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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C09C 審判 全部申し立て 2項進歩性 C09C 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 C09C 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C09C |
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管理番号 | 1390550 |
総通号数 | 11 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2022-11-25 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2021-07-02 |
確定日 | 2022-08-30 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | true |
事件の表示 | 特許第6809605号発明「樹脂被覆金属顔料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6809605号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−3〕について訂正することを認める。 特許第6809605号の請求項1−3に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 1 特許第6809605号の請求項1〜3に係る特許についての出願は、2018年(平成30年)11月27日(優先権主張 平成30年7月23日 (JP)日本国)を国際出願日とする出願であって、令和2年12月14日にその特許権の設定登録がされ、令和3年1月6日に特許掲載公報が発行された。 2 その後、その請求項1〜3に係る特許に対し、同年7月2日に特許異議申立人藤井香(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審は、同年10月13日付けで取消理由を通知し、これに対し、特許権者は、令和3年12月9日に意見書の提出及び訂正の請求を行い、特許異議申立人は、令和4年1月11日に意見書を提出した。 3 当審は、同年3月19日付けで取消理由を通知(決定の予告)し、特許権者は、その指定期間内である同年5月10日に意見書の提出及び訂正の請求(以下「本件訂正請求」といい、その内容を「本件訂正」という。)を行い、特許権者から訂正請求があったことを、同年5月18日付けで特許異議申立人に通知したが、その指定期間内に特許異議申立人から応答がなかった。 4 なお、前記2の令和3年12月9日付けの訂正請求書による訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。 第2 本件訂正の適否についての判断 1 本件訂正の内容 本件訂正は、以下の訂正事項1〜2からなる。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に、 「共重合体で被覆された樹脂被覆金属顔料の平均粒子径が5〜15μmであり、粒子の平均粒径(R)と平均厚み(t)の比R/tが5以上であり、かつ、当該樹脂被覆金属顔料分が0.8質量%になるようにアクリル樹脂、溶剤で調整した塗料を1ミルのアプリケーターで展色、乾燥した塗膜をマイクロスコープで撮影した画像あたり、全粒子面積に対する直径2μm以下の粒子の面積の面積比率が34%以下である樹脂被覆金属顔料。」と記載されているのを、 「共重合体で被覆された樹脂被覆金属顔料の平均粒子径が5〜15μmであり、粒子の平均粒径(R)と平均厚み(t)の比R/tが5以上であり、かつ、粒子の平均厚み(t)が0.01〜0.5μmであり、かつ、樹脂コート量(樹脂固形分/全固形分)が2.0%であり、かつ、当該樹脂被覆金属顔料分が0.8質量%になるようにアクリル樹脂、溶剤で調整した塗料を1ミルのアプリケーターで展色、乾燥した塗膜をマイクロスコープで撮影した画像あたり、全粒子面積に対する直径2μm以下の粒子の面積の面積比率が34%以下であるグラビアインキ用樹脂被覆金属顔料。」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2,3も同様に訂正する)。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項3に「インク」と記載されているのを、「インキ」に訂正する。 2 一群の請求項について 訂正前の請求項1〜3について 、請求項2,3は、請求項1を引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1〜3に対応する訂正後の請求項1〜3は、特許法第120条の5第4項に規定する関係を有する一群の請求項である。 3 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1 ア 訂正の目的について 訂正前の請求項1に係る特許発明は、「共重合体で被覆された樹脂被覆金属顔料の平均粒子径が5〜15μmであり、粒子の平均粒径(R)と平均厚み(t)の比R/tが5以上である」ことについて特定している。 これに対して、訂正後の請求項1は、「共重合体で被覆された樹脂被覆金属顔料の平均粒子径が5〜15μmであり、粒子の平均粒径(R)と平均厚み(t)の比R/tが5以上であり、かつ、粒子の平均厚み(t)が0.01〜0.5μmであり、かつ、樹脂コー卜量(樹脂固形分/全固形分)が2.0%である」との記載により、訂正後の請求項1に係る発明において、共重合体で被覆された樹脂被覆金属顔料について、平均粒子径が5〜15μmであり、粒子の平均粒径(R)と平均厚み(t)の比R/tが5以上であり、かつ、粒子の平均厚み(t)が0.01〜0.5μmであり、かつ、樹脂コート量(樹脂固形分/全固形分)が2.0%であることに限定するものである。 さらに、訂正前の請求項1に係る特許発明は、「樹脂被覆金属顔料」について特定している。 これに対して、訂正後の請求項1は、「グラビアインキ用樹脂被覆金属顔料」との記載により、樹脂被覆金属顔料を用途限定し、グラビアインキ用の樹脂被覆金属顔料であることに限定するものである。 すなわち、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。 同様に、訂正後の請求項2,3は、訂正後の請求項1に記載された「共重合体で被覆された樹脂被覆金属顔料の平均粒子径が5〜15μmであり、粒子の平均粒径(R)と平均厚み(t)の比R/tが5以上であり、かっ、粒子の平均厚み(t)が0.01〜0.5μmであり、かつ、樹脂コート量(樹脂固形分/全固形分)が2.0%である」、および「グラビアインキ用樹脂被覆金属顔料」との記載を引用することにより、訂正後の請求項2,3に係る発明における共重合体で被覆された樹脂被覆金属顔料の平均粒子径が5〜15μmであり、粒子の平均粒径(R)と平均厚み(t)の比R/tが5以上であり,かつ、粒子の平均厚み(t)が0.01〜0.5μmであり,かつ、樹脂コート量(樹脂固形分/全固形分)が2.0%であること、さらに、樹脂被覆金属顔料をグラビアインキ用樹脂被覆金属顔料に限定するものであるため、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。 イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと 上記アの理由から明らかなように、訂正事項1は、「共重合体で被覆された樹脂被覆金属顔料の平均粒子径が5〜15μmであり、粒子の平均粒径(R)と平均厚み(t)の比R/tが5以上であり、かつ、粒子の平均厚み(t)が0.01〜0.5μmであり、かつ、樹脂コート量(樹脂固形分/全固形分)が2.0%である」、さらに、「グラビアインキ用樹脂被覆金属顔料」という発明特定事項を更に特定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず,特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものであるといえる。 訂正事項1は、訂正前の請求項1の記載を引用する訂正前の請求項2,3の記載についても実質的に訂正するものであるが,上記アの理由から明らかなように、訂正後の請求項1の記載は、訂正前の請求項1との関係で特許請求の範囲を実質的に拡張し、又は変更するものではない。 また、訂正事項1は、訂正前の請求項1の記載以外に、訂正前の請求項2,3の記載について何ら訂正するものではなく、訂正発明2,3のカテゴリーや対象、目的を変更するものではない。 したがって、訂正事項1は、訂正前の請求項2,3との関係で、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないといえる。 ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること 訂正事項1は、本願明細書の段落番号【0021】の樹脂被覆アルミニウム顔料の粒子の平均厚みに関する記載「粒子が扁平形状である場合、粒子の平均厚みは、lμm以下であってよく、0.001μm〜lμmであってよく、0.01〜0.8μmであってよく、0.01〜0.5μmであってよい。粒子の平均厚みは、1個の粒子に対して、無作為に選定された領域における厚みの平均値をもとめ、そこからさらに複数個の粒子の厚みについての平均値とする。ここで複数個とは10個以上とする。」から、アルミニウム粒子平均厚みを0.01〜0.5μmであることに限定し導き出した構成である。 さらに、本願明細書の段落番号【0103】の【表1】に記載の実施例1〜7の樹脂被覆アルミニウム顔料において、樹脂コート量(樹脂固形分/全固形分)が2.0%であるという記載を根拠に限定し導き出した構成である。 さらに、本願明細書の段落番号【0099】の(印刷インキおよび印刷物の作製方法)「製造例1〜7、比較製造例1〜3で作成されたアルミニウムペーストに、固形分調整溶剤(酢酸エチル:イソプロピルアルコール(IPA)=38.4質量部:61.6質量部)を混ぜ、金属分39.7質量%のアルミペースト36.5質量部作成した。得られたアルミペーストへ、硝化綿樹脂(Nobel NC Company Ltd.)16.0質量部、イソプロピルアルコール21.9質量部、酢酸エチル21.1質量部、可塑剤3.9質量部、ポリエチレンワックス(PE−WAX)0.6質量部を混ぜて印刷インキを作成した。得られた印刷インキ100.0質量部に対して、希釈溶剤(酢酸エチル:イソプロピルアルコール=60.0質量部:40.0質量部)を50.0質量部混ぜ、粘度調整したメタリックインキを得た。粘度調整したインキを版深30μmグラビア版を備えたグラビア校正機により片面コート紙(三菱製紙社: DMSC、米坪270g/m2)に印刷して、40〜50℃で乾燥し印刷物を得た。それぞれの印刷物を(実施例1〜7)、(比較例1〜3)とした。」の記載を根拠に、グラビアインキ用(グラビア印刷用のインキ)の樹脂被覆金属顔料であることに限定し導き出した構成である。 よって、当該訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものであるといえる。 (2)訂正事項2 ア 訂正の目的について 訂正前の請求項3の「インク」の記載について、用語の統一性が図れておらず、他の段落の【0060】、【0099】、【0100】には「インキ」との記載がある。よって、当該「インク」は「インキ」の誤記である。 したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に規定する誤記の訂正を目的とするものであるといえる。 イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと 上記アから明らかなように、訂正事項2は、請求項3の誤記を訂正するためのものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものであるといえる。 ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること 訂正事項2は、明細書の段落【0060】、【0099】、【0100】に記載されている「インキ」という正しい記載に基づいて誤記を訂正するものであるから、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。 (3)小括 以上のとおりであるから、本件訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第2号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 したがって、特許第6809605号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−3〕について訂正することを認める。 第3 本件特許発明 上記第2で述べたとおり、本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1〜3に係る発明は、令和4年5月10日付けの訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1〜3に記載された事項により特定される次のとおりのもの(以下「本件特許発明1」〜「本件特許発明3」、まとめて「本件特許発明」ともいう。)である。 「【請求項1】 共重合体で被覆された樹脂被覆金属顔料の平均粒子径が5〜15μmであり、粒子の平均粒径(R)と平均厚み(t)の比R/tが5以上であり、かつ、粒子の平均厚み(t)が0.01〜0.5μmであり、かつ、樹脂コート量(樹脂固形分/全固形分)が2.0%であり、かつ、当該樹脂被覆金属顔料分が0.8質量%になるようにアクリル樹脂、溶剤で調整した塗料を1ミルのアプリケーターで展色、乾燥した塗膜をマイクロスコープで撮影した画像あたり、全粒子面積に対する直径2μm以下の粒子の面積の面積比率が34%以下であるグラビアインキ用樹脂被覆金属顔料。 【請求項2】 請求項1記載と同様に作成した塗膜をマイクロスコープで撮影した画像あたり、全粒子面積に対する直径2μm以下の粒子が33%以下である請求項1記載の樹脂被覆金属顔料。 【請求項3】 請求項1または請求項2記載の樹脂被覆金属顔料を含むインキ。」 第4 取消理由通知に記載した取消理由について 1 本件特許登録時の請求項1〜3に係る特許に対して、当審が令和3年10月13日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。 理由1(新規性)本件特許の請求項1、2に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲第1号証に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、上記の請求項に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 理由2(進歩性)本件特許の請求項1〜3に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲第1号証に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、上記の請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 甲第1号証:特開2000−273350号公報 2 本件訂正前の請求項1〜3に係る特許に対して、当審が令和4年3月9日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の要旨は、次のとおりである。 理由(進歩性)本件特許の請求項1〜3に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲第1号証に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明及び甲第3号証に記載された事項に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、上記の請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 甲第1号証:特開2000−273350号公報 甲第3号証:特開昭62−81460号公報 第5 前記第4における1 理由1(新規性)及び理由(進歩性)、並びに、2 理由(進歩性)についての判断 1 甲号証の記載について (1)甲第1号証(以下、「甲1」という。)の記載について 1a「【請求項1】 平均粒子径D50が5.0〜9.0μm、粒子平均厚みtが0.4〜1.0μm、2μm以下の粒子の含有量が4重量%以下、25μm以上の粒子の含有量が0.5重量%以下である着色アルミニウムフレーク顔料。」 1b「【0003】 【発明が解決しようとする課題】本発明が解決しようとする課題は、(1)光沢を有する優れた塗膜外観が得られ、緻密感のあるソリッド調の色調を与える着色アルミニウムフレーク顔料を提供すること。(2)隠蔽性が優れ、鮮やかなソリッド調メタリック塗膜を与る塗料を提供すること。(3)光沢を有する外観の優れた塗膜を与える塗料を提供すること。(4)上記塗料を用いた塗膜形成方法を提供することである。 【0006】<着色アルミニウムフレーク顔料>本発明の着色アルミニウムフレーク顔料の平均粒子径D50は、5.0〜9.0μmであり、平均粒子径D50が5μm未満の場合には、鮮やかな色調が得られない。一方、9μmを超える場合には、光沢の優れた外観が得られず、また、ソリッド調の色調が得られない。該フレークの粒子平均厚みtは、0.4〜1.0μmが適当で、好ましくは0.5〜0.8μmである。粒子平均厚みtが0.4μm未満の薄い場合には、アルミニウムフレークの表面積が大きくなるため、顔料の付着密度が下がり、十分な鮮やかな色調が得られない。一方、1μmを超える厚い場合は、ベースコート塗面上でのアルミニウムフレークの突き出し多くなり、クリヤーコートを施しても光沢が上がらず、満足な外観が得られない。また、2μm以下の粒子の含有量が全体の4重量%以下である必要があり、4重量%を超える場合には、微細粒子による濁りを生じ、鮮やかな色調が得られない。さらに25μm以上の粒子の含有量は、全体の0.5重量%以下にする必要があり、0.5重量%を超える場合は、ベースコート塗面上での着色アルミニウムフレークの突き出しが多くなり、クリヤーコートを施しても光沢が上がらず、満足な外観が得られない。」 1c「【0017】被覆させるポリマーは例えば次に示すような重合性モノマーから合成される:アクリル酸、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシブチル、アクリル酸2−メトキシエチル、アクリル酸2−ジエチルアミノエチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸オクチル、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリスアクリロキシエチルホスフェート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、マレイン酸、クロトン酸、イタコン酸、ポリブタジエン、アマミ油、大豆油、エポキシ化大豆油、エポキシ化ポリブタジエン、シクロヘキセンビニルモノオキサイド、ジビニルベンゼンモノオキサイド。 ・・・ 【0019】基材アルミフレークの厚みta、(着色顔料層+樹脂層)の厚み:tb、着色顔料添加量Wp重量部(対アルミ100重量部)、着色顔料比重:ρp、樹脂コート量:Wr(対アルミ100重量部)、樹脂比重ρrとして、 tb=ta・(100/2.7+Wp/ρp+Wr/r)/(100/2.7)-ta より、tbを計算して調節する。ここで、着色顔料/樹脂コート量の重量比は、3〜10(好ましくは4〜6)とする。」 1d「【0034】 【実施例】(実施例1)市販のジケトピロロピロール顔料(チバスペシャリティケミカルズ(株)製IRGAZIN DPP RUBINE TR)50gにN−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン4g(顔料100重量部に対し10重量部)、ミネラルスピリット200gを加え、直径1mmのガラスビーズを800g挿入した直径5cm、内容積500ccのポットミルで24時間ボールミル分散した。その後、このポットミルにアルミニウムペースト(東洋アルミニウム(株)製、固形分65%、平均粒子径:7μm、粒子平均厚み:0.2μm、2μm以下の粒子含有量:3.5%、25μm以上の粒子含有量:0.1%)を76.9g(金属分として50g)、およびミネラルスピリット100gを追加し、さらに1時間分散した。得られたスラリーをミネラルスピリット2リットルで洗い出すことにより、ガラスビーズと分離し、濾過によって固液分離することにより固形分60%のペースト状着色アルミニウムフレーク顔料を得た。これを一次着色アルミニウムフレーク顔料と呼ぶ。 【0035】上記一次着色アルミニウムフレーク顔料20gを含むスラリーにメタクリル酸メチル0.5g、1,6ヘキサンジオールジアクリレート0.5g、スチレン0.5g、アクリル酸0.5g(モノマー合計:アルミ分100重量部に対し20重量部)を添加し、撹拌しながら窒素中で80℃で加熱し、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル0.05gを添加して12時間反応させることによりモノマーを重合させ、着色アルミニウムフレーク顔料表面に析出させた。処理後スラリーを固液分離し、固形分50%のペースト状とした。 【0036】得られた着色アルミニウムフレーク顔料について、前述の方法で彩度(C)及びFF値を測定した結果、C=23.7、FF=0.36であった。 【0037】(実施例2〜6,比較例1〜5)基材アルミニウムフレークと使用着色顔料を表1のように変更した以外は実施例1に同じ。 【0038】 【表1】 (実施例7〜23,比較例6〜20) 1.被塗基材の調製 ダル鋼板(長さ300mm、幅100mm及び厚さ0.8mm)を燐酸亜鉛処理剤(「サーフダインSD2000」、日本ペイント(株)製)を使用して化成処理した後、カチオン電着塗料(「パワートップU−50」、日本ペイント(株)製)を乾燥膜厚が25μmとなるように電着塗装した。次いで、160℃で30分間焼き付けた後、中塗塗料(「オルガS−90シーラーグレー(N−6)」、日本ペイント(株)製)を乾燥膜厚が40μmとなるようにエアースプレー塗装し、140℃で30分間焼き付け、中塗塗膜を作成した。 2.メタリック塗料組成物の調製 アクリル樹脂(スチレン/メチルメタクリレート/エチルメタクリレート/ヒドロキシエチルメタクリレート/メタクリル酸の共重合体、数平均分子量約20、000、水酸基価45、酸価15、固形分50重量%)と、メラミン樹脂(商品名、「ユーバン20SE」、三井化学(株)製、固形分60重量%)とを80:20の固形分重量比で配合して得たビヒクルに対し、顔料を表2に示す割合で配合した。次いで、有機溶剤(トルエン/キシレン/酢酸エチル/酢酸ブチルの重量比=70/15/5)とともにディゾルバーにより塗装適正粘度になるように撹拌混合し、メタリック塗料組成物を調製した。 3.メタリック塗膜の形成 基材の被塗面に、上記メタリック塗料組成物を乾燥膜厚が15μmになるように塗装した。塗装は静電塗装機(「Auto REA」、ABBインダストリー(株)製)を用い、霧化圧2.8kg/cm2で行った。塗装中のブースの雰囲気は温度25℃、湿度75%に保持した。塗装後3分間セッティングし、クリヤー塗料を乾燥膜圧が35μmになるように塗装し、室温で10分間セッティングし、140℃の温度で30分間焼付けした。得られた塗膜の彩度、塗面光沢(ツヤ)、隠蔽力、緻密感、多色性を下記評価方法で評価した。結果を表2に示す。使用したクリヤー塗料は、(A)アクリル/メラミン樹脂系クリヤー塗料(商品名:「スーパーラック0−130クリヤー」、日本ペイント(株)製)又は、(B)カルボキシル基含有ポリマーとエポキシ基含有ポリマーのブレンドからなるクリヤー塗料(「マックフロー0−520クリヤー」、日本ペイント(株)製)の2種類である。 【0039】 【表2】 評価方法 隠蔽力…白黒隠蔽紙に膜圧を変えて塗装、焼付け後、目視で白黒境界を判断できなくなる乾燥膜圧(μm)で評価した。 【0040】緻密感…試験板をほぼ真正面から見た場合の、目視による光輝材粒子のつまり具合(緻密感)を評価した 5…緻密感が非常に強い 4…緻密感が強い 3…緻密感がある 2…緻密感が弱い 1…緻密感が非常に弱い 塗面光沢(ツヤ)…試験板をほぼ真正面から見た場合の、目視による光沢感(ツヤ)を評価した 5…表面光沢が非常に強い 4…表面光沢が強い 3…表面光沢がある 2…表面光沢が弱い 1…表面光沢が非常に弱い 彩度 …試験板をほぼ真上から見た場合の、目視による彩度(良好:色濁りの少ない)を評価した 5…彩やかである 4…やや彩やかである 3…普通 2…やや濁っている 1…濁っている 多色性…塗装形成後の試験片をほぼ真上から見た場合(A)と、試験片に対する俯瞰角度15度程度で見た場合(B)での、塗膜の呈する色を目視で評価した 3…(A)、(B)でのそれぞれ呈する色が明確に異なるもの 2…(A)、(B)でのそれぞれ呈する色が異なるもの 1…(A)、(B)でのそれぞれ呈する色が異なるとは言えないもの。」 (2)甲第3号証(以下、「甲3」という。) 3a「2.特許請求の範囲 (1)トリメチロールプロパントリアクリレートおよび/またはトリメチロールプロパントリメタクリレートと少量のアクリル酸および/またはメタクリル酸の共重合体にて被覆された金属粉末。」 3b「金属粉は、潤滑剤の存在の下でのスタンプミル法、ハメターク法等の乾式法、またミネラルスピリットの共存下での湿式ボールミル法(ホール法)などにより製造されており、塗料・インキ等の顔料をはじめとして、巾広い用途に使用されている。」(第1ページ右欄第13〜17行) 3c「その第一は、金属粉顔料は酸・アルカリその他種々の汚染物質に侵されやすいということである。 金属粉表面の脂肪酸の吸着膜は極めて薄く、単層またはせいぜい二重層と云われており、金属粉を汚染物質の攻撃から防禦する作用は僅かしか期待できない。例えば自動車のメタリック塗装においては、工場の排煙あるいは自動車の排気ガス中に含まれる亜硫酸ガス等の汚染物質によって、金属粉末が腐蝕され、塗膜に点触が発生するためにメタリック塗膜の上にさらにクリヤー塗装を施した2コート塗装が行われている。また近年ラジカセ・VTR・TV等の家電製品のプラスチックのメタリック塗装が増えているが、耐指紋性・耐化粧品性等の耐汚染性が問題となっている。 第二の欠点として、バインダー樹脂との親和性、密着性の問題がある。グラスチック成型品に金属的な感じを付与する手段としてメタリック塗装を施す場合、プラスチック自体の耐熱性が低いため塗料の乾燥温度は低くなければならず、しかも安価な塗料として一液型のアクリルラッカーが用いられることが多い。このような低温乾燥型の塗膜においては、金属粉の表面の脂肪酸の被膜の存在が、バインダーとの密着性を阻害する重大な要因となっている。塗膜にセロテープを貼付は急速に引きはがすと、金属粉はセロテープに取られ、塗膜から脱落してしまいその跡が見苦しいばかりでなく、塗膜の上にシルクスクリーン印刷等で文字・数字等のマーキングを施した場合欠字となり、塗装物の商品価値を著しく低下させてしまう。 第三として、金属粉は通電性があるということである。 これが顔料としては短所となる場合がある。例えばテレビのブラウン管のマスク部分の塗装においては、塗膜の絶縁性が不充分であると、ブラウン管部の高電圧が漏洩し、人間が手で触れたとき電撃を受け、場合によっては死亡事故を引き起す可能性がある。また静電塗装においては、スプレーガンと被塗物の間に高電圧がかけられるが、金属粉顔料に通電性があるため、その濃度が高いとブリッジ現象を起し、金属粉を通して電圧がリークし、回路が遮断されてしまい、塗装できなくなってしまう。一般に顔料濃度が高くなるほど塗装外観は金属感が強く、美麗なものとなるがそれにも限界ができてしまうということである。 その他、金属粉を顔料として使用した場合、金属としての化学的活性に基づく種々のトラブルを引き起すことがある。即ち、塗料中に配合される他の顔料、特にイエロー、レッド系の有機顔料と化学反応を起こし、その顔料を退色あるいは変色させることがある。また塗料のバインダーを変質させ、ゲル化等の原因となることがある。 (問題点を解決するための手段) これらの金属粉顔料の欠点を解消する方法を鋭意研究の結果、本発明に到達したものである。即ち、アクリル樹脂オリゴマーをラジカル重合で重合させ金属粉を高重度のアクリル樹脂ポリマーで完全に被覆された金属粉末及びその製造法を見出したものである。即ち、金属粉を有機溶剤中に分散させ、ラジカル重合開始剤および少量のラジカル重合性でしかも金属親和性の強い物質の存在下で啓解したアクリルオリゴマーを金属粉の表面に於てラジカル重合させ、アクリル樹脂ポリマーで被覆する。このアクリルラッカーは、金属粉の表面を均一に、完全に被覆しており、通常塗料やインキに用いられる溶剤に溶解したり、膨潤してはならず、基板の金属粉と充分な密着性を有し、金属粉を種々の汚染物質から有効に保護し、塗料バインダー樹脂との親和性・接着性が優れ、金属粉同志の直接の接触を防ぎ、充分な耐電圧性を有するものでなければならない。 金属粉としては、アルミニウムおよびその合金・銅およびその合金、金、銀、亜鉛ニッケルなどを例示することができる。以下塗料用顔料に工業的に最も多く使用されているアルミニウムペースト顔料を例にとってさらに詳しく説明する。 本発明で使用するアクリルオリゴマーは使用する溶剤に溶解し、しかも、溶液中で充分なラジカル重合速度を有するものでなければならない。アクリルオリゴマーは分子中に含まれる二重結合の数によって、単官能・2官能・3官能・多官能に分類することができる。単官能、および2官能性オリゴマーは浴液中では重合速度が遅く、金属粉表面への重合体の被覆率も悪く、充分な性能を発揮しない。また未反応のオリゴマーが液中に残留してくる為、浴剤を再使用する際の大きな障害となる。3官能オリゴマーとしてはトリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA)、トリメチロールプロパントリメタクリレート(TMPTMA)、トリアクリルホルマール・ペンタエリスリトールトリアクリレートを例示することができる。トリアクリルホルマールおよび多官能オリゴマーは有機溶剤に対する溶解性が劣る。TMPTA、TMPTMAが好適である。3官能性オリゴマーでは、金属粉に対する被覆収率はほぼ100%である。このオリゴマーの添加量は、金属粉に対して重量で0.1〜40%が適当である。要求される性能に応じて適宜増減させる。0.1%以下では樹脂をコーティングした効果が得られず、また40%以上では塗装した時の外観が悪くガサガサしたものとなり顔料としての適性に欠けるものとなる。1〜15%の範囲が好適である。」(第2ページ左上欄第5行〜第3ページ右上欄第4行) 3d「(発明の効果) 本願発明の合成樹脂被覆金属粉末は合成樹脂による被覆割合が極めて高く、耐酸性、耐アルカリ性に優れ、また表面被覆のTMPTA又はTMPTMAは他の樹脂に対する親和性に富むため耐剥離性が良く、又被覆割合が高いため耐電圧性試験においても極めて優れており、低温乾燥型の金属粉顔料としてさらには静電塗装用金属顔料として優れた性能を有し、従来使用困難とされていた分野でも安心して使える顔料である。 〔実施例1〕 還流冷却器、攪拌器、温度計を取りつけた2lの四ツ口フラスコに、アルミペーストSap405N(昭和アルミパウダー社製、金属アルミ分65%含有)140g、トリメチロールプロパントリアクリレート(新中村化学社製、NKエステルA−TMPT)9.0g、アクリル酸(大阪有機化学社製)0.9g、ミネラルスピリット(シェル石油製LAWS)850gを入れ、窒素ガスを通気しながら攪拌した。フラスコを加熱し、混合液の温度が40℃になったところで、アゾビスイソブチロニトリル(日本ヒドラジン社製ABN−R)0.9gを入れ、70℃にまで昇温する。70℃で1時間保持した後冷却し、加圧濾過器で濾過した。ケーキ−をミキサーにて金属アルミ分45.0%に調整し、樹脂コーティングアルミペーストを得た。このペーストの加熱残分は49.9%であり、被覆樹脂量は金属アルミに対して10.9%となる。この金属粉を電子顕微鏡で観察したところ、遊離して、粉末化した樹脂は認められず、投入したオリゴマー・アクリル酸モノマーの全量がアルミの表面を被覆していることがわかった。 〔比較例1〕 アクリル酸を添加しない他は実施例1と同じ操作をした。 〔比較例2〕 実施例1のTMPTAの代りに1,6−ヘキサンジオールジアクリレート(大日本インキ化学製)9.0gを用い、同じ操作をした。 〔実施例2〕 アルミペーストSap.725N(昭和アルミパウダー社製、金属アルミ分75%)147g、キシレン840g、TMPTMA11.0g、メタクリル酸1.1g、アゾビスイソブチロニトリル1.1gを使用し、実施例1と同じ操作をした。 〔実施例3〕 ブロンズ粉(福田金属箔粉工業社製3L−7)200g、ミネラルスピリット780g、TMPTA10g、アクリル酸1.0g、アゾビスイソブチロニトリル1.0gを用いて実施例1と同じ操作をした。 〔実施例4〕 銀粉(福田金属箔粉工業社製AgC−A)200g、酢酸ブチル786gを用いた他は実施例3と同じである。 〔実施例5〕 アルミペーストSap 120(昭和アルミパウダー社製、金属アルミ分65%)140g、ミネラルスピリット850g、TMPTA10g、メタクリル酸2.0g、アゾビスイソブチロニトリル2.0gを用い、実施例1と同じ操作をした。 〔塗膜性能試験〕 前記実施例1〜5、比較例1〜2で得た合成樹脂被覆アルミニウム粉末及び実施例1で使用したアルミペーストSap 405Nを用い、プラスチック塗装用のアクリルラッカー(カシュー社製、プラスラック#18000クリヤー)で、金属成分が所定濃度となるように塗料化し、ABS樹脂板にスプレー塗装し、下記の試験を行った。 (イ)耐酸性試験 塗板を、室温で5%の硫酸水溶液に24時間浸漬する。浸漬前後の色差計L値を測定し、その差ΔLで耐酸性を評価する。ΔLが小さい程耐酸性は優れている。 (ロ)耐アルカリ性試験 塗板を、室温で0.1規定の苛性ソーダ水溶液に4時間浸漬する。浸漬前後の色差計L値を測定し、その差ΔLで耐アルカリ性を評価する。 (ハ)密着性試験(アルミのセロテープ剥離試験) 塗面にセロテープ(ニチバン製、24m/m幅)を貼りつけ、親指の腹で強くこすりつける。セロテープの一方の端を持ち、手前45度の方向に急速に引きはがし、セロテープへのアルミ粉の付着状況を目視により評価する。 ◎:全く剥離が認められない ○:わずか剥離が認められる △:少し剥離する ×:著しく剥離する (ニ)耐電圧性試験 試験機は、多摩電測社製耐電圧試験機、TPI−516型(出力電圧AC0〜6kv)を使用し、遮断電流0.5mA、電極間距離10m/mで、lkVきざみに30秒間塗板に電圧を印加し、絶縁破壊により、回路が遮断されない最大の電圧を耐電圧とした。 」(第3ページ左下欄第12〜第5ページ) 3 甲1に記載された発明 甲1の実施例1に注目すると、「市販のジケトピロロピロール顔料(チバスペシャリティケミカルズ(株)製IRGAZIN DPP RUBINE TR)50gにN−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン4g(顔料100重量部に対し10重量部)、ミネラルスピリット200gを加え、直径1mmのガラスビーズを800g挿入した直径5cm、内容積500ccのポットミルで24時間ボールミル分散し、その後、このポットミルにアルミニウムペースト(東洋アルミニウム(株)製、固形分65%、平均粒子径:7μm、粒子平均厚み:0.2μm、2μm以下の粒子含有量:3.5%、25μm以上の粒子含有量:0.1%)を76.9g(金属分として50g)、およびミネラルスピリット100gを追加し、さらに1時間分散し、得られたスラリーをミネラルスピリット2リットルで洗い出すことにより、ガラスビーズと分離し、濾過によって固液分離することにより得た固形分60%のペースト状着色アルミニウムフレーク顔料20gを含むスラリーにメタクリル酸メチル0.5g、1,6ヘキサンジオールジアクリレート0.5g、スチレン0.5g、アクリル酸0.5g(モノマー合計:アルミ分100重量部に対し20重量部)を添加し、撹拌しながら窒素中で80℃で加熱し、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル0.05gを添加して12時間反応させることによりモノマーを重合させ、着色アルミニウムフレーク顔料表面に析出させ、処理後スラリーを固液分離し、固形分50%のペースト状として、得られた着色アルミニウムフレーク顔料であって、平均粒子径D50が7μm、粒子平均厚みtが0.71μm、樹脂コート量(vs Al 100)が20であり、2μm以下の粒子の含有量が3.5重量%、25μm以上の粒子の含有量が0.1重量%である、着色アルミニウムフレーク顔料。」の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる(摘記1c参照)。 4 対比・判断 (1)本件特許発明1 ア 甲1発明との対比 本件特許発明1と甲1発明を対比する。 甲1発明の「メタクリル酸メチル0.5g、1,6ヘキサンジオールジアクリレート0.5g、スチレン0.5g、アクリル酸0.5g(モノマー合計:アルミ分100重量部に対し20重量部)を添加し、撹拌しながら窒素中で80℃で加熱し、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル0.05gを添加して12時間反応させることによりモノマーを重合させ、着色アルミニウムフレーク顔料表面に析出させ、処理後スラリーを固液分離し、固形分50%のペースト状として、得られた着色アルミニウムフレーク顔料」は本件特許発明1の「共重合体で被覆された樹脂被覆金属顔料」、「樹脂被覆金属顔料」に相当する。 甲1発明の「平均粒子径D50が7μm」は、本件特許発明1の「平均粒子径が5〜15μmであり」を充足する。 甲1発明の粒子は、「粒子平均厚みtが0.71μm」であり、「平均粒子径D50が7μm」であるから、粒子の平均粒径と平均厚みの比が9.86であるから、本件特許発明1の「粒子の平均粒径(R)と平均厚み(t)の比R/tが5以上であり、かつ、粒子の平均厚み(t)が0.01〜0.5μmであり」を充足する。 そうすると、本件特許発明1と甲1発明は、「共重合体で被覆された樹脂被覆金属顔料の平均粒子径が5〜15μmであり、粒子の平均粒径(R)と平均厚み(t)の比R/tが5以上であり、かつ、粒子の平均厚み(t)が0.01〜0.5μmである樹脂被覆金属顔料。」である点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点1> 本件特許発明1では樹脂コート量(樹脂固形分/全固形分)が2.0%であるのに対し、甲1発明では樹脂コート量(vs Al 100)が20である点。 <相違点2> 本件特許発明1では、樹脂被覆金属顔料分が0.8質量%になるようにアクリル樹脂、溶剤で調整した塗料を1ミルのアプリケーターで展色、乾燥した塗膜をマイクロスコープで撮影した画像あたり、全粒子面積に対する直径2μm以下の粒子の面積の面積比率が34%以下であると特定されているのに対し、甲1発明では2μm以下の粒子の含有量が3.5重量%である点。 <相違点3> 樹脂被覆金属顔料が、本件特許発明1はグラビアインキ用であるのに対し、甲1発明ではそのような特定がない点。 イ 相違点についての検討 <相違点1>について 甲1発明の樹脂コート量(vs Al 100)20は、甲1発明はモノマー合計:アルミ分100重量部に対し20重量部であり、甲1発明の着色アルミニウムフレーク顔料の固形分は、モノマーを重合した樹脂の他、一次着色アルミニウムフレーク顔料を構成するジケトピロロピロール顔料(チバスペシャリティケミカルズ(株)製IRGAZIN DPP RUBINE TR)、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン及びアルミニウムペースト(東洋アルミニウム(株)製、固形分65%、平均粒子径:7μm、粒子平均厚み:0.2μm、2μm以下の粒子含有量:3.5%、25μm以上の粒子含有量:0.1%)、並びに、アゾビスイソブチロニトリルからなり、一次着色アルミニウムフレーク顔料20g中のアルミニウム顔料は、7.6(20×(50/(50+4+76.3)))gであるから、樹脂は1.53((20×(50/(50+4+76.3))×0.2))gとなり、樹脂固形分/全固形分は7.1(((20×(50/(50+4+76.3))×0.2)/(20+1.53))×100)%となるから、本件特許発明1では樹脂コート量(樹脂固形分/全固形分)が2.0%である点は、実質的な相違点である。 そして、甲1には、着色顔料/樹脂コート量の重量比は、3〜10とすると記載されているから(摘記1c参照)、甲1発明に当てはめると、一次着色アルミニウムフレーク顔料20g中の着色顔料の量は7.6(20×(50/(50+4+73.6))gとなるから、樹脂コート量は、0.76((20×(50/(50+4+73.6)))/10)〜2.5((20×(50/(50+4+73.6)))/3))gとなり、全固形分に対する樹脂コート量は、3.6((((20×(50/(50+4+73.6))/10)/(20+(20×(50/(50+4+73.6))/10))×100)〜11.3((((20×(50/(50+4+73.6))/10)/(20+(20×(50/(50+4+73.6)))/3)×100)%となるから、甲1発明において樹脂固形分/全固形分を2.0%とする動機付けはなく、甲1発明において樹脂固形分/全固形分を2.0%とすることは、当業者が容易に想到し得ることであるとはいえない。 また、甲3には金属粉の樹脂コート量が金属粉に対して1〜15%が好適であることが記載されており(摘記3c参照)、全固形分に対する樹脂コート量は1(1/(100+1))〜13(15/(100+15)%となるが、実際に得られた金属粉の樹脂コート量は金属粉に対して10.9%であり(摘記3d参照)、全固形分に対する樹脂コート量は9.8%(10.9/(100+10.9)であり、甲3において樹脂コート量をその範囲とするのは、金属粉を種々の汚染物質から有効に保護し、塗料バインダー樹脂との親和性・接着性が優れ、金属粉同志の直接の接触を防ぎ、充分な耐電圧性を有するものとするためであり、甲3の金属粉の粒子径は不明であり、一方、甲1発明は、粒子径が小さく、光沢を有する優れた塗膜外観が得られ、緻密感のあるソリッド調の色調を与える着色アルミニウムフレーク顔料であり(摘記1b参照)、甲1発明のような粒子径が小さく、光沢を有する優れた塗膜外観が得られ、緻密感のあるソリッド調の色調を与える着色アルミニウムフレーク顔料において、甲3に記載のように、金属粉を種々の汚染物質から有効に保護し、塗料バインダー樹脂との親和性・接着性が優れ、金属粉同志の直接の接触を防ぎ、充分な耐電圧性を有するものとするための金属粉に対する樹脂コート量の範囲を適用し、例えば、2%として、樹脂固形分/全固形分を2.0%とする動機付けがあるとはいえない。 ウ 本件特許発明1の効果について 本件特許明細書の【0103】の【表1】からみて、本件特許発明1の樹脂被覆顔料は、グラビアインキとして用いた場合、密着性に優れるという効果を奏し、本件特許発明1のそのような効果は、甲1発明の着色アルミニウムフレーク顔料をメタリック塗料に用いた場合の緻密感、表面光沢、彩度及び多色性からは、予測できない顕著なものであるといえる。 エ 小括 したがって、本件特許発明1は、甲1に記載された発明ではなく、また、<相違点2>及び<相違点3>について検討するまでもなく、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (2) 本件特許発明2〜3について 本件特許発明2〜3は、「樹脂コート量(樹脂固形分/全固形分)が2.0%」という点を発明特定事項に備えているところ、上記本件特許発明1と甲1発明の<相違点2>及び<相違点3>と同じ相違点を有するものであるから、本件特許発明2〜3は甲1発明と同一ではなく、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。 第6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について 1 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由 特許異議申立人の主張は以下のとおりである。 (1)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)についての主張 本件特許の請求項1〜3に係る発明は、特許請求の範囲の記載が以下の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、請求項1〜3に係る特許は、特許法第36条第6項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。 ア 「共重合」について 本件発明は、前記の通り、「共重合体で被覆された樹脂被覆金属顔料の平均粒子径が5〜15μmであり、粒子の平均粒径(R)と平均厚み(t)の比R/tが5以上であり、かつ、当該樹脂被覆金属顔料分が0.8質量%になるようにアクリル樹脂、溶剤で調整した塗料を1ミルのアプリケーターで展色、乾燥した塗膜をマイクロスコープで撮影した画像あたり、全粒子面積に対する直径2μm以下の粒子の面積の面積比率が34%以下である樹脂被覆金属顔料。」に係るものであり、「共軍合体で被覆された樹脂被覆金属顔料」を必須とするものである。 他方、本件特許明細書の実施例でその効果が確認されている樹脂被覆金属顔料は、アクリル酸とトリメチロールプロパントリメタクリレートとの共重合体で被覆されたアルミニウム顔料のみであって、この共重合体以外の他の共重合体で所定の効果が確認されたデータは一切示されていない。すなわち、アクリル酸とトリメチロールプロパントリメタクリレートとの共重合体以外の共重合体を適用した場合に、所望の密着性が得られることは確認されていない。 そうすれば、本件発明1及びそれを引用する本件発明2、3については、発明の詳細な説明に当業者が課題を解決できると認識できる程度に具体的に開示されておらず、特許請求の範囲に記載された発明の範囲まで発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないことは明らかである。 イ 「粒子の平均粒径(R)と平均厚み(t)の比R/tが5以上」について 本件発明1の樹脂被覆金属顔料は「粒子の平均粒径(R)と平均厚み(t)の比R/tが5以上」であることを必須とするものである、が前記比R/tは文字通り「5以上」となっていて、その上限値が特定されていない。 これに関し、本件明細書【0022】には「粒子の平均粒径(R)と平均厚み(t)の比R/tは、5以上であることが好ましく、5〜3000であってよく、15〜1500であってよく、30〜750であってよい。」と記載されており、最大で3000まで記載されている。 しかし、本件明細書のどこを見ても、前記比R/tが5以上という広範な範囲を備えた樹脂被覆金属顔料を製造できることを示した実施例は見当たらず、なおかつ、どの実施例で得られた樹脂被覆金属顔料も前記比R/tが5〜3000の範囲内にあることについて何も記載されていない。 すなわち、本件明細書の実施例において、被覆後の樹脂被覆金属顔料の前記比R/tの値が一切示されていない以上、その樹脂被毅金属顔料が本件発明1の要件「粒子の平均粒径(R)と平均厚み(t)の比R/tが5以上」を満たしているか否か不明といわざるを得ない。 従って、本件発明1及びそれを引用する本件発明2、3については、少なくとも「粒子の平均粒径(R)と平均厚み(t)の比R/tが5以上」である樹脂被覆金属顔料が実施例によって裏付けられていないから、サポート要件違反に当たることは明白である。 (2)特許法第36条第6項第2号(明確性要件)についての主張 本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、本件特許は、特許法第36条第6項第2号の規定に違反してされたものであり、同法第113条第4号規定により取り消されるべきものである。 本件発明1は「共重合体で被覆された樹脂被覆金属顔料」を必須とするものである。 しかしながら、「共重合体」なる用語は、あくまで「2種類以上の単量体を構成単位とした甫合体」(例えば「化学大辞典」東京化学同人など参照)という意にとどまるものであり、いわばホモポリマーに対する概念にとどまるものである。換言すれば、「共重合体」とは、2種以上モノマーの種類との組み合わせで用いることによってはじめて成立する用語である。 従って、モノマーの種類を何ら特定することなく、「共軍合体」という表現で特定する本件発明1及びそれを引用する本件発明2、3は、そもそも用語の用法として不適切であり、かつ、曖味な表現であるから、発明として不明確になっていると言わざるを得ない。 (3)特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)についての主張 本件特許の請求項1〜3に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に適合するものではないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 ア 「面積比率」について 本件発明の樹脂被覆金属顔料は「樹脂被覆金属顔料分が0.8質量%になるようにアクリル樹脂、溶剤で調整した塗料を1ミルのアプリケーターで展色、乾燥した塗膜をマイクロスコープで撮影した画像あたり、全粒子面積に対する直径2μm以下の粒子の面積の面積比率が34%以下である」ことを必須とするものであるが、前記面積比率が34%以下とする顔料を得るために当業者に過度の試行錯誤が強いられる明細書となっている。 本件明細書には、下記の比較製造例2が記載されている。 この比較製造例2は、2種のアルミニウムペーストの比率が異なるほかは、製造例4と同じである。 そして、本件明細書【0105】(表2)にも示されているように、比較製造例2のアルミニウムペーストを用いた場合(比較例5)の前記面積比率が35.1%となっているのに対し、製造例4のアルミニウムペーストを用いた場合(実施例11)の前記面積比率が33.5%となっている。つまり、本件明細書【0061】〜【0076】に開示された製造方法に従った場合でも、前記面積比率が34%以下とならない場合があることがわかる。 これに関し、本件明細書【0102】には「実施例7で使用したアルミニウムペースト(X−7)は比較例2で使用したアルミニウムペースト(X−9)の微粒子を除去したものである。実施例7と比較例2を対比して分かるように、微粒子を除去し樹脂被覆した金属粒子を使用しても、微粒子の含有割合が少ない金属粒子(X−1〜6)を樹脂被覆した時と同様に密着性が高くなることが明らかとなった。」と記載されている。 この記載を見れば、前記の比較例5では微粒子の含有割合が多いために面積比率が35.1%となっていることがわかるが、微粒子が除去された実施例11でも面積比率が33.5%となっている。これでは、本件明細書【0051】の記載に従って、分級により直径2nm以下の粒子を取り除いたにもかかわらず、直径2μm以下の粒子の面積の面積比率が33.5%という高い値になっている(すなわち、直径2μm以下の粒子が相当数存在する)こととの整合性がとれない。 このように、本件明細書の実施例7においては微粒子が除去されていると言っても、どのような直径の微粒子をどの程度除去した結果、前記面積比率を34%以下にできるのか不明となっている。この点において、本件明細書で、前は記面積比率34%以下を確実に得るための操作条件の少なくとも一部が秘匿されていると言わざるを得ない。 結局のところ、本件明細書に接した当業者は、調製されたペーストごとに前記面積比率をいちいち測定し、前記面積比率が34%以下を満たすものだけを選別するという試行錯誤を繰り返し実施する、という負担が強いられることになる。 このように、本件明細書は、前記面積比率が34%以下を有する樹脂被覆金属顔料を確実に得るための方法が明確かつ十分に記載されているとは言えないから、実施可能要件を満たさないことは明らかである。 イ 「粒子の平均粒径(R)と平均厚み(t)の比R/tが5以上」について 本件発明の樹脂被覆金属顔料は「粒子の平均粒径(R)と平均厚み(t)の比R/tが5以上」であることを必須とするものであるが、前記R/tが5以上である樹脂被覆金属顔料を製造する方法について明確かつ十分に記載されていない。 本件明細書【0022】には「粒子の平均粒径(R)と平均厚み(t)の比R/tは、5以上であることが好ましく、5〜3000であってよく、15〜1500であってよく、30〜750であってよい。粒子の前記R/tが上記の範囲内であることで、粒子が適度な薄片の形状となるため、優れた光輝性が得られやすい。」と記載されているものの、具体的にどのような原料を用いてどのようにして共重合体で被覆すれば前記比R/tが5以上を有する樹脂被覆金属顔料が得られるのか不明である。例えば、本件発明1は前記比R/tが3000程度までの樹脂被 覆金属顔料を包含しているが、そのような樹脂被覆金属顔料をどのようにして得るのか本件明細書の開示内容から知ることができない。 しかも、そもそも本件明細書の製造例及び比較製造例で出発材料として使用されているアルミニウムペーストのアスペクト比等も不明である。つまり、原料アルミニウムペーストのアスペクト比は、得られる樹脂被覆金属顔料の前記比R/tの値に大きな影響を及ぼすパラメータであるところ、その原料アルミニウムペーストのアスペクト比が不明となっている。 ちなみに、本件明細書の製造例等で用いられているアルミニウムペースト製品に関する参考資料1〜3を入手して確認しようとしても、そこには平均粒径が示されているだけであり、アスペクト比等に関する情報は一切示されていない。 そうすると、本件明細書は、前記比 R/tが5以上である樹脂被覆金属顔料を確実に得るための製造方法が明確かつ十分に記載されているとは言えないから、実施可能要件を満たさないことは明らかである。 2 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由についての判断 (1)特許法第36条第6項第1号(サポート要件) 本件特許発明が解決しようとする課題は、本件特許明細書の段落【0012】に記載されているとおり、「樹脂被覆金属顔料を用いて塗膜を形成した際に、密着性が向上し所謂「凝集剥離」を起こしにくくなり基体との密着性が良好であるため、剥離性が少ない樹脂被覆金属顔料、および該樹脂被覆金属顔料を含む塗料、インク、成形品を提供する」であると認められる。 ア 「共重合」について 確かに、本件特許明細書の実施例でその効果が確認されている樹脂被覆金属顔料は、アクリル酸とトリメチロールプロパントリメタクリレートとの共重合体で被覆されたアルミニウム顔料のみであって、この共重合体以外の他の共重合体で所定の効果が確認されたデータは一切示されていないが、本件特許明細書の【0010】には特定サイズの粒子の数が少ないものほど密着性に優れることが記載され、【表1】及び【表2】からみて、本件特許発明1の要件である「共重合体で被覆された樹脂被覆金属顔料の平均粒子径が5〜15μmであり、粒子の平均粒径(R)と平均厚み(t)の比R/tが5以上であり、かつ、粒子の平均厚み(t)が0.01〜0.5μmであり、かつ、樹脂コート量(樹脂固形分/全固形分)が2.0%であり、かつ、当該樹脂被覆金属顔料分が0.8質量%になるようにアクリル樹脂、溶剤で調整した塗料を1ミルのアプリケーターで展色、乾燥した塗膜をマイクロスコープで撮影した画像あたり、全粒子面積に対する直径2μm以下の粒子の面積の面積比率が34%以下であるグラビアインキ用樹脂被覆金属顔料」という特定サイズの粒子の数が少ない、アクリル酸とトリメチロールプロパントリメタクリレートとの共重合体で被覆されたアルミニウム顔料が、上記課題を解決できることが理解でき、そのような要件を備え、特定サイズの粒子の数が少なければ、他の共重合体であっても、金属顔料の被覆にも用いられるものであれば、上記課題を解決できると推認でき、また、特許異議申立の理由は、本件特許発明1が上記課題を解決できないことについて、なんら具体的な立証や証拠を示していない。 したがって、本件特許発明1及びそれを引用する本件特許発明2、3は、その課題を解決できると当業者が認識できる範囲にあるといえ、特許法第36条第6項第1号に適合するものである。 イ 「粒子の平均粒径(R)と平均厚み(t)の比R/tが5以上」について 本件特許明細書【0022】には「粒子の平均粒径(R)と平均厚み(t)の比R/tは、5以上であることが好ましく」と記載されているし、また、例えば、甲1の【0038】【表1】に記載されているとおり、フレーク顔料のR/tが26.6(4/0.15:比較例2)〜35(7/0.2:実施例1〜4、比較例3〜5)程度であり、被覆後のR/tは6.7(5.5/0.82:実施例5)〜15.9(7/0.44:比較例3)と小さくなるが、フレーク顔料を被覆したものであれば、通常R/tは5未満とはならないといえるから、本件明細書の実施例において、被覆後の樹脂被覆金属顔料の前記比R/tの値が一切示されていないものの、その樹脂被覆金属顔料が本件特許発明1の要件「粒子の平均粒径(R)と平均厚み(t)の比R/tが5以上」を満たしているといえ、それらが上記課題を解決できることは理解でき、本件特許発明1は上記課題を解決できるといえる。 そして、本件特許発明1において、R/tの上限は特定されておらず、R/tが著しく大きいものが上記課題を解決できないかもしれないが、本件特許発明1はそのようなものまで含むことが想定されているとはいえず、本件特許発明1の要件「粒子の平均粒径(R)と平均厚み(t)の比R/tが5以上」を満たしていれば、上記課題を解決できるといえる。 したがって、本件特許発明1及びそれを引用する本件特許発明2、3は、その課題を解決できると当業者が認識できる範囲にあるといえ、特許法第36条第6項第1号に適合するものである。 (2)特許法第36条第6項第2号(明確性要件) 本件特許発明1の「共重合体」自体で2種以上モノマーの種類との組み合わせであるという定義は明確であるから、本件発明における「共重合体」の定義も明確である。 本件特許発明2、3も同様に明確である。 (3)特許法第36条第4項第1号(実施可能要件) ア 「面積比率」について 比較製造例2(比較例5)は、アルミニウムペーストとしてZQ−405を100.80g、ZQ−2085を11.20g使用したものであり、ZQ−405とZQ−2085の合計に対するZQ−405の比率が90(100.8/(100.8+11.2)%であり、 製造例4(実施例11)は、アルミニウムペーストとしてZQ−405を102.30g、ZQ−2085を7.70g使用したものであり、ZQ−405とZQ−2085の合計に対するZQ−405の比率が93(102.3/(102.3+7.7)%である。 そうすると、比較製造例2のアルミニウムペーストを用いた場合(比較例5)の直径2μm以下の粒子の面積比率が35.1%となっているのに対し、製造例4のアルミニウムペーストを用いた場合(実施例11)の前記面積比率が33.5%となっているのは、ZQ−405の比率が高いからであると理解できる。 また、前記面積比率が34%以下である製造例1〜3、6についてみると、製造例1及び製造例6は、アルミニウムペーストとしてZQ−405のみが使用されているから、ZQ−405とZQ−2085の合計に対するZQ−405の比率は100%であり、製造例2は、アルミニウムペーストとしてZQ−405を107.67g、ZQ−2085を3.33g使用したものであり、ZQ−405とZQ−2085の合計に対するZQ−405の比率が98(107.67/(107.67+3.33)%であり、製造例3は、アルミニウムペーストとしてZQ−405を100.70g、ZQ−2085を5.30g使用したものであり、ZQ−405とZQ−2085の合計に対するZQ−405の比率が95(100.70/(100.70+5.30)%であり、いずれも、ZQ−405の比率が比較製造例2のものより高いことから、ZQ−405とZQ−2085の合計に対するZQ−405の比率を高くすれば、前記面積比率を34%以下にできることが理解できる。 次に、本件明細書【0051】の記載に従って、分級により直径2nm以下の粒子を取り除いたものは、実施例11ではなく、実施例14であり、その直径2μm以下の粒子の面積比率が30.5%という低い値になっており、分級により直径2nm以下の粒子を取り除けることが理解できる。 そうすると、本件特許明細書は、前記面積比率が34%以下を有する樹脂被覆金属顔料を確実に得るための方法が明確かつ十分に記載されていると言えるから、実施可能要件を満たすことは明かであり、特許法第36条第4項第1号に適合するものである。 イ「粒子の平均粒径(R)と平均厚み(t)の比R/tが5以上」について 上記(1)イのとおり、例えば、甲1の【0038】【表1】に記載されているとおり、R/tが26.6〜35程度のアルミニウムペーストは、被覆後のR/tが6.7〜15.9程度であるから、甲1に記載のようなR/tが5より大きいアルミニウムペーストを入手すれば、R/tが5以上である樹脂被覆金属顔料が得られることは明らかであり、また、R/tがより大きいものが得られないともいえない。 また、アルミニウムペースト製品のカタログにR/tが明記されていないとしても、アルミニウムペーストを入手して、R/tを測定し、5より大きいものを選択することに困難性があるともいえない。 そうすると、本件特許明細書は、R/tが5以上である樹脂被覆金属顔料を確実に得るための方法が明確かつ十分に記載されていると言えるから、実施可能要件を満たすことは明らかであり、特許法第36条第4項第1号に適合するものである。 第7 むすび 以上のとおりであるから、令和3年10月13日付けの取消理由通知に記載した取消理由、令和4年3月9日付けの取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1〜3に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1〜3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 共重合体で被覆された樹脂被覆金属顔料の平均粒子径が5〜15μmであり、粒子の平均粒径(R)と平均厚み(t)の比R/tが5以上であり、かつ、粒子の平均厚み(t)が0.01〜0.5μmであり、かつ、樹脂コート量(樹脂固形分/全固形分)が2.0%であり、かつ、当該樹脂被覆金属顔料分が0.8質量%になるようにアクリル樹脂、溶剤で調整した塗料を1ミルのアプリケーターで展色、乾燥した塗膜をマイクロスコープで撮影した画像あたり、全粒子面積に対する直径2μm以下の粒子の面積の面積比率が34%以下であるグラビアインキ用樹脂被覆金属顔料。 【請求項2】 請求項1記載と同様に作成した塗膜をマイクロスコープで撮影した画像あたり、全粒子面積に対する直径2μm以下の粒子が33%以下である請求項1記載の樹脂被覆金属顔料。 【請求項3】 請求項1または請求項2記載の樹脂被覆金属顔料を含むインキ。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2022-08-18 |
出願番号 | P2019-520660 |
審決分類 |
P
1
651・
536-
YAA
(C09C)
P 1 651・ 113- YAA (C09C) P 1 651・ 121- YAA (C09C) P 1 651・ 537- YAA (C09C) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
亀ヶ谷 明久 |
特許庁審判官 |
瀬下 浩一 門前 浩一 |
登録日 | 2020-12-14 |
登録番号 | 6809605 |
権利者 | DIC株式会社 |
発明の名称 | 樹脂被覆金属顔料 |
代理人 | 岩本 明洋 |
代理人 | 齋藤 嘉久 |
代理人 | 小川 眞治 |
代理人 | 小川 眞治 |
代理人 | 齋藤 嘉久 |
代理人 | 岩本 明洋 |
代理人 | 大野 孝幸 |
代理人 | 大野 孝幸 |