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審決分類 |
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) E04H 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) E04H 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) E04H 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) E04H |
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管理番号 | 1390132 |
総通号数 | 11 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2022-11-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2021-05-07 |
確定日 | 2022-10-12 |
事件の表示 | 特願2019− 43212「免震ピロティ等建築物」拒絶査定不服審判事件〔令和 元年 7月18日出願公開、特開2019−116827〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成25年12月16日(以下「遡及日」という。)に出願された特願2013−258855号の一部を、平成31年3月8日に新たな特許出願としたものであって、その手続の経緯は以下のとおりである。 平成31年 3月12日 :手続補正書の提出 令和 2年 2月27日付け :拒絶理由通知書 同年 4月15日 :意見書の提出 同年 4月17日 :手続補正書の提出 令和 2年 6月30日付け :拒絶理由通知書(最後) 同年 9月12日 :意見書、手続補正書の提出 令和 3年 1月28日付け :令和2年9月12日に提出された手続補正書についての補正の却下の決定、拒絶査定(同年2月9日送達) 同年 5月 7日 :審判請求書、手続補正書の提出 令和 4年 2月14日付け :拒絶理由通知書(最後) 同年 4月25日 :意見書、手続補正書の提出 第2 令和4年4月25日にされた手続補正についての補正の却下の決定 〔補正の却下の決定の結論〕 令和4年4月25日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。 〔理由〕 1 本件補正の内容 本件補正は、令和3年5月7日付け手続補正書によって補正された本件補正前の請求項1に、 「前記下部構造は、上部構造と分離独立され、前記分離独立した構造間に、水平方向に滑らかに移動し得る免震構造を有する免震建築物」とあったのを、 「前記下部構造は、上部構造と分離独立され、前記分離独立した構造間であってピロティと上部構造体の間が、水平方向に滑らかに移動し得る、回転移動する免震構造を有する事を特徴とする免震建築物」と補正するものである(なお、下線は補正前後の箇所を明示するために合議体が付した。)。 2 補正の適否 (1)新規事項の追加について ア 補正の内容 本件補正後の請求項1に係る上記1の補正は、本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「免震構造」に関し、「回転移動する免震構造」とすることを含むものである。 イ 審判請求人の主張する補正の根拠 審判請求人は、令和4年4月25日付け意見書において、「回転移動する免震構造」とする補正の根拠について、「図5、図7等の免震構造及び[0014][0015]等に基づきます。」と主張する。 ウ 検討 (ア)本願の願書に最初に添付した明細書(以下「当初明細書」といい、特許請求の範囲及び図面と併せて「当初明細書等」という。)には、以下のとおり、記載されている(なお、下線は合議体が付した。)。 「【0008】 以下、図面を参照して本発明の実施例を詳細に説明する。 図5は本発明の原理を示す図である。図2と同様のものは、同一の符号を付して示す。図において、2はピロティ方式の高層ビル上部、3はピロティで、柱3の下の空間12は駐車場や店舗等に利用する。 【0009】 本発明においては、ピロティ部3とその上の構造物2を分離独立した構造とし、前記両者の間に免震構造7を入れる。この免震構造7により、上部の建物2を支持すると共に、地震発生時に2次元方向に移動し、高層建物部分2に地震のエネルギーが到達しないように吸収する。 【0010】 具体的には、鋼球17やゴム積層体18やゴムや油圧ダンパ19を使用した、免震構造7によりピロティ部3と分離して上部構造2が滑らかに移動し地震エネルギーの影響を防止するように機能している。 【0011】 免震構造7は前記図面に示す物に限るものではなく、また、任意の場所に複数設けることができる。免震構造7は既存の技術を用いることができる。鋼球17の大きさ、構造やゴム等柔軟材の材質、構造の数やダンパ構造は図示に限るものではなく、適当に選択される。 【0012】 図6は本発明の第6の実施例である。8はピロティ柱3を補強するトラス構造のスジカイである。トラス構造は、三角形を基本単位としてピンやリベットや溶接接合とし、三角形を基本にして組んだ地震に強い構造である。 【0013】 このように構成されたシステムの動作を説明すれば、以下の通りである。 【0014】 地震が発生すると、高層ビルには先ず縦方向の揺れが発生する。この縦揺れには、本発明建築物は垂直方向の支持物2,3,7が縦方向に耐震性があると、耐えることができる。一方、縦方向の揺れの後にやってくる横揺れに対しては、公知の建物構造(図1,図2,図3,図)にモーメントに対する耐性が弱いので破壊してしまうおそれがあるが、本発明では、ピロティ部3と上部構造2が分離されており、且つピロティ部3と上部構造の間に設けた免震構造7が弱いピロティ部に地震のストレスがかからないように機能する。 【0015】 一方、ピロティ部は柱11とスジカイ8で強固な構造体をなし、地震で崩れないのみならず、駐車場やホールなどの空間に利用できる。 免震構造物7は鋼球やゴムやダンパが有機的に機能しあい、上下方向のエネルギー吸収は勿論のこと、鋼球は滑らかに水平方向に回転移動し、ダンパや積層ゴムと一体となって地震によるエネルギーを吸収する。 具体的には、地震エネルギーは鋼球17など免震構造物7により本体上部2を2次元及び3次元方向に移動させるのに消費される。この結果、高層ビルは地震による被害を免れる。」 (イ)図5、6及び7は以下のものである。 「 」 (ウ)本件補正後の請求項1に係る発明の「回転移動する免震構造」とは、文理上、「免震構造」自体が「回転移動する」ものと解される。 一方、当初明細書等に記載された「免震構造7」は、「鋼球17やゴム積層体18やゴムや油圧ダンパ19を使用した」ものであり(【0010】)、「鋼球やゴムやダンパが有機的に機能しあい」「鋼球は滑らかに水平方向に回転移動し、ダンパや積層ゴムと一体となって地震によるエネルギーを吸収する」ものである(【0015】)。 ここで、「鋼球17」は「回転移動」するものであり、「ゴム積層体18」や「油圧ダンパ19」が「回転移動」するものでないことは技術常識より自明であるから、「ゴム積層体18」や「油圧ダンパ19」を含む「免震構造7」自体が「回転移動」するものということはできず、「鋼球17」のみを「回転移動する免震構造」ともいえない。 また、図6及び7には、「免震構造7」を構成する部材として、2つの円形の部材の間を四角形状の部材を介して線状の部材で接続した構成部材が示されているが、当該構成部材については当初明細書に何ら記載が無く、いかなるものか不明であるから、当該構成部材が「回転移動」するものということはできない。 そうすると、本件補正における「免震構造」を「回転移動する免震構造」とする補正は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものであるので、当初明細書等に記載した事項の範囲内でなされたものではない。 エ 小括 以上のとおり、本件補正は、当初明細書等の記載に基づくものではなく、新たな技術的事項を導入するものであるから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。 (2)独立特許要件について 上記(1)に示したとおり、本件補正は新規事項を追加するものであるから、本件補正は認められないが、仮に「回転移動する」免震構造が当初明細書等に記載されたものであり、本件補正が特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するとして、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について付加的に検討しておく。 ア 本願補正発明 本願補正発明は、令和4年4月25日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 ピロティを有する下部構造と上部構造に分離され、前記分離部に水平方向に滑らかに移動し得る免震構造を有するピロティ免震建築物であって、前記上部構造と一体でかつ前記下部構造及び地面と分離したエレベータシャフトを有し、前記エレベータシャフトが前記下部構造及び地面に対して水平方向に移動可能であり、前記下部構造は、上部構造と分離独立され、前記分離独立した構造間であってピロティと上部構造体の間が、水平方向に滑らかに移動し得る、回転移動する免震構造を有する事を特徴とする免震建築物。」 イ 引用文献に記載された事項及び引用発明 (ア)引用文献1 a 記載事項 本願の遡及日前に頒布された刊行物であり、令和4年2月14日付けの最後の拒絶理由通知に引用した特許第3962758号公報(以下「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている(下線は当審で付した。以下、同様。)。 (a)「【0015】 以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。 図1は、本発明の実施の形態に係る中間層免震建物の一階を模式的に示す図であり、図1(A)は平面図、図1(B)はB−B断面図である。 図2は、図1の建物の側面図である。 この建物1は、図1(A)に示すような、平面形状が略長方形の11階建てのマンションである(図2参照)。図1(A)に示すように、1階には、玄関R1、アプローチR2、風除室R3、エントランスホールR4、エレベータシャフトR5、管理人室R6、ゴミ置き場R7、盤室R8、駐車場や駐輪場R9などが設けられており、2階から11階までが居室となっている。 【0016】 建物1の四隅と、長辺の中間には、建物1の構造物(主な柱)3が立設されている。これらの柱3は、地盤に打ち込まれた杭4の上に配置された基礎5上に立設されている。各柱3は、地中で建物1の長手方向及び短手方向に地中梁6で連結されている。また、地中梁6同士も一部で地中梁6で連結されている。 【0017】 各柱3の1階の中間部分には、図2に示すように免震装置30(詳細後述)が設けられており、この免震装置30から上の構造物(上部階)が免震化されている(免震装置から下の構造物を下部階という)。詳しくは後述するが、1階のアプローチR2、風除室R3、エントランスホールR4、エレベータシャフトR5、管理人室R6(図1(A)の斜線で示す部分)は、上部階に吊り下げ支持されている。なお、図1(A)に示すように、平面で見ると、エントランスホールR4とエレベータシャフトR5は、柱3よりも外に張り出している。基礎5はこの張り出した部分にも設けられており、その周囲には擁壁7が設けられている。地震時には免震装置30から上の上部階が下部階に対して水平方向にせり出す(相対移動する)。このため、張り出した基礎5は、エントランスホールR4とエレベータシャフトR5よりも広く取られており、擁壁7とエレベータシャフト5との間には、干渉回避のためのスキマが開けられている。 【0018】 1階の下部階に相当する部分(玄関R1、盤室R8、駐車場や駐輪場R9、ゴミ置き場R7)では、地中梁6の上端面が、地面上に敷設された土間スラブ8で押えられて固定されている。一方、1階の上部階から吊り下げられた部分(アプローチR2、風除室R3、エントランスホールR4、エレベータシャフトR5、管理人室R6)では、下方に、地中梁6や擁壁7で囲まれた免震ピット10が設けられている。 【0019】 次に、免震装置30の構造を説明する。 図3は、免震装置の構造を説明する図である。 この免震建物の場合、免震装置30は、鉛プラグ入りの積層ゴム型のものが使用されている。このタイプの免震装置30は、ゴム板31と鋼板32とを交互に積層して一体化した積層ゴム体33を有し、同積層ゴム体33の軸中心に円柱状の鉛プラグ34が上下に貫通するように配置されている。積層ゴム体33の周囲は被覆ゴム35で覆われている。また、積層ゴム体33の上下端面には、取り付け用のフランジ36、37が設けられている。鉛プラグ34は上下端がキャップ38、39でフランジ36、27に固定されている。水平方向の力が加わると、同装置30は該方向に変形し、この力が解除されると元の形に戻る。この際、鉛プラグ34は変形して、地震エネルギーを吸収する減衰(ダンパー)作用を果たす。上フランジ36は、柱3の上部階側の端面に固定され、下フランジ37は柱3の下部階側の端面に固定される。 (中略) 【0029】 このような構造により、地震時には、免震装置30から上の上部階とともに、アプローチR2、風除室R3、エントランスホールR4、エレベータシャフトR5、管理人室R6が、同装置より下の下部階に対して水平方向に揺れる。この際、上下方向においては、アプローチR2、風除室R3、エントランスホールR4、エレベータシャフトR5、管理人室R6の床面は、下部階の土間スラブ8との間に免震スリットSが設けられているため、土間スラブ8と干渉しない。また、水平方向においても、周囲の柱3や壁、擁壁7との間にスキマが設けられているため、これらに干渉しない。そして、風除室R3と玄関R1との間も、前述の免震エキスパンション40により横揺れが吸収される。」 (b)図1は次のものである。 「 」 (c)図2は次のものである。 「 」 段落【0016】〜【0018】の記載も踏まえると、図1及び2からは以下の点が看取される。 「下部階は、地盤に配置された基礎5上の、中間層免震建物1の略長方形の平面形状の四隅と長辺の中間となる位置に柱3を立設して形成される」点。 b 引用発明1 上記aによれば、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。 (引用発明1) 「中間層免震建物1であって、(【0015】) この建物1は、平面形状が略長方形であり、(【0015】) 1階には、エレベータシャフトR5、ゴミ置き場R7、駐車場や駐輪場R9が設けられており、(【0015】) 各柱3の1階の中間部分には、免震装置30が設けられており、この免震装置30から上の構造物(上部階)が免震化されており、免震装置から下の構造物が下部階であり、(【0017】) 1階のエレベータシャフトR5は、上部階に吊り下げ支持されており、(【0017】) 1階の下部階に相当する部分は、駐車場や駐輪場R9、ゴミ置き場R7として設けられた部分を含み、(【0018】) 免震装置30は、鉛プラグ入りの積層ゴム型のものであり、水平方向の力が加わると、同装置30は該方向に変形し、この力が解除されると元の形に戻り、(【0019】) 地震時には、免震装置30から上の上部階とともに、エレベータシャフトR5が、同装置より下の下部階に対して水平方向に揺れ、(【0029】) 下部階は、地盤に配置された基礎5上の、中間層免震建物1の略長方形の平面形状の四隅と長辺の中間となる位置に柱3を立設して形成される、(図1及び2から看取される事項) 中間層免震建物1。」 (イ)引用文献2 a 記載事項 本願の遡及日前に頒布された刊行物である特開2007−327239号公報(以下「引用文献2」という。)には、以下の事項が記載されている。 (a)「【0032】 図1に示すように、建築物1は、1または複数の階からなるピロティ階10を設けている。ピロティ階10の上方には、複数階からなり一般的に梁と柱で構成されるラーメン構造の上層構造物20が設けられ、ピロティ階10の下方には下部構造物30が設けられる。図1ではピロティ階10と上層構造物20の間を切り離して描いている。下部構造物30は、基礎、地下構造物、または下層構造物(地上階のもの)のいずれかである。免震構造という点では、下部構造物30が基礎または地下構造物であることが好適である。上層構造物20、ピロティ階10及び下部構造物30のいずれも複数階を含んでいてもよいが、図1では個々の階層の図示を省略している。 【0033】 なお、上層構造物20の下端に設けられる構造部材21は、例えば、スラブ、梁または柱脚部分などである。下部構造物30の上端に設けられる構造部材31は、例えばスラブ、梁または柱頭(もしくは杭頭)部分などである。 【0034】 本発明の適用対象は、好適には高層及び超高層建築物であるが、低層及び中層建築物にも適用可能であり階数は限定されない。また、上層構造物、ピロティ階及び下部構造物の構造種別は、それぞれ鉄筋コンクリート造、鉄骨鉄筋コンクリート造、鉄骨造、コンクリート充填鋼管造等のいずれも可能である。また、プレキャストコンクリート造として予め工場生産することにより、現場作業を削減して短工期化を図ることもできる。 【0035】 一般的に、上層構造物20は、集合住宅、SOHO、小規模事務所、ホテル、社員寮等の比較的小さい区画を必要とする用途に使用される。一方、ピロティ階10は、商業施設、大規模事務所、介護施設、病院、駐車場等の比較的大きい区画を必要とする用途に使用される。 【0036】 ピロティ階10の平面形状は、図2に示すように四辺からなる正方形または長方形である矩形が構造上望ましいが、構造力学上許容できる限りにおいて他の形状(四辺以外の辺数の多角形、隅部が直角以外の多角形、凹部をもつ多角形等)であってもよい。 【0037】 図1に示すピロティ階10は、隅部(図示の例では矩形平面形状の四隅)に構造壁11がそれぞれ立設されている。構造壁11は、3枚の壁部材を放射状に配置し中心軸で接合した形状であり、図2のX断面図に示すように横断面が三股形となっている。三股形の構造壁11を形成する3枚の壁部材のうちの1枚11aは、矩形平面形状の頂角10aの2等分線に沿って配置され、他の2枚11b、11cはその内方の端縁から二股に分かれるように配置されている。構造壁11の下端は、下部構造物30の上端の構造部材31に剛接合されている。 【0038】 一方、構造壁11の上端は、ピロティ階10の上部梁12の下端に剛接合されている。上部梁12はピロティ階10の外周を囲むようにほぼ各辺に沿って延設されている。図2に示すように、上部梁12は必ずしも各辺に平行な直線状である必要はないが、外周部に沿ってバランスよく、対称的に配置されることが好適である。図示の例では、後述する構造中柱13を矩形平面形状の各辺中央部にそれぞれ1本ずつ配置したため、上部梁12は、構造中柱13との間に一定距離を確保するよう中央部12aを内側に折り曲げた形状とされている。 【0039】 さらに、ピロティ階10の隅部において、上部梁12の上端面と上層構造物20の下端面との間には免震手段17がそれぞれ設けられている。つまり、免震手段17は、上部梁12において構造壁11が剛接合された下端面の反対側に当たる上端面に設置される。よって、上層構造物20からの長期鉛直荷重が、免震手段17及び上部梁12を介して構造壁11に伝達され、さらに構造壁11から下部構造物30へ伝達される。 【0040】 免震手段17は、少なくとも水平剛性の低い絶縁装置(アイソレータ)の機能を具備する。低層建築物の場合はこれにより長周期化することで中小規模地震の地震動周期を回避することが可能となる。このような機能をもつ免震手段としては積層ゴムやローラー形免震装置があるが、同様の機能をもつものであればいずれも使用できる。さらに、免震手段17は、アイソレータ機能に加えてダンパー機能を具備してもよい。これにより地震動エネルギー吸収効果も得られる。このような免震手段として、例えば鋼棒ダンパーや鉛ダンパーなどがある。好適例は、鉛ダンパーをプラグとして積層ゴム内に封入した一体型のものであるが、同様の機能をもつものであればいずれも使用できる。」 (b)図1は次のものである。 「 」 b 引用発明2 上記aによれば、引用文献2には、次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。 (引用発明2) 「ピロティ階10を設けており、(【0032】) ピロティ階10の上方には、上層構造物20が設けられ、ピロティ階10の下方には下部構造物30が設けられ、(【0032】) 下部構造物30は、基礎、地下構造物、または下層構造物(地上階のもの)のいずれかであり、(【0032】) ピロティ階10は、駐車場に使用され、(【0035】) ピロティ階10の隅部において、上部梁12の上端面と上層構造物20の下端面との間には免震手段17がそれぞれ設けられており、(【0039】) 免震手段17は、少なくとも水平剛性の低い絶縁装置(アイソレータ)の機能を具備し、このような機能をもつ免震手段としては積層ゴムやローラー形免震装置があるが、同様の機能をもつものであればいずれも使用できる、(【0040】) 建築物1。(【0032】)」 (ウ)対比 本願補正発明と引用発明1とを対比する。 a 引用発明1の「中間層免震建物1」は、本願補正発明の「免震建築物」に相当する。 b 本願補正発明の「ピロティ」に関し、本願の明細書に明示的な定義はないが、建築大辞典第2版(彰国社)(以下「建築大辞典」という。)によれば「ピロティ」について「[仏]pilotis 1.フランス語で建物を支える杭。2.建物を支持する独立柱が並ぶ吹放ちの空間。地上階を自動車や外部歩行者の動線に解放するためにル コルビュジエによって提唱されたもの。パリのスイス学生会館などがその例。」とあり、本願の明細書の「ピロティ建築物は1階に複数の柱3を設けて高層ビル2を支える。」(段落【0003】)との記載からみて、本願補正発明における「ピロティ」は、上記建築大辞典の定義の「2.」に示される「ピロティ」を意味するものと認められる。 よって、引用発明1における「免震装置から下の構造物」である「下部階」は、「地盤に配置された基礎5上の、中間層免震建物1の略長方形の平面形状の四隅と長辺の中間となる位置に柱3を立設して形成され」、「駐車場や駐輪場R9」等として利用されるものであるから、柱3を立設して形成されるという構造、及び駐車場R9等として利用されるという使用態様のいずれの面からも、本願補正発明における「ピロティを有する下部構造」に相当するといえる。 また、引用発明1において、前述のような「下部階」を備える「中間層免震建物1」は、本願補正発明における「ピロティ免震建築物」に相当する。 c 引用発明1において、「免震装置30から上の構造物」である「上部階」は、本願補正発明における「上部構造」に相当し、引用発明1において「上部階」が、「免震装置から下の構造物」である「下部階」に対して「免震装置30」により「免震化」されていることは、本願補正発明において「下部構造と上部構造に分離され」ていること、及び「前記下部構造は、上部構造と分離独立され」ていることに相当する。 d 引用発明1において、「上部階」と「下部階」の間に「免震装置30が設けられ」ていることは、本願補正発明において「前記分離部に」「免震構造を有する」こと、及び「前記分離独立した構造間であってピロティと上部構造体の間が、」「免震構造を有する」ことに相当する。 e 引用発明1において、「免震装置30」は「積層ゴム型のもの」であって、「水平方向の力が加わると」、「同方向に変形」するものであり、これにより上部構造が「水平方向に滑らかに移動」することは、建築物免震の技術分野における技術常識であるから、当該「免震装置30」は「水平方向に滑らかに移動」するものであるといえる。 そうすると、引用発明1の「免震装置30」は、本願補正発明の「水平方向に滑らかに移動し得る免震構造」に相当するものである。 f 引用発明1において、「1階のエレベータシャフトR5は、上部階に吊り下げ支持されており」、「地震時には、免震装置30から上の上部階とともに、エレベータシャフトR5が、同装置より下の下部階に対して水平方向に揺れ」る構成は、「エレベータシャフトR5」は、上部階の高さに位置する部分、及び上部階から吊り下げ支持された1階の部分のいずれもが、地震時には「上部階とともに」、「下部階」に対して、及び、該「下部階」を「柱3を立設」して「基礎5上」に形成した「地盤」に対して、「水平方向に揺れる」こととなることは明らかである。 よって、引用発明1における当該構成は、本願補正発明における「前記上部構造と一体でかつ前記下部構造及び地面と分離したエレベータシャフト」であって、「前記エレベータシャフトが前記下部構造及び地面に対して水平方向に移動可能であ」る構成に相当する。 g 上記aないしfから、本願補正発明と引用発明1とは、以下の一致点、相違点を有する。 (一致点) ピロティを有する下部構造と上部構造に分離され、前記分離部に水平方向に滑らかに移動し得る免震構造を有するピロティ免震建築物であって、前記上部構造と一体でかつ前記下部構造及び地面と分離したエレベータシャフトを有し、前記エレベータシャフトが前記下部構造及び地面に対して水平方向に移動可能であり、前記下部構造は、上部構造と分離独立され、前記分離独立した構造間であってピロティと上部構造体の間が、水平方向に滑らかに移動し得る免震構造を有する事を特徴とする免震建築物。 (相違点) 本願補正発明は、免震構造が「回転移動する」のに対し、引用発明1はそのように特定されていない点。 (エ)判断 上記相違点について検討する。 a 引用発明2の「ピロティ階10」、「上層構造物20」、「免震手段17」はそれぞれ、本願補正発明の「ピロティを有する下部構造」、「上部構造」、「免震構造」に相当する。また、引用発明2の「建築物1」は、「ピロティ階10」が設けられ、「ピロティ階10」に「免震手段17」が設けられたものであるから、当該「建築物1」は、本願補正発明における「ピロティ免震建築物」に相当する。 b 引用発明2において、「ピロティ階10の隅部において、上部梁12の上端面と上層構造物20の下端面との間には免震手段17がそれぞれ設けられており、免震手段17は、少なくとも水平剛性の低い絶縁装置(アイソレータ)の機能を具備」することは、本願補正発明において「下部構造と上部構造に分離され」ていること、及び「前記下部構造は、上部構造と分離独立され」ていることに相当する。 c 引用発明2において、「ピロティ階10の隅部において、上部梁12の上端面と上層構造物20の下端面との間には免震手段17がそれぞれ設けられて」いることは、本願補正発明において「前記分離部に」「免震構造を有する」こと、及び「前記分離独立した構造間であってピロティと上部構造体の間が、」「免震構造を有する」ことに相当する。 d 引用発明2において、「免震手段17は、少なくとも水平剛性の低い絶縁装置(アイソレータ)の機能を具備」するものであるから、当該「免震手段17」は「水平方向に滑らかに移動」するものであるといえる。 そうすると、引用発明2の「免震手段17」は、本願補正発明の「水平方向に滑らかに移動し得る免震構造」に相当するものである。 そして、「免震手段17」として「ローラー形免震装置」を「使用」した場合、「ローラー形免震装置」のローラーが水平方向に回転移動することは技術常識であるから(必要であれば、特開2003−253907号公報、特開2007−2855号公報を参照されたい。)、当該「ローラー形免震装置」を「使用」した「免震手段17」は、本願補正発明の「水平方向に滑らかに移動し得る、回転移動する免震構造」に相当する。 e そうすると、引用発明2の建築物1は、相違点に係る本願補正発明の「回転移動する」免震構造に相当する構成を備えるものであるといえる。 f 引用発明1と引用発明2とは、免震建築物という共通の技術分野に属しており、さらに両発明は、ピロティを有する下部構造と上部構造との間の分離部に水平方向に滑らかに移動し得る免震構造を有する点で共通するものである。 引用発明1において、免震装置は積層ゴムであるが、引用発明2においては、免震手段として積層ゴムやローラー形免震装置が示されており、いずれも使用可能であるとされている。 そうすると、引用発明1においても積層ゴムに代えて、引用発明2に示されるローラー形免震装置を免震装置として使用することとし、相違点に係る本願補正発明の「回転移動する」免震構造とすることは、当業者であれば容易に想到することである。 g よって、相違点に係る本願補正発明の構成は、引用発明1及び引用発明2に基いて当業者が容易に想到し得たことである。 (オ)審判請求人の主張について a 審判請求人の主張の概要 審判請求人は、令和4年4月25日付けの意見書にて、引用文献1は、単に柱の上にゴム積層体の免震構造を設けたのみであり、ピロティの柱が横方向の力に弱い事および、それを緩和することの開示も示唆もなく、さらに回転移動する免震構造を設けることについて開示が無い旨、主張する。 b 主張の検討 上記主張について検討する。 (a)引用発明1は、「免震装置30から上の構造物(上部階)」と「免震装置30から下の構造物」である「下部階」との間である「各柱3の1階の中間部分」に「免震装置30」を設けたものである。そして、「下部階」は、上記(ウ)bに記載したとおり「ピロティ」を有するものといえ、「柱3」の「下部階」に含まれる部分は「下部階」を支持する柱として「ピロティ」を構成する要素となるものである。 そうすると、引用発明1も、「ピロティ」を構成する「柱」と「上部階」との間に「免震装置」を設けたものであり、「ピロティと上部構造体の間」に「免震構造」を有するという点において、本願補正発明との間に差異は無い。 (b)また、「回転移動する免震構造」については引用発明2に開示されており、判断については上記(エ)のとおりである。 よって、審判請求人の上記主張は採用できない。 (カ)独立特許要件についてのまとめ 以上のとおりであるから、本願補正発明は、引用発明1及び引用発明2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 したがって、本願補正発明は、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 3 補正の却下の決定のむすび 本件補正は、上記2(1)のとおり、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 仮に本件補正が特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるとしても、本願補正発明は、上記2(2)のとおり、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。 第3 本願発明について 本件補正は上記第2のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、令和3年5月7日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 ピロティを有する下部構造と上部構造に分離され、前記分離部に水平方向に滑らかに移動し得る免震構造を有するピロティ免震建築物であって、前記上部構造と一体でかつ前記下部構造及び地面と分離したエレベータシャフトを有し、前記エレベータシャフトが前記下部構造及び地面に対して水平方向に移動可能であり、前記下部構造は、上部構造と分離独立され、前記分離独立した構造間に、水平方向に滑らかに移動し得る免震構造を有する免震建築物。」 第4 当審拒絶理由の概要 当審より令和4年2月14日付けで通知した最後の拒絶の理由は、概略、次のとおりである。 理由1.(新規性)この出願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 理由2.(進歩性)この出願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された引用文献1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 第5 当審の判断 1 本願発明 本願発明は、上記第3に記載されたとおりである。 2 引用文献一覧 当審が通知した令和4年2月14日付けの最後の拒絶理由において、新規性及び進歩性について引用した引用文献1は次のものである。 引用文献1 特許第3962758号公報 3 引用文献の記載 (1)引用文献1 引用文献1の記載事項及びそれらに記載された発明は、上記第2の2(2)イ(ア)に記載したとおりである。 4 対比・判断 (1)本願発明と本願補正発明の関係 本願発明は、本願補正発明のうち、次のア〜ウの点の限定を省いたものである。 ア 「分離独立した構造間」が、「ピロティと上部構造体の間」である点。 イ 「免震構造」が「回転移動する」点。 ウ 「事を特徴とする」。 上記ア〜ウの限定の削除により、上記第2の2(2)イ(ウ)の(相違点)に係る構成が省かれることになるから、本願発明と引用発明1との間に相違点はない。 5 小括 以上のとおり、本願発明は、引用発明1である。また、本願発明は、引用発明1に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 第6 むすび 上記のとおり、本願発明は、引用発明1であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、同法第29条第1項の規定により特許を受けることができない。 また、本願発明は、引用発明1に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、本願は拒絶されるべきものである。 したがって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
(行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。 |
審理終結日 | 2022-07-29 |
結審通知日 | 2022-08-09 |
審決日 | 2022-08-22 |
出願番号 | P2019-043212 |
審決分類 |
P
1
8・
113-
WZ
(E04H)
P 1 8・ 575- WZ (E04H) P 1 8・ 121- WZ (E04H) P 1 8・ 561- WZ (E04H) |
最終処分 | 02 不成立 |
特許庁審判長 |
居島 一仁 |
特許庁審判官 |
土屋 真理子 奈良田 新一 |
発明の名称 | 免震ピロティ等建築物 |