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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08B
管理番号 1391210
総通号数 12 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2020-05-14 
確定日 2022-11-02 
事件の表示 特願2016−569777「水性液体の増粘に有用なデンプン組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成27年12月 3日国際公開、WO2015/183939、平成29年 8月10日国内公表、特表2017−522401〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2015年5月27日(パリ条約に基づく優先権主張外国庁受理 2014年5月27日 米国(US)及び2014年8月5日 英国(GB))を国際出願日とする特許出願であって、平成30年5月28日に手続補正書が提出され、令和1年5月28日付けで拒絶理由が通知され、同年12月3日に意見書及び手続補正書が提出されたが、令和2年1月9日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年5月14日に拒絶査定不服審判の請求がされ、その後、当審より令和3年9月30日付けで拒絶理由が通知され、令和4年3月31日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1〜17に係る発明は、令和4年3月31日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1〜17に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
なお、下線は補正箇所を示す。

「【請求項1】
1%〜10%の範囲のヒドロキシプロピル化の程度;及び
400cP〜3500cPの範囲のRVA粘度;
50%未満の相応する天然デンプンの表面タンパク質;
7.5〜15%の範囲の水分レベル;及び
208kg/m3〜320kg/m3(13lb/ft3〜20lb/ft3)の範囲の嵩密度を有し、かつ
凝集された形態であり、架橋された、
アルファ化、ヒドロキシプロピル化デンプン。」

第3 当審が通知した拒絶理由の概要
当審が令和3年9月30日付けで通知した拒絶理由は、次の「理由2(実施可能要件)」を含むものである。

「理由2(実施可能要件
本件出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に適合するものではないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。


・・・
第3 拒絶理由
・・・
2 理由2(実施可能要件)について
(1)請求項1に係る発明は、次のア〜キの条件をすべて満たす、アルファ化、ヒドロキシプロピル化デンプンに関する。
ア 1%〜10%の範囲のヒドロキシプロピル化の程度
イ 400cP〜3500cPの範囲のRVA粘度
ウ 50%未満の相応する天然デンプンの表面タンパク質
エ 7.5〜15%の範囲の水分レベル
オ 13lb/ft3〜20lb/ft3の範囲の嵩密度
カ 凝集された形態
キ 架橋されている
しかしながら、発明の詳細な説明には、【0016】〜【0019】、【0021】〜【0025】に、上記の各条件について個別に、定義や測定方法が記載されており、製造方法に関しても、【0030】〜【0043】に、上記の各条件のいずれか一つを満たす方法が記載されているに留まる。
アルファ化の工程については、【0041】〜【0043】に、その工程で乾燥固体となることが記載されているが、上記のエ〜カの条件を同時に満たすための具体的な工程は説明されていないし、ヒドロキシプロピル化、架橋、表面処理及びアルファ化の各工程については、その順序も特定されていない。
そして、その他の記載を検討しても、発明の詳細な説明には、実際に、上記の各条件を同時に満たす、アルファ化、ヒドロキシプロピル化デンプンを製造できることが理解できる記載はない。
そうすると、上記の各条件を同時に満たす、アルファ化、ヒドロキシプロピル化デンプンを得るためには、当業者といえども過度の試行錯誤を要するものと認められるから、発明の詳細な説明の記載は、当業者が請求項1に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではない。
・・・
(5)補足
上記(1)〜(4)で述べたことは、審判請求人がこれまでに提出した意見書及び審判請求書の記載を参酌しても変わらない。
そのため、上記(1)で示したア〜キの各条件を、個別ではなく、同時に満たす、アルファ化、ヒドロキシプロピル化デンプンを得ることができることについて、具体例を示して説明するか、発明の詳細な説明の記載が、実施可能要件を満たすといえる理由を説明されたい。」

なお、上記拒絶理由において、「理由1(明確性要件)」として、請求項1の嵩密度の記載は計量法にしたがった単位系ではないから、明確でないことを指摘したところ、補正前の請求項1に係る発明について、上記第2で補正箇所を下線で示したとおり、計量法にしたがった単位系の記載と併記する補正がされた。
したがって、本願発明は、上記「理由2(実施可能要件)」が通知された補正前の請求項1に係る発明と実質的に相違しないものである。

第4 当審の判断
当審は、上記第3に示した拒絶理由の「理由2(実施可能要件)」のとおり、本件出願は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないと判断する。
その理由は、次のとおりである。

1 判断の前提
特許法第36条第4項第1号は、明細書の発明の詳細な説明の記載は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであることを規定しているところ(いわゆる「実施可能要件」)、物の発明における実施とは、その物の生産、使用などをする行為をいうものであるから(特許法第2条第3項第1号)、物の発明についての実施可能要件を満たすためには、明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が、出願時の技術常識に照らし、その物を生産し、使用することができる程度のものでなければならない。
以上を踏まえて、本願明細書の発明の詳細な説明の記載が、本願発明について実施可能要件を満たすかについて、以下検討する。

2 発明の詳細な説明の記載
本願明細書の発明の詳細な説明には、本願発明に関して、次の記載がある。なお、下線は当審で追加した。

(1)ヒドロキシプロピル化に関する記載
「【0016】
当業者が理解するように、ヒドロキシプロピル化の程度は、乾燥デンプンの重量基準で重量パーセントとして計算される。ヒドロキシプロピル化の程度は、最終ヒドロキシプロピル化、アルファ化デンプンの所望の特性に応じて、本明細書の記載に基づいて当業者によって変更され得る。例えば、本明細書に記載されたヒドロキシプロピル化、アルファ化デンプンの特定の実施形態において、ヒドロキシプロピル化の程度は、約1%〜約10%の範囲である。本明細書に記載されたヒドロキシプロピル化、アルファ化デンプンの特定の具体的な実施形態において、ヒドロキシプロピル化の程度は、約1%〜約8%の範囲、または約1.5%〜約6%の範囲、または約2%〜約5%の範囲である。本明細書に記載された前記組成物の他の実施形態において、ヒドロキシプロピル化の程度は、約1%〜約5%の範囲、または約1%〜約6%の範囲、または約1.5%〜約5%の範囲、または約1.5%〜約8%の範囲、または約1.5%〜約10%の範囲、または約2%〜約6%の範囲、または約2%〜約8%の範囲、または約2%〜約10%の範囲である。」
「【0031】
デンプンのヒドロキシプロピル化は、通常的なヒドロキシプロピル化技術を使用して、例えば、塩基性条件下で、プロピレンオキシドで処理することによって行うことができる。デンプンを高度の塩基性pH(例えば、約8.5〜約12.5、例えば、約10〜約12.5の範囲)で作ることができ、所望のレベルのヒドロキシプロピル化を提供するのに適した時間及び温度条件下で、プロピレンオキシドで処理することができる。pHは、任意の様々なもの、例えば、アルカリまたはアルカリ土類金属塩、例えば、リン酸二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム及び水酸化カルシウムで、例えば、使用されたデンプンの毎重量部当たり水酸化ナトリウムまたは等価の他のアルカリの約0.002〜約0.030重量部の範囲レベルに調整され得る。また、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、オルトリン酸二ナトリウム、及びオルトリン酸三ナトリウムのような加工補助剤を例えば、デンプンの重量部当たり使用された補助剤の約0.001〜約0.150重量部の範囲レベルで添加することができる。ヒドロキシプロピル化反応は、デンプン及びヒドロキシプロピル化の所望のレベルに応じて、様々な温度(例えば、20〜100℃)で様々な時間(例えば、3〜36時間)の間に様々な圧力(例えば、0.5〜5気圧、または雰囲気下)で行うことができる。デンプンをヒドロキシプロピル化する方式の一つの例において、ワキシートウモロコシデンプン、水、硫酸ナトリウム及び水酸化ナトリウムを43.3℃(華氏温度110)で化合して11.6のpHを提供し、43.3℃(華氏温度110)で20〜24時間プロピレンオキシドと反応させる。過量のプロピレンオキシドを通常の技術を使用して除去することができる。」

(2)RVA粘度に関する記載
「【0017】
当業者が理解するように、アルファ化、ヒドロキシプロピル化デンプンの粘度は、このRVA粘度として測定され得る。RVA粘度は、ラピッドビスコアナライザーモデルRVA−4(Rapid Visco Analyzer Model RVA−4)を使用して、下記の過程によって測定された粘度として定義される。1.85gの測定しようとする物質、4.5gのプロピレングリコール及び25.65gのpH6.5バッファーを装置のカップに添加して5.5%の乾燥固形分ベース水性混合物を作る。装置の混合パラメーターは、次の通りである:1分間700rpmで混合し、47分間160rpmで混合。装置の温度パラメーターは、次のとおりである:35℃で15分、7分間35℃から95℃に加熱、95℃で10分維持、6分間95℃から35℃に冷却、35℃で10分維持、総48分。初期粘度は、時間=14.7分での測定値である。RVA粘度として本明細書で使用された最終粘度は、時間=47.4分での測定値である。
【0018】
RVA粘度は、最終ヒドロキシプロピル化、アルファ化デンプンの所望の特性に応じて、本明細書の記載に基づいて当業者によって変更され得る。例えば、本明細書に記載された前記組成物の特定の実施形態において、アルファ化、ヒドロキシプロピル化デンプンのRVA粘度は、約400cP〜約3500cPの範囲である。例えば、本明細書に記載されたヒドロキシプロピル化、アルファ化デンプンの特定の具体的な実施形態において、RVA粘度は、約700cP〜約2500cPの範囲、または約400cP〜約3000cPの範囲、または約400cP〜約2500cPの範囲、または約400cP〜約2000cPの範囲、または約700cP〜約3500cPの範囲、または約700cP〜約3000cPの範囲、または約700cP〜約2000cPの範囲である。」

(3)表面タンパク質に関する記載
「【0021】
本発明者らは、特定の実施形態において、デンプン顆粒の表面タンパク質量の減少がヒドロキシプロピル化、アルファ化デンプンの分散性を大きく向上させ得ることを確認した。従って、本明細書に記載されたアルファ化、ヒドロキシプロピル化デンプンの特定の実施形態において、アルファ化、ヒドロキシプロピル化デンプンは、約80%未満、約50%未満、またはさらに約20%未満の相応する天然デンプンの表面タンパク質を有する。当業者が理解するように、アルファ化、ヒドロキシプロピル化デンプンは、これが由来される相応する天然デンプンを有するだろう。天然デンプンの例は、下記でより詳細に説明される。デンプンの表面タンパク質は、測定され得る。下記により詳細に記載されたように、タンパク質の量は、多くの方式で、例えば、プロテアーゼ及びアミラーゼのような酵素処理、酸処理、塩基処理または機械的摩耗(mechanical abrasion)で減少され得る。」
「【0034】
前述のように、デンプンは、また例えば、分散可能な特性を有するアルファ化、ヒドロキシプロピル化デンプン製品を提供することを助けるために、表面処理される。表面処理は、下記により詳細に記載されたように、様々な方式で行われることができる。表面処理は、例えば、ゼラチン化の前に行われることができる。また、前記で言及したように、本明細書に記載されたアルファ化、ヒドロキシプロピル化デンプンの特定の実施形態において、デンプン顆粒は、これらの表面に実質的に減少されたタンパク質(例えば、相応する天然デンプンの表面タンパク質の約80%未満、約50%未満、または約20%未満)を有する。当業者は、本明細書に記載された表面処理を行ってアルファ化、ヒドロキシプロピル化デンプンに所望のレベルの表面タンパク質を提供することができる。例えば、表面処理は、デンプンの表面からデンプンの少なくとも約20%、少なくとも約50%、またはさらに少なくとも約80%のデンプン(すなわち、表面処理が行われる材料と比較して)を除去するのに十分な条件及び時間の間で行うことができる。
【0035】
例えば、本明細書に記載されたアルファ化、ヒドロキシプロピル化デンプンの特定の実施形態において、デンプンは、プロテアーゼで(例えば、ヒドロキシプロピル化の前または後に、そして、架橋の前または後に)処理される。プロテアーゼ処理は、前記記載されたように、タンパク質の量を実質的に減少させるとか、または他にアルファ化、ヒドロキシプロピル化デンプン製品の分散性を向上させる(例えば、牛乳分散可能なデンプンを提供するために)のに十分な条件下で行うことができる。適したプロテアーゼの例は、例えば、サーモリシン、ペプシン、Arg−C、エラスターゼ及びトリプシンを含む。例えば、デンプンは、上昇された温度(例えば、35〜75℃、50〜70℃、または約64℃)で数時間(例えば、1〜10、2〜8、または約4時間)の間にサーモリシンで処理されてデンプン顆粒の表面から一定量のタンパク質を除去するとか、または他にアルファ化、ヒドロキシプロピル化デンプン製品の分散性を向上させる(例えば、牛乳分散可能なデンプンを提供)ことができる。当業者は、当業界に公知の酵素的消化過程に基づいてプロテアーゼ処理のための過程を開発するだろう。
【0036】
本の明細書に記載されたアルファ化、ヒドロキシプロピル化デンプンの他の実施形態において、デンプンは、アミラーゼのようなカルボヒドラーゼで(例えば、ヒドロキシプロピル化の前または後に、そして、架橋の前または後に)処理される。カルボヒドラーゼまたはアミラーゼ処理は、前記記載されたように、タンパク質の量を実質的に減少させるとか、または他にアルファ化、ヒドロキシプロピル化デンプン製品の分散性を向上させる(例えば、牛乳分散可能なデンプンを提供するために)のに十分な条件下で行うことができる。カルボヒドラーゼ処理は、例えば、デンプン顆粒の表面層を除去して表面層と共に表面タンパク質を除去する条件下で行うことができる。適したカルボヒドラーゼの例は、例えば、ベタラーゼ、α−アミラーゼ、β−アミラーゼ及びγ−アミラーゼを含み;当業者が理解するように、カルボヒドラーゼは、組み合わせて順次にまたは同時に使用され得る。当業者は、当業界に公知の酵素的消化過程に基づいてカルボヒドラーゼ処理のための過程を開発するだろう。
【0037】
他の実施形態において、表面処理は、前記記載されたように、タンパク質の量を実質的に減少させるとか、または他にアルファ化、ヒドロキシプロピル化デンプン製品の分散性を向上させる(例えば、牛乳分散可能なデンプンを提供するために)のに十分な条件下で(例えば、ヒドロキシプロピル化の前または後に、そして、架橋の前または後に)酸による処理である。酸処理は、特に、デンプンが酸処理の前に架橋された場合に、これがアルファ化、ヒドロキシプロピル化デンプンの粘度を適していないレベルで減少させないように行われることができる。例えば、デンプンは、前記記載されたように、タンパク質の量を減少させるとか、または他にアルファ化、ヒドロキシプロピル化デンプン製品の分散性を向上させる(例えば、牛乳分散可能なデンプンを提供するために)のに十分な温度及び時間の間に強酸(例えば、塩酸、硫酸)で約3以下、さらに約2以下(例えば、約1〜約2.5、約1.3〜約2、約2、約1.5、または約1)のpHの水性媒質内で処理され得る。例えば、前記処理は、様々な温度(例えば、20〜100℃、または30〜80℃、または35〜55℃)で様々な時間(例えば、3〜36時間、または4〜20時間、または6〜10時間)の間に様々な圧力(例えば、0.5〜5気圧、または雰囲気下)で行われることができる。酸処理は、例えば、デンプン顆粒の表面層を除去して表面層と共に表面タンパク質を除去する条件下で行うことができる。様々な強酸、例えば、塩酸、硫酸、またはリン酸がpHを調整するために使用され得る。所望のレベルの反応が達成された時、反応混合物は、適した塩基(例えば、アルカリまたはアルカリ土類金属水酸化物、炭酸塩、重炭酸塩、例えば、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウムまたは重炭酸ナトリウム)で実質的に中和される(例えば、約5.5〜約8.5の範囲、約6.5、約7、または約7.5のpHで)ことができる。
【0038】
もちろん、他の表面処理技術がデンプンの表面でタンパク質の量を減少させるとか、または他にアルファ化、ヒドロキシプロピル化デンプン製品の分散性を向上させる(例えば、牛乳分散可能なデンプンを提供するために)ために使用され得る。例えば、一実施形態において、表面処理は、デンプンの表面でタンパク質の量を減少させるとか、または他にアルファ化、ヒドロキシプロピル化デンプン製品の分散性を向上させる(例えば、牛乳分散可能なデンプンを提供するために)のに十分な条件下で行われる機械的研磨である。」

(4)水分レベルに関する記載
「【0022】
ヒドロキシプロピル化、アルファ化デンプンは、例えば、顆粒または粉末固体の形態で提供され得る。特定の実施形態において、ヒドロキシプロピル化、アルファ化デンプンは、約2%〜約15%(すなわち、重量基準)の範囲の水分レベルを有する。例えば、特定の実施形態において、ヒドロキシプロピル化、アルファ化デンプンは、約4%〜約7%の範囲の水分レベルを有する。他の実施形態において、デンプン組成物は、約6%〜約10%の範囲、または約7.5%〜約10%の範囲、または約6%〜約15%の範囲、または約7.5%〜約15%の範囲、または約6%〜約8.5%の範囲、または約7.5%〜約8.5%の範囲の水分レベルを有する。本発明者らは、特に、牛乳中での分散性は、含水量が約7.5%より高いときに、向上され得ることを確認した。」
「【0041】
ゼラチン化の所望の程度は、デンプンを調理することによって達成することができる。例えば、特定の実施形態において、ヒドロキシプロピル化表面処理されたデンプンは、噴霧調理で実質的にゼラチン化(例えば、前記のような程度に)される。当業者は、噴霧調理が様々な装置を使用して様々な方式で行われることができるということを理解するだろう。例えば、特定の実施形態において、噴霧調理は、Spraying Systems Co.及びDelevan Spray Technologiesから入手可能なものなどのように、2段階の蒸気注入された噴霧調理ノズルを使用して行われる。当業者は、通常的な噴霧乾燥工程を変更して所望の噴霧調理された製品を提供するだろう。前記工程は、例えば、約4.5〜約6の範囲のpHでデンプンスラリーを使用して行うことができる。前記工程は、例えば、約204.4℃(華氏温度400)〜約273.9℃(華氏温度525)の範囲(例えば、華氏温度約425、約450、約475または約500)のノズル注入口温度;及び約79.4℃(華氏温度175)〜約126.7℃(華氏温度260)(例えば、華氏温度約195、約210、約230または約250)の範囲のノズル排出口温度で行うことができる。前記工程は、例えば、約3500psig〜約5500psig、例えば、約4000psig〜約5000psigの範囲の圧力で行うことができる。蒸気圧力は、例えば、約130psig〜約165psig、例えば、約140〜約155psigの範囲であり得る。噴霧調理工程の実施形態は、米国特許第4,280,851号に記載されており、これは、ここにその全体が参照として本明細書に含まれ;当業者は、他の噴霧調理工程が使用するように適合され得ることを理解するだろう。特に、特定の実施形態において、噴霧調理された製品は、約4%〜約7%の範囲の水分レベルを有する、実質的に乾燥固体(例えば、微細粉末の形態)である。
【0042】
もちろん、当業者は、他の工程などがデンプンを調理と乾燥するのに使用され得るということを理解するだろう。例えば、当業者は、ヒドロキシプロピル化表面処理されたデンプンが代替的に異なる作業で調理され、乾燥され得ることを理解するだろう。例えば、特定の実施形態において、ヒドロキシプロピル化表面処理されたデンプンは、先に調理されて所望の程度のゼラチン化を提供した後、乾燥されて所望の水分レベルを提供する。様々な種類の調理工程、例えば、ジェット−調理及び噴霧調理が使用され得る。好ましくは、水分(例えば、蒸気形態)が調理工程時に存在してゼラチン化を助ける。様々な乾燥技術、例えば、噴霧乾燥、加熱乾燥、トレイ乾燥及びドラム乾燥が使用されて乾燥された製品を提供することができる。乾燥された製品は、例えば、約4%〜約7%の範囲の水分レベルを有する、実質的に乾燥固体であり得る。当業者は、所望の程度のゼラチン化及び所望の含水量を提供するために、通常の調理及び乾燥過程を変更することができる。」

(5)嵩密度に関する記載
「【0023】
本明細書に記載されたデンプン組成物の特定の実施形態において、ヒドロキシプロピル化、アルファ化デンプンは、約13lb/ft3〜約20lb/ft3の範囲、例えば、約14lb/ft3〜約16lb/ft3の範囲の嵩密度(bulk density)を有する。本明細書に記載されたヒドロキシプロピル化、アルファ化デンプンの特定の実施形態において、ヒドロキシプロピル化、アルファ化デンプンは、70%の組成物がU.S.#30スクリーン〜U.S.#120スクリーンを維持するように粒子サイズ分布を有する。また、本明細書に記載されたヒドロキシプロピル化、アルファ化デンプンの特定の好ましい実施形態は、実質的に微粒子がない。本明細書で使用されるように、“微粒子”は、125μm未満の最大直径を有する粒子である。一つの実施形態において、ヒドロキシプロピル化、アルファ化デンプンは、約15%未満、約10%未満、8%未満またはさらに約5%未満の微粒子を有する。もちろん、当業者が理解するように、製品からすべての微粒子を除去する必要がない場合もある。例えば、特定の実施形態において、ヒドロキシプロピル化、アルファ化デンプンは、約0.1%超過、約0.5%超過、1%超過またはさらに約3%超過の微粒子を含む。」

(6)凝集に関する記載
「【0024】
特定の実施形態において、好ましい水分レベル、密度及び粒子サイズを提供するために、アルファ化、ヒドロキシプロピル化デンプンは、凝集された形態で提供され得る。当業者は、ヒドロキシプロピル化、アルファ化デンプンに所望の特性(例えば、粒子サイズ、密度、水分レベル及び微粒子の量)を付与するために、通常の凝集技術を調整することができる。」
「【0043】
本明細書に記載されたデンプン組成物の特定の実施形態において、アルファ化、ヒドロキシプロピル化デンプン(例えば、前記記載されたような乾燥製品)は、凝集されて凝集されたヒドロキシプロピル化、アルファ化デンプンを提供する。凝集は、当業者によく知られた任意の様々な方法、例えば、グラット(Glatt)流動層凝集機を使用した再湿潤化凝集(rewet agglomeration)を使用して行うことができる。当業者は、前記記載されたように、材料に所望の水分、粒子サイズ及び嵩密度特性を付与するために、凝集条件を調整することができる。凝集は、例えば、6%〜約10%の範囲、または約7.5%〜約10%の範囲、約6%〜約15%の範囲、または約7.5%〜約15%の範囲、または約6%〜約8.5%の範囲、約7.5%〜約8.5%の範囲の含水量を有する材料を提供するために、行われることができる。同様に、凝集は、凝集された材料が約13lb/ft3〜約20lb/ft3の範囲、例えば、約14lb/ft3〜約16lb/ft3の範囲の嵩密度を有するように行われることができる。同様に、凝集は、凝集された材料の70%がU.S.#30スクリーン〜U.S.#120スクリーンを維持するように行われることができる。凝集は、また微粒子が実質的にない材料を提供するために、行われることができる。一実施形態において、凝集されたヒドロキシプロピル化、アルファ化デンプンは、約15%未満、約10%未満、8%未満またはさらに約5%未満の微粒子を有する。もちろん、当業者が理解するように、製品からすべての微粒子を除去する必要がないことがある。例えば、特定の実施形態において、凝集されたヒドロキシプロピル化、アルファ化デンプンは、約0.1%超過、約0.5%超過、1%超過またはさらに約3%超過の微粒子を含む。
【0044】
特定の実施形態において、アルファ化、ヒドロキシプロピル化デンプン(例えば、前記記載されたような乾燥製品)は、凝集の前に粉砕され、例えば、凝集のための比較的均一なサイズの粒子を提供する。粉砕の種類及び程度は、日常的な実験に基づいて当業者によって選択され得る。
【0045】
もちろん、当業者は、他の方法及び装置を使用して凝集物を提供することができることを理解するだろう。例えば、その全体が参照として本明細書に含まれる、米国特許第4,871,398号は、ゼラチン化された噴霧乾燥デンプン凝集体を製造するための連続方法を記載している。このような方法は、米国特許第4,280,851号に記載された種類の2つ以上のキャップされた二流体ノズルを使用する。2つ以上のノズルは、これらの噴霧パターンが交差するように乾燥タワー内に整列される。交差点は、塊化を避けるために、ノズルから充分に離れているが、粒子表面が十分に粘性であるので、凝集体内に粒子が付着するようにノズルに十分に近い。」

(7)架橋に関する記載
「【0019】
例えば、特定の実施形態において、ヒドロキシプロピル化、アルファ化デンプンは、架橋される。架橋の量と種類は、ヒドロキシプロピル化、アルファ化デンプンに所望の粘度を与えるように当業者によって選択され得る。デンプンは、様々な方式で架橋され得る。例えば、特定の実施形態において、デンプンは、ホスフェートによって(例えば、デンプンをPOCl3で処理、または他の実施形態において、アルカリトリメタホスフェートまたはトリポリホスフェートで処理することによって形成されたモノまたはポリホスフェート架橋によって)架橋される。他の実施形態において、デンプンは、アルキレン架橋剤(例えば、エピクロロヒドリンとの反応によって形成されるように)、またはジカルボン酸架橋剤によって架橋される。当業者は、アルファ化、ヒドロキシプロピル化デンプンに所望の特性を付与するように、本明細書の記載に基づいて適切な架橋剤(など)を選択することができる。」
「【0032】
デンプンの架橋を、また例えば、任意の通常の方法を使用して行うことができる。架橋剤は、デンプンのアモルファス領域内の隣接する無水グルコース単位(例えば、アミロペクチンの)を結合させる。架橋は、顆粒が完全に膨潤し、結果的に崩壊されることを防止する。共有架橋構造は、また、顆粒が食品製造に有りがちな極端なpH及び高度のせん断工程に抵抗性があるようにすることができる。様々な架橋剤、例えば、二官能性エーテル化剤及び/またはエステル化剤、例えば、エピクロロヒドリン、ビス−β−クロロエチルエーテル、アジピン酸無水物のような二塩基性有機酸等価物、オキシ塩化リン(POCl3)、トリメタリン酸及びポリリン酸(例えば、このアルカリ及びアルカリ土類金属塩)、酢酸及び二−または三塩基性カルボン酸の線状混合無水物が使用され得る。また他の有用な架橋剤は、次亜塩素酸ナトリウムであり、これは、適切な量で適切なpH条件下で(例えば、11またはその以上)使用されるとき、架橋されたデンプンを提供する。本明細書に記載されたデンプン組成物の特定の実施形態において、架橋反応は、様々な条件下で行うことができる。例えば、POCl3を使用した架橋は、高度の塩基性pH(例えば、約8.5〜約12.5、例えば、約10〜約12.5の範囲、例えば、pH11.6で)で様々な温度[例えば、10〜100℃、20〜65℃、例えば、43.3℃(華氏温度110)]で十分な時間の間に行われて所望のレベルの架橋を提供することができ、以後の反応は、酸(例えば、塩酸、リン酸、硫酸)でpHを減少(例えば、約6.5に)させることによってクエンチすることができる。デンプンの架橋は、“Starch Derivatives:Production and Uses”by M.Rutenberg and D.Solarek,Starch:Chemistry and Technology,Chapter X,pp.324−332,1984、及び米国特許第2,328,537号及び第2,801,242号に更に記載されている。当業者が理解するように、デンプンの架橋は、ヒドロキシプロピル化の前または後に行われることができる。」

(8)製造工程の順序に関する記載
「【0030】
本明細書に記載されたアルファ化、ヒドロキシプロピル化デンプンは、多数の技術を使用して製造することができる。例えば、特定の実施形態において、アルファ化、ヒドロキシプロピル化デンプンは、デンプンをヒドロキシプロピル化する段階、及び前記デンプンを表面処理してヒドロキシプロピル化デンプンを提供する段階を含む方法によって製造される。表面処理及びヒドロキシプロピル化は、選択的に他の段階などを介在して任意の手順で行われることができる。例えば、一実施形態において、ヒドロキシプロピル化は、処理の前に行われる。特定の実施形態において、例えば、アルファ化、ヒドロキシプロピル化デンプンに所望の粘度特性を付与するために、デンプンは、例えば、表面処理の前に架橋される。このような一実施形態において、ヒドロキシプロピル化デンプンは、表面処理の前に架橋される。」
「【0032】
デンプンの架橋を、また例えば、任意の通常の方法を使用して行うことができる。・・・当業者が理解するように、デンプンの架橋は、ヒドロキシプロピル化の前または後に行われることができる。」
「【0034】
前述のように、デンプンは、また例えば、分散可能な特性を有するアルファ化、ヒドロキシプロピル化デンプン製品を提供することを助けるために、表面処理される。・・・表面処理は、例えば、ゼラチン化の前に行われることができる。・・・
【0035】
例えば、本明細書に記載されたアルファ化、ヒドロキシプロピル化デンプンの特定の実施形態において、デンプンは、プロテアーゼで(例えば、ヒドロキシプロピル化の前または後に、そして、架橋の前または後に)処理される。・・・
【0036】
本の明細書に記載されたアルファ化、ヒドロキシプロピル化デンプンの他の実施形態において、デンプンは、アミラーゼのようなカルボヒドラーゼで(例えば、ヒドロキシプロピル化の前または後に、そして、架橋の前または後に)処理される。・・・
【0037】
他の実施形態において、表面処理は、前記記載されたように、タンパク質の量を実質的に減少させるとか、または他にアルファ化、ヒドロキシプロピル化デンプン製品の分散性を向上させる(例えば、牛乳分散可能なデンプンを提供するために)のに十分な条件下で(例えば、ヒドロキシプロピル化の前または後に、そして、架橋の前または後に)酸による処理である。」

3 検討
(1)本願発明の構成について
本願発明は、次のア〜キの条件をすべて満たす、アルファ化、ヒドロキシプロピル化デンプンに関するものである。なお以下、各条件を「条件ア」などという。
ア 1%〜10%の範囲のヒドロキシプロピル化の程度
イ 400cP〜3500cPの範囲のRVA粘度
ウ 50%未満の相応する天然デンプンの表面タンパク質
エ 7.5〜15%の範囲の水分レベル
オ 208kg/m3〜320kg/m3(13lb/ft3〜20lb/ft3)の範囲の嵩密度
カ 凝集された形態
キ 架橋されている

(2)発明の詳細な説明の記載について
ア 条件アに関する記載について
上記2(1)の【0016】に、ヒドロキシプロピル化の程度は、乾燥デンプンの重量基準で重量パーセントとして計算されること、ヒドロキシプロピル化の程度は、アルファ化、ヒドロキシプロピル化デンプンの所望の特性に応じて、当業者によって変更され得ることが記載され、その範囲が複数例示されている。
また、【0031】に、デンプンのヒドロキシプロピル化は、通常的なヒドロキシプロピル化技術を使用して実施できること、所望のレベルのヒドロキシプロピル化を提供するのに適した時間及び温度条件下で処理できることが記載され、反応条件が例示されている。
しかしながら、例示された条件でどの程度ヒドロキシプロピル化されるかの記載はない。
そして、具体的に1%〜10%の範囲のヒドロキシプロピル化の程度が得られる反応条件についての記載はなく、他の条件イ〜キを同時に満たしながら1%〜10%の範囲のヒドロキシプロピル化の程度とすることについての記載もない。

イ 条件イに関する記載について
上記2(2)の【0017】に、アルファ化、ヒドロキシプロピル化デンプンの粘度は、RVA粘度として測定され得ることや、RVA粘度の測定条件の説明が記載され、【0018】に、RVA粘度は、アルファ化、ヒドロキシプロピル化デンプンの所望の特性に応じて、当業者によって変更され得ることが記載され、その範囲が複数例示されている。
しかしながら、400cP〜3500cPの範囲のRVA粘度のものとするための具体的な方法についての記載はなく、他の条件ア、ウ〜キを同時に満たしながら400cP〜3500cPの範囲のRVA粘度のものとすることについての記載もない。

ウ 条件ウに関する記載について
上記2(3)の【0021】に、アルファ化、ヒドロキシプロピル化デンプンの相応する天然デンプンの表面タンパク質について記載され、タンパク質量を減少する方式として、酵素処理、酸処理、塩基処理又は機械的摩耗が示されている。
そして、【0034】に、表面処理は、デンプンの表面から所望量のデンプンを除去するのに十分な条件及び時間の間で行うことができることが記載され、【0035】〜【0038】に、表面処理の具体例として、それぞれプロテアーゼ処理、カルボヒドラーゼ処理、酸処理、機械的研磨についての例示が記載されている。
しかしながら、いずれの表面処理の方式であっても、具体的に50%未満の相応する天然デンプンの表面タンパク質とするのに必要な処理条件についての記載はなく、他の条件ア〜イ、エ〜キを同時に満たしながら50%未満の相応する天然デンプンの表面タンパク質とすることについての記載もない。

エ 条件エに関する記載について
上記2(4)の【0022】に、アルファ化、ヒドロキシプロピル化デンプンの水分レベルの範囲が複数記載されている。
そして、【0041】に、デンプンのゼラチン化(審決注:アルファ化に同じ。)のための方法として、噴霧調理が挙げられ、その工程が例示され、噴霧調理された製品は、約4%〜約7%の範囲の水分レベルを有する実質的に乾燥固体であることが記載されている。
また、【0042】に、噴霧乾燥、加熱乾燥、トレイ乾燥及びドラム乾燥などの乾燥技術が使用されて乾燥された製品を提供できることが記載され、乾燥された製品は、約4%〜約7%の範囲の水分レベルを有する実質的に乾燥固体であることが記載され、所望の程度のゼラチン化及び所望の含水量を提供するために、通常の調理及び乾燥過程を変更することができると記載されている。
しかしながら、【0041】に工程が例示された噴霧調理でさえ、pHや温度、圧力について、例えば、として範囲が示されているだけであるうえ、7.5〜15%の範囲の水分レベルが得られる工程ではなく、他に、具体的に7.5〜15%の範囲の水分レベルとするのに必要な処理条件についての記載はなく、他の条件ア〜ウ、オ〜キを同時に満たしながら7.5〜15%の範囲の水分レベルとすることについての記載もない。
また、上記2(6)の【0043】に、所望の水分、粒子サイズ及び嵩密度特性を付与するために、凝集条件を調整することができると記載されているが、7.5〜15%の範囲の水分レベルとするための凝集条件の記載はなく、粒子サイズや嵩密度の調整との関係についての記載もなく、他の条件ア〜ウ、オ〜キを同時に満たしながら7.5〜15%の範囲の水分レベルとすることについての記載もない。

オ 条件オに関する記載について
上記2(5)の【0023】に、アルファ化、ヒドロキシプロピル化デンプンの嵩密度の範囲が複数記載されている。
また、上記エのとおり、上記2(6)の【0043】に、所望の水分、粒子サイズ及び嵩密度特性を付与するために、凝集条件を調整することができると記載されているが、208kg/m3〜320kg/m3(13lb/ft3〜20lb/ft3)の範囲の嵩密度とするための凝集条件の記載はなく、水分や粒子サイズの調整との関係についての記載もなく、他の条件ア〜エ、カ〜キを同時に満たしながら208kg/m3〜320kg/m3(13lb/ft3〜20lb/ft3)の範囲の嵩密度とすることについての記載もない。

カ 条件カに関する記載について
上記2(6)の【0024】に、好ましい水分レベル、密度及び粒子サイズを提供するために、アルファ化、ヒドロキシプロピル化デンプンは、凝集された形態で提供されること、所望の特性(例えば、粒子サイズ、密度、水分レベル及び微粒子の量)を付与するために、通常の凝縮技術を調整することができることが記載されている。
そして、上記エ及びオでも述べたとおり、【0043】に、所望の水分、粒子サイズ及び嵩密度特性を付与するために、凝集条件を調整することができることが記載されており、さらに、【0044】〜【0045】に、凝集のために粉砕することや、他の方法及び装置を使用して凝集物を提供できることが記載されている。
しかしながら、水分レベルの範囲や嵩密度の範囲が示され、そのような材料を提供するために凝集を行うことができるとあるだけで、特定の水分レベルや嵩密度とするための凝集条件は示されていないし、特定の水分レベルと嵩密度を同時に満たすようにすると解される記載もなく、条件ア〜エ、カ〜キを同時に満たしながら凝集された形態とすることについての記載もない。

キ 条件キに関する記載について
上記2(7)の【0019】に、架橋の量と種類は、アルファ化、ヒドロキシプロピル化デンプンに所望の粘度を与えるように当業者によって選択され得ること、アルファ化、ヒドロキシプロピル化デンプンに所望の特性を付与するように適切な架橋剤などを選択することができることが記載されている。
また、同【0019】及び【0032】に、架橋剤の例や反応条件の例について記載されている。
しかしながら、特定の粘度とするための架橋剤や反応条件についての記載はなく、他の条件ア〜カを同時に満たしながら架橋されているものとすることについての記載もない。

ク 製造工程の順序に関する記載について
上記2(8)の【0030】、【0032】、【0034】〜【0037】には、本願発明のアルファ化、ヒドロキシプロピル化デンプンの製造工程において、ヒドロキシプロピル化工程、表面処理(表面タンパク質の除去)工程、架橋工程及びアルファ化の工程は、様々な順序を取り得ることが説明されている。
しかしながら、条件ア〜キを同時に満たすための製造工程の順序に関する記載はなく、また、どのような製造工程の順序であっても、条件ア〜キを同時に満たすことが理解できる記載もない。

ケ その他の記載について
発明の詳細な説明の【0002】(技術分野)、【0003】〜【0006】(背景技術)、【0015】、【0020】に、本願発明は、嚥下障害を患っている人が使用するために水性液体を増粘するために有用なデンプン製品であって、特に牛乳に容易に分散可能なデンプン増粘剤に関するものであることが記載されている。
また、【0025】〜【0029】に、デンプンをアルファ化することで更に強い加熱を必要とせず、冷水や温水中に分散されて増粘できること、アルファ化の程度や測定方法、原料となるデンプンの種類などが記載されており、【0033】に他の改質が知られていることが記載されており、【0039】〜【0040】に精製方法が記載されている。
そして、【0047】〜【0050】に、他の成分についての説明や、水性液体を増粘させる方法、水性液体の例などが記載されている。
一方、発明の詳細な説明には、本願発明のアルファ化、ヒドロキシプロピル化デンプンを製造した実施例の記載はない。

(3)まとめ
以上のとおり、発明の詳細な説明の記載は、条件ア〜キのそれぞれについて、個別に定義や測定方法が記載されたり、既に知られている方法を適用すればよいことや、所望の物性を得るために適宜変更できることが記載されたりしているに過ぎない。
また、条件カの凝集された形態については、水分レベル、嵩密度と関連があること、条件キの架橋されていることについては、粘度と関連があることは記載されているが、条件ア〜キのすべてを満たすために必要な事項に関する具体的な記載はないことは、上記(2)ア〜キで述べたとおりであり、凝集と架橋によって、しかも、アルファ化、ヒドロキシプロピル化又は表面処理を架橋の前後の任意の順序で行いながら、特定の数値範囲内に、ヒドロキシプロピル化、粘度、表面タンパク質量、水分レベル及び嵩密度を調整することが、当業者の技術常識であったともいえない。
そして、条件ア〜キについて、すべての条件を満たすアルファ化、ヒドロキシプロピル化デンプンを製造することが、技術常識であるとはいえず、当業者といえども過度の試行錯誤を要するものと認められる。
したがって、明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が、出願時の技術常識に照らし、本願発明を生産し、使用することができる程度のものであるとはいえない。

4 請求人の主張について
請求人は、令和4年3月31日提出の意見書において、上記2(8)の製造工程の順序に関する記載を示し、本願発明においては、
「工程順序i):ヒドロキシプロピル化(工程1)→架橋(工程2)→表面処理(工程3)、
工程順序ii):ヒドロキシプロピル化(工程1)→表面処理(工程2)→架橋(工程3)、
工程順序iii):架橋(工程1)→ヒドロキシプロピル化(工程2)→表面処理(工程3)、
工程順序iv):表面処理(工程1)→ヒドロキシプロピル化(工程2)→架橋(工程3)、
工程順序v):架橋(工程1)→表面処理(工程2)→ヒドロキシプロピル化(工程3)、
工程順序vi):表面処理(工程1)→架橋(工程2)→ヒドロキシプロピル化(工程3)」
が可能であると理解でき、条件ア、キ、ウの各工程の順序が具体的に記載されており、当業者であれば上記工程順序を適宜選択できること、上記2(6)の凝集に関する記載を示し、条件エ〜カを同時に満たすことが理解できること、上記2(7)の架橋に関する記載を示し、条件イについても記載されているとし、発明の詳細な説明の記載に基づいて、当業者であれば必要に応じて条件などを適宜変更して、条件ア〜キを同時に満たすアルファ化、ヒドロキシプロピル化デンプンを製造できることを十分に理解できるといえると主張している。
しかしながら、上記3で述べたとおりであり、意見書の主張を検討しても、当業者がどのように製造工程の順序や、凝集工程、架橋工程の条件などを変更すれば、条件ア〜キを同時に満たすものを製造できるといえるか、発明の詳細な説明の記載からは理解できないから、上記主張は採用できない。

第5 むすび
以上のとおり、この出願は、本願発明について、明細書の発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、その余について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。

審判長 大熊 幸治
出訴期間として在外者に対し90日を附加する。
 
審理終結日 2022-05-23 
結審通知日 2022-05-30 
審決日 2022-06-17 
出願番号 P2016-569777
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (C08B)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 大熊 幸治
特許庁審判官 冨永 保
関 美祝
発明の名称 水性液体の増粘に有用なデンプン組成物  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 前川 純一  
代理人 森田 拓  
代理人 上島 類  
代理人 永島 秀郎  

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