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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A63F
審判 全部申し立て 特174条1項  A63F
管理番号 1390601
総通号数 11 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-11-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-07-07 
確定日 2022-10-17 
異議申立件数
事件の表示 特許第7012477号発明「遊技機」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7012477号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第7012477号(以下「本件特許」という。)の請求項1に係る特許についての出願は、平成29年7月21日に出願した特願2017−142039号であって、令和2年6月4日付けで拒絶の理由が通知され、同年8月4日に意見書及び手続補正書が提出されたところ、同年12月9日付けで拒絶査定がなされ、それに対して、令和3年3月11日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正書が提出され、これに対し、当審において、同年8月31日付けで拒絶の理由が通知され、同年11月2日に意見書及び手続補正書が提出され、同年12月21日付けで特許すべきものとする審決がなされ、令和4年1月20日にその特許権の設定登録がされ、同年同月28日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、同年7月7日に特許異議申立人日本電動式遊技機特許株式会社(以下「申立人」という。)は、特許異議の申立てを行った。

第2 本件発明
本件特許の請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)は、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである(A〜Gは、合議体が付した。以下、符号A等を付した事項を構成A等という。以下同様。)。
「【請求項1】
A 遊技用価値を用いて遊技を行うことが可能な遊技機であって、
B 表示手段と、
C 発光手段と、
D 通常状態よりも遊技用価値が付与される割合が高い有利状態において、少なくとも前記表示手段と前記発光手段とを用いた特定演出を実行可能な特定演出実行手段と、を備え、
E 前記表示手段は、
E1 前記有利状態の最後の遊技が終了したときに、当該有利状態が終了したことを示唆する終了画像を表示可能であり、
E2 前記終了画像が表示される終了画像表示期間において、遊技者に所定の注意を喚起する注意喚起画像を表示可能であり、
F 前記発光手段は、
F1 前記終了画像表示期間のうちの前記注意喚起画像が表示されていない期間中に点灯可能である一方で、
F2 前記終了画像表示期間のうちの前記注意喚起画像が表示されている期間中に消灯を維持する、
G 遊技機。」

第3 申立理由の概要
申立人は、特許異議申立書において、証拠方法として甲第1号証〜甲第4号証を提出し、本件特許に対し次の理由を申し立てている。

1 理由1
本件特許は、令和3年3月11日付け手続補正書でした補正及び令和3年11月2日付け手続補正書でした補正が願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものである。
したがって、本件特許は、特許法第113条第1号に該当し、取り消されるべきものである。

2 理由2
令和3年3月11日付け手続補正書でした補正により補正された請求項1に係る発明及び本件発明(令和3年11月2日付け手続補正書でした補正により補正された請求項1に係る発明)は、発明の詳細な説明に記載されたものでないから、特許法第36条第6項第1号に適合しない発明である。
したがって、本件特許は、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

<証拠方法>
甲第1号証:特許第7012477号公報
甲第2号証:特開2019−17947号公報
甲第3号証:令和3年3月11日付け手続補正書
甲第4号証:令和3年11月2日付け手続補正書

第4 判断
1 理由1について
(1) 令和3年3月11日付け手続補正書でした補正
ア 補正内容及び申立人の主張
(ア) 令和3年3月11日付け手続補正書でした補正により、令和2年8月4日付け手続補正書により補正された請求項1の
「遊技を行うことが可能な遊技機であって、
表示手段と、
発光手段と、
遊技者にとって有利な有利状態において、少なくとも前記表示手段と前記発光手段とを用いた特定演出を実行可能な特定演出実行手段と、を備え、前記表示手段は、
前記有利状態が終了するときに所定画像を表示可能であり、
前記所定画像が表示される所定期間において特定情報を報知する報知画像を表示可能であり、
前記発光手段は、前記所定期間のうちの前記報知画像が表示されていない期間中に点灯可能である一方で、前記所定期間のうちの前記報知画像が表示されている期間中に消灯を維持する、」が、
「A 遊技用価値を用いて遊技を行うことが可能な遊技機であって、
B 表示手段と、
C 発光手段と、
D 通常状態よりも遊技用価値が付与される割合が高い有利状態において、少なくとも前記表示手段と前記発光手段とを用いた特定演出を実行可能な特定演出実行手段と、を備え、
E 前記表示手段は、
E1’ 前記有利状態が終了するときに、当該有利状態が終了することを示唆する示唆画像を表示可能であり、
E2’ 前記示唆画像が表示される所定期間において特定情報を報知する報知画像を表示可能であり、
F 前記発光手段は、
F1’ 前記所定期間のうちの前記報知画像が表示されていない期間中に点灯可能である一方で、
F2’ 前記所定期間のうちの前記報知画像が表示されている期間中に消灯を維持する、」に変更された(下線は補正箇所を示す。)。

(イ) 申立人は、異議申立書において「前記発光手段は、前記所定期間のうちの前記報知画像が表示されていない期間中に点灯可能である一方で、」(構成F、F1’)という構成は、新規事項を含んでいる旨主張している。

イ 当初明細書等に記載された事項
本件特許の当初明細書等には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は合議体が付した。)。

「【0023】
有利状態は、たとえば、スロットマシンにおいては、小役の当選確率が向上するボーナス(ビッグボーナス、BBとも称する)、あるいは、遊技者にとって有利な操作手順を報知してナビが行われるATなどである。また、パチンコ遊技機においては、遊技者にとって有利なラウンド遊技を所定回数実行可能となる大当り遊技状態である。以下、簡単のために、これらの有利状態を単に“大当り”、あるいは“大当り遊技状態”とも称する。」

「【0026】
[報知画像]
図2(B)の(a)〜(d)に示す報知画像の例を説明する。報知画像とは、遊技者に対して各種の注意喚起を行うための情報を報知する画像である。
・・・
【0029】
(c) 取り忘れ防止画像
取り忘れ防止画像は、遊技に使用可能な遊技球などの遊技用価値の大きさを特定可能な情報として残高情報等が記録された遊技用記録媒体としてのプリペイドカード等の取り忘れに関するカード取り忘れ防止の表示としての画像である。取り忘れ防止画像は、「プリペイドカードの取り忘れや盗難にご注意ください。」という文字およびカードの排出を示す画像を含む。なお、カードではなく遊技に使用可能な遊技用価値の大きさを特定可能な情報として残高情報などが記録された遊技用記録媒体としてのコインなどの別の形状のものを対象とする取り忘れ防止画像を採用してもよい。」

「【0042】
[大当り遊技演出期間において実行される特定演出]
図3(B)を用いて、大当り遊技演出期間において実行される特定演出を説明する。図3(B)において、大当り遊技演出期間はt1〜t5である。大当り遊技演出期間の開始条件は、変動表示の結果が特定図柄となったことである。大当り遊技演出期間の終了条件は、大当り遊技状態の終了である。ただし、大当り遊技状態の終了から所定の変動休止期間を経て次の変動表示が開始可能となるような遊技機であれば、大当り遊技演出期間は大当り遊技状態の終了後、変動休止期間が経過するまで継続する。すなわち、この場合の大当り遊技演出期間の終了条件は、変動休止期間の経過である。
【0043】
図3(B)は、このように変動休止期間を経て大当り遊技演出期間が終了するケースを説明している。すなわち、t1で変動表示の結果が特定図柄となり、大当り遊技演出期間が開始する。その後、t3で大当り遊技状態が終了して変動休止期間に移行し、t5で変動休止期間が終了し、これを以て、t1から開始した大当り遊技演出期間が終了する。変動休止期間では、図3(B)に示すとおり、初めに大当り終了画面が表示され、続いてt4のタイミングでメーカーロゴの表示画面に切り替わる。
【0044】
図3(B)のt1以前は、図柄の変動表示が実行される。このとき、液晶表示器51には、たとえば、変動中の図柄などが表示される(図示省略)。また、LED52は、通常時発光パターン(たとえば、特定色での点滅)で発光する。また、スピーカ53,54からは通常時演出音(たとえば、変動中に出力されるBGM)が出力される。
【0045】
t1において、液晶表示器51には、大当りが開始したことを報知する大当り開始画面が表示される。さらに、大当り開始画面の下方には、取り忘れ防止画像およびのめりこみ防止画像が併せて表示される。大当り開始画面の表示開始タイミングと取り忘れ防止画像およびのめりこみ防止画像の表示開始タイミングとは同じであってもよく、後者が前者に遅れて表示されるものであってもよい。いずれにしても、取り忘れ防止画像およびのめりこみ防止画像が表示されている間は、LED52は、消灯した状態を継続する。また、スピーカ53,54は音が出力されない状態を継続する。
【0046】
大当り開始画面の表示から10秒経過したt2において、大当り遊技状態に移行する。このとき、液晶表示器51には、大当り遊技に移行したことを示す大当り遊技中画面が表示される。また、LED52は、大当り中発光パターンで発光する。本実施の形態においては、大当たり発光パターンとして、黄色、緑色、および赤色の順で発光色を変化させて、これを繰り返す。また、スピーカ53,54からは大当り中演出音(たとえば、楽曲)が出力される。
【0047】
大当り遊技状態が終了したt3において、液晶表示器51には、大当り遊技が終了したことを示す大当り終了画面が表示される。さらに、大当り終了画面の下方には、大当り開始画面の表示時と同様に、取り忘れ防止画像およびのめりこみ防止画像が表示される。大当り終了画面の表示開始タイミングと取り忘れ防止画像およびのめりこみ防止画像の表示開始タイミングとは同じであってもよく、後者が前者に遅れて表示されるものであってもよい。いずれにしても、取り忘れ防止画像およびのめりこみ防止画像が表示されている間は、LED52は、消灯した状態を継続する。また、スピーカ53,54は、音が出力されない状態を継続する。
【0048】
大当り遊技状態が終了したt3からは図柄の変動表示が実行されない変動休止期間に突入する。この間は、スロットマシンであれば、仮に、スタートボタンを押してもリールは回転開始しない。また、パチンコ遊技機であれば、仮に、図柄を変動表示させるために必要な保留記憶が存在していたとしても、図柄は変動表示しない。変動休止期間はt3〜t5まで継続する。変動休止期間のうち、大当り終了画面の表示から10秒経過したt4において、液晶表示器51の画面の中央部には、メーカーロゴ画像が表示される。その後、メーカーロゴ画像は、変動休止期間が終了するt5まで表示される。メーカーロゴ画像は、企業色(本実施の形態においては、青色)で表示される。また、メーカーロゴ画像の下方には、のめりこみ防止画像が表示される。また、メーカーロゴ画像が表示されている間は、LED52は、企業色と同じ青色で点灯し、その状態を継続する。また、スピーカ53,54は、音が出力されない状態を継続する。
【0049】
このように、大当り遊技中画面が表示されているt2〜t3の期間においては、LED52は黄色、緑色、および赤色によって発光色が変化するのに対して、メーカーロゴ画像が表示されているt4〜t5の期間においては、LED52は青色で発光し、前者よりも後者の方が目立たない一定の発光態様で発光する。
【0050】
また、メーカーロゴ画像が表示されているt4〜t5の期間において、LED52は、企業色である青色で発光する。これに対して、大当り遊技中画面が表示されているt2〜t3の期間において、LED52は、黄色、緑色、および赤色によって発光色が変化する。すなわち、後者において、LED52は、企業色とは異なる黄色、緑色、および赤色を用いて発光する。
【0051】
メーカーロゴ画像およびのめりこみ防止画像の表示から2秒経過したt5において、変動休止期間が終了し、そのタイミングでこれらの報知画像の表示を終了する。報知画像の表示終了により、大当り遊技演出期間における特定演出は終了する。
【0052】
t5以降の液晶表示器51の表示、LED52の発光態様、スピーカ53,54の音の出力態様は、t1以前のものと同様であり、新たな変動表示が開始すればそれに応じた演出がそれぞれによって行われる。」

「【図3】



ウ 判断
(ア) 上記イの【0047】(以下、段落番号及び図面番号は、全て上記イの記載に基づくものとする。)等に記載された「液晶表示器51」、「大当り遊技状態」は、それぞれ補正後の請求項1の「表示手段」、「有利状態」に相当する。
そして、【0047】に記載された「大当り遊技状態が終了したt3において、液晶表示器51に」「表示され」る「大当り遊技が終了したことを示す大当り終了画面」は、補正後の請求項1の「有利状態が終了することを示唆する示唆画像」に相当する。
また、【0048】に記載された「メーカーロゴ画像」は、「大当り遊技状態が終了し」て「突入する」「変動休止期間」中である「t4」から「変動休止期間が終了するt5まで表示され」るものであり、その表示が終了する「t5以降、新たな変動表示が開始」(【0052】)することからみて、「メーカーロゴ画像」も、補正後の請求項1の「有利状態が終了することを示唆する示唆画像」に相当するといえる。
そうすると、「大当り終了画面」が表示され、続いて「メーカーロゴ画像」が表示される期間である「t3〜t5」が、補正後の請求項1の「前記示唆画像が表示される所定期間」に相当する。
以上のことから、当初明細書等には、「前記表示手段は、前記有利状態が終了するときに、当該有利状態が終了することを示唆する示唆画像を表示可能であ」ること(構成E、E1’)が記載されていたものと認められる。

(イ) 図3(B)の記載、【0047】の記載からみて、当初明細書等には、t3〜t4の期間は、「液晶表示器51には」、「取り忘れ防止画像およびのめりこみ防止画像が表示され」、「取り忘れ防止画像およびのめりこみ防止画像が表示されている間は、LED52は、消灯した状態を継続する」ことが記載されていると認められる。
そして、図3(B)の記載、【0048】の記載からみて、当初明細書等には、t4〜t5の期間は、「液晶表示器51」には、「のめりこみ防止画像が表示され」、「LED52は、企業色と同じ青色で点灯し、その状態を継続する」ことが記載されていると認められる。
つまり、当初明細書等には、「液晶表示器51」に、「のめりこみ防止画像」のみ「が表示され」ている、すなわち、「取り忘れ防止画像」が表示されていないt4〜t5の期間は、「LED52は、企業色と同じ青色で点灯し、その状態を継続」し、「液晶表示器51に」、「取り忘れ防止画像」「が表示され」ているt3〜t4の期間は、「LED52は、消灯した状態を継続する」ことが記載されている。
ここで、【0026】、【0029】の記載から、「取り忘れ防止画像」は、「遊技者に対して各種の注意喚起を行うための情報を報知する画像である」「報知画像」であるから、補正後の請求項1の「特定情報を報知する報知画像」に相当する。
そして、「取り忘れ防止画像」は、t3〜t5の期間のうちのt3〜t4の期間に表示されるものであるから、t3〜t5の期間において表示可能であるといえる。
以上のことから、当初明細書等には、「前記表示手段は」、「前記示唆画像が表示される所定期間において特定情報を報知する報知画像を表示可能であ」ること(構成E、E2’)が記載されていたものと認められる。

(ウ) 上記(イ)における検討を踏まえると、「「取り忘れ防止画像」が表示されていないt4〜t5の期間」、「LED52は、企業色と同じ青色で点灯し、その状態を継続」すること、「「取り忘れ防止画像」「が表示され」ているt3〜t4の期間」、「LED52は、消灯した状態を継続する」ことは、それぞれ補正後の請求項1の「前記所定期間のうちの前記報知画像が表示されていない期間中」、「発光手段は」「点灯可能である」こと、「前記所定期間のうちの前記報知画像が表示されている期間中」、「発光手段は」「消灯を維持する」ことに相当する。
以上のことから、当初明細書等には、「前記発光手段は、前記所定期間のうちの前記報知画像が表示されていない期間中に点灯可能である一方で、前記所定期間のうちの前記報知画像が表示されている期間中に消灯を維持する」こと(構成F、F1’、F2’)が記載されていたものと認められる。

(エ) 申立人は、異議申立書の(4)(4−1)ウ(イ)において、
「(イ)一方で、上記2回目の補正により、本件特許発明のE,E1,E2に相当する構成は、「前記表示手段は、前記有利状態が終了するときに、当該有利状態が終了することを示唆する示唆画像を表示可能であり、前記示唆画像が表示される所定期間において特定情報を報知する報知画像を表示可能であり、」と変更された。
・・・
上記段落0047の記載を読み合わせると、「有利状態が終了することを示唆する示唆画像」は、「大当り遊技が終了したことを示す大当り終了画面」に相当する。また、以下の図3(B)に示すように、「前記示唆画像が表示される所定期間」は、大当り終了画面が表示される(t3〜t4)の期間に相当する。よって、上記2回目の補正により、この「所定期間」が示す期間が、それまでの(t3〜t5)の期間から(t3〜t4)の期間に限定的に限縮された。」と主張する。
しかしながら、上記(ア)において検討したように、(t4〜t5)の期間に表示される「メーカーロゴ画像」は、「大当り遊技状態が終了し」て「新たな変動表示が開始」されるまで表示されるものであり、この画像に接した遊技者は大当り遊技状態が終了することを認識できる画像といえる。
したがって、「メーカーロゴ画像」も「有利状態が終了することを示唆する示唆画像」に相当するものである。
そうすると、補正前と変わらず(t3〜t5)の期間が「所定期間」に相当するといえるから、申立人の主張は採用できない。

(オ) よって、令和3年3月11日付け手続補正書により補正された請求項1の「前記表示手段は、前記有利状態が終了するときに、当該有利状態が終了することを示唆する示唆画像を表示可能であり、前記示唆画像が表示される所定期間において特定情報を報知する報知画像を表示可能であり、前記発光手段は、前記所定期間のうちの前記報知画像が表示されていない期間中に点灯可能である一方で、前記所定期間のうちの前記報知画像が表示されている期間中に消灯を維持する」ことは、当初明細書等に記載されていたものであるから、上記事項を特定する令和3年3月11日付け手続補正書でした補正は、当初明細書等に記載された事項を総合することにより導かれる事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではなく、新規事項を追加するものではない。

(2) 令和3年11月2日付け手続補正書でした補正
ア 補正内容及び申立人の主張
(ア) 令和3年11月2日付け手続補正書でした補正により、令和3年3月11日付け手続補正書により補正された請求項1の
「遊技用価値を用いて遊技を行うことが可能な遊技機であって、
表示手段と、
発光手段と、
通常状態よりも遊技用価値が付与される割合が高い有利状態において、少なくとも前記表示手段と前記発光手段とを用いた特定演出を実行可能な特定演出実行手段と、を備え、
前記表示手段は、
前記有利状態が終了するときに、当該有利状態が終了することを示唆する示唆画像を表示可能であり、
前記示唆画像が表示される所定期間において特定情報を報知する報知画像を表示可能であり、
前記発光手段は、
前記所定期間のうちの前記報知画像が表示されていない期間中に点灯可能である一方で、
前記所定期間のうちの前記報知画像が表示されている期間中に消灯を維持する、」が、
「A 遊技用価値を用いて遊技を行うことが可能な遊技機であって、
B 表示手段と、
C 発光手段と、
D 通常状態よりも遊技用価値が付与される割合が高い有利状態において、少なくとも前記
表示手段と前記発光手段とを用いた特定演出を実行可能な特定演出実行手段と、を備え、
E 前記表示手段は、
E1 前記有利状態の最後の遊技が終了したときに、当該有利状態が終了したことを示唆する終了画像を表示可能であり、
E2 前記終了画像が表示される終了画像表示期間において、遊技者に所定の注意を喚起する注意喚起画像を表示可能であり、
F 前記発光手段は、
F1 前記終了画像表示期間のうちの前記注意喚起画像が表示されていない期間中に点灯可能である一方で、
F2 前記終了画像表示期間のうちの前記注意喚起画像が表示されている期間中に消灯を維持する、」に変更された(下線は補正箇所を示す。)。

(イ) 申立人は、異議申立書において「前記発光手段は、前記終了画像表示期間のうちの前記注意喚起画像が表示されていない期間中に点灯可能である一方で、」(構成F、F1)という構成は、新規事項を含んでいる旨主張している。

イ 当初明細書等に記載された事項
上記(1)イに記載のとおりである。

ウ 判断
(ア) 【0047】等に記載された「液晶表示器51」、「大当り遊技状態」は、それぞれ補正後の請求項1の「表示手段」、「有利状態」に相当する。
また、【0023】の記載より、「大当り遊技状態」は「遊技者にとって有利なラウンド遊技を所定回数実行可能」とするものであるから、【0047】に記載された「大当り遊技状態が終了した」ときは、「所定回数実行可能」な「ラウンド遊技」のうち、最後の「ラウンド遊技」が終了したときといえる。
そして、【0047】に記載された「大当り遊技状態が終了したt3において、液晶表示器51に」「表示され」る「大当り遊技が終了したことを示す大当り終了画面」は、補正後の請求項1の「有利状態が終了したことを示唆する終了画像」に相当する。
また、【0048】に記載された「メーカーロゴ画像」は、「大当り遊技状態が終了し」て「突入する」「変動休止期間」中である「t4」から「変動休止期間が終了するt5まで表示され」るものであり、その表示が終了する「t5以降、新たな変動表示が開始」(【0052】)することからみて、「メーカーロゴ画像」も、補正後の請求項1の「有利状態が終了したことを示唆する終了画像」に相当するといえる。
そうすると、「大当り終了画面」が表示され、続いて「メーカーロゴ画像」が表示される期間である「t3〜t5」が、補正後の請求項1の「前記終了画像が表示される終了画像表示期間」に相当する。
以上のことから、当初明細書等には、「前記表示手段は、前記有利状態の最後の遊技が終了したときに、当該有利状態が終了したことを示唆する終了画像を表示可能であ」ること(構成E、E1)が記載されていたものと認められる。

(イ) 図3(B)の記載、【0047】の記載からみて、当初明細書等には、t3〜t4の期間は、「液晶表示器51には」、「取り忘れ防止画像およびのめりこみ防止画像が表示され」、「取り忘れ防止画像およびのめりこみ防止画像が表示されている間は、LED52は、消灯した状態を継続する」ことが記載されていると認められる。
そして、図3(B)の記載、【0048】の記載からみて、当初明細書等には、t4〜t5の期間は、「液晶表示器51」には、「のめりこみ防止画像が表示され」、「LED52は、企業色と同じ青色で点灯し、その状態を継続する」ことが記載されていると認められる。
つまり、当初明細書等には、「液晶表示器51」に、「のめりこみ防止画像」のみ「が表示され」ている、すなわち、「取り忘れ防止画像」が表示されていないt4〜t5の期間は、「LED52は、企業色と同じ青色で点灯し、その状態を継続」し、「液晶表示器51に」、「取り忘れ防止画像」「が表示され」ているt3〜t4の期間は、「LED52は、消灯した状態を継続する」ことが記載されている。
ここで、【0026】、【0029】の記載から、「取り忘れ防止画像」は、「遊技者に対して各種の注意喚起を行うための情報を報知する画像である」から、補正後の請求項1の「遊技者に所定の注意を喚起する注意喚起画像」に相当する。
そして、「取り忘れ防止画像」は、t3〜t5の期間のうちのt3〜t4の期間に表示されるものであるから、t3〜t5の期間において表示可能であるといえる。
また、上記(ア)より、「t3〜t5」が、補正後の請求項1の「前記終了画像が表示される終了画像表示期間」に相当する。
以上のことから、当初明細書等には、「前記表示手段は」、「前記終了画像が表示される終了画像表示期間において、遊技者に所定の注意を喚起する注意喚起画像を表示可能であ」ること(構成E、E2)が記載されていたものと認められる。

(ウ) 上記(イ)における検討を踏まえると、「「取り忘れ防止画像」が表示されていないt4〜t5の期間」、「LED52は、企業色と同じ青色で点灯し、その状態を継続」すること、「「取り忘れ防止画像」「が表示され」ているt3〜t4の期間」、「LED52は、消灯した状態を継続する」ことは、それぞれ補正後の請求項1の「前記終了画像表示期間のうちの前記注意喚起画像が表示されていない期間中」、「発光手段は」「点灯可能である」こと、「前記終了画像表示期間のうちの前記注意喚起画像が表示されている期間中」、「発光手段は」「消灯を維持する」ことに相当する。
以上のことから、当初明細書等には、「前記発光手段は、前記終了画像表示期間のうちの前記注意喚起画像が表示されていない期間中に点灯可能である一方で、前記終了画像表示期間のうちの前記注意喚起画像が表示されている期間中に消灯を維持する」こと(構成F、F1、F2)が記載されていたものと認められる。

(エ) 申立人は、異議申立書の(4)(4−1)ウ(ウ)において、
「(ウ)なお、上記3回目の補正により、本件特許発明のE,E1,E2,F,F1,F2に相当する構成は、「前記有利状態の最後の遊技が終了したときに、当該有利状態が終了したことを示唆する終了画像を表示可能であり、前記終了画像が表示される終了画像表示期間において、遊技者に所定の注意を喚起する注意喚起画像を表示可能であり、前記発光手段は、前記終了画像表示期間のうちの前記注意喚起画像が表示されていない期間中に点灯可能である一方で、前記終了画像表示期間のうちの前記注意喚起画像が表示されている期間中に消灯を維持する」と変更された。
しかしながら、「終了画像」は上記「大当り終了画面」に相当し、「終了画面表示期間」は上記図3(B)に示した(t3〜t4)の期間に相当し、「注意喚起画像」は「取り忘れ防止画像およびのめりこみ防止画像」に相当するため、「前記発光手段は、前記終了画像表示期間のうちの前記注意喚起画像が表示されていない期間中に点灯可能である一方で、」という構成は、依然として新規事項を追加したものとなっている。」と主張する。
しかしながら、上記(ア)において検討したように、「メーカーロゴ画像」も「有利状態が終了したことを示唆する終了画像」に相当するから、(t3〜t5)の期間が「所定期間」に相当するものであり、上記(1)ウ(エ)と同様に、申立人の主張は採用できない。

(オ) よって、令和3年11月2日付け手続補正書により補正された請求項1の「前記表示手段は、前記有利状態の最後の遊技が終了したときに、当該有利状態が終了したことを示唆する終了画像を表示可能であり、前記終了画像が表示される終了画像表示期間において、遊技者に所定の注意を喚起する注意喚起画像を表示可能であり、前記発光手段は、前記終了画像表示期間のうちの前記注意喚起画像が表示されていない期間中に点灯可能である一方で、前記終了画像表示期間のうちの前記注意喚起画像が表示されている期間中に消灯を維持する」ことは、当初明細書等に記載されていたものであるから、上記事項を特定する令和3年11月2日付け手続補正書でした補正は、当初明細書等に記載された事項を総合することにより導かれる事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではなく、新規事項を追加するものではない。

(3) まとめ
以上のことから、令和3年3月11日付け手続補正書でした補正及び令和3年11月2日付け手続補正書でした補正は当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり、本件特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものではない。
したがって、本件特許は、特許法第113条第1号に該当しないから、取り消されるべきものではない。

2 理由2について
(1) 令和3年3月11日付け手続補正書でした補正により補正された請求項1に係る発明
上記1(1)イに摘記した当初明細書等の記載事項は、その後、補正されていない。
そうすると、上記1(1)において検討したとおり、令和3年3月11日付け手続補正書でした補正は当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであることを考慮すれば、令和3年3月11日付け手続補正書でした補正により補正された請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものであり、サポート要件を満たすといえるから、特許法第36条第6項第1号に適合する。
したがって、本件特許は、特許法第113条第4号に該当しないから、取り消されるべきものではない。

(2) 本件発明(令和3年11月2日付け手続補正書でした補正により補正された請求項1に係る発明)
同様に、上記1(2)において検討したとおり、令和3年11月2日付け手続補正書でした補正は当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであることを考慮すれば、令和3年11月2日付け手続補正書でした補正により補正された請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものであり、サポート要件を満たすといえるから、特許法第36条第6項第1号に適合する。
したがって、本件特許は、特許法第113条第4号に該当しないから、取り消されるべきものではない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠方法によっては、請求項1に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2022-10-05 
出願番号 P2017-142039
審決分類 P 1 651・ 55- Y (A63F)
P 1 651・ 537- Y (A63F)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 藤田 年彦
特許庁審判官 北川 創
蔵野 いづみ
登録日 2022-01-20 
登録番号 7012477
権利者 株式会社三共
発明の名称 遊技機  
代理人 弁理士法人武和国際特許事務所  
代理人 弁理士法人深見特許事務所  

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