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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  E05F
管理番号 1390586
総通号数 11 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-11-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-05-25 
確定日 2022-10-17 
異議申立件数
事件の表示 特許第7013614号発明「ウインドレギュレータ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7013614号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許7013614号(以下「本件特許」という。)に係る特許出願は、令和3年8月10日に出願され、令和4年1月21日にその特許権の設定登録がされ、同年同月31日に特許掲載公報が発行された。その後、その請求項1ないし4に係る発明の特許に対し、令和4年5月25日に特許異議申立人伊東 沙織(以下「申立人」という。)は、特許異議の申立てを行った。

第2 本件発明
特許第7013614号の請求項1ないし4の特許に係る発明(以下それぞれをその請求項番号により「本件発明1」等といい、全体を「本件発明」と総称する。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
車両の窓ガラスを支持するキャリアプレートと、
前記窓ガラスの昇降方向に沿って設けられ、前記キャリアプレートを摺動自在に支持するガイドレールと、
前記キャリアプレートを牽引するワイヤと、
前記ガイドレールの前記昇降方向の一端部に配設され、前記ワイヤを駆動する駆動部と、
前記ガイドレールの前記昇降方向の他端部に配設され、前記ワイヤを方向転換する方向転換部と、を備え、
前記ガイドレールは、前記昇降方向に延在する平板部と、前記平板部における前記昇降方向に直交する方向の端部から前記キャリアプレート側に立設され、前記キャリアプレートを摺動自在に支持する側板部と、を有し、
前記方向転換部と前記キャリアプレートとの間に配索された前記ワイヤは、前記ガイドレールから外れた位置に位置し、
前記駆動部と前記方向転換部との間に配索された前記ワイヤは、前記平板部上に位置し、前記平板部に押圧接触することを特徴とするウインドレギュレータ。
【請求項2】
前記キャリアプレートは、前記平板部に面して配設され、
前記キャリアプレートには、前記平板部上の前記ワイヤを避ける切欠き部が形成されていることを特徴とする請求項1に記載のウインドレギュレータ。
【請求項3】
車両の窓ガラスを支持するキャリアプレートと、
前記窓ガラスの昇降方向に沿って設けられ、前記キャリアプレートを摺動自在に支持するガイドレールと、
前記キャリアプレートを牽引するワイヤと、
前記ガイドレールの前記昇降方向の一端部に配設され、前記ワイヤを駆動する駆動部と、
前記ガイドレールの前記昇降方向の他端部に配設され、前記ワイヤを方向転換する方向転換部と、を備え、
前記ガイドレールは、前記昇降方向に延在する平板部と、前記平板部における前記昇降方向に直交する方向の端部から前記キャリアプレート側に立設され、前記キャリアプレートを摺動自在に支持する側板部と、を有し、
前記方向転換部と前記キャリアプレートとの間に配索された前記ワイヤは、前記ガイドレールから外れた位置に位置し、
前記駆動部と前記方向転換部との間に配索された前記ワイヤは、前記ガイドレール上に位置し、前記車両の車幅方向における前記側板部の基端の位置で前記ガイドレールに押圧接触することを特徴とするウインドレギュレータ。
【請求項4】
前記駆動部と前記方向転換部との間に配索された前記ワイヤは、前記平板部上に位置していることを特徴とする請求項3に記載のウインドレギュレータ。」

第3 特許異議申立理由の概要及び証拠
1 特許異議申立理由の概要
申立人は、特許異議申立書(以下「申立書」という。)において、概ね以下の申立理由を主張するとともに、証拠方法として、以下の2に示す各甲号証(以下、各甲号証をそれぞれ「甲1」等ということがある。)を提出している。
(1)特許法第29条第2項(甲1を主たる引用例とする進歩性
ア 本件発明1及び3は、甲1に記載された発明及び甲2ないし甲9に示される周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

イ 本件発明2及び4は、甲1に記載された発明、甲2ないし甲9に示される周知技術及び甲10に示される周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2)特許法第29条第2項(甲3を主たる引用例とする進歩性
ア 本件発明1及び3は、甲3に記載された発明及び甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

イ 本件発明2及び4は、甲3に記載された発明、甲1に記載された発明及び甲10に示される周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

2 申立書に添付して提出された証拠方法
甲1 :特開2020−165087号公報
甲2 :特開平10−315760号公報
甲3 :特開2010−116761号公報
甲4 :実公平4−32472号公報
甲5 :実願昭62−52665号(実開昭63−162085号)
のマイクロフィルム
甲6 :特開2016−204944号公報
甲7 :特開2016−211335号公報
甲8 :実用新案登録第2524611号公報
甲9 :実用新案登録第2578881号公報
甲10:米国特許第9790728号公報

第4 当審の判断
1 証拠の記載
(1)甲1
ア 甲1の記載
甲1には以下の記載がある(下線は当審で付与した。以下同様)。
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、ウインドレギュレータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の技術として、窓ガラスの昇降方向に沿って設けられて曲率したガイドレールと、ガイドレールに摺動して案内されるキャリアプレートと、キャリアプレートを牽引するケーブルと、ケーブルの巻取り及び送りだしを行うドラムと、を備えたウインドレギュレータが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ケーブルは、ガイドレールの長手方向に沿って当該ガイドレール上に配索され、ガイドレールの湾曲面に接触している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−315760号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のウインドレギュレータにおいて、ガイドレールの曲率が小さい場合には、上昇側ケーブルがガイドレールと非接触となるため、例えばドアを閉める際に伴う衝撃によって上昇側ケーブルが振動して異音が発生するという問題がある。
【0006】
そこで、本発明では、曲率が小さいガイドレールであっても異音を抑制することができるウインドレギュレータを提供することを目的とする。」
(イ)「【0013】
図1及び図2に示すように、ウインドレギュレータ1は、車両のドア9に設けられた図略のドアパネル内に格納され、窓ガラス90の昇降方向に沿って設けられたガイドレール2と、ガイドレール2と摺動して窓ガラス90と共に移動するキャリアプレート3と、キャリアプレート3を牽引する上昇側ケーブル41及び下降側ケーブル42と、上昇側ケーブル41及び下降側ケーブル42の巻き取り及び繰り出しを行うドラム53(図3において破線で示す)を有する駆動部5と、を備えて概略構成されている。
【0014】
ガイドレール2は、長板状の金属板を所定の曲率で折り曲げて形成され、ドア9に対して車両前後方向の後方側に傾いて配置されている。なお、本実施の形態に係るガイドレール2は、一般的なガイドレールよりも曲率が小さい直線状である。ガイドレールの構成の詳細については後述する。
【0015】
キャリアプレート3は、例えばポリアセタール等の樹脂によって形成された板状の部材である。キャリアプレート3には、上昇側ケーブル41の一端及び下降側ケーブル42の一端がそれぞれ連結されている。また、キャリアプレート3には、窓ガラス90を保持するためのガラスホルダが取り付けられる取付穴3a,3bが形成されている。
【0016】
(上昇側ケーブル及び下降側ケーブル)
上昇側ケーブル41は、その一端がガイドレール2の下端に設けられたドラム53に連結され、その他端がガイドレール2の長手方向における上端に配置された方向転換部材としてのプーリー6を介してキャリアプレート3に連結されている。下降側ケーブル42は、その一端がキャリアプレート3に連結され、その他端がドラム53に連結されている。プーリー6は、ガイドレール2の上端に固定されたプーリーブラケット60に軸支されている。
【0017】
上昇側ケーブル41の一端には、図略のケーブルエンドを収容する上昇側エンドホルダ410が取り付けられている。上昇側エンドホルダ410には、上昇側ケーブル41の弛みを除去するためのコイルばねが取り付けられている。同様に、下降側ケーブル42の一端には、図略のケーブルエンドを収容する下降側エンドホルダ420が取り付けられている。下降側エンドホルダ420には、下降側ケーブル42の弛みを除去するためのコイルばねが取り付けられている。上昇側エンドホルダ410及び下降側エンドホルダ420は、車両の車幅方向に沿って見た場合に、ガイドレール2上に配置されている。
【0018】
図2及び図3に示すように、キャリアプレート3とドラムハウジング52との間に配策される上昇側ケーブル41は、ガイドレール2の長手方向に沿っており、かつ、車両の前後方向に交差する車両の車幅方向に沿って見た場合に、後述するガイドレール2の接触部220上に位置している。また、キャリアプレート3とプーリー6との間に配策される上昇側ケーブル41は、ガイドレール2の長手方向に沿っており、かつ、車両の車幅方向に沿って見た場合に、後述するガイドレール2の基部20上に位置している。
【0019】
キャリアプレート3とドラムハウジング52との間に配策される下降側ケーブル42は、ガイドレール2の長手方向に沿っており、かつ、車両の車幅方向に沿って見た場合に、ガイドレール2の基部20上に位置している。
【0020】
図4に示すように、ガイドレール2は、車両の車幅方向の外側に向かって凸となるように湾曲している。」
(ウ)「【0021】
(駆動部5の構成)
駆動部5は、減速機付きのモータ50と、モータ50によって回転駆動され、回転することにより上昇側ケーブル41及び下降側ケーブル42の巻き取り及び繰り出しを行う円筒状のドラム53と、モータ50を保持するモータハウジング51と、ガイドレール2の下端に設けられてドラムを収容する樹脂製のドラムハウジング52と、を有している。
【0022】
モータハウジング51は、モータ50の一部である図略の減速ギヤを収容するモータ収容部510と、ドラムハウジング52のドラム53を収容する部位を覆うドラムカバー部511と、を有している。モータハウジング51は、ドラムハウジング52に締結されている。
【0023】
図2及び図3に示すように、ドラムハウジング52は、ガイドレール2を支持する支持部520を有している。支持部520には、ガイドレール2の下端が嵌合している。また、支持部520には、上昇側ケーブル41が導出される上昇側導出溝52aと、下降側ケーブル42が導出される下降側導出溝52bとが形成されている。支持部520には、キャリアプレート3とドラムハウジング52との衝突時の衝撃を緩衝する弾性体7が設けられている。
【0024】
図5(a)は、図3におけるA−A線に沿った断面図であり、図5(b)は、図3におけるB−B線に沿った断面図である。ここで、A−A線は、ガイドレール2の短手方向に沿って上死点位置におけるキャリアプレート3を含む位置で切断した線である。B−B線は、ガイドレール2の短手方向に沿って、ガイドレール2及びドラムハウジング52を含む位置で切断した線である。なお、図5において、ガイドレール2の短手方向は紙面の左右方向である。
【0025】
図5(a)に示すように、ガイドレール2は、平板状の基部20と、キャリアプレート3が嵌合する嵌合部21と、ドラムハウジング52及びプーリー6の間に配索された上昇側ケーブル41と接触する接触部220を有する突出部22と、を一体に有している。
【0026】
嵌合部21は、ガイドレール2の短手方向における基部20の一端に設けられている。また、嵌合部21は、ガイドレール2の基部20の一端から基部20の板厚方向に沿ってキャリアプレート3側に立ち上がって形成された側板部211と、側板部211の先端部からガイドレール2の短手方向に沿って基部20とは反対側に向かって張り出した鍔部212と、からなる。
【0027】
嵌合部21の鍔部212は、キャリアプレート3に形成された嵌合穴3c内に収容されている。キャリアプレート3は、ガイドレール2の嵌合部21に摺動する摺動部30を有している。また、キャリアプレート3には、ガイドレール2の基部20側に開口して下降側ケーブル42を導出するための下降側ケーブル溝30bが形成されている。下降側ケーブル42は、図3に示すようなキャリアプレート3がガイドレール2の上死点位置(窓ガラス90が全閉状態のときのキャリアプレート3の位置)においては、ガイドレール2から所定の距離だけ離れた場所に位置している。
【0028】
突出部22は、短手方向における嵌合部21とは反対側の基部20の他端に設けられている。突出部22は、基部20から板厚方向に所定の距離だけ張り出した第1及び第2張り出し部221,222と、第1及び第2張り出し部221,222のそれぞれの先端の間に設けられて上昇側ケーブル41と接触する接触部220と、を一体に有している。」
(エ)「【0038】
本実施の形態として、突出部22が有する接触部220の凹溝225の形状を図6に示す円弧状の場合で説明したが、接触部220の形状はこれに限られない。例えば接触部220の凹溝225はV字状やU字状でもよく、接触部220が凹溝225を有さない平面であってもよい。また、本実施の形態として、図2のレギュレータ1のガイドレール2に突出部22を設けた場合で説明したが、図7に示す変形例に係るウインドレギュレータ100のガイドレール200に突出部22を設けることも可能である。変形例に係るガイドレール200は、本実施の形態に係るガイドレール2よりも幅方向の寸法が小さく形成されたおり、ウインドレギュレータ100全体の軽量化が図られている。」
(オ)【図7】は以下のとおり。



(カ)上記(イ)及び(エ)の記載を踏まえると、上記(オ)の【図7】からは、上昇側ケーブル41のうちキャリアプレート3及びプーリー6の間に配索された部分は、ガイドレール200から外れた位置に位置することが看取される。

イ 甲1発明
上記アより、甲1には、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
(甲1発明)
窓ガラス90の昇降方向に沿って設けられたガイドレール2と、ガイドレール2と摺動して窓ガラス90と共に移動するキャリアプレート3と、キャリアプレート3を牽引する上昇側ケーブル41及び下降側ケーブル42と、上昇側ケーブル41及び下降側ケーブル42の巻き取り及び繰り出しを行うドラム53を有する駆動部5と、を備えて構成されている、車両のドア9に設けられたドアパネル内に格納されたウインドレギュレータ1であって、
ガイドレール2は、長板状の金属板を所定の曲率で折り曲げて形成され、一般的なガイドレールよりも曲率が小さい直線状であり、平板状の基部20と、キャリアプレート3が嵌合する嵌合部21と、ドラムハウジング52及びプーリー6の間に配索された上昇側ケーブル41と接触する接触部220を有する突出部22と、を一体に有しており、
嵌合部21は、ガイドレール2の基部20の一端から基部20の板厚方向に沿ってキャリアプレート3側に立ち上がって形成された側板部211と、側板部211の先端部からガイドレール2の短手方向に沿って基部20とは反対側に向かって張り出した鍔部212と、からなり、
キャリアプレート3には、窓ガラス90を保持するためのガラスホルダが取り付けられる取付穴3a,3bが形成されており、ガイドレール2の嵌合部21に摺動する摺動部30を有し、
上昇側ケーブル41は、その一端がガイドレール2の下端に設けられたドラム53に連結され、その他端がガイドレール2の長手方向における上端に配置された方向転換部材としてのプーリー6を介してキャリアプレート3に連結されており、下降側ケーブル42は、その一端がキャリアプレート3に連結され、その他端がドラム53に連結されており、
幅方向の寸法が小さく形成されたガイドレール200に突出部22を設けたものにおいて、上昇側ケーブル41のうちキャリアプレート3及びプーリー6の間に配索された部分は、ガイドレール200から外れた位置に位置する、ウインドレギュレータ1。

(2)甲2
ア 甲2の記載
甲2には以下の記載がある。
(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、電動モータによりドアガラスを昇降させる装置、特に詳述すれば、ドアガラスを昇降させるワイヤーをドアのアウタパネルとガイドレールとの間であってかつガイドレールの幅内に納めているドアガラスの昇降装置に関する。」
(イ)「【0010】ドラム12とプーリ14の外径は、ガイドレール7の幅寸法より小さく選定し、ドラム12から出たワイヤー13の一方はプーリ14を介してシュー部材15に固定され、ワイヤー13は他方は直接シュー部材15に固定されるが、ワイヤー13は必ずガイドレール7の幅内に入り、しかも、その側縁のドアのアウタパネル側へ膨出したフランジによりガイドレール7の外側へ張出すことはない。シュー部材15は、ドアのアウタパネル側に開口した対の溝19、20を有し、これら溝19、20内に挿入した各ワイヤー13の先端は、該先端に固着されたワッシャ21と、該ワッシャ21と溝19、20の壁面に当接するスプリング22を用いて、シュー部材15に固定される。一方の溝19はガイドレール7の長手方向中心に平行にしてかつ平行関係にあるワイヤー13の一方と同線上に位置し、他方の溝20はこの一方の溝19に並設させてはいるが、この一方の溝19に対して傾けた形に設けられている。この結果、ドラム12から直接シュー部材15に固定されるワイヤー13の溝20内への挿入および使用するに際し、シュー部材15の湾曲面23を案内とさせえるので、ワイヤー13への負荷は小さい。シュー部材15に設けたクッション付きのストッパ24が、ガイドブラケット10切り起し片の突片25に当接自在にして、ドアガラス2の下限位置を規制させる。このように、溝20に対して溝19を傾斜させて幅方向に併設しているので、ガラスブラケット6の上下寸法及び幅寸法を小さくすることができ、ガイドレール7の幅を大きくすることなく、ドアガラス2の昇降ストロークを充分に確保することができる。」

イ 甲2技術事項
上記アから、甲2には、以下の事項(以下「甲2技術事項」という。)が記載されていると認められる。
(甲2技術事項)
ドアガラスを昇降させるワイヤーをドアのアウタパネルとガイドレールとの間であってかつガイドレールの幅内に納めているドアガラスの昇降装置において、
ドラム12から出たワイヤー13の一方はプーリ14を介してシュー部材15に固定され、ワイヤー13は他方は直接シュー部材15に固定されるが、ワイヤー13は必ずガイドレール7の幅内に入ること。

(3)甲3
ア 甲3の記載
甲3には以下の記載がある。
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明はドアガラス昇降装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のドアガラス昇降装置として、ドアのアウタパネルとインナパネルとの間に上下に延在するガイドレールを設け、ドアガラスに取り付けられたキャリアプレートをこのガイドレールに沿わせて昇降させる構成が知られている。
このドアガラス昇降装置は、ガイドレールの上端に設けられたプーリと、ガイドレールの下端に設けられたワイヤドラムと、一端がプーリを介してキャリアプレートに取着され他端がワイヤドラムに巻回された上昇用ワイヤと、一端がキャリアプレートに取着され他端がワイヤドラムに巻回された下降用ワイヤとを備えている。
そして、ワイヤドラムを正逆回転させることにより、上昇用ワイヤおよび下降用ワイヤを介してキャリアプレートと共にドアガラスを上昇あるいは下降させている。
この場合、ガイドレールは、ドアの幅方向に沿った幅を有してアウタパネルに臨みつつ上下に延在するガイド面を有し、上昇用ワイヤおよび下降用ワイヤの双方は、ガイド面の幅内でガイド面に沿わせて配置されている。
そのため、ドアガラスの昇降動作の際に、上昇用ワイヤおよび下降用ワイヤはガイド面に沿って移動し、ワイヤがドアガラスの昇降軌跡上にはみ出し、ワイヤがドアガラスに接触してドアガラスに傷が付くことが回避されている。
【特許文献1】特開平10−315760号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記従来装置では、ガイドレールのガイド面の幅内に上昇用ワイヤおよび下降用ワイヤの双方が位置していることから、ガイドレールの幅はワイヤドラムの直径よりも大きな寸法とする必要がある。
一方、ワイヤドラムの直径は、ドアガラスの昇降動作を安定して行うに足る寸法を確保する必要があることから、ワイヤドラムの直径を縮小するには限界があり、そのため、ガイドレールの幅を縮小できず、軽量化およびコストの低減を図る上で不利があった。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、軽量化およびコストの低減を図る上で有利なドアガラス昇降装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上述の目的を達成するため、本発明のドアガラスの昇降装置は、車両のドアに上下に昇降可能に設けられたドアガラスと、前記ドアガラスに取り付けられたキャリアプレートと、前記ドアのアウタパネルと前記ドアガラスの昇降軌跡との間に上下に延在して設けられ、前記キャリアプレートを上下に案内するガイドレールと、前記ガイドレールの上端に設けられたプーリと、前記ガイドレールの下端に設けられたワイヤドラムと、前記ワイヤドラムを正逆転させる駆動機構と、前記プーリを介して前記キャリアプレートと前記ワイヤドラムとを連結し前記ワイヤドラムに巻き取られることにより前記キャリアプレートを上昇させる上昇用ワイヤと、前記キャリアプレートと前記ワイヤドラムとを連結し前記ワイヤドラムにより巻き取られることにより前記キャリアプレートを下降させる下降用ワイヤとを備え、前記ガイドレールは、前記アウタパネルに臨み前記ドアの幅方向に沿った幅を有して該ガイドレールの延在方向に延在するガイド面を有し、前記上昇用ワイヤは、前記ガイド面の幅内で前記ガイド面に沿わせて配置され、前記下降用ワイヤは、前記ガイド面の幅方向の外側に配置されている。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、上昇用ワイヤはガイドレールのガイド面の幅内でガイド面に沿わせて配置され、下降用ワイヤはガイド面の幅方向の外側に配置されている。
そのため、ガイドレールの幅をワイヤドラムの直径よりも縮小することができ、軽量化およびコストの低減を図る上で有利となる。」
(イ)「【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
次に本発明の実施の形態について説明する。
図1は本実施の形態のドアガラス昇降装置20を車両の外側から見た正面図、図2は図1のA矢視図である。
車両のドア10は、ドア本体10Aと、インナパネル12と、アウタパネル14と、ドアガラス16と、ドアガラス昇降装置20などを含んで構成されている。
・・・
【0008】
図3に示すように、ドア昇降装置20は、キャリアプレート22と、ガイドレール24と、プーリ26と、ワイヤドラム28と、駆動機構30と、上昇用ワイヤ32と、下降用ワイヤ34などを含んで構成されている。
【0009】
図3、図6に示すように、キャリアプレート22は、ドア10の幅方向に沿って延在する本体部2202と、本体部2202の幅方向の両側からインナパネル12側に起立された2つの側部2204と、各側部2204の先端から本体部2202の幅方向外方にそれぞれ屈曲形成された2つの取り付け片部2206とを備えている。
各取り付け片部2206にはねじ孔2208が形成され、それらねじ孔2208に、ドアガラス16の取り付け部1602を挿通したねじNが螺合されることでキャリアプレート22がドアガラス16に取り付けられている。
また、本体部2202には、2つのワイヤ取り付け部2220、2222が設けられ、2つの側部2204の内側にはシュー2210がそれぞれ取り付けられている。
【0010】
図5に示すように、ガイドレール24は、アウタパネル14と、ドアガラス16の昇降軌跡Lとの間に配置されている。
図3、図5に示すように、ガイドレール24の上端は、上側ブラケット36を介してアウタパネル14に取り付けられている。
ガイドレール24の下端は、下側ブラケット38を介してインナパネル12に取り付けられている。
図3、図6に示すように、ガイドレール24は、ドア10の幅方向に沿った幅を有して上下に延在する本体板部24Aと、本体板部24Aの幅方向の両側からアウタパネル14側に起立された2つの側板部24Bと、各側板部24Bの先端から本体板部24Aの幅方向外方にそれぞれ屈曲形成された2つのガイド板部24Cとを備えている。
本体板部24Aがアウタパネル14に臨む面は、ドア10の幅方向に沿った幅Wを有してアウタパネル14に臨みつつ上下に延在するガイド面2402として形成されている。
2つの側板部24Bと2つのガイド板部24Cは、本体板部24Aの略全長にわたり本体板部24Aと共に上下に延在している。
このような構成のガイド面2402、側板部24B、ガイド板部24Cを含むガイドレール24は、図5に示すように、車両前後方向視にてアウタパネル14側に凸の縦湾曲状を呈している。
ガイド板部24Cは、キャリアプレート22の各シュー2210に摺動可能に結合され、これにより、キャリアプレート22およびドアガラス16は上下に移動可能に案内される。
【0011】
図3、図5に示すように、プーリ26は上側ブラケット36に取り付けられ、したがって、プーリ26は上側ブラケット36を介してガイドレール24の上端に設けられている。
プーリ26は、上昇用ワイヤ32が巻回されて上昇ワイヤ32の向きを変えるものであり、ガイド面2402の仮想延長面上に位置している。
【0012】
ワイヤドラム28は下側ブラケット38に取り付けられ、したがって、ワイヤドラム28は下側ブラケット38を介してガイドレール24の下端に設けられている。
ワイヤドラム28は、上昇用ワイヤ32および下降用ワイヤ34を駆動するもので、車両側面視にて、上昇用ワイヤ32が巻回され始めるワイヤドラム28の箇所は、ガイド面2402の仮想延長面の幅内に位置しており、下降用ワイヤ34が巻回され始めるワイヤドラム28の箇所は、ガイド面2402の仮想延長面の幅の幅方向外側に位置している。
駆動機構30は下側ブラケット38に取り付けられ、モータ30Aと動力伝達機構30Bを含んで構成されている。
モータ30Aの動力が動力伝達機構30Bを介してワイヤドラム28に伝達されることにより、ワイヤドラム28は正逆転される。
【0013】
図3、図6に示すように、上昇用ワイヤ32は、一端32Aがプーリ26に巻回されてキャリアプレート22の一方のワイヤ取り付け部2220に取着され、他端がワイヤドラム28に巻回されている。言い換えると、上昇用ワイヤ32は、プーリ26を介してキャリアプレート22とワイヤドラム28とを連結しワイヤドラム28に巻き取られることによりキャリアプレート22を上昇させるように構成されている。
図3、図5、図6に示すように、上昇用ワイヤ32は、ガイド面2402に沿わせてガイド面2402の幅内に配置されている。
より詳細に説明すると、図3、図4に示すように、キャリアプレート22の上方限界位置と下方限界位置との間で、上昇用ワイヤ32がワイヤドラム28からプーリ26に至る部分32Bと、プーリ26からワイヤ取り付け部2220に至る部分32Cとが共にガイド面2402の幅W内に位置している。
【0014】
図3、図6に示すように、下降用ワイヤ34は、一端がキャリアプレート22の他方のワイヤ取り付け部2222に取着され、他端がワイヤドラム28に巻回されている。言い換えると、下降用ワイヤ34は、キャリアプレート22とワイヤドラム28とを連結しワイヤドラム28により巻き取られることによりキャリアプレート22を下降させるように構成されている。
図3、図5、図6に示すように、下降用ワイヤ34は、ガイド面2402の幅W方向の外側に配置されている。
より詳細に説明すると、下降用ワイヤ34は、車両側面視にて、ガイドレール24からドア10の幅方向に離れた箇所に配置されており、また、車両前後方向視にて、下降用ワイヤ34は、ガイドレール24よりもインナパネル12側に(ドア10の車幅方向内側に)変位した箇所に配置されている。
本実施の形態では、車両前後方向視にて、ドアガラス16の昇降軌跡Lと、下降用ワイヤ34の昇降軌跡とはそれらの一部が重なっている。
なお、上昇用ワイヤ32および下降用ワイヤ34として単一のワイヤを用いたり、別々のワイヤを用いるなど任意である。単一のワイヤを用いる場合には、ワイヤドラム28に単一のワイヤが巻回され、上昇用ワイヤ32は前記単一のワイヤの一方の端部で構成され、下降用ワイヤ34は単一のワイヤの他方の端部で構成されることになる。」
(ウ)「【0015】
次にドアガラス昇降装置20の動作について説明する。
まず、ドアガラス16が上昇する場合の動作について説明する。
予め、キャリアプレート22が図4に示す下方限界位置に位置しているものとする。
駆動機構30によりワイヤドラム28が正転されると、上昇用ワイヤ32がワイヤドラム28に巻き取られると共に、下降用ワイヤ34がワイヤドラム28から繰り出される。
これにより、キャリアプレート22がガイドレール24に沿って上昇し、やがて図3に示す上方限界位置に到達すると、駆動機構30によるワイヤドラム28の正転が停止され、ドアガラス16が窓を閉じた全閉位置になる。
このようにキャリアプレート22が上昇する過程において、図5に示すように、上昇用ワイヤ32はガイド面2402の幅W内でガイド面2402に沿って移動するため、上昇用ワイヤ32は、ドアガラス16の昇降軌跡L上にはみ出してドアガラス16に接触することはない。
また、下降用ワイヤ34は、ガイドレール24よりもインナパネル12側に変位した箇所に位置し、ドアガラス16の昇降軌跡L上にはみ出しているものの、下降用ワイヤ34は常にドアガラス16よりも下方に位置していることから、下降用ワイヤ34はドアガラス16に接触することはない。
【0016】
次に、ドアガラス16が下降する場合の動作について説明する。
予め、キャリアプレート22が図3に示す上方限界位置に位置しているものとする。
駆動機構30によりワイヤドラム28が逆転されると、上昇用ワイヤ32がワイヤドラム28から繰り出されると共に、下降用ワイヤ34がワイヤドラム28に巻き取られる。
これにより、キャリアプレート22がガイドレール24に沿って下降し、やがて図4に示す下方限界位置に到達すると、駆動機構30によるワイヤドラム28の逆転が停止され、ドアガラス16が窓を開いた全開位置になる。
このようにキャリアプレート22が下降する過程においても、キャリアプレート22が上昇する場合と同様に、図5に示すように、上昇用ワイヤ32はガイド面2402の幅W内でガイド面2402に沿って移動するため、上昇用ワイヤ32は、ドアガラス16の昇降軌跡L上にはみ出してドアガラス16に接触することはない。
また、下降用ワイヤ34は、ガイドレール24よりもインナパネル12側に変位した箇所に位置し、ドアガラス16の昇降軌跡L上にはみ出しているものの、下降用ワイヤ34は常にドアガラス16よりも下方に位置していることから、下降用ワイヤ34はドアガラス16に接触することはない。
【0017】
本実施の形態によれば、上昇用ワイヤ32はガイド面2402の幅W内でガイド面2402に沿わせて配置され、下降用ワイヤ34はガイド面2402の幅W方向の外側に配置されている。
そのため、従来装置のように上昇用ワイヤ32および下降用ワイヤ34の双方をガイド面2402の幅W内に配置する場合と異なり、ガイドレール24の幅をワイヤドラム28の直径よりも縮小することができ、軽量化およびコストの低減を図る上で有利となる。
また、上昇用ワイヤ32がガイド面2402の幅W内に配置されると共に、下降用ワイヤ34がガイド面2402の幅W方向の外側に配置される範囲で、ワイヤドラム28を配置すればよい。
したがって、ワイヤドラム28の配置位置の自由度を確保することができ、ワイヤドラム28に近接する部材や部品のレイアウトの自由度を確保する上で有利となる。
【0018】
また、下降用ワイヤ3が巻回され始めるワイヤドラム28の箇所を、ガイド面2402の仮想延長面の幅の幅方向外側に配置できるので、ドアガラス昇降装置20の設計の自由度を高める上で有利となる。
また車両前後方向視にて、下降用ワイヤ34を、ガイドレール24よりもドア10の車幅方向内側に変位した箇所に配置できるので、デッドスペースを有効利用でき、ドアガラス昇降装置20の設計の自由度を高める上で有利となる。
また、車両前後方向視にて、ドアガラス16の昇降軌跡と、下降用ワイヤ34の昇降軌跡とを一部重複できるので、上記と同様に、デッドスペースを有効利用でき、ドアガラス昇降装置20の設計の自由度を高める上で有利となる。」
(エ)図6は以下のとおり。



上記(イ)の記載を踏まえると、上記【図6】からは、ガイドレール24のガイド面2402の断面は略一直線状であることが看取される。

イ 甲3発明
上記アより、甲3には、以下の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。
(甲3発明)
車両のドアに上下に昇降可能に設けられたドアガラスと、
前記ドアガラスに取り付けられたキャリアプレートと、
前記ドアのアウタパネルと前記ドアガラスの昇降軌跡との間に上下に延在して設けられ、前記キャリアプレートを上下に案内するガイドレールと、
前記ガイドレールの上端に設けられたプーリと、前記ガイドレールの下端に設けられたワイヤドラムと、
前記ワイヤドラムを正逆転させる駆動機構と、
前記プーリを介して前記キャリアプレートと前記ワイヤドラムとを連結し前記ワイヤドラムに巻き取られることにより前記キャリアプレートを上昇させる上昇用ワイヤと、
前記キャリアプレートと前記ワイヤドラムとを連結し前記ワイヤドラムにより巻き取られることにより前記キャリアプレートを下降させる下降用ワイヤとを備え、
前記ガイドレールは、前記アウタパネルに臨み前記ドアの幅方向に沿った幅を有して該ガイドレールの延在方向に延在するガイド面を有し、前記上昇用ワイヤは、前記ガイド面の幅内で前記ガイド面に沿わせて配置され、前記下降用ワイヤは、前記ガイド面の幅方向の外側に配置されている
ドアガラスの昇降装置であって、
キャリアプレートは、ドアの幅方向に沿って延在する本体部と、本体部の幅方向の両側からインナパネル側に起立された2つの側部と、各側部の先端から本体部の幅方向外方にそれぞれ屈曲形成された2つの取り付け片部とを備え、
本体部には、2つのワイヤ取り付け部が設けられ、2つの側部の内側にはシューがそれぞれ取り付けられており、
ガイドレールは、ドアの幅方向に沿った幅を有して上下に延在する本体板部と、本体板部の幅方向の両側からアウタパネル側に起立された2つの側板部と、各側板部の先端から本体板部の幅方向外方にそれぞれ屈曲形成された2つのガイド板部とを備え、
本体板部がアウタパネルに臨む面は、ドアの幅方向に沿った幅を有してアウタパネルに臨みつつ上下に延在するガイド面として形成され、ガイド面の断面は略一直線状であり、
ガイドレールは、車両前後方向視にてアウタパネル側に凸の縦湾曲状を呈しており、
ガイド板部は、キャリアプレートの各シューに摺動可能に結合され、これにより、キャリアプレートおよびドアガラスは上下に移動可能に案内され、
プーリは、上昇用ワイヤが巻回されて上昇ワイヤの向きを変えるものであり、ガイド面の仮想延長面上に位置しているものであり、
上昇用ワイヤがワイヤドラムからプーリに至る部分と、プーリからワイヤ取り付け部に至る部分とが共にガイド面の幅内に位置しており、
下降用ワイヤは、ガイド面の幅方向の外側に配置されているものであり、
キャリアプレートが上昇する過程において、上昇用ワイヤはガイド面の幅内でガイド面に沿って移動するため、上昇用ワイヤは、ドアガラスの昇降軌跡上にはみ出してドアガラスに接触することはなく、
また、下降用ワイヤは、ガイドレールよりもインナパネル側に変位した箇所に位置し、ドアガラスの昇降軌跡上にはみ出しているものの、下降用ワイヤは常にドアガラスよりも下方に位置していることから、下降用ワイヤはドアガラスに接触することはない、ドアガラスの昇降装置。

(4)甲4
ア 甲4の記載
甲4には以下の記載がある。
(ア)「[従来技術]
従来より、ワイヤを動力伝達手段として用いたウインドレギユレータが種々採用されている。そのようなウインドレギユレータはたとえば第6図に示されるように窓ガラス51の移動方向に延びるガイドレール52と、ガイドレール52に摺動自在に設けられると共に窓ガラス51を固定するためのキヤリアプレート53と、キヤリアプレート53にそれぞれの一端が係止されると共に、たがいに逆方向に延びる2本のワイヤ54,55などから構成された従動装置を有する。1本のワイヤ54は直接ケーブルガイド56を介してワイヤ駆動装置まで案内され、他の1本のワイヤ55はたとえばガイドレール52の下端に設けられたプーリ57などにより方向転換されたのちに、ガイドレール52の内側を通り、前記ケーブルガイド56を介してワイヤ駆動装置まで導かれている。
そのような従来のウインドレギユレータにおいては通常、2本のワイヤ54,55はいずれかもガイドレール52の表面で案内されている。とくに窓ガラス51が湾曲しているばあいには、ガイドレール52自体もその湾曲面に沿つて湾曲しており、前記2本のワイヤ54,55はガイドレール52の凸面側の表面に沿つて案内される。」(1頁1欄23行〜2欄21行)

イ 甲4技術事項
上記アから、甲4には、以下の事項(以下「甲4技術事項」という。)が記載されていると認められる。
(甲4技術事項)
窓ガラス51の移動方向に延びるガイドレール52と、ガイドレール52に摺動自在に設けられると共に窓ガラス51を固定するためのキヤリアプレート53と、キヤリアプレート53にそれぞれの一端が係止されると共に、たがいに逆方向に延びる2本のワイヤ54,55などから構成された従動装置を有するウインドレギユレータにおいて、
窓ガラス51が湾曲しているばあいには、ガイドレール52自体もその湾曲面に沿つて湾曲しており、2本のワイヤ54,55はガイドレール52の凸面側の表面に沿つて案内されること。

(5)甲5
ア 甲5の記載
甲5には以下の記載がある。
(ア)「[実施例]
以下、第1図乃至第3図の図面を参照しながらこの考案の一実施例を詳細に説明する。
図中1はワイヤ式ウィンドウレギュレータ3のガイド部材を示している。
ガイド部材1は第1と第2のレール部5a,5bを左右に有し、壁面側には図外のドアインナパネルに結合される上下のブラケット7,7がスポット溶接等の固着手段によって一体に固着されている。
・・・
一方、ガイド部材1にはウィンドウパネル13(ガラス)が取付けられるキャリヤプレート15が第1,第2のレール部5a,5bに沿って移動自在に取付けられている。
キャリヤプレート15のスライド部17は前記レール部5a,5bの上からスライド自在に嵌合し、ワイヤ係止部19には、駆動部21から繰出されたワイヤ23の端末部が係止されている。
ガイド部材1の上端側と下端側には前記ワイヤ23をガイド部材1に沿って誘導案内する上下のプーリ25,25がプーリ軸25aによって回転自在に枢支されている。
キャリヤプレート15のワイヤ係止部19に係合されガイド部材1の上面1aに沿って突起部11上を上方へ延長配索された前記ワイヤ23は上位側のプーリー25を介して案内チューブ27を貫通した後、前記駆動部21のドラム29に掛回されている。
また、ワイヤ係止部19からガイド部材1の上面1aに沿って下方ヘ延長配索されたワイヤ23は前記下位側のプーリー25を介して上方へ延長配索され案内チューブ28を貫通した後、前記ドラム29に掛回されている。
・・・
このように構成されたウィンドウレギュレータにおいて、駆動部21によってキャリヤプレート15を上昇又は下降させることでウィンドウパネル13の全開と全閉状態が得られるようになる。このキャリヤプレート15の動作時にワイヤ23は前記突起部11上をガイド部材1の上面1aに沿って走るようになるが、突起部11はワイヤ23との間に確保される間隙代αによって接触を起こすことはない。このため、異音の発生は起こらず、接触によるワイヤ23の摩耗も起きない。」(明細書5頁7行〜8頁13行)
(イ)第1図及び第3図は以下のとおり。






上記(ア)の記載を踏まえると、第1図及び第3図からは、ガイド部材1の上面1aは平板状であることが看取される。

イ 甲5技術事項
上記アから、甲5には、以下の事項(以下「甲5技術事項」という。)が記載されていると認められる。
(甲5技術事項)
ガイド部材1にはウィンドウパネル13(ガラス)が取付けられるキャリヤプレート15が第1,第2のレール部5a,5bに沿って移動自在に取付けられているワイヤ式ウィンドウレギュレータ3において、
ガイド部材1の上端側と下端側には前記ワイヤ23をガイド部材1に沿って誘導案内する上下のプーリ25,25がプーリ軸25aによって回転自在に枢支され、
キャリヤプレート15のワイヤ係止部19に係合されガイド部材1の上面1aに沿って突起部11上を上方へ延長配索された前記ワイヤ23は上位側のプーリー25を介して案内チューブ27を貫通した後、駆動部21のドラム29に掛回され、
ワイヤ係止部19からガイド部材1の上面1aに沿って下方ヘ延長配索されたワイヤ23は前記下位側のプーリ25を介して上方へ延長配索され案内チューブ28を貫通した後、前記ドラム29に掛回されていること。

(6)甲6
ア 甲6の記載
甲6には以下の記載がある。
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は自動車のドアの窓ガラスを昇降駆動するケーブル式のウインドレギュレータに関する。」
(イ)「【発明を実施するための形態】
【0012】
(1)ウインドレギュレータ
図1〜図5を用いて、本発明に係る一実施形態としてのウインドレギュレータ1を説明する。図1及び図3は、ウインドレギュレータの一実施形態を示す正面図であり、図2及び図4はウインドレギュレータの背面図である。図5は、キャリアプレートの正面図である。図6は、キャリアプレート及びガイドレールの部分断面図である。なお、以下の説明では、ウインドレギュレータ1の正面図を、ウインドレギュレータ1を平面視した場合の図として説明する。
ウインドレギュレータ1は、車両のドアパネル(図示せず)に昇降可能に支持される窓ガラス20を昇降移動させる機構である。ウインドレギュレータ1は、主に、ガイドレール31と、キャリアプレート32と、上昇側ケーブル33と、下降側ケーブル34と、駆動部35とを備えている。
・・・
【0031】
また、キャリアプレート32がガイドレール31に対して少なくとも上端拘束位置にあるときに、下降側ケーブル34はガイドレール31に当接している。具体的には、下降側ケーブル34の一部又は大半の部分がガイドレール31のガイドレール本体37に当接している。
このウインドレギュレータ1では、下降側ケーブル34がガイドレール31上に配置されているので、キャリアプレート32が上昇して下降側ケーブル34が引き出されていくときに、下降側ケーブル34がガイドレール31に摺動しやすくなっている。それにより、下降側ケーブル34がガイドレール31と接触し、その接触により下降側ケーブル34の振動が抑制されるので、下降側ケーブル34の振動に起因する異音が抑制される。
【0032】
なお、本実施形態では、窓ガラス20の昇降する軌跡が位置することとなる方向、若しくは、下降側ケーブル34が配索される位置の方向に向かってガイドレール31が凸となるように湾曲しているので、窓ガラス20が長手方向中間部に達した時点で、下降側ケーブル34がガイドレール31の面に当接を開始する。ただし、キャリアプレート32がガイドレール31に対して上端位置付近(つまり、窓ガラス20の拘束などによるキャリアプレート32が実際に移動することができる位置の上限位置及びその近傍の位置)に到達したときに、下降側ケーブル34はガイドレール31に当接を開始するようにしてもよい。その理由は、キャリアプレート32が上端位置付近にあるときに下降側ケーブル34が最も長く引き出されて最も振動しやすいので、そのときの下降側ケーブル34の振動を抑制することが、異音防止に効果的だからである。」

イ 甲6技術事項
上記アから、甲6には、以下の事項(以下「甲6技術事項」という。)が記載されていると認められる。
(甲6技術事項)
ガイドレール31と、キャリアプレート32と、上昇側ケーブル33と、下降側ケーブル34と、駆動部35とを備えている、自動車のドアの窓ガラスを昇降駆動するケーブル式のウインドレギュレータであって、
窓ガラス20の昇降する軌跡が位置することとなる方向、若しくは、下降側ケーブル34が配索される位置の方向に向かってガイドレール31が凸となるように湾曲しているものにおいて、
キャリアプレート32がガイドレール31に対して少なくとも上端拘束位置にあるときに、下降側ケーブル34の一部又は大半の部分がガイドレール31のガイドレール本体37に当接しており、
下降側ケーブル34がガイドレール31と接触し、その接触により下降側ケーブル34の振動が抑制されるので、下降側ケーブル34の振動に起因する異音が抑制されること。

(7)甲7
ア 甲7の記載
甲7には以下の記載がある。
(ア)「【0015】
図1は、自動車のドアへのウインドレギュレータの取付状態を示す概略図である。自動車のドアには、ドアパネル10と、窓ガラス11と、窓ガラス11を摺動自在に案内するサッシュ12と、窓ガラス11を昇降させるためのウインドレギュレータ100とが設けられている。窓ガラス11の車両前後方向に位置する縁部は、サッシュ12により上下方向に摺動自在に案内される。
【0016】
図2は、ウインドレギュレータ100の全体構成を示す正面図である。ウインドレギュレータ100は、駆動部110と、ガイドレール120と、ガイドレール120に対して摺動して移動することにより窓ガラス11を移動させるキャリアプレート130と、ケーブル140と、ケーブル140の方向を転換する方向転換部150と、を有する。因みに、本実施の形態のケーブル140としては、アウターケーシングを用いずに、インナーケーブルのみを用いる。
【0017】
駆動部110は、ケーブル140を巻き取るドラム(図示せず)をドラムハウジング111内に有する。また駆動部110はドラムを回転させるモーター112を有する。モーター112とドラムとの接続は、モーター112の駆動軸の回転によりドラムを正転逆転が可能に接続されていれば、公知の接続構造を用いることができる。キャリアプレート130は、係合穴131、132を介して窓ガラス11の下端部が取り付けられるとともに、ガイドレール120に対して摺動して昇降移動可能になっている。また、キャリアプレート130には上昇用ケーブル141の一端および下降用ケーブル142の一端が取り付けられており、これによりキャリアプレート130は上昇用ケーブル141がドラムによって巻き取られて下降用ケーブル142が繰り出されると上昇用ケーブル141によって引き上げられて上昇し、下降用ケーブル142がドラムによって巻き取られて上昇用ケーブル141が繰り出されると下降用ケーブル142によって引き下げられて下降する。因みに、上昇用ケーブル141および下降用ケーブル142の他端は、ドラム内に固定されている。」
(イ)「【0025】
また、本実施の形態のウインドレギュレータ100においては、プーリー170およびケーブルガイド160からなる方向転換部150に上昇用ケーブル141が掛け亘されている。これにより、下降用ケーブル142と比較して大きな張力が与えられる上昇用ケーブル141の擦れ音を有効に抑制できる。また、下降用ケーブル142は下降用ケーブル142による異音の抑制のために、キャリアプレート130の上昇時にガイドレール120と接触するように、ガイドレール120上に配索されている。また、上昇用ケーブル141はガイドレール120から離間して、ガイドレール120の両側に配索されている。」
(ウ)「【0028】
図10は、図1のウインドレギュレータ100を右方向から見た側面図である。この図から分かるように、ガイドレール120は、ドアパネル10の形状に合わせるように、長手方向に亘って湾曲した形状となっている。そのため、このガイドレール120に沿って摺動するキャリアプレート130の昇降位置が変動すると、キャリアプレート130に取り付けられた上昇用ケーブル141の一端の位置もそれに伴って変動するので、上昇用ケーブル141はガイド溝161の幅方向に変位する。拡径部161aを設けたことにより、この変位に起因する上昇用ケーブル141のガイド溝161の壁への接触やガイド溝161からの外れを防止できる。換言すると、ガイドレール120が湾曲しており、方向転換部150からケーブル140が延出する方向と、ケーブル140の張力方向とが異なる場合であっても、拡径部161aにより、方向転換部150からの延出方向とケーブル張力方向との差に対応することができる。実施の形態のように、ガイドレール120の下端に駆動部110が設けられた下端ドライブ式ウインドレギュレータの場合には、ガイドレール120の湾曲によりプーリー170の回転平面とケーブル140との角度が大きくなるので、拡径部161aの効果が特に高い。」

イ 甲7技術事項
上記アから、甲7には、以下の事項(以下「甲7技術事項」という。)が記載されていると認められる。
(甲7技術事項)
自動車のドアに設けられている窓ガラス11を昇降させるためのウインドレギュレータ100であって、
駆動部110と、ガイドレール120と、ガイドレール120に対して摺動して移動することにより窓ガラス11を移動させるキャリアプレート130と、ケーブル140と、ケーブル140の方向を転換する方向転換部150と、を有し、
駆動部110は、ケーブル140を巻き取るドラムを有し、
ガイドレール120は、ドアパネル10の形状に合わせるように、長手方向に亘って湾曲した形状となっており、
キャリアプレート130には上昇用ケーブル141の一端および下降用ケーブル142の一端が取り付けられており、これによりキャリアプレート130は上昇用ケーブル141がドラムによって巻き取られて下降用ケーブル142が繰り出されると上昇用ケーブル141によって引き上げられて上昇し、下降用ケーブル142がドラムによって巻き取られて上昇用ケーブル141が繰り出されると下降用ケーブル142によって引き下げられて下降するものにおいて、
下降用ケーブル142は下降用ケーブル142による異音の抑制のために、キャリアプレート130の上昇時にガイドレール120と接触するように、ガイドレール120上に配索されていること。

(8)甲8
ア 甲8の記載
甲8には以下の記載がある。
(ア)「【請求項1】 長手方向に沿って連続するガイドレールと、正転、逆転可能なワイヤドラムに巻き付けられ前記ガイドレールに沿って配索されたワイヤと、前記ワイヤによって牽引されると共にガイドレールに装着された上下動可能なキャリアプレートとを有し、前記キャリアプレートを、前記ガイドレールに装着されたスライド可能な内側プレート本体と、ウインドウパネルが取付けられる外側プレート本体とに分割し、前記内側プレート本体に、前記ワイヤに設けられたワイヤ係止部が内側プレート本体の上面側から係合し合う貫通した係合部と、係合部を横切ると共にワイヤが係止された上方が開放する切欠溝とを設ける一方、前記外側プレート本体を内側プレート本体の上面に重ね合せ結合したことを特徴とするワイヤ式ウインドウレギュレータ装置。」
(イ)「【0018】なお、47はガイドレール1にワイヤ9が直接当るのを防ぐガイド部材、49は、ワイヤ9に緊張力を与えるワイヤ緊張部材をそれぞれ示している。」

イ 甲8技術事項
上記アより、甲8には、以下の事項(以下「甲8技術事項」という。)が記載されていると認められる。
(甲8技術事項)
長手方向に沿って連続するガイドレールと、正転、逆転可能なワイヤドラムに巻き付けられ前記ガイドレールに沿って配索されたワイヤと、前記ワイヤによって牽引されると共にガイドレールに装着された上下動可能なキャリアプレートとを有するワイヤ式ウインドウレギュレータ装置において、
ガイドレールにワイヤが直接当るのを防ぐガイド部材を設けること。

(9)甲9
ア 甲9の記載
甲9には以下の記載がある。
(ア)「【請求項1】回動可能な一対のプーリと、該プーリ間側方に配設された駆動機構と、前記プーリ及び前記駆動機構間に張設されたワイヤと、該ワイヤに固定されウインド部材を支持するブラケットと、前記プーリ間に配設され前記ブラケットを上下動可能に支持するガイド部材とを有し、前記駆動機構の作動により前記ワイヤを動かし前記ブラケットを前記ガイド部材に沿って上下動させ前記ウインド部材を上下動させるウインドレギユレータ装置において、前記ガイド部材は貫通穴を備え、挿入部を持ち、該挿入部を該貫通穴に挿通して固定することによって、前記ガイド部材のガイド面に配設されるとともに、前記ワイヤと当接する支持部を備え前記ガイド部材と前記ワイヤとの接触を防止する樹脂材料製の支持部材を有し、該支持部材は前記支持部に連続する斜面を備えたことを特徴とするウインドレギユレータ装置。」(実用新案登録請求の範囲)
(イ)「第1図ないし第4図に示されるように、ガイド部材9の底壁9bのガイド面側には貫通穴20を持つ凹部21が複数個形成されている。この凹部21には樹脂材にて形成された支持部材22が嵌合されており、この支持部材22に形成された軸部22aが貫通穴20に挿入されかしめられることにより支持部材22がガイド部材9のガイド面に固定されている。この支持部材22の支持部22bによりワイヤ8が支持されてガイド部材9とワイヤ8との接触が防止されている。これにより、ワイヤ8の可動によるガイド部材22との摺接によりワイヤ8が摩耗することを防止している。該支持部材22の両側面には前記ワイヤ8と略平行に延びる2つの斜面22cが備えられている。該斜面22cは、前記ワイヤ8と前記支持部材22との当接がはずれ、前記ワイヤ8が前記支持部材22から脱落した場合にも、前記ワイヤ8が再び、容易に前記支持部材22の支持部22bの上に復帰できるように働く。」(2頁4欄25〜40行)

イ 甲9技術事項
上記アから、甲9には、以下の事項(以下「甲9技術事項」という。)が記載されていると認められる。
(甲9技術事項)
回動可能な一対のプーリと、該プーリ間側方に配設された駆動機構と、前記プーリ及び前記駆動機構間に張設されたワイヤと、該ワイヤに固定されウインド部材を支持するブラケットと、前記プーリ間に配設され前記ブラケットを上下動可能に支持するガイド部材とを有し、前記駆動機構の作動により前記ワイヤを動かし前記ブラケットを前記ガイド部材に沿って上下動させ前記ウインド部材を上下動させるウインドレギユレータ装置において、前記ガイド部材は貫通穴を備え、挿入部を持ち、該挿入部を該貫通穴に挿通して固定することによって、前記ガイド部材のガイド面に配設されるとともに、前記ワイヤと当接する支持部を備え前記ガイド部材と前記ワイヤとの接触を防止する樹脂材料製の支持部材を有し、該支持部材は前記支持部に連続する斜面を備えたことを特徴とするウインドレギユレータ装置において、
ガイド部材のガイド面に固定されている支持部材の支持部によりワイヤが支持されてガイド部材とワイヤとの接触が防止されること。

2 甲1発明を主引例とする場合
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
(ア)甲1発明の「窓ガラス90を保持するためのガラスホルダが取り付けられる取付穴3a,3bが形成され」る「キャリアプレート3」は、「取付穴3a,3b」に「取り付けられる」「ガラスホルダ」を介して「窓ガラス90」を支持しているといえるから、本件発明1の「車両の窓ガラスを支持するキャリアプレート」に相当する。
(イ)甲1発明の「窓ガラス90の昇降方向に沿って設けられたガイドレール2」は、「キャリアプレート3」が「ガイドレール2の嵌合部21に摺動する摺動部30」を有し、「ガイドレール2と摺動して」「移動する」ものであって、「ガイドレール2」が「キャリアプレート3」を摺動自在に支持するものといえるから、本件発明1の「前記窓ガラスの昇降方向に沿って設けられ、前記キャリアプレートを摺動自在に支持するガイドレール」に相当する。
(ウ)甲1発明の「キャリアプレート3を牽引する上昇側ケーブル41及び下降側ケーブル42」は、本件発明1の「前記キャリアプレートを牽引するワイヤ」に相当する。
(エ)甲1発明において「駆動部5」の「ドラム53」が「ガイドレール2の下端に設けられ」たものであるから、甲1発明の「上昇側ケーブル41及び下降側ケーブル42の巻き取り及び繰り出しを行う駆動部5」は、本件発明1の「前記ガイドレールの前記昇降方向の一端部に配設され、前記ワイヤを駆動する駆動部」に相当する。
(オ)甲1発明において「上昇側ケーブル41」は、「方向転換部材としてのプーリー6を介して」配索されたものであるから、甲1発明の「ガイドレール2の長手方向における上端に配置された方向転換部材としてのプーリー6」は、本件発明1の「前記ガイドレールの前記昇降方向の他端部に配設され、前記ワイヤを方向転換する方向転換部」に相当する。
(カ)甲1発明の「ガイドレール2」が、「平板状の基部20」と、「キャリアプレート3が嵌合する」「基部20の一端から基部20の板厚方向に沿ってキャリアプレート3側に立ち上がって形成された側板部211」を有する「嵌合部21」と、を有することは、本件発明1の「ガイドレールは、前記昇降方向に延在する平板部と、前記平板部における前記昇降方向に直交する方向の端部から前記キャリアプレート側に立設され、前記キャリアプレートを摺動自在に支持する側板部と、を有」することに相当する。
(キ)甲1発明の「上昇側ケーブル41のうちキャリアプレート3及びプーリー6の間に配索された部分は、ガイドレール200から外れた位置に位置」することは、本件発明1の「前記方向転換部と前記キャリアプレートとの間に配索された前記ワイヤは、前記ガイドレールから外れた位置に位置」することに相当する。
(ク)甲1発明の「ウインドレギュレータ1」は、本件発明1の「ウインドレギュレータ」に相当する。
(ケ)上記(ア)ないし(ク)から、本件発明1と甲1発明とは、以下の一致点、相違点を有する。
(一致点)
車両の窓ガラスを支持するキャリアプレートと、
前記窓ガラスの昇降方向に沿って設けられ、前記キャリアプレートを摺動自在に支持するガイドレールと、
前記キャリアプレートを牽引するワイヤと、
前記ガイドレールの前記昇降方向の一端部に配設され、前記ワイヤを駆動する駆動部と、
前記ガイドレールの前記昇降方向の他端部に配設され、前記ワイヤを方向転換する方向転換部と、を備え、
前記ガイドレールは、前記昇降方向に延在する平板部と、前記平板部における前記昇降方向に直交する方向の端部から前記キャリアプレート側に立設され、前記キャリアプレートを摺動自在に支持する側板部と、を有し、
前記方向転換部と前記キャリアプレートとの間に配索された前記ワイヤは、前記ガイドレールから外れた位置に位置する、
ウインドレギュレータ。

(相違点1)
本件発明1は「前記駆動部と前記方向転換部との間に配索された前記ワイヤは、前記平板部上に位置し、前記平板部に押圧接触する」のに対し、甲1発明は、「ドラムハウジング52及びプーリー6の間に配索された上昇側ケーブル41」は、ガイドレール2が「平板状の基部20」と、「キャリアプレート3が嵌合する嵌合部21」と「一体に有して」いる「接触部220を有する突出部22」と接触する点。

イ 判断
上記相違点1について検討する。
(ア)甲2技術事項が「ドラム12から出たワイヤー13」のうち「プーリ14を介してシュー部材15に固定され」る「ワイヤー13」が「ガイドレール7の幅内に入る」ものであり、甲3発明が「上昇用ワイヤ32」の「ワイヤドラム28からプーリ26に至る部分32B」が「ガイドレール24」の「ガイド面2402の幅W内に位置して」いるものであるように、相違点1に係る本件発明の構成のうち、「前記駆動部と前記方向転換部との間に配索された前記ワイヤは、前記平板部上に位置」することは周知技術であるといえる。
(イ)甲6技術事項が「ガイドレール31が凸となるように湾曲している」「ケーブル式のウインドレギュレータ」において、「下降側ケーブル34がガイドレール31と接触し、その接触により下降側ケーブル34の振動が抑制されるので、下降側ケーブル34の振動に起因する異音が抑制される」ものであり、甲7技術事項が「ドアパネル10の形状に合わせるように、長手方向に亘って湾曲した形状となって」いる「ガイドレール120」「を有するウインドレギュレータ100」において、「下降用ケーブル142は下降用ケーブル142による異音の抑制のために、キャリアプレート130の上昇時にガイドレール120と接触するように、ガイドレール120上に配索されている」ものであり、「異音の抑制」のために、「ガイドレール120上に配索されている」「ケーブル」を「ガイドレールと接触」する構成とすることは、従来より知られた技術であるといえる。
(ウ)また、甲1において、従来の技術であるとして示された甲2(特開平10−315760号公報)では、「ガイドレールの曲率が小さい場合には、上昇側ケーブルがガイドレールと非接触となるため、例えばドアを閉める際に伴う衝撃によって上昇側ケーブルが振動して異音が発生するという問題がある」(上記1(1)ア(ア))ことに言及しており、ガイドレール上に配索されているケーブルは、ガイドレールの曲率が大きい場合、ケーブルはガイドレールの湾曲面に接触し、それによってケーブルが振動して異音が発生する問題が生じにくいことが認識されているといえる。
(エ)しかし、甲1発明は、上記(ウ)の認識のもと、曲率が小さいガイドレールであっても異音を抑制することができるように、「ドラムハウジング52及びプーリー6の間に配索された上昇側ケーブル41」を「ガイドレール2」の「平板状の基部20」ではなく、「突出部22」に接するようにしているものである。また、ウインドレギュレータのガイドレールは、窓ガラスの曲率等によって曲率が決定されるものであるから、「前記駆動部と前記方向転換部との間に配索された前記ワイヤは、前記平板部上に位置」することが周知技術であり、ガイドレールの曲率が大きく、ワイヤがガイドレールの湾曲面に接触すれば異音の発生が抑制できることを当業者が認識できるとしても、「曲率が小さいガイドレール」であることを前提とする甲1発明において、「駆動部と前記方向転換部との間に配索されたワイヤは、平板部上に位置」するものとするとともに、ガイドレールの曲率を調整して、ワイヤが「平板部に押圧接触する」ものとすることは、当業者といえども容易になし得たことではない。
(オ)甲4技術事項、甲5技術事項、甲8技術事項、甲9技術事項にも、「前記駆動部と前記方向転換部との間に配索された前記ワイヤは、前記平板部上に位置し、前記平板部に押圧接触する」ことについて記載も示唆もなく、甲1発明及び甲2ないし甲9に記載された事項から本件発明1を構成することは、当業者といえども容易になし得たことではない。

ウ 申立人の主張について
(ア)申立人の主張
申立人は、以下の主張をしている。
a 甲第1号証にもワイヤの振動による異音の発生を抑制するという課題について記載されている(段落0005、段落0006)。
甲第2号証〜甲第5号証に示されるように、駆動部と方向転換部との間に配索されたワイヤを、平板部上に位置させ、平板部に押圧接触させることは当業者にとって周知技術である。
また、甲第6号証及び甲第7号証に示されるように、ワイヤの振動に起因する異音を抑制したい場合に、ガイドレールの平板部上にワイヤを当接させればよいことも当業者にとって周知のことである。
よって、ワイヤの振動に起因する異音を抑制するという課題のもと、甲1発明において、甲第2号証〜甲第5号証に示されるように、駆動部と方向転換部との間に配索されたワイヤを、平板部上に位置させ、平板部に押圧接触するよう構成することは、当業者の通常の創作能力の発揮であり、設計変更に過ぎない。(申立書45頁12〜25行)
b さらに、甲第8号証及び甲第9号証には、ワイヤが直接ガイドレールに接触することにより生じる従来技術の課題を解決するための構成が開示されている。
具体的には、甲第8号証には、アッパガイド19とキャリアプレート17の間に配索されたワイヤ9が、ガイドレール1と一体化した平板状のガイド部材47上に位置し、そのガイド部材47に押圧接触することが開示されている(段落0018、図3、図4)。
また、甲第9号証には、プーリ4とブラケット15との間に配索されたワイヤ8が、ガイド部材9と一体化した平板状の支持部材22上に位置し、その支持部材22に押圧接触することが開示されている(第2頁右欄第31行〜第33行、第1図、第3図、第4図)。
このような開示からも、当業者にとって、駆動部と方向転換部との間に配索されたワイヤを、ガイドレールの平板部上に位置させ、平板部に押圧接触するようにすることは設計変更に過ぎないといえる。(申立書45頁26行〜46頁8行)
c これに対し、出願人は、令和3年12月22日提出の意見書にて、以下の様に主張し、その結果、特許査定を受けている。
「また、引用文献1に記載の発明は、「キャリアプレートを摺動自在に支持する側板部の基部としての平板部」である「基部20」とは別に、「上昇側ケーブル41と接触する接触部220を有する突出部22」を設けたことで、「曲率が小さいガイドレールであっても異音を抑制することができる」旨の効果を奏するものです。
そのため、「キャリアプレートを摺動自在に支持する側板部の基部としての平板部」(基部20)自体に、ドラム53及びプーリー6の間に配索された上昇側ケーブル41を接触させる構成は、引用文献1に記載の発明の趣旨に反するものであり、引用文献1に記載の発明において、「前記駆動部と前記方向転換部との間に配索された前記ワイヤは、(キャリアプレートを摺動自在に支持する側板部の基部としての)平板部上に位置し、(キャリアプレートを摺動自在に支持する側板部の基部としての)平板部に押圧接触する」構成を採用し本願発明とすることは、当業者にとって想到し難いものと思料いたします。」
しかしながら、以下の理由により、本件特許発明1について当業者が容易に想到し得るという結論が変わることはない。
甲第1号証では、先行技術文献として甲第2号証を挙げ、発明が解決しようとする課題について以下のように開示している。
すなわち、甲第2号証の発明では、キャリアプレートを牽引するケーブルがガイドレール上に配索され、ガイドレールの湾曲面(平坦部)に接触しているが、ガイドレールの曲率が小さい場合には、上昇側ケーブルがガイドレールと非接触となり、上昇側ケーブルが振動して異音が発生するとし、甲第1号証の発明では、これを抑制することを課題としている(段落0003〜0006)。
これに対し、ガイドレールの曲率が大きい場合は、異音の発生を抑制するという課題を解決するために、甲第2号証の構成のように、上昇側ケーブルをガイドレールの湾曲面(平坦部)に接触させれば問題がないことが、ここから容易に読み取れる。
このようなことから、ガイドレールの曲率が大きい場合を想定して、ワイヤが突出部22に接触する甲第1号証の構成を、ワイヤが平坦面に接触する構成に置き換えることに阻害要因はなく、当業者が容易に想到できる。
本件特許発明1には、ガイドレールの曲率が小さいという限定はなく、明細書にもその点について何ら開示されていないので、本件特許発明1はガイドレールの曲率が大きい場合も技術的範囲に含んでいる。
よって、甲第1号証、及び、甲第2号証〜甲第5号証に開示されているような周知技術から、当業者が本件特許発明1に容易に想到できる。(申立書46頁下から8行〜48頁3行)
(イ)主張の検討
a 上記(ア)aについて
(a)申立人は、「甲第2号証〜甲第5号証に示されるように、駆動部と方向転換部との間に配索されたワイヤを、平板部上に位置させ、平板部に押圧接触するよう構成することは、当業者の通常の創作能力の発揮であり、設計変更に過ぎない」と主張するが、甲2技術事項、甲3発明のいずれも、「駆動部と方向転換部との間に配索されたワイヤを、平板部上に位置させ」るものではあるが、平板部に押圧接触するものとはいえない。
(b)また、甲4技術事項、甲5技術事項は、駆動部及びワイヤの配索が異なるから、本件発明1の「駆動部と方向転換部との間に配索されたワイヤを、平板部上に位置させ」ることを開示するものではない。なお、「ワイヤを、平板部上に位置させ」ることが周知技術であることは、甲2技術事項及び甲3発明に示されており、押圧接触によって異音を抑制することは、甲6技術事項及び甲7技術事項に記載されたことと認定しているため、甲4技術事項及び甲5技術事項の認定が、上記イの判断を左右するものではない。
(c)そして、ワイヤの振動に起因する異音を抑制するという課題は、甲1発明において「上昇側ケーブル41」が「突出部22」の「接触部220」に「接触する」ことで解決されており、当該課題に基づいて、甲1発明を「前記駆動部と前記方向転換部との間に配索された前記ワイヤは、前記平板部上に位置し、前記平板部に押圧接触する」ものとする動機付けはない。
b 上記(ア)bについて
(a)甲8技術事項は「ガイドレール1」の「ガイド部材47」に、甲9技術事項は、「ガイド部材9」の「支持部材22」にワイヤが接触することが示されるのみで、相違点1に係る本件発明1の構成である、「前記駆動部と前記方向転換部との間に配索された前記ワイヤは、前記平板部上に位置し、前記平板部に押圧接触する」ことについて、記載も示唆もされていない。
(b)よって、甲8技術事項、甲9技術事項を検討しても、相違点1に係る本件発明1の構成を当業者が容易に想到し得たとはいえない。
c 上記(ア)cについて
(a)申立人の主張のとおり、ガイドレールの曲率が大きい場合、上昇側ケーブルをガイドレールの湾曲面(平坦部)に接触させることにより、異音の発生を抑制するという課題を解決することができることは、甲1の記載から認識することができる。
(b)しかし、甲1発明は、ガイドレールの曲率が小さい場合であっても、異音の発生を抑制するという課題を解決することができるように、「ドラムハウジング52及びプーリー6の間に配索された上昇側ケーブル41」を「基部20」とは別の、「突出部22」の「接触部220」に接触させる構成としたものであるから、当該ケーブル41が突出部22に接触する甲第1号証の構成を、ガイドレールの曲率が大きい場合を想定して、ワイヤが平坦面に接触する構成に置き換えることには阻害要因があるというべきである。
(c)申立人は、「本件特許発明1には、ガイドレールの曲率が小さいという限定はなく、明細書にもその点について何ら開示されていないので、本件特許発明1はガイドレールの曲率が大きい場合も技術的範囲に含んでいる」旨主張するが、ガイドレールの曲率の大小は、「ガイドレールの曲率が小さい場合」を前提とする甲1発明から出発して本件発明1を想到することが容易になし得るか、という進歩性の判断における考慮事項であるから、本件発明1の発明特定事項としてガイドレールの曲率が特定されていないことは、上記イの判断を左右するものではない。
よって、申立人の上記主張は採用できない。

エ 小括
本件発明1は、甲1発明及び甲2ないし甲9に示される周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1を引用するものであり、本件発明1と同様の構成を有するから、甲1発明とは、少なくとも上記相違点1で相違する。
そして、上記相違点1に関しては、上記(1)イにおいて検討したとおりである。
よって、本件発明2は、甲1発明及び甲2ないし甲9に示される周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)本件発明3について
ア 対比
本件発明3と甲1発明とを対比する。
(ア)上記2(1)ア(ア)ないし(ク)における本件発明1と甲1発明との対比は、本件発明3と甲1発明との対比においても同様である。
(イ)本件発明3の「前記駆動部と前記方向転換部との間に配索された前記ワイヤは、前記ガイドレール上に位置し、前記車両の車幅方向における前記側板部の基端の位置で前記ガイドレールに押圧接触する」ことと、甲1発明の「ドラムハウジング52及びプーリー6の間に配索された上昇側ケーブル41」が「ガイドレール2」の「突出部22」の「接触部220」と「接触する」こととは、「前記駆動部と前記方向転換部との間に配索された前記ワイヤは、前記ガイドレール上に位置し、前記ガイドレールに押圧接触する」ことで共通する。
(ウ)上記(ア)及び(イ)から、本件発明3と甲1発明とは、以下の一致点、相違点を有する。
(一致点)
車両の窓ガラスを支持するキャリアプレートと、
前記窓ガラスの昇降方向に沿って設けられ、前記キャリアプレートを摺動自在に支持するガイドレールと、
前記キャリアプレートを牽引するワイヤと、
前記ガイドレールの前記昇降方向の一端部に配設され、前記ワイヤを駆動する駆動部と、
前記ガイドレールの前記昇降方向の他端部に配設され、前記ワイヤを方向転換する方向転換部と、を備え、
前記ガイドレールは、前記昇降方向に延在する平板部と、前記平板部における前記昇降方向に直交する方向の端部から前記キャリアプレート側に立設され、前記キャリアプレートを摺動自在に支持する側板部と、を有し、
前記方向転換部と前記キャリアプレートとの間に配索された前記ワイヤは、前記ガイドレールから外れた位置に位置し、
前記駆動部と前記方向転換部との間に配索された前記ワイヤは、前記ガイドレール上に位置し、前記ガイドレールに押圧接触するウインドレギュレータ。

(相違点2)
前記駆動部と前記方向転換部との間に配索された前記ワイヤが前記ガイドレールに押圧接触する位置が、本件発明3は、「前記車両の車幅方向における前記側板部の基端の位置」であるのに対し、甲1発明は、「突出部22」の「接触部220」である点。

イ 判断
上記相違点2について検討する。
(ア)甲1は、従来の技術である甲2(特開平10−315760号公報)について、「ガイドレールの曲率が小さい場合には、上昇側ケーブルがガイドレールと非接触となるため、例えばドアを閉める際に伴う衝撃によって上昇側ケーブルが振動して異音が発生するという問題がある」(上記1(1)ア(ア))ことに言及しており、ガイドレール上に配索されているケーブルは、ガイドレールの曲率が大きい場合、ケーブルはガイドレールの湾曲面に接触し、それによってケーブルが振動して異音が発生する問題が生じにくいことが認識されているといえる。
(イ)しかし、甲1発明は、上記(ア)の認識のもと、曲率が小さいガイドレールであっても異音を抑制することができるように、「ドラムハウジング52及びプーリー6の間に配索された上昇側ケーブル41」を「ガイドレール2」の「平板状の基部20」ではなく、「突出部22」に接するようにしているものである。また、ウインドレギュレータのガイドレールは、窓ガラスの曲率等によって曲率が決定されるものであるから、「前記駆動部と前記方向転換部との間に配索された前記ワイヤは、前記平板部上に位置」することが周知技術であり、ガイドレールの曲率が大きく、ワイヤがガイドレールの湾曲面に接触すれば異音の発生が抑制できることを当業者が認識できるとしても、「曲率が小さいガイドレール」であることを前提とする甲1発明において、駆動部と前記方向転換部との間に配索されたワイヤの位置を「前記車両の車幅方向における前記側板部の基端の位置」とし、ガイドレールの曲率を調整して、当該位置でワイヤがガイドレールに押圧接触するものとすることは、当業者といえども容易になし得たことではない。
(ウ)甲4技術事項、甲5技術事項、甲8技術事項、甲9技術事項にも、相違点2に係る本件発明3の構成とすることについて記載も示唆もなく、甲1発明及び甲2ないし甲9に記載された事項から本件発明3を構成することは、当業者といえども容易になし得たことではない。

よって、本件発明3は、甲1発明及び甲2ないし甲9に示される周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)本件発明4について
本件発明4は、本件発明3を引用するものであり、本件発明3と同様の構成を有するから、甲1発明とは、少なくとも上記相違点2で相違する。
そして、上記相違点2に関しては、上記(3)イにおいて検討したとおりである。
よって、本件発明4は、甲1発明及び甲2ないし甲9に示される周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

3 甲3発明を主引例とする場合
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲3発明とを対比する。
(ア)甲3発明の「車両のドアに上下に昇降可能に設けられたドアガラス」に「取り付けられたキャリアプレート」は、本件発明1の「車両の窓ガラスを支持するキャリアプレート」に相当する。
(イ)甲3発明の「上下に延在して設けられ、前記キャリアプレートを上下に案内するガイドレール」であって、「2つのガイド板部」を「備え」、「ガイド板部は、キャリアプレートの各シューに摺動可能に結合され、これにより、キャリアプレートおよびドアガラスは上下に移動可能に案内される」ガイドレールは、本件発明1の「前記窓ガラスの昇降方向に沿って設けられ、前記キャリアプレートを摺動自在に支持するガイドレール」に相当する。
(ウ)甲3発明の「キャリアプレートを上昇させる上昇用ワイヤ」及び「キャリアプレートを下降させる下降用ワイヤ」は、本件発明1の「前記キャリアプレートを牽引するワイヤ」に相当する。
(エ)甲3発明の「ガイドレールの下端に設けられたワイヤドラムと、前記ワイヤドラムを正逆転させる駆動機構」は、本件発明1の「前記ガイドレールの前記昇降方向の一端部に配設され、前記ワイヤを駆動する駆動部」に相当する。
(オ)甲3発明の「前記ガイドレールの上端に設けられた」、「上昇用ワイヤが巻回されて上昇ワイヤの向きを変えるものであ」る「プーリ」は、本件発明1の「前記ガイドレールの前記昇降方向の他端部に配設され、前記ワイヤを方向転換する方向転換部」に相当する。
(カ)甲3発明の「ガイドレール」の「ドアの幅方向に沿った幅を有して上下に延在する本体板部」は、「ガイド面として形成され、ガイド面の断面は略一直線状であ」って、「平板状」をなしているといえるから、本件発明1の「ガイドレール」の有する「前記昇降方向に延在する平板部」に相当する。
(キ)本件発明1の「前記ガイドレール」の有する「前記平板部における前記昇降方向に直交する方向の端部から前記キャリアプレート側に立設され、前記キャリアプレートを摺動自在に支持する側板部」と、甲3発明の「ガイドレール」の備える「本体板部の幅方向の両側からアウタパネル側に起立された2つの側板部」とは、「ガイドレール」の有する「前記平板部における前記昇降方向に直交する方向の端部から前記キャリアプレート側に立設される側板部」の点で共通する。
(ク)本件発明1の「前記駆動部と前記方向転換部との間に配索された前記ワイヤは、前記平板部上に位置し、前記平板部に押圧接触する」ことと、甲3発明の「上昇用ワイヤがワイヤドラムからプーリに至る部分」が、「ガイド面の幅内に位置して」いることとは、「前記駆動部と前記方向転換部との間に配索された前記ワイヤは、前記平板部上に位置する」点で共通する。
(ケ)上記(ア)ないし(ク)から、本件発明1と甲3発明とは、以下の一致点、相違点を有する。
(一致点)
車両の窓ガラスを支持するキャリアプレートと、
前記窓ガラスの昇降方向に沿って設けられ、前記キャリアプレートを摺動自在に支持するガイドレールと、
前記キャリアプレートを牽引するワイヤと、
前記ガイドレールの前記昇降方向の一端部に配設され、前記ワイヤを駆動する駆動部と、
前記ガイドレールの前記昇降方向の他端部に配設され、前記ワイヤを方向転換する方向転換部と、を備え、
前記ガイドレールは、前記昇降方向に延在する平板部と、前記平板部における前記昇降方向に直交する方向の端部から前記キャリアプレート側に立設される側板部と、を有し、
前記駆動部と前記方向転換部との間に配索された前記ワイヤは、前記平板部上に位置するウインドレギュレータ。

(相違点A)
本件発明1は「ガイドレール」の「側板部」が「前記キャリアプレートを摺動自在に支持する」のに対し、甲3発明は、「各側板部」(側板部)の「先端から本体板部の幅方向外方にそれぞれ屈曲形成された2つのガイド板部」が、「キャリアプレートの各シューに摺動可能に結合され」て、「キャリアプレート」が「上下に移動可能に案内され」るのであって、「側板部」が「前記キャリアプレートを摺動自在に支持する」ものではない点。
(相違点B)
本件発明1は、「前記方向転換部と前記キャリアプレートとの間に配索された前記ワイヤは、前記ガイドレールから外れた位置に位置」するのに対し、甲3発明は、「プーリ」(方向転換部)から「キャリアプレート」(キャリアプレート)の「ワイヤ取り付け部に至る部分」の「上昇用ワイヤ」が「ガイドレール」の「ガイド面の幅内に位置して」おり、ガイドレールから外れた位置に位置するものではない点。
(相違点C)
前記駆動部と前記方向転換部との間に配索された前記ワイヤについて、本件発明1は、「平板部に押圧接触する」と特定されるのに対し、甲3発明は、平板部に押圧接触するか不明である点。

イ 判断
事案に鑑み、まず、相違点Bについて検討する。
(ア)甲1発明の「上昇側ケーブル41のうちキャリアプレート3及びプーリー6の間に配索された部分は、ガイドレール200から外れた位置に位置」することは、本件発明1の「前記方向転換部と前記キャリアプレートとの間に配索された前記ワイヤは、前記ガイドレールから外れた位置に位置」することに相当し、甲1発明は、相違点Bに係る本件発明1の構成を備える。
(イ)しかし、甲3発明は、「上昇用ワイヤがワイヤドラムからプーリに至る部分と、プーリからワイヤ取り付け部に至る部分とが共にガイド面の幅内に位置」する構成を採用し、それにより、「上昇用ワイヤはガイド面の幅内でガイド面に沿って移動するため、上昇用ワイヤは、ドアガラスの昇降軌跡L上にはみ出してドアガラスに接触することはな」いという効果を奏しているものである。
そうすると、甲3発明は、甲1発明の当該構成を採用すると上記効果が損なわれることとなり、阻害要因が存在するから、甲3発明に甲1発明の「前記方向転換部と前記キャリアプレートとの間に配索された前記ワイヤは、前記ガイドレールから外れた位置に位置」する構成を採用することが当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
よって、本件発明1は、甲3発明及び甲1発明から当業者が容易になし得たものではない。

ウ 小括
本件発明1は、他の相違点について検討するまでもなく、甲3発明及び甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1を引用するものであり、本件発明1と同様の構成を有するから、甲3発明とは、少なくとも上記相違点Bで相違する。
そして、上記相違点1に関しては、上記(1)イにおいて検討したとおりである。
よって、本件発明2は、甲3発明及び甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)本件発明3について
本件発明3は、「前記方向転換部と前記キャリアプレートとの間に配索された前記ワイヤは、前記ガイドレールから外れた位置に位置し、」との構成を備えるから、本件発明3と甲3発明とを対比すると、両者は、少なくとも上記相違点Bで相違する。
そして、上記相違点Bに関しては、上記(1)イにおいて検討したとおりである。
よって、本件発明3は、甲3発明及び甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)本件発明4について
本件発明4は、本件発明3を引用するものであり、本件発明3と同様の構成を有するから、本件発明4と甲3発明とは、少なくとも上記相違点Bで相違する。
そして、上記相違点Bに関しては、上記(1)イにおいて検討したとおりである。
よって、本件発明4は、甲3発明及び甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1ないし4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1ないし4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2022-10-06 
出願番号 P2021-130949
審決分類 P 1 651・ 121- Y (E05F)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 住田 秀弘
特許庁審判官 土屋 真理子
西田 秀彦
登録日 2022-01-21 
登録番号 7013614
権利者 株式会社城南製作所
発明の名称 ウインドレギュレータ  
代理人 特許業務法人平田国際特許事務所  

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