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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A23L
管理番号 1389423
総通号数 10 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-10-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-06-06 
確定日 2022-09-26 
異議申立件数
事件の表示 特許第6978525号発明「飲料、飲料の製造方法及び難消化性グルカンを含む飲料のえぐ味を改善する方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6978525号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6978525号(以下「本件特許」という。)の請求項1〜8に係る特許についての出願は、平成27年(2015年) 6月12日の特許出願(特願2015−119319)の一部を平成29年(2017年) 9月 1日に新たな特許出願(特願2017−168791)とし、さらにその一部を令和 2年(2020年) 1月29日に新たな特許出願(特願2020−12316)としたものであって、令和 3年11月15日にその特許権の設定の登録がされ、同年12月 8日に特許掲載公報が発行された。
その後、令和 4年 6月 6日に、特許異議申立人 石野 美智枝(以下「申立人」という。)により、本件特許の請求項1〜8に係る特許に対して特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
本件特許の請求項1〜8に係る発明は、その特許請求の範囲に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「【請求項1】
難消化性グルカンと、酸味料と、ミネラルと、を含み、
前記難消化性グルカンの含有量が、ビールテイスト飲料100質量%あたり、0.1〜5.0質量%であり、
前記酸味料の含有量が、ビールテイスト飲料全体に対して、クエン酸換算で24〜4000ppmであり、
前記酸味料が、リン酸、乳酸及びリンゴ酸からなる群から選択される少なくとも一種であり、
前記ミネラルの含有量が、ビールテイスト飲料全体に対して、10〜1000ppmであり、
前記ミネラルが、カルシウムイオン又はナトリウムイオンである、ビールテイスト飲料。
【請求項2】
前記酸味料が、乳酸及びリンゴ酸からなる群から選択される少なくとも一種である、請求項1に記載のビールテイスト飲料。
【請求項3】
前記ミネラルが、カルシウムイオンである、請求項1又は2に記載のビールテイスト飲料。
【請求項4】
前記難消化性グルカンの含有量が、ビールテイスト飲料100質量%あたり、1.0〜2.0質量%である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のビールテイスト飲料。
【請求項5】
前記酸味料の含有量が、ビールテイスト飲料全体に対して、クエン酸換算で50〜800ppmである、請求項1〜4のいずれか一項に記載のビールテイスト飲料。
【請求項6】
前記ミネラルの含有量が、ビールテイスト飲料全体に対して、20〜60ppmである、請求項1〜5のいずれか一項に記載のビールテイスト飲料。
【請求項7】
ノンアルコール飲料である、請求項1〜6のいずれか一項に記載のビールテイスト飲料。
【請求項8】
難消化性グルカンと、酸味料と、ミネラルと、を配合する配合工程を含み、
前記難消化性グルカンを、ビールテイスト飲料100質量%あたり、0.1〜5.0質量%になるように配合し、
前記酸味料を、ビールテイスト飲料全体に対して、クエン酸換算で24〜4000ppmになるように配合し、
前記酸味料が、リン酸、乳酸及びリンゴ酸からなる群から選択される少なくとも一種であり、
前記ミネラルを、ビールテイスト飲料全体に対して、10〜1000ppmになるように配合し、
前記ミネラルが、カルシウムイオン又はナトリウムイオンである、ビールテイスト飲料の製造方法。」

第3 特許異議の申立ての理由の概要
申立人は、本件特許に対する異議の申立理由として下記1を主張し、証拠方法として下記2の甲第1〜20号証を提示した。

進歩性
(1)本件特許の請求項1〜8に係る発明は、下記の甲第1号証に記載された発明と、甲第4〜20号証に記載された事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本件特許の請求項1〜8に係る特許は、同法第113条第2号に該当する。

(2)本件特許の請求項1〜8に係る発明は、下記の甲第2号証に記載された発明と、甲第4、5、7〜10、12、13及び15〜20号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本件特許の請求項1〜8に係る特許は、同法第113条第2号に該当する。

(3)本件特許の請求項1〜8に係る発明は、下記の甲第3号証に記載された発明と、甲第1、2、4、5、7〜10、12、13及び15〜20号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本件特許の請求項1〜8に係る特許は、同法第113条第2号に該当する。

2 証拠方法
甲第1号証 特開2015−104357号公報
甲第2号証 特開2013−76044号公報
甲第3号証 特開2011−139687号公報
甲第4号証 吉田重厚、日本醸造協会雑誌(醸協)、第72巻、第3号、第188〜192頁(1977年)
甲第5号証 醸造物の成分、財団法人日本醸造協会、第187〜190頁及び第236〜241頁(1999年)
甲第6号証 石田卓・須貝高、福岡大学工学集報、第71号、第135〜157頁(2003年)
甲第7号証 戸塚昭、化学と生物、第13巻、第4号、第229〜234頁(1975年)
甲第8号証 日本食品標準成分表2010、文部科学省 科学技術・学術審議会 資源調査分科会、第230〜231頁(2010年)
甲第9号証 佐藤信ら、J. Brew. Soc. Japan, Vol.75, No.4, pp.344-346(1980年)
甲第10号証 西野伊史ら、J. Brew. Soc. Japan, Vol.78, No.8, pp.637-640(1983年)
甲第11号証 国際公開第2013/077292号
甲第12号証 特開2015−27309号公報
甲第13号証 特開2011−217706号公報
甲第14号証 特開2014−82976号公報
甲第15号証 国武直之、日本醸造協会雑誌(醸協)、第71巻、第10号、第753〜761頁(1976年)
甲第16号証 上田隆蔵ら、醗工、第41巻、第1号、第10〜14頁(1963年)
甲第17号証 山崎裕康ら、日本食品化学学会誌(日食化誌)、第4巻、第1号、第33〜36頁(1997年)
甲第18号証 国際公開第2004/018612号
甲第19号証 特開2012−239460号公報
甲第20号証 特開2014−166167号公報

証拠方法の表記は、おおむね特許異議申立書の記載にしたがった。以下、順次「甲1」のようにいう。

第4 当審の判断
当審は、上記第3の申立理由によっては、本件特許の請求項1〜8に係る特許を取り消すことはできないと判断する。

1 甲号証の記載・引用発明
(1)甲1は「難消化性グルカンを含有する低カロリー飲食品及びその製造方法」(発明の名称)に係るものであって、段落【0064】(特に、表1の比較例1−4、比較例1−5、実施例1−1及び実施例1−2)を参照すると、次の発明が記載されているといえる。

「原材料として、
モルトコンパウンド 1.8g、
イソホップエキストラクト 0.01g、
ビールフレーバーエキストラクト 0.1g、
アセスルファムK 0.003g、
難消化性グルカン、難消化性グルカン酵素処理物、難消化性グルカン酵素・分画処理物又は難消化性グルカン還元処理物 2g、
発泡剤 0.01g、
ビタミンC 0.01g、
クエン酸 0.02g、
炭酸水 100mlにメスアップ、
の処方により製造した、水溶性食物繊維が添加されているノンアルコールビール。」(以下「甲1発明」という。)

(2)甲2は「糖縮合物並びにその製造方法および用途」(発明の名称)に係るものであって、段落【0158】(実施例A12)、【0196】(実施例C1)、【0205】(実施例C2)、【0209】〜【0211】(実施例C3、特に表36)及び【0214】〜【0215】(実施例C4、特に表38)を参照すると、次の各発明が記載されているといえる。

「市販の発泡酒98gに、
マルトオリゴ糖シラップ(DE47、日本食品化工社製)固形分30kgとグルコースシラップ(DE98、日本食品化工社製)固形分70kgを混合したBx.90濃縮液に、3%(固形分当り)の活性炭(水蒸気炭(食品添加物グレード)、フタムラ化学社製)を添加混合後、250℃設定の加熱反応機(連続式ニーダー)に投入し、混練加熱して、得られたサンプルを水浴中に受け、30%水溶液とした後、活性炭を濾過で完全に除去し、得られた可溶性糖質画分を活性炭による脱色濾過、イオン交換樹脂による脱色、エバポレーター濃縮を行った後、乾燥して得られた糖縮合物(以下「糖縮合物A12」という。)を2g添加して溶解することで調製した、食物繊維含有発泡酒。」(以下「甲2発明C1」という。)

「市販の第三のビール(リキュール(発泡性))98gに、
糖縮合物A12を2g添加して溶解することで調製した、食物繊維を含有した第三のビール。」(以下「甲2発明C2」という。)

「配合として、
麦汁エキス 177.42g、
糖縮合物A12 14.96g、
ホップ 1.80g、
酵母 2.87g、
を、各原料と水を合わせて最終重量が1000gとなるよう調整し、
上記配合により、約12℃に8日間保持することで酵母による発酵を行い、発酵液は熟成操作(2次醗酵:約15℃に4日間保持)を行って得た、糖縮合物A12を添加したビール。」(以下「甲2発明C3」という。)

「配合として、
麦汁エキス 101.77g、
水飴 74.77g、
糖縮合物A12 14.96g、
ホップ 1.80g、
酵母 2.87g、
を、各原料と水を合わせて最終重量が1000gとなるよう調整し、
上記配合により、約12℃に8日間保持することで酵母による発酵を行い、発酵液は熟成操作(2次醗酵:約14℃に6日間保持)を行って得た、糖縮合物A12を添加した発泡酒。」(以下「甲2発明C4」という。)

(3)甲3は「高香味オルニチン入り無アルコール麦芽飲料」(発明の名称)に係るものであって、段落【0042】(実施例1)を参照すると、次の発明が記載されているといえる。

「仕込槽に麦芽粉砕物240kgに温水730Lを加えて混合し、50〜70℃とし、10〜90分間保持してマイシェを作り、次いで、68〜76℃で10〜40分間保持して、糖化を行い、糖化工程終了後、これを麦汁濾過槽において濾過して、その濾液として透明な麦汁2、000Lを得(糖度5.0%)、得られた麦汁を煮沸釜に移し、更にホップを1.1kg加えて、100℃で90分間煮沸し、煮沸した麦汁にオルニチン塩酸塩及びオルニチンアスパラギン酸塩を添加し、最終的にオルニチン濃度を990〜1300mg/Lに調整した冷却麦汁を作成し、その冷却麦汁に対して、乳酸、リンゴ酸、グルコン酸又はフィチン酸を添加しpH3.80まで低減させ、最終的に、990〜1300mg/Lとなるようにオルニチン濃度を調整して得られた、オルニチン入り無アルコール麦芽飲料。」(以下「甲3発明」という。)

(4)甲4は「醸造成分・ビール 第8章 無機成分,ビタミンその他」と題する解説論文であって、第188頁第1表にはビールの金属含有量が、同頁第2表にはビールの灰分中にしめる各成分の比率が、第189頁第3表にはビール醸造工程における灰分収支が、同頁第1図にはビール醸造工程における主要無機成分の消長が、各々記載されている。

(5)甲5はビールの「無機成分」及び「有機酸」に係る解説であって、第187頁第1表にはビールの無機物分析例が、同頁第2表には醸造工程中の麦芽、産物、副産物の灰分分析例が、各々記載されている。

(6)甲6は「水に関する基礎研究 その1 ミネラルに関しての文献調査」と題する論文であって、第142〜149頁表9〜17には、主な食物・水などの硬度が記載されている。

(7)甲7は「酒類と金属」と題する論文であって、第229頁表1には、酒類の金属含有量が記載されている。

(8)甲8は各種飲食品の標準成分を表すものであって、第230〜231頁「16 し好飲料類」の欄には、ビールの無機質(Minerals)の成分量が記載されている。

(9)甲9は「麦芽飲料について」と題する論文が、
甲10は「麦芽飲料のタイプの解析」と題する論文が、
甲11は「pHを調整した低エキス分のビールテイスト飲料」(発明の名称)に係る発明が、
甲12は「ビール風味付与剤およびビール風味飲料」(発明の名称)に係る発明が、
甲13は「ビールテイスト飲料、及び、その製造方法」(発明の名称)に係る発明が、
甲14は「ビール風味飲料用風味改善剤」(発明の名称)に係る発明が、
甲15は「醸造成分・ビール 第4章 有機酸および脂質」と題する解説論文が、
甲16は「ビール中の有機酸に関する研究(第1報)」と題する論文が、
甲17は「食品中のイオン成分に関する基礎的研究(第1報)ビールの味覚に対するリン酸イオンの関与について」と題する論文が、
甲18は「低アルコールビール様飲料の製造方法および低アルコールビール様飲料」(発明の名称)に係る発明が、
甲19は「低アルコール発酵麦芽飲料の製造方法」(発明の名称)に係る発明が、また、
甲20は「ビールテイスト飲料及びその製造方法」(発明の名称)に係る発明が、各々、記載されている。

2 対比・判断
(1)甲1発明を引用発明とする場合
ア 請求項1に係る発明について
(ア)本件特許の請求項1に係る発明と、甲1発明とを対比する。
甲1発明の「ノンアルコールビール」は、甲1段落【0040】の「ノンアルコールビール(ビールテイスト飲料)との記載よりみて、請求項1に係る発明の「ビールテイスト飲料」に相当する。
また、甲1発明の「難消化性グルカン、難消化性グルカン酵素処理物、難消化性グルカン酵素分画処理物又は難消化性グルカン還元処理物」は、いずれも「水溶性食物繊維」として「ノンアルコールビール」に添加されているものであって、請求項1に係る発明の「難消化性グルカン」に相当する。
そして、甲1発明の「ノンアルコールビール」は、原材料の合計が1.8+0.01+0.1+0.003+2+0.01+0.01+0.02+100=103.953gであるから、「難消化性グルカン、難消化性グルカン酵素処理物、難消化性グルカン酵素分画処理物又は難消化性グルカン還元処理物」の「2g」の含有量は、2/103.953×100=1.92質量%であって、これは、請求項1に係る発明の「難消化性グルカンの含有量が、ビールテイスト飲料100質量%あたり、0.1〜5.0質量%」の範囲内である。
さらに、甲1発明の「クエン酸」は、酸味料であるという限りにおいて、請求項1に係る発明の「酸味料」に相当する。

(イ)そうすると、本件特許の請求項1に係る発明と、甲1発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。

(一致点)
難消化性グルカンと、酸味料と、を含み、
前記難消化性グルカンの含有量が、ビールテイスト飲料100質量%あたり、0.1〜5.0質量%である、ビールテイスト飲料。

(相違点1−1)
本件特許の請求項1に係る発明は、ビールテイスト飲料が含むミネラルの含有量が、ビールテイスト飲料全体に対して、10〜1000ppmであり、かつ、前記ミネラルが、カルシウムイオン又はナトリウムイオンであるのに対し、甲1発明は、ミネラルの含有量及び種類が不明である点。

(相違点1−2)
本件特許の請求項1に係る発明は、ビールテイスト飲料が含む酸味料の含有量が、ビールテイスト飲料全体に対して、クエン酸換算で24〜4000ppmであり、かつ、前記酸味料が、リン酸、乳酸及びリンゴ酸からなる群から選択される少なくとも一種であるのに対し、甲1発明は、酸味料がクエン酸である点。

(ウ)上記相違点1−1について判断すると、甲1には、ミネラルとして、カルシウムイオン又はナトリウムイオンの特定量を含有することは、何ら記載も示唆もされていない。
また、ビールテイスト飲料が含むミネラルに関し、甲4〜甲8には、一定量のミネラルを含む旨の記載はあるものの、ミネラルの種類をカルシウムイオン又はナトリウムイオンに特定することは、何ら記載も示唆もされていない。
これに対して、本件特許の請求項1に係る発明は、ビールテイスト飲料が含むミネラルの種類をカルシウムイオン又はナトリウムイオンに特定したうえで、その含有量を10〜1000ppmとすることにより、えぐ味、スムース感及び複雑味が増加することを確認したものであり(本件特許明細書段落【0061】〜【0066】実施例5、6)、かかる効果は、甲4〜甲8はもちろん、ミネラルについて何ら開示のない甲9〜甲20を総合しても予測できないものである。

イ 請求項2〜7に係る発明について
本件特許の請求項2〜7に係る発明はいずれも、請求項1を直接又は間接的に引用して特定したものであり、甲1発明と対比すると、少なくとも上記ア(イ)の相違点1−1及び相違点1−2において相違する。
そして、相違点1−1についての判断は上記ア(ウ)のとおりであって、同様の理由が成り立つといえる。

ウ 請求項8に係る発明について
本件特許の請求項8に係る発明は、ビールテイスト飲料の製造方法を、請求項1に係る発明と略同様の特定事項でもって特定したものであり、甲1発明に係るノンアルコールビールの製造方法と対比すると、少なくとも上記ア(イ)の相違点1−1及び相違点1−2において相違する。
そして、相違点1−1についての判断は上記ア(ウ)のとおりであって、同様の理由が成り立つといえる。

エ 甲1発明を引用発明とする場合のまとめ
以上のとおり、その余の相違点について検討するまでもなく、本件特許の請求項1〜8に係る発明は、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)甲2発明C1又は甲2発明C2を引用発明とする場合
ア 請求項1に係る発明について
(ア)本件特許の請求項1に係る発明と、甲2発明C1又は甲2発明C2とを対比する。
甲2発明C1の「発泡酒」及び甲2発明C2の「第三のビール」は、いずれも、請求項1に係る発明の「ビールテイスト飲料」に相当する。
また、甲2に「難消化性グルカン」との記載はないが、甲1段落【0046】には甲2の記載にしたがって難消化性グルカンを得た旨が引用されていることよりみて、甲2発明C1及び甲2発明C2の「糖縮合物A12」は、いずれも、「食物繊維」として「発泡酒」に添加されているものであって、請求項1に係る発明の「難消化性グルカン」に相当する。
そして、甲2発明C1の「発泡酒」及び甲2発明C2の「第三のビール」における「糖縮合物A12」の含有量は、いずれも、2/(98+2)×100=2質量%であって、これは、請求項1に係る発明の「難消化性グルカンの含有量が、ビールテイスト飲料100質量%あたり、0.1〜5.0質量%」の範囲内である。

(イ)そうすると、本件特許の請求項1に係る発明と、甲2発明C1又は甲2発明C2との一致点及び相違点は、次のとおりである。

(一致点)
難消化性グルカンを含み、
前記難消化性グルカンの含有量が、ビールテイスト飲料100質量%あたり、0.1〜5.0質量%である、ビールテイスト飲料。

(相違点2−1)
本件特許の請求項1に係る発明は、ビールテイスト飲料が含むミネラルの含有量が、ビールテイスト飲料全体に対して、10〜1000ppmであり、かつ、前記ミネラルが、カルシウムイオン又はナトリウムイオンであるのに対し、甲2発明C1及び甲2発明C2は、いずれも、ミネラルの含有量及び種類が不明である点。

(相違点2−2)
本件特許の請求項1に係る発明は、ビールテイスト飲料が含む酸味料の含有量が、ビールテイスト飲料全体に対して、クエン酸換算で24〜4000ppmであり、かつ、前記酸味料が、リン酸、乳酸及びリンゴ酸からなる群から選択される少なくとも一種であるのに対し、甲2発明C1及び甲2発明C2は、いずれも、酸味料の含有量及び種類が不明である点。

(ウ)上記相違点2−1について判断すると、甲2には、ミネラルとして、カルシウムイオン又はナトリウムイオンの特定量を含有することは、何ら記載も示唆もされていない。
また、ビールテイスト飲料が含むミネラルに関し、甲4〜甲8には、一定量のミネラルを含む旨の記載はあるものの、ミネラルの種類をカルシウムイオン又はナトリウムイオンに特定することは、何ら記載も示唆もされていない。
これに対して、本件特許の請求項1に係る発明は、ビールテイスト飲料が含むミネラルの種類をカルシウムイオン又はナトリウムイオンに特定したうえで、その含有量を10〜1000ppmとすることにより、えぐ味、スムース感及び複雑味が増加することを確認したものであり(本件特許明細書段落【0061】〜【0066】実施例5、6)、かかる効果は、甲4〜甲8はもちろん、ミネラルについて何ら開示のない甲9〜甲20を総合しても予測できないものである。

イ 請求項2〜7に係る発明について
本件特許の請求項2〜7に係る発明はいずれも、請求項1を直接又は間接的に引用して特定したものであり、甲2発明C1又は甲2発明C2と対比すると、いずれも、少なくとも上記ア(イ)の相違点2−1及び相違点2−2において相違する。
そして、相違点2−1についての判断は上記ア(ウ)のとおりであって、同様の理由が成り立つといえる。

ウ 請求項8に係る発明について
本件特許の請求項8に係る発明は、ビールテイスト飲料の製造方法を、請求項1に係る発明と略同様の特定事項でもって特定したものであり、甲2発明C1に係る発泡酒の製造方法又は甲2発明C2に係る第三のビールの製造方法と対比すると、いずれも、少なくとも上記ア(イ)の相違点2−1及び相違点2−2において相違する。
そして、相違点2−1についての判断は上記ア(ウ)のとおりであって、同様の理由が成り立つといえる。

エ 甲2発明C1又は甲2発明C2を引用発明とする場合のまとめ
以上のとおり、その余の相違点について検討するまでもなく、本件特許の請求項1〜8に係る発明は、甲2発明C1又は甲2発明C2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)甲2発明C3又は甲2発明C4を引用発明とする場合
ア 請求項1に係る発明について
(ア)本件特許の請求項1に係る発明と、甲2発明C3又は甲2発明C4とを対比する。
甲2発明C3の「ビール」及び甲2発明C4の「発泡酒」は、いずれも、請求項1に係る発明の「ビールテイスト飲料」に相当する。
また、上記(2)ア(ア)と同様の理由により、甲2発明C3及び甲2発明C4の「糖縮合物A12」は、いずれも、「ビール」又は「発泡酒」に添加されているものであって、請求項1に係る発明の「難消化性グルカン」に相当する。
そして、甲2発明C3の「ビール」及び甲2発明C4の「発泡酒」における「糖縮合物A12」の含有量は、いずれも、14.92/1000×100=1.492質量%であって、これは、請求項1に係る発明の「難消化性グルカンの含有量が、ビールテイスト飲料100質量%あたり、0.1〜5.0質量%」の範囲内である。

(イ)そうすると、本件特許の請求項1に係る発明と、甲2発明C3又は甲2発明C4との一致点及び相違点は、次のとおりである。

(一致点)
難消化性グルカンを含み、
前記難消化性グルカンの含有量が、ビールテイスト飲料100質量%あたり、0.1〜5.0質量%である、ビールテイスト飲料。

(相違点2−3)
本件特許の請求項1に係る発明は、ビールテイスト飲料が含むミネラルの含有量が、ビールテイスト飲料全体に対して、10〜1000ppmであり、かつ、前記ミネラルが、カルシウムイオン又はナトリウムイオンであるのに対し、甲2発明C3及び甲2発明C4は、いずれも、ミネラルの含有量及び種類が不明である点。

(相違点2−4)
本件特許の請求項1に係る発明は、ビールテイスト飲料が含む酸味料の含有量が、ビールテイスト飲料全体に対して、クエン酸換算で24〜4000ppmであり、かつ、前記酸味料が、リン酸、乳酸及びリンゴ酸からなる群から選択される少なくとも一種であるのに対し、甲2発明C3及び甲2発明C4は、いずれも、酸味料の含有量及び種類が不明である点。

(ウ)上記相違点2−3について判断すると、甲2には、ミネラルとして、カルシウムイオン又はナトリウムイオンの特定量を含有することは、何ら記載も示唆もされていない。
また、ビールテイスト飲料が含むミネラルに関し、甲4〜甲8には、一定量のミネラルを含む旨の記載はあるものの、ミネラルの種類をカルシウムイオン又はナトリウムイオンに特定することは、何ら記載も示唆もされていない。
これに対して、本件特許の請求項1に係る発明は、ビールテイスト飲料が含むミネラルの種類をカルシウムイオン又はナトリウムイオンに特定したうえで、その含有量を10〜1000ppmとすることにより、えぐ味、スムース感及び複雑味が増加することを確認したものであり(本件特許明細書段落【0061】〜【0066】実施例5、6)、かかる効果は、甲4〜甲8はもちろん、ミネラルについて何ら開示のない甲9〜甲20を総合しても予測できないものである。

イ 請求項2〜7に係る発明について
本件特許の請求項2〜7に係る発明はいずれも、請求項1を直接又は間接的に引用して特定したものであり、甲2発明C3又は甲2発明C4と対比すると、いずれも、少なくとも上記ア(イ)の相違点2−3及び相違点2−4において相違する。
そして、相違点2−3についての判断は上記ア(ウ)のとおりであって、同様の理由が成り立つといえる。

ウ 請求項8に係る発明について
本件特許の請求項8に係る発明は、ビールテイスト飲料の製造方法を、請求項1に係る発明と略同様の特定事項でもって特定したものであり、甲2発明C3に係るビールの製造方法又は甲2発明C4に係る発泡酒の製造方法と対比すると、少なくとも上記ア(イ)の相違点2−3及び相違点2−4において相違する。
そして、相違点2−3についての判断は上記ア(ウ)のとおりであって、同様の理由が成り立つといえる。

エ 甲2発明C3又は甲2発明C4を引用発明とする場合のまとめ
以上のとおり、その余の相違点について検討するまでもなく、本件特許の請求項1〜8に係る発明は、甲2発明C3又は甲2発明C4に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)甲3発明を引用発明とする場合
ア 請求項1に係る発明について
(ア)本件特許の請求項1に係る発明と、甲3発明とを対比する。
甲3発明の「オルニチン入り無アルコール麦芽飲料」は、請求項1に係る発明の「ビールテイスト飲料」に相当する。
また、甲3発明の「乳酸、リンゴ酸、グルコン酸又はフィチン酸」のうち「乳酸、リンゴ酸」は、請求項1に係る発明の「酸味料」と重複している。

(イ)そうすると、本件特許の請求項1に係る発明と、甲3発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。

(一致点)
酸味料を含む、ビールテイスト飲料。

(相違点3−1)
本件特許の請求項1に係る発明は、ビールテイスト飲料が含むミネラルの含有量が、ビールテイスト飲料全体に対して、10〜1000ppmであり、かつ、前記ミネラルが、カルシウムイオン又はナトリウムイオンであるのに対し、甲3発明は、ミネラルの含有量及び種類が不明である点。

(相違点3−2)
本件特許の請求項1に係る発明は、ビールテイスト飲料が含む酸味料の含有量が、ビールテイスト飲料全体に対して、クエン酸換算で24〜4000ppmであり、かつ、前記酸味料が、リン酸、乳酸及びリンゴ酸からなる群から選択される少なくとも一種であるのに対し、甲3発明は、酸味料が乳酸又はリンゴ酸を含むものであり、pH3.80まで低減させる量添加するものである点。

(相違点3−3)
本件特許の請求項1に係る発明は、ビールテイスト飲料が難消化性グルカンを含み、かつ、難消化性グルカンの含有量が、ビールテイスト飲料100質量%あたり、0.1〜5.0質量%であるのに対し、甲3発明は、難消化性グルカンの有無及び含有量が不明である点。

(ウ)上記相違点3−1について判断すると、甲3には、ミネラルとして、カルシウムイオン又はナトリウムイオンの特定量を含有することは、何ら記載も示唆もされていない。
また、ビールテイスト飲料が含むミネラルに関し、甲4〜甲8には、一定量のミネラルを含む旨の記載はあるものの、ミネラルの種類をカルシウムイオン又はナトリウムイオンに特定することは、何ら記載も示唆もされていない。
これに対して、本件特許の請求項1に係る発明は、ビールテイスト飲料が含むミネラルの種類をカルシウムイオン又はナトリウムイオンに特定したうえで、その含有量を10〜1000ppmとすることにより、えぐ味、スムース感及び複雑味が増加することを確認したものであり(本件特許明細書段落【0061】〜【0066】実施例5、6)、かかる効果は、甲4〜甲8はもちろん、ミネラルについて何ら開示のない甲1、甲2、甲9〜甲20を総合しても予測できないものである。

イ 請求項2〜7に係る発明について
本件特許の請求項2〜7に係る発明はいずれも、請求項1を直接又は間接的に引用して特定したものであり、甲3発明と対比すると、少なくとも上記ア(イ)の相違点3−1、相違点3−2及び相違点3−3において相違する。
そして、相違点3−1についての判断は上記ア(ウ)のとおりであって、同様の理由が成り立つといえる。

ウ 請求項8に係る発明について
本件特許の請求項8に係る発明は、ビールテイスト飲料の製造方法を、請求項1に係る発明と略同様の特定事項でもって特定したものであり、甲3発明に係るオルニチン入り無アルコール麦芽飲料の製造方法と対比すると、少なくとも上記ア(イ)の相違点3−1、相違点3−2及び相違点3−3において相違する。
そして、相違点3−1についての判断は上記ア(ウ)のとおりであって、同様の理由が成り立つといえる。

エ 甲3発明を引用発明とする場合のまとめ
以上のとおり、その余の相違点について検討するまでもなく、本件特許の請求項1〜8に係る発明は、甲3発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(5)申立人の主張について
申立人は、甲1〜甲3には、いずれも、ミネラルについて言及がないが、甲4〜甲8の記載事項を踏まえると、甲1発明のビールテイスト飲料には、カルシウムをはじめとするミネラルが含まれ、その含有量は10〜1000ppmの範囲内にある蓋然性が極めて高く、そうでないにしても、通常のビールテイスト飲料のカルシウム含有量及びナトリウム含有量は本件特許の出願時において周知であり、甲1発明においてカルシウム及びナトリウムから選択されるミネラルを10〜1000ppmの含有量で含むようにすることは設計事項である旨を主張する(特許異議申立書第28〜29頁、第36〜37頁、51〜52頁)。
しかしながら、本件特許の請求項1に係る発明は、「ミネラルが、カルシウムイオン又はナトリウムイオン」に特定されたものである。そして、既に検討したとおり、甲4〜甲8には、一定量のミネラルを含む旨の記載はあるものの、ミネラルの種類をカルシウムイオン又はナトリウムイオンに特定することは、何ら記載も示唆もされていないものである(上記(1)ア(ウ)、(2)ア(ウ)、(3)ア(ウ)及び(4)ア(ウ)参照。)。
よって、申立人の上記主張は採用できない。

3 申立理由についてのまとめ
以上のとおり、本件特許の請求項1〜8に係る発明は、甲1に記載された発明、甲2に記載された発明又は甲3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではないから、本件特許の請求項1〜8に係る特許は、同法第113条第2号に該当することを理由として取り消すことはできない。

第5 むすび
上記のとおり、特許異議申立人の主張する特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項1〜8に係る特許を取り消すことはできない。
また他に、本件特許の請求項1〜8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、上記のとおり決定する。
 
異議決定日 2022-09-15 
出願番号 P2020-012316
審決分類 P 1 651・ 121- Y (A23L)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 ▲吉▼澤 英一
平塚 政宏
登録日 2021-11-15 
登録番号 6978525
権利者 サッポロビール株式会社
発明の名称 飲料、飲料の製造方法及び難消化性グルカンを含む飲料のえぐ味を改善する方法  

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