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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  G09B
管理番号 1390054
総通号数 11 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-11-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2020-04-07 
確定日 2022-10-18 
事件の表示 上記当事者間の特許第4085311号発明「学習用具、学習用情報提示方法、及び学習用情報提示システム」の特許無効審判事件について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 審判費用は,請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の概要
特許第4085311号(請求項の数9。以下,「本件特許」という。)に係る出願(以下,「本件特許出願」という。)は,平成14年8月2日に出願され,平成20年2月29日に特許権の設定登録がされたものである。
本件請求項1ないし9に係る特許に対し,令和2年4月7日に,請求人より本件無効審判が請求されたところ,その手続の概要は次のとおりである。

令和 2年 4月 7日付け 審判請求書
同年 7月22日付け 審判事件答弁書
同年 8月 4日付け 審尋
同月27日付け 上申書(被請求人)
同年 9月11日付け 審判事件弁駁書(請求人)・回答書(請求人)
同月29日付け 上申書(請求人)
同年12月 7日付け 上申書(請求人)
同月21日付け 上申書(請求人)・証人尋問申出書(請求人)・尋問事項書(請求人)
令和 3年 2月15日付け 上申書(請求人)・(証人尋問申出書の)手続補正書(請求人)・(尋問事項書の)手続補正書(請求人)
同年 6月15日付け 審理事項通知書
同年 7月26日付け 口頭審理陳述要領書(請求人)
同月27日付け 口頭審理陳述要領書(被請求人)
同年 8月10日 口頭審理・証拠調べ(証人尋問)
同月27日付け 上申書(請求人)
同年 9月 3日付け 上申書(被請求人)
同年10月26日付け 無効理由通知書
同年11月25日付け 意見書(被請求人)
令和 4年 2月17日付け 上申書(請求人)

第2 本件特許の請求項1ないし9に係る発明
本件特許の請求項1ないし9に係る発明(以下,それぞれを「本件特許発明1」ないし「本件特許発明9」といい,それらを総称して「本件特許発明」という。)は,本件特許の請求項1ないし9に記載された事項により特定されるものであるところ,請求項8及び当該請求項8の記載を引用する形式で記載された請求項9の末尾の「学習用情報提示方法。」なる記載は,請求項8の第1段落末尾に「学習用情報提示システムであり,」と記載されていること,及び請求項8及び9に記載された各発明特定事項からみて両請求項に係る発明のカテゴリーが物の発明であることが明らかであることを考慮すると,「学習用情報提示システム」の誤記であると認められるから,本件特許発明1ないし9は,当該誤記を訂正した次のとおりのものと認める。(下線部は,誤記の訂正箇所を表す。)

【請求項1】
コンピューターを備え,対応する語句が存在する原画の形態を該語句と結びつけて憶えるための学習用具であり,
前記コンピューターが,
前記原画,該原画の輪郭に似た若しくは該原画を連想させる輪郭を有し対応する語句が存在する第一の関連画,並びに,該原画及び第一の関連画に似た若しくは該原画及び第一の関連画を連想させる輪郭を有し対応する語句が存在する第二の関連画,から成る組画の画像データが,複数個記録された組画記録媒体と,
前記組画記録媒体に記録された複数個の組画の画像データから,一の組画の画像データを選択する画像選択手段と,
前記選択された組画の画像データにより,前記第一の関連画,前記第二の関連画,及び前記原画の順に表示する画像表示手段と,
前記関連画及び原画に対応する語句の音声データが記録された音声記録媒体と,
前記音声記録媒体から,前記語句の音声データを選択する音声選択手段と,
前記選択された語句の音声データを再生する音声再生手段と,
を含み,
前記画像表示手段が,前記第一の関連画,前記第二の関連画,及び前記原画を,対応する語句の再生と同期して表示する学習用具。
【請求項2】
前記第一の関連画が漫画であり,前記第二の関連画が抽象画である請求項1に記載の学習用具。
【請求項3】
前記記憶対象が,国家,自治体,若しくは行政単位に関連する地域の地図上の形状,又は,該地域を象徴する国旗若しくはシンボルマークの模様である請求項1又は請求項2のいずれかに記載の学習用具。
【請求項4】
前記組画記録媒体が,前記組画の画像が記録された電子記録媒体である請求項1〜請求項3のいずれかに記載の学習用具。
【請求項5】
前記関連画が複数であり,一の関連画が他の関連画の輪郭に似た若しくは該他の関連画を連想させる輪郭を有する請求項1〜請求項4のいずれかに記載の学習用具。
【請求項6】
コンピューターを備えた学習用具を用いて,対応する語句が存在する原画の形態を該語句と結びつけて憶えるための学習用情報提示方法であり,
前記コンピューターの組画記録媒体が,前記原画,該原画の輪郭に似た若しくは該原画を連想させる輪郭を有し対応する語句が存在する第一の関連画,並びに,該原画及び第一の関連画に似た若しくは該原画及び第一の関連画を連想させる輪郭を有し対応する語句が存在する第二の関連画,から成る組画の画像データを,複数個記録するステップと,
前記コンピューターの画像選択手段が,前記組画記録媒体に記録された複数個の組画の画像データから,一の組画の画像データを選択するステップと,
前記コンピューターの画像表示手段が,前記選択された組画の画像データにより,前記第一の関連画,前記第二の関連画,及び前記原画の順に表示するステップと,
前記コンピューターの音声記録媒体が,前記関連画及び原画に対応する語句の音声データを記録するステップと,
前記コンピューターの音声選択手段が,前記音声記録媒体から,前記語句の音声データを選択するステップと,
前記コンピューターの音声再生手段が,前記選択された語句の音声データを再生するステップと,
を含み,
前記画像表示手段が,前記第一の関連画,前記第二の関連画,及び前記原画を,対応する語句の再生と同期して表示する学習用情報提示方法。
【請求項7】
前記第一の関連画が漫画であり,前記第二の関連画が抽象画である請求項6に記載の学習用情報提示方法。
【請求項8】
対応する語句が存在する原画の形態を該語句と結びつけて憶えるための学習用具のコンピューターが備える学習用情報提示システムであり,
前記原画,該原画の輪郭に似た若しくは該原画を連想させる輪郭を有し対応する語句が存在する第一の関連画,並びに,該原画及び第一の関連画に似た若しくは該原画及び第一の関連画を連想させる輪郭を有し対応する語句が存在する第二の関連画,から成る組画の画像データが,複数個記録された組画記録媒体と,
前記組画記録媒体に記録された複数個の組画の画像データから,一の組画の画像データを選択する画像選択手段と,
前記選択された組画の画像データにより,前記第一の関連画,前記第二の関連画,及び前記原画の順に表示する画像表示手段と,
前記関連画及び原画に対応する語句の音声データが記録された音声記録媒体と,
前記音声記録媒体から,前記語句の音声データを選択する音声選択手段と,
前記選択された語句の音声データを再生する音声再生手段と,
を含み,
前記画像表示手段が,前記第一の関連画,前記第二の関連画,及び前記原画を,対応する語句の再生と同期して表示する学習用情報提示システム。
【請求項9】
前記第一の関連画が漫画であり,前記第二の関連画が抽象画である請求項8に記載の学習用情報提示システム。

第3 無効理由及び当事者の主張の概要
1 請求人が主張する無効理由
(1)請求人が主張する無効理由の概要
請求人が審判請求書において主張する無効理由(以下,「請求人無効理由」という。)は,概略次のとおりである。
本件特許発明1ないし9は,本件特許出願の出願前に頒布された刊行物である甲1に記載された発明,本件特許出願の出願前に公然と知られたもしくは公然と実施された発明であるところの「形で覚える都道府県」という名称の学習用具に係る発明,及び本件特許出願の出願前に頒布された刊行物である甲3に記載された発明に基づいて,又は前記甲1に記載された発明,前記「形で覚える都道府県」という名称の学習用具に係る発明,前記甲3に記載された発明,常套手段,及び周知の技術事項(甲4及び甲5)に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,それらの特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものである。
したがって,本件特許発明1ないし9についての特許は,同法123条1項2号に該当し,無効とすべきものである。

(2)証拠方法
請求人は,次の書証及び人証を提出している。
ア 書証
甲1:特開平10−312151号公報
甲2の1:学習用具の写真撮影報告書(令和2年3月4日 作成者:請求人代理人 黒瀬雅一)
甲2の2:「形で覚える都道府県」との題名の書面
甲2の3:「形で覚える都道府県カルタ」との題名の書面
甲2の4:甲2号証の1において示した写真5,及び6に撮影されている「形で覚える都道府県」との台形のカセットテープに録音されている事項を書き起こした書面(令和2年3月4日 作成者;請求人代理人 黒瀬雅一)
甲3:特開平11−202750号公報
甲4:特開平11−90047号公報
甲5:特開平11−114218号公報
甲6:平成31年(ワ)第3273号事件 答弁書(令和元年5月27日)
甲7:日本経済新聞朝刊 2000年4月25日 39ページの“埼玉の3市合併「さいたま市」に正式決定”との題名の記事
甲8:日本経済新聞地方経済面 2000年4月25日 40ページの“「さいたま市」正式決定”との題名の記事
甲9:日本経済新聞朝刊 2000年4月30日 39ページの“「さいたま市」を決定”との題名の記事
甲10:“形で覚える都道府県 お値下げしました!”,[online],株式会社メルカリ,[令和2年8月21日検索],インターネット<URL:https://www.mercari.com/jp/items/m91938437110/>
甲11:竹石睦子の陳述書(形で覚える都道府県製造・販売の経緯について)(令和2年11月25日)
甲12:令和3年(ネ)第10040号差止請求権不存在確認請求控訴事件 控訴理由書(令和3年6月3日)

イ 人証
証人:竹石睦子

(3)被請求人の反論の概要
請求人無効理由について,被請求人は,次のとおり反論している。
甲2学習用具が,被請求人代表取締役が独自に発想し,商品化したものであることは確かであるが,その販売・譲渡時期については不明であるから,「形で覚える都道府県」という名称の学習用具に係る発明が,本件特許出願の出願前に公然と知られた又は公然と実施されたものということはできない。
したがって,甲1に記載された発明に「形で覚える都道府県」という名称の学習用具に係る発明を組み合わせることはできないから,本件特許に請求人無効理由は存在しない。

(4)証拠方法
被請求人は,次の書証を提出している。
乙1:令和3年(ネ)第10040号事件 答弁書(令和3年7月7日)
乙2:令和3年(ネ)第10040号差止請求権不存在確認請求控訴事件 判決(令和3年10月14日判決言渡)

2 無効理由通知書により通知された無効理由
(1)無効理由通知書により通知された無効理由の概要
令和3年10月26日付け無効理由通知書により通知された無効理由(以下,「職権無効理由」という。)は,概略次のとおりである。
本件特許発明1ないし9は,いずれも,本件特許出願の出願前に公然と実施された発明であるところの「形で覚える都道府県」という名称の学習用具に係る発明及び周知技術に基づいて,又は本件特許出願の出願前に公然と知られたもしくは公然と実施された発明であるところの「形で覚える都道府県」という名称の学習用具に係る発明及び引用例1(特開平7−77926号公報)に記載された技術事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,それらの特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものである。
したがって,本件特許の請求項1ないし9に係る発明についての特許は,同法123条1項2号に該当し,無効とすべきものである。

(2)被請求人の反論の概要
令和3年11月25日付け意見書において,被請求人は,前記1(3)と同様の反論に加えて,次のとおり反論している。
ア 職権無効理由で示された周知例は,引用例1(特開平7−77926号公報)だけであるから,職権無効理由で周知技術とされた事項(学習内容が記載された複数枚のカード等を用いて,学習を行うという従来の学習用具では,カード等の整理や,カリキュラムに沿ったカード等の選択の煩わしさ等の課題があるので,カード等に代えて学習内容を表示したり音声出力したりするコンピューターを用いて,学習を行うこと)が周知であるとはいえない。

イ 引用例1に記載された発明は,その【0004】や【0022】ないし【0024】等の記載からみて,幼児の言語能力の発達に資することを目的としたものであって,たとえば親が子どもに対し,物を見せながらその物を発音することによって言葉を教えることをシステムで実現しようとしたものであって,引用例1の記載から,職権無効理由において認定されたような,カードの整理や選択等に係る煩わしさを低減すべくなされた,カード全般に関する画面と音声との同期システムといった上位概念の発明を把握することはできない。

ウ 前記イのとおり,引用例1には,あくまで幼児の言語学習のため,絵や文字,複数の物などの画像を1枚1枚表示し,それを直接的に表現する音楽を音声で逐次出力する技術が記載されているにすぎないのに対して,甲2学習用具は,都道府県の名称と形とを関連付けて記憶するために,都道府県の形状を連想させる漫画カード及び抽象画カードと,これらを都道府県に関連付けるべく間接的な表現が用いられた語呂合わせの歌を利用したものであり,引用例1に記載された発明とは遠くかけ離れたものであるから,甲2学習用具に引用例1に記載された発明を適用することは容易ではなく,職権無効理由は成り立たない。

(3)請求人の再反論の概要
令和4年2月17日付け上申書において,請求人は,被請求人の反論に対して次のとおり反論している。
ア 周知技術というために,周知例を挙げることは必須不可欠ではなく,周知例として挙げられた文献の数でもって形式的に判断されるものでもない。

イ 引用例1の【0002】,【0003】,【0006】,【0008】,【0012】の記載からみて,引用例1には,無効理由通知書に記載されたとおりの事項が記載されており,引用例1の従来技術の課題,及びその課題を解決するための手段を上位概念化することなく記載したものである。

ウ 甲2学習用具発明と周知技術とは,学習用具という共通の技術分野に属する。また,甲2学習用具発明は,これを使用して学習者に学習させる際には,各カードの整理やこれらのカードをカセットテープに録音された語呂合わせの歌における都道府県の順に並べるといった作業の煩わしさ等の自明の課題を有しており,周知技術の課題と共通するから,甲2学習用具発明に周知技術を適用することには動機付けが存在する。

第4 引用例等
1 甲1
(1)甲1の記載
甲1は,本件特許出願の出願前である平成10年11月24日に頒布された刊行物であるところ,当該甲1には,次の記載がある。(下線は,後述する甲1発明の構成に特に関係する箇所を示す。)
ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は英単語等の学習支援装置に関するものであって,特に効率的な暗記作業の支援を可能にする,英単語等の学習支援装置及びその出力再生方法並びに英単語等の学習支援プログラムを記録した記録媒体並びに英単語等の学習支援プログラムに対応した構造を有するデータを記録した記録媒体に係るものである。
【0002】
【発明の背景】・・・(中略)・・・そこで従来より,暗記を簡易に行う試みとして英単語等を語呂のよい日本語の創作文中に取り込んでこの創作文ごと暗記をするようにしたり,更にこのような創作文をイラスト化して視覚に訴えるようにしたものが,英単語連想記憶術等として書籍の形で一般に提供されている。また最近では,液晶画面を具えたポータブルゲーム機や電子手帳等のソフトとして,英単語等を収録し,一問一答式で暗記のチェックを行えるようなものも登場している。
【0003】しかしこれらのような書籍や機器等を用いたところで,暗記作業は,覚えては忘れ,また覚えては忘れ,やがて記憶を強固なものにしてゆくという反復的な作業には変わりがなく,依然として煩わしいものであり,多くの時間を必要とすることに変わりはないのが実情である。
・・・(中略)・・・
【0005】
【開発を試みた技術課題】本発明者はこのような背景から,英単語等を種々の様式で表現し,これらを効果的に組み合わせることで,容易に且つ忘却しにくい状態で暗記することができる,新規な英単語等の学習支援装置及びその出力再生方法並びに英単語等の学習支援プログラムを記録した記録媒体並びに英単語等の学習支援プログラムに対応した構造を有するデータを記録した記録媒体を開発することを技術課題としたものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】請求項1記載の英単語等の学習支援装置は,各単語をスペリング要素毎に分け,この各スペリング要素毎に連想を助ける連想パーツを対応させ,この連想パーツを組み合わせることによって各単語毎に一定の記憶援助ストーリーを構成するためのプログラムを固定した記録媒体と,この記録媒体のデータを聴覚または視覚のいずれか一方または双方で知覚できるように表示する手段とを具えたことを特徴として成る。この発明によれば,記録媒体のデータから学習カリキュラム及び記憶カリキュラムを構成し,音声による聴覚刺激及び画像による視覚刺激のいずれか一方または双方をすることが可能となる。」

イ 「【0014】
【発明の実施の形態】以下本発明の学習支援装置並びに英単語学習支援プログラムを記録した記録媒体について具体的に説明する。図1に示すのが本発明の学習支援装置1の一例であって,このものは後述する音声データ及び画像データを読み取る手段であって一例としてFDドライブを適用した読取装置2と,この読取装置2により読み取った音声データ及び画像データを記憶する手段であり,一例として半導体記憶素子を適用した主記憶3と,これら音声データ及び画像データから学習カリキュラム及び記憶カリキュラムを構成する手段の一例であるCPU4及び入出力制御部5と,音声データを出力する手段の一例であるスピーカ6と,画像データを表示する手段の一例であるディスプレイ7とを具えて成る。従って学習支援装置1としては上記した諸部材を具えた専用機の他,市販のパソコン等(デスクトップ型,ラップトップ型,パームトップ型等種々の形態を採り得る)を用いることが価格等の面から好ましく,特に液晶カラーディスプレイを具えたノートパソコンは画像表現力に優れ,可搬性に優れていることからも好適である。
・・・(中略)・・・
【0017】次に英単語学習支援プログラムを記録する記録媒体8について説明する。記録媒体8としてはフロッピーディスク,ハードディスク等の磁気ディスクや,CD−ROM等の光ディスク,MO,MD,ZIP,PD等の光磁気ディスク,EEPROM等の半導体メモリ等,種々のものが用いられるが,本実施の形態ではフロッピーディスクを用いる。・・・(中略)・・・
【0018】そしてこのような記録媒体8には,一例として図2に示すフローチャートに従った処理を実行するためのコンピュータプログラム(英単語学習支援プログラム)とデータ(英単語プログラムに対応した構造を有するデータ)のいずれか一方または双方が書き込まれるのである。・・・(中略)・・・
【0019】次に前記記録媒体8に記録される種々のデータについて説明しておく。記録媒体8内には複数のファイルfが作成されるのであり,これらは大別して音声ファイルfaと画像ファイルfvに分類される。そして音声ファイルfa内には連想文ファイルf1と英単語発音ファイルf2が作成され,一方,画像ファイルfv内には文字ファイルfcとパーツ関連アニメファイルfpが作成される。更にまた文字ファイルfc内には和単語ファイルf3と英単語ファイルfeが作成され,この英単語ファイルfe内には完全文字ファイルf4,パーツファイルf5及びパーツ結合ファイルf6が作成される。
【0020】まず画像ファイルfvに記録されるデータについて説明する。前記完全文字ファイルf4に記録される完全文字データとは,ある特定の英単語についての正確なスペル(アルファベットの群)を符号化して成るデータである(例 polish)。
【0021】また前記パーツファイルf5に記録されるパーツデータとは,英単語のスペリングを,個々のアルファベットの順序をそのままにした状態で分断して成るアルファベットの群(請求項1で定義したスペリング要素)であり,他の文言(請求項1で定義した連想パーツ)を連想させるような群を符号化して成るデータである(例 パーツ23「poli」から連想パーツであるポリースマン(警察官)が連想される。パーツ23「sh」から連想パーツであるシューズ(靴)が連想される。)。
【0022】また前記パーツ結合ファイルf6に記録されるパーツ結合データとは,前記完全文字データを分断したパーツ(スペリング要素)を,元の順番に一例として「−」(ハイフォン)で連結した文字記号群を符号化して成るデータである(例poli−sh)。
【0023】また前記和単語ファイルf3に記録される和単語データとは,前記完全文字データの英単語を意味する日本語の単語文字(漢字,平仮名,片仮名)を符号化して成るデータである(例 磨く)。
【0024】また前記パーツ関連アニメファイルfpに記録されるパーツ関連アニメデータとは,前記パーツ(スペリング要素)から連想される語である連想パーツを表す映像であり,静止画または動画を符号化して成るデータである(例 パーツ23「poli」から連想される連想パーツたるポリースマン(警察官)を表す静止画,パーツ23「sh」から連想される連想パーツたるシューズ(靴)を表す静止画と,このシューズを磨く動作(動画))。
【0025】また文字ファイルfcには前記完全文字データ,パーツデータ,パーツ結合データ及び和単語データのほか,タイトル文字データが記録されるのであり,このタイトル文字データとは,カリキュラムタイトル,セクション表示等,タイトル画面10中で表示される文字を符号化して成るデータである(例 LEARNING TIME,section 1)。
【0026】また上述したデータの他,画像ファイルfvには一例としてアニメデータを記録してもよく,このアニメデータとは,後述するタイトル画面10,英単語画面11,連想文画面12,確認画面13及び正答画面14等,学習カリキュラム及び確認画面13中で表示されるアニメ21(静止画または動画)を符号化して成るデータである(例 屋外,室内等の背景の静止画,尻尾を振る犬,人物の表情等の動画)。
【0027】次に音声ファイルfaに記録される音声データについて説明する。連想文ファイルf1に記録される連想文データとは記憶援助ストーリーの一態様であり,前記パーツ23から連想される連想パーツを表す文言を含んで構成された創作文の音声を符号化して成るデータである(例 完全文字がpolishのとき,パーツ23であるpoliからポリースマンという連想パーツが連想され,shからシューズという連想パーツが連想され,これらの連想パーツを組み合わせることによって各英単語毎に一定の記憶援助ストーリーの一態様である連想文「ポリースマンのシューズを磨く」を創作する)。なお本実施の形態での前記連想文の創作は,あらかじめ人間が考えて行うが,別途コンピュータプログラムを付加することでCPU4により行わせてもよい。
【0028】また英単語発音ファイルf2に記録される英単語発音データとは,前記完全文字データの英単語についての正確な発音の音声を符号化して成るデータであり,特にネイティブスピーカーによるものが好ましい。
・・・(中略)・・・。
【0030】そしてこれらのデータにはそれぞれ識別符号が付されており,個々の完全文字データ(英単語)に対応した完全文字データ,パーツデータ,パーツ結合データ,和単語データ,パーツ関連アニメデータ,タイトル文字データ,アニメデータ,連想文データ,英単語発音データ,効果音データ及びBGMデータには,同一の識別符号が付されている。そして前記完全文字データは一例として10個を一まとまりとして1セクションを形成するのであり,前記記録媒体8には複数のセクションが記録されている。
・・・(中略)・・・
【0033】次に英単語暗記プログラムによる学習支援装置1を用いた暗記カリキュラムの実行について,図2に示すフローチャートに従って説明する。なお暗記カリキュラムは学習カリキュラムと記憶カリキュラムとで構成されるのであり,学習カリキュラムは英単語画面11及び連想文画面12によって構成され,一方,記憶カリキュラムは確認画面13及び正答画面14によって構成される。
【0034】まずステップS101において,主記憶3内に音声ファイルFA及び画像ファイルFVを作成する。・・・(中略)・・・
【0035】次にステップS102において,前記音声ファイルFA及び画像ファイルFV内をクリアする。
【0036】次にステップS103において,読取装置2を起動して記録媒体8内の音声ファイルfa及び画像ファイルfvに記録された音声データ及び画像データのうち一例として1セクション分のデータを,それぞれのデータに付された識別符号を用いて,主記憶3内の音声ファイルFA及び画像ファイルFV中の対応するファイルに読み込む。・・・(中略)・・・
【0037】次にステップS104においてタイトル画面10を表出するのであり,画像ファイルFVから画像データであるタイトル文字データ(LEARNING TIME,section 1)及びアニメデータ(風景)を取り出すとともにCPU4及び入出力制御部5により画像信号(タイトル文字20及びアニメ21)を生成し,これらの画像を図3(a)に示すようにディスプレイ7に表示する。更に音声ファイルFAから音声データ(BGM,鳥のさえずり)を取り出すとともにCPU4及び入出力制御部5により音声信号(BGM,鳥のさえずり)を生成し,これらの音声をスピーカ6から出力する・・・(中略)・・・
【0038】次にステップS105において英単語画面11を表出するのであり,図3(b)に示すように完全文字22(polish)の画像をディスプレイ7に表示し,更に英単語発音データの音声をスピーカ6から出力する。このとき英単語発音の出力は,完全文字22を表示した状態で一回または複数回行う。
【0039】次にステップS106において記憶援助ストーリーたる連想文画面12を表出するのであり,図3(c)に示すように画像データのパーツ23(poli,sh),パーツ関連アニメ24(警察官,靴)及び他のアニメ21(靴磨きの少年)をディスプレイ7に表示し,更に音声データの記憶援助ストーリーたる連想文(「ポリースマンのシューズを磨く」),効果音及びBGMをスピーカ6から出力する。このときパーツ関連アニメ24(警察官,靴)の近傍にそれぞれパーツ23(poli,sh)を表出した状態で前記連想文(「ポリースマンのシューズを磨く」)の出力を一回または複数回行う。また前記パーツ関連アニメ24(警察官,靴)は連想文とシンクロして表示されるのであり,パーツ関連アニメ24は画面上の位置を移動する等,連想文の内容に合った表示が行われる(この実施の形態では靴磨きの少年がパーツ関連アニメ24である警察官の靴を磨く動作を行う)。
【0040】次にステップS107において1セクション中に含まれるすべての完全文字データ(本実施の形態においては10個の英単語)についてS106までの処理が行われたか否かを判断し,否なら105に戻り残りの完全文字データ(英単語)についてS106までの処理を行う。そしてS107での判断が正となったらS108へ進み,カウントを行う。
【0041】次にステップS109において,S108でのカウント値が設定値(本実施の形態では一例として4)であるか否かを判断する。否であればS105に戻り当該セクションの最先の完全文字データについてS105以降の処理を実行する。正であればS110に進み,記憶カリキュラムを表出するための以降の処理を行っていく。
【0042】まずステップS110においてタイトル画面10を表出するのであり,図4(a)に示すように画像データのタイトル文字20(MEMORY TIME,section 1)及びアニメ21(風景)を適宜ディスプレイ7に表示し,更に音声データのBGM(鳥のさえずり)を適宜スピーカ6から出力する。
【0043】次にステップS111において確認画面13を表出するのであり,図4(b)に示すように画像データのパーツ結合25(poli−sh)をディスプレイ7に表示し,更に音声データの英単語発音をスピーカ6から一回または複数回出力する。
【0044】次にステップS112において,学習者が前記ステップS111において表示,出力された単語の意味を暗記したことを確認した場合に,適宜マウス等の入力装置9をクリックする。
【0045】次にステップS113において正答画面14を表出するのであり,図4(c)に示すように画像データのパーツ結合25(poli−sh)をディスプレイ7に表示し,更に音声データの記憶援助ストーリーたる連想文(「ポリースマンのシューズを磨く」)をスピーカ6から出力する。このとき連想文の出力とシンクロさせて和単語26(磨く)を表示するのであり,本実施の形態では連想文の出力が終了すると同時に和単語26を表示するようにした。
【0046】次にステップS114において1セクション中に含まれるすべてのパーツ結合データ(英単語)についてクリック入力がされたか否かを判断し,否ならS111に戻り再度S113までの処理を行う。このときすでにクリック入力されたパーツ結合データについては飛ばすようにしてもよい。そしてステップS114での判断が正となったらステップS115へ進む。
【0047】次にステップS115において過剰学習を実行するのであり,この過剰学習とは図には示さないが,1セクション中のすべて(本実施の形態では10個の単語polish等)の完全文字22について,これらをディスプレイ7に表示し,更に記憶援助ストーリーたる連想文(「ポリースマンのシューズを磨く」等)をスピーカ6から出力する。
【0048】そしてステップS116ですべてのセクションが終了したか否かを判断し,否ならS102に戻り音声ファイルFA及び画像ファイルFVをクリアし,ステップS103で次のセクション2についてデータを読み込み,S104以降の学習カリキュラムと記憶カリキュラムとの表出を行ってゆくのである。またS116での判断が正なら暗記カリキュラムを終了する。」

ウ 「【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の学習支援装置を示すブロック図である。
【図2】本発明の学習支援装置を用いた暗記カリキュラムの画像表示及び音声出力を実現するためのステップを示すフローチャートである。
【図3】学習カリキュラムの画面にデータが表示されたディスプレイを示す説明図である。
【図4】記憶カリキュラムの画面にデータが表示されたディスプレイを示す説明図である。
・・・(中略)・・・
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】



(2)甲1の記載から把握される発明
甲1の図1からみて,学習支援装置1は,入力装置9を備えていると認められる。また,甲1に記載された英単語学習支援プログラムが,学習支援装置1に,英単語画面11を表出するステップS105と,連想文画面12を表出するステップS106とを,1セクション中に含まれるすべての完全文字データについて順に行う処理を,4回繰り返した後で,確認画面13を表出するステップS111と,学習者による前記入力装置9を用いたクリック入力を受け付けるステップS112と,正答画面14を表出するステップS113とを,1セクション中に含まれるすべてのパーツ結合データについてクリック入力がされるまで繰り返すという動作を,記録媒体8に記録された複数のセクションすべてについて実行させるためのものであることは,甲1の【0034】ないし【0048】(前記(1)イを参照。)に記載された図2のフローチャートの説明(特に,【0040】に記載されたステップS107における処理内容,【0041】に記載されたステップS109における処理内容,【0046】に記載されたステップS114における処理内容及び【0048】に記載されたステップS116における処理内容)からみて明らかである。
したがって,前記(1)アないしウで摘記した記載から,甲1には,英単語の学習支援装置1に係る発明として,次の発明が記載されていると認められる。(なお,甲1の【0033】に記載された「英単語暗記プログラム」が,【0017】や【0018】等に記載された「英単語学習支援プログラム」のことを指していることは明らかであるから,後述する甲1発明では,「英単語学習支援プログラム」に統一して認定した。)

「市販のパソコンを用いて構成された,効率的な暗記作業の支援を可能にする英単語の学習支援装置1であって,
記録媒体8と,読取装置2と,主記憶3と,CPU4及び入出力制御部5と,スピーカ6と,ディスプレイ7と,入力装置9とを具えて成り,
前記記録媒体8には,英単語学習支援プログラムとデータの双方が書き込まれ,前記データは,ある特定の英単語についての正確なスペルを符号化して成る完全文字データと,英単語のスペリングを,個々のアルファベットの順序をそのままにした状態で分断して成るアルファベットの群であり,他の文言を連想させるような群を符号化して成るパーツデータと,前記完全文字データを分断したパーツを,元の順番に「−」で連結した文字記号群を符号化して成るパーツ結合データと,前記完全文字データの英単語を意味する日本語の単語文字を符号化して成る和単語データと,前記パーツから連想される語である連想パーツを表す映像であり,静止画または動画を符号化して成るパーツ関連アニメデータと,前記パーツ23から連想される連想パーツを表す文言を含んで構成された創作文の音声を符号化して成る連想文データと,前記完全文字データの英単語についての正確な発音の音声を符号化して成る英単語発音データとを含み,
これらのデータにはそれぞれ識別符号が付されており,個々の英単語に対応した完全文字データ,パーツデータ,パーツ結合データ,和単語データ,パーツ関連アニメデータ,連想文データ,英単語発音データには,同一の識別符号が付され,前記完全文字データは10個を一まとまりとして1セクションを形成するのであり,前記記録媒体8には複数のセクションが記録されており,
前記英単語学習支援プログラムは,学習支援装置1に,英単語画面11を表出するステップS105と,連想文画面12を表出するステップS106とを,1セクション中に含まれるすべての完全文字データについて順に行う処理を,4回繰り返した後で,確認画面13を表出するステップS111と,学習者による前記入力装置9を用いたクリック入力を受け付けるステップS112と,正答画面14を表出するステップS113とを,1セクション中に含まれるすべてのパーツ結合データについてクリック入力がされるまで繰り返すという動作を,すべてのセクションについて実行させるためのものであり,
前記英単語画面11では,完全文字22の画像を前記ディスプレイ7に表示し,更に完全文字22を表示した状態で英単語発音データの音声を前記スピーカ6から出力し,
前記連想文画面12では,画像データのパーツ23及びパーツ関連アニメ24を前記ディスプレイ7に表示し,更に音声データの記憶援助ストーリーたる連想文を前記スピーカ6から出力し,このときパーツ関連アニメ24の近傍にそれぞれパーツ23を表出した状態で前記連想文の出力を行い,また前記パーツ関連アニメ24を連想文とシンクロして表示し,
前記確認画面13では,画像データのパーツ結合25を前記ディスプレイ7に表示し,更に音声データの英単語発音を前記スピーカ6から出力し,
前記正答画面14では,画像データのパーツ結合25を前記ディスプレイ7に表示し,更に音声データの記憶援助ストーリーたる連想文をスピーカ6から出力し,連想文の出力が終了すると同時に和単語26を表示するよう構成された,
学習支援装置1。」(以下,「甲1発明」という。)

2 甲2学習用具
(1)甲2の1の各写真等から看取される事項
甲2の1の各写真等から,次の事項が看取される。(下線は,後述する甲2学習用具発明の構成に特に関係する箇所を示す。なお,各写真に写っている印刷文章中に元々付されていた下線は省略した。)
ア 「学習用具が収納された箱体の「形で覚える都道府県」と印刷された蓋を上面から撮影した写真」である【写真1】から,箱体の蓋に,“形で覚える都道府県”と印刷されていることが看取される。
イ 「写真1に開示されている箱体に収納されている全ての物品を撮影した写真」である【写真2】から,箱体,複数のカード,4枚の都道府県カルタ,“形で覚える都道府県”との題名の書面,“形で覚える都道府県カルタ”との題名の書面,“形で覚える都道府県”との題名のカセットテープが看取される。
また,各都道府県カルタに,3行4列で最大12の都道府県の形状が描かれていることが看取される。
ウ 「写真2に開示されている“形で覚える都道府県”との題名の書面を拡大して撮影した写真」である【写真3】及び甲2の2によれば,“形で覚える都道府県”との題名の書面には,次の印刷がされている。
「“これを使えば,簡単に都道府県名と地形が覚えられます。”
各都道府県の形からイメージしたもの(形からの連想は,子ども達の考えを採り入れたものです。)と,県名の最初の音(例:ほっかい道なら→ほし,あおもり県なら→あおむけ等)をつなぎ合わせ,都道府県を覚えやすく歌にしたものです。
使い方
★歌にあわせてカードを見せる。
例:福岡県【最後の1枚は日本地理カード(別売)を利用】

・・・(中略)・・・
応用
都道府県カルタをカルタの大きさに切って使用することもできます。
都道府県名を覚えるだけでなく,県庁所在地・県花・県鳥・産業などを入力すると良いでしょう。」(以下,当該“形で覚える都道府県”との題名の書面に記載された「各都道府県の形からイメージしたもの・・・と,県名の最初の音・・・をつなぎ合わせ」た「歌」を,「語呂合わせの歌」という。)
エ 「写真2に開示されている“形で覚える都道府県カルタ”との題名の書面を拡大して撮影した写真」である【写真4】及び甲2の3から,“形で覚える都道府県カルタ”との題名の書面には,北海道・東北地方,関東地方,中部地方,近畿地方,中国・四国地方,九州地方の順で,各地方に属する都道府県の語呂合わせの歌が印刷されているとともに,当該語呂合わせの歌の歌詞の最後の都道府県名の右側にそれぞれ括弧書きで都道府県庁所在地が印刷されていることが看取される。
また,印刷された埼玉県の語呂合わせの歌及び県庁所在地は,「最新[さいしん] 自動車[じどうしゃ] 埼玉県[さいたまけん](浦和市[うらわし])」(審決注:振り仮名は,角括弧中に記載した。)である。
オ 「写真2に開示されている“形で覚える都道府県”との題名のカセットテープを拡大して撮影した写真」である【写真5】から,カセットテープのA面に“形で覚える都道府県”と印刷されていることが看取され,「写真5のカセットテープの裏面を拡大して撮影した写真」である【写真6】から,カセットテープのB面に“形で覚える都道府県 〜カラオケバージョン〜”と印刷されていることが看取される。
また,甲2の4によれば,カセットテープのB面には,北海道・東北地方,関東地方,中部地方,近畿地方,中国・四国地方,九州地方の順で,各地方に属する都道府県の語呂合わせの歌が録音され,その後に,北海道・東北地方,関東地方,中部地方,近畿地方,中国・四国地方,九州地方の順で,各地方に属する都道府県の語呂合わせの歌の歌詞の最後の文言である都道府県名の部分をメロディーのみとした語呂合わせの歌が録音されている。
カ 福岡県,大分県,京都府,和歌山県,福井県の「地図上の形態の画の輪郭を有する漫画が描かれた第一の関連カードを撮影した写真」である【写真7】,【写真11】,【写真15】,【写真19】,【写真23】,【写真27】及び当該各写真の「第一の関連カードの裏面を撮影した写真」である【写真8】,【写真12】,【写真16】,【写真20】,【写真24】,【写真28】から,各第一の関連カードには,いずれかの都道府県の形状に似た輪郭を有する漫画が描かれており,その裏面には,都道府県名と当該都道府県の語呂合わせの歌の歌詞の最初の文言が印刷されていることが看取される。
キ 福岡県,大分県,京都府,和歌山県,福井県の「第一の関連カードに描かれた漫画を連想させる抽象画が描かれた第二の関連カードを撮影した写真」である【写真9】,【写真13】,【写真17】,【写真21】,【写真25】,【写真29】及び当該各写真の「第二の関連カードの裏面を撮影した写真」である【写真10】,【写真14】,【写真18】,【写真22】,【写真26】,【写真30】から,各第二の関連カードには,いずれかの都道府県の形状と当該都道府県に対応する前記第一の関連カードに描かれた漫画の両方を連想させる抽象画が描かれており,その裏面には,都道府県名と当該都道府県の語呂合わせの歌の歌詞の二番目の文言が印刷されていることが看取される。

(2)甲2学習用具に係る発明
ア 前記(1)ウ,カ,キからみて,語呂合わせの歌が,前記第一の関連カードに描かれた漫画に対応する語句,前記第二の関連カードに描かれた抽象画に対応する語句,及び都道府県名を歌詞とするものであり,甲2学習用具の使い方としては,語呂合わせの歌にあわせて,歌詞中の都道府県に対応する第一の関連カード,第二の関連カード,及び別売りの日本地理カードをこの順で学習者に見せるというものと認められるから,前記(1)アないしキに示した甲2の1の各写真等から看取される事項から,甲2の1の各写真に写っている甲2学習用具は,次のような構成のものと認められる。

「都道府県の地図上の形態を前記都道府県の名称と結び付けて覚えるための“形で覚える都道府県”という名称の学習用具であって,
当該学習用具の使い方が記載された“形で覚える都道府県”との題名の書面と,
3行4列で最大12の都道府県の形状が描かれた都道府県カルタ4枚と,
いずれかの都道府県の形状に似た輪郭を有する漫画が描かれた複数枚の第一の関連カードと,
いずれかの都道府県の形状と当該都道府県に対応する前記第一の関連カードに描かれた漫画の両方を連想させる抽象画が描かれた複数枚の第二の関連カードと,
前記第一の関連カードに描かれた漫画に対応する語句,前記第二の関連カードに描かれた抽象画に対応する語句,及び都道府県名を歌詞とする語呂合わせの歌の音声が記録されたカセットテープと,
前記語呂合わせの歌の歌詞が記載された“形で覚える都道府県カルタ”との題名の書面と,
表面に“形で覚える都道府県”との印刷がされ,前記“形で覚える都道府県”との題名の書面,前記4枚の都道府県カルタ,前記複数枚の第一の関連カード,前記複数枚の第二の関連カード,前記カセットテープ,及び前記“形で覚える都道府県カルタ”との題名の書面を収納するための箱体と,
から構成され,
前記“形で覚える都道府県”との題名の書面に記載された使い方は,カセットテープを使用して再生した語呂合わせの歌の歌詞中の対応する語句にあわせて,歌詞中の都道府県に対応する第一の関連カード,第二の関連カード,及び別売りの日本地理カードをこの順で学習者に見せるというものである,
学習用具。」(以下,「甲2学習用具発明」という。)

イ なお,請求人は,令和3年8月27日付け上申書において,甲2学習用具発明の「“形で覚える都道府県”との題名の書面に記載された使い方」について,最後に見せるカードを,「別売りの日本地理カード,又は都道府県カルタ」とすべきであると主張するが,前記(1)ウで摘記したように,“形で覚える都道府県”との題名の書面に記載された「使い方」の欄には,「最後の1枚は日本地理カード(別売)を利用」と記載されているのみであって,最後に都道府県カルタを見せることは記載されていない。
したがって,前記請求人の主張は採用しない。

3 甲3
(1)甲3の記載
甲3は,本件特許出願の出願前である平成11年7月30日に頒布された刊行物であるところ,当該甲3には,次の記載がある。(下線は,後述する甲3発明の構成に特に関係する箇所を示す。
ア 「【請求項1】学習者が暗記すべき事項をクイズ形式として表に問題,裏に解答とした学習カードを自ら作成し,その内容を順次表示させるカラーモニター並びにエンターキー,矢印キー,OK,FUZZY,NOキーを配した電子手帳型機器の学習装置。
【請求項2】本学習装置上で直接入力する方法,マルチメディアパーソナルコンピューター,ワードプロセッサ,ROMカードなど外部入力機器で作成されたデータを転送する方法,専用カードリーダー(スキャナー)またはデジタルカメラで入力する方法により裏,表とも作成された複数の学習カードがグループ別に学習装置内部メモリに保存され,保存されたカードには,カードイメージを付加し,記憶内容のアウトプットを容易にするための手がかりとして,文字色を変更する機能及び背景,イラスト,付箋を貼付させる機能を持つ学習装置。
【請求項3】請求項1及び2の学習装置において,表示するカードのグループを選択後,任意のキーを押すことにより,学習カード表示が入力された順番で表−裏−次カード表と進む通常再生モードによる学習方法。」

(2)甲3の記載から把握される発明
前記(1)アで摘記した記載から,甲3に次の発明が記載されていると認められる。

「学習者が暗記すべき事項をクイズ形式として表に問題,裏に解答とした学習カードを順次表示させるカラーモニター並びにエンターキー,矢印キー,OK,FUZZY,NOキーを配し,
複数の上記学習カードがグループ別に学習装置内部メモリに保存され,
表示するカードのグループを選択後,任意のキーを押すことにより,学習カード表示が入力された順番で表−裏−次カード表と進む通常再生モードを有する電子手帳型機器の学習装置。」(以下,「甲3発明」という。)

4 甲4
甲4は,本件特許出願の出願前である平成11年4月6日に頒布された刊行物であるところ,当該甲4には,次の記載がある。
(1) 「【請求項2】 被写体像を取り込んで表示装置に表示し,取込まれた被写体像のうち所望の画像を記録媒体に記録可能な記録モードと,記録媒体に記録された画像データを再生して画像表示する再生モードを有する電子カメラ装置において,
前記記録された画像を再生して所望の1画像を選択するゲーム用画像選択手段と,選択されたゲーム用画像に対応する画像データを取込んで分割した後,分割画像全体をそれぞれの分割画像に対応するマスクで覆って表示するゲーム画像設定手段と,ユーザーの操作により前記マスクを順に取り去って分割画像を出現させて,ユーザーによって行なわれる全体画像の正解度を報知するゲーム実行手段を有するゲームモードを含むことを特徴とするゲーム処理機能付電子カメラ装置。」

(2) 「【0040】図6で,ゲーム処理手段110は,ゲーム画像選択手段111,開始画像設定手段112,およびゲーム実行手段113,映像データ出力判定手段114を有している。以下,図6および図7に基づいてゲーム処理手段110の動作を説明する。
【0041】ゲーム処理手段110はゲームモードが選択されモード判定手段によってゲームモードに遷移された時に起動され,液晶ディスプレイ42にゲームの種類を選択するためのメニューを表示し,ゲームオペレータに選択を促す。ゲームオペレータがゲームを選択するとゲーム画像選択手段111を起動する(S1)。なお,ゲーム選択のメニュー表示をすることなく,機能ボタン31〜35にゲームを割当てるように構成してもよい。
【0042】ゲーム画像選択手段111は,再生モード処理に分岐してその画像再生/早送り手段によりフラッシュメモリー51に記録されている画像データを順次再生し早送り表示して,ユーザの選択を促しユーザが画像を選択すると(S2),ゲーム画像選択モードに復帰してその画像データをDRAM15の画像バッファ151に格納する(S3)。ゲームが複数画像の選択(抽出)を要する場合には次の画像選択のため再度再生モード処理に分岐して選択された画像の次の画像から順に再生し早送り表示して次の画像の選択を促し,ユーザが画像を選択するとゲーム画像選択モードに復帰してその画像データを画像バッファ152に格納する。このような動作を繰返して必要な画像を画像バッファ151以下に格納してゆき(図5の例では5フレーム分の画像が選択可能なように画像バッファが確保してある),格納が終ると開始画像設定手段112に移行する(S4)。
【0043】なお,画像ディスプレイ41に一定の大きさの枠または型等の枠型の表示を行なう枠型表示手段を含むようにゲーム画像選択手段111を構成し,後述のモンタジュー作成ゲーム(実施例5)の場合のように画像の大きを揃えておくことが必要なときは,枠型表示手段を起動して画像ディスプレイ41に画像の枠型を表示してから再生モードに分岐するようにしてもよい。開始画像設定手段112は,個々のゲーム毎に異なるゲーム開始時の開始画面を構成する分割画像の配列,形状等を決定し,VRAM41に展開して開始画像として液晶ディスプレイ41に表示する(S5)。なお,開始画像はゲームの類型によってはその類型内の個々のゲームの構造を同じにして変数(パラメータ)により類型内の個々のゲームを関数関係として決定することができる。画像分割および分割画像の配列,形状等の決定方法については後述(画像分割および配列の決定の項参照)する。」

5 甲5
甲5は,本件特許出願の出願前である平成11年4月27日に頒布された刊行物であるところ,当該甲5には,次の記載がある。
「【0041】<ゲーム処理手段>図6はゲーム処理手段110の構成例を示すブロック図であり,図7はゲーム処理手段110の基本的動作を示すフローチャートである。図6で,ゲーム処理手段110は,ゲーム画像選択手段111,開始画像設定手段112,およびゲーム実行手段113,映像データ出力判定手段114を有している。以下,図6および図7に基づいてゲーム処理手段110の動作を説明する。ゲーム処理手段110は,ゲームモードが選択されモード判定手段によってゲームモードに遷移された時に起動され,液晶ディスプレイ42にゲームの種類を選択するためのメニューを表示し,ゲームオペレータに選択を促す。ゲームオペレータがゲームを選択するとゲーム画像選択手段111を起動する(S0)。なお,ゲーム選択のメニュー表示をすることなく,機能ボタン31〜35にゲームを割当てるように構成してもよい。
【0042】[ゲーム画像の選択]:ゲーム画像選択モードゲーム
画像選択手段111は,再生モード処理に分岐してその画像再生/早送り手段によりフラッシュメモリー51に記録されている画像データを順次再生し早送り表示して,ユーザによるゲーム画像の選択を促しユーザが画像を選択すると(S1),ゲーム画像選択モードに復帰してその画像データをDRAM15の画像バッファ151−1に格納する(S2)。なお,絵柄をゲーム画像と対応させて表示するゲームの場合には,上記S2で,開始画像設定手段112は絵柄画像データを登録してあるメモリー(実施例ではフラッシュメモリー51)から絵柄データを取り出して表示し,ユーザーに個々の画像データとの対応付けを指定させる。指定の結果は後述のゲーム画像ポインタテーブル90に登録する。なお,絵柄をゲーム画像と対応させて表示するゲームの場合に開始画像設定手段112が絵柄を自動的に画像データに対応させるように構成してもよい。この場合,絵柄とゲーム画像の対応付けはそれぞれ先頭の絵柄と画像から順に対応付けてもよく,対応付けの結果は後述のゲーム画像ポインタテーブル90に登録するようにする。」

6 常套手段
請求人が主張する常套手段は,次のとおりである。
「一般にある記憶対象を暗記しようとする場合,暗記しにくい記憶対象について,暗記作業を幾度となく繰り返して暗記すること。」

7 引用例1
(1)引用例1の記載
引用例1は,本件特許出願の出願前である平成7年3月20日に頒布された刊行物であるところ,当該引用例1には,次の記載がある。(下線は,後述する引用例1技術事項の構成に特に関係する箇所を示す。)
ア 「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は例えば0才から10才前後の乳幼児の教育教材として用いられる乳幼児教育装置に関するものである。」

イ 「【0002】
【従来の技術】従来,0才から10才前後の人間の脳細胞がゼロからほぼ完全にできあがってしまう時期における早期幼児教育の方法にカードを利用した方法がある。
【0003】この方法は,幼児に背景等の余計なものは一切描かれていない,単一の絵や写真が描かれているカードを一枚当たり一秒程度といった早いスピードでめくりながら見せていくことにより,発達段階における脳細胞に良い刺激を与えて,何もしなかった子供に比べて脳の機能を活性化させて,より多くの才能を開花させることができる方法として知られている。
【0004】これら方法は幼児の右脳をフルに活用した方法であって,幼児がまだ理屈を持たない時期,右脳優位の時期,つまり言語能力の発達とともに左脳,理屈脳が優位になってくるが,その時期に効果を発揮するといわれている。これら方法の出発点となっている原理は,幼児は新しいものに出会うと五感を駆使してそれを吸収しようとすること,ありのままに事実を吸収する能力は年齢に反比例する,幼児は誕生から三才までの間に全くの未知の言語を一つ習得してしまうこと,複数外国語を使う家庭に育った子供は複数の外国語を使えるようになること,幼児に法則を教えても,結果としてそこから事実を発見することはできないこと,幼児は三才までに,その後学ぶよりずっと多くの事実を学ぶ,脳には百億のニューロンがあるが,人間は一生のうちそのほんの一部しか使わないといわれていること,脳の重要な成長は六才までに完了するといわれていること,人間の脳は入れれば入れる程,大きな容量を持つようになるといわれていること,子供にとっては学ぶことが一番おもしろいということ,幼児に事実を教えてあげれば,自分でそこから法則を発見すること,幼児に算数に関する事実を教えれば,法則を発見する,幼児の能力は遺伝よりも環境が優先するということ,幼児はリズム感のあるものに興味を示すということ,幼児はスピード感のあるものに興味を示すということ,赤ちゃんは飽きることを知らないということ,幼児にとっては,遊ぶ事と学ぶ事の区別がないといったこと,幼児にとっては,ひらがな,簡単なパターン,より漢字,複雑なパターンのほうがおもしろいという事実に着目したものであるといわれている。
【0005】しかしてこの方法は,脳に障害を持って生まれた子供達にも応用され,早期に利用されば,健常児に劣らず育成できることが,これら障害を持つ子供達の親に広く認められている。この方法で一番重要な点は,めくるスピードとリズム感である。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら上記従来の方法では,カード自体が紙であり,枚数が数百枚にも及ぶことから,その整理や,カリキュラムに沿ったカード選択の煩わしさ等が多く,その効果を知りながら,途中で投げ出してしまう親が大半であった。
【0007】また親が一枚一枚カードをめくることから,そのめくるスピードにムラがあり,この方法で最も重要な要素としての見せるスピードと,そのリズム感が損なわれ,当初の期待した結果を得ることができないということがあった。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明はこのような不都合を解決することを目的とするもので,その要旨は,テレビジョン受像機と,視覚情報及び聴覚情報を記憶しているCD−ROMと,該視覚情報及び聴覚情報をCD−ROMから読み出す読み出し手段及び読み出された視覚情報及び聴覚情報をテレビジョン受像機に表示する表示手段を有するCPU制御部と,手操作入力部とを備えてなり,上記視覚情報として絵,文字,写真等を含む多数枚のカードが用いられ,上記聴覚情報としてカードに関連づけて読み上げる音声情報が用いられ,入力されたカリキュラムのメニューに応じて上記多数枚のカードの中から所定枚数及び所定内容のカードを自動選択するカード選択手段と,該選択されたカードを順次切替表示する切替表示手段と,該カードの読み上げ言語を選択する言語選択手段と,該カードの読み上げ文字を各種の文字に選択表示する文字種選択手段とを含むことを特徴とする乳幼児教育装置にある。
・・・(中略)・・・
【0010】
【作用】手入力操作によりCPU制御部にCD−ROM内に記憶された視覚情報及び聴覚情報が読み出され,この視覚情報及び聴覚情報はテレビジョン受像機に表示されることになり,この際に上記視覚情報として絵,文字,写真等を含む多数枚のカードが用いられ,上記聴覚情報としてカードに関連づけて読み上げる音声情報が用いられ,入力されたカリキュラムのメニューに応じて上記多数枚のカードの中から所定枚数及び所定内容のカードを自動選択され,選択されたカードは順次切替表示され,選択された言語によってカードが読み上げられ,選択された各種の文字により読み上げ文字が表示されることになる。」

ウ 「【0012】
【実施例】図1乃至図10は本発明の実施例を示し,この場合家庭用のテレビジョン受像機(1)と,視覚情報及び聴覚情報を記憶しているCD−ROM(2)と,テレビジョン受像機(1)の外部入力端子に接続可能にして,マイクロプロセッサを含むCD−ROM駆動ドライブ付きCPU制御部(3)及びキーボード,マウス,操作パッド等の手操作入力部(4)とから成り立っており,家庭用ゲーム機と同様な機器構成となっている。
【0013】また上記視覚情報として絵,文字,写真等を含む多数枚のカード(5)が用いられており,上記聴覚情報としてカード(5)に関連づけて読み上げる音声情報が用いられている。
【0014】またCD−ROM(2)内に制御プログラムが記憶されており,上記CPU制御部(3)内のメモリに,この制御プログラムを読み出し,この制御プログラムに従ってデータ処理が実行され,この処理機能を有する図1の仮想的回路ブロック図を想定して説明すると,その回路には,図5に示す視覚情報及び聴覚情報が記憶されたCD−ROM(2)からそれらデーターを読み出す読み出し手段(6),読み出された視覚情報及び聴覚情報をテレビジョン受像機(1)に表示する表示手段(7),入力されたカリキュラムのメニューに応じて上記CD−ROM(2)内に記憶された多数枚のカード(5)の中から所定枚数及び所定内容のカード(5)を自動選択するカード選択手段(8),選択されたカード(5)を順次に切替表示する切替表示手段(9)及びカード(5)の読み上げ言語を選択する言語選択手段(10)並びにカードの読み上げ文字を各種の文字に選択表示する文字種選択手段(11)が含まれている。
・・・(中略)・・・
【0019】上記カード(5)のカリキュラムの分野としては,幼児が初めて出会う絵,動物,鳥,食べ物,植物,色,カタカナ,漢字,時計時間(絵),県名・県庁所在地,県・所在地図,国名・首都,ドッツ(複数個の点を散在させたもの),足し算,引き算,かけ算,わり算,分数,小数点,ルート,方程式,その他の分野が選定される。
・・・(中略)・・・
【0021】この実施例は上記構成であるから,テレビジョン受像機(1)の外部入力端子にCPU制御部(3)を接続し,CD−ROM(2)をCPU制御部(3)に挿入セットし,操作パッド等の手操作入力部(4)を操作し,CD−ROM(2)に記憶されている制御プログラムをCPU制御部(3)のメモリに読み出し,この制御プログラム従ってデータ処理が実行され,図2のフローチャートに従って説明すると,マウス,キーボード等により操作が実行開始されると図3の如く,メニュー画面が表示され,使用開始に当たり,環境設定を選択すると,図4の如く,メニュー画面が表示され,ここで一回の表示枚数や,開始終了時の音楽挿入の有無,背景色,表示色,表示速度,図示省略の日本語,英語などの文字種類の選定,音声の有無や日本語,英語等の言語の種類選定等を選択することになり,これらを実行すると,再びメニュー画面に戻り,カリキュラムに応じたカード分野を選択することになり,このカード分野を選択して開始を指示すると,開始音楽が挿入されると共にカードの自動シャッフルがなされ,以下一枚一秒程度の表示速度でカード(5)が順次切替表示され,指定枚数に達すると終了の音楽が挿入されたのち初期画面に戻ることになる。
【0022】この際,例えば図3の上記メニュー画面において,絵,文字のコースを選択すると,図8の分類選択画面が表示され,A,B,Cを選択した後,発音言語,表示文字種を選択することになり,例えば,絵だけの場合や文字だけを選択した場合には数百枚のカードの中から,指定したカリキュラムの指定した日のカードが自動的に選択決定される,自動シャッフルされ,表示順序は制御プログラムにより決定され,図6の如く,絵カード又は文字カードが一枚表示され,同時にそのカードに描かれている単語の日本語又は英語の発音が音声出力され,一枚一秒程度の早い速度で次のカードが表示され,これを繰り返すことになり,また絵+文字を選択した場合は,図7の如く,上記同様に数百枚のカードの中から指定したカリキュラムの指定した日のカードが自動的に選択決定され,自動シャッフルされ,表示順序がプログラムにより決定され,一枚の絵カードが表示されると同時にそのカードに描かれている絵の名前の日本語又は英語の発音が音声出力され,その約一秒後にその絵の名前の,選択設定可能な英語,ひらがな,カタカナ,漢字等の文字カードが表示されると同時に同じ音声が出力され,これを繰り返すことになる。
【0023】またドッツカード利用の算数選択時には,図9のコース選択画面が表示され,コース選択後,今日はそのカリキュラムの何日目か聞いた後,そのカリキュラムのカードを自動シャッフルして,画面に表示することになり一枚のカードの表示時間は一秒程度,表示と同時に必要な音声が出力される。
【0024】ここで,ドッツのカードとは,図10の如く,テレビジョン受像機(1)の画面に背景色白色,塗りつぶしの赤色等からなる点を表示したもので,1のカードなら点一個,27のカードなら点がランダムに27個表示され,このカードを表示すると同時に1や27と発音させ,これにより,幼児に音声と数,量を組み合わせ認知させるものである。
【0025】しかして例えば,足し算の教え方の場合,100日コースのカリキュラムの途中で足し算が入ってくる。足し算の場合,今日から足し算をやることだけを告げて,すぐに以下が実行され,1たす1は2と音声出力し,次いで2と音声出力すると同時に2のドッツカードを表示し,次いで1たす2は3と音声出力し,3と音声出力すると同時に3のドッツカードを表示し,以下同じようにこれを繰り返すことになる。この方法は大人が数の認知,計算等を数字という記号に頼って行っているのに対し,子供は示された事実としてのドッツの数,量を見て,認識する能力があることを利用しており,そろばんの名人が頭の中にそろばん玉があるのと同じイメージである。他の演算も同じような方法で教えることになる。」

エ 「【0027】
【発明の効果】本発明は上述の如く,テレビジョン受像機と視覚情報及び聴覚情報を記憶しているCD−ROMという記憶媒体とを組み合わせ,視覚情報とし絵,文字,写真等を含む多数枚のカードを用い,上記聴覚情報としてカードに関連づけて読み上げる音声情報を用い,入力されたカリキュラムのメニューに応じて上記多数枚のカードの中から所定枚数及び所定内容のカードを自動選択するカード選択手段と,選択されたカードを順次切替表示する切替表示手段と,カードの読み上げ言語を選択する言語選択手段と,カードの読み上げ文字を各種の文字に選択表示する文字種選択手段とを含んでいるから,カリキュラムのメニューを表示させ,その日にやるべきことを選択するだけで,数百枚の中からカードが自動選択され,従来のカード整理の煩わしさ,カリキュラム通りに進めていくことの難しさを解決するだけでなく,カード教育に一番重要なスピードとリズム感を常に保つことができ,乳幼児は飽きることなく,遊ぶ感覚で教育を受けることができ,またテレビに接続することで日常生活において違和感なく教育的環境を提供することができ,更に一枚のカードを読み上げる際にその読み方を日本語か英語,その他の言語かを選択することができ,またカードを使用して漢字等の文字を教える際において,絵,写真の直後にそのカードの単語の文字を表示させ,その際にその文字を漢字,ひらがな,カタカナ,英語に選択できて語学学習にもなり,これらカード教育の方法は右脳,パターン認識脳を刺激する方法であるから,大人が利用することで,近年流行している右脳活性法にも役立つ物であり,脳障害児の早期教育にこの教育機材を取り入れることで,家庭で簡単にテレビを見せる感覚で,正常な部分の脳を刺激してやることができ,子供達の社会適応能力を大いに増す効果が期待できる。」

オ 「【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例の仮想的回路ブロック図である。
・・・(中略)・・・
【図3】図1で示す実施例のメニュー画面図である。
・・・(中略)・・・
【図6】図1で示す実施例の絵選択時の画面図である。
【図7】図1で示す実施例の絵及び文字選択時の画面図である。
【図8】図1で示す実施例の絵及び文字選択時のメニュー画面図である。
【図9】図1で示す実施例の算数コース選択時のメニュー画面図である。
【図10】図1で示す実施例の算数コースの画面図である。
・・・(中略)・・・
【図1】

・・・(中略)・・・
【図3】

・・・(中略)・・・
【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】



(2)引用例1に記載された技術事項
前記(1)アないしオで摘記した記載から,引用例1に次の技術事項が記載されていることを把握できる。

「0才から10才前後の人間の脳細胞がゼロからほぼ完全にできあがってしまう時期における早期幼児教育の方法として,従来,幼児に背景等の余計なものは一切描かれていない,単一の絵や写真が描かれているカードを一枚当たり一秒程度といった早いスピードでめくりながら見せていくことにより,発達段階における脳細胞に良い刺激を与えて,何もしなかった子供に比べて脳の機能を活性化させて,より多くの才能を開花させるという方法があり,
この従来の方法では,カード自体が紙であり,枚数が数百枚にも及ぶことから,その整理や,カリキュラムに沿ったカード選択の煩わしさ等が多く,その効果を知りながら,途中で投げ出してしまう親が大半であり,また,親が一枚一枚カードをめくることから,そのめくるスピードにムラがあり,この方法で最も重要な要素としての見せるスピードと,そのリズム感が損なわれ,当初の期待した結果を得ることができないという問題点があったところ,
テレビジョン受像機(1)と,視覚情報及び聴覚情報を記憶しているCD−ROM(2)と,該視覚情報及び聴覚情報をCD−ROM(2)から読み出す読み出し手段(6)及び読み出された視覚情報及び聴覚情報をテレビジョン受像機(1)に表示する表示手段(7)を有するCPU制御部(3)と,手操作入力部(4)とを備えてなり,上記視覚情報として絵,文字,写真等を含む多数枚のカード(5)が用いられ,上記聴覚情報としてカード(5)に関連づけて読み上げる音声情報が用いられ,入力されたカリキュラムのメニューに応じて上記多数枚のカード(5)の中から所定枚数及び所定内容のカード(5)を自動選択するカード選択手段(8)と,該選択されたカード(5)を順次切替表示する切替表示手段(9)と,該カードの読み上げ言語を選択する言語選択手段(10)と,該カードの読み上げ文字を各種の文字に選択表示する文字種選択手段(11)とを含む乳幼児教育装置を用いて,早期幼児教育を行うことによって,上記問題点を解決することができること,
及び,
上記カード(5)のカリキュラムの分野としては,幼児が初めて出会う絵,動物,鳥,食べ物,植物,色,カタカナ,漢字,時計時間(絵),県名・県庁所在地,県・所在地図,国名・首都,ドッツ(複数個の点を散在させたもの),足し算,引き算,かけ算,わり算,分数,小数点,ルート,方程式,その他の分野が選定され,
上記乳幼児教育装置としては,例えば,
メニュー画面において,絵,文字のコースを選択し,分類選択画面において,絵だけの場合や文字だけを選択した場合には,数百枚のカードの中からカードが自動的に選択決定され,絵カード又は文字カードが一枚表示され,同時にそのカードに描かれている単語の日本語又は英語の発音が音声出力され,一枚一秒程度の早い速度で次のカードが表示され,これを繰り返すよう動作し,
メニュー画面において,絵,文字のコースを選択し,分類選択画面において,絵+文字を選択した場合は,数百枚のカードの中からカードが自動的に選択決定され,一枚の絵カードが表示されると同時にそのカードに描かれている絵の名前の日本語又は英語の発音が音声出力され,その約一秒後にその絵の名前の,選択設定可能な英語,ひらがな,カタカナ,漢字等の文字カードが表示されると同時に同じ音声が出力され,これを繰り返すよう動作し,
メニュー画面において,ドッツカード利用の算数を選択した時には,コース選択画面が表示され,コース選択後,今日はそのカリキュラムの何日目か聞いた後,そのカリキュラムのカードを自動シャッフルして,一秒程度の表示時間でドッツカード(例えば,「2」のドッツカード)を画面に表示すると同時に必要な音声(例えば,「1たす1は2」という音声)が出力され,これを繰り返すよう動作するものを用いることができること。」(以下,「引用例1技術事項」という。)

第5 当審の判断
1 甲2学習用具発明の公然実施時期について
被請求人は,甲2学習用具が,被請求人代表取締役が開発し,商品化したものであることを認めている。(口頭審理陳述要領書(被請求人)2ページ3ないし5行)
一方で,甲2学習用具の販売・譲渡時期については,約20年前のことであり,記憶が定かでなく,不知であるとしている。(口頭審理陳述要領書(被請求人)3ページ11ないし15行,下から2行)
そこで,「形で覚える都道府県」という名称の学習用具及び甲2学習用具の販売・譲渡時期について,以下に検討する。
前記第4 2(1)エに示したように,甲2の1の【写真4】及び甲2の3から,甲2学習用具の“形で覚える都道府県カルタ”との題名の書面に,各都道府県の語呂合わせの歌が印刷されているとともに,当該語呂合わせの歌の歌詞の最後の都道府県名の右側にそれぞれ括弧書きで都道府県庁所在地が印刷されていることが看取されるところ,印刷された埼玉県の語呂合わせの歌及び県庁所在地は,「最新[さいしん] 自動車[じどうしゃ] 埼玉県[さいたまけん](浦和市[うらわし])」(審決注:振り仮名は,角括弧中に記載した。)である。
現在の埼玉県の県庁所在地はさいたま市であるところ,甲7ないし甲9に示されているように,浦和市,与野市,大宮市の3市が合併してさいたま市となることが公表されたのが平成12年4月25日であり,実際に合併したのが平成13年5月1日である。
ここで,前記合併後に旧県庁所在地が記載された学習用具の販売を開始することは,常識的にみておよそ考えられないから,甲2の1の写真に写っている「形で覚える都道府県」という名称の学習用具の販売が開始されたのは,少なくとも,埼玉県の県庁所在地がさいたま市になった平成13年5月1日より前,すなわち本件特許に係る出願の出願より前と推察される。
また,証人は,証人尋問において,平成12年4月に七田式教育のフランチャイズ本社から全国の保護者宛てに「形で覚える都道府県」という名称の学習用具が製品化されたことの案内があったこと(証人等の陳述を記載した書面021,026),甲2学習用具が,平成12年5月頃に証人が被請求人代表取締役から直接購入した前記「形で覚える都道府県」という名称の学習用具であること(証人等の陳述を記載した書面023,026,028),「形で覚える都道府県」という名称の学習用具を証人が経営する七田式教室で使用していたこと(証人等の陳述を記載した書面010)等を陳述したところ,その内容は詳細かつ具体的であり,証言にある「形で覚える都道府県」という名称の学習用具の販売開始時期及び甲2学習用具の購入時期は,前述した3市の合併時期から推察される販売開始時期とも符号するから,証人の前記陳述は信用できるというべきである。
そして,「形で覚える都道府県」という名称の学習用具の販売や使用において,秘密保持契約等が結ばれていたことを示す証拠は見当たらない。
以上によれば,甲2学習用具は,平成12年5月頃に証人が被請求人代表取締役から直接購入した「形で覚える都道府県」という名称の学習用具であり,当該「形で覚える都道府県」という名称の学習用具は,本件特許出願の出願前である平成12年4月に公然と販売が開始されたものと認められる。
したがって,甲2学習用具発明は,本件特許出願の出願前に公然と実施された発明である。

2 請求人無効理由について
(1)請求項1に係る特許について
ア 本件特許発明1と甲1発明の対比
(ア) 甲1発明の「パソコン」,「学習支援装置1」,「『記録媒体8』のうち『完全文字データ』,『パーツデータ』,『パーツ結合データ』,『和単語データ』及び『パーツ関連アニメデータ』を記憶する部分」及び「『記録媒体8』のうち『連想文データ』及び『英単語発音データ』を記憶する部分」は,本件特許発明1の「コンピューター」,「学習用具」,「組画記録媒体」及び「音声記録媒体」にそれぞれ対応する。
(イ) 甲1発明は,市販の「パソコン」(本件特許発明1の「コンピューター」に対応する。以下,「ア 本件特許発明1と甲1発明の対比」欄において,カギ括弧で囲まれた甲1発明の構成に付した丸括弧中の文言は,当該甲1発明の構成に対応する本件特許発明1の発明特定事項を表す。)を用いて構成されているから,「パソコン」(コンピューター)を備えているといえる。
また,甲1発明は,英単語を意味する日本語の単語文字の暗記作業の効率的な支援を可能にする「学習支援装置1」(学習用具)であるところ,英単語を意味する日本語の単語文字とは英単語の日本語訳にほかならないから,甲1発明は,英単語を当該英単語の日本語訳と結び付けて覚えるための学習用具であるといえる。
ここで,本件特許発明1は,「原画の形態」を「対応する語句」と結び付けて憶えるための学習用具であるところ,甲1発明の「英単語」及び「該英単語の日本語訳」と,本件特許発明1の「原画の形態」及び「対応する語句」は,それぞれ記憶対象である点で共通するとともに,甲1発明の「英単語」は本件特許発明1の「原画の形態」に,甲1発明の「該英単語の日本語訳」は本件特許発明1の「対応する語句」に,それぞれ対応する。
したがって,本件特許発明1と甲1発明は,「コンピューターを備え,第1記憶対象を第2記憶対象と結びつけて憶えるための学習用具」である点で共通する。
(ウ) 甲1発明では,英単語画面11で,完全文字22の画像を表示し,連想文画面12で,画像データのパーツ23及びパーツ関連アニメ24を表示し,確認画面13で,画像データのパーツ結合25を表示し,正答画面14で,画像データのパーツ結合25及び和単語26を表示しているところからすれば,個々の英単語に対応した「完全文字22の画像」,「画像データのパーツ23及びパーツ関連アニメ24」,「画像データのパーツ結合25」及び「和単語26」を,「複数の画像から成る組画」ということができる。
そして,甲1発明の「記録媒体8」(組画記録媒体)には,10個を1セクションとして,複数セクションの英単語に対応した,完全文字データ,パーツデータ,パーツ結合データ,パーツ関連アニメデータが書き込まれているから,複数個の「組画」の画像データが記録されているといえる。
したがって,本件特許発明1と甲1発明は,「複数の画像から成る組画の画像データが,複数個記録された組画記録媒体」を含む点で共通する。
(エ) 甲1発明は,ステップS105において完全文字22の画像(英単語画面11)を表示し,ステップS106において画像データのパーツ23及びパーツ関連アニメ24(連想文画面12)を表示し,ステップS111において画像データのパーツ結合25(確認画面13)を表示しているから,組画の各画像を表示する画像表示手段を有しているといえる。
したがって,本件特許発明1と甲1発明は,「組画の各画像を表示する画像表示手段」を含む点で共通する。
(オ) 甲1発明においては,記録媒体8に,パーツ23から連想される連想パーツを表す文言を含んで構成された創作文の音声を符号化して成る連想文データと,前記完全文字データの英単語についての正確な発音の音声を符号化して成る英単語発音データが記憶され,英単語画面11では,完全文字22の画像をディスプレイ7に表示し,更に完全文字22を表示した状態で英単語発音データの音声をスピーカ6から出力し,連想文画面12では,画像データのパーツ23及びパーツ関連アニメ24をディスプレイ7に表示し,更に音声データの記憶援助ストーリーたる連想文をスピーカ6から出力し,このときパーツ関連アニメ24の近傍にそれぞれパーツ23を表出した状態で連想文の出力を行い,またパーツ関連アニメ24を連想文とシンクロして表示し,確認画面13では,画像データのパーツ結合25をディスプレイ7に表示し,更に音声データの英単語発音をスピーカ6から出力するところ,パーツ23から連想される連想パーツを表す文言を含んで構成された創作文(連想文)及び連想文データは,それぞれ「画像データのパーツ23及びパーツ関連アニメ24」に対応する語句及び「画像データのパーツ23及びパーツ関連アニメ24」に対応する語句の音声データといえ,完全文字データの英単語及び英単語発音データは,それぞれ「完全文字22の画像」に対応する語句及び「完全文字22の画像」に対応する語句の音声データといえるとともに,それぞれ「画像データのパーツ結合25」に対応する語句及び「画像データのパーツ結合25」に対応する語句の音声データといえるから,甲1発明の「記録媒体8」には,組画の各画像に対応する語句の音声データが記録されているといえる。
したがって,本件特許発明1と甲1発明は,「組画の各画像に対応する語句の音声データが記録された音声記録媒体」を含む点で共通する。
(カ) 甲1発明においては,ステップS105で英単語画面11を表出し,当該英単語画面11では英単語発音データの音声をスピーカ6から出力し,ステップS106で連想文画面12を表出し,当該連想文画面では音声データの記憶援助ストーリーたる連想文をスピーカ6から出力し,ステップS111において確認画面13を表出し,当該確認画面13では音声データの英単語発音をスピーカ6から出力するところ,各ステップにおける音声データ(英単語発音データ又は連想文データ)の出力に際して,記録媒体8に記憶された音声データの中から,出力するための音声データを選択し,当該選択された音声データを出力していることは明らかである。
したがって,甲1発明は,「前記音声記録媒体から,前記語句の音声データを選択する音声選択手段と,前記選択された語句の音声データを再生する音声再生手段と,を含み,」なる本件特許発明1の発明特定事項に相当する構成を具備している。
(キ) 甲1発明は,英単語画面11で完全文字22を表示した状態で英単語発音データの音声をスピーカ6から出力し,連想文画面12で連想文をスピーカ6から出力し,このときパーツ関連アニメ24の近傍にそれぞれパーツ23を表出した状態で前記連想文の出力を行い,また前記パーツ関連アニメ24を連想文とシンクロして表示し,確認画面13では音声データの英単語発音をスピーカ6から出力するよう構成されているから,「完全文字22の画像」,「画像データのパーツ23及びパーツ関連アニメ24」及び「画像データのパーツ結合25」は,それぞれ「完全文字データの英単語」の再生,「パーツ23から連想される連想パーツを表す文言を含んで構成された創作文(連想文)」の再生及び「完全文字データの英単語」の再生に同期して表示されているといえる。
したがって,前記(エ)で説示した甲1発明の「画像表示手段」は,組画の各画像を,対応する語句の再生と同期して表示するものである。
よって,本件特許発明1と甲1発明は,「画像表示手段が,組画の各画像を,対応する語句の再生と同期して表示する」点で共通する。
(ク) 前記(ア)ないし(キ)に照らせば,本件特許発明1と甲1発明は,
「コンピューターを備え,第1記憶対象を第2記憶対象と結びつけて憶えるための学習用具であり,
前記コンピューターが,
複数の画像から成る組画の画像データが,複数個記録された組画記録媒体と,
前記組画の各画像を表示する画像表示手段と,
前記組画の各画像に対応する語句の音声データが記録された音声記録媒体と,
前記音声記録媒体から,前記語句の音声データを選択する音声選択手段と,
前記選択された語句の音声データを再生する音声再生手段と,
を含み,
前記画像表示手段が,前記組画の各画像を,対応する語句の再生と同期して表示する学習用具。」
である点で一致し,次の点で相違する。

相違点1−1:
本件特許発明1が,対応する語句が存在する原画の形態を該語句と結びつけて憶えるためのものであるのに対して,
甲1発明は,英単語を当該英単語の日本語訳と結び付けて覚えるためのものである点。

相違点1−2:
組画を構成し,音声記録媒体にそれぞれに対応する語句の音声データが記録され,画像表示手段によって語句の再生と同期して表示される「複数の画像」が,
本件特許発明1では,原画,該原画の輪郭に似た若しくは該原画を連想させる輪郭を有し対応する語句が存在する第一の関連画,並びに,該原画及び第一の関連画に似た若しくは該原画及び第一の関連画を連想させる輪郭を有し対応する語句が存在する第二の関連画であるのに対して,
甲1発明では,完全文字22の画像,画像データのパーツ23及びパーツ関連アニメ24,画像データのパーツ結合25及び和単語26である点。

相違点1−3:
本件特許発明1が,組画記録媒体に記録された複数個の組画の画像データから,一の組画の画像データを選択する画像選択手段を有するのに対して,
甲1発明は,そのようなものを有しているか否かが明確ではない点。

相違点1−4:
本件特許発明1は,画像表示手段が,画像選択手段により選択された組画の画像データにより,第一の関連画,第二の関連画,及び原画の順に表示するのに対して,
甲1発明は,組画の画像データにより,完全文字22の画像(英単語画面11)を表示した後,パーツ23及びパーツ関連アニメ24(連想文画面12)を表示するという動作を4回繰り返した後に,画像データのパーツ結合25(確認画面13)を表示し,その後,画像データのパーツ結合25を表示してから和単語26を表示する(正答画面14)という順である点。

イ 相違点の容易想到性について
事案に鑑み,まず相違点1−4の容易想到性について判断する。
甲1発明は,英単語とそれに対応する和単語を結びつけて憶えるために,完全文字22の画像を表示した英単語画面11を表出した後,英単語をスペリング要素毎に分けたパーツ23及びパーツ関連アニメ24を表示した連想文画面12を表出するという動作を4回繰り返した後に,パーツ結合25を表示する確認画面13を表出し,その後,パーツ結合25を表示してから和単語26を表示する正答画面14を表出するという構成を採用している。したがって,結びつけて憶える記憶対象の一方である完全文字22(英単語)を英単語画面11として,英単語をスペリング要素毎にいったん分ける連想文画面12とともに,最初に繰り返して表示した後,パーツ結合25を示す確認画面13を表示してから,結びつけて憶える記憶対象の他方である和単語26を正答画面14として最後に表示する構成により,効率的な暗記作業の支援を可能にするものである。そして,甲1には,憶える対象の一方を表示せずに音声のみを再生するように構成することについて,記載も示唆もされていない。
これに対して,甲2学習用具発明は,第一の関連カード,第二の関連カード及び結びつけて憶える対象の一方である日本地理カードの順に表示し,結びつけて憶える対象の他方である都道府県の名称はカードではなく,語呂合わせの歌の歌詞の一部として音声で再生することで両者を憶えることができるように構成した学習用具である。
この両者を比較すると,記憶対象の一方を他方と結びつけて憶えるための学習用具という観点に照らせば,結びつける対象の一方(英単語)を最初に繰り返して表示し,もう一方(和単語)は正答画面として最後に表示する甲1発明と,結びつける対象の一方(都道府県の地図上の形態)を最初ではなく最後に表示し,対象の他方(都道府県の名称)も最後に音声のみを再生する甲2学習用具発明とでは,対象を憶えるという課題解決のための原理に係る手段において大きく異なるというべきである。
そうすると,甲1発明に甲2学習用具発明を適用し,憶える対象の一方を最初に表示せず,憶える対象の他方も表示せずに最後に音声のみを再生することで,相違点1−4に係る本件特許発明1の構成とすることは,憶え方を根本的に変更することになるから,甲1発明に甲2学習用具発明を適用する動機付けがあると認めることはできない。
また,甲4,甲5の記載から把握される周知の技術事項や,請求人が主張する常套手段から,甲1発明において,相違点1−4に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することが,当業者にとって容易に想到し得たことであると認めることもできない。
したがって,甲1発明において,相違点1−4に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは,当業者といえども容易に想到し得たことではない。

ウ 小括
前記イで述べたとおり,甲1発明において,相違点1−4に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することが,当業者が容易に想到し得たことではない以上,他の相違点について判断するまでもなく,本件特許発明1は,甲1発明,甲2学習用具発明,及び甲3発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではなく,甲1発明,甲2学習用具発明,甲3発明,常套手段,及び周知の技術事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(2)請求項2ないし9に係る特許について
本件特許発明2ないし5は,本件特許発明1の発明特定事項を全て具備し,これに限定を加えたものに該当するところ,前記(1)で述べたとおり,本件特許発明1が,甲1発明,甲2学習用具発明,及び甲3発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではなく,甲1発明,甲2学習用具発明,甲3発明,常套手段,及び周知の技術事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものでもない以上,本件特許発明2ないし5も,甲1発明,甲2学習用具発明,及び甲3発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではなく,甲1発明,甲2学習用具発明,甲3発明,常套手段,及び周知の技術事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
また,本件特許発明6及び7は,本件特許発明1及び2のカテゴリーを変更し,「学習用具」を「学習用情報提示方法」としたものであって,実質上,本件特許発明1及び2と同様の発明特定事項を有するから,前記(1)で述べたのと同様の理由で,本件特許発明6及び7は,甲1発明,甲2学習用具発明,及び甲3発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではなく,甲1発明,甲2学習用具発明,甲3発明,常套手段,及び周知の技術事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
また,本件特許発明8及び9は,本件特許発明1及び2の「コンピューターを備え」る「学習用具」を,「学習用具のコンピューターが備える学習用情報提示システム」と表現したものにすぎず,実質上,本件特許発明1及び2と同様の発明特定事項を有するから,前記(1)で述べたのと同様の理由で,本件特許発明8及び9は,甲1発明,甲2学習用具発明,及び甲3発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではなく,甲1発明,甲2学習用具発明,甲3発明,常套手段,及び周知の技術事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(3)まとめ
以上のとおりであるから,請求人無効理由によって,請求項1ないし9に係る特許を取り消すことはできない。

3 職権無効理由について
(1)請求項1に係る特許について
ア 本件特許発明1と甲2学習用具発明の対比
(ア) 甲2学習用具発明の「都道府県の地図上の形態」,「学習用具」,「『別売りの日本地理カード』に描かれた『都道府県の形状』」,「『第一の関連カード』に描かれた『漫画』」,「『第二の関連カード』に描かれた『抽象画』」及び「語呂合わせの歌の歌詞」は,本件特許発明1の「原画の形態」,「学習用具」,「原画」,「第一の関連画」,「第二の関連画」及び「関連画及び原画に対応する語句」にそれぞれ対応する。
(イ) 甲2学習用具発明は,「都道府県の地図上の形態」(本件特許発明1の「原画の形態」に対応する。以下,「(1)本件特許発明1と甲2学習用具発明の対比」欄において,カギ括弧で囲まれた甲2学習用発明の構成に付した丸括弧中の文言は,当該甲2学習用具発明の構成に対応する本件特許発明1の発明特定事項を表す。)を「都道府県の名称」と結び付けて覚えるための「学習用具」(学習用具)であるところ,「都道府県の名称」は,「都道府県の地図上の形態」(原画の形態)に対応する「語句」といえるから,甲2学習用具発明は,対応する「語句」が存在する「都道府県の地図上の形態」(原画の形態)を該「語句」と結びつけて憶えるための「学習用具」(学習用具)であるといえる。
したがって,本件特許発明1と甲2学習用具発明は,「対応する語句が存在する原画の形態を該語句と結びつけて憶えるための学習用具」である点で共通する。
(ウ) 甲2学習用具発明の第一の関連カードには,いずれかの都道府県の形状に似た輪郭を有する「漫画」(第一の関連画)が描かれ,第二の関連カードには,いずれかの都道府県の形状と当該都道府県に対応する前記「漫画」(第一の関連画)の両方を連想させる「抽象画」(第二の関連画)が描かれ,カセットテープには,前記「漫画」(第一の関連画)に対応する語句,前記「抽象画」(第二の関連画)に対応する語句,及び都道府県名を歌詞とする語呂合わせの歌の音声が記録されているところ,甲2学習用具発明の「漫画」(第一の関連画)は,いずれかの「都道府県の形状」(原画)の輪郭に似た輪郭を有し,対応する語句が存在するものといえ,甲2学習用具発明の「抽象画」(第二の関連画)は,「都道府県の形状」(原画)及び「漫画」(第一の関連画)に似た輪郭を有し,対応する語句が存在するものといえる。
したがって,甲2学習用具発明の「漫画」及び「抽象画」は,本件特許発明1の「第一の関連画」及び「第二の関連画」の「原画の輪郭に似た若しくは該原画を連想させる輪郭を有し対応する語句が存在する」及び「原画及び第一の関連画に似た若しくは該原画及び第一の関連画を連想させる輪郭を有し対応する語句が存在する」なる発明特定事項に相当する構成を具備している。
(エ) 甲2学習用具発明は,カセットテープを使用して再生した「語呂合わせの歌の歌詞」(関連画及び原画に対応する語句)中の対応する語句にあわせて,歌詞中の都道府県に対応する第一の関連カード,第二の関連カード,及び別売りの日本地理カードをこの順で学習者に見せるという使い方をするものであるところ,同一の都道府県の第一の関連カード,第二の関連カード,及び別売りの日本地理カードにそれぞれ描かれた「漫画」(第一の関連画),「抽象画」(第二の関連画),及び「都道府県の形状」(原画)は,「組画」を構成しているといえる。
したがって,本件特許発明1と甲2学習用具発明は,「原画,該原画の輪郭に似た若しくは該原画を連想させる輪郭を有し対応する語句が存在する第一の関連画,並びに,該原画及び第一の関連画に似た若しくは該原画及び第一の関連画を連想させる輪郭を有し対応する語句が存在する第二の関連画,から成る組画が,複数個存在」する点で共通する。
(オ) 甲2学習用具発明の「カセットテープ」には,第一の関連カードに描かれた「漫画」(第一の関連画)に対応する語句,第二の関連カードに描かれた「抽象画」(第二の関連画)に対応する語句,及び都道府県名すなわち「都道府県の形状」(原画)に対応する語句を歌詞とする語呂合わせの歌の音声が記録されているから,「関連画及び原画に対応する語句の音声データが記録された音声記録媒体」といえる。
したがって,本件特許発明1と甲2学習用具発明は,「関連画及び原画に対応する語句の音声データが記録された音声記録媒体」を有する点で共通する。
(カ) 甲2学習用具発明は,カセットテープを使用して再生した「語呂合わせの歌の歌詞」(関連画及び原画に対応する語句)中の対応する語句にあわせて,歌詞中の都道府県に対応する第一の関連カード,第二の関連カード,及び別売りの日本地理カードをこの順で学習者に見せるという使い方をするものであるから,第一の関連カード,第二の関連カード,及び別売りの日本地理カードにそれぞれ描かれた「漫画」(第一の関連画),「抽象画」(第二の関連画),及び「都道府県の形状」(原画)を,対応する語句の再生と同期して表示するものといえる。
したがって,本件特許発明1と甲2学習用具発明は,「第一の関連画,第二の関連画,及び原画を,対応する語句の再生と同期して表示する」ものである点で共通する。
(キ) 前記(ア)ないし(カ)に照らせば,本件特許発明1と甲2学習用具発明は,
「対応する語句が存在する原画の形態を該語句と結びつけて憶えるための学習用具であり,
前記原画,該原画の輪郭に似た若しくは該原画を連想させる輪郭を有し対応する語句が存在する第一の関連画,並びに,該原画及び第一の関連画に似た若しくは該原画及び第一の関連画を連想させる輪郭を有し対応する語句が存在する第二の関連画,から成る組画が,複数個存在し,
前記関連画及び原画に対応する語句の音声データが記録された音声記録媒体を有し,
前記第一の関連画,前記第二の関連画,及び前記原画を,対応する語句の再生と同期して表示する学習用具。」
である点で一致し,次の点で相違する。

相違点2−1:
本件特許発明1が,コンピューターを備え,
前記コンピューターが,
組画の画像データが複数個記録された組画記録媒体と,
前記組画記録媒体に記録された複数個の組画の画像データから,一の組画の画像データを選択する画像選択手段と,
前記選択された組画の画像データにより,前記第一の関連画,前記第二の関連画,及び前記原画の順に,対応する語句の再生と同期して表示する画像表示手段と,
音声記録媒体と,
前記音声記録媒体から,前記語句の音声データを選択する音声選択手段と,
前記選択された語句の音声データを再生する音声再生手段と,
を含むのに対して,
甲2学習用具発明は,コンピューターを備えておらず,
組画は,第一の関連カード,第二の関連カード,及び別売りの日本地理カードに描かれたものであって,コンピューターが有する組画記録媒体に画像データとして記録されたものではなく,したがって,組画記録媒体に記録された複数個の組画の画像データから,一の組画の画像データを選択する画像選択手段を有しておらず,
第一の関連画,第二の関連画,及び原画を,対応する語句の再生と同期して表示するのは,甲2学習用具発明の使用者であって,コンピューターが有する画像表示手段ではなく,
音声記録媒体は,カセットテープであって,学習用具が備えるコンピューターが有するものではなく,したがって,音声記録媒体から,前記語句の音声データを選択する音声選択手段及び選択された語句の音声データを再生する音声再生手段を有していない点。

イ 相違点2−1の容易想到性について
引用例1技術事項の乳幼児教育装置は,幼児に単一の絵や写真を一枚当たり一秒程度の速いスピードで見せることによって,発達段階における脳細胞に良い刺激を与えて,脳の機能を活性化させ,より多くの才能を開花させるという早期幼児教育の方法において最も重要な要素である,見せるスピードと,そのリズム感を得るために,従来の絵や写真が描かれているカードに代えて,テレビジョン受像機(1)と,視覚情報及び聴覚情報を記憶しているCD−ROM(2)と,該視覚情報及び聴覚情報をCD−ROM(2)から読み出す読み出し手段(6)及び読み出された視覚情報及び聴覚情報をテレビジョン受像機(1)に表示する表示手段(7)を有するCPU制御部(3)と,手操作入力部(4)とを備えてなる,いわゆるコンピューターを用いることとしたものと理解される。
これに対して,甲2学習用具発明は,語呂合わせの歌に合わせて,漫画,抽象画及び都道府県の形状を見せるものであって,単一の絵や写真を一枚当たり一秒程度の速いスピードで見せるものではないため,甲2学習用具発明において,漫画,抽象画及び都道府県の形状を見せるスピードと,そのリズム感を得る必要はないものと認める。
そうすると,甲2学習用具発明に,引用例1技術事項を適用すること,すなわち,漫画が描かれた第一の関連カード,抽象画が描かれた第二の関連カード,都道府県の形状が描かれた日本地理カード及び語呂合わせの歌の音声が記録されたカセットテープに代えて,漫画,抽象画及び都道府県の形状の画像データ並びに語呂合わせの歌の音声データが記録された記録媒体を有するコンピューターを用いることの動機付けはないというべきである。
したがって,甲2学習用具発明において,相違点2−1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することが,引用例1技術事項に基づいて,当業者が容易に想到し得たということはできない。
また,学習内容が記載された複数枚のカード等を用いて,学習を行う学習用具には,カード等の整理や,カリキュラムに沿ったカード等の選択の煩わしさ等の課題が存在することが開示された証拠は,引用例1以外には見当たらないから,学習内容が記載された複数枚のカード等を用いて,学習を行うという従来の学習用具では,カード等の整理や,カリキュラムに沿ったカード等の選択の煩わしさ等の課題があるので,カード等に代えて学習内容を表示したり音声出力したりするコンピューターを用いて,学習を行う技術が,本件特許に係る出願の出願前に周知であったと認めることはできない。
したがって,甲2学習用具発明において,相違点2−1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することが,周知技術に基づいて,当業者が容易に想到し得たことということもできない。

ウ 請求人の主張について
令和4年2月17日付け上申書において,請求人は,甲2学習用具発明は,各カードの整理やこれらのカードをカセットテープに録音された語呂合わせの歌における都道府県の順に並べるといった作業の煩わしさ等,周知技術(引用例1技術事項)と共通の課題を有するから,甲2学習用具発明に周知技術(引用例1技術事項)を適用することには動機付けが存在する旨主張するが,前記イで述べたように,引用例1技術事項において,従来技術のカードに代えてコンピュータを用いるのは,専ら,早期乳幼児教育の方法において最も重要な要素である,見せるスピードと,そのリズム感を得るためと解されるのであって,たとえ,甲2学習用具発明において,各カードの整理やこれらのカードをカセットテープに録音された語呂合わせの歌における都道府県の順に並べるといった作業の煩わしさ等といった,複数枚のカードを用いることによる課題が存在するのだとしても,漫画,抽象画及び都道府県の形状を見せるスピードと,そのリズム感を得ることを課題として認識し得るとまでいえない甲2学習用具発明において,引用例1技術事項を適用する動機付けはないというべきである。
したがって,請求人の主張は採用できない。

エ 小括
以上のとおりであるから,本件特許発明1は,甲2学習用具発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではなく,甲2学習用具発明及び引用例1技術事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(2)本件特許発明2ないし9について
本件特許発明2ないし5は,本件特許発明1の発明特定事項を全て具備し,これに限定を加えたものに該当するところ,前記(1)で述べたとおり,本件特許発明1が,甲2学習用具発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではなく,甲2学習用具発明及び引用例1技術事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものでもない以上,本件特許発明2ないし5も,甲2学習用具発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではなく,甲2学習用具発明及び引用例1技術事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
また,本件特許発明6及び7は,本件特許発明1及び2のカテゴリーを変更し,「学習用具」を「学習用情報提示方法」としたものであって,実質上,本件特許発明1及び2と同様の発明特定事項を有するから,前記(1)で述べたのと同様の理由で,本件特許発明6及び7は,甲2学習用具発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではなく,甲2学習用具発明及び引用例1技術事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
また,本件特許発明8及び9は,本件特許発明1及び2の「コンピューターを備え」る「学習用具」を,「学習用具のコンピューターが備える学習用情報提示システム」と表現したものにすぎず,実質上,本件特許発明1及び2と同様の発明特定事項を有するから,前記(1)で述べたのと同様の理由で,本件特許発明8及び9は,甲2学習用具発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではなく,甲2学習用具発明及び引用例1技術事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(3)まとめ
以上のとおりであるから,職権無効理由によって,請求項1ないし9に係る特許を取り消すことはできない。

第6 むすび
前記第5 2(3)及び3(3)で述べたとおり,請求人無効理由及び職権無効理由によって,請求項1ないし9に係る特許を取り消すことはできない。
よって,結論のとおり,審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは,この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は,その日数を附加します。)以内に,この審決に係る相手方当事者を被告として,提起することができます。
 
審理終結日 2022-03-16 
結審通知日 2022-03-24 
審決日 2022-04-12 
出願番号 P2002-226373
審決分類 P 1 113・ 121- Y (G09B)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 藤本 義仁
特許庁審判官 清水 康司
吉村 尚
登録日 2008-02-29 
登録番号 4085311
発明の名称 学習用具、学習用情報提示方法、及び学習用情報提示システム  
代理人 楠本 高義  
代理人 山崎 貴啓  
代理人 松田 政行  
代理人 三雲 悟志  
代理人 上村 喜永  
代理人 吉川 武志  
代理人 黒瀬 雅一  
代理人 西村 竜平  
代理人 及川 周  
代理人 三縄 隆  

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