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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 H01B 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 H01B 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 H01B 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 H01B |
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管理番号 | 1390543 |
総通号数 | 11 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2022-11-25 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2021-04-26 |
確定日 | 2022-08-09 |
異議申立件数 | 2 |
訂正明細書 | true |
事件の表示 | 特許第6777405号発明「導電性粒子、導電性粒子の製造方法、導電材料及び接続構造体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6777405号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし10、12及び13〕並びに11について訂正することを認める。 特許第6777405号の請求項1ないし8及び10ないし13に係る特許を維持する。 特許第6777405号の請求項9に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6777405号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし13に係る特許についての出願は、平成28年3月2日(優先権主張 平成27年3月3日)の出願であって、令和2年10月12日にその特許権の設定登録(請求項の数13)がされ、同年同月28日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、令和3年4月26日に特許異議申立人 本間 裕美(以下、「特許異議申立人A」という。)及び特許異議申立人 黒田 泰(以下、「特許異議申立人B」という。)それぞれから特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし13)がされ、同年7月9日付けで取消理由が通知され、同年10月7日に特許権者 積水化学工業株式会社(以下、「特許権者」という。)から訂正請求がされるとともに意見書が提出され、同年同月25日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされ、同年11月24日に特許異議申立人Aから意見書が提出され、同年同月25日に特許異議申立人Bから意見書が提出され、令和4年3月3日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、同年5月12日に特許権者から訂正請求がされるとともに意見書が提出されたものである。 なお、令和3年10月7日にされた訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。 また、すでに特許異議申立人A及びBに意見書の提出の機会が与えられており、下記第2 1のとおり、令和4年5月12日にされた訂正請求によって特許請求の範囲が相当程度減縮され、下記第5ないし7のとおり、提出された全ての証拠や意見等を踏まえて更に審理を進めたとしても特許を維持すべきとの結論となると合議体は判断し、特許法第120条の5第5項ただし書に規定された特別の事情があるときといえるから、特許異議申立人A及びBに再度の意見書の提出の機会を与えていない。 第2 本件訂正について 1 訂正の内容 令和4年5月12日にされた訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という)の内容は、次のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示すものである。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1の 「基材粒子と、前記基材粒子の表面上に配置された導電部とを備え、 前記導電部が水素原子を含まないか、又は、前記導電部が水素原子を80μg/g以下で含み、」との記載を、 「基材粒子と、前記基材粒子の表面上に配置された導電部とを備え、 前記基材粒子が、ジビニルベンゼン共重合体樹脂粒子、または、ジビニルベンゼン共重合体樹脂粒子の表面を無機シェルにより被覆したコアシェル型の有機無機ハイブリッド粒子からなり、 前記導電部が水素原子を含まないか、又は、前記導電部が水素原子を80μg/g以下で含み、」と訂正する。 併せて、請求項1を直接又は間接的に引用する他の請求項についても、請求項1を訂正したことに伴う訂正をする。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項2の 「基材粒子と、前記基材粒子の表面上に配置された導電部とを備え、 前記導電部が水素原子を含まないか、又は、前記導電部が水素原子を80μg/g以下で含み、」との記載を、 「基材粒子と、前記基材粒子の表面上に配置された導電部とを備え、 前記基材粒子が、ジビニルベンゼン共重合体樹脂粒子、または、ジビニルベンゼン共重合体樹脂粒子の表面を無機シェルにより被覆したコアシェル型の有機無機ハイブリッド粒子からなり、 前記導電部が水素原子を含まないか、又は、前記導電部が水素原子を80μg/g以下で含み、」と訂正する。 併せて、請求項2を直接又は間接的に引用する他の請求項についても、請求項2を訂正したことに伴う訂正をする。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項3の 「基材粒子と、前記基材粒子の表面上に配置された導電部とを備え、 前記導電部が水素原子を含まないか、又は、前記導電部が水素原子を80μg/g以下で含み、」との記載を、 「基材粒子と、前記基材粒子の表面上に配置された導電部とを備え、 前記基材粒子が、ジビニルベンゼン共重合体樹脂粒子、または、ジビニルベンゼン共重合体樹脂粒子の表面を無機シェルにより被覆したコアシェル型の有機無機ハイブリッド粒子からなり、 前記導電部が水素原子を含まないか、又は、前記導電部が水素原子を80μg/g以下で含み、」と訂正する。 併せて、請求項3を直接又は間接的に引用する他の請求項についても、請求項3を訂正したことに伴う訂正をする。 (4)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項4の 「基材粒子と、前記基材粒子の表面上に配置された導電部とを備え、 前記導電部が水素原子を含まないか、又は、前記導電部が水素原子を80μg/g以下で含み、」との記載を、 「基材粒子と、前記基材粒子の表面上に配置された導電部とを備え、 前記基材粒子が、ジビニルベンゼン共重合体樹脂粒子、または、ジビニルベンゼン共重合体樹脂粒子の表面を無機シェルにより被覆したコアシェル型の有機無機ハイブリッド粒子からなり、 前記導電部が水素原子を含まないか、又は、前記導電部が水素原子を80μg/g以下で含み、」と訂正する。 併せて、請求項4を直接又は間接的に引用する他の請求項についても、請求項4を訂正したことに伴う訂正をする。 (5)訂正事項5 特許請求の範囲の請求項5の 「基材粒子と、前記基材粒子の表面上に配置された導電部とを備え、 前記導電部が水素原子を含まないか、又は、前記導電部が水素原子を80μg/g以下で含み、」との記載を、 「基材粒子と、前記基材粒子の表面上に配置された導電部とを備え、 前記基材粒子が、ジビニルベンゼン共重合体樹脂粒子、または、ジビニルベンゼン共重合体樹脂粒子の表面を無機シェルにより被覆したコアシェル型の有機無機ハイブリッド粒子からなり、 前記導電部が水素原子を含まないか、又は、前記導電部が水素原子を80μg/g以下で含み、」と訂正する。 併せて、請求項5を直接又は間接的に引用する他の請求項についても、請求項5を訂正したことに伴う訂正をする。 (6)訂正事項6 特許請求の範囲の請求項11の 「基材粒子と、前記基材粒子の表面上に配置された導電部を有する導電性粒子を用いて、前記導電性粒子を200℃以上にアニール処理する工程を備え、」との記載を、 「ジビニルベンゼン共重合体樹脂粒子、または、ジビニルベンゼン共重合体樹脂粒子の表面を無機シェルにより被覆したコアシェル型の有機無機ハイブリッド粒子からなる基材粒子と、前記基材粒子の表面上に配置された導電部を有する導電性粒子を用いて、前記導電性粒子を200℃以上にアニール処理する工程を備え、」と訂正する。 (7)訂正事項7 特許請求の範囲の請求項1の 「前記導電部が結晶構造を有する導電部を含み、」との記載を、 「前記導電部の外表面に複数の突起を有し、 前記導電部が結晶構造を有する導電部を含み、」と訂正する。 併せて、請求項1を直接又は間接的に引用する他の請求項についても、請求項1を訂正したことに伴う訂正をする。 (8)訂正事項8 特許請求の範囲の請求項2の 「前記導電部が結晶構造を有する導電部を含み、」との記載を、 「前記導電部の外表面に複数の突起を有し、 前記導電部が結晶構造を有する導電部を含み、」と訂正する。 併せて、請求項2を直接又は間接的に引用する他の請求項についても、請求項2を訂正したことに伴う訂正をする。 (9)訂正事項9 特許請求の範囲の請求項3の 「前記導電部が結晶構造を有する導電部を含み、」との記載を、 「前記導電部の外表面に複数の突起を有し、 前記導電部が結晶構造を有する導電部を含み、」と訂正する。 併せて、請求項3を直接又は間接的に引用する他の請求項についても、請求項3を訂正したことに伴う訂正をする。 (10)訂正事項10 特許請求の範囲の請求項5の 「前記導電部は、ニッケルを少なくとも含む、」との記載を、 「前記導電部の外表面に複数の突起を有し、 前記導電部は、ニッケルを少なくとも含む、」と訂正する。 併せて、請求項5を直接又は間接的に引用する他の請求項についても、請求項5を訂正したことに伴う訂正をする。 (11)訂正事項11 特許請求の範囲の請求項9を削除する。 (12)訂正事項12 特許請求の範囲の請求項10の 「請求項1〜9のいずれか1項に記載の導電性粒子。」との記載を、 「請求項1〜8のいずれか1項に記載の導電性粒子。」と訂正する。 併せて、請求項10を直接又は間接的に引用する他の請求項についても、請求項10を訂正したことに伴う訂正をする。 (13)訂正事項13 特許請求の範囲の請求項12の 「請求項1〜10のいずれか1項に記載の導電性粒子。」との記載を、 「請求項1〜8および10のいずれか1項に記載の導電性粒子。」と訂正する。 (14)訂正事項14 特許請求の範囲の請求項13の 「請求項1〜10のいずれか1項に記載の導電性粒子」との記載を、 「請求項1〜8および10のいずれか1項に記載の導電性粒子」と訂正する。 2 訂正の目的、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内か否か及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)請求項1についての訂正について 訂正事項1による請求項1についての訂正は、「基材粒子」の材質を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 訂正事項7による請求項1についての訂正は、「導電部」の外表面の形状を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項1及び7による請求項1についての訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (2)請求項2についての訂正について 訂正事項2による請求項2についての訂正は、「基材粒子」の材質を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 訂正事項8による請求項2についての訂正は、「導電部」の外表面の形状を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項2及び8による請求項2についての訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (3)請求項3についての訂正について 訂正事項3による請求項3についての訂正は、「基材粒子」の材質を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 訂正事項9による請求項3についての訂正は、「導電部」の外表面の形状を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項3及び9による請求項3についての訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (4)請求項4についての訂正について 訂正事項4による請求項4についての訂正は、「基材粒子」の材質を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項4による請求項4についての訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (5)請求項5についての訂正について 訂正事項5による請求項5についての訂正は、「基材粒子」の材質を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 訂正事項10による請求項5についての訂正は、「導電部」の外表面の形状を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項5及び10による請求項5についての訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (6)請求項6についての訂正について 訂正事項1ないし4及び7ないし9による請求項6についての訂正は、請求項1ないし4についての訂正と同様に特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項1ないし4及び7ないし9による請求項6についての訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (7)請求項7についての訂正について 訂正事項1ないし5及び7ないし10による請求項7についての訂正は、請求項1ないし6についての訂正と同様に特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項1ないし5及び7ないし10による請求項7についての訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (8)請求項8についての訂正について 訂正事項1ないし5及び7ないし10による請求項8についての訂正は、請求項1ないし7についての訂正と同様に特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項1ないし5及び7ないし10による請求項8についての訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (9)請求項9についての訂正について 訂正事項11による請求項9についての訂正は、請求項を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項11による請求項9についての訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (10)請求項10についての訂正について 訂正事項1ないし5及び7ないし10による請求項10についての訂正は、請求項1ないし8についての訂正と同様に特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 訂正事項12による請求項10についての訂正は、引用請求項を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項1ないし5、7ないし10及び12による請求項10についての訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (11)請求項11についての訂正について 訂正事項6による請求項11についての訂正は、「基材粒子」の材質を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項6による請求項11についての訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (12)請求項12についての訂正について 訂正事項1ないし5、7ないし10及び12による請求項12についての訂正は、請求項1ないし8及び10についての訂正と同様に特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 訂正事項13による請求項12についての訂正は、引用請求項を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項1ないし5、7ないし10、12及び13による請求項12についての訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (13)請求項13についての訂正について 訂正事項1ないし5、7ないし10及び12による請求項13についての訂正は、請求項1ないし8及び10についての訂正と同様に特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 訂正事項14による請求項13についての訂正は、引用請求項を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項1ないし5、7ないし10、12及び14による請求項13についての訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 3 むすび 以上のとおり、訂正事項1ないし14による請求項1ないし13についての訂正は、いずれも、特許法120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものである。 また、訂正事項1ないし14による請求項1ないし13についての訂正は、いずれも、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合する。 なお、訂正前の請求項1ないし10、12及び13は一群の請求項に該当するものである。そして、訂正事項1ないし5及び7ないし14による請求項1ないし10、12及び13についての訂正は、それらについてされたものであるから、一群の請求項ごとにされたものであり、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。 さらに、特許異議の申立ては、訂正前の請求項1ないし13に対してされているので、訂正を認める要件として、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。 したがって、本件訂正は適法なものであり、結論のとおり、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし10、12及び13〕並びに11について訂正することを認める。 第3 本件特許発明 上記第2のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし13に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいい、総称して「本件特許発明」という。)は、それぞれ、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし13に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 基材粒子と、前記基材粒子の表面上に配置された導電部とを備え、 前記基材粒子が、ジビニルベンゼン共重合体樹脂粒子、または、ジビニルベンゼン共重合体樹脂粒子の表面を無機シェルにより被覆したコアシェル型の有機無機ハイブリッド粒子からなり、 前記導電部が水素原子を含まないか、又は、前記導電部が水素原子を80μg/g以下で含み、 前記導電部の外表面に複数の突起を有し、 前記導電部が結晶構造を有する導電部を含み、 前記結晶構造を有する導電部の断面観察において、前記結晶構造を有する導電部における結晶子サイズが50nm以上である、導電性粒子。 【請求項2】 基材粒子と、前記基材粒子の表面上に配置された導電部とを備え、 前記基材粒子が、ジビニルベンゼン共重合体樹脂粒子、または、ジビニルベンゼン共重合体樹脂粒子の表面を無機シェルにより被覆したコアシェル型の有機無機ハイブリッド粒子からなり、 前記導電部が水素原子を含まないか、又は、前記導電部が水素原子を80μg/g以下で含み、 前記導電部の外表面に複数の突起を有し、 前記導電部が結晶構造を有する導電部を含み、 前記結晶構造を有する導電部において、X線回折により得られる回折ピークの半値幅とシェラーの式から求められる(111)面、(200)面、(220)面、(311)面及び(222)面の結晶子サイズの平均値による結晶子サイズが50nm以上である、導電性粒子。 【請求項3】 基材粒子と、前記基材粒子の表面上に配置された導電部とを備え、 前記基材粒子が、ジビニルベンゼン共重合体樹脂粒子、または、ジビニルベンゼン共重合体樹脂粒子の表面を無機シェルにより被覆したコアシェル型の有機無機ハイブリッド粒子からなり、 前記導電部が水素原子を含まないか、又は、前記導電部が水素原子を80μg/g以下で含み、 前記導電部の外表面に複数の突起を有し、 前記導電部が結晶構造を有する導電部を含み、 前記結晶構造を有する導電部において、X線回折により得られる回折ピークの半値幅とウィリアムソン−ホール式から求められる結晶子サイズが50nm以上である、導電性粒子。 【請求項4】 基材粒子と、前記基材粒子の表面上に配置された導電部とを備え、 前記基材粒子が、ジビニルベンゼン共重合体樹脂粒子、または、ジビニルベンゼン共重合体樹脂粒子の表面を無機シェルにより被覆したコアシェル型の有機無機ハイブリッド粒子からなり、 前記導電部が水素原子を含まないか、又は、前記導電部が水素原子を80μg/g以下で含み、 10%圧縮した時の圧縮弾性率が3000N/mm2以上である、導電性粒子。 【請求項5】 基材粒子と、前記基材粒子の表面上に配置された導電部とを備え、 前記基材粒子が、ジビニルベンゼン共重合体樹脂粒子、または、ジビニルベンゼン共重合体樹脂粒子の表面を無機シェルにより被覆したコアシェル型の有機無機ハイブリッド粒子からなり、 前記導電部が水素原子を含まないか、又は、前記導電部が水素原子を80μg/g以下で含み、 前記導電部の外表面に複数の突起を有し、 前記導電部は、ニッケルを少なくとも含む、導電性粒子。 【請求項6】 前記導電部は、ニッケル、パラジウム、ルテニウム、銅、タングステン、モリブデン、リン、ボロン、金、白金又は錫を少なくとも含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の導電性粒子。 【請求項7】 前記導電部のビッカース硬度が200以上である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の導電性粒子。 【請求項8】 前記基材粒子が、樹脂粒子又は有機無機ハイブリッド粒子である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の導電性粒子。 【請求項9】削除 【請求項10】 前記導電部の外表面上に配置された絶縁性物質を備える、請求項1〜8のいずれか1項に記載の導電性粒子。 【請求項11】 ジビニルベンゼン共重合体樹脂粒子、または、ジビニルベンゼン共重合体樹脂粒子の表面を無機シェルにより被覆したコアシェル型の有機無機ハイブリッド粒子からなる基材粒子と、前記基材粒子の表面上に配置された導電部を有する導電性粒子を用いて、前記導電性粒子を200℃以上にアニール処理する工程を備え、 前記アニール処理によって、基材粒子と、前記基材粒子の表面上に配置された導電部とを備え、導電部が水素原子を含まないか、又は、導電部が水素原子を80μg/g以下で含む導電性粒子を得る、導電性粒子の製造方法。 【請求項12】 請求項1〜8および10のいずれか1項に記載の導電性粒子と、バインダー樹脂とを含む、導電材料。 【請求項13】 第1の接続対象部材と、 第2の接続対象部材と、 前記第1の接続対象部材と、前記第2の接続対象部材とを接続している接続部とを備え、 前記接続部の材料が、請求項1〜8および10のいずれか1項に記載の導電性粒子であるか、又は前記導電性粒子とバインダー樹脂とを含む導電材料である、接続構造体。」 第4 特許異議申立書に記載した申立ての理由及び令和4年3月3日付けで通知した取消理由(決定の予告)の概要 1 特許異議申立人Aが提出した特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要 令和3年4月26日に特許異議申立人Aが提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書A」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。 (1)申立理由A−1(甲第1号証に基づく新規性) 本件特許発明1ないし3、5、6及び8は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし3、5、6及び8に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 (2)申立理由A−2(甲第2号証に基づく新規性・進歩性) 本件特許発明1ないし8及び11ないし13は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、本件特許発明1ないし8及び10ないし13は、甲第2号証に記載された発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし8及び10ないし13に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 (3)申立理由A−3(甲第3号証に基づく新規性・進歩性) 本件特許発明1ないし8及び11ないし13は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第3号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、本件特許発明1ないし8及び10ないし13は、甲第3号証に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし8及び10ないし13に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 (4)申立理由A−4(甲第16号証に基づく新規性・進歩性) 本件特許発明4ないし8及び11ないし13は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第16号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、本件特許発明4ないし13は、甲第16号証に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項4ないし13に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 (5)申立理由A−5(実施可能要件) 本件特許の請求項1ないし13についての特許は、下記の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 ア 無電解ニッケルめっき皮膜の加熱処理による結晶化に関して、例えば、甲第5号証及び甲第10号証に記載がある。これらの記載によれば、200℃程度の熱処理では無電解ニッケルめっき皮膜の結晶化が進行しにくく、結晶化は加熱温度が高いほど進行し、また、無電解ニッケルめっき皮膜の硬度は、350℃或いは400℃までは加熱温度が高くなるにつれて硬度も高くなること、硬度の変化は加熱開始から30分でほぼ一定になることは技術常識である。 本件特許の実施例8は200℃で4時間の加熱処理を行った例であるが、この温度条件で結晶化は進行しにくく、得られた導電性粒子の結晶子サイズは、熱処理を行わない例である比較例1や280℃で加熱処理をおこなった比較例2のものと同等である蓋然性が高いと考えられる。しかし、実施例8で得られた導電性粒子の結晶子サイズは、比較例1や比較例2で得られた導電性粒子よりかなり大きな値となっている。 本件特許の実施例8は200℃で4時間の加熱処理を行った例であり、比較例2は280℃で2時間の加熱処理を行った例である。実施例8で得られた導電性粒子の硬さを表す10%K値は、比較例2で得られた導電性粒子より大きな値となるが、実施例8と比較例2は、少なくとも30分以上加熱処理したものであり、実施例8の200℃で加熱処理したものの方が、比較例2の280℃で加熱処理したものに比べて大きくなっている。 このように、実施例8、比較例1及び比較例2で得られた導電性粒子における結晶子サイズ及び10%K値の関係が技術常識と矛盾しており、本件の発明の詳細な説明は、本件特許発明1ないし4について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。また、請求項1ないし4のいずれかを引用する本件特許発明6ないし10、12及び13についても同様である。 イ 本件特許の実施例1に関する記載である発明の詳細な説明の【0159】の「100kPaの気圧雰囲気下」との記載のみでは「100kPa」が絶対圧力なのかゲージ圧なのか、当業者は理解できない。さらに、同じく【0129】の「高圧雰囲気下で行うことが好ましい」との記載は、「大気圧より高い圧力下で行うことが好ましい」との意味に理解され、その一方で「真空度は、好ましくは10kPa以上」との記載は「絶対圧力10kPa以上の定圧下が好ましい」の意味であると解され、矛盾した記載となっている。このため、当業者は、どのような圧力下でアニール処理を行う必要があるのか、発明の詳細な説明の記載から理解することができない。 従って、本件特許の発明の詳細な説明は、本件特許発明1ないし5について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。また、請求項1ないし5のいずれかを引用する本件特許発明6ないし10、12及び13についても同様である。 ウ 微粉末のふるい分けには、一般に電成ふるいが用いられるが、電成ふるいの開孔径の最小は4μm程度が限界とされている。本件特許の実施例に記載されている粒子径約3μmの導電性粒子を粉砕した粉砕物は、電成ふるいでふるい分けできない大きさであるから、どのようなふるいを用いることで導電部と基材粒子とをふるい分けできるのか当業者は理解できない。 また、本件特許の発明の詳細な説明の【0225】によると、水素原子の含有量の測定を、昇温脱雕水素分析装置(エフアイエス社製「PDHA−1000」)を用いて行っているが、「3GPaの一定圧力下」で「真空引きされた導電部を徐々に加熱」したと矛盾した記載となっている。エフアイエス社製「PDHA−1000」は、そのカタログ(甲第19号証)によれば、センサガスクロマトグラフのキャリアガス流通下で試料を加熱し、発生した水素をキャリアガスと共にセンサガスクロマトグラフに導入して分析するものであるから、構造上、試料を真空引きすることができない。したがって、どのように「真空引きされた導電部を徐々に加熱」するのか当業者は理解できない。 本件特許において水素の含有量とは、本件特許の発明の詳細な説明の【0039】及び実施例の記載から、0℃から400℃まで昇温速度5℃/分で導電部を加熱したときに発生する水素の量を指していると理解されるが、上述の通り、その具体的な測定方法を当業者は理解できない。 従って、本件特許の発明の詳細な説明は、本件特許発明1ないし13について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。 (6)申立理由A−6(サポート要件) 本件特許の請求項1ないし10、12及び13についての特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 ア 本件特許の請求項1において、結晶構造を有する導電部における結晶子サイズが50nm以上であることが特定されているが、導電部の材料は特定されていない。 本件特許の実施例において、導電部が無電解ニッケル−リンめっき層である場合に、結晶子サイズを50nm以上とすることで本件特許発明の課題が解決できることが示されているが、導電部を形成できるその他の全ての材料において結晶子サイズを50nm以上とすることで本件特許発明の課題が解決できるとはいえない。したがって、本件特許発明1の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。本件特許発明2、3についても同様である。また、請求項1ないし3のいずれかを引用する本件特許発明6ないし10、12及び13についても同様である。 イ 本件特許の発明の詳細な説明には、導電部に割れを生じ難くすることができ、耐酸性を高めることができ、従って接続信頼性を高めることができるという課題を解決するために、導電部が無電解ニッケルーリンめっき層であり、結晶子サイズが50nm以上である導電性粒子のみが具体的に記載されている。しかし、本件特許の請求項4には導電部の材料及び結晶子サイズの特定はないため、本件特許発明4に課題を解決するための手段が反映されていない。結晶子サイズの特定がない本件特許発明5についても同様である。また、請求項4又は5を引用する本件特許発明6ないし10、12及び13についても同様である。 ウ 本件特許発明7は、導電性粒子の導電部のビッカース硬度を特定したものである。しかし、本件特許の実施例には、導電性粒子の導電部のビッカース硬度が記載されていないため、本件特許発明7は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。また、請求項7を引用する本件特許発明8ないし10、12及び13についても同様である。 (7)申立理由A−7(明確性要件) 本件特許の請求項1ないし13についての特許は、下記の点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 ・本件特許の請求項1において特定される水素原子の量は、本件特許の発明の詳細な説明の【0039】及び実施例の記載から0℃から400℃まで昇温速度5℃/分で導電部を加熱したときに発生する水素の量を指していると理解される。導電部における水素原子の含有量の測定方法として、本件特許の発明の詳細な説明の【0037】には、昇温脱離法、高温溶解水素抽出法、グリセリン置換法、及び電気化学的放出法が挙げられているが、いずれも特定条件下で発生する水素の量を測定する方法であり、導電部が含む水素原子の量を直接測定する方法ではないから、測定方法によって検出される水素の量は異なるはずである。しかし、請求項1では、水素原子の量の測定方法が特定されていない。したがって、本件特許発明1における水素原子の量が何を意味するのか明確でない。本件特許発明2ないし13についても、同様である。 (8)証拠方法 甲第1号証:特開平11−39937号公報 甲第2号証:特開2013−4428号公報 甲第3号証:特開2013−8474号公報 甲第4号証:「無電解ニッケルめっき皮膜の耐摩耗性」 金属表面技術 Vol.37,No.11,665-670頁(1986) 甲第5号証:「無電解めっき技術」 第2章 第3節 無電解ニッケル(Ni)めっき技術、発行所:サイエンス&テクノロジー株式会社、発行日:2012年11月29日 甲第6号証:「無電解ニッケルめっきによる異方導電性微粒子の作製」 表面技術 Vol.48,No.4,429-432頁(1997年) 甲第7号証:特開平11−343592号公報 甲第8号証:特開2000−198709号公報 甲第9号証:特開2001−152366号公報 甲第10号証:「無電解ニッケルめっきに関する研究(第1報)」 北海道立工業試験場報告 Vol.291,43-55(1992) 甲第11号証:特開2013−149613号公報 甲第12号証:特開2013−214511号公報 甲第13号証:特開2009−87877号公報 甲第14号証:国際公開第2010/032854号 甲第15号証:特開2014−150053号公報 甲第16号証:国際公開第2013/085039号 甲第17号証:「無電解ニッケルめっき−機能分類と応用」 表面技術 Vol.53,No.1,7-14(2002年) 甲第18号証:「X線リソグラフィを利用した高効率高精度微細ふるい研究」 精密工学会誌 Vol.78,No.1,77-80(2012) 甲第19号証:エフアイエス社製「PDHA−1000」のカタログ、2018年1月発行 甲第20号証:韓国公開特許公報10−2008−0061888号公報 甲第21号証:特開2010−186752号公報 甲第22号証:特開2011−233297号公報 甲第23号証:特開2013−105636号公報 甲第24号証:特開2013−258136号公報 甲第25号証:特開2014−212105号公報 甲第26号証:「めっき皮膜の密着性とその改善方法」 表面技術 Vol.58,No.5,267-274(2007年) 甲第27号証:「昇温脱離法(TDS)による水素の定量分析」 Journal of the Vacuum Society of Japan Vol.42,No.10,879-885(1999年) 証拠の表記は特許異議申立書A及び令和3年11月24日に特許異議申立人Aから提出された意見書の記載におおむね従った。以下、順に「甲A1」のようにいう。 2 特許異議申立人Bが提出した特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要 令和3年4月26日に特許異議申立人Bが提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書B」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。 (1)申立理由B−1(甲第1号証に基づく新規性・進歩性) 本件特許発明1ないし8及び10ないし13は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、本件特許発明1ないし13は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし13に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 (2)申立理由B−2(実施可能要件) 本件特許の請求項1ないし13についての特許は、下記の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 ア 本件特許に係る導電性粒子の発明は、「導電部に割れを生じ難くし、耐酸性を高めることにより、接続信頼性を高めること」を解決課題とするものと考えられる(本件特許の発明の詳細な説明の【0012】)。 一方、上述したように、少なくとも本件特許の請求項1ないし8及び10に係る導電性粒子の発明は、甲第1号証に記載されたものであることから、甲第1号証に記載の導電性微粒子の発明においても、上記技術課題が解決されているものと考えられる。 仮に甲第1号証に記載の導電性微粒子が上記技術課題を解決し得ないものであるとする場合、本件特許に係る導電性粒子の発明がどのようにして上記課題を解決するものであるのか、本件特許の発明の詳細な説明、特に実施例および比較例の記載を参酌しても理解し得ず、このために本件特許の発明の詳細な説明には、本件特許発明を当業者が実施し得る程度に明確かつ十分な記載がなされていない。 イ 本件特許に係る導電性粒子の発明は、「導電部に割れを生じ難くし、耐酸性を高めることにより、接続信頼性を高めることを」を解決課題とするものと考えられる。 上記課題を解決する具体例として、本件特許の発明の詳細な説明には、実施例1ないし15しか記載されていない。 仮に本件特許の発明の詳細な説明の比較例1〜比較例2の内容を参酌したとしても、上記実施例1ないし15の記載から、本件特許の請求項1ないし5における上位概念化された発明においてまで上記課題をどのように解決するか当業者には理解し得ず、このために本件特許の発明の詳細な説明には、本件特許発明を当業者が実施し得る程度に明確かつ十分な記載がなされていない。 同様に、本件特許の請求項1ないし5のいずれかに従属する本件特許の請求項6ないし10に係る導電性粒子の発明についても、本件特許の発明の詳細な説明には、当業者が実施し得る程度に明確かつ十分な記載がなされていない。 さらに、本件特許の請求項1ないし5に係る発明に係る導電性粒子を用いることを規定する本件特許の請求項12に係る導電性材料の発明及び本件特許の請求項13に係る接続構造体の発明についても、本件特許の発明の詳細な説明には、当業者が実施し得る程度に明確かつ十分な記載がなされていない。 ウ 本件特許の発明の詳細な説明の【0225】において、上記導電部の水素原子量は、昇温脱離水素分析装置(エフアイエス社製「PDHA一1000」)を用い、導電部を『真空引き』した状態で徐々に加熱したときに放出される水素原子量を測定することにより求めることとされている。 しかしながら、上記エフアイエス社製「PDHA−1000」は、甲第7号証(昇温脱離水素分析装置「PDHA−1000」の製造販売元のホームページ)に記載されているように、真空チャンバーを不要とするものであり、その装置構成上も真空チャンバーを有さないものとなっている。 そうすると、上記導電部を如何にして『真空引き』した状態で水素原子量を測定したものであるか、その測定方法が不明確である。また、上記理由により、本件特許の発明の詳細な説明には、本件特許発明を当業者が実施し得る程度に明確かつ十分な記載がなされていない。 上記製造方法により得られる導電性粒子に係る本件特許の請求項1ないし10に係る発明と、上記製造方法により得られる導電性粒子を用いる本件特許の請求項12及び13に係る発明についても同様である。 エ 本件特許の請求項11に係る発明においては、導電性粒子を200℃以上でアニール処理することにより、『導電部が水素原子を80μg/g以下で含む導電性粒子を得る』ことが規定されている。 無電解めっき後にめっき層中の水素量が経時的に低減することは本件技術分野において周知の技術事項である(要すれば、甲第3号証(マイクロエレクトロニクスシンポジウム論文集(2010年9月発行)第103〜106頁、周知技術を示す文献)の「3.6 Ni皮膜中の水素量の測定」欄、甲第4号証(表面技術vol.70(3)2019、第39〜43頁、周知技術を示す文献)の「3.結果および考察」欄参照)。 そうすると、上記導電部の水素原子量は、無電解めっき後、何時の時点で測定したものであるかによって変動することになることから、その測定方法が不明確である。また、上記理由により、本件特許の発明の詳細な説明には、本件特許発明を当業者が実施し得る程度に明確かつ十分な記載がなされていない。 上記製造方法により得られる導電性粒子に係る本件特許の請求項1ないし10に係る発明と、上記製造方法により得られる導電性粒子を用いる本件特許の請求項12及び13に係る発明についても同様である。 (3)申立理由B−3(サポート要件) 本件特許の請求項1ないし10、12及び13についての特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 ア 上記(2)アの場合、本件特許の請求項1ないし8及び10に係る導電性粒子の発明は、本件特許の発明の詳細な説明の記載によりサポートされたものではない。 イ 上記(2)イの場合、本件特許の請求項1ないし5に係る導電性粒子の発明及び本件特許の請求項1ないし5のいずれかに従属する請求項6ないし10に係る導電性粒子の発明は、本件特許の発明の詳細な説明の記載によりサポートされたものではない。 同様に、上記導電性粒子を用いることを規定する本件特許の請求項12に係る導電性材料の発明および本件特許の請求項13に係る接続構造体の発明も、本件特許の発明の詳細な説明の記載によりサポートされたものでない。 ウ 本件特許の請求項7には、『導電部のビッカース硬度が200以上である』ことが規定されているが、本件特許の発明の詳細な説明には、実施例として具体的に導電部のビッカース硬度が記載されていない。 このため、本件特許の請求項7に係る発明は、発明の詳細な説明の記載によりサポートされたものではない。 (4)申立理由B−4(明確性要件) 本件特許の請求項1ないし13についての特許は、下記の点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。 ・上記(2)ウ及びエで指摘した点で、本件特許発明1ないし13は明確でない。 (5)証拠方法 甲第1号証:特開2013−8474号公報 甲第2号証:金属表面技術 1986年、37巻、11号、665〜670頁 甲第3号証:マイクロエレクトロニクスシンポジウム論文集(2010年9月発行)第103〜106頁 甲第4号証:表面技術 vol.70(3)2019、第39〜43頁 甲第5号証:表面技術 2002年、53巻、1号、第7〜14頁 甲第6号証:特開2013−214511号公報 甲第7号証:昇温脱離水素分析装置「PDHA―1000」の製造販売元のホームページ 参考資料1:特開2011−243455号公報 参考資料2:特開2012−3917号公報 参考資料3:特開2013−214509号公報 参考資料4:特開2014−241278号公報 参考資料5:特開2013−254733号公報 参考資料6:特開2014−212105号公報 参考資料7:特開2014−241278号公報 参考資料8:特開2015−5503号公報 参考資料9:表面技術 2007年 vol.58、No.5 第267〜274頁 「めっき皮膜の密着性とその改善方法」 参考資料10:応用物理 2000年 第69巻 第1号 第22〜28頁 証拠の表記は特許異議申立書B及び令和3年11月25日に特許異議申立人Bから提出された意見書の記載におおむね従った。以下、順に「甲B1」及び「参B1」のようにいう。なお、甲B1と甲A3、甲B6と甲A12及び参B6と甲A25は同じ文献である。 3 令和4年3月3日付けで通知した取消理由(決定の予告)の概要 令和4年3月3日付けで通知した取消理由(決定の予告)(以下、「取消理由(決定の予告)」という。)の概要は次のとおりである。 ・(甲A1に基づく進歩性) 本件特許発明1ないし3、5、6及び8は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲A1に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし3、5、6及び8に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。 第5 取消理由(決定の予告)について 1 甲A1に記載された事項及び甲A1に記載された発明 (1)甲A1に記載された事項 甲A1には、「導電性粒子」に関して、おおむね次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付したものである。 ・「【請求項1】 樹脂を含む基材粒子と;前記基材粒子の表面に被覆された厚さ0.01〜0.1μmのNi、Ag、Cu、Alまたはそれらの合金(但しNi−Pを除く)を含む緩衝層と;前記緩衝層の上に被覆されたAu層とを有することを特徴とする;導電性粒子。 【請求項2】 前記緩衝層の晶子径がX線回折の半価幅からシェラーの式で計算した値で300nm以下であることを特徴とする、請求項1に記載された導電性粒子。 【請求項3】 前記緩衝層の基材粒子への被覆を物理蒸着法により行うことを特徴とする、請求項1または請求項2に記載された導電性粒子を製造する方法。」 ・「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、導電性粒子に関し、特に積層電子部品に用いて好適な耐圧着性に優れた導電性粒子、及び導電性粒子の製造方法に関するものである。」 ・「【0003】 【発明が解決しようとする課題】以上のような従来技術によれば、合金Ni−Pの層は硬く脆いため、圧着時の割れや剥離の起点となっていた。そして、表面金属層の割れ、剥離を起こすと部分的に導通不良を起こし、該当する電子部品の作動性に著しく大きな損害を与える。また従来の導電性粒子は、実使用において酸化や基材である樹脂等との反応性が少ないとはいえなかった。 【0004】・・・(略)・・・ 【0005】そこで本発明は、圧着等の変形性に優れ、かつ安定な導電性を持つ導電性粒子を提供することを目的とする。また導電性粒子の製造にあたって、廃液等の環境問題を生じない製造方法を提供することを目的とする。」 ・「【0016】前記シェラーの式による結晶子径は次のような式によって計算される。 【0017】D=k×λ/β×cosθ ここで、D:結晶子径 (オングストローム)、k:定数 (=0.9 ただし、測定X線がCuKαの場合)、λ:測定X線の波長 (オングストローム)、β:回折線の拡がり(半価幅)(ラジアン)、θ:回折線のブラッグ角 (ラジアン)である。」 ・「【0023】この際、コーティングする粉末の形状は特に制限されないが、耐熱性が高い方が望ましい。また電気伝導性のばらつきを少なくするためには真球状の粉末を用いることが望ましい。具体的な材質として、ポリスチレン、アクリル、ウレタン、エポキシ、フェノール、ベンゾグアナミン等の樹脂が好適である。これらは、直径が数μmの粒径が得易い。」 ・「【0026】 【実施例】 (実施例1)平均粒径10μmのポリスチレン樹脂粒子に物理蒸着法として、真空蒸着およびスパッタリング法で、種々の厚さの金属または合金の緩衝層とその上に金(Au)を被覆した。これを5体積%エポキシ系樹脂に混合し、厚さ25μmのフィルムに成形した。なお緩衝層の結晶子径はシェラーの式から測定した結果、30nm〜300nmの範囲にあった。これを熱可塑性ポリエーテルサルフォン樹脂を塗ったガラス基板にはさみ、圧力20kg/cm2、温度150℃で、15秒間熱圧着した。 【0027】本実施例で用いた緩衝層の材料は、真空蒸着法で、Ni、Ag、Cu、Al、及び銅50部アルミニウム50部の合金Cu50Al50である。膜厚は0.07μm、晶子径は180〜280nm、Auの膜厚は0.07μmであった。また、スパッタリング法で、Ni、Ag、Cu、Al、及びニッケル50部アルミニウム50部の合金NI50Al50、銀50部銅50部の合金Ag50Al50、銀50部アルミニウム50部の合金Ag50Al50、銀50部ニッケル50部の合金Ag50Ni50、銅50部アルミニウム50部の合金Cu50Al50、銀50部銅30部アルミニウム20部の合金Ag50Cu30Al20である。膜厚は0.04μm、晶子径は30〜150nm、Auの膜厚は0.10μmであった。」 ・「【0030】評価方法は、熱圧着した粒子断面および表面皮膜状態を光学顕微鏡により観察することにより行なった。その結果を表1に示す。表中の評価は○が皮膜割れも剥離もない場合。△は皮膜割れが認められ、×は皮膜剥離が起きていることを示している。 【0031】これらの結果から、本発明の導電性粒子は耐圧着性に優れていることがわかる。また被覆方法としてはスパッタリング法が適していることがわかる。 【0032】 【表1】 」 (2)甲A1に記載された発明 甲A1に記載された事項を、特に実施例1における真空蒸着又はスパッタリング法によるNiの緩衝層及びその上のAU層の形成を伴う導電性粒子に関して整理すると、甲A1には次の発明(以下、「甲A1発明」という。)が記載されていると認める。 <甲A1発明> 「ポリスチレン樹脂粒子に、真空蒸着およびスパッタリング法で、Niの緩衝層とその上にAu層を被覆した導電性粒子であって、 Niの緩衝層の結晶子径は、シェラーの式から測定した結果、真空蒸着で、230nmであり、スパッタリング法で、120nmである、導電性粒子。」 2 本件特許発明1について (1)対比 本件特許発明1と甲A1発明を対比する。 甲A1発明における「ポリスチレン樹脂粒子」は本件特許発明1における「ジビニルベンゼン共重合体樹脂粒子、または、ジビニルベンゼン共重合体樹脂粒子の表面を無機シェルにより被覆したコアシェル型の有機無機ハイブリッド粒子から」なる「基材粒子」と、「基材粒子」という限りにおいて一致する。 甲A1発明における「真空蒸着およびスパッタリング法で」「被覆した」「Niの緩衝層」及び「その上」の「Au層」は本件特許発明1における「前記基材粒子の表面上に配置された導電部」に相当する。 甲A1発明における「Niの緩衝層」は、「結晶子径」が特定されているから、当然「結晶構造」を有するものであり、本件特許発明1における「前記導電部」に含まれる「結晶構造を有する導電部」に相当する。 したがって、両者は次の点で一致する。 <一致点> 「基材粒子と、前記基材粒子の表面上に配置された導電部とを備え、 前記導電部が結晶構造を有する導電部を含む、導電性粒子。」 そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。 <相違点A1−1−1> 「基材粒子」に関して、本件特許発明1においては、「ジビニルベンゼン共重合体樹脂粒子、または、ジビニルベンゼン共重合体樹脂粒子の表面を無機シェルにより被覆したコアシェル型の有機無機ハイブリッド粒子からなり」と特定されているのに対し、甲A1発明においては、「ポリスチレン樹脂粒子」と特定されている点。 <相違点A1−1−2> 本件特許発明1においては、「前記導電部が水素原子を含まないか、又は、前記導電部が水素原子を80μg/g以下で含み」と特定されているのに対し、甲A1発明においては、そのようには特定されていない点。 <相違点A1−1−3> 本件特許発明1においては、「前記結晶構造を有する導電部の断面観察において、前記結晶構造を有する導電部における結晶子サイズが50nm以上である」と特定されているのに対し、甲A1発明においては、「Niの緩衝層の結晶子径は、シェラーの式から測定した結果、真空蒸着で、230nmであり、スパッタリング法で、120nmである」と特定されている点。 <相違点A1−1−4> 本件特許発明1においては、「前記導電部の外表面に複数の突起を有し」と特定されているのに対し、甲A1発明においては、そのようには特定されていない点。 (2)判断 そこで、事案に鑑み、相違点A1−1−4について検討する。 相違点A1−1−4は実質的な相違点であることは明らかである。 そして、甲A1及び他の証拠のいずれにも、「真空蒸着およびスパッタリング法で、Niの緩衝層とその上にAu層を被覆した」ものである甲A1発明において、相違点A1−1−4に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することの動機付けとなる記載はない。 したがって、甲A1発明において、甲A1及び他の証拠に記載された事項を考慮しても、相違点A1−1−4に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。 (3)まとめ したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲A1発明並びに甲A1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 3 本件特許発明2について (1)対比 本件特許発明2と甲A1発明を対比するに、両者の間には、本件特許発明1と甲A1発明の間と同様の相当関係が成り立つ。 したがって、両者は次の点で一致する。 <一致点> 「基材粒子と、前記基材粒子の表面上に配置された導電部とを備え、 前記導電部が結晶構造を有する導電部を含む、導電性粒子。」 そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。 <相違点A1−2−1> 「基材粒子」に関して、本件特許発明2においては、「ジビニルベンゼン共重合体樹脂粒子、または、ジビニルベンゼン共重合体樹脂粒子の表面を無機シェルにより被覆したコアシェル型の有機無機ハイブリッド粒子からなり」と特定されているのに対し、甲A1発明においては、「ポリスチレン樹脂粒子」と特定されている点。 <相違点A1−2−2> 本件特許発明2においては、「前記導電部が水素原子を含まないか、又は、前記導電部が水素原子を80μg/g以下で含み」と特定されているのに対し、甲A1発明においては、そのようには特定されていない点。 <相違点A1−2−3> 本件特許発明2においては、「前記結晶構造を有する導電部において、X線回折により得られる回折ピークの半値幅とシェラーの式から求められる(111)面、(200)面、(220)面、(311)面及び(222)面の結晶子サイズの平均値による結晶子サイズが50nm以上である」と特定されているのに対し、甲A1発明においては、「Niの緩衝層の結晶子径は、シェラーの式から測定した結果、真空蒸着で、230nmであり、スパッタリング法で、120nmである」と特定されている点。 <相違点A1−2−4> 本件特許発明2においては、「前記導電部の外表面に複数の突起を有し」と特定されているのに対し、甲A1発明においては、そのようには特定されていない点。 (2)判断 そこで、事案に鑑み、相違点A1−2−4について検討する。 相違点A1−2−4は相違点A1−1−4と同じであるから、その判断も同じである。 すなわち、相違点A1−2−4は実質的な相違点であり、「真空蒸着およびスパッタリング法で、Niの緩衝層とその上にAu層を被覆した」ものである甲A1発明において、甲A1及び他の証拠に記載された事項を考慮しても、相違点A1−2−4に係る本件特許発明2の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。 (3)まとめ したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明2は甲A1発明並びに甲A1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 4 本件特許発明3について (1)対比 本件特許発明3と甲A1発明を対比するに、両者の間には、本件特許発明1と甲A1発明の間と同様の相当関係が成り立つ。 したがって、両者は次の点で一致する。 <一致点> 「基材粒子と、前記基材粒子の表面上に配置された導電部とを備え、 前記導電部が結晶構造を有する導電部を含む、導電性粒子。」 そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。 <相違点A1−3−1> 「基材粒子」に関して、本件特許発明3においては、「ジビニルベンゼン共重合体樹脂粒子、または、ジビニルベンゼン共重合体樹脂粒子の表面を無機シェルにより被覆したコアシェル型の有機無機ハイブリッド粒子からなり」と特定されているのに対し、甲A1発明においては、「ポリスチレン樹脂粒子」と特定されている点。 <相違点A1−3−2> 本件特許発明3においては、「前記導電部が水素原子を含まないか、又は、前記導電部が水素原子を80μg/g以下で含み」と特定されているのに対し、甲A1発明においては、そのようには特定されていない点。 <相違点A1−3−3> 本件特許発明3においては、「前記結晶構造を有する導電部において、X線回折により得られる回折ピークの半値幅とウィリアムソン−ホール式から求められる結晶子サイズが50nm以上である」と特定されているのに対し、甲A1発明においては、「Niの緩衝層の結晶子径は、シェラーの式から測定した結果、真空蒸着で、230nmであり、スパッタリング法で、120nmである」と特定されている点。 <相違点A1−3−4> 本件特許発明3においては、「前記導電部の外表面に複数の突起を有し」と特定されているのに対し、甲A1発明においては、そのようには特定されていない点。 (2)判断 そこで、事案に鑑み、相違点A1−3−4について検討する。 相違点A1−3−4は相違点A1−1−4と同じであるから、その判断も同じである。 すなわち、相違点A1−3−4は実質的な相違点であり、「真空蒸着およびスパッタリング法で、Niの緩衝層とその上にAu層を被覆した」ものである甲A1発明において、甲A1及び他の証拠に記載された事項を考慮しても、相違点A1−3−4に係る本件特許発明3の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。 (3)まとめ したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明3は甲A1発明並びに甲A1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 5 本件特許発明5について (1)対比 本件特許発明5と甲A1発明を対比するに、両者の間には、本件特許発明1と甲A1発明の間と同様の相当関係が成り立つ。 また、甲A1発明における「真空蒸着およびスパッタリング法で」「被覆した」「Niの緩衝層」及び「その上」の「Au層」は本件特許発明1における「ニッケルを少なくとも含む」「導電部」にも相当する。 したがって、両者は次の点で一致する。 <一致点> 「基材粒子と、前記基材粒子の表面上に配置された導電部とを備え、 前記導電部は、ニッケルを少なくとも含む、導電性粒子。」 そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。 <相違点A1−5−1> 「基材粒子」に関して、本件特許発明5においては、「ジビニルベンゼン共重合体樹脂粒子、または、ジビニルベンゼン共重合体樹脂粒子の表面を無機シェルにより被覆したコアシェル型の有機無機ハイブリッド粒子からなり」と特定されているのに対し、甲A1発明においては、「ポリスチレン樹脂粒子」と特定されている点。 <相違点A1−5−2> 本件特許発明5においては、「前記導電部が水素原子を含まないか、又は、前記導電部が水素原子を80μg/g以下で含み」と特定されているのに対し、甲A1発明においては、そのようには特定されていない点。 <相違点A1−5−3> 本件特許発明5においては、「前記導電部の外表面に複数の突起を有し」と特定されているのに対し、甲A1発明においては、そのようには特定されていない点。 (2)判断 そこで、事案に鑑み、相違点A1−5−3について検討する。 相違点A1−5−3は相違点A1−1−4と同じであるから、その判断も同じである。 すなわち、相違点A1−5−3は実質的な相違点であり、「真空蒸着およびスパッタリング法で、Niの緩衝層とその上にAu層を被覆した」ものである甲A1発明において、甲A1及び他の証拠に記載された事項を考慮しても、相違点A1−5−3に係る本件特許発明5の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。 (3)まとめ したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明5は甲A1発明並びに甲A1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 6 本件特許発明6について 本件特許発明6は請求項1ないし4のいずれかを直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1ないし4のいずれかの発明特定事項を全て有するものである。 そして、本件特許発明1ないし3は、上記2ないし4のとおり、甲A1発明並びに甲A1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、請求項1ないし3を直接又は間接的に引用する本件特許発明6も甲A1発明並びに甲A1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 なお、請求項4を引用する本件特許発明6は取消理由(決定の予告)の対象ではない。 7 本件特許発明8について 本件特許発明8は請求項1ないし7のいずれかを直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1ないし7のいずれかの発明特定事項を全て有するものである。 そして、本件特許発明1ないし3、5及び6は、上記2ないし6のとおり、甲A1発明並びに甲A1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、請求項1ないし3、5及び6のいずれかを直接又は間接的に引用する本件特許発明8も甲A1発明並びに甲A1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 なお、請求項4又は7を直接又は間接的に引用する本件特許発明8は取消理由(決定の予告)の対象ではない。 8 取消理由(決定の予告)についてのむすび したがって、本件特許発明1ないし3、5、6及び8は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえず、本件特許の請求項1ないし3、5、6及び8に係る特許は、同法第113条第2号に該当せず、取消理由(決定の予告)によっては取り消すことはできない。 第6 取消理由(決定の予告)に採用しなかった特許異議申立書A及びBに記載した申立ての理由について 取消理由(決定の予告)に採用しなかった特許異議申立書A及びBに記載した申立ての理由は、申立理由A−1(甲A1に基づく新規性)、申立理由A−2(甲A2に基づく新規性・進歩性)、申立理由A−3(甲A3に基づく新規性・進歩性)、申立理由A−4(甲A16に基づく新規性・進歩性)、申立理由A−5(実施可能要件)、申立理由A−6(サポート要件)、申立理由A−7(明確性要件)、申立理由B−1(甲B1に基づく新規性・進歩性)、申立理由B−2(実施可能要件)、申立理由B−3(サポート要件)及び申立理由B−4(明確性要件)である。 そこで、検討する。 1 申立理由A−1(甲A1に基づく新規性)について (1)本件特許発明1について 本件特許発明1と甲A1発明を対比するに、上記第5 2(1)のとおり、両者は相違点A1−1−1ないしA1−1−4の点で相違又は一応相違する。 そして、少なくとも相違点A1−1−4は実質的な相違点である。 したがって、本件特許発明1は甲A1発明であるとはいえない。 (2)本件特許発明2について 本件特許発明2と甲A1発明を対比するに、上記第5 3(1)のとおり、両者は相違点A1−2−1ないしA1−2−4の点で相違又は一応相違する。 そして、少なくとも相違点A1−2−4は実質的な相違点である。 したがって、本件特許発明2は甲A1発明であるとはいえない。 (3)本件特許発明3について 本件特許発明3と甲A1発明を対比するに、上記第5 4(1)のとおり、両者は相違点A1−3−1ないしA1−3−4の点で相違又は一応相違する。 そして、少なくとも相違点A1−3−4は実質的な相違点である。 したがって、本件特許発明3は甲A1発明であるとはいえない。 (4)本件特許発明5について 本件特許発明5と甲A1発明を対比するに、上記第5 5(1)のとおり、両者は相違点A1−5−1ないしA1−5−3の点で相違又は一応相違する。 そして、少なくとも相違点A1−5−3は実質的な相違点である。 したがって、本件特許発明5は甲A1発明であるとはいえない。 (5)本件特許発明6について 本件特許発明6は請求項1ないし4のいずれかを直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1ないし4のいずれかの発明特定事項を全て有するものである。 そして、本件特許発明1ないし3は、上記(1)ないし(3)のとおり、甲A1発明であるとはいえないから、本件特許発明6も本件特許発明1ないし3と同様に甲A1発明であるとはいえない。 なお、請求項4を引用する本件特許発明6は申立理由A−1の対象ではない。 (6)本件特許発明8について 本件特許発明8は請求項1ないし7を直接又は間接的に引用するものであり、本件特許発明1ないし7のいずれかの発明特定事項を全て有するものである。 そして、本件特許発明1ないし3、5及び6は、上記(1)ないし(5)のとおり、甲A1発明であるとはいえないから、本件特許発明8も同様に甲A1発明であるとはいえない。 なお、請求項4又は7を直接又は間接的に引用する本件特許発明8は申立理由A−1の対象ではない。 (7)申立理由A−1についてのむすび したがって、本件特許発明1ないし3、5、6及び8は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえず、本件特許の請求項1ないし3、5、6及び8に係る特許は、同法第113条第2号に該当せず、申立理由A−1によっては取り消すことはできない。 2 申立理由A−2(甲A2に基づく新規性・進歩性)について (1)甲A2に記載された発明 甲A2の【0055】ないし【0057】に記載された事項を、特に製造例1の導電性微粒子に関して整理すると、甲A2には次の発明(以下、順に「甲A2発明」及び「甲A2方法発明」という。)が記載されていると認める。 <甲A2発明> 「3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランの加水分解、縮合反応を行って、メタクリロイル基を有するポリシロキサン粒子(重合性ポリシロキサン粒子)の乳濁液を調製し、 次いで、乳化剤としてポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩(第一工業製薬社製「ハイテノール(登録商標)NF−08」)の20%水溶液10部をイオン交換水400部で溶解した溶液に、スチレン200部及びDVB960(新日鐡化学社製、ジビニルベンゼン含量96質量%)200部と、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(和光純薬工業社製「V−65」)4.8部とを加え、乳化分散させて単量体成分の乳化液を調製し、この乳化液を2時間攪拌後、得られた乳化液を、上記ポリシロキサン粒子の乳濁液中に添加して、さらに攪拌を行い、乳化液の添加から1時間後、混合液をサンプリングして顕微鏡で観察を行ったところ、ポリシロキサン粒子が単量体を吸収して肥大化していることが確認され、 前記混合液に、前記ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩の20%水溶液96部、イオン交換水500部を加え、窒素雰囲気下で65℃まで昇温させて、65℃で2時間保持し、単量体成分のラジカル重合を行った後の乳濁液を固液分離し、得られたケーキをイオン交換水、メタノールで洗浄した後、窒素雰囲気下280℃で1時間焼成処理して重合体粒子を得、これを基材粒子とし パラジウム核を形成させた基材粒子10部をイオン交換水400部に添加し、超音波分散処理を行った後、70℃の温浴で基材粒子懸濁液を加温し、懸濁液を加温した状態で、別途70℃に加温した無電解めっき液(日本カニゼン(株)製、「シューマーS680」)300部を加えることにより、無電解ニッケルめっき反応を生じさせ、水素ガスの発生が終了したことを確認した後、固液分離を行い、イオン交換水、メタノールの順で洗浄した後、100℃で2時間真空乾燥して、ニッケルめっきを施した導電性微粒子を得、 得られた導電性微粒子を、窒素(不活性)雰囲気下、280℃で2時間熱処理を行い、得られた導電性微粒子。」 <甲A2方法発明> 「3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランの加水分解、縮合反応を行って、メタクリロイル基を有するポリシロキサン粒子(重合性ポリシロキサン粒子)の乳濁液を調製し、 次いで、乳化剤としてポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩(第一工業製薬社製「ハイテノール(登録商標)NF−08」)の20%水溶液10部をイオン交換水400部で溶解した溶液に、スチレン200部及びDVB960(新日鐡化学社製、ジビニルベンゼン含量96質量%)200部と、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(和光純薬工業社製「V−65」)4.8部とを加え、乳化分散させて単量体成分の乳化液を調製し、この乳化液を2時間攪拌後、得られた乳化液を、上記ポリシロキサン粒子の乳濁液中に添加して、さらに攪拌を行い、乳化液の添加から1時間後、混合液をサンプリングして顕微鏡で観察を行ったところ、ポリシロキサン粒子が単量体を吸収して肥大化していることが確認され、 前記混合液に、前記ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩の20%水溶液96部、イオン交換水500部を加え、窒素雰囲気下で65℃まで昇温させて、65℃で2時間保持し、単量体成分のラジカル重合を行った後の乳濁液を固液分離し、得られたケーキをイオン交換水、メタノールで洗浄した後、窒素雰囲気下280℃で1時間焼成処理して重合体粒子を得、これを基材粒子とし パラジウム核を形成させた基材粒子10部をイオン交換水400部に添加し、超音波分散処理を行った後、70℃の温浴で基材粒子懸濁液を加温し、懸濁液を加温した状態で、別途70℃に加温した無電解めっき液(日本カニゼン(株)製、「シューマーS680」)300部を加えることにより、無電解ニッケルめっき反応を生じさせ、水素ガスの発生が終了したことを確認した後、固液分離を行い、イオン交換水、メタノールの順で洗浄した後、100℃で2時間真空乾燥して、ニッケルめっきを施した導電性微粒子を得、 得られた導電性微粒子を、窒素(不活性)雰囲気下、280℃で2時間熱処理を行い、導電性微粒子を得る、導電性微粒子の製造方法。」 (2)本件特許発明1について ア 対比 本件特許発明1と甲A2発明を対比する。 両者は次の点で一致する。 <一致点> 「基材粒子と、前記基材粒子の表面上に配置された導電部とを備え、 前記基材粒子が、ジビニルベンゼン共重合体樹脂粒子、または、ジビニルベンゼン共重合体樹脂粒子の表面を無機シェルにより被覆したコアシェル型の有機無機ハイブリッド粒子からなる、 導電性粒子。」 そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。 <相違点A2−1> 導電部の水素原子の含有量に関し、本件特許発明1においては、「前記導電部が水素原子を含まないか、又は、前記導電部が水素原子を80μg/g以下で含」むと特定されているのに対し、甲A2発明においては、そのようには特定されていない点。 <相違点A2−2> 導電部における結晶構造に関し、本件特許発明1においては、「前記導電部が結晶構造を有する導電部を含み、前記結晶構造を有する導電部の断面観察において、前記結晶構造を有する導電部における結晶子サイズが50nm以上である」と特定されているのに対し、甲A2発明においては、そのようには特定されていない点。 <相違点A2−3> 本件特許発明1においては、「前記導電部の外表面に複数の突起を有し」と特定されているのに対し、甲A2発明においては、そのようには特定されていない点。 イ 判断 そこで、相違点A2−1について検討する。 甲A2には、相違点A2−1に係る本件特許発明1の発明特定事項について何ら記載されておらず、甲A2発明が相違点A2−1に係る本件特許発明1の発明特定事項を有する蓋然性が高いともいえない。 したがって、相違点A2−1は実質的な相違点である。 なお、特許異議申立人Aは、特許異議申立書Aにおいて、甲A2発明の導電性微粒子の具体例として記載された導電性微粒子1は、無電解ニッケルめっきにより基材粒子の表面を導電性金属層で被覆した後、窒素(不活性)雰囲気下、280℃で2時間熱処理して得られたものであるから、熱処理されている甲A2発明の導電性微粒子1における導電性金属層の水素原子含有量は80μg/g以下である蓋然性が高い旨主張する(特許異議申立書Aの第28ページ第22行ないし第29ページ第7行)。 そこで、検討するに、本件特許の発明の詳細な説明の【0222】及び【0246】の【表1】に記載された比較例2は、窒素雰囲気下、温度280℃で2時間アニール処理、すなわち熱処理したものであるが、その比較例2の導電性金属層の水素原子含有量は81.6μg/gであり、80μg/g以下となっていないことから、甲A2発明の導電性微粒子1における導電性金属層の水素原子含有量が80μg/g以下である蓋然性が高いとはいえない。 したがって、特許異議申立人Aの上記主張は採用できない。 そして、甲A2及び他の証拠のいずれにも、甲A2発明において、相違点A2−1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はないから、甲A2発明において、相違点A2−1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。 また、本件特許発明1の奏する「導電部に割れを生じ難くすることができ、耐酸性を高めることができ、従って接続信頼性を高めることができる。」(本件特許の発明の詳細な説明の【0028】)という効果は、甲A2発明並びに甲A2及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明1の構成から当業者が予測できる範囲の効果を超える顕著なものである。 ウ まとめ したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲A2発明であるとはいえないし、甲A2発明並びに甲A2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 (3)本件特許発明2ないし8、10、12及び13について 本件特許発明2ないし8、10、12及び13は、相違点A2−1に係る本件特許発明1の発明特定事項と同じ発明特定事項を有するものである。 したがって、本件特許発明2ないし8、12及び13は、本件特許発明1と同様に、甲A2発明であるとはいえない。 また、本件特許発明2ないし8、10、12及び13は、本件特許発明1と同様に、甲A2発明並びに甲A2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (4)本件特許発明11について ア 対比 本件特許発明11と甲A2方法発明を対比する。 両者は次の点で一致する。 <一致点> 「ジビニルベンゼン共重合体樹脂粒子、または、ジビニルベンゼン共重合体樹脂粒子の表面を無機シェルにより被覆したコアシェル型の有機無機ハイブリッド粒子からなる基材粒子と、前記基材粒子の表面上に配置された導電部を有する導電性粒子を用いて、前記導電性粒子を200℃以上にアニール処理する工程を備えた、 導電性粒子を得る、導電性粒子の製造方法。」 そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。 <相違点A2−4> 「アニール処理する工程」に関し、本件特許発明11においては、「前記アニール処理によって、基材粒子と、前記基材粒子の表面上に配置された導電部とを備え、導電部が水素原子を含まないか、又は、導電部が水素原子を80μg/g以下で含む導電性粒子を得る」と特定されているのに対し、甲A2方法発明においては、そのようには特定されていない点。 イ 判断 そこで、相違点A2−4について検討する。 甲A2には、相違点A2−4に係る本件特許発明11の発明特定事項について何ら記載されておらず、甲A2方法発明が相違点A2−4に係る本件特許発明11の発明特定事項を有する蓋然性が高いともいえない。 したがって、相違点A2−4は実質的な相違点である。 そして、甲A2及び他の証拠のいずれにも、甲A2方法発明において、相違点A2−4に係る本件特許発明11の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はないから、甲A2方法発明において、相違点A2−4に係る本件特許発明11の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。 また、本件特許発明11の奏する「導電部に割れを生じ難くすることができ、耐酸性を高めることができ、従って接続信頼性を高めることができる。」という効果は、甲A2方法発明並びに甲A2及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明11の構成から当業者が予測できる範囲の効果を超える顕著なものである。 ウ まとめ したがって、本件特許発明11は甲A2方法発明であるとはいえないし、甲A2方法発明並びに甲A2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 (5)申立理由A−2についてのむすび したがって、本件特許発明1ないし8及び11ないし13は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえず、また、本件特許発明1ないし8及び10ないし13は、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえず、本件特許の請求項1ないし8及び10ないし13に係る特許は、同法第113条第2号に該当せず、申立理由A−2によっては取り消すことはできない。 3 申立理由A−3(甲A3に基づく新規性・進歩性)及び申立理由B−1(甲B1に基づく新規性・進歩性)について (1)甲A3に記載された発明 甲A3と甲B1は同じ文献であるから、申立理由A−3と申立理由B−1を併せて検討する。 甲A3の【0065】ないし【0068】に記載された事項を、特に製造例1の導電性微粒子(1)に関して整理すると、甲A3には次の発明(以下、順に「甲A3発明」及び「甲A3方法発明」という。)が記載されていると認める。 <甲A3発明> 「3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランの加水分解、縮合反応を行って、メタクリロイル基を有するポリシロキサン粒子(重合性ポリシロキサン粒子)の乳濁液を調製し、 次いで、乳化剤としてポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩(第一工業製薬社製、「ハイテノール(登録商標)NF−08」)の20%水溶液10部をイオン交換水400部で溶解した溶液に、スチレン200部及びDVB960(新日鐡化学社製、ジビニルベンゼン含量96質量%)200部と、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(和光純薬工業社製、「V−65」)4.8部とを加え、乳化分散させて単量体成分の乳化液を調製し、この乳化液を2時間攪拌後、得られた乳化液を、上記ポリシロキサン粒子の乳濁液中に添加して、さらに攪拌を行い、乳化液の添加から1時間後、混合液をサンプリングして顕微鏡で観察を行ったところ、ポリシロキサン粒子が単量体を吸収して肥大化していることが確認され、 前記混合液に、前記ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩の20%水溶液96部、イオン交換水500部を加え、窒素雰囲気下で65℃まで昇温させて、65℃で2時間保持し、単量体成分のラジカル重合を行った後の乳濁液を固液分離し、得られたケーキをイオン交換水、メタノールで洗浄した後、窒素雰囲気下280℃で1時間焼成処理して重合体粒子を得、これを樹脂粒子(1)とし、樹脂粒子(1)に水酸化ナトリウムによるエッチング処理を施した後、二塩化スズ溶液に接触させることによりセンシタイジングし、次いで二塩化パラジウム溶液に浸漬させてアクチベーティングする方法(センシタイジング−アクチベーション法)によって、パラジウム核を形成させ、 パラジウム核を形成させた基材粒子10部をイオン交換水400部に添加し、超音波分散処理を行った後、70℃の温浴で基材粒子懸濁液を加温し、懸濁液を加温した状態で、別途70℃に加温した無電解メッキ液(日本カニゼン(株)製、「シューマーS680」)300部を加えることにより、無電解ニッケルメッキ反応を生じさせ、水素ガスの発生が終了したことを確認した後、固液分離を行い、イオン交換水、メタノールの順で洗浄した後、100℃で2時間真空乾燥して、ニッケルメッキを施した金属被覆粒子(1)を得、 得られた金属被覆粒子(1)を、窒素ガス雰囲気(酸素濃度10volppm以下)下、280℃で2時間熱処理を行い得られた導電性微粒子(1)。」 <甲A3方法発明> 「3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランの加水分解、縮合反応を行って、メタクリロイル基を有するポリシロキサン粒子(重合性ポリシロキサン粒子)の乳濁液を調製し、 次いで、乳化剤としてポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩(第一工業製薬社製、「ハイテノール(登録商標)NF−08」)の20%水溶液10部をイオン交換水400部で溶解した溶液に、スチレン200部及びDVB960(新日鐡化学社製、ジビニルベンゼン含量96質量%)200部と、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(和光純薬工業社製、「V−65」)4.8部とを加え、乳化分散させて単量体成分の乳化液を調製し、この乳化液を2時間攪拌後、得られた乳化液を、上記ポリシロキサン粒子の乳濁液中に添加して、さらに攪拌を行い、乳化液の添加から1時間後、混合液をサンプリングして顕微鏡で観察を行ったところ、ポリシロキサン粒子が単量体を吸収して肥大化していることが確認され、 前記混合液に、前記ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩の20%水溶液96部、イオン交換水500部を加え、窒素雰囲気下で65℃まで昇温させて、65℃で2時間保持し、単量体成分のラジカル重合を行った後の乳濁液を固液分離し、得られたケーキをイオン交換水、メタノールで洗浄した後、窒素雰囲気下280℃で1時間焼成処理して重合体粒子を得、これを樹脂粒子(1)とし、樹脂粒子(1)に水酸化ナトリウムによるエッチング処理を施した後、二塩化スズ溶液に接触させることによりセンシタイジングし、次いで二塩化パラジウム溶液に浸漬させてアクチベーティングする方法(センシタイジング−アクチベーション法)によって、パラジウム核を形成させ、 パラジウム核を形成させた基材粒子10部をイオン交換水400部に添加し、超音波分散処理を行った後、70℃の温浴で基材粒子懸濁液を加温し、懸濁液を加温した状態で、別途70℃に加温した無電解メッキ液(日本カニゼン(株)製、「シューマーS680」)300部を加えることにより、無電解ニッケルメッキ反応を生じさせ、水素ガスの発生が終了したことを確認した後、固液分離を行い、イオン交換水、メタノールの順で洗浄した後、100℃で2時間真空乾燥して、ニッケルメッキを施した金属被覆粒子(1)を得、 得られた金属被覆粒子(1)を、窒素ガス雰囲気(酸素濃度10volppm以下)下、280℃で2時間熱処理を行い、導電性微粒子(1)を得る、導電性微粒子(1)の製造方法。」 (2)本件特許発明1について ア 対比 本件特許発明1と甲A3発明を対比する。 両者は次の点で一致する。 <一致点> 「基材粒子と、前記基材粒子の表面上に配置された導電部とを備え、 ジビニルベンゼン共重合体樹脂粒子、または、ジビニルベンゼン共重合体樹脂粒子の表面を無機シェルにより被覆したコアシェル型の有機無機ハイブリッド粒子からなる、 導電性粒子。」 そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。 <相違点A3−1> 導電部の水素原子の含有量に関し、本件特許発明1においては、「前記導電部が水素原子を含まないか、又は、前記導電部が水素原子を80μg/g以下で含」むと特定されているのに対し、甲A3発明においては、そのようには特定されていない点。 <相違点A3−2> 導電部における結晶構造に関し、本件特許発明1においては、「前記導電部が結晶構造を有する導電部を含み、前記結晶構造を有する導電部の断面観察において、前記結晶構造を有する導電部における結晶子サイズが50nm以上である」と特定されているのに対し、甲A3発明においては、そのようには特定されていない点。 <相違点A3−3> 本件特許発明1においては、「前記導電部の外表面に複数の突起を有し」と特定されているのに対し、甲A3発明においては、そのようには特定されていない点。 イ 判断 そこで、相違点A3−1について検討する。 甲A3には、相違点A3−1に係る本件特許発明1の発明特定事項について何ら記載されておらず、甲A3発明が相違点A3−1に係る本件特許発明1の発明特定事項を有する蓋然性が高いともいえない。 したがって、相違点A3−1は実質的な相違点である。 そして、甲A3及び他の証拠のいずれにも、甲A3発明において、相違点A3−1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はないから、甲A3発明において、相違点A3−1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。 また、本件特許発明1の奏する「導電部に割れを生じ難くすることができ、耐酸性を高めることができ、従って接続信頼性を高めることができる。」という効果は、甲A3発明並びに甲A3及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明1の構成から当業者が予測できる範囲の効果を超える顕著なものである。 ウ まとめ したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は甲A3発明であるとはいえないし、甲A3発明並びに甲A3及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 (3)本件特許発明2ないし8、10、12及び13について 本件特許発明2ないし8、10、12及び13は、相違点A3−1に係る本件特許発明1の発明特定事項と同じ発明特定事項を有するものである。 したがって、本件特許発明2ないし8、10、12及び13は、本件特許発明1と同様に、甲A3発明であるとはいえないし、甲A3発明並びに甲A3及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 (4)本件特許発明11について ア 対比 本件特許発明11と甲A3方法発明を対比する。 両者は次の点で一致する。 <一致点> 「ジビニルベンゼン共重合体樹脂粒子、または、ジビニルベンゼン共重合体樹脂粒子の表面を無機シェルにより被覆したコアシェル型の有機無機ハイブリッド粒子からなる基材粒子と、前記基材粒子の表面上に配置された導電部を有する導電性粒子を用いて、前記導電性粒子を200℃以上にアニール処理する工程を備えた、 導電性粒子を得る、導電性粒子の製造方法。」 そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。 <相違点A3−4> 「アニール処理する工程」に関し、本件特許発明11においては、「前記アニール処理によって、基材粒子と、前記基材粒子の表面上に配置された導電部とを備え、導電部が水素原子を含まないか、又は、導電部が水素原子を80μg/g以下で含む導電性粒子を得る」と特定されているのに対し、甲A3方法発明においては、そのようには特定されていない点。 イ 判断 そこで、相違点A3−4について検討する。 甲A3には、相違点A3−4に係る本件特許発明11の発明特定事項について何ら記載されておらず、甲A3方法発明が相違点A3−4に係る本件特許発明11の発明特定事項を有する蓋然性が高いともいえない。 したがって、相違点A3−4は実質的な相違点である。 そして、甲A3及び他の証拠のいずれにも、甲A3方法発明において、相違点A3−4に係る本件特許発明11の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はないから、甲A3方法発明において、相違点A3−4に係る本件特許発明11の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。 また、本件特許発明11の奏する「導電部に割れを生じ難くすることができ、耐酸性を高めることができ、従って接続信頼性を高めることができる。」という効果は、甲A3方法発明並びに甲A3及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明11の構成から当業者が予測できる範囲の効果を超える顕著なものである。 ウ まとめ したがって、本件特許発明11は甲A3方法発明であるとはいえないし、甲A3方法発明並びに甲A3及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 (5)申立理由A−3及び申立理由B−1についてのむすび したがって、本件特許発明1ないし8及び10ないし13は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえず、また、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえず、本件特許の請求項1ないし8及び10ないし13に係る特許は、同法第113条第2号に該当せず、申立理由A−3及び申立理由B−1によっては取り消すことはできない。 4 申立理由A−4(甲A16に基づく新規性・進歩性)について (1)甲A16に記載された発明 甲A16の[0093]ないし[0095]、[0102]の[表1]及び[0103]ないし[0106]に記載された事項を、特に実施例2に関して整理すると、甲A16には次の発明(以下、順に「甲A16発明」及び「甲A16方法発明」という。)が記載されていると認める。 <甲A16発明> 「3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランの加水分解、縮合反応を行って、メタクリロイル基を有するポリシロキサン粒子(重合性ポリシロキサン粒子)の乳濁液を調製し、 次いで、乳化剤としてポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩(第一工業製薬社製「ハイテノール(登録商標) NF−08」)の20%水溶液10部をイオン交換水400部で溶解した溶液に、単量体成分(吸収モノマー)としてスチレン200部及びジビニルベンゼン(DVB960:新日鐡化学社製、ジビニルベンゼン含量96質量%、エチルビニルベンゼン等4%含有品)200部と、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(和光純薬工業社製「V−65」)4.8部とを加え、乳化分散させて単量体成分の乳化液を調製し、この乳化液を2時間攪拌後、得られた乳化液を、上記ポリシロキサン粒子の乳濁液中に添加して、さらに攪拌を行い、乳化液の添加から1時間後、混合液をサンプリングして顕微鏡で観察を行ったところ、ポリシロキサン粒子が単量体を吸収して肥大化していることが確認され、 前記混合液に、前記ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩の20%水溶液96部、イオン交換水500部を加え、窒素雰囲気下で65℃まで昇温させて、65℃で2時間保持し、単量体成分のラジカル重合を行った後の乳濁液を固液分離し、得られたケーキをイオン交換水、メタノールで洗浄した後、窒素雰囲気下280℃で1時間焼成処理して重合体粒子を得、これをビニル重合体粒子1とし、 上記したビニル重合体粒子1に、パラジウム核を形成させた基材粒子10部をイオン交換水5000部に添加し、超音波照射により十分に分散させ、懸濁液を得、この懸濁液を70℃に加熱して撹拌しながら、70℃に加熱したニッケルめっき液1000mLを添加し、前記ニッケルめっき液は、グリシンを38.0g/L、リンゴ酸を10.5g/L、酢酸ナトリウムを76.0g/L、硫酸ニッケルを113.0g/L、次亜リン酸ナトリウムを230g/L含有しており、pHは6.8に調整されており、液温を70℃で保持し、水素ガスの発生が停止したことを確認してから、60分間攪拌し、その後、固液分離を行い、イオン交換水、メタノールの順で洗浄した後、得られた導電性微粒子を、窒素(不活性)雰囲気下、280℃で2時間加熱処理を行い、ニッケルめっきを施して得られた導電性微粒子2。」 <甲A16方法発明> 「3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランの加水分解、縮合反応を行って、メタクリロイル基を有するポリシロキサン粒子(重合性ポリシロキサン粒子)の乳濁液を調製し、 次いで、乳化剤としてポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩(第一工業製薬社製「ハイテノール(登録商標) NF−08」)の20%水溶液10部をイオン交換水400部で溶解した溶液に、単量体成分(吸収モノマー)としてスチレン200部及びジビニルベンゼン(DVB960:新日鐡化学社製、ジビニルベンゼン含量96質量%、エチルビニルベンゼン等4%含有品)200部と、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(和光純薬工業社製「V−65」)4.8部とを加え、乳化分散させて単量体成分の乳化液を調製し、この乳化液を2時間攪拌後、得られた乳化液を、上記ポリシロキサン粒子の乳濁液中に添加して、さらに攪拌を行い、乳化液の添加から1時間後、混合液をサンプリングして顕微鏡で観察を行ったところ、ポリシロキサン粒子が単量体を吸収して肥大化していることが確認され、 前記混合液に、前記ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩の20%水溶液96部、イオン交換水500部を加え、窒素雰囲気下で65℃まで昇温させて、65℃で2時間保持し、単量体成分のラジカル重合を行った後の乳濁液を固液分離し、得られたケーキをイオン交換水、メタノールで洗浄した後、窒素雰囲気下280℃で1時間焼成処理して重合体粒子を得、これをビニル重合体粒子1とし、 上記したビニル重合体粒子1に、パラジウム核を形成させた基材粒子10部をイオン交換水5000部に添加し、超音波照射により十分に分散させ、懸濁液を得、この懸濁液を70℃に加熱して撹拌しながら、70℃に加熱したニッケルめっき液1000mLを添加し、前記ニッケルめっき液は、グリシンを38.0g/L、リンゴ酸を10.5g/L、酢酸ナトリウムを76.0g/L、硫酸ニッケルを113.0g/L、次亜リン酸ナトリウムを230g/L含有しており、pHは6.8に調整されており、液温を70℃で保持し、水素ガスの発生が停止したことを確認してから、60分間攪拌し、その後、固液分離を行い、イオン交換水、メタノールの順で洗浄した後、得られた導電性微粒子を、窒素(不活性)雰囲気下、280℃で2時間加熱処理を行い、ニッケルめっきを施して導電性微粒子2を得る、導電性微粒子2の製造方法。」 (2)本件特許発明4について ア 対比 本件特許発明4と甲A16発明を対比する。 両者は次の点で一致する。 <一致点> 「基材粒子と、前記基材粒子の表面上に配置された導電部とを備え、 ジビニルベンゼン共重合体樹脂粒子、または、ジビニルベンゼン共重合体樹脂粒子の表面を無機シェルにより被覆したコアシェル型の有機無機ハイブリッド粒子からなる、 導電性粒子。」 そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。 <相違点A16−1> 導電部の水素原子の含有量に関し、本件特許発明4においては、「前記導電部が水素原子を含まないか、又は、前記導電部が水素原子を80μg/g以下で含」むと特定されているのに対し、甲A16発明においては、そのようには特定されていない点。 <相違点A16−2> 本件特許発明4においては、「10%圧縮した時の圧縮弾性率が3000N/mm2以上である」と特定されているのに対し、甲A16発明においては、そのようには特定されていない点。 イ 判断 そこで、相違点A16−1について検討する。 甲A16には、相違点A16−1に係る本件特許発明4の発明特定事項について何ら記載されておらず、甲A16発明が相違点A16−1に係る本件特許発明4の発明特定事項を有する蓋然性が高いともいえない。 したがって、相違点A16−1は実質的な相違点である。 そして、甲A16及び他の証拠のいずれにも、甲A16発明において、相違点A16−1に係る本件特許発明4の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はないから、甲A16発明において、相違点A16−1に係る本件特許発明4の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。 また、本件特許発明4の奏する「導電部に割れを生じ難くすることができ、耐酸性を高めることができ、従って接続信頼性を高めることができる。」という効果は、甲A16発明並びに甲A16及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明4の構成から当業者が予測できる範囲の効果を超える顕著なものである。 ウ まとめ したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明4は甲A16発明であるとはいえないし、甲A16発明並びに甲A16及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 (3)本件特許発明5ないし8、10、12及び13について 本件特許発明5ないし8、10、12及び13は、相違点A16−1に係る本件特許発明4の発明特定事項と同じ発明特定事項を有するものである。 したがって、本件特許発明5ないし8、12及び13は、本件特許発明4と同様に、甲A16発明であるとはいえない。 また、本件特許発明5ないし8、10、12及び13は、本件特許発明4と同様に、甲A16発明並びに甲A16及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 (4)本件特許発明11について ア 対比 本件特許発明11と甲A16方法発明を対比する。 両者は次の点で一致する。 <一致点> 「ジビニルベンゼン共重合体樹脂粒子、または、ジビニルベンゼン共重合体樹脂粒子の表面を無機シェルにより被覆したコアシェル型の有機無機ハイブリッド粒子からなる基材粒子と、前記基材粒子の表面上に配置された導電部を有する導電性粒子を用いて、前記導電性粒子を200℃以上にアニール処理する工程を備えた、 導電性粒子を得る、導電性粒子の製造方法。」 そして、両者は次の点で相違又は一応相違する。 <相違点A16−3> 「アニール処理する工程」に関し、本件特許発明11においては、「前記アニール処理によって、基材粒子と、前記基材粒子の表面上に配置された導電部とを備え、導電部が水素原子を含まないか、又は、導電部が水素原子を80μg/g以下で含む導電性粒子を得る」と特定されているのに対し、甲A16方法発明においては、そのようには特定されていない点。 イ 判断 そこで、相違点A16−3について検討する。 甲A16には、相違点A16−3に係る本件特許発明11の発明特定事項について何ら記載されておらず、甲A16方法発明が相違点A16−3に係る本件特許発明11の発明特定事項を有する蓋然性が高いともいえない。 したがって、相違点A16−3は実質的な相違点である。 そして、甲A16及び他の証拠のいずれにも、甲A16方法発明において、相違点A16−3に係る本件特許発明11の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はないから、甲A16方法発明において、相違点A16−3に係る本件特許発明11の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。 また、本件特許発明11の奏する「導電部に割れを生じ難くすることができ、耐酸性を高めることができ、従って接続信頼性を高めることができる。」という効果は、甲A16方法発明並びに甲A16及び他の証拠に記載された事項からみて、本件特許発明11の構成から当業者が予測できる範囲の効果を超える顕著なものである。 ウ まとめ したがって、本件特許発明11は甲A16方法発明であるとはいえないし、甲A16方法発明並びに甲A16及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 (5)申立理由A−4についてのむすび したがって、本件特許発明4ないし8及び11ないし13は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえず、また、本件特許発明4ないし8及び10ないし13は、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえず、本件特許の請求項4ないし8及び10ないし13に係る特許は、同法第113条第2号に該当せず、申立理由A−4によっては取り消すことはできない。 5 申立理由A−5(実施可能要件)及び申立理由B−2(実施可能要件)について (1)実施可能要件の判断基準 本件特許発明1ないし8、10、12及び13は物の発明であるところ、物の発明の実施とは、その物の生産及び使用等をする行為であるから、物の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明において、当業者が、発明の詳細な記載及び出願時の技術常識に基づき、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産し、使用することができる程度の記載があることを要する。 本件特許発明11は物を生産する方法の発明であるところ、物を生産する方法の発明の実施とは、その方法を使用し、その方法により生産された物の使用等をする行為であるから、物を生産する方法の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明において、当業者が、発明の詳細な記載及び出願時の技術常識に基づき、過度の試行錯誤を要することなく、その方法を使用し、その方法により生産された物を使用することができる程度の記載があることを要する。 そこで、検討する。 (2)実施可能要件の判断 本件特許の発明の詳細な説明の【0031】ないし【0154】には、本件特許発明1ないし8及び10ないし13の各発明特定事項についての具体的な記載があり、【0156】ないし【0246】には、本件特許発明1ないし8及び10ないし13の実施例並びに比較例について、その製造方法を含め、具体的に記載されている。 したがって、発明の詳細な説明において、当業者が、発明の詳細な記載及び出願時の技術常識に基づき、過度の試行錯誤を要することなく、本件特許発明1ないし8及び10ないし13に係る物を生産し、使用することができる程度の記載があるといえるし、本件特許発明11に係る方法を使用し、その方法により生産した物を使用することができる程度の記載があるといえる。 よって、本件特許発明1ないし8及び10ないし13に関して、発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件を充足する。 (3)特許異議申立人の主張について ア 特許異議申立人Aの主張について 特許異議申立人Aの上記第4 1(5)の主張について検討するに、以下のとおり、いずれも採用できない。 (ア)上記第4 1(5)アの主張について 仮に、本件特許の発明の詳細な説明に記載された実施例8、比較例1及び比較例2で得られた導電性粒子における結晶子サイズ及び10%K値の関係が技術常識と矛盾しているとしても、技術常識と矛盾しているだけであって、上記(2)のとおり、本件特許発明1ないし8及び10ないし13に関して、発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件を充足することに変わりはない。 なお、本件特許の発明の詳細な説明に記載された実施例8は200℃で4時間アニール処理を行っており、280℃で2時間アニール処理を行った比較例1及び2よりアニール処理の時間は2倍長いから、比較例1及び2よりも結晶子サイズ及び10%K値が大きくなっていたとしても、技術常識に矛盾しているとまではいえない。 (イ)上記第4 1(5)イの主張について 仮に、本件特許の発明の詳細な説明に記載された実施例1に関する「100kPaの気圧雰囲気下」という記載における「100kPa」が絶対圧力なのかゲージ圧なのか明確でなかったとしても、上記(2)のとおり、本件特許発明1ないし8及び10ないし13に関して、発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件を充足することに変わりはない。 なお、上記「100kPa」は、絶対圧力かゲージ圧のどちらかであることは明らかであるし、どちらであったとしても、本件特許の発明の詳細な説明の【0127】及び【0128】の記載から、アニール処理の温度及び時間を調整すれば、水素原子含有量は小さくできることを当業者は理解できるから、本件特許の発明の詳細な説明に記載された実施例1に関する「100kPa」という記載が絶対圧力かゲージ圧か本件特許の発明の詳細な説明の記載からは明確でなかったとしても、本件特許発明1ないし8及び10ないし13が実施できないということにはならない。 (ウ)上記第4 1(5)ウの主張について 当業者であれば、様々な手法によって、目開きが基材粒子の粒子径よりも小さい篩を作成することができるから、どのような篩を用いることで導電部と基材粒子とをふるい分けできるのか当業者は理解できないとはいえない。 また、本件特許の発明の詳細な説明の【0225】の「真空引きされた導電部を徐々に加熱した」という記載は、当業者であれば、予め真空引きして不純物が除去された導電部を徐々に加熱したという記載と理解するものであるから、どのように「真空引きされた導電部を徐々に加熱」するのか当業者は理解できないとはいえない。 したがって、上記(2)のとおり、本件特許発明1ないし8及び10ないし13に関して、発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件を充足することに変わりはない。 イ 特許異議申立人Bの主張について 特許異議申立人Bの上記第4 2(2)の主張について検討するに、以下のとおり、いずれも採用できない。 (ア)上記第4 2(2)アの主張について 甲B−1に記載された発明が本件特許発明の発明の課題を解決するものであるかどうかは、実施可能要件の判断とは関係がない。 (イ)上記第4 2(2)イの主張について 具体例として、本件特許の発明の詳細な説明には、実施例1ないし15しか記載されていないとしても、上記(2)のとおり、本件特許発明1ないし8及び10ないし13に関して、発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件を充足することに変わりはない。 (ウ)上記第4 2(2)ウの主張について 上記第4 2(2)ウの主張は上記第4 1(5)ウの主張と同旨であるから、同様に判断される。 すなわち、上記(2)のとおり、本件特許発明1ないし8及び10ないし13に関して、発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件を充足することに変わりはない。 (エ)上記第4 2(2)エの主張について 本件特許発明11は「アニール処理」によって「導電部が水素原子を含まないか、又は、導電部が水素原子を80μg/g以下で含む」ようにする発明であるから、測定の時点は、何時でもいいことは明らかである。 したがって、測定方法が不明確であるとはいえないので、上記(2)のとおり、本件特許発明1ないし8及び10ないし13に関して、発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件を充足することに変わりはない。 (4)申立理由A−5及び申立理由B−2についてのむすび したがって、本件特許の請求項1ないし8及び10ないし13に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、申立理由A−5及び申立理由B−2によっては取り消すことはできない。 6 申立理由A−6(サポート要件)及び申立理由B−3(サポート要件)について (1)サポート要件の判断基準 特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 そこで、検討する。 (2)サポート要件の判断 本件特許の特許請求の範囲の記載は上記第3のとおりである。 また、本件特許の発明の詳細な説明の【0001】ないし【0013】によると、本件特許発明の解決しようとする課題は「導電部に割れを生じ難くすることができ、耐酸性を高めることができ、従って接続信頼性を高めることができる導電性粒子」を提供すること、「該導電性粒子の製造方法」を提供すること、「該導電性粒子を用いた導電材料」を提供すること及び「該導電性粒子を用いた接続構造体」を提供すること(以下、総称して「発明の課題」という。)である。 そして、本件特許の発明の詳細な説明の【0014】ないし【0027】には、本件特許発明1ないし8及び10ないし13に対応する記載があり、同じく【0031】ないし【0154】には、本件特許発明1ないし8及び10ないし13の各発明特定事項について具体的に記載され、同じく【0156】ないし【0244】には、「基材粒子と、前記基材粒子の表面上に配置された導電部とを備え、前記導電部が水素原子を含まないか、又は、前記導電部が水素原子を80μg/g以下で含む」という条件を満足する実施例が、その製造方法を含めて、具体的に記載され、導電部の割れが生じにくく、初期の接続抵抗が高く、酸に晒された後の接続抵抗の変化が少ないことを確認している。 そうすると、当業者は、「基材粒子と、前記基材粒子の表面上に配置された導電部とを備え、前記導電部が水素原子を含まないか、又は、前記導電部が水素原子を80μg/g以下で含む」「導電性粒子」、「該導電性粒子」の「製造方法」、「該導電性粒子」を用いた「導電材料」及び「該導電性粒子」を用いた「接続構造体」は、発明の課題を解決できると認識できる。 そして、本件特許発明1ないし8及び10は上記発明の課題を解決できると認識できる「導電性粒子」をさらに限定したものであり、本件特許発明11は上記発明の課題を解決できると認識できる「該導電性粒子」の「製造方法」をさらに限定したものであり、本件特許発明12は上記発明の課題を解決できると認識できる「該導電性粒子」を用いた「導電材料」をさらに限定したものであり、本件特許発明13は上記発明の課題を解決できると認識できる「該導電性粒子」を用いた「接続構造体」をさらに限定したものである。 したがって、本件特許発明1ないし8及び10ないし13は発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。 よって、本件特許発明1ないし8及び10ないし13に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合する。 (3)特許異議申立人の主張について ア 特許異議申立人Aの主張について 特許異議申立人Aの上記第4 1(6)の主張について検討するに、以下のとおり、いずれも採用できない。 (ア)上記第4 1(6)アの主張について 上記(2)のとおり、導電部の材料が特定されていないとしても、本件特許発明1ないし3は発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。 また、請求項1ないし3を引用する本件特許発明6ないし8、10、12及び13についても同様である。 (イ)上記第4 1(6)イの主張について 上記(2)のとおり、導電部の材料及び結晶子のサイズが特定されていないとしても、本件特許発明4及び5は発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。 また、請求項4又は5を引用する本件特許発明6ないし8、10、12及び13についても同様である。 (ウ)上記第4 1(6)ウの主張について 上記(2)のとおり、ビッカース硬度の特定の有無は当業者が発明の課題を解決できると認識できるかどうかとは関係がない。 したがって、発明の詳細な説明にビッカース硬度を特定した実施例の記載がないとしても、本件特許発明7は発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。 また、請求項7を引用する本件特許発明8、10、12及び13についても同様である。 イ 特許異議申立人Bの主張について 特許異議申立人Bの上記第4 2(3)の主張について検討するに、以下のとおり、いずれも採用できない。 (ア)上記第4 2(3)アの主張について 甲B−1に記載された発明が本件特許発明の発明の課題を解決するものであるかどうかは、サポート要件の判断とは関係がない。 (イ)上記第4 2(3)イの主張について 本件特許の発明の詳細な説明に本件特許発明を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているかどうかは、実施可能要件の問題であって、サポート要件の判断とは関係がない。 なお、本件特許の発明の詳細な説明の記載が、実施可能要件を充足することについては、上記5のとおりである。 (ウ)上記第4 2(3)ウの主張について 上記第4 2(3)ウの主張は上記第4 1(6)ウの主張と同旨であり、同様に判断される。 すなわち、本件特許発明7は発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。 (4)申立理由A−6及び申立理由B−3についてのむすび したがって、本件特許の請求項1ないし8及び10ないし13に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、申立理由A−6及び申立理由B−3によっては取り消すことはできない。 7 申立理由A−7(明確性要件)及び申立理由B−4(明確性要件)について (1)明確性要件の判断基準 特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。 そこで、検討する。 (2)明確性要件の判断 本件特許の特許請求の範囲の記載は、上記第3のとおりである。 そして、本件特許の特許請求の範囲の記載には、意味内容が不明な記載はなく、また、発明の詳細な説明の記載及び図面に本件特許発明1ないし8及び10ないし13の各発明特定事項について具体的に記載され、特許請求の範囲の記載はそれらの記載とも整合しているから、当業者は、特許請求の範囲の記載並びに願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮して、本件特許発明1ないし8及び10ないし13がどのようなものかを理解することができる。 したがって、本件特許発明1ないし8及び10ないし13に関して、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。 よって、本件特許発明1ないし8及び10ないし13は明確である。 (3)特許異議申立人の主張について ア 特許異議申立人Aの主張について 特許異議申立人Aの上記第4 1(7)の主張について検討するに、以下のとおり採用できない。 本件特許発明1においては、水素原子の含有量の測定方法は特定されていないから、本件特許明細書の【0039】に記載されたどの測定方法で測定しても、水素原子の含有量が80μg/g以下であることを意味することは明らかである。 したがって、本件特許発明1が明確でないとはいえない。 本件特許発明2ないし8及び10ないし13についても同様である。 イ 特許異議申立人Bの主張について 特許異議申立人Bの上記第4 2(4)の主張について検討するに、以下のとおり採用できない。 特許異議申立人Bの上記第4 2(4)の主張は、本件特許の発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を充足しないことに基づく主張であるところ、上記5(3)イ(ウ)及び(エ)で検討したとおり、本件特許の発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を充足するから、該主張はその前提において採用できない。 そもそも、実施可能要件を充足するかどうかは明確性要件とは関係がない。 なお、上記(2)のとおり、本件特許発明1ないし8及び10ないし13は明確である。 (4)申立理由A−7及び申立理由B−4についてのむすび したがって、本件特許の請求項1ないし8及び10ないし13に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、申立理由A−7及び申立理由B−4によっては取り消すことはできない。 第7 令和3年11月25日に特許異議申立人Bから提出された意見書で主張された取消理由について 1 令和3年11月25日に特許異議申立人Bから提出された意見書で主張された取消理由の概要 令和3年11月25日に特許異議申立人Bから提出された意見書(第11ページ第10行ないし第12ページ第13行)で主張された取消理由の概要は、おおむね次のとおりである。 該取消理由は、令和3年10月7日にされた訂正請求による訂正により生じたものであるが、本件訂正においても同様の訂正がされているので、検討する。 ・(明確性要件) ジビニルベンゼンと共重合するモノマーの種類や共重合割合は、ジビニルベンゼン共重合体粒子に所望の柔軟性を付与する上で重要な事項であると考えられるところ、本件特許の請求項1ないし5及び11において、この点について何ら規定されていないから、本件特許発明1ないし5及び11は明確でないし、請求項1ないし5のいずれかを直接又は間接的に引用する本件特許発明6ないし10、12及び13は明確でない。 2 判断 本件特許の請求項1ないし5及び11において、ジビニルベンゼンと共重合するモノマーの種類や共重合割合が規定されていないとしても、上記第6 7(2)のとおり、本件特許の特許請求の範囲の記載には、意味内容が不明な記載はなく、発明の詳細な説明の記載とも整合しているから、本件特許発明1ないし8及び10ないし13が明確であることに変わりはない。 なお、仮に、ジビニルベンゼンと共重合するモノマーの種類や共重合割合が、ジビニルベンゼン共重合体粒子に所望の柔軟性を付与する上で重要な事項であったとしても、本件特許の請求項1ないし5及び11において、重要な事項が特定されていないということにとどまり、本件特許発明1ないし8及び10ないし13が明確でないということにはならない。 3 令和3年11月25日に特許異議申立人Bから提出された意見書で主張された取消理由についてのむすび したがって、本件特許の請求項1ないし8及び10ないし13に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、該取消理由によっては取り消すことはできない。 第8 結語 上記第5ないし7のとおり、本件特許の請求項1ないし8及び10ないし13に係る特許は、取消理由(決定の予告)、特許異議申立書A及びBに記載した申立ての理由並びに令和3年11月25日に特許異議申立人Bから提出された意見書で主張された取消理由によっては、取り消すことはできない。 また、他に本件特許の請求項1ないし8及び10ないし13に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 さらに、本件特許の請求項9に係る特許は、訂正により削除されたため、特許異議申立人A及びBによる請求項9に係る特許異議の申立ては、いずれも申立ての対象が存在しないものとなったので、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 基材粒子と、前記基材粒子の表面上に配置された導電部とを備え、 前記基材粒子が、ジビニルベンゼン共重合体樹脂粒子、または、ジビニルベンゼン共重合体樹脂粒子の表面を無機シェルにより被覆したコアシェル型の有機無機ハイブリッド粒子からなり、 前記導電部が水素原子を含まないか、又は、前記導電部が水素原子を80μg/g以下で含み、 前記導電部の外表面に複数の突起を有し、 前記導電部が結晶構造を有する導電部を含み、 前記結晶構造を有する導電部の断面観察において、前記結晶構造を有する導電部における結晶子サイズが50nm以上である、導電性粒子。 【請求項2】 基材粒子と、前記基材粒子の表面上に配置された導電部とを備え、 前記基材粒子が、ジビニルベンゼン共重合体樹脂粒子、または、ジビニルベンゼン共重合体樹脂粒子の表面を無機シェルにより被覆したコアシェル型の有機無機ハイブリッド粒子からなり、 前記導電部が水素原子を含まないか、又は、前記導電部が水素原子を80μg/g以下で含み、 前記導電部の外表面に複数の突起を有し、 前記導電部が結晶構造を有する導電部を含み、 前記結晶構造を有する導電部において、X線回折により得られる回折ピークの半値幅とシェラーの式から求められる(111)面、(200)面、(220)面、(311)面及び(222)面の結晶子サイズの平均値による結晶子サイズが50nm以上である、導電性粒子。 【請求項3】 基材粒子と、前記基材粒子の表面上に配置された導電部とを備え、 前記基材粒子が、ジビニルベンゼン共重合体樹脂粒子、または、ジビニルベンゼン共重合体樹脂粒子の表面を無機シェルにより被覆したコアシェル型の有機無機ハイブリッド粒子からなり、 前記導電部が水素原子を含まないか、又は、前記導電部が水素原子を80μg/g以下で含み、 前記導電部の外表面に複数の突起を有し、 前記導電部が結晶構造を有する導電部を含み、 前記結晶構造を有する導電部において、X線回折により得られる回折ピークの半値幅とウィリアムソンーホール式から求められる結晶子サイズが50nm以上である、導電性粒子。 【請求項4】 基材粒子と、前記基材粒子の表面上に配置された導電部とを備え、 前記基材粒子が、ジビニルベンゼン共重合体樹脂粒子、または、ジビニルベンゼン共重合体樹脂粒子の表面を無機シェルにより被覆したコアシェル型の有機無機ハイブリッド粒子からなり、 前記導電部が水素原子を含まないか、又は、前記導電部が水素原子を80μg/g以下で含み、 10%圧縮した時の圧縮弾性率が3000N/mm2以上である、導電性粒子。 【請求項5】 基材粒子と、前記基材粒子の表面上に配置された導電部とを備え、 前記基材粒子が、ジビニルベンゼン共重合体樹脂粒子、または、ジビニルベンゼン共重合体樹脂粒子の表面を無機シェルにより被覆したコアシェル型の有機無機ハイブリッド粒子からなり、 前記導電部が水素原子を含まないか、又は、前記導電部が水素原子を80μg/g以下で含み、 前記導電部の外表面に複数の突起を有し、 前記導電部は、ニッケルを少なくとも含む、導電性粒子。 【請求項6】 前記導電部は、ニッケル、パラジウム、ルテニウム、銅、タングステン、モリブデン、リン、ボロン、金、白金又は錫を少なくとも含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の導電性粒子。 【請求項7】 前記導電部のビッカース硬度が200以上である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の導電性粒子。 【請求項8】 前記基材粒子が、樹脂粒子又は有機無機ハイブリッド粒子である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の導電性粒子。 【請求項9】削除 【請求項10】 前記導電部の外表面上に配置された絶縁性物質を備える、請求項1〜8のいずれか1項に記載の導電性粒子。 【請求項11】 ジビニルベンゼン共重合体樹脂粒子、または、ジビニルベンゼン共重合体樹脂粒子の表面を無機シェルにより被覆したコアシェル型の有機無機ハイブリッド粒子からなる基材粒子と、前記基材粒子の表面上に配置された導電部を有する導電性粒子を用いて、前記導電性粒子を200℃以上にアニール処理する工程を備え、 前記アニール処理によって、基材粒子と、前記基材粒子の表面上に配置された導電部とを備え、導電部が水素原子を含まないか、又は、導電部が水素原子を80μg/g以下で含む導電性粒子を得る、導電性粒子の製造方法。 【請求項12】 請求項1〜8および10のいずれか1項に記載の導電性粒子と、バインダー樹脂とを含む、導電材料。 【請求項13】 第1の接続対象部材と、 第2の接続対象部材と、 前記第1の接続対象部材と、前記第2の接続対象部材とを接続している接続部とを備え、 前記接続部の材料が、請求項1〜8および10のいずれか1項に記載の導電性粒子であるか、又は前記導電性粒子とバインダー樹脂とを含む導電材料である、接続構造体。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2022-07-29 |
出願番号 | P2016-040028 |
審決分類 |
P
1
651・
113-
YAA
(H01B)
P 1 651・ 121- YAA (H01B) P 1 651・ 536- YAA (H01B) P 1 651・ 537- YAA (H01B) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
大島 祥吾 |
特許庁審判官 |
▲吉▼澤 英一 加藤 友也 |
登録日 | 2020-10-12 |
登録番号 | 6777405 |
権利者 | 積水化学工業株式会社 |
発明の名称 | 導電性粒子、導電性粒子の製造方法、導電材料及び接続構造体 |
代理人 | 弁理士法人大阪フロント特許事務所 |
代理人 | 弁理士法人大阪フロント特許事務所 |