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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  D06M
審判 全部申し立て 2項進歩性  D06M
管理番号 1389396
総通号数 10 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-10-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-10-25 
確定日 2022-08-01 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6864672号発明「ゴム補強用コード及びそれを用いたゴム製品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6864672号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔8〜11〕について訂正することを認める。 特許第6864672号の請求項1〜11に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6864672号(以下「本件特許」という。)の請求項1〜11に係る特許についての出願は、平成29年(2017年)4月19日(優先権主張 平成28年(2016年)4月21日)を国際出願日とする特許出願であって、令和3年4月6日に特許権の設定登録がされ、同年4月28日に特許掲載公報が発行された。
本件の特許異議の申立ては、本件特許のすべての請求項に係る特許を対象としたものであって、その手続の経緯は、次のとおりである。
令和3年10月25日 :特許異議申立人峯村圭(以下「申立人」という。)による特許異議の申立て
令和4年1月25日付け:取消理由の通知
同年3月23日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
同年4月26日 :申立人による意見書の提出

第2 本件訂正請求について
1.訂正の内容
令和4年3月23日提出の訂正請求書による訂正の請求は、「特許第6864672号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項8〜11について訂正することを求める。」というものであって、その訂正(以下「本件訂正」という)の内容は以下のとおりである。なお、訂正箇所に下線を付した。
《訂正事項1》
特許請求の範囲の請求項8に「請求項1〜7のいずれか1項に記載のゴム補強用コード。」と記載されているのを、「請求項1に記載のゴム補強用コード。」に訂正する。(請求項8の記載を引用する請求項9〜11の記載も同様に訂正する。)

2.訂正の適否
(1)一群の請求項について
本件訂正前の請求項9〜11が、それぞれ請求項8の記載を直接的又は間接的に引用するものであり、本件訂正請求は、一群の請求項ごとに請求されたものである。

(2)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項8の記載が請求項1〜7のいずれか1項の記載を引用するものであったものを、そのうちの請求項2〜7の記載を引用しないものとし、引用する請求項の数を減らすものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、また、新規事項の追加に該当しない。

(3)まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号を目的とするものであり、かつ、同条第4項、並びに同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
よって、訂正後の請求項〔8〜11〕について訂正することを認める。

第3 本件特許発明
上記のとおり本件訂正を認めることができるので、本件特許の請求項1〜11に係る発明は、訂正特許請求の範囲の請求項1〜11に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(これらの各発明を以下「本件発明1」のようにいい、総称して「本件発明」ともいう)。
「【請求項1】
ゴム製品を補強するためのゴム補強用コードであって、
前記ゴム補強用コードは、少なくとも1つのストランドを備え、
前記ストランドは、少なくとも1つのフィラメント束と、前記フィラメント束の少なくとも表面の一部を覆うように設けられた第1の被膜と、
を含んでおり、
前記フィラメント束は、実質的にポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維フィラメントからなり、
前記第1の被膜は、ゴム成分及び架橋剤を含み、
前記ゴム補強用コードは液体成分をさらに含んでおり、前記ゴム補強用コードにおける前記液体成分の含有率が0.1〜2.0質量%の範囲内であり、
前記フィラメント束と前記第1の被膜との間に設けられた樹脂層をさらに含む、
ゴム補強用コード。
【請求項2】
前記ゴム補強用コードは、前記第1の被膜上に設けられた第2の被膜をさらに含んでおり、
前記ゴム補強用コードにおける前記液体成分の含有率が0.5〜2.0質量%の範囲内である、
請求項1に記載のゴム補強用コード。
【請求項3】
前記ゴム成分が、ニトリルゴム、水素化ニトリルゴム、カルボキシル変性ニトリルゴム及びカルボキシル変性水素化ニトリルゴムからなる群より選ばれる少なくともいずれか1つを含む、
請求項1又は2に記載のゴム補強用コード。
【請求項4】
前記架橋剤が、マレイミド系架橋剤及びポリイソシアネートからなる群より選ばれる少なくともいずれか1つを含む、
請求項1〜3のいずれか1項に記載のゴム補強用コード。
【請求項5】
前記第1の被膜が、レゾルシン−ホルムアルデヒド縮合物を含まない、
請求項1〜4のいずれか1項に記載のゴム補強用コード。
【請求項6】
前記第1の被膜の質量が、前記フィラメント束の質量の5〜35%の範囲内である、
請求項1〜5のいずれか1項に記載のゴム補強用コード。
【請求項7】
前記樹脂層が、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂及びイソシアネート化合物からなる群より選ばれる少なくともいずれか1つを含む、
請求項6に記載のゴム補強用コード。
【請求項8】
前記ゴム補強用コードにおける前記液体成分の含有率が0.2〜1.5質量%の範囲内である、
請求項1に記載のゴム補強用コード。
【請求項9】
前記ゴム補強用コードにおける前記液体成分の含有率が0.3〜1.3質量%の範囲内である、
請求項8に記載のゴム補強用コード。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載のゴム補強用コードで補強されたゴム製品。
【請求項11】
ゴムマトリックスと、前記ゴムマトリックスに埋設された前記ゴム補強用コードと、を含むゴムベルトである、
請求項10に記載のゴム製品。」

第4 当審の判断
1.取消理由の概要
本件訂正前の本件特許に対して令和4年1月25日付けで通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。
明確性)本件特許は、特許請求の範囲の請求項8〜11の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
進歩性)本件特許の請求項1〜11に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲第1号証ないし甲第4号証に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1〜11に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
甲第1号証:特開2009−235661号公報
甲第2号証:国際公開第2015/098105号
甲第3号証:特開2009−167550号公報
甲第4号証:国際公開第2006/117964号
以下、甲第1号証を「甲1」のようにいう。他も同様。

2.明確性に係る取消理由について
本件訂正前の請求項8の記載は請求項2を直接的に引用し、請求項9の記載は請求項2の記載を間接的に引用していたところ、液体成分の含有率について、その下限が、請求項2が「0.5」であるのに対し、請求項8が「0.2」、請求項9が「0.3」と、請求項2の含有率の範囲外となっており、液体成分の含有率の記載に不備があったが、本件訂正により、請求項8の記載は、請求項2の記載を引用しないものとなり、不備は解消した。
したがって、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たすものであるから、本件発明8〜11に係る特許は、同法第113条第4号に該当するものではない。

3.進歩性に係る取消理由について
(1)甲2の記載事項、甲2に記載された発明
ア 甲2の記載事項
甲2には、以下の記載がある。
「[請求項1] 被膜を有するゴム補強用コードを形成するための水性処理剤であって、
前記水性処理剤は、ゴムラテックス、架橋剤および充填材を含み、
前記架橋剤の含有量は、前記ゴムラテックスに含まれる固形分100質量部に対し50質量部以上150質量部以下の範囲にあり、
前記充填材の含有量は、前記ゴムラテックスに含まれる固形分100質量部に対し50質量部を超え80質量部以下の範囲にある、
水性処理剤。
・・・・。
[請求項6] ゴム製品を補強するためのゴム補強用コードであって、
前記ゴム補強用コードは、少なくとも1つのストランドを備え、
前記ストランドは、少なくとも1つのフィラメントの束と、前記フィラメントの束の少なくとも表面に請求項1に記載の水性処理剤を用いて形成された第1の被膜とを有する、
ゴム補強用コード。
・・・・
[請求項8] 前記フィラメントの束が、アラミド繊維、ガラス繊維、炭素繊維、およびポリパラフェニレンベンゾオキサゾールから選ばれる少なくともいずれか1つによって構成されている、
請求項6に記載のゴム補強用コード。
・・・・
[請求項12] ゴム組成物と、前記ゴム組成物に埋め込まれたゴム補強用コードとを含み、
前記ゴム補強用コードが請求項6に記載のゴム補強用コードであるゴム製品。
・・・・」
「[0037] 水性処理剤(A)の構成成分(溶媒を除く成分)は、溶媒中に分散または溶解される。水性処理剤(A)の溶媒は、50質量%以上の割合で水を含む水性溶媒である。水性溶媒中の水の含有率は、80質量%以上や90質量%以上や100質量%であってもよい。水性溶媒としては、取り扱い性がよく、構成成分の濃度管理が容易であり、有機溶媒と比較して環境負荷が格段に軽減されることから、水が好適に用いられる。・・・・
・・・・
[0042] 典型的には、フィラメントの束は、アラミド繊維フィラメントのみによって構成される。
[0043] アラミド繊維フィラメントの種類は特に限定されず、パラ型、メタ型を問わず用いることができ、メタ型モノマーとパラ型モノマーとの共重合体系のアラミド繊維であってもよい。市販のアラミド繊維としては、例えばパラ型であるポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(東レ・デュポン社製ケブラー、帝人社製トワロン)、メタ型であるポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維(帝人社製コーネックス)、共重合体系であるポリ−3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド共重合体繊維(帝人社製テクノーラ)などが挙げられる。アラミド繊維フィラメントの繊維径は特に限定されない。
・・・・
[0045] フィラメントの表面は、サイジング剤によって処理されていてもよい。すなわち、フィラメントの表面に対して、「サイジング」と一般的に呼ばれる前処理が行われていてもよい。例えば、アラミド繊維について、サイジング剤の好ましい一例は、エポキシ基およびアミノ基からなる群より選ばれる少なくともいずれか1つの官能基を含有する。このようなサイジング剤の例には、アミノシラン、エポキシシラン、ノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、臭素化エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂が挙げられる。具体的な例としては、ナガセケムテックス社のデナコールシリーズ、DIC社のエピクロンシリーズ、三菱化学社のエピコートシリーズが挙げられる。表面がサイジング処理されたアラミド繊維フィラメントを用いることによって、マトリックスゴムとゴム補強用コードとの接着性を高めることが可能である。
・・・・
[0053] すなわち、本実施形態のゴム補強用コードの製造方法は、
複数のフィラメントを束ねてフィラメントの束を作製し、フィラメントの束の少なくとも表面に水性処理剤(A)を供給し、供給された水性処理剤(A)を乾燥させて第1の被膜を作製して、ストランドを形成し、複数のストランドを撚り合わせてコードを形成する工程(i)、と、
工程(i)で得られたコード上に第2の被膜を形成するための処理剤を供給し、コードに対して当該コードの長手方向に荷重を付加した状態で、コード上の処理剤を乾燥させて、第1の被膜よりも外側に設けられた第2の被膜を形成する工程(ii)、とを含む。
・・・・
[0055] 上記工程(i)によって第1の被膜を有する複数のストランドを撚り合わせたコードが形成される。水性処理剤(A)を供給する方法に限定はなく、例えば、フィラメントの束を水性処理剤(A)中に浸漬してもよく、フィラメントの束に水性処理剤(A)を塗布してもよい。水性処理剤(A)を乾燥させる方法に限定はなく、例えば、乾燥炉を用いて溶媒を除去してもよい。溶媒を除去するための乾燥条件は特に限定されない。例えば、80〜300℃の雰囲気下で0.5〜2分間乾燥することによって、溶媒を除去してもよい。
・・・・
[0068] (実施例1〜11、比較例1〜8)
まず、アラミド繊維フィラメント1000本を束ねて、フィラメントの束とした。アラミド繊維フィラメントには、帝人社製テクノーラ1670dtexを用いた。
[0069] フィラメントの束を、以下の表1の実施例1に示す組成の水性処理剤(A)に浸漬した後、200℃で1分間乾燥させた。このフィラメントの束を3本束ねて40回/mの割合で一方向に撚り(Z撚りに下撚り)をかけてストランドを形成し、さらに得られたストランドを3本束ねて40回/mの割合で同一方向に撚り(Z撚りに上撚り)をかけてコードを形成した。次に、マトリックスゴムとの接着性を向上させるために、以下の表3に示す組成を有する処理剤を上記第1の被膜の上に塗布して乾燥することによって、第2の被膜を形成した。また、この第2の被膜を形成する工程において、第2の被膜を形成する処理剤の塗布前から乾燥後までの間、コードの長手方向に100Nの張力をかけた。このコードに付加した張力は、コードの長手方向の破断強度の3.7%に該当する。このようにして、実施例1のゴム補強用コードを得た。」

イ 甲2に記載された発明
上記アに摘記した事項から、甲2には次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
「ゴム製品を補強するためのゴム補強用コードであって、
前記ゴム補強用コードは、少なくとも1つのストランドを備え、
前記ストランドは、少なくとも1つのフィラメントの束と、前記フィラメントの束の少なくとも表面に水性処理剤を用いて形成された第1の被膜と、
を有し、
前記フィラメントの束がアラミド繊維によって構成されており、
前記水性処理剤は、ゴムラテックス、架橋剤および充填材を含む、
ゴム補強用コード。」

(2)本件発明1について
ア 本件発明1と甲2発明とを対比する。
甲2発明の「ゴム製品を補強するためのゴム補強用コード」は、本件発明1の「ゴム製品を補強するためのゴム補強用コード」に相当し、以下同様に、「ストランド」は「ストランド」に、「フィラメントの束」は「フィラメント束」に、「フィラメントの束の少なくとも表面に水性処理剤を用いて形成された第1の被膜」は「フィラメント束の少なくとも表面の一部を覆うように設けられた第1の被膜」に、「水性処理剤を用いて形成された第1の被膜と、を有し、前記水性処理剤は、ゴムラテックス、架橋剤および充填材を含む」ことは「第1の被膜は、ゴム成分及び架橋剤を含」むことに、それぞれ相当する。
イ 以上を踏まえると、本件発明1と甲2発明とは、以下の<一致点>で一致し、<相違点1>〜<相違点3>で相違する。
<一致点>
ゴム製品を補強するためのゴム補強用コードであって、
前記ゴム補強用コードは、少なくとも1つのストランドを備え、
前記ストランドは、少なくとも1つのフィラメント束と、前記フィラメント束の少なくとも表面の一部を覆うように設けられた第1の被膜と、
を含んでおり、
前記第1の被膜は、ゴム成分及び架橋剤を含む、ゴム補強用コード。
<相違点1>
本件発明1では、「フィラメント束は、実質的にポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維フィラメントからな」るのに対して、甲2発明は、「フィラメントの束がアラミド繊維によって構成されて」いる点。
<相違点2>
本件発明1では、「ゴム補強用コードは液体成分をさらに含んでおり、前記ゴム補強用コードにおける前記液体成分の含有率が0.1〜2.0質量%の範囲内」であるのに対して、甲2発明は、液体成分の含有量が不明である点。
<相違点3>
本件発明1では、「フィラメント束と前記第1の被膜との間に設けられた樹脂層をさらに含む」のに対して、甲2発明には、それに相当する構成がない点。
ウ 事案に鑑み、<相違点1>と<相違点2>を併せて検討する。
(ア)本件発明1は、フィラメントの材料としてポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維を用いると、処理剤を乾燥させる際の熱によって引張強度が大きく低下するという問題に着目して、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維を用いて、高い引張強度と高い接着強度とを両立するゴム補強用コードを得ようとするものである(本件特許明細書等の段落【0006】【0007】)。
そして、本件発明1の「ゴム補強用コードにおける前記液体成分の含有率が0.1〜2.0質量%の範囲内」とすることで、高い引張強度と高い接着強度とを両立できることが示されている(本件特許明細書等の段落【0066】【0067】【0072】【0073】)。
(イ)甲1の「タイヤ補強用のアラミドなどの有機繊維コード」は、本件発明1の「ゴム補強用コード」に相当するものであって、それに「接着剤」(同じく本件発明1の「第1の被膜」に相当する膜を形成する材料)を付着させて乾燥させた状態での水分率が0.1〜4.0%とされるものである(甲1の【0025】【0026】)。
甲3には、タイヤ補強などに用いる有機繊維コードに接着剤を付着させて乾燥させた状態での水分率が0.22%となった実施例が記載されている(甲3の【0034】【表1】)。
さらに、甲4には、タイヤ補強用の有機繊維コードに接着剤を付着させて乾燥させた状態での水分率は0.1%を超えた状態に維持してその後の改質(熱処理)工程を行うのが好ましいこと、及び、乾燥させた状態での水分率が0.46%から2.24%にわたる実施例が記載されている(甲4の[0044]表1、[0048]表3)。
(ウ)甲1、甲3及び甲4における水分率は、タイヤ補強などに用いる有機繊維コードの接着剤を付着させて乾燥させた状態での値であるが、こうした有機繊維コードは、さらに熱処理が施されるものであるから、最終的に熱処理が終了した状態での有機繊維コードの水分率は、さらに減じられた値となっているはずである。
しかも、甲1、甲3及び甲4における水分率は、有機繊維コードとしてポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維を用いた場合のものではない。
すなわち、甲1、甲3及び甲4は、実質的にポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維からなる有機繊維コードについて、最終的に熱処理が終了した段階での水分率が0.1〜2.0質量%の範囲内であることを示すものではない。
これに対して、既に上記(ア)で述べたように、本件発明1は、フィラメントの材料としてポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維を用いた上で「液体成分の含有率」を「0.1〜2.0質量%の範囲内」とすることで、接着強度のみならず引張強度も高くできるものである。
そうすると、甲2発明のアラミド繊維のフィラメントには、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維が想定されている(甲2の段落[0043])としても、甲1、甲3及び甲4には、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維からなる有機繊維コードの熱処理が終了した段階での水分率を0.1〜2.0質量%の範囲内とすることは記載されておらず、甲2発明において、「フィラメント束」が「実質的にポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維フィラメント」からなるものにし、かつ、「ゴム補強用コードにおける液体成分の含有率」を「0.1〜2.0質量%の範囲内」にすること、すなわち、相違点1及び2に係る本件発明1の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
エ したがって、さらに<相違点3>について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明に基いて当業者が容易に発明し得たものではない。

(3)本件発明2〜11について
本件発明2〜11は、いずれも、本件発明1の発明特定事項を全て含んだ上で他の発明特定事項が付加されたものであるから、本件発明1について既に述べたことを考慮すれば、甲2発明に基いて当業者が容易に発明し得たものとはいえない。

4.取消理由に採用しなかった特許異議申立理由について
(1)甲1を主引用例とする進歩性について
ア 甲1の、特に請求項1、請求項6及び実施例の記載からみて、甲1には次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「タイヤ補強用のアラミドなどの有機繊維コードに予めエポキシ化合物を用いて改質処理しておいた上で接着剤にディップし、マイクロ波及び遠赤外線で前記有機繊維コードの水分率を0.1〜4.0%に乾燥した後に、前記有機繊維コードを熱処理することにより得られた有機繊維コード。」
イ 本件発明1と甲1発明を対比すると、上記3.(2)ウ(ウ)で述べたように、甲1には、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維からなる有機繊維コードについて、最終的に熱処理が終了した段階での水分率が0.1〜2.0質量%の範囲内であることは記載されておらず、本件発明1と甲1発明とは、少なくとも本件発明1と甲2発明を対比した際の<相違点1><相違点2>と同様の相違点を有することは明らかである。
そして、これら相違点についてさらに甲2、甲3及び甲4の記載事項を考慮しても、甲1発明において、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維からなる有機繊維コードを「ゴム補強用コードにおける液体成分の含有率が0.1〜2.0質量%の範囲内」とすることが容易に導かれるものではない。
ウ 以上を踏まえると、本件発明1は、甲1発明に基いて当業者が容易に発明し得たものではない。
また、本件発明2〜11も、甲1発明に基いて当業者が容易に発明し得たものではない。
よって、申立人の甲1を主引用例とする進歩性の理由は採用できない。

(2)サポート要件について
ア 本件発明の解決しようとする課題は、本件特許の発明の詳細な説明によれば、「ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維を補強用の繊維として含み、かつ高い引張強度と高い接着強度とを両立するゴム補強用コードを得ること」、「そのようなゴム補強用コードによって補強された、高い引張強度、さらにマトリックスゴムとゴム補強用コードとの高い接着強度とを有する、高強度のゴム製品を提供すること」(【0007】)である。
イ 本件特許の発明の詳細な説明には、
「本実施形態のゴム補強用コードでは、第1の被膜を作製する際の熱処理において、さらには、本実施形態のゴム補強用コードが第2の被膜をさらに含む場合は第2の被膜を作製する際の熱処理において、0.1〜2.0質量%の範囲内でゴム補強用コード中に液体成分が残存するように熱量を調整して熱処理を行うことにより、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維の引張強度の低下を抑制又は低下の度合を小さく抑えつつ、ゴムマトリックスとの十分な接着強度が実現できる。液体成分の含有率が0.1質量%未満、すなわち第1の被膜作製時の熱処理、さらには第2の被膜作製時の熱処理が、被膜作製のための処理剤の溶媒、及び、繊維に含まれる水分がほぼ全てなくなるように実施された場合は、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維の引張強度が低下してしまい、その結果ゴム補強用コードの引張強度が低下する。一方、液体成分の含有率が2.0質量%を超える場合は、マトリックスゴムとの十分な接着強度を実現できる程度に十分な熱量が被膜に加えられなかったことになるので、マトリックスゴムとの十分な接着強度を実現できるゴム補強用コードを得ることができない。」(【0035】)と記載されており、この記載から、ゴム補強用コードに「ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維」を用いた場合には、被膜を作製する際の熱処理において、0.1〜2.0質量%の範囲内でゴム補強用コード中に液体成分が残存するように熱量を調整すれば、引張強度と接着強度を実現できることが理解される。
そうすると、本件発明は当業者が発明の課題を解決できると認識し得る範囲のものであるといえるから、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定される要件に適合するものといえる。
ウ 申立人は、本件特許の発明の詳細な説明中の実施例では、「フィラメント束を、マレイミド系架橋剤、ブロックドポリイソシアネート及びゴムラテックスを含む(すなわち、レゾルシン−ホルムアルデヒド縮合物を含まない)第1の被膜用水性処理剤に浸漬した後、200℃の熱処理により溶媒を蒸発させて、所定の液体成分の含有率となるように第1の被膜を形成した例が記載されているが、記載されている処理剤は上記の水性処理剤のみであり、この水性処理剤でしか前述の課題が解決されていない。」旨(特許異議申立書24頁)主張する。
しかし、当業者であれば、発明の詳細な説明の記載から、ゴム補強用コードに「ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維」を用いた場合には、被膜を作製する際の熱処理において、0.1〜2.0質量%の範囲内でゴム補強用コード中に液体成分が残存するように熱量を調整すれば、引張強度と接着強度を実現できることが理解でき、実施例に記載された水性処理剤以外の処理剤であっても、本件発明の課題を解決できると認識し得るものといえる。
よって、申立人の上記主張は採用できない。

第5 むすび
以上のとおり、本件特許の請求項1〜11に係る特許は、特許権者に通知した取消理由又は特許異議申立書に記載された特許異議の申立ての理由によっては、取り消すことができない。また、他に請求項1〜11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム製品を補強するためのゴム補強用コードであって、
前記ゴム補強用コードは、少なくとも1つのストランドを備え、
前記ストランドは、少なくとも1つのフィラメント束と、前記フィラメント束の少なくとも表面の一部を覆うように設けられた第1の被膜と、
を含んでおり、
前記フィラメント束は、実質的にポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維フィラメントからなり、
前記第1の被膜は、ゴム成分及び架橋剤を含み、
前記ゴム補強用コードは液体成分をさらに含んでおり、前記ゴム補強用コードにおける前記液体成分の含有率が0.1〜2.0質量%の範囲内であり、
前記フィラメント束と前記第1の被膜との間に設けられた樹脂層をさらに含む、
ゴム補強用コード。
【請求項2】
前記ゴム補強用コードは、前記第1の被膜上に設けられた第2の被膜をさらに含んでおり、
前記ゴム補強用コードにおける前記液体成分の含有率が0.5〜2.0質量%の範囲内である、
請求項1に記載のゴム補強用コード。
【請求項3】
前記ゴム成分が、ニトリルゴム、水素化ニトリルゴム、カルボキシル変性ニトリルゴム及びカルボキシル変性水素化ニトリルゴムからなる群より選ばれる少なくともいずれか1つを含む、
請求項1又は2に記載のゴム補強用コード。
【請求項4】
前記架橋剤が、マレイミド系架橋剤及びポリイソシアネートからなる群より選ばれる少なくともいずれか1つを含む、
請求項1〜3のいずれか1項に記載のゴム補強用コード。
【請求項5】
前記第1の被膜が、レゾルシン−ホルムアルデヒド縮合物を含まない、
請求項1〜4のいずれか1項に記載のゴム補強用コード。
【請求項6】
前記第1の被膜の質量が、前記フィラメント束の質量の5〜35%の範囲内である、
請求項1〜5のいずれか1項に記載のゴム補強用コード。
【請求項7】
前記樹脂層が、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂及びイソシアネート化合物からなる群より選ばれる少なくともいずれか1つを含む、
請求項6に記載のゴム補強用コード。
【請求項8】
前記ゴム補強用コードにおける前記液体成分の含有率が0.2〜1.5質量%の範囲内である、
請求項1に記載のゴム補強用コード。
【請求項9】
前記ゴム補強用コードにおける前記液体成分の含有率が0.3〜1.3質量%の範囲内である、
請求項8に記載のゴム補強用コード。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載のゴム補強用コードで補強されたゴム製品。
【請求項11】
ゴムマトリックスと、前記ゴムマトリックスに埋設された前記ゴム補強用コードと、を含むゴムベルトである、
請求項10に記載のゴム製品。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-07-22 
出願番号 P2018-513198
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (D06M)
P 1 651・ 121- YAA (D06M)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 藤原 直欣
特許庁審判官 塩治 雅也
井上 茂夫
登録日 2021-04-06 
登録番号 6864672
権利者 日本板硝子株式会社
発明の名称 ゴム補強用コード及びそれを用いたゴム製品  
代理人 鎌田 耕一  
代理人 間中 恵子  
代理人 間中 恵子  
代理人 鎌田 耕一  
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