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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H05K
審判 全部申し立て 2項進歩性  H05K
管理番号 1390592
総通号数 11 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-11-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-06-14 
確定日 2022-10-12 
異議申立件数
事件の表示 特許第7010950号発明「セラミックス回路基板及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7010950号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第7010950号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし8に係る特許についての出願は、平成30年7月25日(優先権主張 平成29年7月25日)に出願され、令和4年1月17日に特許権の設定登録がされ、令和4年1月26日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対して、令和4年6月14日に特許異議申立人 茂木早苗により特許異議の申立てがなされたものである。

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし8に係る発明(以下、「本件特許発明1」ないし「本件特許発明8」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
セラミックス基板上に、ろう材層を介して回路パターンが設けられ、
回路パターンの外縁からはみ出したろう材層によりはみ出し部が形成されており、
ろう材層は、Ag、Cu及びTiと、SnまたはInとを含み、
はみ出し部外縁から、セラミックス基板と回路パターンとの接合界面に沿い内側に向かってAgリッチ相が300μm以上連続して形成されており、接合ボイド率が1.0%以下である、セラミックス回路基板。
【請求項2】
はみ出し部の厚みが8〜30μmであり、長さが40μm〜150μmである、請求項1に記載のセラミックス回路基板。
【請求項3】
セラミックス基板が、窒化珪素、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭化珪素、及びほう化ランタンから選択される、請求項1又は2に記載のセラミックス回路基板。
【請求項4】
回路パターンが銅を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載のセラミックス回路基板。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載のセラミックス回路基板の製造方法であって、
セラミックス基板の両主面にろう材を用いて銅板を接合する工程を有し、
ろう材が、Agを85.0〜95.0質量部、Cuを5.0〜13.0質量部、SnまたはInを0.4〜2.0質量部、及び、TiをAg、Cu及び、SnまたはInの合計100質量部に対して1.5〜5.0質量部、含有し、
真空中または、不活性雰囲気中で、接合温度が770℃〜900℃であり、保持時間が10〜60分で接合する、製造方法。
【請求項6】
ろう材が、Ag粉末、Cu粉末、及び、Sn粉末又はIn粉末を用いてなり、Ag粉末の比表面積が0.1〜0.6m2/gである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
Cu粉末の表面積が0.1〜1.0m2/gでありかつ平均粒子径D50が0.8〜8.0μmである、請求項5又は6に記載の製造方法。
【請求項8】
Sn粉末又はIn粉末の比表面積が0.1〜1.0m2/gでありかつ平均粒子径D50が0.8〜10.0μmある、請求項5から7のいずれか一項に記載の製造方法。」

第3 申立理由の概要
理由1(新規性
請求項1ないし5に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、請求項1ないし5に係る特許は特許法第29条第1項の規定に違反してなされたものであるため、同法第113条第2号により取り消されるべきである。

理由2(進歩性
請求項1ないし5に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、
請求項6ないし8に係る発明は、甲第1号証に記載された発明、甲第3号証及び甲第4号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、
請求項1ないし8に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるため、同法第113条第2号により取り消されるべきである。

理由3(進歩性
請求項1ないし8に係る発明は、甲第4号証に記載された発明及び甲第1号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、請求項1ないし8に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるため、同法第113条第2号により取り消されるべきである。

<証拠方法>
甲第1号証:特開2007−173577号公報
甲第2号証:特開平5−201777号公報
甲第3号証:再公表特許第2017/56360号
甲第4号証:特開2017−41567号公報

第4 甲各号証の記載事項、引用発明
1 甲第1号証
(1)甲第1号証には、以下の事項が記載されている(下線は、当審で付与したものである。以下同様。)。
「【0002】
近年、ロボットやモーター等の産業機器の高性能化に伴い、大電力・高能率インバーター等大電力モジュールの変遷が進んでおり、その大電力モジュールに実装される半導体素子から発生する熱も増加の一途をたどっている。この熱を効率よく放散するため、大電力モジュール用の基板では、良好な熱伝導を有するセラミックス基板を用い、そのセラミック基板上に銅やアルミニウム等の金属板を接合した、セラミックス回路基板が広く用いられている。」

「【0003】
このセラミックス基板として、優れた電気絶縁性を有するとともに高熱伝導性を有する窒化珪素基板や窒化アルミニウム基板が用いられ、その基板に、AgやCuを含む活性金属ろう材を用いて金属板を接合したセラミックス回路基板が一般的に使用されている。
前記金属板としては、アルミニウム板や銅板が用いられることが多く、アルミニウムよりも電気伝導性および熱伝導性に優れた銅板を接合させたセラミックス回路基板が広く使用されている。銅はアルミニウムより高い降伏応力を有し、またセラミックスとの熱膨張差も大きいため、用いる銅板が厚くなるにしたがい、セラミックス回路基板の耐熱サイクル性と耐熱衝撃性が低下し、クラックの発生や基板破壊が起こりやすくなるという問題点があった。」

「【0007】
この高精細な回路パターンを形成できるエッチング処理を適用してセラミックス回路基板を形成しようとした場合において、前述したような銅回路板よりも外側に張り出したろう材層部を設けて形成するとき、その張り出したろう材層部において、活性金属ろう材中のCuが、銅回路板をエッチングする際に同時にエッチングされてしまう。
【0008】
その結果、銅回路板から張り出したろう材層に空隙等が発生し、ろう材層部を張り出して設けることにより期待される熱応力の均一分散が起こらなくなり、銅回路板の端部とセラミックス基板の近接する部分等においてクラックなどが生じ易くなってしまうといった問題があった。」

「【0011】
本発明者らは、前記知見に基づいて本発明に至ったものである。すなわち本発明は、セラミックス基板の少なくとも一方の面に、Agを含有するろう材層を介して銅回路板が接合されたセラミックス回路基板において、前記銅回路板の側面よりも前記ろう材層が外側に張り出すように形成され、前記外側に張り出したろう材層部にはCu相又はCu−In相が存在し、前記外側に張り出したろう材層部の断面0.02mm2内に、面積300μm2以上のCu相又はCu−In相又は空隙が1つ以下(0を含む)であるセラミックス回路基板である。
なお、ろう材層の張り出しに起因する信頼性をより向上させるためには、前記断面積内に、面積が200μm2以上のCu相又はCu−In相又は空隙が0個であることが好ましい。」

「【0015】
また、セラミックス基板は高放熱および高強度が要求されるため、高強度の観点から窒化珪素、又は高放熱性の観点から窒化アルミニウムのどちらかからなることが望ましく、さらに電気伝導性および熱伝導性を高めるため、銅回路板の厚さが0.6mm以上であることが好ましい。その際にセラミックス基板の厚さは0.3mm以上であれば熱膨張差および基板強度に起因する問題は減少する。
【0016】
さらに、応力の集中による基板の破壊などを防止するために、少なくとも一つの銅回路板において、張り出しの長さが0.01mm〜0.4mmの前記張り出したろう材層部が、前記銅回路板の外周の長さに対し60%以上の部分に形成されていることが望ましい。さらに前記60%以上のろう材層の張り出し部が銅回路板の端部に形成されていることが好ましい。」

「【0018】
また本発明は、前記ろう材層を形成するために用いられたろう材が、Ag:95〜50質量%、In:1〜5質量%、Ti:0.1〜2.0質量%、残部Cuおよび不可避不純物からなる組成であることが望ましい。その際、接合性の確実性を向上させるために、ろう材溶融前後で固液共存状態であることが望ましく、そのためAgとCuに関して亜共晶もしくは過共晶組成であることが好ましい。また、Tiは少な過ぎると接合性が低下し、多すぎると接合層であるTiN以外にろう材層中にTi化合物を多量に発生させてしまう。このTi化合物はろう材層の接合強度低下の原因となりうる。よってTiは1%前後であることが好ましい。」

「【0020】
本発明に関わるセラミックス回路基板は、例えば以下のような手順で製造される。まずセラミックス基板と銅板を用意して、前記のような活性金属ろう材をセラミックス基板の表面に塗布する。この場合、スクリーン印刷法などが張り出し長さの制御において好ましい方法であるが、本発明はその他の製造方法に制限されるものではない。また、活性金属ろう材の塗布高さは、銅板の厚さなどによって異なるが、熱膨張差をより緩和させるために20〜50μm程度であることが好ましい。」

「【0023】
Ag:70質量%、In:3質量%、Ti:1.5質量%、残部Cuからなる組成を有する活性金属ろう材を、スクリーン印刷法を用いて長さ35mm×幅30mm×厚み0.32mmの窒化珪素焼結体の両面に塗布した。ろう材塗布済み基板を乾燥後、回路パターン側に0.5〜0.8mm、放熱パターン側に0.4〜0.6mmの銅板をそれぞれ接触配置させ、真空中加圧下にて750〜850℃で20分熱処理して窒化珪素基板と銅板の接合体を製造した。
【0024】
次いで、この接合体の銅板上に紫外線硬化タイプのエッチングレジストを、スクリーン印刷で塗布後、塩化第2鉄溶液にてパターン外の不要な銅板の除去を行い、その後レジストを除去した。これらのエッチング処理を施した接合体に、銅回路パターン間に張り出したろう材層部以外の、残留不要ろう材などがある場合過酸化水素水とフッ化アンモニウムの混合溶液にてそれらの除去を行った。このようにして表1の実施例1〜7と比較例1〜4に示す窒化珪素回路基板を完成させた。また、Ag:65質量%、In:10質量%、Ti:1.5質量%、残部Cuからなる組成を有する活性金属ろう材を用いて、前記製造方法にて完成させた窒化珪素回路基板を比較例5とした。図1に実施例3、図2に比較例5の張り出したろう材層部の断面図をそれぞれ示す。この図1、図2において、1は窒化珪素基板、2は銅板、3は張り出したろう材層部、4はCu相又はCu−In層、5は空隙を示す。図1の実施例では、図2の比較例に比べ、Cu相又はCu−In層又は空隙の大きさが小さく、分散していることが分かる。」

「【0027】
表1に示すとおり、本発明の実施例1〜7では、外側に張り出したろう材層部の断面0.02mm2内に、面積300μm2以上のCu相又はCu−In相又は空隙は0個であった。また、このとき、前記断面積内に面積が200μm2以上のCu相又はCu−In相又は空隙も1個以下であった。また、外側に張り出したろう材層部にはCu相又はCu−In相又は空隙が存在し、前記外側に張り出したろう材層部の断面における、Cu相又はCu−In相又は空隙の1つ当たりの平均面積はいずれも20〜40μm2であった。そして、この実施例によれば、熱熱衝撃を行った結果、15サイクル後もクラックが発生しなかった。」

【図1】


ここで、外側に張り出したろう材層部が具体的に示されている実施例に着目すると、窒化珪素回路基板に関して、甲第1号証には次の事項が記載されている。
・【0023】及び【0024】によれば、窒化珪素回路基板は、Ag:70質量%、In:3質量%、Ti:1.5質量%、残部Cuからなる組成を有する活性金属ろう材を、窒化珪素焼結体に塗布し、乾燥後、回路パターン側に銅板を接触配置させ、真空中加圧下にて750〜850℃で20分熱処理して窒化珪素基板と銅板の接合体を製造し、パターン外の不要な銅板の除去を行い、銅回路パターン間に張り出したろう材層部以外の、残留不要ろう材の除去を行ったものである。
・【0027】によれば、外側に張り出したろう材層部にはCu相又はCu−In相又は空隙が存在し、外側に張り出したろう材層部の断面0.02mm2内に、面積300μm2以上のCu相又はCu−In相又は空隙は0個であり、面積が200μm2以上のCu相又はCu−In相又は空隙も1個以下であって、外側に張り出したろう材層部の断面における、Cu相又はCu−In相又は空隙の1つ当たりの平均面積はいずれも20〜40μm2である。

(2)引用発明1
上記記載事項より、甲第1号証には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「Ag:70質量%、In:3質量%、Ti:1.5質量%、残部Cuからなる組成を有する活性金属ろう材を、窒化珪素焼結体に塗布し、乾燥後、
回路パターン側に銅板を接触配置させ、真空中加圧下にて750〜850℃で20分熱処理して窒化珪素基板と銅板の接合体を製造し、
パターン外の不要な銅板の除去を行い、
銅回路パターン間に張り出したろう材層部以外の、残留不要ろう材の除去を行った窒化珪素回路基板であって、
外側に張り出したろう材層部にはCu相又はCu−In相又は空隙が存在し、
外側に張り出したろう材層部の断面0.02mm2内に、面積300μm2以上のCu相又はCu−In相又は空隙は0個であり、面積が200μm2以上のCu相又はCu−In相又は空隙も1個以下であって、
外側に張り出したろう材層部の断面における、Cu相又はCu−In相又は空隙の1つ当たりの平均面積はいずれも20〜40μm2である、
窒化珪素回路基板。」

2 甲第2号証
甲第2号証には、以下の事項が記載されている。
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、セラミックス部材と金属部材との接合体に係り、特に耐冷熱サイクル特性に優れたセラミックス−金属接合体に関する。
【0002】
【従来の技術】窒化物系セラミックス材料は、一般に、軽量でかつ高硬度を有する、電気絶縁性に優れる、耐熱性や耐食性に優れる等という特徴を有しており、これらの特徴を生かして構造用材料や電気部品用材料等として利用されている。」

「【0003】上述したような窒化物系セラミックス部材と金属部材との接合方法としては、従来から、MoやW 等の高融点金属を用いる方法や、4A族元素や5A族元素のような活性金属を用いる方法等が知られており、中でも、高強度、高封着性、高信頼性等が得られることから、活性金属法が多用されている。
【0004】上記活性金属法は、Ti、Zr、Hf、Nb等の金属元素が窒化物系セラミックス材料に対して濡れやすく、反応しやすいことを利用した接合法であり、具体的には活性金属を添加したろう材を用いたろう付け法や、窒化物系セラミックス部材と金属部材との間に活性金属の箔や粉体を介在させ、加熱接合する方法(固相拡散接合)等として利用されている。また、被接合体となる金属部材として、活性金属を直接使用することも行われている。一般的に、取扱い性や処理のしやすさ等から、CuとAgとの共晶ろう材(Ag:72wt%)にTi等の活性金属を添加し、これをセラミックス部材と金属部材との間に介在させ、適当な温度で熱処理して接合する方法が多用されている。」

「【0008】
【課題を解決するための手段と作用】本発明のセラミックス−金属接合体は、窒化物系セラミック部材と、Ti、ZrおよびNbから選ばれた少なくとも 1種の活性金属を含む Ag-Cu系ろう材層を介して、前記窒化物系セラミックス部材に接合された金属部材とを具備するセラミックス−金属接合体において、前記 Ag-Cu系ろう材中のAg成分とCu成分とは、前記ろう材層内で溶け分れた組織を形成していることを特徴としている。」

「【0011】本発明のセラミックス−金属接合体は、上述したような窒化物系セラミックス部材と金属部材とを、 Ag-Cuの共晶組成(72wt%Ag-28wt%Cu)もしくはその近傍の組成を主とし、これにTi、ZrおよびNbから選ばれた少なくとも 1種の活性金属を適量配合した Ag-Cu系ろう材により接合したものである。そして、本発明のセラミックス−金属接合体においては、上記ろう材層中のAg成分とCu成分とが溶け分れた組織を形成しているものである。すなわち、 Ag-Cu系共晶ろう材を用いた場合、通常、熱処理(接合処理)後のろう材層は、 Ag-Cuの共晶組織が主体となる。しかし、この Ag-Cu共晶組織は、線膨脹係数が大きく、降伏応力が大きいため、十分な応力緩和効果を有していない。これに対して、AgおよびCu個々の降伏応力は小さいため、ろう材層をAg成分とCu成分とが溶け分れた組織とすることにより、冷熱サイクルの付加等によって窒化物系セラミックス部材にクラックが生じることを抑制することができる。つまり、冷熱サイクルの付加等に起因する熱応力が接合体に加わった際に、降伏応力が小さいろう材層は容易に塑性変形するため、窒化物系セラミックス部材側に応力が作用することを抑制することができる。このように、Ag成分とCu成分との溶け分かれ組織を有するろう材層は、応力緩和層として有効に機能するため、冷熱サイクルの付加等によって窒化物系セラミックス部材にクラックが生じることを抑制することができる。」

「【0014】本発明に用いられる Ag-Cu系ろう材は、前述したように、 Ag-Cuの共晶組成もしくはその近傍の組成を主とし、これにTi、ZrおよびNbから選ばれた少なくとも1種の活性金属を適量配合したものである。上記活性金属は、熱処理温度(接合温度)で活性化し、窒化物系セラミックス部材と反応して窒化物となり、接合強度の向上に寄与すると共に、ろう材層内に均一に分布することによって、ろう材層内のAg成分とCu成分との溶け分かれ組織の形成に貢献するものである。ただし、あまり多量に添加すると、接合強度は増大するものの、冷熱サイクルが付加された際にクラックの発生原因となる恐れがあるため、 7重量%未満とすることが好ましい。一方、活性金属の配合量があまり少ないと、十分な接合強度が得られないと共に、Ag成分とCu成分との溶け分かれ組織を形成することが困難となるため、 2重量%以上とすることが好ましい。また、ろう材の主体となる Ag-Cu合金は、基本的には共晶組成を満足するものとするが、全ろう材成分中のCu量が15重量%〜35重量%程度であれば同様な効果を得ることができる。」

「【0018】この際、一般的には接合温度は 800℃〜 900℃程度で、接合時間(加熱時間)は 5〜30分程度であるが、ろう材層内のAg成分とCu成分とを溶け分かれた組織とするためには、 820〜 850℃程度の温度で 5〜10分程度の処理条件とすることが好ましい。このような処理条件とすることにより、ろう材層内の活性金属をより均一に分布させることができ、よってAg成分とCu成分との溶け分かれ組織の形成が容易となる。また、熱処理後は15℃/分以下程度の冷却速度で徐冷することが好ましい。ろう付け後に急冷すると、共晶組織が形成されやすくなる。さらに、Ag成分とCu成分との溶け分かれ組織を形成するための条件としては、より高真空雰囲気(例えば 1×10-5Torr以下)中で加熱接合する等が挙げられる。」

図3


3 甲第3号証
甲第3号証には、以下の事項が記載されている。
「【0010】
図1は、回路基板の構造例を示す断面模式図である。図1に示す回路基板1は、セラミックス基板2と、金属板(表金属板)3と、金属板4(裏金属板)と、接合層5と、接合層7と、を具備する。接合層5は、はみ出し部6を有する。接合層7は、はみ出し部8を有する。」

「【0012】
3点曲げ強度が500MPa以上のセラミックス基板としては、窒化珪素基板を用いることが好ましい。窒化アルミニウム基板、アルミナ基板の3点曲げ強度は、一般的に300〜450MPa程度である。これに対し、窒化珪素基板は、500MPa以上、さらには600MPa以上の高い3点曲げ強度を有する。3点曲げ強度は、例えばJIS−R−1601に準じて測定される。
【0013】
窒化珪素基板は、50W/m・K以上、さらには80W/m・K以上の熱伝導率を有する。熱伝導率は、例えばJIS−R−1611に準じて測定される。近年の窒化珪素基板は、高強度と高熱伝導の両方を有する。500MPa以上の3点曲げ強度と、80W/m・K以上の熱伝導率と、を有する窒化珪素基板であれば、セラミックス基板2の厚さを0.30mm以下まで薄くすることができる。なお、窒化珪素基板に限定されず、セラミックス基板2としては、高強度を有する窒化アルミニウム基板、アルミナ基板、ジルコニア含有アルミナ基板などを用いることができる。
【0014】
金属板3は、半導体素子を搭載するための金属回路板である。金属板3は、接合層5を介してセラミックス基板2の第1の面と接合されている。金属板4は、放熱板である。金属板4は、接合層7を介してセラミックス基板2の第2の面と接合されている。
【0015】
金属板3、4としては、銅、アルミニウムまたはそれらを主成分とする合金を含む金属板を用いることができる。上記材料の金属板は、電気抵抗が低いため例えば回路基板として使用しやすい。また、熱伝導率は銅が398W/m・K、アルミニウムが237W/m・Kと高い。このため、放熱性も向上させることができる。」

「【0017】
接合層5は、セラミックス基板2の第1の面と金属板3とを接合する。接合層6は、セラミックス基板2の第2の面と金属板4とを接合する。はみ出し部6は、セラミックス基板2の第1の面と金属板3との間からはみ出すように当該第1の面上に延在する。はみ出し部8は、セラミックス基板2の第2の面と金属板4との間からはみ出すように当該第2の面上に延在する。」

「【0019】
金属板3、4が銅板またはアルミニウム板である場合、接合層5、7は、Ag(銀)、Cu(銅)、およびAl(アルミニウム)から選ばれる少なくとも一つの元素を主成分として含むことが好ましい。また、接合層5、7は、Ti(チタン)、Hf(ハフニウム)、Zr(ジルコニウム)、Si(シリコン)、およびMg(マグネシウム)から選ばれる少なくとも一つの元素をさらに含有することが好ましい。例えば、接合層5、7は、Agと、Cuと、Ti、Zr、およびHfから選ばれる少なくとも一つの元素と、を含んでいてもよい。」

「【0068】
次に、実施例1〜13および比較例1〜4に係る回路基板において、任意の金属板の接合強度、TCT特性を測定した。金属板の接合強度は、ピール強度で求めた。具体的には、金属板に1mm幅の金属端子を接合し、垂直方向に引っ張ってピール強度を測定した。
【0069】
TCTは、2種類の条件で行った。試験1は−40℃×30分保持→室温×10分保持→125℃×30分保持→室温×10分保持を1サイクルとし、3000サイクル後の回路基板の不具合の有無を測定した。試験2は−40℃×30分保持→室温×10分保持→250℃×30分保持→室温×10分保持を1サイクルとし、3000サイクル後の回路基板の不具合の有無を測定した。回路基板の不具合の有無は超音波探傷装置(Scanning Acoustic Tomograh:SAT)によりセラミックス基板と金属板の間のクラック発生面積を求めることにより評価した。クラック発生面積は指数イータとして評価した。イータは100%を「クラックなし」、0%を「全面的にクラック発生」とした。その結果を表5に示す。」

【表5】


4 甲第4号証
(1)甲第4号証には、以下の事項が記載されている。
「【0013】
本発明のセラミックス回路基板に使用されるセラミックス基板としては、特に限定されるものではなく、窒化ケイ素、窒化アルミニウムなどの窒化物系セラミックス、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウムなどの酸化物系セラミックス、炭化ケイ素等の炭化物系セラミックス、ほう化ランタン等のほう化物系セラミックス等で使用できる。但し、金属板を活性金属法でセラミックス基板に接合するため、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等の非酸化物系セラミックスが好適であり、更に、優れた熱伝導性の観点より窒化アルミニウム基板が好ましい。
【0014】
本発明のセラミックス基板の厚みは特に限定されないが、1.5mmを越えると熱抵抗が大きくなり、0.2mm未満では耐久性がなくなるため、0.2〜1.5mmが好ましい。
【0015】
本発明の金属板に使用する金属は、銅、アルミニウム、鉄、ニッケル、クロム、銀、モリブテン、コバルトの単体またはその合金など、活性金属法を適用できる金属であれば特に限定は無いが、特に導電性、放熱性の観点から銅が好ましい。
【0016】
本発明の銅板の純度は、90%以上であることが好ましく、純度が90%より低い場合、セラミックス基板と銅板を接合する際、銅板とろう材の反応が不十分となったり、銅板が硬くなり回路基板の信頼性が低下する場合がある。
【0017】
本発明の銅板の厚みは特に限定されないが、0.1〜1.5mmのものが一般的であり、特に、放熱性の観点から0.2mm以上が好ましく、耐熱サイクル特性の観点から0.5mm以下が好ましい。
【0018】
本発明のろう材は、ろう材中にチタン、ジルコニウム、ハフニウム、ニオブ、タンタル、バナジウムから選択される少なくとも一種の活性金属と錫を含有する銀−銅系ろう材で構成される。銀−銅系ろう材の組成比は、共晶組成を生成し易い組成比に設定することが好ましく、特に、回路銅板および放熱銅板からの銅の溶け込みを考慮した組成(銀粉末と銅粉末の合計100質量部において、銀粉末が75〜98質量部、銅粉末が2〜25質量部)が好適である。銀粉末の量が75〜98質量部以外の場合、ろう材の融解温度が上昇するため、接合時の熱膨張率差に由来する熱ストレスが増加し、耐熱サイクル性が低下し易い。
【0019】
本発明のろう材層には接合時のろう材の溶融温度を調整するために錫を0.1〜20質量部添加することが好ましい。0.1質量部未満ではその効果が無く、20質量部を越えると溶融温度が低くなりすぎ、接合時にろう材が流れ出すなどの不具合が生じてしまう。
【0020】
本発明のろう材の厚みは、乾燥基準で5〜40μm が好ましい。ろう材厚みが5μm未満では未反応の部分が生じる場合があり、一方、40μmを超えると、接合層を除去する時間が長くなり生産性が低下する場合がある。塗布方法は特に限定されず、基板表面に均一に塗布できるスクリーン印刷法、ロールコーター法等の公知の塗布方法を採用することができる。
【0021】
本発明に関わるセラミックス回路基板の接合温度は、真空度1×10−3Pa以下の真空炉で780℃〜850℃の温度であることが好ましく、より好ましくは800℃未満である。また、その保持時間は10〜60分であることが望ましい。接合温度がこれより低くかったり、保持時間を短くした場合、Ti化合物の生成が十分にできないために部分的に接合できない場合があるためであり、逆に高温であったり保持時間が長すぎる場合には、接合後のろう材層の厚み差が大きくなり過ぎ超音波接合によるクラックが発生し易い。」

「【0025】
[実施例1]
厚み0.635mmの窒化アルミニウム基板に、銀粉末(福田金属箔粉工業(株)製:AgC−BO)90質量部および銅粉末(福田金属箔粉工業(株)製:SRC−Cu−20)10質量部の合計100質量部に対して、チタン((株)大阪チタニウムテクノロジーズ製:TSH−350)を3.5質量部、錫(三津和薬品化学:すず粉末(−325mesh))を3質量部含む活性金属ろう材を乾燥後の厚さが15μmとなるように塗布した。その後、表面に回路形成用銅板(厚さ0.3mm)を裏面に放熱板形成用銅板(厚さ0.3mm)を重ね、真空雰囲気下(6.5×10−4Pa)、840℃で20分保持させることで銅板と窒化アルミニウム基板の接合体を製造した。
【0026】
接合した回路基板を塩化銅を含むエッチング液でエッチングして回路を形成した。さらに、ろう材層をフッ化アンモニウム/過酸化水素エッチング液でエッチングし、窒化アルミニウム回路基板を作製した。」

(2)引用発明4
甲第4号証において、ろう材のすべての成分の含有量が特定されているのは実施例及び比較例に限られるので、実施例1に着目すると、窒化アルミニウム回路基板に関して、甲第4号証には、次の発明(以下、「引用発明4」という。)が記載されていると認められる。
「窒化アルミニウム基板に、銀粉末90質量部および銅粉末10質量部の合計100質量部に対して、チタンを3.5質量部、錫を3質量部含む活性金属ろう材を塗布し、
表面に回路形成用銅板を重ね、真空雰囲気下、840℃で20分保持させることで銅板と窒化アルミニウム基板の接合体を製造し、
接合した回路基板をエッチングして回路を形成し、
ろう材層をエッチングした、
窒化アルミニウム回路基板。」

第5 当審の判断
1 理由1(新規性)及び理由2(進歩性)について
(1) 本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と引用発明1を対比する。
(ア)引用発明1の「活性金属ろう材を、窒化珪素焼結体に塗布し、乾燥後、回路パターン側に銅板を接触配置させ」「窒化珪素基板と銅板の接合体を製造し、パターン外の不要な銅板の除去を行」ったものは、「窒化珪素基板」の上に「活性金属ろう材」を介して「銅回路パターン」が設けられているといえる。
そして、「窒化珪素基板」はセラミック基板であるから、引用発明1の「窒化珪素基板と銅板の接合体を製造し、パターン外の不要な銅板の除去を行」ったものは、本件特許発明1の「セラミックス基板上に、ろう材層を介して回路パターンが設けられ」たものに相当する。

(イ)引用発明の「銅回路パターン間」の「外側に張り出したろう材層部」は、本件特許発明1の「回路パターンの外縁からはみ出したろう材層によ」る「はみ出し部」に相当する。

(ウ)引用発明1の「活性金属ろう材」は「Ag:70質量%、In:3質量%、Ti:1.5質量%、残部Cuからなる組成を有する」ことは、本件特許発明1の「ろう材層は、Ag、Cu及びTiと、SnまたはInとを含」むことに相当する。

(エ)本件特許発明1は「はみ出し部外縁から、セラミックス基板と回路パターンとの接合界面に沿い内側に向かってAgリッチ相が300μm以上連続して形成されており、接合ボイド率が1.0%以下である」のに対して、引用発明1はそのような特定がない点で相違する。

(オ)窒化珪素は窒化物系セラミックであるから、引用発明1の「窒化珪素回路基板」は、本件特許発明1の「セラミックス回路基板」に相当する。

したがって、本件特許発明1と引用発明1とは、次の一致点及び相違点を有する。
(一致点)
「セラミックス基板上に、ろう材層を介して回路パターンが設けられ、
回路パターンの外縁からはみ出したろう材層によりはみ出し部が形成されており、
ろう材層は、Ag、Cu及びTiと、SnまたはInとを含む、
セラミックス回路基板。」

(相違点1)
本件特許発明1は「はみ出し部外縁から、セラミックス基板と回路パターンとの接合界面に沿い内側に向かってAgリッチ相が300μm以上連続して形成されており、接合ボイド率が1.0%以下である」のに対して、引用発明1はそのような特定がない点。

イ 判断
(ア)新規性について(特許法第29条第1項第3号
本件特許発明1と引用発明1には、上記の通り相違点がある。
よって、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明でない。

(イ)進歩性について(特許法第29条第2項
上記相違点1について検討する。
甲第3号証には、セラミックス基板2と、金属板(表金属板)3と、はみ出し部6を有する接合層5とを具備する回路基板1において、−40℃×30分保持→室温×10分保持→250℃×30分保持→室温×10分保持を1サイクルとして、3000サイクル後にクラックが発生していないことが記載されているが(【0010】、【0069】、表5)、はみ出し部6の外縁から、セラミックス基板2と金属板(表金属板)3の接合界面に沿い内側に向かってAgリッチ相が300μm以上連続して形成されており、接合ボイド率が1.0%以下であることは記載されていない。
したがって、上記相違点1に係る構成は、引用発明1及び甲第3号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易になし得たこととはいえない。

よって、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。

ウ 特許異議申立人の主張について
(ア)特許異議申立人は「ここで、Ag及びCuを含むろう材を溶融させて凝固させた場合に、AgとCuが溶け分かれAgリッチ相とCuリッチ相が形成されることは、甲第2号証の図3に記載されたように周知の技術である。
さらに、甲1発明における加熱接合時の熱処理条件(真空中、750℃〜850℃、20分)は、甲第2号証における加熱接合時の熱処理条件(高真空雰囲気、800℃〜900℃、5〜30分)、及び本件特許発明における加熱接合時の熱処理条件(不活性雰囲気中、770℃〜900℃、10〜60分)と共通する。
これらのことから、甲1発明のろう材層においても、Cuリッチ相以外は、主にAgリッチ相であることは明らかである。
そして、甲第1号証におけるCu相等の面積や図1の記載から、甲1発明の張り出したろう材層部で、Agリッチ相が連続して形成されていることは明らかである。
甲1発明において、実施例1−2に記載されたように、張り出したろう材層部の長さが300μmの場合、その張り出したろう材層部では、Agリッチ相が300μm連続して形成されることになる。」と、主張している。(特許異議申立書第19頁)

(イ)上記主張について検討する。
まず、甲1発明において、張り出したろう材層部の長さが300μmの場合、その張り出したろう材層部では、Agリッチ相が300μm連続して形成されることになるとの主張は、甲1発明において、張り出したろう材層部のはみ出し部外縁から、セラミックス基板と回路パターンとの接合界面に沿い内側に向かってAgリッチ相が300μm以上連続して形成されていることを示すものではない。
さらに、甲1発明と、甲第2号証及び本件特許発明1は、加熱接合時の熱処理条件が共通であるとしているが、甲第2号証において、ろう材層内のAg成分とCu成分とが溶け分かれた組織とするための加熱処理条件は、820〜850℃程度の温度で 5〜10分程度であり(【0018】)、甲1発明における条件(750℃〜850℃、20分)と相違している。また、本件特許発明1は、ろう材が、Agを85.0〜95.0質量部、Cuを5.0〜13.0質量部(請求項5等)含有するのに対して、甲第1号証では、Agが70質量%、Cuが25.5質量%(【0023】)であり、本件特許発明1と甲1発明とは、ろう材のAgとCuの配合比が異なっている。そうすると、甲1発明のろう材層においても、甲第2号証や本件特許発明1と同様に、Cuリッチ相以外は主にAgリッチ相であることが明らかであるとまではいえない。

よって、特許異議申立人の上記主張を採用することができない。

(2)本件特許発明2ないし5について
本件特許発明2ないし5は、本件特許発明1に係る全ての構成を備え、さらに他の構成を付加したものであるから、本件特許発明1と同様な理由により、甲第1号証に記載された発明でない。また、甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。

(3)本件特許発明6ないし8について
甲第4号証(【0025】)に記載されているように、ろう材の原料に各成分の粉末を用いることは周知であるが、甲第4号証には、上記相違点1に係る構成である、はみ出し部外縁から、セラミックス基板と回路パターンとの接合界面に沿い内側に向かってAgリッチ相が300μm以上連続して形成されており、接合ボイド率が1.0%以下であることは記載されていない。
そうすると、本件特許発明1で検討したのと同様に、本件特許発明6ないし8は、甲第1号証に記載された発明、甲第3号証及び甲第4号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。

2 理由3(進歩性)ついて
(1) 本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と引用発明4を対比する。
(ア)引用発明4の「窒化アルミニウム基板に、」「活性金属ろう材を塗布し、表面に回路形成用銅板を重ね、」「銅板と窒化アルミニウム基板の接合体を製造し、接合した回路基板をエッチングして回路」を形成したものは、「窒化アルミニウム基板」の上に「活性金属ろう材」を介して「銅板」の「回路」が設けられているといえる。
そして、「窒化アルミニウム基板」はセラミック基板であるから、引用発明4の「銅板と窒化アルミニウム基板の接合体を製造し、接合した回路基板をエッチングして回路」を形成したものは、本件特許発明1の「セラミックス基板上に、ろう材層を介して回路パターンが設けられ」たものに相当する。

(イ)引用発明4は「接合した回路基板をエッチングして回路を形成し」た後、「ろう材層をエッチングし」ているが、ろう材層によりはみ出し部が形成されているか特定されていない。
そうすると、本件特許発明1は「回路パターンの外縁からはみ出したろう材層によりはみ出し部が形成されており、」「はみ出し部外縁から、セラミックス基板と回路パターンとの接合界面に沿い内側に向かってAgリッチ相が300μm以上連続して形成されており、接合ボイド率が1.0%以下である」のに対して、引用発明4はそのような特定がない点で相違する。

(ウ)引用発明4の「活性金属ろう材」は、「銀粉末90質量部および銅粉末10質量部の合計100質量部に対して、チタンを3.5質量部、錫を3質量部含む」ことは、本件特許発明1の「ろう材層は、Ag、Cu及びTiと、SnまたはInとを含」むことに相当する。

(エ)窒化アルミニウムは窒化物系セラミックであるから、引用発明4の「窒化アルミニウム回路基板」は、本件特許発明1の「セラミックス回路基板」に相当する。

したがって、本件特許発明1と引用発明4とは、次の一致点及び相違点を有する。
(一致点)
「セラミックス基板上に、ろう材層を介して回路パターンが設けられ、
ろう材層は、Ag、Cu及びTiと、SnまたはInとを含む、
セラミックス回路基板。」

(相違点2)
本件特許発明1は「回路パターンの外縁からはみ出したろう材層によりはみ出し部が形成されており、」「はみ出し部外縁から、セラミックス基板と回路パターンとの接合界面に沿い内側に向かってAgリッチ相が300μm以上連続して形成されており、接合ボイド率が1.0%以下である」のに対して、引用発明4はそのような特定がない点。

イ 判断
進歩性について(特許法第29条第2項
上記相違点2について検討する。
ろう材層にはみ出し部を設けることは、甲第1号証に記載されているように周知であるが、はみ出し部外縁から、セラミックス基板と回路パターンとの接合界面に沿い内側に向かってAgリッチ相が300μm以上連続して形成されており、接合ボイド率が1.0%以下であることは周知とはいえず、また、甲第1号証に記載されたものでもない。
したがって、上記相違点2に係る構成は、引用発明4及び甲第1号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易になし得たこととはいえない。

よって、本件特許発明1は、甲第4号証に記載された発明及び甲第1号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。

ウ 特許異議申立人の主張について
(ア)特許異議申立人は、甲4発明に係るセラミック回路基板の製造条件は、本件特許発明5及びその他の製造条件と同じであるから、甲4発明において、ろう材層にはみ出し部を設けた場合に、はみ出し部外縁から、セラミックス基板と回路パターンとの接合界面に沿い内側に向かってAgリッチ相が300μm以上連続して形成されており、接合ボイド率が1.0%以下であることは明らかな旨を主張している。(特許異議申立書第25−26頁)

(イ)上記主張について検討する。
まず、甲第4号証には、「銀−銅系ろう材の組成比は、共晶組成を生成し易い組成比に設定することが好ましく、特に、回路銅板および放熱銅板からの銅の溶け込みを考慮した組成(銀粉末と銅粉末の合計100質量部において、銀粉末が75〜98質量部、銅粉末が2〜25質量部)が好適である。」(【0018】)と記載されているので、銅板と窒化アルミニウム基板の接合後には、銀−銅系ろう材は銀と銅の共晶組織である蓋然性が高く、Agリッチ相が300μm以上連続して形成されていることが明らかとはいえない。

次に、甲第4号証に記載された窒化アルミニウム回路基板の製造条件を検討する。
甲第4号証において、ろう材のすべての成分の含有量が特定されている記載は、実施例と比較例であるので、ここでは代表して実施例1に着目すると製造条件は、引用発明4において「窒化アルミニウム基板に、銀粉末90質量部および銅粉末10質量部の合計100質量部に対して、チタンを3.5質量部、錫を3質量部含む活性金属ろう材を塗布し、表面に回路形成用銅板を重ね、真空雰囲気下、840℃で20分保持させることで銅板と窒化アルミニウム基板の接合体を製造し、」と特定したとおりである。
ここで、引用発明4は「窒化アルミニウム基板に、銀粉末90質量部および銅粉末10質量部の合計100質量部に対して、チタンを3.5質量部、錫を3質量部含む」のであるから、本件特許のように、Ag、Cu及び、SnまたはInの合計を100質量部とすると、引用発明4は、銀、銅及び錫の合計100質量部に対して、銀粉末が87.4質量部、銅粉末が9.7質量部、錫が2.9質量部となる。
そして、本件特許の実施例及び比較例において引用発明4の上記配合比に近いのは、Sn又はInが2質量部以下の実施例ではなく、むしろSnが3質量部の比較例2であり、当該比較例2は表4によると、Agリッチ相の連続性が不良となっている。
そうすると、甲4発明において、例え、ろう材層にはみ出し部を設けたとしても、はみ出し部外縁から、セラミックス基板と回路パターンとの接合界面に沿い内側に向かってAgリッチ相が300μm以上連続して形成されていることが明らかであるとはいえない。

よって、特許異議申立人の主張を採用することができない。

(2)本件特許発明2ないし8について
本件特許発明2ないし8は、本件特許発明1に係る全ての構成を備え、さらに他の構成を付加したものであるから、本件特許発明1と同様な理由により、甲第4号証に記載された発明及び甲第1号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。

3 まとめ
以上のとおりであるから、本件特許発明1ないし8は、いずれも、特許法第29条第1項及び特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるということができず、同法第113条第2号により取り消すことができない。

第6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし8に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2022-09-30 
出願番号 P2019-532831
審決分類 P 1 651・ 113- Y (H05K)
P 1 651・ 121- Y (H05K)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 井上 信一
特許庁審判官 須原 宏光
山本 章裕
登録日 2022-01-17 
登録番号 7010950
権利者 デンカ株式会社
発明の名称 セラミックス回路基板及びその製造方法  
代理人 園田・小林弁理士法人  

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