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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C09J 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C09J |
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管理番号 | 1390610 |
総通号数 | 11 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2022-11-25 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2022-07-15 |
確定日 | 2022-10-14 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第7005063号発明「ホットメルト接着剤」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第7005063号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 |
理由 |
結論 特許第7005063号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 理由 第1 手続の経緯 特許第7005063号の請求項1〜6に係る特許についての出願は、令和3年6月17日の出願であって、令和4年1月7日にその特許権の設定登録がされ、同年同月21日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、同年7月15日に特許異議申立人田中勝(以下「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。 第2 本件発明 特許第7005063号の請求項1〜6に係る発明(以下「本件発明1」〜「本件発明6」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1〜6に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。 「【請求項1】 熱可塑性エラストマー(A)と、粘着付与剤(B)とを含むホットメルト接着剤であって、 前記粘着付与剤(B)が、ロジン系粘着付与剤及びテルペン系粘着付与剤を含有し、 前記粘着付与剤(B)の酸価が、15mgKOH/g以下であり、 前記熱可塑性エラストマー(A)が、スチレン系ブロック共重合体であり、 前記スチレン系ブロック共重合体が、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)を含有し、 160℃で72時間保持後に、測定温度範囲:−20℃〜140℃、周波数:1.0Hz、昇温速度:5℃/分の条件で測定された温度23℃における経時後の貯蔵弾性率G’が350,000Pa以下;及び 160℃で72時間保持後に、測定温度範囲:−20℃〜140℃、周波数:1.0Hz、昇温速度:5℃/分の条件で測定された温度23℃における経時後の損失弾性率G’’が800,000Pa以下; の少なくとも一方を満たす、ホットメルト接着剤。 【請求項2】 測定温度範囲:−20℃〜140℃、周波数:1.0Hz、昇温速度:5℃/分の条件で測定された温度23℃における初期の貯蔵弾性率G’が350,000Pa以下;及び 測定温度範囲:−20℃〜140℃、周波数:1.0Hz、昇温速度:5℃/分の条件で測定された温度23℃における初期の損失弾性率G’’が800,000Pa以下; の少なくとも一方を満たす、請求項1に記載のホットメルト接着剤。 【請求項3】 前記ロジン系粘着付与剤が、ロジンエステル樹脂である、請求項1又は2に記載のホットメルト接着剤。 【請求項4】 前記スチレン系ブロック共重合体が、非対称スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体を含有しない、請求項1〜3のいずれか一項に記載のホットメルト接着剤。 【請求項5】 前記粘着付与剤(B)が、石油樹脂系の粘着付与剤及び/又は前記石油樹脂系の粘着付与剤の水素添加物を含有しない、請求項1〜4のいずれか一項に記載のホットメルト接着剤。 【請求項6】 吸収性物品用ホットメルト接着剤である、請求項1〜5のいずれか一項に記載のホットメルト接着剤。 第3 申立理由の概要 理由1(進歩性)本件特許の請求項1〜6に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、上記の請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 甲第1号証:特表2010−531908号公報 甲第2号証:国際公開2013/111883号 理由2(サポート要件)本件特許の請求項1〜6に係る特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 (1)スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)について 本件特許発明1において、スチレン系ブロック共重合体としてSBSを含有すると規定されており、その含有割合は特定されていない。例えばSISなど、SBS以外のスチレン系ブロック共重合体を主体とし、これにSBSを微量含むスチレン系ブロック共重合体も本件特許発明1に包含される。 一方、本件明細書の実施例には、スチレン系ブロック共重合体としてSBSだけを含むホットメルト接着剤組成物のみが記載されている。明細書の記載を参照しても、SBSを含有すれば本願発明の効果が得られると理解できる記載はない。スチレン系ブロック共重合体には、周知のとおり、耐熱性や粘度等が幅広く異なる多様な物性の共重合体が含まれる。実施例に記載された「スチレン系ブロック共重合体としてSBSのみを含むホットメルト接着剤組成物」から、SBSを含有するあらゆるスチレン系ブロック共重合体にまで、発明の効果が得られると認めることはできない。 そうすると、発明の詳細な説明の内容を参酌しても、本件特許発明1が、前記課題を解決できると認識できる範囲にあるとは認められない。 したがって、本件特許発明1は、発明の詳細な説明において、発明の課題が解決できることを当業者が理解できるように記載された範囲を超えていると認められる。 本件特許発明2〜6についても、同様である。 (2)ロジン系粘着付与剤及びテルペン系粘着付与剤について SBSと、本件特許発明規定の低酸価のロジン系粘着付与剤もしくはテルペン系粘着付与剤を配合したホットメルト接着剤は甲1号証および甲2号証に記載されているように公知である。 本件特許発明1では、ロジン系粘着付与剤及びテルペン系粘着付与剤の含有割合は特定されていないため、例えばロジン系粘着付与剤に対して極少量のテルペン系粘着付与剤を配合したホットメルト接着剤も本件特許発明1に包含される。しかしながら、このようにテルペン系粘着付与剤を少量配合したもの(実質的にロジン系粘着付与剤単独使用)では、ロジン系粘着付与剤及びテルペン系粘着付与剤併用の効果が発現されるとは考えられない。 本件特許明細書に記載された実施例を考慮すると、ロジン系粘着付与剤やテルペン系粘着付与剤を単独で使用する場合と比較して、ロジン系粘着付与剤およびテルペン系粘着付与剤を併用することの効果はないことは明らかであるが、仮に併用の効果があると考えたとしても、無限少のロジン、テルペンを配合した場合には、併用の効果が発現しない。 そうすると、発明の詳細な説明の内容を参酌しても、本件特許発明1が、前記課題を解決できると認識できる範囲にあるとは認められない。 したがって、本件特許発明1は、発明の詳細な説明において、発明の課題が解決できることを当業者が理解できるように記載された範囲を超えていると認められる。 本件特許発明2〜6についても、同様である。 第4 理由1(進歩性)について 1 甲号証について 甲第1号証:特表2010−531908号公報 甲第2号証:国際公開2013/111883号 2 甲号証の記載について (1)甲第1号証(以下、「甲1」という。) 1a「【請求項1】 下記の(a)〜(c)から成るホットメルト感圧接着剤組成物(HMPSA): (a)SIS、SIBS、SEBSおよびSEPSから成る群の中から選択される一種または複数のスチレンブロック共重合体またはこのスチレンブロック共重合体とその全重量の50重量%以下のSBSスチレンブロック共重合体との混合物の25〜50重量%、 (b) 80〜150℃の軟化温度と20以下の酸価とを有する一種または複数の相溶性のある粘着付与樹脂の35〜75重量%、 (c) 6〜54個の炭素原子を有する炭化水素鎖から成る一種または複数のカルボン酸の0.5〜20重量%。 ・・・ 【請求項5】 粘着付与樹脂が下記(i)〜(iv)の中から選択される請求項1〜4のいずれか一項に記載のHMPSA: (i) 天然または化学的に変性した松脂ロジン(コロファン)およびその水素化誘導体、脱水素化誘導体、ダイマー、ポリマーまたはモノアルコールまたはポリオールによるエステル化物、 (ii) 約5、9または10の炭素原子を有する石油留分由来の不飽和の脂肪族炭化水素の混合物の水素化、重合または共重合によって得られる樹脂、 (iii) フェノールによって変性されていてもよいテルペン樹脂、 (iv) 天然型テルペンをベースにしたコポリマー。 【請求項6】 粘着付与樹脂が95〜120℃の軟化温度と、10以下の酸価とを有する請求項1〜5のいずれか一項に記載のHMPSA。」 1b「【0020】 本発明のHMPSAで使用できるブロック共重合体は一般に60kDa〜400kDaの重量平均分子量Mwを有し、重合された各モノマーブロックから成り、下記一般式(I)のトリブ ロックの構造を有する: A−B−A (I) (ここで、Aはスチレンの非エラストマーブロック(またはポリスチレン)を表し、Bはエラストマーのブロックを表す) 上記Bのエラストマーは下記にすることができる: (1)ポリイソプレン:ポリスチレン/ポリイソプレン/ポリスチレン構造を有するブロック共重合体:SISとよばれる、 (2)ポリイソプレン−ポリブタジエン:ポリスチレン−ポリイソプレン−ポリブタジエン−ポリスチレン構造を有するブロック共重合体:SIBSとよばれる、 (3)完全または部分的に水素化されたポリイソプレン:ポリスチレン−ポリ(エチレンプロピレン)−ポリスチレン構造を有するブロック共重合体:SEPSとよばれる、 (4)ポリブタジエン:ポリスチレン−ポリブタジエン−ポリスチレン構造を有するブロックコポリマー:SBSとよばれる、 (5)完全にまたは部分的に水素化されたポリブタジエン:ポリスチレン−ポリ(エチレンブチレン)−ポリスチレン構造を有するブロック共重合体:SEBSとよばれる。このSEBSコポリマーは無水マレイン酸によって化学的に変性されていてもよい。 ・・・ 【0023】 スチレンブロックの量はブロック共重合体の全重量を基礎として広範囲、例えば15%〜50%に変えることがきる。商業的な製品の例としては下記を挙げることができる: (1)直鎖のSIS:ジブロック含有量が0%で、スチレン含有量が44%のExxonMobil社から市販のVector(登録商標)4411、56%のジブロックと16%のスチレンとを有するKraton社からのKraton(登録商標)D11l3、25%のジブロックと30%のスチレンとを有するKraton(登録商標)D1165、 (2)放射状SIS:29%のジブロックと30%のスチレンとを有するKraton(登録商標)D1124、80%のジブロックと18%のスチレンとを有するExxonMobil社からのVector(登録商標)DPX 586、 (3)SIBS:35%のジブロックと18%のスチレンとを有するKraton(登録商標)MD 6455、 (4)SBS:Polimeri Europa社(イタリア)からのEuroprene(登録商標)Sol T 166(10%ジブロックと30%スチレン)、Firestoned社からのStereon(登録商標)840A、Kraton(登録商標)D1120(75%ジブロックと30%スチレン)、 (5)SEBS:Kraton(登録商標)G1726(70%ジブロックと30%スチレン)、Kraton(登録商標)G1924(30%ジブロックと13%スチレン)。これは1%無水マレイン酸がグラフトされたSEBSである。 ・・・ 【0025】 本発明のHMPSAで使用できる粘着付与樹脂は一般に200〜5000の平均分子量Mwを有し、特に、下記の中から選択される: (i)天然または化学的に変性した松やにロジン(コロファン)、例えば松ゴムから抽出したロジン、植物の根から抽出したウッドロジン、その水素化誘導体、ダイマー、ポリマーまたはモノアルコールまたはポリオール(例えばグリセリン、ペンタエリスリトールまたはネオペンチルグリコール)でエステル化した誘導体、 (ii) 石油留分からの約5、9または10の炭素原子を有する脂肪族不飽和炭化水素の混合物の水素化、重合または共重合(芳香族炭化水素との)で得られる樹脂)、 (iii) Friedel−Crafts触媒の存在でのモノテルペン(またはピネン)のような一般にテルペン炭化水素の重合、必要に応じてフェノールの作用で変性、で得られるテルペン樹脂、 (iv) 天然テルペン、例えばスチレン/テルペン、αメチルスチレン/テルペン、ビニールトルエン/テルペンをベースにしたコポリマー。 ・・・ 【0027】 酸価(またはAN)は遊離酸の量を表し、1グラムの樹脂の酸度を中和するのに必要な電位差計で求めた水酸化カリウムのミリグラム数である。樹脂(ii)および(iv)のファミリの樹脂の酸価はゼロである。 【0028】 粘着付与樹脂は市販されており、軟化温度が80〜150℃で、酸価がゼロまたは20以下の製品で、上記ファミリの例としては下記を挙げることができる: (i) Arizona Chemical 社のSylvalite(登録商標)RElOOS(軟化温度が約100℃、ANが10以下の松やにロジンとペンタエリスリトールとのエステル)、フランスの会社DRTのDertoline(登録商標)G2L(軟化温度が87℃、ANは20)、Dertopoline(登録商標)CG(軟化温度117℃、ANは7)、 (ii) Exxon Mobil Chemicalから入手可能なEscorez(登録商標) 5600(これは芳香族化合物で変性した水素化ジシクロペンタジエン樹脂で、Mwは約980Da、軟化温度は100℃である)、類似構造のEscorezR 5615(軟化温度115℃)、Exxon Chemical社のEscorez(登録商標)5400(軟化温度100℃)、Cray Valley社のWingtack(登録商標)86、Eastman社のRegalite(登録商標)R5100、 (iii) DRT社のDertophene(登録商標)T(軟化温度95℃、酸価1以下)、Arizona Chemical社のSylvarez(登録商標)TP95(これはMwが約1120Daで、軟化温度が95℃のフェノールテルペン樹脂である)、 (iv) Arizona Chemical社のSylvarez(登録商標)ZT1O5LT(これは軟化点が105℃のスチレン/テルペンコポリマーである)。 ・・・ 【0036】 (1)オレイン脂肪酸、例えばOleon社のRADIACID(登録商標)208、 (2)ヒマワリ脂肪酸、コプラ脂肪酸(RADIACID(登録商標)600、ナタネ脂肪酸(RADIACID(登録商標)166)、大豆脂肪酸(RADIACID(登録商標)110およびRADIACID(登録商標)121、椰子脂肪酸、パルミスト脂肪酸または松油の各種誘導体、 (3)獣脂脂肪酸、例えばRADIACID(登録商標)401およびRADIACID(登録商標)403、 (4)水素化獣脂脂肪酸、例えばRADIACID(登録商標)408、RADIACID(登録商標)409 ・・・ 【0043】 本発明組成物に含まれる安定化剤(または抗酸化剤)の量は0.1〜2%にするのが好ましい。この化合物は組成物が酸素、熱、光またはある種の材料(例えば粘着付与樹脂)に残る触媒と反応して劣化するのを保護するために導入される。この化合物はフリーラジカルを閉じ込める主抗酸化剤を含むことができ、一般に置換されたフェノール、例えばCiba社のIrganox(登録商標)1010である。この主抗酸化剤は他の抗酸化剤、例えばCiba社のIrgafos(登録商標)168のような亜リン酸エステル、紫外線安定剤、例えばアミンと一緒に使用できる。 【0044】 本発明組成物はさらに、可塑剤を最大で20%含むことができる。この可塑剤は芳香族化合物を含むパラフィン油またはナフテン油(例えばEsso社のPrimol(登録商標)352)を含むか、この画分を含まなくてもよい(例えばNynas社からのNyflex 222B)。 ・・・ 【0058】 本発明のHMPSAの接着性能は、FINAT Technical Manual, 6th edition, 2001に記載のFINAT Test Method No.1に従って、ガラス板上での180°剥離テストで決定できる(FINATは自己接着性ラベルの製造加工メーカーの国際連合である)。このテストの原理は以下のとおりである。厚さ19μmのPETフィルムから成る支持体層のOPP面上に20g/m2の量でHMPSAを予め塗布し、それを厚さ50μmのOPPフィルム上に2成分ポリウレタン接着剤を用いて接着させる。得られた自己接着性支持体から矩形ストリップ(25mm×175mm)の形に検査材料を切断する。この検査材料をガラス板から成る基材上に固定する。得られた集合体を室温で20分放置した後、ストリップを180°の角度で剥離できる引張試験機にセットし、毎分300mmの速度で剥離する。この機械でストリップをこの条件下で剥離するのに必要な力を測定する。結果はN/cmで表される。ガラス板に接着するときに、自己接着ラベルを作るための接着剤の180°剥離強度は一般に2N/cm以上、好ましくは4N/cm以上であるのが好ましい。 【0059】 本発明のHMPSAの粘着度は、FINAT Test Method No.9に記載のループ粘着性テストで決定する。厚さ50μmのOPPフィルム上に20g/m2の量でHMPSAを塗布し、175mm×25mmの矩形ストリップを得る。このストリップの両末端を合わせてループを形成する。接着剤層を外側にする。結合した両末端を縦軸線に沿って300mm/分の速度で前進後退可能な張試験機の可動ジョーに取付る。垂直に設置したループの下部を25mmの水平ガラス板と一辺が約25mmの正方形の面積上に30mmに渡って接触させる。接触後、ジョーの移動方向を逆にする。粘着力はプレートからループを完全に剥離するのに必要な力の最大値である。PSAの粘着力は一般に1N/cm2以上である。 【0060】 本発明HMPSAを予めガラス基材上に塗布し、固定したラベルの加熱塩基性水溶媒体中での剥離性(debondability)は下記のテストで決定した。 【0061】 直径が5cmで、高さが約20cmのガラス瓶を使用し、ガラス成分の種類に従って2つのグループに分けた。すなわち、ビンの製造時に加えられた表面処理の種類に従ってガラスの表面層は2つのタイプに分けられる。第1タイプの層は基本的に酸化錫から成り、第2タイプは酸化錫層上に塗布した基本的に酸化ポリエチレン蝋のエマルションから成る層を有する。第2タイプの層は新しいガラス瓶の形である。第1タイプはリサイクルでのクリーニング時に塩基性水溶液中に少なくとも一回浸されたガラス瓶の形をしている。以下、第1タイプのビンを「SnO」、第2タイプのビンを「PE」の記号で表すことにする。 【0062】 被テストHMPSAを同じ支持体層上に同じ条件で被覆し、180°剥離テストを行なった。得られた支持体上の自己接着ラベルから矩形(7cm ×5cm)を切断し、ガラス瓶に単に圧力だけで貼り、集合体を室温に24時間放置した。 【0063】 次に、ラベルを付けたガラス瓶を80℃の恒温に維持したpH 12の水性浴中に浸した。 【0064】 ビンを60秒間浸した後、「SnO」タイプおよび「PE」タイプのビンに対してラベルが剥離した百分比(「剥離%」」とよぶ)を求めた。 【0065】 ラベルを付けたビンを液中に浸し、ラベルを分離した後の塩基性水溶液中に存在する接着剤の量は下記の方法で測定した。先ず、ガラス瓶に自己接着ラベルを張り付ける前に、自己接着ラベルの重量P1を藻組める。ビンとラベルを塩基性水溶液中に20分間浸した後、ビンから剥離したラベルを回収し、乾燥し、恒量になった時の重量P2を求める。重さの差P1−P2をP1に対する百分比で表したものが自己接着ラベルのHMPSAのロスに対応する。 【0066】 以下、本発明の実施例を示すが、本発明が下記実施例に限定されるものではない。 【0067】 [表1]に記載の組成物は各成分を単純に180℃で加熱混合して製造した。各組成物は記載の成分の他に0.5%のIrganox(登録商標)1010と0.5%のIrgafos(登録商標)168とを含んでいる。その他の成分の含有量は[表1]に示してある。実施したテストの結果は[表2]に示してある。 【0068】 これらの実施例の全てで、熱い塩基性水溶媒体中での剥離テスト時に、ラベルを分離し た後のビンの外観に接着剤の痕跡は観測されなかった。これらの実施例の全てでラベルのHMPSAのロスは0%で、これは塩基性水溶性洗浄液はHMPSAを含んでいないということを示している。 【0069】 【表1】 」 (2)甲第2号証(以下、「甲2」という。) 2a「[請求項1] 一般式(1)で表される樹脂酸エステルの含有量が70重量%以上であり、かつ、1H−NMRスペクトルの全プロトン積分値(SNMR)における6〜8ppm領域のプロトン積分値(S’NMR)の比率(S’NMR/SNMR)が百分率で少なくとも6%であるエステル組成物からなる粘着付与剤。 [化1] (式(1)中、Roは樹脂酸の残基を、Rは脂肪族トリオールの残基を示す。) ・・・ [請求項4] 前記エステル組成物の酸価が1〜10mgKOH/gであり、かつ水酸基価が1〜20mgKOH/gであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか記載の粘着付与剤。 ・・・ [請求項7] 請求項6記載の粘着付与剤と合成ゴム系エラストマーとを含む医療用または工業用の粘・接着剤。 [請求項8] 前記合成ゴム系エラストマーが、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン−水添ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SEBS)およびスチレン−エチレン・プロピレン−スチレン共重合体(SEPS)からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項7記載の粘・接着剤。」 2b「[0012] さらに、本発明の工業用粘・接着剤は、タックや保持力、接着力等の粘・接着特性において優れている。また、ワニスタイプ及びホットメルトタイプのいずれの態様でも利用可能である。また、いずれのタイプの粘・接着剤も、紙基材やプラスチック基材、金属基材との接着性に優れている。当該工業用粘・接着剤は、各種用途に供しうる。特にホットメルトタイプのものは、例えば紙おむつ及び生理用品等の衛生製品や、自動車の内装材の接着剤として有効に用いることができる。」 2c「[0018] 上記一般式(1)中、Roで表される「樹脂酸残基」は、樹脂酸の構造式において、当該樹脂酸が有する3級カルボキシル基を除いた残りの化学構造を意味する。 [0019] 樹脂酸の具体例としては、特に限定されないが、例えばアビエチン酸、パラストリン酸、ネオアビエチン酸、ピマール酸、イソピマール酸、デヒドロアビエチン酸、テトラヒドロアビエチン酸、ジヒドロアビエチン酸等が挙げられる。これらの中でも、加熱安定性が優れることから、デヒドロアビエチン酸、テトラヒドロアビエチン酸及びジヒドロアビエチン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。 ・・・ [0025] 本発明に係るエステル組成物の製造法は特に限定されず、通常この分野で用いられる種々の方法を採用することができるが、具体的には、例えば、以下の方法が挙げられる。 [0026] [1] 各種樹脂酸及び脂肪族トリオールをエステル化反応させ、一般式(1)で表される樹脂酸エステルを合成する方法。この方法において、組成物中の前記樹脂酸エステルの含有量が70重量%以上である場合、樹脂酸エステルの精製工程が含まれなくてもよい。 [0027] [2] 前記[1]の方法で得た樹脂酸エステルを、その最終含有量が70重量%以上となるように、溶融状態にある各種ロジン類に混合する方法。ここで、ロジン類とは、前記樹脂酸の他にテレビン油等の精油等を含んでいてもよい樹脂成分である。 ・・ [0040] なお、本発明の粘・接着剤には、所望により他の粘着付与剤を配合してもよい。具体的には、例えば、前記原料ロジン、精製ロジン、水添ロジン、不均化ロジン、重合ロジン等のロジン系粘着付与樹脂(但し、本発明に係るエステル組成物に相当するものを除く)や、クマロン・インデン樹脂、フェノール・ホルムアルデヒド樹脂、変性キシレン樹脂、テルペン・フェノール樹脂、水素添加テルペン樹脂、水素添加石油樹脂等の非ロジン系粘着付与樹脂が挙げられ、これらは単独で、または2種以上を併用して使用できる。これら粘着付与剤の使用量は特に限定されないが、前記合成ゴム系エラストマー100重量部に対して通常、0〜200重量部程度である。」 2d「[0051] 次に、実験例、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではなく、多くの変形が本発明の技術的思想内で当分野において通常の知識を有する者により可能である。 [0052] 各製造例における樹脂酸エステルの定量分析は、市販のガスクロマトグラフィー装置(製品名「GC−14A」、(株)島津製作所製)を用いて行なった。また、カラムにも市販品(商品名「Advance−DS」、信和化工(株)製)を用いた。 [0053] 製造例1(デヒドロアビエチン酸の製造) 市販の不均化ロジン(酸価167mg/KOH、軟化点77℃、荒川化学工業(株)製)をアルゴン気流中でメルトした後、1.3kPaの減圧下で加熱し、195〜200℃/0.47kPaの留分を得た。この留分は酸価180mg/KOH、軟化点93℃であった。 [0054] 次いで、この留分の200gをエタノール480gに加熱下で溶解させた後、モノエタノールアミン40gを加え、還流下で1時間反応させた。その後、水500gを加えることにより、デヒドロアビエチン酸モノエタノールアミン塩の水溶液を調製した。 [0055] 次いで、この水溶液にイソオクタン200mlを加え、不けん化物およびジヒドロアビエチン酸塩をイソオクタン層に移動させることによって、デヒドロアビエチン酸モノエタノールアミン塩を抽出した。次いで、同じ作業を更に1回行なった。次いで、水層のみを容器に移し、一晩放置した後、生じた結晶をろ過した。次いで、この結晶をエタノール再結晶する作業を3回行い、その純度を高めた後、塩酸を加えることによって、デヒドロアビエチン酸の結晶を得た。 [0056] 次いで、得られた結晶を濾過により採取し、これをエーテルに溶解させてから充分に水洗した後、減圧下でエーテルを留去して結晶を充分に乾燥させた。次いで、得られた乾燥結晶を再度、エタノール中で再結晶させ、濾過により目的とするデヒドロアビエチン酸の高純度結晶を得た。こうして得られたデヒドロアビエチン酸の結晶は、酸価が186mg /KOH、融点が178℃であった。 [0057] 次に、デヒドロアビエチン酸の結晶0.1gをn−ヘキサノール2.0gに溶解させ、得られた溶液0.1gとオンカラムメチル化剤(商品名「フェニルトリメチルアンモニウムヒドロキサイド(PTHA)0.2モルメタノール溶液」、ジーエルサイエンス(株))0.4gとを均一に混合した。次いで、得られた混合液の1μlを前記したガスクロマトグラフィー装置にかけ、組成分析と定量をおこなった。結果、デヒドロアビエチン酸の純度は96%であることがわかった。 [0058] 製造例2(テトラヒドロアビエチン酸の製造) 市販のアビエチン酸300g((株)関東化学製、融点172〜175℃)、シクロヘキサン500g、およびニッケルけいそう土触媒(商品名「N−113」、日揮化学(株)製)15gをオートクレーブに仕込み、雰囲気を水素置換した後、容器内を10MPaまで昇圧し、250℃で5時間水素化反応を行なった。次いで反応容器を室温まで冷却し、容器内の溶液を水素でブローした後、窒素雰囲気下で濾過し、触媒を除去することによって、クルード(crude)なテトラヒドロアビエチン酸のシクロヘキサン溶液を得た。次いで、得られた溶液をアセトンに加えて再結晶する作業を2回実施した後、得られた結晶を濾過により採取し、減圧下で充分に乾燥させた。こうして得られたテトラヒドロアビエチン酸の結晶は、酸価が194、融点が170℃、ガスクロマトグラフィー純度が97%であった。 [0059] 製造例3(ジヒドロアビエチン酸の製造) 未精製中国産ガムロジン100g、ミネラルターペン100g、およびラネーニッケル触媒5gをオートクレーブに仕込み、雰囲気を水素置換した後、容器内を10MPaまで昇圧し、110℃で5時間水素化反応を行なった。次いで反応容器を室温まで冷却し、容器内の溶液を水素でブローした後、窒素雰囲気下で濾過し、触媒を除去することによって、ジヒドロアビエチン酸のミネラルターペン溶液を得た。次いで、得られた溶液100gにパラトルエンスルホン酸0.2gを加え、150℃で2時間異性化反応させたのち、ミネラルターペン及びパラトルエンスルホン酸を減圧蒸留し、ジヒドロアビエチン酸の粗結晶を得た。次いで、この粗結晶をアセトン中で再結晶させる作業を4回実施した後、得られた結晶を濾過により採取し、減圧下で充分に乾燥させた。こうして得られたジヒドロアビエチン酸の結晶は、酸価が194、融点が182℃、ガスクロマトグラフィー純度が98%であった。 [0060] 実施例1 製造例1で得たデヒドロアビエチン酸69g、製造例2で得たテトラヒドロアビエチン酸11g、製造例3で得たジヒドロアビエチン酸20gを4つ口フラスコにとり、アルゴンシール下で180℃に昇温し、溶融攪拌下、200℃でグリセリン12gを加え、280℃で12時間エステル化反応させることにより樹脂酸エステル組成物(A1)103gを得た。なお、エステル化により発生する水は、分縮器を介して系外に排出した。また、接着剤の評価には、SIS(スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体)を用いた。物性を表1に示す。 ・・・ [0068] 実施例5 接着剤の評価に、SBS(スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体)を用いる以外は、実施例1と同様にした。物性を表1に示す。 ・・・ [0088] (ホットメルトタイプSIS系粘着剤の粘着特性評価) 実施例1のエステル組成物を4g、クインタック3421を4g、およびDIプロセスPW90を1.2g混合し、200℃で加熱溶融させて、バーコーター(No.24)で厚さが60μm程度となるようにアルミ上にホットメルト塗工(塗工幅25mm)して試料テープを得た。実施例2〜4及び比較例1〜7の樹脂酸エステル組成物についても同様にして試料テープを作製した。 [0089] (接着力) JIS Z 0237法に従い、2kgのゴムローラーを用いて、実施例1に係る試料テープをポリエチレン板に接着面積が25mm×125mmとなるよう圧着した後、得られた基材を20℃で24時間放置した。次いで、この基材について、テンシロン引張り試験機(製品名「RMT−500」、(株)オリエンテック製)により180°剥離試験(室内温度20℃、剥離速度300mm/分)を実施し、25mmあたりの接着力(N/25mm)を測定した。実施例2〜4及び比較例1〜7に係る試料テープについても同様に して接着力を測定した。数値が大きいほど接着力が優れる。 [0090] (保持力) PSTC−7法(粘着テープ工業会(Pressure Sensitive Tape Council)(米国)による保持力試験法)に従い、2kgのゴムローラーを用いて、実施例1に係る試料テープをステンレス鋼板に接着面積が25mm×25mmとなるよう圧着した後、得られた基材を20℃で24時間放置した。次いで、クリープテスター(製品名「保持力試験機」、テスター産業(株)製)を用いて、40℃、1kg、3時間の条件で荷重をかけたときの試料テープの粘着面とステンレス鋼板とのズレ(mm)を測定した。実施例2〜4及び比較例1〜7に係る試料テープについても同様にして保持力を測定した。数値が小さいほど保持力が優れる。 [0091] (ボールタック) PSTC−6法(粘着テープ工業会(米国)による保持力試験法)に従い、傾斜30度の斜面を有する試験台より転がり落ちてきたNo.14の鋼球が実施例1に係る試料テープの粘着面を転がり進む距離(cm)を測定した。実施例2〜4及び比較例1〜7に係る試料テープについても同様にしてボールタックを測定した。数値が小さいほどボールタックが優れる。なお、ボールタックは、試料テープの瞬間的な粘着性を評価する方法である。 [0092] (プローブタック) NSプローブタックテスター(ニチバン(株)製))を使用して、荷重100g/cm2、ドエルタイム1秒の条件で実施例1に係る試料テープのプローブタック(N/25mmφ)を測定した。実施例2〜4及び比較例1〜7に係る試料テープについても同様にしてプローブタックを測定した。数値が大きいほどプローブタックが優れる。なお、プローブタックは、プローブの試料テープからの垂直方向への引き剥がしに要する力を評価する方法である。 [0093] (総合評価) 接着力、保持力、ボールタックおよびプローブタックの測定値より、以下の基準に基づき、ホットメルトタイプの粘着剤としての総合評価を行なった。 良好(○):接着力25.0以上かつ保持力5.0未満かつボールタック4.0未満かつプローブタック6.0以上。 やや良好(△):接着力25.0未満あるいは保持力5.0以上あるいはボールタック4.0以上あるいはプローブタック6.0未満。 [0094] (ホットメルトタイプSBS系粘着剤の溶融粘度測定) 実施例5のエステル組成物(A1)3.4g、SBS(商品名「クレイトンD1102JSZ」、クレイトンポリマー社製)3.4g、およびナフテン系オイル(商品名「JCT OIL B」、ジャパンケムテック(株)製)2gの混合物を、120℃、140℃、160℃、180℃及び200℃に段階的に加熱し、各段階における溶融粘度(mPa・s)をB型粘度計(東京計器(株)製、ローターNo.HM−3)で測定した。また、実施例6〜8及び比較例8〜14の樹脂酸エステル組成物についても同様にして溶融粘度を段階的に測定した。表1〜3には、以下の基準に基づく塗工性の評価を記載した。 [0095] 良好(○):120℃または140℃での粘度測定値が200,000mPa・s未満である。 不良(×):120℃または140℃での粘度測定値が200,000mPa・s以上であるか、高粘度過ぎるため測定不可能である。 [0096] (ホットメルトタイプSBS系粘着剤の粘着特性評価) 実施例5のエステル組成物(A1)を3.4g、クレイトンD1102JSZを3.4g、およびJCT OIL Bを2g混合し、200℃で加熱溶融させて、バーコーター(No.14)で厚さが30μm程度となるようにアルミ上にホットメルト塗工(塗工幅25mm)して試料テープを得た。実施例6〜8及び比較例8〜14の樹脂酸エステル組成物についても同様にして試料テープを作製した。その後、ホットメルトタイプSIS系粘着剤の粘着特性評価と同様に、接着力、保持力、ボールタックおよびプローブタックを測定し、粘着剤としての総合評価を行なった。 ・・・ [0100] [表1] 」 3 甲号証に記載された発明 (1)甲1に記載された発明 甲1には実施例5として「29%のジブロックと30%のスチレンとを有する放射状SISであるKraton(登録商標)D1124(表1の「DJ 124」は「D1124」の誤記である。)を25%、SBSであるPolimeri Europa社(イタリア)からのEuroprene(登録商標)Sol T 166(10%ジブロックと30%スチレン)を15%、粘着付与樹脂として、酸価がゼロである、Arizona Chemical社のSylvarez(登録商標)ZT105LT(これは軟化点が105℃のスチレン/テルペンコポリマーである)を23%、Exxon Mobil Chemicalから入手可能なEscorez(登録商標) 5600(これは芳香族化合物で変性した水素化ジシクロペンタジエン樹脂で、Mwは約980Da、軟化温度は100℃である)を24%、ポリカルボキシル脂肪酸の混合物(β)であるRADIACID(登録商標)970を4%、芳香族化合物を含むパラフィン油またはナフテン油であるEsso社のPrimol(登録商標)352(表1の「Prinol」は「Primol」の誤記である。)を8%、置換されたフェノールであるCiba社のIrganox(登録商標)1010を0.5%及び亜リン酸エステルであるCiba社のIrgafos(登録商標)168を0.5%含むホットメルト感圧接着剤組成物(HMPSA)。」の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる(摘記1b参照)。 (2)甲2に記載された発明 甲2には[0094]に記載のエステルは粘着付与剤であり(摘記2a参照)、請求項4の記載からみて、[表1]の酸価はエステルの物性値であるから(摘記2a参照)、[0094]には「粘着付与剤として、製造例1で得たデヒドロアビエチン酸69g、製造例2で得たテトラヒドロアビエチン酸11g、製造例3で得たジヒドロアビエチン酸20gを4つ口フラスコにとり、アルゴンシール下で180℃に昇温し、溶融攪拌下、200℃でグリセリン12gを加え、280℃で12時間エステル化反応させることにより得た、酸価8mg/KOHの樹脂酸エステル組成物(A1)、SBS(商品名「クレイトンD1102JSZ」、クレイトンポリマー社製)、およびナフテン系オイル(商品名「JCT OIL B」、ジャパンケムテック(株)製)の混合物からなるホットメルトタイプSBS系粘着剤。」の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されているといえる(摘記2d参照)。 4 対比・判断 (1)甲1発明を主たる引用発明とする場合 ア 本件特許発明1 (ア)甲1発明との対比 本件特許発明1と甲1発明を対比する。 甲1発明の「SBSであるPolimeri Europa社(イタリア)からのEuroprene(登録商標)Sol T 166(10%ジブロックと30%スチレン)」は、SBSはポリスチレン−ポリブタジエン−ポリスチレン構造を有するブロックコポリマーであり(摘記1b参照)、熱可塑性エラストマーであるから、本件特許発明1の「熱可塑性エラストマー(A)」及び「前記熱可塑性エラストマー(A)が、スチレン系ブロック共重合体であり、 前記スチレン系ブロック共重合体が、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)を含有し」に相当する。 甲1発明の「粘着付与樹脂として、酸価がゼロである、Arizona Chemical社のSylvarez(登録商標)ZT105LT(これは軟化点が105℃のスチレン/テルペンコポリマーである)」は、本件特許発明1の「粘着付与剤(B)」、「前記粘着付与剤(B)が」、「テルペン系粘着付与剤を含有し」及び「前記粘着付与剤(B)の酸価が、15mgKOH/g以下であり」に相当する。 甲1発明の「ホットメルト感圧接着剤組成物(HMPSA)」は本件特許発明1の「ホットメルト接着剤」に相当する。 そうすると、本件特許発明1と甲1発明は、「熱可塑性エラストマー(A)と、粘着付与剤(B)とを含むホットメルト接着剤であって、 前記粘着付与剤(B)が、テルペン系粘着付与剤を含有し、 前記粘着付与剤(B)の酸価が、15mgKOH/g以下であり、 前記熱可塑性エラストマー(A)が、スチレン系ブロック共重合体であり、 前記スチレン系ブロック共重合体が、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)を含有する、ホットメルト接着剤。」である点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点1−1> 粘着付与剤(B)が、本件特許発明1では、さらに、ロジン系粘着付与剤を含有するのに対し、甲1発明ではさらに、ロジン系粘着付与剤を含有しない点。 <相違点1−2> ホットメルト接着剤が、本件特許発明1では、160℃で72時間保持後に、測定温度範囲:−20℃〜140℃、周波数:1.0Hz、昇温速度:5℃/分の条件で測定された温度23℃における経時後の貯蔵弾性率G’が350,000Pa以下;及び 160℃で72時間保持後に、測定温度範囲:−20℃〜140℃、周波数:1.0Hz、昇温速度:5℃/分の条件で測定された温度23℃における経時後の損失弾性率G’’が800,000Pa以下; の少なくとも一方(以下、「弾性率要件」という。)を満たすのに対し、甲1発明ではそのような特定がない点。 (イ)相違点についての検討 事案に鑑み、まず、<相違点1−2>について検討する。 <相違点1−2>について 甲1には、甲1発明のホットメルト感圧接着剤組成物(HMPSA)が、前記弾性率要件を満たすことは、記載されていないし、そのような要件に着目することについて、記載も示唆もない。 また、甲2にも、ホットメルトタイプSBS系粘着剤が、前記弾性率要件を満たすことは、記載されていないし、そのような要件に着目することについて、記載も示唆もない。 そうすると、甲1発明において、前記要件を満たすものとすることは、当業者が容易に想到し得るとはいえない。 (ウ)本件特許発明1の効果について 本件特許発明1は、優れた剥離強度を有し、且つ、高温で長時間加熱して溶融させた場合でも、優れた剥離強度を維持することができるという効果を奏するものであり、この効果は、甲1に記載されている事項に基づいて当業者が予測できるものとはいえない。 (エ)特許異議申立人の主張 特許異議申立人は、「本件特許公報段落0044には、「粘着付与剤(B)は、ロジン系粘着付与剤及びテルペン系粘着付与剤の少なくとも一方を含有する」こと、段落0046には、「粘着付与剤(B)の酸価が15mgKOH/gを超えると、粘着付与剤の酸化が促進されるため、ホットメルト接着剤の加熱安定性が劣る。」と記載されていることから、粘着付与剤として酸価が15mgKOH/g以下のものを用いる場合に加熱安定性が良好となると述べている。よって、構成1Fの物性パラメータ(当審注:前記弾性率要件のこと。)は、酸価が15mgKOH/g以下の粘着付与剤を使用すれば当然得られる値であり、特徴的要件ではない。甲第1号証(実施例5,6,9,10ほか)で用いられる粘着付与剤も、すべて酸価はゼロあるいは10以下であり、同様の物性を備える蓋然性が高い。 従って、甲1発明1のホットメルト接着剤は構成1Fを備えるものであり、そうでないとしても、甲1発明1のホットメルト接着剤を構成1Fの物性を備えるものとすることは当業者には容易に想到し得ることであり、本件特許発明1は甲1発明1から容易に想到することができる。」と主張する。 しかし、甲1発明のホットメルト感圧接着剤組成物(HMPSA)は、酸価が15mgKOH/g以下の粘着付与剤を含むものの、29%のジブロックと30%のスチレンとを有する放射状SISであるKraton(登録商標)D1124やExxon Mobil Chemicalから入手可能なEscorez(登録商標) 5600(これは芳香族化合物で変性した水素化ジシクロペンタジエン樹脂で、Mwは約980Da、軟化温度は100℃である)を含み、本件特許発明1と成分が大きく異なっているから、甲1発明のホットメルト感圧接着剤組成物(HMPSA)が前記要件を満たす蓋然性が高いとはいえず、上記(イ)で検討したとおり、甲1にも甲2にも、甲1発明のホットメルト感圧接着剤組成物(HMPSA)が、前記弾性率要件を満たすことは、記載されていないし、甲1にも甲2にも、そのような要件に着目することについて、記載も示唆もないから、そのような要件は当業者が容易に想到し得ることであるともいえない。また、酸価と前記弾性率要件との間の相関が一般的に知られているともいえない以上、特許異議申立人の上記主張は採用できない。 (オ)小括 以上のとおり、本件特許発明1は、<相違点1−1>について検討するまでもなく、甲1発明、又は、甲1発明及び甲2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできないから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるとはいえない。 イ 本件特許発明2〜6 本件特許発明2〜6は、本件特許発明1を直接的又は間接的に引用してさらに限定するものであり、上記本件特許発明1と甲1発明との<相違点1−2>と同じ相違点を有するものであって、<相違点1−2>については上記ア(イ)〜(エ)で検討したとおりであるから、本件特許発明2〜6は、甲1発明、又は、甲1発明及び甲2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできないから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるとはいえない。 (2)甲2発明を主たる引用発明とする場合 ア 本件特許発明1 (ア)甲2発明との対比 甲2発明の「粘着付与剤として、製造例1で得たデヒドロアビエチン酸69g、製造例2で得たテトラヒドロアビエチン酸11g、製造例3で得たジヒドロアビエチン酸20gを4つ口フラスコにとり、アルゴンシール下で180℃に昇温し、溶融攪拌下、200℃でグリセリン12gを加え、280℃で12時間エステル化反応させることにより得た、酸価8mg/KOHの樹脂酸エステル組成物(A1)」は、デヒドロアビエチン酸、テトラヒドロアビエチン酸及びジヒドロアビエチン酸はロジンの成分であるから(摘記2c参照)、本件特許発明1の「前記粘着付与剤(B)が、ロジン系粘着付与剤を含有し、 前記粘着付与剤(B)の酸価が、15mgKOH/g以下であり」に相当する。 甲2発明の「SBS(商品名「クレイトンD1102JSZ」、クレイトンポリマー社製)」は、SBSはスチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体であるから(摘記2a参照)、本件特許発明1の「熱可塑性エラストマー(A)」及び「前記熱可塑性エラストマー(A)が、スチレン系ブロック共重合体であり、 前記スチレン系ブロック共重合体が、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)を含有し」に相当する。 そうすると、本件特許発明1と甲2発明は、「熱可塑性エラストマー(A)を含むホットメルト接着剤であって、 前記粘着付与剤(B)が、ロジン系粘着付与剤を含有し、 前記粘着付与剤(B)の酸価が、15mgKOH/g以下であり 前記熱可塑性エラストマー(A)が、スチレン系ブロック共重合体であり、 前記スチレン系ブロック共重合体が、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)を含有する、ホットメルト接着剤。」である点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点2−1> 本件特許発明1は、粘着付与剤(B)を含有し、前記粘着付与剤(B)が、ロジン系粘着付与剤に加え、テルペン系粘着付与剤を含有し、 前記粘着付与剤(B)のテルペン系粘着付与剤の酸価も、15mgKOH/g以下であるのに対し、甲2発明はテルペン系粘着付与剤を含まない点。 <相違点2−2> ホットメルト接着剤が、本件特許発明1では、160℃で72時間保持後に、測定温度範囲:−20℃〜140℃、周波数:1.0Hz、昇温速度:5℃/分の条件で測定された温度23℃における経時後の貯蔵弾性率G’が350,000Pa以下;及び 160℃で72時間保持後に、測定温度範囲:−20℃〜140℃、周波数:1.0Hz、昇温速度:5℃/分の条件で測定された温度23℃における経時後の損失弾性率G’’が800,000Pa以下; の少なくとも一方(以下、「弾性率要件」という。)を満たすのに対し、甲2発明ではそのような特定がない点。 (イ)相違点についての検討 事案に鑑み、まず、<相違点2−2>について検討する。 <相違点2−2>について 甲2には、甲2発明のホットメルトタイプSBS系粘着剤が、前記弾性率要件を満たすことは、記載されていないし、そのような要件に着目することについて、記載も示唆もない。 また、甲1にも、ホットメルト感圧接着剤組成物(HMPSA)が、前記弾性率要件を満たすことは、記載されていないし、そのような要件に着目することについて、記載も示唆もない。 そうすると、甲2発明において、前記要件を満たすものとすることは、当業者が容易に想到し得るとはいえない。 (ウ)本件特許発明1の効果について 本件特許発明1は、優れた剥離強度を有し、且つ、高温で長時間加熱して溶融させた場合でも、優れた剥離強度を維持することができるという効果を奏するものであり、この効果は、甲2に記載されている事項に基づいて当業者が予測できるものとはいえない。 (エ)特許異議申立人の主張 特許異議申立人は、「相違点1−1(当審注:相違点2−2のこと。)についての検討で記述のとおり、構成1Fの物性パラメータは、酸価が15mgKOH/g以下の粘着付与剤を併用すれば当然得られる値であり、特徴的要件ではない。甲第2号証(具体的には実施例5〜8ほか)で用いられる粘着付与剤も、すべて酸価は8mgKOH/g以下であり、同様の物性を備える蓋然性が高い。仮に範囲内になかったとしても、当該技術分野において、当業者がその目的に応じて、当該物性パラメータを好ましい範囲を適宜選択するものである。」と主張する。 しかし、甲2発明のホットメルトタイプSBS系粘着剤は、酸価が15mgKOH/g以下の粘着付与剤を含むものの、ナフテン系オイル(商品名「JCT OIL B」、ジャパンケムテック(株)製)を含み、本件特許発明1と成分が大きく異なっているから、甲2発明のホットメルトタイプSBS系粘着剤が前記要件を満たす蓋然性が高いとはいえず、上記(イ)で検討したとおり、甲1にも甲2にも、甲1発明のホットメルト感圧接着剤組成物(HMPSA)が、前記弾性率要件を満たすことは、記載されていないし、甲1にも甲2にも、そのような要件に着目することについて、記載も示唆もないから、そのような要件は当業者が容易に想到し得ることであるともいえない。また、酸価と前記弾性率要件との間の相関が一般的に知られているともいえない以上、特許異議申立人の上記主張は採用できない。 (オ)小括 以上のとおり、本件特許発明1は、<相違点2−1>について検討するまでもなく、甲2発明、又は、甲2発明及び甲1に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできないから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるとはいえない。 イ 本件特許発明2〜6 本件特許発明2〜6は、本件特許発明1を直接的又は間接的に引用してさらに限定するものであり、上記本件特許発明1と甲2発明との<相違点2−2>と同じ相違点を有するものであって、<相違点2−2>については上記ア(イ)〜(エ)で検討したとおりであるから、本件特許発明2〜6は、甲2発明、又は、甲2発明及び甲1に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできないから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるとはいえない。 第5 理由2(サポート要件)について (1)本件特許発明1〜6の解決しようとする課題 本件特許発明1〜6の課題は、【0009】の記載からみて、優れた剥離強度を有し、且つ、高温で長時間加熱して溶融させた場合でも、優れた剥離強度を維持することができるホットメルト接着剤を提供することにあると認める。 (2)スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)について 本件特許明細書の【0046】に、粘着付与剤(B)の酸価が15mgKOH/gを超えると、粘着付与剤の酸化が促進されるため、ホットメルト接着剤の加熱安定性が劣ることが記載されているとともに、本件特許明細書の【表1】には、スチレン系ブロック共重合体としてSBSを含有し、粘着付与剤(B)として、酸価が15mgKOH/g以下である、ロジン系粘着付与剤及びテルペン系粘着付与剤を含有する具体的な態様も示されていて、含まれる粘着付与剤(B)の酸価が15mgKOH/g以下であれば、ホットメルト接着剤の加熱安定性が優れることが、具体的に裏付けられている。 そうすると、含まれるスチレン系ブロック共重合体が、SBS以外のスチレン系ブロック共重合体を主体とし、これにSBSを微量含むスチレン系ブロック共重合体を含有するものも、酸価が15mgKOH/g以下である、ロジン系粘着付与剤及びテルペン系粘着付与剤を含有すれば、ホットメルト接着剤の加熱安定性が優れ、前記課題を解決できると推認できる。 また、特許異議申立の理由は、前記課題を解決できないことについて、単なる疑義を述べるに留まるものであってなんら具体的な立証や証拠を示していない。 したがって、発明の詳細な説明の内容を参酌すれば、本件特許発明1が、前記課題を解決できると認識できる範囲にあるといえ、本件特許発明1は、発明の詳細な説明において、発明の課題が解決できることを当業者が理解できるように記載された範囲を超えているとはいえない。 本件特許発明2〜6についても、同様である。 (3)ロジン系粘着付与剤及びテルペン系粘着付与剤について 前記(2)のとおり、本件特許明細書の【0046】の記載から、粘着付与剤(B)の酸価が15mgKOH/g以下であれば、ホットメルト接着剤の加熱安定性が優れるといえ、本件特許明細書の【表1】からみて、ロジン系粘着付与剤やテルペン系粘着付与剤を単独で使用する場合と比較して、ロジン系粘着付与剤およびテルペン系粘着付与剤を併用することの効果はないかもしれないが、酸価が15mgKOH/g以下である、ロジン系粘着付与剤及びテルペン系粘着付与剤を含有するものが、前記課題を解決できることは、理解でき、含まれる粘着付与剤(B)の酸価が15mgKOH/g以下であれば、ホットメルト接着剤の加熱安定性が優れることが、裏付けられている。 そうすると、無限少のロジン、テルペンを配合した場合においても、ホットメルト接着剤の加熱安定性が少しは優れ、前記課題を解決できると推認できる。 また、特許異議申立の理由は、前記課題を解決できないことについて、なんら具体的な立証や証拠を示していない。 したがって、発明の詳細な説明の内容を参酌すれば、本件特許発明1が、前記課題を解決できると認識できる範囲にあるといえ、本件特許発明1は、発明の詳細な説明において、発明の課題が解決できることを当業者が理解できるように記載された範囲を超えているとはいえない。 本件特許発明2〜6についても、同様である。 第6 むすび 以上のとおりであるから、特許異議申立人による特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1〜6に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1〜6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2022-10-03 |
出願番号 | P2021-100881 |
審決分類 |
P
1
651・
537-
Y
(C09J)
P 1 651・ 121- Y (C09J) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
蔵野 雅昭 |
特許庁審判官 |
瀬下 浩一 関根 裕 |
登録日 | 2022-01-07 |
登録番号 | 7005063 |
権利者 | 積水フーラー株式会社 |
発明の名称 | ホットメルト接着剤 |
代理人 | 弁理士法人三枝国際特許事務所 |