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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01B
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  H01B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01B
管理番号 1389398
総通号数 10 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-10-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-10-27 
確定日 2022-07-15 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6866799号発明「熱伝導性絶縁シートおよび複合部材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6866799号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の〔1−11〕について」訂正することを認める。 特許第6866799号の請求項1ないし11に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6866799号の請求項1ないし11に係る特許についての出願は、平成29年8月1日に出願され、令和3年4月12日にその特許権の設定登録がされ、同年4月28日に特許掲載公報が発行された。
その後、その特許について、同年10月27日に特許異議申立人 中川 賢治(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審は、令和4年1月17日付けの取消理由を通知した。
特許権者は、その指定期間内である同年3月1日に意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)を行い、当審は、その訂正の請求に対して、同年3月7日(3月10日発送)に特許異議申立人に訂正の請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)をし、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、特許異議申立人からは何の応答もない。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「前記熱伝導性絶縁シートの断面において、シート断面積100%に対して、断面全体に存在するボイドの占有面積率が30%以下であり、」とあるのを、「前記熱伝導性絶縁シートの断面において、シート断面積100%に対して、断面全体に存在するボイドの占有面積率が12.7〜30%であり、」に訂正する(請求項1を引用する請求項2ないし11も同様に訂正する。)。(下線は、訂正箇所を示すものである。以下、同じ。)

イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項10に「前記熱伝導性絶縁膜の断面において、膜断面積100%に対して、断面全体に存在するボイドの占有面積率が20%以下であり、」とあるのを、「前記熱伝導性絶縁膜の断面において、膜断面積100%に対して、断面全体に存在するボイドの占有面積率が9.5〜20%であり、」に訂正する(請求項10を引用する請求項11も同様に訂正する。)。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否及び一群の請求項について
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的の適否
訂正前の請求項1に係る特許発明では、「熱伝導性絶縁シート」について、「前記熱伝導性絶縁シートの断面において、シート断面積100%に対して、断面全体に存在するボイドの占有面積率が30%以下であ」るのを、「前記熱伝導性絶縁シートの断面において、シート断面積100%に対して、断面全体に存在するボイドの占有面積率が12.7〜30%であ」ると限定することで、特許請求の範囲を減縮しようとするものである。
よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項の有無
訂正事項1は、明細書の段落0112の表2の実施例6に、熱伝導性絶縁シートの断面において、シート断面積100%に対して、断面全体に存在するボイドの占有面積率が12.7%であることが記載されているから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1は、訂正後の請求項1に係る発明及び訂正後の請求項1を引用する訂正後の請求項2ないし11に係る発明の技術的範囲を狭めるものであるにとどまり、それらのカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。

(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的の適否
訂正前の請求項10に係る特許発明では、「熱伝導性絶縁シート」について、「前記熱伝導性絶縁膜の断面において、膜断面積100%に対して、断面全体に存在するボイドの占有面積率が20%以下であ」るのを、「前記熱伝導性絶縁膜の断面において、膜断面積100%に対して、断面全体に存在するボイドの占有面積率が9.5〜20%であ」ると限定することで、特許請求の範囲を減縮しようとするものである。
よって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 新規事項の有無
訂正事項2は、明細書の段落0112の表2の実施例6に、熱伝導性絶縁膜の断面において、膜断面積100%に対して、断面全体に存在するボイドの占有面積率が9.5%であることが記載されているから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項2は、訂正後の請求項10に係る発明並びに訂正後の請求項10を引用する訂正後の請求項11に係る発明の技術的範囲を狭めるものであるにとどまり、それらのカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。

(3)特許出願の際に独立して特許を受けることができること
本件においては、訂正前の全ての請求項1ないし11に係る特許が特許異議の申立ての対象とされているため、訂正事項1及び2に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。

(4)一群の請求項について
訂正事項1及び2に係る訂正前の請求項1ないし11について、訂正前の請求項2ないし11は直接又は間接的に訂正前の請求項1を引用するものであって、訂正事項1及び2によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1ないし11は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項に該当する。
よって、本件訂正請求は、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。

3 小且
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合し、また、同法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の規定に適合する。また、本件訂正請求は、同法第120条の5第4項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−11〕について訂正することを認める。

第3 訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1ないし11に係る発明(以下、順に「本件発明1」ないし「本件発明11」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1ないし11に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
熱伝導性絶縁フィラー(F)と熱硬化性樹脂であるバインダー樹脂(R)の未硬化物および/または半硬化物とを含有し、25μm以上の厚みを有する熱伝導性絶縁シートであって、
熱伝導性絶縁フィラー(F)およびバインダー樹脂(R)の合計体積100%中、熱伝導性絶縁フィラー(F)の占有体積率が40%よりも多く、
前記熱伝導性絶縁シートの断面において、シート断面積100%に対して、断面全体に存在するボイドの占有面積率が12.7〜30%であり、前記熱伝導性絶縁シートの厚みが80μm以上であるとき、前記熱伝導性絶縁シートの両方の表面から20μm以内の表面近傍領域に存在するボイドの占有面積率が8%以下であり、前記熱伝導性絶縁シートの厚みが25μm以上80μm未満であるとき、前記熱伝導性絶縁シートの両方の表面から10μm以内の表面近傍領域に存在するボイドの占有面積率が8%以下である、熱伝導性絶縁シート。
【請求項2】
熱伝導性絶縁フィラー(F)は、窒化ホウ素を除く熱伝導性球状フィラー(F1)と窒化ホウ素フィラー(F2)とを含む、請求項1に記載の熱伝導性絶縁シート。
【請求項3】
熱伝導性球状フィラー(F1)は、アルミナおよび窒化アルミニウムからなる群より選ばれ、窒化ホウ素フィラー(F2)は、鱗片状の一次粒子、および鱗片状の一次粒子を造粒した造粒体からなる群より選ばれる、請求項2に記載の熱伝導性絶縁シート。
【請求項4】
窒化ホウ素フィラー(F2)は、平均一次粒子径が0.1〜15μmの窒化ホウ素粒子を造粒してなる、平均粒子径が2〜100μm、圧縮変形率10%に要する平均圧縮力が5mN以下の窒化ホウ素凝集体を含む、請求項2または3に記載の熱伝導性絶縁シート。
【請求項5】
熱伝導性球状フィラー(F1)とバインダー樹脂(R)の未硬化物および/または半硬化物とを含有し、窒化ホウ素フィラー(F2)を含有し得る複数の層(A)と、窒化ホウ素フィラー(F2)とバインダー樹脂(R)の未硬化物および/または半硬化物とを含有し、熱伝導性球状フィラー(F1)を含有し得る1層以上の層(B)とを有し、複数の層(A)と1層以上の層(B)とは、層(B)が最外層には位置しないように交互に積層されたものであり、下記条件(1)〜(3)を充足する、請求項2〜4のいずれか1項に記載の熱伝導性絶縁シート。
(1)複数の層(A)のうち最も外側に位置する最外層(Aout)に含まれ得る熱伝導性球状フィラー(F1)の質量が、層(B)に含まれ得る熱伝導性球状フィラー(F1)の質量よりも相対的に多い。
(2)最外層(Aout)中の熱伝導性球状フィラー(F1)と窒化ホウ素フィラー(F2)とを合わせた占有体積率が、最外層(Aout)中における熱伝導性球状フィラー(F1)、窒化ホウ素フィラー(F2)、およびバインダー樹脂(R)の合計体積100%中、50%よりも多い。
(3)層(B)は、熱伝導性球状フィラー(F1)と窒化ホウ素フィラー(F2)とバインダー樹脂(R)との合計100質量%中、窒化ホウ素フィラー(F2)を30〜90質量%含む。
【請求項6】
熱伝導性球状フィラー(F1)と未硬化のバインダー樹脂(R)とを含有し、窒化ホウ素フィラー(F2)を含有し得る複数のシート(A’)と、窒化ホウ素フィラー(F2)と未硬化のバインダー樹脂(R)とを含有し、熱伝導性球状フィラー(F1)を含有し得る1層以上のシート(B’)とが、シート(B’)が最外層とはならないように交互に積層され加圧された未硬化または半硬化の積層加圧シートであり、下記条件(1)〜(3)を充足する、請求項5に記載の熱伝導性絶縁シート。
(1)シート(A’)は、熱伝導性球状フィラー(F1)と窒化ホウ素フィラー(F2)とバインダー樹脂(R)との合計100質量%中、熱伝導性球状フィラー(F1)を30〜90質量%、窒化ホウ素フィラー(F2)を0〜30質量%含み、熱伝導性球状フィラー(F1)、窒化ホウ素フィラー(F2)、およびバインダー樹脂(R)の合計体積100%中、熱伝導性球状フィラー(F1)と窒化ホウ素フィラー(F2)とを合わせた占有体積率が50%よりも多い。
(2)シート(B’)は、熱伝導性球状フィラー(F1)と窒化ホウ素フィラー(F2)とバインダー樹脂(R)との合計100質量%中、窒化ホウ素フィラー(F2)を30〜90質量%含み、熱伝導性球状フィラー(F1)を0〜30質量%含む。
(3)シート(A’)に含まれる熱伝導性球状フィラー(F1)の量が、シート(B’)に含まれる熱伝導性球状フィラー(F1)の量よりも相対的に多い。
【請求項7】
前記熱硬化性樹脂は、熱硬化性ポリウレタン樹脂および熱硬化性ポリアミド樹脂からなる群より選ばれる、請求項1〜6のいずれか1項に記載の熱伝導性絶縁シート。
【請求項8】
シート全体の空隙率が0.3以下である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の熱伝導性絶縁シート。
【請求項9】
熱を発生し得る部材と放熱ベース基板とが、請求項1〜8のいずれか1項に記載の熱伝導性絶縁シートの加熱加圧物からなる熱伝導性絶縁膜を介して接合され、
前記熱伝導性絶縁膜は、バインダー樹脂(R)の硬化物と熱伝導性絶縁フィラー(F)とを含む、複合部材。
【請求項10】
前記熱伝導性絶縁膜の断面において、膜断面積100%に対して、断面全体に存在するボイドの占有面積率が9.5〜20%であり、前記熱伝導性絶縁シートの厚みが80μm以上であるとき、前記熱伝導性絶縁膜の両方の表面から20μm以内の表面近傍領域に存在するボイドの占有面積率が5%以下であり、前記熱伝導性絶縁シートの厚みが25μm以上80μm未満であるとき、前記熱伝導性絶縁膜の両方の表面から10μm以内の表面近傍領域に存在するボイドの占有面積率が5%以下である、請求項9に記載の複合部材。
【請求項11】
前記熱伝導性絶縁膜全体の空隙率が0.2以下である、請求項9または10に記載の複合部材。」

第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
訂正前の請求項1ないし11に係る特許に対して、当審が令和4年1月17日に特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

(1)(新規性)本件特許の請求項1及び8に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された引用文献1(特開2012−39066号公報)及び引用文献3(特開2013−177565号公報)並びに引用文献4(特開2012−49496号公報)に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1及び8に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。

(2)(新規性)本件特許の請求項9ないし11に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された引用文献4に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項9ないし11に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。

(3)(進歩性)本件特許の請求項1に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された引用文献1、3又は4に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(4)(進歩性)本件特許の請求項2ないし4に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された引用文献2及び3に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項2ないし4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(5)(進歩性)本件特許の請求項7ないし11に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された引用文献1ないし4に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項7ないし11に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

2 引用文献の記載と引用発明等
(1)引用文献1について
引用文献1(特開2012−39066号公報 異議申立書の甲第1号証)には、図面とともに次の記載がある。(下線は当審で付した。以下同じ。)

「【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性シート、詳しくは、パワーエレクトロニクス技術に用いられる熱伝導性シートに関する。」

「【0004】
特許文献1の熱伝導性シートでは、窒化ホウ素粉末は、その長軸方向(窒化ホウ素粉末の板厚に直交する方向)が、シートの厚み方向に沿うように配向されており、これによって、熱伝導性シートの厚み方向の熱伝導性を向上させている。」

「【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の熱伝導性シートは、窒化ホウ素粒子を含有している。
【0014】
具体的には、熱伝導性シートは、窒化ホウ素(BN)粒子を必須成分として含有し、さらに、例えば、樹脂成分を含有している。
【0015】
窒化ホウ素粒子は、板状(あるいは鱗片状)に形成されており、熱伝導性シートにおいて所定方向(後述)に配向された形態で分散されている。
【0016】
窒化ホウ素粒子は、長手方向長さ(板の厚み方向に対する直交方向における最大長さ)の平均が、例えば、1〜100μm、好ましくは、3〜90μmである。また、窒化ホウ素粒子の長手方向長さの平均は、5μm以上、好ましくは、10μm以上、さらに好ましくは、20μm以上、とりわけ好ましくは、30μm以上、最も好ましくは、40μm以上であり、通常、例えば、100μm以下、好ましくは、90μm以下である。
【0017】
また、窒化ホウ素粒子の厚み(板の厚み方向長さ、つまり、粒子の短手方向長さ)の平均は、例えば、0.01〜20μm、好ましくは、0.1〜15μmである。
【0018】
また、窒化ホウ素粒子のアスペクト比(長手方向長さ/厚み)は、例えば、2〜10000、好ましくは、10〜5000である。
【0019】
そして、窒化ホウ素粒子の光散乱法によって測定される平均粒子径は、例えば、5μm以上、好ましくは、10μm以上、さらに好ましくは、20μm以上、とりわけ好ましくは、30μm以上、最も好ましくは、40μm以上であり、通常、100μm以下である。
【0020】
なお、光散乱法によって測定される平均粒子径は、動的光散乱式粒度分布測定装置にて測定される体積平均粒子径である。
【0021】
窒化ホウ素粒子の光散乱法によって測定される平均粒子径が上記範囲に満たないと、熱伝導性シートが脆くなり、取扱性が低下する場合がある。
・・・中 略・・・
【0024】
樹脂成分は、窒化ホウ素粒子を分散できるもの、つまり、窒化ホウ素粒子が分散される分散媒体(マトリックス)であって、例えば、熱硬化性樹脂成分、熱可塑性樹脂成分などの樹脂成分が挙げられる。
【0025】
熱硬化性樹脂成分としては、例えば、エポキシ樹脂、熱硬化性ポリイミド、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、シリコーン樹脂、熱硬化性ウレタン樹脂などが挙げられる。」

「【0086】
得られた熱伝導性シート1の厚みは、例えば、1mm以下、好ましくは、0.8mm以下、通常、例えば、0.05mm以上、好ましくは、0.1mm以上である。」

「【0103】
熱伝導性シート1における空隙率Pは、例えば、30体積%以下であり、好ましくは、10体積%以下である。」

「【実施例】
【0132】
以下に実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、何ら実施例に限定されない。
【0133】
実施例1
PT−110(商品名、板状の窒化ホウ素粒子、平均粒子径(光散乱法)45μm、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン社製)13.42gと、JER828(商品名、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、液状、エポキシ当量184〜194g/eqiv.、軟化温度(環球法)25℃未満、溶融粘度(80℃)70mPa・s、ジャパンエポキシレジン社製)1g、および、EPPN−501HY(商品名、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、固形状、エポキシ当量163〜175g/eqiv.、軟化温度(環球法)57〜63℃、日本化薬社製)2gと、硬化剤(キュアゾール2PZ(商品名、四国化成社製)の5質量%メチルエチルケトン溶液)3g(固形分0.15g)(エポキシ樹脂であるJER828およびEPPN−501HYの総量に対して5質量%)とを配合して攪拌し、室温(23℃)で1晩放置して、メチルエチルケトン(硬化剤の分散媒)を揮発させて、半固形状の混合物を調製した。
【0134】
なお、上記の配合において、硬化剤を除く固形分(つまり、窒化ホウ素粒子と、エポキシ樹脂との固形分)の総体積に対する窒化ホウ素粒子の体積百分率(体積%)は、70体積%であった。
【0135】
次いで、得られた混合物をシリコーン処理した2枚の離型フィルムで挟み込み、それらを真空加熱プレス機によって、80℃、10Paの雰囲気(真空雰囲気)下、5トンの荷重(20MPa)で、2分間、熱プレスすることにより、厚み0.3mmのプレスシートを得た(図2(a)参照)。
【0136】
その後、得られたプレスシートを、プレスシートの厚み方向に投影したときに、複数個に分割されるように切断することにより分割シートを得(図2(b)参照)、続いて、分割シートを厚み方向に積層して積層シートを得た(図2(c)参照)。
【0137】
続いて、得られた積層シートを、上記と同様の真空加熱プレス機によって、上記と同様の条件で熱プレスした(図2(a)参照)。
【0138】
次いで、上記した切断、積層および熱プレスの一連の操作(図2参照)を、4回繰り返して、厚み0.3mmの熱伝導性シート(Bステージ)を得た。
【0139】
その後、得られた熱伝導性シートを、真空加熱プレス機によって、150℃、10Paの雰囲気(真空雰囲気)下、5トンの荷重(20MPa)で、60分間熱プレスすることによって、熱硬化させた。
【0140】
実施例2〜9および11〜16
表1〜表3の配合処方および製造条件に準拠して、実施例1と同様に処理して、熱伝導性シートを得た。
【0141】
実施例10
表2の配合処方に準拠して、各成分(窒化ホウ素粒子およびポリエチレン)を配合して攪拌することにより、混合物を調製した。すなわち、各成分の攪拌では、130℃に加熱して、ポリエチレンを溶融させた。
【0142】
次いで、得られた混合物をシリコーン処理した2枚の離型フィルムで挟み込み、それらを真空加熱プレス機によって、120℃、10Paの雰囲気(真空雰囲気)下、1トンの荷重(4MPa)で、2分間、熱プレスすることにより、厚み0.3mmのプレスシートを得た(図2(a)参照)。
【0143】
その後、得られたプレスシートを、プレスシートの厚み方向に投影したときに、複数個に分割されるように切断することにより分割シートを得(図2(b)参照)、続いて、分割シートを厚み方向に積層して積層シートを得た(図2(c)参照)。
【0144】
続いて、得られた積層シートを、上記と同様の真空加熱プレス機によって、上記と同様の条件で熱プレスした(図2(a)参照)。
【0145】
次いで、上記した切断、積層および加圧の一連の操作(図2参照)を、4回繰り返すことにより、厚み0.3mmの熱伝導性シートを得た。
【0146】
(評価)
1.熱伝導率
実施例1〜16により得られた熱伝導性シートについて、熱伝導率を測定した。
【0147】
すなわち、面方向(SD)における熱伝導率を、キセノンフラッシュアナライザー「LFA−447型」(NETZSCH社製)を用いるパルス加熱法により測定した。
【0148】
その結果を表1〜表3に示す。
2.吸水率
実施例1〜16により得られた熱伝導性シートについて、吸水率を測定した。
【0149】
なお、熱伝導性シートの密度を表1〜表3に示す。
【0150】
熱伝導性シート1を50×50mmの大きさに加工して、これをサンプルとし、サンプルを真空乾燥機中で、120℃、3時間乾燥させ、デシケータ中で放冷後、乾燥質量を測定しM1とした。
【0151】
その後、サンプルを蒸留水に室温で24時間浸漬してから取り出し、サンプル表面をろ紙でふきとり、すばやく秤量してM2とし、下記式により、吸水率を算出した。
【0152】
[(M2−M1)/(M1/d)]×100=吸水率(体積%)
その結果を表1〜表3に示す。
3.空隙率(P)
実施例1〜16の熱硬化前の熱伝導性シートの空隙率(P1)を下記の測定方法により測定した。
【0153】
空隙率の測定方法:まず、熱伝導性シートを厚み方向に沿ってクロスセクションポリッシャー(CP)により切断加工して、それにより現れる断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)で、200倍で観察して、像を得た。その後、得られた像から、空隙部分と、それ以外の部分とを二値化処理し、次いで、熱伝導性シート全体の断面積に対する空隙部分の面積比を算出した。
【0154】
その結果を表1〜表3に示す。
4.段差追従性(3点曲げ試験)
実施例1〜16の熱硬化前の熱伝導性シートについて、下記試験条件における3点曲げ試験を、JIS K7171(2008年)に準拠して、実施することにより、段差追従性を下記の評価基準に従って評価した。その結果を表1〜表3に示す。」

「【0159】
【表1】

【0160】
【表2】

【0161】
【表3】

【0162】
表1〜表3における各成分中の数値は、特段の記載がない場合には、g数を示す。
【0163】
なお、表1〜表3の窒化ホウ素粒子の欄において、上段の数値は、窒化ホウ素粒子の配合質量(g)であり、中段の数値は、熱伝導性シートにおいて硬化剤を除く固形分(つまり、窒化ホウ素粒子と、エポキシ樹脂またはポリエチレンとの固形分)の総体積に対する窒化ホウ素粒子の体積百分率(体積%)であり、下段の数値は、熱伝導性シートの固形分(つまり、窒化ホウ素粒子と、エポキシ樹脂および硬化剤との固形分)の総体積に対する窒化ホウ素粒子の体積百分率(体積%)である。
【0164】
また、表1〜表3の各成分中、※印を付した成分について、以下にその詳細を記載する。
PT−110※1:商品名、板状の窒化ホウ素粒子、平均粒子径(光散乱法)45μm、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン社製
UHP−1※2:商品名:ショービーエヌUHP−1、板状の窒化ホウ素粒子、平均粒子径(光散乱法)9μm、昭和電工社製
エポキシ樹脂A※3:オグソールEG(商品名)、ビスアリールフルオレン型エポキシ樹脂、半固形状、エポキシ当量294g/eqiv.、軟化温度(環球法)47℃、溶融粘度(80℃)1360mPa・s、大阪ガスケミカル社製
エポキシ樹脂B※4:JER828(商品名)、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、液状、エポキシ当量184〜194g/eqiv.、軟化温度(環球法)25℃未満、溶融粘度(80℃)70mPa・s、ジャパンエポキシレジン社製
エポキシ樹脂C※5:JER1002(商品名)、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、固形状、エポキシ当量600〜700g/eqiv.、軟化温度(環球法)78℃、溶融粘度(80℃)10000mPa・s以上(測定限界以上)、ジャパンエポキシレジン社製
エポキシ樹脂D※6:EPPN−501HY(商品名)、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、固形状、エポキシ当量163〜175g/eqiv.、軟化温度(環球法)57〜63℃、日本化薬社製
硬化剤※7:キュアゾール2PZ(商品名、四国化成社製)の5質量%メチルエチルケトン溶液
硬化剤※8:キュアゾール2P4MHZ−PW(商品名、四国化成社製)の5質量%メチルエチルケトン分散液
ポリエチレン※9:低密度ポリエチレン、重量平均分子量(Mw)4000、数平均分子量(Mn)1700、融点100℃〜105℃、Aldrich社製」

上記表1〜3には、実施例1、3、4、6〜8、11、15,16の、窒化ホウ素粒子の熱伝導性シートの固形分の総体積に対する体積百分率が48.8〜69.0体積%であり、熱伝導性シート全体の断面積に対する空隙部分の面積比が0〜8体積%であることが記載されている。

よって、引用文献1の実施例1、3、4、6〜8、11、15,16として、以下の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている。

「熱硬化前の熱伝導性シートであって、
熱伝導性を向上させる鱗片状に形成された窒化ホウ素粒子と熱硬化前のエポキシ樹脂を含み、
厚みが0.3mmであり、
窒化ホウ素粒子の熱伝導性シートの固形分の総体積に対する体積百分率が48.8〜69.0体積%であり、
熱伝導性シート全体の断面積に対する空隙部分の面積比が0〜8体積%である、
熱伝導性シート。」

なお、上記段落【0025】には、以下の事項(以下、「引用文献1記載事項1」という。)が記載されている。

「熱伝導性シートの熱硬化性樹脂成分として、エポキシ樹脂、熱硬化性ウレタン樹脂が挙げられること。」

また、上記段落【0086】には、以下の事項(以下、「引用文献1記載事項2」という。)が記載されている。

「(熱硬化前の)熱伝導性シートの厚みを0.05mm以上とすること。」

(2)引用文献2について
引用文献2(特許第6135817号公報 異議申立書の甲第2号証)には、次の記載がある。

「【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性と絶縁性とを高レベルで満足する熱伝導性絶縁シートとその製造方法に関する。」

「【0027】
[熱伝導性球状フィラー]
本発明において球状であるとは、例えば、「円形度」であらわすことができ、この円形度とは、粒子をSEM等で撮影した写真をから任意の数の粒子を選び、粒子の面積をS、周囲長をLとしたとき、(円形度)=4πS/L2として表すことができる。円形度を測定するには、各種画像処理ソフト、または画像処理ソフトを搭載した装置を使用することができるが、本発明では、東亜医用電子(株)製フロー式粒子像分析装置FPIA−1000を用いて粒子の平均円形度を測定した際の平均円形度が0.9〜1のものをいう。好ましくは、平均円形度が0.96〜1である。
【0028】
熱伝導性球状フィラーは、窒化ホウ素以外のものであって、熱伝導性を有していればよく、例えば、アルミナ、酸化カルシウム、酸化マグネシウム等の金属酸化物、窒化アルミニウム等の金属窒化物、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の炭酸金属塩、ケイ酸カルシウム等のケイ酸金属塩、水和金属化合物、結晶性シリカ、非結晶性シリカ、炭化ケイ素またはこれらの複合物等が挙げられる。これらは、1種類でもよいし複数の種類を併用することもできる。
球形度、熱伝導性、絶縁性の観点からアルミナまたは窒化アルミニウムの少なくとも一方であることが望ましい。
【0029】
熱伝導性球状フィラーの大きさは、特に制限されないが、熱伝導性の観点から、平均粒子径10μm〜100μmの範囲であることが好ましい。さらに好ましくは、平均粒子径10μm〜50μmの範囲であると良い。フィラーの平均粒子径が10μmよりも小さいと熱伝導性を発現するために必要な充填量が増えるが、その際、比表面積が大きいために空隙ができやすくなり、絶縁性を損なう恐れがある。また、平均粒子径が100μmを超えると、熱伝導性は有利になるが、塗液中で沈降するなど塗工の際の不具合を生じる可能性がある。
【0030】
[窒化ホウ素]
本発明では種々の窒化ホウ素を用いることができ、例えば、鱗片状、凝集体、造粒体等を使用することができる。窒化ホウ素は熱伝導性に異方性を有するため、鱗片状の一次粒子を造粒した造粒窒化ホウ素が好適に用いられる。しかし、変形しにくい造粒窒化ホウ素では圧力をかけても空隙が残りやすいため、特に、易変形性造粒窒化ホウ素を用いることが好ましい。
【0031】
本発明でいう易変形性造粒窒化ホウ素とは、平均一次粒子径が0.1〜15μmの窒化ホウ素を造粒してなる、平均粒子径が2〜100μm、圧縮変形率10%に要する平均圧縮力が5mN以下の窒化ホウ素の凝集体である。
易変形性造粒窒化ホウ素は、熱伝導性絶縁シートを形成する際の圧力を調整し、変形を適度な範囲に調整することで、空隙率の低下と熱伝導性を両立することが容易であるため好適に用いられる。
【0032】
本発明において「一次粒子」とは、単独で存在することができる最小粒子を表し、「平均一次粒子径」とは、走査型電子顕微鏡で観察される一次粒子径の長径を意味する。「一次粒子径の長径」とは、球状粒子については一次粒子の最大直径を意味し、六角板状または円板状粒子については、それぞれ厚み方向から観察した粒子の投影像における最大直径または最大対角線長を意味する。具体的に「平均一次粒子径」は、300個の粒子の長径を上記方法により測定し、その個数平均として算出する。
圧縮変形率10%に要する平均圧縮力は、微小圧縮試験機(株式会社島津製作所製、MCT−210)を用い、測定領域内で無作為に選んだ10個の粒子について、粒子を10%変形させるための荷重を測定し、求めることができる。
【0033】
[バインダー樹脂]
本発明で使用されるバインダー樹脂は、特に限定されず、例えば、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエステルウレタン樹脂、アルキッド樹脂、ブチラール樹脂、アセタール樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、スチレン−アクリル樹脂、スチレン樹脂、ニトロセルロース、ベンジルセルロース、セルロース(トリ)アセテート、カゼイン、シェラック、ギルソナイト、ゼラチン、スチレン−無水マレイン酸樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、エチレン酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体樹脂、塩化ビニル/酢酸ビニル/マレイン酸共重合体樹脂、フッ素樹脂、シリコン樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、フェノール樹脂、マレイン酸樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、ケトン樹脂、石油樹脂、ロジン、ロジンエステル、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルエチルセルロース、カルボキシメチルニトロセルロース、エチレン/ビニルアルコール樹脂、ポリオレフィン樹脂、塩素化ポリオレフィン樹脂、変性塩素化ポリオレフィン樹脂、および塩素化ポリウレタン樹脂等が挙げられる。バインダー樹脂は、1種または2種以上を用いることができる。
【0034】
上記の中でも、柔軟性の観点からはウレタン系樹脂もしくはポリアミド樹脂が好適に用いられ、電子部品として用いる際の絶縁性および耐熱性等の観点からはエポキシ系樹脂が好適に用いられる。
【0035】
バインダー樹脂としては、バインダー樹脂自体硬化するか、もしくは適当な硬化剤との反応により硬化するものを用いることができる。
【0036】
バインダー樹脂に反応基としてカルボキシル基、アミノ基、フェノール性水酸基等を有する場合、これと反応し得る硬化剤として2官能以上の、エポキシ基含有化合物、イソシアネート基含有化合物、カルボジイミド基含有化合物、金属キレート、金属アルコキシドおよび金属アシレート等を含んでもよい。
【0037】
本発明の熱伝導性絶縁シートは、熱発生源と放熱部材との間に挟まれ使用される。そのため、熱発生源から生じた熱を効率的に放熱部材に伝え、さらに十分な絶縁性を確保するために空隙率は0.2以下であることが必要であり、さらに0.15以下であることが望ましい。空隙率が0.2を超えると十分な絶縁性が得られなかったり、シートの凝集力が低下し機械的強度や接着力が低下したり、空気・水分がシート内部に侵入したりしやすくなり耐久性が低下する恐れがある。」

上記段落【0028】には、以下の事項(以下、「引用文献2記載事項1」という。)が記載されている。

「熱伝導性絶縁シートに用いられる熱伝導性球状フィラーとして、アルミナ、結晶性シリカ、非結晶性シリカ、炭化ケイ素が挙げられること。」

また、上記段落【0030】、【0031】には、以下の事項(以下、「引用文献2記載事項2」という。)が記載されている。

「熱伝導性絶縁シートに用いられる鱗片状窒化ホウ素粒子として、鱗片状,凝集体および造粒体が用いられ、鱗片状の一次粒子を造粒した造粒窒化ホウ素が好適であり、また易変形性造粒窒化ホウ素として、平均一次粒子径が0.1〜15μmの窒化ホウ素を造粒してなる、平均粒子径が2〜100μm、圧縮変形率10%に要する平均圧縮力が5mN以下の窒化ホウ素の凝集体が用いられること。」

さらに、上記段落【0033】には、以下の事項(以下、「引用文献2記載事項3」という。)が記載されている。

「熱伝導性絶縁シートに用いられるバインダー樹脂として、ポリウレタン樹脂およびポリアミド樹脂が挙げられること。」

(3)引用文献3
引用文献3(特開2013−177565号公報 異議申立書の甲第3号証)には、図面とともに次の記載がある。

「【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性シートの製造方法、詳しくは、パワーエレクトロニクス技術に用いられる熱伝導性シートの製造方法に関する。」

「【0025】
<原料調製工程>
原料成分は、窒化ホウ素粒子およびポリマーマトリクスを含有する。
【0026】
窒化ホウ素粒子は、板状(あるいは鱗片状)に形成されている。また、板状は、アスペクト比のある平板状の形状を少なくとも含んでいればよく、板の厚み方向から見て円板状、および、六角形平板状を含んでいる。また、板状は、多層に積層されていてもよく、積層されている場合には、大きさの異なる板状の構造を積層して段状になっている形状、および、端面が劈開した形状を含んでいる。また、板状は、板の厚み方向と直交する方向(面方向)から見て直線形状(図3参照)、さらには、直線形状の途中がやや屈曲する形状を含んでいる。
【0027】
窒化ホウ素粒子は、体積比で60%以上を占める粒子の長手方向長さ(板の厚み方向に対する直交方向における最大長さ)の平均が、例えば、5μm以上、好ましくは、10μm以上、さらに好ましくは、20μm以上、とりわけ好ましくは、30μm以上、最も好ましくは、40μm以上であり、また、例えば、例えば、300μm以下である。
【0028】
また、窒化ホウ素粒子の体積比で60%以上を占める粒子の厚み(板の厚み方向長さ、つまり、粒子の短手方向長さ)の平均は、例えば、0.01μm以上、好ましくは、0.1μm以上であり、また、例えば、20μm以下、好ましくは、15μm以下である。
【0029】
また、窒化ホウ素粒子の体積比で60%以上を占める粒子のアスペクト比(長手方向長さ/厚み)は、例えば、2以上、好ましくは、3以上、より好ましくは、4以上であり、また、例えば、10,000以下、好ましくは、5,000以下、さらに好ましくは、2,000以下である。
【0030】
窒化ホウ素粒子の形態、厚み、長手方向の長さおよびアスペクト比は、画像解析的手法により測定および算出される。例えば、SEM、X線CT、粒度分布画像解析法などにより求めることができる。
【0031】
そして、窒化ホウ素粒子は、光散乱法によって測定される平均粒子径が、例えば、5μm以上、好ましくは、10μm以上、さらに好ましくは、20μm以上、とりわけ好ましくは、30μm以上、最も好ましくは、40μm以上であり、また、例えば、200μm以下である。
【0032】
なお、光散乱法によって測定される平均粒子径は、動的光散乱式粒度分布測定装置を用いる動的光散乱法にて測定される体積平均粒子径である。
【0033】
窒化ホウ素粒子の光散乱法によって測定される平均粒子径が上記範囲に満たないと、同じ体積の窒化ホウ素粒子を混合した場合でも熱伝導率が低下する場合がある。
【0034】
また、窒化ホウ素粒子の嵩密度(JIS K 5101、見かけ密度)は、例えば、0.1g/cm3以上、好ましくは、0.15g/cm3以上、さらに好ましくは、0.2g/cm3以上、とりわけ好ましくは、0.2g/cm3であり、また、例えば、2.3g/cm3以下、好ましくは、2.0g/cm3以下、より好ましくは、1.8g/cm3以下、さらに好ましくは、1.5g/cm3以下である。
【0035】
また、窒化ホウ素粒子は、市販品またはそれを加工した加工品を用いることができる。窒化ホウ素粒子の市販品としては、例えば、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン社製の「PT」シリーズ(例えば、「PT−110」など)、昭和電工社製の「ショービーエヌUHP」シリーズ(例えば、「ショービーエヌUHP−1」など)などが挙げられる。
【0036】
また、原料成分は、上記した窒化ホウ素粒子以外に、他の無機微粒子を含でいてもよい。他の無機微粒子としては、例えば、炭化ケイ素などの炭化物、例えば、窒化ケイ素などの窒化物(窒化ホウ素を除く)、例えば、酸化ケイ素(シリカ)、酸化アルミニウム(アルミナ)などの酸化物、例えば、銅、銀などの金属、例えば、カーボンブラックなどの炭素系粒子が挙げられる。他の無機微粒子は、例えば難燃性能や畜冷性能、帯電防止性能、磁性、屈折率調節性能、誘電率調節性能などを有する機能性の粒子であってもよい。
【0037】
また、原料成分は、例えば、上記した窒化ホウ素粒子に含まれない微細な窒化ホウ素や異形状の窒化ホウ素粒子を含んでいてもよい。
【0038】
これらの他の無機微粒子は、適宜の割合で、単独使用または2種以上併用することができる。
【0039】
ポリマーマトリクスとしては、例えば、熱硬化性樹脂成分、熱可塑性樹脂成分、ゴム成分などのポリマー成分が挙げられる。
【0040】
熱硬化性樹脂成分としては、例えば、エポキシ樹脂、熱硬化性ポリイミド、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、シリコーン樹脂、熱硬化性ウレタン樹脂などが挙げられる。」

「【0162】
また、熱伝導性シート100には、図7が参照されるように、例えば、空隙(隙間)28が形成される場合がある。
【0163】
熱伝導性シート100における空隙28の割合、すなわち、空隙率Pは、例えば、3.0体積%以下であり、好ましくは、2.5体積%以下、より好ましくは、2.0体積%以下であり、さらに好ましくは、1.5体積%以下であり、また、例えば、0体積%以上である。
【0164】
上記した空隙率Pは、例えば、窒化ホウ素粒子の理論密度を2.28g/cm3、ポリマーマトリクスの理論密度を1.2g/cm3と仮定して理論密度算出(ρA、1.956g/cm3)して、さらに、熱伝導性シート100を直径25mmのポンチで型抜きした際の厚みと切片の面積、重さから算出した密度ρBを算出する。次いで、上述で測定、算出した密度より、空隙率P=100×(ρB/ρA)を算出する。
【0165】
また、空隙率Pは、例えば、まず、熱伝導性シート100を厚み方向に沿ってクロスセクションポリッシャー(CP)により切断加工して、それにより現れる断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)で、200倍で観察して、像を得、得られた像から、空隙28部分と、それ以外の部分とを二値化処理し、次いで、熱伝導性シート100全体の断面積に対する空隙28部分の面積比を算出することにより測定される。
【0166】
空隙率Pの測定には、Bステージ(半硬化)状態の熱伝導性シート100が用いられる。」

「【0225】
×:直径10mmのマンドレルで屈曲すると、破断を生じた。
(4) 空隙率(P)
各実施例および各比較例のBステージ状態の熱伝導性シートの空隙率(P)を下記の測定方法により測定した。
【0226】
空隙率の測定方法:まず、熱伝導性シートの体積と重量を測定し、密度を算出した。さらに、窒化ホウ素粒子の密度を2.28g/cm3、樹脂の密度を1.2g/cm3と仮定し、熱伝導性シートの理論密度を算出した(70vol%のとき、1.956g/cm3)。
【0227】
その結果を、表1〜表6に示す。
(5)複素剪断粘度(複素粘性率:η*)
実施例および比較例における処方を、処方1〜処方3に分類し、各処方における熱伝導性シートの複素剪断粘度(複素粘性率)を、JIS K7244−10(2005年)に準拠し、周波数10Hz、昇温速度2℃/分の剪断モードの動的粘弾性測定によって、測定した。」

「【0229】
<各実施例および各比較例における処方、成形条件、熱伝導性シートの物性>
表の窒化ホウ素粒子の欄において、上段の数値は、窒化ホウ素粒子の配合質量(g)であり、下段の括弧内の数値は、熱伝導性シートに対する窒化ホウ素粒子の体積百分率(体積%)である。
【0230】
また、表1〜表6中、略号を以下で詳述する。
【0231】
PT−110:商品名、板状の窒化ホウ素粒子、平均粒子径(光散乱法)45μm、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン社製
EG−200:商品名「オグソールEG−200」、ビスアリールフルオレン型エポキシ樹脂、半固形状、エポキシ当量292g/eqiv.、常温半固形状、大阪ガスケミカル社製
EXA−1000:商品名「エピクロンEXA−4850−1000」、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量310〜370g/eqiv.、常温液体状、粘度(25℃)100,000mPa・s、DIC社製
HP−7200:商品名「エピクロンHP−7200」、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、エポキシ当量254〜264g/eqiv.、常温固形状、軟化点56〜66℃、DIC社製
MEH−7800−SS:商品名、フェノール・アラルキル樹脂、硬化剤、水酸基当量173〜177g/eqiv.、明和化成社製
2P4MHZ−PW:商品名「キュアゾール2P4MHZ−PW」(硬化剤、イミダゾール化合物、四国化成社製)の5質量%メチルエチルケトン分散液
SG−P3(15mass% MEK溶液):商品名「テイサンレジン SG−P3」、エポキシ変性したアクリル酸エチル−アクリル酸ブチル−アクリロニトリル共重合体、溶媒:メチルエチルケトン、ゴム成分の含有割合15質量%、重量平均分子量850,000、エポキシ当量210eqiv./g、理論ガラス転移温度12℃、ナガセケムテックス社製
2MAOK−PW:2,4−ジアミノ−6−[2’−メチルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジンイソシアヌル酸付加物、硬化促進剤、四国化成社製
TP03:商品名「パナピールTP−03」、PET製離型シート、厚み188μm、PANAC社製
MRF38:商品名「ダイヤホイルMRF38」、PET製離型シート、厚み38μm、三菱化学ポリエステル製社製
【0232】
【表1】

【0233】
【表2】



上記記載から、引用文献3の実施例1〜10には、以下の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されている。

「Bステージ(半硬化)状態の熱伝導性シートであって、
鱗片状の窒化ホウ素粒子とエポキシ樹脂を含み、
厚みが172〜271μmであり、
熱伝導性シートに対する窒化ホウ素粒子の体積百分率(体積%)が70体積%であり、
伝導性シート全体の断面積に対する空隙部分の面積比が0.0〜2.9体積%である、
熱伝導性シート。」

なお、上記段落【0036】には、以下の事項(以下、「引用文献3記載事項1」という。)が記載されている。

「熱伝導性シートの原料成分として、窒化ホウ素粒子およびポリマーマトリクス以外に、炭化ケイ素、酸化ケイ素(シリカ)、酸化アルミニウム(アルミナ)などの無機微粒子を含んでもよいこと。」

また、上記段落【0040】には、以下の事項(以下、「引用文献3記載事項2」という。)が記載されている。

「熱伝導性シートの熱硬化樹脂成分として、エポキシ樹脂、熱硬化性ウレタン樹脂が挙げられること。」

(4)引用文献4について
引用文献4(特開2012−49496号公報 異議申立書の甲第4号証)には、図面とともに次の記載がある。

「【技術分野】
【0001】
本発明は、放熱構造体に関する。」

「【0021】
熱伝導性層6は、シート形状に形成されており、窒化ホウ素粒子を含有している。
【0022】
具体的には、熱伝導性層6は、窒化ホウ素(BN)粒子を必須成分として含有し、さらに、例えば、樹脂成分を含有している。
【0023】
窒化ホウ素粒子は、板状(あるいは鱗片状)に形成されており、熱伝導性層6において所定方向(後述)に配向された形態で分散されている。
【0024】
窒化ホウ素粒子は、長手方向長さ(板の厚み方向に対する直交方向における最大長さ)の平均が、例えば、1〜100μm、好ましくは、3〜90μmである。また、窒化ホウ素粒子の長手方向長さの平均は、5μm以上、好ましくは、10μm以上、さらに好ましくは、20μm以上、とりわけ好ましくは、30μm以上、最も好ましくは、40μm以上であり、通常、例えば、100μm以下、好ましくは、90μm以下である。
【0025】
また、窒化ホウ素粒子の厚み(板の厚み方向長さ、つまり、粒子の短手方向長さ)の平均は、例えば、0.01〜20μm、好ましくは、0.1〜15μmである。
【0026】
また、窒化ホウ素粒子のアスペクト比(長手方向長さ/厚み)は、例えば、2〜10000、好ましくは、10〜5000である。
【0027】
そして、窒化ホウ素粒子の光散乱法によって測定される平均粒子径は、例えば、5μm以上、好ましくは、10μm以上、さらに好ましくは、20μm以上、とりわけ好ましくは、30μm以上、最も好ましくは、40μm以上であり、通常、100μm以下である。
【0028】
なお、光散乱法によって測定される平均粒子径は、動的光散乱式粒度分布測定装置にて測定される体積平均粒子径である。
【0029】
窒化ホウ素粒子の光散乱法によって測定される平均粒子径が上記範囲に満たないと、熱伝導性層6が脆くなり、取扱性が低下する場合がある。
【0030】
また、窒化ホウ素粒子の嵩密度(JIS K 5101、見かけ密度)は、例えば、0.3〜1.5g/cm3、好ましくは、0.5〜1.0g/cm3である。
【0031】
また、窒化ホウ素粒子は、市販品またはそれを加工した加工品を用いることができる。窒化ホウ素粒子の市販品としては、例えば、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン社製の「PT」シリーズ(例えば、「PT−110」など)、昭和電工社製の「ショービーエヌUHP」シリーズ(例えば、「ショービーエヌUHP−1」など)などが挙げられる。
【0032】
樹脂成分は、窒化ホウ素粒子を分散できるもの、つまり、窒化ホウ素粒子が分散される分散媒体(マトリックス)であって、例えば、熱硬化性樹脂成分、熱可塑性樹脂成分などの樹脂成分が挙げられる。
【0033】
熱硬化性樹脂成分としては、例えば、エポキシ樹脂、熱硬化性ポリイミド、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、シリコーン樹脂、熱硬化性ウレタン樹脂などが挙げられる。」

「【0087】
形成された熱伝導性層6の厚みは、例えば、1mm以下、好ましくは、0.8mm以下、通常、例えば、0.05mm以上、好ましくは、0.1mm以上である。」

「【0182】
図6は、本発明の放熱構造体の他の実施形態(熱伝導性接着シートが熱伝導性層からなる態様)の断面図、図7は、図6の放熱構造体を作製するための工程図、図8は、本発明の放熱構造体の他の実施形態(熱伝導性接着シートの他端部が筐体に接触する態様)の断面図、図9は、本発明の放熱構造体の他の実施形態(接着・粘着層が電子部品の上面に接触する態様)の断面図を示す。
【0183】
なお、以降の各図面において、上記した各部に対応する部材については、同一の参照符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0184】
上記した説明では、熱伝導性接着シート5に、接着・粘着層7を設けているが、例えば、図6に示すように、接着・粘着層7を設けることなく、熱伝導性層6から熱伝導性接着シート5を形成することもできる。
【0185】
図6において、電子部品3の側面は、熱伝導性層6と接触している。詳しくは、電子部品3から露出する基板2の上面、および、電子部品3の側面の全部は、熱伝導性層6と接触している。
【0186】
この放熱構造体1を得るには、図7に示すように、フレーム4が支持される筐体(図示せず)に電子部品3が実装されている基板2を固定するともに、熱伝導性接着シート5を用意する。熱伝導性接着シート5は、熱伝導性層6からなる。
【0187】
次いで、図7の仮想線で示すように、熱伝導性接着シート5を屈曲させ、続いて、図7の矢印が参照されるように、熱伝導性接着シート5の中央部および一端部を、電子部品3および基板2に熱圧着するとともに、熱伝導性接着シート5の他端部をフレーム4に熱圧着する。
【0188】
熱伝導性接着シート5の熱圧着では、樹脂成分9が熱硬化性樹脂成分である場合には、樹脂成分9がBステージ状態となるので、電子部品3の周囲に形成される隙間14が、熱伝導性層6によって充填される。
【0189】
これにより、熱伝導性接着シート5が、基板2とフレーム4とに仮固定される。
【0190】
その後、樹脂成分9が熱硬化性樹脂成分である場合には、熱伝導性層6を熱硬化させる。
【0191】
これにより、熱伝導性層6の中央部および一端部が、電子部品3の上面および側面と、電子部品3から露出する基板2の上面とに接着するとともに、熱伝導性層6の他端部が、フレーム4の右側面に接着する。」

「【実施例】
【0201】
以下に調製例、実施例および作製例を示し、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、何ら実施例に限定されない。
【0202】
(熱伝導性層の調製)
調製例1
PT−110(商品名、板状の窒化ホウ素粒子、平均粒子径(光散乱法)45μm、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン社製)13.42gと、JER828(商品名、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、第1エポキシ樹脂、液状、エポキシ当量184〜194g/eqiv.、軟化温度(環球法)25℃未満、溶融粘度(80℃)70mPa・s、ジャパンエポキシレジン社製)1.0g、および、EPPN−501HY(商品名、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、第2エポキシ樹脂、固形状、エポキシ当量163〜175g/eqiv.、軟化温度(環球法)57〜63℃、日本化薬社製)2.0gと、硬化剤(キュアゾール2P4MHZ−PW(商品名、四国化成社製)の5質量%メチルエチルケトン分散液)3g(固形分0.15g)(エポキシ樹脂であるJER828およびEPPN−501HYの総量に対して5質量%)とを配合して攪拌し、室温(23℃)で1晩放置して、メチルエチルケトン(硬化剤の分散媒)を揮発させて、半固形状の混合物を調製した。
【0203】
なお、上記の配合において、硬化剤を除く固形分(つまり、窒化ホウ素粒子と、エポキシ樹脂との固形分)の総体積に対する窒化ホウ素粒子の体積百分率(体積%)は、70体積%であった。
【0204】
次いで、得られた混合物をシリコーン処理した2枚の離型フィルムで挟み込み、それらを真空加熱プレス機によって、80℃、10Paの雰囲気(真空雰囲気)下、5トンの荷重(20MPa)で、2分間、熱プレスすることにより、厚み0.3mmのプレスシートを得た(図2(a)参照)。
【0205】
その後、得られたプレスシートを、プレスシートの厚み方向に投影したときに、複数個に分割されるように切断することにより分割シートを得(図2(b)参照)、続いて、分割シートを厚み方向に積層して積層シートを得た(図2(c)参照)。
【0206】
続いて、得られた積層シートを、上記と同様の真空加熱プレス機によって、上記と同様の条件で熱プレスした(図2(a)参照)。
【0207】
次いで、上記した切断、積層および熱プレスの一連の操作(図2参照)を、4回繰り返して、厚み0.3mmの熱伝導性層(未硬化状態)を得た(図3参照)。
【0208】
調製例2〜16
表1〜表3の配合割合および製造条件に準拠して、調製例1と同様に処理することにより、熱伝導性層(調製例2〜16)を得た(図3参照)。」

「【0220】
(評価)
1.熱伝導率
調製例1〜16の熱伝導性層について、熱伝導率を測定した。
【0221】
すなわち、面方向(SD)における熱伝導率を、キセノンフラッシュアナライザー「LFA−447型」(NETZSCH社製)を用いるパルス加熱法により測定した。
【0222】
その結果を表1〜表3に示す。
2.空隙率(P)
調製例1〜16の熱硬化前の熱伝導性層の空隙率(P1)を下記の測定方法により測定した。
【0223】
空隙率の測定方法:まず、熱伝導性シートを厚み方向に沿ってクロスセクションポリッシャー(CP)により切断加工して、それにより現れる断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)で、200倍で観察して、像を得た。その後、得られた像から、空隙部分と、それ以外の部分とを二値化処理し、次いで、熱伝導性シート全体の断面積に対する空隙部分の面積比を算出した。
【0224】
その結果を表1〜表3に示す。
3.段差追従性(3点曲げ試験)
調製例1〜16の熱硬化前の熱伝導性層について、下記試験条件における3点曲げ試験を、JIS K7171(2008年)に準拠して、実施することにより、段差追従性を下記の評価基準に従って評価した。その結果を表1〜表3に示す。」

「【0243】
【表1】

【0244】
【表2】

【0245】
【表3】



「【0247】
表1〜表3における各成分中の数値は、特段の記載がない場合には、g数を示す。
【0248】
なお、表1〜表3の窒化ホウ素粒子の欄において、上段の数値は、窒化ホウ素粒子の配合質量(g)であり、中段の数値は、熱伝導性シートにおいて硬化剤を除く固形分(つまり、窒化ホウ素粒子と、エポキシ樹脂またはポリエチレンとの固形分)の総体積に対する窒化ホウ素粒子の体積百分率(体積%)であり、下段の数値は、熱伝導性シートの固形分(つまり、窒化ホウ素粒子と、エポキシ樹脂および硬化剤との固形分)の総体積に対する窒化ホウ素粒子の体積百分率(体積%)である。
【0249】
また、表1〜表3の各成分中、※印を付した成分について、以下にその詳細を記載する。
PT−110※1:商品名、板状の窒化ホウ素粒子、平均粒子径(光散乱法)45μm、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン社製
UHP−1※2:商品名:ショービーエヌUHP−1、板状の窒化ホウ素粒子、平均粒子径(光散乱法)9μm、昭和電工社製
エポキシ樹脂A※3:オグソールEG(商品名)、ビスアリールフルオレン型エポキシ樹脂、半固形状、エポキシ当量294g/eqiv.、軟化温度(環球法)47℃、溶融粘度(80℃)1360mPa・s、大阪ガスケミカル社製
エポキシ樹脂B※4:JER828(商品名)、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、液状、エポキシ当量184〜194g/eqiv.、軟化温度(環球法)25℃未満、溶融粘度(80℃)70mPa・s、ジャパンエポキシレジン社製
エポキシ樹脂C※5:JER1002(商品名)、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、固形状、エポキシ当量600〜700g/eqiv.、軟化温度(環球法)78℃、溶融粘度(80℃)10000mPa・s以上(測定限界以上)、ジャパンエポキシレジン社製
エポキシ樹脂D※6:EPPN−501HY(商品名)、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、固形状、エポキシ当量163〜175g/eqiv.、軟化温度(環球法)57〜63℃、日本化薬社製
硬化剤※7:キュアゾール2PZ(商品名、四国化成社製)の5質量%メチルエチルケトン溶液
硬化剤※8:キュアゾール2P4MHZ−PW(商品名、四国化成社製)の5質量%メチルエチルケトン分散液
ポリエチレン※9:低密度ポリエチレン、重量平均分子量(Mw)4000、数平均分子量(Mn)1700、Aldrich社製」

上記表1〜3には、調整例1、3、4、6〜8、10、15、16の窒化ホウ素粒子の熱伝導性シートの固形分の総体積に対する体積百分率が、48.8〜79.2体積%であり、熱伝導性シート全体の断面積に対する空隙部分の面積比が0〜8体積%であることが記載されている。

よって、引用文献4の調整例1、3、4、6〜8、10、15、16には、以下の発明(以下、「引用発明3」という。)が記載されている。

「シート状に形成された熱伝導性層(熱伝導性シート)であって、
鱗状に形成された窒化ホウ素粒子とエポキシ樹脂(未硬化状態)を含み、
厚みが0.3mmであり、
窒化ホウ素粒子の熱伝導性シートの固形分の総体積に対する体積百分率が48.8〜79.2体積%であり、
熱伝導性シート全体の断面積に対する空隙部分の面積比が0〜8体積%である、
熱伝導性層。」

なお、上記段落【0033】には、以下の事項(以下、「引用文献4記載事項1」という。)が記載されている。

「熱伝導性層の熱硬化性樹脂成分として、エポキシ樹脂、熱硬化性ウレタン樹脂が挙げられること。」

また、上記段落【0087】には、以下の事項(以下、「引用文献4記載事項2」という。)が記載されている。

「(熱硬化前の)熱伝導層の厚みを0.05mm以上とすること。」

また、上記段落【0187】、【0190】には、以下の事項(以下、「引用文献4記載事項3」という。)が記載されている。

「放熱構造体を得るために、熱伝導性接着シート5の5中央部および一端部を、電子部品および基板に熱圧着するとともに、熱伝導性接着シートの他端部をフレームに熱圧着し、熱伝導性層を熱硬化させること。」

3 当審の判断
(1)本件発明1について
ア 引用発明1に対する新規性、及び、進歩性について
請求項1に係る発明と引用発明1とを対比する。
(ア)引用発明1の「窒化ホウ素粒子」、「熱硬化前のエポキシ樹脂」及び「空隙」は、それぞれ本件発明1の「熱伝導性絶縁フィラー(F)」、「熱硬化性樹脂であるバインダー樹脂(R)の未硬化物および/または半硬化物」及び「ボイド」に相当する。

(イ)引用発明1の「厚みが0.3mm」であることは、本件発明1の「25μm以上の厚みを有する」ことに相当する。

(ウ)引用発明1の「窒化ホウ素粒子の熱伝導性シートの固形分の総体積に対する体積百分率が48.8〜69.0体積%」であることは、熱伝導性シートが「窒化ホウ素粒子」と「エポキシ樹脂」から構成されることから、本件発明1の「熱伝導性絶縁フィラー(F)およびバインダー樹脂(R)の合計体積100%中、熱伝導性絶縁フィラー(F)の占有体積率が40%よりも多」いことに相当する。

(エ)そして、引用発明1の「熱伝導性シート」は、本件発明1の「熱伝導性絶縁シート」に対応する。

(オ)そうすると、本件発明1と引用発明1との一致点と相違点は、以下のとおりである。
[一致点]
「熱伝導性絶縁フィラー(F)と熱硬化性樹脂であるバインダー樹脂(R)の未硬化物および/または半硬化物とを含有し、25μm以上の厚みを有する熱伝導性絶縁シートであって、
熱伝導性絶縁フィラー(F)およびバインダー樹脂(R)の合計体積100%中、熱伝導性絶縁フィラー(F)の占有体積率が40%よりも多い、
熱伝導性絶縁シート。」

[相違点1]
本件発明1は、「前記熱伝導性絶縁シートの断面において、シート断面積100%に対して、断面全体に存在するボイドの占有面積率が12.7〜30%であ」るのに対して、引用発明1は、そのような特定がされていない点。

[相違点2]
本件発明1は、「前記熱伝導性絶縁シートの厚みが80μm以上であるとき、前記熱伝導性絶縁シートの両方の表面から20μm以内の表面近傍領域に存在するボイドの占有面積率が8%以下であり、前記熱伝導性絶縁シートの厚みが25μm以上80μm未満であるとき、前記熱伝導性絶縁シートの両方の表面から10μm以内の表面近傍領域に存在するボイドの占有面積率が8%以下である」のに対して、引用発明1は、熱伝導性シートの表面近傍領域の空隙の占有面積率について特定されていない点。

(カ)上記相違点について検討する。
事案に鑑み、相違点1について最初に検討する。
引用発明1の「熱伝導性シート全体の断面積に対する空隙部分の面積比」は、本件発明1の「前記熱伝導性絶縁シートの断面において、シート断面積100%に対して、断面全体に存在するボイドの占有面積率」に相当し、引用発明1は、この「ボイドの占有面積率」が「0〜8体積%である」から、本件発明1の相違点1に係る構成を備えているとはいえない。
加えて、引用文献2ないし4には、本件発明1の「前記熱伝導性絶縁シートの断面において、シート断面積100%に対して、断面全体に存在するボイドの占有面積率が12.7〜30%であ」ることに対応する構成は記載されていないから、本件発明1は、当業者であっても、引用発明1及び引用文献2ないし4に記載された事項に基づいて、容易に発明できたものであるとはいえない。
したがって、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1が引用発明1であるということも、当業者が、引用発明1及び引用文献2ないし4に記載された事項に基づいて、容易に発明できたものであるということもできない。

イ 引用発明2に対する新規性、及び、進歩性について
本件発明1と引用発明2とを対比する。
(ア)引用発明2の「窒化ホウ素粒子」及び「空隙」は、それぞれ本件発明1の「熱伝導性絶縁フィラー(F)」及び「ボイド」に相当する。

(イ)引用発明2は「Bステージ(半硬化)状態の熱伝導性シート」であるから、「エポキシ樹脂」は、Bステージ(半硬化)状態であると認められる。
そうすると、引用発明2のBステージ(半硬化)状態である「エポキシ樹脂」は、本件発明1の「熱硬化性樹脂であるバインダー樹脂(R)の未硬化物および/または半硬化物」に相当する。

(ウ)引用発明2の「厚みが172〜271μm」であることは、本件発明1の「25μm以上の厚みを有する」ことに相当する。

(エ)引用発明2の「熱伝導性シートに対する窒化ホウ素粒子の体積百分率(体積%)が70体積%」であることは、熱伝導性シートが「窒化ホウ素粒子」と「エポキシ樹脂」から構成されることから、本件発明1の「熱伝導性絶縁フィラー(F)およびバインダー樹脂(R)の合計体積100%中、熱伝導性絶縁フィラー(F)の占有体積率が40%よりも多」いことに相当する。

(オ)そして、引用発明2の「熱伝導性シート」は、本件発明1の「熱伝導性絶縁シート」に対応する。

(カ)そうすると、本件発明1と引用発明2との一致点と相違点は、以下のとおりである。
[一致点]
「熱伝導性絶縁フィラー(F)と熱硬化性樹脂であるバインダー樹脂(R)の未硬化物および/または半硬化物とを含有し、25μm以上の厚みを有する熱伝導性絶縁シートであって、
熱伝導性絶縁フィラー(F)およびバインダー樹脂(R)の合計体積100%中、熱伝導性絶縁フィラー(F)の占有体積率が40%よりも多い、
熱伝導性絶縁シート。」

[相違点3]
本件発明1は、「前記熱伝導性絶縁シートの断面において、シート断面積100%に対して、断面全体に存在するボイドの占有面積率が12.7〜30%であ」るのに対して、引用発明2は、そのような特定がされていない点。

[相違点4]
本件発明1は、「前記熱伝導性絶縁シートの厚みが80μm以上であるとき、前記熱伝導性絶縁シートの両方の表面から20μm以内の表面近傍領域に存在するボイドの占有面積率が8%以下であり、前記熱伝導性絶縁シートの厚みが25μm以上80μm未満であるとき、前記熱伝導性絶縁シートの両方の表面から10μm以内の表面近傍領域に存在するボイドの占有面積率が8%以下である」のに対して、引用発明2は、熱伝導性シートの表面近傍領域の空隙の占有面積率について特定されていない点。

(キ)上記相違点について検討する。
事案に鑑み、相違点3について最初に検討する。
引用発明2の「伝導性シート全体の断面積に対する空隙部分の面積比」は、本件発明1の「前記熱伝導性絶縁シートの断面において、シート断面積100%に対して、断面全体に存在するボイドの占有面積率」に相当し、引用発明2は、この「ボイドの占有面積率」が「0.0〜2.9体積%である」から、本件発明1の相違点3に係る構成を備えているとはいえない。
加えて、引用文献1及び2並びに4には、本件発明1の「前記熱伝導性絶縁シートの断面において、シート断面積100%に対して、断面全体に存在するボイドの占有面積率が12.7〜30%であ」ることに対応する構成は記載されていないから、本件発明1は、当業者であっても、引用発明2並びに引用文献1、2及び4に記載された事項に基づいて、容易に発明できたものであるとはいえない。
したがって、相違点4について検討するまでもなく、本件発明1が引用発明2であるということも、当業者が、引用発明2並びに引用文献1、2及び4に記載された事項から、容易に発明できたものであるということもできない。

ウ 引用発明3に対する新規性、及び、進歩性について
本件発明1と引用発明3とを対比する。
(ア)引用発明3の「窒化ホウ素粒子」、「エポキシ樹脂(未硬化状態)」及び「空隙」は、それぞれ本件発明1の「熱伝導性絶縁フィラー(F)」、「熱硬化性樹脂であるバインダー樹脂(R)の未硬化物および/または半硬化物」及び「ボイド」に相当する。

(イ)引用発明3の「厚みが0.3mm」であることは、本件発明1の「25μm以上の厚みを有する」ことに相当する。

(ウ)引用発明3の「窒化ホウ素粒子の熱伝導性シートの固形分の総体積に対する体積百分率が48.8〜79.2体積%」であることは、熱伝導性シートが「窒化ホウ素粒子」と「エポキシ樹脂」から構成されることから、本件発明1の「熱伝導性絶縁フィラー(F)およびバインダー樹脂(R)の合計体積100%中、熱伝導性絶縁フィラー(F)の占有体積率が40%よりも多」いことに相当する。

(エ)そして、引用発明3の「熱伝導性層(熱伝導性シート)」は、本件発明1の「熱伝導性絶縁シート」に対応する。

(オ)そうすると、本件発明1と引用発明3との一致点と相違点は、以下のとおりである。
[一致点]
「熱伝導性絶縁フィラー(F)と熱硬化性樹脂であるバインダー樹脂(R)の未硬化物および/または半硬化物とを含有し、25μm以上の厚みを有する熱伝導性絶縁シートであって、
熱伝導性絶縁フィラー(F)およびバインダー樹脂(R)の合計体積100%中、熱伝導性絶縁フィラー(F)の占有体積率が40%よりも多い、
熱伝導性絶縁シート。」

[相違点5]
本件発明1は、「前記熱伝導性絶縁シートの断面において、シート断面積100%に対して、断面全体に存在するボイドの占有面積率が12.7〜30%であ」るのに対して、引用発明3は、そのような特定がされていない点。

[相違点6]
本件発明1は、「前記熱伝導性絶縁シートの厚みが80μm以上であるとき、前記熱伝導性絶縁シートの両方の表面から20μm以内の表面近傍領域に存在するボイドの占有面積率が8%以下であり、前記熱伝導性絶縁シートの厚みが25μm以上80μm未満であるとき、前記熱伝導性絶縁シートの両方の表面から10μm以内の表面近傍領域に存在するボイドの占有面積率が8%以下である」のに対して、引用発明3は、熱伝導性層の表面近傍領域の空隙の占有面積率について特定されていない点。

(カ)上記相違点について検討する。
事案に鑑み、相違点5について最初に検討する。
引用発明3の「熱伝導性シート全体の断面積に対する空隙部分の面積比」は、本件発明1の「前記熱伝導性絶縁シートの断面において、シート断面積100%に対して、断面全体に存在するボイドの占有面積率」に相当し、引用発明3は、この「ボイドの占有面積率」が「0〜8体積%である」から、本件発明1の相違点5に係る構成を備えているとはいえない。
加えて、引用文献1ないし3には、本件発明1の「前記熱伝導性絶縁シートの断面において、シート断面積100%に対して、断面全体に存在するボイドの占有面積率が12.7〜30%であ」ることに対応する構成は記載されていないから、本件発明1は、当業者であっても、引用発明3並びに引用文献1ないし3に記載された事項に基づいて、容易に発明できたものであるとはいえない。
したがって、相違点4について検討するまでもなく、本件発明1が、引用発明3であるということも、当業者が、引用発明3及び引用文献1ないし3に記載された事項に基づいて、容易に発明できたものであるということもできない。

(2)本件発明2ないし4について
本件発明2ないし4は、本件発明1をさらに限定したものである。
したがって、上記(1)イと同じ理由により、本件発明2ないし4は、当業者が、引用発明2及び引用文献1、2及び4に記載された事項から容易に発明できたものであるということはできない。

(3)本件発明7について
本件発明7は、本件発明1をさらに限定したものである。
したがって、上記(1)と同じ理由により、本件発明7は、当業者が、引用文献1ないし4に記載された発明から容易に発明できたものであるということはできない。

(4)本件発明8について
本件発明8は、本件発明1をさらに限定したものである。
したがって、上記(1)と同じ理由により、本件発明8が、引用発明1ないし3であるということも、当業者が、引用文献1ないし4に記載された発明から容易に発明できたものであるということもできない。

(5)本件発明9について
本件発明9は、本件発明1及び本件発明1をさらに限定した本件発明2ないし8の「熱伝導性絶縁シート」の「加熱加圧物からなる熱伝導性絶縁膜を介して接合され」た「複合部材」である。
してみると、上記(1)ウと同様の理由により、本件発明9は、引用発明3であるということはできない。
また、上記(1)と同様の理由により、本件発明9は、当業者が、引用文献1ないし4に記載された発明から容易に発明できたものであるということはできない。

(6)本件発明10及び11について
本件発明10及び11は、本件発明9をさらに限定したものである。
したがって、上記(5)と同じ理由により、本件発明10及び11は、引用発明3であるということも、当業者が、引用文献1ないし4に記載された発明から容易に発明できたものであるということもできない。

第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
進歩性(特許法第29条第2項)について
特許異議申立人は、特許異議申立書において、訂正前の特許請求の範囲の請求項5及び6に係る発明は、当業者が、引用文献2に記載された事項から容易に発明できたものである旨主張する。
しかしながら、本件発明5及び6は、本件発明1をさらに限定したものであり、引用文献2に、本件発明1の「前記熱伝導性絶縁シートの断面において、シート断面積100%に対して、断面全体に存在するボイドの占有面積率が12.7〜30%であ」ることが記載されていないことから、本件発明5及び6は、当業者が、引用文献2に記載された事項から容易に発明できたものであるということはできない。

2 サポート要件違反(特許法第36条第6項第1号)について
(1)特許異議申立人は、特許異議申立書において、訂正前の特許請求の範囲の請求項1ないし11について、熱伝導性絶縁シートの厚みを「25μm以上」とし、熱伝導性フィラーの占有体積率を「40%より多く」するとの数値限定は、発明の詳細な説明において「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えるものであり、訂正前の請求項1ないし11に記載された発明は、発明の詳細な説明に記載したものではない旨主張する。
しかしながら、本件特許の発明の詳細な説明には、発明を実施するための形態として、段落0015に、
「[熱伝導性絶縁シート]
本発明の熱伝導性絶縁シートは、熱伝導性絶縁フィラー(F)と熱硬化性樹脂であるバインダー樹脂(R)の未硬化物または半硬化物とを含有し、25μm以上の厚みを有する。本発明の熱伝導性絶縁シートにおいて、熱伝導性絶縁フィラー(F)およびバインダー樹脂(R)の合計体積100%中、熱伝導性絶縁フィラー(F)の占有体積率が40%よりも多い。」
と記載されているから、請求項1ないし11に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載したものではないということはできない。

(2)特許異議申立人は、特許異議申立書において、訂正前の特許請求の範囲の請求項10及び11について、「実施例16」を示し、厚みが「25μm以上80μm未満」であるとき、ボイドの占有面積率を全体で「20%以下」とし、表面近傍を「5%以下」とする数値限定は、発明の詳細な説明において「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えるものであり、訂正前の請求項10及び11に記載された発明は、発明の詳細な説明に記載したものではない旨主張する。
しかしながら、請求項10及び11は、請求項9を引用しており、請求項10及び11に記載された「熱伝導性絶縁膜」は、請求項9に記載された「請求項1〜8のいずれか1項に記載の熱伝導性絶縁シートの加熱加圧物からなる熱伝導性絶縁膜」である。
そして、段落0112の表2に、「前記熱伝導性絶縁シートの厚みが25μm以上80μm未満であるとき」の実施例として、「熱伝導性絶縁シート」の「膜厚」が「70μm」である「実施例16」が示されており、この「実施例16」では「熱伝導性絶縁膜」の「ボイドの占有面積率」は全体で「18.4%」、表面近傍で「4.5%」であることが記載されている。
そうすると、請求項10及び11に記載された発明は、発明の詳細な説明に記載されているといえるから、実施例16を根拠として、請求項10及び11に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載したものではないということはできない。

(3)特許異議申立人は、特許異議申立書において、訂正前の特許請求の範囲の請求項1ないし11について、実施例では、熱伝導性絶縁シートのボイドの占有面積率が、シート全体の12.7〜25.5%の数値範囲で、表面近傍が4.5〜7.7%の数値範囲の発明しか開示されておらず、これらの数値範囲以外の本件特許発明が特定する数値範囲の発明をどのように製造できるかが、明細書等には開示されていないから、本件発明1ないし11の熱伝導性絶縁シートのボイドの占有面積率の数値限定の構成要件のうち、実施例の数値範囲以外の発明は、「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えるものであり、訂正前の請求項1ないし11は、(この点においても)発明の詳細な説明に記載したものではない旨主張する。
しかしながら、請求項1ないし11に記載された発明は、「熱伝導性絶縁シート」及び「複合部材」の発明であり、「熱伝導性絶縁シート」及び「複合部材」を製造する製造方法の発明ではないから、製造方法が開示されていないことを根拠として、請求項1ないし11に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載したものではないということはできない。なお、製造方法については、明細書の段落0046ないし0063に、「[熱伝導性絶縁シート(S)の製造方法の例]」が記載されている。
加えて、本件特許の発明の詳細な説明には、発明を実施するための形態として、段落0015に、
「本発明の熱伝導性絶縁シートにおいて、熱伝導性絶縁シートの厚みが80μm以上であるとき、熱伝導性絶縁シートの両方の表面から20μm以内の領域を「表面近傍領域」と定義し、熱伝導性絶縁シートの厚みが25μm以上80μm未満であるとき、熱伝導性絶縁シートの両方の表面から10μm以内の領域を「表面近傍領域」と定義する。
本発明の熱伝導性絶縁シートにおいて、熱伝導性絶縁シートの断面において、シート断面積100%に対して、断面全体に存在するボイドの占有面積率が30%以下である。さらに、熱伝導性絶縁シートの厚みが80μm以上であるとき、熱伝導性絶縁シートの両方の表面から20μm以内の表面近傍領域に存在するボイドの占有面積率が8%以下であり、熱伝導性絶縁シートの厚みが25μm以上80μm未満であるとき、熱伝導性絶縁シートの両方の表面から10μm以内の表面近傍領域に存在するボイドの占有面積率が8%以下である。」
と記載され、また、段落0112の表2では「実施例6」として、「熱伝導性絶縁シート」の断面において、シート断面積100%に対して、断面全体に存在する「ボイドの占有面積率」が全体で「12.7%」であることが記載されており、段落0035に
「熱発生部材と放熱部材との間に配置され、バインダー樹脂(R)が完全硬化する温度で加熱および加圧され硬化されることにより生成される熱伝導性絶縁膜では、加圧により、全体のボイドの量を効果的に低減させ、全体の空隙率を効果的に低下させることができる。具体的には、熱伝導性絶縁膜の断面において、膜断面積100%に対して、断面全体に存在するボイドの占有面積率を20%以下、好ましくは18.5%以下とすることができる。また、熱伝導性絶縁膜の全体の空隙率を好ましくは0.2以下、より好ましくは0.15以下とすることができる。」
と記載されているから、請求項1ないし11に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載したものではないということはできない。

(4)まとめ
以上のとおりであるから、特許異議申立人の上記主張を採用することはできない。

実施可能要件(特許法第36条第4項第1号)について
特許異議申立人は、特許異議申立書において、訂正前の特許請求の範囲の請求項1ないし11について、実施例では、熱伝導性絶縁シートのボイドの占有面積率が、シート全体で12.7〜25.5%の数値範囲で、表面近傍が4.5〜7.7%の数値範囲の発明しか開示されておらず、これらの数値範囲以外の本件特許発明が特定する数値範囲の発明をどのように製造できるかが、明細書等には開示されていないから、訂正前の特許請求の範囲の請求項1ないし11の熱伝導性絶縁シートのボイドの占有面積率の数値限定の構成要件のうち、実施例の数値範囲以外の発明は、当業者が実施することができる程度に明細書等に記載されていない旨主張する。
しかしながら、明細書の段落0046ないし0063には、「[熱伝導性絶縁シート(S)の製造方法の例]」が記載されており、同段落0066には、「複合部材」について、その製造方法が記載されており、同段落0081ないし0096には、「実施例」に関連して、熱伝導性絶縁シートの製造方法について、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているから、本件特許の発明の詳細な説明の記載が、特許請求の範囲の請求項1ないし11に記載された「熱伝導性絶縁シート」及び「複合部材」を、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないということはできない。
したがって、特許異議申立人のかかる主張は、採用することができない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1ないし11に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1ないし11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱伝導性絶縁フィラー(F)と熱硬化性樹脂であるバインダー樹脂(R)の未硬化物および/または半硬化物とを含有し、25μm以上の厚みを有する熱伝導性絶縁シートであって、
熱伝導性絶縁フィラー(F)およびバインダー樹脂(R)の合計体積100%中、熱伝導性絶縁フィラー(F)の占有体積率が40%よりも多く、
前記熱伝導性絶縁シートの断面において、シート断面積100%に対して、断面全体に存在するボイドの占有面積率が12.7〜30%であり、前記熱伝導性絶縁シートの厚みが80μm以上であるとき、前記熱伝導性絶縁シートの両方の表面から20μm以内の表面近傍領域に存在するボイドの占有面積率が8%以下であり、前記熱伝導性絶縁シートの厚みが25μm以上80μm未満であるとき、前記熱伝導性絶縁シートの両方の表面から10μm以内の表面近傍領域に存在するボイドの占有面積率が8%以下である、熱伝導性絶縁シート。
【請求項2】
熱伝導性絶縁フィラー(F)は、窒化ホウ素を除く熱伝導性球状フィラー(F1)と窒化ホウ素フィラー(F2)とを含む、請求項1に記載の熱伝導性絶縁シート。
【請求項3】
熱伝導性球状フィラー(F1)は、アルミナおよび窒化アルミニウムからなる群より選ばれ、窒化ホウ素フィラー(F2)は、鱗片状の一次粒子、および鱗片状の一次粒子を造粒した造粒体からなる群より選ばれる、請求項2に記載の熱伝導性絶縁シート。
【請求項4】
窒化ホウ素フィラー(F2)は、平均一次粒子径が0.1〜15μmの窒化ホウ素粒子を造粒してなる、平均粒子径が2〜100μm、圧縮変形率10%に要する平均圧縮力が5mN以下の窒化ホウ素凝集体を含む、請求項2または3に記載の熱伝導性絶縁シート。
【請求項5】
熱伝導性球状フィラー(F1)とバインダー樹脂(R)の未硬化物および/または半硬化物とを含有し、窒化ホウ素フィラー(F2)を含有し得る複数の層(A)と、窒化ホウ素フィラー(F2)とバインダー樹脂(R)の未硬化物および/または半硬化物とを含有し、熱伝導性球状フィラー(F1)を含有し得る1層以上の層(B)とを有し、複数の層(A)と1層以上の層(B)とは、層(B)が最外層には位置しないように交互に積層されたものであり、下記条件(1)〜(3)を充足する、請求項2〜4のいずれか1項に記載の熱伝導性絶縁シート。
(1)複数の層(A)のうち最も外側に位置する最外層(Aout)に含まれ得る熱伝導性球状フィラー(F1)の質量が、層(B)に含まれ得る熱伝導性球状フィラー(F1)の質量よりも相対的に多い。
(2)最外層(Aout)中の熱伝導性球状フィラー(F1)と窒化ホウ素フィラー(F2)とを合わせた占有体積率が、最外層(Aout)中における熱伝導性球状フィラー(F1)、窒化ホウ素フィラー(F2)、およびバインダー樹脂(R)の合計体積100%中、50%よりも多い。
(3)層(B)は、熱伝導性球状フィラー(F1)と窒化ホウ素フィラー(F2)とバインダー樹脂(R)との合計100質量%中、窒化ホウ素フィラー(F2)を30〜90質量%含む。
【請求項6】
熱伝導性球状フィラー(F1)と未硬化のバインダー樹脂(R)とを含有し、窒化ホウ素フィラー(F2)を含有し得る複数のシート(A’)と、窒化ホウ素フィラー(F2)と未硬化のバインダー樹脂(R)とを含有し、熱伝導性球状フィラー(F1)を含有し得る1層以上のシート(B’)とが、シート(B’)が最外層とはならないように交互に積層され加圧された未硬化または半硬化の積層加圧シートであり、下記条件(1)〜(3)を充足する、請求項5に記載の熱伝導性絶縁シート。
(1)シート(A’)は、熱伝導性球状フィラー(F1)と窒化ホウ素フィラー(F2)とバインダー樹脂(R)との合計100質量%中、熱伝導性球状フィラー(F1)を30〜90質量%、窒化ホウ素フィラー(F2)を0〜30質量%含み、熱伝導性球状フィラー(F1)、窒化ホウ素フィラー(F2)、およびバインダー樹脂(R)の合計体積100%中、熱伝導性球状フィラー(F1)と窒化ホウ素フィラー(F2)とを合わせた占有体積率が50%よりも多い。
(2)シート(B’)は、熱伝導性球状フィラー(F1)と窒化ホウ素フィラー(F2)とバインダー樹脂(R)との合計100質量%中、窒化ホウ素フィラー(F2)を30〜90質量%含み、熱伝導性球状フィラー(F1)を0〜30質量%含む。
(3)シート(A’)に含まれる熱伝導性球状フィラー(F1)の量が、シート(B’)に含まれる熱伝導性球状フィラー(F1)の量よりも相対的に多い。
【請求項7】
前記熱硬化性樹脂は、熱硬化性ポリウレタン樹脂および熱硬化性ポリアミド樹脂からなる群より選ばれる、請求項1〜6のいずれか1項に記載の熱伝導性絶縁シート。
【請求項8】
シート全体の空隙率が0.3以下である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の熱伝導性絶縁シート。
【請求項9】
熱を発生し得る部材と放熱ベース基板とが、請求項1〜8のいずれか1項に記載の熱伝導性絶縁シートの加熱加圧物からなる熱伝導性絶縁膜を介して接合され、
前記熱伝導性絶縁膜は、バインダー樹脂(R)の硬化物と熱伝導性絶縁フィラー(F)とを含む、複合部材。
【請求項10】
前記熱伝導性絶縁膜の断面において、膜断面積100%に対して、断面全体に存在するボイドの占有面積率が9.5〜20%であり、前記熱伝導性絶縁シートの厚みが80μm以上であるとき、前記熱伝導性絶縁膜の両方の表面から20μm以内の表面近傍領域に存在するボイドの占有面積率が5%以下であり、前記熱伝導性絶縁シートの厚みが25μm以上80μm未満であるとき、前記熱伝導性絶縁膜の両方の表面から10μm以内の表面近傍領域に存在するボイドの占有面積率が5%以下である、請求項9に記載の複合部材。
【請求項11】
前記熱伝導性絶縁膜全体の空隙率が0.2以下である、請求項9または10に記載の複合部材。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-07-06 
出願番号 P2017-149363
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (H01B)
P 1 651・ 113- YAA (H01B)
P 1 651・ 536- YAA (H01B)
P 1 651・ 121- YAA (H01B)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 恩田 春香
特許庁審判官 松永 稔
小田 浩
登録日 2021-04-12 
登録番号 6866799
権利者 トーヨーケム株式会社 東洋インキSCホールディングス株式会社
発明の名称 熱伝導性絶縁シートおよび複合部材  
代理人 家入 健  
代理人 秦 恵子  
代理人 秦 恵子  
代理人 秦 恵子  
代理人 家入 健  
代理人 家入 健  
代理人 家入 健  
代理人 秦 恵子  

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