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審決分類 審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61K
審判 一部申し立て 2項進歩性  A61K
審判 一部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A61K
管理番号 1389403
総通号数 10 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-10-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-12-06 
確定日 2022-09-27 
異議申立件数
事件の表示 特許第6896700号発明「ワクチン組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6896700号の請求項1〜3、5に係る特許を維持する。 
理由 [第1]手続の経緯
特許第6896700号の請求項1〜12に係る特許についての出願は、平成28年7月15日(パリ優先権主張外国庁受理 2015年7月16日 インド)を国際出願日とする出願であって、令和3年6月11日にその特許権の設定登録がされ、同年6月30日に特許掲載公報が発行され、同年12月6日にその特許に対し、特許異議申立人:金田綾香(以下、単に「申立人」ということがある)により特許異議の申立てがされたものである。


[第2]本件特許発明
特許第6896700号の請求項1〜12のうち、本件の異議申立に係る請求項1〜3及び5を含む請求項1〜5の特許に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1〜5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「 【請求項1】
ジカウイルス感染に対するワクチン組成物であって、0.125μg〜100μgの量で投与される、不活化全ビリオン(ウイルス)抗原、及び精製された組換えジカウイルス抗原から選択されるジカウイルス抗原と、薬学的に許容される緩衝剤と、アルミニウム0.1mg〜1.5mgの量で投与される水酸化アルミニウムとを含み、前記精製された組換えジカウイルス抗原が、配列番号3及び配列番号4に開示される構造タンパク質配列を有する、前記ワクチン組成物。

【請求項2】
緩衝剤が、緩衝剤の1つとして、リン酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、リン酸クエン酸緩衝剤、ホウ酸緩衝剤、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(トリス)含有緩衝剤、コハク酸緩衝剤、及びグリシン又はヒスチジンを含有する緩衝剤から選択される、請求項1に記載のワクチン組成物。

【請求項3】
リン酸緩衝液が、リン酸イオン濃度5mM〜200mM、pH6.50〜9の任意のpHであり、任意選択で塩化ナトリウムを50〜200mMの濃度で含有するリン酸ナトリウム緩衝液である、請求項2に記載のワクチン組成物。

【請求項4】
精製された組換えジカウイルス抗原が、エンベロープ(E)タンパク質及び膜(M)タンパク質をワクチン抗原として含む、請求項1〜3のいずれかに記載のワクチン組成物。

【請求項5】
2−フェノキシエタノール保存剤を2.5〜5mg/mLの濃度で含んでいてよい、請求項1〜4のいずれかに記載のワクチン組成物。 」

[※当審注:
以下、本件の異議申立に係る上の請求項1〜請求項3、請求項5に係る発明を順に「本件発明1」〜「本件発明3」、「本件発明5」ということがあり、また、それらをまとめて単に「本件発明」ということがある。]


[第3]特許異議申立ての理由

申立人は、特許異議申立書(以下、単に「異議申立書」ということがある)において、以下の甲号証を提出しつつ、本件発明は次の1及び2により取り消されるべきものと主張している。

1 申立理由1(特許法第29条第2項(同法第113条第2号))
本件発明1〜3、5は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2〜4号証に記載された発明を組み合わせることにより、若しくは、更に甲第5〜8号証の記載を更に組み合わせることにより、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、それら本件発明1〜3、5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明についてなされたものであって、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

2 申立理由2(特許法第36条第4項第1号及び同条第6項第1号(同法第113条第4号
(1) 本件発明1〜3、5に係る特許は、特許明細書の発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない請求項の発明についてなされたものであって、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
(2) 本件発明1〜3、5に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない請求項の発明についてなされたものであって、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

[甲号証]
・甲第1号証:N. ENGL. J. MED., (2011) 364, P.1326-1333
・甲第2号証:LANCET, (2007) 370, P.1847-1853
・甲第3号証:VACCINE, (AVAILABLE ONLINE: 2015 APR. 7) 33, P.4261-4268
・甲第4号証:AM. J. TROP. MED. HYG., (EPUB: 2015 FEB. 2) 92(4),P.698-708
・甲第5号証:VACCINE, (2006) 24, P.652-661
・甲第6号証:VACCINE, (2008) 26, P.2350-2359
・甲第7号証:VACCINE, (2007) 25, P.3554-3560
・甲第8号証:INTERNATIONAL IMMUNOLOGY, (2004) 16(10),P.1423-1430

[※当審注:
以下、上の1、2を順に「申立理由1」、「申立理由2」ということがある。
また、「甲第1号証」〜「甲第8号証」を順に「甲1」〜「甲8」ということがある。]


[第4]当審の判断
当審は、本件発明1〜3、5に係る特許については、申立理由1、2のいずれによっても取り消されるべきものではなく、申立理由1、2のいずれも理由がないと判断する。
以下、各申立理由に対する合議体の判断について詳述する。

[第4−1]申立理由1について

1.甲1〜甲8の記載事項
[※当審注:
・甲1〜甲8はいずれも英語で記載されているため、摘記箇所の記載は異議申立書中の記載を考慮した当審による日本語文で示す。
・下線は当審による(以下同様)。]

(1)甲1
・甲1−1(標題)
「黄熱病に対する不活化細胞培養ワクチン」

・甲1−2(要約)
「背景
黄熱病はアフリカや南アメリカで発生する致死性でウイルス性の出血性熱病である。極めて有効な生ワクチン(17D)が黄熱病が特有の地域で旅行者や住民に利用されているが、当該ワクチンは内臓指向性疾患を含む重篤な副作用を引き起こす可能性があり、・・・より安全で、複製を生じないワクチンが求められている。
方法
18〜49歳の60人の健康な被験者を対象とする、二重盲検プラセボ対照用量漸増第1相試験において、Vero細胞培養で産生され水酸化アルミニウム(アルム)アジュバントに吸着されたβ−プロピオラクトン不活化黄熱病ウイルスであるXRX−001精製全粒子ウイルスについて、その安全性および免疫原性を調査した。21日の間隔を空けた2回の訪問時、被験者は0.48μg又は4.8μgの抗原を含むワクチンの筋肉内注射を受けた。中和抗体のレベルがベースライン時、21日目、31日目、及び42日目において測定された。
結果
ワクチンは4.8μg抗原を受けた被験者の100%、及び0.48μgの抗原を受けた被験者の88%で、中和抗体の発現を誘導した。抗体レベルは2回目の注射後10日までに増大し、その時点のレベルは4.8μg処方者において0.48μg処方者より高かった(幾何平均抗体価、146対39;p<0.001)。・・・
結論
不活化黄熱病抗原及びアルムアジュバントを含むXRX−001ワクチンの2種の用量レジメンは被験者に対し高い割合で中和抗体を誘導した。XRX−001はより安全な弱毒化生17Dワクチンの代替物となる可能性がある。」

・甲1−3(1327頁右欄35行〜1328頁左欄5行)
「ワクチン
ワクチンは、無血清培地を含む撹拌槽内マイクロキャリアビーズ上のVero細胞中で生育された黄熱17Dウイルスで構成される。ウイルスを含む上清はろ過され、ヌクレアーゼで処理されて宿主細胞DNAが消化され、限外ろ過及び透析され、β−プロピオラクトンで不活化され、さらにセルファインサルフェートクロマトグラフィーで精製されて、必要とされる力価が得られるように調整され、0.2%アルムに吸着される。4安定化バッファーはTRIS塩酸、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、グルタミン酸、マンニトール、及びトリメチルアミン−N−オキシドを含み、pHは7.5である。
本試験では、低用量(0.48μg)ワクチン処方物は0.5ml用量あたり7.3log10ウイルス当量に相当したが、これはモノクローナル抗体を用いる酵素結合免疫吸着アッセイにより測定された生ウイルスのプラーク形成単位と等価の不活化抗原である。4 高用量(4.8μg)ワクチン処方物は0.5mlあたり8.4log10ウイルス当量と等価であった。」

(2)甲2
・甲2−1(標題)
「Vero細胞由来の不活化日本脳炎ワクチンの安全性及び免疫原性: 非劣性、第III相の無作為化比較臨床試験」

・甲2−2(要約1〜16行)
「要約
背景 日本脳炎ウイルス(JEV)は東南アジアにおけるウイルス性脳炎の主な要因である。現在利用可能な治療はないが、ワクチン接種は疾患を有効に防止する。非劣性試験において、我々は新規で第二世代のJEVに対する不活化候補ワクチンの安全性及び免疫原性を認可されているマウス脳由来のワクチンと比較することを目的とした。
方法 ・・・
所見 試験ワクチンの安全性プロファイルは良好であり、局所耐容性は認可されたワクチンより好ましいものであった。有害事象の頻度は処置群間で同様であり、ワクチン関連の有害事象は概して軽度であった。56日目における試験ワクチンの抗体陽転率は認可ワクチンの95%に対して98%であった(95%信頼区間、・・・)。・・・」

・甲2−3(1848頁左欄下から5行〜右欄12行)
「手順
JEV試験ワクチン(・・・、UK)は精製された不活化ワクチンであって、JEV株SA14-14-2を含んでいる。この弱毒化株がVero細胞中で生育するよう馴化された。ワクチンは現行の製造管理及び品質管理に関する基準と一致する精製及び不活化工程により調製された。最終製品はチロメサール又はゼラチンを含まない。ワクチンの1用量は0.1%水酸化アルミニウムに吸着された6μgの精製不活化ウイルスを含んでいた。0.5mLの試験ワクチンは0日目及び28日目に被験者の三角筋内に注射された。1mLの認可されたワクチンは0日目、7日目、及び28日目に上腕に皮下注射された。比較対照者をマスクするために、試験ワクチンを受けた群はまた7日目にプラセボ注射(0.5mLの0.1%アルム希釈物)をも受け、それ故、両方の群に対し同一の注射スケジュールを提供した。」

(3)甲3
・甲3−1(標題)
「Vero細胞培養物中で培養された不活化黄熱17DDワクチン」

・甲3−2(要約8〜16行)
「・・・。本研究において、不活化17DDワクチンのC57BL/6マウスにおける免疫原性が評価された。黄熱ウイルスはバイオリアクター中でのVero細胞の培養により生産され、β−プロピオラクトンで不活化され、水酸化アルミニウム(アルム)に吸着された。マウスはアルムアジュバントを含む不活化17DDワクチンを接種されその後17DDウイルスを脳内チャレンジされた。結果は、不活化ワクチン(2μg/用量)をアルムアジュバントと共に3用量受けた動物はPRNT50(プラーク減少中和試験)カットオフ値より上の中和抗体価を有することを示した。加えて、不活化ワクチンで免疫された動物はチャレンジ後に市販弱毒化17DDワクチンで免疫された動物と同様の生存率を示した。」

・甲3−3(4262頁右欄12〜24行)
「2.5.アルムアジュバントを用いた不活化ワクチンの製剤化
免疫原性アッセイのため、ウイルスバッチは0.2%水酸化アルミニウム(・・・、EUA)を用いて免疫付与の前の日に製剤化された。アジュバントの非存在下で17DDウイルスを含むサンプル、及びHEPESバッファー中にアジュバントのみを含むバイアルが対照として使用された。試料は2時間、4℃で持続的に撹拌され、この後、酵素免疫アッセイ(ELISA)による工程調節のため各バイアルから500μlが採取された。撹拌後、バイアルは4℃で免疫原性アッセイに使用するまで維持された。試料は回収、清澄化、イオン交換クロマトグラフィーによる精製及びβ−プロピオラクトンによる不活化の後すぐに−70℃下で保存された。これらの操作条件下で、ウイルス安定性の変化は観察されなかった。」

・甲3−4(4262頁右欄31〜42行)
「2.7.マウス免疫試験
液性免疫応答及びチャレンジ試験のために、全144匹のマウス(9グループ、各16匹)は次のとおり接種された:グループ1及び2は、100μLのHEPESバッファー及びアルミニウムそれぞれの3回投与を受けた。グループ3−8は、アルミニウムアジュバントの存在又は非存在下、2μg/用量の濃度で、100μLの精製不活化ワクチン(バッチVINFLAPI001/2010)を用いて免疫された。陽性対照グループ(グループ9)は、2.33Log10PFU/100μLの商業的に利用可能な弱毒化黄熱17DD生ワクチン(Bio-Manguinhos-FIOCRUZ、ブラジル)の単回投与で、0日目に免疫された。免疫は皮下経路で0日目、14日目及び28日目に行われた。」

(4)甲4
・甲4−1(標題)
「アジュバント化された四価のデングウイルス精製不活化ワクチン候補物はアカゲザルにおいてデングウイルスチャレンジに対し長期持続性及び保護性の抗体応答を誘導する」

・甲4−2(要約1〜6行)
「要約。 アルム若しくは「アジュバントシステム」(AS01、・・・又はAS04)と共に製剤化された4価のデングウイルス精製不活化ワクチン(TDENV PIV)候補物製剤の免疫原性及び保護活性が、アカゲザルの0、及び1ヶ月目のワクチン接種計画において評価された。第2投与の1ヶ月後、全アジュバント化製剤は4腫のデングウイルス血清型の全てに対し強固で持続的な中和抗体価を誘発した。試験された製剤の多くは、血清1型及び2型のデングウイルス株による第2投与後40週及び32週の各チャレンジ後に、ウイルス血症を抑制した。・・・」

・甲4−3(700頁左欄13〜36行)
「ワクチン。 TDENV PIV抗原の調製は以前に記載された通りに行われた。簡潔には、TDENV PIVは、Vero細胞で増殖され、精製され、ホルマリンで不活化された、West Pac 74(DENV−1)株、S16803(DENV−2)株、CH53489(DENV−3)株、及びTVP360(DENV−4)株の非弱毒化ウイルスの四価製剤に基づいた。PIV抗原(0.125、0.5、又は2.0μg/血清型の用量)は、アジュバントの存在又は非存在で製剤化された(「試験設計」を参照)。使用されたアジュバントは、アルム(Alhydrogel 2%;・・・;10.38mg Al3+/mL、希釈後に500μgのAl3+/0.5mLワクチン用量 を含む)、並びに、GlaxoSmithKline (GSK) Vaccines(・・・)により供された「アジュバントシステム」AS01E、AS03A、AS03B、AS03C、及びAS04Dであった43−46。AS01Eは、リポソームベースの処方中に25mgの3−O−デサシル−4’−モノホスホリルリピドA(MPL;・・・)、及び25mgのQuillaja saponaria fraction 21(QS−21;・・・)を含む「アジュバントシステム」である。AS03A、AS03B、及びAS03Cは、水中油型エマルジョン中にα−トコフェロール及びスクアレンを含む「アジュバントシステム」(それぞれ11.86、5.93、及び2.97mgのα−トコフェロール)である。AS04Dは、水酸化アルミニウム(500μgのAl3+)上に吸着されたMPL(50μgのMPL)を含む「アジュバントシステム」である。各「アジュバントシステム」の注射容量はフルのヒト用量(0.5mL)であった。」

(5)甲5
・甲5−1(標題)
「二重不活化全ウイルス候補SARSコロナウイルスワクチンは中和及び保護抗体応答を刺激する」

・甲5−2(要約5〜7行)
「・・・。SARS−CoVワクチン候補物で2回免疫されたマウスは、SARS−CoVスパイクタンパクに対する高い抗体価及び高レベルの中和抗体を発現した。・・・」

・甲5−3(653頁左欄下から4行〜右欄17行)
「2.3.1.CD1マウスへの免疫接種
雌CD1マウス(6〜8週齢)は・・・から得られた。免疫前の血清のサンプリング後、マウスは1μg〜0.3ngの範囲の6つの異なる総タンパク質用量のワクチン候補物で免疫された(Bradfordの方法による[16])。ワクチンの免疫原性に関するアジュバント化の効果を評価するために、非アジュバント化調製物、並びに、0.05%及び0.2%の水酸化アルミニウム(アルム)でアジュバント化された材料が、各抗原濃度で試験された。10匹のマウス群は0.5mlの各ワクチン調製物を皮下に(s.c.)免疫接種された;対照群は0.2%水酸化アルミニウムの存在下又は非存在下で同容量の緩衝液(トリス緩衝生理食塩水)を受けた。免疫の14日後、各動物から血清が採取され、最初の免疫の際に接種されたのと同じ製剤及び用量でブースター免疫が行われた。次いで最初の免疫から4週間後に各動物から血清が採取された(ワクチンを含む0.2%水酸化アルミニウムで処置された動物は、最初の免疫から12週間後にも採血された。)。」

(6)甲6
・甲6−1(標題)
「アルムはマウスにおいて不活化全ウイルスインフルエンザワクチンに対するTH2型抗体応答を強化するが優位な保護作用を与えることはない」

・甲6−2(要約1〜6行)
「要約 パンデミックインフルエンザに対するワクチン候補物に係る臨床試験は、これまでヒトにおける免疫応答をブーストするためのアジュバントとしての水酸化アルミニウムに注視して来た。本研究で我々は不活化全ウイルス(WIV)ワクチンにより誘導される免疫応答の規模及び型への水酸化アルミニウムの作用を調査した。Balb/cマウスは、ある範囲の用量(0.04−5μg)のA/PR/8ウイルス株から産生されたWIVを単独で若しくは水酸化アルミニウムと組み合わせて免疫接種された。・・・ 」

・甲6−3(2351頁右欄42〜56行)
「ウイルス、サブユニット及びビロソーム
PR8インフルエンザウイルス(H1N1サブタイプ)・・・。ウイルスは精製され、ホルムアルデヒドを用いた処理により不活化されて、不活化全ウイルス(WIV)として用いられた。・・・。不活化後、ウイルスはHNE緩衝液に対し透析された。ウイルスの不活化はMDCK細胞上のウイルス調製物の標準滴定により確認された。」

・甲6−4(2352左欄28〜49行)
「マウスへの免疫接種
特定の病原体フリー雌Balb/cマウスが・・・から購入され8−10週齢時に用いられた。・・・
ワクチンにおけるHAタンパク質量は5、1、0.2又は0.04μgだった。Alhydrogel(・・・、2%懸濁液)がワクチンに最終濃度40%(v/v)で添加され、その混合物はマウスへのワクチン接種の直前に4℃で6時間緩やかに回転された。Alhydrogelアジュバントを含まないワクチンは同時にローテーター内でインキュベートされた。全てのアジュバント添加されたワクチン製剤は1ワクチン接種用量あたり200μgのアルミニウムを含んでいた。マウス(1群あたり6〜8匹)は1回筋肉内に(i.m.)水酸化アルミニウムを含むか又は含まない不活化全ウイルス(WIV)又はサブユニットワクチンで1マウスあたり50μlを両後肢に分けて免疫接種された。免疫接種の4週間後、マウスは麻酔下で採血されて屠殺され、脾臓が収集された。脾臓細胞は単離されてELISPOTアッセイに用いられた。血清は抗体アッセイのために採集された。」

(7)甲7
・甲7−1(標題)
「不活化インフルエンザH5N1全ウイルスワクチン及びアルミニウムアジュバントは、マウスモデルにおいて高病原性のH5N1鳥インフルエンザウイルスによる致死性チャレンジに対し、同種性及び異種性の保護免疫性を誘導する」

・甲7−2(要約1〜4行)
「要約
最近のH5N1高病原性鳥インフルエンザウイルス(HPAIV)の大流行に応じ、有効なH5N1インフルエンザワクチンの開発が緊急に重要である。我々は、マウスモデルにおける水酸化アルミニウム(アルム)アジュバントの存在下又は非存在下でのリバースジェネティクスにより産生された2種の不活化H5N1全ウイルスワクチンであるrgHK213/03及びrgVNJP1203/04の有効性を評価した。・・・」

・甲7−3(3555左欄39行〜右欄12行)
「2.1.ワクチンウイルス及びアジュバント
2003年にヒトから単離されたH5N1-HPAIVs、A/Hong Kong/213/2003(HK213/03)、及び2004年に単離されたA/Vietnam/JP1203/2004(VNJP1203/04、・・・、A/Vietnam/1203/04と同一)、が、A/PR/8/34(H1N1)内部遺伝子骨格における弱毒化された組換えウイルス株をリバースジェネティクスにより産生するために、以前に述べられたように用いられた[14,15,23]。得られた非病原性組換えウイルスであるrgHK213/03及びrgVNJP1203/04は、10−11日齢の発育鶏卵の尿膜腔内で増殖され、4℃での0.05%ホルマリンによる2週間の処理により不活化された。ウイルスは10−50%スクロース勾配を通した超遠心処理により精製され次いでペレット化された。ペレットはリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中に再懸濁された。HA量は次のように標準化された。精製ウイルスのタンパク質はドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)により12.5%ゲル上で分離されクマシーブリリアントブルーで染色された。・・・。ウイルスはPBSにより大体希釈され等容量の2%アルムアジュバント又はPBSと混合された。これらのウイルスを用いた実験は国立感染症研究所内のバイオセーフティーレベル3の施設内で行われた。」

・甲7−4(3555頁右欄16〜29行)
「2.3.免疫接種及び血清抗体の検出
マウスは、2、0.2又は0.02μgのHAを含みアルムアジュバントを含むか又は含まない200μlのホルマリン不活化ウイルスワクチンを、皮下に3週間間隔で2回免疫接種された。対照マウスにはアジュバントを含むか又は含まないPBSが与えられた。2回目ワクチン接種の1週間後、各群の5匹のマウスが血清試料を得るために屠殺された。ワクチンウイルスに対する血清抗体が中和試験(NTs)及びトリ赤血球を用いた血球凝集抑制(HI)試験により検査された。・・・。HK213/03、・・・(・・・[22])がNTs及びHI試験の抗原として用いられた。」

(8)甲8
・甲8−1(標題)
「皮下注射されたUV−不活化SARSコロナウイルスワクチンはマウスにおいて全身性の液性免疫を誘発する」

・甲8−2(要約1〜11行)
「要約
最近の重症急性呼吸器症候群(SARS)の発生は新規コロナウイルスSARS−CoVを原因とするものであった。・・・。ワクチン候補としてのUV不活化精製SARS−CoVの免疫原性を試験するため、我々はマウスにUV不活化SARS−CoVをアジュバントと共に又はアジュバント無しで皮下免疫した。アジュバントとしては、長期にわたるヒトへの使用の安全性の歴史から、水酸化アルミニウムゲル(アルム)を選択した。我々は、UV不活化SARS−CoVビリオンが高レベルの液性免疫を誘発し、長期にわたる抗体分泌及び記憶B細胞の産生をもたらすことを認めた。アルムをワクチン処方に加えると、血清IgGの産生は増強され高免疫マウスにおいて見出されるのと同様のレベルにまで達したが、血清IgA抗体の分泌には未だ十分ではなかった。・・・」

・甲8−3(1424頁左欄26〜29行)
「・・・。現在ヒトに利用可能なワクチンの大部分が、経口のポリオワクチンを除き、不活化されて皮下に適用されるものであり、アジュバントの使用は主として水酸化アルミニウムゲル(アルム)に限定されている。・・・」

・甲8−4(1424頁左欄44〜52行)
「マウスへの免疫接種
雌のBALB/cマウスが・・・購入され特異的な病原体フリーの状態下で飼育された。全ての試験の手順はNIID推奨ガイドラインに基づき実行された。マウスは、背中若しくは右及び左の後肢足蹠(そくせき)に2mgのアルムを含むか又は含まない10μgのUV不活化精製SARS−CoVを皮下注射され、プライミングの7週間後に同手順によりブーストされた。」

2.対比・判断

(1)本件発明1について

ア.本件発明1、及び当該発明に規定される「ジカウイルス抗原」について
本件発明1は、[第2]の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。(ここに再掲する。)
「【請求項1】
ジカウイルス感染に対するワクチン組成物であって、0.125μg〜100μgの量で投与される、不活化全ビリオン(ウイルス)抗原、及び精製された組換えジカウイルス抗原から選択されるジカウイルス抗原と、薬学的に許容される緩衝剤と、アルミニウム0.1mg〜1.5mgの量で投与される水酸化アルミニウムとを含み、前記精製された組換えジカウイルス抗原が、配列番号3及び配列番号4に開示される構造タンパク質配列を有する、前記ワクチン組成物。」

上の請求項1の記載からみて、本件発明1における「ジカウイルス抗原」は、次の(i)及び(ii):
(i) ジカウイルスの「不活化全ビリオン(ウイルス)抗原」
(ii) 「配列番号3及び配列番号4に開示される構造タンパク質配列を有する」、「精製された組換えジカウイルス抗原」
から選択されることが規定されている。

そして、ここで、特許明細書の【0102】並びに【0137】及び配列表の記載によれば、上の(ii)において構造タンパク質配列として規定される「配列番号3」、「配列番号4」はいずれも、それぞれの由来である各ジカウイルス株(配列番号3は、
・「Asian genotype」(配列表)であって「アジア遺伝子のさらに最新の株であるアフリカ遺伝子型のジカウイルス株H/PF/013(【0137】)
に由来し、配列番号4は、
・「MR766 strain」(「MR766株」)(配列表)
に由来する)の構造タンパク質の一部であるprME(【0102】)(即ち、prMタンパク質(膜(M)タンパク質の前駆体)−Eタンパク質(エンベロープタンパク質))のアミノ酸配列を表すものと認められる。

[※当審注: 以下、
上の (i) を 「不活化全ジカウイルス抗原」
上の (ii) を 「配列番号3及び4の組換えジカウイルスprME抗原組合せ」、
等ということがある。]

イ.甲1に記載された発明
上の摘記甲1−1〜甲1−3によれば、甲1には、黄熱病に対する不活化細胞培養ワクチン(甲1−1)について記載されており、具体的には、従来の生ワクチン(17D)より重篤な副作用を生じる可能性の低い、安全で複製を生じない黄熱病に対するワクチンの提供を企図して(甲1−2「背景」)、Vero細胞培養で産生された黄熱病17Dウイルスをβ−プロピオラクトンで不活化して0.2%水酸化アルミニウム(アルム)アジュバントに吸着せしめ、これをTRIS塩酸ベースの安定化バッファー中に含んでなるXRX−001ワクチンを製造し、当該ワクチンを1用量0.5mlあたり0.48μg又は4.8μgの抗原を含むように被験者に筋肉内注射した(甲1−2「方法」、甲1−3)ところ、4.8μg抗原を受けた被験者の100%において、また、0.48μgの抗原を受けた被験者でもその88%において、中和抗体発現の誘導がみられたことが記載されている(甲1−2「結果」、「結論」)。
そして、これらの甲1の記載から、上記XRX−001ワクチンが黄熱病ウイルス感染に対するワクチンとして有用なものと認識することができる。

そうすると、甲1には、次の発明:
「不活化黄熱病ウイルス抗原及び水酸化アルミニウム(アルム)アジュバント含有を含む、黄熱病ウイルス感染に対するワクチンであって、Vero細胞培養で産生された黄熱病17Dウイルスをβ−プロピオラクトンで不活化して0.2%水酸化アルミニウム(アルム)アジュバントに吸着せしめ、これをTRIS塩酸、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、グルタミン酸、マンニトール、及びトリメチルアミン−N−オキシドを含むpH7.5の安定化バッファー中に含んでなる、1用量0.5mlあたり0.48μg又は4.8μgの抗原用量で筋肉内注射される、XRX−001ワクチン」
(以下、単に「甲1発明」ということがある)が記載されているものと認められる。

ウ.対比・判断
(ア) 本件発明1と甲1発明とを対比するに、
・甲1発明における抗原の用量である1用量0.5mlあたり「0.48μg又は4.8μg」は、本件発明における「0.125μg〜100μg」に相当すること;
・甲1発明に係るXRX−001ワクチンの1用量0.5mlの重量をおおよそ0.5gとし、また、水酸化アルミニウム(Al(OH)3)の分子量をおよそ78、アルミニウム(Al)の原子量をおよそ27とすると、当該XRX−001ワクチンの1用量0.5ml中の0.2%水酸化アルミニウム(アルム)に含まれるアルミニウムの量は
0.5 × 0.2/100 × 27/78 = 0.000346・・・
即ち約0.35mg、と換算されることから、甲1発明における1用量0.5mlあたりの「0.2%水酸化アルミニウム(アルム)」は、本件発明1における「アルミニウム0.1mg〜1.5mgの量で投与される水酸化アルミニウム」に相当すること;
・甲1発明の「TRIS塩酸、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、グルタミン酸、マンニトール、及びトリメチルアミン−N−オキシドを含むpH7.5の安定化バッファー」は、本件発明1の「薬学的に許容される緩衝剤」に相当すること;
を併せ踏まえると、両者は
「ウイルス感染に対するワクチン組成物であって、0.125μg〜100μgの量で投与される抗原と、薬学的に許容される緩衝剤と、アルミニウム0.1mg〜1.5mgの量で投与される水酸化アルミニウムとを含む、前記ワクチン組成物」
の点で一致するが、次の点1)及び2):
1) 「ウイルス感染」が、本件発明1では「ジカウイルス感染」であるのに対し、甲1発明では「黄熱病ウイルス感染」である点:
2) 「抗原」が、
本件発明1では、次の(i)及び(ii)から選択される抗原:
(i) ジカウイルスの「不活化全ビリオン(ウイルス)抗原」
(不活化全ジカウイルス抗原)
(ii) 「配列番号3及び配列番号4に開示される構造タンパク質配列を有する」、「精製された組換えジカウイルス抗原」
(配列番号3及び4の組換えジカウイルスprME抗原組合せ組換えジカウイルスprME抗原組合せ)
であるのに対し、甲1発明では
「Vero細胞培養で産生された黄熱病17Dウイルスをβ−プロピオラクトンで不活化し」てなる「不活化黄熱病17Dウイルス抗原」
である点
(以下、1)、2)を順に「相違点1」、「相違点2」ということがある)において、相違する。

(イ) 以下、相違点1及び相違点2についてまとめて検討する。

a. 甲1発明は、黄熱病ウイルス感染を抑制するためのワクチンであって、ジカウイルス感染を抑制対象とするワクチンを提供することは、甲1中には具体的に言及すらされていない。
ましてや、ジカウイルスの不活化全ビリオン若しくはジカウイルス構造タンパク質中のprME部分をジカウイルス感染抑制のためのワクチン抗原成分として用いることについて、甲1中には記載も示唆もされていない。

b. また、
・甲2には、Vero細胞中で生育されたJEV(日本脳炎ウイルス)株SA14-14-2の精製・不活化物を0.1%水酸化アルミニウムに吸着せしめてなる1用量あたり6μgの精製不活化JEVウイルスを抗原成分として含む不活化日本脳炎ワクチン(以下、「甲2発明」ということがある)について記載されており(甲2−1、甲2−2);
・甲3には、Vero細胞培養物中で培養され回収、精製された黄熱病17DDウイルスをβ−プロピオラクトンにより不活化処理したものをアルムアジュバントと共に投与する不活化黄熱病ウイルスワクチン(以下、「甲3発明」ということがある)について記載されており(甲3−1〜甲3−3);
・甲4には、Vero細胞で増殖させて精製しホルマリンで不活化した4種のデングウイルス株をアルムアジュバント化してなる四価のデングウイルスに対するワクチン組成物(以下、「甲4発明」にいうことがある)について記載されており(甲4−1〜甲4−3);
・甲5には、ホルムアルデヒド及びUVの連続処理による二重不活化SARS−CoV由来のタンパク質抗原をさらにアルムでアジュバント化してなるワクチン調製物(以下、「甲5発明」ということがある)について記載されており(甲5−1〜甲5−3);
・甲6には、インフルエンザウイルスA/PR/8株をホルムアルデヒドを用いた処理により不活化してなる精製不活化全ウイルス(WIV)を水酸化アルミニウムでアジュバント化してなるインフルエンザウイルスワクチン(以下、「甲6発明」ということがある)について記載されており(甲6−1〜甲6−4);
・甲7には、リバースジェネティクスにより産生された2種のH5N1ウイルスrgHK213/03及びrgVNJP1203/04をホルマリン処理により不活化しアルムアジュバントを共存させてなるインフルエンザウイルスワクチン(以下、「甲7発明」ということがある)の有効性を評価したことについて記載されており(甲7−1〜甲7−4);
・甲8には、UV不活化精製SARS−CoV及びアルムを含むSARS−CoV感染に対するワクチン(以下、「甲8発明」ということがある)について記載されている(甲8−1〜甲8−3)。

しかしながら、これら甲2〜甲8のいずれにも、ジカウイルス感染を抑制対象とするワクチンを提供することは、言及すらされていない。
ましてや、甲1発明に係るワクチン、若しくは甲2発明〜甲8発明のいずれかに係るワクチンにおいて、当該ワクチン中の抗原成分に代えて(若しくは加えて)、ジカウイルスの不活化全ビリオン若しくは組換えジカウイルスprME抗原を含有せしめることは、甲2〜甲8のいずれにも、記載も示唆もされていない。

してみると、甲1の記載に加え、これら甲2〜甲8の記載、並びに、甲1発明〜甲4発明に係るワクチンによる感染抑制対象である黄熱ウイルス(甲1、甲3)、日本脳炎ウイルス(甲2)、及びデングウイルス(甲4)がいずれもジカウイルスと同じフラビウイルス科フラビウイルス属に分類されることが本件特許出願の優先日当時当業者にとり周知の事項であったことを併せ踏まえたとしても、甲1発明に係るワクチンに基づいて、ジカウイルス感染を抑制対象とするワクチンを製造し用いること、並びに、そのようなジカウイルス感染抑制のためのワクチン中の抗原成分として、甲1発明の不活化黄熱病ウイルス抗原に代えて(若しくは加えて)、不活化全ジカウイルス抗原、又は、配列番号3及び4の組換えジカウイルスprME抗原の組合せを含有せしめることは、当業者といえども容易に想到し得たとはいえない。

(ウ) 本件発明の効果について検討する。
(ウ1) アで述べたように、本件発明1では、「ジカウイルス抗原」として、次の(i)及び(ii):
(i) ジカウイルスの「不活化全ビリオン(ウイルス)抗原」
(不活化全ジカウイルス抗原)
(ii) 「配列番号3及び配列番号4に開示される構造タンパク質配列を有する」、「精製された組換えジカウイルス抗原」
(配列番号3及び4の組換えジカウイルスprME抗原組合せ)
が選択肢形式で規定されているところ、それら各ジカウイルス抗原の構造(アミノ酸配列)、製造方法、及び/又は、それらのジカウイルス抗原を含むワクチン組成物の製造例及びその抗ジカウイルス感染効果に関する試験結果について、特許明細書中の記載から、概要次のa〜cの事項を把握することができる。

a.配列表における配列番号3,4,6,8のアミノ酸配列で表される各タンパク質、並びに、それらの間の関連性について

・(a1)(配列表、実施例10【0137】)
配列番号3で表されるタンパク質「prME,Zika Asian genotype」(配列番号1の遺伝子配列によりコードされる)は、「アジア遺伝子型のさらに最新の株であるアフリカ遺伝子型のジカウイルス株H/PF/013」に由来する構造タンパク質中のprME部位である。

・(a2)(配列表)
配列番号4で表されるタンパク質「prME,Zika Asian genotype」(配列番号2の遺伝子配列によりコードされる)は、ジカウイルスの中でもMR766株に由来する構造タンパク質中のprME部位であり、その2〜693位のアミノ酸配列は、配列番号6「Complete ORF,Zika MR766 strain」(上述のジカウイルスMR766株のORF完全長(配列番号5の遺伝子配列によりコードされる))の106〜797位のアミノ酸配列と一致している。

・(a3)(配列表、【0090】)
配列番号8で表されるタンパク質「Complete ORF,Zika strain FSS13025」(配列番号7の遺伝子配列によりコードされる)は、ジカウイルス株である「アジア遺伝子型株FSS13025」のORF完全長であって、上記配列番号6は「構造エンベロープタンパク質において」当該FSS13025株由来のそれと「96.5%を超えるアミノ酸同一性を共有し」ている。

b. (i)の「不活化全ジカウイルス抗原」、並びに、それを含む本件発明に係るワクチン組成物の製造及び使用について

・(b1)(実施例1【0121】)
ジカウイルスMR766株(ATCC VR−84)を、直接接種によりVero細胞に順応させるか、若しくは、C6/36ヒトスジシマカ細胞中で連続継代培養して高ウイルス力価とした後にVero細胞に感染せしめ、さらにウイルスをVero細胞から2回連続プラーク精製してなる単離プラーク由来のウイルスを得て、分析に供したところ、当該ウイルスが外来病原体(全ての周知のRNA及びDNAウイルス、細菌、真菌、マイコプラズマ等)を含まず、また、ゲノムRNAの配列分析の結果、「MR766株の完全なヌクレオチド配列」として配列番号5、並びに、対応する推定アミノ酸配列として配列番号6が得られたことと共に、「細胞が哺乳動物細胞で広範に継代されていたなら失われるはずの、エンベロープタンパク質中のインタクトなグリコシル化部位」の存在が示された。

・(b2) (実施例2【0122】、図1;実施例3【0123】、【0126】、図2)
大規模に培養して得られたジカウイルス採取物を、精密ろ過又は1.2μ及び0.45μのカットオフ値を有する二重フィルターの使用により清澄化したものを得、清澄化したウイルス採取物を、必要に応じpH7.4リン酸緩衝生理食塩水中でのCapto core700カラム(GE Healthcare Life Sciences社)、及び100kDa又は300kDaカットオフ値の膜を用いたダイアフィルトレーションによりさらなる精製・濃縮を行った後に、次の濃度範囲でのホルマリン及び/又はBPL(ベータプロピオラクトン)によるウイルス不活化:
ホルマリン:ウイルス、v/v=1:1000〜1:4000
BPL:ウイルス、v/v=1:1000〜1:3500
を行ったところ、それらホルマリン及びBPLの任意の濃度がウイルスの不活化及び安定化に有効であった。

・(b3) (実施例3【0123】〜【0125】)
低濃度での数分間以内の過酸化水素濃度処理や、50〜65℃での60分間までの熱不活化、254nmでの120分間までのUV曝露、若しくは、60Co源からの20〜35kGyでの曝露によるガンマ線照射も、ウイルスの不活化に有効であった。

・(b4) (実施例3【0125】、実施例6【0131】)
上述の全ての不活化方法は、ショ糖、乳糖、ソルビトール、マルトース、L−ヒスチジン、L−グルタミン酸、L−グリシン及びL−アスパラギン酸、L−グルタミン、及びヒト血清アルブミンから選択される安定化剤の1又は2種以上の存在、及び非存在下で実行され、最も有効な安定化剤、0.5%〜2%、好ましくは0.5%のL−グリシンとの組合せでの0.5%〜2%、好ましくは1.0%のソルビトールであった。

・(b5)(実施例5【0129】〜【0130】、図4)
用量あたり10μgの不活化ジカウイルス抗原、及び、1%ソルビトール及び0.5% L−グリシンを含有してよい154mM NaCl、pH7.40±0.2の10mMリン酸緩衝液を含み、さらに水酸化アルミニウムやポリIC、コレカルシフェロール、MPL等の様々な種類のアジュバント又はその組合せを含むアジュバント化製剤を製造し、それぞれの免疫原性を検査したところ、アジュバントとして用量あたりアルミニウム0.25mg又は0.5mgの水酸化アルミニウム(アジュバントl))を含む製剤、及びそれ以外の全てのアジュバント化製剤が、高レベルの中和抗体を誘発した。


・(b6)(実施例7【0132】、図5、6)
用量あたり0.125μg〜40μgのBPL不活化又はホルマリン不活化ジカウイルス抗原を用量あたりアルミニウム0.25mgを含む水酸化アルミニウムアジュバントでアジュバント化してなる製剤は、マウスへの0、14及び28日目の筋肉内投与により、1%ソルビトール及び0.5% L−グリシンを含有する154mM NaCl、pH7.40の10mMリン酸緩衝液を媒体対照とする非アジュバント化製剤に比して、より高い力価の中和抗体を与え、また、製剤投与後のジカウイルスMR766株感作によるウイルス血症を完全に防御した。

・(b7)(実施例7【0132】、【0134】表1)
過酸化水素処理又はガンマ線照射による不活化ジカウイルス抗原の用量あたり10μgを用量あたり0.25mgアルミニウムを含む水酸化アルミニウムアジュバントと共に同様に筋肉内注射した場合にも、上のBPL不活化又はホルマリン不活化ジカウイルス抗原+水酸化アルミニウムアジュバント製剤と同様の高い中和抗体力価をもたらした。

・(b8)(実施例7【0133】〜【0134】表1)
ホルマリン不活化ジカウイルス抗原を、BPL不活化チクングニウイルス(CHIKV。トガウイルス科ファミリーのアルファウイルス(【0007】))抗原及び/又はホルマリン不活化日本脳炎ウイルス(JEV。ジカウイルスと同じフラビウイルスファミリーに属するフラビウイルス(【0007】))抗原と共に含む2価又は3価の混合ワクチン成分を、用量あたりアルミニウム0.25mgを含む水酸化アルミニウムアジュバントと共に単一製剤化してなる混合ワクチンを同様に投与しても、各抗原1種のみを水酸化アルミニウムアジュバントと共に製剤化してなる1価ワクチンによりもたらされるのと同程度の高い中和抗体力価が各抗原に対して誘発され、ジカウイルス、JEV及びCHIKVの間に顕著な抗原の干渉は観察されなかった。

・(b9)(実施例10【0137】、図8)
ホルマリン不活化ジカウイルス抗原(配列番号6で表されるMR766株のORF完全長)ワクチンの抗血清は、同種MR766株(配列番号6で表されるMR766株のORF完全長をコードする配列番号5の遺伝子配列を有する)を中和し、かつ、異種ジカウイルス株FSS13025(配列番号8で表されるFSS13025株のORF完全長をコードする配列番号7の遺伝子配列を有する)に対しても等効率の交差中和性を示し、一遺伝子型を有するワクチンが異種株を100%交差中和することから、任意の株を使用したジカウイルス不活化ワクチンがジカウイルスの任意の遺伝子型にわたって完全に適用可能といえる。

c. (ii)の「組換えジカウイルスprME抗原」について

・(c1)(実施例4【0127】〜【0128】;図3)
本件特許出願の優先日前周知の遺伝子工学的手法により、配列番号3のprMEタンパク質をコードする配列番号1で表される遺伝子のクローニング、及び、バキュロウイルスベクター−Sf9昆虫細胞宿主系を用いた当該遺伝子の発現を行い、得られたprMEタンパク質は、ウサギR766ポリクローナル抗血清(MR766抗体)(※当審注:上記「ウサギR766ポリクローナル抗血清(MR766抗体)」は、ジカウイルスMR766株を抗原として作成されたポリクローナル抗血清(抗体)を意味するものと認められる)と交差反応を示すことが、同抗体を用いたウェスタンブロット及びELISA試験により認められた。

・(c2)(実施例7【0132】、【0134】表1)
また、「昆虫細胞において発現された組換えprMEタンパク質」(※当審注:実施例4((c1))で製造された配列番号3で表されるprMEタンパク質と推認される)の用量あたり10μg又は20μgを、用量あたり0.25mgアルミニウムを含む水酸化アルミニウムアジュバントと共に含むワクチン製剤を、0及び21日目にマウスに筋肉内注射した場合、BPL不活化又はホルマリン不活化全ジカウイルス抗原+水酸化アルミニウムアジュバント製剤と同様の高い中和抗体力価をもたらした。

・(c3)(実施例10【0137】)
昆虫細胞において発現された配列番号3で表される組換えprMEタンパク質に対して生じた抗体が、MR766株を高効率で交差中和する。

(ウ2) そうすると、上の(ウ1)(i)、(ii)の各ジカウイルス抗原、並びに、それら各抗原を含む本件発明に係るワクチン組成物の態様について、特許明細書の上記(ウ1)a〜cの記載から、次のことが把握できる。

・(i)のジカウイルス抗原:「不活化全ジカウイルス抗原」について
ジカウイルス抗原用量、緩衝剤、及び水酸化アルミニウム用量において本件発明の規定を満たしており、本件発明に係るワクチン組成物の例として記載されているものと認められる、用量あたりジカウイルスMR766株の不活化全ウイルス抗原0.125μg〜40μg、及び水酸化アルミニウム0.25mg又は0.5mgをpH約7.4の154mM塩化ナトリウム含有10mMリン酸緩衝液中に含む、安定なワクチン製剤を製造することができ、また、当該ワクチン製剤は、同種MR766株に対し高い中和抗体力価をもたらし、製剤投与後のジカウイルスMR766株感作によるウイルス血症を完全に防御し得るという、優れた効果を奏するものである((b5)〜(b7))。
さらに、抗MR766株ポリクローナル抗血清は、異種のジカウイルス株由来の配列番号3の組換えprMEタンパク質に対して交差反応を示し((c1))、また、異種のジカウイルス株FSS13025に対しても高い交差反応性を示すものである((b9))。
しかも、上記不活化全ウイルス抗原は、ジカウイルスと異なるJEVやCHIKV由来の抗原と併せて多価ワクチンとして用いても、それらJEV抗原やCHIKV抗原との間に顕著な抗原の干渉を生ぜしめることはない((b8))、という点においても優れている。

・(ii)のジカウイルス抗原:「配列番号3及び4の組換えジカウイルスprME抗原組合せ」について
特許明細書には、ジカウイルス抗原として配列番号3の組換えprME抗原及び配列番号4の組換えprME抗原を共に含むワクチン製剤の製造・使用例の具体的な記載こそないものの、配列番号3と配列番号4とはアミノ酸配列において高い同一性を有していること(配列表)、及び、次の1)〜3):
・1) ジカウイルス抗原用量、緩衝剤、及び水酸化アルミニウム用量において本件発明の規定を満たす、配列番号3の組換えprME抗原、リン酸緩衝剤及び水酸化アルミニウムアジュバントを併せ含むワクチン製剤が、(i)のMR766株の不活化全ウイルス抗原を含むワクチン製剤と同様の、高い中和抗体力価をもたらし得ること((c2));
・2) 当該配列番号3の組換えprME抗原は、ジカウイルスMR766株に対するポリクローナル抗血清と交差反応性を示し((c1)); また、当該配列番号3の組換えprME抗原に対して生じた抗体もMR766株を交差中和し得ること((c3));
・3) 1)、2)のMR766株は、そのORF完全長(配列番号6)中に、配列番号4のprME部位を含むこと((a2));
を併せ考慮すれば、実施例4で配列番号3の組換えprME抗原を製造したのと同様の方法(c1)で配列番号4の組換えprME抗原を製造し、これを(c2)の配列番号3の組換えprME抗原含有ワクチン製剤と同様にワクチン製剤化して用いても、上述のMR766株(配列番号6のORF完全長中に配列番号4のprME部位を含む)の不活化全ウイルス抗原を含むワクチン製剤や配列番号3の組換えprME抗原を含むワクチン製剤と同様の、高い中和抗体力価をもたらし得るものと考えられる。
そうすると、当該配列番号4の組換えprME抗原を、配列番号3の組換えprME抗原と共にジカウイルス抗原成分とし、同様にワクチン製剤化してなるものもまた、(i)の「不活化全ウイルス抗原」をジカウイルス抗原成分としてなるワクチン製剤と同様の、ジカウイルスに対する優れた中和抗体誘導効果及びジカウイルス感染に対する優れた防御効果を奏し得るものといえる。

(ウ3) 以上(ウ1)、(ウ2)で述べたとおりであるから、本件発明1は、ジカウイルス抗原として、次の(i)、(ii):
(i) ジカウイルスの「不活化全ビリオン(ウイルス)抗原」
(不活化全ジカウイルス抗原)
(ii) 「配列番号3及び配列番号4に開示される構造タンパク質配列を有する」、「精製された組換えジカウイルス抗原」
(配列番号3及び4の組換えジカウイルスprME抗原組合せ)
のどちらを用いるワクチン組成物についても、ジカウイルス感染に対するワクチン組成物として甲1〜甲8のいずれからも予期し得ない、特許明細書に記載された優れた効果を奏するものである。

(エ) なお、(イ)で述べたとおり、相違点1、2に関し、ジカウイルスの不活化全ビリオン若しくは組換えジカウイルスprME抗原を抗原成分として含むワクチンを製造しジカウイルス感染の抑制のために用いることが、甲2〜甲8のいずれにも記載も示唆もされていない以上、申立人が異議申立書27頁18〜21行においてなお書きで主張しているように甲2〜甲8のいずれかを主引例とした場合でも、(ア)、(イ)で甲1を主引例とした場合において述べたのと同様の理由により、甲2発明〜甲8発明のいずれかに係るワクチンに基づいてジカウイルス感染を抑制対象とするワクチンを製造し用いること、並びに、そのようなワクチン中の抗原成分として不活化全ジカウイルス抗原又は配列番号3及び4の組換えジカウイルスprME抗原の組合せを含有せしめることは、甲1〜甲8の記載、並びに、本件特許出願の優先日当時当業者にとり周知の事項を併せ考慮しても、当業者といえども容易に想到し得たとはいえない。
そして、本件発明1は、(ウ)で述べたとおり、甲1〜甲8のいずれからも予期し得ない、特許明細書に記載された優れた効果を奏するものである。

(オ) 以上(ア)〜(エ)で検討・説示したとおりであるから、本件発明1は、甲1〜甲8に記載されたいずれかの発明に基づいて、若しくは、甲1〜甲8に記載されたいずれかの発明と、甲1〜甲8の記載及び本件特許出願の優先日当時当業者にとり周知の事項との組合せに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである、ということはできない。

(2)本件発明2、3、5について
本件発明2、3、5は、いずれも請求項1記載のワクチン組成物を直接又は間接的に引用して規定されている、本件発明1の従属発明である。
そうすると、本件発明2、3、5はいずれも、本件発明1に係る上記(1)ウ(ア)の相違点1、2以外の相違点について検討するまでもなく、本件発明1について(1)で述べたのと同様の理由により、甲1〜甲8に記載されたいずれかの発明に基づいて、若しくは、甲1〜甲8に記載されたいずれかの発明、甲1〜甲8の記載及び本件特許出願の優先日当時当業者にとり周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

3.申立人の主張について
ア.申立人は、異議申立書において、例えば本件発明1と甲1発明とを対比するに、
「ワクチンに含まれる抗原が、本件発明1では「不活化全ビリオン(ウイルス)抗原、及び精製された組換えジカウイルス抗原から選択されるジカウイルス抗原」であるのに対し、甲1では「不活化黄熱ウイルス」である点が相違する」
(異議申立書19頁下から8〜4行)
とした上で、次の(ア1)及び(ア2):
(ア1) 「本件発明1のジカウイルスは、甲1に記載の発明の黄熱ウイルスと同じフラビウイルス族に属するウイルスである」こと(例えば、異議申立書20頁下から2〜1行);
(ア2) 「甲2〜4には、本件発明1のジカウイルスと同じフラビウイルス属に属するウイルス(甲2では「日本脳炎ウイルス」、甲3では「黄熱ウイルス」、甲4では(デングウイルス」)のワクチンについて」開示されていること(例えば、異議申立書の21頁4〜7行)
から、
「・・・当業者であれば、ジカウイルスに対するワクチンを開発することを目的として、同じフラビウイルス属に属するウイルスのワクチンを記載した文献1〜4を参照して、これらに記載されたワクチン組成を採用し、ワクチン組成物を調製することは、容易に想到できる。」(異議申立書23頁下から7〜4行)
などと主張する。

イ.しかしながら、上の(1)ウ(イ)等で検討・説示したとおり、ジカウイルス抗原、並びに、当該ジカウイルス抗原を抗原成分とするジカウイルス感染に対するワクチン組成物を製造することは、甲1〜甲4やその他の甲5〜甲8のいずれにも記載も示唆もされていないのであるから、上の(ア1)及び(ア2)を踏まえたとしても、甲1〜甲8の記載を如何に組み合わせたところで、本件発明に係るジカウイルス感染に対するワクチン組成物を得ることが当業者にとり容易に想到し得た、とは到底いえない。
そして、上の(1)ウ(ウ)等で述べたとおり、本件発明は、上述のような発明特定事項の組合せを具備するワクチン組成物とすることで、甲1〜甲8から予期し得ない、特許明細書に記載された優れた効果を奏するものである。

ウ.したがって、本件発明に係る申立人の申立理由1に係る主張は、採用できない。

4.小括
以上のとおりであるから、本件発明1〜3、5は、いずれも、甲第1号証に記載された発明及び甲第2〜4号証に記載された発明を組み合わせることにより、若しくは、更に甲第5〜8号証の記載を更に組み合わせることにより、当業者が容易に発明をすることができたものということはできず、それら本件発明1〜3、5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明についてなされたものであるということはできない。
よって、申立理由1は、理由がない。


[第4−2]申立理由2について

1.本件発明1〜3、5について、特許明細書の発明の詳細な説明の記載が実施可能要件を満たしていること、並びに、請求項1〜3、5の記載がサポート要件を満たしていること

(1)ア. [第4−1]2(1)ウ(ウ)等で特許明細書の記載を引用しつつ述べたように、特許明細書の発明の詳細な説明の記載から、本件発明1〜3、5は、ジカウイルス抗原として、次の(i)、(ii):
(i) ジカウイルスの「不活化全ビリオン(ウイルス)抗原」
(不活化全ジカウイルス抗原)
(ii) 「配列番号3及び配列番号4に開示される構造タンパク質配列を有する」、「精製された組換えジカウイルス抗原」
(配列番号3及び4の組換えジカウイルスprME抗原組合せ)
のどちらを用いるワクチン組成物についても、ジカウイルス感染に対するワクチン組成物として製造することができ、かつ、ジカウイルス感染に対し有効な抑制効果をもたらし得る抗ジカウイルス感染用のために使用することができることを理解し得る。
特に、(i)のジカウイルス抗原に係るワクチン組成物の態様については、
・ジカウイルス抗原用量、緩衝剤、及び水酸化アルミニウム用量において本件発明1〜3の規定を満たしており、本件発明に係るワクチン組成物の例として記載されているものと認められる、用量あたりジカウイルスMR766株の不活化全ウイルス抗原0.125μg〜40μg、及び水酸化アルミニウム0.25mg又は0.5mgをpH約7.4の154mM塩化ナトリウム含有10mMリン酸緩衝液中に含む、安定なワクチン製剤を製造することができること;
並びに、
・当該ワクチン製剤が、ジカウイルスに対し高い中和抗体力価をもたらし、製剤投与後のジカウイルス感作によるウイルス血症を完全に防御し得るという、優れた効果を奏するものであること;
を、特許明細書の例えば実施例5【0129】〜【0130】及び図4や、実施例7【0132】、【0134】、図5、図6及び表1等の記載から、理解することができる。

そして、それらの記載を含む発明の詳細な説明の記載をみた当業者であれば、本件発明に係る組成のワクチン組成物が発明の詳細な説明中で提供されており、かつ、当該ワクチン組成物の提供を以て、ジカウイルス感染に対する予防及び治療のための安定な免疫原性組成物の提供、という特許明細書の【0010】に記載された課題を解決することができる、と認識できることは明らかである。

イ. なお、本件発明5に係るワクチン組成物では、「2−フェノキシエタノール保存剤を2.5〜5mg/mLの濃度で含んでいてよい」という任意付加的な事項が規定されているところ、必要に応じこのような濃度範囲下で2−フェノキシエタノールを併せ含有せしめ得ることも、特許明細書の【0071】に記載された範囲内の事項であるし、また、2−フェノキシエタノールが保存剤若しくは防腐剤として用いられること自体、例えば次の文献:
・日本医薬品添加剤協会編「医薬品添加物事典2007」(2009年11月6日 第2刷発行) 株式会社薬事日報社 232頁左欄「フェノキシエタノール」欄
中の【用途】の項の記載にみられるとおり、本件特許出願時において当業者にとり技術常識として知られていたものとも認められる。
そうすると、これらのことを併せ踏まえればなおのこと、本件発明1〜3に係るいずれかのワクチン組成物において、保存剤若しくは防腐剤として任意で2−フェノキシエタノールを含有せしめること、及び、その際の2−フェノキシエタノールの濃度を、必要に応じ上記文献中の【投与経路・最大使用量】の項の記載を勘案しつつ、かつ、安定な免疫原性組成物の提供を妨げることがないように、上の【0071】の記載に基づき2.5〜5mg/mLの範囲内とすることもまた、特許明細書の発明の詳細な説明の記載により開示されまた裏付けられた範囲内の事項といえる。

(2) 以上(1)で述べたとおりであるから、特許明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1〜3、5のいずれについても、当業者が実施することができるといえる程度の明確かつ十分な記載がなされているということができ、また、本件発明1〜3、5のいずれについても、特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであるということができる。

2.申立人の主張について

(1) 申立人の申立理由2に係る具体的な主張内容(異議申立書31頁下から8行〜33頁1行)は、概要次のとおりである。

特許明細書の【0010】には、本件特許の課題の一つとして、ジカウイルス感染の予防及び治療のために安定な免疫原性組成物を提供することが記載されているが、特許明細書の実施例において安定性が確認されているものは、特定の製法で製造されたワクチン組成物についてのみである。具体的には、以下の態様についてのみ、ワクチン組成物の安定性が確認されている。
・特定濃度及び特定の順序での、BPL不活化及びホルマリン不活化の組合せ(特許明細書の【0123】)
・特定の安定化剤の存在下での不活化(同【0125】【0131】)
・ワクチン抗原に特定の賦形剤を含有(同【0132】)

一方、本件発明1、2、3、5のワクチン組成物は、上述した「特定の安定化剤の存在下で不活性化する」といった特定の製法で製造されたワクチン組成物であることが特定されていないため、安定性の効果を奏さないワクチン組成物も包含する。
また、上述のとおり、本件特許における安定なワクチン組成物は、特許明細書の実施例に記載された「特定の安定化剤の存在下で不活性化する特定の製法で製造された場合に得られるものであり、製法を規定しない本件発明1、2、3、5は特許明細書の開示範囲を超えている。

(2)ア.しかしながら、1で述べたとおり、本件発明のうち、ジカウイルス抗原として
(i) ジカウイルスの「不活化全ビリオン(ウイルス)抗原」
(不活化全ジカウイルス抗原)
を含むワクチン組成物の態様について、
・特許明細書の発明の詳細な説明の記載から、本件発明の規定を満たす不活化全ジカウイルス抗原、緩衝剤及び水酸化アルミニウムを含む安定なワクチン製剤を製造することができ、かつ、当該製剤をジカウイルス感染に対する抑制のために有効に使用することができること;
・特許明細書の発明の詳細な説明の記載をみた当業者であれば、本件発明に係る組成のワクチン組成物が発明の詳細な説明中で提供されており、かつ、当該ワクチン組成物の提供を以て、ジカウイルス感染に対する予防及び治療のための安定な免疫原性組成物の提供、という課題を解決することができる、と認識できること;
は、明らかである。
したがって、許明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1〜3、5のうちジカウイルス抗原として「不活化全ビリオン(ウイルス)抗原」を含むワクチン組成物の態様について、当業者が実施することができるといえる程度の明確かつ十分な記載がなされており、また、本件発明1〜3、5のうちジカウイルス抗原として「不活化全ビリオン(ウイルス)抗原」を含むワクチン組成物の態様は、特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものである、ということができる。

イ.なお、本件発明では、ジカウイルス抗原として「不活化全ビリオン(ウイルス抗原)」」を含むワクチン組成物の態様において、次の1)〜3):
1)不活化剤の種類、
2)不活化処理時の安定化剤の採否や当該安定化剤の種類、
3)賦形剤の採否や当該賦形剤の種類、
について特段の限定はなされていないが、特許明細書の発明の詳細な説明には、
・上の1)に関し、不活化処理法として、BPL、ホルマリンやそれらの組合せにより不活化すること(例えば実施例2【0122】〜実施例3【0123】)のみならず、過酸化水素処理やUVへの曝露処理、ガンマ線照射を用いて不活化された全ビリオンを抗原とした場合にも、安定かつ有効なワクチン製剤が得られたことがその実例と共に記載されており(実施例3【0123】〜【0125】、表1);
・上の2)に関し、不活化処理時の安定化剤としても、例えば次の【0053】:
「【0053】 ・・・不活化は、乳糖、ショ糖、トレハロース、マルトース、マンノース、イソ−マルトース、ラフィノース、スタキオース、ラクトビオース、ソルビトール、マンニトール、ラクトビオン酸、デキストラン、L−グリシン、L−ヒスチジン、L−グルタミン酸、L−アスパラギン.酸及びヒト血清アルブミン又はそれらの組合せ、から選択される安定化剤の存在下で実行される・・・好ましい一実施形態では安定化剤は:
a.2%ソルビトール及び1% L−グリシン;
b.1%ソルビトール及び0.5% L−グリシン;
c.1%マンニトール及び0.5% L−グリシン;
d.1%マンニトール及び0.5% L−グルタミン酸;並びに
e.1%ソルビトール及び0.5% L−グリシン、1%ヒト血清アルブミン.
から選択されてよい。」
の記載にみられるように、様々な安定化剤若しくはその組合せを用い得ることが記載されており;
・上の3)に関し、賦形剤(若しくは、ワクチン抗原の安定化剤)として、1%ソルビトール及び0.5% L−グリシン(例えば実施例5【0129】、実施例7【0132】)以外にも、「5%ショ糖及び1%トレハロース、5%ショ糖及び1%マルトース並びに2%マンニトール及び0.5%グリシンのいずれか」を用い得ることが記載されている(実施例5【0130】);
ことから、これらの記載に基づいて、実施例で現実に採用されている条件以外の1)〜3)の組合せ条件を採用した場合でも、実施例で現実に得られているのと同様の安定で有効な抗ジカウイルス感染用ワクチン組成物を得ることができるものと推測される。

ウ.したがって、申立人の申立理由2に係る主張は、採用できない。

3.小括
以上のとおりであるから、本件発明1〜3、5に係る特許は、特許明細書の発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない請求項の発明についてなされたものということはできず、また、本件発明1〜3、5に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない請求項の発明についてなされたものであるということはできない。
よって、申立理由2は、理由がない。


[第5]むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載された特許異議申立人による特許異議申立理由によっては、本件の請求項1〜3、5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件の請求項1〜3、5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、特許法第114条第4項の規定により、本件の請求項1〜3、5に係る特許について、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2022-09-12 
出願番号 P2018-501325
審決分類 P 1 652・ 536- Y (A61K)
P 1 652・ 121- Y (A61K)
P 1 652・ 537- Y (A61K)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 森井 隆信
特許庁審判官 大久保 元浩
齋藤 恵
登録日 2021-06-11 
登録番号 6896700
権利者 バハラ バイオテック インターナショナル リミテッド
発明の名称 ワクチン組成物  
代理人 廣田 鉄平  
代理人 廣田 雅紀  
代理人 堀内 真  
代理人 篠田 真希恵  
代理人 園元 修一  
代理人 渡辺 仁  
代理人 山内 正子  
代理人 東海 裕作  
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