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審決分類 審判 全部申し立て 特174条1項  A23L
審判 全部申し立て 2項進歩性  A23L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A23L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23L
管理番号 1390577
総通号数 11 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-11-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-12-16 
確定日 2022-11-01 
異議申立件数
事件の表示 特許第6886137号発明「ごま含有液状調味料及びごま含有液状調味料のごま風味を向上させる方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6886137号の請求項1ないし14に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6886137号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし14に係る特許についての出願は、平成28年9月2日の出願であって、令和3年5月18日にその特許権の設定登録(請求項の数14)がされ、同年6月16日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、同年12月16日に特許異議申立人 森田 弘潤(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし14)がされ、令和4年4月21日付けで取消理由が通知され、同年6月24日に特許権者 株式会社Mizkan Holdings及び株式会社Mizkan(以下、「特許権者」という。)から意見書が提出され、同年7月21日付けで特許異議申立人に対し審尋がされ、同年8月12日に特許異議申立人から回答書が提出されたものである。

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし14に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいい、総称して「本件特許発明」という。)は、それぞれ、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1ないし14に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
9質量%以下のごま及び食用油脂を含有する液状調味料であって、
香気成分として、
A)2−エチルピラジン及び/又はC)ヘキサナールと、
B)4−ビニル−2メトキシフェノールとを含有し、
前記A〜Cの香気成分の合計含有量が2ppm以上50ppm以下であると共に、
前記A〜Cの香気成分の各濃度が下記式(1)を満たす、ごま含有液状調味料。
10a+c < 4b < 1000a+100c (1)
(式中、
aは、A)2−エチルピラジンのppm含有量を表し、
bは、B)4−ビニル−2メトキシフェノールのppm含有量を表し、
cは、C)ヘキサナールのppm含有量を表す。)
【請求項2】
香気成分として、
D)2−アセチルピラジン
を更に含有すると共に、
前記A〜Dから選択される香気成分の各濃度が下記式(2)を満たす、請求項1に記載のごま含有液状調味料。
10a+10d+c < 4b < 1000a+1000d+100c (2)
(式中、
aは、A)2−エチルピラジンのppm含有量を表し、
bは、B)4−ビニル−2メトキシフェノールのppm含有量を表し、
cは、C)ヘキサナールのppm含有量を表し、
dは、D)2−アセチルピラジンのppm含有量を表す。)
【請求項3】
前記香気成分が、固相マイクロ抽出(Solid Phase Micro Extraction:SPME)−ガスクロマトグラフィー(Gas Chromatography:GC)−質量スペクトル分析(Mass Spectrometry:MS)法による測定において、ヘッドスペースに検出される、請求項1又は2に記載のごま含有液状調味料。
【請求項4】
香気成分として少なくとも
A)2−エチルピラジン
B)4−ビニル−2メトキシフェノール
を含有する、請求項1〜3の何れか一項に記載のごま含有液状調味料。
【請求項5】
ごまが、100℃以上で焙煎された状態の焙煎ごまを含有する、請求項1〜4の何れか一項に記載のごま含有液状調味料。
【請求項6】
液状調味料が更に酢酸を含有する、請求項1〜5の何れか一項に記載のごま含有液状調味料。
【請求項7】
液状調味料が乳化液状調味料である、請求項1〜6の何れか一項に記載のごま含有液状調味料。
【請求項8】
ごま含有液状調味料におけるごま風味を向上させる方法であって、
9質量%以下のごま及び食用油脂を含有する液状調味料において、更に香気成分として、
A)2−エチルピラジン及び/又はC)ヘキサナールと、
B)4−ビニル−2メトキシフェノールとを含有し、
前記A〜Cの香気成分の合計含有量が2ppm以上50ppm以下であると共に、
前記A〜Cの香気成分の各濃度が下記式(1)を満たすようにすることを含む方法。
10a+c < 4b < 1000a+100c (1)
(式中、
aは、A)2−エチルピラジンのppm含有量を表し、
bは、B)4−ビニル−2メトキシフェノールのppm含有量を表し、
cは、C)ヘキサナールのppm含有量を表す。)
【請求項9】
香気成分として、
D)2−アセチルピラジン
を更に含有させると共に、
前記A〜Dから選択される香気成分の各濃度が下記式(2)を満たすようにすることを更に含む、請求項8に記載の方法。
10a+10d+c < 4b < 1000a+1000d+100c (2)
(式中、
aは、A)2−エチルピラジンのppm含有量を表し、
bは、B)4−ビニル−2メトキシフェノールのppm含有量を表し、
cは、C)ヘキサナールのppm含有量を表し、
dは、D)2−アセチルピラジンのppm含有量を表す。
【請求項10】
前記香気成分が、固相マイクロ抽出(Solid Phase Micro Extraction:SPME)−ガスクロマトグラフィー(Gas Chromatography:GC)−質量スペクトル分析(Mass Spectrometry:MS)法による測定において、ヘッドスペースに検出される、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
ごま含有液状調味料が、前記香気成分として少なくとも
A)2−エチルピラジン
B)4−ビニル−2メトキシフェノール
を含有する、請求項8〜10の何れか一項に記載の方法。
【請求項12】
ごまが、100℃以上で焙煎された状態の焙煎ごまを含有する、請求項8〜11の何れか一項に記載の方法。
【請求項13】
液状調味料が更に酢酸を含有する、請求項8〜12の何れか一項に記載の方法。
【請求項14】
液状調味料が乳化液状調味料である、請求項8〜13の何れか一項に記載の方法。」

第3 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
令和3年12月16日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。

1 申立理由1(新規事項)
本件特許の請求項1ないし14に係る特許は、下記の点で特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第1号に該当し取り消すべきものである。

・本件特許発明1(及びその従属項である本件特許発明2乃至7)と、本件特許発明8(及びその従属項である本件特許発明9乃至14)に係る「9質量%以下のごま及び食用油脂を含有する液状調味料であって」との規定は、令和2年9月3日の拒絶理由通知書で通知された、「引用文献1、2に記載のごま含有調味料には、ごま原料が20%含まれているため、請求項1における香気成分の合計含有量及び式(1)を満たす蓋然性が高い」という拒絶理由を回避する目的で、令和3年1月14日付け手続補正書によって加えられたものであり、特許権者は、上記手続補正書と同日付けで提出された意見書において、「本補正は、当初明細書の段落[0072]〜[0084](標準資料及びそれを用いた実施例1〜11のごま含有調味料試料の総ごま含有量が9質量%である)及び段落[0047](「ごまの含有量は特に制限されない」)に基づくものです」と述べている。
補正の根拠とされている段落【0072】〜【0084】で現に採用されている「9質量%」という数値は、単に本件特許発明の一態様としてその配合量になるように調整したという以上の意味を持つものではなく、一般記載からも「9質量%」という配合量に関し、その上限値としての技術的意味を読み取ることは到底出来ない。無論、「9質量%以下」という技術的事項が、明細書等に明示的に記載されているとも、その記載から自明である事項であるとも認められない。従って、「9質量%以下」という発明特定事項を追加する補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものと言えないことは明らかである。

2 申立理由2(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし14に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。

(1)風味試験の評価項目について
本件特許発明の課題は「ごま特有の甘みが高められ、ごまの味わいに優れたごま含有液状調味料、並びにごま含有液状調味料のごま風味を簡便に向上させる方法を提供すること」(段落【0011】)であり、本件特許発明の効果は「本発明によれば、ごま特有の甘みが高められ、ごまの味わいに優れたごま含有液状調味料が提供される。また、本発明の方法によれば、ごま含有液状調味料のごま特有の甘みを高め、ごまの味わいを簡便に向上させることができる」(段落【0015】)というものである。
そして、本件明細書の段落【0070】以降に実施例・比較例が示され、段落【0096】以降に各試料(ごま含有調味料試料)の評価手順について記載されており、そこでは「ごま特有の味わい」、「ごま風味」、「香ばしさ」、「酸味」、「オイリーな風味」、「ごまの甘み」、「いやな後味」及び「味の持続性」といった8項目について、5点満点で評価を行った旨記載されている。
そもそも、「香ばしさ」、「酸味」、「オイリーな香り」、「いやな後味」及び「味の持続性」といった評価項目については本件特許発明の効果とどのような関係にあるのか不明と言わざるを得ないが、その点を措くとしても、評価項目のうちどの項目がどの程度の点数であれば本件特許発明の効果を奏するのか、本件明細書には全く記載がないため、例えば、評価が「2」が一つでもあれば比較例であるのか否かや、評価が「4」のもの、具体的には「ごま特有の味わい」が「やや感じられ」、「ごま風味」が「やや感じられ」、「ごまの甘み」が「やや好ましく感じられる」ものについて、本件特許発明の効果である「ごま特有の甘みが高められ、ごまの味わいに優れたごま含有液状調味料」であるのかどうか、理解することができない。特に、評価が「3」のもの(実施例2、4、9)は、全ての評価において「どちらでもない」ものであり、明らかに本件特許発明の効果を奏さないものであるにもかかわらず、特許請求の範囲に記載の請求項はこれらの実施例を包含する規定となっている。
以上のとおり、本件明細書に記載の実施例・比較例は、その評価項目と発明の課題解決との間の技術的関連性が不明なものを含むことに加え、本件特許発明の課題を明らかに解決し得ない態様をも含んでおり、サポート要件を充足しないことは明らかである。

(2)風味試験の評価基準について
知財高裁平成29年6月8日判決(平成28年(行ケ)第10147号・いわゆる「伊藤園トマトジュース事件」最高裁ホームページ参照)においては、サポート要件を充足するための官能評価の手法に関し、パネラー間で評価基準が一定になるように、明確な評価基準を示した上で、加点及び減点の基準を共通にするなどの手順が踏まれなければならないことが判示されている。
然るところ、本件特許発明に係る風味評価試験について、本件明細書の段落【0105】に「評価結果の集計は、のべ10名のスコアの算術平均値を算出し、小数第一位の数字が5以上であれば切り上げ、4以下であれば切り捨てして、数値を算出した」との記載があり、段落【0106】に「官能検査は訓練された官能検査員によって実施した。官能検査員の訓練に際しては、下記A)〜C)のような識別訓練を実施し、特に成績が優秀な検査員を選抜し、検査員のベ10名によって客観性のある官能検査を行った」との記載があるものの、「特に成績が優秀な検査員のべ10名」において、段落【0096】乃至【0104】に示される 評価での加点の基準を共通にするなどの手順が踏まれているような形跡は存在せず、検査員間で評価が異なった場合に何を基準として評価結果を決定するかについても全く記載がない。
特に、「ごま特有の味わい」と「ごま風味」とはどのように異なる概念であるか、本件明細書中には全く説明がなされていない。甲第4号証によれば「風味」とは「あじ。特に、上品なあじわい」という意味であり、「風味」と「味わい」とは同義であると解するほかなく、評価基準が不明確である。このため、例えば実施例8は「ごま特有の味わい」は「4 :ごま特有の味わいがやや感じられる」であり、「ごま風味」は「3:どちらでもない」となっており、同実施例の調味料は「ごま特有の味わいはやや感じられるが、ごま風味は(感じられる又は感じられないの)どちらでもない」という客観的に矛盾した評価結果となっていると言わざるを得ない。
また、「ごまの甘み」に係る評価については、「好ましく感じられる」か否かによるものであり、何を以って好ましいと評価するかについても一切記載がないため、「好ましい」という極めて主観的な評価が検査員それぞれにおいてなされている可能性が高く、「客観性のある官能検査を行った」(段落【0106】)とは到底いえない。
以上のとおり、上記の試験は、明らかに伊藤園トマトジュース事件判決の趣旨に反するものであり、その意味においても、ここでの試験結果が、本件特許発明のサポートとなり得ないことは明らかと言える。

(3)「9質量%以下のごま・・・を含有する」という規定が実施例でサポートされていないことについて
本件明細書においては、ごま含有量が9質量%の実施例しか開示されておらず、特許請求の範囲に記載の「9質量%以下」の含有量(ごま含有量が9質量%よりも少ない場合)において本件特許発明の課題を奏することについて具体例が開示されていない。
すなわち、上記(2)において述べたとおり、本件明細書の段落【0072】乃至【0084】(標準試料及びそれを用いた実施例1〜11)から読み取れるのは、総ごま含有量が9質量%である標準試料に実施例1〜11に記載の各香気成分を添加した各ごま含有調味料試料における効果にすぎない。その上、ここで示されているのはその総ごま含有量が9質量%の例のみであり、それより少ない場合の例も多い場合の例も全く開示されていない。従って、ごまの配合量を9質量%より減らした場合それぞれについて、本件特許発明の技術的課題との関係でその評価結果がどのように変化するのか全く理解することが出来ない。
現に、「9質量%以下のごま・・・を含有する」と規定されており、その下限値の規定がないということは、言うまでもなくごまの配合量が9質量%よりも少ない場合(下限値が存在しないことから、無論、9質量%に近い場合のみならず0質量%に近い場合も含まれる)の全てにおいて、その技術的課題を解決できると認識できなければサポート要件を充足するとは認められない。特に、本件特許発明は、従来の香気成分を特定し、これを調味料や飲食品に添加するという試みでは、ごまの味わい、特にごま特有の甘みを有するものではなかったという背景事情に鑑み、ごま特有の甘みが高められ、ごまの味わいに優れたごま含有液状調味料を提供することをその技術的課題とするものであるが、ここでのごま特有の味わいや甘みといった要素は、ごまの配合量が少なくなるほどその課題解決が難しくなることが容易に推測できる。従って、特にその課題解決が難しくなるごまの配合量が少ない場合についてのサポートが、厳密に求められるべきことは言うまでもない。
しかしながら、言うまでもなく、ごまの香気成分としては様々なものが存在し、A)2−エチルピラジン及び/又はC)ヘキサナールと、B)4−ビニル−2メトキシフェノールというごく限られた成分の合計量と割合を大雑把に規定するのみで、ごまの配合量がどんなに少なくなっても、その甘みや味わいに必要な香気を十分に補い、ごまの味わい等に優れたごま含有液状調味料が提供できるなどという技術常識は存在しない。換言すれば、ごま含有調味料における、ごまの甘み、味わい、風味などは、ごまに含まれるさまざま成分が複雑に絡み合って形成されていると考えられ、また後述のとおり、ごまの種類や、いりごま、ねりごま、すりごまなどごまの形体によってもその風味等は大きく異なるところ、本件発明に規定されるような高々2種類や3種類の香気成分を補うのみで、ごま自体の配合量の減少に伴う甘み、味わい、風味などの要素を十分に補い、ごまの味わい、特にごま特有の甘みを有する調味料や飲食品を得られないという従来技術の課題を解決できるとは、到底認識し得ない(少なくとも、ごまの含有量が9質量%の場合しか開示していない、本件明細書の実施例・比較例から、そのような従来技術の課題を解決できると認識することは不可能である)。
以上のことから、特許請求の範囲に記載のごまの含有量に関する「9質量%以下」という規定に関して、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとも、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとも認められない。
従って、本件特許発明がサポート要件を充足しないことは、この点からも明らかである。

(4)本件特許発明に規定する各種パラメータの技術的意味が不明であることについて
本件特許発明1は、上述のとおり、その課題解決手段である香気成分としてA成分乃至C成分を規定し、かつ「前記A〜Cの香気成分の合計含有量が2ppm以上50ppm以下である」とともに、「前記A〜Cの香気成分の各濃度が下記式(1)を満たす」「10a+c < 4b < 1000a+100c (1)」(式中、aは、香気成分Aのppm含有量を表し、bは、香気成分Bのppm含有量を表し、cは、香気成分Cのppm含有量を表す)ことを条件として規定する。
本件特許発明1は、各種パラメータ(特に式1)を強調することによって引用文献との差別化を図り特許が付与されたパラメータ発明に該当するものであるから、これらのサポート(特に式1)が厳密に判断されなければならないことは言うまでもない。
この点、そもそも香気成分A〜Cは甲第5号証に記載のとおり、全く構造式が異なっている。そして、構造式が全く異なる以上、その香気が大きく異なるのは当然であるが、現に甲第5号証の各表に記載されているように、その種類によって香気の特徴や最適な用途並びに用途ごとの最適な配合量などが大きく異なるものである。
従って、これらの香気成分A〜Cに関し、「前記A〜Cの香気成分の合計含有量が2ppm以上50ppm以下である」というように一緒くたに扱うことが出来ないことは言うまでもなく、また、「A)2−エチルピラジン及び/又はC)ヘキサノールと・・・を含有し」のように代替的に規定することが出来ないことは言うまでもない。無論、このような互換性のない香気成分に関して、「10a+c < 4b < 1000a+100c」のような一次関数の関係式が成り立ち得ないことも明らかと考えられる。
その上、そもそも、香気の感じ方は「E(感覚量)=C(定数)・log R(刺激量)」の関係が成り立ち、濃度の対数に比例する(ウェーバー・フェヒナーの法則、甲第6号証)ことが技術常識である。従って、もし仮にこれらの異なる香気成分同士を比較できたとしても、その濃度の対数を取って比較しなければ意味がなく、単純な一次関数としてこれらを比較することは出来ない。そうであるにもかかわらず、全く異なる香気成分の含有量について、単に和をとることや、ましてや片方の成分の含有量を10倍にするなど一次関数の形を採ることの技術的意味は理解不能である。その上、このような技術常識に反し、かかる数式に技術的意味が存在することを裏付けるような技術的説明ないしその作用機序は、本件明細書に一切記載されていない。
また、本件明細書の実施例及び比較例からは実に多様な式を生み出すことが出来る一方で、そのうち式(1)を導き出した方法について一切記載がないため、同式の技術的意義が一切理解できない。加えて、式(1)は、比較例4及び5の2点のみから導かれたものといえるが、式(1)を満たす全ての場合に本件特許発明の効果が奏されることについて本件明細書には何ら裏付けがなされていない。
より具体的には、X軸に4b、Y軸に10a+cをとり、本件明細書の実施例及び比較例をプロットすると、以下のとおりとなる(●が実施例、▲がA〜Cの合計が2〜50ppmを満たさない比較例、2点の×が同式比率を満たさない比較例、直線は10a+c= 4b、及び1000a+100c=4bを表す)。

上記XY平面において、実施例と比較例との間には、式(1)の基準式を表す上記2つの斜めの直線以外にも、他の数式による直線ないし曲線を描くことが可能であることは自明であるし、そもそも、同XY平面上、何等かの直線又は曲線を境界線として、所望の効果が得られるか否かが区別され得ることについて本件明細書には何ら裏付けがない。むしろ、比較例4や5の風味評価の結果は実施例9と大きく変わらないものであり、同式の内外で当業者の予測し得ない格段の効果があるとも認められず、また、上述のとおり、実施例2、4、9は、全ての評価において「3:どちらでもない」ものであり、明らかに本件特許発明の効果を奏さないものであるから、いよいよもって式(1)の技術的意義は不明というほかなく、どのように導出したかも理解することができない。よって、本件明細書に記載の実施例・比較例をもって、上記斜めの直線が、所望の効果が得られる範囲を画する境界線であることを的確に裏付けているとは到底言えない(その上、技術常識に鑑みれば、そもそもこのような一次関数の直線に技術的意味が見出せないことは、上述のとおりである)。
このように、式(1)はその原理について十分説明がなされておらず、また、この程度の僅かなプロットを根拠として、その式を満たす全ての場合における発明の効果が裏付けられているとはいえない(このことは、式(1)と同様に香気成分の含有量を10倍・100倍・1000倍にした上で和をとる一次関数を不等式で表した式(2)についても同様にあてはまる)。
そして、本件特許発明に規定する各種パラメータは、偏光フィルム事件特別部判決(平成17年(行ケ)第10042号)の判示事項に照らした場合、「その数式が示す範囲と得られる効果(性能)との関係の技術的な意味が、特許出願時において、具体例の開示がなくとも当業者に理解できる程度に記載するか、又は、特許出願時の技術常識を参酌して、当該数式が示す範囲内であれば、所望の効果(性能)が得られると当業者において認識できる程度に、具体例を開示して記載」したものとは到底いえず、サポー卜要件を充足しないことは明らかである。

(5)本件特許発明においてその技術的課題を解決するための必須の解決手段が構成として規定されていないことについて
甲第2号証の記載に基づけば、本件明細書の標準試料の配合は、少なくとも酢酸、塩分、酸度pH、加工卵黄、及び高甘味度甘味料の含有量について、ごま風味、焙煎感、まろやかさの強化という課題解決のために必須の解決手段であり、上記の含有量に係る構成を満たさない場合、上記効果を達成できるという根拠は存在しない。
然るところ、本件特許発明は、その課題を「ごま特有の甘みが高められ、ごまの味わいに優れたごま含有液状調味料、並びにごま含有液状調味料のごま風味を簡便に向上させる方法を提供すること」(段落【0011】)とする点において甲第2号証の発明と技術的思想が共通するものであるが、本件明細書でその効果が裏付けられているのは段落【0073】の【表2】で示される配合の酢酸、塩分、酸度pH、加工卵黄、及び高甘味度甘味料の全てが揃ったものに限られ、それ以外についてはなんら効果が裏付けられていない。
以上のことから、技術常識等に照らし、解決手段が十分に規定されておらず、本件特許発明の規定がその課題を解決できると認識し得る範囲を超えていることは明らかであるから、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとも、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとも認められない。
以上の点からも、本件特許発明はサポート要件違反に該当することは明らかである。

(6)ごまの種類、形状について
ア ごまの種類について
本件特許発明の課題は「ごま特有の甘みが高められ、ごまの味わいに優れたごま含有液状調味料、並びにごま含有液状調味料のごま風味を簡便に向上させる方法を提供すること」(段落【0011】)であるところ、本件特許発明においては、含有するごまの種類について何ら規定がなされていない。
甲第8号証には、「ゴマには、種皮の色のちがう3つの系統があって、さらにそれぞれの色のゴマに、いくつもの品種があるんだよ」との記載があり、そのうち「金ゴマ」について、「北関東で栽培されているゴマで粒が大きくて、黄褐色で、香りがいいゴマだ。炒りゴマに使われるよ」との記載があるように、一般的にごまには白ごま、黒ごま、金ごま等の種類があり、それぞれの風味が異なることは技術常識である。
なお、下記のとおり、本件明細書の実施例(標準試料)に用いられているごまの種類は、「いりごま金(真誠社製)」、「すりごま金(真誠社製)」、「金ねりごま(浜乙女社製)」と、金ごまのみである。
本件明細書の実施例では、本件特許発明の課題解決の見地から有利な原料である、味と香りが濃厚な金ごまを用いているものであり、それ以外の種類のごまを用いた場合についてまでその効果を一般化・抽象化し得るとは認められない。

イ ごまの形状について
ごまの形状に応じて「ごま特有の甘みが高められ、ごまの味わいに優れた」という本件特許発明の効果に影響があることは甲第12、2、13及び14号証等に開示された技術常識により明らかである。
この点、本件明細書の実施例でその効果が実証されているのは、「いりごま金」を1.0質量%、「すりごま金」を6.0質量%、「金ねりごま」を2.0質量%含むものに限られている。同じく、当業者と雖も、ごま含有量が9質量%のものであっても、例えばいりごまが9質量%のものであっても本件特許発明の効果を奏すると認識することは出来ず、むしろ、本件明細書の実施例・比較例とは全く異なる評価結果となることが合理的に推測される。
さらに、同じいりごま(焙煎ごま)においても、本件明細書の段落【0047】において「特に焙煎ごま、焙煎擂りごま等が焙煎によって香りが高まるため好ましく、具体的には100℃以上で焙煎された状態の焙煎ごまが好ましく、さらには150℃以上で焙煎された状態の焙煎ごまがさらに好ましく、200℃以上で焙煎された状態の焙煎ごまが最も好ましい。また、焙煎温度が300℃を超えるとごまのこげ臭が目立つため好ましくない」と記載されているように、その焙煎温度によってその香りは大きく異なるものであり、「ごま特有の甘みが高められ、ごまの味わいに優れたごま含有液状調味料、並びにごま含有液状調味料のごま風味を簡便に向上させる方法を提供する」という技術的課題の解決に影響を及ぼすことは明らかである。この点、本件特許発明5、12においては、「ごまが、100℃以上で焙煎された状態の焙煎ごまを含有する」と規定され、一応の温度の規定は存在するものの、段落【0047】の記載によれば、同じ100℃以上でも、150℃以上か200℃以上か、或いは300℃以上かによってその香気は大きく異なるのであるから、この観点からも、(本件特許発明5、12も含め)実施例の効果を本件特許発明の範囲にまで一般化・抽象化し得るとは認められない。
以上のとおり、本件特許発明はごまの形状が特定されていない点、並びに(好ましいとされる)いりごま(焙煎ごま)を用いる場合の焙煎の度合い(加熱温度)に関しても十分な規定が存在しない点においても、サポート要件を充足しないことが明らかである。

3 申立理由3(甲第1号証に基づく新規性進歩性
本件特許の請求項1ないし14に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし14に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

4 申立理由4(甲第2号証に基づく進歩性
本件特許の請求項1ないし14に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし14に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

5 申立理由5(甲第3号証に基づく進歩性
本件特許の請求項1ないし14に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第3号証に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし14に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

6 証拠方法
甲第1号証:Rakutenレシピ「中華料理の前菜風★蒸し鶏のピーナツダレ。レシピ・作り方」(公開日2012年7月6日)(https://recipe.rakuten.co.jp/recipe/1140008332/)
甲第2号証:特開2015−8666号公報
甲第3号証:クックパッド「簡単 手作り和風ごまドレッシング」(公開日2015年5月15日、更新日2016年8月10日)(https://cookpad.com/recipe/2729526)
甲第4号証:広辞苑第6版(2008年1月11日発行)2424頁
甲第5号証:「FENAROLI’S HANDBOOK OF Flavor Ingredients SIXTH EDITION」(Taylor and Francis Group, LLC, 2010年)(表紙〜1頁、32−33頁(D成分)、661−662頁(A成分)、828頁(C成分)、1205―1206頁(B成分)、裏表紙)
甲第6号証:「Econews vol.315,2019年9月1日,感覚量と刺激量」 (http://www.econixe.co.jp/econews/detail.php?id=325)
甲第7号証:ミツカンのウェブページ「お酢の種類」 (https://www.mizkan.co.jp/osu-information/osu/kind.html)
甲第8号証:「そだててあそぼうゴマの絵本」農山漁村文化協会、2004年3月20日発行
甲第9号証:「いりゴマ金」(株式会社真誠ウェブページ)(https://www.shinsei-jp.ne.jp/product/ikin/)
甲第10号証:「すりゴマ金」(株式会社真誠ウェブページ) (https://www.shinsei-jp.ne.jp/product/skin)
甲第11号証:「金ねりごま」(株式会社浜乙女ウェブページ)(https:/www.hamaotome.co.jp/products/sesame/detail/index.html?id=92)
甲第12号証:「ごまメーカー直伝!ごまのすり方 色々」(https://cookpad.com/recipe/2445137)(公開日:13/12/26、更新日:18/06/06)
甲第13号証:特開2003−304828号公報
甲第14号証:特開2012−135295号公報
甲第15号証:「練りごま大さじ1は何グラムか?練りごま小さじ1は何グラム?練りごま大さじ2は何グラムか?【練りごまの密度(比重)】」(https://life-freedom888.com/nerigoma-oosaji/) (2020年4月12日)
甲第16号証:「大さじ1って何グラム?砂糖やバターのグラム換算まとめ!」(https://allabout.co.jp/gm/gc/476769/)(更新日:2021年2月26日)
甲第17号証:「ラー油大さじ1は何グラムか?ラー油小さじ1は何グラム?ラー油大さじ2は何グラムか?【ラー油の密度(比重)】」(https://life-freedom888.com/ra-yu-oosaji-g/)(2020年4月19日)
甲第18号証:「生姜チューブ大さじ1は何グラムか?生姜チューブ小さじ1は何グラムで何センチなのか?【生姜チューブの密度(比重)】」(https://life-freedom888.com/shouga-oosajil-g/)(2020年4月16日)
甲第19号証:「調理の基礎|調味料の計り方 「少々」と「ひとつまみ」」(https://oceans-nadia.com/cooking_basics/11)(2012年)
甲第20号証:鈴市商店のブログ(https://suzuichi-s.co.jp/s/343/)
甲第21号証:「Quantitation of Key Peanut Aroma Compounds in Raw Peanuts and Pan-Roasted Peanut Meal. Aroma Reconstitution and Comparison with Commercial Peanut Products」JOURNAL OF AGRICULTURAL AND FOOD CHEMISTRY 2010,58, pages:11018-11026)
甲第22号証:「Aroma of Roasted Sesame Oil: Characterization by Direct Thermal Desorption-Gas Chromatography-Olfactometry and Sample Dilution Analysis」−“Gas Chromatography -Olfactometry” p.187-202, American Chemical Society, 2001
甲第23号証:特開2010−148410号公報
甲第24号証:特開2008−154476号公報
甲第25号証:特表2006−510710号公報
甲第26号証:「炒りごまと炒り皮むきごまの香気」日本家政学会誌 Vol.39 No.8 803〜815頁、1988年
甲第27号証:特開2008−154486号公報
甲第28号証:「ゴマ入り製品中のゴマ量に関する消費者意識と現状」日本調理科学会誌 Vol.44、No.4、272〜276(2011)、https://www.jstage.jst.go.jp/article/cookeryscience/44/4/44_272/_pdf/-char/ja
甲第29号証:新特産シリーズ落花生92〜97頁
甲第30号証:株式会社発明工房のホームページ(インターネットアーカイブによる2015年7月1日時点の情報)、The Wayback Machine-https://web.archive.org/web/20150701004716/http://www.invention.co.jp:80/coffee/others/recipe01.html
甲第31号証:レシピサイト・クックパッド「生落花生のローストの仕方(オーブン)」(レシピID:2359516 公開日:13/09/29 更新日:13/09/29)、https://cookpad.com/recipe/2359516
甲第32号証:デジタル大辞泉 「あじ−わい[あぢはひ]【味わい】」の欄、https://www.weblio.jp/content/%E5%91%B3%E3%82%8F%E3%81%84?dictCode=SGKDJUSGKDJ
甲第33号証:大辞林 第三版、2006年10月27日、「あじわい」の欄
なお、甲第28ないし33号証は、令和4年8月12日に提出された回答書に添付されたものである。証拠の表記は、特許異議申立書及び上記回答書の記載におおむね従った。ただし、絵文字の摘記は省略した。以下、順に「甲1」のようにいう。

第4 取消理由の概要
令和4年4月21日付けで通知した取消理由(以下、「取消理由」という。)の概要はおおむね次のとおりである。

1 取消理由1(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし14に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
なお、該取消理由1は申立理由2のうち、(1)及び(2)の点に基づく理由とおおむね同旨である。

・本件特許の発明の詳細な説明の【0001】ないし【0011】の記載によると、本件特許発明1ないし7の解決しようとする課題は「ごま特有の甘みが高められ、ごまの味わいに優れたごま含有液状調味料を提供すること」であり、本件特許発明8ないし14の解決しようとする課題は「ごま含有液状調味料のごま風味を簡便に向上させる方法を提供すること」である(以下、総称して「発明の課題」という。)。
そして、本件特許の発明の詳細な説明の【0070】以降に実施例・比較例が記載され、【0096】以降に各試料(ごま含有調味料試料)の評価手順について記載されており、そこでは「ごま特有の味わい」、「ごま風味」、「香ばしさ」、「酸味」、「オイリーな風味」、「ごまの甘み」、「いやな後味」及び「味の持続性」といった8項目について、5点満点で評価を行った旨記載されている。
しかし、評価項目のうちどの項目がどの程度の点数であれば発明の課題を解決しているといえるのか、本件特許の発明の詳細な説明には全く記載がないため、例えば、評価が「2」が一つでもあれば比較例であるのか否かや、評価が「4」のもの、具体的には「ごま特有の味わい」が「やや感じられ」、「ごま風味」が「やや感じられ」、「ごまの甘み」が「やや好ましく感じられる」ものについて、発明の課題である「ごま特有の甘みが高められ、ごまの味わいに優れたごま含有液状調味料」であるのかどうか、理解することができない。特に、全ての評価が「3」のもの(実施例2、4及び9)は、全ての評価において「どちらでもない」ものであり、明らかに発明の課題を解決しているとはいえないものであるにもかかわらず、本件特許発明はこれらの実施例を包含する規定となっている。
また、「ごま特有の味わい」と「ごま風味」とはどのように異なる概念であるのか、本件特許の発明の詳細な説明には全く説明がなされていない。甲4によれば「風味」とは「あじ。特に、上品なあじわい」という意味であり、「風味」と「味わい」とは同義であると解するほかなく、評価基準が不明確である。このため、例えば実施例8は「ごま特有の味わい」は「3:どちらでもない」であり、「ごま風味」は「4 :ごま風味がやや感じられるとなっており、同実施例の調味料は「ごま特有の味わいは(感じられる又は感じられないの)どちらでもないが、ごま風味はやや感じられる」という客観的に矛盾した評価結果となっているといわざるを得ない。
さらに、「ごまの甘み」に係る評価については、「好ましく感じられる」か否かによるものであり、何を以って好ましいと評価するのかについても本件特許の発明の詳細な説明に一切記載がないため、「好ましい」という極めて主観的な評価が検査員それぞれにおいてなされている可能性が高く、「客観性のある官能検査を行った」(【0106】)とは到底いえない。
そして、評価項目のうちどの項目がどの程度の点数であれば発明の課題を解決しているといえるのか、「ごま特有の味わい」と「ごま風味」とはどのように異なる概念であるのか、また、「ごまの甘み」について何を以って好ましいと評価するのかが、当業者の出願時の技術常識であったともいえない。
そうすると、当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲を、当業者の出願時の技術常識に照らしても、本件特許の発明の詳細な説明の記載からは、明確に理解することはできない。
したがって、当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲を明確に理解することができない以上、本件特許発明1ないし14は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえないし、また、当業者が出願時の技術常識に照らし発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるともいえない。
よって、本件特許発明1ないし14に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合しない。

2 取消理由2(甲1に基づく新規性進歩性
本件特許の請求項1ないし14に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、甲1に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし14に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
なお、該取消理由2は申立理由3とおおむね同旨である。

第5 取消理由についての当審の判断
1 取消理由1(サポート要件)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、検討する。

(2)特許請求の範囲の記載
本件特許の特許請求の範囲の記載は上記第2のとおりである。

(3)発明の詳細な説明の記載
本件特許の発明の詳細な説明にはおおむね次の記載がある。

・「【技術分野】
【0001】
本発明はごま含有液状調味料及びごま含有液状調味料のごま風味を向上させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ごまはその香ばしい風味が好まれるため、ごまを加える食品や調味料が様々に使用されている。特に調味料に至っては、ごまの風味が強く感じられるように、ごまの使用量を増やしたり、焙煎したごまの風味がよく出るように、焙煎方法を工夫したりする等の試みがなされている。
【0003】
ごまは元来、非特許文献1、2に記載されているような多様な香気成分を含有することが知られている。ごまを含有する液状調味料には、これらのごま由来の香気成分に加えて、液状調味料に一般的に使用される種々の原材料由来の香気成分が配合される。例として、市販の種々のごま含有液状調味料を固相マイクロ抽出(Solid Phase Micro Extraction:SPME)法で分析したところ、後述の表1に示す多種多様な成分が検出されている。また、これらの香気成分や他の香気成分を用いてごまの香りを模倣したごま香料を調味料に添加し、ごまの香りを付与する場合もある。
【0004】
ところで、ごまを煎ることや擂ることにより、ごまの風味が増強されることが知られている。しかし、煎り立て・擂り立てのごまの風味は、そのままでは保存に伴い消失してしまう。そこで、煎り立て・擂り立てのごまの風味を強化及び維持する種々の方法が提案されている。
【0005】
例として、煎ったごまを新鮮なうちに擂った時の風味成分を検討した結果、香気成分として同定された2−アセチルピリジンを含有する液体調味料が提案されている(特許文献1)。しかし、斯かる液体調味料はポップコーン様の臭いを呈するものであり、ごまの味わい、特にごま特有の甘みを有するものではない。
【0006】
また、焙煎ごまの擂り立ての軽い香りを長時間維持する技術として、2−プロピオニルチアゾールを含有する液体調味料用のフレーバー組成物が提案されている(特許文献2)。しかし、斯かるフレーバー組成物も同様にポップコーン様の臭いを呈するものであり、ごまの味わい、特にごま特有の甘みを有するものではない。なお、本文献には2−プロピオニルチアゾールに加え、2−メチル−1−プロパンチオール及び/又は2−アセチルピラジンを配合したフレーバー組成物も記載されているが、上述の課題が解消されたものとは言い難い。
【0007】
また、飲食品におけるごまの煎り立て感や擂り立て感を増強する技術として、3−メルカプト−3−メチルブチルフォーメートを含有するごま様香味増強剤も提案されている(特許文献3)。しかし、斯かるごま様香味増強剤も、ごく微量を飲食品に添加することを想定した技術であるため、ごまの味わい、特にごま特有の甘みを発揮するには不十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
・・・(略)・・・
【0009】
・・・(略)・・・
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
以上説明した各従来技術は何れも、擂り立て・擂り立てのごまの風味を増強する目的で、他の食品に由来する香気成分の中から特定の香気成分を特定し、これを調味料や飲食品に添加するという技術であるが、ごまの味わい、特にごま特有の甘みを有するものではなかった。
【0011】
本発明は前記課題に鑑みてなされたものであり、ごま特有の甘みが高められ、ごまの味わいに優れたごま含有液状調味料、並びにごま含有液状調味料のごま風味を簡便に向上させる方法を提供することを目的とする。」

・「【0014】
即ち、本発明は以下に関する。なお、本明細書中の「ppm」とは特に断りが無い場合「重量ppm」を表す。
[1]ごま及び食用油脂を含有する液状調味料であって、
香気成分として、
A)2−エチルピラジン、
B)4−ビニル−2メトキシフェノール、及び、
C)ヘキサナール
からなる群より選択される2種以上を合計で2ppm以上50ppm以下含有すると共に、
前記A〜Cから選択される香気成分の各濃度が下記式(1)を満たす、ごま含有液状調味料。
10a+c < 4b < 1000a+100c (1)
(式中、
aは、A)2−エチルピラジンのppm含有量を表し、
bは、B)4−ビニル−2メトキシフェノールのppm含有量を表し、
cは、C)ヘキサナールのppm含有量を表す。)
[2]香気成分として、
D)2−アセチルピラジン
を更に含有し、
前記A〜Dから選択される香気成分の各濃度が下記式(2)を満たす、[1]に記載のごま含有液状調味料。
10a+10d+c < 4b < 1000a+1000d+100c (2)
(式中、
aは、A)2−エチルピラジンのppm含有量を表し、
bは、B)4−ビニル−2メトキシフェノールのppm含有量を表し、
cは、C)ヘキサナールのppm含有量を表し、
dは、D)2−アセチルピラジンのppm含有量を表す。)
[3]前記香気成分が、固相マイクロ抽出(Solid Phase Micro Extraction:SPME)−ガスクロマトグラフィー(Gas Chromatography:GC)−質量スペクトル分析(Mass Spectrometry:MS)法による測定において、ヘッドスペースに検出される、[1]又は[2]に記載のごま含有液状調味料。
[4]香気成分として少なくとも
A)2−エチルピラジン
B)4−ビニル−2メトキシフェノール
を含有する、[1]〜[4]の何れか一項に記載のごま含有液状調味料。
[5]ごまが、100℃以上で焙煎された状態の焙煎ごまを含有する、[1]〜[3]の何れか一項に記載のごま含有液状調味料。
[6]液状調味料が更に酢酸を含有する、[1]〜[4]の何れか一項に記載のごま含有液状調味料。
[7]液状調味料が乳化液状調味料である、[1]〜[5]の何れか一項に記載のごま含有液状調味料。
[8]ごま含有液状調味料におけるごま風味を向上させる方法であって、
ごま及び食用油脂を含有する液状調味料において、更に香気成分として、
A)2−エチルピラジン、
B)4−ビニル−2メトキシフェノール、及び、
C)ヘキサナール
からなる群より選択される2種以上を合計で2ppm以上50ppm以下含有させると共に、
前記A〜Cから選択される香気成分の各濃度が下記式(1)を満たすようにすることを含む方法。
10a+c < 4b < 1000a+100c (1)
(式中、
aは、A)2−エチルピラジンのppm含有量を表し、
bは、B)4−ビニル−2メトキシフェノールのppm含有量を表し、
cは、C)ヘキサナールのppm含有量を表す。)
[9]香気成分として、
D)2−アセチルピラジン
を更に含有させると共に、
前記A〜Dから選択される香気成分の各濃度が下記式(2)を満たすようにすることを更に含む、[8]に記載の方法。
10a+10d+c < 4b < 1000a+1000d+100c (2)
(式中、
aは、A)2−エチルピラジンのppm含有量を表し、
bは、B)4−ビニル−2メトキシフェノールのppm含有量を表し、
cは、C)ヘキサナールのppm含有量を表し、
dは、D)2−アセチルピラジンのppm含有量を表す。
[10]前記香気成分が、固相マイクロ抽出(Solid Phase Micro Extraction:SPME)−ガスクロマトグラフィー(Gas Chromatography:GC)−質量スペクトル分析(Mass Spectrometry:MS)法による測定において、ヘッドスペースに検出される、[8]又は[9]に記載の方法。
[11]ごま含有液状調味料が、前記香気成分として少なくとも
A)2−エチルピラジン
B)4−ビニル−2メトキシフェノール
を含有する、[8]〜[10]の何れか一項に記載の方法。
[12]ごまが、100℃以上で焙煎された状態の焙煎ごまを含有する、[8]〜[11]の何れか一項に記載の方法。
[13]液状調味料が更に酢酸を含有する、[8]〜[12]の何れか一項に記載の方法。
[14]液状調味料が乳化液状調味料である、[8]〜[13]の何れか一項に記載の方法。」

・「【0015】
本発明によれば、ごま特有の甘みが高められ、ごまの味わいに優れたごま含有液状調味料が提供される。また、本発明の方法によれば、ごま含有液状調味料のごま特有の甘みを高め、ごまの味わいを簡便に向上させることができる。」

・「【0018】
前述の従来技術は何れも、擂り立て・擂り立てのごまの風味を増強する目的で、他の食品に由来する香気成分の中から各々1種類の成分を特定し、これを調味料や飲食品に添加するという技術であるが、ごまの味わい、特にごま特有の甘みを有するものではなかった。その理由は定かではないが、適切な香気成分の特定が困難であることに加え、1種類の香気成分のみではごまの複雑な味わい、特にごま特有の繊細な甘みを実現することが難しいといった事情があるためと考えられる。」

・「【0047】
・・・(略)・・・ごまの含有量は特に制限されない。しかし、調味料へのごま感付与の観点からは、調味料に対する質量比として、通常0.1%以上、中でも0.5%以上とすることが好ましい。また、調味料の食べやすさの観点からは、調味料に対する質量比として、通常70%以下、中でも60%以下とすることが好ましい。」

・「【実施例】
【0070】
以下、本発明を実施例に則して更に詳細に説明するが、これらの実施例はあくまでも説明のために便宜的に示す例に過ぎず、本発明は如何なる意味でもこれらの実施例に限定されるものではない。
【0071】
[ごま含有調味料試料の調製方法]
ごま含有調味料試料は以下のとおりに調製した。
【0072】
・標準試料:
後述の各実施例及び比較例のごま含有調味料試料の基礎となる標準試料は、以下の手順により調製した。また、標準試料100gに対し、各成分濃度が任意の質量ppmとなるように添加して、評価サンプルを作成した。
【0073】
【表2】

【0074】
・実施例1:
標準試料(2−エチルピラジン0.02ppm、4−ビニル−2メトキシフェノール1.0ppm含有)100gに対し、2−エチルピラジンを0.13ppm、4−ビニル−2メトキシフェノールを3.0ppm、ヘキサナールを0.4ppm、2−アセチルピラジンを0.5ppm添加して、実施例1のごま含有調味料試料とした。
【0075】
・実施例2:
標準試料(2−エチルピラジン0.02ppm、4−ビニル−2メトキシフェノール1.0ppm含有)100gに対し、4−ビニル−2メトキシフェノールを3.0ppm添加して、実施例2のごま含有調味料試料とした。
【0076】
・実施例3:
標準試料(2−エチルピラジン0.02ppm、4−ビニル−2メトキシフェノール1.0ppm含有)100gに対し、4−ビニル−2メトキシフェノールを3.0ppm、ヘキサナールを0.4ppm添加して、実施例3のごま含有調味料試料とした。
【0077】
・実施例4:
標準試料(2−エチルピラジン0.02ppm、4−ビニル−2メトキシフェノール1.0ppm含有)100gに対し、2−エチルピラジンを0.13ppm、4−ビニル−2メトキシフェノールを3.0ppm添加して、実施例4のごま含有調味料試料とした。
【0078】
・実施例5:
標準試料(2−エチルピラジン0.02ppm、4−ビニル−2メトキシフェノール1.0ppm含有)100gに対し、4−ビニル−2メトキシフェノールを3.0ppm、2−アセチルピラジンを0.5ppm添加して、実施例5のごま含有調味料試料とした。
【0079】
・実施例6:
標準試料(2−エチルピラジン0.02ppm、4−ビニル−2メトキシフェノール1.0ppm含有)100gに対し、2−エチルピラジンを0.13ppm、4−ビニル−2メトキシフェノールを3.0ppm、ヘキサナールを0.4ppm添加して、実施例6のごま含有調味料試料とした。
【0080】
・実施例7:
標準試料(2−エチルピラジン0.02ppm、4−ビニル−2メトキシフェノール1.0ppm含有)100gに対し、2−エチルピラジンを0.01ppm、4−ビニル−2メトキシフェノールを1.0ppm、ヘキサナールを0.2ppm添加して、実施例7のごま含有調味料試料とした。
【0081】
・実施例8:
標準試料(2−エチルピラジン0.02ppm、4−ビニル−2メトキシフェノール1.0ppm含有)100gに対し、2−エチルピラジンを0.73ppm、4−ビニル−2メトキシフェノールを41.5ppm、ヘキサナールを5.0ppm添加して、実施例8のごま含有調味料試料とした。
【0082】
・実施例9:
標準試料(2−エチルピラジン0.02ppm、4−ビニル−2メトキシフェノール1.0ppm含有)100gに対し、2−エチルピラジンを0.58ppm、4−ビニル−2メトキシフェノールを1.0ppm、ヘキサナールを0.2ppm添加して、実施例9のごま含有調味料試料とした。
【0083】
・実施例10:
標準試料(2−エチルピラジン0.02ppm、4−ビニル−2メトキシフェノール1.0ppm含有)100gに対し、2−エチルピラジンを0.01ppm、4−ビニル−2メトキシフェノールを7.0ppm、ヘキサナールを0.2ppm添加して、実施例10のごま含有調味料試料とした。
【0084】
・実施例11:
標準試料(2−エチルピラジン0.02ppm、4−ビニル−2メトキシフェノール1.0ppm含有)100gに対し、2−エチルピラジンを0.015ppm、4−ビニル−2メトキシフェノールを7.0ppm、2−アセチルピラジンを0.2ppm添加して、実施例11のごま含有調味料試料とした。
【0085】
・比較例1:
標準試料100gをそのまま用い、比較例1のごま含有調味料試料とした。分析の結果、標準試料には、原料に由来する2−エチルピラジン0.02ppm、4−ビニル−2メトキシフェノール1.0ppmが含有されていた。
【0086】
・比較例2:
標準試料(2−エチルピラジン0.02ppm、4−ビニル−2メトキシフェノール1.0ppm含有)100gに対し、2−エチルピラジンを0.01ppm、4−ビニル−2メトキシフェノールを0.7ppm、ヘキサナールを0.2ppm添加して、比較例2のごま含有調味料試料とした。
【0087】
・比較例3:
標準試料(2−エチルピラジン0.02ppm、4−ビニル−2メトキシフェノール1.0ppm含有)100gに対し、2−エチルピラジンを0.88ppm、4−ビニル−2メトキシフェノールを50.0ppm、ヘキサナールを6.0ppm添加して、比較例3のごま含有調味料試料とした。
【0088】
・比較例4:
標準試料(2−エチルピラジン0.02ppm、4−ビニル−2メトキシフェノール1.0ppm含有)100gに対し、2−エチルピラジンを0.98ppm、4−ビニル−2メトキシフェノールを1.0ppm、ヘキサナールを0.2ppm添加して、比較例4のごま含有調味料試料とした。
【0089】
・比較例5:
標準試料(2−エチルピラジン0.02ppm、4−ビニル−2メトキシフェノール1.0ppm含有)100gに対し、2−エチルピラジンを0.01ppm、4−ビニル−2メトキシフェノールを7.0ppm添加して、比較例5のごま含有調味料試料とした。
【0090】
[香気成分の測定方法]
まず、試料を5g採り、等量の試薬特級ジクロロメタンを試料と充分に混合し、試料中の成分を抽出した。得られた抽出液を硫酸ナトリウムによって脱水した後、スプリットレス注入法によってガスクロマトグラフィー分析装置に1μL注入し、分析を行った。ガスクロマトグラフィー分析装置としては、HP6890 Series GC System(Agilent社製)を使用し、キャピラリーカラムは、TC−WAX(内径0.25mm、長さ60m、膜厚0.25μm)(GL-Sciences社製)を使用した。該ガスクロマトグラフィー分析装置の試料注入口の温度は200℃に設定し、移動相としてヘリウムガスを用いた。昇温プログラムは50℃にて5分保持し、その後、5℃/分にて230℃まで昇温した後、230℃にて20分保持した。その後、質量分析計にかけて、分子量を求め、各成分の関連イオンで確認、定量を行った。
【0091】
質量分析計(MS)は、5973 Mass Selective Detector(Agilent社製)を使用し、イオン化:EI+、フラグメンテーター電圧:70Vの条件で行った。検出はスキャンモードで以下サイズのターゲットイオン(2−エチルピラジン:107、4−ビニル−2メトキシフェノール:150、ヘキサナール:56、2−アセチルピラジン:122)を用いてマススペクトル解析を行った。
【0092】
定量マーカーとして、各香気成分の標品(東京化成工業社製)を試薬特級ジクロロメタンによって10ppmに希釈したものを用い、前記のクロマトグラフィー条件にて分析に供した。得られたクロマトグラフパターンから標品と保持時間が近いピークを当該香気成分のものと判定し、試料と標品とのターゲットイオンのピーク面積の比較によって、試料中の成分の定量を行った。
【0093】
各実施例及び比較例の試料の分析結果を以下の表3−1〜表3−3に示す。
【表3−1】

【0094】
【表3−2】

【0095】
【表3−3】



・「【0096】
[評価]
前記各試料の評価は以下の手順で行った。即ち、前記の手順で作成したごま含有調味料試料を調味液の状態で試食して評価する官能試験を行った。この官能試験では、「ごま特有の味わい」「ごま風味」「香ばしさ」「酸味」「オイリーな風味」「ごまの甘み」「いやな後味」「味の持続性」といった8項目について、それぞれ以下の5点満点で評価を行った。
【0097】
「ごま特有の味わい」については、5:ごま特有の味わいが感じられる、4:ごま特有の味わいがやや感じられる、3:どちらでもない、2:ごま特有の味わいがやや感じられない、1:ごま特有の味わいが感じられない、の5段階で評価した。
【0098】
「ごま風味」については、5:ごま風味が感じられる、4:ごま風味がやや感じられる、3:どちらでもない、2:ごま風味がやや感じられない、1:ごま風味が感じられない、の5段階で評価した。
【0099】
「香ばしさ」については、5:香ばしい、4:やや香ばしい、3:どちらでもない、2:やや香ばしくない、1:香ばしくない、の5段階で評価した。
【0100】
「酸味」については、5:酸味がまろやか、4:やや酸味がまろやか、3:どちらでもない、2:やや酸味がまろやかでない、1:酸味がまろやかでない、の5段階で評価した。
【0101】
「オイリーな風味」については、5:オイリーな風味が感じられる、4:オイリーな風味がやや感じられる、3:どちらでもない、2:オイリーな風味がやや感じられない、1:オイリーな風味が感じられない、の5段階で評価した。
【0102】
「ごまの甘み」については、5:ごまの甘みが好ましく感じられる、4:ごまの甘みがやや好ましく感じられる、3:どちらでもない、2:ごまの甘みがやや好ましく感じられない、1:ごまの甘みが好ましく感じられない、の5段階で評価した。
【0103】
「いやな後味」については、5:いやな後味が感じられない、4:いやな後味がやや感じられない、3:どちらでもない、2:いやな後味がやや感じられる、1:いやな後味が感じられる、の5段階で評価した。
【0104】
「味の持続性」については、5:味の持続性が良好、4:味の持続性がやや良好、3:どちらでもない、2:味の持続性がやや良好でない、1:味の持続性が良好でない、の5段階で評価した。
【0105】
また、評価結果の集計は、のべ10名のスコアの算術平均値を算出し、小数第一位の数字が5以上であれば切り上げ、4以下であれば切り捨てして、数値を算出した。
【0106】
前記官能試験(官能検査)の方法をより詳細に説明すると以下のとおりである。
官能検査は訓練された官能検査員によって実施した。官能検査員の訓練に際しては、下A)〜C)のような識別訓練を実施し、特に成績が優秀な検査員を選抜し、検査員のべ10名によって客観性のある官能検査を行った。
A)五味(甘味:砂糖の味、酸味:酒石酸の味、旨み:グルタミン酸ナトリウムの味、塩味:塩化ナトリウムの味、苦味:カフェインの味)について、各成分の閾値に近い濃度の水溶液を各1つずつ作製し、これに蒸留水2つを加えた計7つのサンプルから、それぞれの味のサンプルを正確に識別する味質識別試験。
B)濃度がわずかに異なる5種類の食塩水溶液、酢酸水溶液の濃度差を正確に識別する濃度差識別試験。
C)メーカーA社醤油2つにメーカーB社醤油1つの計3つのサンプルからB社醤油を正確に識別する3点識別試験。
【0107】
各実施例及び比較例の試料の評価結果を以下の表4−1〜表4−3に示す。
【表4−1】

【0108】
【表4−2】

【0109】
【表4−3】



(4)サポート要件の判断
本件特許の発明の詳細な説明の【0001】ないし【0011】の記載によると、本件特許発明1ないし7の解決しようとする課題は「ごま特有の甘みが高められ、ごまの味わいに優れたごま含有液状調味料を提供すること」であり、本件特許発明8ないし14の解決しようとする課題は「ごま含有液状調味料のごま風味を簡便に向上させる方法を提供すること」である(以下、総称して「発明の課題」という。)。
そして、本件特許の発明の詳細な説明の【0014】、【0047】及び【0073】の【表2】には、本件特許発明1ないし14に対応する記載があり、【0070】以降に実施例・比較例が記載され、【0096】以降に各試料(ごま含有調味料試料)の評価手順について記載されており、そこでは「ごま特有の味わい」、「ごま風味」、「香ばしさ」、「酸味」、「オイリーな風味」、「ごまの甘み」、「いやな後味」及び「味の持続性」といった8項目について、5点満点で評価を行い、「香気成分として、
A)2−エチルピラジン及び/又はC)ヘキサナールと、
B)4−ビニル−2メトキシフェノールとを含有し、
前記A〜Cの香気成分の合計含有量が2ppm以上50ppm以下であると共に、前記A〜Cの香気成分の各濃度が下記式(1)を満たす
10a+c < 4b < 1000a+100c (1)
(式中、
aは、A)2−エチルピラジンのppm含有量を表し、
bは、B)4−ビニル−2メトキシフェノールのppm含有量を表し、
cは、C)ヘキサナールのppm含有量を表す。)」という香気成分条件(以下、「香気成分条件」という。)を満たす液状調味料である実施例1ないし5は8項目全てについて「3」以上の評価を示し、香気成分条件を満たさない液状調味料である比較例1ないし5は8項目のうち「ごま特有の味わい」という項目を含めた3つ以上の項目で「2」以下の評価を示すことを確認している。すなわち、香気成分条件を満たす実施例1ないし5は香気成分条件を満たさない比較例1ないし5よりも高い評価を示すことを確認している。

ところで、令和4年6月24日に特許権者から提出された意見書に添付された乙第1号証(「風味の事典」、第7頁、2016年8月15日発行、株式会社楽工社)には、「ワインの講座を受けている人は、風味と味は一緒ではないと言うでしょう。味は、舌と口のなかの他の場所で味わうことのできる5つの特性に限られています。すなわち甘味、塩味、酸味、苦味、そしてうま味(または味わい)です。一方風味は、主に嗅球(きゅうきゅう)を使って嗅覚で味わうもので、口の役割はずっと小さくなります。鼻をつまんで、ある食べ物が甘いか辛いかは言えるでしょうが、風味まではわかりません。ある特定の食べ物がどんなものなのか、簡単な素描(スケッチ)を描き出すのが味で、細部まで描きこむのが風味なのです。」と記載され、同じく乙第2号証(「改訂 調理用語辞典」、第1018頁、1998年12月25日発行、社団法人全国調理師養成施設協会)には、「ふうみ【風味】 食物に対する好みを決める要素で、甘味,酸味,苦味,塩味,うま味,辛みなどの味覚に嗅覚(きゅうかく)が加わり風味が醸成される。味覚と嗅覚は混合して感じられる場合が多く、両者が混合された感覚を風味という。」と記載され、同じく乙第3号証(化学と生物、2012年、第50巻、第7号、第518〜524頁、2012年7月1日発行、公益社団法人日本農芸化学会)には、「評価で注目される人の感覚特性として,見た目,香り(鼻で嗅いだ香り),風味(口腔を通して感じられる香り,または味と一体となったもの),味,辛味,脂(油)っこさ,テクスチャー(食感),快・不快,おいしさ,好ましさなどがある.」(第520ページ左欄第22ないし26行)と記載されており、これらの記載事項は本件特許出願時の当業者の技術常識といえ、該技術常識並びに本件特許の発明の詳細な説明の【0010】、【0011】及び【0018】の記載から、本件特許発明の評価項目である「ごま特有の味わい」と「ごま風味」が当業者にとって異なる概念のものであることが理解でき、また、どのように異なるのかも当業者であれば理解できる。
また、本件特許の発明の詳細な説明の【0102】における「ごまの甘み」が「好ましく感じられる」とは、本件特許の発明の詳細な説明の【0011】に記載された「ごま特有の甘みが高められ、ごまの味わいに優れたごま含有液状調味料、並びにごま含有液状調味料のごま風味を簡便に向上させる方法を提供することを目的とする。」という発明の課題を解決できているかどうかを評価するものであることからみて、「ごまの甘み」が「高く感じられる」ことにほかならないといえる。

そうすると、本件特許の発明の詳細な説明の記載から、当業者は香気成分条件を満たす「ごま含有液状調味料」及び香気成分条件を満たすようにする「ごま含有液状調味料におけるごま風味を向上させる方法」は発明の課題を解決できると認識できる。
そして、本件特許発明1ないし7は香気成分条件を満たす「ごま含有液状調味料」をさらに限定したものであり、本件特許発明8ないし14は香気成分条件を満たすようにする「ごま含有液状調味料におけるごま風味を向上させる方法」をさらに限定したものである。

したがって、本件特許発明1ないし14は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
よって、本件特許発明1ないし14に関して、特許請求の範囲の記載はサポート要件に適合する。

なお、令和4年8月12日に特許異議申立人から提出された回答書の「(2)サポート要件違反(取消理由1)について」の主張も検討したが、上記判断は左右されない。

(5)取消理由1についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし14に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、取消理由1によっては取り消すことはできない。

2 取消理由2(甲1に基づく新規性進歩性)について
(1)主な証拠に記載された事項等
ア 甲1に記載された事項及び甲1に記載された発明
(ア)甲1に記載された事項
甲1には、おおむね次の事項が記載されている。
なお、摘記に際し、他の文献を含め、絵文字の摘記は省略した。

・「

」(第1ページ上欄)

・「材料(3〜4人分)
落花生(むきみ) 100g
練りごま 大1
しょうゆ 大2
ごま油 大2
酢 大2
砂糖 大1
ラー油(お好みの辛さに) 小1〜2
おろししょうが 少々
白ごま 少々
(あれば山椒or花椒 少々)」(第1ページ下欄)

・「作り方
1 落花生は殻と皮を取って、すり鉢かビニール袋などを使って、細かく砕きます。ボウルに入れて残りの材料を加えてよく混ぜれば完成です」(第1ページ末行ないし第2ページ第2行)

(イ)甲1に記載された発明
甲1に記載された事項を整理すると、甲1には次の発明(以下、順に「甲1発明」及び「甲1方法発明」という。)が記載されていると認める。

<甲1発明>
「落花生(むきみ) 100g、練りごま 大1、しょうゆ 大2、ごま油 大2、酢 大2、砂糖 大1、ラー油 小1〜2、おろししょうが 少々、白ごま 少々からなるピーナツダレ。」

<甲1方法発明>
「落花生は殻と皮を取って、すり鉢かビニール袋などを使って、細かく砕き、ボウルに入れて、練りごま 大1、しょうゆ 大2、ごま油 大2、酢 大2、砂糖 大1、ラー油 小1〜2、おろししょうが 少々、白ごま 少々を加えてよく混ぜてピーナツダレとする方法。」

イ 甲15に記載された事項
甲15には、おおむね次の事項が記載されている。

・練りごま大さじ1は約15gであること。

ウ 甲16に記載された事項
甲16には、おおむね次の事項が記載されている。

・醤油大さじ1は18gであること。
・ごま油大さじ1は14gであること。
・ごま小さじ1は3gであり、ごまおおさじ1は9gであること。
・お酢おおさじ1は15gであること。
・砂糖(上白糖)おおさじ1は9gであること。
・味噌おおさじ1は18gであること。
・サラダ油おおさじ1は14gであること。

エ 甲17に記載された事項
甲17には、おおむね次の事項が記載されている。

・ラー油小さじ1は約4gであること。

オ 甲18に記載された事項
甲18には、おおむね次の事項が記載されている。

・生姜チューブ小さじ1は約4.25gであること。

カ 甲19に記載された事項
甲19には、おおむね次の事項が記載されている。

・少々は小さじ1/8であること。

キ 甲20に記載された事項
甲20には、おおむね次の事項が記載されている。

・市販の落花生は殻付きのまま焙煎したものが主流であること。

ク 甲21に記載された事項
甲21には、おおむね次の事項が記載されている。

・市販の焙煎した落花生は以下の香気成分を以下の量含むこと。


ケ 甲22に記載された事項
甲22には、おおむね次の事項が記載されている。

・市販のごま油二種(HC、JJ)は以下の香気成分を以下の量含むこと。


(2)本件特許発明1について
甲1発明における「ピーナツダレ」は「液状調味料」の一種である。
甲1発明における「大」及び「小」は、それぞれ「大さじ」及び「小さじ」のことであるから、甲15ないし19に記載された事項を考慮すると、甲1発明における「練りごま 大1」、「しょうゆ 大2」、「ごま油 大2」、「酢 大2」、「砂糖 大1」、「ラー油 小1〜2」、「おろししょうが 少々」及び「白ごま 少々」は、それぞれ、「練りごま 15g」、「しょうゆ 36g」、「ごま油 28g」、「酢 30g」、「砂糖 9g」、「ラー油 4g」、「おろししょうが 0.531g」及び「白ごま 0.375g」と換算され、総量は「222.906g」となり、「練りごま」と「しろごま」の含有割合は6.9質量%(=(15+0.375)÷222.906×100)と算出される。
甲20に記載された事項を考慮すると、甲1発明における「落花生」は殻付きのまま焙煎したものである蓋然性が高い。
甲21に記載された事項を考慮すると、焙煎した落花生には、「B)4−ビニル−2メトキシフェノール」及び「C」ヘキサナール」が含まれるから、甲1発明における「落花生」も「B)4−ビニル−2メトキシフェノール」及び「C」ヘキサナール」を含む蓋然性が高い。
以上を踏まえて、本件特許発明1と甲1発明を対比する。
甲1発明における「練りごま」及び「白ごま」は本件特許発明1における「ごま」に相当し、以下、同様に、「ごま油」は「食用油脂」に、「ピーナツダレ」は「ごま含有液状調味料」に、それぞれ相当する。
したがって、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「9質量%以下のごま及び食用油脂を含有する液状調味料であって、
香気成分として、
A)2−エチルピラジン及び/又はC)ヘキサナールと、
B)4−ビニル−2メトキシフェノールとを含有する、ごま含有液状調味料。」

そして、両者は次の点で相違する。
<相違点1−1>
本件特許発明1においては「前記A〜Cの香気成分の合計含有量が2ppm以上50ppm以下であると共に、
前記A〜Cの香気成分の各濃度が下記式(1)を満たす」(当審注:「下記式(1)」は「10a+c < 4b < 1000a+100c (1)
(式中、
aは、A)2−エチルピラジンのppm含有量を表し、
bは、B)4−ビニル−2メトキシフェノールのppm含有量を表し、
cは、C)ヘキサナールのppm含有量を表す。)」のことである。以下、摘記を省略する。)と特定されているのに対し、甲1発明においてはそのようには特定されていない点。

そこで、相違点1−1について検討する。
甲1には、甲1発明において、相違点1−1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はない。
また、他の証拠にも相違点1−1に係る本件特許発明1の発明特定事項は記載されていないし、当然、甲1発明に相違点1−1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はない。

なお、甲21には、焙煎した落花生の香気成分の含有量について記載されているが、令和4年6月24日に特許権者から提出された意見書に添付された乙第7号証(Journal of Agricultural and Food Chemistry、2008年、第56巻、第21号、第10237〜10243頁、American Chemical Society)によると、甲21は、有機栽培による生の西アフリカ産落花生について、生の粉砕落花生(200g)をフライパンで継続的に攪拌しながら、特有の焙煎臭が発生するまで(11分)焙煎したものの香気成分を分析したものであり、殻付きのまま焙煎したものの香気成分を分析したものではないから、殻付きの落花生の使用を前提とする甲1発明に甲21に記載された事項を適用することはできず、令和4年4月21日付けの取消理由通知の第4 2(2)オ及び特許異議申立書第66ないし67ページで示されたような計算をすることはできない。
この点に関し、特許異議申立人は、令和4年8月12日に提出された回答書において、「甲第1号証の「材料(3〜4人分)」の項には、「落花生(むきみ)」100gと記載されており、材料としてはむしろ「むきみ」の状態のものを使用することが想定されていると考えるのが合理的です。実際、このレシピにおいて、わざわざむきみの状態でない殻付きの落花生を用意すべき必然性は全くなく(敢えて手間がかかるだけで何のメリットも見いだせず)、「作り方」の項に「落花生は殻と皮を取って」と記載されているのは、単に殻や皮がついている場合には、それらまで一緒に磨り潰さないようにという趣旨で注意的にそのように記載されていると考えるのが合理的です。従いまして、甲第1号証を見た当業者が、材料として敢えて殻付きの落花生を用意するとは到底考えられず、特段の事情がない限り、殻のついていないむきみの落花生を用いると考えられます。そうである以上、ここで用いられる落花生が殻付きの状態で焙煎されたものに限られると解する根拠はなく、殻付きの状態で焙煎された後に殻を除去したもの、殻を除去してから焙煎されたもののいずれも使用できると考えるのが合理的です。」(上記回答書第16ページ第2ないし14行)と主張するが、甲1に「落花生は殻と皮を取って」と明記されている以上、甲1発明における「落花生」は「殻付きの落花生」であることは当業者に明らかであるし、甲1を見た当業者が「殻付きの落花生」を用意すると解することは甲20に記載された事項(「市販の落花生は殻付きのまま焙煎したものが主流であること」)とも整合することから、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

したがって、甲1発明において、相違点1−1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たものとであるはいえない。
そして、本件特許発明1の奏する「ごま特有の甘みが高められ、ごまの味わいに優れたごま含有液状調味料が提供される」(本件特許の発明の詳細な説明の【0015】)という効果は、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項からみて当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。

なお、効果に関し、特許異議申立人は、上記回答書において、「上記「(2)サポート要件違反(取消理由1)について」の項において詳述しましたとおり、本件発明の構成に基づき本件発明の技術的課題を解決できると認職し得ないことから、その顕著な作用効果が認められる筈もなく、 それゆえ、もし仮にその数値範囲に何らかの相違点が存在したとしても、当業者が通常の創作の能力の発揮として行う設計事項に過ぎないという他ありません。」(上記回答書第23ページ第11ないし15行)と主張するが、本件特許発明1が発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものであることは、上記第5 1(4)のとおりであるから、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

よって、相違点1−1がある以上、本件特許発明1は甲1発明であるとはいえないし、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(3)本件特許発明2ないし7について
本件特許発明2ないし7は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものである。
したがって、本件特許発明2ないし7は、本件特許発明1と同様に、甲1発明であるとはいえないし、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(4)本件特許発明8について
本件特許発明8と甲1方法発明を対比するに、本件特許発明8と甲1方法発明の間には、本件特許発明1と甲1発明の間と同様の相当関係が成り立つ。
また、甲1方法発明は「ごま油」を加えて「よく混ぜ」て「ピーナツだれ」とする方法であり、「ごま油」を加えて「よく混ぜ」ることによって「ごま風味」が向上していることは明らかであり、「ごま風味を向上させる方法」といえる。
したがって、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「ごま含有液状調味料におけるごま風味を向上させる方法であって、
9質量%以下のごま及び食用油脂を含有する液状調味料において、更に香気成分として、
A)2−エチルピラジン及び/又はC)ヘキサナールと、
B)4−ビニル−2メトキシフェノールとを含有する、方法。」

そして、両者は次の点で相違する。
<相違点1−2>
本件特許発明8においては「前記A〜Cの香気成分の合計含有量が2ppm以上50ppm以下であると共に、
前記A〜Cの香気成分の各濃度が下記式(1)を満たす」と特定されているのに対し、甲1方法発明においてはそのようには特定されていない点。

そこで、相違点1−2について検討する。
相違点1−2は相違点1−1と同じであるから、その判断も同じである。
すなわち、相違点1−2がある以上、本件特許発明8は甲1方法発明であるとはいえないし、甲1方法発明において、相違点1−2に係る本件特許発明8の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たものであるともいえない。
そして、本件特許発明8の奏する「ごま含有液状調味料のごま特有の甘みを高め、ごまの味わいを簡便に向上させることができる」(本件特許の発明の詳細な説明の【0015】)という効果は、甲1方法発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項からみて当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。
したがって、本件特許発明8は甲1方法発明であるとはいえないし、甲1方法発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(5)本件特許発明9ないし14について
本件特許発明9ないし14は、請求項8を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明8の発明特定事項を全て有するものである。
したがって、本件特許発明9ないし14は、本件特許発明8と同様に、甲1方法発明であるとはいえないし、甲1方法発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(6)取消理由2についてのむすび
したがって、本件特許発明1ないし14は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえないし、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえないから、本件特許の請求項1ないし14に係る特許は、同法第113条第2号に該当せず、取消理由2によっては取り消すことはできない。

第6 取消理由に採用しなかった特許異議申立書に記載した申立ての理由について
取消理由に採用しなかった特許異議申立書に記載した申立ての理由は、申立理由1(新規事項)、申立理由2(サポート要件)のうち、(3)ないし(6)の点に基づく理由、申立理由4(甲2に基づく進歩性)及び申立理由5(甲3に基づく進歩性)である。
以下、検討する。

1 申立理由1(新規事項)について
(1)新規事項の判断基準
補正が、当業者によって、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「当初明細書等」という。)の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものであるか否かにより、その補正が新規事項を追加する補正であるか否かを判断する。
補正が当初明細書等に記載した事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである場合は、その補正は、新規事項を追加する補正でない。他方、補正が新たな技術的事項を導入するものである場合は、その補正は、新規事項を追加する補正である。

(2)新規事項の判断
本件特許に係る令和3年1月14日に提出された手続補正書による補正(以下、「本件補正」という。)により、本件特許の請求項1及び8が補正され、本件特許発明における「ごま」の含有量に関して、「9質量%以下の」という規定が加えられた。
他方、本件特許の当初明細書等の【0047】には「ごまの含有量は特に制限されない。しかし、調味料へのごま感付与の観点からは、調味料に対する質量比として、通常0.1%以上、中でも0.5%以上とすることが好ましい。また、調味料の食べやすさの観点からは、調味料に対する質量比として、通常70%以下、中でも60%以下とすることが好ましい。」と記載され、「通常70%以下、中でも60%以下とすること」が記載されており、同【0073】の【表2】には、「ごま」を原料の全量「1000g」に対して「90g」、すなわち「ごま」を原料の全量の「9%」とすることが記載されている。
そうすると、本件補正は、本件特許の当初明細書等に記載されていた「ごま」の含有量の「通常70%以下、中でも60%以下」という数値範囲を、【表2】を根拠に「9%以下」とさらに狭くした上で、本件特許発明に導入したものであるといえるし、また、「9%以下」とすることで新たな効果を導入するものでもない。
したがって、本件補正は、当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものであるとはいえず、新規事項を追加する補正でない。
よって、本件補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。

(3)申立理由1についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし14に係る特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものであるとはいえず、同法第113条第1号に該当するものであるとはいえないので、申立理由1によっては取り消すことはできない。

2 申立理由2(サポート要件)のうち、(3)ないし(6)の点に基づく理由について
(1)サポート要件の判断
本件特許発明1ないし14に関して、特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するといえるのは、上記第5 1(4)のとおりである。

申立理由2(サポート要件)のうち、(3)ないし(6)の点に基づく理由について検討したが、上記判断は左右されない。

(2)申立理由2のうち、(3)ないし(6)の点に基づく理由についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし14に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえず、同法第113条第4号に該当するものであるとはいえないので、申立理由2のうち、(3)ないし(6)の点に基づく理由によっては取り消すことはできない。

3 申立理由4(甲2に基づく進歩性)について
(1)甲2に記載された事項及び甲2に記載された発明
ア 甲2に記載された事項
甲2には、「ごま含有乳化液状調味料、ごま含有乳化液状調味料のごま風味増強方法」に関して、おおむね次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付したものである。

・「【0007】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、ごまを増量しないにも関わらず、ごま風味、焙煎感、まろやかさを強化し、全体として風味バランスの良いごま含有乳化液状調味料を提供することにある。また、本発明の別の目的は、ごまを増量しないにも関わらず、ごま含有乳化液状調味料のごま風味を確実に増強しうる方法を提供することにある。」

・「【0031】
(1)試験1(酢酸含有量、酸度、pHを決める試験)
【0032】
この試験では、表1の配合量に従い以下の手順でごま含有乳化液状調味料(ごま含有乳化たれ)を作製した。まず、撹拌タンクに、水、醤油、旨味調味料、砂糖、食酢、食塩、増粘剤、加工卵黄、食用油脂原料、酸味料を投入した後、これらを均一に混合して増粘し、さらに乳化処理を行い、その後、すりごま(焙煎したごまの粉砕物)を添加して、ごま含有液状調味料を作製した。そして、この試験では、酢酸含有量、酸度及びpHが様々な値をとるように、食酢及び酸味料の配合量を変更することで複数のサンプル(1A〜1Eの5種類)を得た。なお、本試験に用いた加工卵黄は粉末に加工されたものであり、加工卵黄重量あたりの卵黄含有量は200%として換算できる。」

・「【0049】
(4)試験4(食用油脂の含有量を決める試験)
【0050】
この試験では、基本的に上記試験1の手順に準拠して、表4の配合量に従いごま含有乳化液状調味料(ごま含有乳化たれ)を作製した。この試験では、食用油脂の含有量が様々な値をとるように、食用油脂原料の配合量と増粘剤の配合量とを変更することで複数のサンプル(4A〜4Cの3種類)を得た。具体的にいうと、食用油脂原料の配合量を5.0質量%とし、増粘剤の配合量を0.51質量%としたものを「試験例4A」のサンプルとした。食用油脂原料の配合量を20.0質量%とし、増粘剤の配合量を0.33質量%としたものを「試験例4B」のサンプルとした。食用油脂原料の配合量を40.0質量%とし、増粘剤の配合量を0.10質量%としたものを「試験例4C」のサンプルとした。
【0051】
そしてこれら3種類のサンプルについて、上記試験1と同様の分析を行った結果を表4に示す。酢酸の含有量はいずれも0.74質量%であり、酸度はいずれも0.79%であり、pHはいずれも4.3であり、塩分の含有量はいずれも5.0質量%であった。粘度は、試験例4A、4B、4Cの順に、1400mPa・S、1300mPa・S、1900mPa・Sとなった。
【0052】
次にこれら3種類のサンプルについて、上記試験1と同様の官能試験による評価を行った結果を表4に示す。即ち、表4に示されるように、「焙煎感」及び「ごま感」に関しては、各試験例4A〜4Cの3つのサンプルにて「好ましい(〇)」という評価となり、特に差はなかった。「まろやかさ」に関しては、試験例4B〜4Cの2つのサンプルにて「好ましい(〇)」という評価となった。以上の結果、試験例4A、4B及び4Cについて総合評価が良好(即ち◎か〇)となることがわかった。つまり、上記の評価結果から、「焙煎感」、「ごま感」及び「まろやかさ」の強化を達成するうえで、食用油脂原料の配合量を5.0質量%以上40.0質量%以下とすべきであることが実証された。
【0053】
【表4】



イ 甲2に記載された発明
甲2に記載された事項を、特に試験4のサンプル4Bに関して整理すると、甲2には次の発明(以下、順に「甲2発明」及び「甲2方法発明」という。)が記載されていると認める。

<甲2発明>
「醤油10.0質量%、旨味調味料1.0質量%、砂糖10.0質量%、すりごま10.0質量%、 食酢5.0質量%、食塩3.57質量%、増粘剤0.33質量%、加工卵黄0.5質量%、食用油脂原料20.0質量%、水(その余)を含有するごま風味、焙煎感、まろやかさを強化し、全体として風味バランスの良いごま含有乳化液状調味料。」

<甲2方法発明>
「撹拌タンクに、水(その余)、醤油10.0質量%、旨味調味料1.0質量%、砂糖10.0質量%、食酢5.0質量%、食塩3.57質量%、増粘剤0.33質量%、加工卵黄0.5質量%、食用油脂原料20.0質量%を投入した後、これらを均一に混合して増粘し、さらに乳化処理を行い、その後、すりごま10.0質量%を添加して、ごま風味、焙煎感、まろやかさを強化し、全体として風味バランスの良いごま含有乳化液状調味料を作製する方法。」

なお、特許異議申立人は、特許異議申立書の第81ページ下から第4行ないし末行において、「食用油脂原料」ではなく、「ごま油」を、「20質量%」含有する「乳化液状調味料」を甲1発明として認定しているが、試験4のサンプル4Bに配合されているものとして記載されているものは「ごま油」ではなく、「食用油脂原料」を含有する「乳化液状調味料」であるので、このような認定はできない。

(2)本件特許発明1について
本件特許発明1と甲2発明を対比する。
甲2発明における「すりごま」は本件特許発明1における「ごま」に相当し、以下、同様に、「食用油脂原料」は「食用油脂」に、「ごま含有乳化液状調味料」は「ごま含有液状調味料」に、それぞれ相当する。
したがって、両者は、次の点で一致する。
<一致点>
「ごま及び食用油脂を含有する、ごま含有液状調味料。」

そして、両者は次の点で相違する。
<相違点2−1>
本件特許発明1においては「9質量%以下のごま」と特定された上で、「香気成分として、
A)2−エチルピラジン及び/又はC)ヘキサナールと、
B)4−ビニル−2メトキシフェノールとを含有し、
前記A〜Cの香気成分の合計含有量が2ppm以上50ppm以下であると共に、
前記A〜Cの香気成分の各濃度が下記式(1)を満たす」と特定されているのに対し、甲2発明においてはそのようには特定されていない点。

そこで、相違点2−1について検討する。
甲2には、甲2発明において、相違点2−1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもない。
したがって、甲2発明において、相違点2−1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たものとであるはいえない。
そして、本件特許発明1の奏する「ごま特有の甘みが高められ、ごまの味わいに優れたごま含有液状調味料が提供される」という効果は、甲2発明並びに甲2及び他の証拠に記載された事項からみて当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。
よって、本件特許発明1は甲2発明並びに甲2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)本件特許発明2ないし7について
本件特許発明2ないし7は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものである。
したがって、本件特許発明2ないし7は、本件特許発明1と同様に、甲2発明並びに甲2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)本件特許発明8について
本件特許発明8と甲2方法発明を対比するに、本件特許発明8と甲2方法発明の間には、本件特許発明1と甲2発明の間と同様の相当関係が成り立つ。
また、甲2方法発明は「ごま風味、焙煎感、まろやかさを強化し、全体として風味バランスを良」くする方法であるから、「ごま風味を向上させる方法」といえる。
したがって、両者の間は次の点で一致する。
<一致点>
「ごま及び食用油脂を含有するごま含有液状調味料におけるごま風味を向上させる方法。」

そして、両者は次の点で相違する。
<相違点2−2>
本件特許発明8においては「9質量%以下のごま」と特定された上で、「香気成分として、
A)2−エチルピラジン及び/又はC)ヘキサナールと、
B)4−ビニル−2メトキシフェノールとを含有し、
前記A〜Cの香気成分の合計含有量が2ppm以上50ppm以下であると共に、
前記A〜Cの香気成分の各濃度が下記式(1)を満たす」と特定されているのに対し、甲2方法発明においてはそのようには特定されていない点。

そこで、相違点2−2について検討する。
相違点2−2は相違点2−1と同じであるから、その判断も同じである。
すなわち、甲2方法発明において、相違点2−2に係る本件特許発明8の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
そして、本件特許発明8の奏する「ごま含有液状調味料のごま特有の甘みを高め、ごまの味わいを簡便に向上させることができる」という効果は、甲2方法発明並びに甲2及び他の証拠に記載された事項からみて当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。
したがって、本件特許発明8は甲2方法発明並びに甲2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(5)本件特許発明9ないし14について
本件特許発明9ないし14は、請求項8を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明8の発明特定事項を全て有するものである。
したがって、本件特許発明9ないし14は、本件特許発明8と同様に、甲2方法発明並びに甲2及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(6)申立理由4についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし14に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえず、本件特許の請求項1ないし14に係る特許は、同法第113条第2号に該当するものであるとはいえないので、申立理由4によっては取り消すことはできない。

4 申立理由5(甲3に基づく進歩性)について
(1)甲3に記載された事項及び甲3に記載された発明
ア 甲3に記載された事項
甲3には、おおむね次の事項が記載されている。

・「簡単♪手作り和風ごまドレッシング」(第1ページ上欄左)

・「 話題入り感謝 家にある手軽な材料でとっても簡単に作れる、ごまの風味が美味しい和風ドレッシングです
材料(作りやすい分量)
しょうゆ 大さじ3
お酢 大さじ3
砂糖 大さじ1
味噌 大さじ1
サラダ油 大さじ1
ごま油 大さじ3
白すりごま 大さじ1」(第1ページ上欄右)

・「作り方

材料を全てボウルに入れて、味噌と砂糖が溶け切るまで混ぜ合わせたら完成♪」(第1ページ下欄左)

イ 甲3に記載された発明
甲3に記載された事項を整理すると、甲3には次の発明(以下、順に「甲3発明」及び「甲3方法発明」という。)が記載されていると認める。

<甲3発明>
「しょうゆ 大さじ3、お酢 大さじ3、砂糖 大さじ1、味噌 大さじ1、サラダ油 大さじ1、ごま油 大さじ3、白すりごま 大さじ1からなるごまの風味が美味しい和風ごまドレッシング。」

<甲3方法発明>
「しょうゆ 大さじ3、お酢 大さじ3、砂糖 大さじ1、味噌 大さじ1、サラダ油 大さじ1、ごま油 大さじ3、白すりごま 大さじ1を全てボウルに入れて、味噌と砂糖が溶け切るまで混ぜ合わせてごまの風味が美味しい和風ごまドレッシングとする方法。」

(2)本件特許発明1について
甲16に記載された事項を考慮すると、甲3発明における「しょうゆ おおさじ3」、「お酢 大さじ3」、「砂糖 大さじ1」、「味噌 大さじ1」、「サラダ油 大さじ1」、「ごま油 大さじ3」及び「白すりごま 大さじ1」は、それぞれ「しょうゆ 54g」、「お酢 45g」、「砂糖 9g」、「味噌 18g」、「サラダ油 14g」、「ごま油 42g」及び「白すりごま 9g」と換算され、総量は「191g」となり、「しろごま」の含有割合は4.7質量%(=9÷191×100)と算出される。
甲22に記載された事項を考慮すると、甲3発明における「ごま油」は「A)2−エチルピラジン」、「B)4−ビニル−2メトキシフェノール」及び「C)ヘキサナール」を含有する蓋然性が高い。
以上を踏まえて、本件特許発明1と甲3発明を対比する。
甲3発明における「白すりごま」は本件特許発明1における「ごま」に相当し、以下、同様に、「サラダ油」及び「ごま油」は「食用油脂」に、「和風ごまドレッシング」は「ごま含有液状調味料」に、それぞれ相当する。
したがって、両者は、次の点で一致する。
<一致点>
「9質量%以下のごま及び食用油脂を含有する、ごま含有液状調味料であって、
香気成分として、
A)2−エチルピラジン及び/又はC)ヘキサナールと、
B)4−ビニル−2メトキシフェノールとを含有する、ごま含有液状調味料。」

そして、両者は次の点で相違する。
<相違点3−1>
本件特許発明1においては「前記A〜Cの香気成分の合計含有量が2ppm以上50ppm以下であると共に、
前記A〜Cの香気成分の各濃度が下記式(1)を満たす」と特定されているのに対し、甲1発明においてはそのようには特定されていない点。

そこで、相違点3−1について検討する。
甲3には、甲3発明において、相違点3−1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもない。
したがって、甲3発明において、相違点3−1に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たものとであるはいえない。
そして、本件特許発明1の奏する「ごま特有の甘みが高められ、ごまの味わいに優れたごま含有液状調味料が提供される」という効果は、甲3発明並びに甲3及び他の証拠に記載された事項からみて当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。
よって、本件特許発明1は甲3発明並びに甲3及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)本件特許発明2ないし7について
本件特許発明2ないし7は、請求項1を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものである。
したがって、本件特許発明2ないし7は、本件特許発明1と同様に、甲3発明並びに甲3及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)本件特許発明8について
本件特許発明8と甲3方法発明を対比するに、本件特許発明8と甲3方法発明の間には、本件特許発明1と甲3発明の間と同様の相当関係が成り立つ。
また、甲3方法発明は「ごま油」を「ボウル」に入れて「混ぜ合わせて」「ごまの風味」を「美味し」くする方法であるから、「ごま風味を向上させる方法」といえる。
したがって、両者の間は次の点で一致する。
<一致点>
「9質量%以下のごま及び食用油脂を含有するごま含有液状調味料におけるごま風味を向上させる方法。」

そして、両者は次の点で相違する。
<相違点3−2>
本件特許発明8においては「前記A〜Cの香気成分の合計含有量が2ppm以上50ppm以下であると共に、
前記A〜Cの香気成分の各濃度が下記式(1)を満たす」と特定されているのに対し、甲3方法発明においてはそのようには特定されていない点。

そこで、相違点3−2について検討する。
相違点3−2は相違点3−1と同じであるから、その判断も同じである。
すなわち、甲3方法発明において、相違点3−2に係る本件特許発明8の発明特定事項を採用することは当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
そして、本件特許発明8の奏する「ごま含有液状調味料のごま特有の甘みを高め、ごまの味わいを簡便に向上させることができる」という効果は、甲3方法発明並びに甲3及び他の証拠に記載された事項からみて当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。
したがって、本件特許発明8は甲3方法発明並びに甲3及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(5)本件特許発明9ないし14について
本件特許発明9ないし14は、請求項8を直接又は間接的に引用して特定するものであり、本件特許発明8の発明特定事項を全て有するものである。
したがって、本件特許発明9ないし14は、本件特許発明8と同様に、甲3方法発明並びに甲3及び他の証拠に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(6)申立理由5についてのむすび
したがって、本件特許の請求項1ないし14に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえず、本件特許の請求項1ないし14に係る特許は、特許法第113条第2号に該当するものであるとはいえないので、申立理由5によっては取り消すことはできない。

第7 結語
上記第5及び6のとおり、本件特許の請求項1ないし14に係る特許は、取消理由及び特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし14に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2022-10-21 
出願番号 P2016-171758
審決分類 P 1 651・ 537- Y (A23L)
P 1 651・ 55- Y (A23L)
P 1 651・ 113- Y (A23L)
P 1 651・ 121- Y (A23L)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 大島 祥吾
特許庁審判官 加藤 友也
植前 充司
登録日 2021-05-18 
登録番号 6886137
権利者 株式会社Mizkan 株式会社Mizkan Holdings
発明の名称 ごま含有液状調味料及びごま含有液状調味料のごま風味を向上させる方法  
代理人 三橋 真二  
代理人 古賀 哲次  
代理人 武居 良太郎  
代理人 中島 勝  
代理人 青木 篤  
代理人 関根 宣夫  
代理人 福本 積  
代理人 古賀 哲次  
代理人 福本 積  
代理人 青木 篤  
代理人 関根 宣夫  
代理人 石田 敬  
代理人 渡辺 陽一  
代理人 武居 良太郎  
代理人 三橋 真二  
代理人 中島 勝  
代理人 石田 敬  
代理人 渡辺 陽一  

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