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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F24F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F24F
管理番号 1390201
総通号数 11 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-11-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-08-13 
確定日 2022-10-05 
事件の表示 特願2019−557426「エアコン及びエアコンの制御方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 元年 9月12日国際公開、WO2019/169715、令和 2年 6月18日国内公表、特表2020−517890〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2018年(平成30年)4月27日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2018年3月9日、(CN)中華人民共和国)を国際出願日とする出願であって、その手続きの経緯は以下の通りである。
令和 元年10月21日 :翻訳文提出
令和 2年11月30日付け:拒絶理由通知書
令和 3年 3月 8日 :意見書、手続補正書の提出
令和 3年 4月13日付け:拒絶査定
令和 3年 8月13日 :審判請求書、同時に手続補正書の提出

第2 令和3年8月13日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和3年8月13日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 補正の内容
(1)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、令和3年3月8日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「【請求項1】
筐体、第一導風板及び第二導風板を含むエアコンであって、
前記筐体は前記筐体の内側に形成されている送風ダクト及び送風ダクトに連通するとともに前記筐体の端縁に設置されている送風口を有し、
前記第一導風板は回動可能に前記送風口に設置され、前記筐体に設置されている第一回転軸を介して前記筐体と接続され、
前記第二導風板は回動可能に前記送風ダクトに設置され、前記第二導風板は前記筐体に設置されている第二回転軸を介して回転し、
前記エアコンは直風防止モードを有し、前記エアコンが前記直風防止モードで運転する際、前記第一導風板は前記送風口の一部分を遮り、
前記第一導風板が前記送風口を閉鎖する時、前記第一導風板の前記送風口の上側に近い側縁を第一側縁とし、前記第一導風板の前記送風口の下側に近い側縁を第二側縁とし、前記エアコンが前記直風防止モードで運転する際、前記第一側縁が前記送風口の上側の端縁よりも送風方向の下流側に位置するエアコン。」

(2)本件補正後の特許請求の範囲
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された(下線部は、補正箇所である。)。
「【請求項1】
筐体、第一導風板及び第二導風板を含むエアコンであって、
前記筐体は前記筐体の内側に形成されている送風ダクト及び送風ダクトに連通するとともに前記筐体の端縁に設置されている送風口を有し、
前記第一導風板は回動可能に前記送風口に設置され、前記筐体に設置されている第一回転軸を介して前記筐体と接続され、
前記第二導風板は回動可能に前記送風ダクトに設置され、前記第二導風板は前記筐体に設置されている第二回転軸を介して回転し、
前記エアコンは直風防止モードを有し、前記エアコンが前記直風防止モードで運転する際、前記第一導風板は前記送風口の一部分を遮り、
前記第一導風板が前記送風口を閉鎖する時、前記第一導風板の前記送風口の上側に近い側縁を第一側縁とし、前記第一導風板の前記送風口の下側に近い側縁を第二側縁とし、前記エアコンが前記直風防止モードで運転する際、前記第一側縁が前記送風口の上側の端縁よりも送風方向の下流側に位置し、
前記第一回転軸は前記第一側縁に向かって伸びて第一面を形成し、前記第一回転軸は前記送風口の上側の端縁に向かって伸びて第二面を形成し、前記第一面と前記第二面の挟角をαとすると、前記エアコンが直風防止モードで運転する時、αの範囲は40°<α≦55°であり、
前記エアコンが直風防止モードで運転する時、前記第一側縁と前記送風口の上側の端縁との距離Mの範囲は70mm−85mmであり、
前記エアコンが直風防止モードで運転する時、前記第二側縁と前記送風口の下側の端縁との距離Nの範囲は25mm−35mmであるエアコン。」

2 補正の適否について
本件補正は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「第一導風板」に関して、「エアコンが直風防止モードで運転する時」、「前記第一回転軸は前記第一側縁に向かって伸びて第一面を形成し、前記第一回転軸は前記送風口の上側の端縁に向かって伸びて第二面を形成し、前記第一面と前記第二面の挟角をαとすると、」「αの範囲は40°<α≦55°であ」って、さらに、「前記第一側縁と前記送風口の上側の端縁との距離Mの範囲は70mm−85mmであり、」「前記第二側縁と前記送風口の下側の端縁との距離Nの範囲は25mm−35mmである」ことを限定するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について、以下に検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(2)に記載したとおりのものである。

(2)引用文献の記載事項
ア 引用文献1
(ア)引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用された中国実用新案第204786798号明細書には、「エアコン室内機」に関して、図面とともに以下の事項が記載されている(下線は当審にて付したものである。)。




(当審訳:【0031】図1−図5に示すように、本実用新案実施例のエアコン室内機100によってハウジング4、第一導風板3と第二導風板1を含むことができる。一般的に、ハウジング4内にエアコン室内機100のすべてのデバイスを取り付け、ハウジング4は一方で内部機器を支持し保護する作用を果たすことができ、他方でまた一定の装飾効果を果たすことができる。
【0032】ハウジング4内に循環空気に用いる風路43を有し、風路43はハウジング4の外周壁上に設置する送風口を有し、風路43の内壁上で凹溝44を設ける。エアコン室内機100が開く時、風は絶えず送風口によって部屋空間に吹いて、これによって室内温度を調節する。例えばエアコン室内機100が熱風感モードを作るように開始する時、エアコン室内機100はハウジング4の送風口から外部に暖風を送り出し、エアコン室内機100が冷風感モードを作るように開始する時、エアコン室内機100は送風口から冷風を送り出す。)




(当審訳:【0034】第一導風板3は回転可能にハウジング4上に設置され送風口を開閉するのに用いられる。選択的に、図1−図5に示すように、第一導風板3は第一導風板回転軸31を軸に回転することができ、これによって送風口を開けまたは閉じることができる。例えば、エアコン室内機100が閉じる時、第一導風板3は第一導風板回転軸31を軸に回転することで送風口を閉じ、エアコン室内機100が開く時、第一導風板3は第一導風板回転軸31を軸に回転することで送風口を開け、これによってエアコン室内機100が室内に向かって送風するのに便利である。)




(当審訳:【0040】本実用新案の複数の実施例中、図1−図5に示すように、エアコン室内機100はまた第三導風板2を含み、第三導風板2は回転可能に排気口内に置き、第三導風板2上にいくつかの厚み方向に第三導風板2を貫通する第二の散風孔21を設ける。第三導風板2は回転可能で風路43の内壁と導風夾角または防風夾角を形成することに至って、導風夾角位置を形成する時、第三導風板2は導風の作用を果たす。防風夾角位置を形成する時、第三導風板2は防風の作用を果たし、ハウジング4内の一部分の風は第二の散風孔21から吹出し、さらに送風口風速を低下させる目的を果たすように選択可能であり、導風夾角は1度〜45度とし、防風夾角は46度〜99度とする。
【0041】図1−図5の例示中では、第三導風板2はハウジング4上に且つ第一導風板3の位置する内側(例えばハウジング4中心に近寄る片側)に置かれている。選択的に、図1−図5に示すように、第三導風板2と第二導風板1は第二導風板回転軸22と第三導風板回転軸12を軸にそれぞれ回転することができる。本実用新案の具体的例示中では、第一導風板3、第三導風板2と第二導風板1はそれぞれ面枠41上に置く。)




(当審訳:【0044】本実用新案の具体的実施例中、エアコン室内機100が無風感モードを開始する時、図2に示すように、第一導風板3は送風口を開け、第二導風板1は第三導風板2と協働して送風口を閉じるに至るよう回転する、すなわち第二導風板1と第三導風板3はともに風路43の内壁と防風夾角を形成するように回転し、ハウジング4内の風が第三導風板2の第二の散風孔21と第二導風板1の第一の散風孔11を通り室内に吹き、これによって風速を低下させて、且つ風量は小さく、無風に向かう。)




(当審訳:【0059】好ましくは、無風感モードの時、第一導風板3は上に向かって第二導風板1の排気範囲内に回転することで排気方向を変え、これによって第一の散風孔11から吹出す風は第一導風板3に遮られ排気方向を変えた後、上に向けて吹出してさらに、送風口からの吹き出し風が非直接的に人体に吹くことで、さらにユーザ快適性を高めた。)




(当審訳:【0062】無風感モードを選ぶ時は、図2に示すように、第三導風板2と第二導風板1は送風口を閉じ、第一導風板3は上に向かって第二導風板1の排気範囲内に回転することで排気方向を変え、風は第一の散風孔の組と第二の散風孔の組から通り、第三導風板2の第一の散風孔の組から吹き出す風は送風口の上部から吹出し、第二導風板1の第二の散風孔の組から吹き出した風が第一導風板3に遮られ排気方向を変えた後、上に向かって吹出して、これにより送風口の吹き出し風が非直接的に人体に吹き、これによって、室内温度を調節できるだけでなく、また無感の送風を実現することができ、人を快適に感じさせるようにする。)




(当審訳:【0064】本実用新案実施例のエアコン室内機100の制御方法によって、エアコン室内機100が無風感モードにある時、第三導風板2と第二導風板1は協働することで送風口を閉じることができ、ハウジング4内の風が第三導風板2の第二の散風孔21と第二導風板1の第一の散風孔11を通り室内に吹いて、これによってエアコン室内機100の送風口の風速を素早く減少することができて、且つ第一の散風孔11から吹出する風が第一導風板3によって遮られ排気方向を変え、風が直接人体に吹くことを避けることができてさらに、無風感の送風を実現する。)


図1




図2



(イ)引用文献1の記載から分かること
a 上記(ア)aにおける【0031】の記載、上記(ア)cにおける【0040】の記載、上記(ア)hにおける図1の記載、及び上記(ア)iにおける図2の記載から、「エアコン室内機100」は、「ハウジング4」、「第一導風板3」及び「第三導風板2」を含むものであることが分かる。

b 上記(ア)aにおける【0032】の記載、及び上記(ア)hにおける図1の記載から、「ハウジング4」は、前記「ハウジング4」の内側に形成されている「風路43」及び「風路43」に連通するとともに前記「ハウジング4」の端縁に設置されている「送風口」を有していることが分かる。

c 上記(ア)aにおける【0031】の記載、上記(ア)bにおける【0034】の記載、上記(ア)hにおける図1の記載、及び上記(ア)iにおける図2の記載から、「第一導風板3」は回動可能に「送風口」に設置され、「ハウジング4」に設置されている「第一導風板回転軸31」を介して前記「ハウジング4」と接続されていることが分かる。

d 上記(ア)aにおける【0031】の記載、上記(ア)cにおける【0040】及び【0041】の記載、上記(ア)hにおける図1の記載、及び上記(ア)iにおける図2の記載から、「第三導風板2」は回動可能に「風路43」に設置され、前記「第三導風板2」は「ハウジング4」に設置されている「第二導風板回転軸22」を介して回転することが分かる。

e 上記(ア)dにおける【0044】、上記(ア)eにおける【0059】の記載、及び上記(ア)fにおける【0062】の記載の記載から、「エアコン室内機100」は「無風感モード」を有することが分かる。

f 上記(ア)eにおける【0059】の記載、上記(ア)fにおける【0062】の記載、上記(ア)gにおける【0064】の記載、及び上記(ア)iにおける図2の記載から、「エアコン室内機100」が「無風感モード」で運転する際、「第一導風板3」は「送風口」の一部分を遮ることが分かる。

g 上記(ア)fにおける【0062】の記載、及び上記(ア)iにおける図2の記載から、「エアコン室内機100」が「無風感モード」で運転する際、「第一導風板3」における「送風口」の上側に近い側縁が「送風口」の上側の側縁よりも送風方向の下流側に位置していることが分かる。

(ウ)上記(ア)、(イ)から、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「ハウジング4、第一導風板3及び第三導風板2を含むエアコン室内機100であって、
前記ハウジング4は前記ハウジング4の内側に形成されている風路43及び風路43に連通するとともに前記ハウジング4の端縁に設置されている送風口を有し、
前記第一導風板3は回動可能に前記送風口に設置され、前記ハウジング4に設置されている第一導風板回転軸31を介して前記ハウジング4と接続され、
前記第三導風板2は回動可能に前記風路43に設置され、前記第三導風板2は前記ハウジング4に設置されている第二導風板回転軸22を介して回転し、
前記エアコン室内機100は無風感モードを有し、前記エアコン室内機100が前記無風感モードで運転する際、前記第一導風板3は前記送風口の一部分を遮り、
前記エアコン100が前記無風感モードで運転する際、前記第一導風板3の前記送風口の上側に近い側縁が前記送風口の上側の端縁よりも送風方向の下流側に位置するエアコン室内機100。」

(3)引用発明との対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。

ア 引用発明における「ハウジング4」、「第一導風板3」、「第三導風板2」、「エアコン室内機100」、「風路43」、「第一導風板回転軸31」、及び「第二導風板回転軸22」は、それぞれ本願補正発明における「筐体」、「第一導風板」、「第二導風板」、「エアコン」、「送風ダクト」、「第一回転軸」、及び「第二回転軸」に相当する。

イ 引用発明における「無風感モード」は、本願補正発明における「直風防止モード」に相当する。

ウ 引用発明における「前記第一導風板3は前記送風口の一部分を遮り、前記エアコン100が前記無風感モードで運転する際」の、「前記第一導風板3の前記送風口の上側に近い側縁」は、本願補正発明における「前記第一導風板が前記送風口を閉鎖する時」の、「前記第一導風板の前記送風口の上側に近い側縁」である「第一側縁」に相当する。

したがって、本願補正発明と引用発明とは、
「筐体、第一導風板及び第二導風板を含むエアコンであって、
前記筐体は前記筐体の内側に形成されている送風ダクト及び送風ダクトに連通するとともに前記筐体の端縁に設置されている送風口を有し、
前記第一導風板は回動可能に前記送風口に設置され、前記筐体に設置されている第一回転軸を介して前記筐体と接続され、
前記第二導風板は回動可能に前記送風ダクトに設置され、前記第二導風板は前記筐体に設置されている第二回転軸を介して回転し、
前記エアコンは直風防止モードを有し、前記エアコンが前記直風防止モードで運転する際、前記第一導風板は前記送風口の一部分を遮り、
前記第一導風板が前記送風口を閉鎖する時、前記第一導風板の前記送風口の上側に近い側縁を第一側縁とし、前記エアコンが前記直風防止モードで運転する際、前記第一側縁が前記送風口の上側の端縁よりも送風方向の下流側に位置するエアコン。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点1]
本願補正発明においては、「エアコン」が「直風防止モード」で運転する際の、「第一回転軸」から「第一側縁」に向かって伸びる「第一面」と、「第一回転軸」から送風口の上側の端縁に向かって伸びる「第二面」とがなす「挟角α」の範囲が「40°<α≦55°」であるのに対し、引用発明においては、そのような数値範囲が示されていない点。

[相違点2]
本願補正発明においては、「エアコン」が「直風防止モード」で運転する際の、「第一側縁」と送風口の上側の端縁との「距離M」の範囲が「70mm−85mm」であるのに対し、引用発明においては、そのような数値範囲が示されていない点。

[相違点3]
本願補正発明においては、「エアコン」が「直風防止モード」で運転する際の、「前記第一導風板が前記送風口を閉鎖する時」の「前記第1導風板の前記送風口の下側に近い側縁」である「第二側縁」と送風口の下側の端縁との「距離N」の範囲が「25mm−35mm」であるのに対し、引用発明においては、そのような数値範囲が示されていない点。

(4)判断
ア 上記[相違点1]について検討する。
引用発明において、エアコン室内機100が無風感モードで運転する際、第一導風板3が送風口の一部分を遮るのは、風が、直接人体に吹くことを避けることにより、無風感を実現する(上記(2)ア(ア)g【0064】の引用文献1の記載参照。)ために行うところ、風が、直接人体に吹くことを避けることにより、無風感を実現するために、第一導風板回転軸31と第一導風板3の送風口の上側に近い側縁とが形成する面と、第一導風板回転軸31と送風口の上側の端縁とが形成する面がなす角度(本願補正発明の「挟角α」に相当。)は、無風感を実現できる程度のもの、具体的には図2に加えた当審による作図を考慮すると50°前後に設定されていることが看取できる。
そして、本願補正発明においては、「挟角α」の範囲を「40°<α≦55°」とすることの効果について、本願明細書の段落【0028】では、「この状態で、前記送風ダクトから出てくる風の風速は比較的弱く、風量も大きくはない。風が前記第一導風板10により阻まれることで、直接人の体に吹き当てられるのを避ける。風が前記第一導風板10に沿って周りへ拡散することで、風をより穏やかにする。より使用者に受け入れられやすくし、使用者に快適な感覚をもたらす。」と記載されている。
しかしながら、使用者が快適に感じる風速や風量は、個人の感覚や趣向によって決まるものであるため一義的に定めることは困難であると考えられる。また、本願明細書及び審判請求書の記載、並びに技術常識を参酌しても、「挟角α」の範囲を「40°<α≦55°」に設定することによって、当業者が予測し得ないような顕著な効果がもたらされるともいえないことから、「挟角α」の範囲を「40°<α≦55°」とすることの臨界的意義は認められない。
また、そもそも本願補正発明で定義された「挟角α」は、エアコンの形状、特に導風板の回転軸の位置に応じて変化するものであるから、その数値範囲を好適化することは、当業者が最適な送風を実現するためにエアコンの形状に合わせて適宜設計し得る設計的事項に過ぎない。
してみると、引用発明においても同様に、その数値範囲を好適化することにより、第一導風板回転軸31と第一導風板3の前記送風口の上側に近い側縁とが形成する面と、第一導風板回転軸31と送風口の上側の端縁とが形成する面がなす角度を「40°<α≦55°」とすることは、当業者が最適な送風を実現するためにエアコンの形状に合わせて適宜設計し得る設計的事項に過ぎない。

イ 上記[相違点2]について検討する。
上記アと同様に、引用発明において、エアコン室内機100が無風感モードで運転する際、第一導風板3が送風口の一部分を遮るのは、風が、直接人体に吹くことを避けることにより、無風感を実現するためであるから、その目的の範囲内において、第一導風板3が送風口を閉鎖する時の前記第1導風板3の前記送風口の上側に近い側縁と、前記送風口の上側の端縁との距離(本願補正発明の「距離M」に相当。)を、無風感を実現できる程度のものとすることは、単なる数値範囲の最適化又は好適化であって、当業者の通常の創作能力の発揮に過ぎないと認められる。
そして、本願補正発明においては、「距離M」の範囲を「70mm−85mm」とすることの効果について、本願明細書の段落【0029】には、「前記エアコン100が前記直風防止モードにある場合、前記第一導風板10の働きにより、前記送風ダクトから出てくる風をより柔らかくしやすい。この際、エアコン100からの送風が前記第一導風板10に沿って周りへ拡散する時、前記送風口から出てくる風速と風量を下げて、使用者に直接エアコン送風口から吹き出される冷/暖風を感じさせることのないようにしやすい。」との記載がある。しかしながら、上記アと同様に、使用者が快適に感じる風速や風量は、個人の感覚や趣向によって決まるものであるため一義的に定めることは困難であり、また、本願明細書及び審判請求書の記載、並びに技術常識を参酌しても、「距離M」の範囲を「70mm−85mm」に設定することによって、当業者が予測し得ないような顕著な効果がもたらされるともいえないことから、「距離M」の範囲を「70mm−85mm」とすることの臨界的意義は認められない。
また、そもそも本願補正発明で定義された「距離M」は寸法を規定するものであり、その値は、同じような送風感覚を実現するエアコンであっても、その風量(ファンの回転速度)、サイズ、吹出口の形状に応じて異なる値をとり得るものであるから、当業者が最適な送風を実現するために、対象となるエアコンの風量、サイズ、及び吹出口の形状に合わせてその数値範囲を好適化することは、適宜設計し得る設計的事項に過ぎない。
してみると、引用発明においても同様に、その数値範囲を好適化することにより、第一導風板3が送風口を閉鎖する時の前記第1導風板3の前記送風口の上側に近い側縁と、前記送風口の上側の端縁との距離を「70mm−85mm」とすることは、当業者が最適な送風を実現するためにエアコンの風量、サイズ、及び吹出口の形状に合わせて適宜設計し得る設計的事項に過ぎない。

ウ 上記[相違点3]について検討する。
上記アと同様に、引用発明において、エアコン室内機100が無風感モードで運転する際、第一導風板3が送風口の一部分を遮るのは、風が、直接人体に吹くことを避けることにより、無風感を実現するためであるから、その目的の範囲内において、第一導風板3が送風口を閉鎖する時の前記第1導風板3の前記送風口の下側に近い側縁と、前記送風口の下側の端縁との距離(本願補正発明の「距離N」に相当。)を、無風感を実現できる程度のものとすることは、単なる数値範囲の最適化又は好適化であって、当業者の通常の創作能力の発揮に過ぎないと認められる。
そして、本願補正発明においては、「距離N」の範囲を「25mm−35mm」とすることの効果について、上記イでも言及したとおり、本願明細書の段落【0029】に記載されている。しかしながら、上記ア及びイと同様に、使用者が快適に感じる風速や風量は、個人の感覚や趣向によって決まるものであるため一義的に定めることは困難であり、また、本願明細書及び審判請求書の記載、並びに技術常識を参酌しても、「距離N」の範囲を「25mm−35mm」に設定することによって、当業者が予測し得ないような顕著な効果がもたらされるともいえないことから、「距離N」の範囲を「25mm−35mm」とすることの臨界的意義は認められない。
また、そもそも本願補正発明で定義された「距離N」も、上記イと同様に、寸法を規定するものであり、その値は、同じような送風感覚を実現するエアコンであっても、その風量(ファンの回転速度)、サイズ、吹出口の形状に応じて異なる値をとり得るものであるから、当業者が最適な送風を実現するために、対象となるエアコンの風量、サイズ、及び吹出口の形状に合わせてその数値範囲を好適化することは、適宜設計し得る設計的事項に過ぎない。
してみると、引用発明においても同様に、その数値範囲を好適化することにより、第一導風板3が送風口を閉鎖する時の前記第1導風板3の前記送風口の下側に近い側縁と、前記送風口の下側の端縁との距離を「25mm−35mm」とすることは、当業者が最適な送風を実現するためにエアコンの風量、サイズ、及び吹出口の形状に合わせて適宜設計し得る設計的事項に過ぎない。

エ 請求人の主張について
請求人は、審判請求書の「3.本願発明が特許されるべき理由」の「(3)特許されるべき理由」の「(3−1)請求項1について」において、「今回補正後の請求項1に係る発明と、引用文献1に記載された発明とを対比すると、少なくとも以下の点で構成が相違する。
(相違点)今回補正の請求項1に係る発明は、『前記第一回転軸は前記第一側縁に向かって伸びて第一面を形成し、前記第一回転軸は前記送風口の上側の端縁に向かって伸びて第二面を形成し、前記第一面と前記第二面の挟角をαとすると、前記エアコンが直風防止モードで運転する時、αの範囲は40°<α≦55°であり、前記エアコンが直風防止モードで運転する時、前記第一側縁と前記送風口の上側の端縁との距離Mの範囲は70mm−85mmであり、前記エアコンが直風防止モードで運転する時、前記第二側縁と前記送風口の下側の端縁との距離Nの範囲は25mm−35mmである』というものである。
これに対して、引用文献1には、上述の相違点について一切に記載がなく、また、示唆する記載もない。
上述の相違点に関連して、引用文献2において、上述の相違点について一切に記載がなく、また、示唆する記載もない。
そして、上述の相違点に関する構成を具備することにより、今回補正後の請求項1に係る発明は、以下の有利な効果が得られる。
(効果)狭角α、距離Mおよび距離Nという3つのパラメータについての数値範囲を限定することにより、当該3つのパラメータの相互作用により最適な直風防止効果を得ることができる。
したがって、今回補正後の請求項1に係る発明は、引用文献1および2に基づいて得ることができず、引用文献1および2に記載されていない構成を備え、その構成に起因した有利な効果が得られる。よって、今回補正後の請求項1に係る発明は、引用文献1および2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものではなく、特許法第29条第1項第3号および第2項に該当しない。」と主張する。
しかしながら、上記ア〜ウで検討したとおり、「狭角α」、「距離M」、及び「距離N」という3つのパラメータについての数値範囲を、それぞれ「40°<α≦55°」、「70mm−85mm」、及び「25mm−35mm」とすることは当業者が最適な送風を実現するという目的において適宜設定しうるものであり、しかも、その数値範囲については臨界的意義は認められない。また、請求人は、エアコンの風量、サイズ、及び吹出口の形状等に関わりなく、狭角α、距離Mおよび距離Nという3つのパラメータについての数値範囲を限定することにより、当該3つのパラメータの相互作用により最適な直風防止効果を得ることができる根拠を示しておらず、そのような効果を得ることができるか不明である。
してみると、これらのパラメータの数値範囲を好適化することは、当業者にとって単なる設計的事項に過ぎないと認められる。
したがって、請求人の主張は採用できない。

(5)まとめ
以上のように、本願補正発明は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

3 むすび
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、令和3年3月8日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1〜10に記載されたとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、前記第2の[理由]1(1)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、次の理由を含むものである。
この出願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:中国実用新案第204786798号明細書

3 引用文献
引用文献1の記載事項は、前記第2の[理由]2(2)に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から、「挟角α」、「距離M」、「距離N」に係る限定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2の[理由]2(3)〜(5)に記載したとおり、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

5 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第2項に該当し、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項について検討するまでもなく、本願は、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。


 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。

審判長 松下 聡
出訴期間として在外者に対し90日を附加する。
 
審理終結日 2022-04-28 
結審通知日 2022-05-10 
審決日 2022-05-25 
出願番号 P2019-557426
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F24F)
P 1 8・ 575- Z (F24F)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 松下 聡
特許庁審判官 林 茂樹
マキロイ 寛済
発明の名称 エアコン及びエアコンの制御方法  
代理人 宮田 英毅  
代理人 宮田 英毅  

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