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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A23L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A23L
管理番号 1390611
総通号数 11 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-11-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-07-19 
確定日 2022-11-07 
異議申立件数
事件の表示 特許第7000629号発明「小麦ふすま組成物及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7000629号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第7000629号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし6に係る特許についての出願は、2020年(令和2年)9月29日(優先権主張 2019年(令和1年)9月30日)を国際出願日とする特願2021−512829号に係るものであって、令和3年12月27日にその特許権の設定登録(請求項の数6)がされ、令和4年1月19日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、同年7月19日に特許異議申立人 志方 志乃(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:全請求項)がされたものである。

第2 本件発明
本件特許の請求項1ないし6に係る発明(以下、順に「本件発明1」のようにいう。)は、それぞれ、本件特許の願書に添付された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
中間質小麦である白小麦を原料とし、食物繊維含有率が43質量%以上60質量%以下であり且つ糖質含有量が10質量%以上18質量%以下であり、平均粒径が10μm以上200μm以下であり、熱処理されたものである、小麦ふすま組成物。
【請求項2】
湿熱処理されたものである、請求項1に記載の小麦ふすま組成物。
【請求項3】
アラビノキシラン含有率が20質量%以上である、請求項1又は2に記載の小麦ふすま組成物。
【請求項4】
アルキルレゾルシノール含有量が0.25質量%以上である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の小麦ふすま組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の小麦ふすま組成物を含有するミックス。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の小麦ふすま組成物を原料として用いる加工食品の製造方法。」

第3 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
令和4年7月19日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。

1 申立理由1−1(甲第1号証に基づく新規性
本件特許の請求項1、5及び6に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1、5及び6に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

2 申立理由1−2(甲第2号証に基づく新規性
本件特許の請求項1、5及び6に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1、5及び6に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

3 申立理由2−1(甲第1号証に基づく進歩性
本件特許の請求項1ないし6に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基づいて、本件特許の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし6に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

4 申立理由2−2(甲第2号証に基づく進歩性
本件特許の請求項1ないし6に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第2号証に記載された発明に基づいて、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし6に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

5 証拠方法
甲第1号証:特開2017−12099号公報
甲第2号証:特開平11−103800号公報
甲第3号証:特開2018−90530号公報
甲第4号証:特開2015−53868号公報
甲第5号証:特開2013−243984号公報
甲第6号証:特開2018−87172号公報
甲第7号証:特開2014−214105号公報
なお、証拠の表記は、特許異議申立書の記載に従った。
以下、順に「甲1」のようにいう。

第4 当審の判断
以下に記載するように、特許異議申立人の申立理由1−1ないし2−2はいずれも理由がない。

1 申立理由1−1及び申立理由2−1(甲1に基づく新規性進歩性)について
(1)甲1に記載された事項等
ア 甲1に記載された事項
甲1には、「微粉砕ふすまの製造方法、該方法で得られる微粉砕ふすま、及び該微粉砕ふすまを用いて得られる食品」に関して、おおむね次の事項が記載されている。下線については当審において付与した。以下同じ。
・「【特許請求の範囲】
【請求項1】
小麦としてウエスタン・ホワイトを用い、該小麦から小麦粉を得るための製粉工程で分離されるふすまの画分のうち、粒度が所定値より小さい画分と、粒度が所定値より大きい画分を除いた中間粒度画分のふすまを採取し、このふすまを焙煎した後、粒度分布における中位径が100μm以下になるように粉砕することを特徴とする微粉砕ふすまの製造方法。」
・「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1、2では、製粉工程から得られる通常の小麦ふすまをそのまま用いて粉砕処理を行っており、加熱処理は湿熱処理が好ましいとされている。
【0008】
しかしながら、製粉工程からふすま画分として分離される通常の小麦ふすまを用いると、食物繊維含量を高く維持しつつ、ふすま臭の強い画分を除くことができないという問題があった。
【0009】
また、特許文献2では、小麦ふすまの粉砕物から、アルキルレゾルシノールの含有量の高い中位径50μm未満の微粒子画分を採取しているが、アルキルレゾルシノールの含有量の低い画分を利用できなくなるので、収率が低下するという問題があった。
【0010】
したがって、本発明の目的は、ふすま臭がより低減されるようにした微粉砕ふすまを提供することにある。」
・「【0012】
本発明の微粉砕ふすまの製造方法によれば、小麦としてウエスタン・ホワイトを用いることにより、ふすま臭が弱められると共に、色調の明るいふすまを提供することができる。また、小麦粉を得るための製粉工程で分離されるふすまの画分のうち、粒度が所定値より小さい画分と、粒度が所定値より大きい画分を除いた中間粒度画分のふすまを採取して原料とすることにより、食物繊維含量を高く維持しつつ、ふすま臭を低減することができる。更に、該ふすまを焙煎処理することにより、ふすま臭を更に低減して、好ましい香ばしい香りを付与できると共に、微粉砕しやすくすることができ、更に製品の保存性を高めることができる。こうして得られる微粉砕ふすまは、ふすま臭が効果的に軽減され、好ましい香ばしい香りが付与され、食品に添加したときの色調変化を軽減して外観を良好に保ち、食した際にざらつきの少ない滑らかな食感を付与することができる。」
・「【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、ふすま臭が効果的に軽減され、好ましい香ばしい香りが付与され、食品に添加したときの色調変化を軽減して外観を良好に保ち、食した際にざらつきの少ない滑らかな食感を付与することができる微粉砕ふすまを提供できる。」
・「【0042】
なお、本発明の微粉砕ふすまの食物繊維含量は、30〜60質量%が好ましく、35〜50質量%がより好ましい。ここで、食物繊維含量は、酵素−重量法で測定した値を意味する。
【0043】
本発明の微粉砕ふすまは、各種の食品原料として利用することができる。例えば、スポンジケーキ、バターケーキ、クッキー、パイ、スコーン、ホットケーキ等の洋菓子や、どら焼き、たい焼き等の和菓子や、食パン、クロワッサン、ロールパン等のパンの原料として使用することができる。」
・「【0046】
<実施例1>
小麦としてウエスタン・ホワイトを用い、その製粉工程で得られるふすま画分であって、目開き800μmのふるいをパスし、目開き425μmのふるいをオンする中間粒度の画分を採取した。このふすまの灰分は、約4.5%であった。
【0047】
上記ふすまを、回転釜に入れて、撹拌しながら、最終品温110℃となるように加熱し、合計90分間焙煎した。こうして得られた焙煎ふすまは、一般生菌数が1.9×102個/gであり、水分量は1.7質量%であった。
【0048】
上記焙煎ふすまを、気流粉砕によって粉砕した。
【0049】
上記粉砕物を目開き200μmのふるいにかけ、パスした部分(以下「微粉砕ふすま」とする)を採取し、オンした部分を除去した。
【0050】
こうして得られた微粉砕物を、レーザー回折/散乱式粒度分布計(例えば商品名「マイクロトラック」、日機装社製)を用いて測定したところ、粒度分布における50%中位径が25.5μmであった。また、微粉砕ふすまの食物繊維含量は40.3質量%であった。
【0051】
<比較例1>
小麦として、オーストラリア産スタンダード・ホワイト(ASW)を用い、他は実施例1と同様にして、微粉砕ふすまを製造した。」
・「【0064】
【表3】


・「【0067】
【表4】


・「【0068】
【表5】



イ 甲1に記載された発明
甲1には、上記アから、比較例1として記載されている微粉砕ふすまとして、以下の発明が記載されているといえる。

<甲1発明>
「小麦として、オーストラリア産スタンダード・ホワイト(ASW)を用い、その製粉工程で得られるふすま画分であって、目開き800μmのふるいをパスし、目開き425μmのふるいをオンする中間粒度の画分を採取し、このふすまを、回転釜に入れて、撹拌しながら、最終品温110℃となるように加熱し、合計90分間焙煎し、この焙煎ふすまを、気流粉砕によって粉砕し、この粉砕物を目開き200μmのふるいにかけ、パスした部分である微粉砕ふすま。」

(2)本件発明1について
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「小麦として、オーストラリア産スタンダード・ホワイト(ASW)を用い」は、ASWは中間質小麦である白小麦であるから(本件特許明細書の段落【0012】及び【0013】の記載も参照)、本件発明1の「中間質小麦である白小麦を原料とし」に相当する。
甲1発明の「微粉砕ふすま」は、本件発明1の「小麦ふすま組成物」に相当する。
甲1発明は「回転釜に入れて、撹拌しながら、最終品温110℃となるように加熱し、合計90分間焙煎」しているから、本件発明1と同様に「熱処理されたもの」といえる。
甲1発明は「目開き800μmのふるいをパスし、目開き425μmのふるいをオンする中間粒度の画分を採取し」、焙煎した「焙煎ふすまを、気流粉砕によって粉砕し、この粉砕物を目開き200μmのふるいにかけ、パスした部分である」から、本件発明1と同様に、「平均粒径が10μm以上200μm以下であ」るといえる。

そうすると、本件発明1と甲1発明は、
「中間質小麦である白小麦を原料とし、平均粒径が10μm以上200μm以下であり、熱処理されたものである、小麦ふすま組成物。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1−1>
本件発明1は、「食物繊維含有率が43質量%以上60質量%以下であり且つ糖質含有量が10質量%以上18質量%以下」と特定するのに対し、甲1発明は、食物繊維含有率及び糖質含有率は不明である点

以下、相違点1−1について検討する。
まず、新規性について検討する。
甲1発明の「小麦として、オーストラリア産スタンダード・ホワイト(ASW)を用い、目開き800μmのふるいをパスし、目開き425μmのふるいをオンする中間粒度の画分を採取し、このふすまを、回転釜に入れて、撹拌しながら、最終品温110℃となるように加熱し、合計90分間焙煎し、この焙煎ふすまを、気流粉砕によって粉砕し、この粉砕物を目開き200μmのふるいにかけ、パスし」製造された微粉砕ふすまにおける、食物繊維含有量及び糖質含有量は、甲1の記載からは不明であり、甲1発明の食物繊維含有量及び糖質含有量がどの程度になるかを推認できる証拠は示されていないから、相違点1−1は、実質的な相違点である。
よって、本件発明1は、甲1発明であるとはいえない。
次に、進歩性について検討する。
甲1には、「本発明の微粉砕ふすまの食物繊維含量は、30〜60質量%が好ましく、35〜50質量%がより好ましい。」との記載があり、甲3には、市販の小麦ふすまの食物繊維含有量が47.4%のものがあること(段落【0032】【表1】)が記載され、甲4には、小麦ふすまの糖質含有量が18g/100gで食物繊維含有量が44g/100gである実施例1(段落【0035】【表1】)が記載されている。
しかしながら、甲1の上記記載は、本件発明1の43〜60質量%より広い範囲であるし、甲4の記載は、特定の小麦ふすまが、たまたま、そのような数値を取っているものであり、甲4には、相違点1−1の範囲外の数値の小麦ふすまも記載されている。
そうすると、甲1発明において、相違点1−1に係る本件発明1の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載は甲1にはないし、他の証拠にもないといえる。
さらにいえば、甲1発明は、甲1において比較例として記載されている発明であるから、当該甲1発明からさらに何かを変更しようとする動機はない。
したがって、甲1発明において、相違点1−1に係る本件発明1の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
そして、本件発明1の奏する「二次加工性が高く、且つ外観、風味及び食感に優れる」という効果は、甲1発明並びに甲1及び他の証拠に記載された事項から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。

よって、本件発明1は、甲1発明、すなわち、甲1に記載された発明でないし、甲1に記載された発明及びその余の提出された証拠に基づいても容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)本件発明2ないし6について
本件発明2ないし6は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、請求項1に記載された発明特定事項を全て備えるものであるから、本件発明1と同様に、本件発明2ないし4は、甲1に記載された発明及びその他の証拠に基づいて当業者が容易に発明をすることできたものではないし、本件発明5及び6は、甲1に記載された発明でなく、甲1に記載された発明及びその他の証拠に基づいて当業者が容易に発明をすることできたものではない。

(4)まとめ
よって、申立理由1−1及び申立理由2−1には理由がない。

2 申立理由1−2及び申立理由2−2(甲2に基づく新規性進歩性)について
(1)甲2に記載された事項等
ア 甲2に記載された事項
甲2には、「微粉砕小麦ふすまの製造方法」に関して、おおむね次の事項が記載されている。
・「【特許請求の範囲】
【請求項1】 小麦ふすまを脱脂した後、焙焼し、次いで粉砕することを特徴とする微粉砕小麦ふすまの製造方法。」
・「【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、特開昭62−87061号公報、特開平5−304915号公報、及び特開昭63−17674号公報の技術では、小麦ふすまを粒径の小さい微粉砕物とすることが困難で、保存安定性の向上が認められない。また特開平7−28697号公報では食感がざらつくという欠点を解決することができない。また水洗に伴う廃液が多量に発生するとともに、脱水、乾燥に時間、労力を要し、非常に効率が悪い。
【0006】したがって本発明は、食感のざらつきがなく、かつ保存安定性も向上した微粉砕化した小麦ふすまを、容易かつ効率的に製造する方法を提供することを目的とする。」
・「【0017】参考例1
オーストラリア産のスタンダード小麦のふすまを、クッカーを用いて0.5kg/cm2 で4分間蒸煮した後、98〜100℃で8〜10分間乾熱処理した。次いでこれをターボミルT−250を用いて粉砕した後、篩分けを行い、マイクロトラックFSAで測定した平均粒径(中央累積値、50%粒径、以下同じ)が、それぞれ18μm、33μm、40μm、46μmである4サンプルを得た。
【0018】参考例2
参考例1で得られた4サンプルを、一食あたり約5gの食物繊維(一食あたりの食物繊維摂取量の目安)が摂取できるように配合して、ホットケーキ、食パン、クッキー、ケーキマフィンを製造した。」
・「【0022】実施例1
オーストラリア産のスタンダードホワイト小麦のふすまを、10倍量のn−ヘキサンに室温下にて24時間浸漬した後、濾過及び加温してn−ヘキサンを除去させ(脱脂処理)、脂肪率を2重量%とした。次いで30分間で130℃まで昇温し、同温度で1時間乾熱処理し(焙焼処理)、水分含量を2重量%とした。これを超遠心粉砕機(Retsch社製)を用い、小麦ふすまの供給量を210〜400g/時間の範囲で変化させて、微粉砕化した。」
・「【0024】試験例2
上記で得られた微粉砕小麦ふすまを、マイクロトラックFSAを用いて平均粒径を測定した。結果を図1に示す。なお数値の単位はμmである。
【0025】実施例1は比較例1、2、及び4と比較して、小麦ふすまの供給量210〜400g/時間の範囲で平均粒径が小さい。すなわち、脱脂処理の後焙焼処理することにより、未処理、脱脂処理のみ、または焙焼処理のみの場合と比較して、平均粒径を容易に小さくすることができることが確認された。また比較例3は比較例1、2、及び4より平均粒径が小さいが、実施例1よりは大きい。すなわち、脱脂処理の後焙焼処理をした場合、焙焼処理をした後脱脂処理をした場合よりも平均粒径を容易に小さくすることができることが確認された。また実施例1の場合は、小麦ふすまの供給量210〜400g/時間の範囲で平均粒径を40μm以下とすることができ、一食あたりに必要とされる食物繊維を微粉砕小麦ふすまとして配合した場合でも、食品のざらつき感を抑えることが可能である。」
・「【0043】
【発明の効果】本発明の方法により、食感のざらつきがなく、また保存安定性にも優れた微粉砕小麦ふすまを、容易かつ効率的に得ることができる。」
・「【図1】



イ 甲2に記載された発明
甲2の上記アの段落【0024】【0025】及び図1の記載から、実施例1の微粉砕化した小麦ふすまの平均粒径は20〜40μmであると看取できる。
そうすると、甲2には、実施例1として記載されている微粉砕小麦ふすまとして、以下の発明が記載されているといえる。

<甲2発明>
「オーストラリア産のスタンダードホワイト小麦のふすまを、10倍量のn−ヘキサンに室温下にて24時間浸漬した後、濾過及び加温してn−ヘキサンを除去させ(脱脂処理)、次いで30分間で130℃まで昇温し、同温度で1時間乾熱処理し(焙焼処理)、これを超遠心粉砕機(Retsch社製)を用い、小麦ふすまの供給量を210〜400g/時間の範囲で変化させて得た、平均粒径が20〜40μmである、微粉砕小麦ふすま。」

(2)本件発明1について
本件発明1と甲2発明とを対比する。
甲2発明は「オーストラリア産のスタンダードホワイト小麦のふすま」を用いているから、本件発明1の「中間質小麦である白小麦を原料とし」ているといえる。
甲2発明の「微粉砕小麦ふすま」は、本件発明1の「小麦ふすま組成物」に相当する。
甲2発明は「30分間で130℃まで昇温し、同温度で1時間乾熱処理し(焙焼処理)」しているから、本件発明1と同様に「熱処理されたもの」といえる。
甲2発明の微粉砕小麦ふすまの平均粒径は20〜40μmであるから、本件発明1の「平均粒径が10μm以上200μm以下」を満たす。

そうすると、本件発明1と甲2発明は、
「中間質小麦である白小麦を原料とし、平均粒径が10μm以上200μm以下であり、熱処理されたものである、小麦ふすま組成物。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点2−1>
本件発明1は、「食物繊維含有率が43質量%以上60質量%以下であり且つ糖質含有量が10質量%以上18質量%以下」と特定するのに対し、甲2発明は、食物繊維含有率及び糖質含有率は不明である点

以下、相違点2−1について検討する。
まず、新規性について検討する。
甲2及び甲2発明には、食物繊維含有量及び糖質含有量についての言及はなく、甲2発明の微粉砕小麦ふすまにおける、食物繊維含有量及び糖質含有量は不明であり、甲2発明の食物繊維含有量及び糖質含有量がどの程度になるかを推認できる証拠も示されていないから、相違点2−1は、実質的な相違点である。
よって、本件発明1は、甲2発明であるとはいえない。
次に、進歩性について検討する。
甲4には、小麦ふすまの糖質含有量が18g/100gで食物繊維含有量が44g/100gである実施例1が記載されているが、甲4の記載は、特定の小麦ふすまが、たまたま、そのような数値を取っているものであり、甲4には、相違点2−1の範囲外の数値の小麦ふすまも記載されている。
そうすると、甲2には、甲2発明において、相違点2−1に係る本件発明1の発明特定事項を採用する動機付けとなる記載はないし、他の証拠にもないといえる。
したがって、甲2発明において、相違点2−1に係る本件発明1の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
そして、本件発明1の奏する「二次加工性が高く、且つ外観、風味及び食感に優れる」という効果は、甲2発明並びに甲2及び他の証拠に記載された事項から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。

よって、本件発明1は、甲2発明、すなわち、甲2に記載された発明でないし、甲2に記載された発明及びその余の提出された証拠に基づいても容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)本件発明2ないし6について
本件発明2ないし6は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、請求項1に記載された発明特定事項を全て備えるものであるから、本件発明1と同様に、本件発明2ないし4は、甲2に記載された発明及びその他の証拠に基づいて当業者が容易に発明をすることできたものではないし、本件発明5及び6は、甲2に記載された発明でなく、甲2に記載された発明及びその他の証拠に基づいて当業者が容易に発明をすることできたものではない。

(4)まとめ
よって、申立理由1−2及び申立理由2−2には理由がない。

第5 むすび
上記第4のとおり、本件特許の請求項1ないし6に係る特許は、特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。


 
異議決定日 2022-10-28 
出願番号 P2021-512829
審決分類 P 1 651・ 113- Y (A23L)
P 1 651・ 121- Y (A23L)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 平塚 政宏
特許庁審判官 磯貝 香苗
大島 祥吾
登録日 2021-12-27 
登録番号 7000629
権利者 株式会社日清製粉グループ本社 日清製粉株式会社 株式会社日清製粉ウェルナ
発明の名称 小麦ふすま組成物及びその製造方法  
代理人 弁理士法人翔和国際特許事務所  
代理人 弁理士法人翔和国際特許事務所  
代理人 弁理士法人翔和国際特許事務所  

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