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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  H01M
審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01M
管理番号 1390581
総通号数 11 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-11-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-01-14 
確定日 2022-11-01 
異議申立件数
事件の表示 特許第6905156号発明「充電式リチウムイオン電池用の正極材料及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6905156号の請求項13に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第6905156号の請求項1ないし13に係る特許についての出願は、2018年12月19日(パリ条約に基づく優先権主張外国庁受理 2017年12月22日 欧州特許庁(EP) 2018年3月2日 米国(US) 2018年3月29日 米国(US) 2018年6月5日 欧州特許庁(EP) 2018年7月9日 欧州特許庁(EP) 2018年8月22日 欧州特許庁(EP))を国際出願日として出願されたものであって、令和3年6月28日にその特許権の設定登録がなされ、同年7月21日に特許掲載公報が発行された。その後、本件特許に対して特許異議の申立てがなされたものであり、以降の本件特許異議の申立てに係る手続の概要は以下のとおりである。
令和4年 1月14日 特許異議申立人 竹下 瑞恵による請求項13
に係る特許に対する特許異議の申立て
令和4年 5月12日付け 取消理由通知
令和4年 8月10日 特許権者による意見書の提出

第2 本件発明

本件の請求項13の特許に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項13に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項13】
二次リチウムイオン電池用の粉末状正極活物質であって、前記粉末状正極活物質は、一般式Li1+kMe1−kO2[式中、−0.03≦k≦0.10であり、及びMe=NicMe’dCoeKf(式中、0.30≦c≦0.92、0.00≦d≦0.40、0.05≦e≦0.40、及び0≦f≦0.05であり、Me’は、Mn又はAlのいずれか一方又は両方であり、Kは、Me’とは異なるドーパントである)である]を有する粒子を含み、前記粉末状正極活物質は、一般式Li1+aM’1−aO2[式中、−0.03≦a≦0.10であり、及びM’=NixM”yCozEd(式中、0.30≦x≦0.92、0.00≦y≦0.40、0.05≦z≦0.40及び0≦d≦0.05であり、M”は、Mn又はAlのいずれか一方又は両方であり、Eは、M”とは異なるドーパントである)である]を有する多結晶粒子を含む第1の化合物粉末の第1の画分であって、前記第1の化合物粉末は、1.0未満のスパンを有し、10μm以上で20μm以下のD50を有する、第1の画分と、一般式Li1+aM’1−aO2[式中、−0.03≦a≦0.10であり、M’=NixM”yCozEd(式中、0.30≦x≦0.92、0.00≦y≦0.40、0.05≦z≦0.40、及び0≦d≦0.05であり、M”は、Mn又はAlのいずれか一方又は両方であり、Eは、M”とは異なるドーパントである)である]を有する単結晶モノリシック粒子を含む第2の化合物粉末の第2の画分であって、前記モノリシック粒子は、2μm以上で8μm以下のD50を有する、第2の画分と、の二峰性混合物であり、前記第2の画分の含有量は、前記粉末状正極活物質の総重量を基準として、15重量%以上で65重量%以下であり、前記第1の画分の含有量は、前記粉末状正極活物質の総重量を基準として、35重量%以上で85重量%以下である、二次リチウムイオン電池用の粉末状正極活物質。」

第3 当審の判断

1.取消理由通知に記載した取消理由について
(1)取消理由の概要
令和4年5月12日付けで通知した取消理由の概要は次のとおりである。
請求項13に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の引用例1に記載された発明、及び引用例2ないし4に記載された技術事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項13に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。


引用例1:特開2010−176996号公報(甲第1号証)
引用例2:特開平7−114942号公報(甲第2号証)
引用例3:国際公開第2013/191179号(甲第3号証)
引用例4:特開2003−109592号公報(甲第4号証)

(2)引用例の記載事項
(2−1)引用例1
引用例1(特開2010−176996号公報、甲第1号証)には、「非水電解質二次電池」について、以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
ア.「【請求項1】
正極活物質を有する正極と、負極と、非水溶媒と電解質塩を有する非水電解質とを備える非水電解質二次電池において、
前記正極活物質は、数平均粒径分布D50の中心粒径が15〜30μmである大粒径正極活物質粒子と数平均粒径分布D50の中心粒径が1〜8μmである小粒径正極活物質粒子との混合物であって、粒度分布が粒子径15〜30μmと1〜8μmのそれぞれの範囲内に、相対粒子量で5%以上のピークを有し、
前記非水電解質中に、1,3−ジオキサンと、ビニレンカーボネート化合物と、更にシクロアルキルベンゼン化合物及びベンゼン環に隣接する第四級炭素を有する化合物から選択された少なくとも1種の芳香族化合物と、を含有していることを特徴とする非水電解質二次電池。
【請求項2】
前記正極活物質は、前記小粒径正極活物質粒子が正極活物質全体に対して10質量%以上50質量%以下の割合で配合されていることを特徴とする請求項1に記載の非水電解質二次電池。」

イ.「【0011】
本発明は、正極活物質として、数平均粒径分布D50の中心粒径が15〜30μmである大粒径正極活物質粒子と数平均粒径分布D50の中心粒径が1〜8μmである小粒径正極活物質粒子との混合物であって、粒度分布が粒子径15〜30μmと1〜8μmのそれぞれの範囲内に、相対粒子量で5%以上のピークを有するものを用いている。正極活物質として、大粒径正極活物質粒子と小粒径正極活物質粒子との混合物を用いると、上記特許文献1にも開示されているように、容易に正極活物質の充填密度を大きくすることができるようになる。この際、粒度分布が粒子径15〜30μmと1〜8μmのそれぞれの範囲内に、相対粒子量で5%以上のピークを有するものを用いると、それぞれの粒径範囲内における粒径のバラツキが少なくなっているので、正極活物質の充填密度の向上効果がより大きくなる。」

ウ.「【0018】
本発明の非水電解質二次電池で使用する正極活物質としては、上述したように、リチウムイオンを可逆的に吸蔵・放出することが可能なリチウム遷移金属複合酸化物、すなわち、LiCoO2、LiNiO2、LiNixCo1-xO2(x=0.01〜0.99)、LiMnO2、LiMn2O4、LiCoxMnyNizO2(x+y+z=1)又はLiFePO4などが一種単独もしくは複数種を混合して用いることができる。更には、リチウムコバルト複合酸化物にジルコニウムやマグネシウム等の異種金属元素を添加したものも使用し得る。」

エ.「【0022】
また、本発明の非水電解質二次電池においては、前記正極活物質は、小粒径正極活物質粒子が正極活物質全体に対して10質量%以上50質量%以下の割合で配合されていることが好ましい。
【0023】
小粒径正極活物質の含有割合は、微量でもそれなりの安全性向上効果が得られるが、正極活物質全体に対して10質量%未満であると、正極活物質の充填密度の向上効果が少なく、しかも小粒径正極活物質を添加したことによる安全性向上効果が小さい。また、小粒径正極活物質の含有割合が正極活物質全体に対して50質量%を越えると、充填密度は向上するが、小粒径正極活物質と非水電解質中の添加物との反応性が高くなり出すので好ましくない。」

オ.「【0029】
[正極活物質の作製]
最初に、各実施例及び比較例に共通する非水電解質二次電池の具体的製造方法について説明する。正極活物質には、ジルコニウム(Zr)及びマグネシウム(Mg)を含有するコバルト酸リチウム(Zr及びMg含有LiCoO2)を用いた。このZr及びMg含有LiCoO2は次のようにして調製した。まず、出発原料として、リチウム源には炭酸リチウム(Li2CO3)を用いた。コバルト源には、コバルトの酸水溶液にコバルトに対してジルコニウムが0.15mol%、マグネシウムが0.5mol%の濃度となるように溶解させ、この酸水溶液に炭酸ナトリウム水溶液を添加することによって、Zr及びMg含有CoCO3を共沈させ、次いで、この共沈化合物を空気雰囲気中で熱分解することによって得られたジルコニウム及びマグネシウムを含有する四酸化三コバルト(Zi及びMg含有Co3O4)を用いた。
【0030】
次いで、このZi及びMg含有Co3O4と炭酸リチウムとを所定量秤量して混合した後、空気雰囲気下において850℃で24時間焼成し、Zr及びMg含有LiCoO2を得た。このZi及びMg含有LiCoO2を乳鉢で粉砕し、平均粒径を17μmとしたものを正極活物質Aとし、平均粒径を6μmとしたものを正極活物質Bとした。なお、上記正極活物質A、Bの平均粒径は、レーザー回折式粒度分布測定装置(島津製作所製SALD-2000J)を用いて測定した。この測定結果の粒径基準での積算粒子量(数)が50%となる粒子径を平均粒子径とした。またこの測定においては、水を分散媒に用いた。以上のようにして得られた正極活物質A、Bを、所定の質量比となるよう混合して、正極活物質Cを得た。
【0031】
[正極の作製]
次に、正極活物質Cが94質量%、導電剤としての炭素粉末が3.0質量%、結着剤としてのポリフッ化ビニリデン粉末が3.0質量%となるよう混合し、これをN−メチルピロリドン(NMP)溶液と混合してスラリーを調製した。このスラリーを厚さ15μmのアルミニウム箔からなる正極集電体の両面にドクターブレード法により塗布、乾燥して、正極集電体の両面に活物質層を形成した。その後、圧縮ローラーを用いて圧縮し所定の大きさに切り出して、実施例1〜12及び比較例1〜8で使用する各正極極板を作成した。
・・・・・(中 略)・・・・・
【0036】
[過充電安全性試験]
上述のようにして作製した、実施例1〜8、比較例1〜5の各非水電解質二次電池について、所定電流で電池電圧が12.0Vとなるまで過充電した。電流を0.6It(450mA)としたものを過充電試験1、0.8It(600mA)としたものを過充電試験2、1.0It(750mA)としたものを過充電試験3とし、この過充電試験によって、発煙及び液漏れの少なくとも一方が生じたものを×、発煙および液漏れが生じなかったものを○と評価した。この結果を、表1に纏めて示した。
【0037】



上記「ア.」ないし「オ.」から以下のことがいえる。
・甲第1号証に記載の「非水電解質二次電池」は、上記「ア.」の【請求項1】、「イ.」、「オ.」の記載によれば、正極活物質を有する正極と、負極と、非水電解質とを備える非水電解質二次電池において、前記正極活物質は、数平均粒径分布D50の中心粒径が15〜30μmである大粒径正極活物質粒子と数平均粒径分布D50の中心粒径が1〜8μmである小粒径正極活物質粒子との混合物を用いることで充填密度を大きくしてなるものである。さらに、粒度分布が粒子径15〜30μmと1〜8μmのそれぞれの範囲内に、相対粒子量で5%以上のピークを有することで、それぞれの粒径範囲内における粒径のバラツキが少なくなり、充填密度の向上効果がより大きくなるようにしてなる、非水電解質二次電池である。そして、実施例(実施例1〜8)では、大粒径正極活物質粒子(正極活物質A)における粒径基準での積算粒子量(数)が50%となる粒子径である平均粒子径、すなわちD50が17μmであり、小粒径正極活物質粒子(正極活物質B)における同じくD50が6μmである。
・上記「ウ.」、「オ.」の記載によれば、正極活物質としては、リチウムイオンを可逆的に吸蔵・放出することが可能なリチウム遷移金属複合酸化物が用いられ、実施例(実施例1〜8)では、Zr及びMg含有LiCoO
2である。
・上記「ア.」の【請求項2】、「エ.」、「オ.」の記載によれば、正極活物質は、小粒径正極活物質粒子が正極活物質全体に対して10質量%以上50質量%以下の割合で配合されるものであり、実施例7では、小粒径正極活物質粒子の正極活物質全体に対する割合(正極活物質Bの比率)が30質量%である。

以上のことから、特に実施例7で用いられた正極活物質に着目してこれを発明として捉え、上記記載事項を総合勘案すると、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「非水電解質二次電池に用いられる正極活物質であって、
前記正極活物質は、リチウムイオンを可逆的に吸蔵放出することが可能なリチウム遷移金属複合酸化物であるZr及びMg含有LiCoO2であり、
前記正極活物質は、充電密度を大きくするために、D50が17μmの大粒径正極活物質粒子と、D50が6μmの小粒径正極活物質粒子との混合物が用いられ、さらに、粒度分布が粒子径15〜30μmと1〜8μmのそれぞれの範囲内に、相対粒子量で5%以上のピークを有することで、それぞれの粒径範囲内における粒径のバラツキが少なくなって、充填密度の向上効果がより大きくなるようにしてなるものであり、
前記小粒径正極活物質粒子が前記正極活物質全体に対して30質量%の割合で配合されている、正極活物質。」

(2−2)引用例2
引用例2(特開平7−114942号公報、甲第2号証)には、「非水電解質リチウム二次電池」について、以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
ア.「【請求項1】 リチウムとニッケルの複合酸化物を主成分として含む正極、リチウムまたはリチウムを可逆的に吸蔵放出することのできる材料を含む負極、および非水電解質を具備し、前記のリチウムとニッケルの複合酸化物が、平均粒径が10μm以下の単結晶粉末であることを特徴とする非水電解質リチウム二次電池。
【請求項2】 リチウムとニッケルの複合酸化物を主成分として含む正極、リチウムまたはリチウムを可逆的に吸蔵放出することのできる材料を含む負極、および非水電解質を具備し、前記のリチウムとニッケルの複合酸化物が、最大の粒径が30μm以下で結晶子の大きさが粒径の30%以上の多結晶体粉末であることを特徴とする非水電解質リチウム二次電池。
【請求項3】 リチウムとニッケルの複合酸化物を主成分として含む正極、リチウムまたはリチウムを可逆的に吸蔵放出することのできる材料を含む負極、および非水電解質を具備し、前記のリチウムとニッケルの複合酸化物が、平均粒径が10μm以下の単結晶粉末と、最大の粒径が30μm以下で結晶子の大きさが粒径の30%以上の多結晶体粉末の混合体であることを特徴とする非水電解質リチウム二次電池。」

イ.「【0003】
【発明が解決しようとする課題】LiNiO2を正極活物質として用いると、初期容量はLiCoO2を大きく上回り、高容量のリチウム二次電池用正極を得ることができるが、サイクル特性の面で問題があった。特に、高容量を得るために活物質重量当りの容量が150mAh/gを超えるような深い深度で充放電を行うと、サイクル毎の容量低下が大きく、サイクル特性が非常に悪くなってしまう。このように、活物質重量当りの容量が150mAh/gを超える様な高容量を有するリチウム二次電池用正極材料を得るためには、サイクル特性の改善が必要不可欠である。本発明は、このような問題点を解決するもので、優れたサイクル特性を有するリチウム二次電池用正極を提供するものである。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明は、リチウムとニッケルの複合酸化物を主成分として含む正極、リチウムまたはリチウムを可逆的に吸蔵放出することのできる材料を含む負極、および非水電解質を具備する非水電解質リチウム二次電池において、前記のリチウムとニッケルの複合酸化物に、平均粒径が10μm以下の単結晶粉末を用いる。本発明は、また前記リチウムとニッケルの複合酸化物に、最大の粒径が30μm以下で結晶子の大きさが粒径の30%以上の多結晶体粉末を用いる。
【0005】さらに、本発明の他の態様においては、前記複合酸化物として、上記の単結晶粉末と多結晶体粉末の混合物を用いる。ここで、前記多結晶体粉末は、最大の粒径が5μm以下であることが好ましい。」

上記「ア.」ないし「イ.」の記載を総合勘案すると、引用例2には、次の技術事項が記載されている。
「リチウムとニッケルの複合酸化物を主成分として含む正極、負極、および非水電解質を具備する非水電解質リチウム二次電池において、
サイクル特性を改善するために、前記リチウムとニッケルの複合酸化物に平均粒径が10μm以下の単結晶粉末、最大の粒径が30μm以下で結晶子の大きさが粒径の30%以上の多結晶体粉末、及び平均粒径が10μm以下の単結晶粉末と最大の粒径が30μm以下で結晶子の大きさが粒径の30%以上の多結晶体粉末の混合体のいずれかを用いるようにしたこと。」

(2−3)引用例3
引用例3(国際公開第2013/191179号、甲第3号証)には、「リチウムイオン二次電池用正極活物質」について、以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
ア.「[0006]・・・・(中 略)・・・・
そこで、本発明では、高い充填性と高い体積容量密度を有するリチウムイオン二次電池用正極活物質及びその製造方法の提供を目的とする。
課題を解決するための手段
[0007] 本発明者は、鋭意研究を続けた結果、下記の構成を要旨とする発明により、上記の課題が良好に達成されることを見出した。
(1)異なる粒子径を有する多数の大粒子の集合体と、異なる粒子径を有する多数の小粒子の集合体との混合物Bからなり、該混合物Bに含まれる粒子の粒径xとその頻度Fとの関数F(x)が式1の関係を有し(但し、式1中、大粒子の集合体におけるメディアン径μgが10μm≦μg≦30μmであり、標準偏差σgが1.16≦σg≦1.65であり、小粒子の集合体におけるメディアン径μhが0.1μm≦μh<10μmであり、標準偏差σhが1.16≦σh≦1.65であり、Ag+Ah=1、0<Ag<1、0<Ah<1、かつ1≦Ag/Ah≦9である。)、上記混合物Bを1.92t/cm2で加圧した後の混合物B’に含まれる粒子の粒径xとその頻度Eとの関数E(x)が式2の関係を有し(但し、式2中、大粒子の集合体におけるメディアン径μ’gが10μm≦μ’g≦30μmであり、標準偏差σ’gが1.16≦σ’g≦1.65であり、小粒子の集合体におけるメディアン径μ’hが0.1μm≦μ’h<10μmであり、標準偏差σ’hが1.16≦σ’h≦1.65であり、A’g+A’h=1、0<A’g<1、0<A’h<1、かつ1≦A’g/A’h≦9である。)、かつメディアン径μ’gのμgに対する変化率が10%以下であり、メディアン径μ’hのμhに対する変化率が20%以上であることを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極活物質。

[0008][数1]

[0009][数2]



イ.「[0021] 本発明によれば、高い充填性と高い体積容量密度を有するリチウムイオン二次電池用正極活物質及びその製造方法が提供される。
本発明において、高い充填性と高い体積容量密度を有するリチウムイオン二次電池用正極活物質が得られるメカニズムについては必ずしも明らかではないが、次のように推定される。
本発明の正極活物質は、異なる粒子径を有する多数の大粒子の集合体と、異なる粒子径を有する多数の小粒子の集合体との混合物Bからなり、該混合物Bに含まれる粒子の粒径xとその頻度Fとの関数F(x)が式1を満たす粒度分布を有しており、かつ、大粒子の集合体及び小粒子の集合体との混合物Bを加圧する前後で、大粒子の集合体の平均粒径μgの変化が小さく、小粒子の集合体の平均粒径μhの変化が大きい粉末を使用することに特徴がある。すなわち、崩れにくい大きな粒子の集合体と崩れやすい小さな粒子の集合体からなる混合粉末を正極材料として使用することにより、混合粉末の加圧時に、小さな粒子のみが選択的に凝集がほぐれて、さらに細かい微粉となる。この微粉が、大きな粒子と大きな粒子との間の空隙に充填されることで、高い密度を有するリチウム複合酸化物の粉末が得られると考えられる。」

ウ.「[0033] 本発明において、異なる粒子径を有する多数の大粒子、及び異なる粒子径を有する多数の小粒子は、大粒子及び小粒子自体がいずれも微粒子からなる一次粒子が数個以上集合した二次粒子からなる。二次粒子を形成する微粒子の数は、二次粒子の大きさにも依存するが、大粒子においては、一次粒子が20個〜数万個程度であり、小粒子においては、一次粒子が数個〜一万個程度であるのが好ましい。・・・・(以下、略)」

エ.「[0041] LipNixCoyMnzMqOrFaで表される本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質の具体的な組成としては、LiCoO2、LiNi0.8Co0.2O2 、LiNi0.80Co0.16Al0.04O2 、LiNi0.33Co0.37Mn0.30O2 、LiNi0.8Co0.1Mn0.1O2 、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2 、LiNi0.5Co0.2Mn0.3O2 、Li1.015(Ni0.50Co0.20Mn0.30)0.985O2 、LiNi0.6Co0.2Mn0.2O2で表される組成が挙げられる。なかでもLiNi0.33Co0.37Mn0.30O2 、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2、LiNi0.5Co0.2Mn0.3O2 、Li1.015(Ni0.50Co0.20Mn0.30)0.985O2又はLiNi0.6Co0.2Mn0.2O2が好ましい。」

上記「ア.」ないし「ウ.」の記載を総合勘案すると、引用例3には、次の技術事項が記載されている。
「高い充填性と高い体積容量密度を有するリチウムイオン二次電池用正極活物質を得るために、当該正極活物質を、メディアン径μgが10μm≦μg≦30μmであり、標準偏差σgが1.16≦σg≦1.65である多数の二次粒子からなる大粒子の集合体と、メディアン径μhが0.1μm≦μh<10μmであり、標準偏差σhが1.16≦σh≦1.65である多数の二次粒子からなる小粒子の集合体との混合物とするとともに、当該混合物を加圧する前後で、大粒子の集合体のメディアン径μgの変化が小さく、小粒子の集合体のメディアン径μhの変化が大きい粉末を使用、すなわち、崩れにくい大粒子の集合体と崩れやすい小粒子の集合体からなる混合粉末を使用するようにしたこと。」

また、上記「エ.」の記載によれば、引用例3には、次の技術事項も記載されている。
「リチウムイオン二次電池用正極活物質の組成として、LiCoO2、LiNi0.8Co0.2O2 、LiNi0.80Co0.16Al0.04O2 、LiNi0.33Co0.37Mn0.30O2 、LiNi0.8Co0.1Mn0.1O2 、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2 、LiNi0.5Co0.2Mn0.3O2 、Li1.015(Ni0.50Co0.20Mn0.30)0.985O2 、LiNi0.6Co0.2Mn0.2O2で表される組成が挙げられること。」

(2−4)引用例4
引用例4(特開2003−109592号公報、甲第4号証)には、「リチウム二次電池」について、以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
ア.「【請求項1】 リチウムイオンの吸蔵・放出が可能な正極活物質を備えたリチウム二次電池であって、前記正極活物質は一次粒子が凝集した大粒径の二次粒子の体積割合が多く、かつ該大粒径の二次粒子の間に体積割合が少ない小粒径の一次粒子あるいは二次粒子が混在しているとともに、前記体積割合が少ない小粒径の一次粒子あるいは二次粒子の個数割合を前記大粒径の二次粒子の個数割合よりも多くしたことを特徴とするリチウム二次電池
。」

イ.「【0006】しかしながら、粒径が大きい正極活物質粒子を用いると、粒子間に大きな空隙ができるため、このような粒径が大きい正極活物質粒子を高充填密度に充填することが困難になる。そこで、正極活物質粒子を高密度に充填しようとして、圧延時の加圧力を大きくして過大な加圧力を付加すると、正極活物質粒子が粉砕されて粒径が小さくなり、充放電サイクル特性が悪化するという問題を生じた。本発明は上記問題点を解消するためになされたものであって、粒径が大きい正極活物質粒子を用いても、高密度に充填できるようにして、高容量でサイクル特性に優れたリチウム二次電池を得られるようにすることを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため、本発明のリチウム二次電池は、リチウムイオンの吸蔵・放出が可能な正極活物質を備え、この正極活物質は一次粒子が凝集した大粒径の二次粒子の体積割合が多く、かつ該大粒径の二次粒子の間に体積割合が少ない小粒径の一次粒子あるいは二次粒子が混在しているとともに、体積割合が少ない小粒径の一次粒子あるいは二次粒子の個数割合を大粒径で略球形の二次粒子の個数割合よりも多くしている。
【0008】このように、一次粒子が凝集した大粒径の二次粒子の体積割合が多いと、充放電サイクルを繰り返すことにより生じる負極表面への金属リチウムの析出が抑制され、金属リチウムの析出に起因する容量減少も抑制できる。これにより、充放電サイクルを繰り返しても放電容量を維持できるようになって、サイクル特性が向上した電池が得られる。この場合、粒径が大きい活物質粉末を用いると、活物質粉末間に隙間ができやすくなって、高充填化が困難になる。ところが、大粒径で略球形の二次粒子の間に体積割合が少ない小粒径の一次粒子あるいは二次粒子が混在していると、粒径の小さい活物質粉末が粒径が大きい活物質粉末間を埋めることができるので、高充填化が可能になる。この結果、高容量の電池が得られるようになる。」
ウ.「【0041】なお、上述した実施の形態においては、正極活物質としてコバルト酸リチウム(LiCoO2)を用いる例について説明したが、コバルト酸リチウム(LiCoO2)以外に、スピネル型マンガン酸リチウム(LiMn2O4)あるいはニッケル酸リチウム(LiNiO2)から選択して用いるようにしてもよい。・・・・(中 略)・・・・
【0043】また、ニッケル酸リチウムとしては、組成式がLiNi1+XMXO2(但し、MはB,Mg,Ca,Sr,Ba,Ti,V,Cr,Fe,Co,Cu,Al,In,Nb,Mo,W,Y,Rhから選択される少なくとも一種の元素であり、0≦X≦0.4である)で表されるニッケル酸リチウムが望ましい。このうち、特に容量と熱的安定性の点からLiNi0.8Co0.2O2、LiNi0.6Co0.3Mn0.1O2、LiNi0.8Co0.175MAl0.025O2等が望ましい。」

上記「ア.」及び「イ.」の記載を総合勘案すると、引用例4には、次の技術事項が記載されている。
「リチウムイオンの吸蔵・放出が可能な正極活物質を備えたリチウム二次電池において、
粒径が大きい正極活物質粒子を用いても、高密度に充填できるようにして、高容量でサイクル特性に優れたものとするために、前記正極活物質を、一次粒子が凝集した大粒径の二次粒子の体積割合が多く、かつ該大粒径の二次粒子の間に体積割合が少ない小粒径の一次粒子あるいは二次粒子が混在しているとともに、前記体積割合が少ない小粒径の一次粒子あるいは二次粒子の個数割合を前記大粒径の二次粒子の個数割合よりも多くしたこと。」

また、上記「ウ.」の記載によれば、引用例4には、次の技術事項も記載されている。
「リチウム二次電池において、正極活物質として容量と熱的安定性の点からLiNi0.8Co0.2O2、LiNi0.6Co0.3Mn0.1O2等のニッケル酸リチウムを用いることが望ましいこと。」

(3)取消理由についての当審の判断
ア.対比
本件発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明における「正極活物質」は、大粒径正極活物質粒子と小粒径正極活物質粒子との混合物であり、「粉末状」といえるものであるから、本件発明でいう「粉末状正極活物質」に相当する。そして、引用発明における「正極活物質」は、非水電解質二次電池に用いられるものであるところ、当該正極活物質はリチウムイオンを可逆的に吸蔵・放出することが可能なリチウム遷移金属複合酸化物であることから、上記非水電解質二次電池はリチウムイオン二次電池であるといえる。
したがって、本件発明と引用発明とは、「二次リチウムイオン電池用の粉末状正極活物質」である点で一致する。

(イ)引用発明における「正極活物質」と本件発明でいう「粉末状正極活物質」とは、「リチウム遷移金属複合酸化物の組成を有する粒子」を含む点で共通するといえるものの、その具体的な組成に関し、本件発明では「一般式Li1+kMe1-kO2[式中、−0.03≦k≦0.10であり、及びMe=NicMe’dCoeKf(式中、0.30≦c≦0.92、0.00≦d≦0.40、0.05≦e≦0.40、及び0≦f≦0.05であり、Me’は、Mn又はAlのいずれか一方又は両方であり、Kは、Me’とは異なるドーパントである)である]」であり、特にNiの組成比が0.30×(1−0.10)=0.27以上、0.92×(1+0.03)=0.9476以下であることを特定するのに対し、引用発明ではZr及びMg含有LiCoO2であり、特にNiを含有していない点において相違する。

(ウ)引用発明における「正極活物質」は、D50が17μmの大粒径正極活物質粒子と、D50が6μmの小粒径正極活物質粒子との混合物であるところ、「大粒径正極活物質粒子」はD50が17μmであり、本件発明でいう「第1の化合物粉末」のD50について特定する「10μm以上で20μm以下」に含まれることから、本件発明でいう「第1の化合物粉末の第1の画分」に対応するものであるといえ、同様に、「小粒径正極活物質粒子」はD50が6μmであり、本件発明でいう「第2の化合物粉末」が含む単結晶モノリシック粒子のD50について特定する「2μm以上で8μm以下」に含まれることから、本件発明でいう「第2の化合物粉末の第2の画分」に対応するものであるといえる。
そして、引用発明では「粒度分布が粒子径15〜30μmと1〜8μmのそれぞれの範囲内に、相対粒子量で5%以上のピークを有することで、それぞれの粒径範囲内における粒径のバラツキが少なくなって」いるものであることから、引用発明における「正極活物質」を構成する大粒径正極活物質粒子と小粒径正極活物質粒子との混合物にあっても、「二峰性」であると解される。
したがって、本件発明と引用発明とは、「前記粉末状正極活物質は、リチウム遷移金属複合酸化物の組成を有する粒子を含む第1の化合物粉末の第1の画分であって、前記第1の化合物粉末は、10μm以上で20μm以下のD50を有する、第1の画分と、リチウム遷移金属複合酸化物の組成を有する粒子を含む第2の化合物粉末の第2の画分であって、前記粒子は、2μm以上で8μm以下のD50を有する、第2の画分との二峰性混合物」である点で共通するといえる。
ただし、第1及び第2の化合物粉末が含む粒子の具体的な組成について、本件発明では「一般式Li1+aM’1-aO2[式中、−0.03≦a≦0.10であり、及びM’=NixM”yCozEd(式中、0.30≦x≦0.92、0.00≦y≦0.40、0.05≦z≦0.40及び0≦d≦0.05であり、M”は、Mn又はAlのいずれか一方又は両方であり、Eは、M”とは異なるドーパントである)である]」であり、特にNiの組成比が0.27以上、0.9476以下であることを特定するのに対し、引用発明ではZr及びMg含有LiCoO2であり、特にNiを含有していない点において相違する。
また、本件発明では、第1の化合物粉末が含む粒子が「多結晶」粒子であり、第2の化合物粉末が含む粒子が「単結晶モノリシック」粒子であることを特定するのに対し、引用発明ではそのような特定を有していない点で相違する。
さらに、第1の化合物粉末について、本件発明では「1.0未満のスパン」を有することを特定するのに対し、引用発明では粒度分布が粒子径15〜30μmの範囲内に相対粒子量で5%以上のピークを有し、当該範囲内における粒径のバラツキが少なくなっているものではあるものの、スパンが1.0未満であることまでは特定されていない点でも相違する。

(エ)引用発明における「正極活物質」においては、小粒径正極活物質粒子が正極活物質全体に対して30質量%の割合で配合されており、かかる配合量(含有量)は、本件発明でいう粉末状正極活物質の総重量を基準とした「第2の画分」の含有量について特定する「15重量%以上で65重量%以下」に含まれる。また、引用発明の「正極活物質」における大粒径正極活物質粒子については、正極活物質全体に対して70質量%の割合の配合ということになり、かかる配合量(含有量)は、本件発明でいう粉末状正極活物質の総重量を基準とした「第1の画分」の含有量について特定する「35重量%以上で85重量%以下」に含まれる。
したがって、本件発明と引用発明とは、「前記第2の画分の含有量は、前記粉末状正極活物質の総重量を基準として、15重量%以上で65重量%以下であり、前記第1の画分の含有量は、前記粉末状正極活物質の総重量を基準として、35重量%以上で85重量%以下」である点で一致するといえる。

よって上記(ア)ないし(エ)によれば、本件発明と引用発明とは、
「二次リチウムイオン電池用の粉末状正極活物質であって、前記粉末状正極活物質は、リチウム遷移金属複合酸化物の組成を有する粒子を含み、前記粉末状正極活物質は、リチウム遷移金属複合酸化物の組成を有する粒子を含む第1の化合物粉末の第1の画分であって、前記第1の化合物粉末は、10μm以上で20μm以下のD50を有する、第1の画分と、リチウム遷移金属複合酸化物の組成を有する粒子を含む第2の化合物粉末の第2の画分であって、前記粒子は、2μm以上で8μm以下のD50を有する、第2の画分と、の二峰性混合物であり、前記第2の画分の含有量は、前記粉末状正極活物質の総重量を基準として、15重量%以上で65重量%以下であり、前記第1の画分の含有量は、前記粉末状正極活物質の総重量を基準として、35重量%以上で85重量%以下である、二次リチウムイオン電池用の粉末状正極活物質。」
である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点1]
粉末状正極活物質が含むリチウム遷移金属複合酸化物の組成を有する粒子の具体的な組成、第1及び第2の化合物粉末が含むリチウム遷移金属複合酸化物の組成を有する粒子の具体的な組成について、本件発明ではそれぞれ「一般式Li1+kMe1-kO2[式中、−0.03≦k≦0.10であり、及びMe=NicMe’dCoeKf(式中、0.30≦c≦0.92、0.00≦d≦0.40、0.05≦e≦0.40、及び0≦f≦0.05であり、Me’は、Mn又はAlのいずれか一方又は両方であり、Kは、Me’とは異なるドーパントである)である]」、「一般式Li1+aM’1-aO2[式中、−0.03≦a≦0.10であり、及びM’=NixM”yCozEd(式中、0.30≦x≦0.92、0.00≦y≦0.40、0.05≦z≦0.40及び0≦d≦0.05であり、M”は、Mn又はAlのいずれか一方又は両方であり、Eは、M”とは異なるドーパントである)である]」であり、いずれも特にNiの組成比が0.30×(1−0.10)=0.27以上、0.92×(1+0.03)=0.9476以下であることを特定するのに対し、引用発明ではZr及びMg含有LiCoO2であり、特にNiを含有していない点。

[相違点2]
本件発明では、第1の化合物粉末が含む粒子が「多結晶」粒子であり、第2の化合物粉末が含む粒子が「単結晶モノリシック」粒子であることを特定するのに対し、引用発明ではそのような特定を有していない点。

[相違点3]
第1の化合物粉末について、本件発明では「1.0未満のスパン」を有することを特定するのに対し、引用発明では粒度分布が粒子径15〜30μmの範囲内に相対粒子量で5%以上のピークを有し、当該範囲内における粒径のバラツキが少なくなっているものではあるものの、スパンが1.0未満であることまでは特定されていない点。

イ.判断
事案に鑑み、まず上記相違点2について検討する。
引用例2には、リチウムとニッケルの複合酸化物を主成分として含む正極、負極、および非水電解質を具備する非水電解質リチウム二次電池において、サイクル特性を改善するために、前記リチウムとニッケルの複合酸化物に、平均粒径が10μm以下の単結晶粉末、最大の粒径が30μm以下で結晶子の大きさが粒径の30%以上の多結晶体粉末、及び平均粒径が10μm以下の単結晶粉末と最大の粒径が30μm以下で結晶子の大きさが粒径の30%以上の多結晶体粉末の混合体のいずれかを用いるようにした技術事項が記載されている(上記(2−2)を参照)。これによれば、単結晶粉末と多結晶体粉末の混合体を用いることが記載されてはいるが、単結晶粉末のみ、あるいは多結晶体粉末のみであってもよいとされている。また、引用例2には、単結晶粉末と多結晶体粉末とを組み合わせて用いることによる特有の作用効果については何ら記載がないことから、引用例2の上記技術事項は、必ずしも単結晶粉末と多結晶体粉末とを組み合わせて用いるべきことに着目したものではないことは明らかである。
また、引用例4には、リチウムイオンの吸蔵・放出が可能な正極活物質を備えたリチウム二次電池において、粒径が大きい正極活物質粒子を用いても、高密度に充填できるようにして、高容量でサイクル特性に優れたものとするために、前記正極活物質を、一次粒子が凝集した大粒径の二次粒子の体積割合が多く、かつ該大粒径の二次粒子の間に体積割合が少ない小粒径の一次粒子あるいは二次粒子が混在しているとともに、前記体積割合が少ない小粒径の一次粒子あるいは二次粒子の個数割合を前記大粒径の二次粒子の個数割合よりも多くした技術事項が記載されている(上記(2−4)を参照)。これによれば、大粒径の二次粒子と小粒径の一次粒子の混合物を用いることが記載されているといえるが、小粒径の粒子は二次粒子でもよいとされている。また、引用例4には、大粒径の二次粒子と小粒径の一次粒子とを組み合わせて用いることによる特有の作用効果については何ら記載がないことから、引用例4の上記技術事項は、必ずしも大粒径の二次粒子と小粒径の一次粒子とを組み合わせて用いるべきことに着目したものではないことは明らかである。
してみると、たとえ引用例2や引用例4に記載された技術事項に、多結晶粒子(二次粒子)と単結晶粒子(一次粒子)の組み合わせが含まれ得るからといって、あえてかかる組み合わせに着目し、引用発明に対して適用すべき動機があるとはいえず、引用発明において相違点2に係る構成を導き出すことが当業者であれば容易になし得たことであるとまではいえない。

なお、引用例3には、高い充填性と高い体積容量密度を有するリチウムイオン二次電池用正極活物質を得るために、当該正極活物質を、メディアン径μgが10μm≦μg≦30μmであり、標準偏差σgが1.16≦σg≦1.65である多数の二次粒子からなる大粒子の集合体と、メディアン径μhが0.1μm≦μh<10μmであり、標準偏差σhが1.16≦σh≦1.65である多数の二次粒子からなる小粒子の集合体との混合物とするとともに、当該混合物を加圧する前後で、大粒子の集合体のメディアン径μgの変化が小さく、小粒子の集合体のメディアン径μhの変化が大きい粉末を使用、すなわち、崩れにくい大粒子の集合体と崩れやすい小粒子の集合体からなる混合粉末を使用するようにした技術事項が記載されている(上記(2−3)を参照)。しかしながら、大粒子及び小粒子のいずれも二次粒子からなるものであり、二次粒子の大粒子と一次粒子の小粒子の組み合わせとすることの記載も示唆もない。
そして、引用発明において相違点2に係る構成を導き出すことができるような他の文献も発見しない。

よって、他の相違点(相違点1、3)について検討するまでもなく、本件発明は、引用発明及び引用例2ないし4に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

2.取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)特許法第36条第6項1号(サポート要件)
特許異議申立人は、次のようなサポート要件についての申立理由を主張している。
ア.本件特許発明の粉末状正極活物質は二峰性混合物であるところ、本件特許の図1−1、1−2および2−1では、分級前後の前駆体の体積粒度分布のグラフが示されているが、分級後の前駆体が異なる粒度分布を有するとしても、これらを混合すれば、分級前の一峰性の粒度分布のグラフを示すこととなる。異なる粒度分布を有する2種類の中間体を混合して、第1の画分と第2の画分とすることは発明の詳細な説明に記載があるものの、最終的に得られた粉末状正極活物質の粒度分布が一峰性の粒度分布となるか二峰性の粒度分布になるかについて何らの言及がない。すなわち、本件特許発明の粉末状正極活物質が二峰性混合物からなることについては、何らの実証がなされていない。
したがって、本件特許発明は、発明の詳細な説明に記載されたものとは認められず、サポート要件を具備しない。

イ.本件特許発明は、単結晶モノリシック粒子を第2の画分として用いることを特徴とする。そして、発明の詳細な説明には「モノリシックの小さな粒子は、硬質であるにもかかわらず、大粒子の破壊を防止する。この特性は、滑らかな表面及び特殊な円礫タイプの形状に起因する容易な再配置及び滑りと関連があり得る。」と記載されている(段落【0114】)。しかしながら、製造条件によって、一次粒子の形状や表面の性状は必ずしも、滑らかな表面や特殊な円礫タイプの形状を有する訳ではない。それにも拘わらず、本件特許発明にかかる請求項13には、モノリシック粒子の表面状態や形状については何ら記載されておらず、モノリシック粒子がいかなる表面状態や形状を有している場合であっても、課題を解決できるか不明であり、出願時の技術常識に照らしても、本件特許発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
したがって、本件特許発明は、発明の詳細な説明に記載されたものとは認められず、サポート要件を具備しない。

そこで、上記主張について検討する。
「ア.」の主張について
本件特許明細書の段落【0138】〜【0145】の記載によれば、分級前の金属含有前駆体EX1−1−MBPが、第1の分別によって粗画分EX1−1−B1’と残りの画分EX1−1−MBP−RCに分級され(図1−1参照)、次に、第1の分別によって分級された残りの画分EX1−1−MBP−RCが、第2の分別によって微細画分EX1−1−B1と残りの狭いスパンの金属含有前駆体EX1−1−A1に分級される。そして、本件発明でいう「第1の画分」は、上記の狭いスパンの金属含有前駆体EX1−1−A1に対してリチウム化工程を施すことによって得られるのに対して、本件発明でいう「第2の画分」は、上記の微細画分EX1−1−B1だけでなく、粗画分EX1−1−B1’を加えたものに対してリチウム化工程を施すことによって得られるものである。つまり、粗画分EX1−1−B1’の少なくとも一部は微細画分に変換されているといえ、これら「第1の画分」と「第2の画分」を単純に混合しても、分級前の粒度分布と同じにはならないことは明らかであり、その混合物が二峰性の粒度分布を示し得ることを理解することができ、したがって、本件発明が発明の詳細な説明に記載されたものでないということはできない。
「イ.」の主張について
本件特許明細書の段落【0112】には「モノリシック材料は、平滑な表面を有し、かつ内部気孔が少ないため、表面積は低く、粒子強度は高い。」とも記載されているように、「単結晶モノリシック」粒子であれば、そうでない粒子、つまり多結晶粒子に比べて滑らかな表面を有することは当然であり、また、通常、円礫すなわち小石状の形状であるといえ、本件発明には、第2の画分に含まれる粒子が「単結晶モノリシック」粒子であることは特定されているのであるから、モノリシック粒子の表面状態や形状についてまで記載(特定)がないからといって、本件発明が、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えているとまではいえず、発明の詳細な説明に記載されたものでないということはできない。

よって、特許異議申立人のサポート要件についての申立理由に関する上記主張はいずれも採用することはできず、請求項13に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではない。

(2)特許法第36条第6項2号明確性要件)
特許異議申立人は、次のような明確性要件についての申立理由を主張している。
ア.本件特許発明の粉末状正極活物質は、2つの組成および粒子性状の異なる第1の画分と第2の画分とを所定の割合で含む二峰性混合物であることを特徴とするが、粉末状正極活物質から第1の画分と第2の画分を分類(分離)するための手段が不明であり、粉末状正極活物質を構成する第1の画分および第2の画分を特定することができない。本件特許発明に記載された規定は、粉末状正極活物質の構成ではなく、粉末状正極活物質を得るための2種類の中間体の混合の条件を示しているに過ぎず、本件特許発明は、本質的な部分を製造方法によって特定する、いわゆるプロダクト・バイ・プロセスにより特定させた発明ということができ、明確性を欠如するものである。

イ.本件特許発明において規定される単結晶モノリシック粒子は、「滑らかな表面及び特殊な円礫タイプの形状」を有することにより、これに起因する「容易な再配置及び滑り」(段落【0114】)によって、本件特許発明の効果が得られものであるが、本件特許発明にかかる請求項13では、表面性状や形状が特定されず、あらゆる粒子形状の単結晶モノリシック粒子が含まれる以上、出願時の技術常識を考慮するとその発明特定事項が不足していることが明らかであるから、本件特許発明は不明確である。

そこで、上記主張について検討する。
「ア.」の主張について
本件発明には、第1の画分について「多結晶粒子を含む第1の化合物粉末」であり、「1.0未満のスパンを有し、10μm以上で20μm以下のD50を有する」ことが特定され、また、第2の画分について「単結晶モノリシック粒子を含む第2の化合物粉末」であり、「2μm以上で8μm以下のD50を有する」ことが特定されている。そして、粉末状正極活物質は「前記第2の画分の含有量は、前記粉末状正極活物質の総重量を基準として、15重量%以上で65重量%以下であり、前記第1の画分の含有量は、前記粉末状正極活物質の総重量を基準として、35重量%以上で85重量%以下である」「二峰性混合物」であることも明確に特定されているのであるから、本件発明によれば、製造方法によらなくても第1の画分および第2の画分を特定することができ、粉末状正極活物質の構成も特定することができるといえ、明確性を欠如しているということはできない。
「イ.」の主張について
上記「(1)特許法第36条第6項1号(サポート要件)」の「『イ.』の主張について」でも述べたとおり、本件発明には、第2の画分に含まれる粒子が「単結晶モノリシック」粒子であることは特定されており、その表面性状や形状についてまで特定する必要はないといえ、本件発明が不明確であるとまではいうことはできない。

よって、特許異議申立人の明確性要件についての申立理由に関する上記主張はいずれも採用することはできず、請求項13に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではない。

第4 むすび

以上のとおり、本件請求項13に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由、及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。
また、他に本件請求項13に係る特許を取り消すべき理由も発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2022-10-20 
出願番号 P2020-535512
審決分類 P 1 652・ 121- Y (H01M)
P 1 652・ 537- Y (H01M)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 清水 稔
特許庁審判官 畑中 博幸
井上 信一
登録日 2021-06-28 
登録番号 6905156
権利者 ユミコア・コリア・リミテッド ユミコア
発明の名称 充電式リチウムイオン電池用の正極材料及びその製造方法  
代理人 阿部 達彦  
代理人 実広 信哉  
代理人 村山 靖彦  
代理人 実広 信哉  
代理人 村山 靖彦  
代理人 阿部 達彦  

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