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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F03G
管理番号 1390218
総通号数 11 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-11-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-09-06 
確定日 2022-10-19 
事件の表示 特願2019−105368「単一ステップの形状記憶合金拡張」拒絶査定不服審判事件〔令和元年10月17日出願公開、特開2019−178683〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願(以下「本願」という。)は、2012年(平成24年)9月14日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2011年9月16日、アメリカ合衆国(US))を国際出願日とする特願2014−530820号の一部を、平成29年7月5日に新たな出願とした特願2017−131969号の一部を、令和元年6月5日に新たな特許出願としたものであって、その手続は以下のとおりである。
令和元年6月12日:上申書及び手続補正書の提出
令和2年4月27日付け(発送日:同年5月12日):拒絶理由通知書
令和2年11月10日:意見書及び手続補正書の提出
令和3年1月26日付け(発送日:同年2月2日):拒絶理由通知書
令和3年4月30日:意見書及び手続補正書の提出
令和3年6月7日付け(発送日:同年6月15日):拒絶査定
令和3年9月6日:審判請求書の提出

第2 本願発明
本願の請求項1ないし4に係る発明は、令和3年4月30日の手続補正により補正がされた特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりである。

「【請求項1】
医療機器の形状記憶物品を形成する方法であって、
該方法は、
単一の工程で、形状記憶合金(SMA)製の物品を300℃〜650℃の形状固定温度範囲内にある単一の温度に維持しつつ、該物品を、第1の(小)寸法から第2の(大)寸法に変形させること;を含み、
ここで、前記第2の(大)寸法の前記第1の(小)寸法に対する比は、約3:1よりも大きく、
前記方法は、300℃〜650℃の前記形状固定温度範囲内の前記単一の温度で単一の物品に対し実施される、前記方法。」

第3 原査定の拒絶理由の概要
原査定の拒絶理由の概要は以下のとおりである。

進歩性)本願の下記の請求項に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
・請求項 1ないし4
・引用文献等 1及び2

<引用文献等一覧>
1.米国特許出願公開第2009/0282669号明細書
2.特開昭61−20618号公報

第4 引用文献、引用発明
1 引用文献1
原査定の拒絶理由に引用された米国特許出願公開第2009/0282669号明細書(以下「引用文献1」という。)には、「METHOD AND APPARATUS FOR REDUCING STRESS DURING STENT MANUFACTURE」(当審訳:ステント製造中のストレスを減少させるための方法及び装置」の発明に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。(下線は当審で付した。以下同様。)

(1)「[0037] The stents formed in accordance with the invention are preferably made from a shape memory material such as Nitinol (Ni−Ti alloy). In manufacturing the Nitinol stent, the material is first in the form of a tube. Nitinol tubing is commercially available from a number of suppliers. The tubular member is then loaded into a machine that will cut the predetermined pattern of the stent into the tube, as discussed above and as shown in FIG. 1. Machines for cutting patterns in tubular devices to make stents or the like are well known to those of ordinary skill in the art and are commercially available. Such machines typically hold the metal tube between the open ends while a cutting laser, preferably under microprocessor control, cuts the pattern. The pattern dimensions and styles, laser positioning requirements, and other information are programmed into a microprocessor, which controls all aspects of the process. After the stent pattern is cut, the stent is treated and polished using any number of methods or combination of methods well known to those skilled in the art.
[0038] Specifically, and in accordance with the invention, an apparatus and method of expanding a stent is provided which uses primarily radial loads, thereby reducing the stresses that are imparted onto the stent due to the axial loads applied during loading of the stent onto a mandrel or other expansion device. The invention includes an apparatus and corresponding method of expanding a stent comprising forming a stent having a proximal end, a distal end, and a longitudinal axis extending therebetween, with the stent having a generally cylindrical shape defining an initial unexpanded stent diameter.
[0039] An expansion member is inserted into either the proximal or distal end of the stent, with the expansion member extending along the longitudinal axis of the stent and having an initial unexpanded diameter. The initial unexpanded diameter of the expansion member being less than the initial unexpanded diameter of the stent to allow for insertion of the expansion member into the stent. The expansion member can then be radially expanded to a second expansion diameter wherein the radial force exerted by the expansion member on the stent consequently expands the stent to a second stent diameter, wherein the second stent diameter is greater than the first stent diameter.
Typically, the initial diameter of the stent is approximately 3 millimeters and the expanded diameter is approximately 6 millimeters, though it is understood that the invention could be applied to stents of any desired size.」
(当審訳:
[0037] 本発明に従って形成されたステントは、ニチノール(Ni−Ti合金)などの形状記憶合金から作られることが好ましい。ニチノール・ステントを製造する場合、材料は先ずチューブの形態である。ニチノールチューブは多数の供給業者から市販されている。次に、上述し、図1に示すように、前記チューブ状部材はステントの所定パターンをチューブ状に切り分ける機械に装着される。ステント等を作成するためにチューブ状のデバイスにパターンを切り込む機械は、当業者によく知られており、市販されている。このような機械は、通常、金属管を開放端の間に保持し、(一方で)切断用レーザーは、好ましくはマイクロプロセッサの制御下で、パターンを切断する。パターンの寸法及びスタイル、レーザーの位置決め精度、及び他の情報は、プロセスの全ての局面を制御するマイクロプロセッサにプログラムされる。ステントパターンが切断された後、ステントは、当業者によく知られた多くの方法または方法の組み合わせを用いて処理されて研磨される。
[0038] 具体的には、本発明によれば、主に半径方向の荷重を使用するステントを拡張する装置および方法が提供され、それにより、マンドレルまたは他の拡張デバイスへのステントの装着中に加えられる軸方向の負荷によってステントに加えられる応力を低減する。本発明は、近位端、遠位端、およびそれらの間に延びる長手方向軸を有するステントを形成することを含む、ステントを拡張する装置および対応する方法を含み、ステントは、初期の拡張されていないステント直径を規定するほぼ円筒形を有する。
[0039] 拡張部材は、ステントの近位端または遠位端のいずれかに挿入され、拡張部材は、ステントの長手方向軸に沿って延在し、初期の未拡張直径を有する。ステント内への拡張部材の挿入を可能にするために拡張部材の初期未拡張直径はステントの初期未拡張直径より小さい。拡張部材を半径方向に拡張して第2の拡張直径にすることができ、拡張部材によってステントに加えられる半径方向の力は、結果としてステントを第2のステント直径に拡張し、第2のステント直径は第1のステント直径よりも大きい。典型的には、ステントの初期直径は、約3ミリメートルであり、拡張された直径は約6ミリメートルであるが、本発明は、任意の所望のサイズのステントに適用することができることが理解される。)

(2)「[0047] In accordance with another embodiment of the invention, the expansion member can be configured as a plurality of wires which extend beyond the proximal and distal ends of the stent. Similar to the embodiments disclosed above, a mandrel can be axially inserted into an end of the plurality of wires. Preferably, the mandrel is configured with a gradual taper along the longitudinal axis which imparts an increasing radial expansion force which corresponds to the amount of axial insertion within the plurality of wires. Alternatively, a mandrel having a diameter which increases in a stepwise fashion can be employed. In one example, the mandrel is axially inserted into the distal end of the plurality of wires from the smallest diameter to largest diameter such that the taper induces a radial expansion force on the wires to force the wires to open or expand to a larger diameter. This expansion force is in turn transmitted to the stent surface, however the axial insertion force is not significantly transmitted to the stent surface. This reduction in axial force is advantageous in that it reduces the stress realized by the stent and therefore decreases the risk of strut fracture.」
(当審訳:
[0047] 本発明の別の実施形態によれば、拡張部材は、ステントの近位端および遠位端を越えて延在する複数のワイヤとして構成することができる。開示された実施の形態と同様に、マンドレルは、複数のワイヤの端部に軸方向に挿入することができる。好ましくは、マンドレルは、複数のワイヤ内の軸方向挿入の量に対応する、増加する半径方向の膨張力を付与する長手方向軸線に沿って徐々にテーパとなるよう構成されている。あるいは、段階的に増加する直径を有するマンドレルを使用することができる。一例では、マンドレルは、複数のワイヤの遠位端に軸方向に最小直径側から最大直径側へ挿入され、テーパは、ワイヤ上に半径方向の拡張力を誘導し、より大きい直径に開くか又は拡張させる。この拡張力がステント表面に伝達されるが、軸方向の挿入力は、ステント表面に伝達されない。この軸方向の力の減少は、ステントに生じる応力を減少させ、従って、ストラット破損のリスクを減少させるという点で有利である。)

(3)「[0054] Alloys having shape memory/superelastic characteristics generally have at least two phases. These phases are a martensite phase,which has a relatively low tensile strength and which is stable at relatively low temperatures, and an austenite phase, which has a relatively high tensile strength and which is stable at temperatures higher than the martensite phase.
[0055] The shape memory characteristics of the invention described above are preferably imparted to the alloy under a controlled temperature environment. This temperature control serves to make the stents more ductile during the expansion process. The increase in material ductility can be achieved while exposing the stent to a temperature, for example, of approximately -40 degrees Fahrenheit. Additionally, the desired increase in material ductility can be achieved while exposing the stentto a temperature between approximately 175 and 600 degrees Fahrenheit. Consequently, the shape of the metal during this heat treatment is the shape“remembered.”」
(当審訳:
[0054] 形状記憶/超弾性特性を有する合金は一般に少なくとも2種類の相を有している。これらの相は、比較的低い引張強さを有し且つ比較的低い温度で安定したマルテンサイト相と、比較的高い引張強さを有しマルテンサイト相よりも高い温度で安定したオーステナイト相である。
[0055] 上述した本発明の形状記憶特性は、制御された温度環境下で合金に付与されるのが好ましい。この温度制御は、拡張プロセス中のステントの延性を高めるのに役立つ。材料の延性の増大は、例えば、−40°Fの温度にステントを露出させて達成することができる。さらに、約175°Fと600°Fの間の温度にステントを露出させながら材料の延性の所望の増加を達成することができる。その結果、この熱処理中のその金属の形状は形状記憶される。)

(4)上記(1)の段落[0037]の「本発明に従って形成されたステントは、ニチノール(Ni−Ti合金)などの形状記憶合金から作られることが好ましい。ニチノール・ステントを製造する場合、材料は先ずチューブの形態である。」という記載並びに段落[0038]及び[0039]の記載から、引用文献1には、ニチノール(Ni−Ti合金)などの形状記憶合金から作られるステントを拡張させる方法が記載されている。

(5)上記(3)の段落[0055]の「さらに、約175°Fと600°Fの間の温度にステントを露出させながら材料の延性の所望の増加を達成することができる。」という記載から、ステントを約175°F(摂氏に換算すると79.4℃)と600°F(同315.6℃)の間の温度にステントを露出することにより材料の延性が増加することが分かる。また、同段落の「その結果、この熱処理中のその金属の形状は形状記憶される。」という記載から、該約175°F(79.4℃)と600°F(315.6℃)の間の温度が、ステントを拡張させる温度であり、形状を記憶する温度(形状記憶温度)でもあることが分かる。

(6)上記(1)の段落[0039]の「典型的には、ステントの初期直径は、約3ミリメートルであり、拡張された直径は約6ミリメートルである」との記載から、拡張された直径の初期直径に対する比は2:1であるといえる。

上記(1)ないし(6)の記載事項及び認定事項並びに図面の図示内容から、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

〔引用発明〕
「形状記憶合金のステントを拡張する方法であって、
該方法は、
形状記憶合金のステントを79.4℃〜315.6℃の形状記憶温度範囲内にある温度にて、形状記憶合金のステントを、初期直径から拡張された直径に拡張させること;を含み、
ここで、前記拡張された直径の前記初期直径に対する比は2:1であり、
前記方法は、79.4℃〜315.6℃の前記形状記憶温度範囲内にある温度で、形状記憶合金のステントに対して実施される、前記方法。」

2 引用文献2
原査定の拒絶理由に引用された特開昭61−20618号公報(以下「引用文献2」という。)には、「形状記憶合金棒・線材の製造方法」の発明に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。

(1)「本発明は形状記憶合金、特にNi−Ti系合金の棒・線材を製造する方法に関するものである。
このような形状記憶合金の棒・線材は、一般に次の工程によって製造される。
1.二種以上の所定の金属を所定の比率で混合して溶解し鋳塊を得る工程1.
2.該鋳塊を700〜900℃に加熱して鍛造および圧延を行い(熱間加工)素棒・線材を得る工程2.
3.該素棒・線材の冷間引抜き加工によって棒・線材を得る工程3
しかしながら上記工程3の冷間引抜き加工においては形状記憶合金材料は加工性が悪く10〜20%減面加工した時点で中間焼鈍を行い再び冷間引抜き加工を行う方法がとられており、したがって加工コストが大巾に増加して形状記憶合金棒・線材を安価に提供することが出来ない。」(1ページ左下欄14行ないし右下欄11行)

(2)「本発明は上記従来の問題点を解消して形状記憶合金を能率よく、しかも容易に加工することを目的とし、上記工程3において素棒・線材を300〜1000℃に加熱して引抜き加工を行うことを骨子とするものである。
即ち本発明者等は上記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、形状記憶合金、特にNi−Ti系合金についての高速引張り試験において破断時の絞り値(減面率)と温度との関係を求めると300〜1000℃の温度範囲で該絞り値が一定以下になることを見出し本発明を完成した。」(2ページ左上欄4行ないし14行)

(3)「本発明の対象とする形状記憶合金とは主としてNi−Ti合金、あるいは該Ni−Ti合金に更にCu,Al,Zr,Co,Cr,Ta,V,Mo,Nb,Pd,Pt,Mn,Fe等の第三成分の一種もしくは二種以上を添加したNi−Ti系合金であるが、更にAu−Cd合金,Ag−Cd合金,Au−Ag−Cd合金,Cu−Al−Ni合金,Cu−Zn合金等すべての種類の形状記憶合金を含むものである。
本発明は上記形状記憶合金からなる素棒・線材を300〜1000℃に加熱して引抜き加工を行うことを骨子とするものである。そして該素棒・線材は通常上記形状記憶合金の成分となるべき二種以上の所定の金属を所定の比率で混合して溶解し鋳塊を得たる後、該鋳塊を熱間加工することによって得られる。上記鋳塊製造工程においては金属の溶解に通常高周波誘導加熱が適用される。更に該鋳塊より素棒・線材を得るには該鋳塊を700〜900℃に加熱して鍛造を行い、更に700〜900℃に加熱して圧延を行い、このような熱間加工によって素棒・線材を得、該素棒・線材を300〜1000℃に加熱して引抜き加工を行い棒・線材を得る。引抜き加工を行うにはスウェージング,ローラーダイス,マイクロミル,固定ダイス等を用いる。またNi−Ti系合金ではTiが45重量%前後含まれるから800℃以上を越えると酸化のおそれがある。したがって300〜800℃の温度範囲を適用することが望ましい。上記温度範囲における加熱によって形状記憶合金材料は引抜き加工の間に生ずる歪が除去されるから中間焼鈍することなくして98%以上の減面率まで加工が可能になる。更に中間焼鈍と同等の効果を付与するには500〜800℃の温度範囲の加熱が望ましい。」(2ページ左上欄16行ないし左下欄8行)

(4)「実施例
工程1.
Ni:Ti=44:56重量比の混合金属粉を高周波誘導炉で溶解して3kgのNi−Ti合金鋳塊を得る。
工程2.
該鋳塊を900℃に加熱して30mmφの棒状に鍛造し、更に900℃に加熱して圧延を行い8mmφの素棒・線材を得る。
工程3.
該素棒・線材を長さ2mの環状炉に通じて600℃に加熱し、次いでステアリン酸カルシウム粉末を該素棒・線材表面に塗布した後固定ダイスによって中間焼鈍することなくして引抜き加工を行い1.2mmφの棒・線材を得る。
該引抜き加工は円滑に行われ、引き切れ等の不具合は皆無であった。」(2ページ右下欄1行ないし17行)

(5)「試験
実施例の棒・線材と比較例の棒・線材との機械的性質を第1表に示す。

第1表(略)

第1表によれば実施例の棒・線材の伸びは比較例に比してはるかに大きくなっている。したがって本発明の方法によれば冷間加工性が容易になり製造工程が著るしく短縮されるのみならず得られる棒・線材の機械的性質も大巾に改良される。」(3ページ左上欄10行ないし右上欄6行)

上記(1)ないし(5)の記載事項から、引用文献2には、以下の事項(以下「引用文献2記載事項」という。)が記載されているといえる。

〔引用文献2記載事項〕
「Ni−Ti合金等の形状記憶合金を、能率良く、容易に加工するために、300℃〜800℃の温度範囲で引き抜き加工を行うこと。」

第5 対比
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「形状記憶合金のステント」は、その機能、構成又は技術的意義からみて、本願発明における「医療機器の形状記憶物品」及び「形状記憶合金(SMA)製の物品」に相当し、以下同様に、「形状記憶温度」は「形状固定温度」に、「初期直径」は「第1の(小)寸法」に、「拡張された直径」は「第2の(大)寸法」に、「拡張させる」は「変形させる」に、それぞれ相当する。
引用文献1の図1並びに図2A及び2Bを参照すると、引用発明においては、一つのステント(10)を対象としていると理解できるから、引用発明の「形状記憶合金のステント」は「単一の物品」である。
また、引用発明における「温度」と、本願発明における「単一の温度」とは、「温度」という限りにおいて一致する。
そうすると、本願発明と引用発明の一致点及び相違点は以下のとおりである。

〔一致点〕
「医療機器の形状記憶物品を形成する方法であって、
該方法は、
形状記憶合金(SMA)製の物品を形状固定温度範囲内にある温度にて、該物品を、第1の(小)寸法から第2の(大)寸法に変形させること;を含み、
前記方法は、前記形状固定温度範囲内の温度で単一の物品に対し実施される、前記方法。」

〔相違点1〕
本願発明は、「単一の工程で、形状記憶合金(SMA)製の物品を300℃〜650℃の形状固定温度範囲内にある単一の温度に維持しつつ、該物品を、第1の(小)寸法から第2の(大)寸法に変形させる」こと、すなわち、「物品の第1の寸法から第2の寸法に変形させること」を、「単一の工程」で「300℃〜650℃の前記形状固定温度範囲内の前記単一の温度」で実施させるものであるのに対し、引用発明は、「形状記憶合金のステントを79.4℃〜315.6℃の形状記憶温度範囲内にある温度にて、形状記憶合金のステントを、初期直径から拡張された直径に拡張させること」、すなわち、「形状記憶合金のステントを、初期直径から拡張された直径に拡張させること」を、「79.4℃〜315.6℃の前記形状記憶温度範囲内にある温度」で実施させる点。

〔相違点2〕
本願発明は、「第2の(大)寸法」の「第1の(小)寸法」に対する比は、「約3:1よりも大き」いのに対して、引用発明は、拡張された直径の初期直径に対する比は2:1である点。

第6 判断
上記相違点1について検討する。
相違点1にかかる本願発明の発明特定事項である、「単一の工程で、形状記憶合金(SMA)製の物品を300℃〜650℃の形状固定温度範囲内にある単一の温度に維持しつつ、該物品を、第1の(小)寸法から第2の(大)寸法に変形させること」は、本願の発明の詳細な説明の段落【0004】ないし【0007】及び【0009】並びに図1及び2の記載を参酌すると、「形状記憶合金(SMA)製の物品を第1の(小)寸法から第2の(大)寸法に変形させる」間を「単一の工程」とし、この「単一の工程」では「形状記憶合金(SMA)製の物品を300℃〜650℃の形状固定温度範囲内にある単一の温度に維持し、該物品の冷却を行わない」ことと理解できる。
他方、引用文献1には「[0055] 上述した本発明の形状記憶特性は、制御された温度環境下で合金に付与されるのが好ましい。この温度制御は、拡張プロセスの間にステントをより延性にする働きをする。材料の延性の増大は、例えば、−40°Fの温度にステントを露出させて達成することができる。・・・・さらに、約175°Fと600°Fの間の温度にステントを露出させながら材料の延性の所望の増加を達成することができる。その結果、この熱処理中のその金属の形状は形状記憶される。)」(上記記載事項(3))との記載及び「[0039] 拡張部材は、ステントの近位端または遠位端のいずれかに挿入され、拡張部材は、ステントの長手方向軸に沿って延在し、初期の未拡張直径を有する。ステント内への拡張部材の挿入を可能にするために拡張部材の初期未拡張直径はステントの初期未拡張直径より小さい。拡張部材を半径方向に拡張して第2の拡張直径にすることができ、拡張部材によってステントに加えられる半径方向の力は、結果としてステントを第2のステント直径に拡張し、第2のステント直径は第1のステント直径よりも大きい。」(上記記載事項(1))との記載を合わせ読めば、引用発明のステントを初期の未拡張直径から第2の拡張直径に拡張するプロセスにおいては、材料の延性の所望の増加を達成するために、約175°Fと600°Fの間の温度にステントを露出するよう温度制御をするものであって、その間に冷却を行わないことも、容易に理解できることである。
してみると、引用発明において、形状記憶合金のステントを175°F〜600°F(79.4℃〜315.6℃)の形状記憶温度範囲内にある温度にて、その間冷却を行うことなく、「初期直径から拡張された直径に拡張させること」は、当業者が容易に想到できたことである。そして、このような「初期直径から拡張された直径に拡張させる」ことは本願発明の「単一の工程」に相当するものといえる。さらに、金属の加工時の温度を一定とすることは、例を挙げるまでもなく周知の技術であるから、拡張プロセスの間、単一の温度に維持することもまた、当業者が容易に想到できたことである。
そして、引用発明と本願発明の温度範囲を改めて見ると、両者は300℃〜315.6℃の範囲内で一致する。さらに、引用文献2記載事項は「Ni−Ti合金等の形状記憶合金を、能率良く、容易に加工するために、300℃〜800℃の温度範囲で引き抜き加工を行うこと。」というものであり、引用発明において、引用文献2記載事項を参照することにより、温度範囲を上方に広げ300℃〜650℃とすることは、当業者が適宜なし得たことである。
そうすると、上記相違点1に係る本願発明の発明特定事項は、引用発明及び引用文献2記載事項に基いて、当業者が容易に想到することができたものである。

上記相違点2について検討する。
引用文献1の段落[0039]には「ここで、第2のステント直径は第1のステント直径よりも大きい。典型的には、ステントの初期直径は、約3ミリメートルであり、拡張された直径は約6ミリメートルであるが、本発明は、任意の所望のサイズのステントに適用することができることが理解される。」との記載がある。すなわち、引用発明において、第2の寸法は任意の所望の値とすることができることは、当業者であれば容易に理解し得ることである。
そして、本願の発明の詳細な説明の記載を参酌しても、本願発明において、第2の(大)寸法の第1の(小)寸法に対する比を、約3:1よりも大きくした点に、臨界的意義も見いだせない。
そうすると、引用発明において、物品に必要な大きさを踏まえて、当業者がその通常の創作能力の範囲内で拡張された直径の初期直径に対する比を約3:1よりも大きくし、上記相違点2に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易になし得たことである。

そして、全体として見ても、本願発明が奏する作用効果は、引用発明及び引用文献2記載事項から当業者が予測し得る範囲内のものであって、格別なものではない。
したがって、本願発明は、引用発明及び引用文献2記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第7 請求人の主張について
請求人は、令和2年11月10日の意見書において「引用文献1は、形状記憶ステントを「段階的に(stepwise)」拡張するための装置を教示しています。これは、拡張中に複数の工程(step)が使用されることを意味します。これは、「従来の方法」を記載する背景技術の説明からも明らかなように、ステント拡張に対する従来のアプローチです。引用文献1における課題として、複数のマンドレルの必要性が挙げられていますが、複数の熱処理、または段階的な拡張を排除することについて教示していません。引用文献1が教示するのは、第1の拡張直径から第2の拡張直径に調整可能なマンドレルです。引用文献1は、1つのマンドレルからステントを引き抜いて、より大きな直径の別のマンドレルにステントを押し付けることによるストレスを回避するための改善を行うことを目的としています。例えば、段落[0035]を参照されたい。換言すると、引用文献1によると、複数の熱処理工程の間にステントをマンドレルから取り外す必要が無くなります。しかしながら、これは、段階的、つまり複数の工程の熱処理をしないことを意味するものではなく、そしてこのことが本願発明との直接的な違いです。実際、引用文献1には、ステントが3mmから6mmまで拡張され得ると記載があります。しかしながら、引用文献1では、1回の熱設定工程で3mmから6mmに調整するとは開示しておりません。引用文献1は、単に拡張部材がこれらの直径範囲間で調整可能であることを開示しており、そのような拡張が複数の熱処理工程によって達成されることが示唆されています。」と主張し、令和3年4月30日の意見書及び審判請求書において「引用文献1には明確に、「The method of the invention provides for the stepwise expansion of shape memory stents, while reducing the overall stresses that the stent encounters, and thereby improving manufacturing yields due to fractured struts during expansion.(訳:本発明の方法は、形状記憶ステントの段階的拡張を提供する一方で、ステントが受ける全体的な応力を低減し、それにより、拡張中のストラットの破損による製造歩留まりを改善する。)」(下線は強調のため付した)と記載されています。つまり、引用文献1は本願発明のような単一の工程で拡張させることについては記載がなく、直径の拡張は段階的又は漸次的にしか行われておりません。」と主張している。

該主張について検討すると、上記相違点1についての検討において述べたとおり、引用文献1の段落[0039]及び[0055]の記載から、温度制御は、拡張プロセスの間にステントをより延性にするために行われ、175°Fと600°Fの間の温度で材料の延性が増加することが理解できるから、引用発明においても、形状記憶合金のステントを175°F〜600°F(79.4℃〜315.6℃)の形状記憶温度範囲内にある温度にて、その間冷却を行うことなく、1回の熱設定工程で初期直径から拡張された直径に拡張させることは、当業者が、容易に想到できたことである。
したがって、請求人の主張は採用できない。

第8 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び引用文献2記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
したがって、上記結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。

審判長 水野 治彦
出訴期間として在外者に対し90日を附加する。
 
審理終結日 2022-05-18 
結審通知日 2022-05-24 
審決日 2022-06-07 
出願番号 P2019-105368
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F03G)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 水野 治彦
特許庁審判官 鈴木 充
木村 麻乃
発明の名称 単一ステップの形状記憶合金拡張  
代理人 胡田 尚則  
代理人 出野 知  
代理人 青木 篤  
代理人 三橋 真二  
代理人 南山 知広  
代理人 鶴田 準一  
代理人 渡辺 陽一  

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