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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1390404
総通号数 11 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-11-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2022-01-19 
確定日 2022-10-20 
事件の表示 特願2017−122017「半導体装置の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 2月 1日出願公開、特開2018− 19071〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
第1 手続の経緯

本願は、平成29年6月22日(優先権主張 平成28年7月14日)の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。

令和 3年 3月22日付け :拒絶理由通知書
令和 3年 5月13日 :意見書、手続補正書の提出
令和 3年10月11日付け :拒絶査定
令和 4年 1月19日 :審判請求書の提出


第2 本願発明

本願の請求項1ないし20に係る発明は、令和3年5月13日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし20に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

「【請求項1】
基板上に、前記基板の表面からの高さが同じである複数の導体部を形成する導体部形成工程と、
隣接する前記導体部の間隙に熱硬化性樹脂組成物を導入し、前記導体部の頂部が露出するように前記熱硬化性樹脂組成物の硬化物で前記導体部を覆う被覆工程と、
前記硬化物の表面を研磨することなく、前記硬化物の上に前記頂部と電気的に接続する金属パターンを形成する多層配線工程と、をこの順に含む、半導体装置の製造方法であり、
前記間隙に対して導入する熱硬化性樹脂組成物の量を予め算出する、半導体装置の製造方法。」


第3 原査定の拒絶の理由

原査定(令和3年10月11日付け拒絶査定)の拒絶の理由の概要は、以下のとおりである。

「2.(進歩性)この出願の請求項1−20に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

請求項1、2、4、11−14、20については、引用文献1、8、9
請求項3、5については、引用文献1、2、8、9
請求項6については、引用文献1−3、8、9
請求項7−9については、引用文献1−4、8、9
請求項10については、引用文献1−4、8、9
請求項15−18については、引用文献1−5、8、9
請求項19については、引用文献1−6、8、9
請求項1、4、12、13、20については、引用文献7−9



引用文献1:米国特許出願公開第2016/0035666号明細書
引用文献2:米国特許出願公開第2013/0168849号明細書
引用文献3:特開2000−299333号公報(周知技術を示す文献)
引用文献4:特開2009−177072号公報
引用文献5:特開2013−074184号公報
引用文献6:特開2004−311788号公報(周知技術を示す文献)
引用文献7:特開2012−099648号公報
引用文献8:特開2014−183302号公報(新たに引用する文献;周知技術を示す文献)
引用文献9:特開2005−064456号公報(新たに引用する文献;周知技術を示す文献) 」


第4 引用文献の記載及び引用発明

1.引用文献7(特開2012−099648号公報)について

(1)引用文献7の記載事項

原査定の拒絶の理由に引用された引用文献7には図面とともに次の事項が記載されている。(なお、下線は当審で付与した。)

(1−1)「【0001】
本発明の実施例は、半導体装置とその製造方法に関する。」

(1−2)「【0019】
図1Aに示すように、第1の半導体チップ10は、入出力パッド12、MOSトランジスタ等を形成したアクティブ面を上側にし、その底面、側面をエポキシ樹脂等の第1のモールド樹脂体13で封止されている。モールド樹脂体13の上面は、基本的に第1の半導体チップ10の上面と同一面上(面一)に配置される。第1の半導体チップ10上面の入出力パッド12からモールド樹脂体13上面上に所定パターンで延在する銅等の再配線層17が形成され、再配線層17の上に銅等のメタルポスト18、19が形成されている。
・・・途中省略・・・
【0021】
第2の半導体チップ20、再配線層17、ボンディングワイヤ24、メタルポスト18、19の上端部以外を、エポキシ樹脂等の第2のモールド樹脂体25が封止する。露出しているメタルポスト18、19の上面に、外部接続端子30となる半田ボール等(ボール状電極)が接続される。」

(1−3)「【0027】
図2A〜2Nを参照して、図1A、1Bに示す半導体装置の製造プロセスを説明する。
【0028】
図2Aに示すように、ダミー基板31の上に接着シート32を貼り付け、第1の半導体チップ10を回路面、入出力パッド12を下側にした、裏返し(倒立)した状態で接着する。ダミー基板31は後に除去する物理的支持体であり、シリコン基板、ステンレス板等で形成できる。第1の半導体チップ10は、予め裏面を研磨して、厚さを所望値まで減少させておくことができる。
【0029】
図2Bに示すように、ダミー基板31上に接着シート32で固定した第1の半導体チップ10をインジェクションモールドの金型内でモールド樹脂体13で封止する。第1の半導体チップ10の回路面とモールド樹脂体13の表面(図では下面)とは、基本的に同一面(面一)となる。その後、接着シート32ごとダミー基板31を剥離する。なお、ダミー基板31は、使い回すことができる。
【0030】
図2Cに示すように、第1の半導体チップ10の表面、モールド樹脂体13の表面に亘って、絶縁膜14を塗布する。例えば、スピンオングラス(SOG)等の無機絶縁膜,ポリイミド等の有機絶縁膜を形成する。
【0031】
図2Dに示すように、絶縁膜14をパターニングするためのレジストパターンPR1を形成し、絶縁膜14をエッチングして、入出力パッド12を露出する。なお、モールド樹脂体13表面において再配線層を配置する領域以外の絶縁膜14も除去している。その後レジストパターンPR1は除去する。
【0032】
図2Eに示すように、全面にTiN、Cu等の下地金属層15をスパッタリング等により成膜する。下地金属層15は、電解メッキ工程において、電流を流す電極となる導電層である。下地金属層15上にメッキ領域に開口を有するレジストパターンPR2を形成する。
【0033】
図2Fに示すように、第1の半導体チップ10とモールド樹脂体13等を含む構造体をメッキ液33に浸漬し、電解メッキを行うことにより、下地金属層15上に、Cu等の再配線層16を形成する。入出力パッド12に接続された再配線層16が形成される。なお、下地金属層15も配線層として機能するので、金属層15、16を併せて再配線層17とする。但し、図示の状態では、全ての再配線層16が下地金属層15で短絡された状態である。
【0034】
図2Gに示すように、第1の半導体チップ10、モールド樹脂体13、再配線層17等を含む構造体をメッキ液33から取り出し、レジストパターンPR2を除去する。
【0035】
図2Hに示すように、再配線層17の上にメタルポストを形成するための開口(ホール)を有するレジストパターンPR3を構造体上に形成する。外側には、隣接するパッケージ用の開口も図示されている。
【0036】
図2Iに示すように、再び第1の半導体チップ10とモールド樹脂体13を含む構造体をメッキ液33に浸漬し、電解メッキを行うことにより、再配線層17上に、Cu等のメタルポスト18、19を形成する。その後、構造体をメッキ液から取り出す。
【0037】
図2Jに示すように、レジストパターンPR3を除去する。さらに露出した下地金属層15をエッチングして除去する。各再配線層17が電気的に分離され、入出力パッド12が再配線層17、メタルポスト18、19により上方に引き出された状態となる。再配線層17は図1Cに示された形状となる。なお、以下の図では絶縁層14の図示を省略し、金属層15、16をまとめて再配線層17として示す。
【0038】
図2Kに示すように、裏面をバックグラインドし、ダイアタッチメントフィルム21を接着した第2の半導体チップ20を回路面、入出力パッド22を上方にした正立状態で、第1の半導体チップ中央部にボンディングする。
【0039】
図2Lに示すように、第2の半導体チップ20の入出力パッド22をボンディングワイヤ24により、所定の再配線層17に接続する。第1の半導体チップ10の入出力パッド12が露出している場合は、入出力パッド22と入出力パッド12とをワイヤボンディングしてもよい。
【0040】
図2Mに示すように、メタルポスト18、19の上面を覆うように金型内に接着シート26を配置し、モールド樹脂体25で、第2の半導体チップ20、ボンディングワイヤ24、再配線層17、メタルポスト18、19を封止する。接着シート26で覆われたメタルポスト18,19の上面はモールド樹脂が付着しない。
【0041】
図2Nに示すように、接着シート26を剥離し、メタルポスト18、19頂面に外部接続端子30として、半田ボール等を付ける。その後、モールド樹脂体25、13をダイシングして、半導体パッケージを個別化する。ダイシング領域には、半導体も金属も存在しない。」

(1−4)「【0050】
図6Aは、第5の実施例による半導体装置の断面図である。第5の実施例においては、ボンディングワイヤを用いず、再配線層とメタルポストにより第1の半導体チップの入出力パッドと第2の半導体チップの入出力パッドとを接続する。第1の実施例同様、第1の半導体チップ10周囲を第1のモールド樹脂体13で囲み、その上に第1の再配線層17を形成する。ワイヤボンディングは行わず、第1の再配線層17上に第1のメタルポスト18、19を形成する。第2の半導体チップ20をダイアタッチメントフィルムを用いてダイボンドし、第2のモールド樹脂体25を形成する。
【0051】
図6Bに示すように、第2の半導体チップ20、メタルポスト18、19の上面を覆うように接着シート26を金型内に配置し、モールド樹脂体25の封止を行う。接着シート26を除去すれば、第2の半導体チップ20、メタルポスト18、19の上面が露出する。
【0052】
図6Aに示すように、第2の半導体チップ20、モールド樹脂体25上に、第2の再配線層27を形成し、第2の半導体チップ20の入出力パッド22とメタルポスト18、19との間の相互接続を行う。メタルポスト18、19は、内部接続用のメタルポストである。第2の再配線層27上に外部接続用のメタルポスト28、29を形成する。第2の再配線層27を埋め込み、外部接続用メタルポスト28、29の頂部を露出するエポキシ樹脂等の第3のモールド樹脂体35をスピン塗布、インジェクションモールド等により形成する。メタルポスト28、29頂面に外部接続端子30を接続する。
【0053】
なお、メタルポスト、外部接続端子の配置は変更可能である。」

(1−5)「【図2−1】


【図2−2】


【図6】



(2)引用発明

上記「(1)引用文献7の記載事項」で摘記したことを踏まえると、引用文献7には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。(なお、(A)から(M)の表記は、本審決を作成するにあたって便宜上、当審にて付与したものである。)

「(A)ダミー基板31の上に接着シート32を貼り付け、第1の半導体チップ10を回路面、入出力パッド12を下側にした状態で接着し(【0028】、【図2−1】)、
(B)第1の半導体チップ10をインジェクションモールドの金型内でエポキシ樹脂等のモールド樹脂体13で封止し、その後、接着シート32ごとダミー基板31を剥離することで、第1の半導体チップ10の回路面とモールド樹脂体13の表面とは、基本的に同一面(面一)となり(【0019】、【0029】、【図2−1】)、
(C)第1の半導体チップ10の表面、モールド樹脂体13の表面に亘って、絶縁膜14を塗布し(【0030】、【図2−1】)、
(D)絶縁膜14をパターニングするためのレジストパターンPR1を形成し、絶縁膜14をエッチングして、入出力パッド12を露出させ、その後レジストパターンPR1を除去し(【0031】、【図2−1】)、
(E)全面にTiN、Cu等の下地金属層15をスパッタリング等により成膜し、下地金属層15上にメッキ領域に開口を有するレジストパターンPR2を形成し(【0032】、【図2−1】)、
(F)第1の半導体チップ10とモールド樹脂体13等を含む構造体をメッキ液33に浸漬し、電解メッキを行うことにより、下地金属層15上に、Cu等の再配線層16を形成し、ここで、下地金属層15も配線層として機能するので、金属層15、16を併せて再配線層17とし(【0033】、【図2−1】)、
(G)第1の半導体チップ10、モールド樹脂体13、再配線層17等を含む構造体をメッキ液33から取り出し、レジストパターンPR2を除去し(【0034】、【図2−1】)、
(H)再配線層17の上にメタルポストを形成するための開口(ホール)を有するレジストパターンPR3を構造体上に形成し(【0035】、【図2−1】)、
(I)再び第1の半導体チップ10とモールド樹脂体13を含む構造体をメッキ液33に浸漬し、電解メッキを行うことにより、再配線層17上に、Cu等のメタルポスト18、19を形成し、その後、構造体をメッキ液から取り出し(【0036】、【図2−2】)
(J)レジストパターンPR3を除去し、さらに露出した下地金属層15をエッチングして除去することで、各再配線層17が電気的に分離され、入出力パッド12が再配線層17、メタルポスト18、19により上方に引き出された状態となり(【0037】、【図2−2】)、
(K)第2の半導体チップ20をダイアタッチメントフィルム21を用いてダイボンドし(【0050】、【図6】)、
(L)第2の半導体チップ20、メタルポスト18、19の上面を覆うように接着シート26を金型内に配置し、エポキシ樹脂等のモールド樹脂体25で封止を行った後、接着シート26を除去することで、第2の半導体チップ20、メタルポスト18、19の上面を露出させ(【0021】、【0051】、【図6】)、
(M)第2の半導体チップ20、モールド樹脂体25上に、第2の再配線層27を形成し、第2の半導体チップ20の入出力パッド22とメタルポスト18、19との間の相互接続を行う(【0052】、【図6】)、製造プロセスをその順に実行することを含む(【図2−1】、【図2−2】、【図6】)、
半導体装置の製造方法。」


2.引用文献8(特開2014−183302号公報)について

(1)引用文献8の記載事項

原査定の拒絶の理由に引用された引用文献8には図面とともに次の事項が記載されている。(なお、下線は当審で付与した。)

(1−1)「【0001】
本発明は、産業用機器や民生機器のモータ制御などに使用される半導体モジュール及びその製造方法に関する。」

(1−2)「【0018】
まず、ベース板1上にコレクタ配線3、エミッタ配線4、及びゲート配線5を形成し、半導体素子6を実装する。次に、半導体素子6をそれぞれアルミワイヤ7、8によりエミッタ配線4及びゲート配線5に接続する。次に、図2及び図3に示すように、それらを下金型20と上金型21の間のキャビティ22内に入れる。下金型20に設けられたポット部23a、23b、23c、23dに固形化された第1の樹脂17をセットし、その次に固形化された第2の樹脂18をセットする。下金型20と上金型21が勘合した後、プランジャー24により第1の樹脂17を押し上げ、金型内のゲート部25を経由してキャビティ22内に注入する。この際に下金型20と上金型21は高温(例えば175℃)に設定されており、熱硬化型の第1の樹脂17は硬化状態へ変化しながら注入されていく。キャビティ22内において第1の樹脂17はベース板1の部品搭載面に接する箇所から充填されていき、少しずつ半導体モジュール上面へと注入されていく。なお、半導体モジュールの外形サイズによって必要な樹脂量が決まり、必要なポット数が決定される。」

上記「(1)引用文献8の記載事項」で摘記した事項から、引用文献8には、以下の技術事項が開示されている。

「半導体モジュールの製造方法において、キャビティ内に注入する熱硬化型の樹脂の量は、半導体モジュールの外形サイズによって必要な樹脂量が決まる。」という技術事項。


3.引用文献9(特開2005−064456号公報)について

(1)引用文献9の記載事項

原査定の拒絶の理由に引用された引用文献9には図面とともに次の事項が記載されている。(なお、下線は当審で付与した。)

(1−1)「【0001】
この発明は、半導体装置の製造方法に関し、特に、ウエハプロセスにおいてパッケージング工程が行われるWCSP(Wafer Level Chip Size Package)に適用して有効な半導体装置の製造方法に関する。」

(1−2)「【0069】
〈封止工程の説明〉
・・・途中省略・・・
【0080】
次に、離型フィルム40の樹脂配置領域40a上に、所定量の顆粒状樹脂50を、計量カップ又は従来公知の治具等を用いて、例えば円錐状に堆積させる。この堆積形状は円錐形状に限られず、種々の底面形状を有する略錐体形状とすることができる。
【0081】
この顆粒状樹脂50は、市販のエポキシ系樹脂を使用するのが好適である。
・・・途中省略・・・
【0082】
顆粒状樹脂50の量については、適用される半導体ウェハ11のサイズ、形成される半導体装置10の仕様、すなわち、最終的に封止樹脂の占める容積を勘案して決定される。
【0083】
具体的には、例えば8インチ径の半導体ウェハ11に封止工程を行うとすると、半導体ウェハ11上の封止樹脂により封止されるべき面積と封止樹脂の高さとを乗じ、求められた体積(封止樹脂の見かけ上の体積)から電極ポストの占める体積を減じて、体積(真の体積)として算出する。加えて、一般に、樹脂は硬化処理に基因してその体積が収縮又は膨張する。従って、この真の体積は、硬化処理による樹脂の体積の収縮又は膨張を考慮して算出する。このようにして算出された封止樹脂の真の体積に基づいて、重量に換算する。
【0084】
例えば、8インチ(1インチ=2.54cm)径の半導体ウェハを使用し、所要の顆粒状樹脂50の換算重量が12g(グラム)であると仮定すると、離型フィルム40上には、樹脂配置領域40aとして直径100mm程度の円形の領域を設定するのが好適である。そして、樹脂配置領域40aに、好ましくは、厚みh1が最大10mm程度の円錐状となるように堆積させればよい。
・・・以下省略・・・ 」

上記「(1)引用文献9の記載事項」で摘記した事項から、引用文献9には、以下の技術事項が開示されている。

「半導体装置の製造方法に関し、封止工程において使用される顆粒状樹脂(市販のエポキシ系樹脂)の量は、適用される半導体ウェハのサイズ、形成される半導体装置の仕様、すなわち、最終的に封止樹脂の占める容積を勘案して決定される。」という技術事項。


第5 対比

1.対比

本願発明と引用発明とを対比する。

(1)『基板上に、前記基板の表面からの高さが同じである複数の導体部を形成する導体部形成工程と、』について

(1−1)
引用発明においては、製造プロセス(A)及び(B)を経て、第1の半導体チップ10の回路面とモールド樹脂体13の表面とが基本的に同一面(面一)である“第1の半導体チップ10を封止したエポキシ樹脂等のモールド樹脂体13”が形成されている。
そして、当該“第1の半導体チップ10を封止したエポキシ樹脂等のモールド樹脂体13”の表面上に、製造プロセス(C)〜(G)を経た後に、製造プロセス(H)〜(J)によって再配線層17上に、Cu等のメタルポスト18、19を形成している。

上記“第1の半導体チップ10を封止したエポキシ樹脂等のモールド樹脂体13”は、第1の半導体チップ10の回路面とモールド樹脂体13の表面とが基本的に同一面(面一)であるから、即ち、「平坦性」との特性を備えているといえる。また、上記モールド樹脂体13として使用されているエポキシ樹脂は、熱硬化性樹脂として「剛直性」や「耐熱性」等の特性を備えることは、当業者にとって自明な事項である。
ここで、本願発明における『基板』とは、本願明細書の段落【0017】に「基板10としては、平坦性、剛直性および耐熱性等の特性を有する基板であれば、公知のものを使用することが可能である。」と記載されている。

してみると、「平坦性」、「剛直性」、「耐熱性」等の特性を有している上記“第1の半導体チップ10を封止したエポキシ樹脂等のモールド樹脂体13”は、本願発明でいう『基板』に対応するものといえる。

(1−2)
引用発明においては、製造プロセス(H)〜(J)によって再配線層17上に、Cu等のメタルポスト18、19を形成しており、上記“「再配線層17」及び「Cu等のメタルポスト18、19」”は、“第1の半導体チップ10を封止したエポキシ樹脂等のモールド樹脂体13”の上に形成されている導電体であるから、本願発明でいう『複数の導体部』に対応するといえる。
してみると、引用発明の製造プロセス(H)〜(J)は、本願発明でいう『複数の導体部を形成する導体部形成工程』に対応するといえる。

(1−3)
上記(1−1)及び(1−2)で検討したことを踏まえると、本願発明と引用発明とは、『基板上に、複数の導体部を形成する導体部形成工程』を備えるという点で共通している。
一方、本願発明には『複数の導体部』について、『前記基板の表面からの高さが同じである』との事項が特定されているのに対し、引用発明にはかかる事項が特定されていない点で相違している。


(2)『隣接する前記導体部の間隙に熱硬化性樹脂組成物を導入し、前記導体部の頂部が露出するように前記熱硬化性樹脂組成物の硬化物で前記導体部を覆う被覆工程と、』について

引用発明においては、製造プロセス(L)で「第2の半導体チップ20、メタルポスト18、19の上面を覆うように接着シート26を金型内に配置し、エポキシ樹脂等のモールド樹脂体25で封止を行った後、接着シート26を除去することで、第2の半導体チップ20、メタルポスト18、19の上面を露出させ」ている。
ここで、引用発明の製造プロセス(L)において、モールド樹脂体25として用いられているエポキシ樹脂は「熱硬化性樹脂」といわれる樹脂であることは当業者にとって自明な事項である。
また、引用発明の製造プロセス(L)において、エポキシ樹脂等のモールド樹脂体25で封止されるのは、【図6】の記載を参酌すると、再配線層17、メタルポスト18、19、第2の半導体チップ20、接着シート26とで形成される空間であることは明らかであるから、当該空間には本願発明でいう『隣接する前記導体部の間隙』が含まれている。
さらに、引用発明の製造プロセス(L)においては、「エポキシ樹脂等のモールド樹脂体25で封止を行った後、接着シート26を除去することで、第2の半導体チップ20、メタルポスト18、19の上面を露出」させているのであるから、本願発明と同様に『前記導体部の頂部が露出するように前記熱硬化性樹脂組成物の硬化物で前記導体部を覆』っているといえる。
してみると、引用発明の製造プロセス(L)は、本願発明でいう『隣接する前記導体部の間隙に熱硬化性樹脂組成物を導入し、前記導体部の頂部が露出するように前記熱硬化性樹脂組成物の硬化物で前記導体部を覆う被覆工程』に相当する。


(3)『前記硬化物の表面を研磨することなく、前記硬化物の上に前記頂部と電気的に接続する金属パターンを形成する多層配線工程と、』について

引用発明においては、製造プロセス(M)で「第2の半導体チップ20、モールド樹脂体25上に、第2の再配線層27を形成し、第2の半導体チップ20の入出力パッド22とメタルポスト18、19との間の相互接続」を行っているのであるから、前記「第2の再配線層27」は、本願発明でいう『前記硬化物の上に前記頂部と電気的に接続する金属パターン』に対応するものである。
また、引用発明においては、製造プロセス(F)で特定されている「再配線層17」と製造プロセス(M)で特定されている「第2の再配線層27」とで『多層配線』を構成している。
なお、製造プロセス(M)の前に行われる製造プロセス(L)において、「・・・エポキシ樹脂等のモールド樹脂体25で封止を行った後、接着シート26を除去することで、第2の半導体チップ20、メタルポスト18、19の上面を露出」させており、第2の半導体チップ20とメタルポスト18、19の上面を露出させるにあたって、いわゆる、機械的研磨は行われていない。
してみると、引用発明の製造プロセス(M)は、本願発明でいう『前記硬化物の表面を研磨することなく、前記硬化物の上に前記頂部と電気的に接続する金属パターンを形成する多層配線工程』に相当する。


(4)『をこの順に含む、半導体装置の製造方法であり、』について

引用発明の製造プロセス(A)ないし(M)は、半導体装置を製造するにあたって、その順に実行するものであるから、引用発明も本願発明と同様に『をこの順に含む、半導体装置の製造方法』といえる。


(5)『前記間隙に対して導入する熱硬化性樹脂組成物の量を予め算出する、』について

引用発明には、「使用するエポキシ樹脂等のモールド樹脂体25の量を予め算出する」事項については特定されていないから、その点において本願発明と引用発明とは相違している。


2.一致点及び相違点

上記「1.対比」で検討した事項を踏まえると、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は以下のとおりである。

(一致点)
「基板上に、複数の導体部を形成する導体部形成工程と、
隣接する前記導体部の間隙に熱硬化性樹脂組成物を導入し、前記導体部の頂部が露出するように前記熱硬化性樹脂組成物の硬化物で前記導体部を覆う被覆工程と、
前記硬化物の表面を研磨することなく、前記硬化物の上に前記頂部と電気的に接続する金属パターンを形成する多層配線工程と、をこの順に含む、
半導体装置の製造方法。」

(相違点1)
本願発明には『複数の導体部』について、『前記基板の表面からの高さが同じである』との事項が特定されているのに対し、引用発明にはかかる事項が特定されていない点。

(相違点2)
本願発明には『前記間隙に対して導入する熱硬化性樹脂組成物の量を予め算出する、』との事項が特定されているのに対し、引用発明にはかかる事項が特定されていない点。


第6 判断

上記相違点について判断する。

1.相違点1について

引用文献7には、“第1の半導体チップ10を封止したエポキシ樹脂等のモールド樹脂体13”の上に形成される導電体である“「再配線層17」及び「Cu等のメタルポスト18、19」”、つまり、「再配線層17とメタルポスト18とからなる導電体」と「再配線層17とメタルポスト19とからなる導電体」の“第1の半導体チップ10を封止したエポキシ樹脂等のモールド樹脂体13”の表面からの高さが同じである旨の記載はない。

その一方で、引用文献7には、「再配線層17とメタルポスト18とからなる導電体」と「再配線層17とメタルポスト19とからなる導電体」の“第1の半導体チップ10を封止したエポキシ樹脂等のモールド樹脂体13”の表面からの高さをそれぞれ異ならせる旨の記載もない。加えて、引用文献7には、それぞれの前記「導電体」の前記「高さ」を敢えて異ならせる特別な事情があることを示唆する記載も無い。

むしろ、引用発明の様な多層構造を有する半導体装置を製造するに際して、各層を電気的に接続する導電体の高さを各々異ならせる様にすることは、製造工程の複雑化等を招くことになるから、可能な限り避けようとするのが当業者の技術常識である。

さらに、引用発明において、「再配線層17とメタルポスト18とからなる導電体」と「再配線層17とメタルポスト19とからなる導電体」は、いずれも製造プロセス(E)ないし(J)により同一工程で形成されるものであるから、モールド樹脂体13の表面からの高さも同じとなる蓋然性が高い。

してみると、引用発明においても、“第1の半導体チップ10を封止したエポキシ樹脂等のモールド樹脂体13”の上に形成される導電体である“「再配線層17」及び「Cu等のメタルポスト18、19」”(つまり、「再配線層17とメタルポスト18とからなる導電体」と「再配線層17とメタルポスト19とからなる導電体」)の“第1の半導体チップ10を封止したエポキシ樹脂等のモールド樹脂体13”の表面からの高さは実質的に同じになっていると解され、仮にそうでないとしても、それを同じにすることは、当業者が容易になし得るものである。


2.相違点2について

上記「第4 引用文献の記載及び引用発明」の「2.引用文献8(特開2014−183302号公報)について」及び「3.引用文献9(特開2005−064456号公報)について」で言及した様に、「半導体装置の製造方法(半導体モジュールの製造方法)において、封止のために用いられる熱硬化型の樹脂(エポキシ系樹脂)の量は、適用される半導体ウェハのサイズ、形成される半導体装置の仕様を勘案して決定される。」こと、即ち、「半導体装置の製造方法において、封止のために用いられる熱硬化型の樹脂の量を予め算出する」との事項は、当該技術分野において通常行われる手法であり、かつ、本願明細書の記載の限りにおいて、本願発明の「前記間隙に対して導入する熱硬化性樹脂組成物の量を予め算出する」点に当該手法とは異なる格別の技術的意義は見いだせない。

また、半導体装置の製造方法において、封止のために用いられる熱硬化型の樹脂の量を予め算出することをせずに封止工程を行うと、樹脂の封入量が少な過ぎるため導体間の絶縁性の悪化を引き起こしたり、反対に装置内に樹脂を過剰に注入することで導電性を確保すべき箇所の導電性の悪化を引き起こしたりする等の好ましくない事象が起きる可能性が大きくなることは当業者であれば自明である。

してみると、引用文献8や9に開示されている様な手法が本願の優先権主張日前において通常行われていることに鑑みれば、引用発明において、「使用するエポキシ樹脂等のモールド樹脂体25の量を予め算出する」との製造プロセスを付加することは、当業者であれば容易になし得るものである。


3.結論

以上、検討したように、本願発明は、引用発明及び引用文献8、9に開示された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。


第7 審判請求書での主張

1.請求人の主張

審判請求人は、審判請求書において概ね以下の点を主張している。

(主張1)
「複数の導電ポストの高さ」について、「本願発明と引用文献1に記載された発明とは相違するというべきです。」(相違点の看過)、及び、「また、拒絶査定では「そうでないとしても、引用文献1に記載された発明において、複数の導電ポストの高さを同じとすることは、当業者が容易になし得たことである。」と指摘されていますが、その「根拠、理由」は何ら示されていません。引用文献1やその他引用文献に複数の導電ポストの高さを同じとすることの具体的示唆・教示はなく、引用文献1に記載された発明において複数の導電ポストの高さを同じとすることは、本願発明を知らない当業者にとって容易とは言えません。」(根拠及び理由の欠如)という主張。

(主張2)
本願発明の「前記間隙に対して導入する熱硬化性樹脂組成物の量を予め算出する」という要件について、「引用文献8で想定されている半導体モジュールや引用文献9で想定されている半導体装置は、本願発明が想定している半導体装置の構造とは異なるものであるから、引用文献8および9の記載から導くことはできず、容易想到ということはできません。」という主張。

(主張3)
拒絶査定における容易想到の論理付けについて、「引用文献1に記載された発明(引用発明)から本願発明に至るには、引用発明を改変した発明(引用発明そのものではない)を、さらに改変する、という2段階の改変が必要となります。・・・つまり、拒絶査定における進歩性の論理付けは、審査基準に則った妥当なものとはいえず、この点で原査定は取り消されるべきです。」(容易の容易)という主張。


2.検討

上記主張1〜3について検討する。

審判請求書による上記「(主張1)」及び「(主張2)」については、上記「第6 判断」の「1.相違点1について」及び「2.相違点2について」で検討したとおりである。

審判請求書による上記「(主張3)」については、上記「第6 判断」の「1.相違点1について」及び「2.相違点2について」で言及した様に、「複数の導電ポストの高さを同じにする」という事項は、半導体装置を製造するに際して、特別な事情が無い限りは、当業者が採用する一般的な事項である。
また、「前記間隙に対して導入する熱硬化性樹脂組成物の量を予め算出する」という事項についても、半導体装置を製造するに際して、通常行われる手法である。

上述した様に、「複数の導電ポストの高さを同じにする」という事項や「前記間隙に対して導入する熱硬化性樹脂組成物の量を予め算出する」という事項は、いずれも、半導体装置を製造するに際して当業者が普通に採用する、いわゆる、当該技術分野における周知慣用技術ともいえる様な事項であるから、それらの事項を引用発明に採用することは、たとえ引用発明に対して「2つ」の技術事項を採用(適用)するものであっても、その論理付けが、一概に「容易の容易」あたると判断すべきものであるとはいえない。

以上のとおりであるから、審判請求書による主張はいずれも採用できない。


第8 むすび

以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。



 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
審理終結日 2022-08-22 
結審通知日 2022-08-23 
審決日 2022-09-07 
出願番号 P2017-122017
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 瀧内 健夫
特許庁審判官 棚田 一也
佐藤 智康
発明の名称 半導体装置の製造方法  
代理人 速水 進治  

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