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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01F
管理番号 1390175
総通号数 11 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-11-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-07-06 
確定日 2022-10-13 
事件の表示 特願2017− 55749「巻鉄心の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成30年10月11日出願公開,特開2018−160502〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成29年3月22日を出願日とする出願であって,その手続の概略は以下のとおりである。
令和2年 9月29日付け:拒絶理由通知
令和2年11月 2日 :意見書,手続補正書の提出
令和3年 1月12日付け:拒絶理由通知
令和3年 2月17日 :意見書の提出
令和3年 4月28日付け:拒絶査定
令和3年 7月 6日 :審判請求書,手続補正書の提出

第2 令和3年7月6日にされた手続補正について補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和3年7月6日にされた手続補正(以下,「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について
(1)本件補正により補正された特許請求の範囲の記載
本件補正により,特許請求の範囲の請求項1ないし2の記載は,次のとおり補正された。なお,下線部は補正箇所を示す。
「【請求項1】
リボン状のアモルファス材を巻回して形成される巻鉄心の製造方法であって,
複数のフープから巻解いたものを重ねた状態の前記アモルファス材を所定の長さに切断し,
切断した前記アモルファス材を,巻線を装着する部位に接合面が形成される所定の配置に積層し,
積層した前記アモルファス材を,端部に凹凸形状を形成可能にU字状に成形し,
U字状に成形した状態で前記アモルファス材を焼鈍し,
2つの焼鈍した前記アモルファス材を互いに突き合わせることで開口部を閉じて環状に形成する巻鉄心の製造方法。
【請求項2】
リボン状のアモルファス材を巻回して形成される巻鉄心の製造方法であって,
複数のフープから巻解いたものを重ねた状態の前記アモルファス材を所定の長さに切断し,
切断した前記アモルファス材を,巻線を装着する部位に接合面が形成される所定の配置に積層し,
積層した前記アモルファス材を,端部に凹凸形状を形成可能にU字状に成形し,
2つのU字状に形成した前記アモルファス材を互いに突き合わせることで開口部を閉じて巻線が装着された環状に成形し,
環状に成形した状態で前記アモルファス材を焼鈍する巻鉄心の製造方法。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の,令和2年11月2日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし2の記載は次のとおりである。
「【請求項1】
リボン状のアモルファス材を巻回して形成される巻鉄心の製造方法であって,
複数のフープから巻解いたものを重ねた状態の前記アモルファス材を所定の長さに切断し,
切断した前記アモルファス材を,巻線を装着する部位に接合面が形成される所定の配置に積層し,
積層した前記アモルファス材を,U字状に成形し,
U字状に成形した状態で前記アモルファス材を焼鈍し,
2つの焼鈍した前記アモルファス材を互いに突き合わせることで開口部を閉じて環状に形成する巻鉄心の製造方法。
【請求項2】
リボン状のアモルファス材を巻回して形成される巻鉄心の製造方法であって,
複数のフープから巻解いたものを重ねた状態の前記アモルファス材を所定の長さに切断し,
切断した前記アモルファス材を,巻線を装着する部位に接合面が形成される所定の配置に積層し,
積層した前記アモルファス材を,U字状に成形し,
2つのU字状に形成した前記アモルファス材を互いに突き合わせることで開口部を閉じて巻線が装着された環状に成形し,
環状に成形した状態で前記アモルファス材を焼鈍する巻鉄心の製造方法。」

2 補正の可否
本件補正は,本件補正前の請求項1ないし2に記載された発明を特定するために必要な事項である「U字状に成形」することについて,「端部に凹凸形状を形成可能に」との限定を付加するものであって,本件補正前の請求項1ないし2に記載された発明と本件補正により補正された請求項1ないし2に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから,特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当する。
そこで,本件補正により補正された請求項1ないし2に係る発明(以下,「本件補正発明1」ないし「本件補正発明2」という。)が,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定する要件を満たすか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について以下検討する。

(1)本件補正発明1の独立特許要件について
ア 本件補正発明1
本件補正発明1は,前記「1(1)」において請求項1に記載したとおりのものである。

イ 引用文献1,引用発明1
(ア)原査定の拒絶の理由で引用された実願昭60−15363号(実開昭61−134018号)のマイクロフィルム(以下,「引用文献1」という。)には,図面と共に以下の事項が記載されている。なお,下線は当審で付与した。
a「以下,本考案を図面で示す一実施例について説明する。第1図において,まず形成すべき巻鉄心の巻回厚さの約1/2に相当する内周側巻鉄心2は各ターンに対応して1ターン分毎の周長を有する多数の非晶質磁性合金薄帯を積層した積層群で形成されており,複数枚を1単位として各単位が突合せ接合でしかも接合部が順にずれるようにしたステップラップ接合部5が形成されている。
この内周側巻鉄心2の外周に位置する外周側巻鉄心3は,巻回厚さの残りの1/2の厚さを有し,約1/2ターンの周長を有する2つのU字形の積層群からなり各積層群はその接合部7及び7’が周方向に微少長さづつずらされて夫々のレグ部に同一形状で接合する斜めバット接合で形成されている。」(明細書第3頁第10行ないし第4頁第4行)

b「変圧器の組立に当っては,上記の如く,内周側巻鉄心2は,上部ヨーク部に1ターンカットのステップラップ接合又は斜めバット接合を形成し,外周側巻鉄心3はレグ部に1/2ターンカットの斜めバット接合を形成した状態で,夫々約400℃の磁場中焼鈍を施して成形を行った後,第3図の如く内周側巻鉄心2は予め製作された巻線4に第1図,第2図の接合部5又は6を開口して挿入しその後に前記接合部5又は6を閉じて磁路を形成する。しかる後に外周側巻鉄心3はU字形のまま上,下より,巻線4に挿入し巻線4内で斜め接合を形成する。」(明細書第4頁第19行ないし第5頁第10行)

(イ)前記記載事項より,次のことがいえる。
a 前記「(ア)a」によれば,「外周側巻鉄心3」は,「2つのU字形の積層群からなり各積層群はその接合部7及び7’が周方向に微少長さづつずらされ」た「斜めバット接合で形成されている」ものである。
また,前記「(ア)a」によれば,「外周側巻鉄心3」は「形成すべき巻鉄心」を構成するものであるから,「外周側巻鉄心3」の「積層群」は,「多数の非晶質磁性合金薄帯を積層した積層群」と認められる。
以上の点より,引用文献1には,「多数の非晶質磁性合金薄帯を積層した」「2つのU字形の積層群からなり」,「接合部」が「周方向に微少長さづつずらされ」た「斜めバット接合」が形成されている「外周側巻鉄心3」が記載されている。

b 前記「(ア)b」によれば,「組み立てに当っては」,「外周側巻鉄心3」は,「斜めバット接合を形成した状態で」「焼鈍を施し」,「U字形のまま上,下より」「巻線4に挿入し巻線4内で斜め接合を形成する」ものである。

(ウ)したがって,前記「(ア)b」に記載された製造方法について着目すると,引用文献1には,次の発明(以下,「引用発明1」という。)が記載されている。
「多数の非晶質磁性合金薄帯を積層した2つのU字形の積層群からなり,
接合部が周方向に微少長さづつずらされた斜めバット接合が形成されている外周側巻鉄心であって,
組み立てに当っては,斜めバット接合を形成した状態で焼鈍を施し,U字形のまま上,下より巻線に挿入し巻線内で斜め接合を形成する,
外周側巻鉄心の製造方法。」

ウ 対比,判断
(ア)本件補正発明1と引用発明1の対比
a 引用発明1の「外周側巻鉄心」は,「非晶質磁性合金薄帯」によって構成されるから,本件補正発明1の「リボン状のアモルファス材を巻回して形成される巻鉄心」に相当する。

b 引用発明1の「2つのU字形の積層群」は,「多数の非晶質磁性合金薄帯を積層した」ものであるから,本件補正発明1の「積層した前記アモルファス材」に相当する。
そして,引用発明1の「斜めバット接合を形成した状態で焼鈍を施」すことは,その後に「U字形のまま上,下より巻線に挿入し巻線内で斜め接合を形成する」から,「巻線内」に「斜め接合」が形成されるように,「積層した前記アモルファス材」を「U字形」に成形した状態で「焼鈍を施」しているものといえる。
してみると,本件補正発明1の「巻線を装着する部位に接合面が形成される所定の配置に積層し,積層した前記アモルファス材を」「U字状に成形し,U字状に成形した状態で前記アモルファス材を焼鈍」することと,引用発明1の「斜めバット接合を形成した状態で焼鈍を施」すこととは,「巻線を装着する部位に接合面が形成される」ように,「積層した前記アモルファス材を」「U字状に成形し,U字状に成形した状態で前記アモルファス材を焼鈍」する点で共通する。
但し,本件補正発明1は「複数のフープから巻解いたものを重ねた状態の前記アモルファス材を所定の長さに切断し,切断した前記アモルファス材を」「所定の配置に積層」するのに対して,引用発明1は,そのような特定はされていない点で相違する。
また,本件補正発明1は「端部に凹凸形状を形成可能な」ものであるのに対して,引用発明1はそのような特定はされていない点で相違する。

c 引用発明1の「2つのU字形の積層群からな」る「外周側巻鉄心」が「U字形のまま上,下より巻線に挿入し巻線内で斜め接合を形成する」ことは,本件補正発明1の「2つの焼鈍した前記アモルファス材を互いに突き合わせることで開口部を閉じて環状に形成する」ことに相当する。

d 前記aないしcのとおり,引用発明1の「外周側巻鉄心の製造方法」は,本件補正発明1でいう「U字状に成形し」,「焼鈍し」,「環状に形成する」ことを行っているから,本件補正発明1の「巻鉄心の製造方法」に相当する。

(イ)一致点,相違点
したがって,本件補正発明1と引用発明1とは,
「リボン状のアモルファス材を巻回して形成される巻鉄心の製造方法であって,
巻線を装着する部位に接合面が形成されるように,積層した前記アモルファス材をU字状に成形し,
U字状に成形した状態で前記アモルファス材を焼鈍し,
2つの焼鈍した前記アモルファス材を互いに突き合わせることで開口部を閉じて環状に形成する巻鉄心の製造方法。」
である点で一致し,以下の点で相違する。

(相違点1)
本件補正発明1は「複数のフープから巻解いたものを重ねた状態の前記アモルファス材を所定の長さに切断し,切断した前記アモルファス材を」「所定の配置に積層」するのに対して,引用発明1は,そのような特定はされていない点。

(相違点2)
本件補正発明1は「端部に凹凸形状を形成可能な」ものであるのに対して,引用発明1はそのような特定はされていない点。

(ウ)相違点の判断
a 相違点1について
引用文献2には,アモルファス材からなる巻鉄心の製造方法において,複数のフープから巻解いたものを重ねた状態の前記アモルファス材を所定の長さに切断し,切断した前記アモルファス材を,所定の配置に積層し,積層した前記アモルファス材をU字状に成形する技術事項が記載されている(段落【0009】ないし【0011】及び図3ないし4を参照)。つまり,アモルファス材からなる巻鉄心において,複数のフープから巻解いたものを重ねた状態の前記アモルファス材を所定の長さに切断し,切断した前記アモルファス材を所定の配置に積層することは,当業者であれば適宜設計し得た事項である。
また,引用発明1において,複数のフープから巻解いたものを重ねた状態のアモルファス材を所定の長さに切断し,切断したアモルファス材を所定の配置に積層できない特段の事情は認められない。
したがって,引用発明1のアモルファス材からなる巻鉄心に引用文献2記載の技術事項を適用して,前記相違点1に係る構成とすることは,当業者が容易に為し得たことである。

b 相違点2について
本件補正発明1の「端部に凹凸形状を形成可能にU字状に成形し」た後の「U字状に成形した状態」とは,本願明細書の段落【0009】によれば,「各鉄心片3は,互いの接合面3aに複数の凹凸形状,ここでは側面視において複数の三角形状が形成されており」と記載されていることから,「端部」である「接合面」に「側面視において複数の三角形状が形成されて」いる状態といえる。
それに対して,原査定の拒絶の理由で引用された特開2009−296005号(以下,「引用文献5」という。)には,アモルファス材からなる巻鉄心において,端部に側面視において複数の三角形状が形成された2つのU字状とする技術事項が記載されている(段落【0032】ないし【0033】及び図9ないし10の,「第2C部分112の一部およびI部分114の別の一部からなる第2内側磁心部分」を参照)。つまり,アモルファス材からなる巻鉄心において,端部に側面視において複数の三角形状が形成することは,当業者であれば適宜設計し得た事項である。
また,引用発明1において,端部に側面視において複数の三角形状を形成できない特段の事情は認められない。
したがって,引用発明1のアモルファス材からなる巻鉄心に引用文献5記載の技術事項を適用して,前記相違点2に係る構成とすることは,当業者が容易に為し得たことである。

エ 請求人の主張について
請求人は審判請求書において,「引用文献1のものは,そのレグ部に対して,斜めバット接合を形成していると考えられます。換言しますと,引用文献1のものは,既に存在しているレグ部に斜めバット接合を形成する構成であること,つまりは,環状に形成されている外周側鉄心のレグ部を切断する構成であることは明らかであると思料します。」及び「そのため,本願発明のようにU字状に成形した後に焼鈍するという構成は引用文献1や周知技術から自明なものではなく,その場合には,引用文献1の記載から本願発明の構成に想到することもないものと思料します。」と主張している(審判請求書の第3頁第26行ないし第4頁第8行を参照)。
しかしながら,引用文献1の「レグ部に」「斜めバット接合を形成した状態で」「焼鈍を施し」,「U字形のまま上,下より巻線4に挿入し巻線4内で斜め接合を形成する」との記載を参照すれば(前記「イ(ア)b」を参照),「斜めバット接合を形成した状態」が環状に形成されている外周側鉄心のレグ部を切断して構成されるものであるとは読めず,「U字形」の状態で「焼鈍を施し」,「U字形のまま上,下より巻線4に挿入」していると解釈するのが自然である。
したがって,請求人の主張は採用できない。

オ 本件補正発明1の独立特許要件についてのまとめ
以上のとおり,本件補正発明1は,引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された技術事項に基づいて,または,引用文献1に記載された発明及び引用文献2,5に記載された技術事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(2)本件補正発明2の独立特許要件について
ア 本件補正発明2
本件補正発明2は,前記「1(1)」において請求項2に記載したとおりのものである。

イ 引用文献4,引用発明2
(ア)原査定の拒絶の理由で引用された特開昭61−179518号公報(以下,「引用文献4」という。)には,図面と共に以下の事項が記載されている。なお,下線は当審で付与した。
a「〔発明の技術分野〕
本発明は非晶質磁性合金薄帯からなる1ターンカツト形巻鉄心を用いた静止誘導機器の製造方法に関する。」(第1頁右下欄第3ないし6行)

b「第1図ないし第6図は本発明の製造方法の一実施例を示している。
まず,第2図で示すように非晶質磁性合金薄帯11を巻枠12により連続的に巻回して巻回体13を形成し,この巻回体13の一部を切断し展開して多数の非晶質磁性合金薄帯11を積層してなる積層体とする。この積層体を成形すべき巻鉄心を径方向に区分した複数の層に対応して複数層に区分し,第3図で示すように巻鉄心の各ターンに対応して1ターン分毎の周長を有する多数の非晶質磁性合金薄帯11を積層してなる複数の例えば3個の積層ブロック14A〜14Cを形成する。各積層ブロック14A〜14Cは非晶質磁性合金薄帯11を長手方向にずらして傾斜した端面を有するものとする。なお,巻回体13は円形としてあるが,巻鉄心と同形状のものとしても良い。
次いで,第3図で示すように各積層ブロック14A〜14Cを積層する。この場合,巻鉄心の外周側に位置する長さの大なる積層ブロック14Aを下側に,鉄心内周側に位置する長さの小なる積層ブロック14Cを上側にして積層するとともに,各積層ブロック14A〜14Cを長さ方向に位置をずらして配置する。そして,この積層ブロック14A〜14C群において,巻鉄心の下けい鉄部と両側の脚部とが交叉する各コーナ部に相当する部分における各積層ブロック14A〜14Cの間に磁性片15を各々設ける。この磁性片15はコーナ部の形状に応じて断面が三日月形状をなし,非晶質磁性合金薄帯11の幅寸法と同じ長さを有している。そして磁性片15は,例えば第6図(a)で示すように幅寸法が異なる複数枚の非晶質磁性合金薄板を重ねて接着して形成したもの,または第6図(b)で示すように非晶質磁性合金粉末を加圧しあるいはバインダを介して成形したものを用いる。
なお,積層ブロック14A〜14C群の下側と上側には,巻鉄心の上けい鉄部を除く外周長および内周長に相当する長さの補強板16A,16Bを配置する。」(第3頁左下欄第13行ないし第4頁左上欄第12行)

c「次いで,第4図で示すようにプレスの曲げ加工により積層ブロック14A〜14C群および補強板16A,16Bを凵形状に形成する。凵形状に形成された積層ブロック群の中央部は巻鉄心の下けい鉄部となり,両側の起立部は各々脚部および上けい鉄部の半分を形成する。この場合,積層ブロック14A〜14C群における巻鉄心の下けい鉄部と両脚部とが交叉するコーナ部となる各部分の各積層ブロック14A〜14Cの間には,磁性片15が介在して挾持される。なお補強板16A,16Bは巻鉄心の下けい鉄部および脚部の外周部および内周部に位置する。」(第4頁左上欄第13行ないし右上欄第5行)

d「次いで,第4図で示すように凵形状をなす積層ブロック14A〜14Cの両側起立部における脚部の部分に巻線17を各々嵌合する。
次いで,第1図で示すように積層ブロック14A〜14C群の両側起立部の巻線17から上方に突出した両端部を,プレス曲げ加工により内側に折り曲げ,各積層ブロック14A〜14Cの両端面を突き合せて接合し,巻鉄心の上けい鉄部を形成する。この場合,プレス曲げ加工の前段階で積層ブロック14A〜14C群の両端部における巻鉄心の上けい鉄部と両側脚部とが交叉する各コーナ部となる部分の各積層ブロック14A〜14Cの間に,前述と同様な磁性片15を配置し,この状態で積層ブロック14A〜14C群の両端部に曲げ加工を行なう。これにより巻鉄心の上けい鉄部と脚部とが交叉する各コーナ部の各積層ブロック14A〜14Cの間に磁性片15を介在挾持する。なお,巻鉄心の上けい鉄部の内周側には補強板16Cを配置する。
このようにして巻鉄心18を成形する。」(第4頁右上欄第6行ないし左下欄第6行)

e「次いで,巻鉄心に対して高周波励磁により焼鈍を施す。第5図はこの焼鈍を行なうための電気回路を示し,図中19は巻鉄心18のけい鉄部に仮巻して励磁巻線,20は高周波交流電源,21は直流電源,22は切換スイッチ,23は電圧調整器である。まず励磁巻線19を切換スイッチ22により交流電源20に接続して高周波交流電流を流し巻鉄心18を励磁する。この励磁により巻鉄心18にうず電流が生じ,このうず電流の発生に伴う損失により自己発熱して温度上昇する。巻鉄心18の温度が焼鈍温度(400℃)まで上昇した時点で,電圧調整器23により高周波交流電流の電圧を調整して焼鈍温度を一定時間保持する。その後に切換スイッチ22により励磁巻線19を交流電源20から切離して直流電源21に接続して直流電流を流す。これにより磁場を形成しながら巻鉄心18を冷却する。そしてこの焼鈍により巻鉄心18を構成する非晶質磁性合金薄帯18の歪が除去される。」(第4頁左下欄第7行ないし右下欄第6行)





(イ)前記記載事項から,次のことがいえる。
a 前記「(ア)a」によれば,「非晶質磁性合金薄帯からなる」「巻鉄心」「の製造方法」である。

b 前記「(ア)b」によれば,「非晶質磁性合金薄帯11」を「巻回して巻回体13を形成し,この巻回体13の一部を切断し展開して」「積層体」とし,この「積層体」を「複数層に区分し」た「積層ブロック14A〜14Cを形成」し,「各積層ブロック14A〜14Cを積層」した「積層ブロック14A〜14C群」とするものである。

c 前記「(ア)c」によれば,「第4図で示すように」,「積層ブロック14A〜14C群」を「凵形状に形成する」ものである。
ここで第4図を参照すると,端部に凹凸形状が形成された形状であることが見て取れる。

d 前記「(ア)d」によれば,「凵形状をなす積層ブロック14A〜14Cの両側起立部における脚部の部分に巻線17を各々嵌合」し,第1図で示すように「積層ブロック14A〜14C群の両端部を」「突き合せて接合し」,「上けい鉄部を形成する」ことによって,「巻鉄心18を成形する」ものである。
ここで第1図を参照すると,「巻鉄心18」が環状であることが見て取れる。

e 前記「(ア)」の「d」及び「e」によれば,「巻鉄心18を成形」した後に「巻鉄心に対して」「焼鈍を施す」ものである。

(ウ)したがって,引用文献4には,以下の発明(以下,「引用発明2」という。)が記載されている。
「非晶質磁性合金薄帯からなる巻鉄心の製造方法であって,
非晶質磁性合金薄帯を巻回して巻回体を形成し,この巻回体の一部を切断し展開して積層体とし,この積層体を複数層に区分した積層ブロックを形成し,各積層ブロックを積層した積層ブロック群とし,
積層ブロック群を,端部に凹凸形状が形成された凵形状に形成し,
凵形状をなす積層ブロックの両側起立部における脚部の部分に巻線を各々嵌合し,積層ブロック群の両端面を突き合せて接合し,上けい鉄部を形成することによって,環状の巻鉄心を成形し,
巻鉄心に対して焼鈍を施す,
巻鉄心の製造方法。」

ウ 対比,判断
(ア)本件補正発明2と引用発明2との対比
a 引用発明2の「非晶質磁性合金薄帯」は,本件補正発明2の「リボン状のアモルファス材」に相当する。
また,引用発明2の「非晶質磁性合金薄帯からなる巻鉄心の製造方法」は,非晶質磁性合金薄帯を巻回しているから,本件補正発明2の「リボン状のアモルファス材を巻回して形成される巻鉄心の製造方法」に相当する。

b 引用発明2の「非晶質磁性合金薄帯を巻回して巻回体を形成し,この巻回体の一部を切断」することは,本件補正発明2の「前記アモルファス材を所定の長さに切断」することに相当する。
但し,本件補正発明2は「複数のフープから巻解いたものを重ねた状態」のものを切断しているのに対して,引用発明2はそのような特定はされていない点で相違する。

c 引用発明2の「展開して積層体とし,この積層体を複数層に区分した積層ブロックを形成し,各積層ブロックを積層した積層ブロック群と」することは,その後に「積層ブロック群の両端面を突き合せて接合し,上けい鉄部を形成する」から,本件補正発明2の「切断した前記アモルファス材を,」「接合面が形成される所定の配置に積層」することに相当する。
但し,接合面が形成されるのが,本件補正発明2は「巻線を装着する部位」であるのに対して,引用発明2は「上けい鉄部」である点で相違する。

d 引用発明2の「積層ブロック群を,端部に凹凸形状が形成された凵形状に形成」することは,本件補正発明2の「積層した前記アモルファス材を,端部に凹凸形状を形成可能にU字状に成形」することに相当する。

e 引用発明2の「凵形状をなす積層ブロックの両側起立部における脚部の部分に巻線を各々嵌合し,」「環状の巻鉄心を成形」することは,本件補正発明2の「巻線が装着された環状に成形」することに相当する。
但し,環状の巻鉄心を成形するのに,本件補正発明2は「U字状に形成した前記アモルファス材を互いに突き合わせることで開口部を閉じて」成形するのに対して,引用発明2は「積層ブロック群の両端面を突き合せて接合し,上けい鉄部を形成することによって」成形する点で相違する。

f 引用発明2の「巻鉄心に対して焼鈍を施す」ことは,巻線を各々嵌合し,環状の巻鉄心を成形した後に行われているから,本件補正発明2の「環状に成形した状態で前記アモルファス材を焼鈍する」ことに相当する。

(イ)一致点,相違点
したがって,本件補正発明2と引用発明2とは,
「リボン状のアモルファス材を巻回して形成される巻鉄心の製造方法であって,
前記アモルファス材を所定の長さに切断し,
切断した前記アモルファス材を,接合面が形成される所定の配置に積層し,
積層した前記アモルファス材を,端部に凹凸形状を形成可能にU字状に成形し,
U字状に形成した前記アモルファス材を互いに突き合わせることで開口部を閉じて巻線が装着された環状に成形し,
環状に成形した状態で前記アモルファス材を焼鈍する巻鉄心の製造方法。」
である点で一致し,以下の点で相違する。

(相違点3)
本件補正発明2は「複数のフープから巻解いたものを重ねた状態」のものを切断しているのに対して,引用発明2はそのような特定はされていない点。

(相違点4)
接合面が形成されるのが,本件補正発明2は「巻線を装着する部位」であるのに対して,引用発明2は「上けい鉄部」である点。

(相違点5)
環状の巻鉄心を成形するのに,本件補正発明2は「U字状に形成した前記アモルファス材を互いに突き合わせることで開口部を閉じて」成形するのに対して,引用発明2は「積層ブロック群の両端面を突き合せて接合し,上けい鉄部を形成することによって」成形する点。

(ウ)相違点の判断
a 相違点3について
引用文献2には,アモルファス材からなる巻鉄心の製造方法において,複数のフープから巻解いたものを重ねた状態の前記アモルファス材を所定の長さに切断し,切断した前記アモルファス材を,所定の配置に積層し,積層した前記アモルファス材をU字状に成形する技術事項が記載されている(段落【0009】ないし【0011】及び図3ないし4を参照)。つまり,アモルファス材からなる巻鉄心において,複数のフープから巻解いたものを重ねた状態のアモルファス材を所定の長さに切断し,切断したアモルファス材を所定の配置に積層することは,当業者であれば適宜設計し得た事項である。
また,引用発明2において,複数のフープから巻解いたものを重ねた状態のアモルファス材を所定の長さに切断し,切断したアモルファス材を所定の配置に積層できない特段の事情は認められない。
したがって,引用発明2のアモルファス材からなる巻鉄心に引用文献2記載の技術事項を適用して,前記相違点3に係る構成とすることは,当業者が容易に為し得たことである。

b 相違点4について
引用文献1には,アモルファス材からなる巻鉄心において,巻線を装着する部位に接合面が形成されるようにする技術事項が記載されている(第1,2,4図の「外周側巻鉄心3」を参照)。つまり,アモルファス材からなる巻鉄心において,巻線を装着する部位に接合面が形成されるようにすることは,当業者であれば適宜設計し得た事項である。
また,引用発明2において,巻線を装着する部位に接合面を形成できない特段の事情は認められない。
したがって,引用発明2のアモルファス材からなる巻鉄心の接合面に引用文献1記載の技術事項を適用して,前記相違点4に係る構成とすることは,当業者が容易に為し得たことである。

c 相違点5について
引用文献5には,アモルファス材からなる巻鉄心において,2つのU字状に形成したアモルファス材を互いに突き合わせる技術事項が記載されている(段落【0032】ないし【0033】及び図9ないし10の「第2C部分112の一部およびI部分114の別の一部からなる第2内側磁心部分」を参照)。つまり,アモルファス材からなる巻鉄心において,2つのU字状に形成したアモルファス材を互いに突き合わせるようにすることは,当業者であれば適宜設計し得た事項である。
また,引用発明2において,2つのU字状に形成したアモルファス材を互いに突き合わせるように構成できない特段の事情は認められない。
したがって,引用発明2のアモルファス材からなる巻鉄心に引用文献5記載の技術事項を適用して,前記相違点5に係る構成とすることは,当業者が容易に為し得たことである。

エ 本件補正発明2の独立特許要件についてのまとめ
以上のとおり,本件補正発明2は,引用文献4に記載された発明及び引用文献1,2,5に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(3)本件補正についてのまとめ
したがって,本件補正は,特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に違反するので,同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって,前記補正の却下の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は前記のとおり却下されたので,本願の請求項に係る発明は,令和2年11月2日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定されるものであるところ,本願の請求項1ないし2に係る発明(以下「本願発明1」ないし「本願発明2」という。)は,前記「第2[理由]1(2)」の請求項1ないし2に記載したとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由の概略は次のとおりである。
進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の引用文献に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記(引用文献等については引用文献等一覧参照)
・請求項 1,4
・引用文献 1,2

・請求項 5
・引用文献 1−3

・請求項 2,4
・引用文献等 1,2,4,5

・請求項 3
・引用文献等 1,2,4−7

・請求項 5
・引用文献等 1−7

<引用文献等一覧>
1.実願昭60−15363号(実開昭61−134018号)のマイクロフィルム
2.特開2005−012117号公報(周知技術を示す文献)
3.国際公開第2015/031936号(周知技術を示す文献)
4.特開昭61−179518号公報
5.特開2009−296005号公報
6.特開昭61−040015号公報(周知技術を示す文献)
7.特開昭61−179507号公報(周知技術を示す文献)

3 引用文献及びその記載事項
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1,2,4,5は,それぞれ前記「第2[理由]2」で挙げた引用文献1,2,4,5である。
そして,原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1,2,4,5に記載された事項は,前記「第2[理由]2」に記載したとおりである。

4 対比・判断
(1)本願発明1ないし本願発明2は,前記「第2[理由]2」で検討した本件補正発明1ないし2から,それぞれ「端部に凹凸形状を形成可能に」という限定事項を削除したものである。

(2)そうすると,本願発明1と引用文献1に記載された発明とは,前記「第2[理由]2(1)ウ(イ)」に記載した相違点1において相違するけれども,当該相違点1に係る構成とすることは,前記「第2[理由]2(1)ウ(ウ)a」のとおり,引用文献2に記載された技術事項に基づいて,当業者が容易に為し得たことである。
よって,本願発明1は,引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された技術事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)また,本願発明2と引用文献4に記載された発明とは,前記「第2[理由]2(2)ウ(イ)」に記載した相違点3ないし5において相違するけれども,当該相違点3ないし5に係る構成とすることは,前記「第2[理由]2(2)ウ(ウ)」のとおり,引用文献1,2,5記載の技術事項に基づいて,当業者が容易に為し得たことである。
よって,本願発明2は,引用文献4に記載された発明及び引用文献1,2,5に記載された技術事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり,本願の請求項1ないし2に係る発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。したがって,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは,この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は,その日数を附加します。)以内に,特許庁長官を被告として,提起することができます。
 
審理終結日 2022-08-02 
結審通知日 2022-08-09 
審決日 2022-08-31 
出願番号 P2017-055749
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01F)
P 1 8・ 121- Z (H01F)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 酒井 朋広
特許庁審判官 木下 直哉
須原 宏光
発明の名称 巻鉄心の製造方法  
代理人 弁理士法人サトー  

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