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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A61K
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A61K
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61K
審判 全部申し立て 2項進歩性  A61K
管理番号 1389395
総通号数 10 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-10-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-10-18 
確定日 2022-07-15 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6863637号発明「睡眠改善用組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6863637号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2〕について訂正することを認める。 特許第6863637号の請求項1に係る特許を維持する。 特許第6863637号の請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯

1 特許第6863637号(以下「本件特許」という。)に係る特許出願(特願2020−114162号)は、令和2年7月1日を出願日とする特許出願であり、令和3年4月5日に設定の登録(請求項の数2)がなされ、令和3年4月21日に特許掲載公報が発行された。
その後、令和3年10月18日に、請求項1、2に係る特許に対し、特許異議申立人 大澤豊(以下「申立人」という。)により、特許異議の申立てがなされ、当審は、令和4年1月5日付けで取消理由を通知した。
特許権者は、令和4年3月10日に意見書の提出及び訂正の請求を行い、その訂正の請求に対して、申立人は、令和4年4月27日に意見書を提出した。

2 申立人は特許異議申立書(以下「申立書」という。)において、訂正前の請求項1、2に係る特許に対して、概略以下1〜3の特許異議申立理由(以下「申立理由」という。 )を主張する。さらに、訂正に付随して生じた申立理由として、申立人は令和4年4月27日提出の意見書において、概略以下4の申立理由を主張する。
また、上記の手続において提出された証拠方法は、下記のとおりである。

(1)申立理由1(新規性欠如:特許法第29条第1項第3号
訂正前の請求項1、2に係る発明は、甲1又は甲6に記載された発明である。

(2)申立理由2(進歩性欠如:特許法第29条第2項
訂正前の請求項1、2に係る発明は、甲1に記載された発明及び技術常識(甲2〜4)に基づいて、あるいは、甲6に記載された発明及び技術常識(甲2〜5、甲7〜9)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)申立理由3(実施可能要件違反:特許法第36条第4項第1号、サポート要件違反:特許法第36条第6項第1号
訂正前の請求項1、2に係る発明について、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が上記請求項に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえず、また、上記請求項に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものともいえない。

(4)申立理由4(明確性要件違反:特許法第36条第6項第2号
訂正により、明細書に記載がないものを除いている結果、訂正後の請求項1に係る発明の権利範囲が不明確である。

<以下、申立人が特許異議申立書とともに提出>
・甲第1号証:国際公開第2018/061870号
・甲第2号証:特開2014−65695号公報
・甲第3号証:特開2007−63236号公報
・甲第4号証:特開2017−169451号公報
・甲第5号証:特開2019−142852号公報
・甲第6号証:わかさの秘密 もろみ酢、平成26年12月5日(更新日)、インターネット<URL:https://himitsu.wakasa.jp/contents/moromi-vinegar/>のプリントアウト
・甲第7号証:はぴねすくらぶ 琉球黒もろみ酢GABA(ギャバ)リッチ、令和3年10月13日(印刷日)、インターネット<URL:https://www.e-hapi.com/healthfood/functional/stepsbpress/product.html?PROD_CD=094789>のプリントアウト
・甲第8号証:様式I:届出食品の化学的根拠等に関する基本情報(一般消費者向け)、平成27年(Copyright)、令和3年10月4日(印刷日)、インターネット<URL:https://www.fld.caa.go.jp/caaks/cssc02/?recordSeq=42109010610401>のプリントアウト
・甲第9号証:機能性表示食品コンサルティング 1-2-1-5:これまでの届出一覧(E1-E882)、令和3年7月13日(印刷日)、インターネット<URL:https://www.yakujihou.com/kinousei/member/kinou_db/1-2-1-5/>のプリントアウト
・甲第10号証:特開2019−131576号公報
(以下、甲第1号証〜第10号証をそれぞれ甲1〜10という。)

<以下、申立人が意見書とともに提出>
・参考資料1:Yoichi NOGATA et al,“Determination of γ-Aminobutyric Acid and Free Amino Acid Contents in Barley Seeds and Amounts Produced by Water Soaking Treatment”, Food Sci. Technol. Res., 2012, 18(2), pp.263-269
・参考資料2:森永寛ら、「右季肋部鉱泥湿布療法の催眠効果」、岡山大学温泉研究所報告、第53号(1983)、9〜11頁
・参考資料3:太陽化学株式会社 L−テアニンと睡眠、2016年6月、インターネット<URL:https://www.taiyokagaku.com/lab/column/09/>のプリントアウト
・参考資料4:特開2008−150352号公報
・参考資料5:特開2006−342148号公報

第2 訂正の適否についての判断

1 請求の趣旨及び訂正の内容
(1)請求の趣旨
令和4年3月10日提出の訂正請求書により特許権者が行った訂正請求は、「特許第6863637号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1及び2について訂正することを求める」ことを請求の趣旨とするものである。
そして、上記訂正請求による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。なお、下線部は訂正箇所である。

(2)訂正の内容
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「γ−アミノ酪酸及びトリプトファン、並びにL−ロイシンを含有することを特徴とする睡眠改善用組成物。」と記載されているのを、「γ−アミノ酪酸及びL−トリプトファン、並びにL−ロイシンを含有することを特徴とする入眠改善用組成物(ただし、もろみ酢を除く)。」に訂正する。

イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

本件訂正は、一群の請求項〔1、2〕に対して請求されたものである。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1のうち、訂正前の請求項1の「トリプトファン」を「L−トリプトファン」に限定し、訂正前の請求項1の「睡眠改善用組成物」を「入眠改善用組成物」に限定する訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。願書に添付した明細書(以下「本件特許明細書」という。)の実施例において、γ−アミノ酪酸、L−トリプトファン及びL−ロイシンを含む被験物質は、入眠改善作用を示すことが記載されていることから(【0036】〜【0042】)、当該訂正は、新規事項の追加に該当せず、また、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
また、訂正事項1のうち、訂正後の請求項1を「組成物(ただし、もろみ酢を除く)」とする訂正は、当審から通知した令和4年1月5日付け取消理由通知書で引用された、甲6に記載された発明における必須の構成である「もろみ酢」を、特許請求の範囲から除くことによって限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。当該訂正は新規事項の追加に該当せず、また、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項2を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(3)独立特許要件について
特許異議の申立ては、本件訂正前の全請求項についてされているので、本件訂正前の請求項1、2についての訂正事項1、2に関して、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

3 小括
以上のことからすると、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2〕について訂正することを認める。

第3 本件訂正後の本件発明

上記第2のとおり、本件訂正は認められたので、本件特許の請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
なお、請求項2は、本件訂正により削除された。

「【請求項1】
γ−アミノ酪酸及びL−トリプトファン、並びにL−ロイシンを含有することを特徴とする入眠改善用組成物(ただし、もろみ酢を除く)。」

第4 令和4年1月5日付け取消理由通知書の取消理由について

1 取消理由の概要
本件訂正前の請求項1、2に係る特許に対して、当審が令和4年1月5日付けで特許権者に通知した取消理由は、概略以下のとおりである。

(1)取消理由1(新規性)、取消理由2(進歩性
本件訂正前の請求項1、2に係る発明は、甲6に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当する。したがって、同請求項に係る特許は、同法第29条第1項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
また、仮に、本件訂正前の請求項1、2に係る発明が、甲6に記載された発明といえないとしても、本件訂正前の請求項1に係る発明は、甲6に記載された発明及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。したがって、同請求項に係る特許は、同法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(2)取消理由3(サポート要件)
本件訂正前の請求項1、2に係る発明は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

2 取消理由1(新規性)、取消理由2(進歩性)について
(1)甲6に記載された発明
ア 甲6には、以下の記載がある。下線は当審合議体が付した。

(摘記6a)
「もろみ酢とはクエン酸やアミノ酸を豊富に含んだ、泡盛のもろみ(酒粕)からつくられる清涼飲料水です。鼻にツンとくる酸味がなく、そのまま飲むことができます。
おいしく飲めて、疲労回復・脂肪燃焼・生活習慣病予防など健康に幅広く働きかけます。
もろみ酢の健康効果
◎疲労回復効果
◎ダイエット効果
◎肩こりをやわらげる効果
◎リラックス効果
◎血流を改善する効果」(第1/10頁)

(摘記6b)
「●もろみ酢に含まれる成分と性質
もろみ酢には非常に多くのクエン酸が含まれています。クエン酸は疲労回復や脂肪燃焼などに働きかける健康に欠かすことのできない大切な成分です。さらに、体内ではつくり出せない9種類の必須アミノ酸[※2]を含む、計19種類のアミノ酸も豊富に含んでいます。もろみ酢に含まれる主なアミノ酸は、アルギニン・リジン・ヒスチジン・チチオニン・アラニン・アスパラギン酸・プロリンなどです。もろみ酢はクエン酸とアミノ酸を豊富に、そしてバランス良く含んでいます。他にもミネラルやGABA(ギャバ)などの健康成分が含まれています。

[※1:清涼飲料水とは、アルコール分が1%未満の飲料で、味と香りのある水のことです。一般的には、のどの渇きを癒してくれ清涼感を感じさせてくれる飲料のことを指し、炭酸飲料・果汁飲料・コーヒー飲料・茶系飲料などの総称とされています。]
[※2:必須アミノ酸とは、動物の成長や生命維持に必要であるにも関わらず体内で合成されないため、食物から摂取しなければならないアミノ酸のことです。バリン、ロイシン、イソロイシン、スレオニン、メチオニン、リジン、ヒスチジン、フェニルアラニン、トリプトファンの9種類が存在します。]」(第3/10頁)
(当審注:上記において6行目の「チチオニン」は、「※2」の記載からみて、「メチオニン」の誤記と認められる。

(摘記6c)
「●リラックス効果
もろみ酢にはGABA(ギャバ)が含まれています。GABAとは正式にはγ(ガンマ)−アミノ酪酸といわれ、哺乳類の脳に多く存在するアミノ酸の一種です。脳の血流を改善する作用があり、リラックス成分として知られています。GABAが含まれているもろみ酢には血圧を下げイライラを解消する効果や、寝つきを良くし、快適な眠りに導く効果も期待されています。」(第5/10頁)

イ 上記アによれば、甲6には、クエン酸、9種類の必須アミノ酸を含む19種類のアミノ酸、ミネラル及びγ−アミノ酪酸を含むもろみ酢が記載され、当該9種類の必須アミノ酸は、バリン、ロイシン、イソロイシン、スレオニン、メチオニン、リジン、ヒスチジン、フェニルアラニン及びトリプトファンであること、当該19種類のアミノ酸には、アルギニン、リジン、ヒスチジン、メチオニン、アラニン、アスパラギン酸、プロリンが含まれることが記載されている(摘記6a、6b)。
また、甲6には、γ−アミノ酪酸を含むもろみ酢には、血圧を下げイライラを解消する効果等のほかに、寝つきを良くし、快適な眠りに導く効果も期待されていることが記載されている(摘記6c)。
したがって、甲6には、以下の発明が記載されていると認められる。

「クエン酸、9種類の必須アミノ酸を含む19種類のアミノ酸、ミネラル及びγ−アミノ酪酸を含むもろみ酢であって、
前記9種類の必須アミノ酸は、バリン、ロイシン、イソロイシン、スレオニン、メチオニン、リジン、ヒスチジン、フェニルアラニン及びトリプトファンであり、
前記19種類のアミノ酸には、アルギニン、ヒスチジン、アラニン、アスパラギン酸及びプロリンが含まれており、
寝つきを良くし、快適な眠りに導く効果が期待されている、もろみ酢。」(以下「甲6発明」という。)

(2)対比
甲6発明の「もろみ酢」は、本件発明の「入眠改善用組成物」と「組成物」である限りにおいて一致する。
また、天然のアミノ酸は通常L体であるという技術常識を踏まえると、甲6発明における必須アミノ酸であるロイシンとトリプトファンはL体と認められる。
そうすると、本件発明と甲6発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。

<一致点>
「γ−アミノ酪酸及びL−トリプトファン、並びにL−ロイシンを含有する組成物」

<相違点1>
本件発明は「もろみ酢を除く」組成物であるのに対して、甲6発明は「もろみ酢」であることを必須の構成とする点。

<相違点2>
組成物の用途が、本件発明では「入眠改善用」であるのに対して、甲6発明では「寝つきを良くし、快適な眠りに導く効果が期待されている」ものである点。

(3)当審の判断
ア 本件発明には、甲6発明における必須の構成である「もろみ酢」が含まれず、相違点1は実質的な相違点であるから、本件発明が甲6に記載された発明であるとはいえない。

イ 甲6は、もろみ酢の健康効果について記載した文献であり、もろみ酢以外の「寝つきを良くし、快適な眠りに導く効果が期待されている」組成物については記載も示唆もされていないから、甲6発明に係るもろみ酢を、もろみ酢以外の組成物にすること、すなわち相違点1に係る「組成物(もろみ酢を除く)」とすることには、阻害要因があるというべきである。
このことは、γ−アミノ酪酸、トリプトファン及びロイシンのそれぞれに、睡眠改善や入眠改善の効果があるとの技術常識(甲2〜5)を考慮しても、同様である。
そして、本件特許明細書の実施例(図1)において、本件発明が入眠時間を短縮する効果を奏することも具体的に確認されている。

ウ したがって、相違点2について検討するまでもなく、本件発明は、甲6発明及び技術常識(甲2〜5)に基づいて当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

エ なお、当審から通知した取消理由通知書において、GABA(γ−アミノ酪酸)を含有するもろみ酢が、「睡眠の質(眠りの深さ)の向上に役立つ機能」、「すっきりとした目覚めをサポートする機能」を有することを開示する甲7〜9は、その開示日が必ずしも明確ではないため使用しなかった。
仮に、甲7〜9を本件出願日前の技術常識を示すものとして扱ったとしても、上記イの阻害要因が存在することに変わりはないから、上記ウの判断は左右されない。

オ 令和4年4月27日提出の意見書における申立人の主張について
(ア)申立人は、主に以下の点を主張し、当審が通知した取消理由、もしくは当該取消理由に示された先行技術文献に基づいて、本件発明は取り消されるべきものである旨を主張する。
(i)γ−アミノ酪酸、L−トリプトファン、L−ロイシンに入眠改善作用があることは周知であるから(甲2〜4)、本件発明は、γ−アミノ酪酸、L−トリプトファン及びL−ロイシンを含有する組成物の未知の属性を、新たな用途への使用に適することを見いだしたものとはいえず、「入眠改善用」は新規な「用途発明」に該当しないことは明らかである(意見書2頁(I))。
(ii)サプリメントの分野においては、同一の生理機能を有する複数の成分を1つにまとめて、当該生理機能用の組成物とすることは広く一般的に行われているところ、甲2〜4及び参考資料2、3と、甲6とは、技術分野の関連性、課題の共通性、作用・機能の共通性を有しており、また甲6には、「γ−アミノ酪酸」、「L−トリプトファン」及び「L−ロイシン」を含む「もろみ酢」において入眠改善効果が示唆されているため、当業者が、同一の入眠改善効果を有する「γ−アミノ酪酸」、「L−トリプトファン」及び「L−ロイシン」をまとめて1つの組成物とすることに想到する動機付けは十分にある(意見書3〜4頁(III)、5頁(I))。
(iii)本件特許明細書の記載からは、被験物質未投与群(比較例1)に対して、γ−アミノ酪酸とL−トリプトファンを投与した群(比較例2)及びL−ロイシンのみを投与した群(比較例3)では入眠時間が長くなっているため、効果を単純に比較することができず、本件発明の効果が比較例1、2に対して相乗的なものであると理解することが難しいこと等から、本件発明の効果は、「期待し得る効果として十分に期待可能である」と判断でき、先行発明に対する進歩性を有しているということはできない(意見書4〜5頁(IV)、5頁(II))。

(イ)しかし、もろみ酢の健康効果について記載した文献である甲6を主引用例とした場合には、もろみ酢以外の組成物とすることに阻害要因があることは上記イに説示したとおりである。
申立人が主張する上記(i)〜(iii)を検討しても、上記阻害要因の存在を否定することはできない。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。

2 取消理由3(サポート要件)に関する当審の判断
(1)特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、その記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

(2)本件発明の解決しようとする課題は、請求項1の記載及び本件特許明細書【0006】の記載に鑑みると、「入眠改善作用に優れており、効率的に睡眠改善作用が得られる組成物、かつ、長く安全に摂取できる成分を含有する睡眠改善用組成物を提供すること」にあるといえる。

(3)これに対して、本件特許明細書の実施例(【0036】〜【0042】、図1)には、ペントバルビタールナトリウムを投与した雄性ICR系マウスを実験に用いて、γ−アミノ酪酸、L−トリプトファン及びL−ロイシンという3種類のアミノ酸を組み合わせて投与した場合(実施例1)において、単にこれら3種類のアミノ酸を全て投与しなかった場合(比較例1)のみならず、その内の1種又は2種のみを投与した場合(比較例2、3)と比較しても、当該マウスの姿勢反射消失までの時間(入眠時間)が短かったことが記載されている。

(4)そうすると、本件特許明細書の記載により、当業者であれば、γ−アミノ酪酸、L−トリプトファン及びL−ロイシンという3種類のアミノ酸を組み合わせることで、入眠改善作用が発揮され、上記(2)の課題が解決されることを認識できる。
したがって、本件発明はサポート要件を満足するといえる。

(5)令和4年4月27日提出の意見書における申立人の主張について
ア 申立人は、本件特許明細書の試験1では、多くの文献で入眠改善作用があるとされているγ−アミノ酪酸及びL−トリプトファンを含む比較例2と、同じく入眠改善作用があるとされているL−ロイシンを含む比較例3が、これら成分を含まない比較例1よりも入眠時間が長く、文献などと矛盾しているデータとなっていることを指摘した上で、実施例1及び比較例1〜3において、投与した成分の合計量が異なるため、3成分とすることで相乗的な効果を有するのか、それとも単に投与した成分の合計量が多いために効果を有するのかは不明であり、当業者であっても、本件特許明細書の記載から、3成分とすることで入眠改善効果が得られるかは理解できないため、本件発明は、「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えるものであり、特許法第36条第6項第1号のサポート要件を満たさない旨を主張する(意見書6頁(3−5))。

しかし、γ−アミノ酪酸とL−トリプトファンを投与した比較例2、L−ロイシンを投与した比較例3が、被験物質未投与の比較例1よりも入眠時間が長くなった点は、投与量に起因する可能性もあり、直ちに「矛盾しているデータ」ということはできない。そして、本件特許明細書の記載により、3成分とすることで入眠改善作用が発揮され、本件発明の課題が解決されることを認識できることは、上記(3)(4)に示したとおりである。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。

第5 取消理由通知において採用しなかった申立理由について

取消理由通知において採用しなかった、上記第1の2(1)申立理由1のうち、甲1に関する部分(下記1)、上記第1の2(2)申立理由2のうち、甲1を主引例とする部分(下記2)、上記第1の2(3)申立理由3のうち、実施可能要件違反に関する部分(下記3)、及び、上記第1の2(4)申立理由4(下記4)について、以下検討する。

1 申立理由1(甲1に対する新規性欠如)について
(1)甲1に記載された発明
ア 甲1には、以下の記載がある。必要に応じて当審で下線を付した。

a 「≪トマト≫
本発明に係るトマトは、果実の可食部100gあたりに含まれる下記遊離アミノ酸の量が、以下の(1)〜(20)から選ばれる1又は2つ以上を満たすことを特徴とする。
(1)遊離グルタミン酸の量が200mg以上である
(2)遊離アスパラギン酸の量が40mg以上である
(3)遊離アルギニンの量が6mg以上である
(4)遊離イソロイシンの量が6mg以上である
(5)遊離アラニンの量が8mg以上である
(6)遊離セリンの量が15mg以上である
(7)遊離リジンの量が7mg以上である
(8)遊離ヒスチジンの量が7mg以上である
(9)遊離フェニルアラニンの量が12mg以上である
(10)遊離チロシンの量が4mg以上である
(11)遊離ロイシンの量が4mg以上である
(12)遊離メチオニンの量が2mg以上である
(13)遊離バリンの量が3.5mg以上である
(14)遊離グリシンの量が2mg以上である
(15)遊離プロリンの量が50mg以下である
(16)遊離スレオニンの量が10mg以上である
(17)遊離トリプトファンの量が2mg以上である
(18)遊離ホスホセリンの量が1.2mg以上である
(19)遊離β−アラニンの量が2mg以上である
(20)遊離γ−アミノ酪酸の量が80mg以上である」([0099])

b 「グルタミン酸は、うまみ成分であり、トマトの果実にうまみを与える。また、グルタミン酸は、興奮性の神経伝達物質であり、疲労回復に効果がある。」([0101])

c 「セリンは、睡眠の質改善、脳機能補助等の効果を有する。」([0106])

d 「ロイシンは、必須アミノ酸であり、エネルギー源となる。また、ロイシンは、筋力強化、肝機能向上等の効果を有する。」([0111])

e 「グリシンは、睡眠の質向上等の効果を有する。」([0114])

f 「トリプトファンは、必須アミノ酸であり、セロトニン前駆体として精神安定作用を有する。また、トリプトファンは、鎮静作用、安眠効果等を有する。」([0117])

g 「ホスホセリンは、セリンの前駆体であり、セリンと同様に、睡眠の質改善、脳機能補助等の効果を有する。」([0118])

h 「γ−アミノ酪酸は、脳機能改善効果、血圧改善効果等を有する。」([0120])

i 「[実施例2C]
上記実施例1Cと同様の栽培方法でトマト(甘福)を水耕栽培し、植物体に実った果実を収穫した。なお、水耕栽培用の栽培用溶液には、塩水(塩化ナトリウム濃度1質量%(実施例2C−1)若しくは塩化ナトリウム濃度2質量%(実施例2C−2))、又は海水(塩化ナトリウム濃度3質量%)(実施例2C−3)を用いた。栽培用溶液には、水耕栽培に必要な各種栄養素を添加した。
得られたトマトの果実の可食部に含まれる遊離アミノ酸の量及び糖度を計測した(実施例2C−1〜2C−3)。結果を表4及び表5に示す。」([0200])

j [表4]


k [表5]


l 「本発明に係るトマトの製造方法により、従来のトマトの果実と比べ遊離アミノ酸含有量が異なり、特有の風味を有するトマトの果実を得ることができる。」([0205])

イ 上記摘記a、摘記ijkの実施例2C−1、実施例2C−2によると、甲6には、以下の発明が記載されていると認められる。

「以下の表4及び表5における実施例2C−1又は2C−2の組成を満たすトマト果実。
[表4]

[表5]

」(以下「甲1発明」という。)

(2)対比
甲1発明の「トマト果実」は、本件発明の「入眠改善用組成物(ただし、もろみ酢を除く)」と、「組成物(ただし、もろみ酢を除く)」である限りにおいて一致する。
また、天然のアミノ酸は通常L体であるという技術常識を踏まえると、甲1発明における遊離アミノ酸であるトリプトファン及びロイシンはL体と認められる。
そうすると、両発明の一致点及び相違点は、次のとおりである。

<一致点>
「γ−アミノ酪酸及びL−トリプトファン、並びにL−ロイシンを含有する組成物(ただし、もろみ酢を除く)」

<相違点>
組成物の用途が、本件発明では「入眠改善用」であるのに対して、甲1発明にはそのような特定がなされていない点。

(3)当審の判断
ア 甲1は、従来のトマト果実と比べ遊離アミノ酸含有量が異なり、特有の風味を有するトマト果実について記載された文献であるところ(上記(1)摘記l)、甲1には、トマト果実に含まれる各遊離アミノ酸の含有量と作用について説明されている。具体的には、甲1発明のトマト果実に含まれる様々な遊離アミノ酸のうち、セリン、グリシン及びホスホセリンについて、睡眠の質向上又は改善の効果を有することが記載されている(上記(1)摘記ceg)。

イ しかし、甲1には、甲1発明のトマト果実自体が入眠改善に資することをうかがわせる記載はない。
また、甲1において、本件発明の構成成分であるγ−アミノ酪酸、トリプトファン、ロイシンは睡眠と関連づけられていないし(上記(1)摘記dfh)、むしろ興奮性の神経伝達物質であるグルタミン酸(上記(1)摘記b)の量が、甲1発明のトマト果実の遊離アミノ酸の中で群を抜いて多いことに鑑みると、甲1に接した当業者が、甲1発明のトマト果実を「入眠改善用」のものとして認識するとはいえない。
さらに、興奮性の神経伝達物質であるグルタミン酸を多量に含むトマト果実を「入眠改善用」の用途とすることが、本件出願日当時の技術常識であったとも認められない。

ウ そうすると、上記(2)の相違点は実質的な相違点であるから、本件発明が甲1に記載された発明であるとはいえない。

エ 申立書における申立人の主張について
申立人は、「甲第1号証の[0106],[0114],[0118]には、甲1発明に係るトマト果実が、睡眠の質改善の効果を有する各種成分を含有することが開示されており、甲1発明に係るトマト果実が睡眠の質改善の機能を有する「睡眠改善用組成物」であることは明らかである」(申立書9頁)と主張する。

しかし、申立人が挙げている「甲第1号証の[0106],[0114],[0118]」は、甲1発明のトマト果実に含まれる様々な遊離アミノ酸のうち、セリン、グリシン及びホスホセリンが、睡眠の質向上又は改善の効果を有することについて言及するにとどまり、甲1発明のトマト果実自体が「睡眠の質改善の機能を有する」ことを直接的に述べるものではない。
他方、上記イで説示したとおり、興奮性の神経伝達物質であるグルタミン酸の量が、甲1発明のトマト果実の遊離アミノ酸の中で群を抜いて多いことに照らせば、たとえ睡眠の質改善の効果を有する遊離アミノ酸を含有するものであっても、「甲1発明に係るトマトが睡眠の質改善の機能を有する・・・ことは明らか」とまではいえない。
したがって、上記主張は採用できない。

オ 以上のとおりであるから、申立理由1(甲1に対する新規性欠如)には理由がない。

2 申立理由2(甲1を主引例とする進歩性欠如)について
(1)本件発明と甲1発明との対比
両発明の一致点及び相違点は、上記1(2)で説示した以下のとおりである。

<一致点>
「γ−アミノ酪酸及びL−トリプトファン、並びにL−ロイシンを含有する組成物(ただし、もろみ酢を除く)」

<相違点>
組成物の用途が、本件発明では「入眠改善用」であるのに対して、甲1発明にはそのような特定がなされていない点。

(2)本件出願日当時の技術常識について
下記ア〜カの記載から、γ−アミノ酪酸、L−トリプトファン及びL−ロイシンのいずれのアミノ酸にも入眠改善作用があることは、本件出願日当時の技術常識であったといえる。

ア 甲2には、ロイシンに、睡眠潜時を短縮して寝付きを良くするといった入眠促進(入眠改善)作用や、自発行動量を低下して睡眠を改善するといった睡眠の質の改善(睡眠改善)作用があり、入眠障害等を改善する睡眠改善剤に適用できることが記載されている(請求項1、請求項6、請求項7、実施例1、実施例3、図2、図4、【0068】及び【0082】)。

イ 甲3には、γ−アミノ酪酸を摂取すると、睡眠の質が改善(睡眠改善)し、入眠潜時が短くなる(入眠改善)ことが記載されている(【0006】〜【0007】、実施例3及び図1〜4)。

ウ 甲4には、トリプトファンが、人体の体内等においてセロトニンを経由し、「睡眠ホルモン」と呼ばれるメラトニンに変わって人を眠りに誘導する(睡眠改善及び入眠改善)ことが記載されている(【0002】)。

エ 甲5には、トリプトファンやγ−アミノ酪酸等のアミノ酸に、睡眠を改善する効果(睡眠改善)があることが記載されている(【0029】)。

オ 参考資料2には、L−トリプトファンの経口摂取が入眠潜時を短縮することが記載されている(10頁右欄本文の最終段落下から5〜4行目)。

カ 参考資料3には、L−トリプトファンは入眠や熟眠に改善効果のあることが報告されていることが記載されている(4/5頁第1段落中程)。

(3)当審の判断
ア 上記1(3)ア、イに説示したとおり、甲1において、本件発明の構成成分であるγ−アミノ酪酸、L−トリプトファン、L−ロイシンは睡眠と関連づけられていないし(上記1(1)摘記dfh)、むしろ興奮性の神経伝達物質であるグルタミン酸(上記1(1)摘記b)の量が、甲1発明のトマト果実の遊離アミノ酸の中で群を抜いて多いことに鑑みると、甲1に接した当業者が、甲1発明のトマト果実を「入眠改善用」のものとして認識するとはいえない。
また、上記(2)の技術常識を参酌しても、興奮性の神経伝達物質であるグルタミン酸を多量に含むトマト果実を「入眠改善用」の用途とすることが自明であったとは認められない。

イ 上記アを踏まえると、甲1発明のトマト果実に入眠改善用の組成物としての用途を見いだすことは困難である。

ウ したがって、甲1発明を上記(1)の相違点に係る本件発明の構成を備えたものとすることは、当業者が容易に想到し得た事項とはいえない。
そして、本件特許明細書の実施例(図1)において、本件発明が入眠時間を短縮する効果を奏することも具体的に確認されている。

エ よって、本件発明は、甲1発明、甲1の記載及び技術常識(甲2〜5、参考資料2及び参考資料3)に基づいて当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

オ 申立書における申立人の主張について
申立人は、γ−アミノ酪酸、L−トリプトファン及びL−ロイシンのいずれのアミノ酸にも、入眠促進作用や睡眠誘導効果があることは周知であり(甲1〜4)、甲1に記載のトマト果実が入眠促進作用を奏することも自明である旨を主張する(申立書9頁)。

しかし、γ−アミノ酪酸、L−トリプトファン及びL−ロイシンのいずれのアミノ酸にも入眠改善作用があるという本件出願日当時の技術常識(上記(2))を参酌してもなお、甲1発明のトマト果実に入眠改善用の組成物としての用途を見いだすことが困難であることは、上記ア、イで説示したとおりである。
したがって、上記主張は採用できない。

カ 以上のとおりであるから、申立理由2(甲1を主引例とする進歩性欠如)にも理由がない。

3 申立理由3(実施可能要件違反)に対する当審の判断
申立理由3のうち、取消理由通知書において採用しなかった実施可能要件違反に関する部分の主張は、本件訂正前の請求項1、2に係る発明のうち、D−トリプトファンを用いる発明について、本件特許明細書は、当業者が当該発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえないというものである。
しかし、本件訂正により、本件発明のトリプトファンは「L−トリプトファン」に限定されたから、D−トリプトファンを用いる発明に対する上記主張を採用することはできない。
したがって、申立理由3(実施可能要件違反)にも理由がない。

4 申立理由4(明確性要件違反)に対する当審の判断
(1)「もろみ酢」とは、「泡盛その他の単式蒸留焼酎(酒税法(昭和28年法律第6号)第3条第10号に規定する単式蒸留焼酎をいう。以下同じ。)を製造する過程で生じるもろみ粕を圧搾、ろ過等したもの(以下「もろみ酢原液」という。)又はもろみ酢原液に果汁等を添加したものであって、製品重量に対するもろみ酢原液の割合が75%以上であるもののうち、一般消費者向けに製造販売されるもの」(もろみ酢の表示に関する公正競争規約及び施行規則、必要であればを参照。)であり、「もろみ酢」の定義は明確である。

(2)申立人は、「もろみ酢」という本件特許明細書に記載されていないものが除かれた結果、本件発明の権利範囲が不明確である旨を主張する。
しかし、「もろみ酢」が本件特許明細書に記載されていなくても、本件発明に係る組成物から除かれる「もろみ酢」の定義が明確である以上、「組成物(もろみ酢を除く)」という記載で特定される本件発明は明確である。
したがって、上記主張は採用できず、申立理由4(明確性要件違反)にも理由がない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立理由及び証拠によっては、請求項1に係る特許を取り消すことはできない。また、ほかに請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、請求項2に係る特許についての特許異議の申立ては、本件訂正により請求項2が削除された結果、申立ての対象が存在しないものとなったので、特許法第120条の8第1項において準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
γ−アミノ酪酸及びL−トリプトファン、並びにL−ロイシンを含有することを特徴とする入眠改善用組成物(ただし、もろみ酢を除く)。
【請求項2】
(削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-07-05 
出願番号 P2020-114162
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (A61K)
P 1 651・ 536- YAA (A61K)
P 1 651・ 537- YAA (A61K)
P 1 651・ 113- YAA (A61K)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 藤原 浩子
特許庁審判官 鳥居 敬司
渕野 留香
登録日 2021-04-05 
登録番号 6863637
権利者 株式会社東洋新薬
発明の名称 睡眠改善用組成物  
代理人 ▲高▼津 一也  
代理人 ▲高▼津 一也  

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