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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  F16K
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  F16K
管理番号 1389988
総通号数 11 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-11-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2019-10-16 
確定日 2022-08-01 
訂正明細書 true 
事件の表示 上記当事者間の特許第5945576号発明「バルブ装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第5945576号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2〕、〔3−5〕について訂正することを認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5945576号(以下、「本件特許」という。)は、平成26年9月26日(パリ条約に基づく優先権主張 2014年3月5日 中国)に特許出願(特願2014−196236号)され、平成28年6月3日に特許権の設定登録(請求項の数5)がされたものである。
そして、令和元年10月16日に浙江盾安人工環境股▲ふん▼有限公司(以下、「請求人」という。)から、本件特許の請求項1ないし5に係る発明(以下、それぞれについて「本件発明1」ないし「本件発明5」といい、これらをまとめて「本件発明」という。)についての特許を無効とすることを求める無効審判(以下、「本件無効審判」という。)が請求され、令和2年1月28日に答弁書が千代田空調機器株式会社及び浙江三花智能控制股▲分▼有限公司(以下、「被請求人」という。)から提出された。
本件無効審判の手続の経緯は、概略以下のとおりである。

令和元年10月16日 本件無効審判の請求
令和2年 1月28日 答弁書の提出
同日 訂正請求
同年 3月31日 弁駁書の提出
同年 5月29日付け 訂正拒絶理由通知
同年 7月15日 意見書(被請求人)の提出
同月21日 意見書(請求人)の提出
同年 9月30日付け 審決の予告
同年12月23日 訂正請求
同日 上申書(被請求人)
令和3年 1月20日付け 審理事項通知書の送付
同年 2月 8日 口頭審理陳述要領書(被請求人)の提出
同月15日 口頭審理陳述要領書(請求人)の提出
同月17日付け 審理事項通知書の送付
同年 3月 8日 口頭審理陳述要領書(被請求人)の提出
同月23日 口頭審理の実施
同年 4月 5日 上申書(被請求人)の提出
同月20日 上申書(請求人)の提出
同年 6月 9日付け 補正許否の決定
同年 7月 9日 答弁書

なお、令和2年1月28日の訂正請求は、その後、令和2年12月23日に訂正請求がされたことにより、取り下げられたものとみなされる(特許法第134条の2第6項)。

第2 令和2年12月23日付け訂正請求書による訂正請求について
1 訂正事項
令和2年12月23日の訂正請求(以下、「本件訂正」という。)は、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1ないし5について訂正することを求めるものであって、その訂正の内容は以下のとおりである(下線は、訂正箇所を示す。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「冷媒を流通させる弁通路を有する円筒形の弁ボディ」と記載されているのを、「冷媒を流通させる弁通路たる中空部を有し、前記中空部の内周のうち上下方向の略中央領域には雌ネジ部が形成され、前記中空部の下端は溶接部となっており、前記雌ネジ部の下端と前記溶接部の上端との境界に第2段差部が形成された円筒形の弁ボディ」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2も同様に訂正する。)。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「前記弁ボディの下端部に配置され、上端縁に弁口が形成された弁座」と記載されているのを、「前記弁ボディの下端部に配置され、上端縁に弁口が形成され、上端部外周縁が、前記第2段差部に当接することにより、前記弁ボディに対し上下方向に位置決めされるとともに、前記弁ボディに対し同軸状に位置決めされ、前記弁ボディに取り付ける前に前記弁ボディとは別体の部品として成形されて、前記弁ボディに取り付ける前に前記弁ボディとは分離型構造とされ、ロウ付けにより、前記溶接部に固定された弁座」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2も同様に訂正する。)。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1に「前記接続部内に形成され、中心軸が前記弁ボディの中心軸に対して鋭角をなす接続用通路」と記載されているのを、「前記接続部内に形成され、中心軸S2が前記弁ボディの中心軸S1に対して鋭角をなし、中心軸S1と中心軸S2が交差する位置は、前記中空部のうち上下方向において前記雌ネジ部と対応する高さであって、前記弁座よりも上方の位置であり、中心軸S2は、中心軸S1との前記交差する位置から斜め上方へ延びており、前記接続部の先端側から前記弁ボディ内の前記溶接部に向かって切削加工することによって形成された接続用通路であって、前記弁ボディと前記弁座の前記分離型構造と、前記弁座を前記弁ボディに取り付ける前に前記切削加工を行うこととによって、前記切削加工時における加工用刃物による前記弁座の傷つきの心配が無く、且つ前記弁通路における前記接続用通路の連通位置と前記弁座の設置位置とを上下に遠ざける必要をなくして、前記弁ボディの高さを抑える前記接続用通路」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2も同様に訂正する。)。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項3に「冷媒を流通させる弁通路を有する円筒形の弁ボディ」と記載されているのを、「冷媒を流通させる弁通路たる中空部を有し、前記中空部の内周のうち上下方向の略中央領域には雌ネジ部が形成され、前記中空部の下端は溶接部となっており、前記雌ネジ部の下端と前記溶接部の上端との境界に第2段差部が形成された円筒形の弁ボディ」に訂正する(請求項3の記載を直接的又は間接的に引用する請求項4及び5も同様に訂正する。)。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項3に「前記弁ボディの下端部に配置され、上端縁に弁口が形成された弁座」と記載されているのを、「前記弁ボディの下端部に配置され、上端縁に弁口が形成され、上端部外周縁が、前記第2段差部に当接することにより、前記弁ボディに対し上下方向に位置決めされるとともに、前記弁ボディに対し同軸状に位置決めされ、前記弁ボディに取り付ける前に前記弁ボディとは別体の部品として成形されて、前記弁ボディに取り付ける前に前記弁ボディとは分離型構造とされ、ロウ付けにより、前記溶接部に固定された弁座」に訂正する(請求項3の記載を直接的又は間接的に引用する請求項4及び5も同様に訂正する。)。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項3に「前記接続部内に形成され、中心軸が前記弁ボディの中心軸に対して鋭角をなす接続用通路」と記載されているのを、「前記接続部内に形成され、中心軸S2が前記弁ボディの中心軸S1に対して鋭角をなし、中心軸S1と中心軸S2が交差する位置は、前記中空部のうち上下方向において前記雌ネジ部と対応する高さであって、前記弁座よりも上方の位置であり、中心軸S2は、中心軸S1との前記交差する位置から斜め上方へ延びており、前記接続部の先端側から前記弁ボディ内の前記溶接部に向かって切削加工することによって形成された接続用通路であって、前記弁ボディと前記弁座の前記分離型構造と、前記弁座を前記弁ボディに取り付ける前に前記切削加工を行うこととによって、前記切削加工時における加工用刃物による前記弁座の傷つきの心配が無く、且つ前記弁通路における前記接続用通路の連通位置と前記弁座の設置位置とを上下に遠ざける必要をなくして、前記弁ボディの高さを抑える前記接続用通路」に訂正する(請求項3の記載を直接的又は間接的に引用する請求項4及び5も同様に訂正する。)。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
(1)訂正事項1について
訂正事項1による訂正は、訂正前の請求項1に係る発明の円筒形の弁ボディが「冷媒を流通させる弁通路を有する」とされていたものを「冷媒を流通させる弁通路たる中空部を有し、前記中空部の内周のうち上下方向の略中央領域には雌ネジ部が形成され、前記中空部の下端は溶接部となっており、前記雌ネジ部の下端と前記溶接部の上端との境界に第2段差部が形成された」ものと訂正するものであって、特許法第134条の2第1項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、本件訂正前の明細書の発明の詳細な説明の【0026】には、「中空部111(弁通路113)」(下線は、当審で付与した。以下同様。)とあるように弁通路が中空部であることが記載され、同じく発明の詳細な説明の【0021】には、「中空部111の内周のうち上下方向の略中央領域には、シール面114よりも直径の大きい雌ネジ部115が形成されている。中空部111の下端の開口部(雌ネジ部115より下方の領域)は、雌ネジ部115よりも直径の大きい溶接部116となっている」と記載されており、さらに、同じく発明の詳細な説明の【0028】には、「中空部111のうち雌ネジ部115の下端と溶接部116の上端との境界には、第2段差部117が形成されている」と記載されており、訂正事項1による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第134条の2第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
さらに、上記のように訂正事項1による訂正は、特許請求の範囲を減縮するものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第134条の2第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

(2)訂正事項2について
訂正事項2による訂正は、訂正前の請求項1に係る発明の弁座が「前記弁ボディの下端部に配置され、上端縁に弁口が形成された」ものであったのを「前記弁ボディの下端部に配置され、上端縁に弁口が形成され、上端部外周縁が、前記第2段差部に当接することにより、前記弁ボディに対し上下方向に位置決めされるとともに、前記弁ボディに対し同軸状に位置決めされ、前記弁ボディに取り付ける前に前記弁ボディとは別体の部品として成形されて、前記弁ボディに取り付ける前に前記弁ボディとは分離型構造とされ、ロウ付けにより、前記溶接部に固定された弁座」と訂正するものであって、特許法第134条の2第1項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、本件訂正前の明細書の発明の詳細な説明の【0028】には、「弁座14の上端部外周縁が、第2段差部117に当接することにより、弁座14は、弁ボディ11に対し上下方向に位置決めされるとともに、弁ボディ11に対し同軸状に位置決めされる」と記載され、同じく発明の詳細な説明の【0028】には、この記載に続いて、「そして、弁座14は、ロウ付け(溶接)により、弁ボディ11(溶接部116)に固定されている」と記載されると共に、同じく発明の詳細な説明の【0033】には、「弁座14と弁ボディ11は分離型構造なので、弁座14を弁ボディ11に取り付ける前に、接続用通路122の切削加工を行えば、加工用刃物が弁座14を傷つける心配が無い」と記載され、これより、弁座14は、弁ボディとは別体の部品として成形されており、弁ボディに取り付ける前に弁ボディとは分離型構造とされていることがわかる。これらのことから、訂正事項2による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第134条の2第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
さらに、上記のように訂正事項2による訂正は、特許請求の範囲を減縮するものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第134条の2第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

(3)訂正事項3について
訂正事項3による訂正は、訂正前の請求項1に係る発明の接続用通路が「前記接続部内に形成され、中心軸が前記弁ボディの中心軸に対して鋭角をなす」とされていたものを「前記接続部内に形成され、中心軸S2が前記弁ボディの中心軸S1に対して鋭角をなし、中心軸S1と中心軸S2が交差する位置は、前記中空部のうち上下方向において前記雌ネジ部と対応する高さであって、前記弁座よりも上方の位置であり、中心軸S2は、中心軸S1との前記交差する位置から斜め上方へ延びており、前記接続部の先端側から前記弁ボディ内の前記溶接部に向かって切削加工することによって形成された接続用通路であって、前記弁ボディと前記弁座の前記分離型構造と、前記弁座を前記弁ボディに取り付ける前に前記切削加工を行うこととによって、前記切削加工時における加工用刃物による前記弁座の傷つきの心配が無く、且つ前記弁通路における前記接続用通路の連通位置と前記弁座の設置位置とを上下に遠ざける必要をなくして、前記弁ボディの高さを抑える」と訂正するものであって、特許法第134条の2第1項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、本件訂正前の明細書の発明の詳細な説明の【0025】には、「接続用通路122(接続部12)の中心軸S2は、弁ボディ11の中心軸S1に対して鋭角をなして交差している」と記載され、同じく発明の詳細な説明の【0026】には、「中心軸S1と中心軸S2が交差する位置は、中空部111(弁通路113)のうち上下方向において雌ネジ部115と対応する高さ(弁座14よりも上方の位置)である。中心軸S2は、中心軸S1との交差位置から斜め上方へ延びている」と記載されると共に、同じく発明の詳細な説明の【0026】「接続用通路122は、接続部12の先端側から弁ボディ11内の溶接部116(弁座14)に向かって切削加工することによって形成されている」と記載されると共に、発明の詳細な説明の【0033】には、「弁座14を弁ボディ11に取り付ける前に、接続用通路122の切削加工を行えば、加工用刃物が弁座14を傷つける心配が無い。これにより、弁通路113における接続用通路122との連通位置と、弁座14の設置位置とを上下に遠ざける必要がなくなるので、弁ボディ11の高さを抑え、バルブ装置Aが嵩高になるのを防止できる」と記載されており、訂正事項3による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第134条の2第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
さらに、上記のように訂正事項3による訂正は、特許請求の範囲を減縮するものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第134条の2第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

(4)訂正事項4ないし6について
訂正事項4ないし6による訂正は、訂正前の請求項3に係る発明の円筒形の弁ボディ、弁座、及び接続用通路について、訂正事項1ないし3と同様に訂正するものであって、特許法第134条の2第1項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、訂正事項4ないし6により訂正される請求項3に係る発明は、訂正事項1ないし3により訂正される請求項1に係る発明をさらに「前記弁ボディに一体に形成されたサービスポートと、前記サービスポート内に形成され、中心軸が前記弁ボディの前記中心軸に対して交差する向きの充填用通路とを備え」(改行は省略した。)る点で限定し、請求項1に係る発明が「前記弁体が前記弁口から離間して開弁状態になると、前記接続用通路が前記弁通路と連通するようになって」いるのに対し、請求項3に係る発明は、「前記弁体が前記弁口から離間して開弁状態になると、前記接続用通路と前記充填用通路と前記弁通路とが連通するようになって」いる点で異なる発明であるが、願書に添付した明細書の発明の詳細な説明の【0038】には、このようなサービスポートを備えるものについても、「本実施例2のバルブ装置Bは、サービスポート17を負荷した(当審注:「付加した」の誤記と認める。)点が上記実施例1のバルブ装置Aと異なる」が、「その他の構成(弁ボディ11、接続部12、弁体13、弁座14、連絡管15)については上記実施例1と同じである」と記載されており、訂正事項4ないし6による訂正は、訂正事項1ないし3による訂正と同様に、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第134条の2第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
さらに、上記のように訂正事項4ないし6による訂正は、特許請求の範囲を減縮するものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第134条の2第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

3 一群の請求項について
本件訂正前の請求項2は、本件訂正により記載が訂正された請求項1を引用するものであり、本件訂正前の請求項4及び5は、本件訂正により記載が訂正された請求項3を引用するものであるから、請求項1及び2と請求項3ないし5は、それぞれ、一群の請求項である。そして、本件訂正は、請求項1及び2と3ないし5を訂正するものであるから、一群の請求項ごとに訂正を請求するものであり、特許法第134条の2第3項の規定に適合する。

4 訂正請求に対する請求人の主張について
請求人は、本件訂正に対し、概ね次の(1)ないし(4)のように主張する(令和3年2月15日付け口頭審理陳述要領書3ページ12行ないし10ページ末行)。

(1)本件明細書等の記載によれば「弁通路」と「中空部」とは、異なるものであるから、「弁通路たる中空部」とする訂正(訂正事項1及び4)は、特許請求の範囲の減縮にあたるとはいえない。
(2)訂正事項2及び5により特定される「上端部外周縁が、前記第2段差部に当接することにより、前記弁ボディに対し上下方向に位置決めされるとともに、前記弁ボディに対し同軸状に位置決めされ、」とは、弁座の上端部外周緑は、第1の機能として「上下方向に位置決め」し、かつ、第2の機能として「同軸状に位置決め」するという2つの機能を「第2段差部に当接すること」によって発揮すると解し得るが、本件図面の図3及び図6によれば、弁座14の上端部外周縁は、「上下方向に位置決め」する機能しか発揮せず、「同軸状に位置決め」する機能は発揮しないと解されるから、訂正事項2及び5による訂正は、特許請求の範囲の減縮にあたるとはいえず、また、新規事項の追加に該当し、実質上特許請求の範囲の拡張又は変更するものである。
(3)訂正事項3及び6により特定される「前記接続部の先端側から前記弁ボディ内の前記溶接部に向かって切削加工することによって形成された接続用通路」、「前記弁ボディと前記弁座の前記分離型構造と、前記弁座を前記弁ポディに取り付ける前に前記切削加工を行うこととによって、前記切削加工時における加工用刃物による前記弁座の傷つきの心配が無く、且つ前記弁通路における前記接続用通路の連通位握と前記弁座の接地位置とを上下に遠ざかる必要をなくして、前記弁ボディの高さを抑える前記接続用通路」は、製造に関して、技術的な特徴や条件が付された記載であって、物の発明についての訂正後の請求項1ないし5に係る発明の少なくとも一部に「その物の製造方法が記載されている場合」に該当するといえるので、いわゆるプロダクト・バイ・プロセスクレームに相当するといえ、技術的範囲が不明確となり、訂正事項3及び6による訂正は、特許請求の範囲の減縮にあたるといえず、また、実質上特許請求の範囲の拡張又は変更しないものともいえない。
(4)訂正事項3及び6により特定される「前記切削加工時における加工用刃物による前記弁座の傷つきの心配が無く、且つ前記弁通路における前記接続用通路の連通位置と前記弁座の接地位置とを上下に遠ざかる必要をなくして、前記弁ポディの高さを抑える前記接続用通路」は、「前記接続用通路の連通位置」と「前記弁座の接地位置」との両者が客観的にどのような位置関係にあるものを指すのか、弁ボディがどの程度の高さのものを指すのか等が不明であり、訂正事項3及び6による訂正は、特許請求の範囲の減縮にあたるといえず、また、実質上特許請求の範囲の拡張又は変更しないものともいえない。

そこで、これら請求人の主張について検討する。
(1)について
願書に添付した明細書の発明の詳細な説明の【0026】には、「中空部111(弁通路113)」と記載されており、中空部111が弁通路113であることが示されており、このことは、願書に添付した図面の【図3】(下図)をみても、弁通路113と中空部111が同じ空間を指し示していることから、明らかであり、本件訂正後の「弁通路たる中空部」とは、弁通路が中空部であることを特定する記載であり、訂正事項1及び4による訂正は、この点で特許請求の範囲を減縮するものであるから、請求人の主張は採用することができない。


(2)について
前記2(2)に示すように、本件の願書に添付した明細書の発明の詳細な説明の【0028】には、「弁座14の上端部外周縁が、第2段差部117に当接することにより、弁座14は、弁ボディ11に対し上下方向に位置決めされるとともに、弁ボディ11に対し同軸状に位置決めされる」と記載されていることから、発明の詳細な説明には、弁座14の上端部外周縁が第2段差部117に当接することにより、弁座14は、弁ボディ11に対し上下方向に位置決めされるだけでなく、弁ボディ11に対し同軸状に位置決めされることも記載されている。したがって、請求人の主張は採用することができない。請求人の主張は、本件図面の図3及び図6には、弁座14の中央部に設けられた拡大部が弁ボディ11と当接することにより、弁座14が弁ボディ11に対し同軸状に位置決めされているから、弁座14の上端部外周縁が第2段差部117に当接することにより、弁座14が弁ボディ11に対し同軸状に位置決めするものではないと解される。しかし、仮に請求人の主張の通り、弁座14の中央部に設けられた拡大部が弁ボディ11と当接することにより、弁座14が弁ボディ11に対し同軸状に位置決めしているとしても、弁座14の弁ボディ11に対する同軸状の位置決めが、拡大部と弁ボディ11との当接によってのみされるものとは解されず、上記発明の詳細な説明の【0028】の記載からすれば、弁座14の上端部外周縁が第2段差部117に当接することによっても、弁座14は、弁ボディ11に対し同軸状に位置決めされると理解できるから、請求人の主張は採用することができない。なお、本件特許公報の図3及び図6の記載をみると、弁座14の上端部外周縁は、弁ボディ11の傾斜した部分に当接していることが看取でき、本件特許公報の図3及び図6の記載からも、弁座14の上端部外周縁が第2段差部117に当接することによって、弁座14は、弁ボディ11に対し同軸状に位置決めされると理解される。

(3)及び(4)について
請求人の主張は、請求項1及び請求項3に係る発明において、訂正事項3及び6による訂正により特定される事項が明確でないから、訂正事項3及び6による訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものでなく、また、実質上特許請求の範囲の拡張又は変更しないものともいえないというものである。しかし、本件訂正により訂正された後の特許請求の範囲の請求項1及び3の記載が明確であることは、後記第6・1に示すとおりであるから、請求人の主張は採用することができない。

5 本件訂正についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第3項、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲を令和2年12月23日提出の訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項[1−2]、[3−5]について、訂正することを認める。

第3 本件訂正発明
上記のとおり、本件訂正を認めるので、本件特許の請求項1ないし5に係る発明(以下、それぞれ「本件訂正発明1」ないし「本件訂正発明5」といい、これらを総称して「本件訂正発明」という。)は、令和2年12月23日提出の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項によって特定される以下のとおりのものと認める。

本件訂正発明1
「冷媒を流通させる弁通路たる中空部を有し、前記中空部の内周のうち上下方向の略中央領域には雌ネジ部が形成され、前記中空部の下端は溶接部となっており、前記雌ネジ部の下端と前記溶接部の上端との境界に第2段差部が形成された円筒形の弁ボディと、
前記弁ボディの外側面に配置された取付部と、
前記弁ボディの下端部に配置され、上端縁に弁口が形成され、上端部外周縁が、前記第2段差部に当接することにより、前記弁ボディに対し上下方向に位置決めされるとともに、前記弁ボディに対し同軸状に位置決めされ、前記弁ボディに取り付ける前に前記弁ボディとは別体の部品として成形されて、前記弁ボディに取り付ける前に前記弁ボディとは分離型構造とされ、ロウ付けにより、前記溶接部に固定された弁座と、
前記弁ボディの内部に収容され、前記弁口に接触して前記弁通路を閉塞する閉弁位置と、前記弁口から離間して前記弁通路を開放する開弁位置との間で往復移動可能な弁体と、
前記弁ボディに一体に形成された接続部と、
前記接続部内に形成され、中心軸S2が前記弁ボディの中心軸S1に対して鋭角をなし、中心軸S1と中心軸S2が交差する位置は、前記中空部のうち上下方向において前記雌ネジ部と対応する高さであって、前記弁座よりも上方の位置であり、中心軸S2は、中心軸S1との前記交差する位置から斜め上方へ延びており、前記接続部の先端側から前記弁ボディ内の前記溶接部に向かって切削加工することによって形成された接続用通路であって、前記弁ボディと前記弁座の前記分離型構造と、前記弁座を前記弁ボディに取り付ける前に前記切削加工を行うこととによって、前記切削加工時における加工用刃物による前記弁座の傷つきの心配が無く、且つ前記弁通路における前記接続用通路の連通位置と前記弁座の設置位置とを上下に遠ざける必要をなくして、前記弁ボディの高さを抑える前記接続用通路とを備え、
前記弁体が前記弁口から離間して開弁状態になると、前記接続用通路が前記弁通路と連通するようになっており、
前記弁体の外周と前記弁ボディの内周との間には、ソフトシールを構成するOリングが設けられ、
前記弁ボディの上端の開口部には、ハードシールを構成する縮径部が形成され、
前記弁体の上端部外周には、前記縮径部と当接可能であって前記ハードシールを構成するテーパ状のシール部が形成されていることを特徴とするバルブ装置。」

本件訂正発明2
「前記取付部が、前記弁ボディの外周面から対称に突出し、
その突出方向は、前記接続部の突出方向に対して90度をなしていることを特徴とする請求項1記載のバルブ装置。」

本件訂正発明3
「冷媒を流通させる弁通路たる中空部を有し、前記中空部の内周のうち上下方向の略中央領域には雌ネジ部が形成され、前記中空部の下端は溶接部となっており、前記雌ネジ部の下端と前記溶接部の上端との境界に第2段差部が形成された円筒形の弁ボディと、
前記弁ボディの外側面に配置された取付部と、
前記弁ボディの下端部に配置され、上端縁に弁口が形成され、上端部外周縁が、前記第2段差部に当接することにより、前記弁ボディに対し上下方向に位置決めされるとともに、前記弁ボディに対し同軸状に位置決めされ、前記弁ボディに取り付ける前に前記弁ボディとは別体の部品として成形されて、前記弁ボディに取り付ける前に前記弁ボディとは分離型構造とされ、ロウ付けにより、前記溶接部に固定された弁座と、
前記弁ボディの内部に収容され、前記弁口に接触して前記弁通路を閉塞する閉弁位置と、前記弁口から離間して前記弁通路を開放する開弁位置との間で往復移動可能な弁体と、
前記弁ボディに一体に形成された接続部と、
前記接続部内に形成され、中心軸S2が前記弁ボディの中心軸S1に対して鋭角をなし、中心軸S1と中心軸S2が交差する位置は、前記中空部のうち上下方向において前記雌ネジ部と対応する高さであって、前記弁座よりも上方の位置であり、中心軸S2は、中心軸S1との前記交差する位置から斜め上方へ延びており、前記接続部の先端側から前記弁ボディ内の前記溶接部に向かって切削加工することによって形成された接続用通路であって、前記弁ボディと前記弁座の前記分離型構造と、前記弁座を前記弁ボディに取り付ける前に前記切削加工を行うこととによって、前記切削加工時における加工用刃物による前記弁座の傷つきの心配が無く、且つ前記弁通路における前記接続用通路の連通位置と前記弁座の設置位置とを上下に遠ざける必要をなくして、前記弁ボディの高さを抑える前記接続用通路と、
前記弁ボディに一体に形成されたサービスポートと、
前記サービスポート内に形成され、中心軸が前記弁ボディの前記中心軸に対して交差する向きの充填用通路とを備え、
前記弁体が前記弁口から離間して開弁状態になると、前記接続用通路と前記充填用通路と前記弁通路とが連通するようになっており、
前記弁体の外周と前記弁ボディの内周との間には、ソフトシールを構成するOリングが設けられ、
前記弁ボディの上端の開口部には、ハードシールを構成する縮径部が形成され、
前記弁体の上端部外周には、前記縮径部と当接可能であって前記ハードシールを構成するテーパ状のシール部が形成されていることを特徴とするバルブ装置。」

本件訂正発明4
「前記接続部と前記サービスポートが、前記弁ボディに関してほぼ対称に配されていることを特徴とする請求項3記載のバルブ装置。」

本件訂正発明5
「前記接続部と前記サービスポートが前記弁ボディから突出する方向は、前記取付部が前記弁ボディから突出する方向に対して90度をなしていることを特徴とする請求項4記載のバルブ装置。」

第4 当事者の主張
1 請求人の主張及び証拠方法
請求人は、本件特許の請求項1ないし5についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、概略以下の無効理由1ないし6を主張し、証拠方法として甲第1号証ないし甲第12号証を提出している(以下、「甲第1号証」については、「甲1」と省略し、他の甲号証についても、同様に省略する。)。

(1)無効理由1
本件訂正発明1ないし5は、甲1に記載された発明に甲2に記載された事項又は周知技術を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
甲1に記載された発明のバルブ装置の接続管7の上端部外周縁は、段差と当接しており、仮に、段差と当接していないとしても、接続管7の位置決めをするために当接させる部分として、弁座の外周側のうち、上端部外周縁を選択することは、設計事項に過ぎない。また、甲9ないし甲12に記載されるように上端部外周緑が段差部に当接することにより弁ボディに対し、位置決めされる分離型の弁座は、周知であり、甲1に記載された発明のバルブ装置に適用することは、当業者が容易になしえたことである。
さらに、本件訂正発明1において、接続用通路が、「前記接続部の先端側から前記弁ボディ内の前記溶接部に向かって切削加工することによって形成され」、「前記弁ボディと前記弁座の前記分離型構造と、前記弁座を前記弁ボディに取り付ける前に前記切削加工を行うこととによって、前記切削加工時における加工用刃物による前記弁座の傷つきの心配が無く、且つ前記弁通路における前記接続用通路の連通位置と前記弁座の設置位置とを上下に遠ざける必要をなくして、前記弁ボディの高さを抑える」とされていることは、プロダクト・バイ・プロセスクレームに相当し、当該プロセスによって得られる構造特性等により発明の要旨が認定されるべきであって、当該プロセスによって得られる構造、特性等は、甲1に記載された発明と実質的に同一である。また、切削加工は周知慣用技術であるから、甲1に記載された発明の通路3は「前記接続部の先端側から前記弁ボディ内の前記溶接部に向かって切削加工することによって形成され」るものと解される。このため、甲1には、「前記接続部の先端側から前記弁ボディ内の前記溶接部に向かって切削加工することによって形成され」という方法的記載部分が実質的に開示されている。さらに、甲1には、弁筐2の基部22に、弁座8として用いる「接続管7を挿入してロウ付け70」した構成が記載されており(【0013】)、これは、本件訂正発明1の上記構成と同一であると解される。

(2)無効理由2
本件訂正発明1ないし5は、甲2に記載された発明に甲1に記載された発明を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
甲2に記載された発明においても弁座102は分離型構造であり、かつ、「チューブ差し込み孔97を開け」た後に、弁座102を弁座固定ねじ部94に取り付けるから、「前記切削加工時における加工用刃物による前記弁座(14)の傷つきの心配が無く、且つ前記弁通路(113)における前記接続用涌路(122)の連通位置と前記弁座(14)の設置位置とを上下に遠ざける必要をなくして、前記弁ボディ(11)の高さを抑える」ことが可能となる。このため、本件訂正発明1の「前記弁ポディ(11)と前記弁座(14)の前記分離型構造と、前記弁座(14)を前記弁ボディ(11)に取り付ける前に前記切削加工を行うこととによって、前記切削加工時における加工用刃物による前記弁座(14)の傷つきの心配が無く、且つ前記弁通路(113)における前記接続用通路(122)の連通位置と前記弁座(14)の設置位置とを上下に遠ざける必要をなくして、前記弁ボディ(11)の高さを抑える」という構成については、甲2に記載された発明と相違ない。

(3)無効理由3
本件訂正発明1ないし5は、甲3に記載された発明、周知技術及び甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
まず、甲3には、弁座部材4の「上端部外周縁が前記段差部に当接することにより、前記下方配管接続部33に対し上下方向に位置決めされる」ことが開示されている。また、甲9ないし甲12に記載されるように上端部外周緑が段差部に当接することにより弁ボディに対し、位置決めされる分離型の弁座は、周知であり、甲3に記載された発明のバルブ装置に適用することは、当業者が容易になしえたことである。
また、本件訂正発明1の「前記接続部の先端側から前記弁ボディ内の前記溶接部に向かって切削加工することによって形成された接続用通路であって、前記弁ボディと前記弁座の前記分離型構造と、前記弁座を前記弁ボディに取り付ける前に前記切削加工を行うこと」は、プロダクト・バイ・プロセスクレームに相当するから、仮に本件訂正が認められるとしても、訂正発明は当該プロセスではなく、当該プロセスによって得られる構造特性等により発明の要旨が認定されるべきである。そして、当該プロセスによって得られる構造、特性等は、甲3に記載された発明と実質的に同一である。

(4)無効理由4
本件訂正発明1ないし5は明確であるとはいえず、本件訂正発明1ないし5についての特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に付与されたものであるから、本件訂正発明1ないし5についての特許は、特許法第123条第1項第4号の規定に該当し、無効とすべきである。
本件訂正発明1には、「前記弁ボディに一体に形成された接続部と、」と記載され、本件訂正発明3には、「前記弁ボディに一体に形成された接続部と、」「前記弁ボディに一体に形成されたサービスポートと、」と記載されている。
ここで、本件特許の明細書には、「一体に」形成という意義について、溶接することなく一体化される旨と、溶接によって弁ボディに一体化されてもよい旨という、真っ向から相反する記載(【0015】、【0041】)が存在しており、特許請求の範囲の記載及び明細書等に接した当業者にとって、本件訂正発明1及び3が、溶接によって一体化された構成を包含するのか否かが明確に把握することができない。

(5)無効理由5
本件訂正発明1ないし5についての特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に付与されたものであるから、本件訂正発明1ないし5についての特許は、特許法第123条第1項第4号の規定に該当し、無効とすべきである。
本件訂正発明1及び3は、「弁通路たる中空部」という事項を含む。しかし、本件明細書等の記載によれば「弁通路」と「中空部」とは異なるものである。よって、本件訂正後の請求項1及び3に記載されている当該事項が本件の発明の詳細な説明中に記載も示唆もされていないので、特許請求の範囲の記載は、サポート要件を満たさない。
本件訂正発明1及び3は、「上端部外周縁が、前記第2段差部に当接することにより、前記弁ボディに対し上下方向に位置決めされるとともに、前記弁ボディに対し同軸状に位置決めされ、」という事項を含む。しかし、本件の発明の詳細な説明には、具体例として、図3及び図6によれば、径大部を溶接部116の内壁面に当接させながら弁座14を下方から上方に移動させている時点で、弁ボディ11の中心軸と弁座14の中心軸が同軸となるように位置合わせされているから、弁座14の上端部外周縁は、「上下方向に位置決め」する機能しか発揮せず、「同軸状に位置決め」する機能は発揮しないと解される。他方、本件訂正発明1及び3には径大部に関する内容が反映されていないため、特許請求の範囲の記載はサポート要件を満たさない。

(6)無効理由6
本件訂正発明1ないし5は明確であるとはいえず、本件訂正発明1ないし5についての特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に付与されたものであるから、訂正発明1ないし3についての特許は、特許法第123条第1項第4号の規定に該当し、無効とすべきである。
本件訂正発明1及び3は、「前記接続部の先端側から前記弁ボディ内の前記溶接部に向かって切削加工することによって形成された接続用通路」、及び「前記弁ボディと前記弁座の前記分離型構造と、前記弁座を前記弁ボディに取り付ける前に前記切削加工を行うこととによって、前記切削加工時における加工用刃物による前記弁座の傷つきの心配が無く、且つ前記弁通路における前記接続用通路の連通位置と前記弁座の設置位置とを上下に遠ざかる必要をなくして、前記弁ボディの高さを抑える前記接続用通路」という事項を含む。
これらの事項は、物の発明についての本件訂正発明1ないし5の少なくとも一部に「その物の製造方法が記載されている場合」に該当し、「接続用通路」のどのような構造、特性等を表しているのかが不明である。また、「前記切削加工時における加工用刃物による前記弁座の傷つきの心配が無く、且つ前記弁通路における前記接統用通路の連通位置と前記弁座の設置位置とを上下に遠ざかる必要をなくして、前記弁ボディの高さを抑える」という特性を用いて「接続用通路」を特定しようとするが、本件明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識を考慮してもかかる特性の意味内容を理解できない。

(7)証拠方法
提出された証拠は、以下のとおりである。

甲1 :特開平10−274342号公報
甲2 :特開平11−325517号公報
甲3 :特開2012−17803号公報
甲4 :意匠登録第1469765号公報
甲5 :意匠登録第1469173号公報
甲6 :特開2002−228194号公報
甲7 :特開平10−110860号公報
甲8 :(社)実践教育訓練研究協会(編)「コンパクト版機械用語大辞典」94、95頁
甲9 :中国実用新案第203115135号明細書
甲10:中国実用新案第2179937号明細書
甲11:中国特許出願公開第1393669号明細書
甲12:特開2002−106730号公報

2 被請求人の主張及び証拠方法
被請求人は、本件審判の請求は、成り立たない、審判費用は、請求人の負担とする、との審決を求めている。また、証拠方法として乙第1号証及び乙第2号証を提出している(以下、「乙第1号証」については、「乙1」と省略し、乙第2号証についても、同様に省略する。)。

(1)無効理由1ないし3
本件訂正発明1及び3において特定される接続用通路は、「中心軸S2が前記弁ボディの中心軸S1に対して鋭角をなし、中心軸S1と中心軸S2が交差する位置は、前記中空部のうち上下方向において前記雌ネジ部と対応する高さであって、前記弁座よりも上方の位置であり、中心軸S2は、中心軸S1との前記交差する位置から斜め上方へ延びており、前記接続部の先端側から前記弁ボディ内の前記溶接部に向かって切削加工することによって形成された接続用通路であって、前記弁ボディと前記弁座の前記分離型構造と、前記弁座を前記弁ボディに取り付ける前に前記切削加工を行うこととによって、前記切削加工時における加工用刃物による前記弁座の傷つきの心配が無く、且つ前記弁通路における前記接続用通路の連通位置と前記弁座の設置位置とを上下に遠ざける必要をなくして、前記弁ボディの高さを抑える」点(以下、「発明特定事項C」という。)は、甲1ないし12のいずれにも開示も示唆もされていない。
また、弁座は、「上端部外周縁が、前記第2段差部に当接することにより、前記弁ボディに対し上下方向に位置決めされるとともに、前記弁ボディに対し同軸状に位置決めされ、前記弁ボディに取り付ける前に前記弁ボディとは別体の部品として成形されて、前記弁ボディに取り付ける前に前記弁ボディとは分離型構造とされ、ロウ付けにより、前記溶接部に固定された」点(以下、「発明特定事項B」という)と前記発明特定事項Cとを共に備えたバルブ装置は、甲1ないし12のいずれにも開示も示唆もされていない。
さらに、甲1ないし12には、本件訂正発明1ないし5に到達するための課題は何ら示唆されておらず、本件訂正発明1ないし5に到達しようとする動機付けも全く示唆されていない。
よって、本件訂正発明1ないし5は、甲1ないし3に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明することができたものではない。

(2)無効理由4
本件訂正発明3の「一体」という文言は、「一つのからだ。同一体。」(乙1)を意味しており、明確な文言である。
そして、本件特許明細書の段落【0015】に「第2の発明のバルブ装置は、前記弁ボディと前記接続部と前記取付部と前記サービスポートが、鍛造又は鋳造によって一体に成形されていてもよい。この構成によれば、溶接することなく弁ボディと接続部と取付部とサービスポートを一体化できるので、溶接に起因するバルブ装置の大型化を回避できる。」と記載され、この記載は、「鍛造又は鋳造によって一体に成形されていてもよい。」という記載は、一体にする方法は、種々あるが、これらの中でも「鍛造又は鋳造」を用いても差しつかえないことを意図した記載であることは、本件特許明細書等に接した当業者であれば、出願時の技術常識に照らして、当然に理解する。
また、本件特許明細書の段落【0041】の「(2)上記実施例2では、サービスポートを弁ボディと一体に成形したが、サービスポートを溶接によって弁ボディに一体化させてもよい。」という記載は、一体にする方法について、実施例2では、「一体に成形」(段落【0038】の記載参照)として説明したので、この記載を根拠として、本件特許明細書における一体化方法が「一体成形」に限定して解釈するおそれがあるため、念のため一体化方法に「溶接」が含まれることを明確にした記載であることは、本件特許明細書等の記載に接した当業者であれば、出願時の技術常識に照らして、当然に理解する。
これらの本件特許明細書の記載から、一体化は、鍛造や鋳造のみならず、溶接も含まれることが明らかである。

(3)無効理由5
請求人は、本件訂正発明1及び3の「弁通路たる中空部」は、本件特許明細書の発明の詳細な説明中に記載も示唆もされていないので、特許請求の範囲の記載がサポート要件を満たさないと主張している。
しかし、本件特許明細書の段落【0024】には、「中空部111のうち弁体13よりも下方の領域(雌ネジ部115の形成領域における下端側領域と溶接部116)が、冷媒を流通させるための弁通路113となる。」と記載され、「中空部」は「弁通路」として機能することが記載されている。よって、「弁通路たる中空部」は、本件特許明細書の発明の詳細な説明中に記載された事項であり、特許請求の範囲の記載は、サポート要件を満たしている。
また、請求人は、本件訂正発明1及び3の「上端部外周縁が、前記第2段差部に当接することにより、前記弁ボディに対し上下方向に位置決めされるとともに、前記弁ボディに対し同軸状に位置決めされ」は、本件特許明細書の発明の詳細な説明中に記載も示唆もされていないので、特許請求の範囲の記載がサポート要件を満たさないと主張している。
しかし、本件特許明細書の段落【0028】には、「弁座14の上端部外周縁が、第2段差部117に当接することにより、弁座14は、弁ボディ11に対し上下方向に位匿決めされるとともに、弁ポディ11に対し同軸状に位罹決めされる。」と記載されている。よって、「上端部外周縁が、前記第2段差部に当接することにより、前記弁ポディに対し上下方向に位個決めされるとともに、前記弁ボディに対し同軸状に位憐決めされ、」は、本件の発明の詳細な説明中に記載された事項であり、特許睛求の範囲の記載は、サポート要件を満たしている。

(4)無効理由6
以下の表に示すバルブ装置は、加工用刃物による切削加工が完了した直後の状態をあらわしたものである。


〈1〉(「〈1〉」は、丸数字の1を表す。以下、他の数字についても同様。)のバルブ装置では、切削加工完了時の加工用刃物が弁座設置位置Aから上方へ大きく離隔するように接続用通路の連通位置Pの高さを設定しているので、弁座の傷つきの心配がないが、加工用刃物が弁座から必要以上に離隔しているため、「接続用通路の連通位置Pと弁座の設置位置Aとを上下に遠ざける必要をなくして、弁ボディの高さを抑える」構成にはなっていない。
〈2〉のバルブ装置では、切削加工完了時の加工用刃物が弁座に対して近接はするが接触しないように、接続用通路の連通位置Pを設定しているので、弁座の傷つきの心配が無いが、弁座の傷つきの心配をなくすために、接続用通路の連通位置Pと弁座の設置位置Aとの高低差を一定程度確保する必要があるので、「接続用通路の連通位置Pと弁座の設置位置Aとを上下に遠ざける必要をなくして、弁ボディの高さを抑える」構成にはなっていない。
〈3〉のバルブ装置は、接続用通路の連通位置Pを〈1〉及び〈2〉のバルブ装置よりも低くして、より低背化を図ったものであるが、切削加工完了時の加工用刃物が弁座に接触するから、弁座が傷つく。
〈1〉〜〈2〉のバルブ装置において、〈3〉のバルブ装置は、最も弁ボディの高さを抑えることができるものの、弁座が傷つくので、弁座の傷つきの回避を勘案すると、〈2〉のバルブ装置が低背化の限界であることが分かる。
〈4〉のバルブ装置では、接続用通路の連通位置Pが〈3〉のバルブ装置と同じ高さであり、弁ボディの高さが抑えられている。〈3〉のバルブ装置と異なるのは、弁座の傷つきを回避するために、弁座を弁ボディに取り付ける前に切削加工を行う点である。〈4〉のバルブ装置は、切削加工時に弁座が弁ボディに取り付けられていないので、加工用刃物による弁座の傷つきの心配が無い。弁座の傷つきの心配がないということは、接続用通路の連通位置Pと弁座の設置位置Aとを上下に遠ざける必要がない、ということを意味する。したがって、〈4〉のバルブ装置では、接続用通路が「前記弁ボディと前記弁座の前記分離型構造と、前記弁座を前記弁ボディに取り付ける前に前記切削加工を行うこととによって、前記切削加工時における加工用刃物による前記弁座の傷つきの心配が無く、且つ前記弁通路における前記接続用通路の連通位置Pと前記弁座の設置位置Aとを上下に遠ざける必要をなくして、前記弁ボディの高さを抑える」構成となっている。
即ち、〈4〉のバルブ装置に示す構造は、「前記弁ボディと前記弁座の前記分離型構造」及び「前記弁座を前記弁ボディに取り付ける前に前記切削加工を行う」という2つの発明特定事項が協働することで、「前記切削加工時における加工用刃物による前記弁座の傷つきの心配が無く、且つ前記弁通路における前記接続用通路の連通位置Pと前記弁座の設置位置Aとを上下に遠ざける必要をなくして、前記弁ボディの高さを抑える」構成となっており、「前記弁ボディと前記弁座の前記分離型構造」及び「前記弁座を前記弁ボディに取り付ける前に前記切削加工を行う」という2つの発明特定事項を原因として、「前記切削加工時における加工用刃物による前記弁座の傷つきの心配が無く、且つ前記弁通路における前記接続用通路の連通位置Pと前記弁座の設置位置Aとを上下に遠ざける必要をなくして、前記弁ボディの高さを抑える」という発明特定事項を結果とするような因果関係があることをあらわしたものである。この因果関係を有する構造は、本件訂正発明1の「前記接続部の先端側から前記弁ボディ内の前記溶接部に向かって切削加工することによって形成された接続用通路であって、前記弁ボディと前記弁座の前記分離型構造と、前記弁座を前記弁ボディに取り付ける前に前記切削加工を行うこととによって、前記切削加工時における加工用刃物による前記弁座の傷つきの心配が無く、且つ前記弁通路における前記接続用通路の連通位置と前記弁座の設置位置とを上下に遠ざける必要をなくして、前記弁ボディの高さを抑える前記接続用通路」が物の発明として特定する事項である。したがって、本件訂正発明1ないし5は物の発明として特定され、明確である。

(5)証拠方法
提出された証拠は、以下のとおりである。
乙1 広辞苑 第六版 177ページ及び奥付
乙2 広辞苑 第六版 460ないし461ページ及び奥付

第5 甲号証の記載等
1 甲1の記載事項及び甲1発明
(1)甲1の記載事項
本件特許の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1には、次の事項が記載されている(下線は、当審で付加した。また、一部、改行を省略した。以下、同様。)。

ア 「【請求項1】回転操作する弁棒(1)の弁筐(2)に対する進退により通路(3)を開閉するバルブ装置において、弁棒(1)と弁筐(2)とに、弁棒(1)の開操作位置で互いに環状に圧接する圧接部(4、5)を設けたことを特徴とするバルブ装置。」

イ 「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、主に冷凍機・空調機の冷媒配管系に介装する閉鎖弁、開閉弁等のバルブ装置に関する。」

ウ 「【0004】【発明が解決しようとする課題】しかし、以上のものでは、シール性保持のために別途脱着式の弁蓋Cを用いているため、コスト高であるし、サービスマンによる作業工数が増え、又、取付忘れのおそれもある問題がある。更に、弁蓋Cを取付けた状態では、弁棒Lの操作状態を見ることができず、一旦強く締付けた弁蓋Cを再び取外すのにも難点があり、後の点検作業に支障を来す問題もある。その上、弁筐Dとの間で弁棒Lの開操作位置を長期間確実に保持する係合力が弱く、振動等によりネジ部Nの係合がゆるむおそれもある。
【0005】本発明の主目的は、シール性保持のための構造を簡易にでき、コストダウン及び作業性の改善が図れると共に、シール性を長期間保持できるバルブ装置を提供する点にある。
【0006】【課題を解決するための手段】請求項1記載の発明は、上記主目的を達成するため、図1〜4に示すように、回転操作する弁棒1の弁筐2に対する進退により通路3を開閉するバルブ装置において、図2に明示するように、弁棒1と弁筐2とに、弁棒1の開操作位置で互いに環状に圧接する圧接部4、5を設けた。図1〜4のものでは、弁棒1の頭部に弁頭11を一体に備えるタイプの閉鎖弁を示したが、別体の弁頭を弁棒1に連動させるタイプの閉鎖弁、開閉弁、切換弁等であってもよい。
【0007】請求項2記載の発明は、圧接部4、5での食らいつきを良くし、シール性を良好に高めるため、同図2に明示するように、一方側の圧接部4は環状テーパ面部40、他方側の圧接部5は環状エッジ部50から成るものとした。図1〜4のものは、弁棒1側に環状テーパ面部40を、弁筐2側に環状エッジ部50を設けたが、図5に示すように、弁筐2側に環状テーパ面部40を、弁棒1側に環状エッジ部50を設けてもよい。」

エ 「【0012】【発明の実施の形態】図1において、弁棒1は、その先端から、円錐台形の弁頭11、ネジ付円柱部12、ムクの円柱部13、Oリング10を介装する環状溝14、一方側圧接部4となる円錐台形の環状テーパ面部40、弁の開閉状態を確認できる操作確認部6、その内方の6角レンチ穴から成る操作部60を有する。材質は真鍮等から成る。
【0013】弁筐2は、弁棒1の受入筒部21、基部22、外部配管継手部23、サービスポート部24を備え、内部にL字形に冷媒を通す通路3を形成している。材質は同じく真鍮等から成る。受入筒部21の頂部穴25は、弁棒1の受入穴26よりも小径であり、その下側内縁に、他方側圧接部5となる環状エッジ部50を形成している。弁棒1のネジ付円柱部12と螺合するネジ部27は基部22側から加工具を挿入して形成しており、弁棒1は基部22側から受入れて内部に組込んでいる。弁棒1の挿入後、基部22には、圧縮機側配管と接続する接続管7を挿入してロウ付け70している。外部配管継手部23には、図3の通り、配管未接続時に通路3の開口部を閉鎖する鍔付き半球状閉鎖具91をフレアナット92で止めている。サービスポート部24にはバルブコア93を取付けている。
【0014】圧縮機側と連絡する接続管7は、全体を銅管で形成しており、先端小径部71、中間大径部72、末端小径部73から成る。先端小径部71の端部内縁は、弁頭11を着座させる弁座8として用いている。弁座8側の比較的柔らかい銅材料と、これよりも硬い弁頭11側の真鍮材料との圧接により、弁頭11を弁座8となる接続管7の端部内縁に食い込ませ、良好な弁閉シール状態が得られるようにしている。
【0015】エアコンの据付け作業終盤には、図3、4の弁閉状態からレンチにより弁棒1を回転させて弁座8から引き上げ、図1、2に示す弁開状態にする。このとき、弁棒1の環状テーパ面部40は回転しながら弁筐2側の環状エッジ部50に強固に押しつけられ、全周において密着する。従って、Oリング10を補助して長期にわたってシール性を二重に保持でき、冷媒ガスの外部リークを防止できる。又、環状テーパ面部40及びエッジ部50での圧接力により、弁棒1と弁筐2とのネジ係合部分の係合力が増し、振動等による弁棒1の係合離脱を防止できる。更に、弁開状態では、操作確認部6が弁筐2の頂部から大きく飛び出し(図2)、弁閉状態(図4)との違いが一目瞭然となり、確認作業も容易となる。」

オ 甲1には、図1ないし図3として、下図が記載されている。

図1 図3

図2


カ 前記エの記載から、弁筐2は、受入筒部21及び基部22を備え、内部にL字形に冷媒を通す通路3を形成していることがわかる。前記オに示す図1及び図3の記載から、この通路3の一部は、受入筒部21及び基部22が有する中空部であり、この受入筒部21及び基部22の中空部は、受入筒部21及び基部22の上下方向(弁棒の移動方向)に形成されている。そして、この受入筒部21及び基部22に形成されている中空部には、前記オの記載よりネジ部27が形成されているといえ、このネジ部27が形成される箇所は、前記オに示す図1及び図3の記載より、中空部の内周であって、受入筒部21及び基部22の中空部の上下方向の略中央部分であるといえる。
また、前記エの記載、及びオに示す図1及び図3から、基部22の中空部には、接続管7が挿入され、この接続管7は、先端小径部71と中間大径部72を有し、先端小径部71と中間大径部72との間は、段差部(以下、「接続管側段差部」という。)が形成されていることがわかる。そして、オに示す図1及び図3から、基部22の中空部に接続管7が挿入された状態で、この接続管側段差部に対応する箇所には、基部22に段差部(以下、「基部側段差部」という。)が形成されており、この基部側段差部が形成される位置は、ネジ部27の下側と前記ロウ付け70の上側の間であることがわかる。
さらに、前記オに示す図面の記載から、通路3の通路中心軸は、受入筒部21及び基部22の基部中心軸に対して直角をなしており、前記受入筒部21及び前記基部22の前記基部中心軸と前記通路3の前記通路中心軸が交差する位置は、前記中空部のうち上下方向においてネジ部27と対応する高さであって、前記弁座8よりも上方の位置であり、前記通路3の前記通路中心軸は、前記受入筒部21及び前記基部22の前記基部中心軸と交差する位置から前記受入筒部21及び前記基部22の前記基部中心軸に対し直角をなす方向に延びているといえる。

キ 甲1には、バルブ装置がサービスポート部24を備えることも記載(前記エ参照)されており、このサービスポート部24は、前記オに示す図1及び図3の記載からみて、受入筒部21及び基部22と一体に形成され、受入筒部21及び基部22の中心軸に対して交差する向きにサービスポート内通路を備えているといえる。

(2)甲1発明
ア 前記(1)アないしカ及び図面の記載を総合すると、甲1には、以下の発明が記載されていると認められる(以下、「甲1発明1」という。)。なお、口頭審理において、甲1発明1の認定に争いはなかった。

「冷媒を通す通路3たる中空部を有し、前記中空部の内周のうち上下方向の略中央部分にはネジ部27が形成され、前記中空部の下端はロウ付け70となっており、前記ネジ部27の下側と前記ロウ付け70の上側の間に基部側段差部が形成された筒形の受入筒部21及び基部22と、
前記基部22に配置され、上端縁に弁口が形成され、弁座8を形成する接続管7の先端小径部71と中間大径部72により形成される接続管側段差部が前記基部側段差部に当接することにより、前記受入筒部21及び前記基部22に対し上下方向に位置決めされるとともに、前記受入筒部21及び前記基部22に対し同軸状に位置決めされ、前記受入筒部21及び前記基部22に取り付ける前に前記受入筒部21及び前記基部22とは別体の部品として成形されて、前記受入筒部21及び前記基部22に取り付ける前に前記受入筒部21及び前記基部22とは分離型構造とされ、ロウ付けにより、前記ロウ付け70に固定された前記弁座8を形成する接続管7と、
前記受入筒部21の内部に収容され、前記弁口に接触して前記通路3を閉塞する閉弁位置と、前記弁口から離間して前記通路3を開放する開弁位置との間で往復移動可能な弁棒1と、
前記受入筒部21及び前記基部22と一体に形成された外部配管継手部23と、
前記外部配管継手部23内に形成され、通路中心軸が前記受入筒部21及び前記基部22の基部中心軸に対して直角をなし、前記受入筒部21及び前記基部22の前記基部中心軸と前記通路3の前記通路中心軸が交差する位置は、前記中空部のうち上下方向において前記ネジ部27と対応する高さであって、前記弁座8よりも上方の位置であり、前記通路3の前記通路中心軸は、前記受入筒部21及び前記基部22の前記基部中心軸と交差する位置から前記受入筒部21及び前記基部22の前記基部中心軸に対し直角をなす方向に延びている前記通路3とを備え、
前記弁棒1が前記弁口から離間して開弁状態になると、前記外部配管継手部23内の前記通路3が前記基部22内の前記通路3と連通するようになっており、
前記弁棒1の外周と前記受入筒部21の内周との間には、Oリング10が設けられ、
前記受入筒部21の頂部穴25の下側内縁には、他方側圧接部5となる受入穴26より小径の環状エッジ部50が形成され、
前記弁棒1の上端部外周には、前記環状エッジ部50と圧接可能であって前記環状エッジ部50と圧接されることによりシールを構成する環状テーパ面部40が形成されている
バルブ装置。」

イ また、前記(1)アないしキ及び図面の記載を総合すると、甲1には、以下の発明も記載されていると認められる(以下、「甲1発明2」という。)。

「冷媒を通す通路3たる中空部を有し、前記中空部の内周のうち上下方向の略中央部分にはネジ部27が形成され、前記中空部の下端はロウ付け70となっており、前記ネジ部27の下側と前記ロウ付け70の上側の間に基部側段差部が形成された筒形の受入筒部21及び基部22と、
前記基部22に配置され、上端縁に弁口が形成され、弁座8を形成する接続管7の先端小径部71と中間大径部72により形成される接続管側段差部が前記基部側段差部に当接することにより、前記受入筒部21及び前記基部22に対し上下方向に位置決めされるとともに、前記受入筒部21及び前記基部22に対し同軸状に位置決めされ、前記受入筒部21及び前記基部22に取り付ける前に前記受入筒部21及び前記基部22とは別体の部品として成形されて、前記受入筒部21及び前記基部22に取り付ける前に前記受入筒部21及び前記基部22とは分離型構造とされ、ロウ付けにより、前記ロウ付け70に固定された前記弁座8を形成する接続管7と、
前記受入筒部21の内部に収容され、前記弁口に接触して前記通路3を閉塞する閉弁位置と、前記弁口から離間して前記通路3を開放する開弁位置との間で往復移動可能な弁棒1と、
前記受入筒部21及び前記基部22と一体に形成された外部配管継手部23と、
前記外部配管継手部23内に形成され、通路中心軸が前記受入筒部21及び前記基部22の基部中心軸に対して直角をなし、前記受入筒部21及び前記基部22の前記基部中心軸と前記通路3の前記通路中心軸が交差する位置は、前記中空部のうち上下方向において前記ネジ部27と対応する高さであって、前記弁座8よりも上方の位置であり、前記通路3の前記通路中心軸は、前記受入筒部21及び前記基部22の前記基部中心軸と交差する位置から前記受入筒部21及び前記基部22の前記基部中心軸に対し直角をなす方向に延びている前記通路3と
前記受入筒部21及び前記基部22に一体に形成されたサービスポート部24と、
前記サービスポート部24内に形成され、中心軸が前記受入筒部21及び前記基部22の前記基部中心軸に対して交差する向きのサービスポート内通路とを備え、
前記弁棒1が前記弁口から離間して開弁状態になると、前記外部配管継手部23内の前記通路3と前記サービスポート内通路と前記基部22内の前記通路3とが連通するようになっており、
前記弁棒1の外周と前記受入筒部21の内周との間には、Oリング10が設けられ、
前記受入筒部21の頂部穴25の下側内縁には、他方側圧接部5となる受入穴26より小径の環状エッジ部50が形成され、
前記弁棒1の上端部外周には、前記環状エッジ部50と圧接可能であって前記環状エッジ部50と圧接されることによりシールを構成する環状テーパ面部40が形成されている
バルブ装置。」

2 甲2の記載事項及び甲2発明
(1)甲2の記載事項
本件特許の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲2には、次の事項が記載されている。

ア 「【請求項1】 屋外に配置する室外機と、室内に配置する室内機と、これらを結ぶ2本の冷媒配管とからなるルームエアコンにおいて、前記冷媒配管の両端若しくは片端に、建物壁に開けられている標準エアコン用孔を通過し得る外径寸法のストップ弁を取付けたことを特徴とするルームエアコンの冷媒配管装置。
【請求項2】 前記ストップ弁は、冷媒配管の軸線に対して弁棒を30°〜60°に傾斜させたことを特徴とする請求項1記載のルームエアコンの冷媒配管装置。
【請求項3】 前記冷媒配管廻り及びストップ弁廻りのシール構造を、パッキン、ロー付け、溶接のいづれかにしたことを特徴とする請求項1又は請求項2記載のルームエアコンの冷媒配管装置。
【請求項4】 ストップ弁の弁箱に弁棒を収納し、この弁棒を開閉操作するときには、プラグを弁箱から外して工具を差込む構造にしたことを特徴とする請求項2記載のルームエアコンの冷媒配管装置。」

イ 「【0010】請求項2では、ストップ弁は、冷媒配管の軸線に対して弁棒を30°〜60°に傾斜させたことを特徴とする。弁棒を傾斜させることにより、ストップ弁をスリムにすることができる。スリム化することでストップ弁を標準エアコン用孔を容易に通過させることができる。」

ウ 「【0034】図10で説明したストップ弁及びツイン型ストップ弁の別実施例を図11〜図17で順次説明する。なお、以下に述べる別実施例では配管継手の構造はフレア方式でも差支えないことにする。図11は本発明に係るストップ弁の別実施例の分解図である。このストップ弁90は、弁箱91に、フランジ92及び通孔93を設け、この通孔93にフランジ92側から順に、弁座固定ねじ部94、弁棒ガイドねじ部95、プラグねじ込み部96を刻設し、且つ前記通孔93に対して角度θ傾斜させた状態でチューブ差込み孔97を開け、前記弁棒ガイドねじ部95に円柱状の弁棒101を捩じ込み、弁座固定ねじ部94に弁座102を有するブッシュ103を捩じ込み、プラグねじ込み部96にプラグ104を捩じ込み、チューブ差込み孔96(当審注:図11の記載からみて、「チューブ差込み孔97」の誤記。)に適当な長さの銅管105を差込み、ロー付けする構造とした。
【0035】なお、前記弁棒101の一端部は弁体107であり、他端部には六角穴108を備える。また、111、112はOリング、113はガスケット、114は連結ボルトである。
【0036】図12は図11の12−12矢視図(Oリング溝は省略)であり、フランジ92は変形型角フランジであり、ボルト孔116・・・に影響のない部分を凹部117・・・にして、フランジの軽量化を図った。
【0037】図13は本発明に係るツイン型ストップ弁の別実施例断面図であり、前記図10の変更実施例に相当する図であり、このツイン型ストップ弁120は、図11で説明した構造のストップ弁90に、同形のストップ弁90Rをボルト結合にて一体化したものである。ストップ弁90Rはフランジ92RにOリング溝を備えない点を除いてストップ弁90と同じであるが、説明の都合上、構成要素にもR(右を示す)を添える。Rを添えたほかは、図11と同じであるから、それの符号を流用し、細かな構造説明は省略する。すなわち、ツイン型ストップ弁120は、フランジ92、92Rを合せ、連結ボルト114・・・で連結することで、左右の銅管105、105Rを一直線状に並べたものである。図では弁座102に弁体107が当っているため、弁が閉じており、例えば図左の銅管105を通じて供給した冷媒は右の鋼管105Rへは至らず、左の弁箱91内に冷媒が溜ったままとなる。このときに、弁棒ガイドねじ部95に冷媒が侵入するが、Oリング111及びガスケット113のシール作用により、冷媒が外部へ漏れる心配はない。
【0038】なお、一方のフランジ92にOリング溝を設けたが、Oリング112をシートパッキンに換えればOリング溝を省くことができ、左右のストップ弁90、90Rを完全に同形にすることができる。銅管105、105Rの軸線Cに対して、弁棒101、101Rを角度θだけ傾斜させたことにより、軸線Cからプラグ114、114Rまでの距離H、Hを十分に小さくすることができたことを示す。
【0039】図14(a)、(b)は図13の作用説明図である。(a)は、締切状態のツイン型ストップ弁120を開けるときの手順を示すもので、先ずプラグ114を外し、次に六角レンチなどの工具122を弁棒101の六角穴108に挿入し、弁棒101を弁開側へ廻す。図右上のプラグ114R及び弁棒101Rについても同様である。(b)は、弁開状態のツイン型ストップ弁120を示し、弁座102、102Rから距離h、hだけ弁体107、107Rをリフトさせたので、冷媒は矢印のとおりに流れる。プラグ114、114Rは確実に捩じ込んで冷媒が外に漏れることを防ぐ。エアコンを設置した後から取外すまでの間は殆ど、この図14(b)の状態にする。
【0040】図13で述べたツイン型ストップ弁120は、Oリング111、111Rとガスケト113、113Rで二重にシールすることで弁棒111、111Rの部分から外部へ冷媒が漏れること防止したことを特徴とする。さらには、距離Hをより短縮するために、ブラブ114、114Rを外して距離をH1に縮め、この状態で建物壁に対する配管の出入れ施工を実施すれば、施工は円滑に進めることができる。プラグ114、114Rを外してもOリング111、111Rがシール作用を発揮すること、及びプラグを外しているとき(取付け、取外し期間に限る)の時間が短いからその間にOリング111、111Rを介してリークがあってもそのリーク量は許容できる程度に微量であるからである。すなわち、大部分の時間帯はブラグ114、114Rを取付けることで冷媒の漏れを完全に防止し、ごく限られた時間帯のみプラグ114、114Rを外すという本例の弁構造は極めて実用的であると言える。
【0041】図15は冷媒出入れ口を備えたツイン型ストップ弁の断面図であり、図13で説明したツイン型ストップ弁120に冷媒出入れ口機構40を付設したものである。その他の要素は符号を流用し説明を省略する。冷媒出入れ口機構40も、図5で説明済みであるから構造説明を省略する。弁箱91Rに冷媒出入れ口機構40を付設したので、自由に冷媒を管内へ充填する若しくは管内から取出すことができる。
【0042】図16はストップ弁に盲フランジを取付けた例を示す図であり、図15でのツイン型ストップ弁120をフランジ92、92Rで分離した状態で長時間放置することはある。図7で説明した様に室外機12、室内機13、配管14、15を分離した状態で保管する場合である。この時には、フランジ92Rに盲フランジ124を取付け、冷媒の外部への漏れを完全に防止するように処置することが望ましい。
【0043】図17はストップ弁を単品で使用する例を示す図であり、銅管126にフランジ127を付けたものを準備し、このフランジ127をストップ弁90Rのフランジ92Rに合せ、連結ボルト114・・・で固定すれば、ストップ弁90Rは1個、すなわち単独で使用することができる。」

エ 甲2には、図11と図13、図15として、下図が記載されている。
図11 図15

図13


オ 甲2に記載されたストップ弁について、弁体107の移動方向を上下とし、弁体107が弁口から開く方向を上、閉じる方向を下とし、さらに、甲2の図11に記載されているチューブ差込み孔の中心軸をT2とし、弁箱91の中心軸をT1とすると、前記イ及びエに示す図11の記載からみて、チューブ差込み孔97は、その中心軸T2が弁箱91の中心軸T1に対して30°〜60°をなしており、中心軸T2と中心軸T1が交差する位置は、通孔93のうち上下方向において前記弁棒ガイドねじ部95と対応する高さよりも下側であるといえる。
また、前記エに示す図11及び図15の記載からみて、弁箱91には、弁座固定ねじ部94の下端部に、段差部が形成されており、この段差部に弁座102を有するブッシュ103の弁口の下側に形成された段部が当接することにより、ブッシュ103は、弁箱91に対し上下方向に位置決めされることがわかる。
さらに、前記ウに示すように「プラグねじ込み部96にプラグ104を捩じ込み、チューブ差込み孔97に適当な長さの銅管105を差込み、ロー付けする構造とし」ていることから、甲2に記載されたストップ弁は、銅管105と接続する接続部を備え、この接続部は、チューブ差込み孔97を備えている。

カ さらに甲2には、冷媒出入れ口機構40を付設することが記載(前記ウ参照。)されており、この冷媒出入れ口機構40は、前記エに示す図15の記載からみて、弁箱91と一体に形成され、さらに冷媒出入れ口機構40内に、中心軸が弁箱91の中心軸T1に対して交差する向きの冷媒充填用の通路を備えているといえる

(2)甲2発明
ア 前記(1)アないしオ及び図面の記載を総合すると、甲2には、以下の発明が記載されていると認められる(以下、「甲2発明1」という。)。

「冷媒を流通させる弁通路たる通孔93を有し、前記通孔93の内周のうち上下方向の略中央領域には弁棒ガイドねじ部95が刻設され、前記通孔93の下部は弁座固定ねじ部94となっており、前記弁座固定ねじ部94の下端部に段差部が形成された円筒形の弁箱91と、
前記弁箱91の外周面に設けられたフランジ92と、
前記弁箱91の下端部に配置され、上端縁に弁口が形成され、弁口の下側の段部が前記段差部に当接することにより、前記弁箱91に対し、上下方向に位置決めされるとともに、弁座固定ねじ部94に捩じ込むことにより、前記弁箱91に対し同軸状に位置決めされ、前記弁箱91に取り付ける前に前記弁箱91とは別体の部品として成形されて、前記弁箱91に取り付ける前に前記弁箱91とは分離型構造とされ、捩じ込みにより、前記弁座固定ねじ部94に固定されたブッシュ103と、
前記弁箱91の内部に収容され、前記弁口に接触して前記弁通路を閉塞する閉弁位置と、前記弁口からリフトして前記弁通路を開放する開弁位置との間で往復移動可能な弁体107と、
前記弁箱91に一体に形成された接続部と、
前記接続部内に形成され、中心軸T2が前記弁箱91の中心軸T1に対して30°〜60°をなし、中心軸T2と中心軸T1が交差する位置は、前記通孔93のうち上下方向において前記弁棒ガイドねじ部95と対応する高さよりも下側であって、中心軸T2は、中心軸T1との前記交差する位置から斜め上方へ延びており、前記接続部に形成されたチューブ差込み孔97とを備え、
前記弁体107が前記弁口からリフトして開弁状態になると、前記チューブ差込み孔97が前記弁通路と連通するようになっており、
前記弁体の外周と弁箱の内周との間には、Oリング111が設けられている
ストップ弁。」

イ また、上記アないしカ及び図面の記載を総合すると、甲2には、次の発明(以下、「甲2発明2」という。)も記載されているといえる。

「冷媒を流通させる弁通路たる通孔93を有し、前記通孔93の内周のうち上下方向の略中央領域には弁棒ガイドねじ部95が刻設され、前記通孔93の下部は弁座固定ねじ部94となっており、前記弁座固定ねじ部94の下端部に段差部が形成された円筒形の弁箱91と、
前記弁箱91の外周面に設けられたフランジ92と、
前記弁箱91の下端部に配置され、上端縁に弁口が形成され、弁口の下側の段部が前記段差部に当接することにより、前記弁箱91に対し、上下方向に位置決めされるとともに、弁座固定ねじ部94に捩じ込むことにより、前記弁箱91に対し同軸状に位置決めされ、前記弁箱91に取り付ける前に前記弁箱91とは別体の部品として成形されて、前記弁箱91に取り付ける前に前記弁箱91とは分離型構造とされ、捩じ込みにより、前記弁座固定ねじ部94に固定されたブッシュ103と、
前記弁箱91の内部に収容され、前記弁口に接触して前記弁通路を閉塞する閉弁位置と、前記弁口からリフトして前記弁通路を開放する開弁位置との間で往復移動可能な弁体107と、
前記弁箱91に一体に形成された接続部と、
前記接続部内に形成され、中心軸T2が前記弁箱91の中心軸T1に対して30°〜60°をなし、中心軸T2と中心軸T1が交差する位置は、前記通孔93のうち上下方向において前記弁棒ガイドねじ部95と対応する高さよりも下側であって、中心軸T2は、中心軸T1との前記交差する位置から斜め上方へ延びており、前記接続部に形成されたチューブ差込み孔97と、
前記弁箱91に一体に形成された冷媒出入れ口機構40と、
前記冷媒出入れ口機構40内に形成され、中心軸が前記弁箱91の前記中心軸T1に対して交差する向きの冷媒充填用の通路とを備え、
前記弁体107が前記弁口からリフトして開弁状態になると、前記チューブ差込み孔97と前記冷媒充填用の通と前記弁通路とが連通するようになっており、
前記弁体の外周と弁箱の内周との間には、Oリング111が設けられている
ストップ弁。」

3 甲3の記載事項及び甲3発明
(1)甲3の記載事項
本件特許の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲3には、次の事項が記載されている。

ア 「【請求項1】
バルブコアを内蔵したサービスポート部をもつ弁体を備え、この弁体の内部に設ける冷媒通路を弁棒により開閉するバルブ装置において、
前記サービスポート部に、外周にOリングを備えた押棒ピースを着脱させる所定深さの押棒受入穴を設けて、この押棒受入穴の内部に、前記バルブコアのコアピンの操作端部を臨ませると共に、
前記押棒受入穴における前記押棒ピースのOリングに対するシール接触始端側に、前記押棒ピースと前記コアピンとが離間している位置において前記Oリングを挟む軸方向の連通を許容する内圧抜き通路を設けた
ことを特徴とするバルブ装置。」

イ 「【0001】
本発明は、バルブコアを内蔵したサービスポート部をもつ弁体を備え、この弁体の内部に設ける冷媒通路を弁棒により開閉する空調機用のバルブ装置に関する。」

ウ 「【0022】
図1に示すように、本発明にかかるバルブ装置は、室外機100におけるガス側の機内配管10(室外機100から見ての機内配管10)と室内機200から延びるガス側の機外配管20(室外機100から見ての機外配管20)との間を接続するガス側バルブGVに適用している。室外機100における液側の機内配管11と室内機200から延びる液側の機外配管21との間を接続する液側バルブLVにはバルブコアを設けていない。もっとも、液側バルブLVにも、バルブコアを内蔵したサービスポート部をもつ本発明のバルブ装置を適用しても良い。これらガス側バルブGV及び液側バルブLVは、室外機100のフレーム400に並べて支持させている。」

エ 「【0024】
図2に示すように、本発明バルブ装置を構成するガス側バルブGVは、円筒状の本体部31と、室外機100のフレーム400に取付けるボルト通し穴320、320をもつ支持脚部32と、弁座部材4を嵌合し且つ該弁座部材4の配管接続穴40に機内配管10の端部を挿入して弁座部材4と共に下方に機内配管10をロウ付けにより接続固定する下方配管接続部33と、配管接続穴30に機外配管20の端部を挿入して機外配管20をロウ付けにより接続固定する側方配管接続部34と、バルブコア5を内蔵する六角柱状外面をもつサービスポート部35とを一体に有する弁体3を備える。
【0025】
310、310は、本体部31にスパナ等を係合させる矩形状の係合部である。弁体3は、その材質に真鍮等を用い、鍛造等により形成している。液側バルブGLは、サービスポート部35がなく、全体的にガス側バルブGVよりも小型である点を除いて、基本的な構造は同じである。
【0026】
図3に示すように、弁体3における本体部31の上部ネジ36に螺合する袋ナット状の弁蓋70を取り外すと、内部の弁棒7が操作可能となる。六角レンチ等による操作具を、弁棒7の操作端側の円柱部71の中心軸上に設ける操作具受入穴72に挿入して回転させることにより、ストレートな円筒内面をもつ弁穴37に連続する大径の主ネジ38に沿って、弁棒7を進退させることができる。
【0027】
主ネジ38に螺合する弁棒7の大径なネジ部73の先端に設ける円錐台状の弁頭部74を、弁座部材4の上部穴41の開口側内エッジに設ける環状のシート部42に圧接させることにより、機内配管10と連通する弁体3の内部に設ける第1冷媒通路1(弁座部材4の配管接続穴40に連続する上部穴41)と、機外配管20と連通する弁体3の内部に設ける第2冷媒通路2(配管接続穴30に連続する穴)との間は遮断される。
【0028】
据付前は、ガス側バルブGV及び液側バルブLV双方について、弁頭部74がシート部42に圧接した遮断状態すなわち弁棒7が閉じた閉弁状態にあり、冷媒は室外機100の主に圧縮機600の内部に閉じ込められた状態に保たれ、外に漏れることはない。
【0029】
弁棒7の操作端側には、Oリング係止段部75及びOリング止め輪係止段部76を段付き状に設け、それぞれに、Oリング77及びOリング止め輪78を係止させ、端部のカシメ部79により抜け止め状態で保持している。また、弁蓋70の内側に設けるエッジ状の環状圧接部770を弁穴37の開放側外周に設ける円錐状のテーパ面部370に圧接させることにより、Oリング77を補助して内部の冷媒通路1、2の機密性を二重に保持している。
【0030】
バルブコア5は、弁体3の内部における第2冷媒通路2と反対側に設けるサービス通路21にその先端側を臨ませている。第2冷媒通路2とサービス通路21とは、弁棒7の弁頭部74がシート部42に圧接した遮断状態にある場合にも、主ネジ38の部分を通じて相互に連通している。」

オ 「【0048】
図13に示すように、据付時の真空引きに引き続いて冷媒圧力を測定したり、冷媒を追加充填したりする場合、あるいは、据付後の定期点検や不定期点検等において冷媒圧力測定や冷媒の追加充填又は回収等を行う場合、ガス側バルブGV及び液側バルブLV双方について弁棒7が引上げられ、第1冷媒通路1と第2冷媒通路2とが連通された状態で、押棒ピース9によりバルブコア5が開作動される。また、据付時の真空引きに引き続き、特に冷媒圧力を測定する意図はないが、サービス作業員が、押棒ピース9を装着したまま、弁棒7を引き上げた場合にも、このような状況となる。」

カ 「【0054】
図17に示すように、据付後の通常の運転時及び運転休止時、サービスポート部35の外周ネジ39には仕切りナット80が締め込まれ、環状のガスケット11を押棒受入穴6の開口側の軸方向端面350に圧接させ、閉状態にあるバルブコア5を補助して、内部の冷媒通路1、2を外界に対して良好に遮断する。また、弁棒7の操作端側には弁蓋70が締め込まれ、その内側の環状圧接部770を弁体3のテーパ面部370に圧接させ、弁棒7の外周のOリング77を補助して、内部の冷媒通路1、2を外界に対して良好に遮断する。そして、この状態で長期間、冷暖房の使用に供される。」

キ 甲3には、図2、図3、及び図17として、下図が記載されている。
図2 図3 図17

ク 前記キに示す図3及び図17の記載から、主ネジ38の下端と下方配管接続部33の上端との境界には、段差部が形成されており、弁座部材4の上端部外周縁が、この段差部に当接することにより、弁座部材4は、上下方向に位置決めされていることがわかる。
また、同じくこれらの図面の記載から、第2冷媒通路2の冷媒通路中心軸は、本体部31及び下方配管接続部33の本体部中心軸に対してほぼ直角をなしているといえ、前記本体部31及び前記下方配管接続部33の前記本体部中心軸と第2冷媒通路2の前記冷媒通路中心軸が交差する位置は、前記中空部のうち上下方向において前記主ネジ38と対応する高さであって、前記弁座部材4よりも上方の位置であり、前記第2冷媒通路2の前記冷媒通路中心軸は、前記本体部31及び前記下方配管接続部33の前記本体部中心軸との前記交差する位置から前記本体部31及び前記下方配管接続部33の前記本体部中心軸に対し、直交する方向へ延びているといえる。

ケ 甲3には、バルブ装置がサービスポート部35を備えることも記載(前記エ参照)されており、このサービスポート部35は、前記キに示す図3及び図7の記載からみて、円筒状の本体部31及び下方配管接続部33と一体に形成され、円筒状の本体部31及び下方配管接続部33の中心軸に対して交差する向きにサービスポート内通路を備えているといえる。

(2)甲3発明
ア 前記(1)アないしク及び図面の記載を総合すると、甲3には、以下の発明(以下、「甲3発明1」という。)が記載されていると認められる。

「第1冷媒通路1たる中空部を有し、前記中空部の内周のうち上下方向の略中央部分には主ネジ38が形成され、前記中空部の下側は下方配管接続部33となっており、前記主ネジ38の下端と前記下方配管接続部33の上端との境界に段差部が形成された円筒状の本体部31及び下方配管接続部33と、
前記下方配管接続部33の外側面に配置された支持脚部32と、
前記下方配管接続部33に配置され、上部穴41の開口側内エッジに環状のシート部42が形成され、上端部外周縁が前記段差部に当接することにより、前記下方配管接続部33に対し上下方向に位置決めされるとともに、前記下方配管接続部33に対し同軸状に位置決めされ、前記下方配管接続部33に取り付ける前に前記本体部31及び前記下方配管接続部33とは別体の部品として成形されて、前記本体部31及び前記下方配管接続部33に取り付ける前に前記本体部31及び前記下方配管接続部33とは分離型構造とされ、ロウ付けにより、前記下方配管接続部33に固定された弁座部材4と、
前記本体部31の内部に収容され、前記シート部42に圧接した前記第1冷媒通路1を閉塞する閉弁状態となる位置と、前記シート部42から離間して前記第1冷媒通路1を開放する開弁状態となる位置との間で往復移動可能である弁棒7と、
前記本体部31及び前記下方配管接続部33と一体に形成された側方配管接続部34と、
前記側方配管接続部34の内部に形成され、冷媒通路中心軸が前記本体部31及び前記下方配管接続部33の本体部中心軸に対してほぼ直角をなし、前記本体部31及び前記下方配管接続部33の前記本体部中心軸と第2冷媒通路2の前記冷媒通路中心軸が交差する位置は、前記中空部のうち上下方向において前記主ネジ38と対応する高さであって、前記弁座部材4よりも上方の位置であり、前記第2冷媒通路2の前記冷媒通路中心軸は、前記本体部31及び前記下方配管接続部33の前記本体部中心軸との前記交差する位置から前記本体部31及び前記下方配管接続部33の前記本体部中心軸に対し、直交する方向へ延びている前記第2冷媒通路2とを備え、
前記弁棒7が前記シート部42から引上げられて開弁状態になると、前記第1冷媒通路1が前記第2冷媒通路2と連通するようになっており、
前記弁棒7の外周と前記本体部31の弁穴37の内周との間には、シールを構成するOリング77が設けられている
バルブ装置。」

イ また、前記(1)アないしケ及び図面の記載を総合すると、甲3には、以下の発明(以下、「甲3発明2」という。)も記載されていると認められる。

「第1冷媒通路1たる中空部を有し、前記中空部の内周のうち上下方向の略中央部分には主ネジ38が形成され、前記中空部の下側は下方配管接続部33となっており、前記主ネジ38の下端と前記下方配管接続部33の上端との境界に段差部が形成された円筒状の本体部31及び下方配管接続部33と、
前記下方配管接続部33の外側面に配置された支持脚部32と、
前記下方配管接続部33に配置され、上部穴41の開口側内エッジに環状のシート部42が形成され、上端部外周縁が前記段差部に当接することにより、前記下方配管接続部33に対し上下方向に位置決めされるとともに、前記下方配管接続部33に対し同軸状に位置決めされ、前記下方配管接続部33に取り付ける前に前記本体部31及び前記下方配管接続部33とは別体の部品として成形されて、前記本体部31及び前記下方配管接続部33に取り付ける前に前記本体部31及び前記下方配管接続部33とは分離型構造とされ、ロウ付けにより、前記下方配管接続部33に固定された弁座部材4と、
前記本体部31の内部に収容され、前記シート部42に圧接した前記第1冷媒通路1を閉塞する閉弁状態となる位置と、前記シート部42から離間して前記第1冷媒通路1を開放する開弁状態となる位置との間で往復移動可能である弁棒7と、
前記本体部31及び前記下方配管接続部33と一体に形成された側方配管接続部34と、
前記側方配管接続部34の内部に形成され、冷媒通路中心軸が前記本体部31及び前記下方配管接続部33の本体部中心軸に対してほぼ直角をなし、前記本体部31及び前記下方配管接続部33の前記本体部中心軸と第2冷媒通路2の前記冷媒通路中心軸が交差する位置は、前記中空部のうち上下方向において前記主ネジ38と対応する高さであって、前記弁座部材4よりも上方の位置であり、前記第2冷媒通路2の前記冷媒通路中心軸は、前記本体部31及び前記下方配管接続部33の前記本体部中心軸との前記交差する位置から前記本体部31及び前記下方配管接続部33の前記本体部中心軸に対し、直交する方向へ延びている前記第2冷媒通路2と、
前記円筒状の本体部31及び前記下方配管接続部33と一体に形成されたサービスポート部35と、
前記サービスポート部35内に形成され、中心軸が前記円筒状の本体部31及び前記下方配管接続部33の中心軸に対して交差する向きのサービスポート内通路とを備え、
前記弁棒7が前記シート部42から引上げられて開弁状態になると、前記第1冷媒通路1と前記サービスポート内通路と前記第2冷媒通路2とが連通するようになっており、
前記弁棒7の外周と前記本体部31の弁穴37の内周との間には、シールを構成するOリング77が設けられている
バルブ装置。」

4 甲4の記載事項
本件特許の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲4には、「本物品は、内部の冷媒通路を弁により開閉する空調機用のバルブである。」との記載と共に次の図面が記載されている。


5 甲5の記載事項
本件特許の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲5には、「本物品は、内部の冷媒通路を弁により開閉する空調機用のバルブである。」との記載と共に、次の図面が記載されている。


6 甲6の記載事項
本件特許の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲6には、図面と共に、次の事項が記載されている。

(1)「【請求項1】筐体となり、流体の流通孔を有する弁箱と、
前記弁箱内に収容され、前記流通孔を開閉する弁体と、
前記弁体が前記流通孔を閉じた際、前記弁体により区切られた空間に連通するポートと、
前記ポートに装着され、前記空間内の流体の除去又は充填が可能な第2弁とを備えたことを特徴とする流体機器接続装置。」

(2)「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、分離型エアコン等、流体で動作する機器同士や流体配管を接続する流体機器接続装置、及びそれが接続された流体機器に関する。」

(3)「【0024】【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態について、各図を参照して説明する。図1は、本発明の流体機器接続装置100の一実施形態を示す図である。なお、流体機器接続装置100は、類似した構成を有する別の流体機器接続装置100Aに接続(脱着)される。又、各流体機器接続装置100、100Aは、それぞれチューブ(銅管)10、10Aに接続され、チューブの先に各種流体機器(冷媒配管、エアコンの室内機、室外機等)を取付けることにより、流体機器同士が流体機器接続装置100、100Aを介して接続されるようになっている。なお、以下では、流体として冷媒Rを用いた場合について説明する。又、チューブを介さず、流体機器接続装置100に直接流体機器を接続してもよい。」

(4)「【0038】次に、弁体2の開閉動作について図3及び図4を参照して説明する。上記図1に示したように、閉状態では、弁体2は流通孔U、Vを遮断して(区切って)いる。ここで、図3に示すように、弁体2を上方向に後退させると、弁体2と弁座8とが離間し、流通孔U、Vが連通するようになる。このようにして、冷媒Rが流通孔Uと流通孔Vの間を流出入できるようになっている。なお、流通孔Vの開口端の軸方向が流通孔Uの軸方向と鋭角θ(好ましくは30〜60°)をなしているので、3方弁等(θ=90°)に比べ、冷媒の流路が急激に(直角に)変化することがなく、流体抵抗が少なくなるという利点がある。又、弁体2の開閉を、弁箱4内での進退により行うので、弁箱4は弁体2を内挿できる程度の大きさであればよく、流体機器接続装置自体を小型化できる。」

(5)甲6には、図3として、下図が記載されている。

7 甲7の記載事項
本件特許の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲7には、図面と共に、次の事項が記載されている。

(1)「【請求項1】流体を流す流路(21)と、流路(21)を開閉する開閉用弁(3)とを備え、
流路(21)の両端側が、冷媒設備に設けられた配管に接続されることにより、流路(21)が冷媒設備用流路の一部をなして冷媒設備における流体を流路(21)に沿って流し得るようになされ、
開閉用弁(3) が、流路(21)を塞ぎ得る弁体(31)を備え、この弁体(31)が、流路(21)の側方側に流路(21)に対して接近・退行する方向に移動可能に配位されることにより、その移動に伴って弁体(31)が流路(21)を塞いで閉鎖した第1流路(22)と第2流路(23)とに区画するとともに、その閉鎖状態から開放して第1流路(22)と第2流路(23)とを連通し、
これらの第1流路(22)における流体の流れ方向と、第2流路(23)における流体の流れ方向のなす角度が、90°より大きく設定されたものであることを特徴とする冷媒設備用のバルブ。」

(2)「【0001】【発明の属する技術分野】本願発明は、空調機や冷凍機等の冷媒設備に使用される冷媒設備用のバルブの改良に関するものである。」

(3)「【0004】一方、ニードルタイプのバルブは、図10に示すように流体を流す流路aを、第1流路a1と、第1流路a1と直角をなす第2流路a2とから構成するとともに、弁体をなすスピンドルbを、第2流路a2の反対側の図示左方側の部分に軸方向を第1流路a1と直角をなすようにして形成したスピンドル収納管c内に、収納管cにおける内周壁に刻設した雌ネジ部c1にスピンドルbの外周に設けた雄ネジb1を螺合させることにより配し、そして、スピンドルbの頭部b2側に設けたレンチ係合孔b3にレンチLを頭部b2側から係合させ、その係合させたレンチLをスピンドル収納管cに対して回動操作することにより、スピンドルbが、収納管cの軸方向に沿って流路aに対して接近・退行する方向に移動し、第1流路a1と第2流路a2との間を閉鎖・開放し得るようにしたものである。こうすることにより、流路aを確実に塞ぎ、冷媒の圧力で冷媒が洩れるおそれのないものにでき、配管長さが長くて配管工事に要する時間のかかるセパレート方式のものにも適応させることができる。尚、図10中、dは、配管に第1流路a1側を接続するための筒状のフレアキャップを示し、eは、スピンドルbを保護するための保護キャップを示す。又、fは、真空引き等するための補助用口を示しているが、これらについては、更に後述する。ところが、このニードルタイプのものは、流路aの第1流路a1と第2流路a2とが直角をなしているため、例えば流体としての冷媒を第1流路a1から第2流路a2側に流すと第1流路a1から第2流路a2に入る際、直角に方向を変えて流れなければならず、流れ抵抗が大きくなってしまい、その結果、例えば低圧ガス側での使用では、運転中、0.1〜0.3Kg/cm2G程度の圧力損失を生じ、その結果、冷房運転時における冷房能力の低下をきたすとともに、電力消費量も大きくなってしまう。又、ニードルタイプのものは、弁体をなすスピンドルbを、第2流路a2の反対側の部分に軸方向を第1流路a1と直角をなすように配しているため、第1流路a1から側方への突出量が大きく、製品に取り付けた場合に、製品の設置面積が大きくなる。しかも、流路aを開閉するためのスピンドルbの移動操作に際しては、スピンドルbのレンチ係合孔b3にレンチLを頭部b2側から係合させ、その係合させたレンチLを第1流路a1の真横側から回動操作しなければならず、その分のスペースをも確保しておく必要があり、尚更設置面積を大きく採っておく必要がある。」

(4)「【0013】以上のように構成された本願第1の発明においては、流路21に対して接近・退行する方向に移動可能に配位した弁体31によって流路21を塞ぐものとするため、従来のボールバルブのように冷媒の圧力でシールドパッキンでシールした部分から冷媒が洩れるおそれのないものにでき、しかも、ボールバルブに比し部品点数を少なくでき、低コストで製作できる。その一方、流路21における第1流路22の流体の流れ方向と、第2流路23の流体の流れ方向のなす角度が、90°より大きく設定しているため、その角度が直角をなす従来のニードルタイプのものに比して流体が流路21を流れる際の流れ抵抗を小さくでき、圧力損失を抑えることができる。」

8 甲8の記載事項
本件特許の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲8には、図面と共に、次の事項が記載されている。

(1)「Oリング O−ring 油圧、空圧、水圧やガス圧を密封するために用いるゴム製のリング.形状及び取り付け部分の構造が簡単であり、装置の設計が容易であるとともに、取付け、取外しが簡単である.用途により、運動用、固定用、真空フランジ用がある.また、圧力や温度により6種類のゴム材料がJISに規定されている.」

(2)甲8には、下図が記載されている。


9 甲9の記載事項
本件特許の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲9には、図面と共に、次の事項が記載されている。

(1)「


(当審仮訳:技術分野
[0001]本考案は、冷凍分野に関し、媒体方向を制御するストップ弁の技術分野に用いられ、特にストップ弁のパッケージ構造に関する。)

(2)「


(当審仮訳:[0026]弁座4のキャビティ内に一ソケットリング7が設置されており、ソケットリング7がリベット締めプロセスにより弁座4の媒体入口5のところに押し入れている。弁座4の媒体入口5に、縮径リベット締めプロセスにより形成された縮径部1が設置されており、縮径部1はソケットリング7を媒体入口5内に固定する。)

(3)甲9には、図2として、下図が記載されている。


10 甲10の記載事項
本件特許の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲10には、図面と共に、次の事項が記載されている。

(1)「

」(明細書第1ページ第1行ないし同ページ第2行)
(当審仮訳:空調機の両方向密閉タイプのストップ弁
本考案は、空調機に用いられる両方向密閉タイプのストップ弁に関する。)

(2)「

」(明細書第2ページ2行ないし同ページ9行)
(当審仮訳:以下、図1を参照しながら実施例1として、さらに説明する。図1に示す位置は、閉弁位置であり、この時は、弁体頭部9の下端斜面10と下部弁腔内のガスケット6がマッチして密閉して、出入口の流動を止める。弁体2が上方へ上がって最高位置となる場合、バルブは最大の開弁位置となり、この時は、シールOリング3が密閉の役割を果たす以外に、弁体頭部9の上端斜面8と弁ボディ1の上部弁腔の段差状穴7の縁部も良好にマッチして密閉する。
図2は、本考案のもう一つの実施例の構造の断面図である。出入口の位置の変更により、弁体2を取り受けるために、弁ボディ1の上部弁腔内に一つのガスケット6を設置し、そのほかの構造と密閉原理は実施例1と同様である。)

(3)甲10には、図1として、下図が記載されている。


11 甲11の記載事項
本件特許の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲11には、図面と共に、次の事項が記載されている。

(1)「

」(明細書第1ページ1行ないし同ページ2行)
(当審仮訳:空調ストップ弁のアセンブリ
本発明は、空気調節の汎用品に関し、特に冷媒液の漏れを防止するための装置に関する。)

(2)「

」(明細書第2ページ2行ないし同ページ5行)
(当審仮訳:図1と図2に示すように、空調ストップ弁のアセンブリは、低圧ストップ弁と高圧ストップ弁から構成される。低圧ストップ弁と高圧ストップ弁は、弁ボディ3並びに弁ボディ3の内部に設置されている別体5と管ジョイント2、弁ボディ3の外部に設置されているシールキャップ7、管ジョイント2に固定されている接続管1を含む。弁体5は前部シール面4を有する。弁体5の中後部は後部シール面6を有し、弁ボディ3の内腔は後部シール面6と対応する構造を有する。)

(3)甲11には、図1として、下図が記載されている。


12 甲12の記載事項
本件特許の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲12には、図面と共に、次の事項が記載されている。

(1)「【0016】【発明の実施の形態】以下、本発明を実施の形態に基づき詳細に説明する。
〔実施の形態1〕図1はこの発明の一実施の形態を示す単座形弁装置の構成図である。同図において、31は鋳造ステンレス製の弁箱であり、この弁箱31は仕切壁32により内部が上流側流路33と下流側流路34に仕切られている。弁箱31の上端開口部を閉鎖する上蓋35と仕切壁32との間にはステンレス製のケージ37が設けられている。ケージ37は円筒状のケージ本体37−1とこのケージ本体37−1の下端に着脱可能に取り付けられた弁座体37−2とから構成されている。弁座体37−2は、リング状とされ、その内周面の最上端位置を面取りして弁座44が形成されている。」

(2)甲12には、図1及び図3として、下図が記載されている。
図1 図3


第6 当審の判断
事案に鑑み、無効理由4及び6、無効理由5について先に検討し、その後、無効理由1ないし3について検討する。

1 無効理由4及び6について
無効理由4と無効理由6は、本件訂正発明が特許法第36条第6項第2項に規定する要件(明確性)を満たしていないとする点で共通するから、あわせて検討する。
(1)「一体」について
請求人は、本件特許の請求項1には、「前記弁ボディに一体に形成された接続部と、」と記載され、請求項3には、「前記弁ボディに一体に形成された接続部と、」「前記弁ボディに一体に形成されたサービスポートと、」と記載されているが、本件特許の明細書には、「一体に」形成という意義について、溶接することなく一体化される旨と、溶接によって弁ボディに一体化されてもよい旨という、相反する記載(【0015】、【0041】)が存在しており、本件訂正発明1及び3が、溶接によって一体化された構成を包含するのか否かが明確に把握することができないと主張する。
そこで、この点について検討すると、「一体」とは、「一つのからだ。同一体。」(乙1)を意味しているから、本件特許の請求項1に記載された「前記弁ボディに一体に形成された接続部」とは、弁ボディと接続部とが一つ(同一体)となるように形成されていることを表していると解され、その意味は、明確である。また、同様に、請求項3の「前記弁ボディに一体に形成された接続部」、「前記弁ボディに一体に形成されたサービスポート」の記載も明確である。そして、本件特許の明細書の発明の詳細な説明の記載をみると、一体に関して、「第1の発明のバルブ装置は、前記弁ボディと前記接続部と前記取付部が、鍛造又は鋳造によって一体に成形されていてもよい。この構成によれば、溶接することなく弁ボディと接続部と取付部を一体化できるので、溶接に起因するバルブ装置の大型化を回避できる。」(【0013】)、「第2の発明のバルブ装置は、前記弁ボディと前記接続部と前記取付部と前記サービスポートが、鍛造又は鋳造によって一体に成形されていてもよい。この構成によれば、溶接することなく弁ボディと接続部と取付部とサービスポートを一体化できるので、溶接に起因するバルブ装置の大型化を回避できる。」(【0015】)、「(1)上記実施例1、2では、取付部を弁ボディと一体に成形したが、取付部を溶接によって弁ボディに一体化させてもよい。(2)上記実施例2では、サービスポートを弁ボディと一体に成形したが、サービスポートを溶接によって弁ボディに一体化させてもよい。」(【0041】)との記載があるが、これらは、一体に成形する手段、あるいは一体化する手段として、鍛造、鋳造又は溶接等を特定した記載であり、いずれも一体のもの、あるいは一体化したものが、「一つのからだ。同一体」である点では変わらない。そして、本件特許の請求項1の「前記弁ボディに一体に形成された接続部」の記載、請求項3の「前記弁ボディに一体に形成された接続部」及び「前記弁ボディに一体に形成されたサービスポート」の記載は、一体とする手段が特定されていないことが明らかであるから、何らかの手段により、「一つのからだ。同一体」となるように形成したものであると理解できる。
そうすると、請求項1及び3に記載された「一体」の意味は明確であり、請求人の主張は採用することができない。

(2)「接続用通路」について
ア 請求人は、本件特許の請求項1及び3には、「前記接続部の先端側から前記弁ボディ内の前記溶接部に向かって切削加工することによって形成された接続用通路」、及び「前記弁ボディと前記弁座の前記分離型構造と、前記弁座を前記弁ボディに取り付ける前に前記切削加工を行うこととによって、前記切削加工時における加工用刃物による前記弁座の傷つきの心配が無く、且つ前記弁通路における前記接続用通路の連通位置と前記弁座の接地位置とを上下に遠ざかる必要をなくして、前記弁ボディの高さを抑える前記接続用通路」と記載されており、この記載は、物の発明についての本件訂正発明1ないし5の少なくとも一部に、その物の製造方法が記載されている場合に該当し、「接続用通路」のどのような構造、特性等を表しているのかが不明であると主張する。
そこで、この点について検討する。
物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合(いわゆるプロダクト・バイ・プロセス・クレームの場合)において、当該特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情が存在するときに限られる(最高裁平成24年(受)第1204号同27年6月5日第二小法廷判決・民集69巻4号700頁参照)。ここで、この最高裁判決が、物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合において、当該特許請求の範囲の記載が明確性要件に適合するといえるのは、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情が存在するときに限られると判示した趣旨は、特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合の技術的範囲は、当該製造方法により製造された物と構造、特性等が同一である物として確定されるが、そのような特許請求の範囲の記載は、一般的には、当該製造方法が当該物のどのような構造又は特性を表しているのかが不明であるとした点にある。
そうすると、特許請求の範囲に物の製造方法が記載されている場合であっても、上記一般的な場合と異なり、当該製造方法が当該物のどのような構造又は特性を表しているのかが、特許請求の範囲、明細書、図面の記載や技術常識から一義的に明らかな場合には、第三者の利益が不当に害されることはないから、明確性要件違反には当たらない。

イ このような観点から、本件特許の請求項1の記載をみると、まず、「前記接続部の先端側から前記弁ボディ内の前記溶接部に向かって切削加工することによって形成された接続用通路」とは、接続用通路が切削加工により形成されたものであるか、あるいは、切削加工により形成されたものと同じものであることを意味する。そして、切削加工をした箇所に切削痕が残ることは技術常識であり、「切削加工することによって形成された接続用通路」とは、切削後のこのような切削痕が認められる接続用通路を表しているといえる。

ウ 次に、本件特許の請求項1及び請求項3に記載された「前記弁ボディと前記弁座の前記分離型構造と、前記弁座を前記弁ボディに取り付ける前に前記切削加工を行うこととによって、前記切削加工時における加工用刃物による前記弁座の傷つきの心配が無く、且つ前記弁通路における前記接続用通路の連通位置と前記弁座の設置位置とを上下に遠ざかる必要をなくして、前記弁ボディの高さを抑える前記接続用通路」について検討する。
まず、当該記載における「前記切削加工時における加工用刃物による前記弁座の傷つきの心配が無く、」との点については、物の発明としての本件訂正発明の「バルブ装置」において、弁座には傷がついていないという状態を表したものと理解できる。
また、接続用通路は、接続部の先端側から弁ボディ内の溶接部に向かって切削加工することによって形成されるものであるが、その切削加工の際、加工用刃物の先端が、接続用通路を貫通して弁ボディの内部へ進入した後、弁ボディの内部を傷つけてしまう可能性がある。ここで、弁座を弁ボディに取り付けた後に接続用通路の切削加工を行う場合、弁座の設置位置が接続用通路の連通位置に対して弁座を傷つけない程度に離れていれば、加工用刃物が弁座に接触して弁座を傷つけることがないが、接続用通路の連通位置と弁座の設置位置とが上下に遠ざかるため、弁ボディの高さを抑えることができない。また、高さを抑えるために、弁座の設置位置を接続用通路の連通位置に近接させると、加工用刃物が弁座に接触して弁座を傷つけることとなる。一方、弁座を弁ボディに取り付ける前に接続用通路の切削加工を行う場合には、たとえ、弁座が取り付けられていた場合に弁座を傷つける程度に弁座の設置位置が接続用通路の連通位置に近接していても、加工用刃物が弁座に接触して弁座を傷つけることはなく、且つ弁ボディの高さを抑えることができる。
そうすると、本件訂正発明の「前記弁ボディと前記弁座の前記分離型構造と、前記弁座を前記弁ボディに取り付ける前に前記切削加工を行うこととによって、前記切削加工時における加工用刃物による前記弁座の傷つきの心配が無く、且つ前記弁通路における前記接続用通路の連通位置と前記弁座の設置位置とを上下に遠ざかる必要をなくして、前記弁ボディの高さを抑える」とは、弁座を弁ボディに取り付けた後に接続用通路の切削加工を行う場合に、加工用刃物が弁座に接触して弁座を傷つけない程度に、弁座の設置位置が接続用通路の連通位置から離れているときよりも、弁ボディの高さが抑えられている状態、言い換えると、弁座を弁ボディに取り付けた後に接続用通路の切削加工を行うと弁座を傷つけてしまう程度に、弁座の設置位置が接続用通路の連通位置に近接していることにより、弁ボディの高さが抑えられている状態を表しているといえる。
さらに、「前記切削加工時における加工用刃物による前記弁座の傷つきの心配が無く、且つ前記弁通路における前記接続用通路の連通位置と前記弁座の設置位置とを上下に遠ざかる必要をなくして、前記弁ボディの高さを抑える」とは、弁ボディの高さが抑えられている状態で、弁座に傷がついていない状態を表しており、その意味は明確である。
以上から、本件特許の請求項1及び請求項3に記載された「前記弁ボディと前記弁座の前記分離型構造と、前記弁座を前記弁ボディに取り付ける前に前記切削加工を行うこととによって、前記切削加工時における加工用刃物による前記弁座の傷つきの心配が無く、且つ前記弁通路における前記接続用通路の連通位置と前記弁座の設置位置とを上下に遠ざかる必要をなくして、前記弁ボディの高さを抑える前記接続用通路」の記載は、明瞭な記載であって、本件訂正発明は、物の発明として明確である。

(3)無効理由4及び6についてのまとめ
以上のことから、本件特許の請求項1及び請求項3の「一体」の意味は、明確であり、また「前記接続部の先端側から前記弁ボディ内の前記溶接部に向かって切削加工することによって形成された接続用通路」、及び「前記弁ボディと前記弁座の前記分離型構造と、前記弁座を前記弁ボディに取り付ける前に前記切削加工を行うこととによって、前記切削加工時における加工用刃物による前記弁座の傷つきの心配が無く、且つ前記弁通路における前記接続用通路の連通位置と前記弁座の設置位置とを上下に遠ざかる必要をなくして、前記弁ボディの高さを抑える前記接続用通路」という記載が製造方法により物を特定する記載であったとしても、これにより特定される事項は、接続用通路と弁座の位置関係を特定していることが明確であって、当該製造方法が当該物のどのような構造又は特性を表しているのかが、特許請求の範囲、明細書、図面の記載や技術常識から一義的に明らかであり、これにより、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。
また、本件特許の請求項1ないし5に、他に第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとする記載も見当たらない。
そうすると、本件特許の請求項1ないし5の記載が明確でないとはいえないから、請求人の主張する無効理由4及び6によって、本件訂正発明1ないし5にかかる特許を無効とすることはできない。

2 無効理由5について
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明であって、発明の詳細な説明において当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲を超えるものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲を超えるものであるか否かを検討して判断すべきものと解される。
そして、本件特許の発明の詳細な説明の記載をみると、次の事項が記載されている。

(1)「【0001】
本発明は、冷媒の流れを制御する部品、特に冷媒の流路を開閉するためのバルブ装置に関するものである。」

(2)「【0002】
エアコンの室外機ユニットには、通常、冷媒流路を開閉するためのバルブ装置が設けられている。図7に示すのは、特許文献1に記載されている従来のバルブ装置の断面図である。このバルブ装置は、上弁ボディ1と下弁ボディ2を備えている。上弁ボディ1内には弁体7が設けられている。下弁ボディ2は、パイプを接続するための接続部3と、冷媒を充填するためのサービスポート4を備えている。下弁ボディ2の下端部には、機械的な切削加工によって弁座5が一体に形成されている。接続部3内には、接続用通路31が切削加工によって形成されている。下弁ボディ2内の弁座5を含む流路と接続用通路31とを流れる冷媒の流動抵抗を低減するため、接続用通路31は、下弁ボディ2の軸線に対して斜めをなしている。」

(3)「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のバルブ装置では、接続用通路31が下弁ボディ2の軸線に対して斜めをなしているので、接続用通路31を切削加工する際には、接続部3の先端側から弁座5に向かって進入した切削用の刃物が、弁座5を傷付ける虞がある。そこで、刃物が弁座5を傷付けるのを防止するため、両弁ボディ1、2の軸線方向において、下弁ボディ2における接続用通路31の連通位置を、弁座5から上方へ遠ざけるように配置している。つまり、下弁ボディ2のうち接続用通路31の連通位置と弁座5との間の領域には、ストレート部6が設けられている。このため、バルブ装置が全体として嵩高となってしまう。」

(4)「【0008】
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、小型化を図ることを目的とする。」

(5)「【発明の効果】
【0011】
第1及び第2の発明のバルブ装置は、弁座と弁ボディを分離可能とすることにより、弁通路における接続用通路との連通位置と、弁座の設置位置とを上下に遠ざける必要がなくなるので、バルブ装置が嵩高になるのを防止できる。また、弁座を弁ボディと分離可能とすることにより、弁ボディを溶接せずに単一部品として成形できる。これにより、弁ボディの強度設計において、溶接時の荷重を考慮せずに済むので、弁ボディの外径を小さくできる。」

(6)「【0021】
<実施例1>
以下、本発明を具体化した実施例1を図1〜図3を参照して説明する。バルブ装置Aは、中心軸S1を上下方向に向けた円筒状の弁ボディ11を有している。弁ボディ11は、鍛造又は鋳造などにより成形されている。弁ボディ11の内部は中空部111となっている。中空部111の内周のうち上端部領域は、シール面114となっている。弁ボディ11の上端の開口部には、シール面114より直径が小さい縮径部112(請求項に記載のハードシール)が形成されている。中空部111の内周のうち上下方向の略中央領域には、シール面114よりも直径の大きい雌ネジ部115が形成されている。中空部111の下端の開口部(雌ネジ部115より下方の領域)は、雌ネジ部115よりも直径の大きい溶接部116となっている。」

(7)「【0024】
弁体13の外周面のうち下端側領域は、弁ボディ11の雌ネジ部115にねじ込まれている。これにより、弁体13は、回転力を付与することにより、弁ボディ11(中空部111)内で中心軸S1に沿って上昇又は下降する。弁体13を上昇させると、バルブ装置Aが開弁状態となり、中空部111のうち弁体13よりも下方の領域(雌ネジ部115の形成領域における下端側領域と溶接部116)が、冷媒を流通させるための弁通路113となる。
【0025】
弁ボディ11の外周には、円筒状をなす接続部12が突出形成されている。接続部12は、鍛造又は鋳造により弁ボディ11と一体に成形されている。接続部12には、図示しないパイプを接続するためのナット121が取り付けられている。接続部12内には、冷媒を流通させるための接続用通路122が、弁通路111に連通して形成されている。接続用通路122(接続部12)の中心軸S2は、弁ボディ11の中心軸S1に対して鋭角をなして交差している。
【0026】
中心軸S1と中心軸S2が交差する位置は、中空部111(弁通路113)のうち上下方向において雌ネジ部115と対応する高さ(弁座14よりも上方の位置)である。中心軸S2は、中心軸S1との交差位置から斜め上方へ延びている。したがって、接続用通路122は、接続部12の先端側から弁ボディ11内の溶接部116(弁座14)に向かって切削加工することによって形成されている。」

(8)「【0028】
弁ボディ11の下端の溶接部116には、弁座14が配置されている。弁座14は、弁ボディ11とは別体の部品として成形されたものである。弁座14は円環形をなしていて、弁座14の上端内周縁は、弁口141となっている。中空部111のうち雌ネジ部115の下端と溶接部116の上端との境界には、第2段差部117が形成されている。弁座14は、弁ボディ11の下方から溶接部116内に挿入される。そして、弁座14の上端部外周縁が、第2段差部117に当接することにより、弁座14は、弁ボディ11に対し上下方向に位置決めされるとともに、弁ボディ11に対し同軸状に位置決めされる。そして、弁座14は、ロウ付け(溶接)により、弁ボディ11(溶接部116)に固定されている。
【0029】
また、弁座14の内周のうち弁口141より下方の位置には、連結管15を位置決めするための第1段差部142が形成されている。弁座14内には、その下方から連結管15が挿入されている。連結管15の上端縁を第1段差部142に当接させることにより、連結管15は、弁座14に対し上下方向に位置決めされるとともに、弁座14に対し同軸状に位置決めされる。そして、連結管15は、ロウ付け(溶接)により、弁座14に固定されている。弁ボディ11に対する弁座14とロウ付けと、弁座14に対する連結管15のロウ付けは、同一工程で行われている。」

(9)「【0032】
また、弁ボディ11の中心軸S1と接続部12の中心軸S2が鋭角をなし、接続部12が弁ボディ11から斜め上方へ突出している。これにより、弁通路113と同軸状の連結管15と、接続用通路122とが鈍角状に連続するので、連結管15と接続用通路122との間の冷媒の流動抵抗が低減される。また、弁ボディの中心軸と接続部の中心軸が直角に交差する従来のバルブ装置に比べると、本実施例のバルブ装置Aは、接続部12を弁ボディ11から斜め上方へ突出させているので、弁ボディ11における接続部12との接続位置を取付部16に接近させ、弁ボディ11の高さを小さくすることができる。
【0033】
本実施例のバルブ装置Aは、弁ボディ11と接続部12を一体に成形し、弁ボディ11の上端部に縮径部112を形成しているので、弁体13は、弁座14を弁ボディ11に取り付ける前に、弁ボディ11の下方から中空部111内に収容される。さらに、弁座14と弁ボディ11は分離型構造なので、弁座14を弁ボディ11に取り付ける前に、接続用通路122の切削加工を行えば、加工用刃物が弁座14を傷つける心配が無い。これにより、弁通路113における接続用通路122との連通位置と、弁座14の設置位置とを上下に遠ざける必要がなくなるので、弁ボディ11の高さを抑え、バルブ装置Aが嵩高になるのを防止できる。」

上記(1)ないし(9)より、本件特許の発明の詳細な説明には、「冷媒の流路を開閉するためのバルブ装置に関する」(【0001】)発明として、従来のバルブ装置は、「接続用通路31が下弁ボディ2の軸線に対して斜めをなしているので、接続用通路31を切削加工する際には、接続部3の先端側から弁座5に向かって進入した切削用の刃物が、弁座5を傷付ける虞がある」(【0004】)ため、これを防止するために、「下弁ボディ2における接続用通路31の連通位置を、弁座5から上方へ遠ざけるように配置してい」(【0004】)たが、このために、「バルブ装置が全体として嵩高となってしまう」(【0004】)という課題があったことから、これを解決するために、「接続用通路122(接続部12)の中心軸S2は、弁ボディ11の中心軸S1に対して鋭角をなして交差している」(【0025】)状態において、「接続用通路122は、接続部12の先端側から弁ボディ11内の溶接部116(弁座14)に向かって切削加工することによって形成」(【0026】)し、「弁座14は、弁ボディ11とは別体の部品として成形され」(【0028】)、「弁ボディ11と接続部12を一体に成形し」(【0033】)、「弁座14を弁ボディ11に取り付ける前に、接続用通路122の切削加工を行えば、加工用刃物が弁座14を傷つける心配が無い」(【0033】)ことから、「弁通路113における接続用通路122との連通位置と、弁座14の設置位置とを上下に遠ざける必要がなく」(【0033】)し、「弁ボディ11の高さを抑え、バルブ装置Aが嵩高になるのを防止」(【0033】)した発明が記載されているといえる。
そして、本件訂正発明は、前記第3に示す通りであるところ、本件特許の請求項1及び3には、バルブ装置の弁座が「弁ボディに取り付ける前に前記弁ボディとは別体の部品として成形されて、前記弁ボディに取り付ける前に前記弁ボディとは分離型構造とされ」ているものであり、接続用通路の「中心軸S2が前記弁ボディの中心軸S1に対して鋭角をなし」ており、この接続用通路を「前記弁座を前記弁ボディに取り付ける前に前記切削加工を行うことによって、前記切削加工時における加工用刃物による前記弁座の傷つきの心配が無く、且つ前記弁通路における前記接続用通路の連通位置と前記弁座の設置位置とを上下に遠ざける必要をなくして、前記弁ボディの高さを抑える」ことが記載されている。
また、発明の詳細な説明には、このようなバルブ装置として、「円筒状の弁ボディ11を有し」(【0021】)、「弁ボディ11の内部は中空部111となっている」(【0021】)ものが示されている。そして、中空部111に関して、発明の詳細な説明の【0026】には、「中空部111(弁通路113)」と記載されており、中空部111が弁通路113であることが示されており、このことは、願書に添付した図面の【図3】(第2・4の「(1)について」参照)をみても、弁通路113と中空部111が同じ空間を指し示していることから、明らかである。そうすると、発明の詳細な説明には、上記課題を解決することができるバルブ装置として、「弁通路たる中空部を有し」た弁ボディについて記載されているといえる。
さらに、発明の詳細な説明の【0028】には、「弁座14の上端部外周縁が、第2段差部117に当接することにより、弁座14は、弁ボディ11に対し上下方向に位置決めされるとともに、弁ボディ11に対し同軸状に位置決めされる」と記載されていることから、発明の詳細な説明には、弁座14の上端部外周縁が第2段差部117に当接することにより、弁座14は、弁ボディ11に対し上下方向に位置決めされるだけでなく、弁ボディ11に対し同軸状に位置決めされることも記載されているといえる。そうすると、発明の詳細な説明には、上記課題を解決することができるバルブ装置として、「上端部外周縁が、前記第2段差部に当接することにより、前記弁ボディに対し上下方向に位置決めされるとともに、前記弁ボディに対し同軸状に位置決めされ」る弁座についても記載されているといえる。
これらのことから、本件特許の特許請求の範囲に記載された発明は、発明の詳細な説明に記載された発明であって、発明の詳細な説明において当業者が当該発明の課題を解決できると認識できるものといえるから、本件訂正発明は、サポート要件に適合するものであって、請求人の主張する無効理由5によって、本件訂正発明1ないし5にかかる特許を無効とすることはできない。
請求人は、本件訂正発明1及び3において特定される「弁通路たる中空部」という事項、及び「上端部外周縁が、前記第2段差部に当接することにより、前記弁ボディに対し上下方向に位置決めされるとともに、前記弁ボディに対し同軸状に位置決めされ、」という事項が発明の詳細な説明に記載されていない旨を主張する。しかし、これらの事項が、本件特許の発明の詳細な説明に記載されているといえるのは、上記のとおりであるから、請求人の主張は、採用することができない。

3 無効理由1について
(1)本件訂正発明1について
ア 本件訂正発明1と甲1発明1との対比及び一致点、相違点について
(ア)対比
本件訂正発明1と甲1発明1とを対比する。
a 甲1発明1の「冷媒を通す通路3」は、弁筐2の内部にL字形に形成されるもの(前記第5・1(1)エ参照)であって、甲1の図1及び図3の記載(前記第5・1(1)オ参照)からみて、弁棒1(本件訂正発明1の「弁体」に相当する。)も通るものであるから、甲1発明1の「冷媒を通す通路3たる中空部」は、本件訂正発明1の「冷媒を流通させる弁通路たる中空部」に相当する。また、甲1発明1の「前記中空部の内周のうち上下方向の略中央部分」、「ネジ部27」、「ロウ付け70」は、それぞれ、本件訂正発明1の「前記中空部の内周のうち上下方向の略中央領域」、「雌ネジ部」、「溶接部」に相当し、甲1発明1の「前記ネジ部27の下側と前記ロウ付け70の上側の間」と本件訂正発明1の「前記雌ネジ部の下端と前記溶接部の上端との境界」とは、「雌ネジ部の下側と溶接部の上側の間」である点で共通し、甲1発明1の「基部側段差部」、「筒形の受入筒部21及び基部22」は、それぞれ、本件訂正発明1の「第2段差部」、「円筒形の弁ボディ」に相当する。したがって、甲1発明1の「冷媒を通す通路3たる中空部を有し、前記中空部の内周のうち上下方向の略中央部分にはネジ部27が形成され、前記中空部の下端はロウ付け70となっており、前記ネジ部27の下側と前記ロウ付け70の上側の間に基部側段差部が形成された筒形の受入筒部21及び基部22」と、本件訂正発明1の「冷媒を流通させる弁通路たる中空部を有し、前記中空部の内周のうち上下方向の略中央領域には雌ネジ部が形成され、前記中空部の下端は溶接部となっており、前記雌ネジ部の下端と前記溶接部の上端との境界に第2段差部が形成された円筒形の弁ボディ」とは、「冷媒を流通させる弁通路たる中空部を有し、前記中空部の内周のうち上下方向の略中央領域には雌ネジ部が形成され、前記中空部の下端は溶接部となっており、前記雌ネジ部の下側と前記溶接部の上側との間に第2段差部が形成された円筒形の弁ボディ」である点で共通する。
b 甲1発明1の「基部22に配置され」る「前記ロウ付け70に固定された前記弁座8を形成する接続管7」は、本件訂正発明1の「弁ボディの下端部に配置され」る「前記溶接部に固定された弁座」に相当し、甲1発明1の「弁座8を形成する接続管7の先端小径部71と中間大径部72により形成される接続管側段差部が前記基部側段差部に当接すること」と本件訂正発明1の「(弁座の)上端部外周縁が、前記第2段差部に当接すること」とは、「(弁座の)段部が第2段差部に当接すること」で共通する。したがって、甲1発明1の「前記基部22に配置され、上端縁に弁口が形成され、弁座8を形成する接続管7の先端小径部71と中間大径部72により形成される接続管側段差部が前記基部側段差部に当接することにより、前記受入筒部21及び前記基部22に対し上下方向に位置決めされるとともに、前記受入筒部21及び前記基部22に対し同軸状に位置決めされ、前記受入筒部21及び前記基部22に取り付ける前に前記受入筒部21及び前記基部22とは別体の部品として成形されて、前記受入筒部21及び前記基部22に取り付ける前に前記受入筒部21及び前記基部22とは分離型構造とされ、ロウ付けにより、前記ロウ付け70に固定された前記弁座8を形成する接続管7」と本件訂正発明1の「前記弁ボディの下端部に配置され、上端縁に弁口が形成され、上端部外周縁が、前記第2段差部に当接することにより、前記弁ボディに対し上下方向に位置決めされるとともに、前記弁ボディに対し同軸状に位置決めされ、前記弁ボディに取り付ける前に前記弁ボディとは別体の部品として成形されて、前記弁ボディに取り付ける前に前記弁ボディとは分離型構造とされ、ロウ付けにより、前記溶接部に固定された弁座」とは、「前記弁ボディの下端部に配置され、上端縁に弁口が形成され、段部が、前記第2段差部に当接することにより、前記弁ボディに対し上下方向に位置決めされるとともに、前記弁ボディに対し同軸状に位置決めされ、前記弁ボディに取り付ける前に前記弁ボディとは別体の部品として成形されて、前記弁ボディに取り付ける前に前記弁ボディとは分離型構造とされ、ロウ付けにより、前記溶接部に固定された弁座」である点で共通する。
c 甲1発明1の「受入筒部21の内部に収容され」ること、「前記通路3を閉塞する」こと、「前記通路3を開放する」こと、「弁棒1」は、それぞれ、本件訂正発明1の「弁ボディの内部に収容され」ること、「前記弁通路を閉塞する」こと、「前記弁通路を開放する」こと、「弁体」に相当する。したがって、甲1発明1の「前記受入筒部21の内部に収容され、前記弁口に接触して前記通路3を閉塞する閉弁位置と、前記弁口から離間して前記通路3を開放する開弁位置との間で往復移動可能な弁棒1」は、本件訂正発明1の「前記弁ボディの内部に収容され、前記弁口に接触して前記弁通路を閉塞する閉弁位置と、前記弁口から離間して前記弁通路を開放する開弁位置との間で往復移動可能な弁体」に相当する。
d 甲1発明1の「前記受入筒部21及び前記基部22と一体に形成された外部配管継手部23」は、本件訂正発明1の「前記弁ボディに一体に形成された接続部」に相当する。
e 甲1発明1の「外部配管継手部23内に形成され」る「通路3」は、本件訂正発明1の「前記接続部内に形成され」る「接続用通路」に相当する。また、甲1発明1の「通路中心軸」、「前記受入筒部21及び前記基部22の基部中心軸」は、それぞれ本件訂正発明1の「中心軸S2」、「弁ボディの中心軸S1」に相当する。さらに、甲1発明1の「通路中心軸が前記受入筒部21及び前記基部22の基部中心軸に対して直角をなし」、「前記通路3の前記通路中心軸は、前記受入筒部21及び前記基部22の前記基部中心軸と交差する位置から前記受入筒部21及び前記基部22の前記基部中心軸に対し直角をなす方向に延びている」ことは、本件訂正発明1の「中心軸S2が前記弁ボディの中心軸S1に対して鋭角をなし」、「中心軸S2は、中心軸S1との前記交差する位置から斜め上方へ延びて」いることと、「中心軸が前記弁ボディの中心軸に対して所定の角度をなし」、「中心軸は、前記弁ボディの中心軸との前記交差する位置から所定方向へ延びている」点で共通する。したがって、甲1発明1の「前記外部配管継手部23内に形成され、通路中心軸が前記受入筒部21及び前記基部22の基部中心軸に対して直角をなし、前記受入筒部21及び前記基部22の前記基部中心軸と前記通路3の前記通路中心軸が交差する位置は、前記中空部のうち上下方向において前記ネジ部27と対応する高さであって、前記弁座8よりも上方の位置であり、前記通路3の前記通路中心軸は、前記受入筒部21及び前記基部22の前記基部中心軸と交差する位置から前記受入筒部21及び前記基部22の前記基部中心軸に対し直角をなす方向に延びている前記通路3」と、本件訂正発明1の「前記接続部内に形成され、中心軸S2が前記弁ボディの中心軸S1に対して鋭角をなし、中心軸S1と中心軸S2が交差する位置は、前記中空部のうち上下方向において前記雌ネジ部と対応する高さであって、前記弁座よりも上方の位置であり、中心軸S2は、中心軸S1との前記交差する位置から斜め上方へ延びて」いる「前記接続用通路」とは、「前記接続部内に形成され、中心軸が前記弁ボディの中心軸に対して所定の角度をなし、前記弁ボディの中心軸と中心軸が交差する位置は、前記中空部のうち上下方向において前記雌ネジ部と対応する高さであって、前記弁座よりも上方の位置であり、中心軸は、前記弁ボディの中心軸との前記交差する位置から所定方向へ延びている前記接続用通路」である点で共通する。
f 甲1発明1の「前記弁棒1が前記弁口から離間して開弁状態になると、前記外部配管継手部23内の前記通路3が前記基部22内の前記通路3と連通するようになって」いることは、本件訂正発明1の「前記弁体が前記弁口から離間して開弁状態になると、前記接続用通路が前記弁通路と連通するようになって」いることに相当する。
g 甲1発明1の「前記弁棒1の外周と前記受入筒部21の内周との間」は、本件訂正発明1の「前記弁体の外周と前記弁ボディの内周との間」に相当し、甲1発明1の「Oリング10」は、本件訂正発明1の「ソフトシールを構成するOリング」に相当する。したがって、甲1発明1の「前記弁棒1の外周と前記受入筒部21の内周との間には、Oリング10が設けられ」ることは、本件訂正発明1の「前記弁体の外周と前記弁ボディの内周との間には、ソフトシールを構成するOリングが設けられ」ることに相当する。
h 甲1発明1の「前記受入筒部21の頂部穴25の下側内縁」は、本件訂正発明1の「前記弁ボディの上端の開口部」に相当し、甲1発明1の「他方側圧接部5となる受入穴26より小径の環状エッジ部50」は、本件訂正発明1の「ハードシールを構成する縮径部」に相当する。したがって、甲1発明1の「前記受入筒部21の頂部穴25の下側内縁には、他方側圧接部5となる受入穴26より小径の環状エッジ部50が形成され」ることは、本件訂正発明1の「前記弁ボディの上端の開口部には、ハードシールを構成する縮径部が形成され」ることに相当する。
i 甲1発明1の「弁棒1の上端部外周」は、本件訂正発明1の「弁体の上端部外周」に相当し、甲1発明1の「前記縮径部と当接可能であって前記ハードシールを構成するテーパ状のシール部」は、本件訂正発明1の「前記環状エッジ部50と圧接可能であって前記環状エッジ部50と圧接されることによりシールを構成する環状テーパ面部40」に相当する。したがって、甲1発明1の「前記弁棒1の上端部外周には、前記環状エッジ部50と圧接可能であって前記環状エッジ部50と圧接されることによりシールを構成する環状テーパ面部40が形成されている」ことは、本件訂正発明1の「前記弁体の上端部外周には、前記縮径部と当接可能であって前記ハードシールを構成するテーパ状のシール部が形成されている」ことに相当する。

(イ)一致点及び相違点
上記(ア)より、本件訂正発明1と甲1発明とは、次の点で一致し、次の相違点1−1ないし相違点1−3で相違する。
・一致点
冷媒を流通させる弁通路たる中空部を有し、前記中空部の内周のうち上下方向の略中央領域には雌ネジ部が形成され、前記中空部の下端は溶接部となっており、前記雌ネジ部の下側と前記溶接部の上側との間に第2段差部が形成された円筒形の弁ボディと、
前記弁ボディの下端部に配置され、上端縁に弁口が形成され、段部が、前記第2段差部に当接することにより、前記弁ボディに対し上下方向に位置決めされるとともに、前記弁ボディに対し同軸状に位置決めされ、前記弁ボディに取り付ける前に前記弁ボディとは別体の部品として成形されて、前記弁ボディに取り付ける前に前記弁ボディとは分離型構造とされ、ロウ付けにより、前記溶接部に固定された弁座と、
前記弁ボディの内部に収容され、前記弁口に接触して前記弁通路を閉塞する閉弁位置と、前記弁口から離間して前記弁通路を開放する開弁位置との間で往復移動可能な弁体と、
前記弁ボディに一体に形成された接続部と、
前記接続部内に形成され、中心軸が前記弁ボディの中心軸に対して所定の角度をなし、弁ボディの中心軸と中心軸が交差する位置は、前記中空部のうち上下方向において前記雌ネジ部と対応する高さであって、前記弁座よりも上方の位置であり、中心軸は、弁ボディの中心軸との前記交差する位置から所定方向へ延びている前記接続用通路とを備え、
前記弁体が前記弁口から離間して開弁状態になると、前記接続用通路が前記弁通路と連通するようになっており、
前記弁体の外周と前記弁ボディの内周との間には、ソフトシールを構成するOリングが設けられ、
前記弁ボディの上端の開口部には、ハードシールを構成する縮径部が形成され、
前記弁体の上端部外周には、前記縮径部と当接可能であって前記ハードシールを構成するテーパ状のシール部が形成されていることを特徴とするバルブ装置。

・相違点1−1
本件訂正発明1では、雌ネジ部の下側と溶接部の上側との間に関して、「前記雌ネジ部の下端と前記溶接部の上端との境界」であり、また、弁座の段部が第2段差部に当接することに関して、「上端部外周縁が、前記第2段差部に当接する」ことであるのに対し、
甲1発明1では、雌ネジ部の下側と溶接部の上側との間に関して、前記ネジ部27の下側と前記ロウ付け70の上側の間であり、また、弁座の段部が第2段差部に当接することに関して、弁座8を形成する接続管7の先端小径部71と中間大径部72により形成される接続管側段差部が前記基部側段差部に当接することである点。

・相違点1−2
本件訂正発明1は、「弁ボディの外側面に配置された取付部」を備えるのに対し、
甲1発明1は、このような事項が特定されていない点。

・相違点1−3
本件訂正発明1では、接続用通路の「中心軸S2が前記弁ボディの中心軸S1に対して鋭角をなし、中心軸S1と中心軸S2が交差する位置は、前記中空部のうち上下方向において前記雌ネジ部と対応する高さであって、前記弁座よりも上方の位置であり、中心軸S2は、中心軸S1との前記交差する位置から斜め上方へ延びており」、接続用通路が、「前記接続部の先端側から前記弁ボディ内の前記溶接部に向かって切削加工することによって形成され」、「前記弁ボディと前記弁座の前記分離型構造と、前記弁座を前記弁ボディに取り付ける前に前記切削加工を行うこととによって、前記切削加工時における加工用刃物による前記弁座の傷つきの心配が無く、且つ前記弁通路における前記接続用通路の連通位置と前記弁座の設置位置とを上下に遠ざける必要をなくして、前記弁ボディの高さを抑える」のに対し、
甲1発明1では、通路中心軸が前記受入筒部21及び前記基部22の基部中心軸に対して直角をなし、前記受入筒部21及び前記基部22の前記基部中心軸と前記通路3の前記通路中心軸が交差する位置は、前記中空部のうち上下方向において前記ネジ部27と対応する高さであって、前記弁座8よりも上方の位置であり、前記通路3の前記通路中心軸は、前記受入筒部21及び前記基部22の前記基部中心軸と交差する位置から前記受入筒部21及び前記基部22の前記基部中心軸に対し直角をなす方向に延びており、また、弁座8の傷つきの心配が無く、且つ冷媒を通す通路3における接続管7の連通位置と弁座8の設置位置とを上下に遠ざける必要をなくして、受入筒部21及び基部22の高さを抑えることについては、特定されていない点。

イ 判断
事案に鑑み、相違点1−3から検討する。
まず、本件訂正発明1の相違点1−3に係る発明特定事項は、前記相違点1−3に示すとおりであるところ、本件訂正発明1は、このような発明特定事項を備えることにより、弁座を弁ボディに取り付けた後に接続用通路の切削加工を行う場合に、加工用刃物が弁座に接触して弁座を傷つけない程度に、弁座の設置位置が接続用通路の連通位置から離れているときよりも、弁ボディの高さを抑え、弁座に傷をつけることなく、「バルブ装置が全体として嵩高となってしまう」(【0004】)という課題を解決したものである(前記1(2)及び2参照。)。
これに対し、甲1には、外部配管継手部23内に形成されている通路3の加工により、接続管7の端部である弁座8あるいは、弁座8の周辺の基部22を傷つける心配がある旨の記載も示唆もない。また、中心軸が弁ボディの中心軸に対して鋭角であって、接続用通路が、接続部の先端側から弁ボディ内の溶接部に向かって切削加工することによって形成されるバルブ装置において、切削加工時における加工用刃物による弁座の傷つきの心配が無く、且つ弁通路における接続用通路の連通位置と弁座の設置位置とを上下に遠ざける必要をなくして、弁ボディの高さを抑えるという技術思想は、甲1、甲2及び甲4ないし7のいずれにも開示がなく、当該事項が周知の事項であったと認めうる証拠は見あたらない。
そして、甲1発明1をみると、外部配管継手部23内に形成されている通路3の通路中心軸が前記受入筒部21及び前記基部22の基部中心軸に対して直角をなしているものであるから、この外部配管継手部23内に形成されている通路3の加工にあたって用いられる加工工具も受入筒部21及び基部22の基部中心軸に対して直角方向に置かれることとなり、当該加工工具の延長線上に接続管7の端部である弁座8は、存在しない。すなわち、甲1発明1は、基部中心軸と通路中心軸が直角であり、外部配管継手部23内に形成されている通路3の加工により、接続管7の端部である弁座8あるいは、弁座8の周辺の基部22を傷つける心配の余地はない。そうすると、そもそも、中心軸が弁ボディの中心軸に対して鋭角であって、接続用通路が、接続部の先端側から弁ボディ内の溶接部に向かって切削加工することによって形成されるバルブ装置において、切削加工時における加工用刃物による弁座の傷つきの心配が無く、且つ弁通路における接続用通路の連通位置と弁座の設置位置とを上下に遠ざける必要をなくして、弁ボディの高さを抑えるという技術思想は、甲1、甲2及び甲4ないし7のいずれにも開示がなく、また、甲1発明1には、中心軸が弁ボディの中心軸に対して鋭角という前提を欠くものであるから、「前記弁ボディと前記弁座の前記分離型構造と、前記弁座を前記弁ボディに取り付ける前に前記切削加工を行うこととによって、前記切削加工時における加工用刃物による前記弁座の傷つきの心配が無」いようにしつつ、「前記弁通路における前記接続用通路の連通位置と前記弁座の設置位置とを上下に遠ざける必要をなくして、前記弁ボディの高さを抑える」ようにする動機がなく、上記相違点1−3にかかる本件訂正発明1の発明特定事項を得ることが当業者にとって容易であるとはいえない。
また、本件訂正発明1は、相違点1−3に係る本件訂正発明1の発明特定事項を備えることによって、接続用通路の中心軸と弁ボディの中心軸がなす所定角度が鋭角であり、接続用通路の中心軸S2は、斜め上方へ延びているものであっても、「加工用刃物が弁座14を傷つける心配がない」(本件特許明細書の【0039】)という甲1発明1及び甲2に記載された事項又は周知技術からは得られない効果を奏するものである。
そうすると、相違点1−3に係る本件訂正発明1の発明特定事項を得ることは、甲1発明1、甲2に記載された事項及び周知技術から当業者が容易になしえたものとは、いえない。
よって、本件訂正発明1は、相違点1−1及び1−2を検討するまでもなく、甲1発明1、甲2に記載された事項及び周知技術から当業者が容易になしえたものとはいえない。

請求人は、本件訂正発明1において、接続用通路が、「前記接続部の先端側から前記弁ボディ内の前記溶接部に向かって切削加工することによって形成され」、「前記弁ボディと前記弁座の前記分離型構造と、前記弁座を前記弁ボディに取り付ける前に前記切削加工を行うこととによって、前記切削加工時における加工用刃物による前記弁座の傷つきの心配が無く、且つ前記弁通路における前記接続用通路の連通位置と前記弁座の設置位置とを上下に遠ざける必要をなくして、前記弁ボディの高さを抑える」とされていることは、プロダクト・バイ・プロセスクレームに相当し、当該プロセスによって得られる構造特性等により発明の要旨が認定されるべきであって、当該プロセスによって得られる構造、特性等は、甲1に記載された発明と実質的に同一であると主張するが、本件訂正発明1の当該事項は、前記1に示すように、物の発明として明確であって、本件訂正発明1の相違点1−3に係る事項が甲1に記載されておらず、また、甲1発明1及び甲2に記載された事項及び周知技術から容易に得られるものではないことは上記のとおりであるから、請求人の主張は採用することができない。

ウ 本件訂正発明1に対する無効理由1についての結論
以上のことから、本件訂正発明1は、甲1に記載された発明、甲2に記載された事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、請求人の主張する無効理由1によって、本件訂正発明1にかかる特許を無効とすることはできない。

(2)本件訂正発明2について
本件訂正発明2は、本件訂正発明1をさらに限定した発明であるから、本件訂正発明1と同様に、甲1に記載された発明、甲2に記載された事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、請求人の主張する無効理由1によって、本件訂正発明1にかかる特許を無効とすることはできない。

(3)本件訂正発明3について
本件訂正発明3と甲1発明2とを対比すると、本件訂正発明1と甲1発明1とを対比した前記(1)アに示すのと同様に対比することができ、さらに、甲1発明2の「サービスポート部24」、「サービスポート内通路」は、それぞれ本件訂正発明3の「サービスポート」、「充填用通路」に相当する。したがって、甲1発明2の「前記受入筒部21及び前記基部22に一体に形成されたサービスポート部24と、前記サービスポート部24内に形成され、中心軸が前記受入筒部21及び前記基部22の前記基部中心軸に対して交差する向きのサービスポート内通路とを備え、前記弁棒1が前記弁口から離間して開弁状態になると、前記外部配管継手部23内の前記通路3と前記サービスポート内通路と前記基部22内の前記通路3とが連通するようになって」(改行及び空白を省略した。以下同様。)いることは、本件訂正発明3の「前記弁ボディに一体に形成されたサービスポートと、前記サービスポート内に形成され、中心軸が前記弁ボディの前記中心軸に対して交差する向きの充填用通路とを備え、前記弁体が前記弁口から離間して開弁状態になると、前記接続用通路と前記充填用通路と前記弁通路とが連通するようになって」いることに相当する。これらのことから、本件訂正発明3と甲1発明2とは、次の一致点を有し、前記本件訂正発明1と甲1発明1との相違点である相違点1−1ないし1−3と同じ点で相違する。

・一致点
冷媒を流通させる弁通路たる中空部を有し、前記中空部の内周のうち上下方向の略中央領域には雌ネジ部が形成され、前記中空部の下端は溶接部となっており、前記雌ネジ部の下側と前記溶接部の上側との間に第2段差部が形成された円筒形の弁ボディと、
前記弁ボディの下端部に配置され、上端縁に弁口が形成され、段部が、前記第2段差部に当接することにより、前記弁ボディに対し上下方向に位置決めされるとともに、前記弁ボディに対し同軸状に位置決めされ、前記弁ボディに取り付ける前に前記弁ボディとは別体の部品として成形されて、前記弁ボディに取り付ける前に前記弁ボディとは分離型構造とされ、ロウ付けにより、前記溶接部に固定された弁座と、
前記弁ボディの内部に収容され、前記弁口に接触して前記弁通路を閉塞する閉弁位置と、前記弁口から離間して前記弁通路を開放する開弁位置との間で往復移動可能な弁体と、
前記弁ボディに一体に形成された接続部と、
前記接続部内に形成され、中心軸S2が前記弁ボディの中心軸S1に対して所定の角度をなし、中心軸S1と中心軸S2が交差する位置は、前記中空部のうち上下方向において前記雌ネジ部と対応する高さであって、前記弁座よりも上方の位置であり、中心軸S2は、中心軸S1との前記交差する位置から所定方向へ延びている前記接続用通路と、
前記弁ボディに一体に形成されたサービスポートと、
前記サービスポート内に形成され、中心軸が前記弁ボディの前記中心軸に対して交差する向きの充填用通路とを備え、
前記弁体が前記弁口から離間して開弁状態になると、前記接続用通路と前記充填用通路と前記弁通路とが連通するようになっており、
前記弁体の外周と前記弁ボディの内周との間には、ソフトシールを構成するOリングが設けられ、
前記弁ボディの上端の開口部には、ハードシールを構成する縮径部が形成され、
前記弁体の上端部外周には、前記縮径部と当接可能であって前記ハードシールを構成するテーパ状のシール部が形成されていることを特徴とするバルブ装置。

そして、上記(1)イにおいて示した、本件訂正発明1の相違点1−3に係る発明特定事項を得ることが、甲1発明1、甲2に記載された事項及び周知技術から当業者が容易になしえたものとはいえないのと同様の理由により、本件訂正発明3の相違点1−3に係る発明特定事項を得ることが、甲1発明2、甲2に記載された事項及び周知技術から当業者が容易になしえたものとはいえないから、本件訂正発明3は、相違点1−1及び1−2を検討するまでもなく、甲1に記載された発明、甲2に記載された事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、請求人の主張する無効理由1によって、本件訂正発明3にかかる特許を無効とすることはできない。

(4)本件訂正発明4及び5について
本件訂正発明4及び5は、本件訂正発明3をさらに限定した発明であるから、本件訂正発明3と同様に、上記(1)イにおいて示したと同様の理由により、甲1に記載された発明、甲2に記載された事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、請求人の主張する無効理由1によって、本件訂正発明4及び5にかかる特許を無効とすることはできない。

4 無効理由2について
(1)本件訂正発明1について
ア 本件訂正発明1と甲2発明1との対比及び一致点、相違点について
(ア)対比
本件訂正発明1と甲2発明1とを対比する。
a 甲2発明1の「通孔93」、「弁棒ガイドねじ部95」、「刻設され」は、本件訂正発明1の「中空部」、「雌ネジ部」、「形成され」に相当する。甲2発明1の「弁座固定ねじ部94」と本件訂正発明1の「溶接部」とは、弁座固定部である点で共通し、甲2発明1の「段差部」、「弁箱91」は、本件訂正発明1の「第2段差部」、「弁ボディ」に相当する。したがって、甲2発明1の「冷媒を流通させる弁通路たる通孔93を有し、前記通孔93の内周のうち上下方向の略中央領域には弁棒ガイドねじ部95が刻設され、前記通孔93の下部は弁座固定ねじ部94となっており、前記弁座固定ねじ部94の下端部に段差部が形成された円筒形の弁箱91」と本件訂正発明1の「冷媒を流通させる弁通路たる中空部を有し、前記中空部の内周のうち上下方向の略中央領域には雌ネジ部が形成され、前記中空部の下端は溶接部となっており、前記雌ネジ部の下端と前記溶接部の上端との境界に第2段差部が形成された円筒形の弁ボディ」とは、「冷媒を流通させる弁通路たる中空部を有し、前記中空部の内周のうち上下方向の略中央領域には雌ネジ部が形成され、前記中空部の下端は弁座固定部となっており、第2段差部が形成された円筒形の弁ボディ」である点で共通する。
b 甲2発明1の「弁箱91の外周面」、「設けられた」、「フランジ92」は、本件訂正発明1の「弁ボディの外側面」、「配置された」、「取付部」に相当する。したがって、甲2発明1の「前記弁箱91の外周面に設けられたフランジ92」は、本件訂正発明1の「前記弁ボディの外側面に配置された取付部」に相当する。
c 甲2発明1の「弁口の下側の段部」は、本件訂正発明1の「上端部外周縁」と弁座位置決め部である点で共通する。したがって、甲2発明1の「弁口の下側の段部が前記段差部に当接することにより、前記弁箱91に対し、上下方向に位置決めされる」ことは、本件訂正発明1の「上端部外周縁が、前記第2段差部に当接することにより、前記弁ボディに対し上下方向に位置決めされる」ことと「弁座位置決め部が、前記第2段差部に当接することにより、前記弁ボディに対し上下方向に位置決めされる」点で共通し、甲2発明1の「弁座固定ねじ部94に捩じ込むことにより、前記弁箱91に対し同軸状に位置決めされ」ることと本件訂正発明1の「上端部外周縁が、前記第2段差部に当接することにより」、「前記弁ボディに対し同軸状に位置決めされ」ることとは、「同軸状固定手段により、前記弁ボディに対し同軸状に位置決めされる」点で共通する。甲2発明1の「捩じ込みにより、前記弁座固定ねじ部94に固定された」ことは、本件訂正発明2の「ロウ付けにより、前記溶接部に固定された」ことと「弁座固定部に固定された」点で共通する。また、甲2発明1の「ブッシュ103」は、本件訂正発明1の「弁座」に相当する。したがって、甲2発明1の「前記弁箱91の下端部に配置され、上端縁に弁口が形成され、弁口の下側の段差部が前記段差部に当接することにより、前記弁箱91に対し、上下方向に位置決めされるとともに、弁座固定ねじ部94に捩じ込むことにより、前記弁箱91に対し同軸状に位置決めされ、前記弁箱91に取り付ける前に前記弁箱91とは別体の部品として成形されて、前記弁箱91に取り付ける前に前記弁箱91とは分離型構造とされ、捩じ込みにより、前記弁座固定ねじ部94に固定されたブッシュ103」と本件訂正発明1の「前記弁ボディの下端部に配置され、上端縁に弁口が形成され、上端部外周縁が、前記第2段差部に当接することにより、前記弁ボディに対し上下方向に位置決めされるとともに、前記弁ボディに対し同軸状に位置決めされ、前記弁ボディに取り付ける前に前記弁ボディとは別体の部品として成形されて、前記弁ボディに取り付ける前に前記弁ボディとは分離型構造とされ、ロウ付けにより、前記溶接部に固定された弁座」とは、「弁ボディの下端部に配置され、上端縁に弁口が形成され、弁座位置決め部が、前記第2段差部に当接することにより、前記弁ボディに対し上下方向に位置決めされるとともに、同軸状固定手段により、前記弁ボディに対し同軸状に位置決めされ、前記弁ボディに取り付ける前に前記弁ボディとは別体の部品として成形されて、前記弁ボディに取り付ける前に前記弁ボディとは分離型構造とされ、前記弁座固定部に固定された弁座」である点で共通する。
d 甲2発明1の「リフトして」、「弁体107」は、本件訂正発明1の「離間して」、「弁体」に相当する。したがって、甲2発明1の「前記弁箱91の内部に収容され、前記弁口に接触して前記弁通路を閉塞する閉弁位置と、前記弁口からリフトして前記弁通路を開放する開弁位置との間で往復移動可能な弁体107」は、本件訂正発明1の「前記弁ボディの内部に収容され、前記弁口に接触して前記弁通路を閉塞する閉弁位置と、前記弁口から離間して前記弁通路を開放する開弁位置との間で往復移動可能な弁体」に相当する。
e 甲2発明1の「前記弁箱91に一体に形成された接続部」は、本件訂正発明1の「前記弁ボディに一体に形成された接続部」に相当する。
f 甲2発明1の「中心軸T2」、「中心軸T1」、「30°〜60°」は、それぞれ本件訂正発明1の「中心軸S2」、「中心軸S1」、「鋭角」に相当する。また、甲2発明1の「中心軸T2と中心軸T1が交差する位置は、前記通孔93のうち上下方向において前記弁棒ガイドねじ部95と対応する高さよりも下側であって」は、本件訂正発明1の「中心軸S1と中心軸S2が交差する位置は、前記中空部のうち上下方向において前記雌ネジ部と対応する高さであって、前記弁座よりも上方の位置であり」と「弁ボディの中心軸と接続用通路の中心軸が交差する位置は、前記中空部の所定位置であ」る点で共通する。さらに、甲2発明1の「前記接続部に形成された」は、本件訂正発明1の「前記接続部の先端側から前記弁ボディ内の前記溶接部に向かって切削加工することによって形成された」と、接続部に形成された点で共通し、甲2発明1の「チューブ差込み孔97」は、本件訂正発明1の「接続用通路」に相当する。したがって、甲2発明1の「前記接続部内に形成され、中心軸T2が前記弁箱91の中心軸T1に対して30°〜60°をなし、中心軸T2と中心軸T1が交差する位置は、前記通孔93のうち上下方向において前記弁棒ガイドねじ部95と対応する高さよりも下側であって、中心軸T2は、中心軸T1との前記交差する位置から斜め上方へ延びており、前記接続部に形成されたチューブ差込み孔97」は、本件訂正発明1の「前記接続部内に形成され、中心軸S2が前記弁ボディの中心軸S1に対して鋭角をなし、中心軸S1と中心軸S2が交差する位置は、前記中空部のうち上下方向において前記雌ネジ部と対応する高さであって、前記弁座よりも上方の位置であり、中心軸S2は、中心軸S1との前記交差する位置から斜め上方へ延びており、前記接続部の先端側から前記弁ボディ内の前記溶接部に向かって切削加工することによって形成された接続用通路」と、「接続部内に形成され、中心軸が前記弁ボディの中心軸に対して鋭角をなし、前記弁ボディの中心軸と中心軸が交差する位置は、前記中空部の所定位置であり、中心軸は、前記弁ボディの中心軸との前記交差する位置から斜め上方へ延びており、前記接続部に形成された接続用通路」である点で共通する。
g 甲2発明1の「前記弁体107が前記弁口からリフトして開弁状態になると、前記チューブ差込み孔97が前記弁通路と連通するようになって」いることは、本件訂正発明1の「前記弁体が前記弁口から離間して開弁状態になると、前記接続用通路が前記弁通路と連通するようになって」いることに相当する。
h 甲2発明1の「Oリング111」は、本件訂正発明1の「ソフトシールを構成するOリング」に相当する。したがって、甲2発明1の「前記弁体の外周と弁箱の内周との間には、Oリング111が設けられている」ことは、本件訂正発明1の「前記弁体の外周と前記弁ボディの内周との間には、ソフトシールを構成するOリングが設けられ」ていることに相当する。
i 甲2発明1の「ストップ弁」は、本件訂正発明1の「バルブ装置」に相当する。

(イ)一致点及び相違点
上記(ア)より、本件訂正発明1と甲2発明1とは、次の点で一致し、次の相違点2−1ないし相違点2−4で相違する。
・一致点
冷媒を流通させる弁通路たる中空部を有し、前記中空部の内周のうち上下方向の略中央領域には雌ネジ部が形成され、前記中空部の下端は弁座固定部となっており、第2段差部が形成された円筒形の弁ボディと、
前記弁ボディの外側面に配置された取付部と、
弁ボディの下端部に配置され、上端縁に弁口が形成され、弁座位置決め部が、前記第2段差部に当接することにより、前記弁ボディに対し上下方向に位置決めされるとともに、同軸状固定手段により、前記弁ボディに対し同軸状に位置決めされ、前記弁ボディに取り付ける前に前記弁ボディとは別体の部品として成形されて、前記弁ボディに取り付ける前に前記弁ボディとは分離型構造とされ、前記弁座固定部に固定された弁座と、
前記弁ボディの内部に収容され、前記弁口に接触して前記弁通路を閉塞する閉弁位置と、前記弁口から離間して前記弁通路を開放する開弁位置との間で往復移動可能な弁体と、
前記弁ボディに一体に形成された接続部と、
前記接続部内に形成され、中心軸が前記弁ボディの中心軸に対して鋭角をなし、前記弁ボディの中心軸と中心軸が交差する位置は、前記中空部の所定位置であり、中心軸は、前記弁ボディの中心軸との前記交差する位置から斜め上方へ延びており、前記接続部に形成された接続用通路とを備え、
前記弁体が前記弁口から離間して開弁状態になると、前記接続用通路が前記弁通路と連通するようになっており、
前記弁体の外周と前記弁ボディの内周との間には、ソフトシールを構成するOリングが設けられている
バルブ装置。

・相違点2−1
弁ボディに対し弁座を固定する点に関し、本件訂正発明1は、弁ボディの「中空部の下端は溶接部となっており」、弁座は、「ロウ付けにより、前記溶接部に固定され」ると共に、「雌ネジ部の下端と前記溶接部の上端との境界に第2段差部が形成され」、弁座の「上端部外周縁が、前記第2段差部に当接することにより」、「前記弁ボディに対し同軸状に位置決めされ」るのに対し、
甲2発明1は、弁箱91の「通孔93の下部は弁座固定ねじ部94となっており」、「前記弁座固定ねじ部94の下端部に段差部が形成され」、ブッシュ103は、「弁口の下側の段部が前記段差部に当接することにより、前記弁箱91に対し、上下方向に位置決めされ」、「捩じ込みにより、前記弁座固定ねじ部94に固定され」ると共に、「弁座固定ねじ部94に捩じ込むことにより、前記弁箱91に対し同軸状に位置決めされ」る点。

・相違点2−2
接続用通路の中心軸と弁ボディの中心軸の交差する位置に関して、本件訂正発明1は、弁ボディの中心軸S1と接続用通路の中心軸S2の交差する位置は、「前記中空部のうち上下方向において前記雌ネジ部と対応する高さであって、前記弁座よりも上方の位置であ」るのに対し、
甲2発明1は、弁箱91の中心軸T1とチューブ差込み孔97の中心軸T2が交差する位置は、「前記通孔93のうち上下方向において前記弁棒ガイドねじ部95と対応する高さよりも下側であ」る点。

・相違点2−3
本件訂正発明1は、接続用通路が「接続部の先端側から前記弁ボディ内の前記溶接部に向かって切削加工することによって形成された」ものであって、「前記弁ボディと前記弁座の前記分離型構造と、前記弁座を前記弁ボディに取り付ける前に前記切削加工を行うこととによって、前記切削加工時における加工用刃物による前記弁座の傷つきの心配が無く、且つ前記弁通路における前記接続用通路の連通位置と前記弁座の設置位置とを上下に遠ざける必要をなくして、前記弁ボディの高さを抑え」ているものであるのに対し、
甲2発明1のチューブ差込み孔97は、このような事項が特定されていない点。

・相違点2−4
本件訂正発明1は、「前記弁ボディの上端の開口部には、ハードシールを構成する縮径部が形成され、前記弁体の上端部外周には、前記縮径部と当接可能であって前記ハードシールを構成するテーパ状のシール部が形成されている」のに対し、
甲2発明1は、このようなハードシールが構成されていない点。

イ 判断
事案に鑑み相違点2−2及び2−3から検討する。
(ア)相違点2−2について
甲2発明1において、弁箱91の中心軸T1とチューブ差込み孔97の中心軸T2が交差する位置を弁棒ガイドねじ部95と対応する高さとするには、弁箱91に対するチューブ差込み孔97の接続位置や接続角度を調節する必要がある。
しかしながら、甲2において、弁箱91の中心軸T1とチューブ差込み孔97の中心軸T2が交差する位置を弁棒ガイドねじ部95と対応する高さとするために、弁箱91に対するチューブ差込み孔97の接続位置や接続角度を調節することは一切記載がなく、また、かかる事項が周知の事項であったと認めうる証拠は見あたらない。そうすると、甲2発明1において、弁箱91の中心軸T1とチューブ差込み孔97の中心軸T2が交差する位置を弁棒ガイドねじ部95と対応する高さとすることの積極的な動機はない。
また、仮に、甲2発明1において、弁箱91の中心軸T1とチューブ差込み孔97の中心軸T2が交差する位置を弁棒ガイドねじ部95と対応する高さとすることを想起したとして、チューブ差込み孔97を弁箱91に対してより上側(甲2の図11においては下側)に接続するようにすると、弁箱91の中心軸T1とチューブ差込み孔97の中心軸T2が交差する位置を弁棒ガイドねじ部95と対応する高さとすることができるが、ストップ弁の開弁時には、流路を確保するために、この接続位置よりも上側に弁棒101を退避させなければならないから、その結果、通孔93を上下方向に長くする必要が生じ、弁箱91も上下方向に長くなる。これは、弁箱91の上端部付近と銅管105との距離(甲2の図13(第5・2(1)エ参照)のH1)を大きくするから、ストップ弁が横方向に広がり、標準エアコン用孔を容易に通過させることができなくなる可能性が生じることとなる。このことは、甲2に記載された発明の課題である「弁棒を傾斜させることにより、ストップ弁をスリムにすることができ」(【0010】(第5・2(1)イ参照))、「スリム化することでストップ弁を標準エアコン用孔を容易に通過させることができる」(【0010】(第5・2(1)イ参照))ことと相反する。したがって、チューブ差込み孔97が弁箱91に接続される位置を上側に移動させることにも阻害要因があるといえる。
そうすると、甲2発明1において、弁箱91の中心軸T1とチューブ差込み孔97の中心軸T2が交差する位置を弁棒ガイドねじ部95と対応する高さとすることには、積極的な動機がなく、仮に、甲2発明1において、かかる構成とすることを想起したとしても、阻害要因があるといえるから、甲2発明1において、上記相違点2−2に係る本件訂正発明1の発明特定事項を得ることは、当業者が容易になしえたこととはいえない。

(イ)相違点2−3について
前記(ア)に示すように、相違点2−2に係る本件訂正発明1の発明特定事項を得ることは、当業者にとって容易になしえたものとはいえないが、仮に甲2発明1において、弁箱91の中心軸T1とチューブ差込み孔97の中心軸T2が交差する位置を弁棒ガイドねじ部95と対応する高さとすることができたとして、相違点2−3について、検討する。
まず、甲2には、チューブ差込み孔97を切削加工するときに、弁口が形成されたブッシュ103を傷つける心配があることについては、記載も示唆もされておらず、また、このような事項は甲1にも記載されておらず、周知技術でもない。
そうすると、仮に、甲2発明1において、弁箱91の中心軸T1とチューブ差込み孔97の中心軸T2が交差する位置を弁棒ガイドねじ部95と対応する高さとすることができたとしても、甲2発明1において、「前記弁ボディと前記弁座の前記分離型構造と、前記弁座を前記弁ボディに取り付ける前に前記切削加工を行うこととによって、前記切削加工時における加工用刃物による前記弁座の傷つきの心配が無く、且つ前記弁通路における前記接続用通路の連通位置と前記弁座の設置位置とを上下に遠ざける必要をなくして、前記弁ボディの高さを抑え」るが表している、弁座を弁ボディに取り付けた後に接続用通路の切削加工を行うと弁座を傷つけてしまう程度に、弁座の設置位置が接続用通路の連通位置に近接している状態にすること(前記1(2)ウ参照)を当業者が容易になしえたものとはいえず、相違点2−3に係る本件訂正発明1の発明特定事項を得ることは当業者が容易になしえたこととはいえない。

よって、本件訂正発明1は、相違点2−1及び2−4を検討するまでもなく、甲2発明1、甲1に記載された事項から当業者が容易になしえたものとはいえない。
請求人は、本件訂正発明1の「前記弁ポディ(11)と前記弁座(14)の前記分離型構造と、前記弁座(14)を前記弁ボディ(11)に取り付ける前に前記切削加工を行うこととによって、前記切削加工時における加工用刃物による前記弁座(14)の傷つきの心配が無く、且つ前記弁通路(113)における前記接続用通路(122)の連通位置と前記弁座(14)の設置位置とを上下に遠ざける必要をなくして、前記弁ボディ(11)の高さを抑える」という構成については、甲2に記載された発明と相違ないと主張するが、上記のように、甲2には、相違点2−3に係る本件訂正発明1の発明特定事項は、記載されておらず、甲2発明1において、弁箱91の中心軸T1とチューブ差込み孔97の中心軸T2が交差する位置が弁棒ガイドねじ部95と対応する高さとなるようにした場合に、相違点2−3にかかる本件訂正発明1の発明特定事項を得ることが容易とはいえないのは、前記のとおりであるから、請求人の主張は採用することができない。

ウ 本件訂正発明1に対する無効理由2についての結論
以上のことから、本件訂正発明1は、甲2に記載された発明、甲1に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、請求人の主張する無効理由2によって、本件訂正発明1にかかる特許を無効とすることはできない。

(2)本件訂正発明2について
本件訂正発明2は、本件訂正発明1をさらに限定した発明であるから、本件訂正発明1と同様に、甲2に記載された発明、甲1に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、請求人の主張する無効理由2によって、本件訂正発明2にかかる特許を無効とすることはできない。

(3)本件訂正発明3
本件訂正発明3と甲2発明2とを対比すると、本件訂正発明1と甲2発明1とを対比した前記(1)アに示すのと同様に対比することができ、さらに、甲2発明2の「冷媒出入れ口機構40」、「冷媒充填用の通路」は、それぞれ本件訂正発明3の「サービスポート」、「充填用通路」に相当する。したがって、甲2発明2の「前記弁箱91に一体に形成された冷媒出入れ口機構40と、前記冷媒出入れ口機構40内に形成され、中心軸が前記弁箱91の前記中心軸T1に対して交差する向きの冷媒充填用の通路とを備え、前記弁体107が前記弁口からリフトして開弁状態になると、前記チューブ差込み孔97と前記冷媒充填用の通と前記弁通路とが連通するようになって」いることは、本件訂正発明3の「前記弁ボディに一体に形成されたサービスポートと、前記サービスポート内に形成され、中心軸が前記弁ボディの前記中心軸に対して交差する向きの充填用通路とを備え、前記弁体が前記弁口から離間して開弁状態になると、前記接続用通路と前記充填用通路と前記弁通路とが連通するようになって」いることに相当する。これらのことから、本件訂正発明3と甲2発明2とは、次の一致点を有し、前記本件訂正発明1と甲2発明1との相違点である相違点2−1ないし2−4と同じ点で相違する。

・一致点
冷媒を流通させる弁通路たる中空部を有し、前記中空部の内周のうち上下方向の略中央領域には雌ネジ部が形成され、前記中空部の下端は弁座固定部となっており、第2段差部が形成された円筒形の弁ボディと、
前記弁ボディの外側面に配置された取付部と、
弁ボディの下端部に配置され、上端縁に弁口が形成され、弁座位置決め部が、前記第2段差部に当接することにより、前記弁ボディに対し上下方向に位置決めされるとともに、同軸状固定手段により、前記弁ボディに対し同軸状に位置決めされ、前記弁ボディに取り付ける前に前記弁ボディとは別体の部品として成形されて、前記弁ボディに取り付ける前に前記弁ボディとは分離型構造とされ、前記弁座固定部に固定された弁座と、
前記弁ボディの内部に収容され、前記弁口に接触して前記弁通路を閉塞する閉弁位置と、前記弁口から離間して前記弁通路を開放する開弁位置との間で往復移動可能な弁体と、
前記弁ボディに一体に形成された接続部と、
前記接続部内に形成され、中心軸S2が前記弁ボディの中心軸S1に対して鋭角をなし、中心軸S1と中心軸S2が交差する位置は、前記中空部の所定位置であり、中心軸S2は、中心軸S1との前記交差する位置から斜め上方へ延びており、前記接続部に形成された接続用通路と、
前記弁ボディに一体に形成されたサービスポートと、
前記サービスポート内に形成され、中心軸が前記弁ボディの前記中心軸に対して交差する向きの充填用通路とを備え、
前記弁体が前記弁口から離間して開弁状態になると、前記接続用通路と前記充填用通路と前記弁通路とが連通するようになっており、
前記弁体の外周と前記弁ボディの内周との間には、ソフトシールを構成するOリングが設けられている
バルブ装置。

そして、本件訂正発明1の相違点2−2及び2−3に係る発明特定事項を得ることが、甲2発明1、甲1に記載された事項から当業者が容易になしえたものとはいえないのと同様に、本件訂正発明3の相違点2−2及び2−3に係る発明特定事項を得ることが、甲2発明2、甲1に記載された事項から当業者が容易になしえたものとはいえないから、本件訂正発明3は、相違点2−1及び2−4を検討するまでもなく、甲2に記載された発明、甲1に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、請求人の主張する無効理由2によって、本件訂正発明3にかかる特許を無効とすることはできない。

(4)本件訂正発明4及び5について
本件訂正発明4及び5は、本件訂正発明3をさらに限定した発明であるから、本件訂正発明3と同様に、甲2に記載された発明、甲1に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、請求人の主張する無効理由2によって、本件訂正発明4及び5にかかる特許を無効とすることはできない。

5 無効理由3について
(1)本件訂正発明1について
ア 本件訂正発明1と甲3発明1との対比及び一致点、相違点について
(ア)対比
本件訂正発明1と甲3発明1とを対比する。
a 甲3発明1の「第1冷媒通路1」は、本体部31及び下方配管接続部33の内部に形成され(前記第5・3(1)キの図3及び図17参照)るものであって、甲3の図3及び図17の記載からみて、弁棒7(本件訂正発明1の「弁体」に相当する。)も通るものであるから、甲3発明1の「第1冷媒通路1たる中空部」は、本件訂正発明1の「冷媒を流通させる弁通路たる中空部」に相当する。また、甲3発明1の「前記中空部の内周のうち上下方向の略中央部分」、「主ネジ38」は、それぞれ、本件訂正発明1の「前記中空部の内周のうち上下方向の略中央領域」、「雌ネジ部」に相当し、甲3発明1の「下方配管接続部33」は、弁座部材4及び機内配管10をロウ付けにより接続固定するもの(前記第5・3(1)エ参照)であるから、甲3発明1の「中空部の下側は下方配管接続部33となって」いることは、本件訂正発明1の「前記中空部の下端は溶接部となって」いることに相当し、甲3発明1の「前記主ネジ38の下端と前記下方配管接続部33の上端との境界」は、本件訂正発明1の「前記雌ネジ部の下端と前記溶接部の上端との境界」に相当する。さらに、甲3発明1の「段差部」、「円筒状の」、「本体部31及び下方配管接続部33」は、それぞれ本件訂正発明1の「第2段差部」、「円筒形の」、「弁ボディ」に相当する。したがって、甲3発明1の「第1冷媒通路1たる中空部を有し、前記中空部の内周のうち上下方向の略中央部分には主ネジ38が形成され、前記中空部の下側は下方配管接続部33となっており、前記主ネジ38の下端と前記下方配管接続部33の上端との境界に段差部が形成された円筒状の本体部31及び下方配管接続部33」は、本件訂正発明1の「冷媒を流通させる弁通路たる中空部を有し、前記中空部の内周のうち上下方向の略中央領域には雌ネジ部が形成され、前記中空部の下端は溶接部となっており、前記雌ネジ部の下端と前記溶接部の上端との境界に第2段差部が形成された円筒形の弁ボディ」に相当する。
b 甲3発明1の「下方配管接続部33の外側面」、「支持脚部32」は、それぞれ本件訂正発明1の「弁ボディの外側面」、「取付部」に相当する。したがって、甲3発明1の「前記下方配管接続部33の外側面に配置された支持脚部32」は、本件訂正発明1の「前記弁ボディの外側面に配置された取付部」に相当する。
c 甲3発明1の「下方配管接続部33に配置され」る「弁座部材4」は、本件訂正発明1の「弁ボディの下端部に配置され」る「弁座」に相当し、甲3発明1の「上部穴41の開口側内エッジ」、「環状のシート部42」は、それぞれ本件訂正発明1の「上端縁」、「弁口」に相当する。甲3発明1の「下方配管接続部33に対し上下方向に位置決めされる」こと、及び「下方配管接続部33に対し同軸状に位置決めされ」ることは、本件訂正発明1の「弁ボディに対し上下方向に位置決めされる」こと及び「弁ボディに対し同軸状に位置決めされ」ることに相当する。また、甲3発明1の「下方配管接続部33に取り付ける前に前記本体部31及び前記下方配管接続部33とは別体の部品として成形されて、前記本体部31及び前記下方配管接続部33に取り付ける前に前記本体部31及び前記下方配管接続部33とは分離型構造とされ」ることは、本件訂正発明1の「弁ボディに取り付ける前に前記弁ボディとは別体の部品として成形されて、前記弁ボディに取り付ける前に前記弁ボディとは分離型構造とされ」ることに相当し、甲3発明1の「ロウ付けにより、前記下方配管接続部33に固定され」ることは、本件訂正発明1の「ロウ付けにより、前記溶接部に固定され」ることに相当する。したがって、甲3発明1の「前記下方配管接続部33に配置され、上部穴41の開口側内エッジに環状のシート部42が形成され、上端部外周縁が前記段差部に当接することにより、前記下方配管接続部33に対し上下方向に位置決めされるとともに、前記下方配管接続部33に対し同軸状に位置決めされ、前記下方配管接続部33に取り付ける前に前記本体部31及び前記下方配管接続部33とは別体の部品として成形されて、前記本体部31及び前記下方配管接続部33に取り付ける前に前記本体部31及び前記下方配管接続部33とは分離型構造とされ、ロウ付けにより、前記下方配管接続部33に固定された弁座部材4」は、本件訂正発明1の「前記弁ボディの下端部に配置され、上端縁に弁口が形成され、上端部外周縁が、前記第2段差部に当接することにより、前記弁ボディに対し上下方向に位置決めされるとともに、前記弁ボディに対し同軸状に位置決めされ、前記弁ボディに取り付ける前に前記弁ボディとは別体の部品として成形されて、前記弁ボディに取り付ける前に前記弁ボディとは分離型構造とされ、ロウ付けにより、前記溶接部に固定された弁座」に相当する。
d 甲3発明1の「本体部31の内部に収容され」る「弁棒7」は、本件訂正発明1の「弁ボディの内部に収容され」る「弁体」に相当し、甲3発明1の「シート部42に圧接した」、「第1冷媒通路1を閉塞する」、「閉弁状態となる位置」、「シート部42から離間して」、「前記第1冷媒通路1を開放する」、「開弁状態となる位置」、「往復移動可能である」は、それぞれ本件訂正発明1の「弁口に接触して」、「弁通路を閉塞する」、「閉弁位置」、「弁口から離間して」、「弁通路を開放する」、「開弁位置」、「往復移動可能な」に相当する。したがって、甲3発明1の「前記本体部31の内部に収容され、前記シート部42に圧接した前記第1冷媒通路1を閉塞する閉弁状態となる位置と、前記シート部42から離間して前記第1冷媒通路1を開放する開弁状態となる位置との間で往復移動可能である弁棒7」は、本件訂正発明1の「前記弁ボディの内部に収容され、前記弁口に接触して前記弁通路を閉塞する閉弁位置と、前記弁口から離間して前記弁通路を開放する開弁位置との間で往復移動可能な弁体」に相当する。
e 甲3発明1の「側方配管接続部34」は、本件訂正発明1の「接続部」に相当する。したがって、甲3発明1の「本体部31及び前記下方配管接続部33と一体に形成された側方配管接続部34」は、本件訂正発明1の「弁ボディに一体に形成された接続部」に相当する。
f 甲3発明1の「側方配管接続部34の内部に形成され」る「第2冷媒通路2」は、本件訂正発明1の「接続部内に形成され」る「接続用通路」に相当する。また、甲3発明1の「冷媒通路中心軸」、「本体部中心軸」は、それぞれ本件訂正発明1の「中心軸S1」、「中心軸S2」に相当するから、甲3発明1の「冷媒通路中心軸が前記本体部31及び前記下方配管接続部33の本体部中心軸に対してほぼ直角をな」すことと、本件訂正発明1の「中心軸S2が前記弁ボディの中心軸S1に対して鋭角をな」すことは、「中心軸S2が前記弁ボディの中心軸S1に対して所定角度をなすこと」で共通する。さらに、甲3発明1の「前記本体部31及び前記下方配管接続部33の前記本体部中心軸と第2冷媒通路2の前記冷媒通路中心軸が交差する位置」は、本件訂正発明1の「中心軸S1と中心軸S2が交差する位置」に相当し、甲3発明1の「中空部のうち上下方向において前記主ネジ38と対応する高さであって、前記弁座部材4よりも上方の位置」は、本件訂正発明1の「中空部のうち上下方向において前記雌ネジ部と対応する高さであって、前記弁座よりも上方の位置」に相当する。甲3発明1の冷媒通路中心軸が「前記本体部31及び前記下方配管接続部33の前記本体部中心軸に対し、直交する方向へ延びている」ことは、本件訂正発明1の中心軸S2は、「斜め上方へ延びて」いることと、中心軸S2が、「所定の方向へ延びて」いる点で共通する。したがって、甲3発明1の「前記側方配管接続部34の内部に形成され、冷媒通路中心軸が前記本体部31及び前記下方配管接続部33の本体部中心軸に対してほぼ直角をなし、前記本体部31及び前記下方配管接続部33の前記本体部中心軸と第2冷媒通路2の前記冷媒通路中心軸が交差する位置は、前記中空部のうち上下方向において前記主ネジ38と対応する高さであって、前記弁座部材4よりも上方の位置であり、前記第2冷媒通路2の前記冷媒通路中心軸は、前記本体部31及び前記下方配管接続部33の前記本体部中心軸との前記交差する位置から前記本体部31及び前記下方配管接続部33の前記本体部中心軸に対し、直交する方向へ延びている前記第2冷媒通路2」と本件訂正発明1の「前記接続部内に形成され、中心軸S2が前記弁ボディの中心軸S1に対して鋭角をなし、中心軸S1と中心軸S2が交差する位置は、前記中空部のうち上下方向において前記雌ネジ部と対応する高さであって、前記弁座よりも上方の位置であり、中心軸S2は、中心軸S1との前記交差する位置から斜め上方へ延びて」いる「接続用通路」は、「接続部内に形成され、中心軸S2が前記弁ボディの中心軸S1に対して所定の角度をなし、中心軸S1と中心軸S2が交差する位置は、前記中空部のうち上下方向において前記雌ネジ部と対応する高さであって、前記弁座よりも上方の位置であり、中心軸S2は、中心軸S1との前記交差する位置から所定方向へ延びている前記接続用通路」である点で共通する。
g 甲3発明1の「シート部42から引上げられて」、「第1冷媒通路1が前記第2冷媒通路2と連通する」は、ぞれぞれ本件訂正発明1の「弁口から離間して」、「接続用通路が前記弁通路と連通する」に相当する。したがって、甲3発明1の「前記弁棒7が前記シート部42から引上げられて開弁状態になると、前記第1冷媒通路1が前記第2冷媒通路2と連通するようになって」いることは、本件訂正発明1の「前記弁体が前記弁口から離間して開弁状態になると、前記接続用通路が前記弁通路と連通するようになって」いることに相当する。
h 甲3発明1の「弁棒7の外周」、「本体部31の弁穴37の内周」、「シールを構成するOリング77」は、それぞれ本件訂正発明1の「弁体の外周」、「弁ボディの内周」、「ソフトシールを構成するOリング」に相当する。したがって、甲3発明1の「前記弁棒7の外周と前記本体部31の弁穴37の内周との間には、シールを構成するOリング77が設けられている」ことは、本件訂正発明1の「前記弁体の外周と前記弁ボディの内周との間には、ソフトシールを構成するOリングが設けられ」ていることに相当する。

(イ)一致点及び相違点
上記(ア)より、本件訂正発明1と甲3発明1とは、次の点で一致し、次の相違点3−1、及び相違点3−2で相違する。
・一致点
「冷媒を流通させる弁通路たる中空部を有し、前記中空部の内周のうち上下方向の略中央領域には雌ネジ部が形成され、前記中空部の下端は溶接部となっており、前記雌ネジ部の下端と前記溶接部の上端との境界に第2段差部が形成された円筒形の弁ボディと、
前記弁ボディの外側面に配置された取付部と、
前記弁ボディの下端部に配置され、上端縁に弁口が形成され、上端部外周縁が、前記第2段差部に当接することにより、前記弁ボディに対し上下方向に位置決めされるとともに、前記弁ボディに対し同軸状に位置決めされ、前記弁ボディに取り付ける前に前記弁ボディとは別体の部品として成形されて、前記弁ボディに取り付ける前に前記弁ボディとは分離型構造とされ、ロウ付けにより、前記溶接部に固定された弁座と、
前記弁ボディの内部に収容され、前記弁口に接触して前記弁通路を閉塞する閉弁位置と、前記弁口から離間して前記弁通路を開放する開弁位置との間で往復移動可能な弁体と、
前記弁ボディに一体に形成された接続部と、
前記接続部内に形成され、中心軸が前記弁ボディの中心軸に対して所定角度をなし、弁ボディの中心軸と中心軸が交差する位置は、前記中空部のうち上下方向において前記雌ネジ部と対応する高さであって、前記弁座よりも上方の位置であり、中心軸は、弁ボディの中心軸との前記交差する位置から所定方向へ延びている接続用通路とを備え、
前記弁体が前記弁口から離間して開弁状態になると、前記接続用通路が前記弁通路と連通するようになっており、
前記弁体の外周と前記弁ボディの内周との間には、ソフトシールを構成するOリングが設けられているバルブ装置。」

・相違点3−1
本件訂正発明1では、接続用通路の「中心軸S2が前記弁ボディの中心軸S1に対して鋭角をなし、中心軸S1と中心軸S2が交差する位置は、前記中空部のうち上下方向において前記雌ネジ部と対応する高さであって、前記弁座よりも上方の位置であり、中心軸S2は、中心軸S1との前記交差する位置から斜め上方へ延びており」、接続用通路が、「前記接続部の先端側から前記弁ボディ内の前記溶接部に向かって切削加工することによって形成され」、「前記弁ボディと前記弁座の前記分離型構造と、前記弁座を前記弁ボディに取り付ける前に前記切削加工を行うこととによって、前記切削加工時における加工用刃物による前記弁座の傷つきの心配が無く、且つ前記弁通路における前記接続用通路の連通位置と前記弁座の設置位置とを上下に遠ざける必要をなくして、前記弁ボディの高さを抑える」のに対し、
甲3発明1では、冷媒通路中心軸が前記本体部31及び前記下方配管接続部33の本体部中心軸に対してほぼ直角をなし、前記本体部31及び前記下方配管接続部33の前記本体部中心軸と第2冷媒通路2の前記冷媒通路中心軸が交差する位置は、前記中空部のうち上下方向において前記主ネジ38と対応する高さであって、前記弁座部材4よりも上方の位置であり、前記第2冷媒通路2の前記冷媒通路中心軸は、前記本体部31及び前記下方配管接続部33の前記本体部中心軸との前記交差する位置から前記本体部31及び前記下方配管接続部33の前記本体部中心軸に対し、直交する方向へ延びており、また、弁座部材4の傷つきの心配が無く、且つ第1冷媒通路1における側方配管接続部34の連通位置と弁座部材4の設置位置とを上下に遠ざける必要をなくして、本体部31及び下方配管接続部33の高さを抑えることについては、特定されていない点。

・相違点3−2
本件訂正発明1は、「前記弁ボディの上端の開口部には、ハードシールを構成する縮径部が形成され、前記弁体の上端部外周には、前記縮径部と当接可能であって前記ハードシールを構成するテーパ状のシール部が形成されている」のに対し、
甲3発明1は、このようなハードシールを構成していない点。

イ 判断
相違点3−1について検討する。
まず、本件訂正発明1の相違点3−1に係る発明特定事項は、前記相違点3−1に示すとおりであるところ、本件訂正発明1は、このような発明特定事項を備えることにより、弁座を弁ボディに取り付けた後に接続用通路の切削加工を行う場合に、加工用刃物が弁座に接触して弁座を傷つけない程度に、弁座の設置位置が接続用通路の連通位置から離れているときよりも、弁ボディの高さを抑え、弁座に傷をつけることなく、「バルブ装置が全体として嵩高となってしまう」(【0004】)という課題を解決したものである(前記1(2)及び2参照。)。
これに対し、甲3には、側方配管接続部34内に形成されている第2冷媒通路2の加工により、弁座部材4の端部であるシート部42あるいは、シート部42の周辺の本体部31を傷つける心配がある旨の記載も示唆もない。また、中心軸が弁ボディの中心軸に対して鋭角であって、接続用通路が、接続部の先端側から弁ボディ内の溶接部に向かって切削加工することによって形成されるバルブ装置において、切削加工時における加工用刃物による弁座の傷つきの心配が無く、且つ弁通路における接続用通路の連通位置と弁座の設置位置とを上下に遠ざける必要をなくして、弁ボディの高さを抑えるという技術思想は、甲1ないし7のいずれにも開示がなく、当該事項が周知の事項であったと認めうる証拠は見あたらない。
そして、甲3発明1をみると、側方配管接続部33内に形成されている第2冷媒通路2の冷媒通路中心軸が本体部31及び下方配管接続部33の本体部中心軸に対して直角をなしているものであるから、この側方配管接続部33内に形成されている第2冷媒通路2の加工にあたって用いられる加工工具も本体部31及び下方配管接続部33の本体部中心軸に対して直角方向に置かれることとなり、当該加工工具の延長線上に弁座部材4の端部であるシート部42は、存在しない。すなわち、甲3発明1は、基部中心軸と冷媒通路中心軸が直角であり、側方配管接続部34内に形成されている第2冷媒通路2の加工により、弁座部材4の端部であるシート部42あるいは、シート部42の周辺の本体部31及び下方配管接続部33を傷つける心配の余地はない。そうすると、そもそも、中心軸が弁ボディの中心軸に対して鋭角であって、接続用通路が、接続部の先端側から弁ボディ内の溶接部に向かって切削加工することによって形成されるバルブ装置において、切削加工時における加工用刃物による弁座の傷つきの心配が無く、且つ弁通路における接続用通路の連通位置と弁座の設置位置とを上下に遠ざける必要をなくして、弁ボディの高さを抑えるという技術思想は、甲1ないし7のいずれにも開示がなく、また、甲3発明1は、冷媒通路中心軸が本体部31及び下方配管接続部33の本体部中心軸に対して鋭角という前提を欠くものであるから、「前記弁ボディと前記弁座の前記分離型構造と、前記弁座を前記弁ボディに取り付ける前に前記切削加工を行うこととによって、前記切削加工時における加工用刃物による前記弁座の傷つきの心配が無」いようにしつつ、「前記弁通路における前記接続用通路の連通位置と前記弁座の設置位置とを上下に遠ざける必要をなくして、前記弁ボディの高さを抑える」ようにする動機がなく、上記相違点3−1にかかる本件訂正発明1の発明特定事項を得ることが当業者にとって容易であるとはいえない。
また、本件訂正発明1は、相違点3−1に係る本件訂正発明1の発明特定事項を備えることによって、接続用通路の中心軸と弁ボディの中心軸がなす所定角度が鋭角であり、接続用通路の中心軸S2は、斜め上方へ延びているものであっても、「加工用刃物が弁座14を傷つける心配がない」(本件特許明細書の【0039】)という甲3発明1及び甲2に記載された事項又は周知技術からは得られない効果を奏するものである。
そうすると、相違点3−1に係る本件訂正発明1の発明特定事項を得ることは、甲3発明1、甲1に記載された事項及び周知技術から当業者が容易になしえたものとは、いえない。
よって、本件訂正発明1は、相違点3−2を検討するまでもなく、甲3発明1、甲1に記載された事項及び周知技術から当業者が容易になしえたものとはいえない。
請求人は、本件訂正発明1の「前記接続部の先端側から前記弁ボディ内の前記溶接部に向かって切削加工することによって形成された接続用通路であって、前記弁ボディと前記弁座の前記分離型構造と、前記弁座を前記弁ボディに取り付ける前に前記切削加工を行うこと」は、プロダクト・バイ・プロセスクレームに相当するから、本件訂正発明1は当該プロセスではなく、当該プロセスによって得られる構造特性等により発明の要旨が認定されるべきであり、当該プロセスによって得られる構造、特性等は、甲3に記載された発明と実質的に同一であると主張するが、甲3には、接続用通路の中心軸と弁ボディの中心軸がなす所定角度が鋭角であり、接続用通路の中心軸S2は、斜め上方へ延びているようにすることについて記載はなく、本件訂正発明1は、このようなものにおいて、接続用通路が、「前記接続部の先端側から前記弁ボディ内の前記溶接部に向かって切削加工することによって形成され」、「前記弁ボディと前記弁座の前記分離型構造と、前記弁座を前記弁ボディに取り付ける前に前記切削加工を行うこととによって、前記切削加工時における加工用刃物による前記弁座の傷つきの心配が無く、且つ前記弁通路における前記接続用通路の連通位置と前記弁座の設置位置とを上下に遠ざける必要をなくして、前記弁ボディの高さを抑える」という発明特定事項を備えるものと解されるから、請求人の主張は採用することができない。

ウ 本件訂正発明1に対する無効理由3についての結論
以上のことから、本件訂正発明1は、甲3に記載された発明、甲1に記載された事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、請求人の主張する無効理由3によって、本件訂正発明1にかかる特許を無効とすることはできない。

(2)本件訂正発明2について
本件訂正発明2は、本件訂正発明1をさらに限定した発明であるから、本件訂正発明1と同様に、甲3に記載された発明、甲1に記載された事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、請求人の主張する無効理由3によって、本件訂正発明1にかかる特許を無効とすることはできない。

(3)本件訂正発明3について
本件訂正発明3と甲3発明2とを対比すると、本件訂正発明1と甲3発明1とを対比した前記(1)アに示すのと同様に対比することができ、さらに、甲3発明2の「サービスポート部35」、「サービスポート内通路」は、それぞれ本件訂正発明3の「サービスポート」、「充填用通路」に相当する。したがって、甲3発明2の「前記円筒状の本体部31及び前記下方配管接続部33と一体に形成されたサービスポート部35と、前記サービスポート部35内に形成され、中心軸が前記円筒状の本体部31及び前記下方配管接続部33の中心軸に対して交差する向きのサービスポート内通路とを備え、前記弁棒7が前記シート部42から引上げられて開弁状態になると、前記第1冷媒通路1と前記サービスポート内通路と前記第2冷媒通路2とが連通するようになって」いることは、本件訂正発明3の「前記弁ボディに一体に形成されたサービスポートと、前記サービスポート内に形成され、中心軸が前記弁ボディの前記中心軸に対して交差する向きの充填用通路とを備え、前記弁体が前記弁口から離間して開弁状態になると、前記接続用通路と前記充填用通路と前記弁通路とが連通するようになって」いることに相当する。これらのことから、本件訂正発明3と甲3発明2とは、次の一致点を有し、前記本件訂正発明3と甲3発明1との相違点である相違点3−1及び3−2と同じ点で相違する。

・一致点
「冷媒を流通させる弁通路たる中空部を有し、前記中空部の内周のうち上下方向の略中央領域には雌ネジ部が形成され、前記中空部の下端は溶接部となっており、前記雌ネジ部の下端と前記溶接部の上端との境界に第2段差部が形成された円筒形の弁ボディと、
前記弁ボディの外側面に配置された取付部と、
前記弁ボディの下端部に配置され、上端縁に弁口が形成され、上端部外周縁が、前記第2段差部に当接することにより、前記弁ボディに対し上下方向に位置決めされるとともに、前記弁ボディに対し同軸状に位置決めされ、前記弁ボディに取り付ける前に前記弁ボディとは別体の部品として成形されて、前記弁ボディに取り付ける前に前記弁ボディとは分離型構造とされ、ロウ付けにより、前記溶接部に固定された弁座と、
前記弁ボディの内部に収容され、前記弁口に接触して前記弁通路を閉塞する閉弁位置と、前記弁口から離間して前記弁通路を開放する開弁位置との間で往復移動可能な弁体と、
前記弁ボディに一体に形成された接続部と、
前記接続部内に形成され、中心軸S2が前記弁ボディの中心軸S1に対して所定角度をなし、中心軸S1と中心軸S2が交差する位置は、前記中空部のうち上下方向において前記雌ネジ部と対応する高さであって、前記弁座よりも上方の位置であり、中心軸S2は、中心軸S1との前記交差する位置から所定方向へ延びている接続用通路と、
前記弁ボディに一体に形成されたサービスポートと、
前記サービスポート内に形成され、中心軸が前記弁ボディの前記中心軸に対して交差する向きの充填用通路とを備え、
前記弁体が前記弁口から離間して開弁状態になると、前記接続用通路と前記充填用通路と前記弁通路とが連通するようになっており、
前記弁体の外周と前記弁ボディの内周との間には、ソフトシールを構成するOリングが設けられているバルブ装置。」

そして、本件訂正発明1の相違点3−1に係る発明特定事項を得ることが、甲3発明1、甲1に記載された事項及び周知技術から当業者が容易になしえたものとはいえないのと同様に、本件訂正発明3の相違点3−1に係る発明特定事項を得ることも甲3発明2、甲1に記載された事項及び周知技術から当業者が容易になしえたものとはいえないから、本件訂正発明3は、相違点3−2を検討するまでもなく、甲3に記載された発明、甲1に記載された事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、請求人の主張する無効理由3によって、本件訂正発明3にかかる特許を無効とすることはできない。

(4)本件訂正発明4及び5について
本件訂正発明4及び5は、本件訂正発明3をさらに限定した発明であるから、本件訂正発明3と同様に、甲3に記載された発明、甲1に記載された事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、請求人の主張する無効理由3によって、本件訂正発明4及び5にかかる特許を無効とすることはできない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件訂正発明の特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項において準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、この審決に係る相手方当事者を被告として、提起することができます。

審判長 佐々木 芳枝
出訴期間として在外者に対し90日を附加する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒を流通させる弁通路を有し、前記弁通路の下端部の全内周に段差が形成された円筒形の弁ボディと、
前記弁ボディの外側面に配置された取付部と、
前記弁ボディの下端部にて前記段差に上端部外周縁を全周にわたって当接させて配置され、上端縁に弁口が形成された前記弁ボディとは別体の弁座と、
前記弁ボディの内部に収容され、前記弁口に接触して前記弁通路を閉塞する閉弁位置と、前記弁口から離間して前記弁通路を開放する開弁位置との間で往復移動可能な弁体と、
前記弁ボディに一体に形成された接続部と、
前記接続部内に形成され、中心軸が前記弁ボディの中心軸に対して鋭角をなす接続用通路とを備え、
前記弁体が前記弁口から離間して開弁状態になると、前記接続用通路が前記弁通路と連通するようになっており、
前記弁体の外周と前記弁ボディの内周との間には、ソフトシールを構成するOリングが設けられ、
前記弁ボディの上端の開口部には、ハードシールを構成する縮径部が形成され、
前記弁体の上端部外周には、前記縮径部と当接可能であって前記ハードシールを構成するテーパ状のシール部が形成されていることを特徴とするバルブ装置。
【請求項2】
前記取付部が、前記弁ボディの外周面から対称に突出し、
その突出方向は、前記接続部の突出方向に対して90度をなしていることを特徴とする
請求項1記載のバルブ装置。
【請求項3】
冷媒を流通させる弁通路を有し、前記弁通路の下端部の全内周に段差が形成された円筒形の弁ボディと、
前記弁ボディの外側面に配置された取付部と、
前記弁ボディの下端部にて前記段差に上端部外周縁を全周にわたって当接させて配置され、上端縁に弁口が形成された前記弁ボディとは別体の弁座と、
前記弁ボディの内部に収容され、前記弁口に接触して前記弁通路を閉塞する閉弁位置と、前記弁口から離間して前記弁通路を開放する開弁位置との間で往復移動可能な弁体と、前記弁ボディに一体に形成された接続部と、
前記接続部内に形成され、中心軸が前記弁ボディの中心軸に対して鋭角をなす接続用通路と、
前記弁ボディに一体に形成されたサービスポートと、
前記サービスポート内に形成され、中心軸が前記弁ボディの前記中心軸に対して交差する向きの充填用通路とを備え、
前記弁体が前記弁口から離間して開弁状態になると、前記接続用通路と前記充填用通路と前記弁通路とが連通するようになっており、
前記弁体の外周と前記弁ボディの内周との間には、ソフトシールを構成するOリングが設けられ、
前記弁ボディの上端の開口部には、ハードシールを構成する縮径部が形成され、
前記弁体の上端部外周には、前記縮径部と当接可能であって前記ハードシールを構成するテーパ状のシール部が形成されていることを特徴とするバルブ装置。
【請求項4】
前記接続部と前記サービスポートが、前記弁ボディに関してほぼ対称に配されていることを特徴とする請求項3記載のバルブ装置。
【請求項5】
前記接続部と前記サービスポートが前記弁ボディから突出する方向は、前記取付部が前記弁ボディから突出する方向に対して90度をなしていることを特徴とする請求項4記載のバルブ装置。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2022-02-25 
結審通知日 2022-03-02 
審決日 2022-03-16 
出願番号 P2014-196236
審決分類 P 1 113・ 121- YAA (F16K)
P 1 113・ 537- YAA (F16K)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 佐々木 芳枝
特許庁審判官 関口 哲生
長馬 望
登録日 2016-06-03 
登録番号 5945576
発明の名称 バルブ装置  
代理人 特許業務法人グランダム特許事務所  
代理人 塩月 秀平  
代理人 韓 明花  
代理人 阿部 豊隆  
代理人 特許業務法人グランダム特許事務所  
代理人 特許業務法人グランダム特許事務所  
代理人 村井 賢郎  
代理人 稲葉 良幸  
代理人 澤井 光一  
代理人 特許業務法人グランダム特許事務所  

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