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審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 H01M 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 H01M 審判 全部申し立て 2項進歩性 H01M |
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管理番号 | 1390613 |
総通号数 | 11 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2022-11-25 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2022-07-19 |
確定日 | 2022-10-18 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6996546号発明「蓄電デバイス用包装材、蓄電デバイス用容器及び蓄電デバイス」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6996546号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6996546号の請求項1ないし6に係る特許についての出願は、令和元年12月20日に出願され、令和3年12月20日にその特許権の設定登録がされ、令和4年1月17日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和4年7月19日に特許異議申立人小島早奈実より特許異議の申立てがなされたものである。 第2 本件発明 特許第6996546号の請求項1ないし6の特許に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明6」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。 「【請求項1】 少なくとも、外層側樹脂フィルム層(1)、外層側接着剤層(2)、金属箔層(3)、内層側接着剤層(4)及びヒートシール層(5)が、この順に外側から積層されている構成を備えた蓄電デバイス用包装材であって、 前記外層側接着剤層(2)が、水酸基を有するポリウレタン樹脂(A)を含む主剤と、ポリイソシアネート成分(B)を含む硬化剤とを含有するポリウレタン接着剤から形成されたものであり、 前記水酸基を有するポリウレタン樹脂(A)を構成するポリイソシアネートが、トリレンジイソシアネート、又はトリレンジイソシアネートにトリメチロールプロパンが付加したアダクト体を含み、 前記水酸基を有するポリウレタン樹脂(A)のウレタン結合濃度が、0.10mmol/g以上、 0.40mmol/g以下である蓄電デバイス用包装材。 【請求項2】 前記水酸基を有するポリウレタン樹脂(A)の重量平均分子量が、50,000〜250,000である、請求項1に記載の蓄電デバイス用包装材。 【請求項3】 前記水酸基を有するポリウレタン樹脂(A)の水酸基価が、0.5〜35mgKOH/gである、請求項1又は2に記載の蓄電デバイス用包装材。 【請求項4】 前記水酸基を有するポリウレタン樹脂(A)は、重量平均分子量が10,000〜30,000のポリエステルポリオールと、ポリイソシアネートとの反応生成物である、請求項1〜3いずれか1項に記載の蓄電デバイス用包装材。 【請求項5】 請求項1〜4いずれか1項に記載の蓄電デバイス用包装材から形成されてなる蓄電デバイス用容器であって、外層側樹脂フィルム層(1)が凸面を構成し、ヒートシール層(5)が凹面を構成している、蓄電デバイス用容器。 【請求項6】 請求項5に記載の蓄電デバイス用容器を備えてなる蓄電デバイス。」 第3 申立理由の概要 特許異議申立人小島早奈実(以下、「異議申立人」という。)は、甲第1号証として特開2017−25287号公報(以下「引用文献1」という。)、甲第2号証として特開2017−152349号公報(以下「引用文献2」という。)、甲第3号証として「液状ポリウレタン編集委員会編、液状ポリウレタンの最新応用技術、株式会社中日社、1989年2月1日 第1版第1刷発行、第275〜287頁」を提出して、概略、次の理由によって、請求項1ないし6に係る発明の特許を取り消すべきである旨主張している。 (取消理由1)本件特許の請求項1、5、6に係る発明は、引用文献1に記載された発明であるから、請求項1、5、6に係る発明の特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものである。 (取消理由2)本件特許の請求項1ないし6に係る発明は、引用文献1に記載された発明又は引用文献2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし6に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 (取消理由3)請求項1に係る発明は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載された範囲を超えるものであるから、本件の請求項1及び請求項1を引用する請求項2ないし6に係る発明の特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たさない特許出願についてされたものである。 第4 文献の記載 1 引用文献1について (1)引用文献1に記載された事項 引用文献1には、異議申立人が引用する「合成例B−4」に関連して、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。) なお、「合成例B−4」は、引用文献1における比較例10に用いられるポリエステルポリオール溶液(B)であって、以下の引用は、比較例10に関してのものである。 「【0001】 本発明は、複数のシート材料を積層してなるラミネートフィルム用の接着剤として有用な二液硬化型の接着剤組成物及びこれを用いてなる包装材料等に関し、更に詳しくは、ポリエステル樹脂と硬化剤とを反応させる二液硬化型のポリエステルウレタン樹脂を含む接着剤組成物に関する。また、例えば、ノートパソコン用、携帯電話用、車載用、定置型の二次電池(リチウムイオン二次電池)及びキャパシターや、食品又は医薬品の包装材に好適に用いられる、上記接着剤組成物を用いて形成された包装材料、電池用外装材及び成形ケース、更には、それらを用いてなる蓄電デバイスに関する。」 「【0035】 本発明の別の実施形態として、図1に、本発明の接着剤組成物によって接着層を形成してなる電池用外装材1の層構造の一例を模式的に示した。例示した電池用外装材1は、リチウムイオン2次電池ケース用の包装材料として用いられるものである。すなわち、電池用外装材1は、張り出し成形等の成形に供されて、2次電池ケースとして用いられるものである。図1に示したように、電池用外装材1は、耐熱性プラスチックフィルム2と、アルミ箔等の金属箔4と、ポリオレフィンシーラントフィルム3とが接着剤層5、6を介して積層された構造を有し、該接着剤層5、6の少なくともいずれかが、本発明の接着剤組成物によって形成されていることを特徴とする。以下、電池用外装材1を構成するそれぞれの材料等について説明する。」 図1 「【0040】 次に、図1に示した電池用外装材1を構成するポリオレフィンシーラントフィルム3について説明する。前記ポリオレフィンシーラントフィルム3は、リチウムイオン2次電池等で用いられる腐食性の強い電解液等に対しても優れた耐薬品性を具備するとともに、包装材料にヒートシール性を付与する役割を担うものである。前記ポリオレフィンシーラントフィルム3の材質は、特に限定されるものではないが、ポリエチレンやポリプロピレン等のオレフィン系重合体、これらの酸変性物及びアイオノマーからなる群より選ばれた少なくとも1種の熱可塑性樹脂からなる未延伸フィルムであることが好ましい。また、電池用外装材1を構成する前記ポリオレフィンシーラントフィルム3の厚さは、20〜80μmに設定されるのが好ましい。」 「【実施例】 【0043】 次に、実施例及び比較例を挙げて本発明をより詳細に説明する。本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。なお、文中「部」又は「%」とあるのは、特に規定されていなければ質量基準である。」 「【0046】 (合成例A−2) ネオペンチルグリコールを30モル部、エチレングリコールを30モル部、1,6−ヘキサンジオールを40モル部、80℃で溶融し、撹拌しながら、アジピン酸20モル部、イソフタル酸80モル部を加え、210℃で20時間縮重合反応させて、ポリエステルポリオールを得た。このポリエステルポリオールの数平均分子量(Mn)は10000で、本発明で規定する多官能カルボン酸中における芳香族多官能カルボン酸の含有率は80モル%であった。更に、得られたポリエステルポリオール40部に、酢酸エチルを60部加えて、不揮発分40%、粘度420mPa・S/25℃の流動状のポリエステル樹脂液とした。また、その水酸基価は4.5mgKOH/g(溶液値)、酸価は0.2mgKOH/g(溶液値)であった。」 「【0059】 (合成例B−4) 反応容器に、ジオール成分が、ネオペンチルグリコール/エチレングリコール/1,6−ヘキサンジオール=30/30/40(モル比)で、ジカルボン酸成分が、アジピン酸/イソフタル酸=20/80(モル比)で、これらを反応させて、水酸基価が22.4mgKOH/g、酸価が0.3mgKOH/g、数平均分子量が5000のポリエステルポリオールを得た。得られたポリエステルポリオール100部と、NCO/OH=2配合比のトリレンジイソシアネート34.7部と、酢酸エチル178部を仕込み、窒素気流下、80℃5時間撹拌反応させて反応を完結させ、ポリエステルポリオールの両末端にトリレンジイソシアネートが付加した、NCO%が1.18%で不揮発分75%の末端ジイソシアネートプレポリマーを得た。 【0060】 次いで、トリメチロールプロパン26.8部と、酢酸エチル664部を新たな反応容器に仕込み、80℃にて溶解後、上記で得た末端ジイソシアネートプレポリマーであるウレタンプレポリマー713部を撹拌しながら仕込み、窒素気流下、80℃5時間撹拌反応させて、ウレタンプレポリマーの両末端のイソシアネート基1モル当たりにトリメチロールプロパン分子1モルを完全に付加反応させた。この結果、不揮発分が40%、数平均分子量(Mn)が5620、水酸基価が15.9mgKOH/g(溶液値)である、3官能以上のヒドロキシル基を有するポリエステルウレタン化合物溶液B−4を得た。」 「【0062】 実施例或いは比較例では、硬化剤として、下記の硬化剤H−1及び硬化剤H−2をそれぞれ用いた。 (硬化剤H−1) 硬化剤H−1は、芳香族多官能イソシアネートであるトリレンジイソシアネートと、トリメチロールプロパンとのアダクト体(NCO%13.0%、不揮発分75%)である。」 「【0065】 [実施例2〜7、比較例1〜12] 先に調製した各合成例Aのポリエステル樹脂液と、各合成例Bのポリエステルウレタン化合物溶液と、硬化剤と、更に必要に応じて添加するその他の成分とを、表3又は表4に示した種類及び配合量で用い、実施例1と同様の手順で混合し各主剤とした。次いで、得られた各主剤溶液100部に、硬化剤を、表3又は表4に示した種類及び配合量で添加後、不揮発分が30%となるように酢酸エチルを添加混合し、実施例2〜7、比較例1〜12の各ポリエステルウレタン樹脂接着剤を得た。なお、表3又は表4に記載の如く、比較例12では、トリメチロールプロパンを添加混合し、実施例6、7では、硬化触媒として、ジモルホリノジエチルエーテル(硬化触媒1)、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7(硬化触媒2)を添加混合した。」 「【0066】 [評価] 上記で得た実施例及び比較例の各接着剤組成物及び使用した各主剤について、下記の方法及び評価基準で評価した。」 「【0067】 ・・・(途中省略)・・・ <成形性、耐熱性、耐シール性、耐熱水性の評価> (評価用ラミネート品の作成) 延伸NY(ポリアミド)25μm/接着層1/アルミ箔35μm/接着層2/CPP(無軸延伸ポリプロピレン)の構成からなる評価用ラミネート品を、下記の手順で作製した。接着層1及び接着層2の塗布量は、いずれも3.5g/m2(乾燥後質量)とした。最初に、実施例及び比較例の各接着剤組成物を用い、延伸NY上に接着層1を塗布し、延伸NYとアルミ箔をドライラミネートした。引き続いてアクリル系接着剤を用いて、塗布ラミネートして接着層2を形成し、その後、40℃で120時間エージングした。このようにして得た評価用ラミネート品から、110mm×180mmの大きさで切り出して評価試験用シートとした。」 「【0075】 」 (2)引用文献1に記載された技術事項について ア 段落【0001】より、引用文献1の比較例10は、「複数のシート材料を積層し」た「ラミネートフィルム」「を用いてなる」、「蓄電デバイス」「の包装材」に関するものであることがわかる。 イ 段落【0046】より、「(合成例A−2)」で得られたものは、「流動状のポリエステル樹脂液」であることがわかる。 ウ 段落【0059】、【0060】より、「(合成例B−4)」における「3官能以上のヒドロキシル基を有するポリエステルウレタン化合物溶液B−4」は、次のようにして合成されたものであることがわかる。 「水酸基価が22.4mgKOH/g」「のポリエステルポリオール」「100部と、NCO/OH=2配合比のトリレンジイソシアネート34.7部と、酢酸エチル178部を仕込み、」、「反応させて」、「ポリエステルポリオールの両末端にトリレンジイソシアネートが付加した、NCO%が1.18%で不揮発分75%の末端ジイソシアネートプレポリマーを得」、「次いで、トリメチロールプロパン26.8部と、酢酸エチル664部を」「仕込み、」「上記で得た末端ジイソシアネートプレポリマーであるウレタンプレポリマー713部を」「仕込み、」「反応させて、ウレタンプレポリマーの両末端のイソシアネート基1モル当たりにトリメチロールプロパン分子1モルを完全に付加反応させ」て、「3官能以上のヒドロキシル基を有するポリエステルウレタン化合物溶液B−4を得た。」 エ 段落【0062】より、「硬化剤H−1は、芳香族多官能イソシアネートであるトリレンジイソシアネートと、トリメチロールプロパンとのアダクト体」であることがわかる。 オ 段落【0065】、表4−2(比較例10)より、合成例A−2のポリエステル樹脂液80部と、合成例B−4のポリエステルウレタン化合物溶液20部とを用いて主剤溶液とし、主剤溶液に、硬化剤H−1を添加後、不揮発分が30%となるように酢酸エチルを添加混合し、比較例10のポリエステルウレタン樹脂接着剤を得た、との技術事項を読み取ることができる。 カ 段落【0035】、【0067】より、「包装材」の「層構造」は、「延伸NY(ポリアミド)/接着層1/アルミ箔/接着層2/CPP(無軸延伸ポリプロピレン)の構成からな」り、比較例10では、「接着層1」に比較例10の「接着剤」「を用い」ていることを読み取ることができる。 (3)引用文献1に記載された発明について 上記(2)アないしカより、比較例10の「合成例A−2のポリエステル樹脂液」を「流動状のポリエステル樹脂液」と言い換え、「合成例B−4のポリエステルウレタン化合物溶液」を「ポリエステルウレタン化合物溶液」と言い換え、「硬化剤H−1」を「硬化剤」と言い換えると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。 「複数のシート材料を積層したラミネートフィルムを用いてなる、蓄電デバイスの包装材であって、 包装材の層構造は、延伸NY(ポリアミド)/接着層1/アルミ箔/接着層2/CPP(無軸延伸ポリプロピレン)の構成からなり、 接着層1に用いる接着剤は、 流動状のポリエステル樹脂液80部と、 水酸基価が22.4mgKOH/gのポリエステルポリオール100部と、NCO/OH=2配合比のトリレンジイソシアネート34.7部と、酢酸エチル178部を仕込み、反応させて、ポリエステルポリオールの両末端にトリレンジイソシアネートが付加した、NCO%が1.18%で不揮発分75%の末端ジイソシアネートプレポリマーを得、次いで、トリメチロールプロパン26.8部と、酢酸エチル664部を仕込み、上記で得た末端ジイソシアネートプレポリマーであるウレタンプレポリマー713部を仕込み、反応させて、ウレタンプレポリマーの両末端のイソシアネート基1モル当たりにトリメチロールプロパン分子1モルを完全に付加反応させて得た、3官能以上のヒドロキシル基を有するポリエステルウレタン化合物溶液20部と を用いて主剤溶液とし、 該主剤溶液に、芳香族多官能イソシアネートであるトリレンジイソシアネートと、トリメチロールプロパンとのアダクト体である硬化剤を添加後、不揮発分が30%となるように酢酸エチルを添加混合して得た、ポリエステルウレタン樹脂接着剤である、 蓄電デバイスの包装材。」 2 引用文献2について (1)引用文献2に記載された事項 引用文献2には、「ポリエステルポリウレタンポリオール」を含む唯一の合成例であって、異議申立人が引用する「(合成例3)」、及び該「(合成例3)」を用いた「実施例3」に関連して、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。 「【0001】 本発明は、リチウムイオン電池などの二次電池用の電池用容器や電池パックを形成するための電池用包装材用のポリウレタン接着剤に関する。また、本発明は外層側樹脂フィルム層(11)と金属箔層(13)とをポリウレタン接着剤を用いて積層した電池用包装材に関する。さらに本発明は、外層側樹脂フィルム層(11)が外層に位置するように前記電池用包装材を成型してなる電池用容器、および前記電池用容器を用いてなる電池に関する。」 「【0013】 外層側樹脂フィルム層(11)、外層側接着剤層(12)、金属箔層(13)、内層側接着剤層(14)、ヒートシール層(15)が順次積層されてなる電池用包装材において、特定の数平均分子量と、芳香族多塩基酸成分における特定のモル%を有するポリエステルポリオールを含み、特定のポリイソシアネート成分を含む接着剤を外層側接着剤層に用いる事により、60℃未満のエージングでも優れた成型性や耐熱接着性を有し、成型物が変形しても層間の浮きが無い電池用包装材が提供できる。前記電池用包装材を用いてなる電池用容器により、信頼性に優れた電池が提供できる。」 「【実施例】 【0040】 次に、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。実施例及び比較例中の%は総て質量%を意味する。 ・・・(途中省略)・・・ 【0045】 (合成例3) イソフタル酸232.4g、エチレングリコール42.7g、ネオペンチルグリコール71.8g、1,6−ヘキサンジオール108.6gを仕込み、200〜230℃で6時間エステル化反応を行い、所定量の水の留出後、アジピン酸87.6g加え、更に6時間エステル化反応を行った。所定量の水の留出後、テトライソブチルチタネート0.13gを添加し徐々に減圧し、1.3〜2.6hPa、230〜250℃で3時間エステル交換反応を行い、ポリエステルポリオールを得た。 このポリエステルポリオールを酢酸エチルにて不揮発分80%に調整して得られたポリエステルポリオール溶液600gに対して、トリレンジイソシアネート3.2gを添加し、80℃で8時間反応し、芳香族多塩基酸成分70モル%、数平均分子量20,000のポリエステルポリウレタンポリオールを得た。 更にこのポリエステルウレタンポリオールを酢酸エチルにて不揮発分50%に調整し、、水酸基価2.71mgKOH/g、酸価0.1mgKOH/gのポリエステルポリオール溶液(3)を得た。」 「【0050】 [主剤(1)の製造] ポリエステルポリオール溶液(1)200g(固形分100g)と、KBM−403(シランカップリング剤)1gとを配合した後、酢酸エチル2gを加え、不揮発分が50%の主剤(1)を得た。 【0051】 [主剤(2)〜(9)の製造] 主剤(1)の場合と同様にして、ポリエステルポリオール溶液(1)〜(7)並びに下記に示すその他の成分を表1に示す割合(g)で配合した後、不揮発分が50%となるように酢酸エチルを加えて、主剤(2)〜(9)を得た。」 「【0053】 ・・・(途中省略)・・・ <硬化剤(2)> 4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネートにトリメチロールプロパンが付加したアダクト体70重量部と、ヘキサメチレンジイソシアネートのヌレート体30重量部を混合して、酢酸エチルで希釈して固形分70%の樹脂溶液としたものを硬化剤(1)とした。硬化剤(1)のNCO%は12.0%であった。」(なお、「硬化剤(1)」とあるのは、「硬化剤(2)」の誤記である。) 「【0054】 (実施例1〜14、比較例1〜6、参考例) 各主剤と各硬化剤とを、主剤中に含まれるポリオール(A)由来のヒドロキシル基とカルボキシル基の合計に対する硬化剤中に含まれるイソシアネート基の当量比[NCO]/([OH]+[COOH])が表3、4に示す値となるように配合した後、不揮発分が30%となるように酢酸エチルを加えて、外層側用のポリウレタン接着剤を得た。」 「【0061】 【表1】 」 「【0063】 【表3】 」 (2)引用文献2に記載された技術事項について ア 段落【0001】、【0013】より、引用文献2は、「外層側樹脂フィルム層、外層側接着剤層、金属箔層、内層側接着剤層、ヒートシール層が順次積層されてなる」、「二次」「電池用包装材」に関するものであることがわかる。 イ 段落【0054】、表3より、「実施例3」に係る「外層側接着剤」は「ポリウレタン接着剤」であって、「主剤(3)」と「硬化剤(2)」とを「配合した後、不揮発分が30%となるように酢酸エチルを加え」たものであることを読み取ることができる。 ウ 段落【0050】、【0051】より、「主剤(3)」は、「ポリエステルポリオール溶液」「(3)」「200g(固形分100g)と、KBM−403(シランカップリング剤)1gとを配合した後、酢酸エチル2gを加え」、「不揮発分が50%」としたものであることがわかる。 エ 段落【0045】より、「(合成例3)」に係る「ポリエステルポリオール溶液(3)」は、「ポリエステルポリオールを酢酸エチルにて不揮発分80%に調整して得られたポリエステルポリオール溶液600gに対して、トリレンジイソシアネート3.2gを添加し」、「反応」させて、「ポリエステルポリウレタンポリオールを得」、「更にこのポリエステルウレタンポリオールを酢酸エチルにて不揮発分50%に調整し」て「得」たものであることがわかる。 オ 段落【0053】より、「硬化剤(2)」は「4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネートにトリメチロールプロパンが付加したアダクト体」「と、ヘキサメチレンジイソシアネートのヌレート体」「を混合し」、「酢酸エチルで希釈して」「樹脂溶液としたもの」であることがわかる。 (3)引用発明2について 上記(2)アないしオより、引用文献2には次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。 「外層側樹脂フィルム層、外層側接着剤層、金属箔層、内層側接着剤層、ヒートシール層が順次積層されてなる、二次電池用包装材であって、 外層側接着剤はポリウレタン接着剤であって、主剤(3)と硬化剤(2)とを配合した後、不揮発分が30%となるように酢酸エチルを加えたものであり、 主剤(3)は、ポリエステルポリオール溶液(3)200g(固形分100g)と、KBM−403(シランカップリング剤)1gとを配合した後、酢酸エチル2gを加え、不揮発分が50%としたものであり、 ポリエステルポリオール溶液(3)は、ポリエステルポリオールを酢酸エチルにて不揮発分80%に調整して得られたポリエステルポリオール溶液600gに対して、トリレンジイソシアネート3.2gを添加し、反応させて、ポリエステルポリウレタンポリオールを得、更にこのポリエステルウレタンポリオールを酢酸エチルにて不揮発分50%に調整して得たものであり、 硬化剤(2)は4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネートにトリメチロールプロパンが付加したアダクト体と、ヘキサメチレンジイソシアネートのヌレート体を混合し、酢酸エチルで希釈して樹脂溶液としたものである、 二次電池用包装材。」 3 参考文献1 当審が職権で発見した文献である、「接着剤のイソシアネート( NCO )量の測定」、HIRANUMA APPLICATION DATA 滴定データ COM シリーズ データ No M9 14/03/26、インターネット、<URL:https://hiranuma.com/app/pdf/titr/M09.pdf>(以下、「参考文献1」という。)には、次の事項が記載されている(下線は、当審で付与した。)。 「1.測定の概要 合成系接着剤のうち、水性高分子−イソシアネート系木材接着剤は、高分子の水溶液もしくは水性分散体またはそれらを組み合わせたものを主成分とする主剤と、イソシアネート系化合物を主成分とする架橋剤からなります。本接着剤のイソシアネート(NCO)量の測定法は、JIS K 6806に規格化されています。 試料とジ−n−ブチルアミンを混合して反応させ、残ったジ−n−ブチルアミンを塩酸標準液で中和滴定することによりNCO量を求めます。JIS K 6806 では ブロモクレゾールグリーン指示薬を使用した目視法によって終点を求めていますが、本報では電位差滴定法を用いて測定した例について紹介します。」 第5 取消理由1、2(引用文献1を主引用例とした場合)についての当審の判断 1 本件発明1について (1)対比・判断 ア 対比 本件発明1と引用発明1とを対比する。 (ア)例えば引用文献2の段落【0016】に「電池用容器において、通常、金属箔(13)を境に電解液に近い側を「内側」、「内層」、遠い側を「外側」、「外層」という。」と記載されているように、蓄電デバイスの包装材では、金属箔より電解質に近い側を内側、遠い側を外側というのが一般的であるから、引用発明1では、「アルミ箔」を中心に、「延伸NY(ポリアミド)/接着層1」が「外側」、「接着層2/CPP(無軸延伸ポリプロピレン)」が「内側」とみなすのが自然である。 よって、引用発明1における「複数のシート材料を積層したラミネートフィルムを用いてなる、蓄電デバイスの包装材であって、包装材の層構造は、延伸NY(ポリアミド)/接着層1/アルミ箔/接着層2/CPP(無軸延伸ポリプロピレン)の構成」であることが、本件発明1における「少なくとも、外層側樹脂フィルム層(1)、外層側接着剤層(2)、金属箔層(3)、内層側接着剤層(4)及びヒートシール層(5)が、この順に外側から積層されている構成を備えた蓄電デバイス用包装材」に相当する。 (イ)上記(ア)のとおり、引用発明1における「接着層1」が、本件発明1における「前記外層側接着剤層(2)」に相当する。以下、両者を詳細に比較する。 a 引用発明1における「3官能以上のヒドロキシル基を有するポリエステルウレタン化合物」は、「3官能以上のヒドロキシル基を有する」ものであるから、「水酸基」を有するポリウレタン樹脂である。 よって、引用発明1における「流動状のポリエステル樹脂液80部」と「3官能以上のヒドロキシル基を有するポリエステルウレタン化合物溶液20部とを用い」た「主剤溶液」が、本件発明1における「水酸基を有するポリウレタン樹脂(A)を含む主剤」に相当する。 b 引用発明1における「硬化剤」は、「芳香族多官能イソシアネートであるトリレンジイソシアネートと、トリメチロールプロパンとのアダクト体である」から、ポリイソシアネート成分を含んでおり、本件発明1における「ポリイソシアネート成分(B)を含む硬化剤」に相当する。 c 上記a、bを踏まえると、引用発明1における「接着層1」が「接着剤を用い」たものであり、当該接着剤が「流動状のポリエステル樹脂液80部と」、「3官能以上のヒドロキシル基を有するポリエステルウレタン化合物溶液20部とを用いて主剤溶液とし、主剤溶液に、硬化剤を添加後、不揮発分が30%となるように酢酸エチルを添加混合して得た、ポリエステルウレタン樹脂接着剤であ」ることは、本件発明1における「前記外層側接着剤層(2)が、水酸基を有するポリウレタン樹脂(A)を含む主剤と、ポリイソシアネート成分(B)を含む硬化剤とを含有するポリウレタン接着剤から形成されたものであ」ることに相当する。 (ウ)引用発明1における「3官能以上のヒドロキシル基を有するポリエステルウレタン化合物」が、本件発明1における「前記水酸基を有するポリウレタン樹脂(A)」に相当することは、上記(イ)aのとおりである。以下、両者を詳細に比較する。 a 引用発明1における「3官能以上のヒドロキシル基を有するポリエステルウレタン化合物」は、「ポリエステルポリオール」と「トリレンジイソシアネート」とを「反応させて、ポリエステルポリオールの両末端にトリレンジイソシアネートが付加した」「末端ジイソシアネートプレポリマーを得、次いで、トリメチロールプロパン」と「反応させて、ウレタンプレポリマーの両末端のイソシアネート基1モル当たりにトリメチロールプロパン分子1モルを完全に付加反応させて得た」ものであるから、「トリレンジイソシアネート」を含んでいる。 よって、引用発明1における「3官能以上のヒドロキシル基を有するポリエステルウレタン化合物」は、「トリレンジイソシアネート」を含んでいるから、本件発明1における「前記水酸基を有するポリウレタン樹脂(A)を構成するポリイソシアネートが、トリレンジイソシアネート、又はトリレンジイソシアネートにトリメチロールプロパンが付加したアダクト体を含」むとの要件を満たしている。 b 本件発明1では、「前記水酸基を有するポリウレタン樹脂(A)のウレタン結合濃度が、0.10mmol/g以上、0.40mmol/g以下である」のに対し、引用発明1では、「3官能以上のヒドロキシル基を有するポリエステルウレタン化合物」(当審注:溶液から揮発分を除いたもの)のウレタン結合濃度が特定されていない点で相違する。 (エ)引用発明1における「蓄電デバイスの包装材」が、本件発明1における「蓄電デバイス用包装材」に相当する。 よって、本件発明1と引用発明1との一致点、相違点は次のとおりである。 (一致点) 「少なくとも、外層側樹脂フィルム層(1)、外層側接着剤層(2)、金属箔層(3)、内層側接着剤層(4)及びヒートシール層(5)が、この順に外側から積層されている構成を備えた蓄電デバイス用包装材であって、 前記外層側接着剤層(2)が、水酸基を有するポリウレタン樹脂(A)を含む主剤と、ポリイソシアネート成分(B)を含む硬化剤とを含有するポリウレタン接着剤から形成されたものであり、 前記水酸基を有するポリウレタン樹脂(A)を構成するポリイソシアネートが、トリレンジイソシアネート、又はトリレンジイソシアネートにトリメチロールプロパンが付加したアダクト体を含む、 蓄電デバイス用包装材。」 (相違点1) 本件発明1では、「前記水酸基を有するポリウレタン樹脂(A)のウレタン結合濃度が、0.10mmol/g以上、0.40mmol/g以下である」のに対し、引用発明1では、「3官能以上のヒドロキシル基を有するポリエステルウレタン化合物」(当審注:溶液から揮発分を除いたもの)のウレタン結合濃度が特定されていない点。 イ 判断 上記相違点1について検討する。 まず、引用発明1の「ポリエステルポリオールの両末端にトリレンジイソシアネートが付加した」「末端ジイソシアネートプレポリマーであるウレタンプレポリマー」の化学構造式を次に示す。 最初に、引用発明1の「末端ジイソシアネートプレポリマーであるウレタンプレポリマー」(以下、「引用発明1の末端ジイソシアネートプレポリマー」という。)における「NCO濃度」(上記化学構造式における、「A」及び「B」のNCO濃度。以下、同じ)について検討し、次に、その「ウレタン結合濃度」から、引用発明1における「3官能以上のヒドロキシル基を有するポリエステルウレタン化合物」(当審注:溶液から揮発分を除いたもの。以下、単に「揮発分を除く」という。)のウレタン結合濃度を計算する。 (ア)引用発明1の末端ジイソシアネートプレポリマーにおける「NCO濃度」は、次のようにして計算することができる。 a 水酸基価を用いたNCO濃度の計算 引用発明1では、「水酸基価が22.4mgKOH/gのポリエステルポリオール100部と、NCO/OH=2配合比のトリレンジイソシアネート34.7部と、酢酸エチル178部を仕込み、反応させて、ポリエステルポリオールの両末端にトリレンジイソシアネートが付加した、NCO%が1.18%で不揮発分75%の末端ジイソシアネートプレポリマーを得」ている。 まず、水酸基価「22.4mgKOH/g」は、1g当たりの水酸基(OH)のモル数に換算すると、KOHの分子量を56.1として、 22.4/56.1=0.40[mmol/g] である。 次に、上記のとおり、1g当たり0.40[mmol/g]の水酸基OHを有する「ポリエステルポリオール」について、「NCO/OH=2配合比のトリレンジイソシアネート」を反応させ、「ポリエステルポリオールの両末端にトリレンジイソシアネート」を「付加」させれば、1molの水酸基OHに対して1molのトリレンジイソシアネートが反応し、1molのトリレンジイソシアネートには2molのイソシアネートNCOが含まれている(すなわち、「NCO/OH=2配合比」)から、トリレンジイソシアネートの分子量を174.2とすれば、「ポリエステルポリオールの両末端にトリレンジイソシアネートが付加した」「末端ジイソシアネートプレポリマー」(揮発分を除く)のNCO濃度は、 (0.40×2)/[1+(0.40×10−3)×174.2] =0.75[mmol/g] である。 なお、トリレンジイソシアネートの化学構造式は次のとおりである。 b NCO%を用いたNCO濃度の計算 まず、参考文献1に「試料とジ−n−ブチルアミンを混合して反応させ、残ったジ−n−ブチルアミンを塩酸標準液で中和滴定することによりNCO量を求めます。」と記載されているとおり、NCO%は、「末端ジイソシアネートプレポリマー」のうち、末端のイソシアネート(次の化学構造式において、「A」で示すNCO)を、「ジ−n−ブチルアミン」を用いた逆滴定により求めた値であって、「末端ジイソシアネートプレポリマー」の分子中でウレタン結合となっているNCO(次の化学構造式において、「B」で示すNCO)を含まない値である。 よって、「末端ジイソシアネートプレポリマー」(揮発分を除く)のNCO濃度(上記化学構造式における、「A」及び「B」のNCO濃度)は、「末端ジイソシアネートプレポリマー」(揮発分を除く)のNCO%をモル濃度[mmol/g]に換算した値(上記化学構造式における、「A」のNCOだけを測定した値)の2倍の値である。 従って、「NCO%が1.18%で不揮発分75%の末端ジイソシアネートプレポリマー」における、「揮発分」を除いたNCO濃度は、イソシアネートNCOの分子量を42とすれば、 {[(1.18/100)/0.75]/42}×2×1000 =0.75[mmol/g] である。 (イ)上記(ア)a、bのとおり、引用発明1の「ポリエステルポリオールの両末端にトリレンジイソシアネートが付加した」「末端ジイソシアネートプレポリマー」(揮発分を除く)のNCO濃度は、0.75[mmol/g]であるから、「末端ジイソシアネートプレポリマーであるウレタンプレポリマー713部」(不揮発分75%)と「トリメチロールプロパン26.8部」とを「反応させて」得られた「3官能以上のヒドロキシル基を有するポリエステルウレタン化合物」(揮発分を除く)の「ウレタン結合濃度」は、 0.75×[(713×0.75)/(713×0.75+26.8)] =0.71[mmol/g] である。 (ウ)以上のとおり、引用発明1における「3官能以上のヒドロキシル基を有するポリエステルウレタン化合物」(揮発分を除く)の「ウレタン結合濃度」は、0.71[mmol/g]であって、本件発明1における「前記水酸基を有するポリウレタン樹脂(A)のウレタン結合濃度が、0.10mmol/g以上、0.40mmol/g以下である」との要件を満たしていない。 よって、相違点1は実質的な相違点である。 また、引用文献1を精査しても、引用発明1の認定に用いた、比較例である「合成例B−4」に係る「3官能以上のヒドロキシル基を有するポリエステルウレタン化合物」(揮発分を除く)のウレタン結合濃度について、その値の変更を示唆する記載は見当たらない。 よって、上記相違点1は当業者であっても、容易になし得たこととはいえない。 (2)まとめ 以上のとおり、本件発明1は引用発明1と同一ではない。 また、本件発明1は、当業者であっても、引用文献1に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 2 本件発明2ないし6について 本件発明2ないし6に係る請求項2ないし6は、請求項1を引用しているから、本件発明2ないし6も、本件発明1と同じく、上記相違点1に係る「前記水酸基を有するポリウレタン樹脂(A)のウレタン結合濃度が、0.10mmol/g以上、0.40mmol/g以下である」との構成を備えるものである。 よって、本件発明1、5、6は、本件発明1について述べたのと同じ理由によって、引用文献1に記載された発明と同一発明ではない。 また、本件発明2ないし6は、本件発明1について述べたのと同じ理由によって、当業者であっても、引用文献1に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 第6 取消理由2(引用文献2を主引用例とした場合)についての当審の判断 1 本件発明1について (1)対比・判断 ア 対比 本件発明1と引用発明2とを対比する。 (ア)引用発明2における「外層側樹脂フィルム層、外層側接着剤層、金属箔層、内層側接着剤層、ヒートシール層が順次積層されてなる、二次電池用包装材」が、本件発明1における「少なくとも、外層側樹脂フィルム層(1)、外層側接着剤層(2)、金属箔層(3)、内層側接着剤層(4)及びヒートシール層(5)が、この順に外側から積層されている構成を備えた蓄電デバイス用包装材」に相当する。 (イ)引用発明2における「外層側接着層」を構成する「外層側接着剤」の「ポリウレタン接着剤」の「主剤(3)」は、「ポリエステルポリオール溶液(3)」と、「KBM−403(シランカップリング剤)」「とを配合した後、酢酸エチル2gを加え、不揮発分が50%としたものであ」り、該「ポリエステルポリオール溶液(3)」が、「ポリエステルウレタンポリオール」(すなわち、水酸基を有するポリウレタン樹脂)を「酢酸エチルにて不揮発分50%に調整して得た」ものであるから、本件発明1における「水酸基を有するポリウレタン樹脂(A)を含む主剤」に相当する。 (ウ)引用発明2における「外層側接着層」を構成する「外層側接着剤」の「ポリウレタン接着剤」の「硬化剤(2)」は、「4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネートにトリメチロールプロパンが付加したアダクト体と、ヘキサメチレンジイソシアネートのヌレート体を混合し、酢酸エチルで希釈して樹脂溶液としたものである」から、本件発明1における「ポリイソシアネート成分(B)を含む硬化剤」に相当する。 (エ)上記(イ)、(ウ)を踏まえると、引用発明2における「外層側用のポリウレタン接着剤」は、「主剤(3)と硬化剤(2)とを配合した後、不揮発分が30%となるように酢酸エチルを加えたものであ」るから、本件発明1における「前記外層側接着剤層(2)が、水酸基を有するポリウレタン樹脂(A)を含む主剤と、ポリイソシアネート成分(B)を含む硬化剤とを含有するポリウレタン接着剤から形成されたものであ」るとの要件を満たしている。 (オ)引用発明2における「ポリエステルポリオール溶液(3)」中の不揮発分である「ポリエステルウレタンポリオール」(すなわち、水酸基を有するポリウレタン樹脂)は、「ポリエステルポリオール溶液600gに対して、トリレンジイソシアネート3.2gを添加し、反応させて」「得た」ものである」から、該「ポリエステルポリウレタンポリオール」を構成するポリイソシアネートは「トリレンジイソシアネート」であって、本件発明1における「前記水酸基を有するポリウレタン樹脂(A)を構成するポリイソシアネートが、トリレンジイソシアネート、又はトリレンジイソシアネートにトリメチロールプロパンが付加したアダクト体を含」むとの要件を満たしている。 (カ)本件発明1では、「前記水酸基を有するポリウレタン樹脂(A)のウレタン結合濃度が、0.10mmol/g以上、 0.40mmol/g以下である」のに対し、引用発明2では、「ポリエステルウレタンポリオール」(ポリエステルポリオール溶液(3)の不揮発分。以下、単に「不揮発分」という。)のポリエステルポリオール溶液(3)のウレタン結合濃度が特定されていない点で相違する。 (キ)引用発明2における「二次電池用包装材」が、本件発明1における「蓄電デバイス用包装材」に相当する。 よって、本件発明1と引用発明2との一致点、相違点は次のとおりである。 (一致点) 「少なくとも、外層側樹脂フィルム層(1)、外層側接着剤層(2)、金属箔層(3)、内層側接着剤層(4)及びヒートシール層(5)が、この順に外側から積層されている構成を備えた蓄電デバイス用包装材であって、 前記外層側接着剤層(2)が、水酸基を有するポリウレタン樹脂(A)を含む主剤と、ポリイソシアネート成分(B)を含む硬化剤とを含有するポリウレタン接着剤から形成されたものであり、 前記水酸基を有するポリウレタン樹脂(A)を構成するポリイソシアネートが、トリレンジイソシアネート、又はトリレンジイソシアネートにトリメチロールプロパンが付加したアダクト体を含む、 蓄電デバイス用包装材。」 (相違点2) 本件発明1では、「前記水酸基を有するポリウレタン樹脂(A)のウレタン結合濃度が、0.10mmol/g以上、 0.40mmol/g以下である」のに対し、引用発明2では、「ポリエステルウレタンポリオール」(不揮発分)のウレタン結合濃度が特定されていない点。 イ 判断 そこで、上記相違点2について検討する (ア)引用発明2における「ウレタン結合濃度」について 本件特許明細書の段落【0019】には、 「ウレタン結合濃度は、下記式1を用いて算出することができる。 式1: ウレタン結合濃度(mmol/g)=[(ポリイソシアネートのNCO含有量(質量%))×(ウレタン樹脂を構成するポリオールとポリイソシアネートとの合計に対するポリイソシアネートの配合量(質量%))÷42×1000]+[(ポリイソシアネート内部のウレタン結合数÷ポリイソシアネート分子量)×(ウレタン樹脂を構成するポリオールとポリイソシアネートとの合計に対するポリイソシアネートの配合量(質量%))×100」と記載されている。 すると、引用発明2における「ポリエステルウレタンポリオール」(不揮発分)の「ウレタン結合濃度」についても、本件特許明細書の段落【0019】の式1を用いて、次のように計算できる。 (a)引用発明2(ポリイソシアネートとしてトリレンジイソシアネートを用いている)における「(ウレタン樹脂を構成するポリオールとポリイソシアネートとの合計に対するポリイソシアネートの配合量(質量%)」は、 3.2g/(600g×0.8+3.2g) =0.00662(0.662%) である。 (b)「トリレンジイソシアネート」の「NCO含有量(質量%)」は、トリレンジイソシアネートが2つのNCO(分子量42)を含んでいることから、 (42×2)/174.16 =0.482(48.2%) である。 (c)「トリレンジイソシアネート」内部のウレタン結合数は、0である。 (d)上記(a)ないし(c)の数値を式1に代入すると、ウレタン結合濃度(mmol/g)は、 [(000662×0.482)/42]×1000 =0.076(mmol/g) である。 よって、引用発明2における「ポリエステルウレタンポリオール」(不揮発分)のウレタン結合濃度は、0.076(mmol/g)であって、本件発明1における「0.10mmol/g以上、0.40mmol/g以下」との要件を満たしていない。 また、引用文献2を精査しても、引用発明2の認定に用いた「主剤(3)」における「ポリエステルウレタンポリオール」(不揮発分)のウレタン結合濃度について、その値の変更を示唆する記載は見当たらない。 したがって、上記相違点2は当業者であっても、容易になし得たこととはいえない。 (2)まとめ 以上のとおり、本件発明1は、当業者であっても、引用文献2に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 2 本件発明2ないし6について 本件発明2ないし6に係る請求項2ないし6は、請求項1を引用しているから、本件発明2ないし6も、本件発明1と同じく、上記相違点2に係る「前記水酸基を有するポリウレタン樹脂(A)のウレタン結合濃度が、0.10mmol/g以上、0.40mmol/g以下である」との構成を備えるものである。 よって、本件発明2ないし6は、本件発明1について述べたのと同じ理由によって、当業者であっても、引用文献2に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 第7 取消理由3(サポート要件違反)について 1 異議申立人の主張 異議申立人は、甲第3号証の記載を引用し、概略、以下のように主張している(異議申立書第20頁第7行〜第21頁第16行)。 ポリオール成分に由来する鎖の化学構造が相違するとポリウレタン樹脂の耐寒性、耐水性、機械的強度等といった特性が大きく変化することは技術常識である(甲第3号証)。 これに対し、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「ポリエステルポリオール」のみが実施例として記載されているに過ぎないから、請求項1における「水酸基を有するポリウレタン樹脂(A)」の構成成分であるポリオール成分を特定しない請求項1に係る発明は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されは範囲を超えるものである。 2 当審の判断 請求項1に係る発明の解決すべき課題は、本件特許明細書の段落【0018】に「本発明においては、外層側接着剤層を構成する成分である水酸基を有するポリウレタン樹脂(A)のウレタン結合濃度を制御することが重要であり、ウレタン結合濃度が所定範囲内であることで、硬化剤に含まれるポリイソシアネート成分(B)との相溶性を向上させることができ、架橋密度が高く、耐久性と外観とに優れる接着剤層を形成することができる。」と記載されているとおり、水酸基を有するポリウレタン樹脂(A)のウレタン結合濃度を制御することにより耐久性と外観とに優れる接着剤層を形成することにあるから、ポリウレタン樹脂の構成成分であるポリオール成分がどのような成分であるかは、上記解決課題とは無関係である。 よって、請求項1に「水酸基を有するポリウレタン樹脂(A)」の構成成分であるポリオール成分が特定されていないからといって、請求項1に係る発明が、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された範囲を超えるものとなるものではない。 したがって、本件特許の特許請求の範囲の記載に、異議申立人が主張するような不備はない。 第8 異議申立人の主張について 1 取消理由1、2(甲第1号証と同一、または甲第1号証から容易)について 異議申立人は、「(4)」「ウ」「(ア−2)」(異議申立書、第15頁下から2行〜第16頁第8行において、甲第1号証に記載された「NCO%」から「ウレタン濃度」を計算すると、「0.35mmol/g」となるから、本件発明1における「ウレタン濃度」の要件を満足している旨述べている。 しかし、上記「第5」「1(1)イ(ア)b」で説明したとおり、「ポリエステルポリオールの両末端にトリレンジイソシアネートが付加した」「末端ジイソシアネートプレポリマー」についての「NCO%」は、末端のイソシアネートのみの測定値であって、分子中のウレタン結合を含んだ値ではないから、異議申立人の上記主張は、甲第1号証に記載された「NCO%」が、「ポリエステルポリオールの両末端にトリレンジイソシアネートが付加した」「末端ジイソシアネートプレポリマー」についての「ウレタン濃度」と等価なものである、という前提において誤っており、採用できない。 2 取消理由2(甲第2号証から容易)について 異議申立人は、相違点2について「本件特許発明1の構成Dをわずかに外れるが、当業者であれば構成Dを満たすように調整することは容易である」と主張としている(異議申立書「(4)」「ウ」「(キ−2)」、第18頁第12〜18行)。 しかし、異議申立人は、当業者が「構成Dを満たすように調整する」 (つまり、ウレタン結合濃度が、0.10mmol/g以上、0.40mmol/g以下となるように調整する)ことを動機付ける具体的根拠を何も示していない。 よって、異議申立人の上記主張は単なる意見であって、本件発明1の構成Dの容易性を論理付けるものではないから、採用できない。 3 取消理由3(サポート要件違反)について 異議申立人の主張する取消理由3が理由のないことは、上記第7「2」で述べたとおりである。 第9 むすび 以上のとおり、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし6に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1ないし6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2022-10-07 |
出願番号 | P2019-230641 |
審決分類 |
P
1
651・
537-
Y
(H01M)
P 1 651・ 121- Y (H01M) P 1 651・ 113- Y (H01M) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
山田 正文 |
特許庁審判官 |
畑中 博幸 清水 稔 |
登録日 | 2021-12-20 |
登録番号 | 6996546 |
権利者 | 東洋モートン株式会社 東洋インキSCホールディングス株式会社 |
発明の名称 | 蓄電デバイス用包装材、蓄電デバイス用容器及び蓄電デバイス |