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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02J
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02J
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02J
管理番号 1390062
総通号数 11 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-11-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-01-06 
確定日 2022-10-19 
事件の表示 特願2018−552029「ハンドヘルドデバイスの電磁誘導充電のためのシステム及び装置」拒絶査定不服審判事件〔平成29年10月19日国際公開、WO2017/180339、令和 1年 5月30日国内公表、特表2019−514322〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2017年(平成29年)4月3日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2016年4月15日 米国)を国際出願日とする出願であって、令和1年9月24日付けで拒絶理由が通知され、令和2年3月25日に意見書及び手続補正書が提出され、同年9月11日付けで拒絶査定されたところ、令和3年1月6日に拒絶査定不服審判の請求及び手続補正がされたものである。その後、当審において同年9月8日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、令和4年1月11日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。


第2 本願発明
本願の請求項1ないし9に係る発明は、令和4年1月11日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載されたとおりのものと認められるところ、そのうち請求項5に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものと認める。

「 【請求項5】
エネルギーを貯蔵する電池を含む、ハンドヘルドデバイスと、充電デバイスを備える充電システムであって、
前記充電デバイスが、
送信側タンクコンデンサと、主伝送コイルと、を含む送信側共振タンク回路であって、前記主伝送コイルは、前記送信側タンクコンデンサと共振状態にあるように結合されており、前記主伝送コイルは、前記ハンドヘルドデバイスの前記電池を充電するために利用される前記ハンドヘルドデバイス上の受信コイルに誘導結合される交流磁場を生成する、送信側共振タンク回路と、
複数のスイッチング素子を含み、前記送信側共振タンク回路に結合されているブリッジコンポーネントであって、電源から電圧を受け取り、前記送信側共振タンク回路のレールを提供する、ブリッジコンポーネントと、
前記ブリッジコンポーネントに結合されている調整回路であって、前記送信側共振タンク回路に送信される電力を前記充電デバイスに制御させるロジックを実行する、調整回路と、を備え、
前記ハンドヘルドデバイスが、
前記充電デバイスからエネルギーを受信するために前記主伝送コイルに誘導結合される前記受信コイルと、
前記受信コイルに結合され、前記送信側共振タンク回路からのエネルギー伝送を増幅するための複数のコンデンサを含む受信側共振タンク回路と、を更に備え、
前記電池は、前記受信側共振タンク回路に結合されており、前記充電デバイスから受信した前記エネルギーを受信及び貯蔵し、
前記充電システムは、15%〜50%の範囲内の効率を実現し、250ミリワット〜5ワットの範囲内の電力を供給し、
前記充電デバイスは、前記充電デバイスが負荷に結合されているかどうかに関する信号を受信する電流測定デバイスであって、前記充電デバイスが前記負荷に結合されていないという前記信号の受信に応じて、前記調整回路が所定の時間の間、低電力モードに入り、前記所定の時間の満了後、前記調整回路が前記低電力モードを終了し、前記充電デバイスが前記負荷に結合されているかどうかを再度判定する、電流測定デバイスを更に備え、
前記ハンドヘルドデバイスは、充電制御スイッチであって、前記充電制御スイッチが所定のパターンで負荷を切断し、当該所定のパターンによる負荷の切断が前記電流測定デバイスで検出できない場合に、前記調整回路が不適合なデバイスであると判断する、充電制御スイッチを更に備える、充電システム。」


第3 拒絶の理由の概要
本願の請求項5に対して令和3年9月8日付けで当審が通知した拒絶理由のうちの理由1(進歩性)の概要は、次のとおりのものである。
この出願の請求項5に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された引用文献1に記載された発明及び引用文献3に記載された技術事項及び周知技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献1: 特開2012−165647号公報
引用文献3: 特開2001−218391号公報
引用文献4: 特開2015−154712号公報(周知技術)
引用文献5: 特開2011−229265号公報(周知技術)
引用文献6: 特開2013−212004号公報(周知技術)


第4 引用発明と引用文献に記載された事項
1.引用発明
(1)引用文献1に記載された事項
当審拒絶理由に引用された引用文献1(特開2012−165647号公報)には、以下の記載がある。なお、下線は当審で付したものである。

「【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】 本発明の実施例による誘導電力供給システムを簡潔に示す図である。
【図2】 一実施例の誘導電力供給システムの回路図である。
・・・(略)・・・
【図3B】 多数の識別コンデンサを備えた代替遠隔デバイスの回路図である。」

「【0018】
本発明の実施例による誘導電力供給システムを図1に示す。誘導電力供給システム10は一般に、適応誘導電力供給装置(AIPS)12と、多数の遠隔デバイス14とを含む。AIPS12は一般に、誘導電力送電ができる、1次コイル18(図2参照)を備えたタンク回路48を含む。またAIPSは、1次コイル18によって発生された電力の周波数を選択的に制御する制御器20と、遠隔デバイス14からの反射インピーダンスを検出できる検出器16と、も含む。AIPS12は、1又は複数の遠隔デバイス14と共に用いることを意図したものであり、各遠隔デバイスは一意共振周波数又は一意共振周波数パターンを有する。AIPS12は識別周波数の電力を1次コイル18に供給し、そして電力検出器16を用いて遠隔デバイス14の反射インピーダンスを評価する。遠隔デバイス14が識別周波数に共振周波数を有するとき、AIPS12はどの種類の遠隔デバイスがAIPS12に誘導結合されているかを知ることができ、AIPS12は参照テーブル又は別のメモリデバイスから動作パラメータを取得することができる。AIPSは、取得した情報を用いて遠隔デバイスを効率的に運用し、障害状態を識別することができる。
・・・(略)・・・
【0020】
例示実施例において、AIPS12は一般に周波数制御器20及びタンク回路48を含む。周波数制御器20はタンク回路48に電力を印加して、電磁誘導電力を発生させる。例示実施例の周波数制御器20は一般に、マイクロコントローラ40と、発振器42と、駆動器44と、インバータ46と、を含む。マイクロコントローラ40は、PIC18LF1320のようなマイクロコントローラであってもよいし、よりはん用のマイクロプロセッサであってもよい。発振器42及び駆動器44は個別部品であってもよいし、マイクロコントローラ40に組み込んでもよい。例えば図2に示す実施例では、発振器42はマイクロコントローラ40内のモジュールである。周波数制御器20はまた、マイクロコントローラ40に低電圧電力を供給する低電圧電力供給装置26と、駆動器44と、も含んでよい。この実施例では、周波数制御器20の種々の部品が、マイクロコントローラ40が指示する周波数でタンク回路48を集合的に駆動する。より詳しくは、マイクロコントローラ40が発振器42のタイミングを設定する。ある動作モードでは、マイクロコントローラ40は電流検出器16からの入力によって動作周波数を設定してもよい。次に発振器42は、マイクロコントローラ40が設定した周波数で駆動器44を稼動させる。駆動器44は、インバータ46内のスイッチ47a〜47bを動作させるために必要な信号を供給する。その結果、インバータ46はDC(直流)電源50からタンク回路48へAC(交流)電力を供給する。
【0021】
例示実施例において、電流検出器16はタンク回路48に配置された1次コイルを有する電流変成器であって、2次コイルはマイクロコントローラ40に接続されている。AIPSは、マイクロコントローラ40に電流変成器出力を供給する前に電流変成器出力を調整する調整(conditioning)回路28を含んでもよい。例示実施例では遠隔デバイスの反射インピーダンスを検出するために電流変成器を含んでいるが、AIPS12は本質的に、遠隔デバイス14からの反射インピーダンスに関する情報を提供できる任意代替種別の検出器を含んでもよい。更に、例示実施例の電流検出器16はタンク回路に配置されているが、電流検出器(又は別の反射インピーダンス検出器)は本質的に、遠隔デバイスに共振があるかないかを示す示度を与えることができる任意の位置に配置してよい。
・・・(略)・・・
【0023】
タンク回路48は一般に1次コイル18及びコンデンサ52を含む。コンデンサ52の容量は、1次コイル18のインピーダンスを想定する動作パラメータと釣り合うように選択してもよい。タンク回路48は、直列共振タンク回路(図示したもの)又は並列共振タンク回路(図示していない)のいずれかであってよい。・・・」

「【0025】
いくつかの応用では、遠隔デバイスは一意共振周波数又は一意共振周波数パターンを本質的に含んでよい。例えば特定の種類の遠隔デバイスは、195kHzの共振周波数を含んでよい。・・・(略)・・・
【0026】
開示のために、固有識別周波数を有する遠隔デバイス14の一実施例を図2に示す。図2の実施例では、遠隔デバイス14は一般に、AIPS12から電力を受電する2次コイル22と、ブリッジ30(又はAC電力をDC電力に変換する別の整流器)と、充電回路32と、電池34と、主回路36と、を含む。ブリッジ30は2次コイル22に発生したAC電力をDC電力に変換する。DC電力は本実施例では充電回路32を稼動させるために必要である。充電回路は周知であり、種々の再充電可能電子デバイスと共に広く用いられる。所望のときは、充電回路32は電池34を充電、及び/又は遠隔デバイス14に電力を供給(遠隔デバイス14が起動しているとき)するように構成してもよい。充電及び/又は電子デバイスに電力を供給できる充電回路は周知であり、したがって詳細には説明しない。・・・(略)・・・
【0028】
別の実施例では、遠隔デバイスは、所望の識別周波数の共振を与える1又は複数の識別コンデンサを備えてもよい。・・・(略)・・・
【0029】
図3Aの実施例では、遠隔デバイス14’は一つの識別コンデンサ38’だけ含んでいる。図3Bの実施例では、遠隔デバイス14’’は負荷と並列に接続され、それぞれ異なる周波数の共振を与える3個の識別コンデンサ38a〜38cを備えている。類似して、所望のときは更に多くの追加共振周波数を設定するために、追加の識別コンデンサを備えてもよい。・・・・
【0031】
III. 動作
・・・(略)・・・
【0034】
遠隔デバイス14が現在の識別周波数に共振周波数を含むとマイクロコントローラ40が判定したとき、マイクロコントローラ40は参照テーブル24から動作パラメータを取得し(ステップ110)、遠隔デバイス識別処理を終了する。そしてマイクロコントローラ40は、参照テーブル24から取得した動作パラメータを用いて遠隔デバイス14を稼動させる(ステップ112)。参照テーブル24は想定される動作周波数を含むことができ、取得した動作周波数の電力をタンク回路48に印加することによって、動作を開始できる。またマイクロコントローラ40は、参照テーブルから取得した最大最小電流発生値を用いて障害状態の存在を判定することができる。例えば、動作中に電流検出器が検出した実際の電流発生値が最大電流発生値を超えるか、最小電流発生値を下回ったとき、マイクロコントローラ40は障害状態が存在すると結論する。障害状態に遭遇したとき、救済措置をとるようにマイクロコントローラ40をプログラムしてもよい。例えば、障害状態が生じたときシステムを停止するようにマイクロコントローラ40をプログラムしてもよい。あるいは、マイクロコントローラ40は、識別処理を再開して1次コイル18のそばに別の遠隔デバイス40が置かれているかどうか判定してもよい。」

また、図1、図2、図3Bとして以下の図面が記載されている。





上記の記載によれば、引用文献1には以下の事項が記載されている。

・ 段落【0017】によれば、図1は本発明の実施例による誘導電力供給システムを簡潔に示した図であり、図2はその回路図、図3Bは誘導電力供給システムを構成する遠隔デバイスの一実施例の回路図であるといえる。

・段落【0018】、及び図1、2によれば、「誘導電力供給システム10は一般に、適応誘導電力供給装置(AIPS)12と、多数の遠隔デバイス14とを含む」から、適応誘導電力供給装置(AIPS)12と、遠隔デバイスとを含む誘導電力供給システム10について記載されているといえる。

・段落【0026】、及び図1、2によれば、「遠隔デバイス14は」「電池34」を含み、「充電回路32は電池34を充電」するから、遠隔デバイス34には充電回路32により充電される電池34が含まれるといえる。

・段落【0018】【0023】、及び図1、2によれば、適応誘導電力供給装置(AIPS)12はタンク回路48を含み、タンク回路48は1次コイル18及びコンデンサ52を含み、直列共振タンク回路又は並列共振タンク回路のいずれかである。したがって、適応誘導電力供給装置(AIPS)12は、1次コイル18及びコンデンサ52を含み、直列共振タンク回路又は並列共振タンク回路のいずれかであるタンク回路を備えているといえる。

・段落【0020】に「駆動器44は、インバータ46内のスイッチ47a〜47bを動作させるために必要な信号を供給する。その結果、インバータ46はDC(直流)電源50からタンク回路48へAC(交流)電力を供給する。」と記載されており、また図2からスイッチ47a〜47bはブリッジ回路を構成していることが見てとれる。したがって、適応誘導電力供給装置(AIPS)12を構成するインバータ46は、ブリッジ回路を構成を構成するスイッチ47a〜47bを含み、DC電源50からタンク回路48へAC電力を供給するインバータ46といえる。

・段落【0020】【0034】によれば、適応誘導電力供給装置(AIPS)12はマイクロコントローラ40を含み、当該マイクロコントローラ40は、遠隔デバイス14が現在の識別周波数に共振周波数を含むとマイクロコントローラ40が判定したとき、取得した動作パラメータを用いて遠隔デバイス14を稼動させ、電流検出器が検出した実際の電流発生値が最大電流発生値を超えるか、最小電流発生値を下回ったとき、障害状態が存在すると結論し、システムを停止するようにプログラムされているといえる。

・段落【0026】によれば、遠隔デバイス14は、適応誘導電力供給装置(AIPS)12から電力を受電する2次コイル22と、ブリッジ30と、充電回路32と、電池34を含み、ブリッジ30は2次コイル22に発生したAC電力をDC電力に変換し、充電回路32を稼動させて電池34を充電するといえる。

・段落【0029】図2、図3Bによれば、遠隔デバイス14は2次コイル22に接続されて共振を与える3個の識別コンデンサ38a〜38cを備えているといえる。

・段落【0021】図1、図2によれば、適応誘導電力供給装置(AIPS)12は電流検出器16を備えており、当該電流検出器16は遠隔デバイスに共振があるかないかを示す示度を与えるといえる。

(2)引用発明
上記記載事項及び図面を総合勘案すると、引用文献1には誘導電力供給システムについて、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「適応誘導電力供給装置(AIPS)と遠隔デバイスとを含む誘導電力供給システムであって、
前記遠隔デバイスには充電回路により充電される電池が含まれ、
前記適応誘導電力供給装置(AIPS)は、
1次コイル及びコンデンサを含み、直列共振タンク回路又は並列共振タンク回路のいずれかであるタンク回路と、
ブリッジ回路を構成するスイッチ(47a〜47b)を含み、DC電源から前記タンク回路へAC電力を供給するインバータと、
現在の識別周波数に共振周波数を含むと判定したとき、取得した動作パラメータを用いて前記遠隔デバイスを稼動させ、電流検出器が検出した実際の電流発生値が最大電流発生値を超えるか、最小電流発生値を下回ったとき、障害状態が存在すると結論し、システムを停止するようにプログラムされたマイクロコントローラと、
を備え、
前記遠隔デバイスは、前記適応誘導電力供給装置(AIPS)から電力を受電する2次コイルと、ブリッジと、充電回路と、電池とを含み、前記ブリッジは前記2次コイルに発生したAC電力をDC電力に変換し、充電回路を稼動させ電池を充電し、
また、前記遠隔デバイスは2次コイルに接続されて共振を与える3個の識別コンデンサを備え、
前記適応誘導電力供給装置(AIPS)は、前記遠隔デバイスに共振があるかないかを示す示度を与える前記電流検出器を含む、
誘導電力供給システム。」

2.引用文献3の技術事項
当審拒絶理由に引用された引用文献3(特開2001−218391号公報)には、以下の記載がある。

「【0027】上述した構成からなる非接触充電システムにおいて、正規の被充電機器11を電気的に判断する方法について以下に説明する。充電器1は、被充電機器11がセットされると、充電を開始する。後に説明するように、充電器1は、被充電機器11あるいはそれ以外のコインなどの異物などが乗せられると、これらに対して自動的に充電を開始する。
【0028】被充電機器11では、充電が開始されると、充電制御部15がタイマー14からの信号に基づき、充電オフスイッチ16をある定められた周期でオフする。充電をオフした直後、電磁誘導により、送電コイル4における電圧が一時的に増加する。したがって、このように周期的に充電をオフすると、送電コイル電圧は、一時的な増加をある定められた周期で繰り返す。
【0029】一方、充電器1では、確認検出部5が送電コイル4における送電コイル電圧を検出し、制御部2に供給する。制御部2は、確認検出部5より供給された信号に基づき、正規の被充電機器11であるかどうかを判断し、この判断に応じた信号を送電部3に供給する。
【0030】つまり、送電コイル電圧が、一時的な増加をある定められた周期で繰り返すならば、正規の被充電機器11であると判断し、送電コイル4に対する電力供給を継続する。一方、送電コイルにおける電圧が、一時的な増加をある定められた周期で繰り返さないならば、正規の被充電機器11ではないこと判断し、送電部3に電力の供給を停止する信号を供給する。送電部3は、制御部2より供給された信号に基づき、送電コイル4に対する電力の供給を停止する。」

また、図1として以下の図面が記載されている。



上記記載によれば、引用文献3には以下の技術事項が記載されているものと認められる。

「非接触充電システムにおいて、被充電機器11の充電制御部15が、充電オフスイッチ16をある定められた周期でオフすることにより、送電コイル電圧は、一時的な増加をある定められた周期で繰り返す。送電コイルにおける電圧が、一時的な増加をある定められた周期で繰り返さないならば、正規の被充電機器11ではないと判断する。」


第5 対比・判断
1.本願発明と引用発明との対比
本願発明と引用発明とを対比すると、

(1)引用発明における「遠隔デバイス」には電池が含まれているから、本願発明の「エネルギーを貯蔵する電池を含む、ハンドヘルドデバイス」に相当し、引用発明の「適応誘導電力供給装置(AIPS)」が本願発明の「充電デバイス」に相当する。そして、引用発明の「適応誘導電力供給装置(AIPS)と遠隔デバイスとを含む誘導電力供給システム」が本願発明の「充電システム」にそれぞれ相当する。

(2)引用発明の「1次コイル」は、引用発明が誘導電力供給システムであることに鑑みれば、交流磁場を生成し2次コイルと結合していることは明らかであるから、本願発明の「前記ハンドヘルドデバイスの前記電池を充電するために利用されるハンドヘルドデバイス上の受信コイルに誘導結合される交流磁場を生成する」「主伝送コイル」に相当する。そして、引用発明において1次コイルと直列共振タンク回路又は並列共振タンク回路のいずれかであるタンク回路を構成するように結合される「コンデンサ」が、本願発明の主伝送コイルと「共振状態にあるように結合される」「送信側タンクコンデンサ」に相当し、引用発明の「直列共振タンク回路又は並列共振タンク回路のいずれかであるタンク回路」が本願発明の「送信用共振タンク回路」に相当する。

(3)引用発明の「スイッチ(47a〜47b)」と「DC電源」が、本願発明の「複数のスイッチング素子」と「電源」にそれぞれ相当する。そして、引用発明の「スイッチ(47a〜47b)を含み、DC電源からタンク回路へAC電力を供給するインバータ」が、本願発明の「複数のスイッチング素子を含み、前記送信側共振タンク回路に結合され」、「電源から電圧を受け取り、前記送信側共振タンク回路のレールを提供する、ブリッジコンポーネント」に相当する。

(4)引用発明の「マイクロコントローラ」は、現在の識別周波数に共振周波数を含むと判定したとき、取得した動作パラメータを用いて遠隔デバイスを稼動させ、電流検出器が検出した実際の電流発生値が最大電流発生値を超えるか、最小電流発生値を下回ったとき、障害状態が存在すると結論し、システムを停止するようにプログラムされているから、「タンク回路」へのAC電力の供給を制御していることは明らかであり、そのため、「インバータ」に結合されているということができる。そうしてみると、引用発明の「マイクロコントローラ」が、本願発明の「前記ブリッジコンポーネントに結合され」、「前記送信側共振タンク回路に送信される電力を前記充電デバイスに制御させるロジックを実行する、調整回路」に相当する。

(5)引用発明の「2次コイル」は適応誘導電力供給装置(AIPS)から電力を受電するから、本願発明の「充電デバイスからエネルギーを受信するために前記主伝送コイルに誘導結合される前記受信コイル」に相当する。

(6)引用発明の2次コイルと3個の識別コンデンサは接続されて共振するから、本願発明のようにエネルギー伝送を増幅するということができ、引用発明の「3個の識別コンデンサ」が本願発明の「複数のコンデンサ」に相当し、「2次コイル」と「3個の識別コンデンサ」を合わせた構成が本願発明の「受信側共振タンク回路」に相当する。

(7)引用発明において、「電池」は、適応誘導電力供給装置(AIPS)から電力を受電する2次コイルと、ブリッジ及び充電回路を介して接続されて充電されるから、本願発明における「前記受信側共振タンク回路に結合されており、前記充電デバイスから受信した前記エネルギーを受信及び貯蔵」する「電池」に相当する。

(8)本願発明では「前記充電システムは、15%〜50%の範囲内の効率を実現し、250ミリワット〜5ワットの範囲内の電力を供給」するのに対して、引用発明は当該事項について特定されていない点で相違する。

(9)本願発明は、「前記充電デバイスは、前記充電デバイスが負荷に結合されているかどうかに関する信号を受信する電流測定デバイスであって、前記充電デバイスが前記負荷に結合されていないという前記信号の受信に応じて、前記調整回路が所定の時間の間、低電力モードに入り、前記所定の時間の満了後、前記調整回路が前記低電力モードを終了し、前記充電デバイスが前記負荷に結合されているかどうかを再度判定する、電流測定デバイスを更に備え」ているのに対して、引用発明では適応誘導電力供給装置(AIPS)が有する電流検出器は、遠隔デバイスに共振があるかないかを示す示度を与えることしか特定されていない点で相違する。

(10)本願発明は「前記ハンドヘルドデバイスは、充電制御スイッチであって、前記充電制御スイッチが所定のパターンで負荷を切断し、当該所定のパターンによる負荷の切断が前記電流測定デバイスで検出できない場合に、前記調整回路が不適合なデバイスであると判断する、充電制御スイッチを更に備える」のに対して引用発明では特定されていない点で相違する。

2.一致点・相違点
上記1.によれば、本願発明と引用発明とは以下の点で一致ないし相違する。

(一致点)
「 エネルギーを貯蔵する電池を含む、ハンドヘルドデバイスと、充電デバイスを備える充電システムであって、
前記充電デバイスが、
送信側タンクコンデンサと、主伝送コイルと、を含む送信側共振タンク回路であって、前記主伝送コイルは、前記送信側タンクコンデンサと共振状態にあるように結合されており、前記主伝送コイルは、前記ハンドヘルドデバイスの前記電池を充電するために利用される前記ハンドヘルドデバイス上の受信コイルに誘導結合される交流磁場を生成する、送信側共振タンク回路と、
複数のスイッチング素子を含み、前記送信側共振タンク回路に結合されているブリッジコンポーネントであって、電源から電圧を受け取り、前記送信側共振タンク回路のレールを提供する、ブリッジコンポーネントと、
前記ブリッジコンポーネントに結合されている調整回路であって、前記送信側共振タンク回路に送信される電力を前記充電デバイスに制御させるロジックを実行する、調整回路と、を備え、
前記ハンドヘルドデバイスが、
前記充電デバイスからエネルギーを受信するために前記主伝送コイルに誘導結合される前記受信コイルと、
前記受信コイルに結合され、前記送信側共振タンク回路からのエネルギー伝送を増幅するための複数のコンデンサを含む受信側共振タンク回路と、を更に備え、
前記電池は、前記受信側共振タンク回路に結合されており、前記充電デバイスから受信した前記エネルギーを受信及び貯蔵する、
充電システム。」

(相違点1)
本願発明は「前記充電システムは、15%〜50%の範囲内の効率を実現し、250ミリワット〜5ワットの範囲内の電力を供給」するのに対して、引用発明には当該特定が成されていない点。

(相違点2)
本願発明は、「前記充電デバイスは、前記充電デバイスが負荷に結合されているかどうかに関する信号を受信する電流測定デバイスであって、前記充電デバイスが前記負荷に結合されていないという前記信号の受信に応じて、前記調整回路が所定の時間の間、低電力モードに入り、前記所定の時間の満了後、前記調整回路が前記低電力モードを終了し、前記充電デバイスが前記負荷に結合されているかどうかを再度判定する、電流測定デバイスを更に備え」ているのに対して、引用発明では適応誘導電力供給装置(AIPS)が有する電流検出器が、遠隔デバイスに共振があるかないかを示す示度を与えることしか特定されていない点。

(相違点3)
本願発明は「前記ハンドヘルドデバイスは、充電制御スイッチであって、前記充電制御スイッチが所定のパターンで負荷を切断し、当該所定のパターンによる負荷の切断が前記電流測定デバイスで検出できない場合に、前記調整回路が不適合なデバイスであると判断する、充電制御スイッチを更に備える」のに対して、引用発明では当該事項が特定されていない点。


3.相違点についての判断
上記相違点について検討する。
(1)相違点1について
引用発明に記載された充電システムの効率と電力については明示されていない。しかしながら、引用文献1段落【0002】の「携帯電話機、音楽再生機、パーソナルデジタルアシスタント、その他遠隔デバイスのような家庭用電子製品及び業務用電子製品の分野では特に、無線電力供給システムに関する関心が大きく、また増加し続けている。」との記載によれば、引用文献1は小電力の電子製品を対象としていることは明らかである。
そして、小電力の電子製品においては電力が小さく、また電気自動車の充電などに比べれば高効率が求められないことは常識的な事項である。そうしてみると、効率を15%〜50%の範囲内とし、電力を250ミリワット〜5ワットの範囲内とすることは格別の事項ではなく、当業者が適宜なし得た程度の事項にすぎない。

(2)相違点2について
ワイヤレス給電の送信側において、所定の時間間隔で電流センサにより負荷を検出し、検出されない場合に電力供給を行わない(低電力モード)ように動作させる技術は周知の技術にすぎない(例えば、特開2015−154712号公報(引用文献4)段落【0012】【0023】、特開2011−229265号公報(引用文献5)段落【0032】〜【0034】、特開2013−212004号公報(引用文献6)段落【0006】【0028】【0030】【0031】参照。)。そうしてみると、引用発明においても上記周知技術を適用することにより相違点2の構成をすることは、当業者が容易に想到できた事項にすぎない。

(3)相違点3について
上記「第4 2.」で述べたように引用文献3には、
「非接触充電システムにおいて、充電制御部15が、充電オフスイッチ16をある定められた周期でオフすることにより、送電コイル電圧は、一時的な増加をある定められた周期で繰り返す。送電コイルにおける電圧が、一時的な増加をある定められた周期で繰り返さないならば、正規の被充電機器11ではないこと判断する。」という技術事項が記載されている。
そうしてみると、上記技術事項に触れた当業者であれば引用発明においても不適合なデバイスであることを判断するために引用発明に上記の技術事項を適用することは、上記技術事項が本願発明と同様の非接触充電システムに係る技術であり技術分野が共通していることを踏まえれば、容易になし得る事項である。そして、その際「送電コイルにおける電圧」ではなく送電コイルにおける電流によって判断することは、電圧と電流に相関関係があることは技術常識であるから、適宜変更できた事項にすぎない。


第6 むすび
以上のとおり、本願の請求項5に係る発明は、引用発明、引用文献3に記載された技術事項、及び周知技術に基づいて、当業者が容易になし得たものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。

審判長 酒井 朋広
出訴期間として在外者に対し90日を附加する。
 
審理終結日 2022-05-17 
結審通知日 2022-05-24 
審決日 2022-06-09 
出願番号 P2018-552029
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H02J)
P 1 8・ 537- WZ (H02J)
P 1 8・ 113- WZ (H02J)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 酒井 朋広
特許庁審判官 畑中 博幸
山本 章裕
発明の名称 ハンドヘルドデバイスの電磁誘導充電のためのシステム及び装置  
代理人 特許業務法人 谷・阿部特許事務所  

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