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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 C09D
管理番号 1390392
総通号数 11 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-11-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2022-01-12 
確定日 2022-10-04 
事件の表示 特願2018−514594「保護膜形成用フィルムおよび保護膜形成用複合シート」拒絶査定不服審判事件〔平成29年11月 2日国際公開、WO2017/188199、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成29年4月25日を国際出願日とする出願であって(優先権主張 平成28年4月28日 日本国)、令和3年2月18日付けで拒絶理由通知がされ、令和3年4月26日に手続補正がされ、令和3年10月8日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、令和4年1月12日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされ、令和4年2月18日付けで前置報告がされたものである。

第2 原査定の概要
原査定(令和3年10月8日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。
本願請求項1〜9に係る発明は、以下の引用文献1〜7(主引用例は引用文献1又は引用文献2)に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献等一覧
1 特開2010−031183号公報
2 国際公開第2010/092804号
3 国際公開第2012/029249号(周知技術を示す文献)
4 特開2014−030029号公報(周知技術を示す文献;新たに引用された文献)
5 国際公開第2014/155756号(周知技術を示す文献;新たに引用された文献)
6 国際公開第2014/157426号(周知技術を示す文献;新たに引用された文献)
7 特開2016−015456号公報(周知技術を示す文献;新たに引用された文献)

第3 審判請求時の補正について
審判請求時の補正(以下「本件補正」という。)は、本件補正前の請求項3、8、9を削除し、また、本件補正前の独立請求項である請求項1、2、4の保護膜形成用フィルムについて、「カチオン系光重合開始剤を含まず、重量平均分子量100000〜1500000のエネルギー線硬化性基を有しない重合体(b)を含む」こと、及び本件補正前の独立請求項である請求項7の保護膜形成用フィルムについて「カチオン重合型の硬化性成分を」「含まず、重量平均分子量100000〜1500000のエネルギー線硬化性基を有しない重合体(b)を含む」を更に特定し、本件補正後の独立請求項である請求項1、2、3、6とし、更に、本件補正前の請求項1〜4、及び請求項1〜5をそれぞれ引用する請求項5及び請求項6を、本件補正後の請求項1〜3、及び請求項1〜4をそれぞれ引用する請求項4、請求項5とするものである。
1 本件補正前の請求項3、8、9についての本件補正
まず、本件補正前の請求項3、8、9を削除する本件補正は、特許法第17条の2第5項第1号の請求項の削除を目的とする補正に該当する。
2 本件補正前の請求項1、2、4、7についての本件補正
(1) 国際出願日における明細書、請求の範囲、図面(以下「国際出願日における明細書等」という。)に開示された保護膜形成用フィルムは「カチオン系光重合開始剤」又は「カチオン重合型の硬化性成分」を含まず、また明細書の段落0205の「エネルギー線硬化性基を有しない重合体(b)の重量平均分子量(Mw)は、保護膜形成用組成物(IV−1)の造膜性がより良好となる点から、10000〜2000000であることが好ましい。100000〜1500000であることがより好ましい。」との記載によると、本件補正前の請求項1、2、4、7についての本件補正は、「国際出願日における明細書等に記載した事項」との関係において、新たな技術的事項を導入するものとはいえない。
そうすると、本件補正前の請求項1、2、4、7についての本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定を満たす。
(2) また、本件補正前の請求項1、2、4、7についての本件補正は、発明特定事項を直列的に付加する補正であり、補正前の請求項における発明特定事項の一つ以上を、概念的に、より下位の発明特定事項とする補正であって、補正前発明と補正後発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題も相違しないから、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号の限定的減縮を目的とする補正に該当する。
(3) 更に、「第4 本願発明」から「第6 対比・判断」までに示すように、本件補正後の請求項1〜6に係る発明は、独立特許要件を満たすものである。
3 小括
上記のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第3項から第6項までの要件に違反しているものとはいえない。

第4 本願発明
本願請求項1〜6に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」〜「本願発明6」という。)は、令和4年1月12日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1〜6に記載された事項により特定される発明であり、以下のとおりの発明である。(下線は補正書のとおりである。)
「 【請求項1】
エネルギー線硬化性の保護膜形成用フィルムを支持シート上に備えてなる、保護膜形成用複合シートであって、
前記保護膜形成用フィルムにおいて、波長365nmの吸光係数が4.0×101ml/(g・cm)以上の光ラジカル開始剤を含み、
前記支持シートにおいて、波長1064nmの光の透過率が70%以上であり、
前記保護膜形成用フィルムが、カチオン系光重合開始剤を含まず、重量平均分子量100000〜1500000のエネルギー線硬化性基を有しない重合体(b)を含む、保護膜形成用複合シート。
【請求項2】
エネルギー線硬化性の保護膜形成用フィルムを支持シート上に備えてなる、保護膜形成用複合シートであって、
前記保護膜形成用フィルムにおいて、波長365nmの吸光係数が4.0×101ml/(g・cm)以上の光ラジカル開始剤を含み、
前記支持シートにおいて、波長532nmの光の透過率が70%以上であり、
前記保護膜形成用フィルムが、カチオン系光重合開始剤を含まず、重量平均分子量100000〜1500000のエネルギー線硬化性基を有しない重合体(b)を含む、保護膜形成用複合シート。
【請求項3】
エネルギー線硬化性の保護膜形成用フィルムを支持シート上に備えてなる、保護膜形成用複合シートであって、
前記保護膜形成用フィルムにおいて、波長365nmの吸光係数が4.0×101ml/(g・cm)以上の光ラジカル開始剤を含み、
前記保護膜形成用フィルムが、さらに治具用接着剤層を有し、カチオン系光重合開始剤を含まず、重量平均分子量100000〜1500000のエネルギー線硬化性基を有しない重合体(b)を含む、保護膜形成用複合シート。
【請求項4】
前記光ラジカル開始剤は、1分子内に芳香環を3個以上有する水素引き抜き型光ラジカル開始剤である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の保護膜形成用複合シート。
【請求項5】
前記光ラジカル開始剤は、1分子内に光分解性の基を2個以上有する光ラジカル開始剤である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の保護膜形成用複合シート。
【請求項6】
エネルギー線硬化性の保護膜形成用フィルムであって、
前記保護膜形成用フィルムにおいて、波長365nmの吸光係数が4.0×101ml/(g・cm)以上の光ラジカル開始剤を含み、
前記保護膜形成用フィルムが、エポキシ樹脂、及びカチオン重合型の硬化性成分をいずれも含まず、重量平均分子量100000〜1500000のエネルギー線硬化性基を有しない重合体(b)を含む、保護膜形成用フィルム。」

第5 引用文献、引用発明等
1 引用文献1及び引用発明1
(1) 引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている。(下線は引用箇所を示すために当審が付加した。)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)バインダーポリマー成分、(B)カチオン重合型の硬化性成分、(C)カチオン系光重合開始剤、(D)ラジカル重合型の硬化性成分、及び(E)ラジカル系光重合開始剤を含有してなるエネルギー線硬化型保護膜形成層を有することを特徴とするエネルギー線硬化型チップ保護用フィルム。
【請求項2】
前記ラジカル系光重合開始剤(E)が、350nm以上の長波長領域の光を吸収する光重合開始剤であることを特徴とする請求項1に記載のエネルギー線硬化型チップ保護用フィルム。
【請求項3】
前記ラジカル系光重合開始剤(E)が、アシルホスフィンオキシドであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のエネルギー線硬化型チップ保護用フィルム。
【請求項4 】
前記ラジカル系光重合開始剤(E)が、下記構造式(1)で表される2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシドであることを特徴とする請求項3に記載のエネルギー線硬化型チップ保護用フィルム。
(構造式(1)は省略)
・・・(中略)・・・
【請求項8】
前記エネルギー線硬化型保護膜形成層の片面又は両面に、さらに剥離シートを有することを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載のエネルギー線硬化型チップ保護用フィルム。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれか1項に記載のエネルギー線硬化型チップ保護用フィルムに、ダイシングテープが貼り合わされたダイシングテープ一体型チップ保護用フィルム。
・・・(中略)・・・
【0010】
そこで、本発明の目的は、高硬度であって、且つ、チップに対する密着性に優れた、信頼性の高いエネルギー線硬化型チップ保護用フィルムを提供することにある。
【0011】
本発明者らは、上記課題に対して鋭意検討した結果、硬化メカニズムの異なるカチオン重合型の硬化性成分とラジカル重合型の硬化性成分とを併用することで、高硬度でありながら、チップに対する密着性に優れたエネルギー線硬化型チップ保護用フィルムを得られること見出し、本発明を完成させた。
・・・(中略)・・・
【0028】
(A)バインダーポリマー成分
本発明では、フィルムとしての可とう性や操作性を向上させるために、ポリマー成分を使用する。ポリマー成分としては、例えば、アクリル系共重合体、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、ゴム系ポリマー等を用いることができ、特に、重合性二重結合を有するアクリル系共重合体が好ましい。このアクリル系共重合体の重量平均分子量は、5万以上、特に20万〜100万の範囲にあるのが好ましい。分子量が低すぎるとシート形成が不十分となり、高すぎると他の成分との相溶性が悪くなり、結果としてフィルム形成が妨げられる。」

(2) 引用発明1
上記の記載によると引用文献1には次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているといえる。
「(A)重量平均分子量が5万以上、特に20万〜100万の範囲にあるのが好ましいアクリル系共重合体のバインダーポリマー成分、(B)カチオン重合型の硬化性成分、(C)カチオン系光重合開始剤、(D)ラジカル重合型の硬化性成分、及び(E)2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシドであるラジカル系光重合開始剤を含有してなるエネルギー線硬化型保護膜形成層を有し、
前記エネルギー線硬化型保護膜形成層の片面又は両面に、さらに剥離シートを有するエネルギー線硬化型チップ保護用フィルムに、ダイシングテープが貼り合わされたダイシングテープ一体型チップ保護用フィルム。」

2 引用文献2及び引用発明2
(1) 引用文献2の記載
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている。(下線は引用箇所を示すために当審が付加した。)
「[0019]
以下、本発明のダイシングシート付き半導体保護膜形成用フィルムについて、詳細に説明する。
(第1の実施形態)
本実施形態のダイシングシート付き半導体保護膜形成用フィルムは、ダイシングシートと、該ダイシングシートの一方の面側に保護膜形成層とがラミネートされていることを特徴とする。保護膜形成層(半導体保護膜形成用フィルム)は、基板等の基材に搭載され、かつ最も外側に位置する半導体素子の前記基板等の基材に搭載される面と反対側の面を保護する。当該保護膜形成層を構成する樹脂組成物が熱硬化成分(A)とエネルギー線硬化成分(D)とを含むことを特徴とし、これにより、半導体素子に欠け等が生じないように保護することができるものである。また、本実施形態の半導体装置は、基板等の基材に搭載され、かつ最も外側に位置する半導体素子の前記基板等の基材に搭載される面と反対側の面が半導体保護膜により保護された半導体装置であって、前記半導体保護膜が、上述の保護膜形成層の硬化物からなることを特徴とし、これにより、フリップチップボンダー等で半導体素子を基板等の基材に実装する際のコレット痕や傷の発生を防止することができる。以下、本実施形態のダイシングシート付き半導体保護膜形成用フィルムならびに半導体装置及びその製造方法について詳細に説明する。
[0020]
保護膜形成層を構成する樹脂組成物中の樹脂成分の重量平均分子量の下限は、100以上が好ましく、200以上がより好ましい。保護膜形成層を構成する樹脂組成物中の樹脂成分の重量平均分子量の上限は、49,000以下が好ましく、40,000以下がより好ましい。樹脂成分の重量平均分子量が上記範囲内にあることにより、成膜性を維持しつつ、硬化後にガラス転移温度の高い保護膜形成層とすることができる。
[0021]
本実施形態の保護膜形成層を構成する樹脂組成物(以下、「フィルム樹脂組成物」とも称す。)には、エネルギー線硬化成分(D)を用いる。エネルギー線硬化成分(D)は、紫外線、電子線等のエネルギー線の照射を受けると重合硬化する化合物であり、分子内に少なくとも1つの重合性二重結合を有する化合物である。より具体的には、波長200nm以上500nm以下のエネルギー線により硬化する化合物がエネルギー線硬化成分として好ましい。
・・・(中略)・・・
[0023]
化合物(D1)の重量平均分子量は、200以上49,000以下が好ましく、より好ましくは200以上30,000以下、さらに好ましくは300以上10,000以下、特に好ましくは1,000以上8,000以下である。化合物(D1)の重量平均分子量が上記範囲内にあることにより、エネルギー線に対して高い反応性を有することができる。なお、本実施形態で重量平均分子量は、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)で測定され、ポリスチレン換算値で得られるものである。
・・・(中略)・・・
[0047]
化合物(D1)と併用できるエネルギー線硬化成分(D2)の含有量は、フィルム樹脂組成物全体の3質量%以上30質量%以下が好ましく、特に5質量%以上20質量%以下が好ましい。化合物(D1)と併用できるエネルギー線硬化成分(D2)の含有量が、上記範囲にあることで、エネルギー線硬化反応性、保護膜形成層の靭性を向上させることができる。なお、このフィルム樹脂組成物を、溶媒で構成成分を溶解又は分散させたワニス状とした時は、化合物(D1)と併用できるエネルギー線硬化成分(D2)の含有量は、溶媒を除いた分、即ち、(A)成分、(D)成分と、必要に応じ加えられる無機フィラー(B)及びその他の添加剤の合計量に対する百分率である。
[0048]
フィルム樹脂組成物には、エネルギー線照射量を少なくするため、光開始剤を添加することができる。このような光開始剤は、特に制限されるものはないが、ベンゾフェノン、アセトフェノン、ベンゾイン、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾイン安息香酸メチル、ベンゾイン安息香酸、ベンゾインメチルエーテル、ベンジルフェニルサルファイド、ベンジルジメチルケタール、ジベンジルメチルケタールなどが挙げられる。
・・・(中略)・・・
[0051]
熱硬化成分(A)の重量平均分子量は、好ましくは200以上10000以下、特に好ましくは300以上5000以下である。熱硬化成分(A)の重量平均分子量が上記範囲内にあることにより、熱硬化時の高い反応性と被着体に対する高い保護性とを両立することができる。
・・・(中略)・・・
[0077]
本実施形態に従うと、半導体素子の保護性に優れた半導体保護膜形成用フィルム及びそれを用いてなる半導体保護膜を有する半導体装置を得ることができる。
[0078]
特許文献1では、保護膜にバインダーポリマー成分を用いるため、弾性率の低い保護膜形成層となり、フリップチップボンダー等で半導体素子を基板に実装する際に、コレットの痕が付いたり、傷防止機能が十分ではないという問題があった。また、特許文献3でも、重量平均分子量が10万以上の高分子量成分を熱硬化成分として用いるため、同様な問題があった。
[0079]
しかしながら、本実施形態によれば、エネルギー線硬化樹脂と熱硬化成分とを用いることでエネルギー線硬化樹脂のみを硬化させることで、剥離がし易くなり作業性が向上する一方、高い弾性率を保持するため、コレットの痕がついてしまうのを防止することができる。また、基板に搭載した後に熱硬化させて、半導体素子との密着性を高めることができる。したがって、信頼性の高い半導体装置を得ることができる。
・・・(中略)・・・
[0166]
2.フィルム樹脂組成物ワニスの作製
エネルギー線硬化成分(D)として、メタアクリロイル変性ノボラック型ビスフェノールA樹脂MPN001を40.5質量%と、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート(共栄社化学(株)製、商品名:ライトエステルTMP、重量平均分子量:338)を17.4質量%、熱硬化成分(A)として、ビスフェノールA型ノボラック型エポキシ樹脂(大日本インキ化学工業(株)製、商品名:エピクロンN−865)を1.5質量%と、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン(株)製、商品名:YL−6810、重量平均分子量:225)を5.0質量%、無機フィラー(B)として、球状シリカ(アドマテックス(株)製、平均粒径:500nm、商品名:SE2050)を30.0質量%、硬化剤として、フェノールノボラック樹脂(住友ベークライト(株)製、商品名:PR53647)を3.6質量%、光開始剤として、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製、商品名:イルガキュア651)を2.0質量%、MEK(メチルエチルケトン、大伸化学(株)製)に溶解し、固形分濃度73%のフィルム樹脂組成物ワニスを得た。なお、フィルム樹脂組成物ワニス中のメタアクリロイル変性ノボラック型ビスフェノールA樹脂MPN001、およびシリカの含有量は、固形分換算の値である。」

(2) 引用発明2
引用文献2の段落0019〜0079、及び、段落0165〜0172には、第1の実施形態に関連する次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されているといえる。(段落0021のとおり、「樹脂組成物」は「フィルム樹脂組成物」と記載する。)
「ダイシングシートと、該ダイシングシートの一方の面側に保護膜形成層とがラミネートされ、
当該保護膜形成層を構成するフィルム樹脂組成物が熱硬化成分(A)とエネルギー線硬化成分(D)とを含み、
フィルム樹脂組成物には、エネルギー線照射量を少なくするため、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オンなどの光開始剤を添加することができ、
熱硬化成分(A)の重量平均分子量は、好ましくは200以上10000以下、特に好ましくは300以上5000以下である、
ダイシングシート付き半導体保護膜形成用フィルム。」

第6 対比・判断
1 引用文献1を主引用例とする進歩性欠如について
(1) 対比
本願発明1と引用発明1とを対比する。
ア 引用発明1の「エネルギー線硬化型保護膜形成層」は、本願発明1の「エネルギー線硬化性の保護膜形成用フィルム」に対応する。
また、引用発明1の「剥離シート」又は「ダイシングテープ」は、本願発明1の「支持シート」に対応する。
そして、「前記エネルギー線硬化型保護膜形成層の片面又は両面に、さらに剥離シートを有するエネルギー線硬化型チップ保護用フィルムに、ダイシングテープが貼り合わされたダイシングテープ一体型チップ保護用フィルム」である引用発明1は、「エネルギー線硬化型保護膜形成層」を「剥離シート」及び「ダイシングテープ」上に備えているといえるから、引用発明1は、「エネルギー線硬化性の保護膜形成用フィルムを支持シート上に備えてなる、保護膜形成用複合シート」の発明といえる点で本願発明1と共通する。
イ 本願明細書の段落0215、0216には、波長365nmの吸光係数が4.0×101ml/(g・cm)以上の光ラジカル開始剤(c’)として「2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド」が例示されている。
そうすると、エネルギー線硬化型保護膜形成層に「(E)2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシドであるラジカル系光重合開始剤」を含有する引用発明1は、「波長365nmの吸光係数が4.0×101ml/(g・cm)以上の光ラジカル開始剤を含」むといえる点で本願発明1と一致する。
ウ 引用発明1のエネルギー線硬化型保護膜形成層が含有する「(A)重量平均分子量が5万以上、特に20万〜100万の範囲にあるのが好ましいアクリル系共重合体のバインダーポリマー成分」は、エネルギー線硬化性基を有しない重合体であり、また、その重量平均分子量は100000〜1000000の範囲で本願発明1の重合体(b)と共通する。
エ 一致点・相違点
以上を踏まえると本願発明1と引用発明1とは次の点で一致し、相違する。
(ア) 一致点
「エネルギー線硬化性の保護膜形成用フィルムを支持シート上に備えてなる、保護膜形成用複合シートであって、
前記保護膜形成用フィルムにおいて、波長365nmの吸光係数が4.0×101ml/(g・cm)以上の光ラジカル開始剤を含み、
前記保護膜形成用フィルムが、重量平均分子量100000〜1000000のエネルギー線硬化性基を有しない重合体(b)を含む、保護膜形成用複合シート。」
(イ) 相違点1
本願発明1が、支持シートについて「前記支持シートにおいて、波長1064nmの光の透過率が70%以上であり、」と特定しているのに対し、引用発明1が、「剥離シート」又は「ダイシングテープ」の光の透過率について特定していない点。
(ウ) 相違点2
本願発明1の保護膜形成用フィルムが「カチオン系光重合開始剤を含まず」と特定されているのに対し、引用発明1のエネルギー線硬化型保護膜形成層が、(C)カチオン系光重合開始剤を含有する点。
(エ) 相違点3
本願発明1の保護膜形成用フィルムが含むエネルギー線硬化性基を有しない重合体(b)の重量平均分子量が「100000〜1500000」の範囲であると特定されているのに対し、引用発明1のエネルギー線硬化型保護膜形成層が含有する(A)バインダーポリマー成分のアクリル系共重合体の重量平均分子量は「5万以上、特に20万〜100万の範囲」と特定され、1000000〜1500000の範囲を含まない点。

(2) 相違点2の検討
事案に鑑み、まず相違点2について検討する。
引用文献1の段落0011の記載によると、引用発明1は、「硬化メカニズムの異なるカチオン重合型の硬化性成分とラジカル重合型の硬化性成分とを併用すること」により得られる「高硬度でありながら、チップに対する密着性に優れたエネルギー線硬化型チップ保護用フィルム」であるから、引用発明1からカチオン重合型の硬化性成分に含まれる(C)カチオン系光重合開始剤を省き、相違点2に係る本願発明1の構成とすることには阻害要因がある。
そうすると、相違点1、3を検討するまでもなく、本願発明1は引用発明1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3) 本願発明2〜6について
独立請求項である本願発明2、3についても、引用発明1と対比した場合、カチオン系光重合開始剤について上記相違点2と同じ相違点があるから、本願発明2、3についても、本願発明1と同様に引用発明1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
そして、これらの発明を引用する本願発明4、5についても同様に引用発明1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
また、独立請求項である本願発明6は、引用発明1と対比した場合、本願発明6の保護膜形成用フィルムが「カチオン重合型の硬化性成分」を含まないのに対し、引用発明1のエネルギー線硬化型保護膜形成層が「(B)カチオン重合型の硬化性成分」を含有する点が相違するが、上記相違点2と同様に、引用発明1から(B)カチオン重合型の硬化性成分を省き、当該相違点に係る本願発明6の構成とすることには阻害要因があるから、他の相違点を検討するまでもなく、本願発明6も引用発明1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4) 小括
以上のとおり、本願発明1〜6は、引用文献1を主引用例とする進歩性欠如の拒絶理由を有さない。

2 引用文献2を引用例とする進歩性欠如について
(1) 対比
本願発明1を引用発明2と対比する。
ア 引用発明2のエネルギー線硬化成分(D)を含む「保護膜形成層」と「ダイシングシート」は、それぞれ本願発明1の「エネルギー線硬化性の保護膜形成用フィルム」と「支持シート」にそれぞれ対応する。
そして、「ダイシングシートと、該ダイシングシートの一方の面側に保護膜形成層とがラミネートされ」た「ダイシングシート付き半導体保護膜形成用フィルム」である引用発明2において、「保護膜形成層」は「ダイシングシート」上に備えられているといえる。
そうすると、引用発明2は、「エネルギー線硬化性の保護膜形成用フィルムを支持シート上に備えてなる、保護膜形成用複合シート」の発明といえる点で本願発明1と共通する。
イ 本願明細書の段落0095、0212には、波長365nmの吸光係数が4.0×101ml/(g・cm)以上の光ラジカル開始剤(c’)として「ベンゾイン」、「ベンゾインメチルエーテル」、「2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン」が例示されている。
そうすると、フィルム樹脂組成物に「ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オンなどの光開始剤を添加することができ」る引用発明2は、「前記保護膜形成用フィルムにおいて、波長365nmの吸光係数が4.0×101ml/(g・cm)以上の光ラジカル開始剤を含み」といえる点で本願発明1と一致する。
ウ 引用発明2の保護膜形成層を構成するフィルム樹脂組成物は、カチオン系光重合開始剤を含まない点で本願発明1の保護膜形成用フィルムと一致する。
エ 一致点・相違点
以上を踏まえると本願発明1と引用発明2は次の点で一致し、相違する。
(ア) 一致点
「 エネルギー線硬化性の保護膜形成用フィルムを支持シート上に備えてなる、保護膜形成用複合シートであって、
前記保護膜形成用フィルムにおいて、波長365nmの吸光係数が4.0×101ml/(g・cm)以上の光ラジカル開始剤を含み、
前記保護膜形成用フィルムが、カチオン系光重合開始剤を含まない、
保護膜形成用複合シート。」
(イ) 相違点4
本願発明1が支持シートについて、「波長1064nmの光の透過率が70%以上であり」と特定しているのに対し、引用発明2のダイシングシートに光の透過率についての特定がない点。
(ウ) 相違点5
本願発明1の保護膜形成用フィルムが「重量平均分子量100000〜1500000のエネルギー線硬化性基を有しない重合体(b)を含む」のに対し、引用発明2の保護膜形成層を構成するフィルム樹脂組成物が含む、エネルギー線硬化性基を有しない重合体といえる「熱硬化成分(A)」の重量平均分子量が「好ましくは200以上10000以下、特に好ましくは300以上5000以下」と特定される点。

(2) 相違点5の検討
事案に鑑み、まず相違点5について検討する。
引用文献2の段落0051の記載によると、引用発明2は、熱硬化成分(A)の重量平均分子量は、好ましくは200以上10000以下、特に好ましくは300以上5000以下とすることにより、「熱硬化時の高い反応性と被着体に対する高い保護性とを両立することができる」という作用効果を得るものである。
そして、引用発明2から上記作用効果を省く動機付けはないから、熱硬化成分(A)の重量平均分子量を「100000〜1500000」として相違点5に係る本願発明1の構成とすることは、容易想到とはいえない。
したがって、相違点4を検討するまでもなく、本願発明1は引用発明2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3) 本願発明2〜6について
独立請求項である本願発明2、3、6についても、引用発明2と対比した場合、エネルギー線硬化性基を有しない重合体(b)に係る上記相違点5と同じ相違点があるから、本願発明2、3、6についても、本願発明1と同様に引用発明2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
また、従属項である本願発明4、5についても同様に引用発明2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4) 小括
以上のとおり、本願発明1〜6は、引用文献2を主引用例とする進歩性欠如の拒絶理由を有さない。

第7 原査定について
以上のとおり、審判請求時の補正により、本願発明1〜6は、当業者であっても、拒絶査定において引用された引用文献1〜7に基づいて、容易に発明できたものとはいえない。したがって、原査定の理由を維持することはできない。

第8 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2022-09-21 
出願番号 P2018-514594
審決分類 P 1 8・ 121- WY (C09D)
最終処分 01   成立
特許庁審判長 佐藤 智康
特許庁審判官 棚田 一也
松永 稔
発明の名称 保護膜形成用フィルムおよび保護膜形成用複合シート  
代理人 五十嵐 光永  
代理人 西澤 和純  
代理人 加藤 広之  

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