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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G03F
管理番号 1390162
総通号数 11 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-11-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-06-22 
確定日 2022-10-06 
事件の表示 特願2017−197004号「ペリクル、ペリクル付フォトマスク、露光方法、半導体の製造方法及び液晶ディスプレイの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔令和元年5月9日出願公開、特開2019−70745号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成29年10月10日の出願であって、以降の手続は次のとおりである。
令和2年11月19日付け:拒絶理由通知書
令和3年 3月11日 :意見書、手続補正書の提出
令和3年 3月18日付け:拒絶査定
令和3年 6月22日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和4年 3月14日付け:拒絶理由通知書(以下、同書で通知された拒絶理由を「当審拒絶理由」という。)
令和4年 5月13日 :意見書、手続補正書(以下、この手続補正書による補正を「本件補正」という。)の提出

2 本願発明
本願の請求項1ないし10に係る発明は、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載されたとおりのものであるところ、そのうち請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は次のとおりのものである。
「ペリクルフレームの厚みが2.5mm未満、幅が3〜4mmであると共に、チタン又はチタン合金を材料とし、EUV露光用であるペリクルフレームと、シリコン膜又は炭素膜であるペリクル膜とを構成要素として含み、EUV露光用であることを特徴とするペリクル。」

3 当審拒絶理由
当審拒絶理由は、次の内容を含むものである。
進歩性)本件補正前の請求項1〜14に係る発明は、本願の出願前に頒布された刊行物である又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明、引用文献2及び3に記載された技術的事項並びに引用文献4に記載された技術的事項に基づいて、または、引用文献1に記載された発明、引用文献2及び3に記載された技術的事項並びに周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

〔引用文献〕
1.特開2016−200616号公報
2.特開2016−191902号公報
3.特開2017−78728号公報
4.特開2002−40629号公報(周知例でもあり、その場合「周知文献1」という。)

4 引用文献の記載事項の認定
(1)引用文献1(特開2016−200616号公報)について
ア 当審の拒絶理由通知において引用された引用文献1には、次の記載がある(下線は当審にて付した。以下同じ。)。
(ア)「【請求項2】
線膨張係数が10×10−6(1/K)以下の金属からなることを特徴とするペリクル用フレーム。
・・・
【請求項9】
ペリクル用フレームとして、請求項1〜8のいずれか1項に記載のペリクル用フレームを用いたことを特徴とするペリクル。
【請求項10】
EUVリソグラフィー用である請求項1〜8のいずれか1項に記載のペリクル用フレーム。
【請求項11】
EUVリソグラフィー用である請求項9に記載のペリクル。」(特許請求の範囲)

(イ)「【技術分野】
【0001】
本発明は、LSI、超LSIなどの半導体デバイス、プリント基板、液晶ディスプレイ等を製造する際のゴミ除けとして使用されるリソグラフィー用ペリクルに関し、さらに詳細には、極めて短波長の光を用いてリソグラフィーを行い、微細なパターンを形成するのに適した低線膨張係数のペリクル用フレーム及びそれを用いたペリクルに関する。
【背景技術】
【0002】
LSI、超LSI等の半導体デバイスや液晶ディスプレイ等を製造する際、半導体ウェハー或いは液晶用原板に光を照射してパターンを作製するが、このときに用いるフォトマスク或いはレチクル(以下、これらを単に「フォトマスク」と記述する。)にゴミが付着していると、パターンのエッジががさついたものとなるほか、下地が黒く汚れたりするなど、得られる製品の寸法、品質、外観等が損なわれるという問題があった。」

(ウ)「【0017】
本発明者は、EUV露光技術を使用して、フォトレジスト膜に10nm以下の微細パターンを形成する場合において、ペリクル膜にシワが入ったり、ペリクル用フレームからペリクル膜が剥がれたり、破れたり、割れたり、また、フォトマスク上のパターンを歪ませてしまうという事態に対して、前述したように弾性接着剤で対処するのではなく、ペリクル用フレームにより対処するという新たな課題に取り組み、かかる課題を解決するために鋭意検討を行った結果、EUV露光技術を使用して、フォトレジスト膜に10nm以下の微細なパターンを形成する場合には、その露光時の光エネルギーにより温度上昇が認められるため、従来のように剛性と加工性のみを考慮してペリクル用フレームの材質を選択することは適切でないこと、そしてさらには、物理的特性の1つである線膨張係数に着目して、ペリクル用フレームを構成する材料の線膨張係数を特定の範囲に設定したところ、露光時の光エネルギーによる温度上昇によって生じうるペリクル用フレームの伸縮、歪みを小さく抑えることができ、その結果、上記課題を見事に解決できることを見い出して、本発明を完成するに至った。・・・
【0021】
また、本発明のペリクル用フレームは、線膨張係数が10×10-6(1/K)以下のセラミックスからなることを特徴とするものである。
【0022】
さらに、本発明のペリクルは、ペリクル用フレームとして、本発明のペリクル用フレームを用いたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、フォトレジスト膜に微細パターンを形成する場合、特にEUV露光技術を使用して、フォトレジスト膜に10nm以下の微細パターンを形成する場合において、露光による光エネルギーによってペリクル用フレームの温度が上昇しても、ペリクル用フレームの伸縮、歪みを小さく抑えることができるため、ペリクル膜にシワが入ったり、ペリクル用フレームからペリクル膜が剥がれたり、破れたり、割れたり、また、フォトマスク上のパターンを歪ませてしまう事態を有効に防止することができる。」

(エ)「【0027】
ペリクル膜の種類については特に制限はなく、例えば、従来エキシマレーザー用に使用されている、非晶質フッ素ポリマー等が用いられる。非晶質フッ素ポリマーの例としては、サイトップ[旭硝子株式会社製:商品名]、テフロン(登録商標)AF[デュポン株式会社製:商品名]等が挙げられる。これらのポリマーは、そのペリクル膜作製時に必要に応じて溶媒に溶解して使用してもよく、例えば、フッ素系溶媒などで適宜溶解することができる。
【0028】
一方、EUV露光用の場合には、ペリクル膜には、単結晶シリコン、多結晶シリコン、非晶質シリコンなど、EUV光に対する透過性の高い材料を用いることが好ましい。さらには、前記ペリクル膜を保護する目的で、SiC、SiO2、Si3N4、SiON、Y2O3、YN、Mo、Ru及びRhなどの保護膜を備えてもよい。
【0029】
本発明のペリクル用フレームは、EUV露光による温度上昇の結果生じるペリクル用フレームの伸縮、歪みを小さくするため、該ペリクル用フレームが使用される温度域において、線膨張係数が10×10−6(1/K)以下の材質からなるものである。
【0030】
前記ペリクル用フレームの材質は、その線膨張係数が10×10−6(1/K)以下である限りにおいて特に限定はされず、金属、ガラス、セラミックス等が挙げられる。具体的には、例えば、Fe−Ni合金、Fe−Ni−Co合金、Fe−Ni−Co−Cr合金、Fe−Co−Cr合金等の金属、石英ガラス、ホウケイ酸ガラス、ソーダ石灰ガラス、アルミノホウケイ酸ガラス、アルミノケイ酸塩ガラス、結晶化ガラス等のガラス、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム等のセラミックスが例示される。これらは1種又は2種以上からなるものでもよい。」

(オ)「【0043】[比較例2]前記インバー製のペリクル用フレームの代わりに、ステンレス鋼材(SUS304、線膨張係数:17×10−6(1/K))製のペリクル用フレームを使用した以外は、実施例1と同様の方法でペリクルを作製した。」

イ 上記アによれば、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる(引用発明等の認定に用いた根拠箇所を参考までに括弧内に示した。以下同じ。)。
「線膨張係数が10×10−6(1/K)以下の金属からなるEUVリソグラフィー用のペリクル用フレームを用いたEUVリソグラフィー用であるペリクルであって、(請求項2・請求項9・請求項10・請求項11)
ペリクル膜には、単結晶シリコン、多結晶シリコン、非晶質シリコンを用いる、(【0028】)
EUVリソグラフィー用であるペリクル。(請求項11)」

(2)引用文献2(特開2016−191902号公報)について
ア 当審の拒絶理由通知において引用された引用文献2には、以下の記載がある。
(ア)「【0001】
本発明は、半導体デバイス、ICパッケージ、プリント基板、液晶ディスプレイまたは有機ELディスプレイ等を製造する際のゴミよけとして使用されるペリクルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、LSIのデザインルールはサブクオーターミクロンへと微細化が進んでおり、それに伴って、露光光源の短波長化が進んでいる。すなわち、露光光源は水銀ランプによるg線(436nm)、i線(365nm)から、KrFエキシマレーザー(248nm)、ArFエキシマレーザー(193nm)などに移行しており、さらには主波長13.5nmのEUV(Extreme Ultra Violet)光を使用するEUV露光が検討されている。・・・
【0005】
このペリクルの基本的な構成は、ペリクルフレームの上端面に露光に使われる光に対し透過率が高いペリクル膜が張設されるとともに、下端面に気密用ガスケットが形成されているものである。気密用ガスケットは一般的に粘着剤層が用いられる。ペリクル膜は、露光に用いる光(水銀ランプによるg線(436nm)、i線(365nm)、KrFエキシマレーザー(248nm)、ArFエキシマレーザー(193nm)等)を良く透過させるニトロセルロース、酢酸セルロース、フッ素系ポリマーなどからなるが、EUV露光用では、ペリクル膜として極薄シリコンが検討されている。」

(イ)「【0007】
このペリクル閉空間は、密閉空間になるために外部の圧力が変化すると、ペリクル内外の圧力差によってペリクル膜に圧力がかかり、フッ素ポリマー等の樹脂膜の場合は、ペリクル膜の膨らみ、凹みが発生することになる。また、EUV露光においては、露光環境が真空のために露光装置へのマスクの出入り時に真空引きが行われるため、極薄シリコン膜の場合は、少しの圧力差による応力によってシリコン膜が破壊する可能性が高くなる。
【0008】
そこで、このような密閉空間の内外の圧力差を緩和するために、ペリクルフレームには内外をつなぐ通気孔を設けることが一般的であり、この通気孔を通して空気が通るようになっている。例えば、特許文献1には、ペリクルフレームの側部に気圧調整用の通気孔を設けると共に、このペリクルフレームの外側面にこの通気孔を覆ってパーティクルの侵入を防止するフィルタを設けたペリクルが記載されている。
【0009】
このように、従来のペリクルでは、気圧調整用の通気孔やこの通気孔からパーティクルの侵入を防止するためのフィルタが備えられている。そして、このペリクルの通気孔の開口部は、ペリクルフレームのペリクル膜接着面または粘着剤層設置面に対して垂直な二面に設けられているとともに、フィルタは、ペリクルフレーム外側面の開口部を塞ぐように設置されている。また、空気がフィルタを通る際には、通気速度(通気量)が小さくなるため、特にEUV露光のときのように真空引きを行う場合やペリクル閉空間の内外の僅かな圧力差が問題になるような場合は、少なくともフィルタが設置される側の通気孔開口部の面積を大きくして、フィルタの有効面積を十分に大きくする必要がある。・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、近年では、ペリクルの高さを低くする傾向があり、それに応じてペリクルフレームの外側面の高さも低くなるために、通気孔開口部や更にはフィルタの有効面積を小さくせざるを得ないという問題が生じている。特に、EUV用ペリクルは、その高さを非常に低くすることが要求されているため、従来のようなペリクルフレームの外側面にフィルタを設置する方法では、フィルタの有効面積も非常に小さくせざるを得ないという問題が生じている。・・・
【0013】
一方、EUV用ペリクルでは、大気圧下でマスクに装着され、露光装置内では真空下で使用されるために、EUV用ペリクルを露光装置に入れる際にはペリクル閉空間内の空気を排出する必要がある。そして、このときに、フィルタの有効面積が十分に大きくないと、ペリクル閉空間の内外に圧力差が発生して、ペリクル膜が破壊する等の問題が生じる恐れがある。したがって、EUV用ペリクルには十分に大きな通気孔開口部を設けたうえでフィルタを設置する必要があるが、前述したように、EUV用ペリクルの高さが非常に低く制限されているために、従来のようなペリクルフレームの外側面にフィルタを設置する方法では、必要な大きさの通気孔開口部を設けてそこにフィルタを設置することが困難な状況となっている。
【0014】
そこで、本発明は、上記の事情に鑑みなされたものであり、その目的は、ペリクルの高さが低く制限されていても、必要な大きさの通気孔開口部および有効面積の大きなフィルタを設けることが可能であり、ペリクル閉空間の内外の圧力差を十分に緩和することが可能なペリクルを提供することである。」

(ウ)「【0039】
本発明のペリクルフレーム21の母材としては、ペリクルフレームとしての強度と剛性が確保される限り特に制限はなく、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金(JIS 5000系,6000系,7000系等)、鉄、鉄系合金、セラミックス(SiC,AlN,Al2O3等)、セラミックス金属複合材料(Al−SiC,Al−AlN,Al−Al2O3等)、炭素鋼、工具鋼、ステンレス鋼、エンジニアリングプラスチック(PE,PA,PEEK等)、炭素繊維複合材料(GFRP,CFRP等)等が挙げられる。中でもアルミニウム及びアルミニウム合金が強度、剛性、軽量、コストの面から好ましい。」

(エ)「【0042】
なお、EUV用ペリクルの場合、ペリクルフレームとしてエキシマレーザー用ペリクルと同様の材料を使用することができる。また、ペリクル膜としては多孔部を有する支持部材と、この多孔部により支持された単結晶シリコンのペリクル膜が使用可能である。単結晶シリコンのペリクル膜をペリクルフレームに張設する際には、シリコーン樹脂接着剤を使用することができるが、特に発ガスを抑制したシリコーン樹脂が好適である。一方、ペリクルを露光原版に装着するための粘着層にもシリコーン系粘着剤が使用可能であり、この場合でも発ガスを抑制したシリコーン樹脂が好適である。」

(オ)「【0044】
EUV露光を行う際には、ペリクルを装着したマスク基板または露光原版を露光装置に入れて、露光装置内を真空引きする必要があり、また、露光原版等を露光装置から取り出す際には、逆に装置内を真空状態から大気圧に戻さなければならない。このとき、ペリクルと露光原版等に囲まれたペリクル閉空間内にも空気を流出入させて、ペリクル閉空間の内外の気圧差が生じないようにする必要があるため、EUV用ペリクルでは従来のエキシマレーザー用ペリクルに比べて、高い通気性を確保しなければならない。したがって、通気孔25のフィルタ22が設置される側の開口部を大きくして、フィルタ22の有効面積を十分に大きくする必要がある。
【0045】
以下、本発明を実施例および比較例を示して具体的に説明する。なお、実施例および比較例における『マスク基板』は、『露光原版』の例として用いたものであり、本発明は、露光原版全般に対して適用することが可能である。・・・
【0052】
<実施例3>
実施例3では、実施例1と比べて、その高さが低い外寸149.4mm×116.6mm×1.7mm、内寸145.4mm×112.6mm×1.7mmのアルミ合金製ペリクルフレーム21を準備した。そして、実施例1と同様に、ペリクルフレーム21の四隅に通気孔25の開口部を設けるため、厚さ1.7mmの張り出し部29をペリクルフレーム21の辺内側に形成した。これらの張り出し部29には、直径10mmの開口部27をペリクル上部に向けて設け、さらに、ペリクルフレーム21の外側面に直径1mmの開口部28を設けることによって通気孔25とした。・・・
【0054】
また、ペリクルフレーム21の上端面にはシリコーンポッティング剤(信越化学工業(株)製)を塗布し、ペリクル膜として多孔部により支持された単結晶シリコンのペリクル膜20を貼り付けるとともに、ペリクルフレーム21よりも外側の部分を除去して、実施例3のペリクルを作製した。・・・
【0060】
<実施例5>
実施例5は、張り出し部29をペリクルフレームの内側全周にかけて沿うように設けた場合である。実施例5では、外寸151mm×118.5mm×1.5mm、内寸143mm×110.5mm×1.5mmのスーパーインバー製ペリクルフレーム21を準備した。ここでは、図16及び図17に示すように、ペリクルフレーム21の内側の部分が張り出し部29に相当し、ここに通気孔25の開口部を設ける。すなわち、ペリクルフレーム21には長さ10.2mm、幅2.7mmの開口部をペリクル上部に向けて16個設けるとともに、さらに、ペリクルフレーム21の外側面に各開口部に対して2個ずつ直径0.8mmの開口部を設けることによって通気孔25とした。・・・
【0062】
また、ペリクルフレーム21の上端面にはシリコーンポッティング剤(信越化学工業(株)製、KE?101)を塗布し、ペリクル膜20としてポリシリコン薄膜を貼り付けて、実施例5のペリクルを作製した。」

イ 上記アによれば、引用文献2には、次の事項(以下「引用文献2に記載された技術的事項1」及び「引用文献2に記載された技術的事項2」とそれぞれいう。)
が記載されているものと認められる。
(ア)引用文献2に記載された技術的事項1
「ペリクルフレームの母材としては、ペリクルフレームとしての強度と剛性が確保される限り特に制限はなく、(【0039】)
EUV用ペリクルの場合、ペリクルフレームとしてエキシマレーザー用ペリクルと同様の材料を使用することができる(【0042】)」という技術的事項。

(イ)引用文献2に記載された技術的事項2
引用文献2には、ペリクルに関する技術的事項が開示されている(【0001】)ところ、【0002】・【0005】・【0007】〜【0009】・【0011】・【0013】の記載によれば、EUV用ペリクルが念頭に置かれていることが明らかであり、また、実施例3及び5のペリクルは、EUV用ペリクルのペリクル膜として使用されるシリコン(【0008】・【0042】のほか、引用文献1の【0011】・【0043】を参照。)のペリクル膜が使用されている(【0054】・【0062】)ことも踏まえれば、当該各実施例のペリクルは、EUV用ペリクルであると認められる。
したがって、引用文献2には次の技術的事項も記載されていると認められる。
「EUV用ペリクルは、その高さを非常に低くすることが要求されていて、(【0011】)
EUV用ペリクルのペリクルフレームのサイズとして、例えば、外寸149.4mm×116.6mm×1.7mm、内寸145.4mm×112.6mm×1.7mm、あるいは、外寸151mm×118.5mm×1.5mm、内寸143mm×110.5mm×1.5mm(【0052】・【0060】)
のものがあること。」

(3)引用文献3(特開2017−78728号公報)について
ア 当審の拒絶理由通知において引用された引用文献3には、以下の記載がある。
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体デバイス、プリント基板、液晶ディスプレイ等を製造する際のゴミ除けとして使用されるペリクル、特には、EUV(Extreme Ultra-Violet)光を用いてリソグラフィーを行う際に用いるEUV用ペリクルに関するものである。」

(イ)「【0041】
[実施例1]
はじめに、外寸782×474mm、内寸768×456mm、高さ5.0mmであり、上端面及び下端面の各々の外内両辺縁部がR加工され、これら両端面側の各々の平坦面が、幅4.0mm、コーナー部の内寸R2.0mm、外寸R6.0mmである長方形のアルミニウム合金製ペリクルフレームを機械加工により製作し、表面に黒色アルマイト処理を施した。」

イ 上記アによれば、引用文献3には、次の事項(以下「引用文献3に記載された技術的事項」という。)が記載されているものと認められる。
「EUV用ペリクルのペリクルフレームにおいて幅が4mmのものがあること(【0001】・【0041】)。」

(4)引用文献4(周知文献1、特開2002−40629号公報)について
ア 当審の拒絶理由通知で引用された引用文献4には、以下の記載がある。
(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、LSI、超LSIなどの半導体素子あるいは液晶表示装置などの製造に用いられ、とりわけ実質的に波長220nm以下の光を用いる露光法に好適なペリクルのペリクル板とペリクルフレームとの接着方法に関する。
【0002】
【従来の技術】LSIや超LSIなどの半導体素子あるいは液晶表示装置の製造においては、パターニングの際に露光原版のパターン形成面にゴミが付着するのを防止するために、ペリクルを露光原版上に載置して露光作業を行うのが一般的である。また、これらの素子や装置の製造に用いられる露光光は、微細化の要求に対して波長は益々短くなってきており、今日ではF2レーザーなど波長220nm以下の露光光を使用する技術が考案されている。
【0003】図7に示すように、ペリクル1は、露光光を透過する材料からなるペリクル膜2をペリクルフレーム3に接着して構成されるのが一般的であるが、従来ではこのペリクル膜2として、厚さ1μm以下の合成樹脂製の薄膜が使用されている。しかし、従来のペリクル膜2では、上記したような短波長の光が照射されると合成樹脂が容易に分解して実用に耐えられないため、上記したような短波長の露光光を用いる露光系では、合成石英ガラスを薄い平板に加工したペリクル板を使用することが検討されている。尚、この合成石英ガラスは、例えば珪素源と酸素源とを気相で反応させてスートと呼ばれる酸化珪素からなる多孔質を成長させ、焼結して得られる実質的に酸化珪素のみからなるガラスである。」

(イ)「【0013】また、ペリクルフレームは、上記の合成石英ガラスよりも熱膨張係数の大きな材料から形成されたものであれば、特に制限されるものではない。即ち、合成石英ガラスの線膨張係数は、室温(20℃)で約5.7×10-7(℃-1)であり、この値よりも大きな熱膨張係数を有する材料を所定形状に加工したペリクルフレームを用いる。具体的な材料として、従来よりペリクルフレームとして広く使用されているアルミニウム、チタン、シリコン、ニッケル合金(例えば、登録商標「インバール」;Ni36%、Fe64%)を始めとする各種金属の他、例えばSiO2(46%)/MgO(17%)/Al2O3(16%)を主成分とするセラミックス(例えば、コーニング・インコーポレーテッド製「マコール」;線膨張係数90×10-7(℃-1)(20〜300℃での平均値))、SiO2(65%)/CaO(25%)/Al2O3(10%)からなるセラミックス(例えば、旭硝子(株)製「ローテックPタイプ」;同58×10-7(℃-1)などを好適に使用することができる。」

(ウ)引用文献4には、「とりわけ実質的に波長220nm以下の光を用いる露光法に好適なペリクル」に関する技術的事項が開示されている(【0001】)ところ、「波長220nm以下の光」として具体的に想定されている「F2レーザー」(【0002】)はエキシマレーザーであるから、引用文献4に記載された技術的事項は、エキシマレーザーを用いるペリクルに妥当するものであると認められる。

イ 上記アによれば、引用文献4には、次の事項(以下「引用文献4に記載された技術的事項」という。)が記載されているものと認められる。
「エキシマレーザーを用いるペリクルにおいて、(上記ア(ウ))
従来よりペリクルフレームの材料としてチタンが広く使用されていること。(【0013】)」

5 対比・判断
(1)本願発明と引用発明との対比
引用発明の「EUVリソグラフィー用のペリクル用フレーム」は、本願発明の「EUV露光用であるペリクルフレーム」に相当する。
引用発明の「EUVリソグラフィー用のペリクル用フレーム」は「線膨張係数が10×10−6(1/K)以下の金属」からなる一方、本願発明の「EUV露光用であるペリクルフレーム」は「チタン又はチタン合金を材料と」するものであるから、本願発明と引用発明とは、所定の物質を材料とする点で一致する。
引用発明は、「ペリクル膜には、単結晶シリコン、多結晶シリコン、非晶質シリコンを用いる」ものであるところ、当該「ペリクル膜」は、本願発明の「ペリクル膜」に相当するとともに、本願発明でいう「シリコン膜」「である」との特定事項を満たすといえる。
引用発明の「EUVリソグラフィー用であるペリクル」は、本願発明の「EUV露光用である」「ペリクル」に相当する。

(2)一致点及び相違点の認定
上記(1)によれば、本願発明と引用発明とは、「所定の物質を材料とし、EUV露光用であるペリクルフレームと、シリコン膜であるペリクル膜とを構成要素として含み、EUV露光用であるペリクル。」である点で一致し、次の点で相違する。

〈相違点1〉「EUV露光用であるペリクルフレーム」が、本願発明は、「厚みが2.5mm未満、幅が3〜4mmである」のに対して、引用発明は、そうであるか不明である点。

〈相違点2〉「EUV露光用であるペリクルフレーム」の「材料」が、本願発明は、「チタン又はチタン合金」であるのに対して、引用発明は、「線膨張係数が10×10−6(1/K)以下の金属」である点。

(3)判断
ア 相違点1について
ペリクルフレームのサイズは、ペリクルを使用する露光装置に合わせて適宜設計されるべきものである。そして、引用文献2に記載された技術的事項2によれば、EUV用ペリクルは、その高さを非常に低くすることが要求されていること、また、高さが、例えば、1.7mm又は1.5mmであるペリクルフレームが公知である。さらに、EUV用ペリクルフレームの幅として、例えば、4mmのものが公知である(引用文献2に記載された技術的事項2において、(外寸151mm−内寸143mm)/2=4mm、(外寸118.5mm−内寸110.5mm)/2=4mm)であること、及び、引用文献3に記載された技術的事項を参照。)。
したがって、「EUVリソグラフィー用であるペリクル」に係る引用発明において、「EUVリソグラフィー用のペリクル用フレーム」のサイズを相違点1に係る構成を満たすようなサイズとすることは、当業者が適宜設計し得たことにすぎない。

イ 相違点2について
引用発明が備える「EUVリソグラフィー用のペリクル用フレーム」は、「線膨張係数が10×10−6(1/K)以下の金属」から構成されるものである。そして、引用文献1の【0030】には、このような「線膨張係数」を満たす「金属」として、「Fe−Ni合金、Fe−Ni−Co合金、Fe−Ni−Co−Cr合金、Fe−Co−Cr合金等の金属」「が例示される」と記載されているところ、これらはあくまで例示であるから、当業者は、その他の金属も適宜選択することができる。その際、引用文献2に記載された技術的事項1のとおり、「ペリクルフレームの母材としては、ペリクルフレームとしての強度と剛性が確保される限り特に制限はな」いこと、さらに、「EUV用ペリクルの場合、ペリクルフレームとしてエキシマレーザー用ペリクルと同様の材料を使用することができる」ことが知られているから、当業者であれば、引用発明の「EUVリソグラフィー用のペリクル用フレーム」を構成する「線膨張係数が10×10−6(1/K)以下の金属」として、「ペリクルフレームとしての強度と剛性が確保される」ものや「エキシマレーザー用ペリクルと同様の材料」を適宜選択できるといえる。
しかるに、チタンないしチタン合金がペリクルフレームとして使用されることは公知であり、これがエキシマレーザー用のペリクルフレームとして使用されることも公知である(引用文献4に記載された技術的事項を参照。)し、これらは、周知の技術的事項でもある(引用文献4に記載された技術的事項のほか、チタンないしチタン合金が、ペリクルフレームとして使用されることについては、例えば、特開2009−25559号公報(以下「周知文献2」という。)の【0001】・【0005】・【0015】〜【0017】、特開2010−107986号公報(以下「周知文献3」という。)の【請求項1】・【請求項7】・【0006】、特開2012−212043号公報(以下「周知文献4」という。)の【0001】・【0028】、国際公開第2013/141325号(以下「周知文献5」という。)の [0001]・[0047]、国際公開第2017/030109号(以下「周知文献6」という。)の [0001]・[0008]・[0020]を参照。さらに、これらが、エキシマレーザー用のペリクルフレームとして使用されることについては、例えば、周知文献2の【0005】、周知文献3の【0006】、周知文献6の [0008]を参照。)。
そして、チタンは、線膨張係数が10×10−6(1/K)以下の金属であるし、また、チタンを使用する際にこれをチタン合金として使用することはごく一般的であるところ、チタン合金について、線膨張係数が10×10−6(1/K)以下のものが、通常に存在すると認められる。
さらに、ペリクルフレームを軽量とすることは、周知の技術的課題である(例えば、特開2009−3111号公報(以下「周知文献7」という。)の【0001】・【0021】、特開2006−284927号公報(以下「周知文献8」という。)の【0001】・【0005】を参照。)といえるところ、チタン又はチタン合金は、ペリクルフレームとして用いられる金属としては比較的軽量なものであるといえる。
そうすると、引用発明の「EUVリソグラフィー用のペリクル用フレーム」を構成する「線膨張係数が10×10−6(1/K)以下の金属」として、チタン又はチタン合金を選択することは、当業者が適宜なし得たことであるというべきである。

ウ 本願発明の効果について
本願発明の効果は、引用発明、引用文献1〜4に記載された技術的事項に基づいて、または、引用発明、引用文献1〜3に記載された技術的事項及び周知の技術的事項に基づいて当業者が予測し得る程度のものにすぎない。

(4)請求人の主張について
ア 請求人は、周知文献1(引用文献4)には、「従来よりペリクルフレームとして広く使用されているアルミニウム、チタン」(【0013】)との記載があるが、実際は広く使用されている材料はアルミニウムだけであり、チタンは広く使用されるものではないから、チタン又はその合金をEUV用ペリクルのペリクルフレームに適用する積極的な動機付けは存在しない旨主張するが、上記(3)イで説示したとおり、チタンないしその合金をペリクルフレームとして使用することは周知の技術的事項であったということができるから、請求人の主張はその前提が失当である。なお、請求人は、ペリクルフレームとしてチタンが広く使用されるものではないとする根拠として引用文献2の出願日前の文献検索結果を挙げるが、ここで問題となるのは、引用文献2の出願日前のものではなく、本願の出願前のものである。
また、いずれにせよ、上記(3)イで説示したとおり、ペリクルフレームとして軽量のものが求められることは周知の技術的課題であるところ、チタンがペリクルフレームの材料として使用されることは少なくとも公知であって(引用文献4に記載された技術的事項を参照。)、しかも、チタンは、ペリクルフレームとして用いられる金属としては比較的軽量なものであるといえるから、引用発明1から出発して、EUVリソグラフィー用のペリクル用フレームに用いる「線膨張係数が10×10−6(1/K)以下の金属」を具体的に選択しようとしている当業者は、チタン又はチタン合金を選択することに容易に至るといえる。

イ 請求人は、仮に、チタン又はチタン合金がペリクルフレーム材料として周知又は公知であるとしても、引用文献2において、ペリクルフレームとしての強度と剛性が確保される限り特に制限はない材料として例示列挙されているアルミニウムは、ペリクル膜に割れが生じてしまい本願発明の所望の作用効果が得られないものであるから、引用文献2の記載に基づいて、本願の優位な効果を得られるチタン又はチタン合金を選択することは困難であると主張する。
しかしながら、上記(3)イの判断は、引用発明に接した当業者が、引用発明における「EUVリソグラフィー用のペリクル用フレーム」として「線膨張係数が10×10−6(1/K)以下の金属」として何を採用するかを検討している場面を想定しているのであるから、このような当業者が、請求人が主張するところの「アルミニウム」を考慮に入れることはないというべきである。そして、上記場面においては、その時点で既に、ペリクル膜が割れてしまう事態が防止されている(引用文献1の【0021】〜【0023】を参照。)のであるから、請求人が主張する理由をもって、上記判断が左右されることはない。

ウ 請求人は、本願発明は、EUV露光用ペリクルフレームの材料がチタン又はチタン合金であるとともに、ペリクル膜の材料として、シリコン膜又は炭素膜を選択することを構成とするペリクルであるところ、引用文献1には、このようなペリクルフレームとペリクル膜との材料の組み合わせたペリクルについての教示がなく、引用発明から本願発明を導き出すことは困難であるとも主張する。
しかしながら、引用発明に係る「EUVリソグラフィー用であるペリクル」は、「線膨張係数が10×10−6(1/K)以下の金属からなるEUVリソグラフィー用のペリクル用フレーム」と「単結晶シリコン、多結晶シリコン、非晶質シリコン」からなる「ペリクル膜」とを備えるところ、上記(3)イのとおり、当業者は、当該「線膨張係数が10×10−6(1/K)以下の金属」として、チタン又はチタン合金を選択することに容易に至るものである。そして、そのように構成した効果は、上記(3)ウのとおり、当業者が予測し得る程度のものにすぎない。

エ よって、請求人の主張は採用できない。

(5)小括
以上のとおりであるから、本願発明は、引用発明及び引用文献1〜4に記載された技術的事項に基づいて、または、引用発明、引用文献1〜3に記載された技術的事項及び周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

6 むすび
よって、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
審理終結日 2022-08-02 
結審通知日 2022-08-09 
審決日 2022-08-23 
出願番号 P2017-197004
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G03F)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 山村 浩
特許庁審判官 吉野 三寛
松川 直樹
発明の名称 ペリクル、ペリクル付フォトマスク、露光方法、半導体の製造方法及び液晶ディスプレイの製造方法  
代理人 特許業務法人英明国際特許事務所  

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