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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B29B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B29B
管理番号 1389422
総通号数 10 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-10-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-05-31 
確定日 2022-10-12 
異議申立件数
事件の表示 特許第6975804号発明「熱可塑性プレポリマーを含浸させた繊維材料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6975804号の請求項1ないし17に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6975804号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし17に係る特許についての出願は、2018年(平成30年)6月21日を国際出願日(パリ条約に基づく優先権主張外国庁受理 2017年6月22日 フランス(FR))とする出願であって、令和3年11月10日にその特許権の設定登録(請求項の数17)がされ、同年12月1日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、令和4年5月31日に特許異議申立人 渋谷 都(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:全請求項)がされたものである。

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし17に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいう。)は、それぞれ、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1ないし17に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
連続繊維の繊維材料と少なくとも1の熱可塑性ポリマーマトリックスとを含む含浸繊維材料において、少なくとも1の熱可塑性ポリマーが、ガラス転移温度がTg≧80℃である非反応性アモルファスポリマーか、又は融点Tfが≧150℃である非反応性半結晶性ポリマーであり、Tg及びTfが、それぞれ規格11357−2:2013、11357−3:2013に従って、示差熱量分析(DSC)によって決定され、繊維の含浸が均一である繊維体積含有率が、含浸繊維材料の体積の少なくとも70%で一定であり、前記含浸繊維材料の繊維含有率が、前記繊維材料の両面で45〜65体積%であり、前記含浸繊維材料の多孔性レベルが10%未満であり、
前記含浸繊維材料が非反応性液晶ポリマー(LCP)を有さず、つまり、前記熱可塑性ポリマーの分子量がもはや有意に変化せず、含浸中のその数平均分子量(Mn)の変化が50%未満であり、
前記含浸繊維材料が単層であり、含浸が少なくとも1の延展で実行され、
前記繊維材料中の炭素繊維の繊維数が30K以上であるか、又は前記繊維材料中のガラス繊維の坪量が2400Tex以上である、含浸繊維材料。
【請求項2】
前記材料が非可撓性であることを特徴とする、請求項1に記載の含浸繊維材料。
【請求項3】
前記少なくとも1の熱可塑性ポリマーが、ポリアリールエーテルケトン類(PAEK)、特にポリエーテルエーテルケトン(PEEK);ポリアリールエーテルケトンケトン(PAEKK)、特にポリエーテルケトンケトン(PEKK);芳香族ポリエーテルイミド(PEI);ポリアリールスルホン、特にポリフェニレンスルホン(PPSU);ポリアリールスルフィド、特にポリフェニレンスルフィド(PPS);ポリアミド(PA)、特に、場合により尿素単位で変性された半芳香族ポリアミド(ポリフタルアミド);PEBA、ポリアクリレート、特にポリメチルメタクリレート(PMMA);ポリオレフィン、特にポリプロピレン、ポリ乳酸(PLA)、ポリビニルアルコール(PVA)、及びフッ素化ポリマー、特にポリフッ化ビニリデン(PVDF)又はポリテトラフルオロエチレン(PTFE)又はポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE);並びにこれらの混合物から選択されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の含浸繊維材料。
【請求項4】
前記少なくとも1の熱可塑性ポリマーが、ポリアミド、PEKK、PEI、及びPEKKとPEIとの混合物から選択されることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の含浸繊維材料。
【請求項5】
前記ポリアミドが、脂肪族ポリアミド、脂環式ポリアミド、及び半芳香族ポリアミド(ポリフタルアミド)から選択されることを特徴とする、請求項4に記載の含浸繊維材料。
【請求項6】
前記脂肪族ポリアミドが、ポリアミド6(PA−6)、ポリアミド11(PA−11)、ポリアミド12(PA−12)、ポリアミド66(PA−66)、ポリアミド46(PA−46)、ポリアミド610(PA−610)、ポリアミド612(PA−612)、ポリアミド1010(PA−1010)、ポリアミド1012(PA−1012)、ポリアミド11/1010、ポリアミド12/1010又はこれらの混合物又はこれらのコポリアミド、及びブロックコポリマーから選択され、且つ、前記半芳香族ポリアミドは、MXD6及びMXD10から選択される尿素単位で変性され得る半芳香族ポリアミド、又は式A/X.Tの半芳香族ポリアミドから選択される式X/YArの半芳香族ポリアミド[式中、Aは、アミノ酸から得られる単位、ラクタムから得られる単位、及び式(Caジアミン)・(Cb二酸)に相当する単位の中から選択され、「a」はジアミンの炭素原子数を表し、「b」は二酸の炭素原子数を表し、「a」及び「b」はそれぞれ4〜36の間であり、単位(Caジアミン)は、直鎖又は分岐状脂肪族ジアミン、脂環式ジアミン、及びアルキル芳香族ジアミンから選択され、単位(Cb二酸)は、直鎖又は分岐状脂肪族二酸、脂環式二酸、及び芳香族二酸から選択され;
X.Tは、Cxジアミンとテレフタル酸の重縮合によって得られる単位(ここで、xはCxジアミンの炭素原子の数を表し、xは6〜36の間に含まれる)を示し、Tはテレフタル酸に相当し、MXDはm−キシリレンジアミンに相当する]であることを特徴とする、請求項5に記載の含浸繊維材料。
【請求項7】
前記繊維材料が、炭素、ガラス、炭化ケイ素、玄武岩、シリカ、天然繊維、特にフラックス又はヘンプ、リグニン、竹、サイザル麻、絹、又はセルロース、特にビスコース、或いは前記ポリマー若しくは前記ポリマー混合物がアモルファスである場合にそのガラス転移温度Tgより高いか又は前記ポリマー若しくは前記ポリマー混合物が半結晶性である場合にそのTfより高いTgを有するアモルファス熱可塑性繊維、或いは前記ポリマー若しくは前記ポリマー混合物がアモルファスである場合にそのTgより高いか又は前記ポリマー若しくは前記ポリマー混合物が半結晶性である場合にその溶融温度Tfより高いTfを有する半結晶性熱可塑性繊維、或いは前記繊維の2つ以上の混合物、好ましくは炭素繊維、ガラス又は炭化ケイ素の混合物、特に炭素繊維から選択される連続繊維を含むことを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の含浸繊維材料。
【請求項8】
前記熱可塑性ポリマーが、炭素系フィラー、特にカーボンブラック若しくはカーボンナノフィラー、グラフェン及び/若しくはカーボンナノチューブ及び/若しくはカーボンナノフィブリルといった炭素系ナノフィラーから選択されるもの、又はこれらの混合物をさらに含むことを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の含浸繊維材料。
【請求項9】
較正リボンのロボットによる自動的適用による三次元複合部品の製造に適した前記リボンの調製のための、請求項1から8のいずれか一項に記載の含浸繊維材料の使用。
【請求項10】
請求項1から8のいずれか一項に記載の、少なくとも1の含浸繊維材料を含むリボン。
【請求項11】
単一の一方向リボン又は複数の平行な一方向リボンでできていることを特徴とする、請求項10に記載のリボン。
【請求項12】
リボンが、スリッティングを必要とせずに、三次元ワークピースの製造におけるロボット適用に適した幅(I)及び厚み(ep)を有し、前記幅(I)は、5mm以上400mm以下、好ましくは5〜50mmの間、さらに一層好ましくは5〜15mmの間であることを特徴とする、請求項10又は11に記載のリボン。
【請求項13】
熱可塑性ポリマーが、脂肪族ポリアミドPA 6、PA 11、PA 12、PA 66、PA 46、PA 610、PA 612、PA 1010、PA 1012、PA 11/1010若しくはPA 12/1010、又は半芳香族ポリアミド、例えばPA MXD6及びPA MXD10から選択されるポリアミドであるか、或いはPA 6/6T、PA 6I/6T、PA 66/6T、PA 11/10T、 PA 11/6T/10T、PA MXDT/10T、PA MPMDT/10T、PA BACT/6T、PA BACT/10T及びPA BACT/10T/6T、PVDF、PEEK、PEKK及びPEI又はこれらの混合物から選択されることを特徴とする、請求項11又は12に記載のリボン。
【請求項14】
熱可塑性ポリマーが、PA 6、PA 11、PA 12、PA 11/1010若しくはPA 12/1010等の脂肪族ポリアミド、又はPA 6/6T、PA 6I/6T、PA 66/6T、PA 11/10T、PA 11/6T/10T、PA MXDT/10T、PA MPMDT/10T及びPA BACT/10Tから選択される半芳香族ポリアミドから選択されるポリアミドであり、Tはテレフタル酸に相当し、MXDはm−キシリレンジアミンに相当し、MPMDはメチルペンタメチレンジアミンに相当し、BACはビス(アミノメチル)シクロヘキサンに相当することを特徴とする、請求項13に記載のリボン。
【請求項15】
三次元複合部品の製造における、請求項10から14のいずれか一項に記載のリボンの使用。
【請求項16】
前記複合部品の前記製造が、輸送、石油及びガス、ガス貯蔵、航空、船舶及び鉄道;風力、ハイドロタービン、エネルギー貯蔵装置、ソーラーパネルから選択される再生可能エネルギー;断熱パネル;スポーツ及びレジャー、健康医療、並びにエレクトロニクスの分野に関することを特徴とする、請求項15に記載の使用。
【請求項17】
請求項10から14のいずれか一項に記載の含浸繊維材料の少なくとも1の一方向リボンの使用の結果として得られることを特徴とする三次元複合部品。」

第3 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
令和4年5月31日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。

1 申立理由1(甲第1号証に基づく新規性進歩性
本件特許の請求項1ないし17に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲第1号証に記載された発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし17に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

2 証拠方法
・甲第1号証:平成25年度戦略的基礎技術高度化支援事業「車両用部材の多品種中小ロット生産に対応した連続炭素繊維強化熱可塑性樹脂シートの開発」研究開発成果等報告書概要版、平成26年3月、委託者 中部経済産業局、委託先 財団法人石川県産業創出支援機構、インターネット<URL:
https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/sapoin/portal/seika/2011/23142314074.pdf>
・甲第2号証:酒田彰久、<第33回複合材料セミナー>「PAN系炭素繊維の現状と将来」、日本化学繊維協会炭素繊維協会委員会、2020年2月21日、インターネット<URL:
https://www.carbonfiber.gr.jp/pdf/33rd_seminar_PAN.pdf>
・甲第3号証:化学大辞典編集委員会編「化学大辞典6」、共立出版株式会社、2006年7月15日、594頁
・甲第4号証:特表2017−507045号公報
・甲第5号証:特開2016−187906公報

証拠の表記は、概ね特許異議申立書の記載にしたがった。以下、「甲1」等という。

第4 当審の判断
1 申立理由1(甲第1号証に基づく新規性進歩性)について
(1)甲1に記載された事項等
ア 甲1に記載された事項
甲1にはおおむね次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付したものである。

・「【1.構造部材用スタンパプルシートの開発】
【1−1】 炭素繊維織物の織組織の検討
1kg当りの価格の安いラージトウでの製織を検討した。ラージトウで製織できることを確認した。」(11ページ2〜5行)

・「【1−2】 炭素繊維織物の前処理の検討
炭素繊維織物の前処理について検討した。図3に未処理、加熱によるサイジング剤除去、PAエマルジョン処理をした炭素繊維織物を基材として試作したスタンパブルシートの曲げ物性及びボイド率を示す。PAエマルジョン処理よりもサイジング剤除去したものは効果が大きく、曲げ強度が最大、ボイド率が最小となった。」(11ページ9〜13行)

・「【1−3】 押出ラミネート法による炭素繊雑織物への熱可塑性樹脂含浸性向上
炭素繊維織物に樹脂を含浸する方法の一つとして、押出ラミネートによる基材の試作を行った。図4に押出ラミネートによる試作状況を示す。この手法はフィルム成形で使用されるTダイの直下に炭素繊維織物を繰り出すことで、炭素繊維織物と熱可塑性樹脂フィルムを貼り合せる手法である。試作条件を検討し、連続かつ安定的に試作する技術を確立した。」(12ページ1〜6行)

・「【1−4】 スタンパプルシートの成形条件についての検討
炭素繊維織物の前処理、および、押出ラミネートで試作した基材を用い、スタンパブルシートを連続的に成形する手法の確立を行なった。図5にスタンパブルシートが連続的に作製されている様子を示す。成形時の加熱条件、プレス条件等を最適化することで、スタンパブルシートを連続かつ安定的に作製する技術を確立した。」(12ページ10〜14行)

・「【1−5】 構造部材用スタンパブルシートとしての評価
作製したスタンパブルシート及びプレス成形品について、曲げ強度・弾性率、ボイド率、電子顕微鏡観察の評価をおこなった。
レギュラートウとラージトウの炭素繊維織物を基材としたスタンパブルシート、及び、2回成形した時のスタンパブルシートの断面SEM写真を図6に示す。レギュラートウ、ラージトウ共に1回成形したのみのスタンパブルシートは炭素繊維束に樹脂があまり含浸していないのに対し、2回成形したスタンパブルシートは炭素繊維束に含浸していることが分かる。2回成形したスタンパブルシートは、当初の目標である曲げ強度500MPa以上、ボイド率5%以下を逹成した。


また、1回成形のスタンパブルシートを低圧(5MPa)でプレス成形し、その成形品の評価をおこなった。レギュラートウとラージトウの炭素繊維織物を基材としたスタンパブルシートを低圧プレスした成形品の断面SEM写真を図7に示す。図6と比較すると、低圧プレス成形品は炭素繊維束の内部まで樹脂が含浸しており、樹脂と炭素繊維が一体化していることが分かる。図8に低圧プレス成形品の曲げ強度及び曲げ弾性率を示す。いずれも当初の目標曲げ強度500MPaを超える結果となった。また、強度のばらつきも目標の10%以下を達成した。表7に成形品のVf及びボイド率を示す。いずれの成形品においてボイド率は5%以下であった。以上より、含浸性の低い1回ロールプレス成形で作製したスタンパブルシートでも、低圧プレスすることによって、当初の目標を達成できることを確認した。


(13ページ1行〜14ページ8行)

・「【2−2】 車両部材としての評価
現行の車両部品と成形品との重量と曲げ強度を測定し、比較を行った。その結果、現行品の車両部品と比較して約70%の軽量化が図れることを確認すると共に、曲げ強度は現行品と同等以上となることがわかった。
一方、外板部材の品質評価の為、高精度触針式表面粗さ計により表面平滑性を評価した。図11に試作した車両部品の表面粗さ測定結果を示す。

この結果、試作品は炭素繊維の太さや織組織に関わらず、試作品の表面が現行品と比較して粗いということが分かった。また、塗装品では、Ra=0.38nm程度であり、塗装により表面粗さが大きく改善されたが、目安となるRa=0.1nm以下には到達せず、更なる表面品位のレベルアップが課題となった。」(15ページ下から5行〜16ページ末行)

イ 甲1に記載された発明
甲1に記載された事項、特に図11のPA6/CF60Kの平織試作品に関して整理すると、甲1には以下の発明が記載されていると認められる。

「炭素繊維数が60Kであるトウから作製した平織物に、押出ラミネートを用いてポリアミド6を含浸させた基材を用いたスタンパブルシート。」(以下、「甲1発明」という。)

(2)甲3に記載された事項
甲3には次の事項が記載されている。



」(594ページ右欄の表)

(3)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲1発明を対比する。

甲1発明の「炭素繊維数が60Kであるトウ」、「ポリアミド6」及び「スタンパブルシート」は、本件特許発明1の「繊維材料」、「少なくとも1の熱可塑性ポリマーマトリックス」及び「含浸繊維材料」に、それぞれ相当する。
また、甲1発明の「炭素繊維数が60Kであるトウ」は、本件特許発明1の「前記繊維材料中の炭素繊維の繊維数が30K以上であるか、又は前記繊維材料中のガラス繊維の坪量が2400Tex以上である」に相当する。
さらに、甲1発明の「ポリアミド6」は、甲3には、ポリアミド6である6−ナイロンの融点が215℃であることが記載されていることから、本件特許発明1の「少なくとも1の熱可塑性ポリマーが、ガラス転移温度がTg≧80℃である非反応性アモルファスポリマーか、又は融点Tfが≧150℃である非反応性半結晶性ポリマーであり、Tg及びTfが、それぞれ規格11357−2:2013、11357−3:2013に従って、示差熱量分析(DSC)によって決定され」に相当する。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「繊維材料と少なくとも1の熱可塑性ポリマーマトリックスとを含む含浸繊維材料において、少なくとも1の熱可塑性ポリマーが、ガラス転移温度がTg≧80℃である非反応性アモルファスポリマーか、又は融点Tfが≧150℃である非反応性半結晶性ポリマーであり、Tg及びTfが、それぞれ規格11357−2:2013、11357−3:2013に従って、示差熱量分析(DSC)によって決定され、
前記繊維材料中の炭素繊維の繊維数が30K以上であるか、又は前記繊維材料中のガラス繊維の坪量が2400Tex以上である、含浸繊維材料。」

そして、両者は次の点で相違する。
<相違点1>
本件特許発明1は、「連続繊維の繊維材料」と特定されているのに対し、甲1発明は、このような特定がない点。

<相違点2>
本件特許発明1は、「繊維の含浸が均一である繊維体積含有率が、含浸繊維材料の体積の少なくとも70%で一定であ」ると特定されているのに対し、甲1発明は、このような特定がない点。

<相違点3>
本件特許発明1は、「前記含浸繊維材料の繊維含有率が、前記繊維材料の両面で45〜65体積%であ」ると特定されているのに対し、甲1発明は、このような特定がない点。

<相違点4>
本件特許発明1は、「前記含浸繊維材料の多孔性レベルが10%未満であ」ると特定されているのに対し、甲1発明は、このような特定がない点。

<相違点5>
本件特許発明1は、「前記含浸繊維材料が非反応性液晶ポリマー(LCP)を有さず、つまり、前記熱可塑性ポリマーの分子量がもはや有意に変化せず、含浸中のその数平均分子量(Mn)の変化が50%未満であ」ると特定されているのに対し、甲1発明は、このような特定がない点。

<相違点6>
本件特許発明1は、「前記含浸繊維材料が単層であ」ると特定されているのに対し、甲1発明は、このような特定がない点。

<相違点7>
本件特許発明1は、「含浸が少なくとも1の延展で実行され」と特定されているのに対し、甲1発明は、このような特定がない点。

イ 判断
そこで、事案に鑑み、相違点3について検討する。
甲1には、「含浸繊維材料の繊維含有率」に関する記載はなく、甲1発明の「含浸繊維材料の繊維含有率」が「繊維材料の両面で45〜65体積%」であることを示す証拠もない。
したがって、相違点3は実質的な相違点である。

なお、特許異議申立人は、特許異議申立書において、「繊維含有率は、用途等を考慮し、必要とされる物性との関係で決定されるものであり、本件発明1と甲1発明の含侵繊維材料の用途が特に異なるものではなく、また、炭素繊維の繊維数も重複一致していることから、甲1発明は、本件発明1と同じく、含浸繊維材料の繊維含有率が、前記繊維材料の両面で45〜65体積%である蓋然性が高いといえる。したがって、相違点2は実質的な相違点とはいえない。」(特許異議申立書34ページ21〜26行)と主張するが、用途及び炭素繊維の繊維数が一致していることのみでもって、直ちに含浸繊維材料の繊維含有率の範囲を特定することはできないことから、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

また、甲1には、甲1発明において、相違点3に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもそのような記載はない。
したがって、甲1発明において、相違点3に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
そして、本件特許発明1の奏する「含浸繊維材料、特に単層繊維材料、特に炭素繊維の繊維数が30K以上、特に50K以上であるもの、又はガラス繊維の坪量が1200Tex以上、特に2400Tex以上、4800Tex以上のものであって、且つ、その繊維体積レベルが、繊維の含浸が均一であるストリップ又はリボンの体積の少なくとも70%で特に一定であるものを提案する」(本件特許の発明の詳細な説明の【0029】)という効果は、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項からみて、顕著なものである。

なお、特許異議申立人は、特許異議申立書において、「繊維含有率は、含浸繊維材料の必要とされる物性との関係で当業者が適宜決定するものであり、さらに、繊維材料の両面での含有率を45〜65体積%としたことにより、格別予期し難い効果が奏されるとも認められない。」(特許異議申立書34ページ27〜31行)と主張するが、含浸繊維材料の繊維含有率を当業者が適宜決定するものであるとしても、その繊維含有率を前記繊維材料の両面で45〜65体積%とすることまで、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項からは導き出すことができないし、繊維材料の両面での含有率を45〜65体積%としたことによって、顕著な効果を奏することは、上記で述べたとおりであるから、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

ウ まとめ
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明であるとはいえないし、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(4)本件特許発明2ないし8について
本件特許発明2ないし8は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものである。
そして、上記(3)ア及びイで検討したとおり、本件特許発明1は、甲1発明ではなく、また、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件特許発明1の特定事項を全て含む発明である本件特許発明2ないし8は甲1発明ではないし、また、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(5)本件特許発明9について
本件特許発明9は「含浸繊維材料の使用」に関するものであるが、請求項1を直接又は間接的に引用する発明であり、本件特許発明1の特定事項を全て有するものである。
そして、上記(3)ア及びイで検討したとおり、本件特許発明1は、甲1発明ではなく、また、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件特許発明1の特定事項を全て含む発明である本件特許発明9は甲1発明ではないし、また、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(6)本件特許発明10ないし14について
本件特許発明10ないし14は「リボン」に関するものであるが、請求項1を直接又は間接的に引用する発明であり、本件特許発明1の特定事項を全て有するものである。
そして、上記(3)ア及びイで検討したとおり、本件特許発明1は、甲1発明ではなく、また、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件特許発明1の特定事項を全て含む発明である本件特許発明10ないし14は甲1発明ではないし、また、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(7)本件特許発明15及び16について
本件特許発明15及び16は「リボンの使用」に関するものであるが、請求項1を直接又は間接的に引用する発明であり、本件特許発明1の特定事項を全て有するものである。
そして、上記(3)ア及びイで検討したとおり、本件特許発明1は、甲1発明ではなく、また、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件特許発明1の特定事項を全て含む発明である本件特許発明15及び16は甲1発明ではないし、また、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(8)本件特許発明17について
本件特許発明17は「三次元複合物品」に関するものであるが、請求項1を直接又は間接的に引用する発明であり、本件特許発明1の特定事項を全て有するものである。
そして、上記(3)ア及びイで検討したとおり、本件特許発明1は、甲1発明ではなく、また、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件特許発明1の特定事項を全て含む発明である本件特許発明17は甲1発明ではないし、また、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(9)申立理由1についてのむずび
したがって、申立理由1によっては、本件特許の請求項1ないし17に係る特許を取り消すことはできない。

第5 結語
上記第4のとおり、本件特許の請求項1ないし17に係る特許は、特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし17に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2022-09-29 
出願番号 P2019-569771
審決分類 P 1 651・ 113- Y (B29B)
P 1 651・ 121- Y (B29B)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 ▲吉▼澤 英一
奥田 雄介
登録日 2021-11-10 
登録番号 6975804
権利者 アルケマ フランス
発明の名称 熱可塑性プレポリマーを含浸させた繊維材料  
代理人 園田・小林弁理士法人  

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