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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G06F
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G06F
管理番号 1390274
総通号数 11 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-11-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-10-18 
確定日 2022-11-08 
事件の表示 特願2018−534460「マルチビューインタラクティブデジタルメディア表現へのオーディオの統合」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 3月30日国際公開、WO2017/053197、平成30年11月29日国内公表、特表2018−535499、請求項の数(20)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2016年(平成28年)9月16日(パリ条約による優先権主張2015年9月22日 米国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は次のとおりである。

令和2年11月 4日付け:拒絶理由通知書
令和3年 5月10日 :意見書、手続補正書の提出
令和3年 6月15日付け:拒絶査定(原査定)
令和3年10月18日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和4年 4月21日付け:拒絶理由通知書
令和4年 7月22日 :意見書、手続補正書の提出


第2 原査定の概要
原査定(令和3年6月15日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本願請求項1−20に係る発明は、以下の引用文献1,2に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開2013−250838号公報
2.特開2013−093840号公報


第3 当審拒絶理由の概要
令和4年4月21日付けで当審が通知した拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)の概要は次のとおりである。

理由1(サポート要件)
この出願は、特許請求の範囲の請求項1−20の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

理由2(明確性要件)
この出願は、特許請求の範囲の請求項1−20の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。


第4 本願発明
本願請求項1−20に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」−「本願発明20」という。)は、令和4年7月22日に提出された手続補正書に係る手続補正(以下、「本件補正」という。)により補正された特許請求の範囲の1−20に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1,19,20は以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
画像データのマルチビューインタラクティブデジタルメディア表現を取り出すステップであって、前記マルチビューインタラクティブデジタルメディア表現は、モバイルデバイスからキャプチャされた複数の二次元(2D)画像を含み、複数の前記2D画像は、内容モデルおよびコンテクストモデルに融合され、前記画像データを見る視点を選択することにより、前記内容モデルと前記コンテクストモデルは融合され、前記マルチビューインタラクティブデジタルメディア表現をナビゲート可能に三次元にレンダリングし、前記内容モデルと前記コンテクストモデルは、前記モバイルデバイスにて内部の計測装置からキャプチャされた位置情報に部分的に基づいて融合され、前記内容モデルは物体を含み、前記コンテクストモデルは前記物体を取り巻く風景を含む、マルチビューインタラクティブデジタルメディア表現を取り出すステップと、
前記マルチビューインタラクティブデジタルメディア表現に統合されるべきオーディオデータを取り出すステップであって、前記オーディオデータおよび複数の前記2D画像は別個にキャプチャされ、前記オーディオデータは複数の前記2D画像がキャプチャされた時間とは異なる時間で記録された別個のオーディオファイルを含み得る、オーディオデータを取り出すステップと、
ナビゲーションの間、前記マルチビューインタラクティブデジタルメディア表現のある位置又はフレームに到達すると、前記オーディオデータのある部分が演奏されるように前記オーディオデータを前記マルチビューインタラクティブデジタルメディア表現にアタッチするステップと、
第1のセグメントを前記マルチビューインタラクティブデジタルメディア表現の第1の位置に関連付けるステップと、
前記マルチビューインタラクティブデジタルメディア表現を通じたユーザのナビゲーションに基づいて、前記マルチビューインタラクティブデジタルメディア表現と協調して前記オーディオデータを再生するステップであって、前記マルチビューインタラクティブデジタルメディア表現内の前記第1の位置は、前記第1のセグメントの再生をトリガし、前記第1の位置は、物体の位置またはキャプチャデバイスの位置である、再生するステップと
を含む、方法。
【請求項19】
画像データのマルチビューインタラクティブデジタルメディア表現を取り出すためのコンピュータコードであって、前記マルチビューインタラクティブデジタルメディア表現は、モバイルデバイスからキャプチャされた複数の二次元(2D)画像を含み、複数の前記2D画像は、内容モデルおよびコンテクストモデルに融合され、前記画像データを見る視点を選択することにより、前記内容モデルと前記コンテクストモデルは融合され、前記マルチビューインタラクティブデジタルメディア表現をナビゲート可能に三次元にレンダリングし、前記内容モデルと前記コンテクストモデルは、前記モバイルデバイスにて内部の計測装置からキャプチャされた位置情報に部分的に基づいて融合され、前記内容モデルは物体を含み、前記コンテクストモデルは前記物体を取り巻く風景を含む、マルチビューインタラクティブデジタルメディア表現を取り出すためのコンピュータコードと、
前記マルチビューインタラクティブデジタルメディア表現に統合されるべきオーディオデータを取り出すためのコンピュータコードであって、前記オーディオデータおよび複数の前記2D画像は別個にキャプチャされ、前記オーディオデータは複数の前記2D画像がキャプチャされた時間とは異なる時間で記録された別個のオーディオファイルを含み得る、オーディオデータを取り出すためのコンピュータコードと、
ナビゲーションの間、前記マルチビューインタラクティブデジタルメディア表現のある位置又はフレームに到達すると、前記オーディオデータのある部分が演奏されるように前記オーディオデータを前記マルチビューインタラクティブデジタルメディア表現にアタッチするためのコンピュータコードと、
第1のセグメントを前記マルチビューインタラクティブデジタルメディア表現の第1の位置に関連付けるためのコンピュータコードと、
前記マルチビューインタラクティブデジタルメディア表現を通じたユーザのナビゲーションに基づいて、前記マルチビューインタラクティブデジタルメディア表現と協調して前記オーディオデータを再生するためのコンピュータコードであって、前記マルチビューインタラクティブデジタルメディア表現内の前記第1の位置は、前記第1のセグメントの再生をトリガする、再生するためのコンピュータコードと
を備える、非一時的なコンピュータ可読媒体。
【請求項20】
画像データのマルチビューインタラクティブデジタルメディア表現を取り出すステップであって、前記マルチビューインタラクティブデジタルメディア表現は、モバイルデバイスからキャプチャされた複数の二次元(2D)画像を含み、複数の前記2D画像は、内容モデルおよびコンテクストモデルに融合され、前記画像データを見る視点を選択することにより、前記内容モデルと前記コンテクストモデルは融合され、前記マルチビューインタラクティブデジタルメディア表現をナビゲート可能に三次元にレンダリングし、前記内容モデルと前記コンテクストモデルは、前記モバイルデバイスにて内部の計測装置からキャプチャされた位置情報に部分的に基づいて融合され、前記内容モデルは物体を含み、前記コンテクストモデルは前記物体を取り巻く風景を含む、マルチビューインタラクティブデジタルメディア表現を取り出すステップと、
前記マルチビューインタラクティブデジタルメディア表現に統合されるべきオーディオデータを取り出すステップであって、前記オーディオデータおよび複数の前記2D画像は別個にキャプチャされ、前記オーディオデータは複数の前記2D画像がキャプチャされた時間とは異なる時間で記録された別個のオーディオファイルを含み得る、オーディオデータを取り出すステップと、
ナビゲーションの間、前記マルチビューインタラクティブデジタルメディア表現のある位置又はフレームに到達すると、前記オーディオデータのある部分が演奏されるように前記オーディオデータを前記マルチビューインタラクティブデジタルメディア表現にアタッチするステップと、
前記オーディオデータを処理するステップであって、前記オーディオデータを処理するステップは、前記オーディオデータを第1のセグメントと第2のセグメントとにセグメント化し、前記第1のセグメントを前記マルチビューインタラクティブデジタルメディア表現の第1の位置に関連付け、前記第2のセグメントを前記マルチビューインタラクティブデジタルメディア表現の第2の位置に関連付けるステップを含む、前記オーディオデータを処理するステップと、
前記マルチビューインタラクティブデジタルメディア表現を通じたユーザのナビゲーションに基づいて、前記マルチビューインタラクティブデジタルメディア表現と協調して前記オーディオデータを再生するステップであって、前記マルチビューインタラクティブデジタルメディア表現内の前記第1の位置が描写されるときに前記第1のセグメントが再生され、前記マルチビューインタラクティブデジタルメディア表現内の前記第2の位置が描写されるときに前記第2のセグメントが再生される、再生するステップと
を含む、方法。」

なお、本願発明2−18は、本願発明1を減縮した発明である。


第5 引用文献、引用発明
1 引用文献1、引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審による。以下同様。)。

「【0005】
それ故に、本発明の目的は、パノラマ動画を表示する際に臨場感を高めることができる情報処理プログラム、情報処理装置、情報処理システム、および情報処理方法を提供することである。」

「【0007】
本発明の情報処理プログラムの一構成例は、スピーカが設けられた少なくとも1つの第1の表示装置に画像を表示する情報処理装置に含まれるコンピュータで実行される。情報処理プログラムは、パノラマ動画取得手段、表示範囲設定手段、音声生成手段、表示制御手段、音声出力制御手段として、コンピュータを機能させる。パノラマ動画取得手段は、パノラマ動画を記憶したパノラマ動画記憶手段から、パノラマ動画を読み出して逐次取得する。表示範囲設定手段は、取得されたパノラマ動画において、ユーザ操作に応じて第1の表示装置に表示する表示範囲を設定する。音声生成手段は、第1の表示装置に表示する画像と同期して出力する音声を、表示範囲に基づいて生成する。表示制御手段は、取得されたパノラマ動画のうち、表示範囲内のパノラマ動画を第1の表示装置に逐次表示する制御を行う。音声出力制御手段は、音声生成手段が生成した音声を、第1の表示装置に表示する画像と同期してスピーカから出力する制御を行う。
【0008】
上記「情報処理装置」は、第1の表示装置とは別の装置によって構成されてもよいし、第1の表示装置が情報処理機能を有する場合には第1の表示装置によって構成されてもよい。また、前者の場合、「別の装置」によって本発明の各処理を実行し、第1の表示装置は「別の装置」によって生成された画像を表示処理するのみでもよいし、第1の表示装置が情報処理機能を有する場合には、第1の表示装置の情報処理機能と「別の装置」の情報処理機能との協同により実現してもよい。また、「別の装置」は複数の情報処理装置によって分散処理するものであってもよい。「情報処理装置」は、後述する実施形態で例示したゲーム装置の他、一般的なパーソナルコンピュータのような多用途の情報処理装置であってもよい。
【0009】
上記第1の表示装置は、一例として、可搬型表示装置である。また、上記第1の表示装置は、他の例として、据置型表示装置である。これらの場合、第1の表示装置は、後述する実施形態における端末装置2やモニタ4のように情報処理装置に無線または有線接続された表示装置であり、情報処理装置によって生成された表示画像を表示することが可能なものであればどのようなものであってもよい。例えば、上記第1の表示装置は、情報処理装置と一体に(1つの筐体内に)構成されるものであってもよい。」

「【0011】
上記「パノラマ動画記憶手段」には、当該情報処理装置が有する当該パノラマ動画の撮像機能により撮像された動画を記憶してもよいし、当該動画の撮像機能を有する他の装置により撮像された動画を所定の記憶媒体やネットワークを介して取り込んで記憶してもよい。」

「【0023】
また、上記音声生成手段は、パノラマ動画における表示範囲と音源の位置とが所定の関係となった場合に、当該位置を音源とする音声を第1の表示装置に表示する画像と同期して出力する音声として選択してもよい。

「【0075】
上述したように端末装置2には、パノラマ動画の再生の進行にしたがって、記憶されているパノラマ動画の各フレームとなるパノラマ画像が所定時間毎に読み出されて順次表示される。ここで、各フレームのパノラマ画像を仮想空間中の立体モデルの内面にテクスチャとして貼りつけて、当該モデルの内側に配置された仮想カメラC1から当該内面を見ることによって、端末装置2に表示されるパノラマ画像が生成され、当該仮想カメラC1の方向を端末装置2の姿勢に応じて変更する。したがって、ユーザは、図4に示すように、端末装置2を介して、パノラマ画像が表す空間をあたかも覗いているような画像を見ることができる。なお、上述したように、本実施形態では、立体モデルが立方体(6面体)であるが、図4では簡便のため、立体モデルを角筒状に示し当該角筒の内面にパノラマ画像がテクスチャとして貼り付けられている。そして、ユーザは、端末装置2を介して、立体モデルの中心から当該内面を覗いたような画像を見ることができる。」

「【0092】
また、パノラマ動画の再生に合わせて録音された音声を、当該パノラマ動画に付加してもかまわない。例えば、上述したようなパノラマ動画が撮像された後に、当該パノラマ動画ファイルに対応する音声ストリームが付加されたり、当該パノラマ動画を再生しているユーザが所定の操作をすることによって指示されたパノラマ動画の一部に所定の音声が付加情報として付加されたりしてもよい。前者の例としては、パノラマ動画に登場する被写体を音源として設定し、当該音源が発する音声として音声ストリームが当該パノラマ動画に予め付加される。後者の例としては、端末装置2やモニタ4に表示されているパノラマ動画の一部をユーザが指示操作しながら音声を入力することによって、当該一部に当該音声が付加情報として再生中のパノラマ動画に付加される。」

したがって、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「パノラマ動画を表示する際に臨場感を高めることができる情報処理方法であって、
スピーカが設けられた少なくとも1つの第1の表示装置に画像を表示する情報処理装置に含まれるコンピュータで実行され、
パノラマ動画を記憶したパノラマ動画記憶手段から、パノラマ動画を読み出して逐次取得し、
取得されたパノラマ動画において、ユーザ操作に応じて第1の表示装置に表示する表示範囲を設定し、
第1の表示装置に表示する画像と同期して出力する音声を、表示範囲に基づいて生成し、
表示範囲内のパノラマ動画を第1の表示装置に逐次表示し、
生成した音声を、第1の表示装置に表示する画像と同期してスピーカから出力し、
情報処理装置は、ゲーム装置であってもよく、
第1の表示装置は、可搬型表示装置であって、情報処理装置と一体に構成されるものであってもよく、
パノラマ動画記憶手段には、当該情報処理装置が有する当該パノラマ動画の撮像機能により撮像された動画を記憶してもよく、
パノラマ動画における表示範囲と音源の位置とが所定の関係となった場合に、当該位置を音源とする音声を第1の表示装置に表示する画像と同期して出力する音声として選択してもよく、
パノラマ動画の再生の進行にしたがって、記憶されているパノラマ動画の各フレームとなるパノラマ画像が所定時間毎に読み出され、各フレームのパノラマ画像を仮想空間中の立体モデルの内面にテクスチャとして貼りつけてパノラマ画像が生成され、ユーザは、パノラマ画像が表す空間をあたかも覗いているような画像を見ることができ、
パノラマ動画が撮像された後に、当該パノラマ動画ファイルに対応する音声ストリームが付加されてもよい、
情報処理方法。」

2 引用文献2
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている(以下、「引用文献2記載の技術的事項」という。)。

「【0032】
図2は、本発明の一実施形態による立体効果を提供する映像処理部の構成を示すブロック図である。
【0033】
図2を参照すると、映像処理部102は、映像データ獲得モジュール113、被写体確認部114、位置情報分析部115、及び遠近情報分析部116を含んで構成される。
【0034】
映像データ獲得モジュール113は、カメラモジュールを備え、カメラモジュールに入力されるデジタル映像信号を利用して多数の映像データを獲得する。この時、映像データ獲得モジュール113は、多数のカメラモジュールを備え、同一の被写体をそれぞれ別の角度で撮影して視点が異なる多数の映像データを獲得する。
【0035】
被写体確認部114は、映像データ獲得モジュール113によって獲得された映像データを被写体と背景とを区分するように処理する。ここで、被写体はユーザーが獲得しようとする映像データの焦点領域になる。」

「【0062】
図5を参照すると、ポータブル端末は、先ず301段階でオーディオデータ獲得モジュールを作動させた後、303段階に進行してオーディオデータを獲得する。ここで、オーディオデータ獲得モジュールは、映像データの獲得の際に、周辺で発生するオーディオデータを収集するマイクを意味し、ポータブル端末は、多数のマイクを具備して映像データの被写体で発生するオーディオデータと、被写体を除いた背景で発生するオーディオデータを獲得する。
【0063】
次に、ポータブル端末は、305段階に進行して、獲得したオーディオデータから映像データの被写体で発生したオーディオデータである第1オーディオデータ(主信号)を分類する。ここで、ポータブル端末は、映像データの被写体の位置情報を基盤にして第1オーディオデータを分類し、この時、ポータブル端末は、マイクアレイ及びビーム形成技術を基盤にして、被写体の方向を照準して第1オーディオデータを区分する。また、ポータブル端末は、単純に入力された一つ以上のオーディオチャンネルの共通成分(モノラル)を分離することにより、純粋なステレオ成分で構成された第1オーディオデータを区分する。
【0064】
次に、ポータブル端末は、307段階で、獲得したオーディオデータから映像データの周辺で発生したオーディオデータである第2オーディオデータ(背景信号)を分類する。
【0065】
この時、ポータブル端末は、獲得したオーディオデータから第1オーディオデータを除いた背景オーディオデータを抽出することで、上述のようにマイクアレイ及びビーム形成技術を基盤にして、背景方向を照準して周辺の背景に対する第2オーディオデータを抽出する。また、ポータブル端末は、獲得したオーディオデータから第1オーディオデータを差引して第2オーディオデータを抽出する。
【0066】
次に、ポータブル端末は、309段階で、映像データの被写体に対する位置及び遠近情報を確認した後、311段階に進行して被写体の位置及び遠近情報に合わせて第1オーディオデータと第2オーディオデータに立体効果を適用するように処理する。
【0067】
即ち、ポータブル端末は、被写体の遠近情報によって第1オーディオデータと第2オーディオデータの発生方向、角度などを設定することで、HRTF(Head Related Transfer Function)を基盤にして、第1オーディオデータと第2オーディオデータを遠近情報に合わせて同期化させる。即ち、ポータブル端末は、映像データの被写体が端末のユーザー方向に移動する場合、第1オーディオデータの強さを大きく調整(第2オーディオデータの強さを小さく調整)し、低周波信号の量を相対的に増加させるように処理する。また、ポータブル端末は、映像データの被写体が端末のユーザー方向から離れる場合、第1オーディオデータの強さを小さく調整して第2オーディオデータを大きく調整し、低周波信号の量を相対的に差引して残響を追加するように処理する。」


第6 対比・判断

1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを比較すると、次のことがいえる。

ア 引用発明における「パノラマ動画」は、「ユーザ操作に応じて」その表示範囲が設定されるものであり、表示範囲を設定することは視点を設定することといえるから、引用発明の「パノラマ動画」は、本願発明1における「画像データのマルチビューインタラクティブ表現」に相当する。

イ 引用発明における「パノラマ動画を記憶したパノラマ動画記憶手段から、パノラマ動画を読み出して逐次取得」することは、上記アを踏まえると、本願発明1における「画像データのマルチビューインタラクティブ表現を取り出すステップ」に相当する。

ウ 引用発明において、「第1の表示装置」は「可搬型表示装置であって、情報処理装置と一体に構成されるものであってもよ」いことから、引用発明の「情報処理装置」は「可搬型」であってよいといえるから、引用発明の「情報処理装置」は、本願発明1の「モバイルデバイス」に相当する。

エ 引用発明において、「記憶されているパノラマ動画」は「各フレームとなるパノラマ画像」からなるものであるから、引用発明の「パノラマ動画記憶手段には、当該情報処理装置が有する当該パノラマ動画の撮像機能により撮像された動画を記憶してもよ」いことは、上記ウを踏まえると、本願発明1における「前記マルチビューインタラクティブデジタルメディア表現は、モバイルデバイスからキャプチャされた複数の二次元(2D)画像を含」むことに相当する。

オ 引用発明において、「各フレームのパノラマ画像を仮想空間中の立体モデルの内面にテクスチャとして貼りつけてパノラマ画像が生成され」ることは、本願発明1における「三次元にレンダリング」することに相当する。

カ 引用発明において、「パノラマ動画を記憶したパノラマ動画記憶手段から、パノラマ動画を読み出して逐次取得し、取得されたパノラマ動画において、ユーザ操作に応じて第1の表示装置に表示する表示範囲を設定し」、「各フレームのパノラマ画像を仮想空間中の立体モデルの内面にテクスチャとして貼りつけてパノラマ画像が生成され、ユーザは、パノラマ画像が表す空間をあたかも覗いているような画像を見ることができ」ることは、上記イ、オを踏まえると、本願発明1における「複数の前記2D画像は、内容モデルおよびコンテクストモデルに融合され、前記画像データを見る視点を選択することにより、前記内容モデルと前記コンテクストモデルは融合され、前記マルチビューインタラクティブデジタルメディア表現をナビゲート可能に三次元にレンダリングするマルチビューインタラクティブデジタルメディア表現を取り出すステップ」と、「複数の前記2D画像は、前記画像データを見る視点を選択することにより、前記マルチビューインタラクティブデジタルメディア表現をナビゲート可能に三次元にレンダリングするマルチビューインタラクティブデジタルメディア表現を取り出すステップ」である点で共通すると言える。

キ 引用発明において、「第1の表示装置に表示する画像と同期して出力する音声を、表示範囲に基づいて生成」することは、本願発明1における「前記マルチビューインタラクティブデジタルメディア表現に統合されるべきオーディオデータを取り出すステップ」に相当する。

ク 引用発明において、「パノラマ動画が撮像された後に、当該パノラマ動画ファイルに対応する音声ストリームが付加され」ることは、本願発明1における「前記オーディオデータおよび複数の前記2D画像は別個にキャプチャされ、前記オーディオデータは複数の前記2D画像がキャプチャされた時間とは異なる時間で記録された別個のオーディオファイルを含み得る」ことに相当する。

ケ 引用発明において、「パノラマ動画における表示範囲と音源の位置とが所定の関係となった場合に、当該位置を音源とする音声を第1の表示装置に表示する画像と同期して出力する音声として選択」することは、本願発明1における「ナビゲーションの間、前記マルチビューインタラクティブデジタルメディア表現のある位置又はフレームに到達すると、前記オーディオデータのある部分が演奏されるように前記オーディオデータを前記マルチビューインタラクティブデジタルメディア表現にアタッチするステップ」に相当する。

コ 引用発明において「第1の表示装置に表示する画像と同期して出力する音声を、表示範囲に基づいて生成」することは、上記アを踏まえると、本願発明1における「前記マルチビューインタラクティブデジタルメディア表現を通じたユーザのナビゲーションに基づいて、前記マルチビューインタラクティブデジタルメディア表現と協調して前記オーディオデータを再生するステップ」に相当する。

(2)一致点・相違点
したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

[一致点]
「画像データのマルチビューインタラクティブデジタルメディア表現を取り出すステップであって、
前記マルチビューインタラクティブデジタルメディア表現は、モバイルデバイスからキャプチャされた複数の二次元(2D)画像を含み、
複数の前記2D画像は、前記画像データを見る視点を選択することにより、前記マルチビューインタラクティブデジタルメディア表現をナビゲート可能に三次元にレンダリングするマルチビューインタラクティブデジタルメディア表現を取り出すステップと、
前記マルチビューインタラクティブデジタルメディア表現に統合されるべきオーディオデータを取り出すステップであって、前記オーディオデータおよび複数の前記2D画像は別個にキャプチャされ、前記オーディオデータは複数の前記2D画像がキャプチャされた時間とは異なる時間で記録された別個のオーディオファイルを含み得る、オーディオデータを取り出すステップと、
ナビゲーションの間、前記マルチビューインタラクティブデジタルメディア表現のある位置又はフレームに到達すると、前記オーディオデータのある部分が演奏されるように前記オーディオデータを前記マルチビューインタラクティブデジタルメディア表現にアタッチするステップと、
前記マルチビューインタラクティブデジタルメディア表現を通じたユーザのナビゲーションに基づいて、前記マルチビューインタラクティブデジタルメディア表現と協調して前記オーディオデータを再生するステップと、
を含む、方法。」

[相違点1]
本願発明1において、「複数の前記2D画像」は、「内容モデルおよびコンテクストモデルに融合され」、前記画像データを見る視点を選択することにより、「前記内容モデルと前記コンテクストモデルは融合され」、「前記内容モデルと前記コンテクストモデルは、前記モバイルデバイスにて内部の計測装置からキャプチャされた位置情報に部分的に基づいて融合され、前記内容モデルは物体を含み、前記コンテクストモデルは前記物体を取り巻く風景を含む」のに対し、引用発明の「パノラマ画像」はそのように特定されていない点。

[相違点2]
本願発明1において「第1のセグメントを前記マルチビューインタラクティブデジタルメディア表現の第1の位置に関連付けるステップ」に相当する構成を、引用発明が有しているか明らかでない点。

[相違点3]
本願発明1において「前記オーディオデータを再生するステップ」が、「前記マルチビューインタラクティブデジタルメディア表現内の前記第1の位置は、前記第1のセグメントの再生をトリガし、前記第1の位置は、物体の位置またはキャプチャデバイスの位置であ」るのに対し、引用発明ではそのように特定されていない点。

(3)相違点についての判断
相違点1について検討する。
本願発明1の相違点1に係る、「複数の前記2D画像」は、「内容モデルおよびコンテクストモデルに融合され」、前記画像データを見る視点を選択することにより、「前記内容モデルと前記コンテクストモデルは融合され」、「前記内容モデルと前記コンテクストモデルは、前記モバイルデバイスにて内部の計測装置からキャプチャされた位置情報に部分的に基づいて融合され、前記内容モデルは物体を含み、前記コンテクストモデルは前記物体を取り巻く風景を含む」構成について、引用文献1,2には記載も示唆もなく、当該構成が周知であったとも認められない。

したがって,上記相違点2,3について判断するまでもなく、本願発明1は、引用発明および引用文献2記載の技術事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。

2 本願発明2−18について
本願発明2−18は、本願発明1を減縮したものであって、上記相違点1に係る構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても引用発明および引用文献2記載の技術事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

3 本願発明19,20について
本願発明19は、概ね、本願発明1の発明のカテゴリを、単に、方法の発明からコンピュータ可読媒体の発明へと変更したものであり、上記相違点1に係る構成と同様の構成を備えている。
また、本願発明20も、上記相違点1に係る構成と同様の構成を備えている。
したがって、本願発明19,20は、本願発明1と同様の理由により、当業者であっても引用発明1及び引用文献2記載の技術事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。


第7 当審拒絶理由の理由1(サポート要件)、理由2(明確性)についての判断

1 理由1(サポート要件)について
当審では、請求項1,19,20には、「一次元以上にレンダリングし」と記載されているが、「一次元以上」は一次元以上の全ての次元を含み得て、「一次元」及び「四次元以上」のモデルないし画像については、そのようなモデルないし画像がどのように表現されるのか、技術常識に照らしても当業者にとって自明とはいえない点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない旨の拒絶の理由を通知しているが、本件補正により、「三次元にレンダリングし」と補正された結果、この拒絶の理由は解消した。

2 理由2(明確性)について
(1)当審では、請求項1,19,20の「一次元以上にレンダリングし」に関して、「一次元以上」は「一次元」及び「四次元以上」を含むものであり、上記記載は「一次元にレンダリング」すること及び「四次元以上にレンダリング」することを含むこととなるが、これらが具体的にどのようにレンダリングすることを意味するのか明確でない点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない旨の拒絶の理由を通知しているが、本件補正により、「三次元にレンダリングし」と補正された結果、この拒絶の理由は解消した。

(2)当審では、請求項1,19,20の「モバイルデバイスからキャプチャされた複数の二次元(2D)画像を含み、前記2D画像は、内容モデルとコンテクストモデルとに分離され」なる記載に関して、ある任意の2D画像について、当該画像が内容モデルとコンテクストモデルとに分離されることを意味するのか、或いは、複数の二次元(2D)画像のうち、内容モデルに分類される画像とコンテクストモデルに分類される画像とがあることを意味するのか、異なる技術的思想のいずれにも解されるため技術内容が明確でない点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない旨の拒絶の理由を通知しているが、本件補正により、「モバイルデバイスからキャプチャされた複数の二次元(2D)画像を含み、前記複数の前記2D画像は、内容モデルおよびコンテクストモデルに融合され」と補正された結果、この拒絶の理由は解消した。

(3)当審では、請求項1,19,20の「複数の前記2D画像からの異なる時間」が何を意味するのか明確でない点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない旨の拒絶の理由を通知しているが、本件補正により、「複数の前記2D画像がキャプチャされた時間とは異なる時間」と補正された結果、この拒絶の理由は解消した。


第8 むすび
以上のとおり、原査定の理由によって、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2022-10-25 
出願番号 P2018-534460
審決分類 P 1 8・ 537- WY (G06F)
P 1 8・ 121- WY (G06F)
最終処分 01   成立
特許庁審判長 稲葉 和生
特許庁審判官 富澤 哲生
石井 則之
発明の名称 マルチビューインタラクティブデジタルメディア表現へのオーディオの統合  
代理人 弁理士法人浅村特許事務所  

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