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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A47K
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A47K
審判 全部申し立て 2項進歩性  A47K
管理番号 1390548
総通号数 11 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-11-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-05-31 
確定日 2022-08-29 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6794707号発明「トイレットロール及びトイレットロールの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6794707号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−3〕、〔4、5〕について訂正することを認める。 特許第6794707号の請求項1、3ないし5に係る特許を維持する。 特許第6794707号の請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6794707号の請求項1〜5に係る特許についての出願は、平成28年8月9日に出願され、令和2年11月16日にその特許権の設定登録がされ、同年12月2日に特許掲載公報が発行された。
その後、その特許について、令和3年5月31日に特許異議申立人 金山愼一(以下「申立人金山」という。)により特許異議の申立て(以下「異議申立1」という。)が全請求項に対して、同年6月1日に特許異議申立人 小林敏樹(以下「申立人小林」という。)により特許異議の申立て(以下「異議申立2」という。)が全請求項に対してされたところ、その後の経緯は以下のとおりである。
令和3年 9月30日付:取消理由通知
同年11月30日 :意見書の提出及び訂正の請求(特許権者)
同年12月 9日付:訂正請求があった旨の通知
令和4年 1月13日 :意見書の提出(申立人金山)
同年 1月14日 :意見書の提出(申立人小林)
同年 4月 1日付:取消理由通知(決定の予告)
同年 6月 2日 :意見書の提出及び訂正の請求(特許権者)
同年 6月13日付:訂正請求があった旨の通知
同年 7月13日 :意見書の提出(申立人金山)
同年 7月15日 :意見書の提出(申立人小林)

なお、令和4年6月2日に訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)がされたので、令和3年11月30日にされた先の訂正の請求は、特許法120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。

第2 訂正の適否についての判断
1.訂正の内容
特許権者は、本件訂正請求において、「特許第6794707号の特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1〜5について訂正することを求め」ているところ、その訂正の内容は、以下のとおりである(下線は、訂正箇所を示す。)。
(1)一群の請求項1〜3にかかる訂正
ア.訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「2プライ以上のトイレットペーパーを巻き取ってロール状としたトイレットロールであって、
前記トイレットロールの巻長が48m以上75m以下であり、巻径が110mm以上120mm以下であり、
前記トイレットペーパーの1プライ当たりの坪量が10g/m2以上16g/m2以下であり、
前記2プライ以上のトイレットペーパーに50gf/cm2の圧力をかけた際の厚みが180μm以上270μm以下であり、
前記2プライ以上のトイレットペーパーの表面及び裏面のハンドフィール値の平均が70.0以上であり、
前記2プライ以上のトイレットペーパーは幅方向に略均一に形成されたエンボスによって一体化されたものであるトイレットロール。」
と記載されているのを、
「2プライのトイレットペーパーを巻き取ってロール状としたトイレットロールであって、
前記トイレットロールの巻長が48m以上75m以下であり、巻径が110mm以上120mm以下であり、
前記トイレットペーパーの1プライ当たりの坪量が10g/m2以上13g/m2以下であり、
前記2プライのトイレットペーパーに50gf/cm2の圧力をかけた際の厚みが180μm以上240μm以下であり、
前記2プライのトイレットペーパーに0.5gf/cm2の圧力をかけた際の厚みが320μm以上450μm以下であり、
前記2プライのトイレットペーパーの表面及び裏面のハンドフィール値の平均が70.0以上であり、
前記2プライのトイレットペーパーは幅方向に略均一に形成されたエンボスによって一体化されたものであるトイレットロール。」に訂正する(請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項3も同様に訂正する)。
イ.訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
ウ.訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に
「前記2プライ以上のトイレットペーパーを幅方向に3分割した際に、隣り合う領域のエンボス密度の差がそれぞれ10%以下である請求項1又は請求項2に記載のトイレットロール。」
と記載されているのを、
「前記2プライのトイレットペーパーを幅方向に3分割した際に、隣り合う領域のエンボス密度の差がそれぞれ10%以下である請求項1に記載のトイレットロール。」
に訂正する。

(2)一群の請求項4及び5にかかる訂正
ア.訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に
「2プライ以上のトイレットペーパーを積層した状態で、幅方向に略均一にエンボス加工を施す工程と、
エンボス加工を施した前記2プライ以上のトイレットペーパーをロール状に巻取る工程と、を含むトイレットロールの製造方法であって、
前記トイレットロールの巻長が48m以上75m以下であり、巻径が110mm以上120mm以下であり、
前記トイレットペーパーの1プライ当たりの坪量が10g/m2以上16g/m2以下であり、
前記2プライ以上のトイレットペーパーに50gf/cm2の圧力をかけた際の厚みが180μm以上270μm以下であり、
前記2プライ以上のトイレットペーパーの表面及び裏面のハンドフィール値の平均が70.0以上であるトイレットロールの製造方法。」
と記載されているのを、
「2プライのトイレットペーパーを積層した状態で、幅方向に略均一にエンボス加工を施す工程と、
エンボス加工を施した前記2プライのトイレットペーパーをロール状に巻取る工程と、を含むトイレットロールの製造方法であって、
前記トイレットロールの巻長が48m以上75m以下であり、巻径が110mm以上120mm以下であり、
前記トイレットペーパーの1プライ当たりの坪量が10g/m2以上13g/m2以下であり、
前記2プライのトイレットペーパーに50gf/cm2の圧力をかけた際の厚みが180μm以上240μm以下であり、
前記2プライのトイレットペーパーに0.5gf/cm2の圧力をかけた際の厚みが320μm以上450μm以下であり、
前記2プライのトイレットペーパーの表面及び裏面のハンドフィール値の平均が70.0以上であるトイレットロールの製造方法。」に訂正する(請求項4の記載を引用する請求項5も同様に訂正する)。

2.訂正の目的の適否、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、及び新規事項の有無
以下、訂正事項1〜4について、訂正の適否について検討する。なお、本件においては、訂正前の全ての請求項について特許異議申立ての対象とされているので、全ての訂正事項について特許法120条の5第9項で読み替えて準用する特許法126条7項の独立特許要件は課されない。

(1)訂正事項1について
ア.訂正の目的
訂正事項1は、訂正前の請求項1において、「2プライ以上のトイレットペーパー」と特定されていたのを「2プライのトイレットペーパー」と2プライに限定し、「トイレットペーパーの1プライ当たりの坪量」について、「10g/m2以上16g/m2以下」と特定されていたのを、「10g/m2以上13g/m2以下」と上限の値を小さくし、「50gf/cm2の圧力をかけた際の厚み」について、「180μm以上270μm以下」と特定されていたのを「180μm以上240μm以下」と上限の値を小さくし、「0.5gf/cm2の圧力をかけた際の厚み」についての特定がなかったのを、「320μm以上450μm以下」と特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ.特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1は、上記アのとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、訂正前の請求項1の発明特定事項のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
ウ.新規事項の有無
訂正事項1における「2プライのトイレットペーパー」であることは、願書に添付した明細書(以下「本件明細書」といい、特許請求の範囲及び図面と併せて「本件明細書等」という。)の段落【0011】に「本発明によれば、プライ間の剥がれが抑制された2プライのトイレットロールを得ることができる。」との記載があり、「トイレットペーパーの1プライ当たりの坪量」が「10g/m2以上13g/m2以下」であることは、本件明細書の段落【0021】に「トイレットペーパーの1プライ当たりの坪量は、10g/m2以上であればよく・・・また、トイレットペーパーの1プライ当たりの坪量は、16g/m2以下であればよく・・・13g/m2以下であることがさらに好ましい。」との記載があり、「50gf/cm2の圧力をかけた際の厚み」が「180μm以上240μm以下」であることは、本件明細書の段落【0022】に「50gf/cm2の圧力をかけた際の厚み(Tm)は180μm以上270μm以下である。厚み(Tm)は180μm以上であればよく・・・また、厚み(Tm)は270μm以下であればよく・・・240μm以下であることがさらに好ましい。」との記載があり、「0.5gf/cm2の圧力をかけた際の厚み」が「320μm以上450μm以下」であることは、本件明細書の段落【0023】に「2プライ以上のトイレットペーパーに0.5gf/cm2の圧力をかけた際の厚み(T0)は320μm以上であることが好ましく・・・また、厚み(T0)は・・・450μm以下であることが特に好ましい。」との記載があるから、訂正事項1は、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものでなく、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
エ.小括
以上のとおりであるから、訂正事項1は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、特許法120条の5第9項において読み替えて準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。

(2)訂正事項2について
ア.訂正の目的、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、新規事項の有無
訂正事項2は、訂正前の請求項2を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
訂正事項2は、訂正前の請求項2を削除するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでない。また、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものでなく、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
イ.小括
以上のとおりであるから、訂正事項2は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、特許法120条の5第9項において読み替えて準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。

(3)訂正事項3について
ア.訂正の目的、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、新規事項の有無
訂正事項3は、訂正前の請求項3において、「2プライ以上のトイレットペーパー」と特定されていたのを「2プライのトイレットペーパー」と2プライに限定し、「請求項1又は2」と記載されていたのを、訂正事項2により請求項2が削除されたのに伴い、「請求項1」のみを引用するものとしたものであるから、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
訂正事項3は、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものでない。また、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものでなく、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
イ.小括
以上のとおりであるから、訂正事項3は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」又は3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、特許法120条の5第9項において読み替えて準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。

(4)訂正事項4について
ア.訂正の目的、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、新規事項の有無
訂正事項4は、訂正前の請求項4について、訂正事項1と同様の訂正をするものである。
したがって、上記(1)で訂正事項1について述べたのと同様の理由により、訂正事項4は、特許請求の範囲の減縮を目的とし、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでなく、また、本件明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものでなく、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
イ.小括
以上のとおりであるから、訂正事項4は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであり、特許法120条の5第9項において読み替えて準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。

(5)一群の請求項について
訂正前の請求項2及び3は、これらの請求項が直接又は間接的に引用する請求項1の記載を訂正する訂正事項1によって連動して訂正されるから、訂正前の請求項1〜3に対応する訂正後の請求項1〜3は、特許法120条の4第4項に規定する一群の請求項である。そうすると、訂正事項1〜3は、一群の請求項1〜3についてされている。
訂正前の請求項5は、請求項5が引用する請求項4の記載を訂正する訂正事項4によって連動して訂正されるから、訂正前の請求項4、5に対応する訂正後の請求項4、5は、特許法120条の4第4項に規定する一群の請求項である。そうすると、訂正事項4は、一群の請求項4、5についてされている。
したがって、訂正事項1〜3、訂正事項4は一群の請求項ごとにされている。

3.まとめ
以上のとおり、本件訂正における訂正事項1〜4は、特許法120条の5第2項ただし書1号又は3号に掲げる事項を目的とするものであり、特許法120条の5第9項において読み替えて準用する同法126条5項及び6項の規定に適合するので、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−3〕、〔4、5〕について訂正することを認める。

第3 本件訂正発明
上記第2で示したとおり、本件訂正は認容されるので、本件特許の請求項1、3〜5に係る発明(以下、それぞれ請求項の番号に合わせて「本件訂正発明1」などといい、まとめて「本件訂正発明」という。)は、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1、3〜5に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。なお、請求項2は、本件訂正により削除された。
「【請求項1】
2プライのトイレットペーパーを巻き取ってロール状としたトイレットロールであって、
前記トイレットロールの巻長が48m以上75m以下であり、巻径が110mm以上120mm以下であり、
前記トイレットペーパーの1プライ当たりの坪量が10g/m2以上13g/m2以下であり、
前記2プライのトイレットペーパーに50gf/cm2の圧力をかけた際の厚みが180μm以上240μm以下であり、
前記2プライのトイレットペーパーに0.5gf/cm2の圧力をかけた際の厚みが320μm以上450μm以下であり、
前記2プライのトイレットペーパーの表面及び裏面のハンドフィール値の平均が70.0以上であり、
前記2プライのトイレットペーパーは幅方向に略均一に形成されたエンボスによって一体化されたものであるトイレットロール。
【請求項3】
前記2プライのトイレットペーパーを幅方向に3分割した際に、隣り合う領域のエンボス密度の差がそれぞれ10%以下である請求項1に記載のトイレットロール。
【請求項4】
2プライのトイレットペーパーを積層した状態で、幅方向に略均一にエンボス加工を施す工程と、
エンボス加工を施した前記2プライのトイレットペーパーをロール状に巻取る工程と、を含むトイレットロールの製造方法であって、
前記トイレットロールの巻長が48m以上75m以下であり、巻径が110mm以上120mm以下であり、
前記トイレットペーパーの1プライ当たりの坪量が10g/m2以上13g/m2以下であり、
前記2プライのトイレットペーパーに50gf/cm2の圧力をかけた際の厚みが180μm以上240μm以下であり、
前記2プライのトイレットペーパーに0.5gf/cm2の圧力をかけた際の厚みが320μm以上450μm以下であり、
前記2プライのトイレットペーパーの表面及び裏面のハンドフィール値の平均が70.0以上であるトイレットロールの製造方法。
【請求項5】
前記トイレットロールの製造方法の全工程中において、エンボス加工を施す工程は1回のみ設けられる請求項4に記載のトイレットロールの製造方法。」

第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1.取消理由の概要
当審が令和4年4月1日付けで本件訂正前の請求項1、3〜5について特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の要旨は、次のとおりである。

本件訂正前の請求項1、3〜5に係る発明は、甲第1号証に記載された発明、甲第1号証ないし甲第13号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1、3〜5に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。
<証拠一覧>
甲第1号証:特開2014−188342号公報
甲第2号証:特開2006−87703号公報
甲第3号証:特開2003−70678号公報
甲第4号証:「ティシューソフトネス測定装置 ティシューの柔らかさを
分析するための新しくて客観的な測定技術」パンフレット、
独国emtec社日本総代理店日本ルフト株式会社、2010年9月24
日発行
甲第5号証:特開2013−189728号公報
甲第6号証:特開2013−217004号公報
甲第7号証:特開2009−34278号公報
甲第8号証:特開2011−104184号公報
甲第9号証:特開平7−268800号公報
甲第10号証:特開2012−179071号公報
甲第11号証:特開2009−183411号公報
甲第12号証:「LDK」2016年3月号
甲第13号証:報告書(金山愼一)
(なお、甲第1号証ないし甲第13号証は、申立人金山が異議申立1において提出した証拠であり、申立人小林が異議申立2において提出したすべての証拠を包含するので、異議申立1による証拠番号に統一して記載する。)

2.甲号証の記載
(1)甲第1号証
甲第1号証(特開2014−188342号公報。以下「甲1」という。)には、以下の記載がある(下線は、当審で付した。以下同様)。
ア.「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
・・・
従って本発明は、坪量を下げずに風合いや使用感に優れると共に1ロール当りの巻長を長くし、持ち運びや保管時の省スペース性に優れた衛生薄葉紙ロールの提供を目的とする。」
イ.「【発明を実施するための形態】
【0011】
・・・
図1に示すように、本発明の実施形態に係る衛生薄葉紙ロール10は、2枚の衛生薄葉紙を重ねた積層体10xをロール状に巻き取ってなり、衛生薄葉紙の1枚当りの坪量が13g/m2を超え17g/m2以下、かつ紙厚が0.6mm/10枚を超え1.1mm/10枚以下であり、ロールの巻長(巻き取り長さ)が74〜93m、巻直径DRが100〜130mmである。巻直径DRは、好ましくは100〜125mmである。
・・・
【0013】
ティシューソフトネス測定装置TSA(Tissue Softness Analyzer)により、試料台に設置した積層体(2枚重ねの衛生薄葉紙)10xのロール外側の表面10aを上にしたサンプルに対し、ブレード付きロータを100mNの押し込み圧力として上から押し込んだ後に回転数2.0(/sec)で回転させ、試料台の振動を振動センサで測定したとき、TSA上のソフトウェアにて自動的に取得した、低周波数側からの最初のスペクトルの極大ピークの強度(TS750)が好ましくは12〜27dBV2rms、より好ましくは12〜22dBV2rmsであり、6500Hzを含むスペクトルの極大ピークの強度(TS7)が好ましくは13〜22dBV2rms、より好ましくは13〜19dBV2rmsである。又、積層体の表面を上にした上記TS750の値(これを「TS750t」と表記する)を1とした時、積層体10xのロール内側の裏面10bを上にして試料台に設置したときのTS750の値(これを「TS750b」と表記する)で表される比R(TS750b/TS750t)が好ましくは1.06〜2.30、より好ましくは1.06〜1.60である。
積層体の表面を上にしたサンプルについて、TS7の数値が上記範囲より高いと、十分なやわらかさが得られず、上記範囲より低いと、柔らかさだけが際立ち、良好な触感を得ることができない場合がある。TS750(TS750t)の数値が上記範囲より高いと、滑らかさに劣り、上記範囲より低いと、滑らかではあっても、エンボス処理が十分ではなく、プレイ剥がれが起こる場合がある。
【0014】
積層体にはエンボスが付与され、ロール外側となる表面のTS750tは、ロール内側となる裏面のTS750bより低くなる。これは、表面のエンボスが凹になっており、裏面のエンボスが凸になっているため、裏面の方が粗く感じてTS750の値が高くなるためである。
そして、上記比Rは積層体の表裏面の触感の差を表し、比Rが2.30を超えると、表裏面の触感の差(滑らかさの表裏差)が大きくなり過ぎる。一方、比Rが1.06未満であると、エンボス深さが浅くなってエンボスが弱く、プライが剥がれやすくなる。
【0015】
剛性(D)は、TSAにより、試料台に設置したサンプルに対し、ブレード付きロータを回転させずに100mNと600mNの押し込み圧力でそれぞれ上から押し込んだとき、それぞれ押し込み圧力100mNと600mNの間での前記サンプルの上下方向の変形変位量で表される。
Dが2.3〜3.5mm/Nであることが好ましく、2.7〜3.5mm/Nであることがより好ましい。
Dが上記範囲の下限値より低いと、しなやかさに劣り、上記範囲の上限値より高いとしなやかさが際立ちすぎる一方、DMDTが低くて破れやすく、又、滑らかさが劣り、全体の品質のバランスを欠く。
【0016】
ここで、図2に示すように、ティシューソフトネス測定装置TSA210は、紙試料(サンプル)206の上から、回転したブレード付きロータ204を押付けたときの各種センサで検知した振動データを、振動解析してパラメータ化(TS値)することにより、紙のソフトネス(手触り感)を定量評価するものであり、ドイツのエムテック(Emtec Electronic GmbH、日本代理店は日本ルフト株式会社)社製の商品名である。
TSAを用いた具体的な測定は、(i)円形の試料台205を外側から覆うようサンプル206(emtec社のサンプルパンチを使用して直径が約112.8mmの円形に加工したサンプル)を設置し、サンプル206の外周をサンプル固定リング208で保持し、(ii)ブレード付きロータ204を100mNの押し込み圧力でサンプル206の上から押し込んだ後、ロータ204を回転数2.0(/sec)で回転させ、(iii)試料台205の振動を、試料台205内部に設置した振動センサ203で測定し、振動周波数を解析する。(iv)次に、押し込み圧力100mNと600mNで、ロータ204を回転させずにそれぞれサンプル206を変形させたときの上下方向の変形変位量(mm/N、剛性D)を計測する。(i)〜(iv)の手順により、製品の総合的なハンドフィール値の要素(滑らかさ、しなやかさ、ボリューム感)が各々数値化できる。測定は1サンプルについて、5回行い、平均化する。」
ウ.「【0024】
衛生薄葉紙は、例えば以下のように、(1)抄紙及びクレーピング、(2)マシンワインダーによるプライアップ及びカレンダー処理、(3)エンボス処理及びロール巻取り加工、の順で製造することができる。
・・・
【0028】
(2)マシンワインダーによるプライアップ及びカレンダー処理
図5はマシンワインダー100の一例を示す。上述のようにクレープ後にリールパートで巻き取られたリール2がマシンワインダー100に2本セットされ、ヤンキー面が外側になるように2枚に重ね合わされてプライアップされ、原反ロール4となる。・・・
・・・
【0031】
(3)エンボス処理及びロール巻取り加工
図6はロール巻取り加工機150の一例を示す。原反4は、ロール巻取り加工機150にセットされ、エンボスユニット(エンボスロール)151によってエンボス処理された後、巻取り機構153によって巻直径が100〜130mmの幅広衛生薄葉紙原ロール10Wに巻き取られる。その後、原ロール10Wを所定幅(114mm等)に切り、衛生薄葉紙ロール10となる。
・・・
【0032】
・・・
なお、エンボス処理を行うと、エンボス処理後の紙厚は、エンボス処理前より高くなり、ΔEはマイナスになる。しかし、ロール加工機では、紙を引っ張りながら巻き取るため、紙が伸びて紙厚が低くなる。従って、ロール加工機では、エンボスと紙の伸びの影響を考慮しながら、ΔEが−0.20〜0.18mm/10枚となるよう、巻き取ることが好ましい。
エンボスの強さは、エンボスロールとゴムロールのニップ幅を適宜調整して制御することができる。・・・ニップ幅が40mmを超えると、エンボスが強くなりすぎて表裏差が大きくなったり、紙厚が高くなってロールの巻直径DRが大きくなってしまう。一方、ニップ幅が20mm以下であると、エンボスが弱くなり、ふっくら感がなくなったり、プライが剥がれやすくなる。・・・」
エ.「【実施例】
【0035】
パルプ組成(質量%)をNBKP10%、LBKP90%とし、この原料に対して・・・古紙原料を35%配合し、図5、図6に示す装置により、表1に示す衛生薄葉紙及びそのロールを製造した。
【0036】
以下の評価を行った。
・・・
紙厚:シックネスゲージ・・・を用いて測定した。測定条件は、測定荷重3.7kPa、測定子直径30mmで、測定子と測定台の間に試料を置き、測定子を1秒間に1mm以下の速度で下ろしたときのゲージを読み取った。なお、・・・カレンダー処理後(プライアップ後)およびロールについては、衛生薄葉紙を2プライに重ねた積層体を5枚(5組)重ねて行った。又、測定を10回繰り返して測定結果を平均した。そして、得られた1回当りの平均値を枚数で割って衛生薄葉紙1枚当りの紙厚とした。
・・・
【0037】
・・・
官能評価は、モニター20人によって行った。評価基準は5点満点で行った。評価基準が3点以上であれば良好である。
・・・
【0038】
得られた結果を表1、表2に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
【表2】

【0041】
表1、表2から明らかなように、衛生薄葉紙の1枚当りの坪量が13g/m2を超え17g/m2以下、かつ紙厚が0.6mm/10枚を超え1.1mm/10枚以下である各実施例の場合、衛生薄葉紙ロールの巻長が74〜93m、巻直径が100〜130mmの範囲となり、坪量を下げずに風合いや使用感に優れると共に1ロール当りの巻長を長くすることができた。
【0042】
・・・
衛生薄葉紙の1枚当りの坪量が13g/m2未満である比較例3〜5の場合、破れにくさが劣った。
・・・」

オ.上記エ.の表1によれば、実施例1には、衛生薄葉紙(ロール)の巻長が74m、巻直径が115mm、坪量が13.5g/m2、紙厚が0.72mm/10枚(2枚当たりで144μm)、TS7(表面)が14.1dBV2rms、TS750t(表面)が12.5dBV2rms、TS750b(裏面)が19.2dBV2rms、比R(TS750b/TS750t)が1.54であるものが示されている。
そして、紙厚について、上記エ.の【0036】に、紙厚の測定が、衛生薄葉紙を2プライに重ねた積層体を5組重ねて測定荷重3.7kPaで行われたことが記載されていることを踏まえると、上記「2枚当たりで144μm」というのは、衛生薄葉紙を2プライに重ねた積層体を5組重ねて3.7kPa(37.7gf/cm2=約38gf/cm2)の荷重をかけた場合の紙厚が2枚当たりで144μmであることが記載されているといえる。

以上によれば、甲1には、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているといえる。
【甲1発明】
2枚の衛生薄葉紙を重ねた積層体をロール状に巻き取ってなる衛生薄葉紙ロール10であって、
薄葉紙(ロール)の巻長が74m、巻直径が115mmであり、
衛生薄葉紙の1枚当りの坪量が13.5g/m2であり、
衛生薄葉紙を2プライに重ねた積層体を5組重ねて約38gf/cm2の荷重をかけた場合の紙厚が2枚当たりで144μmであり、
ティシューソフトネス測定装置TSAにより、試料台に設置した積層体のロール外側の表面を上にしたサンプルに対し測定したときの6500Hzを含むスペクトルの極大ピークの強度(TS7)が14.1dBV2rmsであり、低周波数側からの最初のスペクトルの極大ピークの強度の積層体の表面を上にしたときの値(TS750t=12.5dBV2rms)を1とした時、積層体のロール内側の裏面を上にしたときの値(TS750b=19.2dBV2rms)で表される比Rが1.54であり、
積層体にはエンボスが付与され、エンボスが弱くなるとプライが剥がれやすくなる衛生薄葉紙ロール10。

また、甲1には、以下の発明(以下「甲1製造方法発明」という。)が記載されているといえる。
【甲1製造方法発明】
2枚に重ね合わされてプライアップされた原反ロール4は、エンボスユニット(エンボスロール)151によってエンボス処理された後、巻取り機構153によって幅広衛生薄葉紙原ロールに巻き取られ、その後、所定幅に切られ、衛生薄葉紙ロール10となる衛生薄葉紙ロール10の製造方法であって、
衛生薄葉紙(ロール)の巻長が74m、巻直径が115mmであり、
衛生薄葉紙の1枚当りの坪量が13.5g/m2であり、
衛生薄葉紙を2プライに重ねた積層体を5組重ねて約38gf/cm2の荷重をかけた場合の紙厚が2枚当たりで144μmであり、
ティシューソフトネス測定装置TSAにより、試料台に設置した積層体のロール外側の表面を上にしたサンプルに対し測定したときの6500Hzを含むスペクトルの極大ピークの強度(TS7)が14.1dBV2rmsであり、低周波数側からの最初のスペクトルの極大ピークの強度の積層体の表面を上にしたときの値(TS750t=12.5dBV2rms)を1とした時、積層体のロール内側の裏面を上にしたときの値(TS750b=19.2dBV2rms)で表される比Rが1.54であり、
抄紙及びクレーピング、マシンワインダーによるプライアップ及びカレンダー処理、エンボス処理及びロール巻取り加工の順で衛生薄葉紙を製造する製造方法。

(2)甲第2号証
甲第2号証(特開2006−87703号公報。以下「甲2」という。)には、以下の記載がある。
ア.「【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明において、トイレットロールである積層体を形成するためのウェブは、1枚当りの坪量が8〜13g/m2であり、積層体の坪量が15〜30g/m2であることが好ましい。ウェブの坪量が8g/m2未満では、ウェブの強度が弱くなり、トイレットロールを製造することができなくなる。また、坪量が13g/m2を超えて多くなると、形成される積層体が厚くなり、これを所定の長さに巻き取った場合にロール直径が大きくなり過ぎてしまい、通常のホルダーに収まらなくなってしまう。
【0019】
本発明において、積層体を巻き取ってなるロールは、巻き取り長さが60〜100mであり、且つ、直径が100〜115mmであることが好ましい。巻き取り長さが60〜100mであれば、消費者に経済的な満足感を与えることができ、また、直径が100〜115mmであれば、通常のホルダーに収めることができる。
【0020】
本発明において・・・ウェブを重ね合せた積層体は、厚さが65〜125μmであることが好ましい。・・・
また、積層体の厚さを65μm未満まで薄くすると、ウェブの密度が高くなり、柔らかさが損なわれてしまい、一方、125μmを超えて厚くすると、積層体を所定長さに巻き取った場合にロール直径が大きくなり、通常のホルダーに収まらなくなる。
・・・
【0042】
本発明において、ソフトカレンダー処理後のウェブは、加工工程において、所定長さのロールに巻き取られ、所定幅に切断されてトイレットロール製品が製造される。さらに、加工工程において、必要に応じてミシン目の形成、エンボス加工等を行うことができる。・・・」
イ.「【0048】
得られたトイレットロール用原紙(ウェブ)を、ワインダーにより、LBKPの層が外側になるように2枚重ね合わせ、ソフトカレンダー処理を行い、2枚重ねの積層体を形成した。・・・
次いで、2枚重ねの積層体をサーフェスワインディング方式のトイレットロール加工機(ペリーニ社製)により、紙管(ロール直径45mm)に巻き取り、ロール直径110mm、巻き取り長さ70mのロール状トレットペーパーを製造した。また、この際、マッチドスチール方式のエンボスロールによりエンボス加工を施した。得られたロール状トイレットペーパーは、2枚重ねで、坪量24.1g/m2、厚さ85μmであった。
・・・
【0052】
各実施例及び比較例のロール状トイレットペーパーについて評価結果を表1に示す。表1から明らかなように、各実施例の本発明のロール状トイレットペーパーは、手触り感も良好であり、巻き取り長さも従来の1プライ品と同じである・・・。
【0053】
【表1】



以上によれば、甲2には、以下の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されているといえる。
【甲2発明】
トイレットロール用原紙(ウェブ)を2枚重ね合わせ、2枚重ねの積層体を形成し、
2枚重ねの積層体を巻き取り、ロール直径110mm、巻き取り長さ70mのロール状トレットペーパーを製造し、この際、エンボス加工を施し、
得られたロール状トイレットペーパーは、2枚重ねで、坪量24.1g/m2、厚さ85μmであり、
手触り感も良好である、
ロール状トイレットペーパー。

(3)甲第3号証
甲第3号証(特開2003−70678号公報。以下「甲3」という。)には、以下の記載がある。
ア.「【0009】他の課題は、3つの基本的測定方法において、それぞれ2つの測定データを組み合わせて使用することにより・・・、トイレットロールのふんわり感、しなやかさ、滑らかさを定量化し、測定データによりトイレットロールの品質を管理・コントロールすることができるようにすることにある。
・・・
【0018】本発明者は、以下の3つの特性を評価基準とすることが望ましいことが知見した。そして、以下で規定する特性を可能な限り多く充足するものが、現実のトイレットロールまたはトイレットペーパーに関し、より商品価値の高いものであることも知見した。
【0019】1)圧縮特性:LC、TM、WC及び(T0−TM)
・・・圧縮面積2cm2の円形平面をもつ鋼板間で、最大圧縮荷重50g/cm2まで紙試料を圧縮し、元に戻すときの圧縮特性を評価するものである。・・・
【0021】さらに、本発明においては、荷重50g/cm2での厚みTMが;1プライで0.1400mm以上、2プライで0.2500mm以上とされる。
【0022】なお、荷重0.5g/cm2での厚みT0と50g/cm2での厚みTMの変位差(T0−TM)が;1プライで0.2000mm以上、2プライで0.2000mm以上とすることが望ましい。T0−TMが大きいほど、50gf/cm2まで押し込んだ時の押し込み深さが大きく、ふんわりとした紙質であることを示す。・・・
・・・
【0030】圧縮特性は、原料のLBKPとNBKPの配合比率とパルプの種類(・・・原料となる樹木の種類や樹齢)、叩解度、抄紙水分、カレンダー間隙・圧力・材質などにより調整することが可能である。・・・」
イ.「【0034】
【実施例】上記の3種類の特性試験及び6個のデータ取りを繰り返しつつ、成人100名の官能評価との対応を調べた。・・・
【0035】(1)圧縮特性:LC、TM、WC及び(T0−TM)に関して、結果を表1に示す。なお、表1には、他の特性を含めた総合評価及び紙質データも併記した。
【0036】
【表1】



(4)甲第4号証
甲第4号証(「ティシューソフトネス測定装置 ティシューの柔らかさを分析するための新しくて客観的な測定技術」パンフレット、独国emtec社日本総代理店日本ルフト株式会社、2010年9月24日発行。以下「甲4」という。)には、以下の記載がある。
ア.5頁22〜末行
「emtec社製Tissue Softness Analyzer TSA の測定手順
●測定セルにサンプルを固定します。
●回転体の付いている可動測定ヘッドが、指定した圧力でサンプルを押し込みます。
●それから、指定した速度で回転体が作動します。
●結果として生じる振動がセンサーで検出され、PCを使って周波数が分析されます。
●その後直ちに、指定した圧力でサンプルを変形します。
●その変形の性質から、弾性、粘弾性および塑性変形が計算されます。
●「TSA handfeel HF値」が、周波数スペクトルから得られる特有のパラメータ、弾性パラメータ、紙厚および坪量を使って、複雑で非線形の数学アルゴリズムによって計算されます。
●装置のすべての機能は、コンピュータで制御されて、非常に正確です。」
イ.6頁11〜20行
「5.審査員による官能評価値とTSAで測定されるhandfeel(HF)値の相関性はありますか?
・・・一般に、審査員の構成がより良くすれば、得られる結果の正確さは向上して、そして、TSA値と審査員評価値との相関性はより高くなることは確かです。」
ウ.7頁中段のグラフ




(5)甲第5号証
甲第5号証(特開2013−189728号公報。以下「甲5」という。)には、以下の記載がある。
ア.「【0018】
ここで、ティッシュソフトネス測定装置(TSA)は、紙試料をロータで回転させたときの各種センサで検知した振動データを、振動解析してパラメータ化(TS値)することにより、紙のソフトネス(手触り感)を定量評価するものであ・・・る。
TSAを用いた具体的な測定は、試料台に設置したウェッブサンプル(10cm角)に対し、(i)回転体の付いている可動測定ヘッドが、指定した圧力でサンプルを押し込み、(ii)指定した速度で回転体が作動し、(iii)結果として生じる振動をセンサーで検出し、振動周波数を解析する。(iv)次に指定した圧力でサンプルを変形し、変形時の特性から、弾性、粘弾性、及び塑性変形を計算する。(i)〜(iii)の手順により、ウェッブの総合的なハンドフィール及びハンドフィールの要素(滑らかさ、しなやかさ、ボリューム感)が各々数値化できる。測定は1サンプルについて5回繰り返し、平均化する。
・・・
【0019】
TS7の値が低いほど、ふんわり感に優れ、TS750の値が低いほど、滑らかさに優れる。又、Dの値が大きいほど、しなやかさに優れる。
さらに、TS7、TS750、及びDの関数に基づき、総合的なハンドフィールHFを算出することができる。
例えば、(HF)=A×(TS7)+B×(TS750)+C×(D)+αという関数を設定することで、総合的なハンドフィールを客観的(定量的)に数値化できる。ここで、A,B,C及びαは係数であり、これら係数を適宜設定することで、HFを構成するファクター(つまり、TS7、TS750、及びDにそれぞれ対応する、滑らかさ、ふんわり感、こわさ)の重み付けを調整し、実際のHFの官能評価に合致させることができる。
なお、A及びBを負の値とし、Cを正の値とした場合、HFの値が大きくなるほど、総合的なハンドフィールに優れる。
・・・」
イ.「【0030】
TS7、TS750、Dの測定は、上記TSA装置を用いて行った。表裏を測定した値の平均値であり、測定条件も上記のとおりである。
・・・
【0031】
得られた結果を表1に示す。・・・
【0032】
【表1】



(6)甲第6号証
甲第6号証(特開2013−217004号公報。以下「甲6」という。)には、以下の記載がある。
ア.「【0017】
本発明の実施形態に係るトイレットペーパー製品をティシューソフトネス測定装置TSA(Tissue Softness Analyzer)により測定した・・・。
・・・」
イ.「【0020】
紙試料サンプルの振動周波数は、紙の構造及びロータ4の回転数に依存し、振幅(スペクトルの強度)は、クレープの高さ等の紙の構造の高さに依存する。そして、スペクトルの最初のピーク・・・であるTS750は滑らかさ、粗さを表す。一方、TS7が現れる周波数(・・・通常は6500Hz近傍)は、ロータ4の共振周波数であり、水平振動となって紙表面を進むときに紙繊維による瞬間的な遮断とロータ4の振動に起因する。剛性Dは、紙の剛性(引張強度)に相関する。
TS7の値が低いほど、ふんわり感(表面ソフトネスおよびバルクソフトネス)に優れ、TS750の値が低いほど、滑らかさに優れる。又、Dの値が大きいほど、しなやかさに優れる。
さらに、TS7、TS750、及びDの関数に基づき、総合的なハンドフィール値(HF値)を算出することができる。
例えば、(HF値)=A×(TS7)+B×(TS750)+C×(D)+αという関数を設定することで、総合的なハンドフィール値を客観的(定量的)に数値化できる。ここで、A,B,C及びαは係数であり、これら係数を適宜設定することで、ハンドフィール値を構成するファクター(つまり、TS7、TS750、及びDにそれぞれ対応する、柔らかさ、滑らかさ、剛性)の重み付けを調整し、実際のやわらかさの官能評価に合致させることができる。
なお、A及びBを負の値とし、Cを正の値とした場合、ハンドフィール値の値が大きくなるほど、総合的なやわらかさに優れることを意味する。」

(7)甲第7号証
甲第7号証(特開2009−34278号公報。以下「甲7」という。)には、以下の記載がある。
ア.「【発明が解決しようとする課題】
【0003】
そこで、本発明の主たる課題は、シングルエンボスのように一方面に凸エンボスを有する衛生薄葉紙において、その肌に触れたときのざらつき感、凹凸感を低減し、肌触りに優れたものとすることにあ・・・る。」
イ.「【0018】
本実施形態におけるエンボス凸部11の規則的に配列は、好適な例としてエンボス凸部11の中心部を結ぶ仮想線が菱目の模様を描くように配列されている(図1中仮想線を二点鎖線で示す)。・・・
これらの配列を採ると、紙面にエンボス凸部11が均一に分散して配されるため、前記個数、面積等との関係で、嵩高感、厚さ感をより感じられるものとなる上に、滑らかさもいっそう優れるようになる。・・・
【0021】
本発明では、プライ数については特に限定されないが、ティシュペーパー用途であれば1〜3プライ程度、好適には2プライである。図示の形態は2プライである。
他方、本発明では衛生薄葉紙の坪量は、特に限定されない。ただし、本発明はティシュペーパーのような比較的低坪量の衛生薄葉紙において特に効果的であり、JISP 8124による坪量が、プライ数に関係なく、全体として10〜40g/m2である場合により効果的となる。なお、複数プライ数とする場合には、前記坪量の範囲内に収まるように、各プライの坪量を調整する。」
ウ.「【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、ティシュペーパーの他、キッチンペーパー、トイレットペーパー、トイレットロール等の衛生薄葉紙を素材とするシート製品に利用可能である。」

(8)甲第8号証
甲第8号証(特開2011−104184号公報。以下「甲8」という。)には、以下の記載がある。
ア.「【0023】
[3−1]エンボス加工工程:
本発明に係る製造方法は、図1に示す製造方法のように、原反ロール10から送り出された長尺原紙2に対してその全面に亘ってエンボス加工を施すエンボス加工工程P1を備える。
・・・
【0025】
「長尺原紙」の種類は特に限定されず、従来公知のトイレットペーパー用原紙を用いることができる。中でも、坪量10〜25g/m2に抄紙されたトイレットペーパー用原紙を用いることが好ましい。坪量が10g/m2未満であると、適正な強度を確保することができない場合がある。一方、坪量が25g/m2を超えると、柔軟性が損なわれ、触感が硬くなり過ぎる場合がある。
【0026】
本発明に係る製造方法においては、長尺原紙として、図1に示すような単層の長尺原紙2を用いてもよいし(1プライ)、図2に示すような長尺原紙2(2a,2b)が複数枚積層された複層長尺原紙12を用いてもよい(マルチプライ)。例えば、2層のロール状トイレットペーパー(「ダブル」と称される。)を製造する場合には、図2に示すように長尺原紙2a,2bの2層からなる複層長尺原紙12を用いればよい。・・・」
イ.「【0028】
「その全面に亘って」とは、プライボンディングを目的として製品(ロール状トイレットペーパー)の側縁部に該当する部分のみに施されるエンボス加工(いわゆる「エッジエンボス」)を排除する趣旨である。ここで「側縁部」とは、最終製品であるトイレットペーパーを製品の幅方向に三等分する平行線を引いた場合において、その平行線より幅方向外側の部分を意味するものとする。即ち、前記平行線で挟まれた部分(「幅方向中央部」と称することにする。)以外の部分である。
【0029】
原紙の全面に亘って施されるエンボス・・・としては、例えばデザインエンボス、マイクロエンボス等を挙げることができる。
・・・
【0031】
「マイクロエンボス」とは、主として柔軟性向上のために付されるエンボスである。より具体的には、頂面部の面積が0.01〜2mm2のドットエンボスを意味する。通常、マイクロエンボスの頂面部は平面視した場合に円形状又は矩形状等の形状に形成され、長尺原紙の全面に均一に配置される。ドットの頂面形状は特に限定されないが、円形、楕円形、正方形、菱形等を挙げることができる。」

(9)甲第9号証
甲第9号証(特開平7−268800号公報。以下「甲9」という。)には、以下の記載がある。
ア.「【0013】
【実施例】以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。図1は本発明に係るエンボス付与ウェブの一部拡大平面図であり、図2はその2−2線断面図である。・・・本実施例に係るエンボス付与ウェブWにおいては、実質的に平坦な頂面Tを有し、その形状としては実施例においては、菱形とされている。その寸法例は、最大径aが0.8mm、最小径bが0.4mmとされ、エンボス付与形態としては、長ピッチAが3.0mm、短ピッチBが1.4mmとされている。・・・なお、本実施例に係るエンボス付与ウェブにおいて、頂面T,T・・・はウェブ10mm四方にあたり約47個分形成されている。
【0014】また、上記のエンボス付与ウェブは、たとえば図3に示す、本発明に係るエンボス付与ウェブ製造用の金属製エンボスロールEによって容易に製造することができる。エンボスロールEには複数の突起が設けられており、それらの突起は、ウェブに形成するエンボスの形状とされている。
【0015】このエンボスロールEを使用して、対となる表面がゴムなどの弾性可撓性ロールとの間、あるいは前記エンボスロールEの凹部に各突起が対応する金属製の雌エンボスロールRとの間で、第4図のように、ウェブ原反W0をニップしながら通すことによりエンボスを付与できる。31は繰り出しロール、32は巻取ロールである。」
イ.「【0039】
【発明の効果】以上の説明から明らかなように、本発明によれば、滑らかさ、しなやかさ、ふんわり感、柔らかさなどの性質に一層優れるエンボス付与ウェブを得ることができる。」
ウ.図1




(10)甲第10号証
甲第10号証(特開2012−179071号公報。以下「甲10」という。)には、以下の記載がある。
ア.「【請求項6】
前記エンボスロールは、
前記エンボス凸部が離間して配置され、
そのエンボス凸部の密度が2.0〜32.0個/cm2であり、
そのエンボス凸部の一つの平面視の面積が0.64〜4.0mm2である、請求項1〜5の何れか1項に記載のトイレットペーパーの製造方法。
・・・
【請求項9】
前記エンボス凸部が、縦横規則正しく配列されている凸エンボスロールを用いる請求項1〜8の何れか1項に記載のトイレットペーパーの製造方法。」
イ.「【0070】
ここで、本発明においてはエンボス凸部1が、図示例の如く紙面に縦横規則正しく配列されるようにするのが望ましい。エンボス凸部1がムラなく配置され、エンボスの効果が紙面全体で発揮されるようになる。」

(11)甲第11号証
甲第11号証(特開2009−183411号公報。以下「甲11」という。)には、以下の記載がある。
ア.「【0025】
[1ー1]エンボス加工工程:
「エンボス加工工程」とは、原反ロールから送り出された長尺原紙に対してその全面に亘ってエンボス加工を施す工程である。・・・このエンボス加工によって・・・長尺原紙に凹凸が形成され、空気層を含んだ嵩高い状態となるため、衛生用紙に柔軟性を付与することができる。
・・・
【0030】
長尺原紙の種類は、特に限定されないが、例えば、ティシュペーパー用長尺原紙、トイレットペーパー用長尺原紙をはじめとする衛生用紙の長尺原紙等を挙げることができる。複数プライとする場合、2枚の長尺原紙を重ね合わせた2プライとすることが多いが、3プライ、4プライ、或いはそれ以上の枚数の長尺原紙を重ね合わせた複数プライとしてもよい。」
イ.「【0058】
[1−1]エンボス加工工程:
まず、長尺原紙2(2a,2b)に対してその全面に亘ってエンボス加工を施すエンボス加工工程P1を行った。実施例1の方法では、マッチドスチールエンボス加工により、エンボス加工を施す方法を採用し、1対のスチール製のエンボスロール14(14a,14b)の間にプライ12を挟み込み、エンボスロール14表面に形成された彫刻模様を型押しすることによってエンボスを形成した。」
ウ.図1




(12)甲第12号証
甲第12号証(「LDK」2016年3月号。以下「甲12」という。)には、以下の記載がある。
ア.131頁右下枠囲み
「紙のやわらかさ・なめらかさ・剛性からハンドフィール値を測定
3つの数値を測定して手触り感を機械で算出
紙のやわらかさ、なめらかさ、剛性を音響解析で測定できる「ティシューソフトネス測定装置」で各製品も検証。3つの測定結果から算出できるハンドフィール値(100点満点)で各製品の手触り感を客観的に評価しました。」
イ.131頁右下の最下欄右側
「ハンドフィール値の測定/日本ルフト株式会社 ・・・」
ウ.134頁右上枠囲み
「大王製紙 エリエール トイレット ティシュー ダブル
・・・
ダブル/30m
・・・
ハンドフィール値81.9/100
・・・ネピアのダブルに比べると、エンボス加工の丁寧さや紙の品質で劣った印象。とはいえ、使用感は問題のないレベル。」
エ.134頁右下枠囲み
「大王製紙 エリエール フラワー プリント コンパクト
・・・
ダブル/37.5m
・・・
ハンドフィール値76.5/100
・・・花柄のプリントで、エンボス加工の模様も花柄。・・・」

(13)甲第13号証
甲第13号証(報告書(金山愼一)。以下「甲13」という。)には、甲12に掲載された製品と製品名が同一である2プライのトイレットペーパーの各種製品について、ティシューソフトネス装置TSAによるハンドフィール値の測定結果を入手したとして、以下の表が示されている。




3.当審の判断
(1)本件訂正発明1について
ア.対比
本件訂正発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「2枚の衛生薄葉紙を重ねた積層体をロール状に巻き取ってなる衛生薄葉紙ロール10」は、「衛生薄葉紙」、「衛生薄葉紙ロール10」が、それぞれ、本件訂正発明1の『トイレットペーパー』、『トイレットロール』に相当するから、本件訂正発明1の『2プライのトイレットペーパーを巻き取ってロール状としたトイレットロール』に相当する。
甲1発明の「薄葉紙(ロール)の巻長が74m、巻直径が115mmであり、」は、本件訂正発明1の『前記トイレットロールの巻長が48m以上75m以下であり、巻径が110mm以上120mm以下であり、』に相当する。
甲1発明の「積層体にはエンボスが付与され、エンボスが弱くなるとプライが剥がれやすくなる、」と、本件訂正発明1の『前記2プライのトイレットペーパーは幅方向に略均一に形成されたエンボスによって一体化されたものである』とは、エンボスが『幅方向に略均一に』形成されていることを除き共通しているといえる。

以上から、本件訂正発明1と甲1発明とは、以下の一致点及び相違点を有する。
<一致点>
2プライのトイレットペーパーを巻き取ってロール状としたトイレットロールであって、
前記トイレットロールの巻長が48m以上75m以下であり、巻径が110mm以上120mm以下であり、
前記2プライのトイレットペーパーはエンボスによって一体化されたものであるトイレットロール。

【相違点1】
本件訂正発明1では、『前記トイレットペーパーの1プライ当たりの坪量が10g/m2以上13g/m2以下であ』るのに対し、
甲1発明では、「衛生薄葉紙の1枚当りの坪量が13.5g/m2であ」る点。
【相違点2】
本件訂正発明1では、『前記2プライのトイレットペーパーに50gf/
cm2の圧力をかけた際の厚みが180μm以上240μm以下であり、前記2プライのトイレットペーパーに0.5gf/cm2の圧力をかけた際の厚みが320μm以上450μm以下であ』るのに対し、
甲1発明では、「衛生薄葉紙を2プライに重ねた積層体を5組重ねて約38gf/cm2の荷重をかけた場合の紙厚が2枚当たりで144μmであ」るものの、2枚当たりの50gf/cm2の圧力をかけた際の厚みと0.5gf/cm2の圧力をかけた際の厚みが不明である点。
【相違点3】
本件訂正発明1では、『前記2プライのトイレットペーパーの表面及び裏
面のハンドフィール値の平均が70.0以上であ』るのに対し、
甲1発明では、「ティシューソフトネス測定装置TSAにより、試料台に設置した積層体のロール外側の表面を上にしたサンプルに対し測定したときの6500Hzを含むスペクトルの極大ピークの強度(TS7)が14.1dBV2rmsであり、低周波数側からの最初のスペクトルの極大ピークの強度の積層体の表面を上にしたときの値(TS750t=12.5dBV2rms)を1とした時、積層体のロール内側の裏面を上にしたときの値(TS750b=19.2dBV2rms)で表される比Rが1.54であ」る点。
【相違点4】
本件訂正発明1では、2プライのトイレットペーパーを一体化するエンボスが『幅方向に略均一に』形成されるのに対し、
甲1発明では、エンボスが『幅方向に略均一に』形成されるのか不明である点。

イ.判断
上記相違点について検討する。
(ア)相違点1について
a.甲1発明は、衛生薄葉紙の1枚当りの坪量が13.5g/m2であるところ(実施例1)、甲1の表2には、衛生薄葉紙の1枚当りの坪量を11.7g/m2ないし12.0g/m2とした場合(比較例3ないし5)、「柔らかさ」や「しなやかさ」の点で優れていることが示されており、また、甲2の段落【0018】に、1枚当りの坪量を8〜13g/m2とすることが記載されていることから、甲1には、衛生薄葉紙の1枚当りの坪量を13g/m2以下としたものが一応示されている。
しかしながら、甲1に記載される甲1発明の目的は、坪量を下げることなく、風合いや使用感に優れると共に1ロール当りの巻長を長くすることであり(【0004】)、甲1に記載の実施例と比較例をみると、実施例1こそ1枚当りの坪量が13.5g/m2であるものの、他のすべての実施例は1枚当りの坪量が14.7g/m2〜16.5g/m2であり、坪量を13.5g/m2よりも小さくすることが想定されているとは認められないこと、甲1に記載の実施例と比較例についての官能評価によれば、甲1発明に対応する実施例1のものは、「柔らかさ」、「滑らかさ」、「滑らかさの表裏差」、「破れにくさ」、「しなやかさ」を含め、すべての項目において良好であり、比較例3ないし5のものより劣る項目がないこと、甲1の段落【0042】には、坪量が13g/m2未満の場合、破れにくさが劣ることが記載されており、坪量を13g/m2未満とすると破れやすくなることが示されていることを踏まえると、甲1発明において、「衛生薄葉紙の1枚当りの坪量が13.5g/m2」であるのを、坪量を0.5g/m2程度小さくして、13g/m2以下のものとする積極的な動機付けがあるとは認められない。甲1に具体的に記載されていることが上記のものである以上、甲2に1枚当りの坪量を8〜13g/m2とすることが記載されているとしても、甲1発明においてあえて13g/m2以下のものとする積極的な動機付けがあるとは認められない。

b.申立人の主張について
(a)申立人金山は、令和4年7月13日付け意見書において、甲1発明の13.5g/m2と本件訂正発明1の13.0g/m2の数値の差は微差程度であること、甲2の段落【0018】に1枚当りの坪量を8〜13g/m2とすること等が開示されていることから、当業者であれば、甲1発明の坪量である13.5g/m2から0.5g/m2程度わずかに下げるという、微差程度の調整を適宜行うことによって、本件訂正発明1の坪量の数値範囲内に至ることは、当業者にとって特段の困難性がなく適宜なし得ることである(4頁17〜24行)、上記微差程度の坪量調整について主引用発明が機能しなくなるとか、主引用発明が副引用発明の適用を排斥しており採用されることがありえないといった事情があるとはいえず、阻害要因が成立しない(6頁下から7行〜7頁2行)などとという旨主張する。
しかし、阻害要因の有無に関わりなく、甲1の具体的な記載内容に照らして、甲1発明においてあえて13g/m2以下のものとする動機付けがあると認められないことは、上記a.で検討したとおりである。
したがって、当該申立人の主張には理由がない。
(b)申立人小林は、令和4年7月15日付け意見書において、甲1は、13g/m2より大きい範囲とすることを請求項1の範囲としているが、13g/m2以下の範囲とすることを排除するものではない、本件明細書には「13g/m2より大きく16g/m2以下」の範囲と「13g/m2以下」の範囲とで顕著な効果の差を示す記載がなく、そうである以上、相違点1に係る構成とすることは設計事項である(3頁下から2行〜4頁12行)などという旨主張する。
しかし、排除しているか否かに関わりなく、甲1の具体的な記載内容に照らして、甲1発明において13g/m2以下のものとする動機付けがあると認められないことは、上記a.で検討したとおりである。そして、「13g/m2以下」の範囲のものについて本件明細書に実施例1ないし4をもって効果があることが示されているから、「13g/m2より大きく16g/m2以下」の範囲のものと効果を区別することができないからといって設計的事項であるとすることはできない。
したがって、当該申立人の主張には理由がない。

c.上記のとおりであるから、相違点1に係る本件訂正発明1に係る構成は、甲1発明及び甲1、甲2に記載の技術的事項に基づいて当業者が容易に想到することができたものとは認められない。

(イ)相違点2について
a.甲1発明に対応する実施例1のものも、約38gf/cm2という荷重をかけた際の紙厚が144μm(2枚当たり)であるもので、特定の加重をかけた際の紙の厚みを考慮するものである。
そして、甲3の段落【0009】、【0022】には、トイレットロールのふんわり感やしなやかさ、滑らかさを荷重0.5g/cm2での厚みと50g/cm2での厚みの差を用いて定量化することや50gf/cm2まで押し込んだ時の押し込み深さが大きいとふんわりとした紙質であることを示すことが記載されている。
同じく甲3の表1には、2プライのトイレットペーパーに荷重50g/cm2をかけた際の厚み(TM)を「0.2635mm(実施例2)」、「0.2613mm(実施例3)」、「0.2530mm(比較例7)」とすること、すなわち、2プライのトイレットペーパーに荷重50g/cm2をかけた際の厚みを260μm程度とすることが記載されており、また、「2プライのトイレットペーパーに荷重0.5g/cm2をかけた際の厚み(T0)」は、「2プライのトイレットペーパーに荷重50g/cm2をかけた際の厚み(TM)」と「荷重0.5g/cm2での厚みT0と50g/cm2での厚みTMの変位差(T0−TM)」との和であることを踏まえると、「2プライのトイレットペーパーに荷重0.5g/cm2をかけた際の厚み(T0)」を「0.4970mm(実施例2)」、「0.4916mm(実施例3)」、「0.4783mm(比較例7)」とすること、すなわち、2プライのトイレットペーパーに荷重0.5g/cm2をかけた際の厚みを470μmないし500μm程度とすることが記載されているといえる。
しかしながら、甲1発明に対応する実施例1のものは、「柔らかさ」、「滑らかさ」、「破れにくさ」、「しなやかさ」を含め良好な品質を保持していること、甲1発明は、約38gf/cm2という荷重をかけた際の2プライ当たりの紙厚が144μmである一方、甲3では、2プライのトイレットペーパーに対し甲1発明で負荷する上記荷重よりも大きい荷重50gf/cm2をかけた場合であっても260μm程度の厚みを有するもので、両者は荷重をかけた際の紙厚に関する挙動が大きく異なっており、上記のとおり品質が良好な甲1発明において、甲3に示される荷重と当該荷重をかけた際の紙厚との関係を採用する動機付けがあるとは認められない。
また、甲3の実施例や比較例に示されている数値は、本件訂正発明1が特定する数値範囲と異なるから、仮に甲1発明において甲3に示される荷重と紙厚との関係を採用しようとしても相違点2に係る本件訂正発明1に係る構成には至らないし、至るとする根拠もない。

b.申立人の主張について
(a)申立人金山は、上記意見書において、甲3のTM(荷重50gf/cm2での厚み)の約187μm以上326μm以下という数値範囲は、本件訂正発明1の「50gf/cm2の圧力のかけた際の厚みが180μm以上240μm以下」という数値範囲と殆ど重複しており、甲3に接した当業者であれば、測定荷重0.5gf/cm2の時の厚さを、訂正発明1の数値範囲となるように調整することは容易である(14頁1〜17行)、ふんわり感、しなやかさ及び滑らかさ等を得る観点から、荷重0.5gf/cm2での厚みや50gf/cm2での厚みに関する甲3のような要素技術を適用して、その厚みに関して適宜工夫することは自然な流れであり、技術的に何ら不可能な事情はない(17頁下から5行〜18頁7行)という旨主張する。
しかし、甲1発明において甲3に示される荷重と当該荷重をかけた際の紙厚との関係を採用する動機付けがあるとは認められないし、甲3の実施例や比較例に示されている数値は、本件訂正発明1が特定する数値範囲と異なるから、仮に甲1発明において甲3に示される荷重と紙厚との関係を採用しようとしても相違点2に係る本件訂正発明1に係る構成には至らないし、至るとする根拠もないことは、上記a.で検討したとおりである。
したがって、当該申立人の主張には理由がない。
(a)申立人小林は、上記意見書において、本件特許の明細書には、「50gf/cm2の圧力をかけた際の厚みが240μmより大きく270μm以下」、「0.5gf/cm2の圧力をかけた際の厚みが450μmより大きく520μm以下」の2プライのトイレットペーパーが顕著な効果を有することが開示も示唆もされておらず、甲1に甲2及び甲3に記載の技術的事項を組み合わることで容易に想到できる(5頁16〜23行)という旨主張する。
しかし、本件明細書の実施例1ないし4によれば、「50gf/cm2の圧力をかけた際の厚みが240μmより大きく270μm以下」、「0.5gf/cm2の圧力をかけた際の厚みが450μmより大きく520μm以下」の2プライのトイレットペーパーに本件明細書の記載の効果があることが理解できる。
したがって、当該申立人の主張には理由がない。

上記のとおりであるから、相違点2に係る本件訂正発明1に係る構成は、甲1発明及び甲3に記載の技術的事項に基づいて当業者が容易に想到することができたものとは認められない。

(ウ)相違点1及び相違点2について
相違点1及び相違点2は、関連するのでまとめて検討すべきところ、上記(ア)、(イ)のとおり、個別に検討したとしても当業者が容易に想到することができたとは認められないから、まとめて検討しても当業者が容易に想到することができたとは認められない。

この点、申立人金山は、上記意見書において、本件訂正発明は、2プライのエンボス賦形が施されたトイレットロールにおいて、巻長、巻径、坪量、厚みといった基本的条件を適宜バランスよくコントロールしたもので、そうすることで得られる肌触りがよいという効果を数値化した「ハンドフィール値」もクレームに加えて、一見新規な構成であるように見せかけたものにすぎないし、実施例の物性評価は「官能評価」によって感覚的に評価したもので、客観的に評価したものでない以上、そこに格別顕者な効果の存在も認められず、当業者が適宜なし得る創意工夫の範疇であり、設計事項程度である(2頁下から2行〜3頁16行)という旨主張する。
しかし、甲1発明は、提出された証拠によれば、本件訂正発明にもっとも近いものであると認められるところ、両者の間には上記ア.で検討したとおりの相違点が存在しており、見せかけでなく新規である。そして、実施例の評価が「官能評価」によって評価されているとしても、50人という複数人によって4段階評価がなされているものであるから数値で示されていなくとも効果が認められないというものではない。そして、本件訂正発明は、具体的な数値限定をもってトイレットロールの構成を特定しており、それにより一定の効果を有していると認められるから、甲1発明において本件訂正発明で特定する具体的な数値範囲内に至るとの根拠について両申立人により提出された証拠によっては見いだせない以上、当業者が適宜なし得る設計事項程度であるということはできない。

その他の証拠を検討してもこの判断は変わるものではない。

ウ.小括
以上のとおり、相違点1及び相違点2について当業者が容易に想到することができたとは認められない以上、相違点3及び相違点4について検討するまでもなく、本件訂正発明1は、甲1発明、甲1ないし甲13に記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)本件訂正発明3について
ア.対比・判断
本件訂正発明3と甲1発明とは、上記相違点1ないし4に加えて、次の相違点を有する。
【相違点5】
本件訂正発明3では、『前記2プライのトイレットペーパーを幅方向に3分割した際に、隣り合う領域のエンボス密度の差がそれぞれ10%以下である』のに対し、
甲1発明では、そのような構成を有するか不明である点。

相違点1及び相違点2について、上記「(1)イ.」で検討したとおり、当業者が容易に想到することができたとは認められない以上、相違点3ないし相違点5について検討するまでもなく、本件訂正発明3は、甲1発明、甲1ないし甲13に記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ.小括
したがって、本件訂正発明3は、甲1発明、甲1ないし甲13に記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)本件訂正発明4について
ア.対比・判断
本件訂正発明4と甲1製造方法発明とを対比する。
甲1製造方法発明における「抄紙及びクレーピング、マシンワインダーによるプライアップ及びカレンダー処理、エンボス処理及びロール巻取り加工の順で衛生薄葉紙を製造する」ことは、「プライアップ」は、本件訂正発明4の『2プライのトイレットペーパーを積層した状態』とすることに相当し、その後、「エンボス処理」、「ロール巻取り加工」をこの順で行うから、甲1製造方法発明の上記構成と本件訂正発明4における『2プライのトイレットペーパーを積層した状態で、幅方向に略均一にエンボス加工を施す工程と、エンボス加工を施した前記2プライのトイレットペーパーをロール状に巻取る工程と、を含むトイレットロールの製造方法』とは、『幅方向に略均一に』エンボス加工を施すことを除いて共通しているといえる。
以上の点と上記「(1)ア.」で検討した本件訂正発明1と甲1発明との対比を踏まえると、本件訂正発明4と甲1製造方法発明とは、以下の一致点及び相違点を有する。
<一致点>
2プライのトイレットペーパーを積層した状態で、エンボス加工を施す工程と、
エンボス加工を施した前記2プライのトイレットペーパーをロール状に巻取る工程と、を含むトイレットロールの製造方法であって、
前記トイレットロールの巻長が48m以上75m以下であり、巻径が110mm以上120mm以下であり、
前記2プライのトイレットペーパーの表面及び裏面のハンドフィール値の平均が70.0以上であるトイレットロールの製造方法。

【相違点1’】
本件訂正発明4では、『前記トイレットペーパーの1プライ当たりの坪量が10g/m2以上13g/m2以下であ』るのに対し、
甲1製造方法発明では、「衛生薄葉紙の1枚当りの坪量が13.5g/m2であ」る点。
【相違点2’】
本件訂正発明4では、『前記2プライのトイレットペーパーに50gf/cm2の圧力をかけた際の厚みが180μm以上240μm以下であり、前記2プライのトイレットペーパーに0.5gf/cm2の圧力をかけた際の厚みが320μm以上450μm以下であ』るのに対し、
甲1製造方法発明では、「衛生薄葉紙を2プライに重ねた積層体を5組重ねて約38gf/cm2の荷重をかけた場合の紙厚が2枚当たりで144μmであ」るものの、2枚当たりの50gf/cm2の圧力をかけた際の厚みと0.5gf/cm2の圧力をかけた際の厚みが不明である点。
【相違点3’】
本件訂正発明4では、『前記2プライのトイレットペーパーの表面及び裏面のハンドフィール値の平均が70.0以上であ』るのに対し、
甲1製造方法発明では、「ティシューソフトネス測定装置TSAにより、試料台に設置した積層体のロール外側の表面を上にしたサンプルに対し測定したときの6500Hzを含むスペクトルの極大ピークの強度(TS7)が14.1dBV2rmsであり、低周波数側からの最初のスペクトルの極大ピークの強度の積層体の表面を上にしたときの値(TS750t=12.5dBV2rms)を1とした時、積層体のロール内側の裏面を上にしたときの値(TS750b=19.2dBV2rms)で表される比Rが1.54であ」る点。
【相違点4’】
本件訂正発明4では、2プライのトイレットペーパーを積層した状態で『幅方向に略均一に』エンボス加工を施すのに対し、
甲1製造方法発明では、『幅方向に略均一に』エンボス加工を施すのか不明である点。

相違点1’ないし相違点4’は、本件訂正発明1と甲1発明との相違点1ないし相違点4と実質的に同様の相違点であるところ、相違点1及び相違点2について当業者が容易に想到することができたとは認められないことは、上記「(1)イ.」で検討したとおりである。

イ.小括
以上から、相違点1’及び相違点2’について当業者が容易に想到することができたとは認められない以上、相違点3’及び相違点4’について検討するまでもなく、本件訂正発明4は、甲1製造方法発明、甲1ないし甲13に記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)本件訂正発明5について
ア.対比・判断
甲1製造方法発明における「抄紙及びクレーピング、マシンワインダーによるプライアップ及びカレンダー処理、エンボス処理及びロール巻取り加工の順で衛生薄葉紙を製造する」は、衛生薄葉紙の製造方法の全行程中において、「エンボス処理」工程が1回のみ設けられているから、本件訂正発明5における『前記トイレットロールの製造方法の全工程中において、エンボス加工を施す工程は1回のみ設けられる』に相当する。
したがって、本件訂正発明5と甲1製造方法発明は、本件訂正発明4と甲1製造方法発明と同様の相違点1’ないし相違点4’を有する。

相違点1’及び相違点2’について当業者が容易に想到することができたとは認められないことは、上記「(3)ア.」で検討したのと同様である。

イ.小括
以上から、相違点1’及び相違点2’について当業者が容易に想到することができたとは認められない以上、相違点3’及び相違点4’について検討するまでもなく、本件訂正発明5は、甲1製造方法発明、甲1ないし甲13に記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

第5 取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について
申立人金山、小林は、それぞれ異議申立1及び異議申立2において、上記第4で検討したもののほか、以下の理由について申し立てている。

1.異議申立1によるもの
(1)特許法29条2項(同法113条2号
訂正前の請求項1ないし5に係る発明は、甲2発明及び甲3ないし甲13に記載の技術的事項に基いて進歩性がないという旨の申立てについて検討する。

本件訂正発明1と甲2発明(上記第4の「2(2)」参照)とを対比すると、甲2発明は、2枚重ねで坪量24.1g/m2のものであり、1プライ当たり12g/m2であることを踏まえると、両者は、以下の相違点を有し、その余の点で一致する。
【相違点a】
本件訂正発明1は、『前記2プライのトイレットペーパーに50gf/cm2の圧力をかけた際の厚みが180μm以上240μm以下であり、前記2プライのトイレットペーパーに0.5gf/cm2の圧力をかけた際の厚みが320μm以上450μm以下であ』るのに対し、
甲2発明は、2枚重ねで厚さ85μmであるものの、2枚当たりの50gf/cm2の圧力をかけた際の厚みと0.5gf/cm2の圧力をかけた際の厚みが不明である点。
【相違点b】
本件訂正発明1では、『前記2プライのトイレットペーパーの表面及び裏面のハンドフィール値の平均が70.0以上であ』るのに対し、
甲2発明は、ハンドフィール値が不明である点。
【相違点c】
本件訂正発明1では、2プライのトイレットペーパーを一体化するエンボスが『幅方向に略均一に』形成されるのに対し、
甲2発明では、エンボスが幅方向に略均一に形成されるのか不明である点。

上記相違点aについて検討する。
甲2発明は、2枚重ねで厚さ85μmであり、甲2の段落【0020】に「ウェブを重ね合せた積層体は、厚さが65〜125μmであることが好ましい。」、「積層体の厚さを・・・125μmを超えて厚くすると、積層体を所定長さに巻き取った場合にロール直径が大きくなり、通常のホルダーに収まらなくなる」との記載がある。
他方、甲3は、2プライのトイレットペーパーに荷重50gf/cm2をかけた場合であっても厚みが260μm程度あるもので、両者は荷重をかけた際の紙厚に関する挙動が大きく異なっており、厚さが65〜125μmであることが好ましいとされる甲2発明において、甲3は採用を検討する技術とは認められない。
また、甲3の実施例や比較例に示されている数値は、本件訂正発明1が特定する数値範囲と異なるから、仮に甲2発明において甲3に示される荷重と紙厚との関係を採用しようとしても上記相違点aに係る構成には至らないし、至るとする根拠もない。
したがって、相違点aに係る構成は、甲2発明及び甲3に記載の技術的事項に基づいて当業者が容易に想到することができたものとは認められない。
その他の証拠を検討してもこの判断は変わるものではない。
そうすると、相違点b及びcについて検討するまでもなく、本件訂正発明1は、甲2発明及び甲3ないし甲13に記載の技術的事項に基いて進歩性がないということはできない。
本件訂正発明3ないし5も相違点aと同様の相違点を有しているから、上記と同様の理由により、甲2発明及び甲3ないし甲13に記載の技術的事項に基いて進歩性がないということはできない。
したがって、当該申立てには、理由がない。

(2)特許法36条4項1号(同法113条4号
訂正前の請求項1ないし5に係る発明は、実施例に記載のもの以外は過度の試行錯誤なくして製造できないから、発明の詳細な説明の記載は、当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものではないという旨の申立てについて検討する。
本件明細書の段落【0039】〜【0043】に、本発明のトイレットロールの製造に用いる繊維原料について、針葉樹パルプの他に広葉樹パルプが含まれるのが好ましいこと、針葉樹パルプ及び広葉樹パルプの好ましい含有量がそれぞれ記載され、両者の含有量をその範囲内とすることで、トイレットペーパーの坪量やハンドフィール値を所望の範囲内とすることが容易になること、トイレットペーパー中に含有される繊維成分のフリーネスの好ましい含有量が記載され、その範囲内とすることで、坪量やハンドフィール値を所望の範囲内とすることが容易になること、段落【0044】、【0045】には、トイレットペーパーに乾燥紙力剤、湿潤紙力剤、柔軟剤を添加する場合の好ましい添加量が記載され、適宜調整して添加することで、坪量を下げた場合であってもトイレットペーパーの強度を維持できることが記載されている。
そして、本件明細書の段落【0046】〜【0056】には、トイレットロールの製造方法、具体的には、繊維原料を含むスラリーを得る工程、スラリーを抄紙する工程、脱水工程、プレス工程又は搾水工程、乾燥工程、貼合工程、カレンダー処理工程、エンボス工程、巻取工程について記載され、その上で、段落【0058】〜【0060】に、実施例1ないし4について比較例とともに記載されており、当業者であれば、本件明細書の上記記載を踏まえて、材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等を適宜調整することにより、本件訂正発明1、3ないし5について、過度の試行錯誤なくして実施することができるものと認められる。
以上から、発明の詳細な説明の記載は、本件訂正発明1、3ないし5を、当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていると認められる。
したがって、当該申立てには、理由がない。

(3)特許法36条6項1号(同法113条4号
訂正前の請求項1ないし5に係る発明について、請求項で特定する広範な条件の全範囲についてまで発明の詳細な説明に記載された内容を拡張ないし一般化できない、本件明細書に記載の実施例の官能評価における実験系の条件設定が不適切であり、発明の課題が解決できているとは認識できない、訂正前の請求項3に係る発明について、実施例にエンボス密度の差に関する記載がなく効果が確認できない、との理由により、訂正前の請求項1ないし5に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではないという旨の申立てについて検討する。
本件明細書に記載の実施例1ないし4が備える物性(条件)に対して、本件訂正発明1、3ないし5が特定する条件が格別広範であるとはいえず、発明の詳細な説明に記載された内容を拡張ないし一般化できないものとはいえない。
本件における「官能評価」は、本件明細書の段落【0065】によれば、50人に製品を触ってもらうことで製品の裏面の凹凸感及びトイレットペーパーの厚み感について4段階で評価を行ったものであるから、発明の課題を解決できることが確認できないものとはいえない。
請求項3に「隣り合う領域のエンボス密度の差がそれぞれ10%以下」であるとの事項は、トイレットペーパーの幅方向にエンボスが略均一に形成されることを数値でもって特定するものにすぎず、実施例がなければその効果が確認できないというものではない。
以上から、本件訂正発明1、3ないし5に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではないとはいえない。
したがって、当該申立てには、理由がない。

(4)特許法36条6項2号(同法113条4号
訂正前の請求項1ないし5の記載について、ハンドフィール値の上限値が示されておらず不明確であるから請求項の記載は明確ではないという旨の申立てについて検討する。
訂正後にも記載の「前記2プライのトイレットペーパーの表面及び裏面のハンドフィール値の平均が70.0以上であり」は、ハンドフィール値について下限値のみを規定し、上限値については規定しないものであることが普通に理解でき、本件明細書の段落【0035】において「HF値の上限は特に限定されるものではない」と上限を規定することを必須としていないこととも整合する。
したがって、訂正後の請求項1、3ないし5におけるハンドフィール値に関する記載は不明確であるとはいえず、当該申立てには理由がない。

2.異議申立2によるもの
(1)特許法29条1項3号及び2項(同法113条2号
訂正前の請求項1、4、5に係る発明は甲1に記載されているという旨の申立てについて、本件訂正発明1、3ないし5について甲1に記載されていないことは、上記第4の「3(1)ア」で検討したことろからみて明らかである。
したがって、当該申立てには理由がない。

(2)特許法36条4項1号(同法113条4号
本件明細書の発明の詳細な説明には、「前記2プライ以上のトイレットペーパーの表面及び裏面のハンドフィール値の平均が70.0以上」を達成するための具体的な条件が何ら記載されておらず、かつ周知のものでもないから、訂正前の請求項1ないし5に係る発明について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていないという旨の申立てについて検討する。
所望のハンドフィール値を得ることについて、本件明細書の段落【0039】〜【0043】に、本発明のトイレットロールの製造に用いる繊維原料について、針葉樹パルプの他に広葉樹パルプが含まれるのが好ましいこと、針葉樹パルプ及び広葉樹パルプの好ましい含有量がそれぞれ記載され、両者の含有量をその範囲内とすることで、トイレットペーパーの坪量やハンドフィール値を所望の範囲内とすることが容易になること、トイレットペーパー中に含有される繊維成分のフリーネスの好ましい含有量が記載され、その範囲内とすることで、坪量やハンドフィール値を所望の範囲内とすることが容易になることが記載されている。
こられの記載と実施例1ないし4の記載も踏まえれば、当業者であれば、材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等を適宜調整することにより、過度の試行錯誤なくして訂正後の請求項にも記載のハンドフィール値を得ることができるものと認められる。
したがって、当該申立てには理由がない。

(3)特許法36条6項1号(同法113条4号
請求項の記載によれば、巻長が48m以上75m以下、巻径が110mm以上120mm以下のものとされているが、本件明細書に実施例として記載されている巻長60mのもの以外のものが本件明細書に記載の効果を得ることができるか不明であり、訂正前の請求項の記載によれば、1プライ当たりの坪量が10g/m2以上16g/m2以下のものとされているが、本件明細書に記載の実施例からはその範囲、特に坪量12.0g/m2より大きい場合にその効果を得ることができるか不明であり、訂正前の請求項1ないし5に係る発明は、本件明細書に記載された発明を超えるものであるという旨の申立てについて検討する。
トイレットペーパーの凹凸感や全体の厚み感は、巻長が異なっても、トイレットペーパー自体の物性の影響を受けるものであると認められる。
そして、本件明細書には、1プライ当たりの坪量が11.4g/m2以上12.0g/m2以下、2プライのトイレットペーパーに50gf/cm2の圧力をかけた際の厚みが196μm以上239μm以下、0.5gf/cm2の圧力をかけた際の厚みが383μm以上430μm以下である物性を備えるものが実施例1ないし4として示されており、訂正前はともかく、訂正後の請求項に記載の物性に対して格別広範な条件が特定されているものではない。また、本件明細書に記載の実施例1ないし4からは、坪量12.0g/m2を超えても効果があると認められ、坪量13.0g/m2に至ると効果を得ることができなくなるものとは認められない。
したがって、当該申立てには理由がない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、本件請求項1、3ないし5に係る特許は、取消理由通知(決定の予告)及び申立人金山及び小林がそれぞれ提出した特許異議申立書に記載した理由及び証拠によっては取り消すことはできない。
また、本件請求項2に係る特許は訂正により削除され、両申立人による請求項2に係る特許異議の申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法120条の8第1項で準用する同法135条の規定により却下する。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2プライのトイレットペーパーを巻き取ってロール状としたトイレットロールであって、
前記トイレットロールの巻長が48m以上75m以下であり、巻径が110mm以上120mm以下であり、
前記トイレットペーパーの1プライ当たりの坪量が10g/m2以上13g/m2以下であり、
前記2プライのトイレットペーパーに50gf/cm2の圧力をかけた際の厚みが180μm以上240μm以下であり、
前記2プライのトイレットペーパーに0.5gf/cm2の圧力をかけた際の厚みが320μm以上450μm以下であり、
前記2プライのトイレットペーパーの表面及び裏面のハンドフィール値の平均が70.0以上であり、
前記2プライのトイレットペーパーは幅方向に略均一に形成されたエンボスによって一体化されたものであるトイレットロール。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
前記2プライのトイレットペーパーを幅方向に3分割した際に、隣り合う領域のエンボス密度の差がそれぞれ10%以下である請求項1に記載のトイレットロール。
【請求項4】
2プライのトイレットペーパーを積層した状態で、幅方向に略均一にエンボス加工を施す工程と、
エンボス加工を施した前記2プライのトイレットペーパーをロール状に巻取る工程と、を含むトイレットロールの製造方法であって、
前記トイレットロールの巻長が48m以上75m以下であり、巻径が110mm以上120mm以下であり、
前記トイレットペーパーの1プライ当たりの坪量が10g/m2以上13g/m2以下であり、
前記2プライのトイレットペーパーに50gf/cm2の圧力をかけた際の厚みが180μm以上240μm以下であり、
前記2プライのトイレットペーパーに0.5gf/cm2の圧力をかけた際の厚みが320μm以上450μm以下であり、
前記2プライのトイレットペーパーの表面及び裏面のハンドフィール値の平均が70.0以上であるトイレットロールの製造方法。
【請求項5】
前記トイレットロールの製造方法の全工程中において、エンボス加工を施す工程は1回のみ設けられる請求項4に記載のトイレットロールの製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-08-18 
出願番号 P2016-156379
審決分類 P 1 651・ 536- YAA (A47K)
P 1 651・ 121- YAA (A47K)
P 1 651・ 537- YAA (A47K)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 住田 秀弘
特許庁審判官 長井 真一
居島 一仁
登録日 2020-11-16 
登録番号 6794707
権利者 王子ホールディングス株式会社
発明の名称 トイレットロール及びトイレットロールの製造方法  
代理人 特許業務法人特許事務所サイクス  
代理人 特許業務法人特許事務所サイクス  

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