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審決分類 審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  B01D
審判 一部申し立て 2項進歩性  B01D
審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B01D
審判 一部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B01D
管理番号 1390617
総通号数 11 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-11-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-08-01 
確定日 2022-10-24 
異議申立件数
事件の表示 特許第7014977号発明「エアフィルタ濾材、フィルタパック、エアフィルタユニット、およびこれらの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7014977号の請求項1〜11に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第7014977号の請求項1〜19に係る特許についての出願は、令和1年9月27日(優先権主張 平成30年9月28日)を出願日とする特願2019−177112号(以下、「原出願」という。)の一部を新たな特許出願として令和2年1月27日に出願されたものであり、令和4年1月25日にその特許権の設定登録がされ、同年2月2日に特許掲載公報が発行され、その後、同年8月1日に、請求項1〜11に係る特許について、特許異議申立人渡辺 陽子(以下、「申立人渡辺」という。)により、甲第1〜8号証を証拠方法として特許異議の申立てがなされ、同年同月同日に、請求項1〜11に係る特許について、特許異議申立人坂本 正彦(以下、「申立人坂本」という。)により、甲第1〜3号証を証拠方法として特許異議の申立てがなされたものである。

第2 本件発明
本件特許の請求項1〜19に係る発明のうち、請求項1〜11に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」〜「本件発明11」といい、これらを総称して「本件発明」ということがある。)は、それぞれ、特許請求の範囲の請求項1〜11に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
ガラス繊維を含んでおり、100℃の雰囲気温度下において1時間放置したときの隆起高さの変化が50%以内である隆起部を有するガラス濾材層を備えており、
前記隆起部は、エアフィルタ濾材のうちの互いに対向する部分の間隔を保持するためのものである、
エアフィルタ濾材(但し、隆起部がコーティングで覆われているものを除く。)。
【請求項2】
前記ガラス濾材層のガラス繊維の含有量が90重量%以上である、
請求項1に記載のエアフィルタ濾材。
【請求項3】
前記ガラス濾材層のバインダの含有量が10重量%以下である、
請求項1または2に記載のエアフィルタ濾材。
【請求項4】
100℃以上の環境下で用いられる、
請求項1から3のいずれか1項に記載のエアフィルタ濾材。
【請求項5】
前記ガラス濾材層は、ガラス濾材層100重量部に対して300重量部の水を含ませた状態での引張伸度が3.0%以上である、
請求項1から4のいずれか1項に記載のエアフィルタ濾材。
【請求項6】
前記隆起部の隆起高さは、前記ガラス濾材層の前記隆起部以外の部分である非隆起部分の厚み以上である、
請求項1から5のいずれか1項に記載のエアフィルタ濾材。
【請求項7】
前記隆起部の隆起高さを半減するまでに必要な押圧荷重が0.3Nより大きい、
請求項1から6のいずれか1項に記載のエアフィルタ濾材。
【請求項8】
前記ガラス濾材層について、前記隆起部を含む部分の捕集効率と、前記隆起部を含まない非隆起部の捕集効率と、の比(隆起部を含む部分の捕集効率/非隆起部の捕集効率)は、99.0%以上である、
請求項1から7のいずれか1項に記載のエアフィルタ濾材。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載のエアフィルタ濾材を備え、
前記エアフィルタ濾材が山折りおよび谷折りが交互に繰り返されたジグザグ形状に加工されており、前記隆起部が前記エアフィルタ濾材のうちの互いに対向する部分の間隔を保持している、
フィルタパック。
【請求項10】
請求項9に記載のフィルタパックと、
前記フィルタパックを保持する枠体と、
を備えたエアフィルタユニット。
【請求項11】
前記エアフィルタ濾材のうちの互いに対向する部分の間隔を保持するための部材であって、前記エアフィルタ濾材とは別の部材である間隔保持部材を有しておらず、
前記エアフィルタ濾材のうちの互いに対向する部分の間隔は、前記隆起部のみによって保持されている、
請求項10に記載のエアフィルタユニット。」

第3 特許異議申立理由の概要
1 申立人渡辺による特許異議申立理由の概要
ここでいう甲第1号証〜甲第8号証は、申立人渡辺が提出した、後記(6)に記載された甲第1号証〜甲第8号証である。
(1)特許法第29条第1項、第2項所定の規定違反(新規性進歩性欠如)について
本件発明1〜11は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当するので、本件発明1〜11に係る特許は、特許法第29条第1項所定の規定に違反してされたものである。
本件発明1〜11は、甲第1号証に記載された発明及び甲第1〜4号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1〜11に係る特許は、特許法第29条第2項所定の規定に違反してされたものである(特許異議申立書27ページ1行〜43ページ4行)。

(2)特許法第36条第6項第2号所定の規定違反(明確性要件違反)について
ア 本件特許明細書には、本件発明1における「隆起高さの変化」がどのような条件のもとで測定されるものをいうのかが記載されておらず、「エアフィルタ濾材」の「隆起部」への負荷の有無によって、隆起高さの変化量は変わり得るし、本件特許明細書の実施例では、「おもり無しの隆起高さ変化確認試験」と「おもり有りの隆起高さ変化確認試験」の二つの試験が実施されており、これら二つの試験のうち、いずれが本件発明1における「隆起高さの変化」を確認する試験であるのか、あるいは本件発明1における「隆起高さの変化」を確認するにはこれら二つの試験の両方によって確認する必要があるのかが不明であるから、本件発明1の「100℃の雰囲気温度下において1時間放置したときの隆起高さの変化が50%以内である」との発明特定事項は不明確である。
このため、本件発明1は明確でないのであり、本件発明2〜11について検討しても事情は同じである(特許異議申立書43ページ6行〜44ページ11行)。

イ 本件特許明細書には、本件発明1の「(但し、隆起部がコーティングで覆われているものを除く。)」との発明特定事項における「コーティング」について記載されていないから、どのようなものが「コーティング」に該当するのかが不明であり、「隆起部」がどの程度覆われているものが除かれる対象となるのかも不明であり、更に、エンボス加工により形成された「隆起部」にバインダを塗布する態様が本件発明1から排除されるものであるか否かも不明であるので、本件発明1の「(但し、隆起部がコーティングで覆われているものを除く。)」との発明特定事項は不明確である。
このため、本件発明1は明確でないのであり、本件発明2〜11について検討しても事情は同じである(特許異議申立書44ページ12行〜45ページ9行)。

ウ 本件発明7の「前記隆起部の隆起高さを半減するまでに必要な押圧荷重が0.3Nより大きい」との発明特定事項について、「隆起部」の隆起高さを半減するに要する「押圧荷重」は隆起高さに応じて変わるから、「隆起部」の隆起高さの特定を伴うことなく隆起高さを半減するための「押圧荷重」を特定すること自体、技術的に無意味であるので、前記発明特定事項の意味が不明確である。
また、測定温度が変わればバインダの硬さが変化することから、隆起高さを半減するための「押圧荷重」も変化することが推認されるが、本件特許明細書には「押圧荷重」の測定条件として温度の言及がないから、前記「押圧荷重」は一義的に定まらないので、本件発明7の「前記隆起部の隆起高さを半減するまでに必要な押圧荷重が0.3Nより大きい」との発明特定事項は不明確である。
このため、本件発明7は明確でないのであり、本件発明8〜11について検討しても事情は同じである(特許異議申立書45ページ10行〜26行)。

エ 本件発明8の「前記ガラス濾材層について、前記隆起部を含む部分の捕集効率と、前記隆起部を含まない非隆起部の捕集効率と、の比(隆起部を含む部分の捕集効率/非隆起部の捕集効率)は、99.0%以上である」との発明特定事項について、ガラス濾材層の「捕集効率」は、その試験方法が異なれば異なるのが技術常識であるのに、本件特許明細書には、ガラス濾材層の「捕集効率」の試験方法が記載されていないから、本件発明8の「前記ガラス濾材層について、前記隆起部を含む部分の捕集効率と、前記隆起部を含まない非隆起部の捕集効率と、の比(隆起部を含む部分の捕集効率/非隆起部の捕集効率)は、99.0%以上である」との発明特定事項は不明確である。
このため、本件発明8は明確でないのであり、本件発明9〜11について検討しても事情は同じである(特許異議申立書45ページ27行〜46ページ15行)。

(3)特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)について
本件特許明細書の段落【0066】の記載によれば、本件発明においては、「隆起部」の全てが「100℃の雰囲気温度下において1時間放置したときの隆起高さの変化が50%以内である」との発明特定事項を満たす必要はなく、「隆起部」の一部のみが前記発明特定事項を満たせばよいのであるが、その場合、大半の「隆起部」の隆起高さの変化が50%以上となるものも含まれる。
そして、その場合、本件発明の課題を解決できるとは到底いえないから、本件発明1は本件発明の課題を解決できないものを包含するので、特許請求の範囲の請求項1の記載はサポート要件を満たさないのであり、特許請求の範囲の請求項2〜11について検討しても事情は同じである(特許異議申立書46ページ16行〜48ページ4行)。

(4)特許法第36条第4項第1号所定の規定違反(実施可能要件違反)について
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件発明1に係る「エアフィルタ濾材」の製造方法として、エンボス成形を施す前のシートが一定の水分含量を有するようにする製造方法(湿式法)のみが記載されており、これ以外の製造方法については記載されていないから、湿式法以外の製造方法の探索には過度の試行錯誤を要するので、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件発明1を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。
このため、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を満たさないのであり、本件発明2〜11について検討しても事情は同じである(特許異議申立書48ページ5行〜21行)。

(5)特許法第36条第4項第1号所定の規定違反(委任省令要件違反)について
本件特許明細書の段落【0124】〜【0125】によれば、発明の詳細な説明に記載された実施例1及び比較例1のシートは、乾燥状態における組成は同じで、エンボス成形前の水の含有量のみが異なるが、当該水の含有量のみが異なる実施例1及び比較例1のシートに対し、実際の水の含有量よりもはるかに多い、シートの重量100重量部に対して300重量部もの水を含有させ、かつ、30分以上水を浸透させる過程を経た後の「引張伸度」を測定する段階では、両者のシートの間には水分量も含め組成に差はなく、組成の差に起因する性状に大きな差が存在するとは考えられないから、なぜ、実施例1と比較例1とで「引張伸度」の値に大きな差がみられるのか、当業者であっても理解できない。
このため、当業者は、本件発明5の「前記ガラス濾材層は、ガラス濾材層100重量部に対して300重量部の水を含ませた状態での引張伸度が3.0%以上である」との発明特定事項と本件発明の課題の実質的な関係を理解できないから、本件発明の課題の解決手段を理解できないので、本件発明5の技術上の意義が不明である。
よって、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は委任省令要件を満たさないのであり、本件発明6〜11について検討しても事情は同じである(特許異議申立書48ページ22行〜50ページ6行)。

(6)各甲号証
甲第1号証:特開2009−226260号公報
甲第2号証:米国特許第5609761号明細書
甲第3号証:特開平10−272329号公報
甲第4号証:特開2009−11887号公報
甲第5号証:田中 丈之,「動的粘弾性自動測定器レオバイブロン DDV−01GP/25GP」,塗装技術,2016年8月号,p.57−60
甲第6号証:竹本 喜昭ら,「防水材料の耐候性試験 その58 動的粘弾性測定による防水材料の物性評価に関する一考察」,平成27年度 日本建築学会発表梗概,2015年9月
甲第7号証:「JIS B 9908:2011 換気用エアフィルタユニット・換気用電気集じん器の性能試験方法」,2011年,日本工業規格,p.1−23
甲第8号証:平成27年(行ケ)第10231号 審決取消請求事件判決

2 申立人坂本による特許異議申立理由
ここでいう甲第1号証〜甲第3号証は、申立人坂本が提出した、後記(3)に記載された甲第1号証〜甲第3号証である。
(1)特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)、同法同条第6項第2号所定の規定違反(明確性要件違反)、同法同条第4項第1号所定の規定違反(実施可能要件違反)について
明確性要件違反及びサポート要件違反について(特許異議申立書11ページ最終行〜14ページ5行)
(ア)本件発明1の発明特定事項からは、本件発明1における「隆起高さの変化」が、「おもり無しの隆起高さ変化確認試験」と「おもり有りの隆起高さ変化確認試験」のいずれの試験により測定されたのかが不明であるから、本件発明1は不明確である。

(イ)また、本件発明1においては、本件特許明細書に記載された「おもり無しの隆起高さ変化確認試験」または「おもり有りの隆起高さ変化確認試験」の試験方法や測定方法が特定されていないから、本件特許明細書の記載事項を本件発明1の範囲まで拡張ないし一般化することができない。
本件発明2〜11について検討してもこれらの事情は同じである。

イ サポート要件違反及び実施可能要件違反について(特許異議申立書14ページ6行〜16ページ20行)
(ア)本件特許明細書の記載によれば、本件発明においては、液体含有状態のガラス繊維のシートにエンボス加工を施して「隆起部」を形成することにより、課題を解決していると認められるが、本件発明1は、液体含有状態のガラス繊維のシートにエンボス加工を施し「隆起部」を形成したものでない「エアフィルタ濾材」を含んでいるから、原出願の優先日当時の技術常識に照らしても、本件特許明細書に記載された事項を本件発明1の範囲まで拡張ないし一般化できるとはいえない。

(イ)また、本件特許明細書の記載及び原出願の優先日当時の技術常識を考慮しても、当業者は、液体含有状態のガラス繊維のシートにエンボス加工を施し「隆起部」を形成する製造方法以外のどのような製造方法により「100℃の雰囲気温度下において1時間放置したときの隆起高さの変化が50%以内である隆起部」を形成できるのかを理解できないから、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1を実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。
本件発明2〜11について検討してもこれらの事情は同じである。

明確性要件違反について(特許異議申立書16ページ21行〜17ページ16行)
本件発明1の「(但し、隆起部がコーティングで覆われているものを除く。)」との発明特定事項における「コーティング」に含まれる具体的な物質・物体の範囲が不明確である。
また、本件発明1においては「隆起部」の具体的な形状が特定されていないため、「隆起部がコーティングで覆われている」との発明特定事項が表す具体的な態様が不明確であるから、「隆起部がコーティングで覆われている」ものに含まれる「エアフィルタ濾材」の範囲が不明確であるので、本件発明1は明確でない。
本件発明2〜11について検討しても事情は同じである。

エ サポート要件違反及び明確性要件違反について(特許異議申立書17ページ17行〜18ページ15行)
(ア)本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された「引張伸度」は、「隆起部」を形成する前のシートについて測定されるものであるのに対して、本件発明5における「ガラス濾材層」は、既に「隆起部」を有するものであから、本件発明5は発明の詳細に記載された発明でない。

(イ)また、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された実施例1及び比較例1のシートは同じシートであるが、乾燥状態のシート100重量部に対して300重量部の水を含ませた場合におけるシートの「引張伸度」が異なる値となる理由が理解できないから、本件発明5において特定された「ガラス濾材層100重量部に対して300重量部の水を含ませた状態での引張伸度」の定義が不明確であるので、本件発明5は明確でない。
本件発明6〜11について検討してもこれらの事情は同じである。

(2)特許法第29条第1項、第2項所定の規定違反(新規性進歩性欠如)について
本件発明1〜3、5及び9〜11は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当するので、本件発明1〜3、5及び9〜11に係る特許は、特許法第29条第1項所定の規定に違反してされたものである。
本件発明1〜11は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2〜3号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1〜11に係る特許は、特許法第29条第2項所定の規定に違反してされたものである(特許異議申立書18ページ16行〜37ページ11行)。

(3)各甲号証
甲第1号証:特開2009−226260号公報
甲第2号証:五十野 善信,「動的粘弾性とは何か」,日本ゴム協会誌,2001年,第74巻,第6号,p.34−39
甲第3号証:栢森 聡,「無溶剤型アクリル系ポリマーを低コストで製造するUFO技術」,東亞合成研究年報TREND2000,第3号,p.42−45

第4 特許異議申立理由についての当審の判断
1 申立人渡辺による特許異議申立理由について
ここでいう甲第1号証〜甲第8号証は、申立人渡辺が提出した、前記第3の1(6)に記載された甲第1号証〜甲第8号証である。
(1)特許法第29条第1項第3号、第2項所定の規定違反(新規性進歩性欠如)について
ア 甲各号証の記載事項等
(ア)甲第1号証の記載事項及び甲第1号証に記載された発明
a 甲第1号証には、以下の(1a)〜(1d)の記載がある(当審注:下線は当審が付与した。また、「・・・」は記載の省略を表す。以下、同様である。)。
(1a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス繊維を主体繊維としたエアフィルタ用濾材において、その構成がガラス繊維を主体とした繊維97〜90質量%及び熱可塑性バインダー3〜10質量%であり、かつ、前記濾材の40℃における貯蔵弾性率に対する80℃における貯蔵弾性率の低下率が5%以下であることを特徴とする熱エンボス成形可能なエアフィルタ用濾材。」

(1b)「[実施例]
【0026】
次に、実施例及び比較例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれによって何ら限定されるものではない。
・・・
【実施例1】
【0027】
平均繊維径0.65μmの極細ガラス繊維65質量%、平均繊維径2.70μmの極細ガラス繊維30質量%、平均繊維径6μmのチョップドガラス繊維5質量%を、濃度0.5質量%、硫酸酸性pH3.5でミキサーを用いて離解した。次いで手抄装置を用いて抄紙し、湿紙を得た。次に、ガラス転移温度85℃でポリスチレン−アクリル酸エチル樹脂を組成とするエマルジョン製品の市販品Aを固形分濃度2.0質量%水溶液に希釈し、これをバインダー液として前記湿紙に付与し、その後120℃の熱風ドライヤーで乾燥し、坪量70g/m2、バインダー付着量6.0質量%のエアフィルタ用濾材を得た。
【実施例2】
【0028】
実施例1において、エマルジョン製品の市販品Aの代わりに、ガラス転移温度86℃でポリスチレン−アクリル酸エチル樹脂を組成とするエマルジョン製品の市販品Bを固形分濃度2.0質量%水溶液に希釈し、これをバインダー液として使用した以外は実施例1と同様にして、坪量70g/m2、バインダー付着量6.0質量%のエアフィルタ用濾材を得た。
【実施例3】
【0029】
実施例1において、エマルジョン製品の市販品Aの代わりに、ガラス転移温度92℃でポリスチレン−アクリル酸エチル樹脂を組成とするエマルジョン製品の市販品Cを固形分 濃度2.0質量%水溶液に希釈し、これをバインダー液として使用した以外は実施例1と同様にして、坪量70g/m2、バインダー付着量5.9質量%のエアフィルタ用濾材を得た。
・・・
【実施例4】
【0033】
実施例1において、実施例1の配合原料を硫酸酸性PH3.5の水中にて、10m3パルパー分散機を用い離解した。次いで抄紙機にて連続的に抄紙を行い、抄紙によって得られた湿紙に、実施例1のエマルジョン製品市販品Aを固形分濃度2.0質量%水溶液に希釈したバインダー液を付与し、これを120℃のロールドライヤーで乾燥し、坪量80g/m2、バインダー付着量6.0質量%である610mm幅、300m長のエアフィルタ用濾材連続シートの巻取り品を作成した。次いで、これを図1の熱エンボス成形方法によってフィルタカートリッジを作成し、このフィルタカートリッジをアルミ製支持枠にはめ込み、外寸縦610mm、横610mm、奥行き292mmの本発明のエアフィルタを作成した。
・・・
【0041】
(5)エアフィルタエンボス評価
実施例4と比較例4のエアフィルタについて、70℃の熱風を面風速2.5m/sec.の条件で48時間通風した前後のエンボス成形部の深さを実測し、エンボス深さに変化が無いものを○(実用に耐える)、浅くなったものを×(実用に耐えない)と評価した。
・・・
【0043】
【表2】

・・・
【0044】
実施例4と比較例4との比較によれば、ガラス転移温度80℃以上のバインダーを付与した貯蔵弾性率の低下率が5%以下である濾材を使用した実施例4のエアフィルタは、70℃の熱風を面風速2.5m/sec.の条件で通風した後のエンボスの戻り現象が起こっていないことがわかる。一方、比較例4のエアフィルタは、エンボス深さが浅くなっており、エンボスの戻り現象が顕著に起っていることが分かる。」

(1c)「【図3】



(1d)「【図4】



b 前記a(1a)によれば、甲第1号証には、ガラス繊維を主体繊維とした「エアフィルタ用濾材」において、その構成がガラス繊維を主体とした繊維97〜90質量%及び熱可塑性バインダー3〜10質量%であり、かつ、前記濾材の40℃における貯蔵弾性率に対する80℃における貯蔵弾性率の低下率が5%以下である、熱エンボス成形可能な「エアフィルタ用濾材」が記載されている。
そして、前記「エアフィルタ用濾材」は、前記a(1b)の実施例4に注目すれば、すなわち、前記(1b)の段落【0027】、【0033】及び【0044】の記載から、平均繊維径0.65μmの極細ガラス繊維65質量%、平均繊維径2.70μmの極細ガラス繊維30質量%、平均繊維径6μmのチョップドガラス繊維5質量%の配合原料を、硫酸酸性PH3.5の水中にて、10m3パルパー分散機を用い離解し、次いで抄紙機にて連続的に抄紙を行い、抄紙によって得られた湿紙に、ガラス転移温度85℃でポリスチレン−アクリル酸エチル樹脂を組成とするエマルジョン製品の市販品Aを固形分濃度2.0質量%水溶液に希釈したバインダー液を付与し、これを120℃のロールドライヤーで乾燥し、坪量80g/m2、バインダー付着量6.0質量%である610mm幅、300m長のエアフィルタ用濾材連続シートの巻取り品を作成し、次いで、これを熱エンボス成形方法によってフィルタカートリッジを作成し、このフィルタカートリッジをアルミ製支持枠にはめ込み、外寸縦610mm、横610mm、奥行き292mmのエアフィルタを作成して、70℃の熱風を面風速2.5m/sec.の条件で48時間通風した前後のエンボス成形部の深さを実測したところ、前記エアフィルタは、通風した後のエンボスの戻り現象が起こらないものである。

c 前記bによれば、甲第1号証には、以下の発明が記載されているといえる。
「ガラス繊維を主体繊維としたエアフィルタ用濾材において、その構成がガラス繊維を主体とした繊維97〜90質量%及び熱可塑性バインダー3〜10質量%であり、かつ、前記濾材の40℃における貯蔵弾性率に対する80℃における貯蔵弾性率の低下率が5%以下である、熱エンボス成形可能なエアフィルタ用濾材であって、
前記エアフィルタ用濾材は、平均繊維径0.65μmの極細ガラス繊維65質量%、平均繊維径2.70μmの極細ガラス繊維30質量%、平均繊維径6μmのチョップドガラス繊維5質量%の配合原料を、硫酸酸性PH3.5の水中にて、10m3パルパー分散機を用い離解し、次いで抄紙機にて連続的に抄紙を行い、抄紙によって得られた湿紙に、ガラス転移温度85℃でポリスチレン−アクリル酸エチル樹脂を組成とするエマルジョン製品の市販品Aを固形分濃度2.0質量%水溶液に希釈したバインダー液を付与し、これを120℃のロールドライヤーで乾燥し、坪量80g/m2、バインダー付着量6.0質量%である610mm幅、300m長のエアフィルタ用濾材連続シートの巻取り品を作成し、
次いで、これを熱エンボス成形方法によってフィルタカートリッジを作成し、このフィルタカートリッジをアルミ製支持枠にはめ込み、外寸縦610mm、横610mm、奥行き292mmのエアフィルタを作成して、70℃の熱風を面風速2.5m/sec.の条件で48時間通風した前後のエンボス成形部の深さを実測したところ、前記エアフィルタは、通風した後のエンボスの戻り現象が起こらないものである、エアフィルタ用濾材。」の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。

(イ)甲第2号証の記載事項
甲第2号証には、以下の(2a)〜(2c)の記載がある。
(2a)「Generally speaking, all coating masses can be used in the framework of the present invention as long as they can withstand typical operating temperatures required for the final filter cartridge. Normally operating temperatures generally range between 60°and 260℃., and in particular in a range between 60°and 120℃.」(3欄1行〜6行)
(当審訳:一般的に言えば、最終的なフィルターカートリッジに必要な典型的な動作温度に耐えることができる限り、本発明の枠内ですべてのコーティング物質を使用することができる。通常の動作温度は、一般に60℃ 〜260℃ の範囲であり、特に、60℃〜120℃の範囲である。)

(2b)「After this embossed structure has been produced, according to the invention, the surface of the filter medium 1 is further treated as illustrated in FIG. 2. In this additional treatment, a layer of hardenable coating mass 4 is applied in the area of the embossed spots 3. Such a coating mass 4 may, for example, be an adhesive by which the bud-like prominences 3 are covered and thus virtually sealed.」(4欄27行〜33行)
(当審訳:このエンボス加工された構造が形成された後、本発明によれば、フィルタ媒体1の表面は、図2に示されるようにさらに処理される。この付加的な処理においては、硬化可能コーティング物質4の層が、エンボススポット3の領域に適用される。そのようなコーティング物質は、例えば、芽状突起3が被覆され、これにより実質的に封止される接着剤であってよい。)

(2c)「



(ウ)甲第3号証の記載事項
甲第3号証には、以下の(3a)の記載がある。
(3a)「【0007】また、従来の溶剤系シール剤に代え、耐熱クリープ温度が130〜160℃の範囲にあるホットメルトシール剤を用いることにより、従来の緩衝材の使用がなくとも、エアフィルタに必要な耐圧強度が得られるものである。更にまた、前記の通り耐熱クリープ温度が高目のホットメルトシール剤を用いているので耐熱温度も充分なものが得られ、例えば、空調機のトラブル等によって一時的に温度が急上昇して120℃程度になったとしても1時間は充分に耐え得るものである。」

(エ)甲第4号証の記載事項
甲第4号証には、以下の(4a)の記載がある。
(4a)「【0006】
本発明によれば、フィルタパックの質量を増加させず、しかも、有効ろ材面積を減少させず、かつ圧力損失が十分低いフィルタパックと、これを用いたエアフィルタが得られる。」

(オ)甲第5号証の記載事項
甲第5号証には、以下の(5a)の記載がある。
(5a)「E’,E”を測定温度に対してプロットすると,第2図のようになる。E’を測定温度で大きく変化する温度で,剛直な状態であるガラス状領域,軟らかい状態へ変化する転移領域,ゴムのように軟らかくなるゴム状領域,測定熱で構造が破壊することによって流動する流動域の四つに分けられる。
ガラス状領域では,ポリマー分子は互いに強い分子間力で束縛されて凍結状態にある。しかしながら,高分子の鎖状分子内の小さなセグメントや,側鎖の運動によって小さな変化が起こる。昇温して,熱エネルギーを与えると原子の振動が激しくなり,分子内の原子集団が運動を始める。ポリマー中には,いろいろなセグメントが多数存在しており,それぞれの運動開始温度が異なる。
したがって,ポリマーの熱運動はある程度の幅を持った温度範囲で起こる。この領域で物質は構成単位の相対的な位置は変えないが,高分子鎖はその形状を自由に変化するようになる。この領域を転移領域という。
動的損失値E”の温度曲線は,この領域の中で極大値を示す。この極大値に対応する温度が二次転移点である。二次転移点を超えて,さらに高温になると物質は三次元網目構造を持っているため,自由な分子運動ができず,弾性率が変化しないような領域(高温弾性率)が現れる。この領域をゴム状領域という。
さらに,高温になると熱分解等が起こり,分子の自由な運動が起こり流動域に入る。この内部構造が実用的諸性質とどのように関連しているかである。植木は粘弾性と性状の関係を第1表のようにまとめている1)。」(57ページ右欄4行〜58ページ左欄17行)

(カ)甲第6号証の記載事項
甲第6号証には、以下の(6a)の記載がある。
(6a)「2.動的粘弾性
動的粘弾性とは、対象とする素材に微小振幅の正弦歪みまたは応力を与え、図1に示すように、発生する応力σ*と歪みε*および、これらの位相差δを測定することにより、素材の力学的な性質を把握する方法である。素材に歪みや応力を与える方法は、引張り(圧縮)、ねじり、曲げなど様々であり、試験体の形状や測定の目的に応じて選択する。
これにより、各種動的粘弾性の要素である弾性率E*、貯蔵弾性率E’、損失弾性率E”、および損失正接tanδを式(1)〜(4)によって算出する。
・・・
各種粘弾性の要素の内容は以下である。
・E’:素材の弾性特性を反映し、加えられた応力が貯蔵され完全に回復す
るエネルギーの尺度
・E”:素材の粘性特性を反映し、熱などとして消費されるエネルギーの尺

・tanδ:貯蔵弾性率と損失弾性率の比であり、振動吸収性を反映する尺

図2にはtanδによる物性の違いを具体的に示す。tanδが大きい素材は、E”の割合が大きいため跳ね返り高さが低くなる。このような素材は、反発が小さく柔らかい状態で、振動を吸収しやすい特徴がある。一方、tanδが小さい素材は、E’の割合が大きいため跳ね返りの高さが高くなる。この様な素材は、バネのように変形に伴って反発する場合と、硬く変形は小さくても反発する場合がある。」(1ページ目左欄22行〜右欄最終行)

イ 対比・判断
(ア)本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明における「ガラス繊維」、「エンボス成形部」、「エアフィルタ用濾材連続シート」及び「エアフィルタ用濾材」は、それぞれ、本件発明1における「ガラス繊維」、「隆起部」、「ガラス濾材層」及び「エアフィルタ濾材」に相当する。
すると、本件発明1と甲1発明とは、
「ガラス繊維を含んでおり、隆起部を有するガラス濾材層を備えている、
エアフィルタ濾材。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
・相違点1:「隆起部」が、本件発明1では、「100℃の雰囲気温度下において1時間放置したときの隆起高さの変化が50%以内である」のに対して、甲1発明では、「70℃の熱風を面風速2.5m/sec.の条件で48時間通風した」「後のエンボスの戻り現象が起こらない」ものである点。
・相違点2:「隆起部」が、本件発明1では、「エアフィルタ濾材のうちの互いに対向する部分の間隔を保持するためのものである」のに対して、甲1発明はこのことが明らかでない点。
・相違点3:本件発明1は、「(ただし、隆起部がコーティングで覆われているものを除く)」との発明特定事項を有するのに対して、甲1発明は前記発明特定事項を有するか否か明らかでない点。

(イ)始めに、前記(ア)の相違点1が実質的な相違点であるか否かについて検討すると、本件発明1における「雰囲気温度」である「100℃」は、甲1発明における熱風の温度である70℃よりも高いから、甲1発明において「70℃の熱風を面風速2.5m/sec.の条件で48時間通風した」「後のエンボスの戻り現象が起こらない」としても、甲1発明に係る「エアフィルタ用濾材」を「100℃の雰囲気温度下において1時間放置したときの隆起高さの変化」が「50%以内」であると直ちにいえるものではない。
また、甲1発明に係る「エアフィルタ用濾材」においては、「濾材の40℃における貯蔵弾性率に対する80℃における貯蔵弾性率の低下率が5%以下」であり、「熱可塑性バインダー」である「ポリスチレン−アクリル樹脂」の「ガラス転移温度」が85℃なのであるが、そのような「エアフィルタ用濾材」を「100℃の雰囲気温度下において1時間放置したときの隆起高さの変化」が「50%以内」となることを裏付ける証拠はないし、そのことを示す技術常識も存在しないから、甲1発明に係る「エアフィルタ用濾材」において、「濾材の40℃における貯蔵弾性率に対する80℃における貯蔵弾性率の低下率が5%以下」であり、「熱可塑性バインダー」の「ガラス転移温度」が85℃であるからといって、当該「エアフィルタ用濾材」の「100℃の雰囲気温度下において1時間放置したときの隆起高さの変化」が「50%以内」であると直ちにいえるものでもない。
そうすると、前記相違点1は実質的な相違点であるから、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明1が甲1発明であるとはいえないのであり、本件発明1を直接的または間接的に引用する本件発明2〜11について検討しても事情は同じである。

(ウ)次に、前記相違点1の容易想到性について検討すると、甲第1〜4号証には、「エアフィルタ濾材」を「100℃の雰囲気温度下において1時間放置したときの隆起高さの変化」を「50%以内」とすることは記載も示唆もされていないから、当業者は、甲1発明において、「エアフィルタ用濾材」を「100℃の雰囲気温度下において1時間放置したときの隆起高さの変化」を「50%以内」とするには至らない。
してみれば、甲1発明において前記相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとすることは、甲第1〜4号証に記載された事項に基づいて容易になし得ることではないから、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲第1〜4号証に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたものではないのであり、本件発明2〜11について検討しても事情は同じである。
なお、特許異議申立書の5ページの表及び7ページ7行〜9行において、甲第5〜6号証が進歩性欠如の証拠として記載されているが、前記甲第5〜6号証は、前記ア(オ)及び(カ)で摘記したように、「貯蔵弾性率」に関連する粘弾性の温度依存性、動的粘弾性についての一般技術を示すにとどまり、「エアフィルタ濾材」を「100℃の雰囲気温度下において1時間放置したときの隆起高さの変化」を「50%以内」とすることを示唆するものではないことから、前記判断を左右するものではない。

ウ 申立人渡辺の主張について
(ア)申立人渡辺の新規性進歩性欠如についての主張は、概略、以下のとおりである。
甲1発明が、セパレータを用いなくても「エアフィルタ用濾材」の対向する部分同士の間隔を確保するという課題を解決するものであることに加えて、以下a〜dを踏まえると、甲1発明も、前記相違点1に係る発明特定事項を有する蓋然性が高い。
a 粘弾性体の弾性を示す指標である貯蔵弾性率は、一般にガラス転移点を境に減少するものであるところ、ガラス転移点が80℃以上の熱可塑性樹脂の場合、100℃における当該熱可塑性樹脂の貯蔵弾性率は大きく減少してはいないと考えられること。
b 損失正接tanδが小さい素材は貯蔵弾性率の割合が大きく、弾性特性が優位となっているところ、前記aのとおり、ガラス転移点が80℃以上の熱可塑性樹脂の場合、100℃における当該熱可塑性樹脂の貯蔵弾性率は大きく減少してはいないから、100℃におけるtanδも依然として小さいままであると考えられること。
c 甲1発明においては48時間という長時間にわたって70℃の熱風を通風し続けてもエンボス成形部の深さ変化はなかったこと。
d 甲1発明では、150℃に加熱した金型の間に挟んでエンボス加工を行っても、エンボス部の戻りがなかったこと。
また、前記相違点1が実質的な相違点であるとしても、甲第2〜3号証の記載によれば、エアフィルタの動作温度として100℃以上の高温も想定されることは当業者にとって周知の技術事項といえるから、高温雰囲気下で使用してもエンボス成形部の戻り現象を生じないようにすることで、セパレータ等を用いることなくエアフィルタを使用できるようにすることを目的とする甲1発明において、70℃よりも高い100℃におけるエンボス成形部の戻り現象の程度を限定することは、当業者であれば容易になし得ることである(特許異議申立書29ページ6行〜30ページ24行)。

(イ)以下、前記(ア)の主張について検討すると、甲1発明において、ガラス転移点が80℃以上の熱可塑性樹脂の場合、100℃における当該熱可塑性樹脂の貯蔵弾性率は大きく減少してはいないと考えられ、ガラス転移点が80℃以上の熱可塑性樹脂の場合、100℃におけるtanδも依然として小さいままであると考えられ、48時間という長時間にわたって70℃の熱風を通風し続けてもエンボス成形部の深さ変化がなく、更に、150℃に加熱した金型の間に挟んでエンボス加工を行ってもエンボス部の戻りがなかったとしても、前記イ(イ)に記載したのと同様の理由により、甲1発明に係る「エアフィルタ用濾材」の「100℃の雰囲気温度下において1時間放置したときの隆起高さの変化」が「50%以内」であると直ちにいえるものではないから、前記(ア)a〜dを踏まえても、甲1発明が前記相違点1に係る発明特定事項を有する蓋然性が高いとはいえない。
そして、エアフィルタの動作温度として100℃以上の高温も想定されることが当業者にとって周知の技術事項といえ、高温雰囲気下で使用してもエンボス成形部の戻り現象を生じないようにすることで、セパレータ等を用いることなくエアフィルタを使用できるようにすることを目的とする甲1発明において、70℃よりも高い100℃におけるエンボス成形部の戻り現象の程度を限定することを当業者が容易になし得るとしても、そこから進んで、甲1発明において、「エアフィルタ用濾材」を「100℃の雰囲気温度下において1時間放置したときの隆起高さの変化」を「50%以内」とするには至らないことに変わりはないから、本件発明1は、甲1発明及び甲第1〜4号証に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
したがって、申立人渡辺の前記主張はいずれも採用できない。

エ 小括
よって、本件発明1〜11は、甲第1号証に記載された発明ではなく、甲第1号証に記載された発明及び甲第1〜4号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもないので、前記第3の1(1)の特許異議申立理由はいずれも理由がない。

(2)特許法第36条第6項第2号所定の規定違反(明確性要件違反)について
明確性要件の判断手法
特許請求の範囲の記載が、明確性要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載だけでなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきであるから、以下、この観点に立って検討する。

イ 本件特許明細書の記載事項
本件特許明細書には、以下の(ア)〜(エ)の記載がある。
(ア)「【0001】
本開示は、エアフィルタ濾材、フィルタパック、エアフィルタユニット、およびこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、空気中に浮遊する粉塵を捕捉するためのエアフィルタ濾材として、ガラス繊維から構成されたガラス濾材が用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1(国際公開第2016/185511号)では、ガラス繊維から形成されたエアフィルタ濾材であって、凹凸状の折り曲げられたエアフィルタ濾材の隙間にセパレータを挿入することで、エアフィルタ濾材の対向する部分同士の間隔を保持させることが提案されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
以上の凹凸状に折り曲げられたエアフィルタ濾材では、エアフィルタ濾材の対向する部分同士の間隔を確保することができているものの、各隙間にセパレータを設ける必要が生じている。
【0005】
これに対して、例えば、エアフィルタ濾材自体において部分的に隆起部を設けることで、対向する部分同士の間隔を確保できれば、セパレータの必要性を低減することができる。
【0006】
ところが、エアフィルタ濾材が用いられる環境によっては、隆起部の隆起高さが変化することで、エアフィルタ濾材の対向する部分同士の間隔を確保することが困難になる場合がある。
【0007】
本開示の内容は、上述した点に鑑みたものであり、セパレータを用いなくても折り曲げられた状態でエアフィルタ濾材の部分同士の間隔を保持することが可能なエアフィルタ濾材、フィルタパック、エアフィルタユニット、およびこれらの製造方法を提供することを目的とする。」

(イ)「【課題を解決するための手段】
【0008】
本件発明者らは、隆起部におけるひずみの小さなエアフィルタ濾材を用いることで、エアフィルタ濾材の使用環境による隆起部の隆起高さの変化を小さく抑え、エアフィルタ濾材の対向する部分同士の間隔を確保しやすくなることを見出し、さらに検討を行って本開示内容を完成させた。
【0009】
第1観点に係るエアフィルタ濾材は、ガラス濾材層を備えている。ガラス濾材層は、ガラス繊維を含んでいる。ガラス濾材層は、隆起部を有している。隆起部は、100℃の雰囲気温度下において1時間放置したときの隆起高さの変化が50%以内である。隆起部は、エアフィルタ濾材のうちの互いに対向する部分の間隔を保持するためのものである。
・・・
【0013】
エアフィルタ濾材は、100℃の雰囲気温度下において1時間放置したときの隆起高さの変化が 50%以内となる隆起部を備えていればよく、当該変化が 50%以上である隆起した部分をさらに備えていてもよい。隆起部が複数存在する場合において、100℃の雰囲気温度下において1時間放置したときの隆起高さの変化が 50%以内となる隆起部の割合が50%以上であることが好ましい。
【0014】
なお、隆起高さの変化が 50%以内となるとは、例えば、当初100であった隆起高さが 50になる場合(50%の変化)、80になる場合(20%の変化)をいずれも含み、25になる場合(75%の変化)は含まない意味である。
【0015】
このエアフィルタ濾材は、折り曲げられた状態で高温環境下において使用される場合であっても、エアフィルタ濾材の隆起部の隆起高さの変化が小さく抑えられるため、エアフィルタ濾材の対向する部分同士の間隔を確保することが可能になる。
・・・
【0024】
第5観点に係るエアフィルタ濾材は、第1観点から第4観点のいずれかのエアフィルタ濾材であって、ガラス濾材層は、ガラス濾材層100重量部に対して300重量部の水を含ませた状態での引張伸度が3.0%以上である。
【0025】
このエアフィルタ濾材は、隆起部の形成が容易になる。
・・・
【0028】
第7観点に係るエアフィルタ濾材は、第1観点から第6観点のいずれかのエアフィルタ濾材であって、隆起部の隆起高さを半減するまでに必要な押圧荷重が0.3Nより大きい。
【0029】
このエアフィルタ濾材は、隆起部の隆起高さの減少を十分に抑制することができる。」

(ウ)「【0066】
ガラス濾材層は、100℃の雰囲気温度下において1時間放置したときの隆起高さの変化が 50%以内となる隆起部を備えていればよく、当該変化が 50%以上である隆起した部分をさらに備えていてもよい。隆起部が複数存在する場合において、100℃の雰囲気温度下において1時間放置したときの隆起高さの変化が 50%以内となる隆起部の割合が50%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましい。なお、ガラス濾材層は、200℃の雰囲気温度下において1時間放置したときの隆起高さの変化が 50%以内である隆起部を有していることがより好ましく、300℃の雰囲気温度下において1時間放置したときの隆起高さの変化が 50%以内である隆起部を有していることがさらに好ましい。
・・・
【0077】
また、隆起部およびその周囲での破損を抑制させる観点から、隆起部が形成される際のシートにおいてバインダが含有されていることが好ましい。・・・これにより、エンボス加工時にガラス繊維が過度に拘束されることで隆起部に応力が残存することやエンボス加工時に濾材がダメージを受けることを抑制しつつ、最終的に得られるガラス濾材層についてはエンボス隆起部の強度を高めることが可能になる。なお、バインダとして、含有水分量に応じて粘度が変化するバインダを用いる場合には、バインダの固形分の濃度が、0.1重量%以上3.0重量%以下の濃度の塗布液、より好ましくは0.3重量%以上1.0重量%以下の濃度の塗布液を用いてガラス濾材に塗布することが好ましい。
・・・
【0081】
また、バインダは、エンボス加工により隆起部を形成させた後のシートに対して、少なくとも隆起部に塗布して設けるようにしてもよい。・・・これにより、最終的に得られるガラス濾材層におけるエンボス隆起部の強度を高めることが可能になる。・・・」

(エ)「【0098】
(実施例1)
乾燥状態において、平均繊維径0.65μmの極細ガラス繊維45重量%、平均繊維径3.0μmの極細ガラス繊維50重量%、平均繊維径6.0μmのチョップドガラス繊維5重量%を組成とするガラス繊維97重量%と、ガラス転移温度が30℃であるアクリル系エマルションを組成とするバインダ3重量%と、が含まれるシートを作成した。
【0099】
次に、上記シートを水に浸した後に、水の含有量が30重量%(乾燥状態のシートの重量の30重量%の水を含有した状態)となるまで乾燥させた。
【0100】
その後、乾燥状態のシートの重量の30重量%の水を含有した状態のシートに、凹凸高さ(平坦面から隆起部の頂部までの高さ)が3mmとなるように、複数の凹部と凸部が施された上下のロールで挟むことでエンボス加工を施した。さらに、このエンボス加工が施されたシートを、高温恒温槽内の100℃の雰囲気温度環境下にて1時間放置することで再度乾燥させ、上記ガラス繊維97重量%、上記バインダ付着量3重量%の、エンボス加工されたエアフィルタ濾材を得た。
【0101】
(比較例1)
比較例1として、実施例1と同じシート(平均繊維径0.65μmの極細ガラス繊維45重量%、平均繊維径3.0μmの極細ガラス繊維50重量%、平均繊維径6.0μmのチョップドガラス繊維5重量%を組成とするガラス繊維97重量%と、ガラス転移温度が30℃であるアクリル系エマルションを組成とするバインダ3重量%と、が含まれるシート)について、水の含有量が0重量%となるまで乾燥させた状態のものを、凹凸高さが3mmとなるように、複数の凹部と凸部が施された上下のロールで挟むことでエンボス加工を施した。さらに、このエンボス加工が施されたシートを、高温恒温槽内の100℃の雰囲気温度環境下にて1時間放置することで再度乾燥させ、上記ガラス繊維97重量%、上記バインダ付着量3重量%の、エンボス加工されたエアフィルタ濾材を得た。
【0102】
(実施例2)
乾燥状態において、平均繊維径0.65μmの極細ガラス繊維45重量%、平均繊維径3.0μmの極細ガラス繊維55重量%を組成とするガラス繊維100重量%が含まれるシートを作成した。
【0103】
次に、上記シートを水に浸した後に、水の含有量が乾燥状態のシートの重量と同じ重量(100重量%)となるまで乾燥させた。
【0104】
その後、乾燥状態のシートの重量の100重量%の水を含有した状態のシートに、凹凸高さ(平坦面から隆起部の頂部までの高さ)が3.5mmとなるように、複数の凹部と凸部が施された上下のロールで挟むことでエンボス加工を施した。さらに、このエンボス加工が施されたシートを、高温恒温槽内の100℃の雰囲気温度環境下にて1時間放置することで再度乾燥させた。
【0105】
さらに、乾燥して得られたシートに対して、エンボス隆起部の頂部に対して、リン酸アルミニウムを組成とするバインダ(多木化学製)を固形分34重量%の濃度の溶液に水を加え10重量%濃度に希釈し、塗布してしみこませ、高温乾燥機内の500℃の雰囲気温度環境下にて1時間放置することで水和物を脱水させ、実施例2のエンボス加工されたエアフィルタ濾材を得た。なお、最終的な乾燥後のバインダ含有量は、乾燥状態のシートにおける重量を99重量部とした場合のバインダの重量が1重量部であった。
【0106】
(比較例2)
比較例2として、乾燥状態において、平均繊維径0.65μmの極細ガラス繊維45重量%、平均繊維径3.0μmの極細ガラス繊維55重量%を組成とするガラス繊維100重量%が含まれるシートを作成した。
【0107】
次に、上記シートを水に浸した後に、水の含有量が乾燥状態のシートの重量と同じ重量(100重量%)となるまで乾燥させた。
【0108】
その後、乾燥状態のシートの重量の100重量%の水を含有した状態のシートに、凹凸高さ(平坦面から隆起部の頂部までの高さ)が3.5mmとなるように、複数の凹部と凸部が施された上下のロールで挟むことでエンボス加工を施した。さらに、このエンボス加工が施されたシートを、高温恒温槽内の100℃の雰囲気温度環境下にて1時間放置することで再度乾燥させることで、比較例2のエンボス加工されたエアフィルタ濾材を得た。
【0109】
(おもり無しの隆起高さ変化確認試験)
上記実施例1および比較例1の各エアフィルタ濾材について、15層が重なるようにジグザグに折り畳み、折り畳まれた濾材の15層分の高さ(使用前高さ)を求めた。ここでは、おもり等で押さえ付けることなく、折り畳まれた濾材の厚み方向の長さ(1層目の下部から15層目の上部までの長さ)を4か所測定し、その平均値を求めることで、折り畳まれた濾材の15層分の使用前の高さとした。なお、測定時において、各隆起部の頂部は、隣の層の反隆起側の面から隆起した隆起部の頂部に接した状態、すなわち、対向する面に形成された隆起部同士が互いの頂部において接した状態であった。
【0110】
ここで、使用前の15層分の高さからエアフィルタ濾材の厚み×15の値を差し引いて得られる値を、30(凹部15個分と凸部15個分の合計の個数)で除することで、使用前の隆起高さの平均値を求めた。
【0111】
そして、上記15層が重なるように折り畳まれた濾材について、おもりを用いて重なり方向に荷重を与えることはせずに、高温恒温槽で1時間放置し、放置後の折り畳まれた濾材の15層分の高さを4か所測定して平均値を求めることで、15層分の使用状況での高さとした。なお、高温恒温槽での1時間の放置は、高温恒温槽の温度雰囲気を100℃とした場合、200℃とした場合、350℃とした場合について、それぞれ評価した。
【0112】
そして、使用状況の15層分の高さからエアフィルタ濾材の厚み×15の値を差し引いて得られる値を、30(凹部15個分と凸部15個分の合計の個数)で除することで、使用状況の隆起高さの平均値を求めた。
【0113】
以上により得られた各値について、「(使用前の隆起高さの平均値−使用状況の隆起高さの平均値)/使用前の隆起高さの平均値」の%値を評価した。
【0114】
実施例1では、高温恒温槽の温度雰囲気を100℃とした場合について0%、高温恒温槽の温度雰囲気を200℃とした場合について0%、高温恒温槽の温度雰囲気を350℃とした場合について0%であった。これに対して、比較例1では、高温恒温槽の温度雰囲気を100℃とした場合について85%、高温恒温槽の温度雰囲気を200℃とした場合について85%、高温恒温槽の温度雰囲気を350℃とした場合について85%であった。
【0115】
(おもり有りの隆起高さ変化確認試験)
上記実施例1、比較例1、実施例2、および、比較例2の各エアフィルタ濾材について、おもり使用の有無以外の点において上記おもり無しの隆起高さ変化確認試験と同様にしつつ、おもりを用いて隆起高さの変化を評価した。
【0116】
具体的には、上記実施例1、比較例1、実施例2、および、比較例2の各エアフィルタ濾材について、15層が重なるようにジグザグに折り畳み、折り畳まれた濾材の15層分の荷重時高さ(使用前高さ)を求めた。ここでは、15層の積層方向が荷重方向となるように2.5kgのおもりで押さえ付けた状態で、折り畳まれた濾材の厚み方向の長さ(1層目の下部から15層目の上部までの長さ)を4か所測定し、その平均値を求めることで、折り畳まれた濾材の15層分の使用前の荷重時高さとした。なお、測定時において、各隆起部の頂部は、隣の層の反隆起側の面から隆起した隆起部の頂部に接した状態、すなわち、対向する面に形成された隆起部同士が互いの頂部において接した状態であった。
【0117】
ここで、使用前の15層分の荷重時高さからエアフィルタ濾材の荷重時の厚み×15の値を差し引いて得られる値を、30(凹部15個分と凸部15個分の合計の個数)で除することで、使用前の荷重時の隆起高さの平均値を求めた。ここで、エアフィルタ濾材の荷重時の厚みは、エンボス加工が施されていない同様のエアフィルタを15枚積層し、15層の積層方向が荷重方向となるように2.5kgのおもりで押さえ付けた状態(15cm×40cmの面積に対して2.5kgのおもりの荷重が作用する状態)で、15層分の厚みの合計を求め、これを15で除して1層分の荷重時の厚みを求めた。
【0118】
そして、上記15層が重なるように折り畳まれた濾材について、上記同様に15層の積層方向が荷重方向となるように2.5kgのおもりで押さえ付けた状態で、高温恒温槽で1時間放置し、放置後の折り畳まれた濾材の15層分の高さを4か所測定して平均値を求めることで、15層分の使用状況での荷重時の高さとした。なお、高温恒温槽での1時間の放置は、高温恒温槽の温度雰囲気を100℃とした場合、200℃とした場合、350℃とした場合について、それぞれ評価した。
【0119】
そして、使用状況の15層分の荷重時の高さからエアフィルタ濾材の荷重時の厚み×15の値を差し引いて得られる値を、30(凹部15個分と凸部15個分の合計の個数)で除することで、使用状況の荷重時の隆起高さの平均値を求めた。
【0120】
以上により得られた各値について、「(使用前の荷重時の隆起高さの平均値−使用状況の荷重時の隆起高さの平均値)/使用前の荷重時の隆起高さの平均値」の%値を評価した。
【0121】
実施例1では、高温恒温槽の温度雰囲気を100℃とした場合について0%、高温恒温槽の温度雰囲気を200℃とした場合について0%、高温恒温槽の温度雰囲気を350℃とした場合について12%であった。これに対して、比較例1では、高温恒温槽の温度雰囲気を100℃とした場合について100%、高温恒温槽の温度雰囲気を200℃とした場合について100%、高温恒温槽の温度雰囲気を350℃とした場合について100%であり、実質的に隆起部が消滅していた。
【0122】
以上より、実施例1のエアフィルタ濾材は、高温環境下で用いられる場合であっても、比較例1のエアフィルタ濾材よりも、隆起高さを維持することができ、プリーツ形状として用いる場合におけるプリーツ間隔を維持させやすいことが分かる。
【0123】
また、実施例2では、高温恒温槽の温度雰囲気を100℃とした場合について0%、高温恒温槽の温度雰囲気を200℃とした場合について0%、高温恒温槽の温度雰囲気を350℃とした場合について5%であった。これに対して、比較例2では、高温恒温槽の温度雰囲気を100℃とした場合について0%、高温恒温槽の温度雰囲気を200℃とした場合について0%、高温恒温槽の温度雰囲気を350℃とした場合について5%であった。
【0124】
(引張伸度)
上記実施例1、比較例1、実施例2、および、比較例2の各エアフィルタ濾材の製造途中のエンボス加工を施す直前の状態のシートを用いて、水を含まないシートの重量100重量部に対して300重量部の水を含浸させた状態のものをそれぞれ用意し、引張伸度を測定した。引張伸度の測定条件は、試験環境25℃、島津製作所製オートグラフAGS−5KNHを用いて、JIS P8113(2006)に準拠した条件とした。サンプルサイズの都合により、有効試験片サイズを幅2.5cm×長さ10cm、n=3とした。初期のひずみ速度をJIS準拠の0.11min−1とするため、クロスヘッドスピードを11mm/minとした。水分調整はマルハチ産業株式会社製オートマチックスプレー#2を用いて所定の水分量を付加し、水分を30分以上浸透させてから測定を行った。
【0125】
実施例1のシートの引張伸度は3.5%、比較例1のシートの引張伸度は1.5%、実施例2のシートの引張伸度は5.5%、比較例2のシートの引張伸度は5.5%であった。これらによれば、エンボス加工時においてシートに液体を含有させた状態とすることで、引張伸度を高めることができていることが分かる。
【0126】
(エンボス隆起部の隆起高さ半減荷重N)
上記実施例1、比較例1、実施例2、および、比較例2の各エアフィルタ濾材について、エンボス隆起部に荷重を加えた場合に隆起高さが半減することとなる荷重の値を測定した。具体的には、イマダ製メカニカルフォースゲージFB10Nを同社製手動計測スタンドSVL−1000Nに固定し、測定子(サイズΦ13.3mm(138.9mm2))が、山同士を突き合わせた状態で高さが半減となるまで押し込むようにストロークを調整し、その際の最大荷重/2(1山分)を5山分測定した平均値Nとして算出した。
【0127】
実施例1のエアフィルタ濾材の隆起高さ半減荷重Nは1.2N、比較例1のエアフィルタ濾材の隆起高さ半減荷重Nは1.0N、実施例2のエアフィルタ濾材の隆起高さ半減荷重Nは2.0N、比較例2のエアフィルタ濾材の隆起高さ半減荷重Nは0.3Nであった。実施例1は、隆起部においてひずみが残っている比較例1と比べて、隆起部の高さが減りにくいことが分かる。また、実施例2は、隆起部にバインダが含まれていることから、比較例2と比べて、隆起部の高さが減りにくいことが分かる。これにより、使用時に風圧を受けて隆起高さが低下する方向に力を受けた場合であっても、プリーツ間隔をより適切に維持させやすいことが分かる。
【0128】
(エンボス隆起部/非隆起部の捕集効率比)
上記実施例1、比較例1、実施例2、および、比較例2の各エアフィルタ濾材について、エンボス隆起部を含む部分の所定面積(エンボス隆起部が3箇所含まれる8cm×8cm)の捕集効率と、エンボス隆起部を含まない非隆起部の所定面積(8cm×8cm)の捕集効率と、の比(エンボス隆起部を含む部分の捕集効率/非隆起部の捕集効率)を測定した。具体的には、TSI社製オートフィルターテスター3160を用いて、有効測定面積65.01cm2、測定条件:透過風速5.3cm/sとした時の最大透過時の粒形(MPPS)での捕集効率を測定した。
【0129】
実施例1のエアフィルタ濾材の捕集効率比は99.95%、比較例1のエアフィルタ濾材の捕集効率比は98%、実施例2のエアフィルタ濾材の捕集効率比は99.99%、比較例2の捕集効率比は99.99%であった。エンボス加工時に液体を含有させていない比較例1では、エンボス加工時に隆起部を形成させる際に、隆起部において濾材が損傷を受け、リークが生じやすくなっていることが分かる。」

明確性要件についての当審の判断
(ア)まず、前記第3の1(2)アの特許異議申立理由について検討すると、本件発明1は、「100℃の雰囲気温度下において1時間放置したときの隆起高さの変化が50%以内である」との発明特定事項を有するものであり、「100℃の雰囲気温度下において1時間放置」する場合、特段、おもりを用いることが特定されるものではないから、本件発明1においては、「隆起高さの変化」を、おもりなどにより「隆起部」に負荷をかけることなく、「100℃の雰囲気温度下において1時間放置」することで測定するものであると解するのが妥当である。

(イ)一方、前記イ(エ)(段落【0098】〜【0101】、【0109】〜【0114】、【0122】)によれば、本件特許明細書には、「おもり無しの隆起高さ変化確認試験」において、高温恒温槽の雰囲気温度を100℃とした場合、「隆起高さの変化」が、実施例1では0%、比較例1では85%であり、実施例1の「エアフィルタ濾材」は、比較例1の「エアフィルタ濾材」よりも隆起高さを維持することができることが記載されている。
そして、前記「おもり無しの隆起高さ変化確認試験」により測定された「隆起高さの変化」が、実施例1は本件発明1の発明特定事項を満たし、比較例1はこれを満たさないのであるから、本件特許明細書には、前記「おもり無しの隆起高さ変化確認試験」により、「隆起高さの変化」が本件発明1の発明特定事項を満たすか否かを判断できることが記載されているといえ、前記「おもり無しの隆起高さ変化確認試験」は、「隆起高さの変化」を、おもりなどにより「隆起部」に負荷をかけることなく、「100℃の雰囲気温度下において1時間放置」することで測定するものといえる。

(ウ)前記(ア)及び(イ)によれば、本件特許明細書の記載に接した当業者は、本件発明1における「隆起高さの変化」の測定方法は、おもりなどにより「隆起部」に負荷をかけることなく「100℃の雰囲気温度下において1時間放置」する試験方法である、前記「おもり無しの隆起高さ変化確認試験」により測定するものと理解するから、本件発明1の「100℃の雰囲気温度下において1時間放置したときの隆起高さの変化が50%以内である」との発明特定事項が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえないのであり、このことを前記アの判断手法に当てはめてみれば、特許請求の範囲の請求項1の記載は明確性要件に適合するといえ、同請求項2〜11について検討しても事情は同じであるので、前記第3の1(2)アの特許異議申立理由は理由がない。

(エ)次に、前記第3の1(2)イの特許異議申立理由について検討すると、本件特許請求の範囲の請求項1は、いわゆる「除くクレーム」であって、請求項に記載した事項の記載表現を残したままで、先行技術と重なる部分をその請求項に記載した事項から除外することを明示したものといえるので、以下、特許権者が前記請求項1から除外しようとする、先行技術と重なる部分が明確であるか否かについて検討するのであるが、その場合、本件特許明細書の記載のみならず、本件特許出願の審査過程において提示された先行技術についても検討する必要がある。
そこで、特許権者により令和3年9月28日に提出された審判請求書の記載をみると、その【請求の理由】の4.(4−1)には、
「補正後の請求項1では、補正前の請求項1において、隆起部がコーティングで覆われているものを除く補正を行っている。当該補正は、本願発明の技術的思想を開示せずたまたま重複する内容が含まれているものとされた引用文献1(米国特許第5609761号明細書)との重なりのみを除くことを目的とする補正であり、新たな技術的事項を導入するものではないことから、新規事項の追加には当たらない。また、隆起部について、コーティングで覆われていないものに限定されている点で、限定的減縮を目的とする補正に該当する。」(1行〜8行)
と記載され、同(4−5)には、
「以上の相違点2について、引用文献1では、「the coating mass covered embossed spots」と記載され、エンボス部がコーティングで覆われていることが明示されている。このため、引用文献1のエンボス部は、コーティングにより覆われることで、濾材として機能しない部分になっている。
これに対して、本願発明のエアフィルタ濾材では、隆起部がコーティングにより覆われていないものであり、本願発明の隆起部はフィルタ面同士の間隔を保持しつつも隆起部における濾材としての機能は失われておらず、濾材の有効表面積が十分に確保されるものである。
引用文献1には、フィルタ面同士の間隔を保持しつつ濾材としての機能も発揮できるように構成された隆起部の構成は開示されておらず、フィルタ面同士の間隔を保持させるエンボス部においても濾材としての機能を発揮させるとの技術的思想はなんら示唆されていない。
したがって、引用文献1の記載から上記相違点2の構成を容易に想到することもできない。」(1行〜14行)
と記載されている。
前記記載からみれば、特許権者が前記請求項1から除外しようとする、先行技術と重なる部分は、前記審判請求書に先行技術として記載された引用文献1(米国特許第5609761号明細書)に記載された事項なのであって、前記引用文献1は甲第2号証であり、前記(1)ア(イ)(2b)及び(2c)によれば、甲第2号証には、エンボス加工された構造が形成されたフィルタ媒体の表面において、エンボススポットの領域に、硬化可能なコーティング物質の層、例えば接着剤が適用され、これにより、エンボススポットの芽状突起が被覆され、実質的に封止されることが記載されている。
そして、前記コーティング物質はエンボススポットの芽状突起を実質的に封止するものであるから、フィルタ媒体の濾材としての機能を失わせるものであり、また、甲第2号証に記載されたフィルタ媒体、エンボススポットの芽状突起及びコーティング物質は、それぞれ、本件発明1における「エアフィルタ濾材」、「隆起部」及び「コーティング」に相当するので、当業者は、前記審判請求書及び甲第2号証の記載に基づいて、前記請求項1に記載した事項から除外する、先行技術である甲第2号証と重なる部分が、「エアフィルタ濾材」の「隆起部」が濾材としての機能が失われる「コーティング」で覆われているものであることを理解することができる。
すると、特許権者が前記請求項1から除外しようとする、先行技術と重なる部分は明確であるから、本件発明1の「(但し、隆起部がコーティングで覆われているものを除く。)」との発明特定事項が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえないのであり、このことを前記アの判断手法に当てはめてみれば、特許請求の範囲の請求項1の記載は明確性要件に適合するといえ、同請求項2〜11について検討しても事情は同じであるので、前記第3の1(2)イの特許異議申立理由は理由がない。

(オ)更に、前記第3の1(2)ウの特許異議申立理由について検討すると、前記イ(イ)(段落【0028】〜【0029】)によれば、本件発明7は、「隆起部の隆起高さ」を半減するまでに必要な押圧荷重を0.3Nより大きくすることで、「エアフィルタ濾材」の「隆起部の隆起高さ」の減少を十分に抑制する、という技術的意味を有するのであるから、本件発明7において「隆起部の隆起高さ」が特定されておらず、かつ、「隆起部の隆起高さ」を半減するに要する「押圧荷重」が前記「隆起高さ」に応じて変わるとしても、本件発明7の「隆起部の隆起高さを半減するまでに必要な押圧荷重が0.3Nより大きい」との発明特定事項は技術的意味を有するものであり、その意味内容も明確である。
また、前記イ(エ)(段落【0126】)には、「隆起部の隆起高さ」を半減するに要する「押圧荷重」を測定する際の温度が記載されていないから、本件特許明細書の記載に接した当業者は、前記温度は室温であると理解することができるので、前記「押圧荷重」は一義的に定まるものである。
してみれば、本件発明7の「前記隆起部の隆起高さを半減するまでに必要な押圧荷重が0.3Nより大きい」との発明特定事項が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえないのであり、このことを前記アの判断手法に当てはめてみれば、特許請求の範囲の請求項7の記載は明確性要件に適合するといえ、同請求項8〜11について検討しても事情は同じであるので、前記第3の1(2)ウの特許異議申立理由は理由がない。

(カ)最後に、前記第3の1(2)エの特許異議申立理由について検討すると、前記イ(エ)(段落【0128】)によれば、本件特許明細書の記載に接した当業者は、本件発明8における「ガラス濾材層」の「捕集効率」は、TSI社製オートフィルターテスター3160を用いて、有効測定面積65.01cm2、測定条件:透過風速5.3cm/sとした時の最大透過時の粒形(MPPS)での「捕集効率」を測定することで求められることを理解することができるから、本件発明8における「捕集効率」が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえないのであり、このことを前記アの判断手法に当てはめてみれば、特許請求の範囲の請求項8の記載は明確性要件に適合するといいえ、同請求項9〜11について検討しても事情は同じであるので、前記第3の1(2)エの特許異議申立理由は理由がない。

エ 小括
したがって、本件特許請求の範囲の請求項1〜11の記載は明確性要件に適合するので、前記第3の1(2)の特許異議申立理由はいずれも理由がない。

(3)特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)について
ア サポート要件の判断手法
特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が本件特許の出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであるから、以下、この観点に立って検討する。

イ サポート要件についての当審の判断
(ア)前記(2)イ(ア)(段落【0003】〜【0007】)によれば、従来、ガラス繊維から形成されたエアフィルタ濾材であって、凹凸状の折り曲げられたエアフィルタ濾材の隙間にセパレータを挿入することで、エアフィルタ濾材の対向する部分同士の間隔を保持させることが提案されており、凹凸状に折り曲げられたエアフィルタ濾材では、エアフィルタ濾材の対向する部分同士の間隔を確保することができているものの、各隙間にセパレータを設ける必要が生じているものである。
これに対して、例えば、エアフィルタ濾材自体において部分的に隆起部を設けることで、対向する部分同士の間隔を確保できれば、セパレータの必要性を低減することができるところ、本件発明は、エアフィルタ濾材が用いられる環境によっては、隆起部の隆起高さが変化することで、エアフィルタ濾材の対向する部分同士の間隔を確保することが困難になる場合がある、という課題(以下、「本件課題」という。)を解決するものである。
そして、前記(2)イ(イ)(段落【0008】〜【0015】)によれば、本件発明に係る「エアフィルタ濾材」は、100℃の雰囲気温度下において1時間放置したときの隆起高さの変化が 50%以内となる隆起部を備えていればよく、そうすることで、折り曲げられた状態で高温環境下において使用される場合であっても、エアフィルタ濾材の隆起部の隆起高さの変化が小さく抑えられるため、エアフィルタ濾材の対向する部分同士の間隔を確保することが可能となり、本件課題を解決することができるものである。

(イ)前記(ア)によれば、本件発明においては、「100℃の雰囲気温度下において1時間放置したときの隆起高さの変化が50%以内」となる「隆起部」が存在しさえすれば、エアフィルタ濾材の対向する部分同士の間隔を確保することが可能となり、本件課題を解決することができるのであって、「100℃の雰囲気温度下において1時間放置したときの隆起高さの変化が50%以内」となる「隆起部」が存在することは、本件発明1の「100℃の雰囲気温度下において1時間放置したときの隆起高さの変化が50%以内である隆起部を有するガラス濾材層を備える」、との発明特定事項にほかならないから、本件課題は、本件発明1の前記発明特定事項により解決することができるものである。
そして、本件発明1に、大半の「隆起部」の「隆起高さの変化」が50%以上となるものが含まれるとしても、本件発明においては、「100℃の雰囲気温度下において1時間放置したときの隆起高さの変化が50%以内」となる「隆起部」が存在しさえすればよいのであるから、本件発明1の発明特定事項により本件課題を解決できることに変わりはないのであり、このことを前記アの判断手法に当てはめてみれば、特許請求の範囲の請求項1の記載はサポート要件に適合するといえ、同請求項2〜11について検討しても事情は同じである。
したがって、前記第3の1(3)の特許異議申立理由は理由がない。

(4)特許法第36条第4項第1号所定の規定違反(実施可能要件違反)について
実施可能要件の判断手法
物の発明における発明の実施とは、その物の生産、使用等をする行為をいうから(特許法第2条第3項第1号)、物の発明について、発明の詳細な説明の記載が上記の実施可能要件に適合するか否かは、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を製造し、使用することができる程度に、発明の詳細な説明が明確かつ十分に記載されているか否かを検討して判断すべきであるので、以下、この観点に立って検討する。

実施可能要件についての当審の判断
前記(2)イ(エ)(段落【0098】〜【0100】、【0102】〜【0105】)によれば、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件発明に係る「エアフィルタ濾材」の湿式法による製造方法が、当業者が本件発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。
そして、本件特許明細書の発明の詳細な説明に、本件発明に係る「エアフィルタ濾材」の製造方法として前記湿式法しか記載されていないとしても、当業者は、前記湿式法により本件発明に係る「エアフィルタ濾材」を製造でき、製造した「エアフィルタ濾材」を使用することができるのであるから、発明の詳細な説明は、当業者が、過度の試行錯誤をすることなく、本件発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているといえるのであり、このことを前記アの判断手法に当てはめてみれば、発明の詳細な説明の記載は実施可能要件に適合するといえる。
したがって、前記第3の1(4)の特許異議申立理由は理由がない。

(5)特許法第36条第4項第1号所定の規定違反(委任省令要件違反)について
ア 委任省令要件の判断基準
特許法第36条第4項第1号で委任する経済産業省令(特許法施行規則第24条の2)では、発明がどのような技術的貢献をもたらすものであるかが理解でき、また審査及び調査に役立つように、発明が解決しようとする課題、その解決手段などの、「当業者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項」を、発明の詳細な説明に記載することが規定されている。
そして、委任省令要件で記載することが求められる事項とは、発明の属する技術分野並びに発明が解決しようとする課題及びその解決手段である。
また、発明特定事項に数式又は数値を含む場合であって、当業者が発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、発明の課題とその数式又は数値による特定との実質的な関係を理解することができず、発明の課題の解決手段を理解できない場合には、発明の技術上の意義が不明であり、委任省令要件違反に該当するので、以下、この観点に立って検討する。

イ 委任省令要件についての当審の判断
(ア)前記(2)イ(ア)(段落【0001】)によれば、本件発明の属する技術分野は、エアフィルタ濾材、フィルタパック、エアフィルタユニット、およびこれらの製造方法に関するものであるから、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、発明の属する技術分野が記載されている。
また、発明が解決しようとする課題は、前記(3)イ(ア)に記載された本件課題であり、その解決手段は、同(イ)によれば、「100℃の雰囲気温度下において1時間放置したときの隆起高さの変化が50%以内」となる「隆起部」が存在することであるから、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、発明が解決しようとする課題及びその解決手段が記載されている。

(イ)更に、前記(2)イ(イ)(段落【0024】〜【0025】)によれば、本件発明5の「前記ガラス濾材層は、ガラス濾材層100重量部に対して300重量部の水を含ませた状態での引張伸度が3.0%以上である」との発明特定事項により、「エアフィルタ濾材」の「隆起部」の形成が容易になるのであり、このことと前記(ア)によれば、当業者は、本件発明5の前記発明特定事項により、「100℃の雰囲気温度下において1時間放置したときの隆起高さの変化が50%以内」となる「隆起部」の形成が容易になり、本件課題を解決できることを理解することができるから、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、発明の課題と、発明特定事項に含まれる数式又は数値による特定との実質的な関係を理解することができるものである。

(ウ)そして、前記(ア)、(イ)の事項を前記アの判断手法に当てはめてみれば、発明の詳細な説明の記載は委任省令要件に適合するといえるのであって、発明の詳細な説明の実施例1及び比較例2とで「引張伸度」の値に大きな差がみられる理由を理解できないとしても、発明の詳細な説明の記載が委任省令要件に適合することに変わりはない。
したがって、前記第3の1(5)の特許異議申立理由は理由がない。

(6)申立人渡辺の特許異議申立理由についてのまとめ
よって、申立人渡辺の特許異議申立理由はいずれも理由がない。

2 申立人坂本による特許異議申立理由について
ここでいう甲第1号証〜甲第3号証は、申立人坂本が提出した、前記第3の2(3)に記載された甲第1号証〜甲第3号証である。
(1)特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)、特許法第36条第6項第2号所定の規定違反(明確性要件違反)、特許法第36条第4項第1号所定の規定違反(実施可能要件違反)について
ア まず、前記第3の2(1)アの特許異議申立理由について検討すると、前記1(2)ウ(ウ)に記載したのと同様の理由により、前記第3の2(1)ア(ア)の特許異議申立理由は理由がない。
また、前記1(3)イ(イ)に記載したのと同様の理由により、本件発明1に「隆起高さの変化」の測定方法が特定されていないとしても、本件発明1の発明特定事項により本件課題を解決できることに変わりはないから、当業者は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載を、本件発明1の範囲まで拡張ないし一般化できるものである。
そして、このことを前記1(3)アの判断手法に当てはめてみれば、特許請求の範囲の請求項1の記載はサポート要件に適合するといえ、同請求項2〜11について検討しても事情は同じであるから、前記第3の2(1)ア(イ)の特許異議申立理由も理由がない。

イ 次に、前記第3の2(1)イの特許異議申立理由について検討すると、本件発明においては、本件発明1の「100℃の雰囲気温度下において1時間放置したときの隆起高さの変化が50%以内である隆起部を有するガラス濾材層を備える」、との発明特定事項により本件課題を解決することができるものであることは、前記1(3)イ(イ)に記載したとおりであって、本件発明は、液体含有状態のガラス繊維のシートにエンボス加工を施して「隆起部」を形成することにより本件課題を解決するものではない。
そうすると、前記第3の2(1)イ(ア)の特許異議申立理由は前提において誤っており、理由がない。
また、本件特許明細書の発明の詳細な説明に、本件発明に係る「エアフィルタ濾材」の製造方法として湿式法しか記載されていないとしても、発明の詳細な説明の記載は実施可能要件に適合するといえることは、前記1(4)イに記載したとおりであるから、前記第3の2(1)イ(イ)の特許異議申立理由も理由がない。

ウ 更に、前記第3の2(1)ウの特許異議申立理由について検討すると、本件発明1の「(但し、隆起部がコーティングで覆われているものを除く。)。」との発明特定事項が明確であることは、前記1(2)ウ(エ)に記載したとおりであり、本件発明1において「隆起部」の具体的な形状が特定されていなくても、前記発明特定事項が明確であることに変わりはないから、前記第3の2(1)ウの特許異議申立理由は理由がない。

エ 最後に、前記第3の2(1)エの特許異議申立理由について検討すると、前記1(2)イ(エ)(段落【0098】〜【0108】、【0124】〜【0125】)によれば、本件特許明細書の記載に接した当業者は、本件発明においては、「ガラス濾材層」の「引張伸度」を、各エアフィルタ濾材の製造途中のエンボス加工を施す直前の状態のシートを用いて測定するものであって、本件発明は、そのようにして測定された「引張伸度」が3.0%以上であるシートにエンボス加工を施して、「エアフィルタ濾材」とするものであることを理解する。
そうすると、「引張伸度」が「隆起部」を形成する前のシートについて測定されているのに対して、本件発明5における「ガラス濾材層」が既に「隆起部」を有するものであるとしても、本件特許明細書の発明の詳細な説明と本件発明5の発明特定事項の間に矛盾や齟齬は存在しないから、本件発明5は、発明の詳細な説明に記載された発明といえ、本件発明6〜11について検討しても事情は同じであるので、前記第3の2(1)エ(ア)の特許異議申立理由は理由がない。
更に、前記1(2)イ(エ)(段落【0124】)によれば、本件特許明細書の記載に接した当業者は、ガラス濾材層の「引張伸度」の測定条件は、具体的に試験環境25℃、島津製作所製オートグラフAGS−5KNHを用いて、JIS P8113(2006)に準拠した条件とし、サンプルサイズの都合により、有効試験片サイズを幅2.5cm×長さ10cm、n=3とし、初期のひずみ速度をJIS準拠の0.11min−1とするため、クロスヘッドスピードを11mm/minとし、水分調整はマルハチ産業株式会社製オートマチックスプレー#2を用いて所定の水分量を付加し、水分を30分以上浸透させてから測定を行ったものであることを理解できるから、「引張伸度」の定義を理解することができるものである。
そうすると、実施例1と比較例1とで「引張伸度」が異なる値となる理由が理解できないとしても、本件発明5における「引張伸度」が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえないのであり、このことを前記1(2)アの判断手法に当てはめてみれば、特許請求の範囲の請求項5の記載は明確性要件に適合するといえ、同請求項6〜11について検討しても事情は同じであるので、前記第3の2(1)エ(イ)の特許異議申立理由も理由がない。

オ 小括
したがって、本件特許請求の範囲の請求項1〜11の記載は明確性要件及びサポート要件に適合し、発明の詳細な説明の記載は実施可能要件に適合するので、前記第3の2(1)の特許異議申立理由はいずれも理由がない。

(2)特許法第29条第1項第3号、第2項所定の規定違反(新規性進歩性欠如)について
ア 甲各号証の記載事項等
(ア)甲第1号証の記載事項及び甲第1号証に記載された発明
ここでいう甲第1号証と、申立人渡辺が提出した前記第3の1(6)の甲第1号証とは同一の文献であって、甲第1号証の記載事項及び甲第1号証に記載された発明は、前記1(1)ア(ア)に記載したとおりである。

(イ)甲第2号証の記載事項
甲第2号証には、以下の(2A)〜(2C)の記載がある。
(2A)「しかし,動的方法の最大の利点は弾性項と粘性項を容易に,かつ定量的に分離できる点にある.式(8)を書き直すと・・・で定義されるものが貯蔵弾性率と損失弾性率である.損失正接tanδはそれらの比で定義される.損失正接は弾性項を基準とするときの粘性項の割合を意味する.」(35ページ右欄下から6行〜36ページ左欄6行)

(2B)「図11はG’,G”及びtanδの温度依存性を模式的に示したものである.損失弾性率や損失正接がこのようなピークを示すことがよくあるが,本質的なのはG”曲線がピークを示すことである.低温(Tg以下の温度)ではゴムも樹脂状でカチカチである.・・・ここから温度を上げていって,Tg付近になると,ゴム分子は急に活発な運動を始める.」(37ページ右欄下から8行〜38ページ左欄1行)

(2C)「また,緩和機構が存在してエネルギー損失の割合が大きくなるとき,G”あるいはtanδにピークが現れる.したがって,周波数を固定し,G”あるいはtanδの温度依存性を調べればガラス転移温度や結晶融解温度なども分かる.動的弾性率やtanδがよく使われる理由はここにある.」(39ページ左欄下から3行〜右欄2行)

(ウ)甲第3号証の記載事項
甲第3号証には、以下の(3A)〜(3D)の記載がある。
(3A)「当社は現在、日本及びアジア市場に向けた開発を進めており、まず種々の組成、Tg(ガラス転移点)及び分子量領域におけるスチレン・アクリル系ポリマーやオールアクリル系ポリマー群のラインナップを開始した。」(42ページ左欄15行〜18行)

(3B)「SCJP社ではスチレンを主成分とした高Tgのアクリル系ポリマーをラインナップしているのに対し、東亞合成ではオールアクリル系やアクリルリッチな組成のポリマーの開発に重点をおき、低Tgの常温液状樹脂までカバーした開発を進めている。」(43ページ左欄8行〜11行)

(3C)「一方、カルボキシル基を有する樹脂(UC−3000シリーズ)はアルカリ水で中和して可溶化させることができ、有機溶剤類を使用せずに水系の添加剤やコーティング剤の用途に有用である・・・アクリル系樹脂を主体としており、種々のモノマーの組み合せによって,かなり広範囲にわたるTgや官能基の樹脂を製造することができるので様々な用途に適用可能である.」(44ページ左欄11行〜右欄4行)

(3D)「表3

」(44ページ)

イ 対比・判断
本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は、前記1(1)イ(ア)に記載したとおりであって、前記1(1)イ(ア)の相違点1は実質的な相違点であるから、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明1〜11が甲1発明とはいえないことは、同(イ)に記載したとおりである。
そして、甲第2〜3号証にも、「エアフィルタ濾材」の「隆起部」の「100℃の雰囲気温度下において1時間放置したときの隆起高さの変化」を「50%以内」とすることが記載も示唆もされていないから、当業者は、甲1発明において、「エアフィルタ用濾材」を「100℃の雰囲気温度下において1時間放置したときの隆起高さの変化」を「50%以内」とするには至らない。
してみれば、甲1発明において前記相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとすることは、甲第2〜3号証に記載された事項に基づいて容易になし得ることではないから、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲第2〜3号証に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたものではないのであり、本件発明2〜11について検討しても事情は同じである。

ウ 申立人坂本の主張について
(ア)申立人坂本の新規性進歩性欠如についての主張は、概略、以下のとおりである。
a 本件特許明細書の比較例1のシートは、エンボス加工を施し、このエンボス加工が施されたシートを高温恒温槽内の100℃の雰囲気温度環境下にて1時間放置することで、エンボス加工された「エアフィルタ濾材」を得たことが記載されているから(前記1(2)イ(エ)(段落【0101】))、前記比較例1のシートも、100度の雰囲気温度下において1時間放置するだけならば、隆起高さは変化しないのに対して、甲第1号証のエンボス加工が施された実施例1〜3の「エアフィルタ用濾材」も、ガラス繊維の湿紙を120℃の熱風で乾燥させ、エンボス加工を施したものであるから(1(1)ア(ア)a(1b)(段落【0027】〜【0029】))、100℃の雰囲気温度下において1時間放置してもエンボスの高さは変化しないので、甲第1号証には、本件発明1の「100℃の雰囲気温度下において1時間放置したときの隆起高さの変化が50%以内である隆起部を有するガラス濾材層を備えており」、との発明特定事項が実質的に開示されている(特許異議申立書27ページ10行〜28ページ13行)。
b 甲第1号証の【図3】、【図4】(1(1)ア(ア)a(1c)、(1d))によれば、甲第1号証に記載される実施例4の損失正接は、100℃以上まで小さい値であり、また、100℃付近まで貯蔵弾性率の低下も小さいから、前記実施例4のフィルタは、100度の雰囲気温度下において1時間放置しても、70℃の熱風を48時間通風する評価をした場合と同様に、エンボスの高さが変化しないか、変化したとしても50%以内の変化である蓋然性が高く、ガラス転移温度が92℃のバインダーを付与する実施例3(1(1)ア(ア)a(1b)(段落【0029】))についても同様であるから、甲第1号証には、本件発明1の「100℃の雰囲気温度下において1時間放置したときの隆起高さの変化が50%以内である隆起部を有するガラス濾材層を備えており」、との発明特定事項が実質的に開示されている(特許異議申立書28ページ14行〜30ページ17行)。
c 甲1発明は、「エアフィルタ用濾材」に付与するバインダーの組成をガラス転移点温度80℃以上とし、濾材のガラス様状態を高温まで保ち、「エアフィルタ用濾材」の40℃における貯蔵弾性率に対する80℃における貯蔵弾性率の低下率を5%以下とし、高温雰囲気下で使用を可能とするものであるので、「エアフィルタ用濾材」に付与するバインダーとして、甲第3号証に記載された市販の高Tg樹脂であるTg102℃のスチレンアクリル系の樹脂「UC−3920」を適用することは、当業者が容易になし得ることである。
そして、ガラス繊維とガラス転移温度が100℃以上のバインダーとから構成される「エアフィルタ用濾材」は、ガラス転移温度が100℃以上となると認められ、100℃の雰囲気温度下において1時間放置しても、エンボスの高さが変化しないか、変化したとしても50%以内の変化であるはずであるから、本件発明1は、甲1発明及び甲第3号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである(特許異議申立書30ページ18行〜31ページ21行)。

(イ)そこで、以下、前記(ア)の主張について検討する。
a 前記1(2)イ(エ)(段落【0101】))には、エンボス加工が施されたシートを、高温恒温槽内の100℃の雰囲気温度環境下にて1時間放置することで再度乾燥させて、ガラス繊維97重量%、バインダ付着量3重量%の、エンボス加工された比較例1の「エアフィルタ濾材」を得たことが記載されているにすぎず、比較例1のシートが、100℃の雰囲気温度下において1時間放置するだけならば、隆起高さは変化しないことは記載も示唆もされていないから、比較例1のシートが、100℃の雰囲気温度下において1時間放置するだけならば、隆起高さは変化しないということはできないので、前記(ア)aの主張は前提において誤っており、採用できない。
b 甲第1号証に記載された実施例4の損失正接が100℃以上まで小さい値であり、100℃付近まで貯蔵弾性率の低下も小さく、前記実施例4の「エアフィルタ濾材」において、「70℃の熱風を面風速2.5m/sec.の条件で48時間通風した」「後のエンボスの戻り現象が起こらない」としても、また、甲第1号証に記載された実施例3において、ガラス転移温度が92℃のバインダーを付与しているとしても、前記1(1)イ(イ)に記載したのと同様の理由により、甲1発明に係る「エアフィルタ用濾材」の「100℃の雰囲気温度下において1時間放置したときの隆起高さの変化」が「50%以内である」と直ちにいえるものではないから、前記(ア)bの主張も採用できない。
c 甲1発明においては、ガラス転移温度が85℃の熱可塑性バインダーを用いることで、「70℃の熱風を面風速2.5m/sec.の条件で48時間通風した」「後のエンボスの戻り現象が起こら」ず、実用に耐える「エアフィルタ濾材」が得られているのであり、甲第1号証の実施例2及び3をみても、甲第1号証に記載された発明においては、ガラス転移温度が高々92℃の熱可塑性バインダーで十分に課題を解決しているといえるから、甲1発明においては、そもそも、甲第3号証に記載された市販の高Tg樹脂であるTg102℃のスチレンアクリル系の樹脂「UC−3920」を適用する動機づけが存在しない。
また、仮に、甲1発明において、甲第3号証に記載された市販の高Tg樹脂であるTg102℃のスチレンアクリル系の樹脂「UC−3920」を適用することが、当業者が容易になし得ることであるとしても、前記1(1)イ(イ)に記載したのと同様の理由により、そうすることで、甲1発明に係る「エアフィルタ用濾材」の「100℃の雰囲気温度下において1時間放置したときの隆起高さの変化」が「50%以内」となるものと直ちにいえるものではないから、当業者は、甲1発明において、「エアフィルタ用濾材」の「隆起部」の「100℃の雰囲気温度下において1時間放置したときの隆起高さの変化」を「50%以内」とするには至らないことに変わりはない。
してみれば、甲1発明において前記相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとすることは、甲第3号証に記載された事項に基づいて容易になし得ることではないから、前記(ア)cの主張も採用できない。

エ 小括
したがって、本件発明1〜3、5及び9〜11は、甲第1号証に記載された発明ではなく、本件発明1〜11は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2〜3号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもないので、前記第3の2(2)の特許異議申立理由はいずれも理由がない。

(3)申立人坂本の特許異議申立理由についてのまとめ
よって、申立人坂本の特許異議申立理由はいずれも理由がない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、申立人渡辺の特許異議申立書に記載した特許異議申立理由及び申立人坂本の特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件発明1〜11に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1〜11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2022-10-13 
出願番号 P2020-010647
審決分類 P 1 652・ 536- Y (B01D)
P 1 652・ 113- Y (B01D)
P 1 652・ 537- Y (B01D)
P 1 652・ 121- Y (B01D)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 三崎 仁
特許庁審判官 金 公彦
山田 倍司
登録日 2022-01-25 
登録番号 7014977
権利者 ダイキン工業株式会社
発明の名称 エアフィルタ濾材、フィルタパック、エアフィルタユニット、およびこれらの製造方法  
代理人 新樹グローバル・アイピー特許業務法人  

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