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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A23L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23L
管理番号 1389407
総通号数 10 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-10-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-01-14 
確定日 2022-09-30 
異議申立件数
事件の表示 特許第6902007号発明「炭酸ガスボリュームが高い炭酸飲料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6902007号の請求項1〜5に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第6902007号の請求項1〜5に係る特許についての出願は、平成29年5月16日(優先権主張 平成28年5月16日)に出願された特願2017−97236号の一部を特許法第44条第1項の規定により平成30年10月12日に新たな特許出願とした特願2018−193109号であって、令和3年6月22日にその特許権の設定登録がなされ、同年7月14日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許について、令和4年1月14日に特許異議申立人 猪狩 充(以下「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、同年3月11日付けで当審において取消理由通知が通知され、同年5月10日に意見書が提出され、同年7月12日に特許異議申立人から上申書が提出されたものである。

第2 特許請求の範囲の記載
本件特許における特許請求の範囲の請求項1〜5に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」等という。まとめて、「本件特許発明」ということもある。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1〜5に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
100ppb〜5000ppbの5−HMF(5−ヒドロキシメチルフルフラール)及び10ppb〜1000ppbの5−MF(5−メチルフルフラール)の少なくとも1つを含有し、
炭酸ガスボリュームが4.0v/v以上であり、
酸度が0.010g/100g〜0.800g/100gである、
炭酸飲料。
【請求項2】
前記酸度に対する前記5−HMFの含有量の割合が1.25×10−5〜0.05、及び/又は前記酸度に対する前記5−MFの含有量の割合が1.25×10−6〜0.01である、請求項1に記載の炭酸飲料。
【請求項3】
カラメル、カフェイン、ショ糖、及び高甘味度甘味料からなる群から選ばれる少なくとも1つを含有する請求項1又は2に記載の炭酸飲料。
【請求項4】
容器詰め炭酸飲料である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の炭酸飲料。
【請求項5】
5−HMF(5−ヒドロキシメチルフルフラール)及び5−MF(5−メチルフルフラール)の少なくとも1つ、並びに酸味料を配合する工程、
製造直後の容器内の炭酸ガスボリュームを4.5v/v以上に調整する工程、
を含む、炭酸飲料の製造方法であって、該炭酸飲料が5−HMFを100ppb〜5000ppb及び/又は5−MFを10ppb〜1000ppb含有する、前記炭酸飲料の製造方法。」

第3 特許異議申立理由及び当審において通知した取消理由
1 特許異議申立人が申し立てた理由
特許異議申立人は、下記の甲第1〜10号証を提出し、以下の異議申立理由を主張している。

(1)進歩性
異議申立理由1:甲第1号証には、840ppb〜2010ppbの5−HMF(5−ヒドロキシメチルフルフラール)を含有するコーラ(炭酸飲料)が記載されているところ、炭酸ガスボリュームを4.0v/v以上とすることは甲第3〜7号証の記載から容易に想到し得るものであり、酸度を0.010g/100g〜0.800g/100gとすることは甲第1号証に記載されているか、甲第2、4、8号証の記載を参酌すれば、それらの記載から容易に想到し得るものであり、10ppb〜1000ppbの5−MF(5−メチルフルフラール)を含有することも甲第9号証の記載から容易に想到し得るものであるので、本件特許発明1〜4は、甲第1号証記載の発明及び甲第2〜9号証記載の技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであって、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
異議申立理由2:甲第1号証には、840ppb〜2010ppbの5−HMF(5−ヒドロキシメチルフルフラール)を含有するコーラ(炭酸飲料)が記載されているところ、プレミックス方式により製造することは甲第4号証の記載から容易に想到し得るものであり、炭酸ガスボリュームを4.5v/v以上に調整することは甲第3〜7号証の記載から容易に想到し得るものであり、10ppb〜1000ppbの5−MF(5−メチルフルフラール)を含有することも甲第9号証の記載から容易に想到し得るものであるので、本件特許発明5は、甲第1号証記載の発明及び甲第2〜9号証記載の技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであって、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。



・甲第1号証:「Antioxidant capacity of some caramel-containing soft drinks」、Food Chemistry、115、2009、119〜123頁
・甲第1の2号証:甲第1号証の抄訳
・甲第2号証:河野友美、飲料 改訂食品辞典10、真珠書院、昭和58年9月1日、103〜111頁
・甲第3号証:ビバリッジジャパン、第33巻第6号、平成22年6月28日、4、5、11頁
・甲第4号証:最新・ソフトドリンクス編集委員会、最新・ソフトドリンクス、株式会社光琳、平成15年9月30日、299〜329、911、950〜957頁
・甲第5号証:強炭酸×強カフェインによる“ペプシ最強の刺激”で究極の爽快感が楽しめる「ペプシストロング」ブランド誕生 「ペプシストロング ゼロ」「ペプシストロング」新発売 ― 発売前に「ペプシストロング ゼロ」が当たるキャンペーンも実施 ―、2015年5月17日、印刷日:2021年10月20日、https://www.suntory.co.jp/softdrink/news/pr/d/sbf0287.html
・甲第6号証:エナジー系を脅かす強炭酸飲料 カルピス、メッツ、ペプシも、2015年5月24日、印刷日:2021年12月3日、https://www.news-postseven.com/archives/20150524_324529.html?DETAIL、https://www.news-postseven.com/archives/20150524_324529.html/2
・甲第7号証:最高ガスボリューム5.0GV(※)耐圧ボトル×ペプシ史上最強炭酸×強カフェイン 「ペプシストロング5.0GV」「ペプシストロング5.0GV〈ゼロ〉」新発売 ― 発売前に「ペプシストロング5.0GV」「ペプシストロング5.0GV〈ゼロ〉」が当たるキャンペーンも実施 ―、2016年5月17日、印刷日:2021年9月21日、https://www.suntory.co.jp/softdrink/news/pr/article/SBF0418.html
・甲第8号証:「食品添加物としての酸味料 −それらの特徴とそれを活かした用途について−」、月刊フードケミカル、Vol.31、No.6、平成27年6月1日、72〜80頁
・甲第9号証:印藤元一、合成香料 増補改訂版 化学と商品知識、化学工業日報社、2005年3月22日、230〜231頁
・甲第10号証:特願2016−98334号願書及び明細書

(2)明確性要件
異議申立理由3:本件特許発明1〜4は、「酸度」の定義が不明確であるため、その特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号の規定により取消されるべきものである。

2 当審が通知した取消理由
取消理由1(明確性要件):本件特許は、請求項1〜4の記載が特許法第36条第6項第2号に適合するものではないから、請求項1〜4に係る特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

第4 当審の判断
取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由1(明確性要件)について(異議申立理由3に相当)

(1)本件特許発明に関する特許法第36条第6項第2号明確性要件)の判断の前提
特許法第36条第6項第2号は、特許請求の範囲の記載に関し、特許を受けようとする発明が明確でなければならない旨規定する。この趣旨は、特許請求の範囲に記載された発明が明確でない場合には、特許の付与された発明の技術的範囲が結果的に不明確となり、第三者に不測の不利益を及ぼすことがあり得るため、そのような不都合な結果を防止することにある。そして、特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載のみならず、願書に添付した明細書の記載及び図面を全体として理解した上で、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断される。

(2)本件特許明細書の記載
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。

記載(ア)
「【0012】
本発明の炭酸飲料の酸度は特定範囲に設定される。本明細書において、炭酸飲料について酸度というときは、総酸度を意味する。炭酸飲料の酸度は、いずれの酸を用いて調整してもよい。例えば、クエン酸、リン酸、酒石酸、リンゴ酸、シュウ酸、グルコン酸、コハク酸、乳酸、酢酸、硫酸、塩酸、フマル酸、フィチン酸、イタコン酸、又はその他の酸を用いて炭酸飲料の酸度を調整することができるが、これに限定されない。炭酸飲料の酸度は、飲料100g当たり、0.010g〜0.800g、好ましくは0.020g〜0.300g、より好ましくは0.060g〜0.100gである。一態様として、炭酸飲料100g当たりの酸度は0.080gであるが、限定されない。酸度は次の方法で測定することができる。試料20mlをホールピペットで100mlのビーカーにとり、蒸留水を加えて総量を約50mlに調整した後、当該液にpHメーターの電極を挿入し、撹拌しながら1/10N水酸化ナトリウム溶液をビュレットから滴下し、pHメーターの目盛りが8.0を示すところを終点とする。水酸化ナトリウムの滴定量から酸度を計算する。なお、滴定には自動滴定装置を用いることもできる。」

記載(イ)
「【0014】
本発明の炭酸飲料は、高い炭酸ガスボリュームを有する。炭酸飲料の炭酸ガスボリュームが高いと、炭酸感増強成分による炭酸感の増強効果が高くなり得る。本明細書において、炭酸ガスボリューム又はガスボリュームというときは、飲料中の炭酸ガスの含有量をいう。高い炭酸飲料の炭酸ガスボリュームとは、4.0v/v以上であればよいが、好ましくは4.2v/v以上、より好ましくは4.5v/v以上、さらに好ましくは5.0v/v以上であってよいが、これに限定されない。一態様として、炭酸飲料の炭酸ガスボリュームの値は、限定されないが、製造後、室温で14日保存した時点での値とすることができる。ここで室温とは、1℃〜35℃、好ましくは10℃〜30℃などであってよく、例えば23℃であってよいが、これらに限定されない。また、これに替えて又は組合わせて、工場の製造直後の炭酸飲料の炭酸ガスボリュームを、4.5v/v以上、好ましくは5.0v/v以上とすることができる。炭酸ガスボリュームの測定は、液温を20℃に調整した炭酸飲料をガス内圧計に固定し、一度ガス内圧計活栓を開いてガスを抜き、再度活栓を閉じ、ガス内圧計を振り動かして指針が一定の位置に達した時の値を読み取ることにより行うことができる。本明細書においては、別段の記載がなければ、ガスボリューム測定装置GVA−500A(京都電子工業株式会社製)を用いて、当該方法により炭酸飲料の炭酸ガスボリュームを測定する。」

記載(ウ)
「【0020】
本発明の炭酸飲料は、容器詰めとすることができる。容器は、いずれの形態・材質のものを用いてもよく、ガラス瓶、缶、樽、又はペットボトル等が例示される。用いる容器が、炭酸ガスが抜けやすい容器であるほど本発明の利点が得られ易い。また、容器は、密閉可能なものが好ましく、開栓した後に再度密閉可能なものがより好ましい。ペットボトルは開栓及び経時変化による炭酸ガスの損失が起こり得るため、本発明において特に好ましく用いることができる容器の一例である。なお、炭酸飲料の容器への充填方法も特に制限されない。
【0021】
<炭酸飲料の製造方法>
本発明の別の側面によれば、炭酸飲料の製造方法が提供される。当該製造方法は、炭酸ガスボリュームを調整する工程、炭酸感増強成分を配合する工程、酸味料を配合する工程、及び容器に充填する工程を含有する。また、香味増強成分としてバニリンを添加する工程を含有してもよい。これらの工程の順序は特に限定されず、任意の順序で行うことができる。
【0022】
炭酸ガスボリュームを調整する工程は、飲料に炭酸ガスを供給することによって行われる。炭酸ガスの飲料への供給はいずれの方法によって行ってもよく、当業者は公知の方法から適宜選択することができる。炭酸飲料の炭酸ガスボリュームは、上記で記載された範囲に調整することができる。」

記載(エ)
「【0028】
[試験例1]クマリンの炭酸感への影響
以下の配合表(表1)に従い、ペットボトル容器(500ml容)詰の無糖炭酸飲料及び有糖炭酸飲料を調製した。炭酸飲料の酸度を0.08g/100gに調整した。各炭酸飲料にクマリンを配合し、飲料中のクマリン含量を0ppb〜1000ppbに調整した(表2を参照)。炭酸飲料の調製時において、炭酸ガスボリュームは、5.0v/vとした。
【0029】
【表1】




記載(オ)
「【0039】
[試験例4]5−HMFの炭酸感への影響
クマリンの代わりに5−HMFを0ppb〜5000ppbで配合(表5を参照)する以外は、試験例1に沿って炭酸飲料(酸度0.08g/100g、炭酸ガスボリューム5.0v/v)を調製した。23℃で14日間保存した後の炭酸飲料(炭酸ガスボリューム4.2v/v)について、試験例1の条件に従って官能試験を行った。」

記載(カ)
「【0042】
[試験例5]5−MFの炭酸感への影響
クマリンの代わりに5−MFを0ppb〜1000ppbで配合(表6を参照)する以外は、試験例1に沿って炭酸飲料(酸度0.08g/100g、炭酸ガスボリューム5.0v/v)を調製した。23℃で14日間保存した後の炭酸飲料(炭酸ガスボリューム4.2v/v)について、試験例1の条件に従って官能試験を行った。」

記載(キ)
「【0045】
[試験例6]酸度の炭酸感への影響
以下の配合表(表7)に従い、無糖炭酸飲料及び有糖炭酸飲料を調製した。炭酸飲料100g当たりの酸度を0.001g〜0.800gに調整した。各炭酸飲料にクマリンを配合し、飲料中のクマリン含量を100ppbに調整した。炭酸飲料の調製時において、炭酸ガスボリュームは、5.0v/vとした。
【0046】
【表7】




記載(ク)
「【0052】
・・・
[試験例8]炭酸ガスの影響
無糖炭酸飲料及び有糖炭酸飲料(酸度0.08g/100g)を、試験例1の配合表(表1)に従って調製した。飲料の炭酸ガスボリュームを4.2v/v又は3.5v/vに調整した。そして、クマリン、5−HMF、及び5−MFをそれぞれ単独で、以下のように飲料に配合した:
飲料中の含量が500ppbとなるようにクマリンを配合
飲料中の含量が5000ppbとなるように5−HMFを配合
飲料中の含量が1000ppbとなるように5−MFを配合
また、対照の炭酸飲料として、クマリン、5−HMF、及び5−MFのいずれも配合しない炭酸飲料を調製した。
【0053】
上記のように調製した炭酸飲料を23℃で14日間保存した。保存後の炭酸飲料を5℃に冷却し、試験例1に示したように炭酸飲料の炭酸感を評価した。
【0054】
【表10】



【0055】
【表11】



【0056】
【表12】



【0057】
クマリンを配合した炭酸飲料は、クマリンを配合しない炭酸飲料に比べて、炭酸感が増強されることが示された(表10)。炭酸ガスボリューム3.5v/vの炭酸飲料において、クマリンによる炭酸感の増強効果はほとんど得られなかった。一方、炭酸ガスボリューム4.2v/vの炭酸飲料において、クマリンによる炭酸感の増強効果は高かった。なお、炭酸飲料が無糖であるか有糖であるかは、炭酸感の増強効果に影響しなかった。5−HMF(表11)及び5−MF(表12)を配合した場合にも、上記と同様の結果が得られた。
【0058】
以上より、クマリン、5−HMF、及び5−MFは、炭酸飲料の炭酸感の増強効果を有するが、炭酸ガスボリュームが高い(好ましくは4.0v/v以上)程、効果的であることが判明した。エレミシン、ミリスチシンについても同様であった。高い炭酸ガスボリュームを有する飲料での上記のような効果は予想外であった。」

ここで、本件特許明細書の記載(ア)には、「酸度は次の方法で測定することができる。試料20mlをホールピペットで100mlのビーカーにとり、蒸留水を加えて総量を約50mlに調整した後、当該液にpHメーターの電極を挿入し、撹拌しながら1/10N水酸化ナトリウム溶液をビュレットから滴下し、pHメーターの目盛りが8.0を示すところを終点とする。水酸化ナトリウムの滴定量から酸度を計算する。」との記載があり、「酸度」が水酸化ナトリウム溶液の滴定量から計算するものとされているが、「酸度」がいかなる方法により算出されるものであるのかや、水酸化ナトリウム液の滴定量から計算する場合に具体的にどのように計算するかを示す記載はない。
また、記載(エ)〜記載(キ)には、試験例4〜6に関して、無糖炭酸飲料及び有糖炭酸飲料を調製した際の各原料の配合量と調製された炭酸飲料の酸度について記載されている。

(3)判断
ア 令和4年5月10日付けで特許権者が提出した意見書に添付された乙第1号証(最新・ソフトドリンクス編集委員会、最新・ソフトドリンクス、株式会社光琳、平成15年9月30日、962〜965頁)、乙第2号証(農林水産省 消費・安全局 表示・規格課、日本農林規格品質表示基準 食品編、中央法規出版株式会社、昭和62年12月10日、2601〜2657頁)に記載されるように、果実飲料の酸度については日本農林規格で定められた0.1N水酸化ナトリウム溶液を用いる滴定法により測定することが一般に行われていたと認められ、本件特許明細書の記載(ア)においても、「酸度」は日本農林規格で定められた当該滴定法に準じて測定することが記載されているものと理解できる。

イ また、令和4年5月10日に特許権者が提出した意見書に添付された乙第3号証(特開2015−43765号公報)、乙第4号証(特開2012−16350号公報)、乙第5号証(特開2011−182683号公報)、乙第6号証(サイクリックフローインジェクション法による果実飲料及び清涼飲料水中の酸度の測定、BUNSEKI KAGAKU、Vol.57、No.11、891〜895頁)、乙第7号証(林敏子、市販清涼飲料の糖度,酸含量および還元型ビタミンC量について、大下学園女子短期大学研究集報、第22集、昭和60年2月20日、65〜79頁)の記載を参酌すると、炭酸飲料を含む清涼飲料においても、「酸度」は日本農林規格で定められた当該滴定法により測定したものが用いられること、その際、クエン酸含量に換算した値が用いられることが当業者の技術常識であったことが認められる。

ウ さらに、令和4年5月10日に特許権者が提出した意見書において、本件明細書の試験例6に関して、表7(上側の表)の左から1番目のサンプルは、クエン酸(無水)が0.01g/Lで配合され、酸度0.001g/100g、表7の左から2番目のサンプルは、クエン酸(無水)が0.1g/Lで配合され、酸度0.01g/100gと記載されており、これらのサンプルの酸度がクエン酸換算で表されていることは明確であり、日本農林規格で定められた当該滴定法における計算式に当てはめても合致すること、また、表7(上側の表)の左から3、4番目のサンプルについては、クエン酸(無水)に加えてリン酸が配合されているところ、リン酸の3つの水酸基が滴定の終点となるpHにおいて中和される数は不確定なため、計算で導いたとしても滴定により導かれる値と必ずしも一致しないことを主張しているとおり、本件明細書の試験例6の記載についても、「酸度」は日本農林規格で定められた当該滴定法に準じた方法により測定された結果をクエン酸換算で計算した値を意味しているものと合理的に理解できる。また、本件明細書の試験例1、及び試験例1に沿って調製された試験例2〜5、7、8における記載についても、そのような解釈と齟齬するものではない。

エ 特許異議申立人は、特許異議申立書の第32〜33頁において、本件特許明細書の【0012】には「炭酸飲料の酸度は、いずれの酸を用いて調整してもよい。例えば、クエン酸、リン酸、酒石酸、リンゴ酸、シュウ酸、グルコン酸、コハク酸、乳酸、酢酸、硫酸、塩酸、フマル酸、フィチン酸、イタコン酸、又はその他の酸を用いて炭酸飲料の酸度を調整することができるが、これに限定されない。」と記載されているから、本件特許発明における「酸度」は特定の酸を用いたものに限定されないと解されると主張している。
しかしながら、本件特許明細書の【0012】における上記記載は、炭酸飲料の酸度の調整に用いる酸として様々な酸を用いることができることを意味しているに過ぎず、当該記載をもって、「酸度」の計算において換算に用いる酸についてまで、特定のものを用いないことを意味しているとはいえず、むしろ換算の目的からみて、酸度の調整に用いる酸によらず、特定の酸で換算すると理解すべきである。

オ さらに、特許異議申立人は、令和4年7月12日に提出した上申書において、本件特許明細書の【0012】に「本明細書において、炭酸飲料について酸度というときは、総酸度を意味する。」と記載されていることから、炭酸飲料において酸度に寄与する酸には炭酸ガスボリュームを調整することで生じる炭酸も当然に含まれると考えられるが、令和4年5月10日に特許権者が提出した意見書では酸度の計算において炭酸が考慮されていないこと、炭酸飲料において二酸化炭素を完全に脱気した後に「酸度」を測定することが技術常識とはいえないこと、及び、炭酸飲料において炭酸によって「酸度」は影響を受けることを述べつつ、依然として酸度の意味が不明である旨の主張をしている。
しかしながら、特許異議申立人も当該上申書にて認めているように、令和4年5月10日に特許権者が提出した意見書に添付された乙第5号証では、「本炭酸飲料の酸度は、脱ガスした状態で測定した場合の酸度である。」及び「(酸度の測定方法)容器詰炭酸飲料の飲料(サンプル)から二酸化炭素を完全に脱気した後、飲料(サンプル)を、フェノールフタレイン指示薬を用いて水酸化ナトリウムで滴定し、クエン酸の相当量として算出した(JAS法に基づく検査方法)。」との記載があること、また、本件明細書を参酌しても、記載(イ)及び記載(ウ)のとおり、炭酸ガスは製造する際のガスボリュームの観点では論じられているものの、記載(エ)及び記載(キ)のとおり、酸度の調整に関して具体的に数値が記載された各種試験例において、二酸化炭素を考慮に入れる記載は存在しないこと、さらに、炭酸飲料は脱気の有無により二酸化炭素の含量が変化し、酸度に影響が出るという技術常識を踏まえれば、少なくとも本件特許発明における「酸度」については、炭酸を考慮しないものであると当業者は十分に理解することができる。また、本件特許明細書の【0012】における「本明細書において、炭酸飲料について酸度というときは、総酸度を意味する。」との記載のみから、本件特許発明の「酸度」の測定において、炭酸を当然に考慮すべきものともいえない。
よって、上記特許異議申立人の主張も採用できない。

以上のとおり、本件の発明の詳細な説明及び乙第1号証〜乙第7号証の記載を参酌すれば、本件特許発明1〜4における「酸度」が日本農林規格で定められた当該滴定法に準じて測定し、クエン酸換算して計算されたものであることを意味すると十分に把握できる。

(4)取消理由1のまとめ
したがって、取消理由1は理由がない。

取消理由で採用しなかった特許異議申立理由についての検討
進歩性(異議申立理由1)について

(1)各甲号証の記載事項
(1−1)甲第1号証
本願の優先日前に頒布された刊行物である甲第1号証(以下、「甲1」という。)には、以下の記載がある。なお、訳文は特許異議申立人が提出した甲1の抄訳である甲第1号証の2を参照して、合議体が作成した。

記載(1a)
「この研究の目的は、コーラタイプの炭酸飲料のような、世界中で広く消費され上記飲料の多くが有する欠点がない、カラメルで色づけされたソフトドリンクの抗酸化機能を測定することである。」(第119頁右欄第20〜24行)

記載(1b)
「2.1.1.サンプル
4つの市販のカラメル色素(E150 a、b、c、d)がSICNA S.r.I(カッシーナヌオーヴァディボッラーテ、ミラノ、イタリア)から提供された。カラメルで着色されたソフトドリンクの11のサンプル、3つのクラシックコーラ(A、B、C)、3つのコーラライト(D、E、F)、カフェインを含まない2つのコーラ(G、H)、レモンジュースを含む1つのコーラ(I)、及びチノット(Citrus myrtifolia)(イタリアの法律:DPR 19/5/1958、第5条)で味付けされた2つのソフトドリンクも分析された(チノットA及びB)。

2.1.2 化学物質
HPLCグレードのメタノール、・・・HMF(5−ヒドロキシメチル−2−フルフラール)はシグマアルドリッチ イタリア(ミラノ−イタリア)から購入した。」(第120頁左欄第3〜17行)

記載(1c)
「表4
分析したソフトドリンクの分光測色値、HMF及び糖の含量


***p<0.001 各列の異なる文字は、LSDテストで得られた95%の信頼度レベルでの有意差を示している。EBC単位は、European Brewery Convention, Analytica-EBC (2004)に従って、A430*希釈係数*25として表される。
nd = 検出不可
a HMFはmg/lで表され、グルコース及びフルクトースはg/lで表される。吸光度の値は、希釈されていないサンプルについて報告された。」(第121頁の表4)

(1−2)甲第2号証
本願の優先日前に頒布された刊行物である甲第2号証(以下、「甲2」という。)には、以下の記載がある。

記載(2a)
「コーラエキスとは、コーラの種子を炒って荒い粉にし、これを六〇%アルコールに長時間浸漬し、抽出して作る。仕上がり製品で糖度九〜一二、pH二.八〜三.一、炭酸ガス容量三〜三.六が適している。」(第107頁下欄第5〜8行)

(1−3)甲第3号証
本願の優先日前に頒布された刊行物である甲第3号証(以下、「甲3」という。)には、以下の記載がある。

記載(3a)
「サントリー食品
缶入り強炭酸ペプシなど盛夏向けに5品投入
サントリー食品は,盛夏向けの新製品として「ペプシストロングショット」・・・を全国で発売した(チルドは沖縄を除く)。
「ペプシストロングショット」(190ml,アルミ缶税別115円)は,リフレッシュシーンでの飲用を提案する飲みきりサイズの強炭酸コーラ。炭酸ガス圧」(第4頁中段左欄)

記載(3b)
「(4頁から続く)
3.6kg/cm2(ペプシネックス=3.2kg/cm3),カフェイン約20mg/100ml(ペプシ=約10mg,ペプシネックス=約14mg),47kcal/100ml。」(第11頁下段左欄第1〜5行)

(1−4)甲第4号証
本願の優先日前に頒布された刊行物である甲第4号証(以下、「甲4」という。)には、以下の記載がある。

記載(4a)
「1−2−4 酸味料

炭酸飲料に使用される酸味料としては,クエン酸,d−酒石酸,dl−リンゴ酸,リン酸,乳酸などが挙げられるが,最も広く使用されているのはクエン酸である。リン酸はコーラ飲料,乳酸は乳性飲料に主として使用される。」(第302頁第11〜14行)

記載(4b)
「1−4 製造方法

炭酸飲料の製造方法は,プレミックス方式とポストミックス方式の2種類があり,現在ではほとんどがプレミックス方式で製造されている。プレミックス方式とは糖液(シンプルシロップ)に酸味料や香料を加え調合糖液(フレーバードシロップ)を作り,水と定量混合(プロボーショニング)したものを冷却し炭酸ガスを吸収させる方法である。一方ポストミックス方式とは調合糖液を一定量びんに注入し,次いで炭酸水を入れ密封/密栓する方法である。

1−4−1 工程図

炭酸飲料の製造方法(プレミックス方式)の工程図を図1−1に示す。」(第304頁第16〜24行)

記載(4c)


」(第305頁)

記載(4d)
「(2) 調合糖液(フレーバードシロップ)の製造
i. 原材料の配合
炭酸飲料のおいしさは,糖分と酸のバランス,製品それぞれ独特のフレーバーと色の組合せによってかもしだされる。
炭酸飲料に使用される原材料としては,酸味料(コーラ欽料のリン酸,無果汁フレーバー飲料や透明飲料のクエン酸,酒石酸など),香料(製品の特徴を出すために,種々の香料が使用される),および着色料(コーラ飲料のカラメル,無果汁フレーバー飲料の各種の着色料)がある。合成着色料も使用されるが,近年は,消費者志向に合わせて天然着色料の使用が増えている。
これらの原材料は,原材料配合表(処方)に従って,それぞれ仕込み単位ごとの規定量を正しく計量して糖液(シンプルシロップ)に添加し,混合する。
ii. フレーバードシロップの製造
処方の原材料は,そのままシンプルシロップに投入するのではなく,いったん水に溶解し,濾過,もしくはステンレス鋼製の金網のスクリーンを通して添加する。攪拌機を回転させながら原材料を加えて,十分滉合する。攪拌を高速にし過ぎると調合糖液(フレーバードシロップ)に空気がまき込まれることがあり,後工程の炭酸ガス圧入の妨げとなったり,充填時に起泡(フォーミング)を生じたり,製品の酸化を促進するおそれがあるので,過剰の攪拌は避ける必要がある。
このように,つくられた調合糖液(フレーバードシロップ)は,充填工程に移されるが,製品の品質を保持する上ではできるだけ早く使用することが望ましい。」(第306頁第16行〜第307頁第19行)

記載(4e)
「1−4−6 カーボネーション(炭酸ガス圧入)

フレーバードシロップと水の混合液に炭酸ガスを圧入させて,炭酸飲料とするが,この操作をカーボネーション(炭酸ガス圧入)という。カーボネーションは,通常カーボネーターと呼ぶ装置の中で,液体に炭酸ガスを接触させることによって圧入を行う。
(1) 炭酸ガスの溶解度
一般に,気体が液体に溶けるとき,一定温度において一定量の液体に溶解する気体の量は,液体と平衝にある気体の圧力に比例する(ヘンリーの法則)。清涼飲料業界では,標準状態(1気圧,0℃)において,飲料に溶けている炭酸ガスの体積の飲料の体積に対しての比を表したものを,ガスボリューム(ガス容)と呼んでおり,飲料中の炭酸ガスの含有量を表す単位としている。
(2) 炭酸ガスの圧入温度
液体への炭酸ガスの吸収は,温度が低いほど大きいので,カーボネーションを効率よく行うには,一般には,液体を10℃以下に冷却して圧入する。温度が高すぎると炭酸ガスの圧力は高まり,カーボネーターや充填機の運転管理がしにくくなる。また充填機の内圧も高まり,充填時にフォーミング(起泡)を生じることもある。フォーミングは炭酸ガスの損失のみならず,稼動率の低下を招き,またふきこぼれた液体が巻締機などの汚れの原因になったり,充填不良品を発生させたりする。逆に液体の温度が低すぎる場合には,冷却機の消費電力が増加する。とくに低温充填製品の場合には,カートンの結露によるぬれを防止するため,充填巻締め後に加温する必要があるので,必要以上の低温は好ましくない。
(3) 炭酸ガスの圧入
一定の温度では,カーボネーター内の炭酸ガス圧力が高いほど,その吸収はよく,一般には,カーボネーションは0. 098〜0.392MPa(1〜4kg/cm3)の圧力下で行うが,製品のガスボリュームを一定にするためには,カーボネーター内の炭酸ガス圧力は常時一定に維持しなければならない。そのためには,カーボネーターヘの炭酸ガスの供給が連続して,十分に行われることと,自動圧力制御装置が正しく作動していることが不可欠である。現在では,純度が99.95%以上の良質の炭酸ガスが使用されているので,問題はないと言えようが,それでも,シロップや水の中に存在する空気が混入するおそれがある。これらの空気は,運転を継続すると,カーボネーター内では,空気が液体に吸収されないまま残留,蓄積され,その量が増えれば,真の炭酸ガスの圧力は指示値とずれてくる。残留する空気は,このほか充填機におけるフォーミングを引き起こしたり,また缶詰製品の場合には,そのヘッドスペースの空気量を増加させる原因となる。こうした問題を避けるためには,カーボネーターの内部の空気を運転中に定期的に除去する必要がある。
カーボネーター内での炭酸ガス吸収は,温度と圧力のみで十分行われるとは限らない。炭酸ガスと液体との接触面積が大きく,また液体の攪拌が適切に行われるほど,ガス吸収は速やかに行われる。カーボネーター内部で液体を冷却板上に薄膜状に流下させたり,タンク空間部に霧状に噴出させたりするのは,いずれも気・液の接触を効率的に行うためである。一般に,カーボネーターへの送液量を少なくすれば,単位流量当たりの接触面積が大きくなるため,炭酸ガスの吸収はよりよくなるが,カーポネーターの処理能力にも関係するので,実際には,設計能力を目安として液体の流量を決め,最終製品のガスボリュームを確認しながら,冷却温度とガス圧力を調整する。」(第309頁第2行〜第310頁第16行)

記載(4f)


」(第954頁)

(1−5)甲第5号証
本願の優先日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった電子的情報である甲第5号証(以下、「甲5」という。)には、以下の記載がある。

記載(5a)
「サントリー食品インターナショナル(株)は、「PEPSI」の新たな主カブランドとして「ペプシストロング」を立ち上げ、6月16日(火)からゼロカロリーコーラ「ペプシストロングゼロ」と、有糖コーラ「ペプシストロング」を全国で発売します。また、本日5月14日(木)から「ペプシストロングゼロ」が発売前に総計7,000名様に当たるキャンペーンを実施します。
これまでコーラを含む炭酸飲料は、「楽しくスカッとする爽快な飲み物」としてお客様にご愛飲されてきましたが、近年は、高果汁炭酸や、無糖炭酸市場が拡大し、各々の商品特長に合わせた飲用シーンや価値の多様化が進んでいます。
そこで、今回、コーラは「刺激が強く、仕事中にストレスを発散する時に飲む」といったお客様の声が高まっていることを背景に、コーラの価値である“刺激”を最大限に高めていくことに挑戦し、“強炭酸×強カフェイン”による“ペプシ最強の刺激”を実現した、「ペプシストロング」ブランドを立ち上げます。」(第1〜10行)

(1−6)甲第6号証
本願の優先日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった電子的情報である甲第6号証(以下、「甲6」という。)には、以下の記載がある。

記載(6a)
「健康志向の高まりとともに、無糖や果汁入りといった炭酸飲料市場が拡大していることは当サイトでも報じてきたが、夏に向けて新たに店頭を賑わせそうなのが“強め炭酸”の商品だ。
通常よりも炭酸ガス圧を高めた新商品は、すでに昨年より続々と登場していた。」(第1頁第1〜3行)

記載(6b)
「そして、いよいよコーラの最大のライバルであるペプシ(サントリー食品インターナショナル)も強炭酸の新ブランドで勝負をかける。6月16日に従来シリーズより多くカフェインを配合し、強めの炭酸に特徴を持たせた「ペプシ ストロング」を投入する予定だ。」(インターネット上の表示における第2頁第8〜10行)

(1−7)甲第7号証
本願の優先日後かつ出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった電子的情報である甲第7号証(以下、「甲7」という。)には、以下の記載がある。

記載(7a)
「近年、コーラは「刺激が強く、仕事中にストレスを発散する時に飲む」といったお客様の声が高まっていることを踏まえ、昨年は強炭酸と強カフェインが特長の「ペプシストロング」を展開し、お客様から大変ご好評をいただきました。そこで、今回は、コーラを含む、炭酸飲料の刺激を構成する「炭酸」に革新をもたらすことに挑戦し、ペプシ史上最強炭酸を実現した、「ペプシストロング5. OGV」、「ペプシストロング5. OGV〈ゼロ〉」を発売します。
●中味の特長
ご好評いただいている強カフェインの設計はそのままに、炭酸に革新をもたらすため、今回、最高ガスボリューム5. OGVに耐えられるボトルを新たに採用することで、今までを越える高いガスボリュームでの充填が可能となり、「ペプシ史上最強炭酸」を実現しました。加えて、香料の配合も見直すことで、今までの「ペプシストロング」を圧倒する、強い刺激と爽快感が楽しめる味わいへと進化しました。
※炭酸飲料の製造時の特性上、充填時ガスボリュームは約5. OGV〜4. 5GVとなっております。」(第7〜17行)

(1−8)甲第8号証
本願の優先日前に頒布された刊行物である甲第8号証(以下、「甲8」という。)には、以下の記載がある。

記載(8a)
「14) リン酸
【性状】無色透明なシロップ状の液体で,においがなく,渋みのある酸味がある。
【製法】リン鉱石の高温加熱処理や硫酸で処理して製造される。
【特性】食品加工業界で使用されている酸味料の中では最も低いpH値を示し,代表的な無機酸である。リン酸は最も安価に入手できる酸味料の一つであり,機能としては緩衝作用,酸味の付与,金属イオンのキレート作用がある。
主な用途はコーラなどの炭酸飲料がある。リン酸および塩類はチーズの製造や醸造工場でのpH調整に使用されている。ジャムやゼリーのゲル強度を上げる緩衝剤や金属イオンをキレート化するために他の有機酸と一緒に使用されている。」(第79頁右欄第23〜38行)

(1−9)甲第9号証
本願の優先日前に頒布された刊行物である甲第9号証(以下、「甲9」という。)には、以下の記載がある。

記載(9a)
「5−メチルフルフラール 5-Methyl furfural
・・・
〔性状〕甘くスパイシーでカラメル様香気の無色液体。
・・・
〔用途〕ハネー、メープルのイミテーション、ナッツ、ミート系フレーバーに少量。最終製品における使用量は0.03〜0.13ppm。」(第230〜231頁の5−メチルフルフラールの項)

(2) 甲1記載の発明
記載(1b)のとおり、甲1には、カラメルで着色されたソフトドリンクとして3つのクラシックコーラ(A、B、C)及び3つのコーラライト(D、E、F)が記載されており、記載(1c)には、それらコーラがHMF(5−ヒドロキシメチルフルフラール)を0.84〜2.01mg/l含有することも記載されている。
ここで、1mg/lは1000ppbに変換できることから、HMFを0.84〜2.01mg/l含有することは、HMFを840〜2010ppb含有することを意味する。
さらに、コーラ(G、H)についてはカフェインを含まないことが明示的に記載されていることを踏まえれば、その前に記載されているクラシックコーラ(A、B、C)及びコーラライト(D、E、F)はカフェインを含むものと認められる。

したがって、甲1には、以下の発明が記載されているといえる(以下「甲1発明」という。)。
「840ppb〜2010ppbのHMF(5−ヒドロキシメチルフルフラール)を含有するコーラ。」

また、甲1には、各種ソフトドリンクの製造方法が明記はされていないものの、サンプルとして各種ソフトドリンクが提供される過程においてそれらソフトドリンクが製造されたことは明らかであることから、以下の発明が記載されているに等しいものといえる(以下「甲1−1発明」という。)。
「840ppb〜2010ppbのHMF(5−ヒドロキシメチルフルフラール)を含有するコーラの製造方法。」

(3) 対比・判断
(3−1)本件特許発明1と甲1発明の対比・判断
ア 対比
甲1発明の「コーラ」は、本件特許発明1の「炭酸飲料」に相当する。
また、甲1発明の「HMF(5−ヒドロキシメチルフルフラール)」は、本件特許発明1の「5−HMF(5−ヒドロキシメチルフルフラール)」に相当する。
したがって、本件特許発明1と甲1発明とは
「100ppb〜5000ppbの5−HMF(5−ヒドロキシメチルフルフラール)及び10ppb〜1000ppbの5−MF(5−メチルフルフラール)の少なくとも1つを含有する炭酸飲料。」の点で一致しており、以下の点で相違する。

相違点1:本件特許発明1は、「炭酸ガスボリュームが4.0v/v以上であり、酸度が0.010g/100g〜0.800g/100gである、」と特定されているものの、甲1発明においては、そのような記載がない点。

イ 相違点1の判断
(ア)動機付けの有無
甲1には、記載(1b)のとおり、サンプルとして様々なコーラが記載されているものの、それらコーラの炭酸ガスボリュームの値やその値を高めることについては何ら記載されていない。
甲2には、記載(2a)のとおり、一般的なコーラ飲料について、仕上がり製品では炭酸ガス容量3〜3.6が適していることが記載されているが、その値を高めることや4.0以上にすることは記載されていない。
甲3には、記載(3a)及び記載(3b)のとおり、リフレッシュシーンでの飲用を提案する強炭酸コーラとして、炭酸ガス圧3.6kg/cm2、カフェイン約20mg/100mlの新製品を販売することが記載されているところ、甲4の記載(4f)を参照すると、炭酸ガス圧3.6kg/cm2は温度10〜30℃において炭酸ガスボリューム4.0前後に相当するものと認められる。また、甲5及び甲6には、記載(5a)、記載(6a)及び記載(6b)のとおり、強炭酸及び強カフェインのコーラを含む様々な強炭酸飲料が炭酸飲料市場に投入されていることが記載されている。
してみると、甲3、甲5〜6には、炭酸ガスボリュームが4.0v/v以上の様々な強炭酸飲料が炭酸飲料市場に投入されている旨の記載があることは認められるものの、記載(1a)のとおり、甲1発明はソフトドリンクの抗酸化作用を検証する甲1においてサンプル例として提供されたものに過ぎないため、甲1、甲3、甲5〜6の記載全体を踏まえれば、甲3、甲5〜6に記載された事項を甲1発明に適用する動機付けがあるとはいえない。
甲8には、記載(8a)のとおり、コーラ等の炭酸飲料においてリン酸が酸味料として用いられることは記載されているものの、コーラの炭酸ガスボリュームを4.0v/v以上とすることは何ら記載されていない。
甲9には、記載(9a)のとおり、5−メチルフルフラールが甘くスパイシーでカラメル様香気の無色液体であり、最終製品における使用量は0.03〜0.13ppmであることが記載されているものの、コーラの炭酸ガスボリュームを4.0v/v以上とすることや、炭酸ガスボリュームの値が高い炭酸飲料に使用されることは何ら記載されていない。
さらに、本願の優先日後かつ出願日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲7についても考慮するとしても、甲7には、強炭酸と強カフェインの製品が好評なことを受け、香料の配合を見直しつつ、炭酸ガスボリュームが5.0v/v程度の新商品を発売することが記載されているが、記載(1a)のとおり、甲1発明はソフトドリンクの抗酸化作用を検証する甲1において、サンプル例として提供されたものに過ぎないため、甲1、甲7の記載全体を踏まえれば、甲7に記載された事項を甲1発明に適用する動機付けがあるとはいえない。

したがって、酸度について検討するまでもなく、甲1発明において、相違点1に係る本件特許発明1の技術的事項を採用することが当業者が容易になし得た事項であるとはいえない。

(イ)本件特許発明1の奏する効果について
本件特許発明1の奏する効果について、本件明細書の試験例8の記載を参酌すると、5−HMFが炭酸飲料の炭酸感の増強効果を有するとともに、炭酸ガスボリュームが高い程、その効果が高まるという相乗的な効果が記載されている(記載(ク))。
一方で、甲1〜6、8、9には、炭酸飲料の炭酸感に対する5−HMFと炭酸ガスボリュームを高くすることの相乗的な効果について何ら記載されていないことから、本件特許発明1の奏する上記効果は当業者の予測し得たものとはいえない。
また、本件特許の優先権主張の基礎とされた特願2016−98334号の明細書には、本件明細書の記載(ク)がないことから、本願の優先日後かつ出願日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲7の記載についても参酌するとしても、甲7には、炭酸飲料の炭酸感に対する5−HMFと炭酸ガスボリュームを高くすることの相乗的な効果について何ら記載されていないことから、本件特許発明1の奏する上記効果は当業者の予測し得たものとはいえない。

(ウ)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、甲3〜7に記載の事項から把握できる炭酸飲料のトレンドを考慮すると、甲1発明においても、炭酸ガスボリュームを4.0v/v以上にすることは当業者が容易になし得たことである旨を主張している。
しかしながら、上記(ア)に記載したとおり、甲3、甲5〜6には、炭酸ガスボリュームが4.0v/v以上の様々な強炭酸飲料が炭酸飲料市場に投入されている旨の記載があることは認められるものの、記載(1a)のとおり、甲1発明はソフトドリンクの抗酸化作用を検証する甲1においてサンプル例として提供されたものに過ぎないため、甲1、甲3、甲5〜6の記載全体を踏まえれば、甲1発明について炭酸ガスボリュームを4.0v/v以上にすることの動機付けがあったとはいえない。また、本願の優先日後かつ出願日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲7の記載を考慮したとしても同様である。
さらに、仮に動機付けがあったとしても、上記(イ)に記載したとおり、本件特許発明1の奏する上記効果は当業者の予測し得たものとはいえない。
したがって、上記特許異議申立人の主張は採用できない。

ウ よって、本件特許発明1は、甲1発明及び甲2〜9に記載の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3−2)本件特許発明2〜4と甲1発明の対比・判断
本件特許発明2〜4は、本件特許発明1において、「前記酸度に対する前記5−HMFの含有量の割合及び/又は前記酸度に対する前記5−MFの含有量の割合」、「カラメル、カフェイン、ショ糖、及び高甘味度甘味料からなる群から選ばれる少なくとも1つを含有する」、「容器詰め炭酸飲料である」という点をさらに技術的に限定したものであるから、上記(3−1)で検討したのと同様に、甲1発明及び甲2〜9に記載の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3−3)本件特許発明5と甲1−1発明の対比・判断
ア 対比
甲1−1発明の「コーラ」は、本件特許発明5の「炭酸飲料」に相当する。
したがって、本件特許発明5と甲1−1発明とは
「炭酸飲料の製造方法であって、該炭酸飲料が5−HMFを100ppb〜5000ppb及び/又は5−MFを10ppb〜1000ppb含有する、前記炭酸飲料の製造方法。」の点で一致しており、以下の点で相違する。

相違点2:本件特許発明5は、「5−HMF(5−ヒドロキシメチルフルフラール)及び5−MF(5−メチルフルフラール)の少なくとも1つ、並びに酸味料を配合する工程、製造直後の容器内の炭酸ガスボリュームを4.5v/v以上に調整する工程、を含む」と特定されているものの、甲1−1発明においては、そのような記載がない点。

イ 相違点2の判断
(ア)動機付けの有無
甲1には、記載(1b)のとおり、サンプルとして様々なコーラが記載されているものの、それらコーラの炭酸ガスボリュームの値やその値を高めることについては何ら記載されていない。
甲2には、記載(2a)のとおり、一般的なコーラ飲料について、仕上がり製品では炭酸ガス容量3〜3.6が適していることが記載されているが、その値を高めることや4.5以上にすることは記載されていない。
甲3には、記載(3a)及び記載(3b)のとおり、リフレッシュシーンでの飲用を提案する強炭酸コーラとして、炭酸ガス圧3.6kg/cm2、カフェイン約20mg/100mlの新製品を販売することが記載されているところ、甲4の記載(4f)を参照すると、炭酸ガス圧3.6kg/cm2は温度10〜30℃において炭酸ガスボリューム4.0前後に相当するものと認められる。また、甲5及び甲6には、記載(5a)、記載(6a)及び記載(6b)のとおり、強炭酸及び強カフェインのコーラを含む様々な強炭酸飲料が炭酸飲料市場に投入されていることが記載されている。
してみると、甲3、甲5〜6には、炭酸ガスボリュームが4.0v/v以上の様々な強炭酸飲料が炭酸飲料市場に投入されている旨の記載があることは認められるものの、記載(1a)のとおり、甲1−1発明はソフトドリンクの抗酸化作用を検証する甲1において、サンプル例を提供するためのものに過ぎないため、甲1、甲3、甲5〜6の記載全体を踏まえれば、甲3、甲5〜6に記載された事項を甲1−1発明に適用する動機付けがあるとはいえない。
甲4には、炭酸ガス圧と炭酸ガスボリュームとの関係以外に、記載(4a)〜記載(4e)のとおり、フレーバードシロップと水の定量混合後に炭酸ガス圧入を行うプレミックス方式による炭酸飲料の製造方法が記載されているものの、炭酸ガスボリュームの値を高めることは何ら記載されていない。
甲8には、記載(8a)のとおり、コーラ等の炭酸飲料においてリン酸が酸味料として用いられることは記載されているものの、コーラの炭酸ガスボリュームを4.5v/v以上とすることは何ら記載されていない。
甲9には、記載(9a)のとおり、5−メチルフルフラールが甘くスパイシーでカラメル様香気の無色液体であり、最終製品における使用量は0.03〜0.13ppmであることが記載されているものの、コーラの炭酸ガスボリュームを4.5v/v以上とすることや、炭酸ガスボリュームの値が高い炭酸飲料に使用されることは何ら記載されていない。
さらに、本願の優先日後かつ出願日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲7についても考慮するとしても、甲7には、強炭酸と強カフェインの製品が好評なことを受け、香料の配合を見直しつつ、炭酸ガスボリュームが5.0v/v程度の新商品を発売することが記載されているが、記載(1a)のとおり、甲1発明はソフトドリンクの抗酸化作用を検証する甲1において、サンプル例として提供されたものに過ぎないため、甲1、甲7の記載全体を踏まえれば、甲7に記載された事項を甲1発明に適用する動機付けがあるとはいえない。
したがって、「5−HMF(5−ヒドロキシメチルフルフラール)及び5−MF(5−メチルフルフラール)の少なくとも1つ、並びに酸味料を配合する工程、製造直後の容器内の炭酸ガスボリュームを調整する工程、を含む」という製造プロセスの点について検討するまでもなく、甲1−1発明において、相違点2に係る本件特許発明5の技術的事項を採用することが当業者が容易になし得た事項であるとはいえない。

(イ)本件特許発明5の奏する効果について
本件特許発明5の奏する効果について、本件明細書の試験例8の記載を参酌すると、5−HMFが炭酸飲料の炭酸感の増強効果を有するとともに、炭酸ガスボリュームが高い程、その効果が高まるという相乗的な効果が記載されている(記載(ク))。
一方で、甲1〜6、8、9には、炭酸飲料の炭酸感に対する5−HMFと炭酸ガスボリュームを高くすることの相乗的な効果について何ら記載されていないことから、本件特許発明5の奏する上記効果は当業者の予測し得たものとはいえない。
また、本件特許の優先権主張の基礎とされた特願2016−98334号の明細書には、本件明細書の記載(ク)がないことから、本願の優先日後かつ出願日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲7の記載についても参酌するとしても、甲7には、炭酸飲料の炭酸感に対する5−HMFと炭酸ガスボリュームを高くすることの相乗的な効果について何ら記載されていないことから、本件特許発明5の奏する上記効果は当業者の予測し得たものとはいえない。

(ウ)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、甲3〜7に記載の事項から把握できる炭酸飲料のトレンドを考慮すると、甲1−1発明においても、炭酸ガスボリュームを4.5v/v以上にすることは当業者が容易になし得たことである旨を主張している。
しかしながら、上記(ア)に記載したとおり、甲3、甲5〜6には、炭酸ガスボリュームが4.0v/v以上の様々な強炭酸飲料が炭酸飲料市場に投入されている旨の記載があることは認められるものの、記載(1a)のとおり、甲1−1発明はソフトドリンクの抗酸化作用を検証する甲1においてサンプル例として提供されたものに過ぎないため、甲1、甲3、甲5〜6の記載全体を踏まえれば、甲1−1発明について炭酸ガスボリュームを4.5v/v以上にすることの動機付けがあったとはいえない。また、本願の優先日後かつ出願日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲7の記載を考慮したとしても同様である。
さらに、仮に動機付けがあったとしても、上記(イ)に記載したとおり、本件特許発明5の奏する上記効果は当業者の予測し得たものとはいえない。
したがって、上記特許異議申立人の主張は採用できない。

ウ よって、本件特許発明5は、甲1−1発明及び甲2〜9に記載の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

第5 むすび
したがって、請求項1〜5に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。
また、ほかに請求項1〜5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2022-09-20 
出願番号 P2018-193109
審決分類 P 1 651・ 121- Y (A23L)
P 1 651・ 537- Y (A23L)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 瀬良 聡機
特許庁審判官 伊藤 佑一
冨永 保
登録日 2021-06-22 
登録番号 6902007
権利者 サントリーホールディングス株式会社
発明の名称 炭酸ガスボリュームが高い炭酸飲料  
代理人 中西 基晴  
代理人 鶴喰 寿孝  
代理人 宮前 徹  
代理人 山本 修  

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