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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  H01M
審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01M
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  H01M
管理番号 1389400
総通号数 10 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-10-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-11-12 
確定日 2022-08-10 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6868685号発明「複合高分子電解質膜」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6868685号の特許請求の範囲を令和 4年 4月25日提出の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項8について訂正することを認める。 特許第6868685号の請求項1〜3、5〜9に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6868685号(以下「本件特許」という。)に係る出願(以下「本願」という。)は、2018年(平成30年) 4月 3日(優先権主張平成29年 4月 3日)を国際出願日とする出願であって、令和 3年 4月14日にその特許権の設定の登録がされ、同年 5月12日に特許掲載公報が発行された。
その後、本件特許について、令和 3年11月12日に、特許異議申立人佐藤昭憲(以下「申立人」という。)により、本件特許の請求項1〜3、5〜9に係る特許に対して特許異議の申立てがなされ、令和 4年 2月28日付けで取消理由が通知され、これに対して、特許権者により同年 4月25日に意見書と訂正請求書(以下、「本件訂正請求書」といい、当該請求書による訂正請求を「本件訂正請求」という。)が提出され、当該意見書及び訂正請求書が申立人に送付されたが、申立人からは意見書が提出されなかった。

第2 訂正請求について
1 訂正請求の趣旨、及び、訂正の内容
(1)訂正請求の趣旨
本件訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)は、特許第6868685号の特許請求の範囲を、令和 4年 4月25日提出の訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項8について訂正を求めるものであり、その訂正の内容は以下のとおりである。なお、下線は訂正した箇所を表す。

(2)訂正の内容
ア 訂正事項1
請求項8に、
「ナノファイバーシートと、プロトン伝導性ポリマーと、を備える複合高分子電解質膜であって」
と記載されているのを
「目付が1.5g/m2以上4.0g/m2以下であるナノファイバーシートと、プロトン伝導性ポリマーと、を備える複合高分子電解質膜であって」
と訂正する。

2 本件訂正の適否についての当審の判断
(1)訂正事項1について
ア 訂正事項1は、訂正前の請求項8に記載されたナノファイバーシートについて、「目付が1.5g/m2以上4.0g/m2以下である」ことを限定するものである。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

イ 訂正事項1は、本件特許の願書に添付した明細書(以下、「本件明細書」という。)の次の記載
「【0017】
ナノファイバーシートの目付は、1.5g/m2以上4.0g/m2以下であり、2.0g/m2以上3.5g/m2以下であると好ましく、2.5g/m2以上3.3g/m2以下であるとより好ましい。目付が1.5g/m2以上であると、膜の自立性があり、複合化の際に破膜することなく、取扱いが容易でプロセスが安定化する。さらに、単位面積あたりの繊維本数も十分であるので、平面方向における電解質膜の膨潤収縮が抑制される。一方、目付が4.0g/m2以下であると、ポリマーの充填性により優れ、プロトン伝導性と電解質膜の膨潤収縮の両方を抑制することが可能となる。」
に基づいてなされたものである(下線は当審が付した。)。
したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 上記アのとおり、訂正事項1による訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

(2)一群の請求項について
本件訂正前の請求項8は、いずれの請求項にも引用されない請求項であるから、本件訂正請求は請求項ごとにされたものであり、一群の請求項についてされたものではない。したがって、請求項8について訂正を求める本件訂正請求は、特許法第120条の5第3項の規定に適合する。

(3)独立して特許を受けることができるかについて
本件特許異議の申立ては、全請求項1〜9のうち、請求項1〜3、5〜9を対象に申し立てられたものであるところ、本件訂正請求は請求項8についてなされたものであり、特許異議の申立てがされていない請求項についてなされたものではないから、本件訂正は、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定は適用されず、特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならないとの要件は課されない。

(4)小括
以上のとおりであるから、令和 4年 4月25日に特許権者によって請求された本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項、第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項8について訂正することを認める。

第3 本件発明
上記第2で検討したとおり、本件訂正は適法になされたものであるから、請求項1〜9に係る発明(以下、各々「本件発明1〜9」といい、これらをまとめて「本件発明」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1〜9に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。なお、下線は訂正された箇所を表す。

「【請求項1】
目付が1.5g/m2以上4.0g/m2以下であるナノファイバーシートと、プロトン伝導性ポリマーと、を備える複合高分子電解質膜であって、
前記電解質膜は、前記プロトン伝導性ポリマーと前記ナノファイバーシートとを複合化したシート形状を有しており、かつ、前記シート形状の面方向における20℃から120℃の平均線膨張率が300ppm/K以下であり、
前記ナノファイバーシートにおける繊維の平均繊維径は100nm以上500nm以下である、電解質膜。
【請求項2】
前記ナノファイバーシートの面方向における20℃から120℃の平均線膨張率が250ppm/K以下である、請求項1に記載の電解質膜。
【請求項3】
前記プロトン伝導性ポリマーを厚さ15μmのシート形状を有するように成形した場合の、前記厚さ15μmのシート形状の面方向における20℃から120℃の平均線膨張率が1550ppm/K以下である、請求項1または2に記載の電解質膜。
【請求項4】
前記ナノファイバーシートの空隙率(%)が75%以上90%以下であり、
前記電解質膜における前記ナノファイバーシートは、前記プロトン伝導性ポリマーへの含浸前に比べて、50%以上75%以下の範囲で膜厚が収縮したものであり、前記電解質膜の厚さに対する前記ナノファイバーシートの厚さの比率が25%以上60%未満である、請求項1から3のいずれか一項に記載の電解質膜。
【請求項5】
前記ナノファイバーシートは、ポリエーテルスルホン、ポリベンゾイミダゾール及びポリイミドからなる群より選ばれる1種以上を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の電解質膜。
【請求項6】
前記ナノファイバーシートの前記プロトン伝導性ポリマーへの含浸前の厚さは8μm以上28μmm以下である、請求項1から5のいずれか一項に記載の電解質膜。
【請求項7】
前記ナノファイバーシートの面方向における20℃から120℃の平均線膨張率が200ppm/K以下であり、前記プロトン伝導性ポリマーを厚さ15μmのシート形状を有するように成形した場合の、前記厚さ15μmのシート形状の面方向における20℃から120℃の平均線膨張率が1550ppm/K以下である、請求項1から6のいずれか一項に記載の電解質膜。
【請求項8】
目付が1.5g/m2以上4.0g/m2以下であるナノファイバーシートと、プロトン伝導性ポリマーと、を備える複合高分子電解質膜であって、
前記電解質膜は、前記プロトン伝導性ポリマーと前記ナノファイバーシートとを複合化したシート形状を有しており、かつ、前記シート形状の面方向における20℃から150℃の平均線膨張率が350ppm/K以下であり、
前記ナノファイバーシートにおける繊維の平均繊維径は100nm以上500nm以下である、電解質膜。
【請求項9】
目付が1.5g/m2以上4.0g/m2以下であるナノファイバーシートと、プロトン伝導性ポリマーと、を備える複合高分子電解質膜であって、
前記電解質膜は、前記プロトン伝導性ポリマーと前記ナノファイバーシートとを複合化したシート形状を有しており、かつ、
前記プロトン伝導性ポリマーはシート形状を有しており、
前記ナノファイバーシートの面方向における20℃から120℃の平均線膨張率が250ppm/K以下であり、前記プロトン伝導性ポリマーを厚さ15μmのシート形状を有するように成形した場合の、前記厚さ15μmのシート形状の面方向における20℃から120℃の平均線膨張率が1550ppm/K以下である、電解質膜。」

第4 特許異議の申立理由と取消理由の概要
1 申立理由の概要
申立人は、以下の申立理由1〜4により、本件特許の請求項1〜3、5〜9に係る特許を取り消すべきものである旨主張し、証拠方法として下記(5)の甲第1〜3号証を提示した。

(1)申立理由1(新規性
本件訂正前の請求項1、2、3、5、6、7、8、9に係る発明は、下記甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当する。

(2)申立理由2(新規性
本件訂正前の請求項1、3、6、8に係る発明は、下記甲第2号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当する。

(3)申立理由3(進歩性
本件訂正前の請求項1、2、3、5、6、7、8、9に係る発明は、下記甲第1号証に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当する。

(4)申立理由4(進歩性
本件訂正前の請求項1、3、6、8に係る発明は、下記甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当する。

(5)証拠方法
甲第1号証 国際公開第2016/020668号
甲第2号証 特開2011−216269号公報
甲第3号証 特開2003−165845号公報

なお、申立人による上記甲第1〜3号証をそれぞれ甲1〜甲3ということがある。

2 取消理由の概要
令和 4年 2月28日付け取消理由通知書において、上記1の申立理由1〜4はいずれも採用せず、職権によって次の取消理由1を通知した。
(1)取消理由1(サポート要件)
ア 本件発明が解決しようとする課題(以下、単に「課題」という。)は、本件明細書の段落【0010】の記載によれば、「補強材に対する電解質の充填不良が抑制され、ボイド欠陥が少なく低抵抗であり、且つ、110℃を超える高温の燃料電池動作環境における高い耐久性を備えた複合高分子電解質膜を提供すること」であると認められる。

イ 一方、本件訂正前の請求項8に係る発明の技術的範囲には比較例4、6、7の電解質膜が含まれるものであるところ、これら比較例のボイド欠陥に関する判定がCであり、このことは、これら比較例が、ボイド欠陥が少ないものであるとはいえず、その結果、低抵抗になっているともいえないものであるから、本件訂正前の請求項8に係る発明は上記課題を解決することができない発明を含むものである。

ウ したがって、本件訂正前の請求項8に係る発明は、上記アの課題を解決することができない発明を含んでいるため、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求することになっている。

エ よって、本件訂正前の請求項8に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえないから、同発明に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

第5 当審の判断
1 取消理由1(サポート要件)について
(1)本件訂正によって、本件発明8の「ナノファイバーシート」は「目付が1.5g/m2以上4.0g/m2以下である」ことが特定された。そのため、本件特許の明細書の段落【0096】に記載された下記表1に記載されているように、ナノファイバーシートの目付がそれぞれ「5.0g/m2」、「5.0g/m2」、「4.6g/m2」であり、いずれもボイド欠陥の判定がCである比較例4、6、7は、本件発明8の技術的範囲に含まれないものとなった。
「【0096】
【表1】



(2)そして、本件発明8は
a「目付が1.5g/m2以上4.0g/m2以下であるナノファイバーシートと、プロトン伝導性ポリマーと、を備える複合高分子電解質膜」について、
b「前記プロトン伝導性ポリマーと前記ナノファイバーシートとを複合化したシート形状を有して」いること、
c「シート形状の面方向における20℃から150℃の平均線膨張率が350ppm/K以下」であること、
d「ナノファイバーシートにおける繊維の平均繊維径は100nm以上500nm以下」であること
が特定されているものであるところ、上記表1に記載されているように、実施例1〜10の複合高分子電解質膜は、上記a,b,c,dの全ての条件を満たすものであるから本件発明8の技術的範囲に含まれるものであるとともに、ボイド欠陥の判定がいずれもAである。

(3)したがって、本件発明8は、上記第4の2(1)アに記載した課題を解決し得るものとなったから、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えているとはいえない。

(4)よって、取消理由1は解消された。

2 申立理由1、3(甲1を主たる引用例とする新規性進歩性)について
(1)甲1に記載された事項
ア 甲1には、以下の事項が記載されている。(なお、「・・・」は記載の省略を表し、下線は当審が付したものである。以下同様。)
(1ア) 「Field of the Invention
The present invention relates to an electrolyte membrane and its use in an electrochemical device, in particular its use in a proton exchange membrane fuel cell.」(1頁3〜5行)
(当審訳:技術分野
本発明は、電解質膜と、電気化学デバイスにおけるその使用、特にプロトン交換膜燃料電池におけるその使用に関する。)

(1イ)「Fuel cells are usually classified according to the nature of the electrolyte employed. Often the electrolyte is a solid polymeric membrane, in which the membrane is electronically insulating but ionically conducting. In the proton exchange membrane fuel cell (PEMFC) the membrane is proton conducting, and protons, produced at the anode, are transported across the membrane to the cathode, where they combine with oxygen to form water.
A principal component of the PEMFC is the membrane electrode assembly (MEA), which is essentially composed of five layers. The central layer is the polymer ion-conducting membrane. On either side of the ion-conducting membrane there is an electrocatalyst layer, containing an electrocatalyst designed for the specific electrolytic reaction. Finally, adjacent to each electrocatalyst layer there is a gas diffusion layer which is porous and electrically conducting and allows the reactants to reach the electrocatalyst layer and conduct the electric current that is generated by the electrochemical reactions.
Conventional ion-conducting membranes used in PEMFCs are generally formed from sulphonated fully-fluorinated polymeric materials (often genetically referred to as perfluorinated sulphonic acid (PFSA) ionomers). As an alternative to PFSA type ionomers, it is possible to use ion-conducting membranes based on partially fluorinated or non-fluorinated hydrocarbon sulphonated or phosphonated polymers. Recent developments in PEMFCs require membranes to be thinner (<50 μm) and of higher ion exchange capacity(IEC) or lower equivalent weight(EW) due to the adbantages obtained (improved ionic conductivity, improved water transport etc ) and thus, in order to provide the mechanical properties required to increase resistance to premature failure, a reinforcement, typically expanded polytetrafluoroethylene (ePTFE), is embedded within the membrane.」(1頁15行〜2頁2行)
(当審訳:燃料電池は通常、用いられる電解質の性質に従って分類される。電解質は、膜が電子的に絶縁性であるがイオン的には伝導性である固体高分子膜であることが多い。プロトン交換膜燃料電池(PEMFC)では、膜はプロトン伝導性であり、プロトンは、アノードで生成されて、膜を横切ってカソードへ搬送され、カソードにおいて酸素と結合して水を形成する。
PEMFCの主要な成分は膜電極アセンブリ(MEA)であり、これは基本的に五層から構成される。中心層は、ポリマーイオン伝導性膜である。イオン伝導性膜のどちらかの面に、電解触媒層があり、特定の電解反応のために設計された電解触媒を含んでいる。最後に、各電解触媒層に隣接して、多孔性且つ導電性のガス拡散層があり、反応物が電解触媒層に到達して電気化学反応により生成される電流を伝導することを可能にする。
PEMFCに用いられる従来のイオン伝導性膜は通常、スルホン化完全フッ素化ポリマー材料(一般的には過フッ素化スルホン酸(PFSA)イオノマーと呼ばれることが多い)から形成される。PFSA型イオノマーの代替物として、部分フッ素化又は非フッ素化炭化水素スルホン化又はリン酸化ポリマーをベースとするイオン伝導性膜を使用することが可能である。PEMFCの最近の開発においては、得られる利点(イオン伝導性の向上、水透過の向上など)のために、これまでよりも薄く(<50μm)且つイオン交換能(IEC)が高いか又は等量(EW)が低い膜が必要とされており、したがって、早期破壊に対する抵抗性を増大させるために必要な機械特性を提供するために、強化材、典型的には延伸加工ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)が膜内部に埋め込まれる。)

(1ウ) 「Summary of the Invention
Although reinforced membranes such as those hereinbefore described have allowed thinner membranes to be used whilst maintaining mechanical strength, deficiencies still exist. In particular, limitations are seen in practical operation in which the conditions of humidity can vary quite significantly over short periods of time from relatively high levels (such as on start up from cold conditions) to quite dry levels (operation at maximum rated power density) where the membrane can degrade to a higher level than acceptable. In accelerated stress tests designed to mimic and accelerate this operation, a wet/dry cycling accelerated stress testing induces swelling/de-swelling of the membrane such that these membrane degradation effects can be more rapidly observed.
It is an object of the present invention to provide an improved electrolyte membrane, suitably for use in PEMFCs and PEM electrolysers.」(2頁9〜20行)
(当審訳:発明の概要
上述のような強化膜により、機械的強度を維持しながらより薄い膜を使用することが可能になったが、依然として欠点が存在する。特に、比較的高いレベル(例えば冷状態からのスタートアップ)から極度の乾燥レベル(最大定格出力密度での動作)まで短時間のあいだに極めて大きく湿度の条件が変動し、膜が許容限度を超えて劣化しうる実用運転において、限界が見られる。この運転を模倣及び加速するように設計された加速ストレス試験において、湿性/乾性サイクル加速ストレス試験は、このような膜の解膨潤効果をより迅速に観察することができるように、膜の膨潤/解膨潤を引き起こす。
本発明の目的は、PEMFC(当審注:proton exchange membrane fuel cell プロトン交換膜燃料電池)及びPEM電気分解装置における使用に適した改良型電解質膜を提供することである。)

(1エ) 「The invention provides an electrolyte membrane comprising a porous mat of nanofibres, the porous mat being essentially fully impregnated with an ion-conducting polymer.
The porous mat provides mechanical reinforcement to the electrolyte membrane.
The porous mat is formed from entangled nanofibres of a non-ionically conducting heterocyclic-based polymer comprising basic functional groups. The heterocyclic-based polymer is soluble in organic solvent, and in particular the polymer is soluble in N-m ethyl pyrrolidone (NMP), dimethylformamide (DMF), dimethylacetamide (DMAc) or dimethylsuiphoxide (DMSC3) , suitably DMAc or DMSO and preferably DMAc.
The nanofibres suitably have an average diameter of 100-400 nm, suitably 100-300 nm and preferably 150-250 nm .
The length of the nanofibres is not material to the invention, but each nanofibres should be sufficiently long (for example several centimetres) to become entangled, either with one or more other nanofibres or with itself.
The nanofibres are suitably spun nanofibres, i.e. the nanofibres are formed using a spinning technique. Examples of suitably spinning techniques include, but are not limited to, electrospinning and force spinning 」(3頁11〜26行)
(当審訳:本発明は、ナノファイバーの多孔質マットを備える電解質膜を提供し、この多孔質マットはイオン伝導性ポリマーで基本的に完全に含浸されている。
多孔質マットは、電解質膜に機械的補強を提供する。
多孔質マットは、塩基性官能基を含む非イオン的伝導性の複素環式ポリマーの絡み合ったナノファイバーから形成される。複素環式ポリマーは、有機溶媒に可溶であり、特にポリマーはN−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)又はジメチルスルホキシド(DMSO)、適切にはDMAc又はDMSO、好ましくはDMAcに可溶である。
ナノファイバーは、適切には100〜400nm、適切には100−300nm、好ましくは150−250nmの平均径を有する。
ナノファイバーの長さは本発明に重要でないが、各ナノファイバーは、一又は複数の他のナノファイバーと又はそれ自体が絡み合うために十分な長さ(例えば数センチメートル)を有さねばならない。
ナノファイバーは、適切にはスピニングされたナノファイバーであり、即ちナノファイバーはスピニング技術を用いて形成される。適切にスピニングを行う技術の例には、限定されないが、エレクトロスピニング及び力紡績が含まれる。)

(1オ) 「 Heterocyclic polymers, preferably basic heterocyclic polymers, include polybenzimidazoies, poly(pyridine), poly(pyrimidine), polybenzthiazoles, polyoxadiazoles, polyquinolines, polyquinoxalines, polythiadiazoles, polytriazoles, polyoxazoles and polythiazoles and derivatives thereof. Suitably, the polymer is a functionalised poiyazole or a zwitterionic poiyazole, such as a poiyhenzimidazole, polytriazole, polythiazole and polydithiazole and their derivatives; most suitably a polybenzimidazole.
Suitably, the nanofibres are formed from a single heterocyclic-based polymer and not a blend of two or more heterocyclic-based polymers.
The heterocyclie-based polymer may also be cross-linked; i.e. one polymer chain is bonded to another polymer chain. Cross-linking may improve the mechanical stability of the electrolyte membrane.」(3頁27行〜4頁3行)
(当審訳: 複素環ポリマー、好ましくは塩基性複素環ポリマーには、ポリベンズイミダゾール、ポリ(ピリジン)、ポリ(ピリミジン)、ポリベンズチアゾール、ポリオキサジアゾール、ポリキノリン、ポリキノキサリン、ポリチアジアゾール、ポリトリアゾール、ポリオキサゾール及びポリチアゾール及びこれらの誘導体が含まれる。適切には、ポリマーは、官能化ポリアゾール又は双性イオン性ポリアゾール、例えばポリベンズイミダゾール、ポリトリアゾール、ポリチアゾール及びポリジチアゾール及びこれらの誘導体、最も適切にはポリベンズイミダゾールである。
適切には、ナノファイバーは、二つ以上の複素環式ポリマーのブレンドではなく、単一の複素環式ポリマーから形成される。
複素環式ポリマーは架橋していてもよく、即ち一つのポリマー鎖が別のポリマー鎖に結合していてもよい。架橋は電解質膜の機械的安定性を向上させうる。)

(1カ)「The ion-conducting polymer is suitably a proton-conducting polymer and in particular a partially- or fully-fluorinated sulphonic acid polymer. Examples of suitable proton-conducting polymers include the perfluorosulphonic acid ionomers (e.g. Nafion* (E.I DuPont de Nemours and Co.), Aciplex* (Asahi Kasei), Aquivion* (Solvay Specialty Polymer), Flemion* (Asahi Glass Co.).」(4頁33行〜5頁2行)
(当審訳:イオン伝導性ポリマーは、適切には、プロトン伝導性ポリマー、特に部分的又は完全にフッ素化されたスルホン酸ポリマーである。適切なプロトン伝導性ポリマーの例には、ペルフルオロスルホン酸イオノマー(例えばNafion(登録商標)(E.I.DuPont de Nemours and Co.)、Aciplex(登録商標)(Asahi Kasei)、Aquivion(登録商標)(Solvay Specialty Polymer)、Flemion(登録商標)(Asahi Glass Co.))が含まれる。)」

(1キ) 「The porous mat may be impregnated with the ion-conducting polymer by the following process:
A layer of ion-conducting polymer (in solution/dispersion) is cast onto a carrier material. While the layer of ion-conducting polymer is still wet, the porous nanofibre mat is laid into the wet layer and the ion-conducting polymer impregnates into one face of the porous mat. A further layer of ion-conducting polymer is applied to a second face of the porous mat and impregnates into the porous mat from the second face. The impregnated porous mat is dried and suitably annealed to form the electrolyte membrane. 」(5頁9〜16行)
(当審訳:多孔質マットには、以下の方法によりイオン伝導性ポリマーを含浸させることができる:
イオン伝導性ポリマー(溶液/分散液中の)を、担体材料上にキャストする。イオン伝導性ポリマーの層がまだ湿っている間に、多孔質のナノファイバーマットを湿潤層中に敷き、イオン伝導性ポリマーを多孔質マットの一面に含浸させる。イオン伝導性ポリマーのさらなる層を多孔質マットの第2の面に適用し、第2の面から多孔質マット中に含浸させる。含浸させた多孔質マットを乾燥させ、適切にはアニーリングして電解質膜を形成する。)

(1ク) 「Example 1
Membrane Fabrication
Poly[2,2'-(m-phenylene)-5,5'-bibenzimidazole] (PBI), obtained from PBI Performance Products Inc., was electrospun from a 13% solution in dimethyl acetamide (DMAc) using the following parameters: 15 kV applied voltage, 0.12 mL/hr flow rate; needle collector distance of 10 cm; drum collector rotation speed of 800 rpm; and translational speed of 10 mm/s. The electrospun mat was removed from the drum.
The PBI electrospun mat comprises randomly oriented nanofibres having an average fibre diameter of 200 nm, with a relatively narrow fibre diameter distribution between 140 and 280 nm, and are several tens of microns in length. Figure 2 provides a scanning electron microscope (SEM) image of the electrospun mat showing the fibres are randomly oriented. Also shown in Figure 2 is a graph showing the fibre diameter distribution.
The thickness of the PBI nanofibres can be further controlled using co-axial needle electrospinning. The core solution is the PBI solution, and the sheath solution is DMAc. Through the use of a solvent sheath the evaporation and drying of the fibres that occurs during electrospinning is delayed, which results in greater stretching of the polymer nanofibres, and in thinner nanofibres in the final electrospun mat. Using a core/sheath flow rate ratio of 2/1, the average fibre diameter is 120 μm (range 60-180 nm) (see Figure 3).
The electrospun PBI mat has a thickness of 10μm, a porosity of 83% and a basis weight of 2.27 g/m2.
A dispersion of a Aquivion* PFSA of equivalent weight 700 g/mol from Solvay Specialty Polymers (13% w/v in 60/35/5 in H20/1 -propanol/DMAc) was cast onto a Teflon plate using the doctor blade method. The PBI electrospun mat was then placed directly on top of the cast PFSA dispersion, impregnation of the cast PFSA dispersion into the nanofibre mat was confirmed visually, and a second layer of PFSA dispersion was then cast on top of the PBI electrospun mat. The overall membrane thickness was controlled through the gate thickness of the doctor blade. The cast electrolyte membrane was dried first at room temperature, followed by 80 °C overnight and then hot pressed (25 kg/cm2) at elevated temperature (160 °C).
After solvent removal and hot-pressing, the electrolyte membrane had a nominal thickness of 30μm and the electrospun PBI mat extended across approximately 85% of the thickness of the electrolyte membrane. The weight ratio of PFSA : nanofibres in the electrolyte membrane was 90 : 10.」(8頁8行〜9頁4行)
(当審訳:実施例1
膜の製造
PBI Performance Products Inc.から得られるポリ[2,2’−(m−フェニレン)−5,5’−ビベンズイミダゾール](PBI)を、以下のパラメーターを用いて、ジメチルアセトアミド(DMAc)中13%溶液からエレクトロスピニングした:印加電圧15kV、流速0.12mL/時;針コレクターの距離10cm;ドラム式コレクター回転速度800rpm;及び並行移動速度10mm/s。エレクトロスピニングされたマットをドラムから取り出した。
PBIエレクトロスピニングマットは、ランダムに方向付けられたナノファイバーを含み、このナノファイバーは、140から280nmという比較的狭い繊維直径分布で平均繊維直径200nmを有し、長さは数十ミクロンである。図2は、エレクトロスピニングされたマットの走査型電子顕微鏡(SEM)画像であり、繊維がランダムに方向付けられていることを示している。図2には、繊維直径分布を示すグラフも示されている。
PBIナノファイバーの厚さは、同心型針エレクトロスピニングを用いてさらに制御することができる。コア溶液はPBI溶液であり、シース溶液はDMAcである。溶媒シースの使用により、エレクトロスピニングの間に起こる繊維のエバポレーションと乾燥は遅れ、その結果ポリマーのナノファイバーの伸長が大きくなり、最終的なエレクトロスピニングされたマットのナノファイバーが薄くなる。コア/シースを流速比2/1で用いると、平均繊維直径は120μm(60〜180nmの範囲)である(図3参照)。
エレクトロスピニングされたPBIマットは、厚さ10μm、空隙率83%及び坪量2.27g/m2を有する。
Solvay Specialty Polymers社のAquivion(登録商標)PFSA当量700g/molの分散物(H2O/1−プロパノール/DMAcが60/35/5で混合された溶液中に13重量%を分散)を、ドクターブレード法を用いてテフロンプレート上にキャストした。次いで、PBIエレクトロスピニングマットを、キャストしたPFSA分散物の上に直接配置した。キャストしたPFSA分散物のナノファイバーマット中への含浸を目視により確認し、次いでPFSA分散物の第2の層をPBIエレクトロスピニングマットの上にキャストした。膜全体の厚さを、ドクターブレードのゲート厚により制御した。キャストされた電解質膜をまず室温で、続いて80℃で一晩乾燥させ、次いで高温(160℃)でホットプレスした(25kg/cm2)。
溶媒除去及びホットプレスの後では、電解質膜は公称厚み30μmを有し、エレクトロスピニングPBIマットは電解質膜の厚さの約85%に広がっていた。電解質膜中のPFSA:ナノファイバーの重量比は90:10であった。)

(2)甲1に記載された発明
ア 上記(1ア)によれば、甲1には、プロトン交換膜燃料電池に使用される電解質膜が開示されている。

イ 上記(1ウ)によれば、甲1における目的は、比較的高いレベルから極度の乾燥レベルまで短時間のあいだに極めて大きく湿度が変動し、膜が許容限度を超えて劣化しうる実用運転において使用されるプロトン交換膜燃料電池に適した改良型電解質膜を提供することである。

ウ 上記(1エ)によれば、甲1の発明は、イオン伝導性ポリマーで基本的に完全に含浸されているナノファイバーの多孔質マットを備える電解質膜に関するものである。上記多孔質マットは、複素環式ポリマーの絡み合ったナノファイバーから形成され、上記ナノファイバーは、エレクトロスピニング(電界紡糸法)等によって紡糸されたナノファイバーであり、その平均径は、100〜400nmである。

エ 上記(1オ)によれば、上記ウの複素環式ポリマーとして最も適切なものはポリベンズイミダゾールである。

オ 上記(1ク)によれば、実施例1の電解質膜の製造方法は次のとおりである。
(ア)ポリ[2,2’−(m−フェニレン)−5,5’−ビベンズイミダゾール](PBI)を原料としたエレクトロスピニング法によって、PBIエレクトロスピニングマットを製造する。
(イ)Aquivion(登録商標)PFSAの分散物(H2O/1−プロパノール/DMAcが60/35/5で混合された溶液中に13重量%を分散)を、ドクターブレード法を用いてテフロンプレート上にキャストする。
(ウ)キャストしたPFSA分散物の上にPBIエレクトロスピニングマットを直接配置することで含浸させる。
(エ)配置したPBIエレクトロスピニングマットの上にPFSA分散物の第2の層をキャストする。
(オ)乾燥後、高温(160℃)でホットプレス(25kg/cm2)する。

カ 上記オの製造方法によって製造された電解質膜は次の特徴を有するものである。
(ア)Aquivion PFSAの分散物をPBIエレクトロスピニングマットに含浸し、乾燥し、高温(160℃)でホットプレス(25kg/cm2)した電解質膜である。
(イ)上記(ア)の電解質膜の形状は膜形状である。
(ウ)上記(ア)のAquivion PFSAは、上記(1カ)によれば、プロトン伝導性ポリマーである。また、上記(1イ)によれば、プロトン伝導性ポリマーは、プロトン交換膜燃料電池(PEMFC)の電解質膜として使用される。
(エ)上記(ア)のPBIエレクトロスピニングマットは、ポリ[2,2’−(m−フェニレン)−5,5’−ビベンズイミダゾール](PBI)を原料としたエレクトロスピニング法によって製造されたものであり、平均繊維直径200nmのナノファイバーを含み、厚さ10μm、空隙率83%及び坪量2.27g/m2である。

キ 上記ア〜カの検討を総合すれば、実施例1の製法によって製造した電解質膜に注目すると、甲1には、次の電解質膜が記載されているものと認められる。

「Aquivion PFSAの分散物をPBIエレクトロスピニングマットに含浸し、乾燥し、高温(160℃)でホットプレス(25kg/cm2)した電解質膜であって、
前記Aquivion PFSAは、プロトン伝導性ポリマーであり、
前記PBIエレクトロスピニングマットは、ポリ[2,2’−(m−フェニレン)−5,5’−ビベンズイミダゾール](PBI)を原料としてエレクトロスピニング法によって製造された平均繊維直径200nmのナノファイバーを含み、厚さが10μm、空隙率が83%、及び坪量が2.27g/m2である、
電解質膜。」(以下「甲1発明」という。)

(3)本件発明1について
本件発明1の電解質膜と甲1発明の電解質膜を対比する。
ア 甲1発明の「PBIエレクトロスピニングマット」は、エレクトロスピニング法によって製造された平均繊維直径200nmのナノファイバーを含んでおり、当該マットはシート形状に形成されているといえるから、本件発明1の「ナノファイバーシート」に相当する。

イ 甲1発明の「PBIエレクトロスピニングマット」の「坪量が2.27g/m2である」ことは、坪量が単位広さあたりの質量を意味しており、目付と同じ意味であることを勘案すれば、本件発明1の「ナノファイバーシート」の「目付が1.5g/m2以上4.0g/m2以下である」ことに相当する。

ウ 甲1発明の「Aquivion PFSA」は「プロトン伝導性ポリマー」であるから、本件発明1の「プロトン伝導性ポリマー」に相当する。

エ 本件明細書の段落【0075】〜【0077】、【0096】には、実施例1の複合高分子電解質膜の製造方法が記載されており、具体的には次の工程を含むものである。
(ア)プロトン伝導性ポリマーであるパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂(−[CF2CF2]−[CF2−CF(−O−(CF2)2−SO3H)]−;PFSA)をエタノール水溶液と共にオートクレーブ中に収容して密閉し、撹拌翼で攪拌しながら160℃まで昇温し、その温度で5時間保持し、オートクレーブ内を自然冷却して、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂溶液を得、これを80℃で減圧濃縮した後、水とエタノールとを用いて希釈し、固形分15.0質量%のエタノール:水=60:40(質量比)の溶液1を調整する。
(イ)上記溶液1をポリイミドフィルム上に連続塗工する。
(ウ)下記表1の実施例1のナノファイバー(当審注:表1に記載されているのはナノファイバーシートであるから、ナノファイバーシートを意味するものと解される。また、その材質はPBI(ポリベンゾイミダゾール)である。)を上記塗工した溶液1上に配置し、含浸させ、乾燥する。
(エ)乾燥後に溶液1を再度塗工し、乾燥する。
(オ)170℃で20分間アニール処理を施す。

「【0096】
【表1】



オ 本件発明1の「複合高分子電解質膜」が「プロトン伝導性ポリマーと前記ナノファイバーシートとを複合化した」ものであるとは、上記エの製造方法を参照すると、ナノファイバーシートにプロトン導電性ポリマーを含浸させ、乾燥させ、アニール処理したものであることを意味するものと解されるところ、甲1発明の「電解質膜」も、上記(2)オに記載した製造方法のように、PBIエレクトロスピニングマットにプロトン伝導性ポリマーであるAquivion PFSAを含浸させ、乾燥させ、熱処理(ホットプレス)したものであって、本件発明1と同様に「複合」させたものであるといえる。また、甲1発明の「Aquivion PFSA」と「ポリ[2,2’−(m−フェニレン)−5,5’−ビベンズイミダゾール](PBI)」が高分子であることは明らかである。
したがって、甲1発明の「電解質膜」が「Aquivion PFSAの分散物をPBIエレクトロスピニングマットに含浸し、乾燥し、高温(160℃)でホットプレス(25kg/cm2)した」「膜」であることは、本件発明1の「電解質膜」が「複合」した「高分子電解質膜」であり、また、「前記プロトン伝導性ポリマーと前記ナノファイバーシートとを複合化したシート形状を有して」いるものであることに相当する。

カ 甲1発明の「PBIエレクトロスピニングマット」に含まれる「ナノファイバー」が「平均繊維直径200nm」であることは、本件発明1の「ナノファイバーシートにおける繊維の平均繊維径は100nm以上500nm以下である」ことに相当する。

キ 上記ア〜カの検討によれば、本件発明1と甲1発明の一致点と相違点は次のとおりである。
<一致点>
「目付が1.5g/m2以上4.0g/m2以下であるナノファイバーシートと、プロトン伝導性ポリマーと、を備える複合高分子電解質膜であって、
前記電解質膜は、前記プロトン伝導性ポリマーと前記ナノファイバーシートとを複合化したシート形状を有しており、
前記ナノファイバーシートにおける繊維の平均繊維径は100nm以上500nm以下である、電解質膜」の点。
<相違点1>
「電解質膜」の「シート形状の面方向における20℃から120℃の平均線膨張率」が、本件発明1では「300ppm/K以下」であるのに対して、甲1発明では特定されておらず不明である点。

ク 相違点1について検討する。
(ア)甲1発明の電解質膜は、プロトン伝導性ポリマーであるAquivion PFSAの分散物を、PBIエレクトロスピニングマットに含浸することによって製造されたものであるのに対して、本件明細書の段落【0075】〜【0077】に記載された実施例1(以下、「本件実施例1」という。)の電解質膜が、プロトン伝導性ポリマーであるパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂(−[CF2CF2]−[CF2−CF(−O−(CF2)2−SO3H)]−;PFSA)をエタノール水溶液中で攪拌するなどして得られた溶液1をナノファイバーシートに含浸することによって製造されたものであり、両者で製造方法及び原料が共通している。
そこで、甲1発明の電解質膜の「シート形状の面方向における20℃から120℃の平均線膨張率」が、本件実施例1の電解質膜の「シート形状の面方向における20℃から120℃の平均線膨張率」と同程度の値であるといえるかについて検討する。

(イ)最初に、プロトン伝導性ポリマーについて検討する。甲1発明においてプロトン伝導性ポリマーとして採用されているAquivionは、Solvay Specialty Polymer社によって製造・販売されているものであり、その化学式と構造式が
[CF2CF(OCF2CF2SO3H)m[CF2CF2]n

で表され、Aquivionとして販売されているポリマーには複数種類の製品が存在することが、化学製品の販売を行っているメルク社のインターネットサイト
(https://www.sigmaaldrich.com/JP/ja/search/%E3%82%A2%E3%82%AF%E3%82%A4%E3%83%B4%E3%82%A3%E3%82%AA%E3%83%B3?focus=products&page=1&perpage=30&sort=relevance&term=%E3%82%A2%E3%82%AF%E3%82%A4%E3%83%B4%E3%82%A3%E3%82%AA%E3%83%B3&type=product)
に掲載されている。

(ウ)そうすると、本件実施例1のプロトン伝導性ポリマーであるパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂(−[CF2CF2]−[CF2−CF(−O−(CF2)2−SO3H)]−)と上記(イ)の甲1発明のAquivionは、2種類の同一のモノマーが重合している点で共通しているが、本件実施例1のプロトン伝導性ポリマーは本件特許の発明者が自ら製造したものであるのに対して、甲1発明のAquivionはSolvay Specialty Polymer社が販売している(しかも同じAquivion名で複数種類の製品が存在している)ものであることからわかるように、両ポリマーは、重合状態が同じとはいえず、そのため当該ポリマーの分子量や主鎖の長さやポリマー中のm、nの数値が同一であるとはいえない。
そして、モノマーの構成が同じでも、ポリマーの分子量や主鎖の長さが異なれば、隣接する分子間に働く分子間力が異なるので、ガラス転移温度等の熱的特性や機械的特性も異なるから、本件実施例1と甲1発明のプロトン伝導性ポリマーについて、その熱的特性や機械的特性が同じになっているとはいえない。

(エ)次に、ナノファイバーシートについて検討する。本件実施例1と甲1発明のナノファイバーシート(エレクトロスピニングマット)は、いずれも、エレクトロスピニング法(電界紡糸法)によって製造されており、その原料もPBI(ポリベンゾ(ズ)イミダゾール)で共通である。
しかしながら、本件実施例1のナノファイバーの平均繊維径が250nmであるのに対して、甲1発明のナノファイバーの平均繊維直径が200nmであり、同じ材料から製造された繊維であってもその直径が異なればその機械的特性が同じになるとはいえない。

(オ)最後に、複合高分子電解質膜について検討する。本件実施例1と甲1発明の複合高分子電解質膜の製造方法の最後の工程である熱処理について、本件実施例1の製造工程では「170℃で20分間アニール処理」を施すのに対して、甲1発明の製造工程では「高温(160℃)でホットプレス(25kg/cm2)」を施すから、両者で熱処理温度が異なり、プレスの有無も異なる。そして、本件明細書の段落【0049】には「この熱処理によりプロトン伝導性ポリマーのパーフルオロアルキル骨格の結晶化が進み、その結果、電解質膜の機械的強度が更に安定化され得る。・・・熱処理の温度を上記範囲に調整することで、結晶化が十分に進み電解質膜の機械的強度が向上する。」と記載されていることから、熱処理温度が異なればポリマーの結晶化の程度が異なるので機械的特性も異なるといえる。

(カ)そうすると、たとえ本件実施例1と甲1発明の複合高分子電解質膜が、その製造方法及び使用する原料に共通する点があるとしても、両者はプロトン伝導性ポリマーの分子量や主鎖の長さが同じであるとはいえないから熱的特性や機械的特性が同じになるとはいえず、また、両者はナノファイバーの平均繊維径が異なるのでその機械的特性が異なり、複合高分子電解質膜の熱処理工程において熱処理温度やプレスの有無が異なるのでその機械的特性が異なるから、甲1発明の電解質膜の「シート形状の面方向における20℃から120℃の平均線膨張率」が、本件実施例1の電解質膜と同程度の値になっているとはいえず、その具体的な値は不明である。
また、実施例1と同様の製造方法で作製された実施例2〜10、比較例3〜8の記載を参照しても、甲1発明の電解質膜の「シート形状の面方向における20℃から120℃の平均線膨張率」が上記実施例や比較例と同程度の値になっている根拠を見いだせず、どのような値になっているかは不明である。
さらに、甲1には、電解質膜の「シート形状の面方向における20℃から120℃の平均線膨張率」についての明記もない。

(キ)したがって、甲1発明において、「電解質膜」の「シート形状の面方向における20℃から120℃の平均線膨張率」がどのような値になっているか不明であるから、上記相違点1は実質的な相違点である。

(ク)そして、いずれの甲号証にも、「電解質膜」の「シート形状の面方向における20℃から120℃の平均線膨張率」を「300ppm/K以下」とすることを動機付ける記載は認められない。したがって、甲1発明において、相違点1に係る本件発明1の特定事項とすること、すなわち、「電解質膜」の「シート形状の面方向における20℃から120℃の平均線膨張率」を「300ppm/K以下」とすることが、当業者にとって容易になし得ることであるとはいえない。

(ケ)また、本件発明1は、「電解質膜」の「シート形状の面方向における20℃から120℃の平均線膨張率」を「300ppm/K以下」とすることにより、耐熱性に一層優れ、クリープ変形により強く、かつ外部からの負荷によっても更に薄膜化し難いので、寸法変化の抑制により好適な複合体とすることができるという優れた効果を奏することができる(【0030】)。

ケ 小括
以上の検討より、本件発明1は、甲1に記載されたものではなく、また、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(4)本件発明2〜3、5〜7について
本件発明2〜3、5〜7は、本件発明1を引用して、さらに限定するものであるから、上記(3)において本件発明1について検討した理由と同様の理由によって、甲1に記載されたものではなく、また、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(5)本件発明8について
ア 本件発明8の電解質膜は、本件発明1の電解質膜と「シート形状の面方向における20℃から150℃の平均線膨張率が350ppm/K以下」である点でのみ相違するから、本件発明8と甲1発明を対比すると、上記(3)ア〜カの本件発明1についての検討と同様にして、一致点、相違点は次のとおりとなる。

<一致点>
「目付が1.5g/m2以上4.0g/m2以下であるナノファイバーシートと、プロトン伝導性ポリマーと、を備える複合高分子電解質膜であって、
前記電解質膜は、前記プロトン伝導性ポリマーと前記ナノファイバーシートとを複合化したシート形状を有しており、
前記ナノファイバーシートにおける繊維の平均繊維径は100nm以上500nm以下である、電解質膜」の点。
<相違点2>
「電解質膜」の「シート形状の面方向における20℃から150℃の平均線膨張率」が、本件発明8では「350ppm/K以下」であるのに対して、甲1発明では特定されておらず不明である点。

イ 相違点2について検討する。甲1発明において、「電解質膜」の「シート形状の面方向における20℃から150℃の平均線膨張率」がどのような値になっているかは、相違点1についての上記(3)クの検討と同様の理由で不明であるから、上記相違点2は実質的な相違点である。

ウ そして、いずれの甲号証にも、「電解質膜」の「シート形状の面方向における20℃から150℃の平均線膨張率」を「350ppm/K以下」とすることを動機付ける記載は認められない。したがって、甲1発明において、相違点2に係る本件発明8の特定事項とすること、すなわち、「電解質膜」の「シート形状の面方向における20℃から150℃の平均線膨張率」を「350ppm/K以下」とすることが、当業者にとって容易になし得ることであるとはいえない。

エ また、本件発明8は、「電解質膜」の「シート形状の面方向における20℃から150℃の平均線膨張率」を「350ppm/K以下」とすることにより、耐熱性に一層優れ、クリープ変形により強く、かつ外部からの負荷によっても更に薄膜化し難いので、寸法変化の抑制により好適な複合体とすることができるという優れた効果を奏することができる(【0030】)。

オ 以上の検討より、本件発明8は、甲1に記載されたものではなく、また、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(6)本件発明9について
ア 本件発明9と甲1発明を対比すると、上記(3)ア〜カの本件発明1についての検討と同様にして、一致点、相違点は次のとおりとなる。

<一致点>
「目付が1.5g/m2以上4.0g/m2以下であるナノファイバーシートと、プロトン伝導性ポリマーと、を備える複合高分子電解質膜であって、
前記電解質膜は、前記プロトン伝導性ポリマーと前記ナノファイバーシートとを複合化したシート形状を有しており、
前記プロトン伝導性ポリマーはシート形状を有している、電解質膜」の点。
<相違点3>
「ナノファイバーシートの面方向における20℃から120℃の平均線膨張率」が、本件発明9では「250ppm/K以下」であるのに対して、甲1発明では特定されておらず不明である点。
<相違点4>
「プロトン伝導性ポリマーを厚さ15μmのシート形状を有するように成形した場合の、前記厚さ15μmのシート形状の面方向における20℃から120℃の平均線膨張率」が、本件発明9では「1550ppm/K以下」であるのに対して、甲1発明では特定されておらず不明である点。

イ 事案に鑑みて、相違点4について検討する。
(ア)上記(3)ク(イ)〜(ウ)で検討したように、本件実施例1のプロトン伝導性ポリマーであるパーフルオロカーボンスルホン酸樹脂(−[CF2CF2]−[CF2−CF(−O−(CF2)2−SO3H)]−)と甲1発明のAquivion([CF2CF(OCF2CF2SO3H)m[CF2CF2]n)は、2種類の同一のモノマーが重合している点で共通しているが、本件実施例1のプロトン伝導性ポリマーは本件特許の発明者が自ら製造したものであるのに対して、甲1発明のAquivionはSolvay Specialty Polymer社が販売している(しかも同じAquivion名で複数種類の製品が存在している)ものであることからわかるように、両ポリマーは、重合状態が同じとはいえず、そのため当該ポリマーの分子量や主鎖の長さやポリマー中のm、nの数値が同一であるとはいえない。

(イ)そして、モノマーの構成が同じでも、ポリマーの分子量や主鎖の長さが異なれば、隣接する分子間に働く分子間力が異なるので、ガラス転移温度等の熱的特性や機械的特性も異なるから、本件実施例1と甲1発明のプロトン伝導性ポリマーについて、「厚さ15μmのシート形状を有するように成形した場合の、前記厚さ15μmのシート形状の面方向における20℃から120℃の平均線膨張率」が同じになっているとはいえず、その具体的な値は不明である。

(ウ)したがって、甲1発明において、「プロトン伝導性ポリマーを厚さ15μmのシート形状を有するように成形した場合の、前記厚さ15μmのシート形状の面方向における20℃から120℃の平均線膨張率」がどのような値になっているか不明であるから、上記相違点4は実質的な相違点である。

(エ)そして、いずれの甲号証にも、「プロトン伝導性ポリマーを厚さ15μmのシート形状を有するように成形した場合の、前記厚さ15μmのシート形状の面方向における20℃から120℃の平均線膨張率」を「1550ppm/K以下」とすることを動機付ける記載は認められない。したがって、甲1発明において、相違点4に係る本件発明9の特定事項とすること、すなわち、「プロトン伝導性ポリマーを厚さ15μmのシート形状を有するように成形した場合の、前記厚さ15μmのシート形状の面方向における20℃から120℃の平均線膨張率」を「1550ppm/K以下」とすることが、当業者にとって容易になし得ることであるとはいえない。

(オ)また、本件発明9は、「プロトン伝導性ポリマーを厚さ15μmのシート形状を有するように成形した場合の、前記厚さ15μmのシート形状の面方向における20℃から120℃の平均線膨張率」を「1550ppm/K以下」とすることにより、ナノファイバーシートと複合化して得られる複合高分子電解質膜が、120℃の過酷な環境下においても一層優れた耐久性を有し、面方向の寸法変化を更に抑制することできるという優れた効果を奏するものである(【0046】参照)。

ウ 小括
以上の検討より、相違点3について検討するまでもなく、本件発明9は、甲1に記載されたものではないし、また、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

3 申立理由2、4(甲2を主たる引用例とする新規性進歩性)について
(1)甲2に記載された事項
ア 甲2には、以下の事項が記載されている。
(2ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子形燃料電池に使用される高分子電解質膜に関する。」

(2イ)「【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池に使用される高分子電解質膜は、発電性能の向上を目的として、薄膜化される傾向にある。電解質膜に使用される高分子電解質として、ナフィオン(登録商標、デュポン社製)などに代表されるフッ素系材料が用いられているが、電解質樹脂のみからなる膜を薄膜化すると、膜の機械強度が弱いために取扱いが困難となる。
そこで、電解質膜の強度向上手段として、各種基材を補強材として用いることが提案されている。例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の多孔質膜(特許文献1)、フルオロカーボンのフィブリル(特許文献2)、ポリイミド多孔質膜(特許文献3)、又はガラス不織布(特許文献4)を用いることが提案されている。また、本出願人もナノファイバー不織布(特許文献5)を補強材としたイオン伝導膜を提案した。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、これらの方法では、電解質膜の引張強度を向上させることはできるが、実際に燃料電池として評価を行った場合、繰り返し発電を行うと電解質膜に亀裂が生じ、電池の耐久性に劣るという問題があった。
従って、本発明の課題は、繰り返し発電を行っても電解質膜に亀裂が生じることがなく、耐久性に優れた燃料電池を製造することのできる高分子電解質膜を提供することにある。」

(2ウ)「【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題は、本発明による、エラストマー繊維からなるナノファイバー不織布の空隙にイオン伝導性樹脂が充填されていることを特徴とする、高分子電解質膜により解決することができる。
本発明の好ましい態様では、前記ナノファイバー不織布が静電紡糸法により調製されたものである。
また、本発明の別の好ましい態様では、前記ナノファイバー不織布が親水化処理されたものである。
本発明の更に別の好ましい態様では、前記エラストマー繊維がポリウレタン繊維である。
また、本発明は、高分子電解質膜を含む、固体高分子形燃料電池に関する。」

(2エ)「【0012】
本発明の高分子電解質膜に用いるイオン伝導性樹脂としては、固体高分子形燃料電池のイオン交換膜として一般的に使用されている、プロトン(水素イオン)交換基を有する各種イオン伝導性樹脂を用いることができる。プロトン交換基としては、例えば、スルホン酸基、カルボン酸基、リン酸基などを挙げることができ、これらの中でも、フルオロアルキルエーテル側鎖とフルオロアルキル主鎖から構成されるプロトン交換基を有する樹脂、例えば、ナフィオン(登録商標、デュポン社製)を使用することができる。」

(2オ)「【0018】
<実施例1>ポリウレタンナノファイバー不織布を基材とした場合
(1)ポリウレタンナノファイバー不織布の作製
ポリウレタン溶液(DIC株式会社製、クリスボンS−125)にジメチルホルムアミド(DMF)を加え、ポリマー濃度が15wt%の紡糸液を調製した。
次いで、吐出量1g/hr、ノズルとターゲットの距離10cm、印加電圧+10kV、紡糸雰囲気の温湿度25℃/45%RHの条件で静電紡糸を行い、続いて140℃のオーブン中で30分間の熱処理を行い、目付2.7g/m2のポリウレタンナノファイバー不織布を作製した。この不織布の平均繊維径は750nmであり、シートの厚さは11μmであった。
【0019】
(2)複合膜の作製
5%ナフィオン溶液をシャーレに注ぎ、その上に80mm×80mmにカットしたポリウレタンナノファイバー不織布をのせ、溶媒を蒸発させた。その後、130℃の高温槽中で10分間熱処理を行い、複合した高分子電解質膜(複合膜)を作製した。高分子電解質膜(複合膜)の厚さは23μmであった。
【0020】
(3)複合膜の物性評価
複合膜の弾性率は132MPa、破断応力は11.2MPaであった。また、引裂き強度は6.7N/mmであった。」

(2カ) 「【0027】
<比較例2>ポリアクリロニトリル(PAN)ナノファイバーを基材として用いた場合
(1)ポリアクリロニトリルナノファイバー不織布の作製
重量平均分子量50万のポリアクリロニトリルをDMFに溶解させ、濃度10.5%の紡糸液を調製した。
次いで、吐出量1g/hr、ノズルとターゲットの距離10cm、印加電圧+8kV、紡糸雰囲気の温湿度25℃/23%RHの条件で静電紡糸を行い、続いて160℃のオーブン中で30分間の熱処理を行い、目付2.4g/m2のポリアクリロニトリルナノファイバー不織布を作製した。この不織布の平均繊維径は330nmであり、厚さは12μmであった。
【0028】
(2)複合膜の作製
ポリウレタンナノファイバー不織布の代わりに、ポリアクリロニトリルナノファイバー不織布を使用すること以外は、実施例1(2)に記載の操作を繰り返すことにより、高分子電解質膜(複合膜)を作製した。高分子電解質膜(複合膜)の厚さは13μmであった。
【0029】
(3)複合膜の物性評価
高分子電解質膜(複合膜)の弾性率は450MPa、破断応力は18.0MPaであった。また、引裂き強度は1.1N/mmであった。」

(2)甲2に記載された発明
ア 上記(2ア)によれば、甲2には、固体高分子形燃料電池に使用される高分子電解質膜が開示されている。

イ 上記(2イ)によれば、甲2における目的は、繰り返し発電を行っても電解質膜に亀裂が生じることがなく、耐久性に優れた燃料電池を製造することのできる高分子電解質膜を提供することである。

ウ 上記(2カ)によれば、比較例2の高分子電解質膜の製造方法は次のとおりである。
(ア)静電紡糸を行って、目付2.4g/m2のポリアクリロニトリルナノファイバー不織布を作製する。また、この不織布の平均繊維径は330nm、厚さは12μmである。
(イ)5%ナフィオン溶液をシャーレに注ぎ、その上に80mm×80mmにカットしたポリアクリロニトリルナノファイバー不織布をのせ、溶媒を蒸発させ、130℃の高温槽中で10分間熱処理を行う。(なお、上記【0005】の記載によれば、この工程により、ポリアクリロニトリルナノファイバー不織布の空隙にイオン伝導性樹脂であるナフィオンが充填されるものと認められる。)
(ウ)上記(イ)の工程を繰り返して厚さは13μmの複合した高分子電解質膜を作成する。

エ 上記ウの製造方法によって製造された複合した高分子電解質膜は次の特徴を有するものである。
(ア)ポリアクリロニトリルナノファイバー不織布の空隙にナフィオンを充填し、乾燥し、130℃の高温槽中で10分間熱処理を行った、複合した高分子電解質膜である。
(イ)上記(ア)の複合した高分子電解質膜の形状は膜形状である。
(ウ)上記【0012】の記載によれば、ナフィオンはプロトン伝導性樹脂である。
(エ)上記(ア)のポリアクリロニトリルナノファイバー不織布は、ポリアクリロニトリルを原料とした静電紡糸によって製造されたものであり、平均繊維径330nmのナノファイバーを含み、厚さは12μm、目付2.4g/m2である。

オ 上記ア〜エの検討を総合すれば、比較例2の製法によって製造した電解質膜に注目すると、甲2には、次の電解質膜が記載されているものと認められる。

「ポリアクリロニトリルナノファイバー不織布の空隙にナフィオンを充填し、乾燥し、130℃の高温槽中で10分間熱処理を行った、複合した高分子電解質膜であって、
前記ナフィオンはプロトン伝導性樹脂であり、
前記ポリアクリロニトリルナノファイバー不織布は、ポリアクリロニトリルを原料として静電紡糸によって製造された平均繊維径330nmのナノファイバーを含み、厚さは12μm、目付2.4g/m2である、
複合した高分子電解質膜。」(以下「甲2発明」という。)

(3)本件発明1について
本件発明1の電解質膜と甲2発明の電解質膜を対比する。
ア 甲2発明の「ポリアクリロニトリルナノファイバー不織布」は、静電紡糸によって製造された平均繊維径330nmのナノファイバーを含んでおり、当該不織布はシート形状に形成されているといえるから、本件発明1の「ナノファイバーシート」に相当する。

イ 甲2発明の「ポリアクリロニトリルナノファイバー不織布」の「目付2.4g/m2」であることは、本件発明1の「ナノファイバーシート」の「目付が1.5g/m2以上4.0g/m2以下である」ことに相当する。

ウ 甲2発明の「プロトン伝導性樹脂」である「ナフィオン」は、本件発明1の「プロトン伝導性ポリマー」に相当する。

エ 本件発明1の「複合高分子電解質膜」が「プロトン伝導性ポリマーと前記ナノファイバーシートとを複合化した」ものであるとは、上記2(3)エに記載した本件発明の製造方法を参照すると、ナノファイバーシートにプロトン導電性ポリマーを含浸させ、乾燥させ、アニール処理したものであることを意味するものと解されるところ、甲2発明の「複合した高分子電解質膜」も、上記(2)ウに記載した製造方法のように、ポリアクリロニトリルナノファイバー不織布にプロトン伝導性樹脂であるナフィオンを充填させ、乾燥させ、熱処理したものであるから、本件発明1と同様の「複合高分子電解質膜」であるといえる。
したがって、甲2発明の「複合した高分子電解質膜」が「ポリアクリロニトリルナノファイバー不織布の空隙にナフィオンを充填し、乾燥し、130℃の高温槽中で10分間熱処理を行った」「膜」であることは、本件発明1の「電解質膜」が「複合高分子電解質膜」であり、また、「前記プロトン伝導性ポリマーと前記ナノファイバーシートとを複合化したシート形状を有して」いるものであることに相当する。

オ 甲2発明の「ポリアクリロニトリルナノファイバー不織布」に含まれる「ナノファイバー」が「平均繊維径330nm」であることは、本件発明1の「ナノファイバーシートにおける繊維の平均繊維径は100nm以上500nm以下である」ことに相当する。

カ 上記ア〜オの検討によれば、本件発明1と甲2発明の一致点と相違点は次のとおりである。
<一致点>
「目付が1.5g/m2以上4.0g/m2以下であるナノファイバーシートと、プロトン伝導性ポリマーと、を備える複合高分子電解質膜であって、
前記電解質膜は、前記プロトン伝導性ポリマーと前記ナノファイバーシートとを複合化したシート形状を有しており、
前記ナノファイバーシートにおける繊維の平均繊維径は100nm以上500nm以下である、電解質膜」の点。
<相違点5>
「電解質膜」の「シート形状の面方向における20℃から120℃の平均線膨張率」が、本件発明1では「300ppm/K以下」であるのに対して、甲2発明では特定されておらず不明である点。

キ 上記相違点5について検討する。
(ア)甲2には、甲2発明において「電解質膜」の「シート形状の面方向における20℃から120℃の平均線膨張率」がどのような値であるかを示すような記載はないが、ナノファイバー不織布がポリアクリロニトリルから製造されている点で本件明細書の段落【0093】に記載された比較例7(以下、「本件比較例7」という。)と同様であり、また、プロトン伝導性樹脂としてナフィオンを用いている点で本件明細書の段落【0095】に記載された比較例9(以下、「本件比較例9」という。)と同様であるから、本件比較例7、9のデータを参照して、甲2発明における「電解質膜」の「シート形状の面方向における20℃から120℃の平均線膨張率」が「300ppm/K以下」といえるかについて検討する。

(イ)本件比較例7における、ポリアクリロニトリル(PAN)から製造されているナノファイバーシートの「シート形状の面方向における20℃から120℃の平均線膨張率」は、下記表2によれば、MD方向49、TD方向446(ppm/K)である。
「【0097】
【表2】



(ウ)プロトン伝導性ポリマーがナフィオンである本件比較例9は、ナノファイバーシートによる補強がされていないので、表1に記載された電解質膜の「20−120℃のCTE(シート形状の面方向における20℃から120℃の平均線膨張率)」は、ナフィオン膜単独の「シート形状の面方向における20℃から120℃の平均線膨張率」を表すものと解することができる。したがって、ナフィオンの「シート形状の面方向における20℃から120℃の平均線膨張率」は、表1(上記2(3)エに掲載)を参照すると、MD方向1620、TD方向1620(ppm/K)である。

(エ)したがって、上記(ウ)によれば、ナフィオンの「シート形状の面方向における20℃から120℃の平均線膨張率」は、MD方向TD方向とも1620ppm/Kと非常に大きい上に、上記(イ)によれば、ポリアクリロニトリルナノファイバー不織布の「シート形状の面方向における20℃から120℃の平均線膨張率」もMD方向49、TD方向446(ppm/K)であり、TD方向は300ppm/Kを超えているために、上記ポリアクリロニトリルナノファイバー不織布とナフィオンを複合した甲2発明の電解質膜が、「シート形状の面方向における20℃から120℃の平均線膨張率が300ppm/K以下」であるということはできない。

(オ)なお、本件明細書には
「【0046】
・・・プロトン伝導性ポリマーを厚さ15μmのシート形状を有するように成形した場合、このシート形状を有するプロトン伝導性ポリマー(以下、「プロトン伝導ポリマーシート」ともいう)は、面方向における20℃から120℃における平均線膨張率が1550ppm/K以下であることが好ましく、1400ppm/K以下であるとより好ましく、1200ppm/K以下が更に好ましい。プロトン伝導性ポリマーシートの平均線膨張率が1550ppm/K以下であると、ナノファイバーシートと複合化して得られる複合高分子電解質膜が、120℃の過酷な環境下においても一層優れた耐久性を有し、面方向の寸法変化を更に抑制することできる。・・・」
と記載されており、ナフィオンの「シート形状の面方向における20℃から120℃の平均線膨張率」が1620ppm/Kであることは、本件発明において、プロトン伝導性ポリマーとして採用し得る好ましい材料の条件には該当しないものであるし、プロトン伝導性ポリマーとしてナフィオンを採用した電解質膜について、比較例9に不適切な例として言及されているのみであり、好ましい実施例としての言及はない。

(カ)したがって、甲2発明の電解質膜が、「シート形状の面方向における20℃から120℃の平均線膨張率が300ppm/K以下」であるとはいえないから、上記相違点5は実質的な相違点である。

(キ)そして、いずれの甲号証にも、「電解質膜」の「シート形状の面方向における20℃から120℃の平均線膨張率」を「300ppm/K以下」とすることを動機付ける記載は認められない。したがって、甲2発明において、相違点5に係る本件発明1の特定事項とすること、すなわち、「電解質膜」の「シート形状の面方向における20℃から120℃の平均線膨張率」を「300ppm/K以下」とすることが、当業者にとって容易になし得ることであるとはいえない。

なお、甲2発明は、甲2の比較例2に基づいて認定されたものであるが、比較例2は引裂き強度が1.1N/mm(【0029】)であり、実施例の引裂き強度6.7N/mm(【0020】)に比べて引裂き強度が大幅に不足しているものであって、甲2における、繰り返し発電を行っても電解質膜に亀裂が生じることがなく、耐久性に優れた燃料電池を製造することのできる高分子電解質膜を提供するとの課題(【0004】)を解決することができないものであるから、実施例の発明に注目することなく、課題を解決することのできない比較例である甲2発明に基づいて新たな発明をすることは、通常考えられない。

(ク)また、本件発明1は、「電解質膜」の「シート形状の面方向における20℃から120℃の平均線膨張率」を「300ppm/K以下」とすることにより、耐熱性に一層優れ、クリープ変形により強く、かつ外部からの負荷によっても更に薄膜化し難いので、寸法変化の抑制により好適な複合体とすることができるという優れた効果を奏することができる(【0030】)。

ク 小括
以上の検討より、本件発明1は、甲2に記載されたものではなく、また、甲2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(4)本件発明3、6について
本件発明3、6は、本件発明1を引用して、さらに限定するものであるから、上記(3)において、本件発明1について検討した理由と同様の理由によって、甲2に記載されたものではなく、また、甲2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(5)本件発明8について
ア 本件発明8の電解質膜は、本件発明1の電解質膜と「シート形状の面方向における20℃から150℃の平均線膨張率が350ppm/K以下」である点でのみ相違するから、本件発明8と甲1発明を対比すると、上記(3)ア〜カの本件発明1についての検討と同様にして、一致点、相違点は次のとおりとなる。

<一致点>
「目付が1.5g/m2以上4.0g/m2以下であるナノファイバーシートと、プロトン伝導性ポリマーと、を備える複合高分子電解質膜であって、
前記電解質膜は、前記プロトン伝導性ポリマーと前記ナノファイバーシートとを複合化したシート形状を有しており、
前記ナノファイバーシートにおける繊維の平均繊維径は100nm以上500nm以下である、電解質膜」の点。
<相違点6>
「電解質膜」の「シート形状の面方向における20℃から150℃の平均線膨張率」が、本件発明8では「350ppm/K以下」であるのに対して、甲2発明では特定されておらず不明である点。

イ 相違点6について検討する。
(ア)甲2には、甲2発明において「電解質膜」の「シート形状の面方向における20℃から150℃の平均線膨張率」がどのような値であるかを示す記載はない。

(イ)また、本件比較例7は、ナノファイバー不織布がポリアクリロニトリルから製造されている点で、本件比較例9はプロトン伝導性樹脂としてナフィオンを用いている点で甲2発明と共通しているけれども、本件比較例7,9の「シート形状の面方向における20℃から150℃の平均線膨張率」は記載されていないので、本件比較例7,9についての記載に基づいて、甲2発明において「電解質膜」の「シート形状の面方向における20℃から150℃の平均線膨張率」がどのような値であるかを推定することもできない。

(ウ)したがって、甲2発明において、「電解質膜」の「シート形状の面方向における20℃から150℃の平均線膨張率」がどのような値になっているかは不明であるから、上記相違点6は実質的な相違点である。

(エ)そして、いずれの甲号証にも、「電解質膜」の「シート形状の面方向における20℃から150℃の平均線膨張率」を「350ppm/K以下」とすることを動機付ける記載は認められない。したがって、甲2発明において、相違点6に係る本件発明8の特定事項とすること、すなわち、「電解質膜」の「シート形状の面方向における20℃から150℃の平均線膨張率」を「350ppm/K以下」とすることが、当業者にとって容易になし得ることであるとはいえない。

(オ)また、本件発明8は、「電解質膜」の「シート形状の面方向における20℃から150℃の平均線膨張率」を「350ppm/K以下」とすることにより、耐熱性に一層優れ、クリープ変形により強く、かつ外部からの負荷によっても更に薄膜化し難いので、寸法変化の抑制により好適な複合体とすることができるという優れた効果を奏することができる(【0030】)。

ウ 小括
以上の検討より、本件発明8は、甲2に記載されたものではなく、また、甲2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。


第6 まとめ
以上のとおり、取消理由通知書に記載した取消理由、及び特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、本件訂正後の請求項1〜3、5〜9に係る特許を取り消すことはできない。また、他に本件訂正後の請求項1〜3、5〜9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
目付が1.5g/m2以上4.0g/m2以下であるナノファイバーシートと、プロトン伝導性ポリマーと、を備える複合高分子電解質膜であって、
前記電解質膜は、前記プロトン伝導性ポリマーと前記ナノファイバーシートとを複合化したシート形状を有しており、かつ、前記シート形状の面方向における20℃から120℃の平均線膨張率が300ppm/K以下であり、
前記ナノファイバーシートにおける繊維の平均繊維径は100nm以上500nm以下である、電解質膜。
【請求項2】
前記ナノファイバーシートの面方向における20℃から120℃の平均線膨張率が250ppm/K以下である、請求項1に記載の電解質膜。
【請求項3】
前記プロトン伝導性ポリマーを厚さ15μmのシート形状を有するように成形した場合の、前記厚さ15μmのシート形状の面方向における20℃から120℃の平均線膨張率が1550ppm/K以下である、請求項1または2に記載の電解質膜。
【請求項4】
前記ナノファイバーシートの空隙率(%)が75%以上90%以下であり、
前記電解質膜における前記ナノファイバーシートは、前記プロトン伝導性ポリマーへの含浸前に比べて、50%以上75%以下の範囲で膜厚が収縮したものであり、前記電解質膜の厚さに対する前記ナノファイバーシートの厚さの比率が25%以上60%未満である、請求項1から3のいずれか一項に記載の電解質膜。
【請求項5】
前記ナノファイバーシートは、ポリエーテルスルホン、ポリベンゾイミダゾール及びポリイミドからなる群より選ばれる1種以上を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の電解質膜。
【請求項6】
前記ナノファイバーシートの前記プロトン伝導性ポリマーへの含浸前の厚さは8μm以上28μm以下である、請求項1から5のいずれか一項に記載の電解質膜。
【請求項7】
前記ナノファイバーシートの面方向における20℃から120℃の平均線膨張率が200ppm/K以下であり、前記プロトン伝導性ポリマーを厚さ15μmのシート形状を有するように成形した場合の、前記厚さ15μmのシート形状の面方向における20℃から120℃の平均線膨張率が1550ppm/K以下である、請求項1から6のいずれか一項に記載の電解質膜。
【請求項8】
目付が1.5g/m2以上4.0g/m2以下であるナノファイバーシートと、プロトン伝導性ポリマーと、を備える複合高分子電解質膜であって、
前記電解質膜は、前記プロトン伝導性ポリマーと前記ナノファイバーシートとを複合化したシート形状を有しており、かつ、前記シート形状の面方向における20℃から150℃の平均線膨張率が350ppm/K以下であり、
前記ナノファイバーシートにおける繊維の平均繊維径は100nm以上500nm以下である、電解質膜。
【請求項9】
目付が1.5g/m2以上4.0g/m2以下であるナノファイバーシートと、プロトン伝導性ポリマーと、を備える複合高分子電解質膜であって、
前記電解質膜は、前記プロトン伝導性ポリマーと前記ナノファイバーシートとを複合化したシート形状を有しており、かつ、
前記プロトン伝導性ポリマーはシート形状を有しており、
前記ナノファイバーシートの面方向における20℃から120℃の平均線膨張率が250ppm/K以下であり、前記プロトン伝導性ポリマーを厚さ15μmのシート形状を有するように成形した場合の、前記厚さ15μmのシート形状の面方向における20℃から120℃の平均線膨張率が1550ppm/K以下である、電解質膜。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-08-01 
出願番号 P2019-511254
審決分類 P 1 652・ 113- YAA (H01M)
P 1 652・ 121- YAA (H01M)
P 1 652・ 537- YAA (H01M)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 粟野 正明
特許庁審判官 太田 一平
池渕 立
登録日 2021-04-14 
登録番号 6868685
権利者 旭化成株式会社
発明の名称 複合高分子電解質膜  
代理人 稲葉 良幸  
代理人 内藤 和彦  
代理人 稲葉 良幸  
代理人 江口 昭彦  
代理人 江口 昭彦  
代理人 内藤 和彦  
代理人 大貫 敏史  
代理人 大貫 敏史  

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