• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 一部申し立て 発明同一  A61K
管理番号 1390538
総通号数 11 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-11-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-03-02 
確定日 2022-08-10 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6749966号発明「海産魚類に寄生する微胞子虫及び粘液胞子虫による疾患の治療剤」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6749966号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、3〜9〕、〔10、13〜19〕、〔20〜25〕について訂正することを認める。 特許第6749966号の請求項1、6〜10、13〜25に係る特許を取り消す。 特許第6749966号の請求項3〜5に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6749966号(以下「本件特許」という。)に係る特願2018− 118015号は、2017年(平成29年)9月27日(優先権主張 平成28年9月27日)を国際出願日とする特願2018−542624号の一部を、平成30年6月21日に新たな特許出願としたものであって、令和2年8月14日にその特許権の設定登録(請求項の数19)がなされ、同年9月2日に特許掲載公報が発行され、その後、令和3年3月2日に特許異議申立人山口雅行(以下「特許異議申立人」という。)により、請求項1、3〜10、13〜19に係る本件特許について特許異議の申立てがなされたものである。
その後の主な手続の経緯は、次のとおりである(なお、指定期間の延長に関する経緯は省略した。)。

令和3年 4月27日付け 取消理由通知書
同年 7月28日 面接(特許権者)
同年 8月 5日 訂正請求書及び意見書の提出
同年 9月15日 手続補正書(方式)(「訂正の請求に係る
請求項の数」を22とする。)
同年11月17日 意見書の提出(特許異議申立人)
令和4年 1月 6日付け 取消理通知書(決定の予告)
同年 4月18日 意見書の提出(特許権者)

第2 訂正の適否
1 訂正の内容
令和3年8月5日提出の訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)は、当該訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、3〜10、13〜25について訂正することを求めるものであって、その内容は以下のとおりである。

(1)訂正前の請求項1、3〜9(訂正後の請求項1、3〜9、20〜25)についての訂正
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「海産魚類」と記載されているのを、「ブリ(Seriola quinqueradiata)」に訂正する。
(請求項1の記載を引用する請求項6〜9も同様に訂正する。)

イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3に「請求項1または2に記載の」と記載されているのを、「請求項2に記載の」に訂正する。
(請求項3を引用する請求項4〜9も同様に訂正する。)

ウ 訂正事項3(当審注:訂正請求書の「訂正事項3−1〜3−3」をまとめたものに相当。)
特許請求の範囲の請求項3から削除された請求項1を引用する部分を、請求項1との引用関係を解消し独立形式の請求項の記載に改め、新たに訂正後の請求項20とし、また、請求項3においては「海産魚類が、スズキ目、カレイ目又はフグ目の魚類」であったのを「ブリ(Seriola quinqueradiata)」に訂正し、更に「飼育水温が18.3〜20.5℃であるブリへの経口投与に使用するための、」との記載を加えるように訂正する。
その結果、訂正後の請求項20を「フェバンテルを有効成分として、1日当たり、有効成分を10〜40mg/kg魚体重経口投与することを特徴とする、ブリ(Seriola quinqueradiata)のべこ病の原因寄生虫の駆虫剤であって、べこ病の原因寄生虫が、ミクロスポリジウム(Microsporidium)属に属する微胞子虫であり、飼育水温が18.3〜20.5℃であるブリヘの経口投与に使用するための、前記駆虫剤。」と記載するように訂正する。

エ 訂正事項4(当審注:訂正請求書の「訂正事項4−1、4−2」をまとめたものに相当。)
特許請求の範囲の請求項4から削除された、請求項1を引用する請求項3を引用する部分を、訂正後の請求項20を引用する新たな請求項21として記載し、更に「有効成分の投与期間が10〜20日間である」との記載を加えるように訂正する。
その結果、訂正後の請求項21を「有効成分の投与期間が10〜20日間である、請求項20に記載の駆虫剤。」と記載するように訂正する。

オ 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項6から削除された、請求項1を引用する請求項3を引用する部分を、訂正後の請求項20を引用する新たな請求項22として、「有効成分の投与期間が1〜20日間である、請求項20に記載の駆虫剤。」と記載するように訂正する。

カ 訂正事項6
特許請求の範囲の請求項7から削除された、請求項1を引用する請求項3を引用する部分を、訂正後の請求項20又は22を引用する新たな請求項23として、「有効成分の投与期間が3〜10日間である、請求項20または22に記載の駆虫方法。」と記載するように訂正する。

キ 訂正事項7
特許請求の範囲の請求項8から削除された、請求項1を引用する請求項3を引用する部分を、訂正後の請求項20〜23を引用する新たな請求項24として、「有効成分の投与後に10〜17日間の投与しない期間を設ける、請求項20〜23のいずれか1項に記載の駆虫剤。」と記載するように訂正する。

ク 訂正事項8
特許請求の範囲の請求項9から削除された、請求項1を引用する請求項3を引用する部分を、訂正後の請求項20〜24を引用する新たな請求項25として、「稚魚を生け簀導入後、9〜23日目に投与を開始するための 請求項20〜24のいずれか1項に記載の駆虫剤。」と記載するように訂正する。

なお、訂正前の請求項3〜9は、訂正前の請求項1を直接的又は間接的に引用するものであって、訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、訂正事項1〜8に係る訂正は、一群の請求項についてされている。

(2)訂正前の請求項10、13〜19(訂正後の請求項10、13〜19)についての訂正
ア 訂正事項9
特許請求の範囲の請求項10に「海産魚類を処置すること」と記載されているのを、「飼育水温が18.3〜20.5℃である海産魚類を処置すること」に訂正する。
(請求項10の記載を引用する請求項13〜19も同様に訂正する。)

イ 訂正事項10
特許請求の範囲の請求項15における「魚類」の選択肢の一部を削除し、「ブリ属に属する魚類が、ブリ(Seriola quinqueradiata)、カンパチ(Seriola dumerili)、ヒラマサ(Seriola lalandi)のいずれかであり、タイ科に属する魚類が、キダイ(Dentex tumifrons)、チダイ(Evynnis tumifrons)、マダイ(Pagrus major)、クロダイ(Acanthopagrus schlegelii)、及びヘダイ(Rhabdosargus sarba、Sparus sarba)のいずれかであり、マグロ属に属する魚類が、クロマグロ(Thunnus orientalis)、ミナミマグロ(Thunnus maccoyii)のいずれかであり、ヒラメ科に属する魚類が、ヒラメ(Paralichthys olivaceus)、カリフォルニアハリバット(Paralichthys californicus)、ナツヒラメ(Paralichthys dentatus)、タマガンゾウビラメ(Pseudorhombus pentophthalmus)、ガンゾウヒラメ(Pseudorhombus cinnamoneus)、メガレイ(Pseudorhombus dupliciocellatus)、テンジクガレイ(Pseudorhombus arsius)、及びアラメガレイ(Tarphops oligolepis)のいずれかであり、フグ科に属する魚類がトラフグ(Takifugu rubripes)又はマフグ(Takifugu porphyreus)」に訂正する。

なお、訂正前の請求項13〜19は、訂正前の請求項10を引用するものであって、訂正される請求項10に連動して訂正されるものであるから、訂正事項9及び10に係る訂正は、一群の請求項について請求されている。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正前の請求項1、3〜9(訂正後の請求項1、3〜9、20〜25)についての訂正
ア 訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1に「海産魚類」と記載されているのを、願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の【0012】に海産魚類として記載された「ブリ(Seriola quinqueradiata)」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的としており、また、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

イ 訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項3において引用する請求項を「請求項1または2」から、「請求項1」を削除し、「請求項2」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

ウ 訂正事項3について
訂正事項3は、訂正前の請求項3から削除された請求項1を引用する部分について、請求項1との引用関係を解消し独立形式の新たな請求項20として記載し、さらに、「海産魚類」を、本件明細書の【0012】に海産魚類として記載された「ブリ(Seriola quinqueradiata)」に限定し、本件明細書の実施例2(【0038】)及び実施例3(【0048】)の飼育水温に基づいて、「飼育水温が18.3〜20.5℃である」との限定を加えるものであるから、請求項間の引用関係の解消及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、訂正事項3は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

エ 訂正事項4について
訂正事項4は、訂正前の請求項4から削除された、請求項1を引用する請求項3を引用する部分を、訂正後の請求項20を引用する新たな請求項21として記載することで、訂正後の請求項20と同様に魚類と飼育水温を限定し、さらに、願書に添付された特許請求の範囲の請求項6及び本件明細書【0050】の記載に基づいて、「有効成分の投与期間が10〜20日間である」との限定を加えるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

オ 訂正事項5について
訂正事項5は、訂正前の請求項6から削除された、請求項1を引用する請求項3を引用する部分を、訂正後の請求項20を引用する新たな請求項22として記載することで、訂正後の請求項20と同様に魚類と飼育水温を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

カ 訂正事項6について
訂正事項6は、訂正前の請求項7から削除された、請求項1を引用する請求項3を引用する部分を、訂正後の請求項20又は22を引用する新たな請求項23として記載することで、訂正後の請求項20と同様に魚類と飼育水温を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

キ 訂正事項7について
訂正事項7は、訂正前の請求項8から削除された、請求項1を引用する請求項3を引用する部分を、訂正後の請求項20〜23を引用する新たな請求項24として記載することで、訂正後の請求項20と同様に魚類と飼育水温を限定し、訂正後の請求項21と同様に有効成分の投与期間を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

ク 訂正事項8について
訂正事項8は、訂正前の請求項9から削除された、請求項1を引用する請求項3を引用する部分を、訂正後の請求項20〜24を引用する新たな請求項25として記載することで、訂正後の請求項20と同様に魚類と飼育水温を限定し、訂正後の請求項21と同様に有効成分の投与期間を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(2)訂正前の請求項10、13〜19(訂正後の請求項10、13〜19)についての訂正
ア 訂正事項9について
訂正事項9は、本件明細書の実施例2(【0038】)及び実施例3(【0048】)の飼育水温に基づいて、訂正前の請求項10に「海産魚類を処置すること」と記載されているのを、「飼育水温が18.3〜20.5℃である海産魚類を処置すること」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

イ 訂正事項10について
訂正事項10は、訂正前の請求項15において「魚類」の選択肢の一部を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

なお、本件訂正は、訂正前に引用関係を有する、請求項1、3〜9という一群及び請求項10、13〜19という一群の請求項ごとにされたものである。

(3)別の訂正単位とする求め
特許権者は、一群の請求項である訂正前の請求項1、3〜9に対応する訂正後の請求項1〜9、20〜25に関し、訂正後の請求項20〜25については、当該請求項についての訂正が認められる場合には、一群の請求項の他の請求項とは別の訂正単位とすることを求めている。

3 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び/又は第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1、3〜9〕、〔10、13〜19〕、〔20〜25〕について訂正することを認める。

第3 本件発明
上記第2のとおり、本件訂正が認められることから、本件特許の請求項1〜25に係る発明(以下「本件発明1」〜「本件発明25」といい、まとめて「本件発明」ともいう。)は、令和3年8月5日提出の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1〜25に記載された次のとおりのものと認める。

「【請求項1】
フェバンテルを有効成分として、1日当たり、有効成分を10〜40mg/kg魚体重経口投与することを特徴とする、ブリ(Seriola quinqueradiata)のべこ病の原因寄生虫の駆虫剤であって、べこ病の原因寄生虫が、ミクロスポリジウム(Microsporidium)属に属する微胞子虫である、前記駆虫剤。
【請求項2】
フルベンダゾールを有効成分として、1日当たり、有効成分を10〜40mg/kg魚体重経口投与することを特徴とする、海産魚類の粘液胞子虫症の原因寄生虫の駆虫剤であって、粘液胞子虫症の原因寄生虫が、クドア(Kudoa)属に属する粘液胞子虫である、前記駆虫剤。
【請求項3】
海産魚類が、スズキ目、カレイ目又はフグ目の魚類である、請求項2に記載の駆虫剤。
【請求項4】
スズキ目の魚類が、ブリ属、タイ科又はマグロ属に属する魚類であり、カレイ目の魚類がヒラメ科に属する魚類であり、フグ目に属する魚類がフグ科に属する魚類である、請求項3に記載の駆虫剤。
【請求項5】
ブリ属に属する魚類が、ブリ(Seriola quinqueradiata)、カンパチ(Seriola dumerili)、ヒラマサ(Seriola lalandi)、ヒレナガカンパチ(Seriola rivoliana)、Seriola carpenteri、Seriola fasciata、ミナミカンパチ(Seriola hippos)、Seriola peruana、及びSeriola zonataのいずれかであり、タイ科に属する魚類が、ミナミクロダイ(Acanthopagrus sivicolus)、タイワンダイ(Argyrops bleekeri Oshima)、キダイ(Dentex tumifrons)、チダイ(Evynnis tumifrons)、マダイ(Pagrus major)、クロダイ(Acanthopagrus schlegelii)、及びヘダイ(Rhabdosargus sarba、Sparus sarba)のいずれかであり、マグロ属に属する魚類が、クロマグロ(Thunnus orientalis)、タイセイヨウクロマグロ(Thunnus thynnus)、ミナミマグロ(Thunnus maccoyii)、メバチマグロ(Thunnus obesus)、ビンナガマグロ(Thunnus alalunga)、キハダマグロ(Thunnus albacares)、コシナガマグロ(Thunnus tonggol)、及びタイセイヨウマグロ(Thunnus atlanticus)のいずれかであり、ヒラメ科に属する魚類が、ヒラメ(Paralichthys olivaceus)、カリフォルニアハリバット(Paralichthys californicus)、ナツヒラメ(Paralichthys dentatus)、タマガンゾウビラメ(Pseudorhombus pentophthalmus)、ガンゾウヒラメ(Pseudorhombus cinnamoneus)、メガレイ(Pseudorhombus dupliciocellatus)、テンジクガレイ(Pseudorhombus arsius)、及びアラメガレイ(Tarphops oligolepis)のいずれかであり、フグ科に属する魚類がトラフグ(Takifugu rubripes)又はマフグ(Takifugu porphyreus)である、請求項4に記載の駆虫剤。
【請求項6】
有効成分の投与期間が1〜20日間である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の駆虫剤。
【請求項7】
有効成分の投与期間が3〜10日間である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の駆虫剤。
【請求項8】
有効成分の投与後に10〜17日間の投与しない期間を設ける、請求項1〜7のいずれか1項に記載の駆虫剤。
【請求項9】
稚魚を生け簀導入後、9〜23日目に投与を開始するための請求項1〜8のいずれか1項に記載の駆虫剤。
【請求項10】
有効成分であるフェバンテルを、1日当たり10〜40mg/kg魚体重を経口投与することにより飼育水温が18.3〜20.5℃である海産魚類を処置することを含む、海産魚類のべこ病の原因寄生虫の駆虫方法であって、べこ病の原因寄生虫が、ミクロスポリジウム(Microsporidium)属に属する微胞子虫である、前記駆虫方法。
【請求項11】
有効成分であるフルベンダゾールを、1日当たり10〜40mg/kg魚体重を経口投与することにより海産魚類を処置することを含む、海産魚類の粘液胞子虫症の原因寄生虫の駆虫方法であって、粘液胞子虫症の原因寄生虫が、クドア(Kudoa)属に属する粘液胞子虫である、前記駆虫方法。
【請求項12】
海産魚類が、微胞子虫が寄生した海産魚類及び粘液胞子虫が寄生した海産魚類を含む、請求項11に記載の駆虫方法。
【請求項13】
海産魚類が、スズキ目、カレイ目又はフグ目の魚類である、請求項10〜12のいずれか1項に記載の駆虫方法。
【請求項14】
スズキ目の魚類が、ブリ属、タイ科又はマグロ属に属する魚類であり、カレイ目の魚類がヒラメ科に属する魚類であり、フグ目に属する魚類がフグ科に属する魚類である、請求項13の駆虫方法。
【請求項15】
ブリ属に属する魚類が、ブリ(Seriola quinqueradiata)、カンパチ(Seriola dumerili)、ヒラマサ(Seriola lalandi)のいずれかであり、タイ科に属する魚類が、キダイ(Dentex tumifrons)、チダイ(Evynnis tumifrons)、マダイ(Pagrus major)、クロダイ(Acanthopagrus schlegelii)、及びヘダイ(Rhabdosargus sarba、Sparus sarba)のいずれかであり、マグロ属に属する魚類が、クロマグロ(Thunnus orientalis)、ミナミマグロ(Thunnus maccoyii)のいずれかであり、ヒラメ科に属する魚類が、ヒラメ(Paralichthys olivaceus)、カリフォルニアハリバット(Paralichthys californicus)、ナツヒラメ(Paralichthys dentatus)、タマガンゾウビラメ(Pseudorhombus pentophthalmus)、ガンゾウヒラメ(Pseudorhombus cinnamoneus)、メガレイ(Pseudorhombus dupliciocellatus)、テンジクガレイ(Pseudorhombus arsius)、及びアラメガレイ(Tarphops oligolepis)のいずれかであり、フグ科に属する魚類がトラフグ(Takifugu rubripes)又はマフグ(Takifugu porphyreus)である、請求項14の駆虫方法。
【請求項16】
有効成分の投与期間が1〜20日間である、請求項10〜15のいずれか1項に記載の駆虫方法。
【請求項17】
有効成分の投与期間が3〜10日間である、請求項10〜16のいずれか1項に記載の駆虫方法。
【請求項18】
有効成分の投与後に10〜17日間の投与しない期間を設ける、請求項11〜17のいずれか1項に記載の駆虫方法。
【請求項19】
稚魚を生け簀導入後、9〜23日目に投与を開始することを特徴とする請求項11〜18のいずれか1項に記載の駆虫方法。
【請求項20】
フェバンテルを有効成分として、1日当たり、有効成分を10〜40mg/kg魚体重経口投与することを特徴とする、ブリ(Seriola quinqueradiata)のべこ病の原因寄生虫の駆虫剤であって、べこ病の原因寄生虫が、ミクロスポリジウム(Microsporidium)属に属する微胞子虫であり、飼育水温が18.3〜20.5℃であるブリへの経口投与に使用するための、前記駆虫剤。
【請求項21】
有効成分の投与期間が10〜20日間である、請求項20に記載の駆虫剤。
【請求項22】
有効成分の投与期間が1〜20日間である、請求項20に記載の駆虫剤。
【請求項23】
有効成分の投与期間が3〜10日間である、請求項20または22に記載の駆虫剤。
【請求項24】
有効成分の投与後に10〜17日間の投与しない期間を設ける、請求項20〜23のいずれか1項に記載の駆虫剤。
【請求項25】
稚魚を生け簀導入後、9〜23日目に投与を開始するための請求項20〜24のいずれか1項に記載の駆虫剤。」

第4 取消理由(決定の予告)の概要
本件訂正後の請求項1、6〜10、13〜25に係る特許に対して、当審が令和4年1月6日付けで通知した取消理由(決定の予告)の概要は、次のとおりである。

(拡大先願)請求項1、6〜10、13〜25に係る発明は、本件特許に係る特許出願の日前の他の特許出願であって、本件特許に係る特許出願後に、特許法第41条第1項の規定による優先権の主張の基礎とされ、同法第41条第3項の規定により出願公開(甲1)がされたものとみなされた、甲2の特許出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、本件特許に係る発明の発明者が本件特許に係る特許出願の日前の上記の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また本件特許に係る特許出願の時において、その出願人が上記の特許出願の出願人と同一でもないから、上記の請求項に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

<甲号証>
甲2:特願2017−119986号(甲1の優先基礎出願。出願日:平成29年6月19日)
甲1:特開2019−1781号公報(特願2018−109053号。出願日:平成30年6月6日)

第5 取消理由(決定の予告)についての当審の判断
1 取消理由(決定の予告)の対象とした請求項について
本件の特許異議の申立ての対象である請求項は、フェバンテルを有効成分とする発明に係る訂正前の請求項1、3〜10、13〜19であり、フルベンダゾールを有効成分とする発明のみに係る訂正前の請求項2、11、12は、特許異議の申立ての対象ではない。
特許異議の申立ての対象である訂正前の請求項1、3〜10、13〜19に対応するのは、訂正後の請求項1、3〜10、13〜25であるところ、このうち、訂正後の請求項3〜5は、請求項1を引用せず、特許異議の申立ての対象ではない請求項2のみを直接的又は間接的に引用する、フルベンダゾールを有効成分とする発明のみに係るものであり、フェバンテルを有効成分とする発明に係るものではない。
したがって、フェバンテルを有効成分とする発明に係る訂正後の請求項1、6〜10、13〜25を、取消理由(決定の予告)の対象とした。

2 本件特許の優先権主張の効果について
本件特許に係る特許出願(特願2018−118015号。以下「本件出願」という。)は、2017年(平成29年)9月27日(優先権主張 平成28年9月27日))を国際出願日(以下「本件原出願日」という。)とする特願2018−542624号の一部を、平成30年6月21日に新たな特許出願としたものである。
本件出願の、特許法第41条第1項の規定による優先権主張の基礎とされた特願2016−187723号の明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件基礎出願明細書等」という。)において、実施例として記載されているのは、アルベンダゾールのべこ病の原因寄生虫の駆虫効果を確認する実施例1のみであり、フェバンテルのべこ病の原因寄生虫の駆虫効果については具体的に確認されていない。
また、本件原出願日当時、アルベンダゾールにべこ病の原因寄生虫の駆虫効果があれば、フェバンテルにもべこ病の原因寄生虫の駆虫効果があることを合理的に推認できるという技術常識があったとはいえない。
したがって、本件原出願日当時の技術常識に照らし、本件基礎出願明細書等に、フェバンテルを有効成分とするべこ病の原因寄生虫の駆虫剤又は駆虫方法の発明が記載されていたとはいえない。
よって、本件発明1、6〜10、13〜25に係る、フェバンテルを有効成分とするべこ病の原因寄生虫の駆虫剤又は駆虫方法の発明は、特許法第41条第2項に規定される優先権主張の利益を享受することができないので、これらの発明についての特許要件の判断の基準日は、本件原出願日である平成29年9月27日となる。

3 先願発明について
(1)特許法第41条第1項の規定による優先権主張を伴う特願2018−109053号(特開2019−1781号公報:甲1)の優先権主張の基礎出願である特願2017−119986号(甲2。本件原出願日である平成29年9月27日より前の平成29年6月19日に特許出願され、特許法第41条第3項の規定により出願公開されたとみなされる。)の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲(以下「先願明細書等」という。)には、以下の事項が記載されている(なお、下線部は当審による。)。
先願明細書等に記載された事項は、特願2018−109053号(特開2019−1781号公報:甲1)の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面にも記載されているものである。

(甲2ア)
「【請求項1】
ベンズイミダゾール系薬剤を含む、海産魚のべこ病の予防又は治療薬。
【請求項2】
海産魚がブリ属魚類である、請求項1記載の予防又は治療薬。
【請求項3】
ベンズイミダゾール系薬剤が、アルベンダゾール、フェンベンダゾール又はフェバンテルである、請求項1又は2記載の予防又は治療薬。
【請求項4】
シストが形成される前のミクロスポリジウム属微胞子虫感染海産魚、又はミクロスポリジウム属微胞子虫に感染した可能性のある海産魚に対し投与することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項記載の予防又は治療薬。
【請求項5】
ベンズイミダゾール系薬剤を含む、海産魚のミクロスポリジウム属微胞子虫感染症の予防又は治療薬。
【請求項6】
海産魚がブリ属魚類である、請求項5記載の予防又は治療薬。
【請求項7】
ベンズイミダゾール系薬剤が、アルベンダゾール、フェンベンダゾール又はフェバンテルである、請求項5又は6記載の予防又は治療薬。
【請求項8】
海産魚に対しベンズイミダゾール系薬剤を投与することを含む、該海産魚におけるべこ病の予防又は治療方法。
【請求項9】
海産魚がブリ属魚類である、請求項8記載の方法。
【請求項10】
ベンズイミダゾール系薬剤が、アルベンダゾール、フェンベンダゾール又はフェバンテルである、請求項8又は9記載の方法。
【請求項11】
シストが形成される前のミクロスポリジウム属微胞子虫感染海産魚、又はミクロスポリジウム属微胞子虫に感染した可能性のある海産魚に対しベンズイミダゾール系薬剤を投与する、請求項8〜10のいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
海産魚に対しベンズイミダゾール系薬剤を投与することを含む、該海産魚におけるミクロスポリジウム属微胞子虫感染症の予防又は治療方法。
【請求項13】
海産魚がブリ属魚類である、請求項8記載の方法。
【請求項14】
ベンズイミダゾール系薬剤が、アルベンダゾール、フェンベンダゾール又はフェバンテルである、請求項12又は13記載の方法。」

(甲2イ)
「【0009】
本発明者らは、上記目的に鑑み、鋭意検討を行ったところ、海産魚のべこ病の原因虫であるミクロスポリジウム属の微胞子虫(Microsporidium seriolae)に感染したカンパチに、ベンズイミダゾール系薬剤であるアルベンダゾール、フェンベンダゾール又はフェバンテルを経口投与することにより、本虫によるシストの形成や体側筋中での本虫の増殖を抑制できることを明らかにした。また、既にシストが形成された感染魚にこれらの薬剤を投与した試験では、シストに内包される胞子の一部は死滅されるものの、投薬したにも係わらずシストが残留したことから、PCR法などの本虫遺伝子検出法により初期段階の感染を迅速に診断し、感染後シストが形成される前に、薬剤を投与することが重要であることを明らかにした。これらの知見に基づき、更に検討を進め、本発明を完成した。

【0028】
本発明の予防又は治療薬の投与対象となる海産魚は、ミクロスポリジウム属の微胞子虫に感染し、べこ病を発症する限り、特に限定されないが、例えば、ブリ、カンパチ、ヒラマサ等のブリ属やシマアジ等を含むアジ科、マダイ等のタイ科、クロマグロ等のマグロ属、ホシガレイ等のカレイ科の魚類を例示することができる。本発明の予防又は治療薬の投与対象となる海産魚は、好ましくはブリ属の魚類である。

【0033】
本発明の予防又は治療薬を魚に経口投与する場合の望ましい投与量は、海産魚のべこ病(ミクロスポリジウム属微胞子虫感染症)を予防又は治療し得る限り、特に限定されず、ベンズイミダゾール系薬剤の種類、魚の種類、年齢及び体重等にもよるが、例えば、ベンズイミダゾール系薬剤を配合した飼料を摂取させる場合、ベンズイミダゾール系薬剤として、3 mg/kg体重/日以上、例えば3〜30mg/kg体重/日、好ましくは10〜20 mg/kg体重/日程度の用量を投与する。

【0035】
本発明の予防又は治療薬の投与期間は、海産魚のべこ病(ミクロスポリジウム属微胞子虫感染症)を予防又は治療し得る限り、特に限定されないが、通常、5日間以上、好ましくは5〜50日である。定期的に、休薬期間を設けながら投与してもよい。例えば、4〜7日間(例、5日間)連日投与した後で、2〜5日間(例、4日間)の休薬期間を設けるサイクルを複数回(例、2〜10回)行ってもよい。
【0036】
また、本発明は、ミクロスポリジウム属微胞子虫を特異的に検出し得るプライマーセット又は核酸プローブ、並びにベンズイミダゾール系薬剤(好ましくは、フェバンテル)を含む組み合わせを含む、海産魚べこ病の予防又は治療用キットを提供する。ベンズイミダゾール系薬剤(好ましくは、フェバンテル)は、上述の本発明の予防又は治療薬として提供され得る。本発明のキットを用いることにより、上述の方法により、シストが形成される前のミクロスポリジウム属微胞子虫感染海産魚、又はミクロスポリジウム属微胞子虫に感染した可能性のある海産魚を簡便に選出し、選出された魚に対して、ベンズイミダゾール系薬剤(好ましくは、フェバンテル)を投与することができる。」

(甲2ウ)
「【実施例】
【0040】
[目的]
微胞子虫Microsporidium seriolae感染によるブリ類のべこ病では、水温によって差があるが感染後20日程度で体側筋中にシストが形成される。試験1では感染直後のシストが認められていない感染魚群を用い、試験2、試験3及び試験4では感染後時間が経過しシストが認められている感染魚群を用い、数種の薬剤を経日投与し、シスト形成及び体側筋中での原因虫増殖の有無を調べ、各薬剤の治療効果を明らかにすることを目的とした。試験5では有効性が認められた薬剤をシストが認められている感染魚群に投与し、シスト中の胞子の死滅効果を明らかにすることを目的とした。
【0041】
[材料及び方法]
べこ病の感染魚を作出するため、感染が認められた海域の海面生け簀に供試魚としてカンパチ稚魚を収容した。収容後、定期的に感染の有無を診断し感染が確認された群を、陸上水槽に移動し、新たにべこ病に感染しない清浄な環境で、供試薬剤を配合飼料に添加する経口投与により投薬試験を開始した。一定期間投薬後に剖検しシストの形成及び体側筋中の寄生虫の有無を肉眼及びPCR等で検査し、投薬した薬剤の治療効果を判定した(図1)。試験の詳細は以下の通りである。
【0042】
供試魚
感染が認められた海域の海面生け贅にカンパチ人工種苗を収容後、定期的に剖検し肉眼で体側筋中のシストの確認と後述のリアルタイムPCR法により感染の有無を診断し、感染が認められた生け簀のカンパチを陸上水槽に移し投薬試験に供した。
【0043】
試験1
投薬開始時の平均体重は17.Og、平均尾叉長は10.3cmであった。投薬開始前に30尾をサンプリングし、リアルタイムPCR法で診断したところ2尾の体側筋からM. seriolaeが検出されたが、何れの個体からもシストは認められなかった。この魚群を、表1に記載の8区に区分し、投薬試験を行った。各投薬試験区に46〜52尾を供試した。

【0045】
試験4
投薬開始時の平均体重は21.4g、平均尾叉長は11.lcmであった。投薬開始前に20尾をサンプリングし、リアルタイムPCR法で診断したところ15尾の体側筋からM. seriolaeが検出され、8尾の体側筋に肉眼でシストが認められた。この魚群を、表4に記載の5区に区分し、投薬試験を行った。各投薬試験区に20〜23尾を供試した。
【0046】
試験5
投薬開始時の平均体重は128.lgであった。投薬開始前に55尾をサンプリングし、シスト保有状況を観察したところ、35尾の体側筋に肉眼でシストが認められた。この魚群を、表5に記載の3区に区分し、投薬試験を行った。各投薬試験区に20尾を供試した。」

「【0050】
[結果及び考察]

【0056】
試験4では、試験1〜3で効果が認められたアルベンダゾールとフェバンテルについて投与量を増やし、シストが40.0%の個体に認められた感染魚群を用い投薬を開始し、投薬開始から14日目に、シスト消失への投与効果を比較したところ、対照区では70.0%の個体にシストが認められたのに対し、アルベンダゾール投与区では、30mg/kg体重/日投与区で47.6%、15mg/kg体重/日投与区で43.5%、フェバンテル投与区では、25mg/kg体重/日投与区で28.6%、12.5mg/kg体重/日投与区で35.0%の個体にシストが認められ、フェバンテルを投与した2つの区では対照区に比べ有意に低い値となった(表4)。しかしながら、アルベンダゾール投与区及びフェバンテル投与区の何れにおいても、投薬開始時と試験終了時のシスト保有率に差異が認められなかったことから、既にシストが形成された感染魚にこれらの薬剤を投薬してもシストが残留することが示された。
【0057】
【表4】

【0058】
試験5では、試験1〜3で効果が認められたアルベンダゾールとフェバンテルについて、試験4よりも投与期間を長くするとともに、シストが63.6%の個体に認められた感染魚群を用い投薬を開始し、投薬開始から対照区36日目、アルベンダゾール投与区39日目およびフェバンテル投与区40日目に、シスト消失への効果を比較した。対照区では64.7%の個体にシストが認められたのに対し、アルベンダゾール投与区では65.0%、フェバンテル投与区では70.0%の個体にシストが認められ、対照区との有意差は認められなかった(表5)。しかしながら、アクリジンオレンジ染色によりシスト中に存在するM. seriolae胞子の生死の判定し死滅率を算出したところ、アルベンダゾール投与区で52.3%、フェバンテル投与区で37.2%の死滅率となり、何れにおいても対照区の死滅率16.1%よりも有意に高い値となった。よって、試験4と同様に既にシストが形成された感染魚にこれらの薬剤を投薬してもシストが残留することが確認されたが、これらの薬剤投与には、シストに内包されている胞子を死滅させる効果があることが示された。
【0059】
【表5】

【0060】
以上のように、海産魚のべこ病の原因虫であるミクロスポリジウム属の微胞子虫に感染したカンパチに、何れもベンズイミダゾール系薬剤であるアルベンダゾールあるいはフェバンテルを経口投与することにより、本虫によるシストの形成や本虫の体側筋中での増殖を抑制できることを明らかにした。また、既にシストが形成された感染魚にこれらの薬剤を投薬した試験では、シスト内部の胞子はある程度は死滅するものの、投薬前に形成されているシストは少なくとも投薬後40日は残留することを明らかにした。よって、べこ病を効率的に予防又は治療するには、PCR法などの寄生虫遺伝子検出法により初期段階の感染を迅速に診断し、シストが形成される前に、これらの薬剤を投与することが重要であることが明らかになった。以上の結果から、上記2種薬剤の何れかを感染後早期に経口投与することで、海産魚のべこ病を予防又は治療し得ることが示唆された。」

(2)甲2を優先権主張の基礎とする特許出願である甲1の出願当初の明細書、特許請求範囲又は図面には、次のとおり記載されている。

(甲1ア)
「【0012】
また、本発明は以下にも関する。
[1’]ベンズイミダゾール系薬剤を含む、海産魚のべこ病の予防又は治療薬。
[2’]海産魚がブリ属魚類である、[1’]の予防又は治療薬。
[3’]ベンズイミダゾール系薬剤が、アルベンダゾール、フェンベンダゾール又はフェバンテルである、[1’]又は[2’]の予防又は治療薬。
[4’]シストが形成される前のミクロスポリジウム属微胞子虫感染海産魚、又はミクロスポリジウム属微胞子虫に感染した可能性のある海産魚に対し投与することを特徴とする、[1’]〜[3’]のいずれかの予防又は治療薬。
[5’]ベンズイミダゾール系薬剤を含む、海産魚のミクロスポリジウム属微胞子虫感染症の予防又は治療薬。
[6’]海産魚がブリ属魚類である、[5’]の予防又は治療薬。
[7’]ベンズイミダゾール系薬剤が、アルベンダゾール、フェンベンダゾール又はフェバンテルである、[5’]又は[6’]の予防又は治療薬。
[8’]海産魚に対しベンズイミダゾール系薬剤を投与することを含む、該海産魚におけるべこ病の予防又は治療方法。
[9’]海産魚がブリ属魚類である、[8’]記載の方法。
[10’]ベンズイミダゾール系薬剤が、アルベンダゾール、フェンベンダゾール又はフェバンテルである、[8’]又は[9’]の方法。
[11’]シストが形成される前のミクロスポリジウム属微胞子虫感染海産魚、又はミクロスポリジウム属微胞子虫に感染した可能性のある海産魚に対しベンズイミダゾール系薬剤を投与する、[8’]〜[10’]のいずれかの方法。
[12’]海産魚に対しベンズイミダゾール系薬剤を投与することを含む、該海産魚におけるミクロスポリジウム属微胞子虫感染症の予防又は治療方法。
[13’]海産魚がブリ属魚類である、[8’]の方法。
[14’]ベンズイミダゾール系薬剤が、アルベンダゾール、フェンベンダゾール又はフェバンテルである、[12’]又は[13’]の方法。」

(甲1イ)
「【0010】
本発明者らは、上記目的に鑑み、鋭意検討を行ったところ、海産魚のべこ病の原因虫であるミクロスポリジウム属の微胞子虫(Microsporidium seriolae)に感染したカンパチに、ベンズイミダゾール系薬剤であるアルベンダゾール、フェンベンダゾール又はフェバンテルを経口投与することにより、本虫によるシストの形成や体側筋中での本虫の増殖を抑制できることを明らかにした。また、既にシストが形成された感染魚にこれらの薬剤を投与した試験では、シストに内包される胞子の一部は死滅されるものの、投薬したにも係わらずシストが残留したことから、PCR法などの本虫遺伝子検出法により初期段階の感染を迅速に診断し、感染後シストが形成される前に、薬剤を投与することが重要であることを明らかにした。また、フェバンテルについて、効果的で、副作用が抑えられた安全な、投与量および投与期間を明らかにした。これらの知見に基づき、更に検討を進め、本発明を完成した。

【0030】
本発明の予防又は治療薬の投与対象となる海産魚は、ミクロスポリジウム属の微胞子虫に感染し、べこ病を発症する限り、特に限定されないが、例えば、ブリ、カンパチ、ヒラマサ等のブリ属やシマアジ等を含むアジ科、マダイ等のタイ科、クロマグロ等のマグロ属、ホシガレイ等のカレイ科の魚類を例示することができる。本発明の予防又は治療薬の投与対象となる海産魚は、好ましくはブリ属の魚類である。

【0035】
本発明の予防又は治療薬を魚に経口投与する場合の望ましい投与量は、海産魚のべこ病(ミクロスポリジウム属微胞子虫感染症)を予防又は治療し得る限り、特に限定されず、ベンズイミダゾール系薬剤の種類、魚の種類、年齢及び体重等にもよるが、例えば、ベンズイミダゾール系薬剤を配合した飼料を摂取させる場合、ベンズイミダゾール系薬剤として、3 mg/kg体重/日以上、例えば3〜30mg/kg体重/日、好ましくは10〜20 mg/kg体重/日程度の用量を投与する。 一態様において、フェバンテルを配合した飼料を摂取させる場合、フェバンテルとして、1mg/kg体重/日以上、例えば3mg/kg体重/日以上、好ましくは5mg/kg体重/日以上、より好ましくは7mg/kg体重/日以上、より一層好ましくは10mg/kg体重/日以上、さらに好ましくは12mg/kg体重/日以上程度の用量を投与する。また、この場合、フェバンテルとして、120mg/kg体重/日以下、例えば100mg/kg体重/日以下、好ましくは70mg/kg体重/日以下、より好ましくは50mg/kg体重/日以下、より一層好ましくは30 mg/kg体重/日以下、さらに好ましくは20mg/kg体重/日以下、特に好ましくは20mg/kg体重/日未満程度の用量を投与する。…

【0037】
本発明の予防又は治療薬の投与期間は、海産魚のべこ病(ミクロスポリジウム属微胞子虫感染症)を予防又は治療し得る限り、特に限定されないが、通常、5日間以上、好ましくは5〜50日である。定期的に、休薬期間を設けながら投与してもよい。例えば、4〜7日間(例、5日間)連日投与した後で、2〜5日間(例、4日間)の休薬期間を設けるサイクルを複数回(例、2〜10回)行ってもよい。一態様において、フェバンテルを用いる場合の投与期間は、通常3日間以上であり、好ましくは3日間以上14日間以下であり、より好ましくは3日間以上14日間未満であり、より一層好ましくは3日間以上12日間以下であり、さらに好ましくは3日間以上7日間以下である。フェバンテルは、当該投与期間で連日投与する(すなわち、当該投与期間で連日投与することを1回行う)か、あるいは、連日投与の後に休薬期間を設けて定期的に投与してもよく、例えば、3日間以上14日間以下(好ましくは、3日間以上7日間以下)連日投与した後で、2日間以上5日間以下(好ましくは、4日間)の休薬期間を設けるサイクルを複数回(好ましくは、2〜10回、より好ましくは3〜7回、さらに好ましくは3〜5回)行ってもよい。

【0040】
また、本発明は、ミクロスポリジウム属微胞子虫を特異的に検出し得るプライマーセット又は核酸プローブ、並びにベンズイミダゾール系薬剤(好ましくは、フェバンテル)を含む組み合わせを含む、海産魚べこ病の予防又は治療用キットを提供する。ベンズイミダゾール系薬剤(好ましくは、フェバンテル)は、上述の本発明の予防又は治療薬として提供され得る。本発明のキットを用いることにより、上述の方法により、シストが形成される前のミクロスポリジウム属微胞子虫感染海産魚、又はミクロスポリジウム属微胞子虫に感染した可能性のある海産魚を簡便に選出し、選出された魚に対して、ベンズイミダゾール系薬剤(好ましくは、フェバンテル)を投与することができる。」

(甲1ウ)
「【実施例】
【0044】
[目的]
微胞子虫Microsporidium seriolae感染によるブリ類のべこ病では、水温によって差があるが感染後20日程度で体側筋中にシストが形成される。試験1では感染直後のシストが認められていない感染魚群を用い、試験2、試験3及び試験4では感染後時間が経過しシストが認められている感染魚群を用い、数種の薬剤を経日投与し、シスト形成及び体側筋中での原因虫増殖の有無を調べ、各薬剤の治療効果を明らかにすることを目的とした。試験5では有効性が認められた薬剤をシストが認められている感染魚群に投与し、シスト中の胞子の死滅効果を明らかにすることを目的とした。
【0045】
[材料及び方法]
べこ病の感染魚を作出するため、感染が認められた海域の海面生け簀に供試魚としてカンパチ稚魚を収容した。収容後、定期的に感染の有無を診断し感染が確認された群を、陸上水槽に移動し、新たにべこ病に感染しない清浄な環境で、供試薬剤を配合飼料に添加する経口投与により投薬試験を開始した。一定期間投薬後に剖検しシストの形成及び体側筋中の寄生虫の有無を肉眼及びPCR等で検査し、投薬した薬剤の治療効果を判定した(図1)。試験の詳細は以下の通りである。
【0046】
供試魚
感染が認められた海域の海面生け贅にカンパチ人工種苗を収容後、定期的に剖検し肉眼で体側筋中のシストの確認と後述のリアルタイムPCR法により感染の有無を診断し、感染が認められた生け簀のカンパチを陸上水槽に移し投薬試験に供した。
【0047】
試験1
投薬開始時の平均体重は17.Og、平均尾叉長は10.3cmであった。投薬開始前に30尾をサンプリングし、リアルタイムPCR法で診断したところ2尾の体側筋からM. seriolaeが検出されたが、何れの個体からもシストは認められなかった。この魚群を、表1に記載の8区に区分し、投薬試験を行った。各投薬試験区に46〜52尾を供試した。

【0049】
試験4
投薬開始時の平均体重は21.4g、平均尾叉長は11.1cmであった。投薬開始前に20尾をサンプリングし、リアルタイムPCR法で診断したところ15尾の体側筋からM. seriolaeが検出され、8尾の体側筋に肉眼でシストが認められた。この魚群を、表4に記載の5区に区分し、投薬試験を行った。各投薬試験区に20〜23尾を供試した。
【0050】
試験5
投薬開始時の平均体重は128.1gであった。投薬開始前に55尾をサンプリングし、シスト保有状況を観察したところ、35尾の体側筋に肉眼でシストが認められた。この魚群を、表5に記載の3区に区分し、投薬試験を行った。各投薬試験区に20尾を供試した。」

「【0054】
[結果及び考察]

【0060】
試験4では、試験1〜3で効果が認められたアルベンダゾールとフェバンテルについて投与量を増やし、シストが40.0%の個体に認められた感染魚群を用い投薬を開始し、投薬開始から14日目に、シスト消失への投与効果を比較したところ、対照区では70.0%の個体にシストが認められたのに対し、アルベンダゾール投与区では、30mg/kg体重/日投与区で47.6%、15mg/kg体重/日投与区で43.5%、フェバンテル投与区では、25mg/kg体重/日投与区で28.6%、12.5mg/kg体重/日投与区で35.0%の個体にシストが認められ、フェバンテルを投与した2つの区では対照区に比べ有意に低い値となった(表4)。しかしながら、アルベンダゾール投与区及びフェバンテル投与区の何れにおいても、投薬開始時と試験終了時のシスト保有率に差異が認められなかったことから、既にシストが形成された感染魚にこれらの薬剤を投薬してもシストが残留することが示された。
【0061】
【表4】

【0062】
試験5では、試験1〜3で効果が認められたアルベンダゾールとフェバンテルについて、試験4よりも投与期間を長くするとともに、シストが63.6%の個体に認められた感染魚群を用い投薬を開始し、投薬開始から対照区36日目、アルベンダゾール投与区39日目およびフェバンテル投与区40日目に、シスト消失への効果を比較した。対照区では64.7%の個体にシストが認められたのに対し、アルベンダゾール投与区では65.0%、フェバンテル投与区では70.0%の個体にシストが認められ、対照区との有意差は認められなかった(表5)。しかしながら、アクリジンオレンジ染色によりシスト中に存在するM. seriolae胞子の生死の判定し死滅率を算出したところ、アルベンダゾール投与区で52.3%、フェバンテル投与区で37.2%の死滅率となり、何れにおいても対照区の死滅率16.1%よりも有意に高い値となった。よって、試験4と同様に既にシストが形成された感染魚にこれらの薬剤を投薬してもシストが残留することが確認されたが、これらの薬剤投与には、シストに内包されている胞子を死滅させる効果があることが示された。
【0063】
【表5】

【0064】
以上のように、海産魚のべこ病の原因虫であるミクロスポリジウム属の微胞子虫に感染したカンパチに、何れもベンズイミダゾール系薬剤であるアルベンダゾールあるいはフェバンテルを経口投与することにより、本虫によるシストの形成や本虫の体側筋中での増殖を抑制できることを明らかにした。また、既にシストが形成された感染魚にこれらの薬剤を投薬した試験では、シスト内部の胞子はある程度は死滅するものの、投薬前に形成されているシストは少なくとも投薬後40日は残留することを明らかにした。よって、べこ病を効率的に予防又は治療するには、PCR法などの寄生虫遺伝子検出法により初期段階の感染を迅速に診断し、シストが形成される前に、これらの薬剤を投与することが重要であることが明らかになった。以上の結果から、上記2種薬剤の何れかを感染後早期に経口投与することで、海産魚のべこ病を予防又は治療し得ることが示唆された。」

(3)先願発明A及びB
上記(1)に示した甲2の記載によれば、先願明細書等には、次のとおりの発明が記載されていると認められる。

「ベンズイミダゾール系薬剤を有効成分とする、ブリ属魚類のべこ病の原因虫であるミクロスポリジウム属微胞子虫感染症の予防又は治療薬であって、該ベンズイミダゾール系薬剤が、アルベンダゾール又はフェバンテルであり、該ベンズイミダゾール系薬剤として3mg/kg体重/日以上となるよう、ブリ属魚類に経口投与する、前記予防又は治療薬。」(以下「先願発明A」という。)

「有効成分であるベンズイミダゾール系薬剤を投与する、ブリ属魚類のべこ病の原因虫であるミクロスポリジウム属微胞子虫感染症の予防又は治療方法であって、該ベンズイミダゾール系薬剤が、アルベンダゾール又はフェバンテルであり、該ベンズイミダゾール系薬剤として3mg/kg体重/日以上となるよう、ブリ属魚類に経口投与する、前記予防又は治療方法。」(以下「先願発明B」という。)

4 本件発明1について
(1)対比
本件発明1と先願発明Aとを対比する。
先願発明Aの「ベンズイミダゾール系薬剤」である「フェバンテル」は、本件発明1の「フェバンテル」に相当する。なお、先願発明Aの「ベンズイミダゾール系薬剤」として、アルベンダゾールが選択肢として含まれていることは、本件発明1と先願発明Aとの相違点とはいえない。
先願発明Aの「ブリ属魚類」と本件発明1の「ブリ(Seriola quinqueradiata)」とは、「ブリ属魚類」である限りにおいて共通する。
先願発明Aの「べこ病の原因虫であるミクロスポリジウム属微胞子虫」は、本件発明1の「べこ病の原因寄生虫が、ミクロスポリジウム(Microsporidium)属に属する微胞子虫」に相当する。
先願発明Aの「微胞子虫感染症の予防又は治療薬」は、フェバンテルを経口投与することにより、ミクロスポリジウム属の微胞子虫の増殖を抑制し、当該微胞子虫によるシストの形成抑制、当該シスト内部の胞子を死滅させるものであるから(甲2ウ)、本件発明1の「べこ病の原因寄生虫の駆除剤」に相当する。
そうすると、本件発明1と先願発明Aとの一致点及び一応の相違点は、次のとおりである。

<一致点>
「フェバンテルを有効成分として、経口投与する、ブリ属魚類のべこ病の原因寄生虫の駆除剤であって、べこ病の原因寄生虫が、ミクロスポリジウム(Microsporidium)属に属する微胞子虫である、前記駆虫剤。」
<相違点1−1>
ブリ属魚類について、本件発明1においては、「ブリ(Seriola quinqueradiata)」に特定されているのに対し、先願発明Aにおいては、当該特定はされていない点。
<相違点1−2>
有効成分の用量について、本件発明1においては、「1日当たり、有効成分(フェバンテル)を10〜40mg/kg魚体重」であると特定されているのに対し、先願発明Aにおいては、「ベンズイミダゾール系薬剤として3mg/kg体重/日以上」とされているものの、フェバンテルの経口投与量は特定されていない点。

(当審注:相違点○は、各請求項○の番号○を使い、複数あるときは、相違点○−1、○−2等と付ける。取消理由の対象外の請求項があるので、連続番号とならないことがある。以下同様。)

(2)判断
ア 相違点1−1について
先願明細書等には、「本発明の予防又は治療薬の投与対象となる海産魚は、ミクロスポリジウム属の微胞子虫に感染し、べこ病を発症する限り、特に限定されないが、例えば、ブリ、カンパチ、ヒラマサ等のブリ属や…を例示することができる。本発明の予防又は治療薬の投与対象となる海産魚は、好ましくはブリ属の魚類である。」(【0028】)と記載され、ミクロスポリジウム属の微胞子虫に感染し、べこ病を発症するブリ属魚類の例として、「ブリ」は、実施例において用いられたカンパチより先に、ブリ属魚類の例の筆頭に記載されている。
上記の先願明細書等の記載に接した当業者は、フェバンテルは、実施例において用いられたカンパチだけではなく、同じブリ属魚類であるブリにおいても、べこ病の原因寄生虫であるミクロスポリジウム属の微胞子虫の駆除剤として有効であると理解するといえるから、先願発明Aにおける「ブリ属魚類」には「ブリ」が含まれることは明らかである。
したがって、相違点1−1は、実質的な相違点ではない。

イ 相違点1−2について
先願発明Aにおける「ベンズイミダゾール系薬剤」は、アルベンダゾール又はフェバンテルであり、先願明細書等には、試験例4及び5において、カンパチに対するフェバンテルの経口投与量を、12.5mg/kg体重/日、又は、25mg/kg体重/日とした場合に、ミクロスポリジウム属の微胞子虫の増殖を抑制し、当該虫によるシストの形成抑制、当該シスト内部の胞子を死滅させることが記載されている。
また、先願明細書等には、魚の種類によってフェバンテルの経口投与量が異なることは記載されていない。
そうすると、先願発明Aの「ベンズイミダゾール系薬剤として3mg/kg体重/日以上」は、カンパチ以外の魚類であるブリに対する経口投与量として、フェバンテルを12.5mg/kg体重/日、又は、25mg/kg体重/日を包含することは明らかであり、本件発明1の「1日当たり、フェバンテルを10〜40mg/kg魚体重」と、「1日当たり」「10〜40mg/kg体重」の範囲で実質的に重複している。
他方、本件明細書には、「本発明の治療剤又は寄生虫駆除剤の投与量は、例えば、いずれの魚においても1日当たり魚体重1kgに対して5mg〜100mgであり、好ましくは10〜50mg、10〜40mgの範囲で経口投与する。」(【0029】)と記載されているものの、「10〜40mg」はどのような点で好ましいかについて具体的に記載されておらず、特に、ブリに対するフェバンテルの投与量をこの数値範囲としたことにより、新たな効果を奏することを認めるに足りる記載はない。
そうすると、本件発明1において、ブリに対するフェバンテルの経口投与量を相違点1−2に係る数値範囲としたことは、新たな技術に係るものではなく、具体化手段における微差にすぎず、新たな効果を奏するものではない。
したがって、相違点1−2は、実質的な相違点ではない。

(3)小括
以上のとおり、本件発明1と先願明細書等(甲2)に記載された発明との相違点は、いずれも実質的な相違点ではないから、本件発明1は、先願明細書等に記載された発明と同一である。

5 本件発明6、7について
(1)対比
本件発明1を引用する本件発明6、7について検討する。
本件発明6、7と先願発明Aとを対比すると、上記相違点1−1、1−2に加えて、両発明の更なる一応の相違点は、次のとおりである。

<相違点6>
有効成分の投与について、本件発明6においては「投与期間が1〜20日間」と特定されているのに対し、先願発明Aにおいては、投与期間は特定されていない点。
<相違点7>
有効成分の投与について、本件発明7においては、「投与期間が3〜10日間」と特定されているのに対し、先願発明Aにおいては、投与期間は特定されていない点。

(2)判断
ア 先願明細書等には、「本発明の予防又は治療薬の投与期間は、海産物のべこ病(ミクロスポリジウム属微胞子虫感染症)を予防又は治療し得る限り、特に限定されないが、通常、5日間以上、好ましくは5〜50日である。定期的に、休薬期間を設けながら投与してもよい。例えば、4〜7日間(例、5日間)連日投与した後で、2〜5日間(例、4日間)の休薬期間を設けるサイクルを複数回(例、2〜10回)行ってもよい。」(【0035】)と記載され、特に、魚の種類によって投与期間が異なることは記載されていない。
また、試験例5においては、カンパチに対してフェバンテルを5日間投与後、2日間休薬するサイクルを繰り返したことが記載されている(【0059】)。
そうすると、先願発明Aを具体化するに当たって、ブリに対するフェバンテルの投与期間として、5日〜50日を含むその前後の期間は当然想定されている期間であるといえる。

イ 他方、本件明細書には、「本発明の治療剤又は寄生虫駆除剤の投与量は、…経口投与する。投与期間は1〜20日間、好ましくは3〜10日間とする。」(【0029】)と記載されているものの、本件発明6の「1〜20日間」、本件発明7の「3〜10日間」という投与期間がどのような観点から好ましいのかについては具体的に記載しておらず、これらの投与期間とすることで、新たな効果を奏することを認めるに足りる記載はない。

ウ そうすると、本件発明6、7において、有効成分の投与期間を相違点6、7に係る期間に特定したことは、新たな技術に係るものではなく、具体化手段における微差にすぎず、新たな効果を奏するものではない。
したがって、相違点6、7は、実質的な相違点ではない。

(3)小括
以上のとおり、本件発明6、7と先願明細書等(甲2)に記載された発明との相違点は、いずれも実質的な相違点ではないから、本件発明6、7は、先願明細書等に記載された発明と同一である。

6 本件発明8について
(1)対比
本件発明1を引用する本件発明8と先願発明Aとを対比すると、上記相違点1−1、1−2に加えて、両発明の更なる一応の相違点は、次のとおりである。

<相違点8>
有効成分の投与について、本件発明8においては、「有効成分の投与後に10〜17日間の投与しない期間を設ける」と特定されているのに対し、先願発明Aにおいては、投与しない期間について特定されていない点。

(2)判断
ア 先願明細書等には、「定期的に、休薬期間を設けながら投与してもよい。例えば、4〜7日間(例、5日間)連日投与した後で、2〜5日間(例、4日間)の休薬期間を設けるサイクルを複数回(例、2〜10回)行ってもよい。」(【0035】)と記載され、試験例5においては、5日間投与後、2日間休薬するサイクルを繰り返したことが記載されている(【0059】)。
上記の記載によれば、先願発明Aを具体化するに当たって、休薬期間は例示された期間に限られることはなく、必要に応じて当業者が設定し得るものと理解できる。

イ 他方、本件明細書には、図1において、通常試料の期間(有効成分を投与しない期間)を17日間又は10日間とすることが記載されているだけであって、本件発明8の「有効成分の投与後に10〜17日間の投与しない期間を設ける」ことにより、新たな効果を奏することを認めるに足りる記載はない。

ウ そうすると、本件発明8において、相違点8に係る「有効成分の投与後に10〜17日間の投与しない期間を設ける」としたことは、新たな技術に係るものではなく、具体化手段における微差にすぎず、新たな効果を奏するものではない。
したがって、相違点8は、実質的な相違点ではない。

(3)小括
以上のとおり、本件発明8と先願明細書等(甲2)に記載された発明との相違点は、いずれも実質的な相違点ではないから、本件発明8は、先願明細書等に記載された発明と同一である。

7 本件発明9について
(1)対比
本件発明1を引用する本件発明9と先願発明Aとを対比すると、上記相違点1−1、1−2に加えて、両発明の更なる一応の相違点は、次のとおりである。

<相違点9>
有効成分の投与について、本件発明9においては、「稚魚を生け簀導入後、9〜23日目に投与を開始するための」ものであることが特定されているのに対し、先願発明Aにおいては、対応する事項は特定されていない点。

(2)判断
ア 先願明細書等には、シストが形成される前の感染した海産魚や感染した可能性のある海産魚にフェバンテルを投与できること(【0036】)、ブリ類のべこ病では、水温によって差があるが感染後20日程度で体側筋中にシストが形成されること(【0040】)が記載され、試験例1〜4において、「べこ病の感染魚を作出するため、感染が認められた海域の海面生け簀に供与魚としてカンパチ稚魚を収容し…感染が確認された群を、…清浄な環境で、供与薬剤を…経口投与により投薬試験を開始した」こと(【0041】)が記載されている。
上記の記載によれば、フェバンテルの投与を開始する時期は、海産魚を生け簀導入後に、シストが形成される前や感染した可能性がある場合(すなわち感染から発症までの間)とできるから、水温によって差があるが感染後20日程度で体側筋中にシストが形成されるとの記載を考慮すれば、先願発明Aを具体化するに当たって、生け簀導入後に20日程度やそれより短い日数の経過後にフェバンテルを投与することも十分想定されていると当業者であれば理解できる。

イ 他方、本件明細書には、実施例2において、「生産した稚魚を海面生簀に沖出しし、10日間飼育して再び陸上施設に搬入した。この海面生簀飼育によりブリ稚魚をべこ病の原因寄生虫に自然感染させた。再度陸上施設に搬入し…水槽に収容した。…馴致後に10日間連続で試験飼料を給餌した。」(【0038】)と記載され、その結果、フェバンテル投与区のべこ病発症率は0%であったこと(【0040】)からすれば、本件発明9における生け簀導入後の「9〜23日間」という日数は、生け簀導入後に、べこ病の原因寄生虫に自然感染し発症するまでの期間の目安であって、「稚魚を生け簀導入後、9〜23日目に投与を開始するための」と特定することにより、新たな効果を奏することを認めるに足りる記載はない。

ウ そうすると、本件発明9において、相違点9に係る「稚魚を生け簀導入後、9〜23日目に投与を開始するための」と特定したことは、新たな技術に係るものではなく、具体化手段における微差にすぎず、新たな効果を奏するものではない。
したがって、相違点9は、実質的な相違点ではない。

(3)小括
以上のとおり、本件発明9と先願明細書等(甲2)に記載された発明との相違点は、いずれも実質的な相違点ではないから、本件発明9は、先願明細書等に記載された発明と同一である。

8 本件発明10について
(1)対比
上記4(1)の対比を踏まえて、本件発明10と先願発明Bとを対比すると、一致点及び一応の相違点は、次のとおりである。

<一致点>
「有効成分であるフェバンテルを、経口投与することにより海産魚類を処置することを含む、海産魚類のべこ病の原因寄生虫の駆虫方法であって、べこ病の原因寄生虫が、ミクロスポリジウム(Microsporidium)属に属する微胞子虫である、前記駆虫方法。」
<相違点10−1>
海産魚類の処置について、本件発明10においては、「飼育水温が18.3〜20.5℃である海産魚類を処置する」ことが特定されているのに対し、先願発明Bにおいては、「ブリ属魚類」の飼育水温は特定されていない点。
<相違点10−2>
有効成分の用量について、本件発明10においては、「フェバンテルを、1日当たり10〜40mg/kg魚体重」であると特定されているのに対し、先願発明Bにおいては、「ベンズイミダゾール系薬剤として3mg/kg体重/日以上」とされているものの、フェバンテルの経口投与量は特定されていない点。

(2)判断
ア 相違点10−1について
(ア)本件明細書において、ブリ稚魚を用いた実施例2〜5において、それぞれ飼育水温が20.5℃、20.1℃、18.3℃、20.1℃であったことが記載されている。
しかしながら、本件明細書には、その飼育水温を選択した理由については一切記載されておらず、飼育水温と、魚類の種類やフェバンテルの駆虫効果との間に何らかの関係があることも記載も示唆もないことからすれば、本件発明10の「飼育水温が18.3〜20.5℃である海産魚類を処置する」とは、実施例で用いたブリが生息する日本海等の生息域の水温に合わせてブリを飼育することを特定したにすぎないと解される。

(イ)そして、本件明細書には、海産魚類のべこ病の原因寄生虫の駆虫方法において、飼育水温を特定することが、ミクロスポリジウム属に属する微胞子虫を駆虫するに当たり何らかの技術的意義があり特有の効果を奏すること(例えば、18.3〜20.5℃で飼育されるブリにおける駆虫方法は、23℃で飼育されるブリにおける駆虫方法とは異なる、新たな効果を奏すること。)は、記載も示唆もされていない。

(ウ)甲2には、「微胞子虫Microspordium seriolae感染によるブリ類のべこ病では、水温によって差があるが感染後20日程度で体側筋中にシストが形成される」こと(【0040】)が記載され、甲2の実施例における飼育水温は23.8〜26.6℃程度である(表4及び表5)。
しかし、甲2には、飼育水温を23.8〜26.6℃程度とした理由は記載されておらず、飼育水温と魚類の種類やフェバンテルの駆虫効果との間に何らかの関係があることについて記載も示唆もされていないから、甲2における飼育水温は、カンパチが生息する亜熱帯や温帯水域の水温に合わせたものと解される。

(エ)そうすると、本件発明10において、「飼育水温が18.3〜20.5℃である海産魚類を処置する」と特定することは、新たな技術に係るものではなく、具体化手段における微差にすぎず、新たな効果を奏するものとはいえない。
したがって、相違点10−1は、実質的な相違点ではない。

イ 相違点10−2について
相違点10−2は、相違点1−2と同じであるから、上記4(2)イに説示したものと同様の理由により、相違点10−2は、実質的な相違点ではない。

(3)小括
以上のとおり、本件発明10と先願明細書等(甲2)に記載された発明との相違点は、いずれも実質的な相違点ではないから、本件発明10は、先願明細書等に記載された発明と同一である。

9 本件発明13〜15について
(1)対比
本件発明10を引用する本件発明13〜15と先願発明Bとを対比すると、上記相違点10−1、10−2に加えて、両発明の更なる一応の相違点は、次のとおりである。

<相違点13〜15>
海産魚類が、
本件発明13においては、「スズキ目、カレイ目又はフグ目の魚類」と特定され(相違点13)、
本件発明14においては、更に「スズキ目の魚類が、ブリ属、タイ科又はマグロ属に属する魚類であり、カレイ目の魚類がヒラメ科に属する魚類であり、フグ目に属する魚類がフグ科に属する魚類」と特定され(相違点14)、
本件発明15においては、更に「ブリ属に属する魚類が、ブリ(Seriola quinqueradiata)、カンパチ(Seriola dumerili)、ヒラマサ(Seriola lalandi)のいずれかであり、タイ科に属する魚類が、キダイ(Dentex tumifrons)、チダイ(Evynnis tumifrons)、マダイ(Pagrus major)、クロダイ(Acanthopagrus schlegelii)、及びヘダイ(Rhabdosargus sarba、Sparus sarba)のいずれかであり、マグロ属に属する魚類が、クロマグロ(Thunnus orientalis)、ミナミマグロ(Thunnus maccoyii)のいずれかであり、ヒラメ科に属する魚類が、ヒラメ(Paralichthys olivaceus)、カリフォルニアハリバット(Paralichthys californicus)、ナツヒラメ(Paralichthys dentatus)、タマガンゾウビラメ(Pseudorhombus pentophthalmus)、ガンゾウヒラメ(Pseudorhombus cinnamoneus)、メガレイ(Pseudorhombus dupliciocellatus)、テンジクガレイ(Pseudorhombus arsius)、及びアラメガレイ(Tarphops oligolepis)のいずれかであり、フグ科に属する魚類がトラフグ(Takifugu rubripes)又はマフグ(Takifugu porphyreus)」と特定され(相違点15)
ているのに対し、

先願発明Bにおいては、「ブリ属魚類」である点。

(2)判断
上記8(2)アに説示したとおり、本件明細書の記載に照らし、本件発明10における「飼育水温が18.3〜20.5℃である」海産魚類には、ブリが含まれる。
同様に、本件発明10を引用する本件発明13〜15に係る相違点13〜15の海産魚類にも、ブリが含まれることは明らかである。
したがって、相違点10−1と同様の理由により、相違点13〜15は、いずれも実質的な相違点ではない。

(3)小括
本件発明13〜15と先願明細書等(甲2)に記載された発明との相違点は、いずれも実質的な相違点ではないから、本件発明13〜15は、先願明細書等に記載された発明と同一である。

10 本件発明16〜19について
(1)対比
本件発明10を引用する本件発明16〜19と先願発明Bとを対比すると、上記相違点10に加えて、両発明の更なる一応の相違点は、次のとおりである。

<相違点16>
有効成分の投与について、本件発明16においては「投与期間が1〜20日間」と特定されているのに対し、先願発明Bにおいては、投与期間は特定されていない点。
<相違点17>
有効成分の投与について、本件発明17においては、「投与期間が3〜10日間」と特定されているのに対し、先願発明Bにおいては、投与期間は特定されていない点。
<相違点18>
有効成分の投与について、本件発明18においては、「有効成分の投与後に10〜17日間の投与しない期間を設ける」と特定されているのに対し、先願発明Bにおいては、投与しない期間について特定されていない点。
<相違点19>
有効成分の投与について、本件発明19においては、「稚魚を生け簀導入後、9〜23日目に投与を開始する」と特定されているのに対し、先願発明Bにおいては、対応する事項は特定されていない点。

(2)判断
相違点16〜19は、相違点6〜9と同じであるから、相違点6〜9と同様の理由により、実質的な相違点ではない。

(3)小括
本件発明16〜19と先願明細書等(甲2)に記載された発明との相違点は、いずれも実質的な相違点ではないから、本件発明16〜19は、先願明細書等に記載された発明と同一である。

11 本件発明20について
(1)対比
上記4(1)の対比を踏まえて、本件発明20と先願発明Aとを対比すると、一致点及び一応の相違点は、次のとおりである。

<一致点>
「フェバンテルを有効成分として、経口投与する、ブリ属魚類のべこ病の原因寄生虫の駆除剤であって、べこ病の原因寄生虫が、ミクロスポリジウム(Microsporidium)属に属する微胞子虫であり、ブリ属魚類への経口投与に使用するための、前記駆虫剤。」
<相違点20−1>
ブリ属魚類への経口投与について、本件発明20においては、「飼育温度が18.3〜20.5℃であるブリへの経口投与に使用するための」ものであることが特定されているのに対し、先願発明Aにおいては、対応する事項は特定はされていない点。
<相違点20−2>
有効成分の用量が、本件発明20においては、「1日当たり、有効成分(フェバンテル)を10〜40mg/kg魚体重」であると特定されているのに対し、先願発明Aにおいては、「ベンズイミダゾール系薬剤として3mg/kg体重/日以上」とされているものの、フェバンテルの経口投与量は特定されていない点。

(2)判断
ア 相違点20−1について
相違点1−1について判断したように、先願発明Aにおける「ブリ属魚類」には「ブリ」が含まれることは明らかである。
また、相違点10−1について判断したように、18.3〜20.5℃はブリの飼育水温として一般的なものであると解されるから、本件発明20において「飼育水温が18.3〜20.5℃であるブリへの経口投与に使用するための」との特定は、新たな技術に関するものではなく、具体化手段における微差にすぎず、18.3〜20.5℃とは異なる温度で飼育されるブリへの経口投与に使用する場合と異なる新たな効果を奏するものとはいえない。
したがって、相違点20−1は、実質的な相違点ではない。

イ 相違点20−2について
相違点1−2についての判断と同様の理由により、本件発明20において、ブリに対するフェバンテルの経口投与量を相違点20−2に係る数値範囲としたことは、新たな技術に関するものではなく、具体化手段における微差にすぎず、新たな効果を奏するものではない。
したがって、相違点20−2は、実質的な相違点ではない。

(3)小括
本件発明20と先願明細書等(甲2)に記載された発明との相違点は、いずれも実質的な相違点ではないから、本件発明20は、先願明細書等に記載された発明と同一である。

12 本件発明21〜25について
(1)対比
本件発明20を引用する本件発明21〜25と先願発明Aとを対比すると、上記相違点20−1、20−2に加えて、両発明の更なる一応の相違点は、次のとおりである。

<相違点21>
有効成分の投与について、本件発明21においては「投与期間が10〜20日間」と特定されているのに対し、先願発明Aにおいては、投与期間は特定されていない点。
<相違点22>
有効成分の投与について、本件発明22においては「投与期間が1〜20日間」と特定されているのに対し、先願発明Aにおいては、投与期間は特定されていない点。
<相違点23>
有効成分の投与について、本件発明23においては、「投与期間が3〜10日間」と特定されているのに対し、先願発明Aにおいては、投与期間は特定されていない点。
<相違点24>
有効成分の投与について、本件発明24においては、「有効成分の投与後に10〜17日間の投与しない期間を設ける」と特定されているのに対し、先願発明Aにおいては、投与しない期間について特定されていない点。
<相違点25>
有効成分の投与について、本件発明25においては、「稚魚を生け簀導入後、9〜23日目に投与を開始するための」ものであることが特定されているのに対し、先願発明Aにおいては、対応する事項は特定されていない点。

(2)判断
相違点22〜25は、相違点16〜19と同じであるから、相違点16〜19と同様の理由により、実質的な相違点ではない。
また、相違点21において投与期間を「10〜20日間」に特定することは、相違点22及び23と同様の理由により、新たな技術に係るものではなく、具体化手段における微差にすぎず、新たな効果を奏するものではない。
したがって、相違点21も、実質的な相違点ではない。

(3)小括
本件発明21〜25と先願明細書等(甲2)に記載された発明との相違点は、いずれも実質的な相違点ではないから、本件発明21〜25は、先願明細書等に記載された発明と同一である。

13 特許権者の主張について(なお、以下の主張における乙号証は、下記の乙号証一覧を参照。)
(1)特許権者は、以下の(i)〜(iv)を挙げて、甲2の「本発明の予防又は治療薬の投与対象となる海産魚は、好ましくはブリ属の魚類である。」(【0028】)との記載だけでは、甲2には、「ブリ属魚類」全体を対象魚類とする先願発明A及びBが記載されていると解することはできず、実施例のある「カンパチ」に「3.125〜25mg/kg体重/日」となるよう薬剤を投与する発明として先願発明を認定すべきである旨を主張する(令和3年8月5日提出の意見書21〜24頁、令和4年4月18日提出の意見書6〜10頁)。
(i)「ブリ属魚類」は、大きさや生息域が大きく異なる9つの魚類を含む概念であり、ブリとカンパチも生息域と外観が大きく異なる(乙1、乙4、乙5)。
(ii)ブリとカンパチは、疾病に対する感受性や薬に対する効果が異なり、ブリで発生する細菌性溶血性黄疸はカンパチでの発生の報告がないこと(乙10)、ブラジカンテルによるハダムシ寄生虫の減少率がブリとカンパチで異なること(乙2)などが知られ、ブリのみを対象魚類とする動物用医薬も知られている(乙6)。
(iii)甲2には、ブリ属全体についてフェバンテルが有効であることについて何らの記載も示唆もなく、カンパチ以外のブリ属魚類に対するフェバンテルの安全性(毒性)についても何ら具体的記載はなく、カンパチの試験結果がブリ属全体の魚類に関する結果と実質的に同一とみることができるとの技術常識も存在しない。
(iv)甲2を優先権の基礎とする甲1では新たに行ったブリを対象とした試験結果が記載されているように、ブリに対するフェバンテルの効果や安全性はブリを対象とした試験を行って確認する必要があることは技術常識である。

しかしながら、乙2には、プラジカンテル(PZQ)の寄生虫(Neobenedenia girellae、Benedenia seriolae)に対する効果の程度が、小型のブリとカンパチで異なることが記載されているものの、一方の魚には効くが、もう一方の魚には全く効かないということではなく、結局のところ、効果の程度の差はあるけれども、ブラジカンテルは両方の魚において上記寄生虫に有効であることを示すものである。
べこ病の原因寄生虫であるミクロスポリジウム属にする微胞子虫は、カンパチだけでなく、ブリを含むブリ属魚類に寄生するものであって、乙10に示される溶血性黄疸のように、ブリ属魚類の中でも特定の魚にのみ発生するものではないから、乙10における知見を本件において当てはめることはできない。
特許権者が主張するように、同じ属に属する魚であっても、その種類によって薬に対する感受性(有効性、毒性等)が異なり、また、病気に罹患するかしないかが異なることがあるとしても、ブリを含む「ブリ属魚類」は、カンパチと同様に、寄生虫によるべこ病に罹患する魚類であるから、甲2の記載に接した当業者であれば、フェバンテルはカンパチにのみ有効であると理解するのではなく、程度の差こそあれ、ブリを含む「ブリ属魚類」全体に有効であると理解する方が自然であるといえる。
そして、甲1においてブリを対象とした実施例を追加しているのは、甲2において開示されていた、フェバンテルを有効成分とする「ブリ属魚類」に対する予防又は治療薬に係る発明について、ブリに対する実施例を追加した以上の意味はなく、魚の種類ごとに実際に確認してみなければ、フェバンテルが当該魚において微胞子虫感染症の予防又は治療として有効か否かがわからないものであることを裏付けるものとは解されない。
したがって、特許権者の上記主張は採用することはできない。

(2)特許権者は、魚類の育成が飼育水温の影響を受けること(乙4)、ブリとカンパチでは、生息水域が異なり、産卵時や稚魚が育成する温度も異なること(乙7、乙8)、べこ病を発症した魚類が飼育水温の影響を受けること(甲2の【0040】)、一般に微生物は海水温は高温の方が増殖に有利であること(乙9)は、それぞれ技術常識であり、また、飼育水温が魚類へ投与する医薬品の効果(例えば血清濃度、全体的曝露(AUC))に影響を及ぼすことが知られているから(乙3)、当業者であれば、水温がフェバンテルの効果に影響を及ぼすことは明らかであり、本件発明10及び20における水温の範囲の限定は先願発明との実質的な相違点となることも明らかである旨を主張する(令和3年8月5日提出の意見書25〜27頁、令和4年4月18日提出の意見書10〜13頁)。

しかしながら、乙3に記載の医薬品はフロルフェニコール(FF)であって、フェバンテルではないし、乙3は本願優先日後の文献である。
また、甲2には「微胞子虫Microsporidium seriolae感染によるブリ類のべこ病では、水温によって差があるが感染後20日程度で体側筋中にシストが形成される」こと(【0040】)は記載されているが、飼育水温と、魚類の種類やフェバンテルの駆虫効果との間に何らかの関係があることについては記載されていない。
さらに、本件発明10及び20における飼育水温(18.3〜20.5℃)が、甲2のカンパチを用いた実施例における飼育水温(表4及び表5:23.8〜26.6℃)よりも低いのは、ブリは日本海等に生息し、カンパチは亜熱帯や温帯水域に生息するという、それぞれの魚の自然界における生息域の水温に合わせたためであると解され、また、本件明細書において、飼育水温の特定についての理由は何ら記載されていない以上、本件発明10及び20における飼育水温の特定は、魚の種類を特定したことにより自ずと特定される事項であって、新たな技術に係るものではなく、具体化手段における微差にすぎず、新たな効果を奏するものではないと判断せざるを得ないことは、相違点10−1において説示したとおりである。
したがって、特許権者の上記主張は採用できない。

<乙号証一覧>
乙1:日本産魚類大図鑑,1984年12月1日,東海大学出版会,p.136
乙2:Acuaculture,2013,404-405,p.59-64
乙3:Acuaculture,2019,503,p.483-488
乙4:Wikipediaの「ブリ属」,2021年5月19日改訂,
インタ-ネット
乙5:FishBaseにおける「Seriola(ブリ属)」の検索結果,[2022年4月13日検索],インターネット
乙6:動物用医薬品イスラン(R)ソーダ添付文書,2019年4月改訂,MSDアニマルヘルス株式会社(当審注:(R)は○の中にR。)
乙7:日本水産學會誌,1993年9月,59巻9号,p.1479-1488
乙8:日本水産學會誌,2006年2月,72巻2号,p.250-253
乙9:Fish Pathology,1998年,Vol.33,No.1,p.3311-16
乙10:長崎県総合水産試験場事業報告(平成28年度)環境養殖技術開発センター,2017年,p.85,インターネット

なお、乙3、乙6は本件原出願日後に公開された文献である。また、乙4及び乙5は、本件原出願日後に改訂又は検索した情報であるが、その内容からみて、本件原出願日前の技術常識を示すものと認める。

14 まとめ
以上によれば、本件発明1、6〜10、13〜25と先願明細書等(甲2)に記載された発明との相違点は、いずれも実質的な相違点ではないから、本件発明1、6〜10、13〜25は、先願明細書等に記載された発明と同一である。
よって、本件発明1、6〜10、13〜25に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものであり、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

第6 取消理由(決定の予告)において採用しなかった特許異議の申立の理由について(本件発明3〜5について)
上記第5の1において説示したように、本件発明3〜5は、特許異議の申立てがされている請求項1を引用せず、特許異議の申立てがされていない請求項2のみを直接的又は間接的に引用する、フルベンダゾールを有効成分とする発明のみに係るものであり、フェバンテルを有効成分とする発明に係るものではない。
特許異議の申立ての理由は、フェバンテルを有効成分とする発明に関するものであって、フルベンダゾールを有効成分する発明に関するものではないから、本件発明3〜5に係る特許は、特許異議の申立ての理由によっては、取り消すことはできない。
そして、ほかに本件発明3〜5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、請求項1、6〜10、13〜25に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものであり、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
また、請求項3〜5に係る特許は、特許異議申立書に記載された特許異議の申立ての理由によっては、取り消すことはできない。さらに、ほかに請求項3〜5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この決定に対する訴えは、この決定の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェバンテルを有効成分として、1日当たり、有効成分を10〜40mg/kg魚体重経口投与することを特徴とする、ブリ(Seriola quinqueradiata)のべこ病の原因寄生虫の駆虫剤であって、べこ病の原因寄生虫が、ミクロスポリジウム(Microsporidium)属に属する微胞子虫である、前記駆虫剤。
【請求項2】
フルベンダゾールを有効成分として、1日当たり、有効成分を10〜40mg/kg魚体重経口投与することを特徴とする、海産魚類の粘液胞子虫症の原因寄生虫の駆虫剤であって、粘液胞子虫症の原因寄生虫が、クドア(Kudoa)属に属する粘液胞子虫である、前記駆虫剤。
【請求項3】
海産魚類が、スズキ目、カレイ目又はフグ目の魚類である、請求項2に記載の駆虫剤。
【請求項4】
スズキ目の魚類が、ブリ属、タイ科又はマグロ属に属する魚類であり、カレイ目の魚類がヒラメ科に属する魚類であり、フグ目に属する魚類がフグ科に属する魚類である、請求項3に記載の駆虫剤。
【請求項5】
ブリ属に属する魚類が、ブリ(Seriola quinqueradiata)、カンパチ(Seriola dumerili)、ヒラマサ(Seriola lalandi)、ヒレナガカンパチ(Seriola rivoliana)、Seriola carpenteri、Seriola fasciata、ミナミカンパチ(Seriola hippos)、Seriola peruana、及びSeriola zonataのいずれかであり、タイ科に属する魚類が、ミナミクロダイ(Acanthopagrus sivicolus)、タイワンダイ(Argyrops bleekeri Oshima)、キダイ(Dentex tumifrons)、チダイ(Evynnis tumifrons)、マダイ(Pagrus major)、クロダイ(Acanthopagrus schlegelii)、及びヘダイ(Rhabdosargus sarba、Sparus sarba)のいずれかであり、マグロ属に属する魚類が、クロマグロ(Thunnus orientalis)、タイセイヨウクロマグロ(Thunnus thynnus)、ミナミマグロ(Thunnus maccoyii)、メバチマグロ(Thunnus obesus)、ビンナガマグロ(Thunnus alalunga)、キハダマグロ(Thunnus albacares)、コシナガマグロ(Thunnus tonggol)、及びタイセイヨウマグロ(Thunnus atlanticus)のいずれかであり、ヒラメ科に属する魚類が、ヒラメ(Paralichthys olivaceus)、カリフォルニアハリバット(Paralichthys californicus)、ナツヒラメ(Paralichthys dentatus)、タマガンゾウビラメ(Pseudorhombus pentophthalmus)、ガンゾウヒラメ(Pseudorhombus cinnamoneus)、メガレイ(Pseudorhombus dupliciocellatus)、テンジクガレイ(Pseudorhombus arsius)、及びアラメガレイ(Tarphops oligolepis)のいずれかであり、フグ科に属する魚類がトラフグ(Takifugu rubripes)又はマフグ(Takifugu porphyreus)である、請求項4に記載の駆虫剤。
【請求項6】
有効成分の投与期間が1〜20日間である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の駆虫剤。
【請求項7】
有効成分の投与期間が3〜10日間である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の駆虫剤。
【請求項8】
有効成分の投与後に10〜17日間の投与しない期間を設ける、請求項1〜7のいずれか1項に記載の駆虫剤。
【請求項9】
稚魚を生け簀導入後、9〜23日目に投与を開始するための請求項1〜8のいずれか1項に記載の駆虫剤。
【請求項10】
有効成分であるフェバンテルを、1日当たり10〜40mg/kg魚体重を経口投与することにより飼育水温が18.3〜20.5℃である海産魚類を処置することを含む、海産魚類のべこ病の原因寄生虫の駆虫方法であって、べこ病の原因寄生虫が、ミクロスポリジウム(Microsporidium)属に属する微胞子虫である、前記駆虫方法。
【請求項11】
有効成分であるフルベンダゾールを、1日当たり10〜40mg/kg魚体重を経口投与することにより海産魚類を処置することを含む、海産魚類の粘液胞子虫症の原因寄生虫の駆虫方法であって、粘液胞子虫症の原因寄生虫が、クドア(Kudoa)属に属する粘液胞子虫である、前記駆虫方法。
【請求項12】
海産魚類が、微胞子虫が寄生した海産魚類及び粘液胞子虫が寄生した海産魚類を含む、請求項11に記載の駆虫方法。
【請求項13】
海産魚類が、スズキ目、カレイ目又はフグ目の魚類である、請求項10〜12のいずれか1項に記載の駆虫方法。
【請求項14】
スズキ目の魚類が、ブリ属、タイ科又はマグロ属に属する魚類であり、カレイ目の魚類がヒラメ科に属する魚類であり、フグ目に属する魚類がフグ科に属する魚類である、請求項13の駆虫方法。
【請求項15】
ブリ属に属する魚類が、ブリ(Seriola quinqueradiata)、カンパチ(Seriola dumerili)、ヒラマサ(Seriola lalandi)のいずれかであり、タイ科に属する魚類が、キダイ(Dentex tumifrons)、チダイ(Evynnis tumifrons)、マダイ(Pagrus major)、クロダイ(Acanthopagrus schlegelii)、及びヘダイ(Rhabdosargus sarba、Sparus sarba)のいずれかであり、マグロ属に属する魚類が、クロマグロ(Thunnus orientalis)、ミナミマグロ(Thunnus maccoyii)のいずれかであり、ヒラメ科に属する魚類が、ヒラメ(Paralichthys olivaceus)、カリフォルニアハリバット(Paralichthys californicus)、ナツヒラメ(Paralichthys dentatus)、タマガンゾウビラメ(Pseudorhombus pentophthalmus)、ガンゾウヒラメ(Pseudorhombus cinnamoneus)、メガレイ(Pseudorhombus dupliciocellatus)、テンジクガレイ(Pseudorhombus arsius)、及びアラメガレイ(Tarphops oligolepis)のいずれかであり、フグ科に属する魚類がトラフグ(Takifugu rubripes)又はマフグ(Takifugu porphyreus)である、請求項14の駆虫方法。
【請求項16】
有効成分の投与期間が1〜20日間である、請求項10〜15のいずれか1項に記載の駆虫方法。
【請求項17】
有効成分の投与期間が3〜10日間である、請求項10〜16のいずれか1項に記載の駆虫方法。
【請求項18】
有効成分の投与後に10〜17日間の投与しない期間を設ける、請求項11〜17のいずれか1項に記載の駆虫方法。
【請求項19】
稚魚を生け簀導入後、9〜23日目に投与を開始することを特徴とする請求項11〜18のいずれか1項に記載の駆虫方法。
【請求項20】
フェバンテルを有効成分として、1日当たり、有効成分を10〜40mg/kg魚体重経口投与することを特徴とする、ブリ(Seriola quinqueradiata)のべこ病の原因寄生虫の駆虫剤であって、べこ病の原因寄生虫が、ミクロスポリジウム(Microsporidium)属に属する微胞子虫であり、飼育水温が18.3〜20.5℃であるブリへの経口投与に使用するための、前記駆虫剤。
【請求項21】
有効成分の投与期間が10〜20日間である、請求項20に記載の駆虫剤。
【請求項22】
有効成分の投与期間が1〜20日間である、請求項20に記載の駆虫剤。
【請求項23】
有効成分の投与期間が3〜10日間である、請求項20または22に記載の駆虫剤。
【請求項24】
有効成分の投与後に10〜17日間の投与しない期間を設ける、請求項20〜23のいずれか1項に記載の駆虫剤。
【請求項25】
稚魚を生け簀導入後、9〜23日目に投与を開始するための請求項20〜24のいずれか1項に記載の駆虫剤。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-06-28 
出願番号 P2018-118015
審決分類 P 1 652・ 161- ZDA (A61K)
最終処分 08   一部取消
特許庁審判長 原田 隆興
特許庁審判官 藤原 浩子
前田 佳与子
登録日 2020-08-14 
登録番号 6749966
権利者 黒瀬水産株式会社 日本水産株式会社
発明の名称 海産魚類に寄生する微胞子虫及び粘液胞子虫による疾患の治療剤  
代理人 寺地 拓己  
代理人 寺地 拓己  
代理人 寺地 拓己  
代理人 一宮 維幸  
代理人 寺地 拓己  
代理人 一宮 維幸  
代理人 一宮 維幸  
代理人 一宮 維幸  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ