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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G01N
審判 全部申し立て 2項進歩性  G01N
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  G01N
管理番号 1390606
総通号数 11 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-11-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-07-13 
確定日 2022-11-07 
異議申立件数
事件の表示 特許第6997362号発明「食用油の劣化度判定装置、食用油の劣化度判定システム、食用油の劣化度判定方法、食用油の劣化度判定プログラム、食用油の劣化度学習装置、食用油の劣化度判定に用いられる学習済モデル、及び食用油の交換システム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6997362号の請求項1ないし19に係る特許を維持する。 
理由 第1.手続の経緯
特許第6997362号の請求項1−19に係る特許についての出願は、令和3年3月16日(優先権主張 令和2年3月31日)を国際出願日として出願され、同年12月20日に特許権の設定登録がされ、令和4年1月17日に特許掲載公報が発行された。
その後、前記請求項1−19に係る特許に対し、令和4年7月13日に特許異議申立人 中野圭二(以下「申立人」という。)は、本件特許異議の申立て(以下「本件申立」という。)を行った。

第2.本件特許発明
特許第6997362号の請求項1−19に係る特許についての発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」〜「本件特許発明19」という。)は、それぞれ、特許掲載公報の特許請求の範囲の請求項1−19に記載された事項により特定される次のとおりのものである。ここで、後の便宜のため当審にて各構成単位冒頭に「1A」などの分説番号を付与し、以下、前記各構成単位について前記分説番号を用い「構成1A」などという(以下同様。)。

「 【請求項1】
1A 揚げ物を調理する揚げ調理に用いられる食用油の劣化度を判定する食用油の劣化度判定装置であって、
1B 前記揚げ調理中の前記食用油の表面の画像である油表面画像から前記揚げ調理に応じて発生する気泡の部分の画像である気泡画像を抽出する気泡画像抽出部と、
1C 前記気泡画像抽出部にて抽出された前記気泡画像から前記食用油の劣化を特徴づけるパラメータであって、前記油表面画像の全体の面積に対する前記気泡画像の面積率、前記油表面画像の全体の面積に対する前記気泡画像の面積率の累積値、気泡の個数、気泡の消滅速度、気泡の流れの有無、および前記食用油の色と前記揚げ物の領域の色との差から選ばれる1又は2以上を含む特徴パラメータを算出する特徴パラメータ算出部と、
1D 前記特徴パラメータ算出部にて算出された前記特徴パラメータに基づいて、前記食用油の劣化指標を推定する劣化指標推定部と、
1E 前記劣化指標推定部にて推定された劣化指標に基づいて、前記食用油の劣化度を判定する劣化度判定部と、を含む
ことを特徴とする
1F 食用油の劣化度判定装置。
【請求項2】
2A 揚げ物を調理する揚げ調理に用いられる食用油の劣化度を判定する食用油の劣化度判定装置であって、
2B 前記揚げ調理中の前記食用油の表面の画像である油表面画像から前記揚げ調理に応じて発生する気泡の部分の画像である気泡画像を抽出する気泡画像抽出部と、
2G 前記気泡画像抽出部にて抽出された前記気泡画像に含まれる各気泡の大きさを算出する気泡寸法算出部と、
2H 前記気泡寸法算出部にて算出された各気泡の大きさに基づいて、前記食用油の劣化を特徴づける所定の気泡の領域である特徴領域を特定する特徴領域特定部と、
2I 前記特徴領域特定部にて特定された前記特徴領域において前記食用油の劣化を特徴づけるパラメータである特徴パラメータを算出する特徴パラメータ算出部と、
2D 前記特徴パラメータ算出部にて算出された前記特徴パラメータに基づいて、前記食用油の劣化指標を推定する劣化指標推定部と、
2E 前記劣化指標推定部にて推定された劣化指標に基づいて、前記食用油の劣化度を判定する劣化度判定部と、を含む
ことを特徴とする
2F 食用油の劣化度判定装置。
【請求項3】
3A 請求項1または2に記載の食用油の劣化度判定装置であって、
3B 前記劣化指標には、
前記食用油の粘度、前記食用油の粘度上昇率、前記食用油の酸価(AV)、前記食用油の色調、前記食用油のアニシジン価、前記食用油の極性化合物量、前記食用油のカルボニル価、前記食用油の発煙点、前記食用油のトコフェロール含量、前記食用油のヨウ素価、および前記食用油の屈折率、前記食用油の揮発性成分量、前記食用油の揮発性成分組成、前記食用油の風味、前記食用油で揚げた前記揚げ物の揮発性成分量、前記食用油で揚げた前記揚げ物の揮発性成分組成、および前記食用油で揚げた前記揚げ物の風味から選ばれる1又は2以上が含まれる
ことを特徴とする
3C 食用油の劣化度判定装置。
【請求項4】
4A 請求項1〜3のいずれか1項に記載の食用油の劣化度判定装置であって、
4B 前記劣化度判定部にて判定された前記食用油の劣化度に係る報知信号を報知装置に対して出力する報知部をさらに含む
ことを特徴とする
4C 食用油の劣化度判定装置。
【請求項5】
5A 請求項4に記載の食用油の劣化度判定装置であって、
5B 前記劣化度判定部にて判定された前記食用油の劣化度に基づいて、前記食用油の交換時期であるか否かを決定する時期決定部をさらに含み、
5C 前記報知部は、
前記時期決定部にて前記食用油の交換時期であると決定された場合に、決定された交換時期に係る報知信号を前記報知装置に対して出力する
ことを特徴とする
5D 食用油の劣化度判定装置。
【請求項6】
6A 請求項1〜5のいずれか1項に記載の食用油の劣化度判定装置であって、
6B 前記劣化度判定部にて判定された前記食用油の劣化度に基づいて、当該食用油で揚げることが可能な揚げ物の種類及び種類別の揚げ個数を選定する選定部をさらに含む
ことを特徴とする
6C 食用油の劣化度判定装置。
【請求項7】
7A 揚げ物を調理する揚げ調理に用いられる食用油の劣化度を判定する食用油の劣化度判定システムであって、
7A1 前記食用油が貯留された油槽の上方に設置されて、前記食用油の表面の画像である油表面画像を撮像する撮像装置と、
7A2 前記油表面画像に基づいて、前記食用油の劣化度を判定する劣化度判定装置と、
を備え、
7B 前記劣化度判定装置は、
前記油表面画像に対する画像処理により、前記油表面画像から前記揚げ調理に応じて発生する気泡の部分の画像を気泡画像として抽出し、
7C 前記気泡画像から前記食用油の劣化を特徴づけるパラメータであって、前記油表面画像の全体の面積に対する前記気泡画像の面積率、前記油表面画像の全体の面積に対する前記気泡画像の面積率の累積値、気泡の個数、気泡の消滅速度、気泡の流れの有無、および前記食用油の色と前記揚げ物の領域の色との差から選ばれる1又は2以上を含む特徴パラメータを算出し、
7D 算出された前記特徴パラメータに基づいて、前記食用油の劣化指標を推定し、
7E 推定された前記劣化指標に基づいて、前記食用油の劣化度を判定する
ことを特徴とする
7F 食用油の劣化度判定システム。
【請求項8】
8A 揚げ物を調理する揚げ調理に用いられる食用油の劣化度を判定する食用油の劣化度判定システムであって、
8A1 前記食用油が貯留された油槽の上方に設置されて、前記食用油の表面の画像である油表面画像を撮像する撮像装置と、
8A2 前記油表面画像に基づいて、前記食用油の劣化度を判定する劣化度判定装置と、
を備え、
8B 前記劣化度判定装置は、
前記油表面画像に対する画像処理により、前記油表面画像から前記揚げ調理に応じて発生する気泡の部分の画像を気泡画像として抽出し、
8G 抽出された前記気泡画像に含まれる各気泡の大きさを算出し、
8H 算出された各気泡の大きさに基づいて、前記食用油の劣化を特徴づける所定の気泡の領域である特徴領域を特定し、
8I 前記特徴領域において前記食用油の劣化を特徴づけるパラメータである特徴パラメータを算出し、
8D 算出された前記特徴パラメータに基づいて、前記食用油の劣化指標を推定し、
8E 推定された前記劣化指標に基づいて、前記食用油の劣化度を判定する
ことを特徴とする
8F 食用油の劣化度判定システム。
【請求項9】
9A 請求項7または8に記載の食用油の劣化度判定システムであって、
9B 前記劣化度判定装置において判定された判定結果を報知する報知装置をさらに備え、
9C 前記劣化度判定装置は、
判定された前記食用油の劣化度に係る報知信号を前記報知装置に対して出力する
ことを特徴とする
9D 食用油の劣化度判定システム。
【請求項10】
10A 請求項9に記載の食用油の劣化度判定システムであって、
10B 前記劣化度判定装置は、
判定された前記食用油の劣化度に基づいて、前記食用油の交換時期であるか否かを決定し、
10C 前記食用油の交換時期であると決定された場合に、決定された交換時期に係る報知信号を前記報知装置に対して出力する
ことを特徴とする
10D 食用油の劣化度判定システム。
【請求項11】
11A 揚げ物を調理する揚げ調理に用いられる食用油の劣化度を判定する食用油の劣化度判定方法であって、
11B 前記揚げ調理中の前記食用油の表面の画像である油表面画像から前記揚げ調理に応じて発生する気泡の部分である気泡画像を抽出するステップと、
11C 抽出された前記気泡画像から前記食用油の劣化を特徴づけるパラメータであって、前記油表面画像の全体の面積に対する前記気泡画像の面積率、前記油表面画像の全体の面積に対する前記気泡画像の面積率の累積値、気泡の個数、気泡の消滅速度、気泡の流れの有無、および前記食用油の色と前記揚げ物の領域の色との差から選ばれる1又は2以上を含む特徴パラメータを算出するステップと、
11D 算出された前記特徴パラメータに基づいて、前記食用油の劣化指標を推定するステップと、
11E 推定された前記劣化指標に基づいて、前記食用油の劣化度を判定するステップと、
を含む
ことを特徴とする
11F 食用油の劣化度判定方法。
【請求項12】
12A 揚げ物を調理する揚げ調理に用いられる食用油の劣化度を判定する食用油の劣化度判定方法であって、
12B 前記揚げ調理中の前記食用油の表面の画像である油表面画像から前記揚げ調理に応じて発生する気泡の部分である気泡画像を抽出するステップと、
12G 抽出された前記気泡画像に含まれる各気泡の大きさを算出するステップと、
12H 算出された各気泡の大きさに基づいて、前記食用油の劣化を特徴づける所定の気泡の領域である特徴領域を特定するステップと、
12I 前記特徴領域において前記食用油の劣化を特徴づけるパラメータである特徴パラメータを算出するステップと、
12D 算出された前記特徴パラメータに基づいて、前記食用油の劣化指標を推定するステップと、
12E 推定された前記劣化指標に基づいて、前記食用油の劣化度を判定するステップと、
を含む
ことを特徴とする
12F 食用油の劣化度判定方法。
【請求項13】
13A 請求項11または12に記載の食用油の劣化度判定方法であって、
13B 判定された前記食用油の劣化度に係る報知信号を報知装置に対して出力するステップをさらに含む
ことを特徴とする
13C 食用油の劣化度判定方法。
【請求項14】
14A 請求項13に記載の食用油の劣化度判定方法であって、
14B 判定された前記食用油の劣化度に基づいて、前記食用油の交換時期であるか否かを決定するステップと、
14C 前記食用油の交換時期であると決定された場合に、決定結果を報知するステップと、
をさらに含む
ことを特徴とする
14D 食用油の劣化度判定方法。
【請求項15】
15A 請求項1〜6のいずれか1項に記載の食用油の劣化度判定装置から出力される前記食用油の劣化度に関するデータに基づいて、下記A)〜E)の1又は2以上を行う
ことを特徴とする
15B 食用油の交換システム。
15C A)油脂販売業者に通知して、新たな前記食用油を発注する
B)油脂製造業者に通知して、前記食用油の製造計画又は販売計画を立案する
C)店舗若しくは工場の統括本部、又は油脂製造業者に通知して、統括する店舗又は工場へ前記食用油の使用方法を提案又は指導する
D)廃油回収業者又は油脂製造業者に通知して、廃油の回収を手配する
E)清掃作業業者に通知して、前記食用油を貯留する油槽の清掃を手配する
【請求項16】
16A 機械学習によって揚げ物を調理する揚げ調理に用いられる食用油の劣化度を判定する食用油の劣化度判定システムであって、
16K 前記食用油の劣化度を判定することが可能な学習モデルを作成する機械学習装置を備え、
16B1 前記機械学習装置は、
前記食用油が貯留された油槽の上方に設置された撮像装置によって撮像された前記食用油の表面の画像である油表面画像に対する画像処理により、前記油表面画像に含まれる画像であって前記食用油による揚げ調理に応じて発生する気泡を含む部分の画像を気泡画像として抽出し、
16B2 抽出された前記気泡画像から、前記油表面画像において気泡が生じている領域を気泡領域として抽出し、
16G 抽出された前記気泡領域に含まれる気泡の大きさを算出し、
16H 算出された気泡の大きさに基づいて、前記食用油の劣化を特徴づける所定の気泡の領域である特徴領域を特定し、
16I 前記特徴領域において前記食用油の劣化を特徴づけるパラメータである特徴パラメータを算出し、
16D 算出された前記特徴パラメータに基づいて、前記食用油の劣化指標を推定し、
16J 推定された前記劣化指標を用いて機械学習を行い、前記学習モデルを作成する
ことを特徴とする
16F 食用油の劣化度判定システム。
【請求項17】
17A 揚げ物を調理する揚げ調理に用いられる食用油の表面に生ずる泡の状態に基づいて当該食用油の劣化度合いを判定する機械学習を使用する食用油の劣化度判定方法であって、
17B 入力される油表面画像から気泡に関連する気泡画像を特定し、
17C 前記気泡画像に係る気泡の個数、大きさ、全体に占める面積割合、消滅速度、のうち少なくとも一つを含む特徴量を特定し、
17E1 前記食用油の交換時期の予測を生成するための劣化度を判定すべく、
17E2 前記特徴量及び現在の油表画像の取得時に行っている揚げ調理の内容を示す情報に基づく機械学習によって生成された学習モデルを使用する
ことを特徴とする
17F 食用油の劣化度判定方法。
【請求項18】
18A1 油槽に貯留された食用油の表面の画像である油表面画像のデータと、現在の揚げ調理の内容を示す調理データ及び顧客データとが入力される入力層と、
18A2 前記食用油の劣化度に関する値を出力する出力層と、
18A3 各油表面画像のデータ、前記揚げ調理の複数の時点における前記食用油の表面に生ずる気泡に関連する特徴量データ及び前記調理データを入力、前記食用油の劣化度の判定に用いる情報を出力とするデータを用いてパラメータが学習された中間層と、
を備え、
18B 現在の前記油表面画像のデータ及び現在の前記調理データを取得し、現在の前記油表面画像のデータ及び現在の前記調理データを前記入力層に入力し、
18C 前記中間層にて演算し、前記油表面画像のデータから特定可能な気泡に関連する特徴量であって、前記油表面画像のうちの気泡を含む部分の画像である気泡画像の前記油表面画像の全体の面積に対する面積率、前記油表面画像の全体の面積に対する前記気泡画像の面積率の累積値、気泡の個数、気泡の消滅速度、気泡の流れの有無、および前記食用油の色と揚げ物の領域の色との差から選ばれる1又は2以上を含む特徴量に基づいて、
18J 前記出力層から前記食用油の劣化度に関する値を出力するように、
コンピュータを機能させるための
18F 食用油の劣化度判定に用いられる学習済モデル。
【請求項19】
19B 油槽に貯留された食用油の表面の画像である油表面画像に対する画像処理により特定可能な特徴量として、当該食用油による揚げ調理の進行状況に応じて変化する気泡の様子を取得可能な部分の画像を気泡画像として抽出し、
19C 前記気泡画像において前記食用油の劣化を特徴づけるパラメータであって、前記油表面画像の全体の面積に対する前記気泡画像の面積率、前記油表面画像の全体の面積に対する前記気泡画像の面積率の累積値、気泡の個数、気泡の消滅速度、気泡の流れの有無、および前記食用油の色と前記揚げ物の領域の色との差から選ばれる1又は2以上を含む特徴パラメータを算出し、
19D 算出された前記特徴パラメータに基づいて、前記食用油の劣化指標を推定し、
19J 推定された前記劣化指標を用いて機械学習を行い、学習モデルを作成する
ことを特徴とする
19F 食用油の劣化度学習装置。」

第3.申立理由の概要

1 申立理由の概要

(1)取消理由1(進歩性
本件特許発明1〜19は、下記甲1に記載された発明、下記甲2〜甲14に記載された事項、及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであるから、請求項1〜19に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、特許法第113条第2号の規定により、取り消されるべきものである。

(2)取消理由2(実施可能要件
食用油の表面に発生する気泡は、揚げ物中の水分が気化したものであるため、揚げ調理に投入された揚げ物に含まれる水分量が作用することは明らかである。そして、揚げ物に含まれる水分量は、揚げ物の種類や揚げ物の量によって変わるため、気泡の発生量等は、揚げ物の種類や量によって変わる。そのため、揚げ物の種類や量を考慮せずに、食用油の表面に発生する気泡の特徴のみで食用油の劣化度を判定しても、食用油の劣化度を精度よく判定することができるものではない。
また、気泡の面積率と食用油の劣化に関して、本件特許図面の図3A、図4A及び図5Aに示されるように、試験結果の各データは回帰直線からのバラッキが大きく、気泡の面積率と食用油の劣化において相関関係が成立するか不明である。
よって、本件特許発明1乃至19は、「揚げ油の劣化度を精度よく判定することが可能な食用油の劣化度判定装置、食用油の劣化度判定システム、食用油の劣化度判定方法、食用油の劣化度判定プログラム、食用油の劣化度学習装置、食用油の劣化度判定に用いられる学習済モデル、及び食用油の交換システムを提供する」旨の課題を解決し得るものではない。
したがって、本件特許は、本件特許明細書の記載が実施可能要件を欠くから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、特許法第113条第4号の規定により、取り消されるべきである。

(3)取消理由3(サポート要件)

ア 取消理由2における主張のとおり、本件特許発明1〜19は、「揚げ油の劣化度を精度よく判定することが可能な食用油の劣化度判定装置、食用油の劣化度判定システム、食用油の劣化度判定方法、食用油の劣化度判定プログラム、食用油の劣化度学習装置、食用油の劣化度判定に用いられる学習済モデル、及び食用油の交換システムを提供する」旨の課題を解決し得るものではない。
よって、本件特許発明1〜19は、発明の詳細な説明において、発明の課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲のものではなく、サポート要件を満たすものではない。

イ 本件特許発明2・8・12・16は、各気泡の大きさに基づいて、食用油の劣化を特徴づける所定の気泡の領域を特定し、同領域において食用油の劣化を特徴づける特徴パラメータに基づいて、食用油の劣化指標を推定するものであるところ、本件明細書の試験結果の図3A、図4A及び図5Aには、全ての大きさの気泡の面積率と食用油の劣化度との相関関係がないことが示されているから、該各本件特許発明は、発明の詳細な説明において、発明の課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲のものではなく、サポート要件を満たすものではない。

ウ 以上ア・イのとおりであるから、本件特許は、本件特許請求の範囲の請求項1〜19の記載がサポート要件を欠くから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、特許法第113条第4号の規定により、取り消されるべきである。

2 証拠方法
申立人が提出した甲号証は下記のとおり。
何れも本件特許出願の優先日前に公知となったものであり、以下、各甲号証をそれぞれ「甲1」〜「甲14」という。

甲第1号証(甲1) :特開平8−182624号公報
甲第2号証(甲2) :特開2013−59276号公報
甲第3号証(甲3) :特開2019−183571号公報
甲第4号証(甲4) :日本食品工業学会誌、日本食品工業学会、1964年、第11巻、第3号、p.97-100
甲第5号証(甲5) :調理科学、日本調理科学会、1988年、第21巻、第3号、p.201-205
甲第6号証(甲6) :国際公開第2017/145944号
甲第7号証(甲7) :栄養学雑誌、日本栄養改善学会、2011年、第69巻、第2号、p.82-89
甲第8号証(甲8) :調理科学、日本調理科学会、1973年、第6巻、第2号、p.118-124
甲第9号証(甲9) :日本食生活学会誌、日本食生活学会、2009年、第20巻、第1号、p.47-54
甲第10号証(甲10):日本調理科学会誌、日本調理科学会、2010年、第43巻、第1号、p.38-43
甲第11号証(甲11):日本調理科学会誌、日本調理科学会、1996年、第29巻、第1号、p.17-24
甲第12号証(甲12):太田静行・湯木悦二、「フライ食品の理論と実際」、1994年(改訂第2刷)、p.48-51.56-59.76-83
甲第13号証(甲13):家政学雑誌、日本家政学会、1961年、第12巻、第4号、p.309-311
甲第14号証(甲14):油化学、日本油化学会、1967年、第16巻、第12号、p.681-689

第4.甲号証の記載事項

1 甲1の記載事項

(1)甲1の記載事項
甲1には次の記載がある(下線は当審で付した。以下同じ)。

「【0006】
【発明が解決しようとする課題】
このように、揚げ油の劣化具合をフライ作業中、迅速に、客観的に、かつ正確に検知できることは、業務用で大量に揚げもの作業をする場合はもとより、家庭で揚げものをする場合においても重要な課題であった。しかるにこれを満足する方法は未だ見当たらない。かかる実情に鑑み、本発明は前記課題を解決することを目的とした。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、天ぷらやフライ等の揚げものの作業中に発生する泡の量の変化度合が揚げ油の劣化度と相関関係があることに着目して、泡の量と揚げ油の表面の照度との間に相関性があることを見出し、本発明を完成したものである。すなわち本発明の要旨は、食用油を用いて揚げものをする作業中に揚げ油の表面に発生する泡の量を検知することを特徴とする揚げ油の劣化度を検知する方法であり、より好ましくは前記泡の量の変化度合を指標とし、また前記泡の量を照度で検知するものである。
【0008】本発明では、揚げものの作業中に発生する泡の量を実際に測定し、その変化度合をもって揚げ油の品質の劣化度を判定するものであり、このためあらかじめ泡の発生量と揚げ油の品質、例えば酸価、屈折率、カルボニル価等の物性との相関関係を求めておくことにより、泡の発生量の変化具合をもって揚げ油の劣化度を知ることができる。
【0009】本発明において、泡立ちの発生量は例えば以下のようにして検知する。すなわち、フライヤーの上方に備え付けられた照度計により揚げ油の表面の照度を測定する。泡立ちの変化を捉え易くするため、スポットライトを用いて揚げ油の表面に照光することが好ましい。また初期照度を一定に保つため、揚げ油の表面に照射される光の強さを例えば5〜15ルックスに調節するとよい。なお泡の量を検知する手段として照度計の代わりに画像認識装置等を用いることも可能である。
【0010】揚げ種の投入直後は、水分の蒸発が激しいため泡の発生も著しく、そのときの照度は最大の値を示す。しかし揚げ時間が経過するにつれて泡立ちが減り、それにともない揚げ油の表面の照度も低いレベルになり、やがて照度の減少もほぼ止まり一定の値を維持しこのまま推移する。
【0011】このような揚げ油の状態変化をともなう揚げもの作業において、揚げ油の使用開始時から連続使用中そして劣化して使用限界になった時までの照度を経時的に測定し、その最大値から一定値(上記の照度が一定になった時の値)に至る変化度合すなわち揚げる回数毎の照度の減少度および揚げる回数を重ねることにともなう照度の一定値の増加度と、揚げ油の品質(例えば酸価、屈折率等)や揚げものの品質等とを記録しておき、または出力信号としてマイクロプロセッサー等を介して記憶させておき、このデータと比較することにより、別に新たに使用している揚げ油の劣化度がわかる。また、所定の使用限界条件を設定しておくことにより、揚げ油がひき続き使用可能か否かの判断が容易に可能になる。その際、ランプやブザー等により、その設定値を知らせることができる。
【0012】以上に述べた本発明の方法によれば、揚げ油の種類が異なる場合、例えば大豆油、菜種油、パーム油、コーン油、サフラワー油、ひまわり油、綿実油、ごま油等およびこれらの混合油でも同様の傾向を示す。また、揚げ種が異なる場合、揚げ種がミックスされているもの、例えばコロッケとエビを交互に揚げる場合には、1種類の揚げ種を連続して揚げた場合に比べ、各々を単独で揚げた場合の泡の変化具合を併せて比較検討することが必要であるが、揚げ種が1種類であれば、それがエビであるかコロッケであるか、またはジャガ芋であるかを問わず上記の傾向をはっきり示した。
【0013】
【実施例】
実施例1
揚げ油として大豆油を用い、180℃に加熱し、これに揚げ種としてポテトをおおよそ直方体(1cm×1cm×4cm)に切り揃えたものを50g投入した。揚がりきった時点(フライ時間:4分)でフライを終了し、揚げ種を取り出した。この作業を20分間毎に20回繰り返した。揚げ油の表面の照度の測定はフライヤーの真上部15cmに照度計を取り付け、またスポットライトを用いて揚げ油の表面を8ルックスで照光しながら行った。フライ回数が1回目、3回目、6回目、9回目、12回目、15回目、18回目および20回目にそれぞれ測定した。また同時に、揚げ油の劣化具合の判断のため酸価および屈折率の測定も併せて行った。このうちフライ回数が1回目、12回目、および20回目の揚げ油の表面の照度の変化を図1に、またそのとき使用した揚げ油の酸価および屈折率を表1に示す。
【0014】
【表1】


【0015】図1および表1のデータより、照度の最大値および一定値はフライ回数を重ねるにしたがって、つまり揚げ油が劣化するにともなって変化し、とくに照度の一定値が徐々に上昇することがわかる。そして揚げ油の表面の照度の最大値および一定値やその変化具合から、別途新たに使用する揚げ油の劣化度が揚げもの作業中の照度測定により推定できる。
【0016】実施例2
揚げ油として大豆油、揚げ種として皮をむいた生エビ(20g)3尾(衣液およびパン粉を付着させたもの)を用い、実施例1と同様に揚げ、その際の揚げ油の表面の照度(図2参照)、揚げ油の酸価および屈折率(表2参照)を経時的に測定した。この結果、揚げ種が異なっても、揚げ油の表面に発生する泡による照度の変化は、揚げ油の品質の変化に対応することが認められた。したがって、別途新たに同様の揚げもの操作を行う場合、揚げ油の表面の照度を測定しながら、予め設定した揚げ油の品質になるまで揚げもの作業を続けることができる。
【0017】
【表2】


【0018】実施例3
揚げ油として大豆油、揚げ種として鶏肉小片(26g)3個(唐揚げ粉を付着させたもの)を用い、実施例1と同様に揚げ、その際の揚げ油の表面の照度(図3参照)、揚げ油の酸価および屈折率(表3参照)を経時的に測定した。この結果、揚げ種が異なっても、揚げ油の表面に発生する泡による照度の変化は、揚げ油の品質の変化に対応することが認められた。
【0019】
【表3】



・・・
【0026】
【発明の効果】
本発明の方法によれば、以下のような効果を奏する。
(1)揚げ油の見た目や臭い、色調等の感覚に頼らず、揚げ油の劣化度合の識別が客観的基準で、正確にでき、かつ信頼性が高い。
(2)揚げ種による揚げ油の劣化度の違い、差し油による劣化度の変化にも応用でき、種々の条件の揚げもの作業に柔軟に対応出来る。
(3)揚げもの作業中に操作を中止することなく、また連続して測定が行える。
(4)検知方法が簡便なため、誰にでも簡単に測定が行える。
(5)測定にあたり、揚げ油の冷却処理および時間、分析時間が不要となるため、すぐに揚げ油の劣化度がわかり、差し油の必要性、揚げ油の交換の必要性等がその場で即断できる。
(6)所要の装置の組み合わせおよび構造が単純であるため、一体化、小型化がしやすく、単独またはフライヤーに装着することにより利用できる。
・・・


【図1】





【図2】



【図3】




(2)甲1発明
上記(1)に摘記した記載事項から、甲1には次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。ここで、各構成単位末尾の括弧内には、認定の主たる根拠となった甲1の記載箇所を示した。

「a 食用油である揚げ油を用いて揚げものをする作業中に食用油である揚げ油の劣化具合を検知する装置・方法であって、(【0006】・【0007】)
b 揚げものの作業中に発生する泡の量の変化度合が揚げ油の劣化度と相関関係があること、泡の量と揚げ油の表面の照度との間に相関性があることに基づいて、揚げものの作業中に発生する泡の量を、フライヤーの上方に設けた照度計により揚げ油の表面の照度を測定するか、又は該照度計の代わりに画像認識装置を用いることで検知し、(【0007】・【0009】)
c1 照度計で測定された揚げ油の表面の照度から、揚げ油の表面の泡の量またはその変化度合いが検知され、また、照度計のかわりに画像認識装置によって、泡の量が検知され、(【0007】・【0009】)
c2 照度の測定値は、揚げ種の投入直後は、泡の発生も著しく、照度が最大の値を示し、揚げ時間が経過するにつれて泡立ちが減り、それにともない揚げ油の表面の照度も低いレベルになり、やがて照度の減少もほぼ止まり一定の値を維持しこのまま推移することから、
揚げ油の表面に発生する泡による照度の変化(揚げ種の投入直後の照度の最大値から一定値(上記の照度が一定になった時の値)に至る変化度合、および、揚げる回数を重ねることにともなう照度の一定値の増加度)を測定し、(【0010】・【0011】・【0018】)
d1 揚げ油の表面に発生する泡による照度の変化(揚げ種の投入直後の照度の最大値から一定値(上記の照度が一定になった時の値)に至る変化度合、および、揚げる回数を重ねることにともなう照度の一定値の増加度)と、揚げ油の品質(例えば酸価、屈折率等)や揚げものの品質等とを記録しておき、このデータと、前記照度の変化度合や一定値の増加度とを比較することにより、別に新たに使用している揚げ油の劣化度を知るものであり、(【0011】・【0018】)
d2 揚げ油の表面に発生する泡による照度の変化が、揚げ油の品質の変化に対応することが認められることから、別途新たに同様の揚げもの操作を行う場合、揚げ油の表面の照度を測定しながら、予め設定した揚げ油の品質になったかを推定できるものであり、(【0015】・【0016】・【0018】)
e 揚げもの作業中の照度測定により揚げ油の劣化度を推定するものである、(【0011】・【0015】)
f 食用油である揚げ油の劣化具合を検知する装置・方法。」

2 甲2の記載事項
甲2には次の記載がある。

「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フライ調理用油の劣化防止方法に関する。
・・・
【0043】
(泡の生成)
フライ調理用油2内に気体4を添加することで、泡が生成される。泡の大きさは特に限定されないが、微細であることが好ましい。泡の大きさは、平均粒子径が例えば0.01〜2000μmであればよく、0.05〜1500μmであることが好ましく、0.1〜1000μmであることがより好ましい。泡の大きさは、均一であることが好ましい。
(泡層)
泡層6は、フライ調理用油2内に気体4を添加することにより生成される。すなわち、フライ調理用油2に添加された気体4は泡を生成するが、この泡がフライ調理用油2の対流によりフライ調理用油2と空気の界面へ上昇し、フライ調理用油2と空気の界面に泡層6を形成する。フライ調理用油2と空気(特に酸素)との接触を防止できる。また、泡が消失する際に気体4を放出し、泡層6と空気の間に気体層も形成する。気体層により、泡層6と空気との接触も防止できる。これにより、フライ調理用油2の劣化(酸化)を防止することができる。
泡層6は、フライ調理用油2と空気の界面の面積に対して30〜100%を占有すればよく、50〜100%を占有することが好ましく、80〜100%を占有することがより好ましい。泡層6の占有率が上記範囲にあることにより、フライ調理用油2と空気が泡層6により遮断され、フライ調理用油2の劣化を効率よく防止することができる。
泡層6の厚みは、3mm以上であることが好ましく、5mm以上であることがより好ましく、10mm以上であることが特に好ましい。泡層6の厚みが上記範囲にあることにより、フライ調理用油2と空気が泡層6により遮断され、フライ調理用油2の劣化を効率よく防止することができる。
泡層6は気体4の添加により発生し、気体4の添加を止めると速やかに消失する。すなわち、本発明における泡層6は、フライ調理用油2への気体4の添加により生成する泡に由来し、フライ調理用油2の劣化により生成する泡に由来するものではない。泡の発生量は、フライ調理用油2に添加する気体4の量により制御することができる。
・・・
【0057】
フライ調理用油中の酸価(以下、AV(mgeq/kg)という。)は、「2003年版基準油脂分析試験法(社団法人日本油化学会編纂、以下基準油脂分析法いう。)」に記載の方法に従って、滴定により測定した。ただし、γ−オリザノールを含むフライ調理用油には、アルカリブルー指示薬を用いた。
フライ調理用油中の過酸化物価(以下、POV(mgeq/kg)という。)は、基準油脂分析法に準じた方法により測定した。
ΔPOVは、(各時間におけるPOV含有量)−(加熱時間0時間におけるPOVの含有量)により求めた。
フライ調理用油中のビタミンE(以下、VEという。)の含有量は、トコフェロールとトコトリエノールの含有量を合計することで求めた。フライ調理用油中のトコフェロールとトコトリエノールの含有量は、基準油脂分析法に準じた方法により求めた。
VE残存率(%)は、(加熱開始8時間後のVE)÷(加熱開始後0時間時のVE)×100により求めた。
泡層の占有面積は、フライ調理用油へ蒸留水送液開始10分後の泡の発生状態を写真撮影し、画像解析により算出した。また、泡層の厚みは、蒸留水送液開始10分後の泡の発生状態を写真撮影し、画像解析により算出した。」

3 甲3の記載事項
甲3には次の記載がある。

「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作動油の監視システム及び作動油の監視方法に関する。
・・・
【0004】
作動油タンクに収容されている作動油に気泡が発生すると、油圧ポンプが故障する可能性がある。そのため、作動油に含まれる気泡を定量的又は定性的に監視して、気泡の発生を抑制する処置を講ずる必要がある。
・・・
【0036】
画像解析部52は、画像データ取得部51により取得された画像データに基づいて、作動油に含まれている気泡に係る気泡データを出力する。すなわち、画像解析部52は、画像データを画像処理して、作動油に含まれている気泡を抽出する。画像解析部52は、気泡データとして、作動油の油面における気泡の量及び気泡の大きさの少なくとも一方を出力する。なお、画像解析及び診断は、人間が行っても人工知能(AI:Artificial Intelligence)などを用いて自動で行ってもよい。
【0037】
撮像装置31の光学系の視野領域に作動油の油面が配置される。撮像装置31の光学系の視野領域は、作動油タンク4に収容されている作動油の油面よりも小さい。作動油の油面における気泡の量は、画像データにおいて作動油の油面のうち気泡が占める割合によって規定される。気泡の大きさは、画像データにおいて1つの気泡の面積によって規定される。
【0038】
閾値記憶部53は、気泡データに係る気泡閾値を示す閾値データを記憶する。気泡閾値は、気泡の量に係る気泡量閾値及び気泡の大きさに係る気泡寸法閾値を含む。
・・・
【0046】
[判定部の処理]
次に、判定部54の処理について説明する。図5は、本実施形態に係る判定部54の処理を説明するための模式図である。図5に示すように、画像解析部52は、作動油の油面の画像データを解析して、画像データから気泡の画像を抽出する。画像解析部52は、画像データにおいて気泡が占める割合を算出する。
・・・
【0049】
本実施形態においては、気泡の量が第1気泡閾値未満(例えば5[%]未満)の場合、第1出力制御部61は、判定データを出力装置9に出力させない。なお、制御装置5は、気泡の量が第1気泡閾値未満であることを代理店又は保守者に通信ネットワークを介して通知してもよい。
【0050】
気泡の量が第1気泡閾値以上第2気泡閾値未満(例えば5[%]以上30[%]未満)の場合、第1出力制御部61は、判定データを出力装置9に出力させる。これにより、運転者は、気泡の量が多くなったことを認識することができる。なお、制御装置5は、気泡の量が第1気泡閾値以上第2気泡閾値未満であることを代理店又は保守者に通信ネットワークを介して通知してもよい。
【0051】
気泡の量が第2気泡閾値以上(例えば30[%]以上)の場合、第1出力制御部61は、判定データを出力装置9に出力させる。これにより、運転者は、気泡の量が非常に多くなったことを認識することができる。また、制御装置5は、不図示のエンジン制御装置に気泡の量が第2気泡閾値以上になったことを通知する。エンジン制御装置は、エンジン22の回転数を制限したり、エンジン22の起動を規制したりすることができる。なお、制御装置5は、気泡の量が第2気泡閾値以上であることを代理店又は保守者に通信ネットワークを介して通知してもよい。作業車両1の製造又は保守点検を行う工場に通知してもよい。」

4 甲4の記載事項
甲4の97頁左欄1〜12行には、次の記載がある。
「調理油の疲れを泡延距離(油中に試料をおとしたとき,泡のひろがる最大距離)をもって表わし(泡延距離が長くなるほど疲れは大きい),その泡延距離の異なる大豆油で白ネズミを飼育した場合,および調理を行った場合の影響について検討した結果,泡延距離が長くなるほど,白ネズミの体重の増加が少なく,著しい場合強い毒性を示し,また調理面でも揚げ物に吸着する油脂量が次第に増加し,ビタミンCの分解,灰分の滅少,野菜葉の退色度が多くなることを知った。したがって泡延距離を測定することにより,その油脂の毒性,及び調理におよぼす影響度合の一応の目安になることを前報までに報告してきた。」

5 甲5の記載事項
甲5には次の記載がある。摘記において、各文末に記された参考文献の参照番号は削除した(以下、他の甲号証についても同様。)。

(1)201頁左欄7行〜同右欄10行
「さきに筆者らはカルボニル価(COV),酸価,沃素価,粘度,屈折率からみた加熱油の変質度と泡立ち(泡延距離)がよく一致することを報告した。また,泡延距離32mmを境としてそれ以上の泡延距離の油脂を投与したラットの成育は阻害されること,ならびにフライ食品(フライ豆,即席麺など)の酸化安定性も32mm以上のフライ油で揚げたものは,0°,15°,30℃のいずれの保存条件下でも風味およびフライ食品中の油脂の酸化安定性が急滅することを知り,フライ油の泡延距離32mmを使用限界の基準値として用いることを提案した。ただ,泡延距離の測定には多少の経験を必要とした。そこで,その欠点を解決すべく,これに代わる測定法として経験を要せず,かつ結果値にバラッキの少ない泡高を測る方法を開発し前報で述べた。それは底のない目盛付試験管を用い,これをフライ油内に浸け,180℃になったとき,じゃがいもの小片(径5mm,厚さ5mm)を投入し,もりあがる泡の高さの最高値(泡高値)を読みとる方法である。」

(2)202頁右欄10〜15行
「3.2泡延距離
既報の方法によった。すなわち180℃フライ油中に径20mm,厚さ3mmのじゃがいもを投下し,投下後,1分時のじゃがいもの周囲からでる泡の延びをノギスで測定する。同操作を5〜7回繰り返し、その平均値をmmで示した。






6 甲6の記載事項
甲6には次の記載がある。

「[0022]
制御部32は、食用油の劣化の度合いが食品の種類に応じた所定の閾値を超えたと判定した場合、ユーザに報知するために、報知部36を制御する。当該閾値は、記憶部35に予め記憶された、食用油から発生するにおいとその劣化の度合いとの相関を示すデータに基づいて、食品の種類ごとに予め定められていてもよいし、その閾値がユーザによって適宜変更されたものであってもよい。各々の場合において、制御部32は、閾値に関する情報を記憶部35に格納する。
・・・
[0026]
報知部36は、食用油の劣化の度合いが所定の閾値を超えたと制御部32が判定した場合、ユーザに報知する。報知部36は、例えば、画像、文字、色彩の表示若しくは発光等による視覚的な方法、音声等の聴覚的な方法、又はそれらの組み合わせにより報知を行うことができる。報知部36は、視覚的な方法で報知を行う場合、例えば、表示部34を併用してもよいし、異なる表示デバイスとして構成されてもよい。この場合、報知部36は、画像又は文字を表示することにより報知を行ってもよい。報知部36は、例えば、図1に示ように、LED等の発光素子を発光させることにより報知を行ってもよい。報知部36は、聴覚的な方法で報知を行う場合、例えば、スピーカ等の音発生デバイスとして構成され、アラーム音又は音声ガイド等を出力することにより報知を行う。報知部36が行う報知は、視覚的又は聴覚的な方法に限定されない。報知部36が行う報知は、ユーザが食用油の交換時期を客観的に認識できる任意の方法であってもよい。例えば、報知部36は、振動パターン等により報知を行ってもよい。」

7 甲7の記載事項
甲7には次の各記載がある。

(1)83頁左欄12〜18行
「大量の揚げ調理するために長時間加熱される揚げ油の劣化を,調理現場で十分頻繁に検査できていないことが懸念される。本研究では標準的なフライを大量調理し,メニュー販売を行っている大学内食堂より,連続的に揚げ作業に使用している油サンプルを春・夏・秋に譲り受け,その油の化学性状分析を行って基礎的なデータを収集し,揚げ油の簡便な検査方法について検討した。」

(2)83頁左欄21〜27行
「AV,COVは日本油化学会基準油脂分析試験法に基づいて分析を行った。PCは,PCテスター(3M,フランス ローモン サンタン)を用いて測定し,トリアシルグリセロール含有量は,Chromarodに試料を点着し,ヘキサン/ジエチルエーテル/酢酸,50:10:1 v/v/vを用いて展開後,Iatroscan TLC/FID MK−6s(三菱化学ヤトロン,千葉)で分析した。」

(3)83頁左欄32〜39行
「色相ガードナーは,化学製品の色試験方法第2部ガードナ一色数に従った。すなわち,ガードナー・ホルト試料管(内径10.65±0.025mm,外径12.3mm,長さ約114±1mmの平底硬質ガラス管)に入った試料の透過色を,ヘキサクロロ白金(IV)酸カリウム,塩化鉄(III),塩化コバルト(II)および塩酸を用いて調製した1〜18の範囲のガードナ一色数標準液の透過色と比較して決定した。」

(4)83頁右欄32行〜37行
「大学内食堂が調理に使用する新鮮揚げ油1kgを2lのセパラブルフラスコに入れ,その上方に隙間を10cmあけてセパラブルカバーを設置し,180℃で1時間加熱した。加熱後にセパラブルカバーの内壁に捕獲した褐色の揮発物質とフラスコ中の揚げ油のCOV,色相ガードナーを測定した。」

8 甲8の記載事項
甲8には次の記載がある。

(1)118頁左欄19行〜同右欄3行
「まず,魚を揚げた場合,植物性食品に比ベフライ油がどのように劣化するかを検討した。
I−1 揚げ方と特数測定法
新鮮大豆油1.5kgをほうろう引きの鍋に取り180℃でサバとジャガイモを揚げた。サバは体長40cm程度のものを三枚におろした後,全体を15枚ぐらいに切ったものを用いた。ジャガイモは厚さ約1mmの輪切りにし,サバ,ジャガイモとも衣なしで3〜5分ずつ,lkg/hrの割合でl2時間フライを継続した。また2時間ごとにフライ油40gを採取し,特数測定用サンプルとした。なお,コントロールとして揚げ材料を加えず同1条件下で加熱のみを行なった区を設けた。AV,IVは常法COVは熊沢法により,色の測定は熊沢らの方法に準じて440mμと530mμの吸光度の測定によった。粘度測定は25゜±0.2℃でウベローデ粘度計を用いた。」

9 甲9の記載事項
甲9には次の各記載がある。

(1)49頁左欄30行〜右欄1行
「鶏肉の試料を揚げ種として,サラダ油と大豆胚芽油とを用いて間歇揚げの方法により得られた“鶏から揚げ”を官能テストの試料とした。女子大学生5人をパネルとし,1セット毎に2種類の揚げ油による“鶏から揚げ”をパネルに供し,揚げ色,ジューシーさ,美味しさ,サッパリさの4つの評価項目について5段階評価の評点法(良い〜悪い:5点〜1点)により調べた。」

(2)53頁左欄38行〜43行
「揚げ物調理において,食材,揚げ方法の条件が揚げ油の劣化に如何に影響するかを,過酸化物価(POV)と酸価(AV)により経時的に調べた。更に,揚げ油としてはサラダ油と大豆胚芽油とを用いて,揚げ油の劣化の継時的な変化とその揚げ物(鶏から揚げ)に対する嗜好を官能評価により比較した。」

(3)図5(51頁)
サラダ油の場合及び大豆胚芽油の場合における、揚げ油使用時闇とPOVとの関係を示したグラフである図5は次のとおりである。




10 甲10の記載事項
甲10の39頁左欄32行〜右欄3行には、次の記載がある。

「4.官能評価法
分科会のメンバーl6名(20〜60歳代,男性4名,女性12名)をパネルとして,揚げ操作ごとにフライ油の性状(油臭さ,粘度,色)について前報と同様,評点法(+2〜−2)により評価を行った。フライ油は室温に冷却後,官能評価を行った。また,これと合わせて,暫定油脂分析試験法に基づく風味点数を記録した。この分類で油自体の風味が風味点数3(「油っぽく,重く,油臭く,口中での消去性の悪い状態」と感じた点)になったときを油の使用限界とした。この使用限界の判定のため,風味点数3の基準油を準備して評価をおこなった。
5.油脂の劣化度の測定
フライ油は揚げ操作後濾過し,冷凍保存したものについて,以下の測定を行った。すなわち,AV,An.V,CVを基準油脂分析試験法に準じて測定した。また油の色は,基準油脂分析試験法のガードナー法(G法),粘度はオストワルド法に従い測定した。なお粘度は,新鮮油の粘度を100%とし,次式に従い粘度上昇率(%)で示した。
粘度上昇率(%)={(試料の粘度/新鮮油の粘度)×100}−100」

11 甲11の記載事項
甲11には次の記載がある。

(1)21頁左欄11行〜右欄4行(数字を○で囲んだ文字は、「○1」などと分かち書きした。)
「揚げ油の使用をストップする目安の項目は,予備調査により決定した。質問紙の回答は複数回答とした。その結果,ストップの目安は○1揚げ油の色が悪くなった,○2健康によくない,○3カラット揚がらない,○4泡だち易くなった,○5油臭い,○6粘りが大きい,○7油切れが悪い,○8揚げ物がまずいの順で,1位は「色」で34%であった。」

(2)21頁右欄11行〜22頁右欄1行
「図8に廃油の化学・物理的測定値の分布を示した。酸価の平均値は0.53で,新油のそれは実線で示した。廃油の約80%が新油と同じ分布幅の中にある。厚生省の「弁当及びそうざいの衛生規範」の油脂の取扱いに関する指導基準では「使用油脂は酸価1以下で酸価2.5を越えたものは新しい油脂と交換すること」と示されている。しかしながら,殆んどの廃油の酸価が1以下であることから,まだまだ使用可能な油が廃油になっていると言える。」

12 甲12の記載事項について
甲12には次の記載がある。

(1)56頁16行〜30行
「「2.3.2 揚油の発煙
揚物工場で油の発煙のため、作業上ぐあいが悪く,衡生上問題になることがある.
大豆油,ナタネ油系のヨウ素価が比較的高い油では,揚物による油の変質は酸化重合が主反応であるが,ヤシ油,パーム油のようなヨウ素価の低い油では加水分解が主反応となるといわれている.油を加熱した場合および油を揚物に使用した場合に加熱時間あるいは揚げの回数の増加に伴い,発煙点が低下することはよく知られており,主として油の酸価の増加と関連が強い.図2.7にドーナツ揚油における酸価と発煙点の関係を示す.酸価の増加と発煙点の低下の関係が良く示されている.
煙の成分は油脂の揮発性分解生成物であって,脂肪酸以外にアブデヒド,ケトン,アルコール,炭化水素など極めて多種類のものから成るが,その量は極めてわずかなものである.
発煙点の低下を揚油の劣化の基準にしようとする試みもあるが,他の測定値とともに総合判断することが必要であろう。」

(2)図2.7





(3)77頁11行〜78頁2行
「揚物の条件にもよるが,脂肪回転速度が“1to1”または“8時間に1回転”以上(新油添加率12.5%/h以上)であれば非常に良い回転といわれ,揚油の変質は非常に小さい.たとえば,即席ラーメン,小麦粉あられなどは脂肪の回転の良い(新油添加率10〜25%/h)フライ食品であり揚油の変質は小さく,とうふ油揚,揚かまぼこなどは脂肪の回転の悪い(新油添加率1.5〜7%/h)フライ食品であり揚油の変質が著しい.」

(4)図2.18







(5)80頁6行〜9行
「粘度,泡立ちなどの酸化重合による変質は揚油のヨウ素価と密接な関係があり,ヨウ素価の大きい揚油の場合に起こりやすい(図2.22参照).」

(6)図2.22







(7)図2.23







13 甲13の記載事項

(1)310頁5行〜16行

「3.揚げの回数と油の性状及び発煙点について
揚げ物をあげる場合通常その油を何度も使用する。したがって加熱による油の性状はあげる度に変化している。そこで揚げの回数と油の性状及び発煙点との関係をみた。
揚げ方は、小麦粉をねり10gの円ばん形をつくり、大豆油(I)で1日1回、170℃の油温で5分間処理を行ない、10日間同様の操作を繰返した。
酸価、過酸化物価、発煙点は各揚げる前の油を一部とり求めた。その結果は第4表及び第2図の如し。
凡その傾向として揚げる回数が増すにしたがい油の酸価、過酸化物価はあがり、発煙点は低下している。」

(2)第4表




(3)第2図






14 甲14の記載事項

(1)684頁右欄6行〜685頁左欄2行
「トウモロコシ油を用いてそれぞれ6,12,30hrフライしたとき生成するVDPの中性成分のガスクロマトグラムをFig.−6に示す。30hrフライのガスクロマトグラムのピークの数は6hrフライのものに比し,非常に増加している。60hrと90hrのフライでは新しいピークは認められなかった。これらのことから業務用フライの条件で楊げた場合まだ油の品質がよくて繰り返し使用できると一般にいわれている30hr程度の揚げ時間から一般に品質が悪くなって,もはや使用できないとされる90hrの揚げ時間までの間のVDPは本質的にほとんど変わっていないと考えられる。」

15 甲7〜14から認定される周知技術
上記7〜14に摘記した甲7〜14の各記載を総合して、下記周知技術Aが認定できる。

周知技術A:
「食用油の劣化指標として、食用油の粘度・粘度上昇率・酸価(AV)・色調(G)・過酸化物価(POV)・アニシジン価(An.V)・極性化合物量(PC)・カルボニル価(COV(CV))・発煙点・トコフェロール含量(VE)・ヨウ素価(IV)・屈折率・揮発性成分量・揮発性成分組成・風味、食用油で揚げた揚げ物の揮発性成分量・揮発性成分組成・風味を用いること。」

第5.当審の判断

第5の1.取消理由1(進歩性)について

1 本件特許発明1について

(1)本件特許発明1と甲1発明との対比

ア 構成aの「食用油である揚げ油」、「食用油である揚げ油の劣化具合」は、それぞれ構成1Aの「揚げ物を調理する揚げ調理に用いられる食用油」、該「食用油の劣化度」に相当する。
また、構成aの「劣化具合を検知する装置」及び構成fの「食用油である揚げ油の劣化具合を検知する装置」はいずれも、構成1Aの「食用油の劣化度判定装置」及び構成1Fの「食用油の劣化度判定装置」に相当する。

イ(ア)構成bの「揚げものの作業中に発生する泡」は構成1Bの「揚げ調理に応じて発生する気泡」に相当する。
(イ)構成bで、「揚げものの作業中に発生する泡の量を・・・画像認識装置を用いることで検知」することは、該「泡」が「揚げものの作業中に発生する揚げ油表面」に発生するものであることから、該「検知」の過程で、画像認識装置によって撮像された、揚げものの作業中の揚げ油表面の画像を用いることが自明であるといえる。
よって、構成bで、「揚げものの作業中に発生する泡の量を・・・画像認識装置を用いることで検知」される画像は、構成1Bの「揚げ調理中の前記食用油の表面の画像である油表面画像」に相当するといえる。

ウ(ア)構成c1の「照度計で測定された揚げ油の表面の照度から」「検知され」る「揚げ油の表面の泡の量またはその変化度合い」、及び「照度計のかわりに画像認識装置によって」「検知され」る「泡の量」、並びに構成d1の「揚げ油の表面に発生する泡による照度の変化(揚げ種の投入直後の照度の最大値から一定値(上記の照度が一定になった時の値)に至る変化度合、および、揚げる回数を重ねることにともなう照度の一定値の増加度)」は、構成bにおいて「揚げものの作業中に発生する泡の量の変化度合が揚げ油の劣化度と相関関係がある」と特定されることから、共に、構成1Cの「食用油の劣化を特徴づけるパラメータ」及び該「パラメータであ」る「特徴パラメータ」に相当するといえる。
(イ)また、甲1発明は、前記「泡の量またはその変化度合い」を「検知」する機能を担う手段を備えるといえ、該手段の機能は構成1Cの「特徴パラメータ算出部」の機能と共通する。

エ 構成1Dにおける「劣化指標」としては、本件特許明細書の【0023】に「揚げ油Yの粘度、粘度上昇率、揚げ油Yの酸価(AV)、揚げ油Yの色調、揚げ油Yのアニシジン価、揚げ油Yの極性化合物量、揚げ油Yのカルボニル価、揚げ油Yの発煙点、揚げ油Yのトコフェロール含量、揚げ油Yのヨウ素価、揚げ油Yの屈折率、揚げ油Yの揮発性成分量、揚げ油Yの揮発性成分組成、揚げ油Yの風味、揚げ油Yで揚げた揚げ物Xの揮発性成分量、揚げ油Yで揚げた揚げ物Xの揮発性成分組成、および揚げ油Yで揚げた揚げ物Xの風味」が具体的指標として例示されていることに照らし、構成d1の「揚げ油の品質(例えば酸価、屈折率等)や揚げものの品質等」は、構成1D・1Eの「劣化指標」に相当するといえる。

オ 構成eの「揚げもの作業中の照度測定により揚げ油の劣化度を推定する」機能、及び、該機能を担う明示されない手段は、それぞれ、構成1Eの「食用油の劣化度を判定する」機能、及び「劣化度判定部」に相当する。

(2)本件特許発明1と甲1発明との一致点・相違点
本件特許発明1と甲1発明とは下記アの点で一致し、下記イの各点で相違する。

ア 一致点
「1A 揚げ物を調理する揚げ調理に用いられる食用油の劣化度を判定する食用油の劣化度判定装置であって、
1B’ 前記揚げ調理中の前記食用油の表面の画像である油表面画像を用い、
1C’ 前記食用油の劣化を特徴づけるパラメータである、泡に関係する特徴パラメータを得る手段と、
1E’ 前記食用油の劣化度を判定する劣化度判定部と、を含む、
1F 食用油の劣化度判定装置。」

イ 相違点

(ア)相違点1(構成1B)
食用油表面の泡に関係する特徴パラメータを得るにあたり、本件特許発明1は、「揚げ調理中の前記食用油の表面の画像である油表面画像から前記揚げ調理に応じて発生する気泡の部分の画像である気泡画像を抽出する」との機能を有する「気泡画像抽出部」を備えるのに対し、甲1発明は、「フライヤーの上方に設けた照度計により揚げ油の表面の照度を測定するか、又は該照度計の代わりに画像認識装置を用いる」、すなわち、そもそも油表面画像を取得(撮像)せず照度測定を行う照度計を備えるか、または、該照度計に代えて画像認識を行う画像認識装置を備えるにとどまり、「油表面画像から前記揚げ調理に応じて発生する気泡の部分の画像である気泡画像を抽出する」機能及び該機能を担う「気泡画像抽出部」に相当する手段を備えいない点。

(イ)相違点2(構成1C)
「特徴パラメータ」が、本件特許発明1では気泡画像抽出部にて抽出された気泡画像に由来するものであり、油表面画像の全体の面積に対する気泡画像の面積率、油表面画像の全体の面積に対する気泡画像の面積率の累積値、気泡の個数、気泡の消滅速度、気泡の流れの有無、および食用油の色と揚げ物の領域の色との差、なる各パラメータから選ばれる1又は2以上を含むのに対し、甲1発明では、照度計またはそれに代わる画像認識装置により検知された泡の量はたはその変化度合いであって、気泡画像抽出部にて抽出された気泡画像に由来するものでも、前記各パラメータのいずれかに一致するものでもない点。

(ウ)相違点3(構成1D・1E)
本件特許発明1は特徴パラメータに基づいて食用油の劣化指標を推定する劣化指標推定部を備え、劣化度判定部は該劣化指標推定部にて推定された劣化指標に基づいて劣化度を判定するものであるのに対し、甲1発明は、構成d1において、本件特許発明1の特徴パラメータに相当する「揚げ油の表面に発生する泡による照度の変化(揚げ種の投入直後の照度の最大値から一定値(上記の照度が一定になった時の値)に至る変化度合、および、揚げる回数を重ねることにともなう照度の一定値の増加度)」と、本件特許発明1の劣化指標に相当する「揚げ油の品質(例えば酸価、屈折率等)や揚げものの品質等」のデータを記録するものの、前記特徴パラメータに相当する「照度の変化度合や一定値の増加度」から、「揚げ油の劣化度」を直接知ろうとするものであり、前記劣化指標に相当する指標を推定する機能や手段、さらに、該推定したを劣化指標に基づいて劣化を判定する機能や手段を備えない点。

(3)相違点の検討

ア 相違点1及び2について

(ア)油表面の気泡の量を、油表面の画像解析によって泡の占有面積率を求めることで定量すること自体は、甲2及び甲3の上記摘記事項によっても裏付けられるとおり、本件特許の優先日前において周知技術(以下「周知技術1」という。)であるといえる。

(イ)そして、当該定量にあたり、画像処理によって油表面の画像から泡(の領域)を抽出する過程を経ることも、例えば上記甲3の【0036】の記載からも裏付けられるとおり、周知であるといえる(以下「周知技術2」という。)。

(ウ)しかし、甲1発明において、「泡の量」の指標として揚げ回数や食用油の劣化指標・劣化度と直接関連付けられているのは、「揚げ油の表面に発生する泡による照度の変化(揚げ種の投入直後の照度の最大値から一定値(上記の照度が一定になった時の値)に至る変化度合、および、揚げる回数を重ねることにともなう照度の一定値の増加度)」(構成c2)である。そして、構成bにおいて「泡の量」を「画像認識装置を用いることで検知」することも特定されてはいるものの、前記照度計による照度の変化に対応する、揚げ回数や食用油の劣化指標・劣化度と直接関連付けが可能なパラメータを、画像認識によって取得する具体的な手法は定めがなく不明である。

(エ)一方、揚げ物の作業中における油表面の照度と揚げ油の泡の面積率や大きさとが相関することについて開示する証拠は、下記a.〜d.のとおり、申立人によって提示されていない。よって、甲1において、照度計による照度に対応するパラメータを画像認識装置によって測定するために、該画像認識として、甲2・甲3の記載により裏付けられる、気泡画像の抽出処理を伴う、画像認識により油表面の泡の面積率を求める周知技術1を適用して、相違点1の構成とする動機付けを欠く。
a.甲2は、フライ調理用油の劣化防止のために、人為的にフライ調理用油2内に気体4を添加することで、泡を生成する際の、泡層の界面占有率を測定しようとする技術を開示するものであるし、甲3は油圧ポンプの故障に結びつく作動油の気泡発生を監視するシステムに関する。
b.甲4は、泡の広がる最大距離(泡延距離)の手動測定結果が、調理油の劣化に相当する「疲れ」の目安になることを開示するもので、甲6も同様である。
c.甲5は甲4・甲6の泡延距離に代わる測定法として、揚げ種投入時に盛り上がる泡の高さ(泡高)を手動・目測で測定することを開示するものである。
d.甲7〜甲14に、食用油表面の泡と油の劣化との関係に関する開示はない。

(オ)また、相違点2に係る各パラメータ(特徴パラメータ)は、「前記気泡画像抽出部にて抽出された前記気泡画像から・・・算出」するものであるから、相違点1に係る構成を前提とするものである。
よって、上記(エ)で説示したとおり、甲1発明において相違点1に係る構成とすることが当業者にとって動機付けを欠く以上、それを前提としてさらに相違点2の構成とすることは、同様に動機付けを欠き、当業者が容易になし得たこととはいえない。

(カ)また、相違点2に関し、仮に甲1発明において相違点1の構成とすることが当業者にとって想到容易であるとしても、さらに相違点1の構成を前提とする相違点2の構成とすることは、甲1発明から相違点2の構成とするために2つの段階を経ることとなるため、格別な努力を要するものといえ、当業者にとって容易になし得たこととはいえない。

(キ)さらに、相違点2に関し、上記(カ)の点を措くとしても、「油表面画像の全体の面積に対する気泡画像の面積率、油表面画像の全体の面積に対する気泡画像の面積率の累積値、気泡の個数、気泡の消滅速度、気泡の流れの有無、および食用油の色と揚げ物の領域の色との差」なる各パラメータを食用油の劣化指標や劣化度と相関する指標として用いることについて、甲2〜甲14に開示がないし、証拠を提示するまでもない周知技術であるともいえない。
よって、甲1発明において、照度計による照度の測定に代えて、相違点2に係る各パラメータのいずれかを、構成1Dで食用油の劣化指標を推定するための特徴パラメータとして採用して、相違点2の構成とすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。

(ク)また、相違点2に係る各パラメータのうち、「油表面画像の全体の面積に対する気泡画像の面積率」には、上記甲2・甲3に係る周知技術1の泡の占有面積率が相当するといえる。
しかし、上記(キ)で言及したとおり、甲2・甲3には、他の甲号証と同じく、該「油表面画像の全体の面積に対する気泡画像の面積率」を含む前記各パラメータを食用油の劣化指標や劣化度と相関する指標として用いることについて開示がない。
よって、甲1発明に甲2・甲3の記載に裏付けられる周知技術1・2を適用して相違点1・2の構成とすることも、当業者にとって容易になし得たこととはいえない。

(ケ)以上のとおりであるから、甲1発明において、周知技術1・2を適用して相違点1の構成とすることは、当業者にとってその動機付けを欠き、当業者が容易になし得たこととはいえず、また、甲1発明において、相違点2の構成とすることも、当業者が容易になし得たこととはいえない。

イ 相違点3について

(ア)相違点3に係る構成1D・1Eは、相違点1・2に係る「特徴パラメータ」が算出されていることを前提とする構成である。よって、上記アで説示したとおり、甲1発明において相違点1・2の構成とすることが当業者にとって想到容易でないから、甲1発明において相違点3の構成とすることも、当業者が容易になし得たこととはいえない。

(イ)また、構成1Cに列挙される「油表面画像の全体の面積に対する気泡画像の面積率、油表面画像の全体の面積に対する気泡画像の面積率の累積値、気泡の個数、気泡の消滅速度、気泡の流れの有無、および食用油の色と揚げ物の領域の色との差、なる各パラメータから選ばれる1又は2以上を含む特徴パラメータ」に基づいて、本件特許明細書の【0023】に例示される「本件特許明細書の【0023】に「揚げ油Yの粘度、粘度上昇率、揚げ油Yの酸価(AV)、揚げ油Yの色調、揚げ油Yのアニシジン価、揚げ油Yの極性化合物量、揚げ油Yのカルボニル価、揚げ油Yの発煙点、揚げ油Yのトコフェロール含量、揚げ油Yのヨウ素価、揚げ油Yの屈折率、揚げ油Yの揮発性成分量、揚げ油Yの揮発性成分組成、揚げ油Yの風味、揚げ油Yで揚げた揚げ物Xの揮発性成分量、揚げ油Yで揚げた揚げ物Xの揮発性成分組成、および揚げ油Yで揚げた揚げ物Xの風味」その他の食用油の劣化指標を推定することについて、甲2〜甲14の何れにも開示がなく、証拠を示すまでもなく周知の技術事項であるともいえない。
よって、上記(ア)の点を措くとしても、甲1発明において、相違点3の構成とすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。

ウ 効果について
上記特に相違点1・2の構成とすることにより、本件特許発明1は、揚げ油の表面泡の種類や発生頻度を区別し、発生する表面泡の種類を考慮した劣化度の判定を精度よく行うことができるようになるという効果が期待できることとなったといえる。

(4)小括
上記(1)〜(3)のとおりであるから、本件特許発明1は、甲1発明、甲2〜甲14に記載された技術事項、及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

2 本件特許発明7・11について

(1)本件特許発明1との対応関係について
本件特許発明7は、本件特許発明1の構成1B〜1Eを機能的に特定した構成7B〜7Eとし、構成7A1・7A2を付加し、さらに構成1A・1Fの「食用油の劣化度判定装置」を「食用油の劣化度判定システム」としたものにあたる。
また、本件特許発明11は、本件特許発明1のカテゴリを方法に変更したものにあたり、本件特許発明1の1A〜1Fにそれぞれ対応する構成11A〜11Fを備える。

(2)本件特許発明7・11と甲1発明との相違点とその検討
本件特許発明7・11はそれぞれ、上記相違点1〜3に係る構成1B、1C、1D、1Eにそれぞれ対応する、構成7B・11B、7C・11C、7D・11D、7E・11Eを備えるから、本件特許発明7・11と甲1発明との間には、少なくとも、上記相違点1〜3と同様の、または対応する相違点が存在する。
よって、上記1(3)で説示したものと同様の理由により、本件特許発明7・11は、甲1発明、甲2〜甲14に記載された技術事項、及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

3 本件特許発明2について

(1)本件特許発明2と甲1発明との対比
本件特許発明2は、本件特許発明1の構成1A・1B・1D・1E・1Fとそれぞれ共通する構成2A・2B・2D・2E・2Fを備える。
また、本件特許発明1の構成1Cに代えて、構成2G〜2Iを備える。
よって、本件特許発明2と甲1発明との間には、構成1Bに係る上記相違点1及び構成1D・1Eに係る相違点3と同様の相違点が存在する。
また、該各相違点に加え、甲1発明が構成2G〜2Iに相当する構成を備えない点(以下、「相違点4」という。)で別途相違する。

(2)相違点の検討

ア 相違点1及び相違点3について
上記1(3)で説示したものと同様の理由により、本件特許発明2は、甲1発明、甲2〜甲14に記載された技術事項、及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

イ 相違点4について
(ア)相違点4は、構成2Gとして相違点1に係る、気泡画像抽出部にて抽出された前記気泡画像の存在が前提となっており、甲1発明にまず相違点1に係る技術を適用し、さらに、それを前提として相違点4に係る技術を適用するという2つの段階を経て相違点4の構成に至ることは、格別な努力を要するものといえ、当業者にとって容易になし得たこととはいえない。

(イ)上記(ア)の点を措くとしても、相違点4に係る構成のうち、特に構成2Hに係る「気泡寸法算出部にて算出された各気泡の大きさに基づいて、食用油の劣化を特徴づける所定の気泡の領域である特徴領域を特定する特徴領域特定部」、及び構成2Iに係る「特徴領域特定部にて特定された特徴領域において食用油の劣化を特徴づけるパラメータである特徴パラメータを算出する特徴パラメータ算出部」に相当する技術事項は、甲2〜甲14の何れにも開示がなく、証拠を提示するまでもなく周知な技術事項であるともいえない。

(ウ)上記(ア)・(イ)のとおりであるから、甲1発明において相違点4の構成とすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。

(3)小括
上記(1)〜(2)のとおりであるから、本件特許発明2は、甲1発明、甲2〜甲14に記載された技術事項、及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

4 本件特許発明8・12・16について

(1)本件特許発明2との対応関係について
本件特許発明7は、本件特許発明2の構成2B・2G〜2I・2D・2Eをそれぞれ機能的に特定した構成8B・8G〜8I・8D・8Eとし、構成8A1・8A2を付加し、さらに構成2A・2Fの「食用油の劣化度判定装置」を「食用油の劣化度判定システム」としたものにあたる。
また、本件特許発明11は、本件特許発明2のカテゴリを方法に変更したものにあたり、本件特許発明2の構成2A・2B・2G〜2I・2D〜2Fにそれぞれ対応する構成11A・11B・11G〜11I・11D〜11Fを備える。
また、本件特許発明16は、本件特許発明2の構成2B・2G〜2I・2Dをそれぞれ機能的に特定した構成16B1・16G〜16I・16Dを備えると共に、機械学習に関係する構成16K・16Jを付加し、構成16A・16Fにおいて発明の題目をそれぞれ「機械学習によって揚げ物を調理する揚げ調理に用いられる食用油の劣化度を判定する食用油の劣化度判定システムであって」、「食用油の劣化度判定システム」と変更したものである。

(2)本件特許発明8・12・16と甲1発明との相違点とその検討
本件特許発明8・12・16はいずれも、甲1発明との間には、少なくとも、構成1Bに係る上記相違点1及び構成1Dに係る相違点3、並びに構成2G〜2Iに係る相違点4と同様の相違点が存在する。
よって、上記1(3)及び3(2)で説示したものと同様の理由により、本件特許発明8・12・16は、甲1発明、甲2〜甲14に記載された技術事項、及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

5 本件特許発明17について

(1)本件特許発明17と甲1発明との対比

ア 構成aの「食用油である揚げ油」、「食用油である揚げ油の劣化具合」、「劣化具合を検知する・・・方法」、構成fの「食用油である揚げ油の劣化具合を検知する・・・方法」はそれぞれ、構成17Aの「揚げ物を調理する揚げ調理に用いられる食用油」、該食用油の「劣化度合い」、「食用油の劣化度判定方法」、構成1Fの「食用油の劣化度判定方法」に相当する。

イ 構成bで、「揚げものの作業中に発生する泡の量を・・・画像認識装置を用いることで検知」することは、該「泡」が構成17Aで「揚げ物を調理する揚げ調理に用いられる食用油の表面に生ずる泡」と特定されるものであることから、該「検知」の過程に油表面の画像の取得(撮像)を行う工程と、この取得された画像が「画像認識装置」に入力されることで画像認識が行われる工程とを含むことが自明であるといえ、該自明な機序における、画像認識装置へ入力される油表面の画像は、構成17Bの「入力される油表面画像」に相当する。

ウ 構成c1の「揚げ油の表面の泡の量またはその変化度合い」及び構成c2の「揚げ油の表面に発生する泡による照度の変化(揚げ種の投入直後の照度の最大値から一定値(上記の照度が一定になった時の値)に至る変化度合、および、揚げる回数を重ねることにともなう照度の一定値の増加度)」は、共に、構成17Cの「気泡の個数、大きさ、全体に占める面積割合、消滅速度、のうち少なくとも一つを含む特徴量」と、油表面の泡に関係する特徴量である点で共通する。

エ 構成eの「揚げ油の劣化度を推定する」ことは、構成17E1の「食用油の・・・劣化度を判定」することに相当する。

(2)本件特許発明17と甲1発明との一致点・相違点
本件特許発明17と甲1発明とは下記アの点で一致し、下記イの各点で相違する。

ア 一致点
「17A’ 揚げ物を調理する揚げ調理に用いられる食用油の表面に生ずる泡の状態に基づいて当該食用油の劣化度合いを判定する食用油の劣化度判定方法であって、
17B’ 油表面画像が入力され、
17C’ 油表面画像から油表面の泡に関係する特徴量を特定し、
17E1’ 前記食用油の劣化度を判定する、
17F 食用油の劣化度判定方法。」

イ 相違点

(ア)相違点17−1(構成17B)
本件特許発明17は、気泡に関連する気泡画像を特定する工程を備えるのに対し、甲1発明は対応する工程を備えない点。

(イ)相違点17−2(構成17C)
特徴量として、本件特許発明17では、「気泡画像に係る気泡の個数、大きさ、全体に占める面積割合、消滅速度」なる各パラメータのうち少なくとも一つを含むのに対し、甲1発明では、泡の量、又は、揚げ油の表面に発生する泡による照度の変化(揚げ種の投入直後の照度の最大値から一定値(上記の照度が一定になった時の値)に至る変化度合、および、揚げる回数を重ねることにともなう照度の一定値の増加度)、が検知(測定)され、前記各パラメータのいずれかを特定(算出・測定)するものではない点。

(ウ)相違点17−3(構成17E1)
劣化度の判定が、本件特許発明17では食用油の交換時期の予測を生成するために行うとされるのに対し、甲1発明では、予め設定した揚げ油の品質になったかを推定(構成d2)するために行うとは特定されるものの、交換時期の予測を目的とすることについては特定がない点。

(エ)相違点17−4(構成17A・17E2)
食用油の劣化度判定に、本件特許発明17では食用油の劣化度合いを判定する機械学習を使用し、特徴量及び現在の油表画像の取得時に行っている揚げ調理の内容を示す情報に基づく機械学習によって生成された学習モデルを使用するのに対し、甲1発明は機械学習の使用についての特定事項を含まない点。

(3)相違点の検討

ア 相違点17−1及び17−2について
上記1(3)アで説示したことと同様の理由により、甲2・甲3の記載事項により裏付けられる周知技術1・2を考慮しても、甲1発明に甲2〜甲14に記載された事項及び周知技術を適用して相違点17−1・17−2の構成とすることは、当業者が容易になし得たこととはいえない。

イ 相違点17−3について
食用油の劣化度と油の交換時期との関係については甲11に開示がある(上記第4.11(2))が、劣化度から交換時期を予測することについては、甲2〜甲14の何れにも開示がなく、また、証拠を示すまでもなく周知な技術事項であるともいえない。

ウ 相違点17−4について
食用油の劣化度を判定する処理において機械学習や機械学習によって生成された学習モデルを使用することについて、甲2〜甲14の何れにも開示がない。
一般に、説明変数の入力に対し目的変数を出力する多変量解析系において、機械学習により学習された各種の学習モデルを使用すること自体は周知慣用の技術である。しかし、相違点17−4に含まれる、構成17E2に係る「特徴量及び現在の油表画像の取得時に行っている揚げ調理の内容を示す情報に基づく機械学習によって生成された学習モデルを使用する」という具体的な技術事項まで、前記周知慣用の技術から自明または容易想到であるということはできない。

(4)小括
上記(1)〜(3)のとおりであるから、本件特許発明17は、甲1発明、甲2〜甲14に記載された技術事項、及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

6 本件特許発明19について
本件特許発明19は、本件特許発明1の構成1B〜1Dに係る機能にそれぞれ対応する構成19B〜19Dを備え、さらに構成19Jとして「推定された前記劣化指標を用いて機械学習を行い、学習モデルを作成する」との構成を含む発明である。
そうすると、本件特許発明19と甲1発明との間には、少なくとも構成19B・19Cに関し、上記相違点1・2と同様の相違点が存在する。
また、機械学習が学習モデルに関する構成19Jについても、甲1発明が対応する構成を備えない点で、甲1発明と相違する。
よって、上記1(3)ア及び上記5(3)ウで説示したものと同様の理由により、本件特許発明19は、甲1発明及び甲2〜甲14の記載事項並びに周知技術に基づいて当業者が容易に発明できたものとはいえない。

7 本件特許発明18について
本件特許発明18は、食用油の劣化度判定に用いられる学習済モデル(構成18F)についての発明であり、構成18Cにおいて、前記学習モデルの中間層において演算されるパラメータとして、構成1Cの特徴パラメータに対応する
「前記油表面画像のデータから特定可能な気泡に関連する特徴量であって、
前記油表面画像のうちの気泡を含む部分の画像である気泡画像の前記油表面画像の全体の面積に対する面積率、前記油表面画像の全体の面積に対する前記気泡画像の面積率の累積値、気泡の個数、気泡の消滅速度、気泡の流れの有無、および前記食用油の色と揚げ物の領域の色との差から選ばれる1又は2以上を含む特徴量」
が特定されている。
よって、本件特許発明18と甲1発明との間には、少なくとも上記相違点2に対応する相違点が存在する。
また、前記学習済みモデルの入力層、中間層、出力層についての構成18A1〜18A3・18B・18Jについても、機械学習や学習済みモデルについての特定事項を備えない甲1発明との間で相違する。そのうち、構成18A3に係る相違点は上記5(2)イ(エ)で挙げた相違点17−4に対応する。
したがって、上記1(3)ア(オ)〜(ク)、及び上記5(3)ウに説示したものと同様の理由により、本件特許発明18は、甲1発明及び甲2〜甲14に記載された技術事項、並びに周知技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

8 本件特許発明3〜6・9・10・13〜15について
本件特許発明3〜6・9・10・13〜15は、本件特許発明1・2・7・8・11・12のいずれかをさらに減縮した発明にあたるから、少なくとも上記相違点1〜4及び17−1〜17−4のいずれかと同様の、または対応する相違点を有するといえる。
よって、本件特許発明3〜6・9・10・13〜15は、甲1発明及び甲2〜甲14に記載された技術事項、並びに周知技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

第5の2.取消理由2(実施可能要件)について

1 判断基準
物の発明について、発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に適合するというためには、当業者が明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を作れ、かつ、その物を使用できることである。
また、方法の発明について、発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に適合するというためには、当業者が明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その方法を使用できることである。

実施可能要件の判断
本件特許明細書において、食用油表面の気泡と劣化指標との相関関係(油表面画像の全体面積に対する気泡が生じている領域(気泡領域)の面積の比率(面積率)と上記に列挙した劣化指標の一部との相関)について、「相関分析は、フライヤー2でフライドチキン4個を0〜9日間揚げた場合において、n=3の平均値を用い、さらに平均値を4で割ってフライドチキン1個当たりの数値に変換して分析を行ったものに基づく。」(【0028】)との記載があり、揚げ物の種類を「フライドチキン」に限定し、揚げ物の量を「フライドチキン4個」の場合に限定して取得した劣化度のデータと、気泡の面積率、気泡の消滅速度、揚げ物の輪郭の見えやすさ(食用油の色と前記揚げ物の領域の色との差)、気泡の面積累積値、気泡の個数、気泡の流れ、これら気泡のパラメータと気泡の大きさとの組み合わせ、なる気泡の各種パラメータとの相関関係の存在について、図3A〜8C・図10A〜14C・図20A〜20Cに基づいて示されている。

また、気泡の発生量等が、揚げ物の種類や量によって変わることは、家庭内での揚げ物調理時においても気付きうる技術常識であるといえるから、前記例示されたフライドチキン以外の揚げ種を対象とする場合には、揚げ種の種類毎に前記相関関係を分析する必要があること、その場合にも、揚げ種の個数が同様に考慮されるべきことは、前記フライドチキンについての例示及び前記技術常識から、当業者にとって自明であるといえ、本件特許明細書に開示されたフライドチキンの例にならって、所望の揚げ種について同様の分析を行い、相関関係のデータを得て油の劣化度を推定できるように調整する程度のことは、当業者が技術の模倣・応用において通常なし得る創造性の範囲内のことである。
よって、本件特許明細書中に例示されるフライドチキン以外の揚げ種についても、本件特許明細書の記載に倣い、過度な試行錯誤を要することなく、個別に前記気泡の各種パラメータとの間で同様の相関関係を調べることで、物の発明に係る本件特許発明を作成し、使用することができ、また、方法の発明に係る本件特許発明を使用することができるといえる。
したがって、本件特許発明1〜19は実施可能要件を充足する。

3 申立人の主張について

(1)揚げ物の種類や量の考慮を欠き、劣化度を精度よく判定できない旨の申立人の主張について

当該主張については、上記2で説示したとおりの理由により、失当である。

(2)気泡の面積率と食用油の劣化に関して相関関係の成立に疑義がある旨の申立人の主張について
図3B・C、図4B・C、図5B・Cから、少なくとも気泡を大きい気泡と細かい気泡とに分別した場合には、気泡の面積率と劣化指標との間に強い相関があることは明確に看取できる。
また、図3A、図4A、図5Aに示される、全ての気泡を対象とした場合についても、前記分別した場合には劣るものの、該各図を看取する限りにおいて、いずれも回帰直線が示すとおり、正の相関を有することが明確に看取でき、全くの無相関であるとまでいえない。
また、該各図に対応する実施例について、無相関であることを客観的に立証可能な証拠もない。

4 まとめ
上記2・3のとおりであるから、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を充足する。

第5の3.取消理由3(サポート要件)について

1 判断基準
特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するというためには、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載及び技術常識より当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであることを要する。

2 サポート要件の判断
本件特許明細書の【0005】〜【0006】の記載によれば、本件特許発明の課題は、劣化した揚げ油において、発生する表面泡の種類を考慮して劣化度の判定を精度よく行うことである。
そして、上記第5の2.2で説示したとおり、揚げ物の種類を「フライドチキン」に限定し、揚げ物の量を「フライドチキン4個」の場合に限定して取得した劣化度のデータと、気泡の面積率、気泡の消滅速度、揚げ物の輪郭の見えやすさ(食用油の色と前記揚げ物の領域の色との差)、気泡の面積累積値、気泡の個数、気泡の流れ、これら気泡のパラメータと気泡の大きさとの組み合わせ、なる気泡の各種パラメータとの相関関係の存在について、図3A〜8C・図10A〜14C・図20A〜20Cに基づいて示されており、また、技術常識に照らし、フライドチキン以外の揚げ種についても、水分の多寡等に応じ個別に前記と類似の相関関係が成り立ちうることが当業者であれば推認・期待可能である。
また、本件特許発明において、食用油表面の泡の種類や状態・動態を個別に考慮し、事前に求め、また学習モデルに学習された、これら食用油表面の泡の種類や状態・動態の個別のパラメータと食用油の劣化度との相関関係を利用することで、劣化度の実測値と高い相関をもつ予測値が得られることが示されている(図15)。
そうすると、本件特許明細書の記載から、当業者は、前記課題を解決できると認識することができる。そして、本件特許発明1〜19は、発明の課題を解決できると認識する特定事項をすべて有するものであるから、本件特許発明1〜19は、発明の課題を解決する、すなわちサポート要件を満たすものである。

3 申立人の主張について
取消理由3に係る申立人の主張概要は上記第3.1(3)のとおりであり、取消理由2(実施可能要件)の成立を前提にサポート要件違反の主張をするものと理解されるが、取消理由2が成り立たないことは上記第5の2.2・3で説示したとおりであるから、取消理由3に係る申立人の主張はその前提を欠く。

4 まとめ
上記2・3のとおりであるから、本件特許発明1〜19はサポート要件を充足する。

第6.むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1〜19に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1〜19に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。


 
異議決定日 2022-10-25 
出願番号 P2021-548638
審決分類 P 1 651・ 537- Y (G01N)
P 1 651・ 536- Y (G01N)
P 1 651・ 121- Y (G01N)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 福島 浩司
特許庁審判官 石井 哲
樋口 宗彦
登録日 2021-12-20 
登録番号 6997362
権利者 株式会社J−オイルミルズ
発明の名称 食用油の劣化度判定装置、食用油の劣化度判定システム、食用油の劣化度判定方法、食用油の劣化度判定プログラム、食用油の劣化度学習装置、食用油の劣化度判定に用いられる学習済モデル、及び食用油の交換システム  
代理人 弁理士法人武和国際特許事務所  

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