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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61B
審判 全部申し立て 2項進歩性  A61B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A61B
管理番号 1389428
総通号数 10 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-10-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-06-09 
確定日 2022-10-07 
異議申立件数
事件の表示 特許第6983357号発明「推定方法、推定モデルの生成方法、プログラム、及び推定装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6983357号の請求項1−11に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6983357号(以下「本件特許」という。)に係る出願は、2020年(令和2年)3月19日(優先権主張 平成31年(2019年)3月20日)を国際出願日とする特許出願であって、令和3年11月25日にその請求項1−11に係る発明について特許権の設定登録がされ、同年12月17日に特許掲載公報が発行され、その後、請求項1−11に係る特許に対して、令和4年6月9日に特許異議申立人 大薮朋子(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1−11に係る発明(以下「本件発明1」ないし「本件発明11」という。)は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1−11に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
皮膚機能に関するパラメータを推定する推定方法であって、
皮膚表面の凹凸が写っている皮膚画像を取得する画像取得ステップと、
前記画像取得ステップにおいて取得された前記皮膚画像に対して、前記皮膚画像の位相的情報に基づく特徴量ベクトルを抽出する抽出ステップと、
前記特徴量ベクトルと前記皮膚機能に関するパラメータとを関連付けた過去の実測データに基づき構築された推定モデルを用いて、前記抽出ステップにおいて抽出された前記特徴量ベクトルに基づき前記皮膚機能に関するパラメータを推定する推定ステップと、
前記推定ステップにおいて推定された前記皮膚機能に関するパラメータを提示する提示ステップと、
を含む、
推定方法。
【請求項2】
前記抽出ステップにおいて、取得された前記皮膚画像に対して明るさの補正処理及び二値化処理を施した補正画像が生成される、
請求項1に記載の推定方法。
【請求項3】
前記位相的情報は、生成された前記補正画像に基づいて抽出された0次元特徴量及び1次元特徴量に関する情報を含む、
請求項2に記載の推定方法。
【請求項4】
前記抽出ステップにおいて、前記0次元特徴量及び前記1次元特徴量のそれぞれに対して、各特徴量の持続性を示す分布図が生成され、生成された前記分布図に基づいて前記特徴量ベクトルが抽出される、
請求項3に記載の推定方法。
【請求項5】
前記推定ステップにおいて、被験者の属性に基づき前記皮膚機能に関するパラメータが推定される、
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の推定方法。
【請求項6】
前記皮膚機能に関するパラメータは、経表皮水分蒸散量を含む、
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の推定方法。
【請求項7】
前記皮膚機能に関するパラメータは、皮膚の水分量を含む、
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の推定方法。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の推定方法に用いられる前記推定モデルの生成方法であって、
前記特徴量ベクトルと前記皮膚機能に関するパラメータとを関連付けた過去の実測データを取得する取得ステップと、
該取得ステップにおいて取得された前記過去の実測データに基づいて、前記特徴量ベクトルに基づき前記皮膚機能に関するパラメータを推定する前記推定モデルを構築する構築ステップと、
を含む、
推定モデルの生成方法。
【請求項9】
前記推定モデルは、前記取得ステップにおいて取得された前記過去の実測データに基づき学習されたランダムフォレストモデルを含む機械学習モデルである、
請求項8に記載の推定モデルの生成方法。
【請求項10】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の推定方法又は請求項8若しくは9に記載の推定モデルの生成方法を情報処理装置に実行させるプログラム。
【請求項11】
皮膚機能に関するパラメータを推定する推定装置であって、
皮膚表面の凹凸が写っている皮膚画像を取得する画像取得部と、
前記画像取得部により取得された前記皮膚画像に対して、前記皮膚画像の位相的情報に基づく特徴量ベクトルを抽出し、前記特徴量ベクトルと前記皮膚機能に関するパラメータとを関連付けた過去の実測データに基づき構築された推定モデルを用いて、抽出された前記特徴量ベクトルに基づき前記皮膚機能に関するパラメータを推定する制御部と、
前記制御部により推定された前記皮膚機能に関するパラメータを提示する提示部と、
を備える、
推定装置。」

第3 異議申立理由の概要
申立人は、証拠として以下の甲第1号証ないし甲第4号証を提出し、以下の異議申立理由(以下「異議申立理由1ないし3」という。)によって、本件発明1ないし11に係る特許を取り消すべきものである旨を主張している。
1.異議申立理由
異議申立理由1.特許法第29条第1項第3号新規性違反)について
本件発明1,2,7,8,10,11は、甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許は特許法第113条第2号の規定により取消されるべきである。

異議申立理由2.特許法第29条第2項進歩性違反)について
本件発明1ないし11は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明及び本件特許優先日前当時の技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許は特許法第113条第2号の規定により取消されるべきである。

異議申立理由3.特許法第36条第6項第1号(サポート要件違反)について
本件発明1ないし11は、発明の詳細な説明に記載したものでなく、特許法第36条第6項第1号に規定された要件を満たさないから、本件特許は特許法第113条第4号の規定により取消されるべきである。

2.証拠方法
甲第1号証:北島健蔵、「画像解析を用いた肌状態の定量指標の構築」、平成26年度(2014)法政大学大学院理工学研究科応用情報工学専攻修士論文、2015年3月24日発行、第1−34頁(URL;http://hdl.handle.net/10114/11786)
甲第2号証:特開2006−223366号公報
甲第3号証:特開2017−199384号公報
甲第4号証:特開2013−90752号公報

第4 異議申立理由についての判断
1.甲第1ないし4号証の記載事項及び甲第1ないし4号証から認定される発明及び技術
(1)甲第1号証
本件特許に係る優先日前に電気通信回線を用いて頒布された、「北島健蔵、「画像解析を用いた肌状態の定量指標の構築」、平成26年度(2014)法政大学大学院理工学研究科応用情報工学専攻修士論文、2015年3月24日発行、第1−34頁(URL;http://hdl.handle.net/10114/11786)」(甲第1号証)には、図面とともに次の技術事項が記載されている。(下線は当審が付与した。以下同様。)
ア 「そこで本研究は、画像解析を用いて美容分野における肌状態の新たな定量化指標の構築を行うことを目的とし、人のまぶた下約1cmおよび下あごの部分をPocketMicro およびAirMicroで撮影した画像を入力として、"肌質"および"肌の水分量"を示す値を出力する回帰モデルを作成した。これらの撮影機器には内部に偏光レンズが搭載されており、ON,OFFの切り替えにより2種類の画像を取得でき、それぞれで異なった特徴量を抽出することができる。抽出した特徴量のうち有効だと思われるものをstepwise法を用いて選択し、それらをもとに作成された回帰モデルをleave-one-out cross-validationで評価したところ、肌質は5段階評価でMAE 0.507、水分量についてはMAE 1.910(μS)という結果が得られた。このことから、複数の画像特徴を用いて肌状態をおおむね正確に数値で評価できる可能性が示唆され、定量化への手がかりを与え得ることを確認した。」(第2頁第14−23行)

イ 「第3章 方法
本研究では、肌の状態の定量化を行うためのシステムを試作した。まずシステム全体のフローをFig. 3.1 に示す。

Fig. 3.1: システム全体のフロー
本システムは学習段階と実行段階の2段階を持つ。学習段階では肌状態についての評価情報のある画像群(教師データ) を用いて、肌画像と肌の評価を表すために効果的な画像特徴量の検証を行うと共に、その結果を用いた線形回帰モデルを作成する。実行段階では、評価対象の画像から必要な画像特徴量を抽出し、学習段階で得られた線形回帰モデルを用いて解析を行う。なお、教師データとしての評価基準は"肌質"および"肌の保湿量"とした。前者についてはキメの細かさや色などを目視することで、著者がその部分の肌質を主観的にスコアリングした値(5を最良、1を最低とした5段階で決定した値) を、後者については水分量計で計測した値(単位:μS) をそれぞれ用いた。ここで、主観的にスコアリングした肌画像の例をFig. 3.2示す。」(第6頁全文全図)

ウ 「3.1 利用した症例
本研究では、20〜60代の男女計17人の左右の下まぶた約1cm、および下あごの部位を、scalar 社のPocket Micro(Fig. 3.3) およびAirMicro(Fig. 3.4) を用いて撮影された合計147箇所、計294枚(147箇所×2状態:後述) の皮膚画像を解析に用いた。
・・・
Pocket MicroはApple 社のiphoneやipod touchと組み合わせて使用する撮影機器である。白色LED 光源と偏光レンズをもち、iphoneなどのカメラ機能を利用することで皮膚の接写画像の取得ができる。また、AirMicroは基本的な仕様はPocket Microと同じだが、Wi-Fi通信が可能な機器にリアルタイム映像を表示し、任意のタイミングで撮影が行える機器である。今回用いた画像サイズは640×480であり、視野は(8mm×6mm) である。また、偏光レンズのON/OFF の切り替えにより2種類の皮膚画像が撮影できる(Fig. 3.5,Fig. 3.6)。
・・・
偏光レンズOFFのときは通常の虫眼鏡と同様であり、皮膚の表皮で撮影用に照射された光の乱反射がおこることで皮膚表面の凹凸の形状がよく観察できる画像が得られる。一方で、偏光レンズONのときには、皮膚表面での光の乱反射が抑制された画像が得られる。これにより画像から肌表面の凹凸情報が失われる代わりに、皮膚の表皮より内側にある真皮の部分まで観察できるようになる。これは皮膚がんの診断に用いられるダーモスコピーと呼ばれる拡大鏡と同様の仕組みである。各撮影箇所につき、これらの2種類の画像を取得することで、より多くの特徴を捉えられることが可能である。」(第8頁全文)

エ 「3.2 特徴量の抽出
ヒトの肌には、老若男女を問わず細い線が網目状に走っており、小さなくぼみ(皮溝) と盛り上がり(皮丘) を形づくっている。これらを見ることで肌のキメの細かさを判断することができ、皮溝と皮丘が細かい規則的なパターンを持つキメの細かい肌を良い肌質として判断できる。キメの細かい例・粗い例をFig. 3.7,Fig. 3.8 にそれぞれ示す。
・・・
また、偏光レンズOFF時の撮影における光の乱反射、および偏光レンズON 時の皮膚の色も肌質を決定する際に大きな基準となりえる。
これらを考慮にいれたうえで、本研究では肌質を捉えるための特徴として、(1) 肌のキメの形や周期を表す特徴および(2) 肌の色に関する特徴をあらわす計162種の画像特徴を利用した。全ての画像特徴をまとめたものをTable3.1に示す。それぞれについて以下の節で説明する。

」(第9頁全文)

オ 「この実験の結果より、低周波数領域(1〜40[Hz]) に着目し、Fig. 3.11で示したように、各スペクトル画像について中心から距離2ずつ区切ったドーナッツ形の領域内におけるパワーの平均値を求め、特徴量として設定した。また、Fig. 3.11の中心部周辺の拡大図をFig. 3.12に示す。
また1つ1つのキメの形を考慮にいれるために、本研究では周波数領域毎のパワースペクトルの比率も考えた。キメがはっきりしていたいくつかの症例画像を観察した結果、キメ1つ分の縦横の大きさは最小でも20pixel程度、縦横の大きさの差は最大で約15pixel程度であった。そのため比をとる対象の周波数領域を1〜20Hzの範囲にしぼり、その前後10Hzとの比の値を有効なパラメータとして考えた。
このようにして、一領域内毎のパワースペクトルの平均値の値を計20個、Table 3.2 に★印で示した領域同士のパワースペクトルの比率特徴量を48個得て、計68個の値を特徴量として抽出した。」(第11頁第4−15行。)

カ 「3.2.2 テクスチャ特徴
テクスチャとは濃度や色の2次元的な変化パターンであり、数値により定量的にその領域を特徴付けることができる。テクスチャを特徴付ける項目として、粗さ方向性、粒状/線状性、コントラスト、規則性などがある。
テクスチャ解析の方法の一つとして使用されるのが濃度共起行列である。濃度共起行列は、濃度値i の点からある一定の位置関係 δ= (Δx,Δy)だけ離れた点の濃度値がjである確率Pδ(i,j)を(i,j) 要素とする行列Pδと定義される。
例えば0°方向に距離1だけ離れた2 画素を考える場合、Δx=1、Δy=0であるから、δ= (1,0) となる。角度を45度ずつ4方向を考えδ=(1,0),(0,1),(1,1),(1,-1) としたとき、Fig. 3.13 の輝度値を持つ画像に対する各濃度共起行列Pδ(i,j) を以下に示す。

これらの行列より、式(3.4)〜(3.7) により上から順にエネルギー、慣性、エントロピー、相関と呼ばれるテクスチャ特徴量を求めることができる。




本実験では、撮影箇所のグレースケール画像の濃淡値およびRGBカラー画像のB成分の濃淡値を元とした共起行列を考え、基礎距離dを10pixelから80pixelまで√2の等比で計7段階(d = 10,10√2,20,・・・,80) について、また角度については0度、45度、90度、135度の4方向(θ=0°,45°,90°,135°) について求めた各値の平均値を用いた。各方向におけるそれぞれの値の平均をとったのは、画像撮影の際に発生する撮影角度のずれに対して頑健にするためである。これらを元に、energy, moment, entropy, correlation の各4つのパラメータを求め計56種類のテクスチャ特徴を取得した。」(第14頁第9−15行)

キ 「3.2.3 高次モーメント特徴


数式(3.15) で求めたηpqを用いることで、画像の移動・大きさ・回転に影響されない不変モーメント(Huモーメント) の値を定義することができる[10]。本実験では、皮溝・皮丘の形状を表すパラメータとして、7つのHuモーメントの値(φ1〜φ7)を求めた。


テクスチャ特徴と同様に、グレースケール画像の濃淡値およびRGBカラー画像のB成分の濃淡値を元として求めた不変モーメント計14種を特徴量とした。」(第15頁第1行−第16頁第8行)

ク 「3.2.4 皮溝抽出画像から得られる特徴
撮影した肌画像からキメの特徴を表す皮溝の情報を取得することができれば、その面積、太さ、間隔、平行度などが肌状態を表す指標になると考えられる[11][12]。「十字2値化」および「短直線マッチング」[13] により撮影画像から皮溝の部分の抽出を行った。それぞれについて以下で説明する
十字2値化
一般的な2値化処理はある領域に対して固定された閾値を用いる方法や、その領域内の輝度分布に基づいて閾値を随時変更させていき、それにより決定された値により行う方法がある。しかし、これらの方法ではその矩形領域内における抽出対象とそれ以外の部分との割合によっては、抽出対象が安定して取得できない場合がある。
今回抽出する対象は皮溝であるが、このように抽出対象が皮溝のような線状である場合は、十字型のマスクを用いた十字2値化が適している。この方法は、十字内の中心画素の輝度値とそれ以外の領域の画素の平均輝度値との差を求め、その値が設定された閾値よりも大きければ中心画素を黒とし、小さければ白とするような手法である。十字2値化の利点として、画像内の明るさのムラの影響を受けずに閾値処理を行えることがあげられる。仮に十字の中心が皮溝である場合(Fig. 3.14左)、中心画素は暗い色となるが、十字領域の大半は皮溝ではない明るい色であるため、中心画素とそれ以外の部分の平均輝度値との差が大きくなり、中心画素は黒となり、結果として線状の皮溝は黒として抽出される。一方、中心画素が皮溝場合でない場合、同輝度値の差は小さくなり、中心画素が白になる。

十字2値化の例として撮影した肌画像のうちの一枚、その画像について一般的に用いられる2値化手法によって皮溝部分を抽出した画像、前述の十字2値化による同抽出画像をFig.3.15にそれぞれ示す。ここでいう一般的な2値化手法とは、画像全体の平均輝度値を閾値としたもの、および大津の閾値処理[14] により閾値を決定したものである。これらの結果を比較すると、十字2値化によって抽出された画像の方が輝度値のムラに影響されずに皮溝を取り出すことができていることがわかる。本実験では、中心領域の画素の輝度値および前後左右4pixel 分の輝度値の平均値をもとに2値化処理を行った(Fig. 3.14右)。
・・・
短直線マッチング
前述の十字2値化によって得られた2値化画像を対象に、短直線マッチングを行う。これは、長さlpixel、太さhpixelの短直線を皮溝部分(黒部分)にマッチングさせる処理である。
短直線マッチングは次のように行う。
まず、対象画像の左上の画素から走査間隔wでラスタスキャンを実施し、黒画素を探索していく。黒画素が見つかった場合、Fig. 3.16のようにその地点をマッチング開始点とし、回転角度Δθで短直線を回転させ、その際短直線上に皮溝である黒画素がα[%] 以上存在していた場合、短直線をマッチングさせる。その後、マッチングした短直線の開始点とは反対側の端点を次のマッチング開始点とし、同じΔθ方向について同様の処理を行い、同方向へのマッチングができなくなるまで繰り返す。この操作を、最初のマッチング開始点について0〜180°の範囲でΔθ間隔で行い、マッチング開始点の探索点が画像の右下になるまで繰り返す。なお、一度マッチングされた短直線上の画素は、次回以降のマッチング開始点からは除外する。これは短直線の重複を防ぐためである。

本研究では、先行研究や予備実験の結果により、lの大きさは5と20の2通りに設定した。また、h、ω、Δθ、αの値はそれぞれ1、2、5、75とした。これらのパラメータを適用させ、十字2値化を行ったFig. 3.15に対し、短直線マッチングを行ったことで得られた皮溝の抽出結果例をFig. 3.17に示す。lの大きさを変えることで、抽出することができる皮溝の様子が異なっていることがわかる。
これらの画像から皮溝の特徴を捉えるため、(1) 面積、(2) 太さ、(3) 間隔に関するパラメータを抽出する。(1) 面積については、皮溝にマッチングされた短直線の総本数で表すこととする。(2) 太さについては、まず抽出した皮溝画像について細線化処理を行い、細線化前後の差分画像を求める(Fig. 3.18)。差分画像で残った黒画素数が多ければ多いほど太い皮溝とみなすことができると考えたので、黒画素数の総和を求めることで皮溝の平均太さを表すこととする。(3) 間隔については、皮溝面積と皮溝の平均太さの値に依存するのではないかと考え、それらの比([皮溝面積]÷[皮溝の平均太さ]) の値で表す。したがって、(1)〜(3) のパラメータを特徴量とし、lの値を5,20の2パターンについて各パラメータを求め、計6種類の特徴量を抽出した。」(第16頁第9行−第20頁第3行)

ケ 「3.2.5 色に関する特徴
皮膚の色や表面の光の反射(テカり)の度合いの特徴を捉えるために、皮膚表面画像をHSV 表色系およびLab 表色系で表したときのH(色相)、S(彩度)、V(明度) およびL(明度) の各値を用いたパラメータを抽出した。本研究では画像全体におけるH,S,V 値分布の平均(μ)、標準偏差(σ)、歪度(S)、尖度(K)、白色度(W)、黒色度(B)、さらにL値の平均(μL)、分散(sigmaL) 値の計16種のパラメータを求めた。それらに加え、皮膚の色を表す際に強く依存すると判断したRGB 値のB(青の輝度) 値の画像ごとの平均および分散値も算出し、計18種を色に関する特徴量として用いた。歪度、尖度、白色度、黒色度の定義式を以下に示す。(

:S成分の平均、


:V 成分の平均)」(第22頁第1−9行)」

コ 「3.3 識別器の構築・評価
効果的な特徴量の選択は、頑健な回帰モデルの作成のために極めて重要な処理である。本実験では、前節によって得られた画像ごとの計162種の特徴量および、肌の評価データ(肌のキメの細かさ、保湿量) の組から、stepwise法[15] により作成する回帰モデルに必要な特徴量を選択した。教師データとして用いた147箇所(147×2=294枚) の画像データの各評価データの(平均±標準偏差) は(5段階スコア:3.46±1.17, 保湿量:36.45±3.13[μS])であった。
なお、これまでに抽出された特徴量はそれぞれの種類によりスケールが大きく異なるため、平均が0、標準偏差が1 となるように正規化を行っている。そして、選択された画像特徴のみを利用して、線形回帰モデルを作成した。得られたモデルはleave-one-out cross-validationを用いて求めた平均絶対誤差(MAE) および出力結果と評価データ間の相関によって評価した。また、偏光レンズOFFのみの特徴量、偏光レンズONのみの特徴量およびその両方の画像から得た特徴量を用いて回帰モデルを作成し、比較検討を行った。」(第23頁第1−12行)

サ 「第4章 結果
4.1 実験に用いたデータ
本研究では、偏光レンズOFF で撮影された画像群(計147枚)、偏光レンズON で撮影された画像群(計147枚)、双方を組み合わせた画像(計294枚) の3種類のデータセットを用いた。各データセットから得られた特徴量をもとに肌状態を表すための線形回帰モデルを作成し、それらの精度をleave-one-out cross validation を用いて評価し比較を行った。

4.2 作成した線形回帰モデル (肌質)
今回作成した肌質を予測するための回帰モデルの精度として、stepwise法により有効だと判断された特徴量を用いた場合のMAEと、モデルによる予測値と実測値との相関をまとめた結果をTable 4.1に示す。また、画像に付与された評価データ(実測値)とモデルによる出力結果を比較したグラフをFig. 4.1に示す。なお、R2は自由度補正済み決定係数を表す。



」(第24頁第1行−第25頁全文全図)

シ 「4.3 作成した線形回帰モデル (肌の保湿量)
今回作成した肌の保湿量を予測するための回帰モデルの精度として、stepwise法により有効だと判断された特徴量を用いた場合のMAEと、モデルによる予測値と実測値との相関をまとめた結果をTable 4.2に示す。また画像に付与された評価データ(実測値)とモデルによる出力結果を比較したグラフをFig. 4.2に示す。なお、R2は自由度補正済み決定係数を表す。



」(第26頁−第27頁)

ス 「第5章 考察
5.1 求めた肌質の評価式についての考察
1-5の5段階の肌質の予測モデルについてはTable 4.1より、偏光レンズOFF(P-) 群では4つの特徴量のみが選択され、MAEも約0.55と概ね良好に予測できていることが確認できた。偏光レンズON(P+) 群では皮膚表面の情報が失われていることから、キメに関するパラメータが抽出しづらく、生成したモデルでもMAE がやや多い結果となった。一方、双方から得られた特徴を用いた解析結果(+&-) はレンズOFF(P-) のみ・レンズON(P+) 群のそれぞれの結果と比べて良い結果となった。このことから、人間が直感的に認識できていない手がかりを用いて肌質の推定精度を向上させることができたと考えられる。
続いて肌の保湿量の予測モデルについてだが、こちらも肌質の場合と同様に、レンズOFF(P-)・レンズON(P+) 群の双方から得られた特徴量によって作成された結果が最も良い結果となった(Table 4.2参照)。しかし、MAEが約1.9〜2.1と大きく、相関の値も約0.5〜0.7と低い値になっている。このことから、本実験で選択された特徴量では保湿量という指標を十分に説明しきれていないことが示された。特徴量抽出の際に、保湿量との相関がより高いパラメータを求める必要があると考える。
Fig. 4.1、Fig. 4.2より、評価データが高いほどモデルによる出力結果が高い値になることが確認できた。しかし、各々の評価データに対してばらつきの大きい結果となっており、特に低い評価データについてその傾向が顕著に表れた。今回の実験で用いたデータセットには2種類の教師データ(1-5段階の主観的評価値、保湿量) が付与されているが、どちらも分散があまり高くないものとなっている。特に低い評価値が付与された症例数が非常に少なく、教師データが不足した値の出力結果が芳しくないものになったと考える。これらを改善するためには、データセット自体を見直す必要があるといえる。症例数や評価データの分散値をより多くしていかなければならないと考える。」(第28頁)

セ 上記「イ」より、抽出した特徴量は、「画像の2Hz毎のパワースペクトル値(0〜40Hz の範囲)が20個、各領域毎のパワースペクトル値が48個、テクスチャ特徴が56個、モーメント特徴が14個、皮溝抽出画像から得られる特徴が6個、HSV値のそれぞれの平均、標準偏差、歪度、尖度が12個、RGBのB値の平均と分散値が2個、LabのL値の平均と分散値が2個、白色度と黒色度が2個の計162種の特徴量」であると読み取れる。

ソ 上記「サ」より、「肌質を予測するための回帰モデルに用いられた特徴量のうち、偏光レンズOFFの画像群から得られる特徴量は、パワースペクトル(P6),Vの歪度,皮溝の面積,パワースペクトル比(P4/P6),グレーのHu moment 1,青の共起行列から求めたcorrelation(δ=10),である」こと及び「作成した肌質を予測するための回帰モデルによる肌質の予測値と実測値は1〜5の値である」ことが読み取れる。

タ 上記「シ」より、「肌の保湿量を予測するための回帰モデルに用いられた特徴量のうち、偏光レンズOFFの画像群から得られる特徴量は、S値の分散,グレーの共起行列から求めたentropy(δ=10), Hの歪度,パワースペクトル比(P10/P12),BのHuモーメント2,である」こと及び「作成した肌の保湿量を予測するための回帰モデルによる保湿量の予測値と実測値は28〜42μSの値である」が読み取れる。

チ 上記「アないしタ」より、甲第1号証には次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「画像解析を用いて美容分野における肌状態の新たな定量化指標の構築を行うことを目的とした、肌の状態の定量化を行うためのシステムおよびそのシステムを用いた方法において、
本システムは学習段階と実行段階の2段階を持ち、
学習段階では肌状態についての評価情報のある画像群(教師データ) を用いて、肌画像と肌の評価を表すために効果的な画像特徴量の検証を行うと共に、その結果を用いた線形回帰モデルを作成し、実行段階では、評価対象の画像から必要な画像特徴量を抽出し、学習段階で得られた線形回帰モデルを用いて解析を行うものであり、
教師データとしての評価基準は"肌質"および"肌の保湿量"とし、前者についてはキメの細かさや色などを目視することで、著者がその部分の肌質を主観的にスコアリングした値(5を最良、1を最低とした5段階で決定した値)を、後者については水分量計で計測した値(単位:μS)をそれぞれ用い、
人のまぶた下約1cm および下あごの部分を撮影し、偏光レンズOFFで撮影された画像群(計147枚)、偏光レンズONで撮影された画像群(計147枚)、双方を組み合わせた画像(計294枚) の3種類のデータセットを得、
各データセットから計162種の特徴量を抽出し、抽出した特徴量のうち有効だと思われるものをstepwise法を用いて選択し、それらをもとに、肌質を予測するための回帰モデルと、肌の保湿量を予測するための回帰モデルを作成し、
偏光レンズOFFのときは皮膚表面の凹凸の形状がよく観察できる画像が得られ、一方で、偏光レンズONのときには、皮膚表面での光の乱反射が抑制された画像が得られ、
画像特徴量は、画像の2Hz毎のパワースペクトル値(0〜40Hz の範囲)が20個、各領域毎のパワースペクトル値が48個、テクスチャ特徴が56個、モーメント特徴が14個、皮溝抽出画像から得られる特徴が6個、HSV値のそれぞれの平均、標準偏差、歪度、尖度が12個、RGBのB値の平均と分散値が2個、LabのL値の平均と分散値が2個、白色度と黒色度が2個の計162種の特徴量であり、
肌質を予測するための回帰モデルに用いられた特徴量のうち、偏光レンズOFFの画像群から得られる特徴量は、パワースペクトル(P6),Vの歪度,皮溝の面積,パワースペクトル比(P4/P6),グレーのHu moment 1,青の共起行列から求めたcorrelation(δ=10),であり、
肌の保湿量を予測するための回帰モデルに用いられた特徴量のうち、偏光レンズOFFの画像群から得られる特徴量は、S値の分散,グレーの共起行列から求めたentropy(δ=10), Hの歪度,パワースペクトル比(P10/P12),BのHuモーメント2,であり、
作成した肌質を予測するための回帰モデルによる肌質の予測値と実測値は1〜5の値であり、
作成した肌の保湿量を予測するための回帰モデルによる保湿量の予測値と実測値は28〜42μSの値である、
システムおよびそのシステムを用いた方法。」

(2)甲第2号証
本件特許に係る優先日前に日本国内で頒布された刊行物である特開2006−223366号公報(甲第2号証)には、図面とともに次の技術事項が記載されている。
ア 「【0001】
本発明は、肌の凹凸状態を評価・模擬するシミュレーション装置及びシミュレーション方法に係り、特に肌の凹凸状態を表す3次元の点群データから三次元画像を作成するシミュレーション装置及びシミュレーション方法に関する。」

イ 「【0047】
本発明によるシミュレーション装置1は、前述したビューア機能,データ出力機能,断面表示/計測機能,ライティングシミュレーション機能を利用して、肌レプリカ21を評価することもできる。例えば肌レプリカ21を評価するパラメータは、肌全体,キメ部位及び皮丘部位に分類できる。そして、各パラメータの数値の大小によって肌を分類することができる。
【0048】
肌全体に関するパラメータは、基準面からの深さの分類及び統計量(個数、平均値、分散、尖度、歪度など)を含む。キメ部位に関するパラメータは、深さの分布,総体積・総周囲長、曲率の変化、方向性、連続性、及びこれらの分布の仕方を表す統計量(個数、平均値、分散、尖度、歪度など)を含む。また、皮丘部位に関するパラメータは表面積の分布,体積,曲率,形状(水平経、垂直経、円形度、周囲長など)、及びこれらの分布の仕方を表す統計量(個数、平均値、分散、尖度、歪度など)を含む。そして、肌レプリカ21の評価結果に応じて肌を分類し、その分類と商品情報とを対応付けてデータベース化しておくことにより、ユーザへの商品の提案が容易となる。」

ウ 「【0049】
なお、上記したステップS1の説明では、レーザスキャナにより肌レプリカ21をサンプリングすることで、肌レプリカ21をデジタル化した点群データ22を取得するレプリカ法を例に説明したが、この方法に限るものではない。例えばレーザ法、光投影法など非接触三次元計測法を用いた計測装置2により肌の凹凸状態を表す点群データ22を取得する場合、顧客の肌から点群データ22を直接取得できる。したがって、デパート等の化粧品売場店頭に本発明によるシミュレーションシステムを設置しておき、肌の凹凸状態を切り口にした肌のカウンセリングが可能となる。」

エ 「【0040】
以下、ライティングシミュレーション機能を利用して、光によってできる肌のキメや毛穴などの凹凸状態の陰影が、肌の見え方にどのように影響しているかを解明する処理の一例について説明する。
【0041】
図15〜図23は、ライトの位置を緯度的に変化させた場合のビューウインドウ101及びカメラ・ライト位置情報102の遷移を表している。例えば図15は、肌の左方向にライトがある例を表している。図19は、肌の上方向にライトがある例を表している。図23は、肌の右方向にライトがある例を表している。言い換えれば、図15〜図23は光を照射する仰角を段階的に変化させたときの遷移を表していると言うこともできる。
【0042】
図24〜図30は、ライトの位置を経度的に変化させた場合のビューウインドウ101及びカメラ・ライト位置情報102の遷移を表している。例えば図24〜図30は、反時計回りにライトの位置を変化させる例を表している。言い換えれば、図24〜図30は光を照射する経度的な角度を段階的に変化させたときの遷移を表していると言うこともできる。」

オ 上記「アないしエ」より、甲第2号証には次の技術(以下「甲2開示技術」という。)が記載されていると認められる。
「肌の凹凸状態を表す3次元の点群データから三次元画像を作成するシミュレーション装置及びシミュレーション方法において、
顧客の肌から非接触三次元計測法を用いた計測装置2により、肌の凹凸状態を表す点群データ22を直接取得し、
ビューア機能,データ出力機能,断面表示/計測機能,ライティングシミュレーション機能を利用して、肌を評価し、
肌を分類するための肌全体に関するパラメータは、基準面からの深さの分類及び統計量(個数、平均値、分散、尖度、歪度など)を含み、キメ部位に関するパラメータは、深さの分布,総体積・総周囲長、曲率の変化、方向性、連続性、及びこれらの分布の仕方を表す統計量(個数、平均値、分散、尖度、歪度など)を含み、皮丘部位に関するパラメータは表面積の分布,体積,曲率,形状(水平経、垂直経、円形度、周囲長など)、及びこれらの分布の仕方を表す統計量(個数、平均値、分散、尖度、歪度など)を含み、
反時計回りにライトの位置を変化させ光を照射する経度的な角度を段階的に変化させる、ライティングシミュレーションを行うこともできる、
技術。」

(3)甲第3号証
本件特許に係る優先日前に日本国内で頒布された刊行物である「特開2017−199384号公報」(甲第3号証)には、次の技術事項が記載されている。
ア 「【0001】
関連出願
本出願は、2013年4月9日に出願された米国特許出願番号第13/859,384号の優先権を主張し、及び2013年4月9日に出願された米国特許出願番号第13/859,359号に関連し、これらの内容は、引用によって全体が本願に援用される。
分野
本発明は、包括的には、肌診断技術に関し、より詳しくは、画像処理技術とともに使用される肌診断技術に関する。
【背景技術】
【0002】
スキンケア製品又は美容術の適用によって、顧客の容姿がどのように変化するかを予測及び例示するために、スキンケア又は美容術の視覚化が行われている。しかしながら、既存の手法におけるこのような予測的性質は、視覚化された顧客の容姿の正確度及び整合性に関して課題がある。
【0003】
すなわち、視覚化の正確度は、視覚化の元となるデータの正確度に制約される。視覚化される顧客の表現を単なる推測に基づいて表面的に決定した場合、このような結果が不正確になり、顧客がスキンケア製品又は美容術に満足できないこともある。
【0004】
また、予想される視覚化において表現される顧客の結果が実際の結果に近くなったとしても、結果がどれほど正確に視覚化されるかは、スキンケア製品又は美容術を購入するか否かについての顧客の決定に重大な影響を有している。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の実施形態は、画像処理技術とともに使用される肌診断技術を提供する。
【0006】
一実施態様では、方法は、以下のステップを有する。ユーザ肌画像の少なくとも1つの部分に対して1つ以上の診断動作を実行して、ユーザ肌画像データを生成し、1つ以上の診断動作は、特定された肌関連アプリケーションに関連する。特定された肌関連アプリケーションに基づいてユーザ肌画像データを処理する。この処理は、肌関連アプリケーションが指定する1つ以上のパラメータに基づいて、ユーザ肌画像データに対応するデータベース内の肌画像データの1つ以上の組を特定するステップと、データベースから特定された肌画像データの1つ以上の組に基づいて、少なくとも1つの画像処理フィルタを決定するステップとを有する。方法は、更に、ユーザ肌画像の少なくとも1つの部分に少なくとも1つの画像処理フィルタを適用して、シミュレートされたユーザ肌画像を生成するステップを有する。」

イ 「【0027】
解析の出力は、出力ディスプレイ112に表示される形式で生成され、更新/シミュレートされた画像及び/又は変化する一連のシミュレートされた画像を含む。このような出力は、最初のユーザ肌画像(例えば、システム100によって実行される肌診断動作の前のユーザ肌画像)の視覚化と、選択された期間に亘ってこの画像がどのように変化するかの視覚化を含むことができ、この変化は、年齢、人種、性別等の対応するパラメータに関連するデータベース内のそれらの変数の深刻度に対する、ユーザ画像内の問合わせが行われた変数の深刻度に基づいて判定される。なお、異なる変数は、初期の深刻度及び1つ以上の対応するパラメータに応じて異なる速度で変化又は進行することがあり、このような解析の結果は、線形ではないことがある。すなわち、本発明の実施形態は、1つ以上のデータベースによるユーザ肌画像の処理に関連する非線形の曲線の生成及び利用を含む。」

ウ 「【0036】
このように、対応する複数の2次元デジタルRGB(赤、緑、青)色モデル画像が捕捉され、データベース110(例えば、画像解析データベース229)に保存される。RGB画像の各々は、少なくとも部分的に、肌の目標領域を定義するスペクトル画像の少なくとも1つに対応する。ユーザ102についての処理の間、後に更に詳細に説明するように、複数のスペクトル画像の一部(又は全部)が解析され、各スペクトル画像内で1つ以上のスペクトル画像データセットが特定される。ここで用いるスペクトル画像データセットという用語は、例えば、肌タイプ、血液又はメラニン濃度、酸素飽和度、ヘモグロビン含有率、水分含有率又は含水量等の特定の変数又はパラメータに関係付けて、肌の状態を一意的に定義するために必要な最小限の量のスペクトル画像デジタルデータを意味する。
【0037】
本発明の1つ以上の実施形態に関連して説明したように、選択され又は定義される肌状態は、施術又は矯正を必要としない肌状態であってもよく、肌状態は、例えば、乾燥肌、脂性、ひび割れ及びこの他の施術可能又は矯正可能な肌状態であってもよい。いずれの場合も、スペクトル画像データセットは、1つ以上の肌状態を定義する。
【0038】
前述のように、各画像内の各要素は、例えば、画像上の画素座標、画素のRGB値及び/又は画素のスペクトルコンテンツ、並びに画素における肌状態のタイプに基づいて、記録され、インデックス付けされる。したがって、各肌状態は、各画像において1つ以上の画素にマッピングされる。具体的には、各スペクトル画像データセットは、各スペクトル画像の内の位置(ここでは、スペクトル位置と呼ぶ)にマッピングされる。すなわち、スペクトル位置は、スペクトル画像データセットのためのスペクトル画像内の画素座標位置を含む。各スペクトル画像に対応するRGB画像内の位置は、対応する各スペクトル位置にマッピングされる。RGB画像内の位置は、ここでは、RGB位置と呼び、これは、各スペクトル画像内のスペクトル位置に対応するRGB画像の範囲内の画素座標位置である。」

エ 上記「アないしウ」より、甲第3号証には次の技術(以下「甲3開示技術」という。)が記載されていると認められる。
「画像処理技術とともに使用される肌診断技術において、
ユーザ肌画像の少なくとも1つの部分に対して、特定された肌関連アプリケーションに基づいてユーザ肌画像データを処理する1つ以上の診断動作を実行して、ユーザ肌画像データを生成し、更に、ユーザ肌画像の少なくとも1つの部分に少なくとも1つの画像処理フィルタを適用して、シミュレートされたユーザ肌画像を生成するステップを有するものであり、
上記処理は、肌関連アプリケーションが指定する1つ以上のパラメータに基づいて、ユーザ肌画像データに対応するデータベース内の肌画像データの1つ以上の組を特定するステップと、データベースから特定された肌画像データの1つ以上の組に基づいて、少なくとも1つの画像処理フィルタを決定するステップとを有し、
上記、パラメータは例えば、肌タイプ、血液又はメラニン濃度、酸素飽和度、ヘモグロビン含有率、水分含有率又は含水量等の特定の変数又はパラメータであり、
解析の出力は、更新/シミュレートされた画像及び/又は変化する一連のシミュレートされた画像を出力ディスプレイ112に表示される形式で生成されて出力され、このような出力は、最初のユーザ肌画像(例えば、システム100によって実行される肌診断動作の前のユーザ肌画像)の視覚化と、選択された期間に亘ってこの画像がどのように変化するかの視覚化を含むことができ、この変化は、年齢、人種、性別等の対応するパラメータに関連するデータベース内のそれらの変数の深刻度に対する、ユーザ画像内の問合わせが行われた変数の深刻度に基づいて判定される、
技術。」

(4)甲第4号証
本件特許に係る優先日前に日本国内で頒布された刊行物である特開2013−90752号公報(甲第4号証)には、次の技術事項が記載されている。
ア 「【0006】
この発明に係るシミ分類方法は、被験者の皮膚を撮影して得られた画像の色空間を変換した色空間変換画像を生成し、前記色空間変換画像に含まれるシミを検出し、検出されたシミについて、形態特徴量および色特徴量を算出し、算出された前記形態特徴量および前記色特徴量に基づいて、機械学習法によりシミを分類するものである。」

イ 「【0024】
次に、シミ分類装置を用いて実際にシミを分類した実施例について説明する。
この実施例は、被験者30名の皮膚を撮影した撮影画像からシミ部分を切り出して得られた各種類60枚のシミ画像を用いて、シミの形態特徴量と色特徴量をそれぞれ求め、求められた形態特徴量と色特徴量に基づいて種類の異なる機械学習法によりシミの分類を行ったものである。機械学習法には、分類木、ランダムフォレスト、バギングおよびAdaboostを用いた。
その結果、表1に示すように、シミ分類の正解率は、全ての機械学習法において80%以上を示すと共にその平均値は90%以上となり、高精度にシミを分類できることが分かった。特に、ランダムフォレストを用いた場合には、全ての種類のシミにおいて、シミ分類の正解率が90%以上を示し、ランダムフォレストがシミの分類に適していることが示唆された。」

ウ 上記「ア及びイ」より、甲第4号証には次の技術(以下「甲4開示技術」という。)が記載されていると認められる。
「被験者の皮膚を撮影して得られた画像の色空間を変換した色空間変換画像を生成し、前記色空間変換画像に含まれるシミを検出し、検出されたシミについて、形態特徴量および色特徴量を算出し、算出された前記形態特徴量および前記色特徴量に基づいて、機械学習法によりシミを分類するシミ分類方法及びシミ分類装置において、
この実施例は、被験者30名の皮膚を撮影した撮影画像からシミ部分を切り出して得られた各種類60枚のシミ画像を用いて、シミの形態特徴量と色特徴量をそれぞれ求め、求められた形態特徴量と色特徴量に基づいて、ランダムフォレスト方式の機械学習法によりシミの分類を行う、
技術。」

2.特許法第29条第1項第3号新規性違反)について
(1)本件発明1と甲1発明との対比・判断について
ア 対比
甲1発明を本件発明1と対比する。
(ア)甲1発明の「"肌質"および"肌の保湿量"」は、「肌質を主観的にスコアリングした値(5を最良、1を最低とした5段階で決定した値)」と「水分量計で計測した値(単位:μS)」であり、本件発明1の「皮膚機能に関するパラメータ」は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0018】に「皮膚機能に関するパラメータは、例えばTEWLを含む。これに限定されず、皮膚機能に関するパラメータは、皮膚バリア機能等を含む生体組織の機能に関連付けられる任意の指標を含んでもよい。例えば、皮膚機能に関するパラメータは、皮膚の水分量を含んでもよい。」と説明されていることから、甲1発明の「"肌質"および"肌の保湿量"」は、本件発明1の「皮膚機能に関するパラメータ」に相当する。
(イ)甲1発明の「人のまぶた下約1cmおよび下あごの部分を」「偏光レンズOFF で撮影された画像」は、「偏光レンズOFFのときは皮膚表面の凹凸の形状がよく観察できる画像が得られ」ることから、本件発明1の「皮膚表面の凹凸が写っている皮膚画像」に相当する。
(ウ)甲1発明の「肌質を予測するための回帰モデル」及び「肌の保湿量を予測するための回帰モデル」は、「人のまぶた下約1cmおよび下あごの部分を撮影し、偏光レンズOFFで撮影された画像群(計147枚)、偏光レンズONで撮影された画像群(計147枚)、双方を組み合わせた画像(計294枚) の3種類のデータセットを得、各データセットから計162種の特徴量を抽出し、抽出した特徴量のうち有効だと思われるものをstepwise法を用いて選択し、それらをもとに、肌質を予測するための回帰モデルと、肌の保湿量を予測するための回帰モデルを作成し」たものであるから、本件発明1の「特徴量」「と」「皮膚機能に関するパラメータとを関連付けた過去の実測データに基づき構築された推定モデル」に相当する。
(エ)甲1発明の「肌質を予測するための回帰モデル」及び「肌の保湿量を予測するための回帰モデル」に用いられる「特徴量」のうち、「偏光レンズOFFの画像群から得られる特徴量は、パワースペクトル(P6),Vの歪度,皮溝の面積,パワースペクトル比(P4/P6),グレーのHu moment 1,青の共起行列から求めたcorrelation(δ=10),」及び「S値の分散,グレーの共起行列から求めたentropy(δ=10), Hの歪度,パワースペクトル比(P10/P12),BのHuモーメント2」は、「偏光レンズOFFの画像群から得られる特徴量」であるから、本件発明1の「皮膚表面の凹凸が写っている皮膚画像を取得する画像取得ステップ」「において取得された前記皮膚画像に対して、」「抽出」された「前記皮膚画像の」「特徴量」に相当する。
(オ)甲1発明は、「学習段階と実行段階の2段階を持ち、学習段階では肌状態についての評価情報のある画像群(教師データ) を用いて、肌画像と肌の評価を表すために効果的な画像特徴量の検証を行うと共に、その結果を用いた線形回帰モデルを作成し、実行段階では、評価対象の画像から必要な画像特徴量を抽出し、学習段階で得られた線形回帰モデルを用いて解析を行」い「肌の状態の定量化を行う」「システムおよびそのシステムを用いた方法」であり、上記「肌状態についての評価情報のある画像群」は上記「(イ)及び(ウ)」より、「人のまぶた下約1cmおよび下あごの部分を撮影し、偏光レンズOFFで撮影された画像群(計147枚)、偏光レンズONで撮影された画像群(計147枚)、双方を組み合わせた画像(計294枚)」であり、上記「肌画像と肌の評価を表すために効果的な画像特徴量」は上記「(エ)」より、「パワースペクトル(P6),Vの歪度,皮溝の面積,パワースペクトル比(P4/P6),グレーのHu moment 1,青の共起行列から求めたcorrelation(δ=10),」と「S値の分散,グレーの共起行列から求めたentropy(δ=10), Hの歪度,パワースペクトル比(P10/P12),BのHuモーメント2」とを含み、上記「その結果を用いた線形回帰モデル」は上記「(ウ)」より、「肌質を予測するための回帰モデル」及び「肌の保湿量を予測するための回帰モデル」であり、上記「肌の状態の定量化」は上記「(ア)ないし(エ)」と上記から、「"肌質"および"肌の保湿量"」を「人のまぶた下約1cm および下あごの部分を撮影し」た「画像」から得られる「パワースペクトル(P6),Vの歪度,皮溝の面積,パワースペクトル比(P4/P6),グレーのHu moment 1,青の共起行列から求めたcorrelation(δ=10),」と「S値の分散,グレーの共起行列から求めたentropy(δ=10), Hの歪度,パワースペクトル比(P10/P12),BのHuモーメント2」を含む「画像特徴量」を「肌の保湿量を予測するための回帰モデル」及び「肌の保湿量を予測するための回帰モデル」に代入して「予測値」を生成することであるから、本件発明1とは、「皮膚表面の凹凸が写っている皮膚画像を取得する画像取得ステップと、前記画像取得ステップにおいて取得された前記皮膚画像に対して、前記皮膚画像の」「特徴量」「を抽出する抽出ステップと、前記特徴量」「と前記皮膚機能に関するパラメータとを関連付けた過去の実測データに基づき構築された推定モデルを用いて、前記抽出ステップにおいて抽出された前記特徴量」「に基づき前記皮膚機能に関するパラメータを推定する推定ステップと、前記推定ステップにおいて推定された前記皮膚機能に関するパラメータを提示する提示ステップと、を含む、」「皮膚機能に関するパラメータを推定する推定方法」である点で共通する。

すると両者は、以下の点で一致する。
「皮膚機能に関するパラメータを推定する推定方法であって、
皮膚表面の凹凸が写っている皮膚画像を取得する画像取得ステップと、
前記画像取得ステップにおいて取得された前記皮膚画像に対して、前記皮膚画像の特徴量を抽出する抽出ステップと、
前記特徴量と前記皮膚機能に関するパラメータとを関連付けた過去の実測データに基づき構築された推定モデルを用いて、前記抽出ステップにおいて抽出された前記特徴量に基づき前記皮膚機能に関するパラメータを推定する推定ステップと、
前記推定ステップにおいて推定された前記皮膚機能に関するパラメータを提示する提示ステップと、
を含む、
推定方法。」

一方で、両者は、次の点で相違する。
<相違点>
本件発明1は、抽出ステップにおいて「皮膚画像に対して、前記皮膚画像の位相的情報に基づく特徴量ベクトルを抽出」し、推定ステップにおいて「前記特徴量ベクトルと前記皮膚機能に関するパラメータとを関連付けた過去の実測データに基づき構築された推定モデルを用いて、前記抽出ステップにおいて抽出された前記特徴量ベクトルに基づき前記皮膚機能に関するパラメータを推定する」のに対し、甲1発明は、人のまぶた下約1cmおよび下あごの部分を撮影した「画像」から、パワースペクトル(P6),Vの歪度,皮溝の面積,パワースペクトル比(P4/P6),グレーのHu moment 1,青の共起行列から求めたcorrelation(δ=10),とS値の分散,グレーの共起行列から求めたentropy(δ=10), Hの歪度,パワースペクトル比(P10/P12),BのHuモーメント2,とを含む画像特徴量を抽出し、前記画像特徴量を入力変数とした肌質を予測するための回帰モデル及び肌の保湿量を予測するための回帰モデルを用いて、評価対象の画像から肌質の予測値と保湿量の予測値を予測する点。

イ 判断
上記相違点について検討する。
(ア)本件発明1の「皮膚画像の位相的情報に基づく特徴量ベクトル」について検討する。カメラで撮影した皮膚画像の画像解析において『位相情報』とは、空間スペクトル(波形)を波数kと位置xについて「sin(kx+φ)」と表した場合のφに関する情報を意味するが、『位相的情報』なる技術用語は存在しない。また、仮に『位相的情報』が位相に関する情報と理解しても、位相自体はベクトル量ではないから、『位相的情報に基づく特徴量ベクトル』がどのような量を指すのか、技術常識に基づいても直ちには理解できない。
(イ)そこで本件特許明細書の発明の詳細な説明を参照すると、「皮膚画像の位相的情報に基づく特徴量ベクトル」に関する記載として、以下の記載がある。(下線は当審で付与した。)
「【0037】
図4は、図1の推定装置1による第3の動作の例を示すフローチャートである。図4は、図3のステップS202におけるフローをより詳細に示したものである。図4を参照しながら、取得された皮膚画像に基づいて推定装置1の制御部11が特徴量ベクトルを抽出するまでのフローをより詳細に説明する。
【0038】
ステップS301では、推定装置1の制御部11は、図3のステップS201において取得された皮膚画像に対して明るさの補正処理及び二値化処理を施した補正画像を生成する。図5は、図4のステップS301において生成された補正画像の一例を示す模式図である。」
「【0040】
図4のステップS302では、制御部11は、ステップS301において生成された補正画像に基づき抽出された0次元特徴量及び1次元特徴量に関する情報を取得する。このような0次元特徴量及び1次元特徴量に関する情報は、上述した位相的情報を構成する。図6は、図4のステップS302において位相的情報を取得するための方法の一例を示す模式図である。図6を参照しながら、ステップS301において生成された補正画像に基づいて制御部11が0次元特徴量及び1次元特徴量を抽出する方法を主に説明する。【0041】
制御部11は、ステップS301において生成された補正画像に対して白いピクセルの密度推定を実行し、ピクセル領域に対する白いピクセルの密度を地形図のように表す画像を生成する。例えば、このような画像において、白いピクセルの密度変化は、白いピクセルの密度が大きいピクセル領域では山として表わされ、黒いピクセルの密度が大きいピクセル領域では谷として表わされる。」
「【0044】
図7は、閾値tを段階的に変化させたときの画像及び位相的情報の変化の例を示す模式図である。より具体的には、図7の上段における一連の画像の組は、閾値tを段階的に変化させたときに得られる、白い領域のつながり方の変化の様子を示す。図7の中段は、閾値tを段階的に変化させたときに得られる0次元特徴量の変化の様子を示す。図7の下段は、閾値tを段階的に変化させたときに得られる1次元特徴量の変化の様子を示す。」
「【0051】
以上のように、制御部11は、閾値tを徐々に変化させ、白い領域のつながり方の変化を示す一連の画像の組を取得する。制御部11は、取得された一連の画像の組に対して、0次元特徴量及び1次元特徴量を含む位相的情報を抽出する。」
「【0052】
例えば、図7の中段に示すとおり、制御部11は、取得された一連の画像の組に対して、白いピクセルが連結している部分を0次元特徴量として抽出する。このように、0次元特徴量は、一連の画像の組における連結成分に対応する。例えば、閾値t1の画像において、0次元特徴量の数は0である。例えば、閾値t6の画像において、0次元特徴量の数は1である。
【0053】
例えば、図7の下段に示すとおり、制御部11は、取得された一連の画像の組に対して、白いピクセルをたどって、その中央部に黒いピクセルが存在するような部分を1次元特徴量として抽出する。このように、1次元特徴量は、一連の画像の組における穴に対応する。例えば、閾値t1及びt6の画像において、1次元特徴量の数は0である。
【0054】
図7の上段に示す一連の画像の組に対して抽出された連結成分及び穴は、閾値tの変化と共に生成され、消滅する。すなわち、所定の連結成分は、ある閾値tbcで生成されたとすると、閾値tbcよりも小さい値を有する他の閾値tdcで消滅する。同様に、所定の穴は、ある閾値tbhで生成されたとすると、閾値tbhよりも小さい値を有する他の閾値tdhで消滅する。
【0055】
制御部11は、各連結成分について閾値tbc及びtdcの値の組を記憶部13に記憶させる。同様に、制御部11は、各穴について閾値tbh及びtdhの値の組を記憶部13に記憶させる。」
「【0056】
図4のステップS303では、制御部11は、記憶部13に記憶された閾値tbc及びtdcの値の組に基づき、各特徴量の持続性を示す分布図を0次元特徴量に対して生成する。同様に、制御部11は、記憶部13に記憶された閾値tbh及びtdhの値の組に基づき、各特徴量の持続性を示す分布図を1次元特徴量に対して生成する。制御部11は、例えば図3のステップS201において取得された1つの皮膚画像に基づき、0次元特徴量及び1次元特徴量のそれぞれに対して各特徴量の持続性を示す分布図を生成してもよい。これに限定されず、制御部11は、例えば図3のステップS201において取得された複数の皮膚画像に基づき、0次元特徴量及び1次元特徴量のそれぞれに対して各特徴量の持続性を示す分布図を生成してもよい。」
「【0059】
図4のステップS304では、制御部11は、ステップS303で生成された分布図に基づいて特徴量ベクトルを抽出する。
【0060】
図10は、ランダムフォレストに基づく一実施形態に係る推定モデルを示す模式図である。図10を参照しながら、図4のステップS304における特徴量ベクトルの抽出方法及び図3のステップS203における皮膚機能に関するパラメータの推定方法の一例について主に説明する。
【0061】
図4のステップS304において、制御部11は、ステップS303で生成された0次元特徴量及び1次元特徴量の分布図のそれぞれに対してグリッドを定め、複数の領域Gを設定する。制御部11は、設定された複数の領域Gのそれぞれに含まれる点の数を領域Gごとに算出する。制御部11は、算出された点の数を領域Gごとに配列したベクトルを特徴量ベクトルとして抽出する。このとき、0次元特徴量及び1次元特徴量の分布図における各点の密度値が考慮されてもよい。」
(ウ)上記「(イ)」で示した本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載から、
「制御部11が、
・皮膚画像から補正画像を生成する。
・補正画像に基づいて制御部11が0次元特徴量及び1次元特徴量を抽出する。
・0次元特徴量の持続性を示す分布図、及び1次元特徴量の持続性を示す分布図を生成する。
・0次元特徴量及び1次元特徴量の分布図のそれぞれに対してグリッドを定め、複数の領域Gを設定し、設定された複数の領域Gのそれぞれに含まれる点の数を領域Gごとに算出し、算出された点の数を領域Gごとに配列したベクトルを特徴量ベクトルとして抽出する。」
ことが読み取れる。
(エ)上記「(ウ)」より、本件特許明細書の発明の詳細な説明では、「皮膚画像の位相的情報」は、皮膚画像から生成した補正画像から抽出された0次元特徴量及び1次元特徴量のことを指し、「皮膚画像の位相的情報に基づく特徴量ベクトル」は、皮膚画像から生成した補正画像から抽出された0次元特徴量及び1次元特徴量のそれぞれの持続性を示す分布図を作成し、作成した分布図それぞれに対してグリッドを定め、複数の領域Gを設定し、設定された複数の領域Gのそれぞれに含まれる点の数を領域Gごとに算出し、算出された点の数を領域Gごとに配列したベクトルのことを指すことが分かる。
(オ)そして、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「皮膚画像の位相的情報に基づく特徴量ベクトル」について、上記「(イ)ないし(エ)」で示したもの以外については、記載されていない。
(カ)そうすると、本件発明1の「皮膚画像の位相的情報に基づく特徴量ベクトル」は、本件特許明細書の発明の詳細な説明を参酌すると、「皮膚画像から生成した補正画像から抽出された0次元特徴量及び1次元特徴量のそれぞれの持続性を示す分布図を作成し、作成した分布図それぞれに対してグリッドを定め、複数の領域Gを設定し、設定された複数の領域Gのそれぞれに含まれる点の数を領域Gごとに算出し、算出された点の数を領域Gごとに配列したベクトル」であると解するのが相当である。
(キ)すると、甲1発明の「人のまぶた下約1cm および下あごの部分を撮影した「画像」から、パワースペクトル(P6),Vの歪度,皮溝の面積,パワースペクトル比(P4/P6),グレーのHu moment 1,青の共起行列から求めたcorrelation(δ=10),とS値の分散,グレーの共起行列から求めたentropy(δ=10), Hの歪度,パワースペクトル比(P10/P12),BのHuモーメント2,とを含む画像特徴量」は、皮膚画像から得られた特徴量ではあるものの、本件発明1の「皮膚画像から生成した補正画像から抽出された0次元特徴量及び1次元特徴量のそれぞれの持続性を示す分布図を作成し、作成した分布図それぞれに対してグリッドを定め、複数の領域Gを設定し、設定された複数の領域Gのそれぞれに含まれる点の数を領域Gごとに算出し、算出された点の数を領域Gごとに配列したベクトル」ではない。
(ク)したがって、甲1発明は、本件発明1が備える「抽出ステップにおいて「皮膚画像に対して、前記皮膚画像の位相的情報に基づく特徴量ベクトルを抽出」し、推定ステップにおいて「前記特徴量ベクトルと前記皮膚機能に関するパラメータとを関連付けた過去の実測データに基づき構築された推定モデルを用いて、前記抽出ステップにおいて抽出された前記特徴量ベクトルに基づき前記皮膚機能に関するパラメータを推定する」技術的事項を備えておらず、上記相違点で相違する。
(ケ)以上のことから、本件発明1は、甲1発明であるとはいえない。

(2)申立人の主張について
ア 申立人は、令和4年6月9日提出の特許異議申立書(以下「異議申立書」という。)において、「位相的情報」及び「特徴量ベクトル」は技術用語として通常用いられる用語とはいえないから、「位相」、「特徴」、及び「ベクトル」という用語の広辞苑第七版の説明を基に、本件発明1の、
・「位相的情報」は、単に、集合の各要素に対して、その近傍と称する適当な部分集合を設定することにより、要素の列が一定の要素に近づくか否かを論じうるようにすることのできる構造に関する情報(連続性を評価する情報)をいい、
・「特徴量ベクトル」は、単に、大きさと向きを有する量であって、他と異なって特別に目立つしるしであるものをいう
旨主張し、甲1発明の画像毎の2Hz毎のパワースペクトル値にかかる特徴量を抽出することが、本件発明1の「皮膚画像の位相的情報に基づく特徴量ベクトルを抽出すること」に相当する旨主張している。
イ 上記申立人の主張について検討する。本件発明1の「皮膚画像の位相的情報に基づく特徴量ベクトル」については、上記「(1)イ」で検討したとおり、本件特許明細書の発明の詳細な説明から「皮膚画像から生成した補正画像から抽出された0次元特徴量及び1次元特徴量のそれぞれの持続性を示す分布図を作成し、作成した分布図それぞれに対してグリッドを定め、複数の領域Gを設定し、設定された複数の領域Gのそれぞれに含まれる点の数を領域Gごとに算出し、算出された点の数を領域Gごとに配列したベクトル」と解するのが相当であり、上記申立人の各用語の広辞苑第七版の説明を基にした解釈は本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載に基づく解釈ではなく、また本件特許明細書の発明の詳細な説明にそのような申立人の解釈を含みうることも記載されていないことから、上記申立人の主張は採用することができない。
ウ また、甲1発明の画像毎の2Hz毎のパワースペクトル値にかかる特徴量は、画像毎のパワースペクトル値という値であるから、ベクトルではない。さらに、甲1発明の画像特徴量を入力変数とした肌質を予測するための回帰モデル及び肌の保湿量を予測するための回帰モデルに入力変数として入力する、パワースペクトル(P6),Vの歪度,皮溝の面積,パワースペクトル比(P4/P6),グレーのHu moment 1,青の共起行列から求めたcorrelation(δ=10),とS値の分散,グレーの共起行列から求めたentropy(δ=10), Hの歪度,パワースペクトル比(P10/P12),BのHuモーメント2,とを含む画像特徴量も、ベクトルではない。なお、異議申立書第8頁において、申立人は十字2値化処理が位相的情報に相当する旨主張しているが、上記「1.(1)ク」より、十字2値化処理を行った画像は単直線マッチングを行い皮溝の面積、太さ、間隔に関するパラメータを抽出することに用いられ、パワースペクトル値を得るために使用されるものではないから、上記申立人の主張は採用することができない。
エ よって、これらパワースペクトル(P6),Vの歪度,皮溝の面積,パワースペクトル比(P4/P6),グレーのHu moment 1,青の共起行列から求めたcorrelation(δ=10),とS値の分散,グレーの共起行列から求めたentropy(δ=10), Hの歪度,パワースペクトル比(P10/P12),BのHuモーメント2,とを含む画像特徴量は、それぞれが別個の値であり、皮膚画像の位相的情報に基づいて得られた特徴量ベクトルとは認められないから、本件発明1の皮膚画像の位相的情報に基づく特徴量ベクトルに相当するとはいえない。
オ したがって、上記申立人の主張は採用することができない。

(3)小括
以上のことから、本件発明1は甲1発明であるとはいえないから、申立人の特許法第29条第1項第3号についての異議申立理由は、理由がない。

3.特許法第29条第2項進歩性違反)について
(1)本件発明1について
ア 本件発明1と甲1発明との対比・判断については、上記「2.(1)」で述べたとおりであり、本件発明1と甲1発明とは、上記相違点で相違する。
イ また、甲2開示技術は、顧客の肌の凹凸データを直接取得し、反時計回りにライトの位置を変化させ光を照射する経度的な角度を段階的に変化させる、ライティングシミュレーションを行う技術を含むものであるが、上記技術が皮膚画像の位相的情報をもたらすものであるとしても、上記相違点における「皮膚画像の位相的情報に基づく特徴量ベクトル」を抽出する技術を含むものではない。そして、甲3開示技術及び甲4開示技術も、上記相違点における「皮膚画像の位相的情報に基づく特徴量ベクトル」を抽出する技術を含むものではない。
ウ 以上のことから、上記相違点に係る構成は上記甲第2ないし4号証には開示されておらず、本件特許に係る優先日前において周知の技術であるとも認められない。
エ そうすると、他の甲号証を参照しても、上記相違点の構成が記載されていないのであるから、甲1発明に、甲第2ないし4号証に開示された技術的事項を組み合わせても、上記相違点に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとはならない。

(2)本件発明2ないし10について
本件特許の請求項2ないし10は、請求項1を直接または間接的に引用するものであるから、本件発明2ないし10は、本件発明1の発明特定事項を全て備える発明である。したがって、本件発明2ないし10は、甲1発明と少なくとも、上記相違点で相違する。
上記相違点については、上記「(1)」で検討したとおり、甲1発明に、甲第2ないし4号証に開示された技術的事項を組み合わせても、上記相違点に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとはならないから、本件発明2ないし10も上記「(1)」と同様の理由により、甲1発明に、甲第2ないし4号証に開示された技術的事項を組み合わせても、上記相違点に係る本件発明2ないし10の発明特定事項を有するものとはならない。

(3)本件発明11について
本件発明11は、本件発明1の推定方法を推定装置とカテゴリーを変更し、本件発明1の推定方法の各ステップを、推定装置の取得部、制御部及び提示部で実行するようにした発明である。したがって、本件発明11は、甲1発明と上記相違点で相違する。
上記相違点については、上記「(1)」で検討したとおり、甲1発明に、甲第2ないし4号証に開示された技術的事項を組み合わせても、上記相違点に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとはならないから、本件発明11も上記「(1)」と同様の理由により、甲1発明に、甲第2ないし4号証に開示された技術的事項を組み合わせても、上記相違点に係る本件発明11の発明特定事項を有するものとはならない。

(4)申立人の主張について
ア 申立人は、異議申立書において、甲第2号証の記載が示すとおり、皮膚画像に基づき肌状態を推定すること、皮膚表面の凹凸の形状のよく観察できる皮膚画像を取得すること、及び皮膚画像の位相的情報を取得すること、は当業者が通常行うものである旨主張する。
イ しかしながら、上記「(1)イ」で述べたとおり、甲2開示技術の反時計回りにライトの位置を変化させ光を照射する経度的な角度を段階的に変化させる、ライティングシミュレーションが皮膚画像の位相的情報をもたらすものであるとしても、上記相違点における「皮膚画像の位相的情報に基づく特徴量ベクトル」を抽出する技術は甲2開示技術には含まれておらず、当業者が通常行うものともいえない。したがって、甲1発明に甲第2号証にも示された当業者が通常行うものである技術を採用したとしても、上記相違点に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとはならない。
ウ したがって、上記申立人の主張は採用することができない。
エ また、申立人は、請求項3,4の容易想到性において「0次元特徴量及び1次元特徴量に関する情報を含む形態とすることによる、甲第1号証に記載された事項に比した有利な効果は認められない」旨主張している。この主張は、本件発明1に対する甲1発明に基づく新規性進歩性の判断に影響を与える主張ではないが、一応検討する。
オ 上記「2.」で述べたとおり、本件発明1の「皮膚画像の位相的情報に基づく特徴量ベクトル」は、本件特許明細書の発明の詳細な説明を参酌することにより、「皮膚画像から生成した補正画像から抽出された0次元特徴量及び1次元特徴量のそれぞれの持続性を示す分布図を作成し、作成した分布図それぞれに対してグリッドを定め、複数の領域Gを設定し、設定された複数の領域Gのそれぞれに含まれる点の数を領域Gごとに算出し、算出された点の数を領域Gごとに配列したベクトル」であると解するのが相当であることから、本件発明1は、0次元特徴量及び1次元特徴量に関する情報を含む形態であると認められる。この形態を採用する本件発明1は、皮膚画像から直接得られる情報ではなく、皮膚画像(を補正した補正画像)を処理することにより白い領域のつながり方の変化を示す一連の画像の組を取得し、その取得された一連の画像の組に対して、白いピクセルが連結している部分を0次元特徴量として抽出し、白いピクセルをたどって、その中央部に黒いピクセルが存在するような部分を1次元特徴量として抽出することを行っている(上記「2.(1)イ(イ)」参照。)。つまり、本件発明1は、皮膚画像を処理して、必要な情報を新たに作り出し、その新たに作り出した情報を基に更に特徴量ベクトルという新たな情報を作り出し、その特徴量ベクトルと皮膚機能に関するパラメータとを関連つけた推定モデルを過去の実測データに基づき構築していることから、推定モデルに用いる入力変数を絞ることによる計算量の抑制ができている。
カ 一方、甲1発明は、皮膚画像から直接得られるパラメータで相関性のあるパラメータを複数用いることにより推定モデル(前記画像特徴量を入力変数とした肌質を予測するための回帰モデル及び肌の保湿量を予測するための回帰モデル)を構築していることから推定モデルに用いる入力変数を絞ることによる計算量の抑制ができていない。
キ したがって、「0次元特徴量及び1次元特徴量に関する情報を含む形態とすることによる、甲第1号証に記載された事項に比した有利な効果」は、推定モデルに用いる入力変数を絞ることによる計算量の抑制の点において認められるから、上記申立人の主張は採用することができない。

(5)小括
以上のことから、本件発明1ないし11を、甲1発明及び甲第2ないし4号証に開示された技術的事項から、当業者が容易に発明をすることができたとはいえないから、申立人の特許法第29条第2項についての異議申立理由は、理由がない。

4.特許法第36条第6項第1号(サポート要件違反)について
(1)申立人は、異議申立書において、「本願発明において、上記発明の課題を解決できる位相的情報は、本件特許明細書段落0040〜0051の方法により得られた0次元特徴量及び1次元特徴量を含む位相的情報を用いる形態に限られ」、「また、本願発明において、上記発明の課題を解決できると認められる形態は、評価内容が経表皮水分蒸散量及び/又は皮膚の水分量である形態に限られる」から「請求項1には、発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための手段が反映されておらず、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えることとな」り「請求項2−11についても同様である」旨主張する。
(2)上記「2.」で述べたとおり、本件発明1の「皮膚画像の位相的情報に基づく特徴量ベクトル」は、本件特許明細書の発明の詳細な説明を参酌することにより、「皮膚画像から生成した補正画像から抽出された0次元特徴量及び1次元特徴量のそれぞれの持続性を示す分布図を作成し、作成した分布図それぞれに対してグリッドを定め、複数の領域Gを設定し、設定された複数の領域Gのそれぞれに含まれる点の数を領域Gごとに算出し、算出された点の数を領域Gごとに配列したベクトル」であると解するのが相当であることから、本件発明1は、0次元特徴量及び1次元特徴量に関する情報を用いる形態であると認められる。
(3)また、本件発明1ないし11の課題については、本件特許明細書の発明の詳細な説明の【0009】段落に
「【0009】
このような問題点に鑑みてなされた本発明の目的は、皮膚機能に関するパラメータを精度良く推定可能な推定方法、推定モデルの生成方法、プログラム、及び推定装置を提供することにある。」
と記載され、
本件発明1ないし11の課題を解決する手段については、本件特許明細書の発明の詳細な説明の【0010】段落に
「【0010】
上記課題を解決するために、本発明の一実施形態に係る推定方法は、
皮膚機能に関するパラメータを推定する推定方法であって、
皮膚表面の凹凸が写っている皮膚画像を取得する画像取得ステップと、
前記画像取得ステップにおいて取得された前記皮膚画像に対して、前記皮膚画像の位相的情報に基づく特徴量ベクトルを抽出する抽出ステップと、
前記特徴量ベクトルと前記皮膚機能に関するパラメータとを関連付けた過去の実測データに基づき構築された推定モデルを用いて、前記抽出ステップにおいて抽出された前記特徴量ベクトルに基づき前記皮膚機能に関するパラメータを推定する推定ステップと、
前記推定ステップにおいて推定された前記皮膚機能に関するパラメータを提示する提示ステップと、
を含む。」
と記載され、
本件発明1ないし11の効果については、本件特許明細書の発明の詳細な説明の【0075】段落に
「【0075】
推定装置1は、図3のステップS202のように、皮膚画像に基づいて特徴量ベクトルを抽出してから機械学習モデルにより皮膚機能に関するパラメータを推定することで、必要とされるサンプルの数を低減させることができる。加えて、推定装置1は、計算量を抑制可能である。さらに、推定装置1は、皮膚画像のどのような特徴が推定される皮膚機能に関するパラメータに関連しているのか等の解釈を容易とする。」(下線は当審で付与した。)
と記載されている。
(4)上記「(3)」より、本件特許明細書の発明の詳細な説明に示された本件発明1ないし11の課題は、「皮膚機能に関するパラメータを精度良く推定」することであり、「皮膚画像に基づいて特徴量ベクトルを抽出してから機械学習モデルにより皮膚機能に関するパラメータを推定すること」で「必要とされるサンプルの数を低減させ」、「計算量を抑制可能」としてその課題を解決することが本件特許明細書の発明の詳細な説明から読み取れる。
(5)上記「(4)」より、本件発明1ないし11は、発明特定事項として「前記画像取得ステップにおいて取得された前記皮膚画像に対して、前記皮膚画像の位相的情報に基づく特徴量ベクトルを抽出」することと、「前記特徴量ベクトルと前記皮膚機能に関するパラメータとを関連付けた過去の実測データに基づき構築された推定モデルを用いて、」「抽出された前記特徴量ベクトルに基づき前記皮膚機能に関するパラメータを推定する」ことと、を備えることにより、「必要とされるサンプルの数を低減させ」、「計算量を抑制」して、「皮膚機能に関するパラメータを精度良く推定」するという課題を解決すると認められるから、本件発明1ないし11は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための手段が反映されていないとはいえず、本件発明1ないし11は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものでないと認められる。したがって、上記「(1)」の申立人の主張は採用することができない。
(6)以上のことから、本件発明1ないし11は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものでないから、申立人の特許法第36条第6項第1号についての異議申立理由は、理由がない。

5.まとめ
以上のとおりであるので、上記「第3」の異議申立理由はいずれも理由がない。

第5 むすび
以上のとおり、申立人が特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1ないし11に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1ないし11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2022-09-28 
出願番号 P2021-507415
審決分類 P 1 651・ 113- Y (A61B)
P 1 651・ 121- Y (A61B)
P 1 651・ 537- Y (A61B)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 石井 哲
特許庁審判官 伊藤 幸仙
樋口 宗彦
登録日 2021-11-25 
登録番号 6983357
権利者 学校法人慶應義塾 株式会社コーセー
発明の名称 推定方法、推定モデルの生成方法、プログラム、及び推定装置  
代理人 齋藤 恭一  
代理人 橋本 大佑  
代理人 齋藤 恭一  
代理人 杉村 憲司  
代理人 杉村 光嗣  
代理人 橋本 大佑  
代理人 杉村 光嗣  
代理人 杉村 憲司  

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