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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C30B
管理番号 1389995
総通号数 11 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-11-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-04-08 
確定日 2022-10-25 
事件の表示 特願2017−239671「窒化物半導体層の成長方法」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 6月 7日出願公開、特開2018− 87128〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年 1月10日(パリ条約による優先権主張2012年1月10日(KR)大韓民国)に出願した特願2013−2389号の一部を、平成29年12月14日に新たな特許出願としたものであって、同年12月15日付けで手続補正書が提出され、平成30年11月13日付けで拒絶理由が通知され、令和 1年 5月17日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年 7月 9日付けで拒絶理由が通知され、同年10月18日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、同年11月29日付けで、拒絶査定がされ、令和 2年 4月 8日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正書が提出されたものであり、その後、令和 3年 8月 3日付けで、当審からの拒絶理由が通知され、同年11月10日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。


第2 本願発明
本願に係る発明は、令和 3年11月10日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)により補正された特許請求の範囲の請求項1〜12に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。

「反応器内に基板を用意する段階と、
前記反応器内で前記基板上にバッファ層を形成する段階と、
前記反応器内で、1050℃ないし1100℃の範囲内の第1温度で前記バッファ層上に前記基板と異なる熱膨脹係数を持つ第1窒化物半導体を1μm以上の厚さに成長させる段階と、
前記反応器内でのインサイチュエッチングにより400℃ないし1100℃の範囲内の第2温度で前記基板を除去する段階と、
前記基板の除去後に、前記反応器内で前記第1窒化物半導体上に第2窒化物半導体を積層する段階と、
を含み、
前記第1窒化物半導体は、窒化ガリウムであり、
前記バッファ層は、3回対称結晶構造にTaN、TiN、HfNのうちいずれか一つで形成され、
前記バッファ層は、MOCVD法、スパッタ法、HVPE法のうちいずれか一つを用いて形成される窒化物半導体層の成長方法。」

第3 当審で通知した拒絶理由の概要
当審で通知した拒絶理由は、次の理由を含む。

進歩性)本件補正前の請求項1〜14に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において頒布された下記の引用文献1に記載された発明及び引用文献2〜6に記載された周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

< 引 用 文 献 一 覧 >
1.特開2005−57196号公報
2.特表2004−524690号公報(周知技術を示す文献)
3.特開2007−250946号公報(周知技術を示す文献)
4.特開2003−183100号公報(周知技術を示す文献)
5.特開平10−321954号公報(周知技術を示す文献)
6.特開2005−64336号公報(周知技術を示す文献)


第4 当審の判断
当審は、本願発明は上記の理由により特許をすることができないものであるから、本願は拒絶されるべきものである、と判断する。
詳細は以下のとおりである。

1 引用文献の記載事項
(1)引用文献1(下線は当審が付した。以下同じである。)
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、単層又は複層のIII族窒化物系化合物半導体層から成る下地層を片面のみに有するシリコン基板の前記下地層の上に更に、厚さ1μm以上のIII族窒化物系化合物半導体をHVPE法により結晶成長させる方法に関する。

イ 「【実施例1】
【0043】
(MOVPE法による工程)
図1は、MOVPE法で製造されたテンプレート10の断面図である。
【0044】
まず、洗浄し、予備加熱した(111)面を主面とするシリコン基板Aを用意した(図1(a))。ただし、このシリコン基板Aの裏面には、膜厚約0.5μmのSiO2から成る保護膜Bが予め成膜されている。
【0045】
次に、このシリコン基板Aの上面にMOVPE法により膜厚0.25μmのAl0.2Ga0.8Nから成る第1下地層1と、膜厚0.5μmのGaNから成る第2下地層2を順次積層する(図1(b))。このとき原料はトリメチルアルミニウム(Al(CH3)3)、トリメチルガリウム(Ga(CH3)3)、アンモニア(NH3)を用いた。
【0046】
次に、シリコン基板Aの裏面の保護膜Bを酸により除去して、シリコン基板Aと下地層(1,2)から成るテンプレート10を得た(図1(c))。図1においては、(c)の断面図は、(b)の断面図に対して2直角回転させて記載されている。即ち、テンプレート10の面10bが上記のシリコン基板Aの裏面に相当する。他方、テンプレート10の面10aは、以下のHVPE法における最初の結晶成長面に一致する。
(HVPE法による工程)
その後、上記の下地層(1,2)を有するシリコン基板Aを裏面から独立してHClガスエッチ可能なHVPE装置100に設置した。図2はそのHVPE装置100の断面図であり、図3はHVPE装置100の結晶成長基板設置部(20,120)の断面図である。この半導体製造装置100は、エピタキシャル成長系統101とエッチング系統102とが、テンプレート10を設置する前の状態においては連通しており、テンプレート10の設置により隔離される構成である。
・・・
【0050】
図4は、以下のHVPE法で結晶成長する半導体結晶の断面図である。上記の結晶成長基板設置部(20,120)に下地層を有するシリコン基板Aを設置した後は、HVPE装置100のハライド気相成長側(:エピタキシャル成長系統101側)と、ガスエッチング側(:エッチング系統102側)を、それぞれ共に1000℃に設定した。
【0051】
こうして、エピタキシャル成長系統101においては、GaClとアンモニアの雰囲気中でテンプレート10の面10aを最初の結晶成長面とするハライド気相成長を行い、それと並行して同時にエッチング系統102においては、テンプレート10の面10b(シリコン基板Aの裏面)に不活性ガスの1種である窒素(N2)ガスを2slmの割合で継続的に吹き付けた(図4(a):窒化抑制ガス吹き付け工程)。これにより、アンモニアとシリコンが反応して面10bに窒化膜が生成されてしまう現象が防止できた。
【0052】
窒化抑制ガスの吹き付け量は、0.5〜5slm程度で良い。
【0053】
次に、GaN層3が100μm程度結晶成長した段階で、エッチング系統102からの供給ガスを窒化防止ガスである窒素(N2)からエッチングガスである水素(H2)をキャリアガスとした塩化水素(HCl)に切り換えた。これにより、テンプレート10の面10b(シリコン基板Aの裏面)を塩化水素でガスエッチングしていった(図4(b))。この時、エッチングは、窒化膜などの障害がないため、略均一に順調に進んだ。
【0054】
その後も、シリコン基板Aを完全にガスエッチしたのちもガスエッチングを継続し、MOVPE法にて形成した下地層(第1下地層1と第2下地層2)をも全て除去して、膜厚約100μmのGaN層3を得た(図4(c))。
【0055】
次に、基板温度を1050℃に昇温して、GaClとアンモニアにより、GaN層3の上面からGaN層4のハライド気相成長を1050℃で行った。GaN層3,4からなる基板の膜厚は200μmで、曲率半径は約5mであった。これは、直径5cmの円盤状の基板に換算すると、中心部に対する周縁部のそりの量は中心部の接平面に対して0.06mmに過ぎないものであった。即ち、1050℃でハライド気相成長させたGaN層3,4からなる基板(目的の厚膜の III族窒化物系化合物半導体)は、割れやクラックが無い極めて平坦な、反りのほとんどない基板であった(図4(e))。」

ウ 「【図1】



エ 「【図4】



(2)引用文献2
ア 「【0012】
2つの成長方法(MOCVDとHVPE)が、1つの反応システムに組み込まれているので、基板上での成長を中断することも、あるいはリアクタから試料を取り出すこともなく、2つの方法の間で切り替えが可能である。この特徴はまた効率を増し、本発明の方法のコストを低下させる。本発明のシステムおよび方法によれば、AlNおよび薄いInN層を、厚いGaNの(HVPEによる)成長に使用されるものと同一のリアクタで、(MOCVDにより)都合よく成長させることが可能である。・・・」

イ 「【0016】
本発明の1つの利点は、それが、MOCVDモードとHVPEモード間で切り替え可能であるため、1つのリアクタから別のものに移し替える際に起こる、生成する構造体の汚染を引き起こす可能性が少ないハイブリッド成長システムを提供することである。本発明の別の利点は、それが、第1の層がハイブリッド・リアクタ内でMOCVDにより形成され、同じリアクタ内で第2の層がHVPEにより形成される、第1および第2のIII−V族窒化物層を形成する方法を提供することである。・・・」

ウ 「【0017】
本発明のさらに別の利点は、最初にMOCVDにより薄い緩衝層、HVPEによりこの薄い緩衝層上のより厚いGaN層、MOCVDによりこの厚いGaN層上の第3の窒化物層を生成させることにより、高品質のデバイス構造体を製造しうることである。」

エ 「【0041】
図6Aは本発明の別の実施形態によるハイブリッド成長法に含まれる一連の工程を概略的に示しており、工程60はハイブリッド成長システムのリアクタに基板を配置することを含む。・・・
【0042】
工程64は、基板上にMOCVDを実施するための適切な試薬をリアクタに供給することを含む。MOCVD用試薬は、ハイブリッド成長システムのリアクタにそれらを供給するための適切な技術と合わせて、本明細書にすでに記載された。工程66は、MOCVDにより基板上に第1の層を形成することを含む。基板上に成長させる第1の層は通常、AlN、GaN、InNなどのIII−V族窒化物、あるいはこれらのアロイである。工程66の後、工程68は、本明細書にすでに記載された技術と方法に通常従って、ハイブリッド成長システムのリアクタにHVPE試薬を供給することを含む。工程68の前に、第1の層の上にさらに少なくとも1層(工程70)を成長させるのに適切であると思われるように、リアクタ温度が調節されるであろう。少なくとも1つの加熱ユニットにより、あるいは、たとえば、少なくとも1つの加熱ユニットに対するリアクタの位置を変えることにより、リアクタの温度を調節することができる。
【0043】
工程70は、第1の層の上にさらに少なくとも1層を形成することを含む。HVPEだけで、あるいはHVPEとMOCVDの組合せにより、このさらなる少なくとも1層を生成させることができる。さらなる少なくとも1層は通常III−V族窒化物あるいは2種以上のIII−V族窒化物のアロイである。本発明の現在好ましい実施形態によれば、このさらなる少なくとも1層として、GaNおよび/またはGaNのアロイが含まれる。」

(3)引用文献3
ア 「【0014】
請求項1ないし請求項3の発明によれば、MOCVD装置の機能とHVPE装置の機能とを兼ね備えた複合的なIII族窒化物の作製装置が実現される。係る作製装置によれば、ガスの供給態様と加熱態様とを適宜に切り替えることで、一の基板上への結晶成長を行う場合に、MOCVD法による結晶成長とHVPE法による結晶成長とを適宜に切り替えつつ行うことができるので、両手法の長所を活かしたより自由度の高い結晶成長が可能となる。
【0015】
請求項4および請求項5の発明によれば、MOCVD法による結晶成長とHVPE法による結晶成長とを適宜に切り替えつつ行うことで、いずれか一方の方法のみを使用する場合や、それぞれの手法による結晶成長を別の装置で行う場合よりもコスト面あるいは品質面に優れたIII族窒化物結晶の積層構造体を得ることができる。」

イ 「【0016】
<第1の実施の形態>
<装置構成>
図1は、本実施の形態に係るIII族窒化物結晶の作製装置10の構造を概念的に示す断面模式図である。作製装置10は、略水平方向に長手方向を有する、例えば石英製やSUSステンレス製の反応管11を備える。反応管11の内部には、略水平な載置面を有するサセプタ12が設けられてなる。サセプタ12の載置面上に下地基板13を載置した状態で、反応管11の一方端側に備わる供給系14から所定のガスを供給し、下地基板13の上方の空間で所定の気相反応を生じさせることによって、下地基板13の上にIII族窒化物結晶をエピタキシャル形成させることができる。・・・
・・・
【0025】
特に、供給管14bからの第2ガスg2の供給を停止し、第1ガスg1および第3ガスg3、あるいはさらに第4ガスg4を適宜の流量で供給し、第1ヒータ16では加熱を行わず第2ヒータ17による下地基板13の加熱を行うようにする場合には、下地基板13の上方で第1ガスg1中のTMAと第3ガスg3中のNH3との気相反応が生じ、III族窒化物であるAlNが下地基板13上に析出することになる。これはすなわち、MOCVD法による結晶成長が実現されていることになる。ゆえに、作製装置10は、MOCVD装置としての機能を有していると言える。このように、MOCVD法での結晶成長を実現する使用態様をMOCVDモードと称することとする。
【0026】
また、供給管14aからの第1ガスg1の供給を停止し、第2ガスg2および第3ガスg3、あるいはさらに第4ガスg4を適宜の流量で供給し、第1ヒータ16によるボート15の近傍の加熱と第2ヒータ17による下地基板13の加熱とをいずれも行うようにする場合には、供給管14bの内部で第2ガスg2中のHClとボート15に載置した金属Al粉末との反応で生じたAlClxと、供給管14cから供給される第3ガスg3中のNH3との気相反応が下地基板13の上方で生じ、III族窒化物であるAlNが下地基板13上に析出することになる。これはすなわち、HVPE法による結晶成長が実現されていることになる。ゆえに、作製装置10は、HVPE装置としての機能を有していると言える。このように、HVPE法での結晶成長を実現する使用態様をHVPEモードと称することとする。
【0027】
よって、本実施の形態に係る作製装置10においては、下地基板13を載置した後、MOCVDモードとHVPEモードとを切り替えつつ行うことで、MOCVD法による結晶成長とHVPE法による結晶成長とを同一の装置内で連続的に行うことができる。これにより、いずれか一方の手法のみを使用する場合や、それぞれの手法による結晶成長を別の装置で行う場合よりも、コスト面あるいは品質面に優れたIII族窒化物結晶(厳密にはその積層構造体)を得ることができるようになる。」

(4)引用文献4
ア 「【0074】Siは六方晶系でなく立方晶系でありダイヤモンド構造
をとる。だからミラー指数は3つである。3指数によって面方位(khm)
を完全に記述できる。3指数は独立で前述のサムルールはなく、k+h+m
≠0である。三回対称軸は対角線の方向である。それは(111)面と書け
る。通常のSiデバイスの場合(001)面を使うが、それは三回対称性が
ない。ここでは三回対称が必要だからSiの場合は(111)面を使う。」

イ 「【0302】Siはダイヤモンド構造の立方晶系である。GaAsは
閃亜鉛鉱構造(Zinc Blende)型の立方晶系である。GaNは六方晶系であ
る。そのC面は3回回転対称性をもつ。立方晶系は(111)面だけが3回
対称性をもつ。それでSiとGaAsは三回対称性の(111)面の基板を
用いる。・・・」

(5)引用文献5
ア 「【請求項1】半導体基板上にAlx Gay In1-x-y N (0≦x、y、かつx+y≦1)からなるIII 族窒化物半導体薄膜が積層されてなり、最終のIII 族窒化物半導体薄膜の上に電極層が形成されているIII 族窒化物半導体素子において、前記基板と前記III 族窒化物半導体薄膜の間には、金属導電性を示し、岩塩型または六方晶系の結晶構造である遷移金属窒化物からなるバッファ層を介在させることを特徴とするIII 族窒化物半導体半導体素子。
【請求項2】前記遷移金属窒化物は窒化チタン(TiN )、窒化バナジウム(VN)、窒化ジルコニウム(ZrN )、窒化ニオブ(NbN )または窒化ハフニウム(HfN )のうちのいずれかまたはこれらのうちの2つからなる混晶、または窒化タンタル(TaN )であることを特徴とする請求項1に記載のIII 族窒化物半導体半導体素子。
【請求項3】前記半導体基板はケイ素、炭化ケイ素、燐化ガリウム、ヒ化ガリウムであることを特徴とする請求項1または2に記載のIII 族窒化物半導体素子。」

イ 「【0012】
【発明の実施の形態】発明者らは、遷移金属窒化物のいくつかとそれらの混晶の薄膜をケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)、炭化ケイ素(SiC )、燐化ガリウム(GaP )、ヒ化ガリウム(GaAs)などの半導体基板上にエピタキシャル成長させることができ、またエピタキシャル成長層を基板とIII 族窒化物積層の間にバッファ層として介在させることにより、Alx Gay In1-x-y N 膜に対する格子マッチングが良く、良質のAlx GayIn1-x-y N 膜を容易にエピタキシャル成膜可能であることを見いだした。これらの遷移金属窒化物の結晶型と格子定数等を表1に示す。
【0013】
【表1】


表1に挙げた金属窒化物は、Si、Ge、SiC 、GaAs、GaP 等の半導体基板上へのエピタキシャル成長が可能であり、さらに、そのエピタキシャル層へAlx Gay In1-x-y N 膜がエピタキシャル成長が可能であった。また、TaNを除いて、岩塩型の結晶でありこれらの2種の遷移金属窒化物は格子定数のみが変わる混晶を形成できる。従って、格子定数を適当に選択することによってことによりAlxGayIn1-x-yN における任意のx、yに対応して格子不整合を緩和できるバッファ層とすることができる。またTaNは六方晶であるが、同様に格子不整合を緩和できるバッファ層とすることができる。・・・」

(6)特開2009−76914号公報(以下「周知文献」という。)
ア 「【請求項1】
基板、前記基板上の複数のバッファー層、前記複数のバッファー層の最上層上のIII族窒化物化合物半導体層を備えるIII族窒化物化合物半導体装置であって、
前記基板上に形成され、遷移金属窒化物からなる第1バッファー層と、
前記第1バッファー層上に形成され、ガリウムと遷移金属との窒化物からなる第2バッファー層と
を備えることを特徴とするIII族窒化物化合物半導体装置。
【請求項2】
前記遷移金属は、チタニウム(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、及びタンタル(Ta)からなる群から選択された少なくとも一つの要素を含むことを特徴とする請求項1に記載のIII族窒化物化合物半導体装置。
・・・
【請求項11】
基板、前記基板上の複数のバッファー層、前記複数のバッファー層の最上層上のIII族窒化物化合物半導体層を備えるIII族窒化物化合物半導体装置の製造方法であって、
前記基板上に遷移金属窒化物からなる第1バッファー層を形成する段階と、
前記第1バッファー層上にガリウムと遷移金属との窒化物からなる第2バッファー層を形成する段階と
を含むことを特徴とするIII族窒化物化合物半導体装置の製造方法。
・・・
【請求項17】
前記第1バッファー層は、TDEAT、TDMAT、TTIP、及びTiCl4から選択された金属有機チタニウムソースを利用して形成されたTiN層であることを特徴とする請求項11に記載のIII族窒化物化合物半導体装置の製造方法。」

イ 「【0032】
また、TiNのような遷移金属窒化物が、サファイアより低い硬度を有するので、サファイア基板とそれぞれのIII族窒化物化合物半導体層との間の格子定数又は熱膨張計数の差により発生されるねじれ(又は内部応力)を緩和させる作用がある。遷移金属窒化物を成長させる有用な方法は、例えば、プラズマCVD、熱CVD、光学CVDなどのようなCVD(化学気相蒸着)、スパッタリング、反応性スパッタリング(reactive sputtering)、レーザーアブレーション(laser ablation)、イオンメッキ(ion plating)、蒸発、ECRなどのようなPVD(物理気相蒸着)等を含むが、これに限定されるのではない。」

ウ 「【0037】
図2を参照すれば、基板は、サファイア、SiC(シリコンカーバイド)、GaN(ガリウム窒化物)等のような六方晶系材料、又はSi(シリコン)、GaP(ガリウム燐)、GaAs(ガリウムヒ素)等のような等軸晶系材料でありうる。・・・」

エ 「【0039】
前述のように、LED装置の品質を考慮して、サファイア(Al2O3)基板と窒化物層との間にヘテロエピ成長により生じる欠陥を減らすために、界面層(又は、バッファー層)としてチタニウム窒化物を利用することは略報告されていない。第1バッファー層57は、岩塩構造(rock salt structure)を有するチタニウム窒化物(111)面からなる。・・・」

2 引用文献1に記載された発明
引用文献1の上記1(1)イ〜エの実施例1の方法は、同アの「単層又は複層の III族窒化物系化合物半導体層から成る下地層を片面のみに有するシリコン基板の前記下地層の上に更に、厚さ1μm以上の III族窒化物系化合物半導体をHVPE法により結晶成長させる方法」の具体例である。
そこで、上記実施例1の方法を、アの方法の記載にならって整理すると、引用文献1には、上記結晶成長させる方法として具体的に次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「(111)面を主面とするシリコン基板Aの上面にMOVPE法により膜厚0.25μmのAl0.2Ga0.8Nから成る第1下地層1と、膜厚0.5μmのGaNから成る第2下地層2を順次積層する工程、
この下地層(1,2)を有するシリコン基板Aを裏面から独立してHClガスエッチ可能なHVPE装置100に設置し、HVPE装置100のハライド気相成長側(:エピタキシャル成長系統101側)と、ガスエッチング側(:エッチング系統102側)を、それぞれ共に1000℃に設定し、エピタキシャル成長系統101においては、GaClとアンモニアの雰囲気中でテンプレート10の面10aを最初の結晶成長面とするハライド気相成長を行い、エッチング系統102においては、GaN層3が100μm程度結晶成長した段階で、水素(H2 )をキャリアガスとした塩化水素(HCl)でシリコン基板Aの裏面を塩化水素でガスエッチングし、シリコン基板Aを完全にガスエッチしたのちもガスエッチングを継続し、下地層(第1下地層1と第2下地層2)をも全て除去して、膜厚約100μmのGaN層3を得る工程、
次に、基板温度を1050℃に昇温して、GaClとアンモニアにより、GaN層3の上面からGaN層4のハライド気相成長を1050℃で行う工程、
を含む、GaN層3,4からなるIII族窒化物系化合物半導体基板を成長させる方法」

3 当審の判断
(1)本願発明と引用発明との対比
ア 本願発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「膜厚0.25μmのAl0.2Ga0.8Nから成る第1下地層1と、膜厚0.5μmのGaNから成る第2下地層2」は、引用文献1の「一般に、異種基板は III族窒化物系化合物半導体と格子定数が大きく異なる。そのためそれら異種基板にいわゆるバッファ層を形成したのち III族窒化物系化合物半導体をエピタキシャル成長させることが一般的である。」(【0004】)の記載などからみて、本願発明の「バッファ層」に相当するといえる。そして、引用発明におけるこれらの下地層は、某かの反応器内にシリコン基板Aを配置した上で形成されるものと解するのが合理的である。
そうすると、引用発明の「(111)面を主面とするシリコン基板Aの上面にMOVPE法により膜厚0.25μmのAl0.2Ga0.8Nから成る第1下地層1と、膜厚0.5μmのGaNから成る第2下地層2を順次積層する工程」は、本願発明の「反応器内に基板を用意する段階」及び「前記反応器内で前記基板上にバッファ層を形成する段階」に相当する。

(イ)引用発明の「GaN層」は、窒化物半導体であること及びシリコン基板と異なる熱膨脹係数を持つことは、それぞれ技術常識であるから、引用発明の「GaN層3」は、本願発明の「基板と異なる熱膨脹係数を持つ第1窒化物半導体」に相当する。
また、引用発明において、シリコン基板裏面のエッチングは「GaN層3」がハライド気相成長するHVPE装置100において行われるから、本願発明の「前記反応器内でのインサイチュエッチング」といえる。
そうすると、引用発明の「この下地層(1,2)を有するシリコン基板Aを裏面から独立してHClガスエッチ可能なHVPE装置100に設置し、HVPE装置100のハライド気相成長側(:エピタキシャル成長系統101側)と、ガスエッチング側(:エッチング系統102側)を、それぞれ共に1000℃に設定し、エピタキシャル成長系統101においては、GaClとアンモニアの雰囲気中でテンプレート10の面10aを最初の結晶成長面とするハライド気相成長を行い、エッチング系統102においては、GaN層3が100μm程度結晶成長した段階で、水素(H2 )をキャリアガスとした塩化水素(HCl)でシリコン基板Aの裏面を塩化水素でガスエッチングし、シリコン基板Aを完全にガスエッチしたのちもガスエッチングを継続し、下地層(第1下地層1と第2下地層2)をも全て除去して、膜厚約100μmのGaN層3を得る工程、次に、基板温度を1050℃に昇温して、GaClとアンモニアにより、GaN層3の上面からGaN層4のハライド気相成長を1050℃で行う工程」と、
本願発明の「前記反応器内で1050℃ないし1100℃の範囲内の第1温度で前記バッファ層上に前記基板と異なる熱膨脹係数を持つ第1窒化物半導体を1μm以上の厚さに成長させる段階と、前記反応器内でのインサイチュエッチングにより400℃ないし1100℃の範囲内の第2温度で前記基板を除去する段階と、前記基板の除去後に、前記反応器内で前記第1窒化物半導体上に第2窒化物半導体を積層する段階、とを含み」及び「前記第1窒化物半導体は、窒化ガリウムであり」とは、同一の反応器内であるか否かはおくとして、
「反応器内で、第1温度で前記バッファ層上に前記基板と異なる熱膨脹係数を持つ第1窒化物半導体を1μm以上の厚さに成長させる段階と、前記反応器内でのインサイチュエッチングにより400℃ないし1100℃の範囲内の第2温度で前記基板を除去する段階と、前記基板の除去後に、前記反応器内で前記第1窒化物半導体上に第2窒化物半導体を積層する段階、とを含み」及び「前記第1窒化物半導体は、窒化ガリウムであり」の点で一致する。

イ 以上から、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。

<一致点>
「反応器内に基板を用意する段階と、
当該反応器内で前記基板上にバッファ層を形成する段階と、
反応器内で、第1温度で前記バッファ層上に前記基板と異なる熱膨脹係数を持つ第1窒化物半導体を1μm以上の厚さに成長させる段階と、
当該反応器内でのインサイチュエッチングにより400℃ないし1100℃の範囲内の第2温度で前記基板を除去する段階と、
前記基板の除去後に、当該反応器内で前記第1窒化物半導体上に第2窒化物半導体を積層する段階と、
を含み、
前記第1窒化物半導体は、窒化ガリウムである、
窒化物半導体層の成長方法。」

<相違点>
相違点A
バッファ層が、本願発明では「3回対称結晶構造にTaN、TiN、HfNのうちいずれか一つで形成され」、「MOCVD法、スパッタ法、HVPE法のうちいずれか一つを用いて形成される」ものであるのに対して、引用発明では「MOVPE法により膜厚0.25μmのAl0.2Ga0.8Nから成る第1下地層1と、膜厚0.5μmのGaNから成る第2下地層2を順次積層」したものである点。

相違点B
バッファ層上に第1温度での窒化ガリウムの成長が、本願発明は「反応器内で1050℃ないし1100℃の範囲内」で行われるのに対して、引用発明は、基板の気相成長側(基板のバッファ層側)が「1000℃に設定」されて行われる点。

相違点C 窒化ガリウム成長及び基板エッチングする反応器が、本願発明は、バッファ層を形成した「前記反応器」であるのに対して、引用発明は、バッファ層を形成した基板を「HVPE装置100に設置」するもの、すなわち、バッファ層を形成したMOVPE反応器とは異なるHVPE反応器である点。

(2)相違点についての判断
ア 相違点Aについて
本願発明において特定された「MOCVD法」は、「MOVPE法」とも呼称されるところ(要すれば、(社)応用物理学会 薄膜・表面物理分科会,「薄膜作製ハンドブック」,共立出版株式会社,1991年3月,p.269,右欄9〜21行 参照)、引用発明における下地層は、MOVPE法によって「Al0.2Ga0.8N」と「GaN」とを積層したものである。
しかし、引用文献1には、下地層の材料として特にそのような材料を選択した理由は記載されておらず、また、当該下地層の上にGaN層を設けるにあたって、下地層として必須の材料の選択であるという技術常識もない。
そうすると、引用発明の「Al0.2Ga0.8N」及び「GaN」の積層は、下地層の好適な材料及び態様(単層か複層か)の1例を示したものであるといえる。
ここで、引用発明の下地層は、上記のとおり、バッファ層と認められるが、バッファ層は、窒化ガリウムと異種のシリコンとの結晶構造の違いや格子定数差を緩和して良好な窒化ガリウム結晶の成膜を実現するためのものであって、このことは当該技術分野において周知技術であるから、その材料は、シリコン上に窒化ガリウム結晶膜を成長させる際に従来上記機能を有するものとして使用されているバッファ層材料及び態様から、当業者であれば適宜選択できるものであるといえる。
そして、TaN、TiN、HfN、特にTiNは、このような従来周知のバッファ層材料であり(引用文献5(1(5)ア、イ)、さらに必要であれば、周知文献(1(6)ア)等を参照)、その材料の形成方法としてMOCVD法も周知(必要であれば周知文献(1(6)ア、イ)等を参照)である。
そうすると、引用発明の下地層として、「Al0.2Ga0.8N」と「GaN」とから形成されているものに代え、周知の「TaN、TiN、HfNのうちいずれか一つ」を選択し、MOCVD法で形成されるものを採用することは、当業者が容易になし得る材料変更といえる。

ここで、窒化ガリウム結晶は、六方晶系の3回対称結晶構造を持つこと、及びシリコン基板の(111)面が、3回対称結晶構造を持つことは、技術常識である(必要であれば、引用文献4(1(4)ア、イ等)を参照)。
そうすると、引用発明の下地層(バッファ層)は、3回対称結晶構造であるシリコン基板(111)面上に形成させるものであって、そのバッファ層上に、3回対称結晶構造である窒化ガリウム結晶を成長させるものであるから、緩和等のための層であるバッファ層を、両者と同じ3回対称結晶構造に形成することは、当然のことに過ぎない(TiNを3回対称結晶構造に形成させることは、周知文献(1(6)エ)を参照)。

よって、引用発明における下地層を「3回対称結晶構造にTaN、TiN、HfNのうちいずれか一つで形成され、前記バッファ層は、MOCVD法、スパッタ法、HVPE法のうちいずれか一つを用いて形成される」ものとすることは、当業者が容易になし得ることである。
そして、本願発明において、特にバッファ層を本願発明の上記特定の窒化物とした点に、格別の効果を認めることはできない。

イ 相違点Bについて
引用発明は「GaN層3」を1000℃とした基板(の下地層)上に成長させているが、引用文献1には、特に基板温度を1000℃とした理由は示されていないし、GaN層を成長する際の温度として、必要不可欠の条件であるというものでもない。
そうすると、引用発明におけるGaN層の成長温度は、GaN結晶がハライド気相成長できる温度の一例であると認められるから、当該GaN層の成長温度を、GaN層がハライド気相成長できる温度と認められる、「反応器内で1050℃ないし1100℃の範囲内」の温度にすることに、何ら困難性は認められない。
そして、本願発明において、特に上記成長温度を「反応器内で1050℃ないし1100℃」とした点に格別の効果も認められない。

ウ 相違点Cについて
GaNなどIII族窒化物層形成のためのMOCVDによる下地層形成とHVPEによるIII族窒化物層形成とを、基板上での成長を中断することも、あるいはリアクタから試料を取り出すことなく、2つの方法の間で切り替えが可能等のため、同じ反応器内で行うこと、すなわち、MOCVDも実施可能なHVPE装置で行うことは、例えば、引用文献2(1(2)ア〜ウ)、引用文献3(1(3)ア、イ)等に記載されているように、当業者に周知の技術である。
引用発明において、上記の周知技術における目的等のため、HVPE装置をMOCVDも同じ反応器内で実施可能なものとして、下地層(バッファ層)を形成した反応器においてGaNの形成及び基板のエッチングを行うことは、当業者が必要に応じ容易になし得ることである。
そして、本願発明において、バッファ層を形成した同じ反応器においてGaN層形成及び基板エッチングを行う点に、上記周知技術における効果を超える格別の効果も認められない。

4 まとめ
よって、本願発明は、その優先日前に頒布された刊行物である引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余の理由について検討するまでもなく、本願は、同法第49条第1項第2号に該当し、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。

審判長 宮澤 尚之
出訴期間として在外者に対し90日を附加する。
 
審理終結日 2022-05-23 
結審通知日 2022-05-30 
審決日 2022-06-14 
出願番号 P2017-239671
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C30B)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 宮澤 尚之
特許庁審判官 関根 崇
後藤 政博
発明の名称 窒化物半導体層の成長方法  
代理人 実広 信哉  
代理人 阿部 達彦  
代理人 木内 敬二  
代理人 崔 允辰  

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