件(1)〜(3)について、発明の詳細な説明には以下の記載がある。
「【0022】
条件(1):ガラス基板2は、アルカリ金属酸化物を合計含有量として0.001〜5%の範囲で含有すると共に、アルカリ金属酸化物のうちNa2O/(Na2O+K2O)で表されるモル比が0.01〜0.99の範囲である。
【0023】
条件(2):ガラス基板2は、Al2O3およびB2O3を合計含有量として1〜40%の範囲で含有すると共に、Al2O3/(Al2O3+B2O3)で表されるモル比が0〜0.45の範囲である。
【0024】
条件(3):ガラス基板2は、アルカリ土類金属酸化物を合計含有量として0.1〜13%の範囲で含有する。
・・・
【0027】
上述したアルカリ金属酸化物の量や比率を規定する条件(1)に加えて、条件(2)のAl2O3およびB2O3を量や比率、条件(3)のアルカリ土類金属酸化物の量、または条件(2)と条件(3)を満足させることによって、ガラス基板2の35GHzにおける誘電正接を0.007以下とすることができる。」

(イ)上記(ア)には、条件(1)〜(3)を満足するガラス基板は、35GHzにおける誘電正接を0.007以下とすることができることが記載されているところ、本件組成要件1〜4は、いずれも、上記条件(1)〜(3)を満足しているから、本件組成要件1〜4のうち、上記条件(1)〜(3)に関する事項は、発明の詳細な説明に記載されているといえる。

ウ β−OH値について
(ア)β−OH値について、発明の詳細な説明には以下の記載がある。
「【0041】
ガラス基板2の低誘電損失性をさらに向上させるにあたって、ガラス基板2のβ−OH値は0.05〜0.6mm―1の範囲であることが好ましい。β−OH値はガラスの水分含有量の指標として用いられる値であり、ガラス試料の波長2.75〜2.95μmの光に対する吸光度を測定し、その最大値βmaxを試料厚さ(mm)で割ることにより求められる値である。ガラス組成物のβ−OH値を0.6mm―1以下とすることによって、ガラス基板2の低誘電損失性をさらに向上させることができる。ガラス基板2のβOH値は0.5mm−1以下がより好ましく、0.4mm−1以下がさらに好ましい。また、ガラス基板2のβ−OH値が0.05mm−1以上であれば、極端な乾燥雰囲気での溶解や原料中の水分量を極端に減少させる必要がなく、ガラスの生産性や泡品質等を高めることができる。ガラス基板2のβ−OH値は0.1mm−1以上がより好ましく、0.2mm−1以上がさらに好ましい。」

(イ)上記(ア)には、ガラス基板のβ−OH値を0.05〜0.6mm−1の範囲とするが記載されており、当該範囲にすることによって、ガラス基板の低誘電損失性をさらに向上させることができるものであるといえる。

(ウ)そして、発明の詳細な説明の【0037】の「ガラス基板2の35GHzにおける誘電正接を0.007以下とすることができ、ガラス基板2の誘電損失を低減することができる。」との記載によれば、誘電正接と、ガラス基板の誘電損失との間には、一方が低ければ、他方も低いという相関関係があるといえる。
そうすると、上記(イ)で検討したとおり、β−OH値を0.05〜0.6mm−1の範囲とすることによって、ガラス基板の低誘電損失性をさらに向上させることができるものであるから、当該β−OH値は、誘電正接の値、すなわち、本件物性要件に影響を及ぼすものといえる。

エ その他の構成について
本件組成要件1の「B2O3を18.5%以上含有し」との事項については、発明の詳細な説明の【0030】及び【表1】〜【表4】(【0078】〜【0081】)の例1、例7〜例19、例21〜例22、例24、例25に記載されており、本件組成要件2の「B2O3を13%以上含有し、Al2O3を0.5%以上含有し」との事項は、同【0030】及び【表1】〜【表4】(【0078】〜【0081】)の例1、例2、例8〜例16、例19〜例25に記載されており、本件組成要件4の「B2O3を18.5〜36%含有し」との事項は、同【0030】及び【表1】〜【表4】(【0078】〜【0081】)例1、例7〜例19、例21〜例22、例24、例25に記載されており、本件組成要件1〜4の「SiO2を主成分とする」との事項は、同【0019】、【0021】等に記載されている。

オ 以上から、本件組成要件1〜4で特定されるガラス基板が、いずれも35GHzにおける誘電正接を0.007以下とすることができることは、発明の詳細な説明に記載から理解できるといえる。

カ 実施例による裏付けについて
発明の詳細な説明の実施例(【0067】〜【0093】)において、例1、例2、例7〜例25は、本件組成要件1〜4のいずれかを満足しており、かつ、35GHzにおける誘電正接が0.007以下となっている。
そうすると、本件組成要件1〜4のいずれかを満足すれば、「35GHzにおける誘電正接が0.007以下」であるガラス基板が得られることは、実施例によって裏付けられているといえる。

キ 以上によれば、本件組成要件1〜4を満足するガラス基板が、いずれも高い蓋然性をもって本件物性要件を満たし得るものであることを、発明の詳細な説明の記載から当業者が認識できるといえる。
そうすると、本件発明1〜4は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。
よって、本件発明1〜4に係る特許請求の範囲の記載は、サポート要件に適合する。

ク 本件発明6、7、9〜16について
本件発明6、7、9〜16の構成は、いずれも発明の詳細な説明に記載されており、また、本件発明6、7、9〜16は、いずれも本件組成要件1〜4を備えるものであるから、本件発明1〜4と同様に、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
したがって、本件発明6、7、9〜16に係る特許請求の範囲の記載は、サポート要件に適合する。

(3)まとめ
以上のとおり、本件発明1〜4、6、7、9〜16は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるから、本件発明1〜4、6、7、9〜16は、発明の詳細な説明に記載されたものである。
したがって、請求項1〜4、6、7、9〜16に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえず、取消理由1には理由がない。

第6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 甲号証の記載事項
(1)甲第1号証(米国特許出願公開第2015/0051060号明細書)
甲第1号証には以下の記載がある。なお、甲第1号証の記載事項は、当審の訳文で示す。
「[0002]
本開示は、アルカリ金属又はアルカリ金属酸化物を含有しないガラスに関する。より具体的には、本開示は、低レベルのアルカリ金属及び/又はアルカリ金属酸化物を含有するか、又はアルカリドープ及び無アルカリであるかのどちらかであり、かつスロットドロー及びフュージョンドロー技術などのダウンドロー法によって形成することができるガラスに関する。さらにより具体的には、本開示は、低レベルのアルカリ金属及び/又はアルカリ金属酸化物を含有するか、又はアルカリドープ及び無アルカリであるかのどちらかであり、かつガラス積層体のためのクラッド層を形成することができるガラスに関する。
[0003]
アルカリドープされたアルミノホウケイ酸ガラスを提供する。このガラスは、網目形成成分であるSiO2、B2O3及びAl2O3を含有する。いくつかの実施態様では、ガラスは、約65GPa末満のヤング率及び/又は約20℃〜約300℃の温度範囲について平均された約40×l0−7/℃未満の熱膨脹率を有してもよい。このガラスは、電子デバイスのためのカバーガラス、カラーフィルター基板、薄膜トランジスタ基板、又はガラス積層体のための外側クラッド層として使用することができる。
[0004]
したがって、本開示の一態様は、約50モル%〜約70モル%のSiO2、約5モル%〜約20モル%のAl2O3、約12モル%〜約35モル%のB2O3、約5モル%以下のMgO、約12モル%以下のCaO、及び約5モル%以下のSrOを含むガラスを提供することであり、アルカリ金属酸化物改質剤の総量は約1モル%以下である。」

「[0015]
網目形成成分であるSiO2、B2O3及びAl2O3を含み、いくつかの実施態様では、低い(すなわち、約40×l0−7/℃未満)熱膨張率(CTE)を有するガラス及び該ガラスから製造されるガラス物品を本明細書に記載する。いくつかの実施態様では、溶融ガラスの抵抗率を低下させると共に耐火格納及び処理構造物の「ファイアスルー」を回避するために、ガラスには約1モル%未満のアルカリ金属又はアルカリ金属酸化物が意図的に軽くドープされる。他の実施態様では、ガラスは、アルカリ金属及びアルカリ金属酸化物(「アルカリ金属酸化物改質剤」とも呼ばれる)を含有しない。いくつかの実施態様では、また、これらのガラスは、ガラスの固有の、又は本来の損傷抵抗を改良するヤング率及び剪断弾性率の低い値を有する。
[0016]
いくつかの実施態様では、本明細書に記載されるガラスは、スロットドロー法及びフュージョンドロー法などの、本技術分野では公知のダウンドロー法によって形成することができる。フュージョンドロー法は、薄いガラスシートを大規模で製造するために使用される工業技術である。フロート法又はスロットドロー法などの他の平板ガラス製造技術と比べて、フュージョンドロー法では、すぐれた平面度及び表面品質を有する薄いガラスシートが得られる。結果として、フュージョンドロー法は、液晶ディスプレイ用の薄いガラス基板、ならびにノートブック、娯楽機器、テーブル、ラップトップ等のパーソナル電子デバイス用のカバーガラスの製造において有力な製造技術になっている。」

「[0021]
積層品内のクラッドガラスとして使用される場合、本明細書に記載されるアルカリドープ及び無アルカリガラス組成物は、クラッド層に高い圧縮応力を提供することができる。本明細書に記載される低アルカリ金属酸化物/アルカリドープ及び無アルカリのフュージョンドローで成形可能なガラスの熱膨張率は一般的に、約40×l0−7/℃以下の範囲であり、いくつかの実施態様では、約35×l0−7/℃以下の範囲である。このようなガラスは、例えば、90×l0−7/℃の熱膨張率を有するアルカリアルミノシリケートガラス(例えば、Corning Incorporatedによって製造されたGorilla(登録商標)ガラス)と組み合わせられるとき、・・・
[0025]
いくつかの実施態様では、本明細書に記載されるガラスは、約50モル%〜約70モル%のSiO2(すなわち、50モル%≦SiO2≦70モル%)、約5モル%〜約20モル%のAl2O3(すなわち、5モル%≦Al2O3≦20モル%)、約12モル%〜約35モル%のB2O3(すなわち、12モル%≦B2O3≦35モル%)、約5モル%までのMgO(すなわち、0モル%≦MgO≦5モル%)、約12モル%までのCaO(すなわち、0モル%≦CaO≦12モル%)、及び約5モル%までのSrO(すなわち、0モル%≦SrO≦5モル%)から実質的になるか、又はこれらの成分を含み、アルカリ金属酸化物改質剤の総量は0.1モル%以下である(すなわち、0モル%≦Li2O+Na2O+K2O≦0.1モル%)。いくつかの実施態様では、4モル%≦MgO+CaO+SrO≦Al2O3+1モル%である。特定の実施態様では、ガラスは、P2O5及び/又はアルカリ金属酸化物改質剤を実質的に含有しないか、又は0モル%を含有する。
[0026]
ガラスは、約0.5モル%以下のFe2O3(すなわち、0モル%≦Fe2O3≦0.5モル%)、約0.2モル%以下のZrO2(すなわち、0モル%≦ZrO2≦0.2モル%)、及び任意で、SnO2、CeO2、Al2O3、Sb2O5、Cl−、F−等の少なくとも1種類の清澄剤をさらに含有してもよい。少なくとも1種類の清澄剤は、いくつかの実施態様では、約0.7モル%以下のSnO2(すなわち、0モル%≦SnO2≦0.5モル%)、約0.7モル%以下のCeO2(すなわち、0モル%≦CeO2≦0.7モル%)、約0.5モル%以下のAl2O3(すなわち、0モル%≦Al2O3≦0.5モル%)、及び約0.5モル%以下のSb2O3(すなわち、0モル%≦Sb2O3≦0.5モル%)を含有してもよい。
[0027]
特定の実施態様では、ガラスは、約55モル%〜約70モル%のSiO2(すなわち、55モル%≦SiO2≦70モル%)、約6モル%〜約10モル%のAl2O3(すなわち、6モル%≦Al2O3≦10モル%)、約18モル%〜約30モル%のB2O3(すなわち、18モル%≦B2O3≦30モル%)、約3モル%までのMgO(すなわち、0モル%≦MgO≦3モル%)、約2モル%〜約10モル%以下のCaO(すなわち、2モル%≦CaO≦10モル%)、及び約3モル%以下のSrO(すなわち、0モル%≦SrO≦3モル%)から実質的になるか、又はこれらの成分を含み、アルカリ金属酸化物改質剤の総量は1モル%以下である(すなわち、0モル%≦Li2O+Na2O+K2O≦1モル%)。いくつかの実施態様では、本明細書に記載されるガラス中のMgO、CaO、及びSrOの総量は約4モル%以上であり、かつガラス中に存在しているAl2O3の量以下である(すなわち、4モル%≦MgO+CaO+SrO≦Al2O3)。いくつかの実施態様では、本明細書に記載されるガラス中のアルカリ及びアルカリ土類酸化物の総量は、約4モル%以上であり、かつガラス中に存在しているAl2O3の量以下である(すなわち、4モル%≦Li2O+Na2O+K2O+MgO+CaO+SrO≦Al2O3)。特定の実施態様において、ガラスはP2O5を含有しない。
[0028]
ガラスは、約0.2モル%以下のZrO2(すなわち、0モル%≦ZrO2≦0.2モル%)、約0.2モル%以下のFe2O3(すなわち、0モル%≦Fe2O3≦0.2モル%)及びSnO2、CeO2、Al2O3、Sb2O5、Cl−、F−等の少なくとも1種類の清澄剤をさらに含有してもよい。いくつかの実施態様では、少なくとも1種類の清澄剤は、約0.2モル%以下のSnO2(すなわち、0モル%≦SnO2≦0.2モル%)を含有してもよい。
[0029]これらのガラスの比限定的な実施例の組成物が表1に記載される。・・・
[0030]
本明細書に記載されるガラスは、シリカに加えて、網目形成成分であるAl2O3及びB2O3を含んでいることにより、安定なガラス形成、低い熱膨張率、低いヤング率、低い剪断弾性率が達成されると共に、溶融及び成形が容易になる。これら4種類の網目形成成分全てを適切な濃度で混合することによって、熱膨張率及び弾性率を高める作用のあるアルカリ金属酸化物又はアルカリ土類金属酸化物などの網目修飾剤の必要性を最小限に抑えながら、安定したバルクガラスを形成することができる。Al2O3は、SiO2と同様に、ガラスの網目に剛性を与える。アルミナは、4配位又は5配位のどちらかでガラス内に存在していてもよい。いくつかの実施態様では、本明細書に記載されているガラスは、約5モル%〜約12モル%のAl2O3を含み、特定の実施態様では、約6モル%〜約10モル%のAl2O3を含む。
・・・
[0032]
また、アルカリ土類金属酸化物(MgO、CaO、及びSrO)は、B2O3のように、ガラスの溶融特性を改善する。しかし、アルカリ土類金属酸化物はまた、熱膨張率及びヤング率及び剪断弾性率を高める作用もある。いくつかの実施態様では、本明細書に記載されているガラスは、約5モル%以下のMgO、約12モル%以下のCaO、及び約5モル%以下のSrOを含み、他の実施態様では、約3モル%以下のMgO、約2モル%〜約10モル%以下のCaO、及び約3モル%以下のSrOを含む。ガラス中のB2O3の大部分が3配位状態にあり、したがって本来の高い引掻抵抗が確実に得られるためには、いくつかの実施態様では(MgO)+(CaO)+(SrO)≦(Al2O3)+1モル%であるか、又は他の実施態様では、(MgO)+(CaO)+(SrO)≦(Al2O3)である。」

「表1
・・・



「[0038]
また、本明細書に記載されているガラスを製造する方法を提供する。この方法は、SiO2、B2O3、及びAl2O3とP2O5のうちの少なくとも1つを含み、アルカリ金属酸化物改質剤を実質的に含有しない溶融ガラスを提供する工程と、溶融ガラスからダウンドローによりガラスを形成する工程とを有する。いくつかの実施態様では、ガラスのダウンドロー工程は、溶融ガラスのスロットドロー工程を含み、他の実施態様では、溶融ガラスのフュージョンドロー工程を含む。
・・・
[0040]
本明細書に記載されているガラスは、アルカリ金属を実質的に含有していないため、薄膜トランジスタ(TFT)ディスプレイ用途に使用するために適している。これらの用途では、アルカリイオンの存在が薄膜トランジスタを汚染するので、アルカリドープ及び無アルカリの界面を必要とする。したがって、イオン交換アルカリ含有ガラスはこのような用途に適していない。本明細書に記載されているアルカリドープ及び無アルカリガラスをクラッド層として使用するガラス積層体は、アルカリドープ及び無アルカリであるか、又は低いレベル(<1モル%)のアルカリ金属又はアルカリ金属酸化物がドープされるかのどちらかである界面と組み合わせられた強化ガラス製品を提供する。いくつかの実施態様では、アルカリドープ及び無アルカリガラスはまた、熱圧密を低減させる高いアニール点及び歪点を有しており、TFTディスプレイ基板のために望ましい。また、本明細書に記載されているガラスは、様々な電子デバイスのカラーフィルター基板、カバーガラス、又はタッチインターフェースにおいて使用することができる。」

(2)甲第2号証(特開2011−42509号公報)
甲第2号証には以下の記載がある。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスフィルムに関し、具体的には液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ等のディスプレイ用基板、チップサイズパッケージ(CSP)、電荷結合素子(CCD)、等倍近接型固体撮像素子(CIS)等のイメージセンサー用基板、有機EL照明等の照明デバイス用基板および配線基板に好適なガラスフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機ELディスプレイ等のデバイスは、小型化、薄型化、軽量化が進んでいる。また、これらのデバイスは、携帯電話、ノートPC、TV等に搭載されており、今後、消費電力を更に低下させることが望まれている。しかもこれらのデバイスは、平面状態のみで使用する用途だけでなく、曲面状に曲げて使用する用途もあり、例えばフレキシブルな腕時計の表示部、湾曲した壁の一部に設置する表示部に用いるケースも増えつつある。」

「【発明が解決しようとする課題】
・・・
【0006】
そこで、本発明は、可撓性を有しつつ、各画素に電圧が印加された場合、基板上で電荷が誘起され難く、しかも発熱し難い基板材料を創案することにより、曲面状に湾曲可能であり、且つ低消費電力、高信頼性のデバイスを作製することを技術的課題とする。」

「【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、種々の実験を繰り返した結果、基板材料として、フィルム厚が小さいガラスフィルムを用いるとともに、ガラスフィルムの誘電率および誘電正接を低下させることにより、上記技術的課題を解決できることを見出し、本発明として、提案するものである。すなわち、本発明のガラスフィルムは、フィルム厚が100μm以下であり、周波数1MHzにおける誘電率が5以下、周波数1MHzにおける誘電正接が0.5以下であることを特徴とする。ここで、「周波数1MHzにおける誘電率」は、25℃においてASTM D150に準拠した方法により測定した値を指す。また、「周波数1MHzにおける誘電正接」は、25℃においてASTM D150に準拠した方法により測定した値を指す。
・・・
【0009】
第二に、本発明のガラスフィルムは、ガラス組成として、質量%で、SiO2 40〜80%、Al2O3 0〜20%、B2O3 10〜30%、MgO 0〜10%、CaO 0〜10%、SrO 0〜10%、BaO 0〜10%含有することを特徴とする。
【0010】
第三に、本発明のガラスフィルムは、ガラス組成として、質量%で、SiO2 55〜75%、Al2O3 10〜20%、B2O3 13〜30%、MgO 0〜4%、CaO 1〜10%、SrO 0〜5%、BaO 0〜5%、Li2O+Na2O+K2O(Li2O、Na2O、K2Oの合量) 0〜6%含有することを特徴とする。
【0011】
第四に、本発明のガラスフィルムは、ガラス組成として、質量%で、SiO2 55〜63%、Al2O3 10〜20%、B2O3 13〜20%、MgO 0〜2%、CaO 6〜10%、SrO 0〜3%、BaO 0〜3%、MgO+CaO+SrO+BaO(MgO、CaO、SrO、BaOの合量) 6.5〜10%、Li2O+Na2O+K2O 0〜0.1%含有することを特徴とする。
【0012】
第五に、本発明のガラスフィルムは、熱膨張係数が25〜50×10−7/℃であることを特徴とする。ここで、「熱膨張係数」は、30〜380℃の温度範囲において、ディラトメーターで測定した平均値を指す。有機ELディスプレイ等は、一般的に、基板上に低膨張のSi系の膜(熱膨張係数:32〜34×10−7/℃程度)が成膜される。このため、ガラスフィルムとSiの熱膨張係数が不整合であると、ガラスフィルムに反りが発生してしまう。そこで、ガラスフィルムの熱膨張係数を上記範囲に規制すれば、Siの熱膨張係数に整合しやすくなり、結果として、ガラスフィルムの反りを防止しやすくなる。
・・・
【0014】
第七に、本発明のガラスフィルムは、オーバーフローダウンドロー法で成形されてなることを特徴とする。ここで、「オーバーフローダウンドロー法」は、フュージョン法とも称されており、溶融ガラスを耐熱性の樋状構造物の両側から溢れさせて、溢れた溶融ガラスを樋状構造物の下端で合流させながら、下方に延伸成形してガラスフィルムを製造する方法である。
【0015】
第八に、本発明のガラスフィルムは、有機ELディスプレイの基板に用いることを特徴とする。
【0016】
第九に、本発明のガラスフィルムは、配線基板に用いることを特徴とする。」

「【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のガラスフィルムにおいて、フィルム厚は100μm以下であり、80μm以下、50μm以下、特に30μm以下が好ましい。フィルム厚が小さい程、ガラスフィルムを軽量化することができ、結果として、デバイスも軽量化することができる。また、フィルム厚が小さい程、ガラスフィルムの可撓性が向上するため、デバイスに可撓性を付与しやすくなり、湾曲した部分にデバイスを設置しやすくなる。
【0018】
本発明のガラスフィルムにおいて、1MHzにおける誘電率は5以下、好ましくは4.9以下、更に好ましくは4.8以下である。誘電率が高くなると、画素電極に電圧が印加された際に、誘起される電荷が高くなり、消費電力が上昇する傾向にある。
【0019】
本発明のガラスフィルムにおいて、1MHzにおける誘電正接は0.5以下であり、好ましくは0.1以下、より好ましくは0.01以下、更に好ましくは0.005以下、特に好ましくは0.001以下、最も好ましくは0.0005以下である。誘電正接が高くなると、ガラスフィルムが発熱して、デバイスの動作特性に悪影響を及ぼすおそれが生じる。
【0020】
本発明のガラスフィルムにおいて、ガラス組成中の各成分の含有量を上記のように限定した理由を以下に示す。
【0021】
SiO2の含有量は40〜80%、好ましくは50〜75%、より好ましくは55〜70%、更に好ましくは57〜63%、最も好ましくは58〜62%である。SiO2の含有量が40%より少ないと、密度を低下させ難くなる。一方、SiO2の含有量が80%より多いと、高温粘度が高くなり、溶融性が低下することに加えて、ガラス中に失透結晶(クリストバライト)等の欠陥が生じやすくなる。
【0022】
Al2O3の含有量は0〜20%である。Al2O3の含有量が少ないと、耐熱性を高め難くなったり、高温粘性が高くなり、溶融性が低下しやすくなる。よって、Al2O3の好適な下限範囲は0.1%以上、3%以上、5%以上、10%以上、12%以上、14%以上、14.5%以上、15%以上、特に15.5%以上である。一方、Al2O3の含有量が多いと、液相温度が高くなり、耐失透性が低下しやすくなる。よって、Al2O3の好適な上限範囲は19%以下、18%以下、特に17%以下である。
【0023】
B2O3は、誘電率を低下させる成分である。また融剤として働き、高温粘性を下げて、溶融性を高める成分であり、その含有量は10〜30%である。B2O3の含有量が少ないと、誘電率を低下させることが困難になり、また融剤としての働きが不十分になるため、高温粘性が高くなり、泡品位が低下しやすくなる。更には、ガラスを低密度化し難くなる。よって、B2O3の好適な下限範囲は11%以上、11.5%以上、12%以上、13%以上、14%以上、15%以上、特に15.5%以上である。一方、B2O3の含有量が多いと、耐熱性や耐候性が低下しやすくなる。よって、B2O3の好適な上限範囲は25%以下、20%以下、19%以下、18%以下、特に17%以下である。
・・・
【0039】
Li2O+Na2O+K2Oの含有量が多くなると、熱膨張係数が高くなったり、歪点が低下したり、TFTの特性が劣化する。よって、Li2O+Na2O+K2Oの含有量は0〜10%未満、0〜6%、0〜5%未満、0〜3%、0〜1%、特に0〜0.1%が好ましく、理想的には実質的に含有しないことが望ましい。ここで、「実質的にLi2O+Na2O+K2Oを含有しない」とは、ガラス組成中のLi2O+Na2O+K2Oの含有量が0.1%未満の場合を指す。
・・・
【0050】
本発明のガラスフィルムにおいて、表面粗さRaは、50Å以下、30Å以下、10Å以下、5Å以下、3Å以下、2Å以下である。表面粗さRaが大きくなると、ガラスフィルム上に形成されるITOやTFT等の膜の品位が低下し、デバイスが表示不良を引き起こすおそれがある。ここで、「表面粗さ(Ra)」は、JIS B0601:2001に準拠した方法により測定した値を指す。」

「【実施例1】
【0052】
以下、実施例に基づいて、本発明を詳細に説明する。
【0053】
表1は、本発明の実施例(試料No.1〜10)を示している。
【0054】
【表1】

・・・
【0063】
表1から明らかなように、試料No.1〜10は、ガラス組成が所定範囲に規制されているため、誘電率が4.93以下、誘電正接が0.0007以下、密度が2.39g/cm3以下、熱膨張係数αが30〜35×10−7/℃、歪点が511℃以上、102.5dPa・sにおける温度が1548℃以下、液相温度TLが1190℃以下、液相粘度logηTLが4.0以上であった。なお、試料No.1〜10は、ガラス組成中にAs2O3、Sb2O3を含有していないが、泡品位が良好であった。
【実施例2】
【0064】
試験溶融炉で表1に記載の試料No.1〜4を溶融し、オーバーフローダウンドロー法でフィルム厚50μmのガラスフィルムを成形したところ、表面粗さ(Ra)は20Å以下であった。なお、成形に際し、引っ張りローラーの速度、冷却ローラーの速度、加熱装置の温度分布、溶融ガラスの温度、溶融ガラスの流量、板引き速度、攪拌スターラーの回転数等を適宜調整することで、ガラスフィルムの表面品位を調節した。表面粗さ(Ra)」は、JIS B0601:2001に準拠した方法により測定した値である。」


(3)甲第3号証(Takashi Murata、et.al.、Ultra thin glass roll for flexible AMOLED display、18thInternational Display Workshop 2011、Nagoya、Japan、7-9 December 2011、Volume3、pp.1735-1737)
甲第3号証には以下の記載がある。なお、甲第3号証の記載事項は、当審の訳文で示す。
「2−2 ガラスの表面状態
図2は、オーバーフローダウンドロー工程の概略図である。このプロセスの大きな利点は、研磨工程を経ずに非常に平滑な表面を持つガラスが得られることである。溶融したガラスの表面は、成形の過程で他の物質と接触することはない。
・・・
図3及び図4のAFM画像は、それぞれ、オーバーフローダウンドロー法で形成されたガラス表面及び研磨された表面である。図3の、研磨されていないガラスの表面粗さ(Ra)は0.1〜0.2nm程度であり、研磨されたガラス表面よりも低い値を示している。」(1736頁左欄)

(4)甲第4号証(Louis Navias,R.L.Green,Dielectric Properties of Glasses at Ultra-High Frequencies and Their Relation to Composition, The Journal of the American Ceramic Society, October 1, 1946, Vol.29, No.10, pp.267-276)
甲第4号証には以下の記載がある。なお、甲第4号証の記載事項は、当審の訳文で示す。
「マイクロ波領域におけるガラスの誘電損失は、これらの周波数を発生させるために使用される機器の設計・開発において非常に重要である。必要とされる電力が増加するにつれ、超高周波帯が通過するガラスのエンベロープ、スペーサー、アパーチャーの損失を減少させることが不可欠となる。これは誘電体の過剰な吸収によるガラス部材の過熱を回避するために必要である。また、ガラスの誘電特性は、はるかに低いレベルのエネルギーが関与する受信機器の構造にも考慮される。」(267頁左欄2〜11行)

「(2) ガラスを形成する酸化物を90%以上含有しているグループ(B)これらのガラスは、耐久性のある低膨張ガラスの商業生産を可能にするために、主要なガラス形成成分であるSiO2とB2O3を変性する最初の段階のものである。より高いSiO2+B2O3含有率を有するこれらの組成物は一般的に誘電損失が低い。」(269頁右欄7〜14行)

(5)甲第5号証(米国特許出願公開第2012/0302063号明細書)
甲第5号証には以下の記載がある。なお、甲第5号証の記載事項は、当審の訳文で示す。
「[0052] 5.サイズ−円形の本体702を有するガラスウェハ700の”高品質領域”のサイズは、約300mmの外径にまで及ぶことができ、かつ約450mmまで拡大して、将来の大口径半導体ウェハに合わせることができるべきである。特に、円形の本体702を有するガラスウェハ700は、約150mm〜約450mmの範囲の外径を有しているべきである。
[0053] 6.厚さ−ガラスウェハ700の厚さは、公称約0.7mmであり、かつ約0.4mm以上、及び約1.1mm以下であるべきである。」

「10.前記本体は、約150mm〜約450mmの範囲の外径を有する、請求項1に記載の未研磨ガラスウェハ。
11.前記本体は、約0.4mm〜1.1mmの範囲の厚さを有する、請求項1に記載の未研磨ガラスウェハ。
12.前記未研磨の第1の表面は、約5ÅRMS未満の表面粗さを有する、請求項1に記載の未研磨ガラスウェハ。」(9頁右欄)

2 申立理由1(新規性)について
(1)甲第1号証に記載された発明
上記1(1)の記載(特に、[0029]、[0040]及び表1の例30)によれば、甲第1号証には、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

「SiO2を60.32モル%、Al2O3を8.07モル%、B2O3を23.22モル%、Na2Oを0.03モル%、K2Oを0.01モル%、MgOを3.16モル%、CaOを4.96モル%、SrOを0.01モル%、SnO2を0.12モル%、ZrOを0.09モル%、Fe2O3を0.01モル%含有し、TFTディスプレイ基板又は電子デバイスのカラーフィルター基板に使用することができるガラス。」

(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
(ア)甲1発明の「モル%」は、本件発明1の「酸化物基準のモル百分率」及び「%」に相当する。

(イ)本件発明1の「アルカリ金属酸化物」について、本件明細書等の【0025】には、「ガラス基板2に含まれるアルカリ金属酸化物としては、Li2O、Na2O、K2O、Rb2O、Cs2Oが挙げられる」と記載されているから、甲1発明の「Na2O」及び「K2O」は、本件発明1の「アルカリ金属酸化物」に相当する。
そして、甲1発明において、「Na2O」及び「K2O」の合計含有量は、0.03モル%+0.01モル%=0.04モル%であるのに対し、本件発明1は、「アルカリ金属酸化物を合計含有量として0.0001〜5%の範囲で含有する」から、「アルカリ金属酸化物」の「合計含有量」について、甲1発明と本件発明1とは0.04%である点で一致する。
また、甲1発明において、Na2O/(Na2O+K2O)で表されるモル比の値は、0.03/(0.03+0.01)=0.75であるのに対し、本件発明1は、「前記アルカリ金属酸化物のうちNa2O/(Na2O+K2O)で表されるモル比が0.6〜0.9の範囲であ」るから、「前記アルカリ金属酸化物のうちNa2O/(Na2O+K2O)で表されるモル比」について、甲1発明と本件発明1とは、0.75である点で一致する。

(ウ)甲1発明は、「B2O3を23.22モル%」含有しているのに対し、本件発明1は、「B2O3を18.5%以上含有し」ているから、「B2O3」について、甲1発明と本件発明1とは、23.22%含有している点で一致する。

(エ)甲1発明において、「Al2O3」及び「B2O3」の合計含有量は、8.07モル%+23.22モル%=31.29モル%であるのに対し、本件発明1は、「Al2O3およびB2O3を合計含有量として18.5〜40%の範囲で含有する」から、甲1発明と本件発明1とは、「Al2O3およびB2O3を合計含有量」として31.29%含有する点で一致する。
また、甲1発明において、Al2O3/(Al2O3+B2O3)で表されるモル比の値は、8.07/(8.07+23.22)=0.26であるのに対し、本件発明1は、「Al2O3/(Al2O3+B2O3)で表されるモル比が0〜0.45の範囲であ」るから、甲1発明と本件発明1とは、「Al2O3/(Al2O3+B2O3)で表されるモル比」が0.26である点で一致する。

(オ)本件発明1の「アルカリ土類金属酸化物」について、本件明細書等の【0031】には、「アルカリ土類金属酸化物としては、MgO、CaO、SrO、BaOが挙げられ」と記載されているから、甲1発明の「MgO」、「CaO」及び「SrO」は、本件発明1の「アルカリ土類金属酸化物」に相当する。
そして、甲1発明において、「MgO」、「CaO」及び「SrO」の合計含有量は、3.16モル%+4.96モル%+0.01モル%=8.13モル%であるのに対し、本件発明1は、「アルカリ土類金属酸化物を合計含有量として0.1〜13%の範囲で含有し」ているから、「アルカリ土類金属酸化物」の「合計含有量」について、甲1発明と本件発明1とは8.13%である点で一致する。

(カ)本件発明1の「SiO2を主成分」について、本件明細書等の【0021】には、「本明細書における「SiO2を主成分」とは、酸化物基準のモル%における成分の割合において、SiO2の含有量が最大であることを意味する」と記載されているところ、甲1発明は、「SiO2を60.32モル%」含有しており、当該「SiO2」の含有量は最大であるから、甲1発明と本件発明1とは、「SiO2を主成分とする」点で一致する。

(キ)甲1発明の「ガラス」は、「TFTディスプレイ基板又は電子デバイスのカラーフィルター基板に使用することができる」ものであるから、基板であるといえる。
したがって、甲1発明の「ガラス」は、本件発明1の「ガラス基板」に対応する。

(ク)以上から、本件発明1と甲1発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。
<一致点>
「酸化物基準のモル百分率で、アルカリ金属酸化物を合計含有量として0.004%含有すると共に、前記アルカリ金属酸化物のうちNa2O/(Na2O+K2O)で表されるモル比が0.75であり、かつB2O3を23.22%含有し、Al2O3およびB2O3を合計含有量として31.29%含有すると共に、Al2O3/(Al2O3+B2O3)で表されるモル比が0.26であり、アルカリ土類金属酸化物を合計含有量として8.13%含有し、SiO2を主成分とするガラス基板。」

<相違点>
相違点1−1:本件発明1は、「β−OH値が0.05〜0.6mm−1の範囲」であるのに対し、甲1発明は、そのような構成を有しているか不明である点。
相違点1−2:本件発明1は、「前記ガラス基板の少なくとも1つの主表面の表面粗さが算術平均粗さRaの値として1.5nm以下」であるのに対し、甲1発明は、そのような構成を有しているか不明である点。
相違点1−3:本件発明1は、「35GHzにおける誘電正接が0.007以下」であるのに対し、甲1発明は、そのような構成を有しているか不明である点。
相違点1−4:本件発明1は、「10GHz以上の高周波信号を扱う高周波デバイスに用いられる」のに対し、甲1発明は、「TFTディスプレイ基板又は電子デバイスのカラーフィルター基板に使用することができる」点。

イ 相違点についての判断
(ア)相違点1−1について
ガラスのβ−OH値を0.05〜0.6mm−1の範囲にすることは、甲第1号証〜甲第5号証のいずれにも記載されておらず、本件特許出願の優先日において周知技術であるとはいえない。
したがって、相違点1−1は実質的な相違点である。

(イ)したがって、その他の相違点について判断するまでもなく、本件発明1は、甲1発明であるとはいえない。

(3)本件発明2〜4について
本件発明2〜4は、いずれも、「β−OH値が0.05〜0.6mm−1の範囲である」との事項を備えているから、甲1発明とは、上記相違点1−1と同じ相違点を有するものである。
そうすると、上記(2)イで検討したのと同様の理由により、本件発明2〜4のいずれも、甲1発明であるとはいえない。

(4)本件発明6、7、9〜16について
本件発明6、7、9〜15は、本件発明1〜4のいずれかを減縮した発明であり、本件発明16は、請求項1〜4、6、7、9〜15のいずれか一項に記載のガラス基板を具備する回路基板の発明であり、いずれも、甲1発明とは、上記相違点1−1と同じ相違点を有するものであるから、上記(2)イで検討したのと同様の理由により、本件発明6、7、9〜16は、甲1発明であるとはいえない。

(5)申立人の主張
申立人は、特許異議申立書の44ページ8〜16行において、β−OH値はガラスの水分含有量の指標であり、0.05〜0.6mm−1の範囲の値は、極端な乾燥雰囲気での溶解や原料中の水分量を極端に減少させる必要なく達成できる値であり(本件明細書等の【0041】を参照のこと)、換言すれば、0.05〜0.6mm−1の範囲のβ−OH値は、通常の溶解条件や水分量を有する原料を使用してガラスを製造した場合に得られる値であり、甲第1号証に特殊な条件でガラスを溶解したことや原料中の水分量を調整したことは記載されていないことから、甲1発明においてもβ−OH値は0.05〜0.6mm−1の範囲である蓋然性が高い旨主張している。
しかし、上記(2)イ(ア)で検討したとおり、ガラスのβ−OH値を0.05〜0.6mm−1の範囲にすることは、甲第1号証〜甲第5号証のいずれにも記載されておらず、本件特許出願の優先日において周知技術であるとはいえない。
また、本件明細書等の【0041】の「ガラス基板2のβ−OH値が0.05mm−1以上であれば、極端な乾燥雰囲気での溶解や原料中の水分量を極端に減少させる必要がなく、ガラスの生産性や泡品質等を高めることができる。」との記載は、ガラス基板のβ−OH値の下限値である0.05mm−1に関する記載であって、範囲である0.05〜0.6mm−1に関する記載ではないから、この記載を根拠として、0.05〜0.6mm−1の範囲の値が、極端な乾燥雰囲気での溶解や原料中の水分量を極端に減少させる必要なく達成できる値であるということはできない。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。

(6)まとめ
以上のとおり、本件発明1〜4、6、7、9〜16は、甲1発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当しないから、請求項1〜4、6、7、9〜16に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものとはいえず、申立理由1には理由がない。

3 申立理由2(進歩性)について
(1)甲第2号証に記載された発明
上記1(2)の【0001】、【0054】【表1】の実施例No.4、【0064】によれば、甲第2号証には、以下の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。

「SiO2を76.0質量%、Al2O3を0.2質量%、B2O3を19.4質量%、CaOを0.3質量%、SrOを0.6質量%、Li2Oを0.9質量%、Na2Oを1.5質量%、K2Oを1.1質量%含有し、表面粗さ(Ra)が20Å以下であり、周波数1MHzにおける誘電正接が0.0003であり、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ等のディスプレイ用基板、チップサイズパッケージ(CSP)、電荷結合素子(CCD)、等倍近接型固体撮像素子(CIS)等のイメージセンサー用基板、有機EL照明等の照明デバイス用基板および配線基板に好適なガラスフィルム。」

(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲2発明とを対比する。
(ア)甲2発明の「ガラスフィルム」の各組成の質量%を、酸化物基準のモル百分率に換算すると、「ガラスフィルム」は、SiO2を78.0%、Al2O3を0.1%、B2O3を17.2%、CaOを0.3%、SrOを0.4%、Li2Oを1.9%、Na2Oを1.5%、K2Oを0.7%含有する。

(イ)本件発明1の「アルカリ金属酸化物」について、本件明細書等の【0025】には、「ガラス基板2に含まれるアルカリ金属酸化物としては、Li2O、Na2O、K2O、Rb2O、Cs2Oが挙げられる」と記載されているから、甲2発明の「Li2O」、「Na2O」及び「K2O」は、本件発明1の「アルカリ金属酸化物」に相当する。
そして、上記(ア)によれば、甲2発明において、「Li2O」、「Na2O」及び「K2O」の合計含有量は、1.9%+1.5%+0.7%=4.1%であるのに対し、本件発明1は、「アルカリ金属酸化物を合計含有量として0.0001〜5%の範囲で含有する」から、「アルカリ金属酸化物」の「合計含有量」について、甲2発明と本件発明1とは4.1%である点で一致する。
また、上記(ア)によれば、甲2発明において、Na2O/(Na2O+K2O)で表されるモル比の値は、1.5/(1.5+0.7)=0.68であるのに対し、本件発明1は、「前記アルカリ金属酸化物のうちNa2O/(Na2O+K2O)で表されるモル比が0.6〜0.9の範囲であ」るから、「前記アルカリ金属酸化物のうちNa2O/(Na2O+K2O)で表されるモル比」について、甲2発明と本件発明1とは、0.68である点で一致する。

(ウ)上記(ア)によれば、甲2発明は、「B2O3」を17.2%含有しているのに対し、本件発明1は、「B2O3を18.5%以上含有し」ているから、両者の「B2O3」の含有量は一致しない。

(エ)上記(ア)によれば、甲2発明において、「Al2O3」及び「B2O3」の合計含有量は、0.1%+17.2%=17.3%であるのに対し、本件発明1は、「Al2O3およびB2O3を合計含有量として18.5〜40%の範囲で含有する」から、両者の「Al2O3およびB2O3」の「合計含有量」は一致しない。
また、上記(ア)によれば、甲2発明において、Al2O3/(Al2O3+B2O3)で表されるモル比の値は、0.1/(0.1+17.2)=0.01であるのに対し、本件発明1は、「Al2O3/(Al2O3+B2O3)で表されるモル比が0〜0.45の範囲であ」るから、甲2発明と本件発明1とは、「Al2O3/(Al2O3+B2O3)で表されるモル比」が0.01である点で一致する。

(オ)本件発明1の「アルカリ土類金属酸化物」について、本件明細書等の【0031】には、「アルカリ土類金属酸化物としては、MgO、CaO、SrO、BaOが挙げられ」と記載されているから、甲2発明の「CaO」及び「SrO」は、本件発明1の「アルカリ土類金属酸化物」に相当する。
そして、上記(ア)によれば、甲2発明において、「CaO」及び「SrO」の合計含有量は、0.3%+0.4%=0.7%であるのに対し、本件発明1は、「アルカリ土類金属酸化物を合計含有量として0.1〜13%の範囲で含有し」ているから、「アルカリ土類金属酸化物」の「合計含有量」について、甲2発明と本件発明1とは0.7%である点で一致する。

(カ)本件発明1の「SiO2を主成分」について、本件明細書等の【0021】には、「本明細書における「SiO2を主成分」とは、酸化物基準のモル%における成分の割合において、SiO2の含有量が最大であることを意味する」と記載されているところ、上記(ア)によれば、甲2発明は、「SiO2」を78.0%含有しており、当該「SiO2」の含有量は最大であるから、甲2発明と本件発明1とは、「SiO2を主成分とする」点で一致する。

(キ)甲2発明の「表面粗さ(Ra)」について、甲第2号証の【0050】には、「ここで、「表面粗さ(Ra)」は、JIS B0601:2001に準拠した方法により測定した値を指す。」と記載されており、上記JIS B0601:2001におけるRaは算術平均粗さであるから、甲2発明の「表面粗さ(Ra)」は、本件発明1の「算術平均粗さRa」に相当する。
また、甲2発明の「表面粗さ(Ra)」は、「ガラスフィルム」の少なくとも1つの主表面の表面粗さ(Ra)であるといえ、当該「ガラスフィルム」は、「液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ等のディスプレイ用基板、チップサイズパッケージ(CSP)、電荷結合素子(CCD)、等倍近接型固体撮像素子(CIS)等のイメージセンサー用基板、有機EL照明等の照明デバイス用基板および配線基板に好適な」ものであるから、ガラス基板であるといえる。
そうすると、甲2発明の「ガラスフィルム」は、本件発明1の「ガラス基板」に対応する。
そして、甲2発明は、「表面粗さ(Ra)が20Å以下」、すなわち、2nm以下であるのに対し、本件発明1は、「前記ガラス基板の少なくとも1つの主表面の表面粗さが算術平均粗さRaの値として1.5nm以下」であるから、甲2発明と本件発明1とは、ガラス基板の少なくとも1つの主表面の表面粗さが算術平均粗さRaの値として1.5nm以下である点で共通する。

(ク)以上から、本件発明1と甲2発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。
<一致点>
「酸化物基準のモル百分率で、アルカリ金属酸化物を合計含有量として4.1%で含有すると共に、前記アルカリ金属酸化物のうちNa2O/(Na2O+K2O)で表されるモル比が0.68であり、かつAl2O3/(Al2O3+B2O3)で表されるモル比が0.01であり、アルカリ土類金属酸化物を合計含有量として0.7%含有し、SiO2を主成分とするガラス基板であって、
前記ガラス基板の少なくとも1つの主表面の表面粗さが算術平均粗さRaの値として1.5nm以下であるガラス基板。」

<相違点>
相違点2−1:本件発明1は、「B2O3を18.5%以上含有し」ているのに対し、甲2発明は、「B2O3を17.2モル%」含有している点。
相違点2−2:本件発明1は、「Al2O3およびB2O3を合計含有量として18.5〜40%の範囲で含有」しているのに対し、甲2発明は、「Al2O3」及び「B2O3」を合計含有量として17.3モル%含有している点。
相違点2−3:本件発明1は、「β−OH値が0.05〜0.6mm−1の範囲」であるのに対し、甲2発明は、そのような構成を有しているか不明である点。
相違点2−4:本件発明1は、「35GHzにおける誘電正接が0.007以下」であるのに対し、甲2発明は、「周波数1MHzにおける誘電正接が0.0003」である点。
相違点2−5:本件発明1は、「10GHz以上の高周波信号を扱う高周波デバイスに用いられる」のに対し、甲2発明は、「液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ等のディスプレイ用基板、チップサイズパッケージ(CSP)、電荷結合素子(CCD)、等倍近接型固体撮像素子(CIS)等のイメージセンサー用基板、有機EL照明等の照明デバイス用基板および配線基板に好適な」点。

イ 相違点についての判断
(ア)事案に鑑み、相違点2−3から検討する。
ガラスのβ−OH値を0.05〜0.6mm−1の範囲にすることは、甲第1号証〜甲第5号証のいずれにも記載されておらず、本件特許出願の優先日において周知技術であるとはいえない。
したがって、甲2発明において、β−OH値を0.05〜0.6mm−1の範囲にすること、すなわち、相違点2−3に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

(イ)したがって、その他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)本件発明2〜4について
本件発明2〜4は、いずれも、「β−OH値が0.05〜0.6mm−1の範囲である」との事項を備えているから、甲2発明とは、上記相違点2−3と同じ相違点を有するものである。
そうすると、上記(2)イで検討したのと同様の理由により、本件発明2〜4のいずれも、甲2発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)本件発明6、7、9〜16について
本件発明6、7、9〜15は、本件発明1〜4のいずれかを減縮した発明であり、本件発明16は、請求項1〜4、6、7、9〜15のいずれか一項に記載のガラス基板を具備する回路基板の発明であり、いずれも、甲2発明とは、上記相違点2−3と同じ相違点を有するものであるから、上記(2)イで検討したのと同様の理由により、本件発明6、7、9〜16は、甲2発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(5)まとめ
以上のとおり、本件発明1〜4、6、7、9〜16は、甲2発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、請求項1〜4、6、7、9〜16に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえず、申立理由2には理由がない。

4 申立理由3(明確性
(1)請求項1の「SiO2を主成分とする」について
ア 請求項1の「SiO2を主成分とする」との記載について、本件明細書等の【0021】には、「本明細書における「SiO2を主成分」とは、酸化物基準のモル%における成分の割合において、SiO2の含有量が最大であることを意味する。」と定義されているから、当該記載は明確である。

イ 申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書54ページ3〜16行において、請求項1〜4において、その割合が具体的に記載されている成分以外の成分が含まれることは排除されていないことから、SiO2、アルカリ金属酸化物、B2O3、Al2O3、アルカリ土類金属酸化物以外にどのような成分が含まれているのかが不明であり、また、アルカリ金属酸化物、B2O3、Al2O3、アルカリ土類金属酸化物以外の残分が全てSiO2であるのか、あるいはその他の成分が含まれているのか、その他の成分が含まれている場合にはどのような割合で含まれているのかが不明であるから、そもそも、「酸化物基準のモル%における成分の割合において、SiO2の含有量が最大である」か否かも不明である旨主張している。
確かに、請求人が主張するとおり、請求項1〜4においては、その割合が具体的に記載されている成分以外の成分(以下、「その他の成分」という。)が含まれることは排除していない。
ここで、請求項1〜4に係る発明は、「ガラス基板」に関する発明であるから、その他の成分は、ガラス基板の成分であるといえる。
そして、ガラス基板の成分として、その他の成分が含まれることを排除していないということは、その他の成分は、含まれていても、含まれていなくても良い成分、すなわち、任意成分であり、ガラス基板の成分として、任意成分が含まれることをもって、発明の範囲が不明確になるとはいえない。
そして、ガラス基板に、その他の成分が含まれている場合には、その他の成分の含有量は、「酸化物基準のモル%における成分の割合において、SiO2の含有量が最大」となる範囲の含有量であるといえる。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。

(2)請求項13の「波長350nmの透過率が50%以上である」について
ア ガラス基板の透過率が、ガラス基板の厚さにも依存し、その厚さが大きくなるほど透過率が小さくなることは技術常識であるところ、本件明細書等の【0048】には、「ガラス基板2の形状は、特に限定されるものではないが、その厚さは0.05〜1mmの範囲であることが好ましく」と記載されており、ここで例示されている「0.05〜1mmの範囲」との厚さは、「10GHz以上の高周波信号を扱う高周波デバイスに用いられるガラス基板」の厚さとして格別なものとはいえず、通常用いられている範囲のものといえる。
そして、同【0093】の【表13】には、例21として、板厚1.0mmのガラス基板の、波長350nmの透過率が90%、87%、83%(Fe2O3含有量がそれぞれ、0.01wt%、0.05wt%、0.1wt%)であることが記載されている。
そうすると、上記【0048】に例示されているガラス基板の厚さのうち、最大厚さである1.0mmにおいて、すなわち、最も透過率が小さくなる厚さにおいて、波長350nmの透過率は、少なくとも83%であり、50%をはるかに上回るものである。
そうすると、請求項13の「波長350nmの透過率が50%以上である」とは、「10GHz以上の高周波信号を扱う高周波デバイスに用いられるガラス基板」として通常用いられている厚さの範囲において、「波長350nmの透過率が50%以上である」といえる。
したがって、請求項13の「波長350nmの透過率が50%以上である」との記載は明確である。

イ 申立人の主張
申立人は特許異議申立書54ページ下から11〜3行において、請求項13には、ガラス基板について、「波長350nmの透過率が50%以上である」ことが記載されているが、光の透過率は、ガラス基板の厚さにも依存するものであるところ、ガラス基板の厚さが特定されておらず、この点につき、本件明細書等の【0048】には、ガラス基板の厚さが0.05〜1mmの範囲であることが記載されているが、上記の範囲では、厚さの下限値と上限値に20倍の開きがあり、厚さが0.05mmであろうと、1mmであろうと、「波長350nmの透過率が50%以上である」のか否かが不明であるし、そもそも請求項13では、ガラス基板の厚さは特定されていないことから、発明が不明確である旨主張している。
しかし、上記アで検討したとおり、請求項13の「波長350nmの透過率が50%以上である」とは、「10GHz以上の高周波信号を扱う高周波デバイスに用いられるガラス基板」として通常用いられている厚さの範囲において、「波長350nmの透過率が50%以上である」といえるから、申立人の上記主張は採用できない。

(3)まとめ
以上のとおり、請求項1、13の記載は明確であるから、申立理由3に理由はない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、請求項1〜4、6、7、9〜16に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1〜4、6、7、9〜16に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、請求項5、8は、本件訂正により削除されたため、請求項5、8に対する特許異議の申立ては、対象となる請求項が存在しないものとなったから、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物基準のモル百分率で、アルカリ金属酸化物を合計含有量として0.001〜5%の範囲で含有すると共に、前記アルカリ金属酸化物のうちNa2O/(Na2O+K2O)で表されるモル比が0.6〜0.9の範囲であり、かつB2O3を18.5%以上含有し、Al2O3およびB2O3を合計含有量として18.5〜40%の範囲で含有すると共に、Al2O3/(Al2O3+B2O3)で表されるモル比が0〜0.45の範囲であり、アルカリ土類金属酸化物を合計含有量として0.1〜13%の範囲で含有し、β−OH値が0.05〜0.6mm−1の範囲である、SiO2を主成分とするガラス基板であって、
前記ガラス基板の少なくとも1つの主表面の表面粗さが算術平均粗さRaの値として1.5nm以下であり、かつ35GHzにおける誘電正接が0.007以下である、10GHz以上の高周波信号を扱う高周波デバイスに用いられるガラス基板。
【請求項2】
酸化物基準のモル百分率で、アルカリ金属酸化物を合計含有量として0.001〜5%の範囲で含有すると共に、前記アルカリ金属酸化物のうちNa2O/(Na2O+K2O)で表されるモル比が0.6〜0.9の範囲であり、かつB2O3を13%以上含有し、Al2O3を0.5%以上含有し、Al2O3およびB2O3を合計含有量として13.5〜40%の範囲で含有すると共に、Al2O3/(Al2O3+B2O3)で表されるモル比が0超0.45以下の範囲であり、アルカリ土類金属酸化物を合計含有量として0.1〜13%の範囲で含有し、β−OH値が0.05〜0.6mm−1の範囲である、SiO2を主成分とするガラス基板であって、
前記ガラス基板の少なくとも1つの主表面の表面粗さが算術平均粗さRaの値として1.5nm以下であり、かつ35GHzにおける誘電正接が0.007以下である、10GHz以上の高周波信号を扱う高周波デバイスに用いられるガラス基板。
【請求項3】
酸化物基準のモル百分率で、アルカリ金属酸化物を合計含有量として0.001〜5%の範囲で含有すると共に、前記アルカリ金属酸化物のうちNa2O/(Na2O+K2O)で表されるモル比が0.6〜0.9の範囲であり、かつAl2O3およびB2O3を合計含有量として27〜40%の範囲で含有すると共に、Al2O3/(Al2O3+B2O3)で表されるモル比が0〜0.45の範囲であり、アルカリ土類金属酸化物を合計含有量として0.1〜13%の範囲で含有し、β−OH値が0.05〜0.6mm−1の範囲である、SiO2を主成分とするガラス基板であって、
前記ガラス基板の少なくとも1つの主表面の表面粗さが算術平均粗さRaの値として1.5nm以下であり、かつ35GHzにおける誘電正接が0.007以下である、10GHz以上の高周波信号を扱う高周波デバイスに用いられるガラス基板。
【請求項4】
酸化物基準のモル百分率で、アルカリ金属酸化物を合計含有量として0.001〜5%の範囲で含有すると共に、前記アルカリ金属酸化物のうちNa2O/(Na2O+K2O)で表されるモル比が0.6〜0.9の範囲であり、B2O3を18.5〜36%含有し、Al2O3およびB2O3を合計含有量として18.5〜40%の範囲で含有すると共に、Al2O3/(Al2O3+B2O3)で表されるモル比が0〜0.45の範囲であり、アルカリ土類金属酸化物を合計含有量として0.1〜13%の範囲で含有し、β−OH値が0.05〜0.6mm−1の範囲である、SiO2を主成分とするガラス基板であって、
前記ガラス基板の少なくとも1つの主表面の表面粗さが算術平均粗さRaの値として1.5nm以下であり、かつ35GHzにおける誘電正接が0.007以下である、10GHz以上の高周波信号を扱う高周波デバイスに用いられるガラス基板。
【請求項5】(削除)
【請求項6】
酸化物基準のモル百分率で、B2O3の含有量が18.5〜30%の範囲であると共に、Al2O3の含有量が0.5〜10%の範囲である、請求項1〜4のいずれか一項に記載のガラス基板。
【請求項7】
酸化物基準のモル百分率で、Fe2O3換算でのFeの含有量が0.012%以下である、請求項1〜4、6のいずれか一項に記載のガラス基板。
【請求項8】(削除)
【請求項9】
35GHzにおける比誘電率が10以下である、請求項1〜4、6、7のいずれか一項に記載のガラス基板。
【請求項10】
50〜350℃における平均熱膨張係数が3〜15ppm/℃の範囲である、請求項1〜4、6、7、9のいずれか一項に記載のガラス基板。
【請求項11】
ヤング率が40GPa以上である、請求項1〜4、6、7、9、10のいずれか一項に記載のガラス基板。
【請求項12】
気孔率が0.1%以下である、請求項1〜4、6、7、9〜11のいずれか一項に記載のガラス基板。
【請求項13】
波長350nmの透過率が50%以上である、請求項1〜4、6、7、9〜12のいずれか一項に記載のガラス基板。
【請求項14】
厚さが0.05〜1mmの範囲であると共に、基板面積が225〜10000cm2の範囲である、請求項1〜4、6、7、9〜13のいずれか一項に記載のガラス基板。
【請求項15】
非晶質である、請求項1〜4、6、7、9〜14のいずれか一項に記載のガラス基板。
【請求項16】
請求項1〜4、6、7、9〜15のいずれか一項に記載のガラス基板と、
前記ガラス基板の前記主表面上に形成された配線層とを具備し、
35GHzにおける伝送損失が1dB/cm以下である、10GHz以上の高周波信号を扱う高周波デバイスに用いられる回路基板。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-07-12 
出願番号 P2019-208014
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (C03C)
P 1 651・ 121- YAA (C03C)
P 1 651・ 113- YAA (C03C)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 宮澤 尚之
特許庁審判官 河本 充雄
金 公彦
登録日 2021-03-30 
登録番号 6860056
権利者 AGC株式会社
発明の名称 高周波デバイス用ガラス基板と高周波デバイス用回路基板  
代理人 特許業務法人栄光特許事務所  
代理人 特許業務法人栄光特許事務所  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ