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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 A61K 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 A61K 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 A61K 審判 全部申し立て 2項進歩性 A61K |
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管理番号 | 1390556 |
総通号数 | 11 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2022-11-25 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2021-08-20 |
確定日 | 2022-08-15 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | true |
事件の表示 | 特許第6832287号発明「2層の接着層を含むオーバーテープを用いる経皮治療システム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6832287号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜14〕について訂正することを認める。 特許第6832287号の請求項1〜14に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件特許(特許第6832287号)に係る特許出願(特願2017−547957号)は、2016年3月14日(パリ条約に基づく優先権主張 2015年3月13日 EP(欧州特許庁))を国際出願日とするものであり、令和3年2月3日に設定の登録(請求項の数14)がなされ、同年2月24日に特許掲載公報が発行された。 その後、令和3年8月20日に、請求項1〜14に係る発明の特許に対し、特許異議申立人 エルテーエス ローマン テラピー−ジステーメ アーゲー(以下「申立人」という。)により、特許異議の申立てがなされた。 以後の主な経緯は以下のとおりである。 ・令和3年12月 2日付け:取消理由通知書 ・令和4年 3月 8日 :訂正請求書及び意見書の提出(特許権者) ・ 同年 5月23日 :意見書の提出(申立人) 第2 訂正の適否についての判断 1 訂正の内容 令和4年3月8日になされた訂正請求(以下「本件訂正請求」という。)による訂正の内容は、以下のとおりである。 (1)訂正事項1 請求項1における「前記第1の感圧接着性ポリマーが、架橋ポリアクリレート、ポリイソブチレン、スチレン−ブタジエン−スチレンブロックコポリマーまたはスチレン−ブタジエンコポリマーであり、前記第2の感圧接着性ポリマーが、シリコーンポリマーまたは非架橋ポリアクリレートであり」という記載を、「前記第1の感圧接着性ポリマーが、架橋ポリアクリレートであり、前記第2の感圧接着性ポリマーが、非架橋ポリアクリレートであり」という記載に訂正する。 (2)訂正事項2 請求項2における「前記第2の感圧接着性ポリマーが、非架橋ポリアクリレート、好ましくは、カルボキシル基を有する非架橋ポリアクリレートである」という記載を、「前記第2の感圧接着性ポリマーが、カルボキシル基を有する非架橋ポリアクリレートである」に訂正する。 (3)訂正事項3 請求項9における「前記第1の感圧接着性ポリマーが、架橋ポリアクリレート、好ましくは、カルボキシル基を含む架橋ポリアクリレートである」という記載を、「前記第1の感圧接着性ポリマーが、カルボキシル基を含む架橋ポリアクリレートである」に訂正する。 なお、訂正前の請求項2〜14は、訂正前の請求項1を直接的又は間接的に引用するものであるから、訂正前の請求項1〜14に対応する訂正後の請求項1〜14は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。 2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1について 訂正事項1は、請求項1の「前記第1の感圧接着性ポリマー」を、「架橋ポリアクリレート、ポリイソブチレン、スチレン−ブタジエン−スチレンブロックコポリマーまたはスチレン−ブタジエンコポリマー」から「架橋ポリアクリレート」に限定するとともに、請求項1の「前記第2の感圧接着性ポリマー」を、「シリコーンポリマーまたは非架橋ポリアクリレート」から「非架橋ポリアクリレート」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件明細書等」という。)に記載した事項の範囲内のものである。 (2)訂正事項2について 訂正事項2は、請求項2における「前記第2の感圧接着性ポリマー」を「非架橋ポリアクリレート、好ましくは、カルボキシル基を有する非架橋ポリアクリレート」から「非架橋ポリアクリレート」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、本件明細書等に記載した事項の範囲内のものである。 (3)訂正事項3について 訂正事項3は、請求項9における「前記第1の感圧接着性ポリマー」を、「架橋ポリアクリレート、好ましくは、カルボキシル基を含む架橋ポリアクリレート」から「カルボキシル基を含む架橋ポリアクリレート」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、本件明細書等に記載した事項の範囲内のものである。 (4)独立特許要件について 請求項1〜14は、特許異議申立ての対象とされた請求項であるから、本件訂正請求による訂正事項1〜3に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項に規定する独立特許要件は適用されない。 (5)小括 以上のとおり、本件訂正請求は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同様第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。 よって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜14〕について訂正することを認める。 第3 本件発明 上記第2のとおり、本件訂正請求は認められるので、訂正後の請求項1〜14に係る発明は、訂正特許請求の範囲の請求項1〜14に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 a)剥離ライナー(1)、 b) b1)活性成分を含有するポリマーマトリックス層(2)と、 b2)分離層(3)と を含むコア、および c) c1)感圧接着層(4)と、 c2)バッキング層(5)と を含むオーバーテープ を含む経皮治療システムであって、 前記オーバーテープc)および前記剥離ライナー(1)が、前記コアの全ての側面において、前記コアを越えて延在し、 前記感圧接着層が、前記バッキング層(5)と接触し、かつ第1の感圧接着性ポリマーを含む第1の層(41)と、前記剥離ライナー(1)と接触し、かつ第2の感圧接着性ポリマーを含む第2の層(42)とを含み、前記第1の感圧接着性ポリマーが、架橋ポリアクリレートであり、前記第2の感圧接着性ポリマーが、非架橋ポリアクリレートであり、かつ前記第1の感圧接着性ポリマーと前記第2の感圧接着性ポリマーの接着性を比較すると、その接着性を決定するに際して同一方法を用いた場合、前記第1の感圧接着性ポリマーが、前記第2の感圧接着性ポリマーより低い接着性を有することを特徴とする、経皮治療システム。 【請求項2】 前記第2の感圧接着性ポリマーが、カルボキシル基を有する非架橋ポリアクリレートである、請求項1に記載の経皮治療システム。 【請求項3】 前記感圧接着層(4)および前記バッキング層(5)が、少なくとも4mm、好ましくは、4〜30mm、そして最も好ましくは、6〜15mm、前記コアを越えて延在する、請求項1または2に記載の経皮治療システム。 【請求項4】 前記活性成分が、オピオイドまたはその薬学的に許容される塩である、請求項1〜3のいずれかに記載の経皮治療システム。 【請求項5】 前記活性成分がブプレノルフィンである、請求項4に記載の経皮治療システム。 【請求項6】 前記バッキング層が、一方向性または多方向性弾性、好ましくは、二方向性弾性である、請求項1〜5のいずれかに記載の経皮治療システム。 【請求項7】 前記バッキング層が、ポリエステルポリマー、好ましくは、ポリエチレンテレフタレートまたはポリブチレンテレフタレートをベースとする、請求項1〜6のいずれかに記載の経皮治療システム。 【請求項8】 前記第1の接着剤層(41)の面積重量が、5〜40g/m2の範囲であり、かつ前記第2の接着剤層(42)の面積重量が、20〜90g/m2、好ましくは、40〜90g/m2の範囲である、請求項1〜7のいずれかに記載の経皮治療システム。 【請求項9】 前記第1の感圧接着性ポリマーが、カルボキシル基を含む架橋ポリアクリレートである、請求項1〜8に記載の経皮治療システム。 【請求項10】 前記分離層(3)が、前記活性物質に対して不浸透性であり、かつ好ましくは、非弾性であるポリエステルフィルムである、請求項1〜9のいずれかに記載の経皮治療システム。 【請求項11】 前記ポリマーマトリックス層(2)が、 −8〜12重量%のブプレノルフィンベースと、 −8〜12重量%のポリビニルピロリドンと、 −14〜16重量%のオレイルオレエートと、 −3〜8重量%のレブリン酸と、 −55〜65重量%の、架橋された、ポリアクリレートと を含有する、請求項1〜10のいずれかに記載の経皮治療システム。 【請求項12】 前記ポリマーマトリックス層(2)が、 −10重量%のブプレノルフィンベースと、 −10重量%のポリビニルピロリドンと、 −15重量%のオレイルオレエートと、 −6重量%のレブリン酸と、 −59重量%の、架橋された、ポリアクリレートと を含有する、請求項11に記載の経皮治療システム。 【請求項13】 前記活性成分が、少なくとも3日、好ましくは7日の投薬間隔で、ヒト患者における痛みの処置に使用するためのブプレノルフィンである、請求項1〜12のいずれかに記載の経皮治療システム。 【請求項14】 a)請求項1で定義される、バッキング層(5)と、第1の接着剤層(41)および第2の接着剤層(42)を含む感圧接着層(4)と、中間剥離ライナーとの積層体からなるオーバーテープを供給するステップ;ならびに b)活性成分を含有するポリマーマトリックス層(2)と分離層(3)との積層体を含む個々のコアを剥離ライナー(1)上に、前記コアの間に隙間を有するように相互に配置し、前記ステップa)からの生成物から前記中間剥離ライナーを除去し、前記コアが前記剥離ライナー(1)上に配置されるように、前記オーバーテープで前記剥離ライナー(1)を被覆し、前記層が、(1)、(2)、(3)、(4)、(5)という順番になるステップであって;この時、前記オーバーテープおよび前記剥離ライナー(1)は、その全ての側面において前記コアを越えて突出しており、その後、前記コアの外部寸法を取り囲む線をパンチングするなどの様式でパンチングすることによって、前記オーバーテープが切断されるステップ、 c)結果として生じる前記オーバーテープの格子状廃物を除去するステップ、ならびに d)次いで、前記コアの間の結果として生じる空間において、前記剥離ライナー(1)を切断するステップ を含む、請求項1〜13のいずれかに記載の経皮治療システムの製造方法。」 以下、本件特許の請求項1〜14に係る発明を、請求項の番号順にそれぞれ本件発明1〜14といい、これらをまとめて「本件発明」ともいう。 また、下線は当審が付したものである。 第4 取消理由の概要 1 申立人が提出した甲号証及び職権探知により追加した文献は以下のとおりである。 [申立人が提出した甲号証] ・甲第1号証:米国特許出願公開第2010/0178323号明細書及び抄訳文 ・甲第2号証:特表平10−511353号公報 ・甲第3号証:特開昭62−195326号公報 ・甲第4号証:特表2003−507417号公報 ・甲第5号証:特表2001−512465号公報 ・甲第6号証:特表平10−512551号公報 ・甲第7号証:特表2015−500329号公報 ・甲第8号証:Journal of Biomedical Materials Research Part B:Applied Biomaterials,2009,Vol.88B,p.61-65,及び抄訳文 ・甲第9号証:Skin Research and Technology,2007,Vol.13,p.211-216,及び抄訳文 ・甲第10号証:「Designation:D 3330/D 3330M-04“Standerd Test Method for Peel Adhesion of Pressure-Sensitive Tape”」,2004,ASTM International,p.1-6,及び抄訳文 以下、申立人が提出した甲第1号証〜甲第10号証を、号証の番号順に、それぞれ甲1〜甲10のように記載する。 [職権探知により追加した文献A] ・文献A:「経皮治療システムに使われる高分子材料」,膜(MEMBRANE),1994,Vol.19,No.2,p.75-80 上記文献Aは、本件優先日当時の技術常識(以下「技術常識」という。)を示す文献である。 2 訂正前の請求項1〜14に係る特許に対して、当審から令和3年12月2日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。 [取消理由1](進歩性欠如) 本件特許の下記の請求項に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるので、下記の請求項に係る本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 記 1 請求項1〜14に係る発明は、甲1に記載された発明(甲1発明)、甲1、甲2、甲4〜甲7に記載された事項、及び技術常識から、当業者が容易に発明をすることができたものである。 2 請求項1〜14に係る発明は、甲2に記載された発明(甲2−1発明)、及び甲2、甲1、甲4〜甲7に記載された事項から、当業者が容易に発明をすることができたものである。 3 請求項1〜14に係る発明は、甲2に記載された発明(甲2−2発明)、及び甲2、甲1、甲4〜甲7に記載された事項から、当業者が容易に発明をすることができたものである。 4 請求項1〜14に係る発明は、甲3に記載された発明、甲1〜甲7に記載された事項から、当業者が容易に発明をすることができたものである。 [取消理由2](サポート要件違反) 本件特許は、特許請求の範囲の記載が、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 記 本件明細書の実施例1及び実施例2の記載を参酌し、技術常識に照らしても、本件明細書の発明の詳細な説明の記載から、請求項1〜14に係る発明の課題が解決できることを、当業者が認識できるとはいえないので、本件発明は、上記発明の詳細な説明に記載したものでない。 [取消理由3](実施可能要件違反) 本件特許は、発明の詳細な説明の記載が、下記の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 記 本件明細書の上記実施例1及び2の記載を参酌し、さらに技術常識を参酌しても、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1〜14に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。 第5 取消理由1の1:本件発明1〜14に対する甲1発明に基づく進歩性欠如 1 本件発明1について (1)本件発明1の経皮治療システムの特徴及び層構成 本件発明1は、2層の接着層を含むオーバーテープを含む経皮治療システム(TTS)であり、本件発明1の層構成によって、特にTTSの接着性が貯蔵の間に悪化しないようにすることを特徴とするものであり(本件明細書の【0001】及び【0015】等)、本件明細書には、本件発明1のTTSの層構成を示す下記【図1】が記載されている。 「【図1】 」 そして、上記【図1】における各層は以下のとおりである。 5:バッキング層 4:感圧接着層 41:第1の感圧接着性ポリマーを含む第1の層(架橋ポリアクリレート) 42:第2の感圧接着性ポリマーを含む第2の層(非架橋ポリアクリレート) 前記第1の感圧接着性ポリマーと前記第2の感圧接着性ポリマーの接着性を比較すると、その接着性を決定するに際して同一方法を用いた場合、前記第1の感圧接着性ポリマーが、前記第2の感圧接着性ポリマーより低い接着性を有する。 3:分離層 2:活性成分を含有するポリマーマトリックス層 1:剥離ライナー (2)甲1発明 甲1には、下記図1で示される経皮薬物送達パッチが記載されている。 「図1 」 上記図1において、層1はオーバーレイ被覆、層2は感圧接着層の中間層(以下「中間PSA層」という。)、層3は感圧接着層(以下「PSA層」という。)、層4は離型ライナー、層5は内部バッキング層、そして層6はAI層であり([0032]〜[0034])、層6のAI層は、活性成分(AI)及びポリマーマトリックスを含む層である([0009]、[0022]、[0061])。 そして、層1〜層3の重層はオーバーレイを形成し([0034])、当該オーバーレイは全ての方向に層6(AI層)の周縁を超えて延びているのであるから([0021])、当該オーバーレイ及び層4(離型ライナー)は、層6(AI層)及び層5(内部バッキング層)の全ての側面を越えて延在している。 以上の記載から、甲1には以下の発明が記載されていると認められる。 「層4(離型ライナー)、層6(AI層)、層5(内部バッキング層)、 層1(オーバーレイ被覆)、層2(中間PSA層)及び層3(PSA層)、 を含む経皮吸収型薬物送達パッチであって、 前記層1(オーバーレイ被覆)、層2(中間PSA層)及び層3(PSA層)を含むオーバーレイ及び層4(離型ライナー)が、前記層6(AI層)及び層5(内部バッキング層)の全ての側面を越えて延在している、 前記経皮吸収型薬物送達パッチ。」の発明(以下「甲1発明」という。)。 なお、甲1に記載の「PSA」が「感圧接着」を意味することは、技術常識である(文献Aにおける「5.粘着剤」の項目)。 (3)本件発明1と甲1発明との対比 甲1発明の「経皮吸収型薬物送達パッチ」は本件発明1の「経皮治療システム」に相当する。 そして、本件発明1を構成する各層(上記(1)の【図1】)と甲1発明を構成する各層との対応関係は以下のとおりである。 そうすると、本件発明1と甲1発明とは、 「a)剥離ライナー(1)、 b) b1)活性成分を含有するポリマーマトリックス層(2)と、 b2)分離層(3)と を含むコア、及び c) c1)感圧接着層(4)と、 c2)バッキング層(5)と を含むオーバーテープ を含む経皮治療システムであって、 前記オーバーテープc)及び前記剥離ライナー(1)が、前記コアの全ての側面において、前記コアを越えて延在し、 前記感圧接着層が、前記バッキング層(5)と接触し、かつ第1の感圧接着性ポリマーを含む第1の層(41)と、前記剥離ライナー(1)と接触し、かつ第2の感圧接着性ポリマーを含む第2の層(42)とを含む、 前記経皮治療システム。」の発明である点で一致し、以下の点で相違する。 (相違点1) 本件発明1では、「前記第1の感圧接着性ポリマーが、架橋ポリアクリレートであり、前記第2の感圧接着性ポリマーが、非架橋ポリアクリレートであり、かつ前記第1の感圧接着性ポリマーと前記第2の感圧接着性ポリマーの接着性を比較すると、その接着性を決定するに際して同一方法を用いた場合、前記第1の感圧接着性ポリマーが、前記第2の感圧接着性ポリマーより低い接着性を有すること」が特定されているのに対し、甲1発明では、このような特定がされていない点。 (4)相違点1についての判断 ア 本件発明1の「第1の感圧接着性ポリマー」を含む「第1の層(41)」は「バッキング層(5)」に接する層であり、経皮治療システム(以下「TTS」という。)を皮膚に適用する際に皮膚に接触しない側の感圧接着層である。 また、本件発明1の「第2の感圧接着性ポリマー」を含む「第2の層(42)」は、「剥離ライナー(1)」に接する層であり、TTSを皮膚に適用する際には、上記「剥離ライナー(1)」を剥離除去してから皮膚に貼付するので、皮膚に接触する側の感圧接着層である。 そして、上記(1)で説示したように、本件発明1は、前記第1の感圧接着性ポリマー(皮膚に接触しない側の感圧接着層のポリマー)が架橋ポリアクリレートであり、前記第2の感圧接着性ポリマー(皮膚に接触する側の感圧接着層のポリマー)が非架橋ポリアクリレートであり、かつ前記第1の感圧接着性ポリマーと前記第2の感圧接着性ポリマーの接着性を比較すると、その接着性を決定するに際して同一方法を用いた場合、前記第1の感圧接着性ポリマー(皮膚に接触しない側の感圧接着層のポリマー)が、前記第2の感圧接着性ポリマー(皮膚に接触する側の感圧接着層のポリマー)より低い接着性を有するものとすることによって、特にTTSの接着性が貯蔵の間に悪化しないようにすることを特徴とするものである。 イ 他方、甲1には、甲1発明の「層1(オーバーレイ被覆)、層2(中間PSA層)及び層3(PSA層)を含むオーバーレイ」に用いる感圧接着性ポリマーとして、ポリアクリレート([0068])、ポリイソブテン(PIB、[0077])、シリコン系ポリマー、スチレン/ブタジエン/スチレンの共重合体及び三元共重合体等のゴム系ポリマー([0079])が記載されている。 そして、甲1の[0088]には、ポリイソブテン(PIB)の流動(いわゆる低温流、以下「コールドフロー」という。)による不具合発生を防止するために、ポリアクリレートを用いた層2(中間PSA層)を設けて上記流動を防止することが記載されており、さらに甲1の[0090]には、中間PSA層(層2)に用いるポリマーの例として、高分子量架橋ポリマーが記載されている。 このように、甲1には、ポリイソブテン(PIB)のコールドフローによる不具合発生を防止するために、「層2(中間PSA層)」(本件発明1の「第1の層(41)」に相当する層)にポリアクリレートや高分子量架橋ポリマーを用いることが記載されているといえる。 しかし、甲1には、TTSの接着性が貯蔵の間に悪化しないようにするために、「層2(中間PSA層)」(本件発明1の「第1の層(41)」に相当する層)であり、皮膚に接触しない側の感圧接着層)に「架橋ポリアクリレート」を用いるとともに、「層3(PSA層)」(本件発明1の「第2の層(42)」に相当する層であり、皮膚に接触する側の感圧接着層)に「非架橋ポリアクリレート」を用いることは記載されていない。 ウ ここで、甲4(【0006】及び【0013】〜【0016】等)、及び甲5(4頁1〜23行、5頁1〜10行、6頁9〜13行及び7頁26〜28行等)には、TTSの長期保存時に生じる粘着層の低温流(コールドフロー)による不具合を防止するために、皮膚に接触する側の粘着層に架橋度が低く粘着性が高いポリアクリレートを用い、皮膚に接触しない側の粘着層に架橋度が高く粘着性が低いポリアクリレートを用いることが記載されている。 そして、例えば文献Aの「5.粘着剤」の項目に「粘着は濡れをともなう接着として定義できる.経皮治療システムに使われる感圧接着(PSA)では,皮膚に押しつけるとはじめに接着剤の液状流動をともなう.圧力を取り除くとその状態で皮膚に接着する.」と記載されているように、TTSに用いられる「粘着性が高い」又は「粘着性が低い」ポリマーが、それぞれ「感圧接着性が高い」又は「感圧接着性が低い」ポリマーに相当することは、技術常識である。 このように、甲4及び甲5の記載を参酌すると、TTSにおいて、長期保存時に生じる感圧接着層のコールドフローによる不具合の発生を防止するために、感圧接着層を2層にして、皮膚に接触する側の感圧接着層に架橋度が低いポリアクリレート等の感圧接着性が高いポリマーを用い、皮膚に接触しない側の感圧接着層に架橋度が高いポリアクリレート等の感圧接着性が低いポリマーを用いることは、本件優先日当時の周知技術(以下「周知技術」という。)であるといえる。 しかし、TTSの長期保存時に生じる感圧接着層のコールドフローによる不具合の発生を防止することにより、TTSの接着性が貯蔵の間に悪化することを防止できるか否かは不明である。 そして、甲4及び甲5のいずれにも、上記「架橋度が低いポリアクリレート等の感圧接着性が高いポリマー」として「非架橋ポリアクリレート」を用いることは記載されていない。 そうすると、甲4及び甲5の記載を参酌しても、TTSの接着性が貯蔵の間に悪化しないようにするために、皮膚に接触しない側の感圧接着層(本件発明1の「第1の層(41)」に相当する層)に架橋ポリアクリレートを用いるとともに、皮膚に接触する側の感圧接着層(本件発明1の「第2の層(42)」に相当する層)に非架橋ポリアクリレートを用いることが、公知技術又は周知技術であるとはいえない。 エ 上記ア〜ウから、甲4及び甲5に記載された事項、並びに技術常識を参酌しても、甲1発明の経皮吸収型薬物送達パッチ(TTS)において、TTSの接着性が貯蔵の間に悪化しないようにするために、「層2(中間PSA層)」(本件発明1の「第1の層(41)」に相当する層であり皮膚に接触しない側の感圧接着層)に「架橋ポリアクリレート」を用いるとともに、「層3(PSA層)」(本件発明1の「第2の層(42)」に相当する層であり、皮膚に接触する側の感圧接着層)に「非架橋ポリアクリレート」を用いて、甲1発明を相違点1に係る本件発明1の構成を備えたものとすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。 オ 小括 したがって、当業者は、甲1発明、及び甲1、甲4、甲5に記載された事項、並びに技術常識から本件発明1の構成を得ることを、容易に想到し得たとはいえない。 2 本件発明2〜14について (1)本件発明2について 請求項1に記載のTTSを直接的に引用する本件発明2は、本件発明1の「第2の層(42)」)に用いる「非架橋ポリアクリレート」を「カルボキシル基を有する非架橋ポリアクリレート」に限定するものである。 ここで、例えば文献Aの「5.1 アクリル系PSA」の項目に記載されているように、TTSにおける感圧接着層にカルボキシル基を含むポリアクリレートを用いること自体は周知技術である。 しかし、上記1(3)で説示したように、甲1発明の経皮吸収型薬物送達パッチ(TTS)において、TTSの接着性が貯蔵の間に悪化しないようにするために、「層2(中間PSA層)」(本件発明1の「第1の層(41)」に相当する層であり皮膚に接触しない側の感圧接着層)に「架橋ポリアクリレート」を用いるとともに、「層3(PSA層)」(本件発明1の「第2の層(42)」に相当する層であり、皮膚に接触する側の感圧接着層)に「非架橋ポリアクリレート」を用いることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。 したがって、甲1発明、及び甲1、甲4、甲5に記載された事項、並びに技術常識から、甲1発明を本件発明2の構成を備えたものにすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。 (2)本件発明9について 請求項1に記載のTTSを直接的又は間接的に引用する本件発明9は、本件発明1の「第1の層(41)」)に用いる「架橋ポリアクリレート」を「カルボキシル基を有する架橋ポリアクリレート」に限定するものである。 そして、例えば文献Aの「5.1 アクリル系PSA」の項目に記載されているように、TTSにおける感圧接着層にカルボキシル基を含むポリアクリレートを用いること自体は技術常識であることを考慮しても、上記1(3)及び上記(1)と同様の理由により、甲1発明、及び甲1、甲4、甲5に記載された事項、並びに技術常識から、甲1発明を本件発明9の構成を備えたものにすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。 (3)本件発明3〜8、11〜14について 請求項1又は請求項9に記載のTTSを直接的又は間接的に引用する本件発明3〜8、11〜14の各発明と甲1発明とは、少なくとも相違点1の点で相違している。 そうすると、さらに甲2、甲6及び甲7に記載された事項を参酌しても、上記1(3)と同様の理由により、甲1発明、及び甲1、甲2、甲4〜甲7に記載された事項、並びに技術常識から、甲1発明を本件発明3〜8、11〜14の構成を備えたものとすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。 (4)小括 したがって、当業者は、甲1発明、及び甲1、甲2、甲4〜甲7に記載された事項、並びに技術常識から、本件発明2〜14の構成を得ることを、容易に想到し得たとはいえない。 3 本件発明の効果について ア 本件明細書の実施例1では、剥離ライナー上に「DuroTaK(登録商標)87−2051」と称される感圧接着性ポリマーを積層した参照オーバーテープ1(【0080】、【0087】)が調製されている。 また、上記実施例1では、剥離ライナー上に「DuroTaK(登録商標)87−2051」(第2の感圧接着層)を積層し、その上に「DuroTaK(登録商標)87−2054」(第1の感圧接着層)を積層したオーバーテープ2(【0081】)が調製されている。 イ ここで、本件明細書の【0050】、【0051】及び【表2】の記載を参酌すると、「DuroTaK(登録商標)87−2054」はカルボン酸基を有する架橋ポリアクリレートであり、「DuroTaK(登録商標)87−2051」はカルボン酸基を有する非架橋ポリアクリレートである。 また、特許権者が令和4年3月8日提出の意見書に添付して提出した乙第1号証(Henkel社,「DURO-TAK and GELVA Transdermal Pressure Sensitive Adhesives PRODUCT SELECTION GUIDE」,2013年9月改訂)には、「DuroTaK(登録商標)87−2054」(第1の感圧接着層:架橋ポリアクリレート)は「DuroTaK(登録商標)87−2051」(第2の感圧接着層:非架橋ポリアクリレート)よりも剥離接着性(Peel Adhesion)が低いことが記載されている。 そうすると、実施例1で調製されたオーバーテープ2は、本件発明の第1の層(41)及び第2の層(42)を有する積層体であるといえる。 ウ そして、本件明細書の下記【表1】(【0087】)には、「DuroTaK(登録商標)87−2054」(第1の層(41):架橋ポリアクリレート)及び「DuroTaK(登録商標)87−2051」(第2の層(42):非架橋ポリアクリレート)を有する実施例1のオーバーテープ2は、「DuroTaK(登録商標)87−2051」(第2の層(42):非架橋ポリアクリレート)のみを有する実施例1の参照オーバーテープ1よりも、2週間経過後の接着強度の減少が抑制されたこと、すなわち接着強度が長時間維持されたという効果が奏されたことが示されている。 「【表1】 」 エ さらに、本件明細書の実施例2(【0088】〜【0092】)では、「DuroTaK(登録商標)87−2054」(第1の層(41):架橋ポリアクリレート)及び「DuroTaK(登録商標)87−2051」(第2の層(42):非架橋ポリアクリレート)を積層した、本件発明のTTS(【表2】)が調製されたこと、及び当該TTSでは、最初(貯蔵前)と貯蔵後の接着強度がいずれも3.0N/25mmであったこと、すなわち良好な接着特性が長時間維持されたという効果が奏されたことが記載されている。 オ 上記ア〜エから、本件発明により、TTSの接着性が長時間維持され、貯蔵の間に悪化することが防止されたことを、当業者は理解できるといえる。 そして、このような本件発明の効果を、甲1発明、及び甲1、甲2、甲4〜甲7に記載された事項、並びに技術常識から、当業者が予測し得たとはいえない。 4 申立人の主張について 申立人は、令和4年5月23日提出の意見書において、甲1には「本発明者らは、長期装着パッチ(例えば、3日以上)で問題となり得る皮膚刺激が、注意深いパッチ設計及び製剤化によって最小化され、接着が強化され得ることを見出した。」([0011])という記載及び皮膚刺激を低減するための手段についての記載([0015])があり、甲1の表2では1か月経過後の接着性を検討しているので、特許権者が主張する「TTSの接着力が低下するという問題」を解決するための手段を検討する際に、甲1を検討から外す理由はない、という趣旨の主張をしている(上記意見書のp.3〜4)。 そこで、上記主張について検討する。 甲1に記載されるようなTTSの「長期装着」時の皮膚刺激を低減するための手段を用いた場合に、TTSの接着性が貯蔵の間に悪化することが防止されるか否かは不明であるし、上記1(3)イで説示したように、甲1には、TTSの接着性が貯蔵の間に悪化しないようにするために、「層2(中間PSA層)」(本件発明1の「第1の層(41)」に相当する層であり皮膚に接触しない側の感圧接着層)に「架橋ポリアクリレート」を用いるとともに、「層3(PSA層)」(本件発明1の「第2の層(42)」に相当する層であり皮膚に接触する側の感圧接着層)に「非架橋ポリアクリレート」を用いることは記載されていない。 したがって、申立人の上記主張は採用できない。 5 まとめ 以上のとおりであるから、本件発明1〜14は、甲1発明、及び甲1、甲2、甲4〜甲7に記載された事項、並びに技術常識から、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 第6 取消理由1の2:本件発明1〜14に対する甲2−1発明に基づく進歩性欠如 1 本件発明1について (1)甲2−1発明 甲2には、下記図4で示されるデバイス40が記載されている。 「図4 」 上記図4において、層56は剥離ライナー、層44は第1の接着剤層、層54は第2の接着剤層、層52は剥離性シールディスク、層50は薬剤透過性の膜層、層48は薬剤貯蔵部、層46は裏打ち層、層42はオーバーレイ層である(9頁3段落)。 そして、層44(第1の接着剤層)、層54(第2の接着剤層)、層42(オーバーレイ層)及び層56(剥離ライナー)は、層46(裏打ち層)、層48(薬剤貯蔵部) 、層50(薬剤透過性の膜層)及び層52(剥離性シールディスク)、の周辺部全体を越えて周りに広がっているのであるから(9頁3段落)、前者(層44、層54、層42及び層56)は、後者(層46、層48、層50及び層52)の全ての側面を越えて延在しているといえる。 以上の記載から、甲2には以下の発明が記載されていると認められる。 「層56(剥離ライナー)、 層46(裏打ち層)、層48(薬剤貯蔵部) 、層50(薬剤透過性の膜層)、層52(剥離性シールディスク)、 層44(第1の接着剤層)、層54(第2の接着剤層)及び層42(オーバーレイ層) を含むデバイスであって、 前記層44(第1の接着剤層)、層54(第2の接着剤層)、層42(オーバーレイ層)及び層56(剥離ライナー)は、 前記層46(裏打ち層)、層48(薬剤貯蔵部) 、層50(薬剤透過性の膜層)及び層52(剥離性シールディスク)の全ての側面を越えて延在している、 前記デバイス。」の発明(以下「甲2−1発明」という。) (2)本件発明1と甲2−1発明との対比 甲2−1発明の「デバイス」は本件発明1の「経皮治療システム」に相当する。 そして、本件発明1における各層と甲2−1発明における各層との対応関係は以下のとおりである。 そうすると、本件発明1と甲2−1発明とは、 「a)剥離ライナー(1)、 b) b1)活性成分を含有するポリマーマトリックス層(2)と、 b2)分離層(3)と を含むコア、及び c) c1)感圧接着層(4)と、 c2)バッキング層(5)と を含むオーバーテープ を含む経皮治療システムであって、 前記オーバーテープc)及び前記剥離ライナー(1)が、前記コアの全ての側面において、前記コアを越えて延在し、 前記感圧接着層が、前記バッキング層(5)と接触し、かつ第1の感圧接着性ポリマーを含む第1の層(41)と、前記剥離ライナー(1)と接触し、かつ第2の感圧接着性ポリマーを含む第2の層(42)とを含む、 前記経皮治療システム。」の発明である点で一致し、以下の点で相違する。 (相違点2−1) 本件発明1では、「前記第1の感圧接着性ポリマーが、架橋ポリアクリレートであり、前記第2の感圧接着性ポリマーが非架橋ポリアクリレートであり、かつ前記第1の感圧接着性ポリマーと前記第2の感圧接着性ポリマーの接着性を比較すると、その接着性を決定するに際して同一方法を用いた場合、前記第1の感圧接着性ポリマーが、前記第2の感圧接着性ポリマーより低い接着性を有すること」が特定されているのに対し、甲2−1発明では、このような特定がされていない点。 なお、相違点2−1は、上記第5の1(3)で説示した相違点1と同一内容である。 (3)相違点2−1についての判断 甲2には、甲2−1発明の「層44(第1の接着剤層)」及び「層54(第2の接着剤層)」に用いる感圧性接着剤として、アクリレート等のポリマーが記載されている(12頁3段落)。 また、甲1には、上記第5の1(4)イで説示したように、ポリアクリレート等の感圧性接着ポリマーが記載されている。 しかし、TTSの接着性が貯蔵の間に悪化しないようにするために、皮膚に接触しない側の感圧接着層(本件発明1の「第1の層(41)」)に「架橋ポリアクリレート」を用いるとともに、皮膚に接触する側の感圧接着層(本件発明1の「第2の層(42)」)に「非架橋ポリアクリレート」を用いることは、甲2及び甲1のいずれにも記載されていない。 そして、甲4及び甲5の記載を参酌しても、上記のような2つの感圧接着層を設けることが公知技術又は周知技術ではないことは、上記第5の1(3)ウで説示したとおりである。 (4)したがって、当業者は、甲2−1発明、及び甲2、甲1、甲4、甲5に記載された事項、並びに技術常識から、甲2−1発明を相違点2−1に係る本件発明1の構成を備えたものとすることを、容易に想到し得たとはいえない。 2 本件発明2〜14について 上記第5の2と同様の理由により、当業者は、甲2−1発明、及び甲2、甲1、甲4〜甲7に記載された事項、並びに技術常識から、甲2−1発明を本件発明2〜14の構成を備えたものとすることを、容易に想到し得たとはいえない。 3 本件発明の効果について 上記第5の3と同様の理由により、本件発明の効果を、甲2−1発明、及び甲2、甲1、甲4〜甲7に記載された事項、並びに技術常識から、当業者が予測し得たとはいえない。 4 まとめ 以上のとおりであるから、本件発明1〜14は、甲2−1発明、及び甲2、甲1、甲4〜甲7に記載された事項、並びに技術常識から、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 第7 取消理由1の3:本件発明1〜14に対する甲2−2発明に基づく進歩性欠如 1 本件発明1について (1)甲2−2発明 甲2には、下記図1で示されるデバイス10が記載されている。 「図1 」 上記図1において、層24は剥離ライナー、層26は接着剤層、層20は剥離性シールディスク、層16は薬剤透過性の膜層、層12は薬剤貯蔵部、層14は裏打ち層、層30はオーバーレイ層である(8頁最終段落〜9頁1段落)。 そして、層26(接着剤層)、層30(オーバーレイ層)及び層24(剥離ライナー)は、層14(裏打ち層)、層12(薬剤貯蔵部) 、層16(薬剤透過性の膜層)及び層20(剥離性シールディスク)、の周辺部全体を越えて回りに広がっているのであるから(9頁1段落)、前者(層26、層30、層24)は、後者(層14、層12、層16及び層20)の全ての側面を越えて延在しているといえる。 以上の記載から、甲2には以下の発明が記載されていると認められる。 「層24(剥離ライナー)、 層14(裏打ち層)、層12(薬剤貯蔵部) 、層16(薬剤透過性の膜層)、層20(剥離性シールディスク)、 層26(接着剤層)、及び層30(オーバーレイ層) を含むデバイスであって、 前記層26(接着剤層)、層30(オーバーレイ層)及び層56(剥離ライナー)は、前記層14(裏打ち層)、層12(薬剤貯蔵部) 、層16(薬剤透過性の膜層)及び層20(剥離性シールディスク)の全ての側面を越えて延在している、 前記デバイス。」の発明(以下「甲2−2発明」という。) (2)本件発明1と甲2−2発明との対比 甲2−2発明の「デバイス」は本件発明1の「経皮治療システム」に相当する。 そして、本件発明1における各層と甲2−2発明における各層との対応関係は以下のとおりである。 そうすると、本件発明1と甲2−2発明とは、 「a)剥離ライナー(1)、 b) b1)活性成分を含有するポリマーマトリックス層(2)と、 b2)分離層(3)と を含むコア、及び c) c1)感圧接着層(4)と、 c2)バッキング層(5)と を含むオーバーテープ を含む経皮治療システムであって、 前記オーバーテープc)及び前記剥離ライナー(1)が、前記コアの全ての側面において、前記コアを越えて延在している、 前記経皮治療システム。」の発明である点で一致し、以下の点で相違する。 (相違点2−2) 本件発明1では、「前記感圧接着層が、前記バッキング層(5)と接触し、かつ第1の感圧接着性ポリマーを含む第1の層(41)と、前記剥離ライナー(1)と接触し、かつ第2の感圧接着性ポリマーを含む第2の層(42)とを含み、前記第1の感圧接着性ポリマーが、架橋ポリアクリレートであり、前記第2の感圧接着性ポリマーが、非架橋ポリアクリレートであり、かつ前記第1の感圧接着性ポリマーと前記第2の感圧接着性ポリマーの接着性を比較すると、その接着性を決定するに際して同一方法を用いた場合、前記第1の感圧接着性ポリマーが、前記第2の感圧接着性ポリマーより低い接着性を有すること」が特定されているのに対し、甲2−2発明では、このような特定がされていない点。 なお、相違点2−2は、上記第5の1(3)で説示した相違点1、上記第6の1(2)で説示した相違点2−1と同一内容である。 (3)相違点2−2についての判断 上記第6の1(3)と同様の理由により、当業者は、甲2−2発明、甲2、甲1、甲4、甲5に記載された事項、及び技術常識から、甲2−2発明を相違点2−2に係る本件発明1の構成を備えたものとすることを、容易に想到し得たとはいえない。 2 本件発明2〜14について 上記第6の2と同様の理由により、当業者は、甲2−2発明、及び甲2、甲1、甲4〜甲7に記載された事項、及び技術常識から、甲2−2発明を本件発明2〜14の構成を備えたものとすることを、容易に想到し得たとはいえない。 3 本件発明の効果について 上記第6の3と同様の理由により、本件発明の効果を、甲2−2発明、及び甲2、甲1、甲4〜甲7に記載された事項、並びに技術常識から、当業者が予測し得たとはいえない。 4 まとめ 以上のとおりであるから、本件発明1〜14は、甲2−2発明、及び甲2、甲1、甲4〜甲7に記載された事項、並びに技術常識から、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 第8 取消理由1の4:本件発明1〜14に対する甲3発明に基づく進歩性欠如 1 本件発明1について (1)甲3発明 甲3には、下記図1で示される構造を有する、被投与者の皮膚又は粘膜に活性物質を投与するための器具100が記載されている。 「図3 」 上記図3において、層110は外部支持層、層112は活性物質不浸透性感圧性接着層、層106は活性物質不浸透性支持層、層108は熱シール性層、層126は熱溶融接着剤の一つ又はそれ以上のストリップ、層114は合成スポンジ材124により活性物質122が保持されている貯蔵部、層104は剥離用皮膜、層102は熱シール性剥離層である(3頁左下段最終段落〜4頁左下欄最下行)。 そして、層114(貯蔵部)は、間に介在する層108(熱シール性層)により、層106(活性物質不浸透性支持層)をその全周辺にそってその下の層102(剥離層)に熱シールすることにより形成されており(3頁右下欄5〜8行)、層110(外部支持層)は、層112(活性物質不浸透性感圧性接着層)を介して層106(活性物質不浸透性支持層)に接している。 そうすると、層110(外部支持層)及び層102(熱シール性剥離層)は、層112(活性物質不浸透性感圧性接着層)、層106(活性物質不浸透性支持層)、層108(熱シール性層)、層126(熱溶融接着剤の一つ又はそれ以上のストリップ)及び層114(貯蔵部)の全ての側面を越えて延在しているといえる。 上記記載から、甲3には以下の発明が記載されていると認める。 「層102(熱シール性剥離層)、 層114(合成スポンジ材124により活性物質122が保持されている貯蔵部)、 層126(熱溶融接着剤の一つ又はそれ以上のストリップ)、層108(熱シール性層)及び層106(活性物質不浸透性支持層)、 層112(活性物質不浸透性感圧性接着層)、 層110(外部支持層)、 を含む、被投与者の皮膚又は粘膜に活性物質を投与するための器具であって、 層110(外部支持層)及び層102(熱シール性剥離層)は、層112(活性物質不浸透性感圧性接着層)、層106(活性物質不浸透性支持層)、層108(熱シール性層)、層126(熱溶融接着剤の一つ又はそれ以上のストリップ)及び層114(貯蔵部)の全ての側面を越えて延在している、 前記器具。」の発明(以下「甲3発明」という。) (2)本件発明1と甲3発明との対比 甲3発明の「被投与者の皮膚又は粘膜に活性物質を投与するための器具」は本件発明1の「経皮治療システム」に相当する。 そして、本件発明1における各層と甲3発明における各層との対応関係は以下のとおりである。 そうすると、本件発明1と甲3発明とは、 「a)剥離ライナー(1)、 b) b1)活性成分を含有するポリマーマトリックス層(2)と、 b2)分離層(3)と を含むコア、及び c) c1)感圧接着層(4)と、 c2)バッキング層(5)と を含むオーバーテープ を含む経皮治療システムであって、 前記オーバーテープc)及び前記剥離ライナー(1)が、前記コアの全ての側面において、前記コアを越えて延在している、 前記経皮治療システム。」の発明である点で一致し、以下の点で相違する。 (相違点3) 本件発明1では、「前記感圧接着層が、前記バッキング層(5)と接触し、かつ第1の感圧接着性ポリマーを含む第1の層(41)と、前記剥離ライナー(1)と接触し、かつ第2の感圧接着性ポリマーを含む第2の層(42)とを含み、前記第1の感圧接着性ポリマーが、架橋ポリアクリレートであり、前記第2の感圧接着性ポリマーが、非架橋ポリアクリレートであり、かつ前記第1の感圧接着性ポリマーと前記第2の感圧接着性ポリマーの接着性を比較すると、その接着性を決定するに際して同一方法を用いた場合、前記第1の感圧接着性ポリマーが、前記第2の感圧接着性ポリマーより低い接着性を有すること」が特定されているのに対し、甲3発明では、このような特定がされていない点。 なお、相違点3は、上記第5の1(3)で説示した相違点1、上記第6の1(2)で説示した相違点2−1、及び上記第7の1(2)で説示した相違点2−2と同一内容である。 (3)相違点3についての判断 上記第5の1(3)イで説示したように、甲1には、ポリアクリレート等の感圧性接着ポリマーが記載されている。 また、上記第6の1(3)で説示したように、甲2には、「層26(接着剤)」に用いる感圧性接着剤として、アクリレート等のポリマーが記載されている。 しかし、TTSの接着性が貯蔵の間に悪化しないようにするために、皮膚に接触しない側の感圧接着層(本件発明1の「第1の層(41)」)に架橋ポリアクリレートを用いるとともに、皮膚に接触する側の感圧接着層(本件発明1の「第2の層(42)」)に非架橋ポリアクリレートを用いることは、甲3、甲1及び甲3のいずれにも記載されていない。 そして、甲4及び甲5の記載を参酌しても、上記のような2つの感圧性接着層を設けることが公知技術又は周知技術ではないことは、上記第5の1(3)ウで説示したとおりである。 したがって、甲3発明、甲1〜甲5に記載された事項、及び技術常識から、甲3発明を本件発明1の構成を備えたものとすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。 2 本件発明2〜14について 上記第5の2と同様の理由により、甲3発明、甲1〜甲7に記載された事項及び技術常識から、甲3発明を本件発明2〜14の構成を備えたものとすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。 3 本件発明の効果について 上記第5の3と同様の理由により、本件発明の効果を、甲3発明、甲1〜甲7に記載された事項、及び技術常識から、当業者が予測し得たとはいえない。 4 まとめ 以上のとおりであるから、本件発明1〜14は、甲3発明、甲1〜甲7に記載された事項、及び技術常識から、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 第9 取消理由2(サポート要件違反)について 1 本件発明が解決すべき課題の1つは、貯蔵後でさえも同一TTSによる良好な接着特性が提供されながらも、TTSの装着の間に異物感が生じないTTSの有効な製造を提供することがあるといえる(本件明細書の【0001】及び【0015】等)。 そして、上記課題の解決手段は、第1の感圧接着性ポリマー(皮膚に接触しない側の感圧接着層のポリマー)が架橋ポリアクリレートであり、第2の感圧接着性ポリマー(皮膚に接触する側の感圧接着層のポリマー)が非架橋ポリアクリレートであり、かつ前記第1の感圧接着性ポリマーと前記第2の感圧接着性ポリマーの接着性を比較すると、その接着性を決定するに際して同一方法を用いた場合、前記第1の感圧接着性ポリマー(皮膚に接触しない側の感圧接着層のポリマー)が、前記第2の感圧接着性ポリマー(皮膚に接触する側の感圧接着層のポリマー)より低い接着性を有するものとすることである(特許請求の範囲及び、本件明細書の【0016】等)。 2 これに対し、本件明細書の発明の詳細な説明(以下「発明の詳細な説明」)には、以下の事項が記載されていると認められる。 (1)発明の詳細な説明の実施例1には、剥離ライナー上に「DuroTaK(登録商標)87−2051」と称される感圧接着性ポリマーを積層した参照オーバーテープ1(【0080】、【0087】)、及び、剥離ライナー上に「DuroTaK(登録商標)87−2051」(第2の感圧接着層)を積層し、その上に「DuroTaK(登録商標)87−2054」(第1の感圧接着層)を積層したオーバーテープ2(【0081】)が調製されたことが記載されている。 そして、発明の詳細な説明の【0050】、【0051】及び【表2】の記載を参酌すると、「DuroTaK(登録商標)87−2054」はカルボン酸基を有する架橋ポリアクリレートであり、「DuroTaK(登録商標)87−2051」はカルボン酸基を有する非架橋ポリアクリレートであり、さらに、特許権者が令和4年3月8日提出の意見書に添付して提出した乙第1号証(Henkel社,「DURO-TAK and GELVA Transdermal Pressure Sensitive Adhesives PRODUCT SELECTION GUIDE」,2013年9月改訂)を参酌すると、「DuroTaK(登録商標)87−2054」(第1の感圧接着層:架橋ポリアクリレート)は「DuroTaK(登録商標)87−2051」(第2の感圧接着層:非架橋ポリアクリレート)よりも剥離接着性(Peel Adhesion)が低いことが記載されているので、上記実施例1で調製されたオーバーテープ2は、本件発明の第1の層(41)及び第2の層(42)を有する積層体であるといえる。 (2)そして、発明の詳細な説明の下記【表1】(【0087】)には、「DuroTaK(登録商標)87−2054」(第1の層(41):架橋ポリアクリレート)及び「DuroTaK(登録商標)87−2051」(第2の層(42):非架橋ポリアクリレート)を有するオーバーテープ2は、「DuroTaK(登録商標)87−2051」(第2の層(42):非架橋ポリアクリレート)のみを有する参照オーバーテープ1よりも、2週間経過後の接着強度の減少が抑制されたこと、すなわち接着強度が長時間維持されたという効果が奏されたことが記載されている。 「【表1】 」 (3)さらに、発明の詳細な説明の実施例2(【0088】〜【0092】)には、「DuroTaK(登録商標)87−2054」(第1の層(41):架橋ポリアクリレート)及び「DuroTaK(登録商標)87−2051」(第2の層(42):非架橋ポリアクリレート)を積層した、本件発明のTTS(【表2】)が調製され、当該TTSでは、最初(貯蔵前)と貯蔵後の接着強度がいずれも3.0N/25mmであったこと、すなわち良好な接着特性が長時間維持されたという効果が奏されたことが記載されている。 3 そして、上記2(1)〜(3)を参酌した当業者は、本件発明により、TTSの良好な接着特性が長時間維持されて上記1の課題が解決できることを認識できるといえる。 4 申立人の主張について (1)申立人は、本件明細書の【0010】〜【0015】の記載によれば、本件発明の課題は、カーリングの問題を回避し、貯蔵後でさえも同一TTSによる良好な接着特性が提供されながらも、TTSの装着の間に異物感が生じない、また、望ましい血漿レベルを達する長時間にわたる活性成分の十分な徐放を行う経皮治療システムを提供するという、「複数の」課題を解決することである、という趣旨の主張をしている(特許異議申立書p.57)。 そこで、上記主張について検討する。 本件明細書の【0001】には、「特に、数日にわたる活性成分の連続投与のためにTTSが適切であるように、長時間にわたって良好な接着特性を有しながらも、同時に、皮膚上での異物感を生じない。特に、TTSの接着性は、貯蔵の間に悪化しない。」と記載され、本件明細書の【0015】の「特性の好ましい組み合わせを有する、さらなる、またはより良好な経皮治療システムの提供が、なお必要とされている。そのような特性には、例えば、貯蔵後でさえも同一TTSによる良好な接着特性が提供されながらも、TTSの装着の間に異物感が生じないTTSの有効な製造が含まれる。他の望ましい特性には、・・・十分な徐放が含まれる。」という記載がある。 さらに、本件明細書の【0016】には「本発明のパッチは上記の問題を解決し、それらは、皮膚上でのTTSの異物感を回避する特性を組み合わせ、長時間にわたる良好な接着特性を提供し、・・・有利である。」という記載がある。 そして、上記記載(特に【0015】)によれば、「さらなる、またはより良好な経皮治療システム」を提供するために解決すべき課題として記載されている複数の選択肢の中の1つとして、例えば「貯蔵後でさえも同一TTSによる良好な接着特性が提供されながらも、TTSの装着の間に異物感が生じないTTSの有効な製造」を提供するという課題があるといえる。 すなわち、本件明細書においては、本件発明が、申立人が主張する「カーリングの問題を回避」(【0013】)し、「貯蔵後でさえも同一TTSによる良好な接着特性が提供されながらも、TTSの装着の間に異物感が生じない」(【0015】)、また、「望ましい血漿レベルを達する長時間にわたる活性成分の十分な徐放を行う」(【0015】)という複数の選択肢で記載される全ての課題を同時に解決できるものとしては記載されていない、と解される。 (2)申立人は、令和4年5月23日提出の意見書において、本件発明では、(i)バッキング層の材質、(ii)第1の接着性ポリマーと第2の接着性ポリマーとの間の差の程度、(iii)第1層及び第2層に含まれる第1及び第2接着性ポリマーそれぞれの量、及び(iv)接着性の測定方法が規定されていないのであるから、本件発明は、発明の課題を実際に解決することを認識できる範囲よりも、はるかに広い範囲を包含するものである、という趣旨の主張をしている(上記意見書のp.5〜9)。 そこで、上記主張について検討する。 <上記(i)について> 上記2及び3で説示したように、発明の詳細な説明の実施例1及び実施例2の記載から、本件発明により上記1で説示した課題が解決できるといえる。 そして、実施例1では「多方向性弾性ポリエステル布から製造されたバッキング層」(【0081】)が用いられ、実施例2では「多方向性弾性バッキング層」(【0089】)が記載されているところ、発明の詳細な説明の記載及び技術常識からみて、「多方向性弾性」であるバッキング層を用いる場合にのみ、TTSの接着力が低下する等の解決すべき課題が生じるとはいえない。 また、申立人は、(a)上記以外の材質のバッキング層を用いた場合に上記1の課題が存在しないこと、又は(b)上記以外の材質のバッキング層を用いた場合に本件発明により上記1の課題が解決できないといえる具体的な根拠を提示しておらず、上記(a)及び(b)の点が自明であるともいえない。 <上記(ii)及び(iii)について> 特許権者が令和4年3月8日提出の意見書に添付して提出した乙第1号証には、様々な剥離接着性(Peel Adhesion)を有する各種のポリアクリレートが記載されているので、発明の詳細な説明の実施例1及び実施例2に記載された事項を参酌した当業者は、適切な第1及び第2接着性ポリアクリレートを選択し、第1及び第2の感圧接着層におけるそれぞれのポリアクリレートの量を適宜調整して上記1の課題を解決できることを、理解できるといえる。 <上記(iv)について> 発明の詳細な説明には、「本発明のオーバーテープは、ASTM D3330/D3330M−04(2010)−“Standard Test Method for Peel Adhesion of Pressure−Sensitive Tape(Method F,90℃)”に従って、参照オーバーテープ1と比較して、時間経過時の接着強度の減少に関して試験した。」(【0087】)という記載があり、上記測定方法は当該技術分野における剥離接着性(Peel Adhesion)の標準的な測定方法(Standard Test Method)であるから、上記記載を参酌した当業者は、本件発明のTTSの接着性は上記標準的な測定方法(Standard Test Method)に従って測定された剥離接着性(Peel Adhesion)を意味するものであることを、理解できるといえる。 以上のとおりであるから、申立人による上記主張(1)及び(2)はいずれも採用できない。 5 まとめ よって、本件発明1〜14は、発明の詳細な説明に記載されたものである。 第10 取消理由3(実施可能要件違反)について 本件発明を実施することについて、発明の詳細な説明の実施例1及び2には、上記第9の2に説示した事項が記載されている。 そして、上記実施例1及び2の記載、及び特許権者が令和4年3月8日提出の意見書に添付して提出した乙第1号証によれば、様々な剥離接着性(Peel Adhesion)を有する各種のポリアクリレートが本件優先日前に市販されていたことを参酌すると、適切な第1及び第2接着性ポリアクリレートを選択し、第1及び第2の感圧接着層におけるそれぞれのポリアクリレートの量を適宜調整することによって、本件発明を過度の試行錯誤を要することなく実施できることを、当業者は理解できるといえる。 よって、発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1〜14を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものである。 第11 取消理由通知で採用しなかった、特許異議申立書で主張された特許異議申立理由について 1 新規性欠如(特許法第29条第1項第3号について 申立人は、請求項1〜14に係る発明は、甲1発明と同一であるという趣旨の主張(特許異議申立書のp.32〜33)、及び甲2−1発明と同一であるという趣旨の主張(特許異議申立書のp.38〜39)の主張をしている。 そこで、上記主張について検討する。 本件発明1と甲1発明とは、上記第5の1(3)で説示した相違点1で実質的に相違することは明らかであり、また、本件発明1と甲2−1発明とは、上記第6の1(2)で説示した相違点2−1で実質的に相違することは明らかであるから、本件発明1は、甲1又は甲2に記載された発明ではない。 そして、同様の理由により、請求項1を直接的又は間接的に引用する本件発明2〜14も、甲1又は甲2に記載された発明ではない。 したがって、申立人の上記主張は採用できない。 2 明確性要件違反(特許法第36条第6項第2号)について 申立人は、請求項1における「前記第1の感圧性接着性ポリマーと前記第2の感圧接着性ポリマーの接着性ポリマーの接着性を比較すると、その接着性を決定するに際して同一方法を用いた場合、前記第1の感圧性接着性ポリマーが、前記第2の感圧接着性ポリマーより低い接着性を有すること」という記載について、以下の趣旨の主張をしている(特許異議申立書のp.55〜56)。 接着性の高低に関し、接着面の相違によって、その接着性が大きく異なることがある。例えば、甲8には、ステンレススチール(SS)、高密度ポリエチレン(HDPE)、ヒトの皮膚とでは、市販のパッチの接着性が大きく異なっていることが記載されており(図1等)、甲9には、ステンレスと人の皮膚とでは、テープA〜Dのそれぞれの粘着性(剥離力)が大きく異なっていることが記載されている(表1等)。そうしてみると、接着面を規定しておらず、2つの接着性ポリマーの接着性の高低を一義的に定めることができない点で、請求項1における「前記第1の感圧性接着性ポリマーと・・・前記第2の感圧接着性ポリマーより低い接着性を有すること」という記載は不明確である。 そこで、上記主張について検討する。 発明の詳細な説明には、「本発明のオーバーテープは、ASTM D3330/D3330M−04(2010)−“Standard Test Method for Peel Adhesion of Pressure−Sensitive Tape(Method F,90℃)”に従って、参照オーバーテープ1と比較して、時間経過時の接着強度の減少に関して試験した。」(【0087】)という記載があり、上記測定方法は当該技術分野における剥離接着性(Peel Adhesion)の標準的な測定方法(Standard Test Method)であるから、上記記載を参酌した当業者は、請求項1に記載される「接着性」は上記標準的な測定方法(Standard Test Method)に従って測定された剥離接着性(Peel Adhesion)を意味するものであることを、理解できるといえる。 したがって、請求項1における「前記第1の感圧性接着性ポリマーと・・・前記第2の感圧接着性ポリマーより低い接着性を有すること」という記載は明確であるから、申立人の上記主張は採用できない。 3 まとめ 以上のとおりであるから、取消理由通知で採用しなかった上記1及び2の理由によっても、本件発明1〜14に係る特許を取り消すことはできない。 第12 むすび したがって、取消理由通知に記載した取消理由又は特許異議申立書に記載した特許異議申立理由により、本件発明1〜14に係る特許を取り消すことはできない。そして、ほかに本件発明1〜14に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 a)剥離ライナー(1)、 b) b1)活性成分を含有するポリマーマトリックス層(2)と、 b2)分離層(3)と を含むコア、および c) c1)感圧接着層(4)と、 c2)パッキング層(5)と を含むオーバーテープ を含む経皮治療システムであって、 前記オーバーテープc)および前記剥離ライナー(1)が、前記コアの全ての側面において、前記コアを越えて延在し、 前記感圧接着層が、前記パッキング層(5)と接触し、かつ第1の感圧接着性ポリマーを含む第1の層(41)と、前記剥離ライナー(1)と接触し、かつ第2の感圧接着性ポリマーを含む第2の層(42)とを含み、前記第1の感圧接着性ポリマーが、架橋ポリアクリレートであり、前記第2の感圧接着性ポリマーが、非架橋ポリアクリレートであり、かつ前記第1の感圧接着性ポリマーと前記第2の感圧接着性ポリマーの接着性を比較すると、その接着性を決定するに際して同一方法を用いた場合、前記第1の感圧接着性ポリマーが、前記第2の感圧接着性ポリマーより低い接着性を有することを特徴とする、経皮治療システム。 【請求項2】 前記第2の感圧接着性ポリマーが、カルボキシル基を有する非架橋ポリアクリレートである、請求項1に記載の経皮治療システム。 【請求項3】 前記感圧接着層(4)および前記パッキング層(5)が、少なくとも4mm、好ましくは、4〜30mm、そして最も好ましくは、6〜15mm、前記コアを越えて延在する、請求項1または2に記載の経皮治療システム。 【請求項4】 前記活性成分が、オピオイドまたはその薬学的に許容される塩である、請求項1〜3のいずれかに記載の経皮治療システム。 【請求項5】 前記活性成分がブプレノルフィンである、請求項4に記載の経皮治療システム。 【請求項6】 前記パッキング層が、一方向性または多方向性弾性、好ましくは、二方向性弾性である、請求項1〜5のいずれかに記載の経皮治療システム。 【請求項7】 前記パッキング層が、ポリエステルポリマー、好ましくは、ポリエチレンテレフタレートまたはポリブチレンテレフタレートをベースとする、請求項1〜6のいずれかに記載の経皮治療システム。 【請求項8】 前記第1の接着層(41)の面積重量が、5〜40g/m2の範囲であり、かつ前記第2の接着層(42)の面積重量が、20〜90g/m2、好ましくは、40〜90g/m2の範囲である、請求項1〜7のいずれかに記載の経皮治療システム。 【請求項9】 前記第1の感圧接着性ポリマーが、カルボキシル基を含む架橋ポリアクリレートである、請求項1〜8に記載の経皮治療システム。 【請求項10】 前記分離層(3)が、前記活性物質に対して不浸透性であり、かつ好ましくは、非弾性であるポリエステルフィルムである、請求項1〜9のいずれかに記載の経皮治療システム。 【請求項11】 前記ポリマーマトリックス層(2)が、 −8〜12重量%のブプレノルフィンベースと、 −8〜12重量%のポリビニルピロリドンと、 −14〜16重量%のオレイルオレエートと、 −3〜8重量%のレブリン酸と、 −55〜65重量%の、架橋された、ポリアクリレートと を含有する、請求項1〜10のいずれかに記載の経皮治療システム。 【請求項12】 前記ポリマーマトリックス層(2)が、 −10重量%のブプレノルフィンベースと、 −10重量%のポリビニルピロリドンと、 −15重量%のオレイルオレエートと、 −6重量%のレブリン酸と、 −59重量%の、架橋された、ポリアクリレートと を含有する、請求項11に記載の経皮治療システム。 【請求項13】 前記活性成分が、少なくとも3日、好ましくは7日の投薬間隔で、ヒト患者における痛みの処置に使用するためのブプレノルフィンである、請求項1〜12のいずれかに記載の経皮治療システム。 【請求項14】 a)請求項1で定義される、パッキング層(5)と、第1の接着層(41)および第2の接着層(42)を含む感圧接着層(4)と、中間剥離ライナーとの積層体からなるオーバーテープを供給するステップ;ならびに b)活性成分を含有するポリマーマトリックス層(2)と分離層(3)との積層体を含む個々のコアを剥離ライナー(1)上に、前記コアの間に隙間を有するように相互に配置し、前記ステップa)からの生成物から前記中間剥離ライナーを除去し、前記コアが前記剥離ライナー(1)上に配置されるように、前記オーバーテープで前記剥離ライナー(1)を被覆し、前記層が、(1)、(2)、(3)、(4)、(5)という順番になるステップであって;この時、前記オーバーテープおよび前記剥離ライナー(1)は、その全ての側面において前記コアを越えて突出しており、その後、前記コアの外部寸法を取り囲む線をパンチングするなどの様式でパンチングすることによって、前記オーバーテープが切断されるステップ、 c)結果として生じる前記オーバーテープの格子状廃物を除去するステップ、ならびに d)次いで、前記コアの間の結果として生じる空間において、前記剥離ライナー(1)を切断するステップ を含む、請求項1〜13のいずれかに記載の経皮治療システムの製造方法。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2022-08-02 |
出願番号 | P2017-547957 |
審決分類 |
P
1
651・
113-
YAA
(A61K)
P 1 651・ 121- YAA (A61K) P 1 651・ 537- YAA (A61K) P 1 651・ 536- YAA (A61K) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
藤原 浩子 |
特許庁審判官 |
渕野 留香 前田 佳与子 |
登録日 | 2021-02-03 |
登録番号 | 6832287 |
権利者 | リュイェ ファーマ アーゲー |
発明の名称 | 2層の接着層を含むオーバーテープを用いる経皮治療システム |
代理人 | 小池 成 |
代理人 | 渡邉 一平 |
代理人 | 守安 智 |
代理人 | 結田 純次 |
代理人 | 永岡 儀雄 |
代理人 | 渡邉 一平 |
代理人 | 竹林 則幸 |
代理人 | 小池 成 |
代理人 | 永岡 儀雄 |