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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 G08B
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G08B
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G08B
管理番号 1390004
総通号数 11 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-11-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-06-25 
確定日 2022-11-14 
事件の表示 特願2018−529724「水難事故から守るため、特に溺者等を早期に発見するための装置及び方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 3月 2日国際公開、WO2017/032757、平成30年10月11日国内公表、特表2018−530088、請求項の数(13)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2016年(平成28年)8月23日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2015年8月24日 ドイツ連邦共和国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯の概要は以下のとおりである。

令和 元年 8月14日付け 拒絶理由通知書
令和 2年 2月 6日 意見書・誤訳訂正書
2月18日付け 拒絶査定
6月25日 審判請求書
令和 3年 5月13日付け 拒絶理由通知書
11月17日 意見書・手続補正書
12月 9日付け 拒絶理由通知書
令和 4年 6月 6日 意見書・手続補正書

以下では、令和2年2月18日付け拒絶査定を「原査定」といい、令和3年5月13日付け拒絶理由通知書を「本件拒絶理由通知書」といい、令和4年6月6日の手続補正書による補正を「本件補正」という。

第2 本願発明
本願の請求項1〜13に係る発明(以下、それぞれ、「本願発明1」〜「本願発明13」という。)は、令和4年6月6日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1〜13に記載される以下のとおりのものであると認める。

「 【請求項1】
(a)人間(10)に固定されるために設けられた担体装置(100);
(b)前記担体装置(100)に受容されており、センサ装置(264)及び処理装置を有している監視装置(200)であって、前記センサ装置(264)が前記処理装置と接続されている監視装置(200);
(c)前記担体装置(100)によって受容されており、前記監視装置(200)と接続された信号装置(300);及び、
(d)アクチュエータ、
を有している、水中の人間(10)を監視するための装置(1)において、
前記センサ装置(264)は、人間が前もって定めた水深よりも深くにどのくらい長くいたのかの検出に基づいて検出結果を提供するように構成され、
前記処理装置は、前記検出結果に基づいて電気信号を生成するように構成され、
前記信号装置(300)は、浮体(310)を有しており、
前記浮体(310)は、略気密な物体であり、ガスが供給される場合に、体積が増大し、
前記信号装置(300)は、前記処理装置の電気信号に応じて、ガスが供給される場合に、体積が増大する略気密な物体により、前記担体装置(100)に対して力を生じさせるように構成されており、前記力により前記信号装置(300)が前記担体装置(100)から分離され、水面(20)に上昇し、
前記アクチュエータは、前記浮体と接続されており、前記処理装置の電気信号に応じて、前記浮体を、前記浮体が浮力を有しない第1の状態から、前記浮体が浮力を有する第2の状態に移行させるために設けられていることを特徴とする装置(1)。
【請求項2】
圧力タンク(250)を更に有しており、
前記アクチュエータが、
(a)前記処理装置の前記電気信号に応じて、前記圧力タンク(250)と前記浮体(310)との間にガスを誘導する接続を可能にするために設けられた火工品(252e)を有している;及び/又は、
(b)前記処理装置の前記電気信号に応じて、前記圧力タンク(250)と前記浮体(310)との間にガスを誘導する接続を可能にするために設けられた駆動装置を有している、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
ガス供給装置を更に有しており、
前記ガス供給装置は、
(a)加圧されたガスを受容し、前記処理装置の前記電気信号に応じて、前記浮体(310)に向けて放出するために設けられた圧力タンク(250);並びに/又は、
(b)前記処理装置の前記電気信号に応じて、少なくとも部分的に気体状態に変化し、前記浮体(310)に向けて放出される液体ガスを受容するために設けられた容器;並びに/又は、
(c)前記処理装置の前記電気信号に応じて燃焼し、その際に生じるガスを前記浮体(310)に向けて放出するために設けられた火工要素;並びに/又は、
(d)粉末状及び/若しくは固体状の第1の物質であって、前記処理装置の前記電気信号に応じて、第2の物質と接触するために設けられており、発生したガスは前記浮体(310)に向けて放出される第1の物質、を有している、請求項1又は2に記載の装置。
【請求項4】
前記信号装置(300)が、前記担体装置(100)から分離されて、前記水面(20)に存在する場合に、音声信号及び/又は視覚信号及び/又は無線信号をすぐに送信するために設けられている、請求項1から3のいずれか一項に記載の装置。
【請求項5】
前記信号装置(300)が、人間の耳に聴こえる音声信号を発するために設けられている、請求項1から4のいずれか一項に記載の装置。
【請求項6】
前記信号装置(300)が、振動体を有しており、前記振動体は、人間が認識できる音を発生させる、請求項1から5のいずれか一項に記載の装置。
【請求項7】
保護カバーを更に有しており、
前記保護カバーは、前記担体装置(100)上に配置されており、少なくとも前記信号装置(300)覆っており、前記保護カバーは、前記処理装置の前記電気信号に応じて、少なくとも部分的に、前記担体装置(100)から分離されるように設けられているので、前記信号装置(300)は、分離の後に露出している、請求項1から6のいずれか一項に記載の装置。
【請求項8】
前記装置(1)が、さらなるアクチュエータを有しており、前記アクチュエータは、前記処理装置の前記電気信号に応じて、前記保護カバーを少なくとも部分的に露出させるため、及び/又は、少なくとも部分的に前記担体装置(100)から分離するために設けられている、請求項7に記載の装置。
【請求項9】
前記センサ装置(264)が、信号を供給するために設けられたセンサ装置(264)であり、前記信号から、前記処理装置は、前記人間(10)が水中にいるのかを、直接推定するか、又は、間接的に算定することができる、請求項1から8のいずれか一項に記載の装置。
【請求項10】
前記監視装置(200)が、時間測定装置を有しており、前記監視装置(200)は、前記センサ装置(264)の信号に応じて、時間の検出を開始するために設けられている、請求項1から9のいずれか一項に記載の装置。
【請求項11】
前記監視装置(200)が、前記電気信号を前記信号装置(300)に伝達し、前記電気信号は、時間検出の間に検出された時間の長さが、所定の時間の長さを超えた場合に、前記信号装置(300)を、前記担体装置(100)から分離し、前記水面(20)に上昇させる、請求項10に記載の装置。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか一項に記載の、水中の人間(10)を監視するための少なくとも1つの装置(1)と、
信号装置(300)を水面(20)で受信装置(410)を用いて検出するために設けられ、さらなる音声信号及び/又はさらなる視覚信号及び/又はさらなる無線信号及び/又は電気信号を、送信装置(420)を用いて送信するために設けられた、少なくとも1つのベースステーション(400)と、を有する、水中の人間(10)を監視するためのシステム(2)。
【請求項13】
前記ベースステーション(400)が、前記信号装置(300)から、前記受信装置(410)を用いて、音声信号及び/又は視覚信号及び/又は無線信号を受信するために設けられている、請求項12に記載の水中の人間を監視するためのシステム。」

第3 原査定及び本件拒絶理由通知書の拒絶理由の概要
1 原査定の概要は、以下のとおりである。

1.(新規性)この出願の請求項16に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の文献Aに記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

2.(進歩性)この出願の請求項1〜18に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の文献A〜Fに記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

<引用文献等一覧>
文献A.米国特許出願公開第2009/0295566号明細書
文献B.国際公開第2015/087330号
文献C.米国特許出願公開第2013/0171894号明細書
文献D.特表2009−544527号公報
文献E.特開昭61−229692号公報
文献F.特開平3−213494号公報

2 本件拒絶理由通知書の拒絶理由の概要は、以下のとおりである。

1.(明確性)この出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

2.(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

・請求項 1〜3
文献1に記載された発明及び文献2に示される周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものである。

・請求項 4
文献1に記載された発明、文献2に示される周知技術及び文献3に示される周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものである。

・請求項 5〜18

文献1に記載された発明、文献2に示される周知技術、文献3に示される周知技術、文献4に示される周知技術、文献5に示される周知技術及び文献6に示される周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものである。

<引用文献等一覧>
文献1.特開昭59−18089号公報
文献2.米国特許出願公開第2009/0295566号明細書
(拒絶査定の文献A)
文献3.特表2009−544527号公報(拒絶査定の文献D)
文献4.特表2005−517575号公報
文献5.特開昭61−229692号公報(拒絶査定の文献E)
文献6.特開平3−213494号公報(拒絶査定の文献F)

第4 引用文献の記載事項
1 引用文献1について
(1)本件拒絶理由通知書で引用された文献1である特開昭59−18089号公報(以下、「引用文献1」という。)には、以下の事項(下線は強調のため当審にて付与した。以下同様。)が記載されている。

ア 1頁右下欄14行〜2頁左上欄9行
「3. 発明の詳細な説明
この発明は、水泳時に携帯し、危険な状態が生じた場合、救助信号が自動、または手動で発する信号器に関するものである。
現在、水泳による事故防止策として、先ず、人の目の届く安全水泳区域以外では泳がないことが、第一に掲けられているか、人の目による監視では、万全を期すことは無理で、水面上の危険な状態が発見されず、水面下に沈み行方不明になり、水中捜索等に時間を費やし、手遅れになった例、または水面上の危険な状態を発見したが、悪条件が重なり救助が遅れ、水面下に沈み行方不明になる等の事故が、シーズン中、相次いで発生している。特に、水面下に沈み、行方不明になった事故者を、いち早く発見し、救助することは困難な現状にある。」

イ 2頁左上欄10行〜右上欄2行
「この発明は、水泳時に手軽に携帯ができ、危険な状態が生じ水面下に沈んだ場合でも、水面上より容易に、事故者を発見できる救助信号を、自動、または手動で発する信号器を得ることを目的とする。
この発明の詳細な説明すると、この信号器は自動手動両用と手動用に分かれ、主な構成は、液化ガスの気化時に起きる噴出作用で発音体(笛)を鳴らし、その気化ガスで脹らむ浮標と、浮標を脹らますガス噴出装置を作動さす機構部分にストラップの付いた作動部、及び浮標と作動部を連係する糸等でなり、作用として、浮標と笛声からなる救助信号を発するものである。」

ウ 2頁右上欄3〜7行
「細部を図面に基づいて説明すると、第1図より第7図は自動手動両用で、この信号器は可変できる所定の作動水深位置に達すると、器内に導入された静水圧と作動遅延室の作用により、所定の時間を経過した後、自動的に作動する。」

エ 2頁右上欄8〜10行
「1は作動部(第1図、矢印2位置より上)で、調整装置3、作動遅延室4、空気クッション室5、射出装置6、ストラップ7等で区分される。」

オ 2頁右上欄11行〜左下欄5行
「調整装置3は、矢印8方向に回転ができ、ねじ9により矢印10方向の移動に伴い、水圧板11の位置が動き作動水深位置の調整ができ、クリックストッパー12により回転の制止ができる。13は手動の押しボタンで、側面に静水圧を得るための貫通口14と、貫通口14の貫通方向に対し直角に開けた導入口15があり、強く押すと、はずれ(第3図、作動部1の作動図)、フランジ16とプッシュピン17を介して、射出装置6のロック18を押す。水圧板11は貫通口14と導入口15より導入された静水圧を受けると、ゴム状のカール19が伸び鎖線11′(第3図)のように動き、プッシュスリーブ20を介してロック18を押す。この場合、フランジ16とプッシュピン17は水圧板11と共に動く。」

カ 2頁左下欄6行〜右下欄3行
「作動遅延室4は、水圧板11と隔壁21が対面してなる空気室で、調整装置3内にある。静水圧を受けた水圧板11の作動を遅延さすため、その水圧板11で圧縮された空気を、緩慢に排気作用するピンホール状の排気口22と、それと反対に、敏速な吸気作用をする逆止め弁23の付いた吸気口24が、隔壁21に設けられ、排気口22と吸気口24により空気クッション室5に通じている。
空気クッション室5は、作動遅延室4の気圧変動に伴う空気の吸排作用を、反復動作させるための空気クッションを得る空気室で、空気容積は作動遅延室4に比し大きくしてある。
25は透明キャップで、空気クッション室5と作動遅延室4内の空気圧を、外気圧と同じにするための調圧通気用のもので、使用前に開閉する。また、射出機構6のリセットでインデックスロッド26を引き出す場合にも開閉する。」

キ 2頁右下欄4〜11行
「射出装置6は、圧縮ばね27、ノックピン28、ロック18、ロックホルダー29、インデックスロッド26、ガイドパイプ30等の部品に分かれる。作動は、調整装置3のプッシュスリーブ20(自動)、またはプッシュピン17(手動)がロック18を押しはずすと、圧縮ばね27の発条作用により、ノックピン28が作動部1より射出される(第3図)。」

ク 2頁右下欄12〜13行
「ストラップ7は、この信号器を上腕部に取り付けるためのものである。」

ケ 2頁右下欄14行〜3頁左上欄10行
「浮標31(第7図、作動分解図)と、浮標31と作動部1を連係する糸32は、ゴム状のカバー33で覆ったカプセル34と、浮標31よりの糸32を連係して作動部1に連結するカプセルベース35からなる容器内に納まり、カートリッジ式になっている。浮標31は、ガス噴出装置36、発音体37(舌式の笛)、浮き袋38等からなり、ガス噴出装置36(第4図、第2図のB部拡大作動図)は、液化ガスを充てんしたガス容器39、ガス出口40に耐気密性にして破れ易い材質(アルミ箔)の封板41、封板押え42、封板41を破る注射針状の針43、針43を保持し伸縮可動できるゴム状の遮蔽膜44、気化ガスを発音体37に送る導管45等からなる。
糸32は、もつれの防止、及び取り扱いを便利にするため、環状に巻き付けパラフィン状のもので固めたもので、作動時に、必要量だけ解ける。」

コ 3頁左上欄11行〜右上欄6行
「作動は、作動部1より射出されたノックピン28により(第4図)、カプセルベース35の防水用シール46を破り、注射針状の針43をノックし、封板41を突き破る。開封されたガス容器39内よりの気化ガスは、針43の横穴47、導管45、発音体37等を通じ、浮き袋38を脹らまし、その気化ガスの圧力により、カプセル34は、割れ目48(第1図及び第6図)の部分が鎖線49のように開き、カプセルベース35より離脱し、同時に、浮標31はカプセル34内より、気化ガスで脹れた浮き袋38の圧力で脱出し、作動部1よりの糸32を伴ない、作動部1より離れ、水面上に浮上して、気化ガスの噴出作用で発音体37が鳴りながら浮き袋38が脹れる(第7図)。
以上、自動手動両用の説明である。」

サ 3頁右下欄5〜15行
「次に、使用例、及び補足事項を説明する。
この信号器の取り付けは、水泳に支障がなく、頭部に近く、手の届き易い所とし、自動手動両用は、ストラップ7で上腕部に取り付け、手動用はストラップ51で頸部、または上腕部に取り付ける。
手動による操作は、自動手動両用は押しボタン13を手の平でたたき、押しボタン13を調整装置3の中へ押し込む、及び手動用は浮標52を握り、ストラップ51より引き放すことにより、それぞれ作動する。」

シ 3頁右下欄16行〜4頁左上欄4行
「自動用の作動は、水泳中、所定の作動水深位置以内における水流及び水泳者の動きによる動水圧と、波しぶき等を受けた場合は、静水圧導入用の貫通口14と導入口15の作用により作動しない。また、過って急に、所定の作動水深位置より深く潜水し、すぐに、浮上した場合も、作動遅延室4の作用により作動しない。したがって、所定の水深位置による静水圧で、数秒間遅延して作動するため、誤った救助信号を発しない。」

ス 4頁左上欄5〜20行
「なお、自動手動両用の作動部1に、小型電池、スイッチ、ソレノイド(射出装置の代用)、半導体からなる遅延回路等の電子部品を組み入れることにより、小型化にできる。
以上、この信号器は、水泳中、危険な状態が生じた場合、自動、または手動で操作することにより、事故者と連係した糸32、65を伴なった浮標31、52が、液化ガスの気化時の噴出作用で、水面上で脹れながら笛声を発する救助信号により、所期の目的である、水面上より目(浮標)と耳(笛声)により、水面下に沈んだ事故者も容易に発見できる救助信号器である。
この信号器を、水泳時に携帯することにより、活動的な年令層における溺水死は、交通事故死に次いで、多いと言われる犠牲者の数を減少できる効果がある。」

セ 第1図


ソ 第2図


タ 第3図


チ 第4図


ツ 第7図


(2)前記(1)の記載によれば、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「水泳時に手軽に携帯ができ、危険な状態が生じ水面下に沈んだ場合でも、水面上より容易に、事故者を発見できる救助信号を、自動で発する信号器であって((1)イ)、
作動部1は、調整装置3、作動遅延室4、空気クッション室5、射出装置6、ストラップ7等で区分され((1)エ)、
ストラップ7は、この信号器を上腕部に取り付けるためのものであり(1)ク)、
作動遅延室4は、水圧板11と隔壁21が対面してなる空気室で、調整装置3内にあり、静水圧を受けた水圧板11の作動を遅延さすため、その水圧板11で圧縮された空気を、緩慢に排気作用するピンホール状の排気口22と、それと反対に、敏速な吸気作用をする逆止め弁23の付いた吸気口24が、隔壁21に設けられ、排気口22と吸気口24により空気クッション室5に通じており、空気クッション室5は、作動遅延室4の気圧変動に伴う空気の吸排作用を、反復動作させるための空気クッションを得る空気室で、空気容積は作動遅延室4に比し大きくしてあり((1)カ)、
浮標31と、浮標31と作動部1を連係する糸32は、ゴム状のカバー33で覆ったカプセル34と、浮標31よりの糸32を連係して作動部1に連結するカプセルベース35からなる容器内に納まり、カートリッジ式になっており、浮標31は、ガス噴出装置36、発音体37(舌式の笛)、浮き袋38等からなり、ガス噴出装置36は、液化ガスを充てんしたガス容器39、ガス出口40に耐気密性にして破れ易い材質の封板41、封板41を破る注射針状の針43、針43を保持し伸縮可動できるゴム状の遮蔽膜44、気化ガスを発音体37に送る導管45等からなり、糸32は、環状に巻き付けパラフィン状のもので固めたもので、作動時に、必要量だけ解け((1)ケ)、
この信号器は可変できる所定の作動水深位置に達すると、器内に導入された静水圧と作動遅延室の作用により、所定の時間を経過した後、自動的に作動し((1)ウ)、
調整装置3は、作動水深位置の調整ができ、水圧板11は貫通口14と導入口15より導入された静水圧を受けると、プッシュスリーブ20を介してロック18を押し((1)オ)、
射出装置6は、圧縮ばね27、ノックピン28、ロック18、ロックホルダー29、インデックスロッド26、ガイドパイプ30等の部品に分かれ、調整装置3のプッシュスリーブ20がロック18を押しはずすと、圧縮ばね27の発条作用により、ノックピン28が作動部1より射出され((1)キ)、
作動部1より射出されたノックピン28により注射針状の針43をノックし、封板41を突き破り、開封されたガス容器39内よりの気化ガスは、針43の横穴47、導管45、発音体37等を通じ、浮き袋38を脹らまし、その気化ガスの圧力により、カプセル34は、割れ目48の部分が開き、カプセルベース35より離脱し、同時に、浮標31はカプセル34内より、気化ガスで脹れた浮き袋38の圧力で脱出し、作動部1よりの糸32を伴ない、作動部1より離れ、水面上に浮上して、気化ガスの噴出作用で発音体37が鳴りながら浮き袋38が脹れる((1)コ)、
信号器。」

第5 本願発明1と引用発明との対比
1 引用発明の「カプセルベース35」は、「作動部1に連結」しており、「浮標31」等を納めるものであるから(第4、1(1)ケ)、「作動部1」及び「カプセルベース35」が連結してなる装置は、「浮標31」を担うものであり、これを担体装置と呼ぶことは任意である。
引用発明の「作動部1」は、「調整装置3、作動遅延室4、空気クッション室5、射出装置6、ストラップ7等で区分され」たものであり(第4、1(1)エ)、「ストラップ7は、この信号器を上腕部に取り付けるためのものであ」る(第4、1(1)ク)から、引用発明の担体装置(すなわち、「作動部1」及び「カプセルベース35」が連結してなる装置)は、「ストラップ7」によって人間の「上腕部」に取り付けられて固定されると認められる。
以上によれば、本願発明1と引用発明とは、「(a)人間(10)に固定されるために設けられた担体装置(100);」を有する点で一致する。

2(1)引用発明は、「可変できる所定の作動水深位置に達すると、器内に導入された静水圧と作動遅延室の作用により、所定の時間を経過した後、自動的に作動」するもの(第4、1(1)ウ)である。
そして、引用発明の「作動遅延室4」には、「静水圧を受けた水圧板11の作動を遅延さすため、その水圧板11で圧縮された空気を、緩慢に排気作用するピンホール状の排気口22」が設けられ(第4、1(1)カ)、「水圧板11」は「静水圧を受けると」「プッシュスリーブ20を介してロック18を押し」(第4、1(1)オ)、「プッシュスリーブ20がロック18を押しはずすと」「ノックピン28が作動部1より射出され」(第4、1(1)キ)、その結果、「浮標31」が「水面上に浮上して、気化ガスの噴出作用で発音体37が鳴りながら浮き袋38が脹れる」(第4、1(1)コ)という動作をするものである。
そうすると、引用発明の「作動遅延室4」は、「所定の作動水深位置に達」し、「所定の時間を経過」したことを検出して「プッシュスリーブ20を介してロック18を押」すという検出結果を提供するものと解されるから、本願発明1の「センサ装置(264)」に相当する。

(2)前記(1)のとおり、引用発明の「作動遅延室4」は、所定の作動水深位置に達」し、「所定の時間を経過」したことを検出する装置であるから、水深及び時間を監視する装置ともいえ、本願発明1の「センサ装置(264)を有している監視装置(200)」に対応する。
引用発明の「作動遅延室4」は、「作動部1」の一区分である(第4、1(1)エ)から、「作動遅延室4」は「作動部1」に受け入れられて取り込まれている。すなわち、「作動遅延室4」は「作動部1」に受容されている。
以上によれば、本願発明1と引用発明とは、「(b)前記担体装置(100)に受容されており、センサ装置(264)を有している監視装置(200);」である点で共通する。

3(1)引用発明の「浮標31」は、「ガス噴出装置36、発音体37(舌式の笛)、浮き袋38等からなり」(第4、1(1)ケ)、「気化ガスの噴出作用で発音体37が鳴」るもの(第4、1(1)コ)である。「発音体37」が鳴る音は、「救助信号」(第4、1(1)イ)に他ならない。
そうすると、引用発明の「浮標31」は、「救助信号」を発生する装置であるから、本願発明1の「信号装置(300)」に相当する。

(2)引用発明の「作動遅延室4」の「プッシュスリーブ20」は、前記2(1)のとおり、「ロック18」及び「ノックピン28」を経由して「浮標31」を水面上に浮上させるものであるから、「浮標31」は「作動遅延室4」と接続されているといえる。

(3)引用発明の「浮標31」は、「カプセル34」及び「カプセルベース35からなる容器内に納ま」る(第4、1(1)ケ)ものであるから、「浮標31」は「カプセル34」及び「カプセルベース35」の双方に受容されているといえる。よって、引用発明の担体装置(すなわち、「作動部1」及び「カプセルベース35」が連結してなる装置)は、「浮標31」を受容している。

(4)前記(1)〜(4)によれば、本願発明1と引用発明とは、「(c)前記担体装置(100)によって受容されており、前記監視装置(200)と接続された信号装置(300);」を有する点で一致する。

4(1)本願明細書には、「本発明において「アクチュエータ」とは、能動的なプロセスを通じて、浮体を第1の状態から第2の状態に移行させるために設けられた装置であると理解され、この移行は、例えば開ループ制御若しくは閉ループ制御された弁の形で、又は、シールを開封するための装置の形で、特に浮体にガスを誘導する接続を可能にすることによって行われる。」(【0035】)との記載がある。
該記載によれば、本願発明1の「アクチュエータ」には、浮体にガスを誘導するためにシールを開封するための能動的な装置が含まれると解釈される。

(2)引用発明の「圧縮ばね27」は、その発条作用によってノックピン28を射出し(第4、1(1)キ)、ノックピン28は注射針状の針43をノックして封板41を破り、開封されたガス容器39内からの気化ガスを「浮き袋38」に導く(第4、1(1)コ)ものである。ここで、少なくとも「圧縮ばね27」の発条作用は、能動的である。
そうすると、前記(1)の解釈によれば、引用発明の封板41を破るための「圧縮ばね27」を含む装置は、本願発明1の「アクチュエータ」に相当する。
よって、本願発明1と引用発明とは、「(d)アクチュエータ」を有している点で一致する。

5 引用発明は、「水泳時に手軽に携帯ができ、危険な状態が生じ水面下に沈んだ場合でも、水面上より各易に、事故者を発見できる救助信号を、自動で発する信号器」(第4、1(1)イ)であるから、該「信号器」を携帯した人物に危険な状態が生じていないかどうかを監視するための装置である。
よって、本願発明1と引用発明とは、「水中の人間(10)を監視するための装置(1)」である点で一致する。

6 前記2(1)のとおりであり、かつ、引用発明の「調整装置3」は「作動水深位置の調整ができ」る(第4、1(1)オ)から、本願発明1の「センサ装置(264)」と引用発明の「作動遅延室4」とは、「人間が前もって定めた水深よりも深くにどのくらい長くいたのかの検出に基づいて検出結果を提供するように構成され」る点で一致する。

7 引用発明の「浮標31」は「浮き袋38」を備えており(第4、1(1)ケ)、引用発明の「浮き袋38」は本願発明1の「浮体(310)」に相当することが明らかであるから、本願発明1と引用発明とは「前記信号装置(300)は、浮体(310)を有して」いる点で一致する。

8 引用発明では「開封されたガス容器39内よりの気化ガスは、針43の横穴47、導管45、発音体37等を通じ、浮き袋38を脹らま」す(第4、1(1)コ)のであるから、本願発明1と引用発明とは、「前記浮体(310)は、略気密な物体であり、ガスが供給される場合に、体積が増大」する点で一致することは明らかである。

9(1)引用発明では「その気化ガスの圧力により、カプセル34は、割れ目48の部分が開き、カプセルベース35より離脱し、同時に、浮標31はカプセル34内より、気化ガスで脹れた浮き袋38の圧力で脱出」する(第4、1(1)コ)のであるから、本願発明1と引用発明とは、「前記信号装置(300)は、」「ガスが供給される場合に、」「前記信号装置(300)が前記担体装置(100)から分離され、水面(20)に上昇」する点で共通する。

10 前記4(2)のとおりであるから、引用発明の「圧縮ばね27」と「浮き袋38」とは、ノックピン28及び針43等で接続されているといえる。
また、前記8のとおりであるから、引用発明の「圧縮ばね27」を含む装置の動作により、引用発明の「浮き袋38」は、脹らんでいない状態から脹らんだ状態へと移行する。
「浮き袋38」が脹らんでいない状態は浮力を有しない状態であり、脹らんだ状態は浮力を有する状態であることは、明らかである。
よって、本願発明1と引用発明とは、「前記アクチュエータは、前記浮体と接続されており、」「前記浮体を、前記浮体が浮力を有しない第1の状態から、前記浮体が浮力を有する第2の状態に移行させるために設けられている」点で共通する。

11 前記1〜10によれば、本願発明1と引用発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。

〈一致点〉
「(a)人間(10)に固定されるために設けられた担体装置(100);
(b)前記担体装置(100)に受容されており、センサ装置(264)を有している監視装置(200);
(c)前記担体装置(100)によって受容されており、前記監視装置(200)と接続された信号装置(300);
(d)アクチュエータ
を有している、水中の人間(10)を監視するための装置(1)において、
前記センサ装置(264)は、人間が前もって定めた水深よりも深くにどのくらい長くいたのかの検出に基づいて検出結果を提供するように構成され、
前記信号装置(300)は、浮体(310)を有しており、
前記浮体(310)は、略気密な物体であり、ガスが供給される場合に、体積が増大し、
前記信号装置(300)は、ガスが供給される場合に、前記信号装置(300)が前記担体装置(100)から分離され、水面(20)に上昇し、
前記アクチュエータは、前記浮体と接続されており、前記浮体を、前記浮体が浮力を有しない第1の状態から、前記浮体が浮力を有する第2の状態に移行させるために設けられていることを特徴とする装置(1)。」である点。

〈相違点1〉
本願発明1の「監視装置(200)は「センサ装置(264)」に接続された「処理装置」を備えているのに対し、引用発明の「作動遅延室4」は該処理装置に対応する構成を備えていない点。
これに付随して、本願発明1では、センサ装置(264)の検出結果に基づいて「処理装置」が生成した「電気信号」に応じて、アクチュエータが動作して浮体にガスの供給がされるのに対し、引用発明では、「作動遅延室4」の動作が機械的に「圧縮ばね27」等に伝播して浮き袋38にガスが供給される点。

〈相違点2〉
本願発明1において信号装置(300)が担体装置(100)から分離する機構は、「体積が増大する略気密な物体により、前記担体装置(100)に対して力を生じさせるように構成されており、前記力により前記信号装置(300)が前記担体装置(100)から分離され」るものであるが、引用発明において浮標31が担体装置(すなわち、「作動部1」及び「カプセルベース35」が連結してなる装置)から分離する機構は、浮き袋38により担体装置に対して力が生じさせるよう構成されているか否かは明らかではない点。

第6 本願発明1についての容易想到性の判断
事案に鑑み、相違点2について検討する。

1 引用発明の浮き袋38の構造を検討すると、第7図によれば、膨張した状態の浮き袋38は浮標31の先端側を覆っており、浮標31の付け根部分(すなわち、カプセルベース35側)には存在しない。
そして、カプセル34は、気化ガスの圧力により、割れ目48の部分が開いてカプセルベース35より離脱するのであるから、引用発明の浮き袋38が、カプセルベース35に対して力を加える必要はなく、引用発明において、膨張する浮き袋38により、担体装置(すなわち、「作動部1」及び「カプセルベース35」が連結してなる装置)に対して力を生じさせるよう構成する動機付けは存在しない。

2 本件拒絶理由通知書で引用した文献2〜6にも、本願発明1の「体積が増大する略気密な物体により、前記担体装置(100)に対して力を生じさせるように構成されており、前記力により前記信号装置(300)が前記担体装置(100)から分離され」ることは、開示も示唆もない。

3 前記1及び2のとおりであるから、相違点2に係る構成は、当業者といえども容易に想到し得るものではない。
したがって、本願発明1は、当業者が引用発明及び文献2〜6に記載された技術に基づいて容易に発明をすることができたものではない。

第7 本願発明2〜13についての容易想到性の判断
本願発明2〜13は、本願の請求項1を引用する形で特定されたものであるから、本願発明2〜13と引用発明とには、前記第5、11の相違点2が存在する。
よって、前記第6と同じ理由により、本願発明2〜13も、当業者が引用発明及び文献2〜6に記載された技術に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
したがって、本件拒絶理由通知書で通知した進歩性欠如に関する拒絶理由によっては、本願を拒絶することはできない。

第8 原査定についての判断
本件補正により、本願発明1は前記第5、11に示した相違点2に係る構成を有するものとなった。
相違点2に係る構成は、原査定における文献A〜Fには記載されておらず、本願優先日前における周知技術でもないので、本願発明1〜13は、文献A(本件拒絶理由通知書における文献2)と同一ではなく、また、文献A〜Fに記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものでもない。したがって、原査定を維持することはできない。

第9 記載不備についての判断
本件補正の結果、令和3年12月9日付け拒絶理由通知書の拒絶理由(明確性要件違反、サポート要件違反)及び本件拒絶理由通知書で通知した拒絶理由(明確性要件違反)では、本願を拒絶することはできない。

第10 むすび
前記第8のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
そして、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2022-10-28 
出願番号 P2018-529724
審決分類 P 1 8・ 537- WY (G08B)
P 1 8・ 113- WY (G08B)
P 1 8・ 121- WY (G08B)
最終処分 01   成立
特許庁審判長 土居 仁士
特許庁審判官 丸山 高政
角田 慎治
発明の名称 水難事故から守るため、特に溺者等を早期に発見するための装置及び方法  
代理人 阿部 達彦  
代理人 実広 信哉  
代理人 村山 靖彦  
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