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審決分類 審判 全部申し立て 判示事項別分類コード:857  C03C
審判 全部申し立て 2項進歩性  C03C
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C03C
審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  C03C
管理番号 1390563
総通号数 11 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-11-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-10-12 
確定日 2022-08-23 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6860582号発明「グラスウール及びそれを用いた真空断熱材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6860582号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜9〕について訂正することを認める。 特許第6860582号の請求項2〜9に係る特許を維持する。 特許第6860582号の請求項1に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第6860582号(以下、「本件特許」という。)に係る出願は、2017年(平成29年)9月19日(優先権主張 平成28年9月16日)を国際出願日とする出願であって、令和3年3月30日にその請求項1〜9に係る発明について特許権の設定登録がされ、同年4月14日に特許掲載公報が発行され、その後、全請求項に係る特許に対して、令和3年10月12日に特許異議申立人 安藤 宏(以下、「申立人」という。)により甲第1号証〜甲第8号証を証拠方法として特許異議の申立てがされ、令和4年2月15日付けで当審より取消理由が通知され、同年4月6日に申立人より上申書(以下、「上申書」という。)が提出され、同年5月17日に特許権者より意見書の提出及び訂正の請求がされ、同年7月5日に申立人より甲第1号証〜甲第5号証、甲第7号証及び甲第8号証を添付して意見書(以下、「申立人意見書」という。)が提出されたものである。
なお、申立人意見書に添付された甲第1号証〜甲第5号証、甲第7号証及び甲第8号証は、本件特許異議申立の証拠方法である甲第1号証〜甲第5号証、甲第7号証及び甲第8号証と同一である。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
令和4年5月17日にされた訂正の請求(以下、「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)は、請求の趣旨を「特許第6860582号の特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項1〜9について訂正することを求める。」とするものであって、その訂正の内容は、次のとおりである(当審注:下線は訂正箇所であり、当審が付与した。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に
「以下のガラス組成を有する、請求項1に記載のグラスウール:
Na2O及びK2O:14.0質量%以上16.5質量%以下、
MgO及びCaO:9.0質量%以上11.5質量%以下、
B2O3:5.0質量%以上8.0質量%以下。」
と記載されていたのを、
「以下のガラス組成を有する、グラスウール:
SiO2:60.0質量%以上65.0質量%以下、
Al2O3:0.5質量%以上2.0質量%以下、
Na2O及びK2O:14.0質量%以上16.5質量%以下、
MgO及びCaO:9.0質量%以上11.5質量%以下、
B2O3:5.0質量%以上8.0質量%以下、
その他:残部。」
に訂正する。(請求項2の記載を引用する請求項4〜9も同様に訂正する。)

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に
「以下のガラス組成を有する、請求項1に記載のグラスウール:
SiO2:62.0質量%以上64.0質量%以下、
Al2O3:1.2質量%以上1.8質量%以下、
Na2O:14.0質量%以上16.0質量%以下、
K2O:0.5質量%以上2.0質量%以下、
MgO:2.0質量%以上4.0質量%以下、
CaO:6.0質量%以上8.0質量%以下、
B2O3:6.0質量%以上8.0質量%以下。」
と記載されていたのを、
「以下のガラス組成を有する、グラスウール:
SiO2:62.0質量%以上64.0質量%以下、
Al2O3:1.2質量%以上1.8質量%以下、
Na2O:14.0質量%以上16.0質量%以下、
K2O:0.5質量%以上2.0質量%以下、
Na2O及びK2O:14.5質量%以上16.5質量%以下、
MgO:2.0質量%以上4.0質量%以下、
CaO:6.0質量%以上8.0質量%以下、
MgO及びCaO:8.0質量%以上11.5質量%以下、
B2O3:6.0質量%以上8.0質量%以下、
その他:残部。」
に訂正する。(請求項3の記載を引用する請求項4〜9も同様に訂正する。)

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に「請求項1〜3のいずれか一項に記載のグラスウール。」と記載されていたのを、「請求項2又は3に記載のグラスウール。」に訂正する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5に「請求項1〜4のいずれか一項に記載のグラスウール。」と記載されていたのを、「請求項2〜4のいずれか一項に記載のグラスウール。」に訂正する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項6に「請求項1〜5のいずれか一項に記載のグラスウール。」と記載されていたのを、「請求項2〜5のいずれか一項に記載のグラスウール。」に訂正する。

(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項7に「請求項1〜5のいずれか一項に記載のグラスウール。」と記載されていたのを、「請求項2〜5のいずれか一項に記載のグラスウール。」に訂正する。

(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項8に「請求項1〜7のいずれか一項に記載のグラスウール」と記載されていたのを、「請求項2〜7のいずれか一項に記載のグラスウール」に訂正する。

(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項9に「請求項1〜7のいずれか一項に記載のグラスウール」と記載されていたのを、「請求項2〜7のいずれか一項に記載のグラスウール」に訂正する。

(10)一群の請求項について
訂正前の請求項1の記載を請求項2〜9が引用する関係にあるから、訂正前の請求項1〜9は一群の請求項であるところ、訂正事項1〜9に係る特許請求の範囲の訂正は、特許法第120条の5第4項の規定に従い、この一群の請求項1〜9を訂正の単位として請求されたものである。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、本件訂正前の請求項1を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項2が請求項1を引用するものであったものを独立請求項とするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(3)訂正事項3について
訂正事項3は、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項3が請求項1を引用するものであったものを独立請求項とするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(4)訂正事項4〜9について
訂正事項4〜9は、それぞれ、訂正事項1の訂正に伴って、本件訂正前の請求項4〜9における選択的引用請求項の一部を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(5)独立特許要件について
本件特許異議の申立ては本件訂正前の全ての請求項についてされているので、訂正事項1〜9に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

3 小括
したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものに該当し、同法同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1〜9〕について訂正することを認める。

第3 本件発明について
本件訂正が認められることは前記第2に記載のとおりであるので、本件訂正により訂正された請求項2〜9に係る発明(以下、「本件発明2」〜「本件発明9」といい、これらをまとめて「本件発明」ということがある。)は、訂正特許請求の範囲の請求項2〜9に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項2】
以下のガラス組成を有する、グラスウール:
SiO2:60.0質量%以上65.0質量%以下、
Al2O3:0.5質量%以上2.0質量%以下、
Na2O及びK2O:14.0質量%以上16.5質量%以下、
MgO及びCaO:9.0質量%以上11.5質量%以下、
B2O3:5.0質量%以上8.0質量%以下、
その他:残部。
【請求項3】
以下のガラス組成を有する、グラスウール:
SiO2:62.0質量%以上64.0質量%以下、
Al2O3:1.2質量%以上1.8質量%以下、
Na2O:14.0質量%以上16.0質量%以下、
K2O:0.5質量%以上2.0質量%以下、
Na2O及びK2O:14.5質量%以上16.5質量%以下、
MgO:2.0質量%以上4.0質量%以下、
CaO:6.0質量%以上8.0質量%以下、
MgO及びCaO:8.0質量%以上11.5質量%以下、
B2O3:6.0質量%以上8.0質量%以下、
その他:残部。
【請求項4】
平均繊維径が、0.5μm以上20μm未満である、請求項2又は3のいずれか一項に記載のグラスウール。
【請求項5】
樹脂バインダを含んでいない、請求項2〜4のいずれか一項に記載のグラスウール。
【請求項6】
シート状の成形体である、請求項2〜5のいずれか一項に記載のグラスウール。
【請求項7】
JIS A 1475に規定するチャンバー法に準拠して測定した場合の7日目の平衡含水率が、1.0質量%以下である、請求項2〜5のいずれか一項に記載のグラスウール。
【請求項8】
請求項2〜7のいずれか一項に記載のグラスウール及び前記グラスウールを封入する外皮を含む、真空断熱材。
【請求項9】
以下を含む、請求項2〜7のいずれか一項に記載のグラスウールの製造方法であって、
カレット及びガラス組成調整用の添加剤を含むガラス原料を溶融してガラス溶融物を得ること;及び
前記ガラス溶融物を繊維化すること。」

第4 特許異議申立理由の概要
1 特許法第29条第1項第3号所定の規定違反(新規性欠如)について
(1)本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1、4及び5に係る発明は、甲第1号証に記載された発明である。

(2)本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1及び4に係る発明は、甲第2号証に記載された発明である。

2 特許法第29条第2項所定の規定違反(進歩性欠如)について
(1)本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1〜9に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第7〜8号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2)本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1〜9に係る発明は、甲第2号証に記載された発明及び甲第7〜8号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1〜9に係る発明は、甲第8号証に記載された発明及び甲第1〜7号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

3 証拠方法
甲第1号証:Russell M.Potter,「Method for determination of in-vitro fiber dissolution rate by direct optical measurement of diameter decrease」,Glastech.Ber.Glass Sci.Technol.,2000年,73 No.2,p.46-55
甲第2号証:Russell M.Potter et al.,「Glass fiber dissolution in a physiological saline solution」,Glastech.Ber.,1991年,64 Nr.1,p.16-28
甲第3号証:渡邉 敬典,「繊維系断熱材の高温多湿下における変化」,ニチアス技術時報,2015年,3号 No.370,p.1−5
甲第4号証:山下 勝,「ガラスの耐水性」,NEW GLASS,2011年,Vol.26 No.3,p.45−48
甲第5号証:山根 正之ら編,「ガラス工学ハンドブック」,初版第2刷,2003年4月10日,株式会社朝倉書店,p.519−522
甲第6号証:特開昭53−2515号公報
甲第7号証:中国特許出願公開第103058526号明細書
甲第8号証:特開2005−344871号公報

第5 取消理由の概要
1 特許法第29条第1項第3号所定の規定違反(新規性欠如)、特許法第29条第2項所定の規定違反(進歩性欠如)について
(1)甲第1号証を主引用例とした場合について
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1、4、5及び7に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるか、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項6、8及び9に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第8号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2)甲第2号証を主引用例とした場合について
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1、4及び7に係る発明は、甲第2号証に記載された発明であるか、甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項5、6、8及び9に係る発明は、甲第2号証に記載された発明及び甲第8号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 取消理由及び特許異議申立理由についての当審の判断
事案に鑑み、前記第5の取消理由及び前記第4の特許異議申立理由についてまとめて判断する。
1 甲各号証の記載事項等
(1)甲第1号証の記載事項及び甲第1号証に記載された発明
ア 甲第1号証には、以下の(1a)〜(1f)の記載がある(当審注:「・・・」は記載の省略を表す。以下、同様である。)
(1a)「A new method for measuring in-vitro fiber dissolution rate in physiological saline solutions is based on direct optical measurement of fiber diameter decrease. Dissolution times measured by this new method for a variety of vitreous silicate fibers with a wide range of dissolution rates are in good agreement with results from SEM and from traditional mass loss and solution analysis techniques. The new method is conceptually and experimentally simple, and it can be applied directly to fibers pulled from the original fiber sample with no pretreatment.」(46頁5行〜9行)
(当審訳:生理食塩水中の試験管内の繊維溶解速度を測定するための新しい方法は、繊維直径の減少の直接光学測定に基づいている。幅広い溶解速度を持つさまざまなガラス質ケイ酸塩繊維についてこの新しい方法で測定された溶解時間は、SEM及び従来の質量損失と溶液分析技術の結果とよく一致している。新しい方法は概念的および実験的に単純であり、前処理なしで、元の繊維サンプルから引き出された繊維に直接適用できる。)

(1b)「This paper describes an in-vitro technique based on direct optical measurement of fiber diameter decrease which has been developed with these desirable criteria in mind.」(47頁左欄8行〜11行)
(当審訳:この論文では、これらの望ましい基準を念頭に置いて開発された、繊維径の減少の直接光学測定に基づく試験管内の技術について説明する。)

(1c)「Table 1 contains details of the fibers included in this study,which were produced, free of binder or other organic coatings, by a variety of commercial or laboratory processes. The chemical compositions were measured using standard techniques(X-ray fluorescence, inductively-coupled plasma, atomic absorption, and various wet chemical techniques) on either the bulk glass from which the fibers were made or on the fibers themselves.」(47頁右欄15行〜22行)
(当審訳:表1には、さまざまな商業的または実験室的プロセスによって、バインダーやその他の有機コーティングを使用せずに製造された、この研究に含まれる繊維の詳細が含まれている。化学組成は、標準的な手法(蛍光X線、誘導結合プラズマ、原子吸光、およびさまざまな湿式化学技術)を使用して、ファイバーが作成されたバルクガラスまたはファイバー自体のいずれかで測定された。)

(1d)「

」(48頁)
(表中の関連箇所の当審訳:

注:化学分析ソース:f =繊維サンプル上; g =繊維が形成されたバルクガラス上; s =同じバルクガラスから形成された別の繊維サンプル上。FeOの値が報告されていない場合、総鉄は Fe2O3として報告された。総硫黄はSO3
として報告された。no.30の分析は[4]から取得された。)

(1e)「

」(52頁)
(表中の関連箇所の当審訳:

注:繊維の直径データは、元のサンプルではなく、取り付けられた繊維のみを対象とする。−σ=μm単位の繊維径の標準偏差。 −stderr=個々の溶解速度tdisの決定におけるデータへの線形フィットの標準誤差。 −σin%=平均値のパーセントとして表される複数の溶解速度tdis測定の標準偏差。)

(1f)「5.Nomenclature
d=fiber diameter at time t during dissolution in μm
d0=initial fiber diameter in μm」(55頁左欄1行〜3行)
「当審訳:5.命名法
d =溶解中の時間tでの繊維径(μm)
d0=初期繊維径(μm)」

イ 前記ア(1c)によれば、甲第1号証には、さまざまな商業的または実験室的プロセスによって、バインダーやその他の有機コーティングを使用せずに製造された繊維が記載されている。
そして、前記ア(1d)〜(1f)のsample no.18のサンプルに注目すると、甲第1号証には、
「さまざまな商業的または実験室的プロセスによって、バインダーやその他の有機コーティングを使用せずに製造された繊維であって、その組成が、
SiO2:62.78wt%、
Al2O3:0.88wt%、
CaO:8.69wt%、
MgO:2.57wt%、
Na2O:14.33wt%、
K2O:0.40wt%、
B2O3:9.94wt%、
Fe2O3:0.17wt%
であり、初期繊維径が5.81μmである、繊維。」の発明(以下、「甲1発明1」という。)が記載されているといえる。

また、前記ア(1d)〜(1f)のsample no.19のサンプルに注目すると、甲第1号証には、
「さまざまな商業的または実験室的プロセスによって、バインダーやその他の有機コーティングを使用せずに製造された繊維であって、その組成が、
SiO2:62.60wt%、
Al2O3:0.93wt%、
CaO:8.71wt%、
MgO:2.58wt%、
Na2O:14.27wt%、
K2O:0.40wt%、
B2O3:9.97wt%、
Fe2O3:0.13wt%
であり、初期繊維径が5.57μmである、繊維。」の発明(以下、「甲1発明2」という。)が記載されているといえる。

(2)甲第2号証の記載事項及び甲第2号証に記載された発明
ア 甲第2号証には、以下の(2a)〜(2e)の記載がある。
(2a)「A technique developed to measure the dissolution rate of glass fibers in the laboratory under conditions approximating those thought to exist in the lung has been applied to 30 glass compositions in the SiO2-Al2O3-B2O3-CaO-MgO-BaO-Na2O system. Dissolution rates show an Arrhenius dependence on temperature with an activation energy near 64kJ/mol. The rate increases with the pH value. Glass fiber dissolution is a leaching process which leaves behind a mechanically-weak layer consisting of SiO2 and Al2O3. Dissolution morphology changes with dissolution rate, suggesting a change in dissolution mechanism. Dissolution rates vary with composition from 0.9 to 887ng/(cm2h). Al2O3strongly decreases the dissolution rate, B2O3,BaO, CaO, MgO, and Na2O increase the rate to about the same degree, and SiO
2 has little effect.」(16頁5行〜11行)
(当審訳:実験室でガラス繊維の溶解速度を肺に存在すると考えられる条件に近い条件下で測定するために開発された技術が、SiO2-Al2O3-B2O3-CaO-MgO-BaO-Na2O系の30のガラス組成物に適用された。溶解速度は、64kJ/molに近い活性化エネルギーで温度にアレニウス依存性を示す。速度はpH値とともに増加する。ガラス繊維の溶解は浸出プロセスであり、SiO2とAl2O3からなる機械的に弱い層を残す。溶解形態は溶解速度に応じて変化し、溶解メカニズムの変化を示唆する。溶解速度は、組成によって0.9から887ng /(cm2h)まで変化する。Al2O3は溶解速度を大幅に低下させ、B2O3、BaO、CaO、MgO、およびNa2Oは溶解速度をほぼ同程度に上昇させ、SiO2はほとんど効果がない。)

(2b)「This report presents the results of a systematic study of glass fiber dissolution rate and mechanism for glasses in the SiO2-Al2O3-B2O3-CaO-MgO-BaO-Na2O system using glass fiber samples melted and formed in the laboratory to approximately the same uniform diameter.」(16頁左欄23行〜右欄3行)
(当審訳:このレポートは、実験室でほぼ同じ均一な直径に溶融および形成されたガラス繊維サンプルを使用して、SiO2-Al2O3-B2O3-CaO-MgO-BaO-Na2O系におけるガラス繊維の溶解速度とメカニズムの体系的な研究の結果を示している。)

(2c)「2. Experimental procedure and rationale
Glasses were prepared from reagent grade materials by melting in a covered Pt-Rh alloy crucible for 3 h at 1450℃ in an electric furnace. After each hour,the melt was removed from the furnace and stirred briefly to improve glass homogeneity. Fibers of uniform diameter were formed by standard techniques from a one-hole Pt-Rh alloy bushing. The fibers were cut into approximately 1 cm lengths and stored in sealed plastic containers in a desiccator.」(16頁右欄4行〜13行)
(当審訳:2.実験手順と理論的根拠
ガラスは、電気炉内でカバー付きのPt-Rh合金るつぼ内で1450℃で3時間溶融することにより、試薬グレードの材料から調製された。ガラスの均一性を改善するために、1時間ごとに溶融物を炉から取り出して短時間攪拌した。均一な直径の繊維は、1穴のPt-Rh合金ブッシングから標準的な技術で形成された。繊維は約1cmの長さに切断され、デシケーター内の密封されたプラスチック容器に保管された。)

(2d)「

」(18頁)
(表中の関連箇所の当審訳:

2)ガラス組成は、溶融中の揮発を補正することなく、原材料の組成から計算された。ガラス番号18aからcは、同じバルクガラスから異なる時間に製造された繊維のバッチである。)

(2e)「

」(19頁左欄)
(表中の関連箇所の当審訳:

3)繊維密度は、多数の測定値に基づいて表2の組成から計算された。精度は±0.02g/cm3である。)

イ 前記ア(2c)によれば、甲第2号証には、ガラスが、電気炉内でカバー付きのPt-Rh合金るつぼ内で1450℃で3時間溶融することにより、試薬グレードの材料から調製され、ガラスの均一性を改善するために、1時間ごとに溶融物を炉から取り出して短時間攪拌され、均一な直径の繊維が、1穴のPt-Rh合金ブッシングから標準的な技術で形成され、繊維は約1cmの長さに切断され、デシケーター内の密封されたプラスチック容器に保管された繊維が記載されている。
そして、前記ア(2d)のglass no.30のサンプルに注目すると、甲第2号証には、
「ガラスが、電気炉内でカバー付きのPt-Rh合金るつぼ内で1450℃で3時間溶融することにより、試薬グレードの材料から調製され、ガラスの均一性を改善するために、1時間ごとに溶融物を炉から取り出して短時間攪拌され、均一な直径の繊維が、1穴のPt-Rh合金ブッシングから標準的な技術で形成され、繊維は約1cmの長さに切断され、デシケーター内の密封されたプラスチック容器に保管された繊維であって、その組成が、
SiO2:62.94wt%、
Al2O3:0.90wt%、
CaO:8.70wt%、
MgO:1.18wt%、
Na2O:16.06wt%、
K2O:0.18wt%、
B2O3:9.56wt%、
TiO2:0.03wt%、
Fe2O3:0.18wt%、
SrO:0.20wt%
であり、直径が9.08μmである、繊維。」の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されているといえる。

(3)甲第8号証の記載事項及び甲第8号証に記載された発明
ア 甲第8号証には、以下の(8a)〜(8c)の記載がある。
(8a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス繊維からなる芯材と、前記芯材を被覆するガスバリア性を有する外包材とを備え、前記外包材の内部が減圧して密閉され、前記ガラス繊維はガラス組成に少なくとも一種類以上のアルカリ金属酸化物を含み、前記アルカリ金属酸化物は、合計で20重量%以上、40重量%以下の範囲、かつガラス繊維素材の熱伝導率は1W/mK以下である真空断熱材。」

(8b)「【0001】
本発明は、真空断熱材及び真空断熱材の生産システムに関するものである。
・・・
【0004】
このような課題を解決する一手段として、多孔体からなる芯材と、芯材を外包材によって覆い内部を減圧密閉して構成した真空断熱材がある。真空断熱材は、近年、省エネ競争が激化するなか、より一層、断熱性能の優れた真空断熱材が求められている。
・・・
【0012】
さらに、従来の断熱材用ガラス繊維は、長期間に渡って大気中に放置されても品質劣化がないように、高い耐久性や耐水性が不可欠であり、製造上好ましい低粘度特性を実現するためにアルカリ金属酸化物を増加させるといったことは、耐久性が低下する問題からガラス組成には大きな制約があった。・・・
【0014】
本発明は、上記従来の課題を解決するもので、芯材に用いるガラス繊維自身の熱伝導率を低減して断熱性能を向上できるだけでなく、繊維化に伴う熱エネルギーの低減が可能で、さらには、芯材はより生分解性が良好で、製造時、廃棄時にも安全性の高い真空断熱材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
・・・
【0016】
従来の断熱材として利用されるガラス繊維の組成において、アルカリ金属酸化物は16〜18重量%程度である。これは、増加させることで低粘度特性を持つガラスにできるために、成形時の熱エネルギーが低減できる反面、長期に渡って耐久性を確保するためにはこれ以上は増加させられないものであった。
【0017】
それに対して、本発明による真空断熱材の芯材となるガラス繊維は、ガスバリア性を有する外包材に減圧された密封状況下で使用されるため、水分との接触はもとより、大気との接触による影響も格段に低減でき、アルカリ金属酸化物を多く含む低耐久性のガラス繊維が適用可能となる。このことにより、低粘度特性を有するガラス繊維の適用が実現する。」

(8c)「【0026】
請求項1に記載の発明は、ガラス繊維からなる芯材と、・・・かつガラス繊維素材の熱伝導率は1W/mK以下である真空断熱材である。
【0027】
よって、芯材であるガラス繊維の組成に、アルカリ金属酸化物が20重量%〜40重量%と多く含むものであることから、ガラス組成物自体の熱伝導率が大幅に低減できる。
【0028】
また、ガラス組成におけるアルカリ金属酸化物の増加は、粘度特性を著しく低下させ、繊維化及び真空断熱材用の芯材成形に必要な熱エネルギーを大幅に低減できる。さらに、従来のガラス繊維よりもより生分解性を高める効果も有する。
【0029】
以上の作用により、ガラス繊維自体を伝わる固体成分の熱伝導を抑制できるために、真空断熱材の断熱性能がさらに向上するだけでなく、生産性及び安全性を高めることが可能となる。
・・・
【0032】
請求項2に記載の発明は、アルカリ金属酸化物がNa2O及びK2Oのみで構成される請求項1に記載の真空断熱材である。
【0033】
アルカリ金属酸化物の中では、Na2Oが最も汎用的で材料選定上好ましいが、特に溶融性の面では他のアルカリ金属酸化物との混合効果が大きく、中でもK2Oとの混合効果がもっとも一般的で効率がよい。
【0034】
よって、本発明の真空断熱材はNa2O及びK2Oをより多く含むガラス繊維とすることで材料コストと物性面でのバランスがよく、生産性がより高まる。」

イ 前記ア(8a)によれば、甲第8号証には、真空断熱材の芯材であるガラス繊維であって、前記ガラス繊維はガラス組成に少なくとも一種類以上のアルカリ金属酸化物を含み、前記アルカリ金属酸化物は、合計で20重量%以上、40重量%以下の範囲、かつガラス繊維素材の熱伝導率は1W/mK以下であるガラス繊維が記載されている。
すると、甲第8号証には、
「真空断熱材の芯材であるガラス繊維であって、前記ガラス繊維はガラス組成に少なくとも一種類以上のアルカリ金属酸化物を含み、前記アルカリ金属酸化物は、合計で20重量%以上、40重量%以下の範囲、かつガラス繊維素材の熱伝導率は1W/mK以下である、ガラス繊維。」の発明(以下、「甲8発明」という。)が記載されているといえる。

2 甲第1号証を主引用例とした場合について
(1)本件発明2について
ア 本件発明2と甲1発明1とを対比すると、甲1発明1における「繊維」は、本件発明2における「グラスウール」に相当し、甲1発明1において、「その組成が、SiO2:62.78wt%、Al2O3:0.88wt%」であることは、本件発明2において、「グラスウール」の「ガラス組成」が「SiO2:60.0質量%以上65.0質量%以下、Al2O3:0.5質量%以上2.0質量%以下」であることを満たす。
すると、本件発明2と甲1発明1とは、
「以下のガラス組成を有する、グラスウール:
SiO2:60.0質量%以上65.0質量%以下、
Al2O3:0.5質量%以上2.0質量%以下。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

・相違点1:本件発明2は、「グラスウール」の「SiO2」及び「Al2O3」以外の「ガラス組成」が、「Na2O及びK2O:14.0質量%以上16.5質量%以下、MgO及びCaO:9.0質量%以上11.5質量%以下、B2O3:5.0質量%以上8.0質量%以下、その他:残部」であるのに対して、甲1発明1は、「CaO:8.69wt%、MgO:2.57wt%、Na2O:14.33wt%、K2O:0.40wt%、B2O3:9.94wt%、Fe2O3:0.17wt%」である点。

イ 以下、前記アの相違点1が実質的な相違点であるか否かについて検討すると、本件発明2における「B2O3」の含有量が「5.0質量%以上8.0質量%以下」であるのに対して、甲1発明1における「B2O3」の含有量は「9.94wt%」であるから、本件発明2と甲1発明1とは少なくとも「B2O3」の含有量が相違するので、前記相違点1は実質的な相違点である。

ウ 次に、前記相違点1の容易想到性について検討すると、前記1(1)ア(1a)〜(1e)によれば、甲1発明1に係る「グラスウール」は、生理食塩水中の試験管内の繊維溶解速度を測定するための新しい方法である、繊維径の減少の直接光学測定に適用されるものである。
すなわち、前記繊維径の減少の直接光学測定は、前処理なしで、元の繊維サンプルから引き出された繊維に直接適用できるものであり、前記「グラスウール」は、幅広い溶解速度を持つさまざまなガラス質ケイ酸塩繊維の一つとして、前記繊維径の減少の直接光学測定に供されるものであり、この新しい方法で測定された溶解時間は、SEM及び従来の質量損失と溶液分析技術の結果とよく一致するものである。

エ 前記ウによれば、甲1発明1に係る「グラスウール」は、生理食塩水中の試験管内の繊維溶解速度を測定するための新しい方法である繊維径の減少の直接光学測定に供されるサンプルの一つに過ぎないのであって、その測定結果として、前記新しい方法で測定された溶解時間がSEM及び従来の質量損失と溶液分析技術の結果とよく一致することが既に確かめられているのであるから、前記「グラスウール」の「ガラス組成」を更に改変することはそもそも想定されないので、甲1発明1において、「B2O3」の含有量を「9.94wt%」から「5.0質量%以上8.0質量%以下」とする動機づけは存在しない。
そうすると、甲第7〜8号証に記載された事項にかかわらず、甲1発明1において「B2O3」の含有量を「5.0質量%以上8.0質量%以下」とすることは、当業者が容易になし得ることではないから、甲1発明1において前記相違点1に係る本件発明2の発明特定事項を有するものとすることも、当業者が容易になし得ることではないので、本件発明2は、甲1発明1及び甲第7〜8号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
更に、甲1発明2について検討しても事情は同じである。

(2)本件発明3について
ア 前記(1)アと同様にして本件発明3と甲1発明1とを対比すると、本件発明3と甲1発明1とは、
「以下のガラス組成を有する、グラスウール:
SiO2:62.0質量%以上64.0質量%以下、
Na2O:14.0質量%以上16.0質量%以下、
MgO:2.0質量%以上4.0質量%以下。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

・相違点1’:本件発明3は、「グラスウール」の「SiO2」、「Na2O」及び「MgO」以外の「ガラス組成」が、「Al2O3:1.2質量%以上1.8質量%以下」、「K2O:0.5質量%以上2.0質量%以下、Na2O及びK2O:14.5質量%以上16.5質量%以下」、「CaO:6.0質量%以上8.0質量%以下、MgO及びCaO:8.0質量%以上11.5質量%以下、B2O3:6.0質量%以上8.0質量%以下、その他:残部」であるのに対して、甲1発明1は、「Al2O3:0.88wt%、CaO:8.69wt%」、「K2O:0.40wt%、B2O3:9.94wt%、Fe2O3:0.17wt%」である点。

イ 以下、前記アの相違点1’が実質的な相違点であるか否かについて検討すると、本件発明3における「B2O3」の含有量が「6.0質量%以上8.0質量%以下」であるのに対して、甲1発明1における「B2O3」の含有量は「9.94wt%」であるから、本件発明3と甲1発明1とは少なくとも「B2O3」の含有量が相違するので、前記相違点1’は実質的な相違点である。
すると、前記(1)エに記載したのと同様の理由により、甲1発明1において前記相違点1’に係る本件発明3の発明特定事項を有するものとすることも、当業者が容易になし得ることではないので、本件発明3は、甲1発明1及び甲第7〜8号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
更に、甲1発明2について検討しても事情は同じである。

(3)本件発明4〜9について
本件発明4〜9は、いずれも、本件発明2又は本件発明3の発明特定事項を有するものであって、本件発明4〜9と甲1発明1とを対比した場合、少なくとも、前記(1)アの相違点1又は前記(2)アの相違点1’の点で実質的に相違する。
すると、前記(1)エ及び(2)イに記載したのと同様の理由により、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明4、5及び7が甲1発明1であるとはいえないし、本件発明4〜9は、甲1発明1に基づいて、または、甲1発明1及び甲第7〜8号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
更に、甲1発明2について検討しても事情は同じである。

(4)申立人の主張について
ア 申立人は、ガラス繊維の技術分野において、耐水性、製法の進歩とコストダウンの観点からB2O3の含有量が多すぎないように調製することは本件特許の優先日当時の技術常識であって、本件発明2及び3が当業者が予測できない顕著な効果を奏するものとも認められないから、本件発明2及び3は甲第1号証に記載された発明及び前記技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができた旨を主張する(上申書6ページ3行〜下から2行、7ページ下から4行〜8ページ下から4行、申立人意見書12ページ4行〜13ページ2行、13ページ下から2行〜15ページ1行)。

イ ところが、甲第1号証に記載された発明において、「グラスウール」の「ガラス組成」を改変することはそもそも想定されないことは前記(1)エに記載のとおりであって、ガラス繊維の技術分野において、耐水性、製法の進歩とコストダウンの観点からB2O3の含有量が多すぎないように調製することが本件特許の優先日当時の技術常識であったとしても、甲第1号証に記載された発明においてB2O3の含有量が多すぎないように調製する理由がもともと存在しないのであるから、本件発明2及び3は、甲第1号証に記載された発明及び前記技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないので、申立人の前記アの主張は採用できない。

(5)小括
したがって、本件発明4、5及び7は、甲第1号証に記載された発明であるとも、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものもいえないし、本件発明2〜9が、甲第1号証に記載された発明及び甲第7〜8号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえないので、前記第5の1(1)の取消理由及び前記第4の1(1)、同2(1)の特許異議申立理由はいずれも理由がない。

3 甲第2号証を主引用例とした場合について
(1)本件発明2について
ア 本件発明2と甲2発明とを対比すると、甲2発明における「繊維」は、本件発明2における「グラスウール」に相当し、甲2発明において、「その組成が、SiO2:62.94wt%、Al2O3:0.90wt%」であることは、本件発明2において、「グラスウール」の「ガラス組成」が「SiO2:60.0質量%以上65.0質量%以下、Al2O3:0.5質量%以上2.0質量%以下」であることを満たす。
すると、本件発明2と甲2発明とは、
「以下のガラス組成を有する、グラスウール:
SiO2:60.0質量%以上65.0質量%以下、
Al2O3:0.5質量%以上2.0質量%以下。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

・相違点2:本件発明2は、「グラスウール」の「SiO2」及び「Al2O3」以外の「ガラス組成」が、「Na2O及びK2O:14.0質量%以上16.5質量%以下、MgO及びCaO:9.0質量%以上11.5質量%以下、B2O3:5.0質量%以上8.0質量%以下、その他:残部」であるのに対して、甲2発明は、「CaO:8.70wt%、MgO:1.18wt%、Na2O:16.06wt%、K2O:0.18wt%、B2O3:9.56wt%、TiO2:0.03wt%、Fe2O3:0.18wt%、SrO:0.20wt%」である点。

イ 以下、前記アの相違点2が実質的な相違点であるか否かについて検討すると、本件発明2における「B2O3」の含有量が「5.0質量%以上8.0質量%以下」であるのに対して、甲2発明における「B2O3」の含有量は「9.56wt%」であるから、本件発明2と甲2発明とは少なくとも「B2O3」の含有量が相違するので、前記相違点2は実質的な相違点である。

ウ 次に、前記相違点2の容易想到性について検討すると、前記1(2)ア(2a)〜(2b)によれば、甲2発明に係る「グラスウール」は、実験室でガラス繊維の溶解速度を肺に存在すると考えられる条件に近い条件下で測定するために開発された技術に適用された、SiO2-Al2O3-B2O3-CaO-MgO-BaO-Na2O系の30のガラス組成物の一つであって、実験室でほぼ同じ均一な直径に溶融および形成されたガラス繊維サンプルを使用して、SiO2-Al2O3-B2O3-CaO-MgO-BaO-Na2O系におけるガラスの溶解速度とメカニズムの体系的な研究の結果を示すためのものである。
そして、その測定結果として、溶解速度が組成によって0.9から887ng /(cm2h)まで変化し、Al2O3は溶解速度を大幅に低下させ、B2O3、BaO、CaO、MgO、およびNa2Oは溶解速度をほぼ同程度に上昇させ、SiO2はほとんど効果がないことが明らかになったものである。

エ 前記ウによれば、甲2発明に係る「グラスウール」は、実験室でガラス繊維の溶解速度を肺に存在すると考えられる条件に近い条件下で測定するために開発された技術に適用されるガラス繊維サンプルの一つに過ぎないのであって、その測定結果として、溶解速度が組成によって0.9から887ng /(cm2h)まで変化し、Al2O3は溶解速度を大幅に低下させ、B2O3、BaO、CaO、MgO、およびNa2Oは溶解速度をほぼ同程度に上昇させ、SiO2はほとんど効果がないことが既に明らかになったのであるから、当該「グラスウール」の「ガラス組成」を更に改変することはそもそも想定されないので、甲2発明において、「B2O3」の含有量を「9.56wt%」から「5.0質量%以上8.0質量%以下」とする動機づけは存在しない。
そうすると、甲第7〜8号証に記載された事項にかかわらず、甲2発明において「B2O3」の含有量を「5.0質量%以上8.0質量%以下」とすることは、当業者が容易になし得ることではないから、甲2発明において前記相違点2に係る本件発明2の発明特定事項を有するものとすることも、当業者が容易になし得ることではないので、本件発明2は、甲2発明及び甲第7〜8号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件発明3について
ア 前記(1)アと同様にして本件発明3と甲2発明とを対比すると、本件発明3と甲2発明とは、
「以下のガラス組成を有する、グラスウール:
SiO2:62.0質量%以上64.0質量%以下、
MgO:2.0質量%以上4.0質量%以下。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

・相違点2’:本件発明3は、「グラスウール」の「SiO2」及び「MgO」以外の「ガラス組成」が、「Al2O3:1.2質量%以上1.8質量%以下、Na2O:14.0質量%以上16.0質量%以下、K2O:0.5質量%以上2.0質量%以下、Na2O及びK2O:14.5質量%以上16.5質量%以下」、「CaO:6.0質量%以上8.0質量%以下、MgO及びCaO:8.0質量%以上11.5質量%以下、B2O3:6.0質量%以上8.0質量%以下、その他:残部」であるのに対して、甲2発明は、「Al2O3:0.90wt%、CaO:8.70wt%」、「Na2O:16.06wt%、K2O:0.18wt%、B2O3:9.56wt%、TiO2:0.03wt%、Fe2O3:0.18wt%、SrO:0.20wt%」である点。

イ 以下、前記アの相違点2’が実質的な相違点であるか否かについて検討すると、本件発明3における「B2O3」の含有量が「6.0質量%以上8.0質量%以下」であるのに対して、甲2発明における「B2O3」の含有量は「9.56wt%」であるから、本件発明3と甲2発明とは少なくとも「B2O3」の含有量が相違するので、前記相違点2’は実質的な相違点である。
すると、前記(1)エに記載したのと同様の理由により、甲2発明において、前記相違点2’に係る本件発明3の発明特定事項を有するものとすることも、当業者が容易になし得ることではないので、本件発明3は、甲2発明及び甲第7〜8号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)本件発明4〜9について
本件発明4〜9は、いずれも、本件発明2又は本件発明3の発明特定事項を有するものであって、本件発明4〜9と甲2発明とを対比した場合、少なくとも、前記(1)アの相違点2又は前記(2)アの相違点2’の点で実質的に相違する。
すると、前記(1)エ及び(2)イに記載したのと同様の理由により、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明4及び7が甲2発明であるとはいえないし、本件発明4〜9は、甲2発明に基づいて、または、甲2発明及び甲第7〜8号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)申立人の主張について
ア 申立人は、前記2(4)アに記載したのと同様の理由により、ガラス繊維の技術分野において、耐水性、製法の進歩とコストダウンの観点からB2O3の含有量が多すぎないように調製することは、本件特許の優先日当時の技術常識であって、本件発明2及び3が当業者が予測できない顕著な効果を奏するものとも認められないから、本件発明2及び3は甲第2号証に記載された発明及び前記技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができた旨を主張する(上申書6ページ最終行〜7ページ下から6行、8ページ下から3行〜9ページ下から3行、申立人意見書13ページ3行〜下から3行、15ページ2行〜16ページ1行)。

イ ところが、甲第2号証に記載された発明において、「グラスウール」の「ガラス組成」を改変することはそもそも想定されないことは前記(1)エに記載のとおりであるから、前記2(4)イに記載したのと同様の理由により、本件発明2及び3は、甲第2号証に記載された発明及び前記技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないので、申立人の前記アの主張は採用できない。

(5)小括
したがって、本件発明4及び7は、甲第2号証に記載された発明であるとも、甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものもいえないし、本件発明2〜9は、甲第2号証に記載された発明及び甲第7〜8号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないので、前記第5の1(2)の取消理由及び前記第4の1(2)、同2(2)の特許異議申立理由はいずれも理由がない。

4 甲第8号証を主引用例とした場合について
(1)本件発明2について
ア 本件発明2と甲8発明とを対比すると、甲8発明における「ガラス繊維」は、本件発明2における「グラスウール」に相当する。
すると、本件発明2と甲2発明とは、
「グラスウール。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

・相違点3:本件発明2は、「グラスウール」の「ガラス組成」が、「SiO2:60.0質量%以上65.0質量%以下、Al2O3:0.5質量%以上2.0質量%以下、Na2O及びK2O:14.0質量%以上16.5質量%以下、MgO及びCaO:9.0質量%以上11.5質量%以下、B2O3:5.0質量%以上8.0質量%以下、その他:残部。」であるのに対して、甲8発明は、「ガラス組成に少なくとも一種類以上のアルカリ金属酸化物を含み、前記アルカリ金属酸化物は、合計で20重量%以上、40重量%以下の範囲」である点。

イ 以下、前記アの相違点3の容易想到性について検討すると、前記1(3)ア(8b)、(8c)によれば、甲8発明は、従来の断熱材用ガラス繊維は、長期間に渡って大気中に放置されても品質劣化がないように、高い耐久性や耐水性が不可欠であり、製造上好ましい低粘度特性を実現するために「アルカリ金属酸化物」を増加させるといったことは、耐久性が低下する問題からガラス組成には大きな制約があった、といった課題を解決するものである。
すなわち、従来の断熱材として利用されるガラス繊維の組成においては、「アルカリ金属酸化物」は16〜18重量%程度であり、これは、増加させることで低粘度特性を持つガラスにできるために、成形時の熱エネルギーが低減できる反面、長期に渡って耐久性を確保するためにはこれ以上は増加させられないものであったのを、甲8発明による「ガラスウール」は、組成に、「アルカリ金属酸化物」を20重量%〜40重量%と多く含むことから、ガラス組成物自体の熱伝導率を大幅に低減でき、ガラス組成におけるアルカリ金属酸化物の増加は、粘度特性を著しく低下させ、繊維化及び真空断熱材用の芯材成形に必要な熱エネルギーを大幅に低減でき、更に、従来のガラス繊維よりもより生分解性を高める効果も有するものであり、以上の作用により、ガラス繊維自体を伝わる固体成分の熱伝導を抑制できるために、真空断熱材の断熱性能がさらに向上するだけでなく、生産性及び安全性を高めることが可能となるものである。
そして、「アルカリ金属酸化物」の中では、Na2Oが最も汎用的で材料選定上好ましく、特に溶融性の面では他のアルカリ金属酸化物との混合効果が大きく、中でもK2Oとの混合効果がもっとも一般的で効率がよいので、甲8発明の「ガラスウール」は、「Na2O及びK2O」をより多く含むものとすることで、材料コストと物性面でのバランスがよく、生産性がより高まるものである。

ウ 前記イによれば、甲8発明に係る「グラスウール」は、「アルカリ金属酸化物」を「合計で20重量%以上、40重量%以下の範囲」と多く含むことで、真空断熱材の断熱性能がさらに向上するだけでなく、生産性及び安全性を高めることが可能となるものであって、前記「アルカリ金属酸化物」として「Na2O及びK2O」をより多く含むものとすることで、材料コストと物性面でのバランスがよく、生産性がより高まる、といった特長を有するものとなるものである。
そして、そのような甲8発明において、「Na2O及びK2O」の含有量を、「合計で20重量%以上、40重量%以下の範囲」よりも少ない「14.0質量%以上16.5質量%以下」とすることは、甲8発明の前記特長を損なうこととなるから、当業者が容易になし得ることではなく、このことは、甲第1〜7号証に記載された事項に左右されるものでもない。

エ 前記ウによれば、甲第1〜7号証に記載された事項にかかわらず、甲8発明における「Na2O及びK2O」の含有量を「14.0質量%以上16.5質量%以下」とすることは、当業者が容易になし得ることではないから、甲8発明において前記相違点3に係る本件発明2の発明特定事項を有するものとすることも、当業者が容易になし得ることではないので、本件発明2は、甲8発明及び甲第1〜7号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件発明3について
ア 前記(1)アと同様にして本件発明3と甲8発明とを対比すると、本件発明3と甲2発明とは、
「グラスウール。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

・相違点3’:本件発明3は、「グラスウール」の「ガラス組成」が、「SiO2:62.0質量%以上64.0質量%以下、Al2O3:1.2質量%以上1.8質量%以下、Na2O:14.0質量%以上16.0質量%以下、K2O:0.5質量%以上2.0質量%以下、Na2O及びK2O:14.5質量%以上16.5質量%以下、MgO:2.0質量%以上4.0質量%以下、CaO:6.0質量%以上8.0質量%以下、MgO及びCaO:8.0質量%以上11.5質量%以下、B2O3:6.0質量%以上8.0質量%以下、その他:残部。」であるのに対して、甲8発明は、「ガラス組成に少なくとも一種類以上のアルカリ金属酸化物を含み、前記アルカリ金属酸化物は、合計で20重量%以上、40重量%以下の範囲」である点。

イ 以下、前記アの相違点3’の容易想到性について検討すると、前記相違点3’は、「Na2O及びK2O」の含有量の相違を含むものである点で、前記(1)アの相違点3と同様であるから、前記(1)ウに記載したのと同様の理由により、甲8発明において前記相違点3’に係る本件発明3の発明特定事項を有するものとすることも、当業者が容易になし得ることではないので、本件発明3も、甲8発明及び甲第1〜7号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)本件発明4〜9について
本件発明4〜9は、いずれも、本件発明2又は本件発明3の発明特定事項を有するものであって、本件発明4〜9と甲2発明とを対比した場合、少なくとも、前記(1)アの相違点3又は前記(2)アの相違点3’の点で相違する。
そうすると、前記(1)ウ及び(2)イに記載したのと同様の理由により、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明4〜9も、甲8発明及び甲第1〜7号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

エ 小括
したがって、本件発明2〜9は、甲第8号証に記載された発明及び甲第1〜7号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないので、前記第4の2(3)の特許異議申立理由は理由がない。

5 まとめ
よって、前記第5の取消理由及び前記第4の特許異議申立理由はいずれも理由がない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、請求項2〜9に係る特許は、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された申立理由によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項2〜9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、本件訂正により請求項1は削除されたので、請求項1に係る特許異議の申立てについては対象となる特許が存在しないものとなったから、特許法第120条の8第1項で準用する同法135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】(削除)
【請求項2】
以下のガラス組成を有する、グラスウール:
SiO2:60.0質量%以上65.0質量%以下、
Al2O3:0.5質量%以上2.0質量%以下、
Na2O及びK2O:14.0質量%以上16.5質量%以下、
MgO及びCaO:9.0質量%以上11.5質量%以下、
B2O3:5.0質量%以上8.0質量%以下、
その他:残部。
【請求項3】
以下のガラス組成を有する、グラスウール:
SiO2:62.0質量%以上64.0質量%以下、
Al2O3:1.2質量%以上1.8質量%以下、
Na2O:14.0質量%以上16.0質量%以下、
K2O:0.5質量%以上2.0質量%以下、
Na2O及びK2O:14.5質量%以上16.5質量%以下、
MgO:2.0質量%以上4.0質量%以下、
CaO:6.0質量%以上8.0質量%以下、
MgO及びCaO:8.0質量%以上11.5質量%以下、
B2O3:6.0質量%以上8.0質量%以下、
その他:残部。
【請求項4】
平均繊維径が、0.5μm以上2.0μm末満である、請求項2又は3に記載のグラスウール。
【請求項5】
樹脂バインダを含んでいない、請求項2〜4のいずれか一項に記載のグラスウール。
【請求項6】
シート状の成形体である、請求項2〜5のいずれか一項に記載のグラスウール。
【請求項7】
JIS A 1475に規定するチャンバー法に準拠して測定した場合の7日目の平衡含水率が、1.0質量%以下である、請求項2〜5のいずれか一項に記載のグラスウール。
【請求項8】
請求項2〜7のいずれか一項に記載のグラスウール及び前記グラスウールを封入する外皮を含む、真空断熱材。
【請求項9】
以下を含む、請求項2〜7のいずれか一項に記載のグラスウールの製造方法であって、
カレット及びガラス組成調整用の添加剤を含むガラス原料を溶融してガラス溶融物を得ること;及び
前記ガラス溶融物を繊維化すること。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-08-09 
出願番号 P2018-539209
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (C03C)
P 1 651・ 851- YAA (C03C)
P 1 651・ 857- YAA (C03C)
P 1 651・ 113- YAA (C03C)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 宮澤 尚之
特許庁審判官 関根 崇
金 公彦
登録日 2021-03-30 
登録番号 6860582
権利者 サン−ゴバン イゾベール
発明の名称 グラスウール及びそれを用いた真空断熱材  
代理人 三橋 真二  
代理人 青木 篤  
代理人 関根 宣夫  
代理人 関根 宣夫  
代理人 青木 篤  
代理人 三橋 真二  

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