• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04N
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04N
管理番号 1391285
総通号数 12 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-01-06 
確定日 2022-11-10 
事件の表示 特願2018−501904「車両の周辺部を撮影するための車載カメラ装置、並びに、この様な車載カメラ装置を備えた物体を認識するための運転手アシスタント装置」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 2月23日国際公開、WO2017/028848、平成30年 9月13日国内公表、特表2018−526873〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2016年(平成28年)6月29日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2015年8月14日(DE)ドイツ国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。

平成30年 1月15日 :翻訳文提出
令和 2年 5月18日付け:拒絶理由通知
令和 2年 8月18日 :意見書、手続補正書の提出
令和 2年 9月 3日付け:拒絶査定
令和 2年 9月 9日 :拒絶査定の謄本の送達
令和 3年 1月 6日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和 3年10月29日付け:拒絶理由通知(当審)
令和 4年 1月25日 :期間延長請求書の提出
令和 4年 2月15日 :意見書、誤訳訂正書の提出

第2 本願発明
本願の請求項9に係る発明(以下、「本願発明」という。)及び請求項9が引用する本願の請求項1は、令和4年2月15日提出の誤訳訂正書により訂正された特許請求の範囲の請求項9及び請求項1に記載された以下のとおりのものである。(記号A−Dは分説するために当審にて付した。以下「構成A」−「構成D」という。)

「 【請求項9】
A 請求項1〜8のいずれか1項に記載の車載カメラ装置(3)によって
B 撮影された車両(2)の周辺部の複数の捕捉領域(7,8)から
C 物体を認識するための
D 運転手アシスタント装置(1)。」

「 【請求項1】
一つの第一オプトエレクトロニクス装置(5)と一つの第二オプトエレクトロニクス装置(6)とを備えた、車両(2)の周辺部を撮影するための車載カメラ装置(3)であって、
前記第一オプトエレクトロニクス装置(5)と前記第二オプトエレクトロニクス装置(6)とはそれぞれ、一つの光学素子と画像センサーとを有し、
前記第一オプトエレクトロニクス装置(5)は、前記周辺部のうちの第一の捕捉領域(7)を撮影するように構成されていて、前記第二オプトエレクトロニクス装置(6)は、前記周辺部のうちの第二の捕捉領域(8)を撮影するように構成されていて、
前記第一オプトエレクトロニクス装置及び前記第二オプトエレクトロニクス装置(5,6)は、これらの捕捉領域(7,8)の重複区域(9)を有すると共に異なる画角(α1,α2)を有し、
前記第一オプトエレクトロニクス装置(5)によって撮影された前記重複区域(9)は、前記第一の捕捉領域(7)のその他の領域内よりも低い別の角解像度(x1)を有し、
前記第一オプトエレクトロニクス装置と前記第二オプトエレクトロニクス装置とによって撮影された前記重複区域は、同じ水平画角及び/又は同じ垂直画角を有し、
前記第二の捕捉領域(8)は、前記重複区域(9)に相当することを特徴とする車載カメラ装置。」

第3 当審における拒絶の理由
令和3年10月29日付けで当審が通知した拒絶理由のうち理由3(進歩性)についての拒絶理由は、以下のとおりのものである。

この出願の請求項10及び11に係る発明は、本願の優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に日本国内又は外国において、頒布された以下の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1.特開2009−71836号公報
引用文献2.特開2009−201064号公報

なお、請求項10及び11は、令和4年2月15日提出の誤訳訂正書により、それぞれ請求項9及び10に繰り上げされた。

第4 引用文献の記載及び引用発明
1 引用文献1について
(1)引用文献1に記載された事項
引用文献1には、図面とともに以下の事項が記載されている(下線は、当審にて付したものである。以下同じ。)。

「【0001】
本発明は、自動車の運転を支援するための、立体視システムの形態である、画像を捕捉するシステムを有するデバイスに関する。運転を支援するデバイス、より詳細には、立体画像を捕捉するシステムが、自動車の内部に配置されている。」

「【背景技術】
【0003】
概略的に言うと、本発明の応用領域は、高度な運転支援システム、より詳細には、障害物、特に、車両の進路を横断しているか、または、車両の前を進行している他の車両を検出および識別するシステムの領域である。これは、過去15年間に導入された高度な運転支援システムに関する研究分野において、特に自動車および自動車機器のメーカーによって、最も研究された主要な領域の1つである。多くの解決方法が構想され、自動車の内部からの障害物の検出および識別のために実行に移された。それらのほとんど全ては、近接した、低速度の障害物を検出するためのレーダー、ライダー、および超音波技術、さらに、カメラを有するデバイスの使用を伴うプロセスに基づいている。」

「【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、特に画像捕捉システムを有する、自動車の運転を支援するためのデバイスに関するものであって、この画像捕捉システムは、少なくとも1つの第1のカメラおよび第2のカメラを備えている、画像を捕捉するための立体視システムであり、第1のカメラは、第2のカメラの視野よりも広い視野を有しており、その結果、前記立体視システムは、前記運転を支援するためのデバイスに多機能性を与えることを最も主要な特徴としている。
【0017】
このように、第2のカメラは、第1のカメラによって捕捉される画像の一部分と等価なゾーン上の画像を捕捉することができ、したがって、第2の画像にズーム効果を生み出すことができる。
【0018】
上述の主特性に加えて、本発明によるデバイスは、さらに、次の付加特性のうちの1つ以上を有することがある。
【0019】
− 第1のカメラおよび第2のカメラは、それらの視野内に、自動車の進行方向に概ね中心を置く重なりゾーンを有する。
【0020】
− 第1のカメラは、グレーレベルカメラ・タイプであり、かつ、第2のカメラは、カラーカメラ・タイプである。したがって、第2のカメラは、検出される物体のカラーに関する情報を供給する。
【0021】
− 第1のカメラの視野は、30〜50度、好ましくは40度であり、一方、第2のカメラの視野は、15〜25度、好ましくは20度である。
【0022】
− 第1のカメラの視野の大きさは、第2のカメラの視野の大きさの倍数である。
【0023】
− 第1のカメラの視野および第2のカメラの視野は、自動車の進行方向に概ね中心を置いている。
【0024】
− 第2のカメラには、RGBiタイプのセンサ、または、RedClearタイプのセンサのように、捕捉画像の赤成分の計算に関連付けて、グレーレベルで画像を捕捉することができるセンサが装着されている。」


「【0032】
図1は、本発明によるデバイスを装着された車両100を示している。この車両100は、カラー情報を供給しない、グレーレベルカメラタイプの少なくとも1つの第1のカメラ、および、カラーカメラタイプの第2のカメラを備えている。図示されている例においては、第1のカメラは、車両100の進行方向106を中心とする視角によって定義される第1の視野101を有している。この視角の大きさは、40度の程度である。
【0033】
第2のカメラは、やはり、車両100の進行方向106を中心とする第2の視野102を有している。この第2の視野102は、第1のカメラの第1の視野101よりも小さくて、例えば、20度の程度である。第2の視野には、グレアゾーン105がほとんど完全に含まれるのが有利である。グレアゾーンとは、車両100が、走行ビームヘッドランプを用いたときに、その内部に存在する、他の任意の車両103が眩惑させられる危険にさらされるゾーンを意味している。
【0034】
このように、2つのゾーンは、重なりゾーン104を有する。この重なりゾーンにおいては、第1のカメラと第2のカメラとの両方によって画像を捕捉することができる。すなわち、この重なりゾーン内では、立体画像が与えられる。したがって、これらの視野内のいずこかに位置する、いかなる対向車両または先行車両も検出される。そして、得られた検出情報を、運転支援機能に特有の少なくとも1つの処理ステージにかけることができる。
【0035】
このような性質を有するデバイスは、特に、次のような運転支援機能を遂行することができる。
【0036】
− 3車線をカバーし、また、道路カーブ上の画像を与えることができるほどに十分に大きな視角を必要とする、LDWS(車線逸脱警報システム)、BeamAtic、FPWなどにおける単眼カメラ機能。通常、これらの機能に用いられる視角は、40度である。そのような機能に対しては、グレーレベルカメラを用いるのが好適である。例えば40度の広角度が用いられるが、30度以内および50度以内の広角度を用いることもできる。それらの広角度を用いることによって、ユーザは、ユーザの車両がたどっている車線と、さらに、その両側に隣接する2つの車線とに関する情報を供給する、広い視野を与えられる。さらに、前の車両を追い抜くとき、道路カーブに入るとき、および、街灯を検出するときにも、40度の視野は必要である。
【0037】
− 遠くの物体に対して、よりよい解像度レベルを必要とする、暗視または歩行者の検出におけるような単眼カメラ機能。この場合には、視角は、より狭くなる(おおよそ20度)。これらの機能に対しては、カラーカメラを用いるのが好ましい。さらに、カラーカメラを用いることによって、テールランプに対する検出感度は向上する。
【0038】
− 検出された物体の正確な相関的算定を必要とする任意の機能。この立体視システムでは、本発明によるデバイスは、これらの機能を遂行することができる。そのような1つの機能は、例えば、他の自動車の位置に関連付けて、ほぼ下向きにしたヘッドランプ・ビームの長さを漸進的に調整する機能である。」

「【図1】





(2)引用文献1に記載された発明
上記(1)の摘記事項から、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。(各構成の末尾に、対応する段落番号や図番号を付した。記号a−mは分説するために当審にて付した。以下「構成a」−「構成m」という。)。

「a 自動車の運転を支援するための、立体視システムであって、画像を捕捉するシステムを有するデバイスに関し、運転を支援するデバイス、より詳細には、立体画像を捕捉するシステムが、自動車の内部に配置されており(【0001】)、
b 応用領域が、障害物、特に、車両の進路を横断しているか、または、車両の前を進行している他の車両を検出および識別するシステムの領域であり(【0003】)、
c 画像捕捉システムを有する、自動車の運転を支援するためのデバイスに関するものであって、この画像捕捉システムは、少なくとも1つの第1のカメラおよび第2のカメラを備えている、画像を捕捉するための立体視システムであり、第1のカメラは、第2のカメラの視野よりも広い視野を有しており、その結果、前記立体視システムは、前記運転を支援するためのデバイスに多機能性を与えることを最も主要な特徴とし(【0016】)、
d 第1のカメラおよび第2のカメラは、それらの視野内に、自動車の進行方向に概ね中心を置く重なりゾーンを有し(【0019】)、
e 第1のカメラの視野は、30〜50度、好ましくは40度であり、一方、第2のカメラの視野は、15〜25度、好ましくは20度であり(【0021】)、
f 前記デバイスを装着された車両100は、カラー情報を供給しない、グレーレベルカメラタイプの少なくとも1つの第1のカメラ、および、カラーカメラタイプの第2のカメラを備え、第1のカメラは、車両100の進行方向106を中心とする視角によって定義される第1の視野101を有しており、この視角の大きさは、40度の程度であり(【0032】、図1)、
g 第2のカメラは、車両100の進行方向106を中心とする第2の視野102を有しており、この第2の視野102は、第1のカメラの第1の視野101よりも小さくて、例えば、20度の程度であり(【0033】、図1)、
h 2つのゾーンは、重なりゾーン104を有し、この重なりゾーンにおいては、第1のカメラと第2のカメラとの両方によって画像を捕捉することができ、これらの視野内のいずこかに位置する、いかなる対向車両または先行車両も検出され、得られた検出情報を、運転支援機能に特有の少なくとも1つの処理ステージにかけることができ(【0034】、図1)、
i 3車線をカバーし、また、道路カーブ上の画像を与えることができるほどに十分に大きな視角を必要とする、LDWS(車線逸脱警報システム)、BeamAtic、FPWなどにおける単眼カメラ機能を備え、これらの機能に用いられる視角は、40度であり、そのような機能に対しては、グレーレベルカメラを用いるのが好適であり、例えば40度の広角度が用いられるが、30度以内および50度以内の広角度を用いることもでき、それらの広角度を用いることによって、ユーザは、ユーザの車両がたどっている車線と、さらに、その両側に隣接する2つの車線とに関する情報を供給する、広い視野を与えられ、さらに、前の車両を追い抜くとき、道路カーブに入るとき、および、街灯を検出するときにも、40度の視野は必要であり(【0036】)、
j 遠くの物体に対して、よりよい解像度レベルを必要とする、暗視または歩行者の検出におけるような単眼カメラ機能を備え、この場合には、視角は、より狭くなり(おおよそ20度)、これらの機能に対しては、カラーカメラを用いるのが好ましく(【0037】)、
a 運転を支援するデバイス。」

2 引用文献2について
(1)引用文献2に記載された事項
引用文献2には、図面とともに以下の事項が記載されている 。

「【0001】
本発明は、例えば可視光カメラ、赤外線カメラなどの撮像装置で撮像された画像上で、被写体中の特定種類の物体(例えば、道路標識、他の車両、歩行者、植物など)の画像認識を行う画像認識装置及び方法、並びにこのような画像認識の前処理として画像上における特定種類の物体に関連する領域を特定する或いは限定するのに好適に用いられる関連領域特定装置及び方法の技術分野に関する。」

「【0052】
(画像認識装置の実施形態)
本発明の画像認識装置の第1実施形態は上記課題を解決するために、上述した本発明の実施形態に係る関連領域特定装置(但し、その各種態様を含む)と、前記被写体からの可視光を受光することにより可視画像を生成する可視光撮像手段と、該生成された可視画像のうち、前記特定された関連領域内にある部分に対して、画像認識処理を施す画像認識手段とを備える。
【0053】
本発明の画像認識装置の第1実施形態によれば、先ず、上述した本発明の実施形態に係る関連領域特定装置によって、関連領域が特定される。これと並行して又は相前後して、例えばCCDカメラ、通常のカメラ等である、可視光撮像手段によって、被写体からの可視光が受光され、可視画像が生成される。続いて、生成された可視画像のうち、特定された関連領域内にある部分に対して、画像認識処理が施される。言い換えれば、関連領域内にない部分の全て又は一部に対しては、基本的に或いは原則として画像認識処理が施されることはない。
【0054】
本発明に係る「画像認識」の具体的な方法としては、例えば道路標識であれば、可視光画像を元にテンプレートマッチング、エッジ抽出などの既存の手法で、例えば歩行者であれば、色情報や動き情報を用いた既存の手法で、例えば他の車両であれば、ナンバープレート検出やエッジ検出などの既存の手法で、道路標識や他の車両、歩行者などの画像認識が行われる。
【0055】
画像認識の結果は、映像出力や音声出力などの提示手段或いは出力手段によって、画像認識の結果を示す又は画像認識の結果に対応する所定フォーマット若しくはフォームの出力データとして、ドライバ等の操作者に提示される。これに加えて又は代えて、画像認識の結果は、制御用のデータとしても出力され、例えば車両における自動操作又は半自動操作などに供される。
【0056】
以上の結果、画像全域よりも小さい関連領域に対して、画像認識処理を施せば済むので、画像認識処理の処理負担を軽減できる。特に、赤外線撮像手段は、関連領域を特定するのに用いられ、可視光撮像手段は、画像認識用に用いられるので、夫々の撮像手段の長所を生かしつつ或いは両撮像撮像手段の連携によって、全体として効率良く高精度で、関連領域の特定から画像認識までの一連の処理を実行可能となる。従って車載用など、被写体が赤外線撮像手段や可視光撮像手段に対して相対的に動いたり、迅速な対応が逐次要求されるような使用環境で、本発明は特に有利となる。」

「【0093】
画像認識部16は、本発明に係る「画像認識手段」の一例として、プロセッサ、メモリ、コンパレータ等を備えて、車両に内蔵されている。画像認識部16は、領域抽出部14と同一のプロセッサから構成されてもよく、或いは、個別のプロセッサから構成されてもよい。画像認識部16は、可視光カメラ13により生成された可視画像のうち、領域抽出部14により特定された交通環境関連領域内にある部分に対して、画像認識処理を施す。言い換えれば、画像認識部16は、交通環境関連領域内にない部分に対しては、画像認識処理を施さないように構成されている。
【0094】
具体的には、可視光画像を元にテンプレートマッチング、エッジ抽出などの既存の各種手法(例えば、『道路標識の自動認識』(電子情報通信学会技術研究報告、IE、画像工学、Vol.101、No.626(20020122)pp.67−72)参照)で、道路標識を認識する。色情報や動き情報を用いた既存の各種手法(例えば、『車載カメラによる歩行者検出のための背景除去及びアクティブ探索を用いたテンプレートマッチングの高速化』(電子情報通信学会論文誌、D−II、情報・システム、II−パターン処理、Vol.J87−D−II、No.5(20040501)pp.1094−1103)参照)で、例えば歩行者を認識する。ナンバープレート検出やエッジ検出などの既存の各種手法で(例えば、『GAを用いた閾値決定法による車のナンバープレート検出』(電子情報通信学会技術研究報告、NC、ニューロコンピューティング、Vol.102、No.158(20020621)pp.55−59)参照)、他の車両を認識する。
【0095】
これらの手法は、いずれもコンピュータによるデータ解析を利用した複雑高度な手法であり、基本的に処理対象となる画像領域の大きさに応じて処理負担が増大する。しかるに本実施例では、処理対象は、画像全域ではなく、交通環境関連領域に限定されているので、低負担で迅速に画像認識処理を実行可能であり、同一時間内における精度の向上を図れる。
【0096】
図1において、表示部18は、画像認識の結果を所定フォーマット若しくはフォームの映像出力データとして表示する。表示部18は、可視光カメラ13により撮像された画像を表示し、更にこの表示上で、重要な部分(例えば、道路標識、他の車両、歩行者など)をハイライト表示してもよい。これに加えて又は代えて、画像認識の結果は、アラームなどの警告音として音声出力されてもよい。更に、画像認識の結果は、制御用の出力データとして、画像認識部16から出力されてもよい。このような出力データは、例えば車両における自動操作又は半自動操作などに供される。
【0097】
次に以上のように構成された画像認識装置の処理の流れについて、図5から図7を参照して、説明する。ここに図5は、第1実施例に係る画像認識装置の処理の流れを示し、図6は、可視光カメラ13により撮像される可視光画像の一例を示し、図7は、図6の画像に対して特定される交通環境関連領域を示す。
【0098】
図5において、初期状態として、画像認識装置が搭載された車両は、道路上を走行中であるとする。
【0099】
先ず、画像認識装置のシステム全体がON(オン)されると、画像認識を実行するために、赤外線照射器1がON(オン)され、特定波長域を含む赤外線が車両の前方へ向けて照射される(ステップS11)。この際、特定波長域の赤外線(図2参照)が用いられるので、昼間であってもよい。続いて、赤外線カメラ12及び可視光カメラ13で、車両の前方の被写体が撮像される(ステップS12)。
【0100】
すると、赤外線カメラ12で生成された赤外線画像を示す赤外線画像データは、領域抽出部14に入力される。領域抽出部14では、赤外線画像を構成する複数の画素のうち、所定閾値以上となる画素が抽出され、抽出された画素により占められる赤外線画像上の領域が交通環境関連領域とされる(ステップS13)。
【0101】
例えば図6に示すような可視光画像P1が、ステップS12で撮像されるとする。尚、ステップS12で撮像される赤外線画像についても、明暗の差を除き、可視光画像P1と同じである。このとき、ステップS13の画素の抽出及び交通環境関連領域の特定を行うと、図7に示した領域抽出後における画像P2のように、道路標識A1、他の車両A2、歩行者A3、及植物A4を含んで構成される、太線の輪郭線で囲われている領域が、交通環境関連領域として特定される。図7では、画像全域のうち、交通環境関連領域でない部分に、ハッチングが掛けられている。
【0102】
赤外線画像データの入力に並行して若しくは相前後して、可視光カメラ13から可視光画像を示す可視光画像データは、画像認識部16に入力される。他方、領域抽出部14で生成された交通環境関連領域を示す関連領域データは、画像認識部16に入力される。すると、画像認識部16では、可視光画像の全域に対してではなく、可視光画像のうち、図7において太線の輪郭線で囲われた交通環境関連領域に対応する部分について(即ち、図7でハッチングが掛けられた領域は、処理対象から除外された形で)画像認識処理が施される(ステップS14)。
【0103】
画像認識処理の結果は、表示部16によって、所定フォーマットで、車両の運転手などに提示される。例えば、交通環境関連領域が他の領域から区別されるフォーマットで、可視光画像が表示されてもよいし、特殊画像の表示によって、運転手に対して警告が行われてもよい(ステップS15)。
【0104】
その後、画像認識装置をオフしない場合(ステップS16:NO)、ステップS12からの処理が繰り返して行われ、画像認識装置をオフする場合(ステップS16:YES)、一連の処理が終了される。」

「【図1】





「【図5】





「【図6】





「【図7】





(2)引用文献2に記載された技術的事項
上記(1)の摘記事項から、引用文献2には、次の技術的事項が記載されている。

「車載された可視光カメラ、赤外線カメラなどの撮像装置で撮像された画像上で、被写体中の特定種類の物体(例えば、道路標識、他の車両、歩行者、植物など)の画像認識を行い(【0001】、【0052】−【0054】、【0056】、【0093】−【0094】、【0101】−【0102】、図1、2、6、7)、画像認識の結果を運転手に提示すること(【0055】、【0096】、【0103】、図2)。」

第5 対比・判断
1 本願発明について
(1) 対比
本願発明と引用発明を、以下で対比する。

ア 構成A及びBについて
引用発明の「第1のカメラ」および「第2のカメラ」は、構成aによると「立体画像を捕捉するシステムが、自動車の内部に配置されて」おり、構成cによると「この画像捕捉システムは、少なくとも1つの第1のカメラおよび第2のカメラを備えている」ことから、自動車の内部に配置されているといえるため、本願発明における「車載カメラ装置」に相当する。
また、引用発明の「第1カメラ」は、その視野が、構成eによると「30〜50度、好ましくは40度であり」、構成dによると「自動車の進行方向に概ね中心を置く重なりゾーンを有し」、構成fによると「車両100の進行方向106を中心とする視角によって定義される第1の視野101を有しており、この視角の大きさは、40度の程度」であり、「第2のカメラ」は、その視野が、構成eによると「15〜25度、好ましくは20度であり」、構成dによると「自動車の進行方向に概ね中心を置く重なりゾーンを有し」、構成gによると「車両100の進行方向106を中心とする第2の視野102を有しており、この第2の視野102は、第1のカメラの第1の視野101よりも小さくて、例えば、20度の程度であ」るから、引用発明における「第1カメラ」および「第2カメラ」によって撮影される領域は、本願発明における「車載カメラ装置によって撮影された車両の周辺部の複数の捕捉領域」に相当するといえる。
しかしながら、引用発明における「第1カメラ」および「第2カメラ」は、自動車の内部に配置されているが、本願発明の「請求項1〜8のいずれか1項に記載の」ものではない点で相違している。

イ 構成Cについて
引用発明では、構成b、h、i、jによると「他の車両を検出」、「対向車両または先行車両も検出」、「街灯を検出」、「歩行者の検出」を実施することから、本願発明における「物体を認識」することと、「撮影された物体に対する処理」を実施するという点で共通する。

ウ 構成Dについて
引用発明の構成aにおける「運転を支援するデバイス」は、構成aによると「自動車の運転を支援するための」「デバイス」であって、構成hによると「得られた検出情報を、運転支援機能に特有の少なくとも1つの処理ステージにかけることができ」ることから、本願発明と同様の「運転手アシスタント装置」といえる。

(2)一致点及び相違点
以上のことから、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。

<一致点>
「A’車載カメラ装置によって
B 撮影された車両の周辺部の複数の捕捉領域から
C’撮影された物体に対する処理を実施するための
D 運転手アシスタント装置。」

<相違点1>
「車載カメラ装置」が、本願発明では、「請求項1〜8のいずれか1項に記載の」ものであるのに対し、引用発明では、自動車の内部に配置された第1のカメラと第2のカメラであるが、請求項1〜8のいずれか1項に記載のものではない点。

<相違点2>
本願発明では、撮影された物体に対する処理が「物体を認識する」処理であるのに対し、引用発明では、物体の検出処理である点。

(3)相違点についての判断
ア 相違点1について
本願発明における「車載カメラ装置」と「物体を認識するための運転手アシスタント装置」との関係について、本願の発明の詳細な説明を参照すると、「特に、前記車両カメラ装置は、第一と第二の捕捉領域が、互いに独立して撮影され処理されるように、及び/又は、互いに独立して画像データとして物体を認識するために運転手アシスタント装置に送信されるように構成されている。」(【0009】)、「特に好ましくは、前記運転手アシスタント装置は、車載カメラ装置を備えている、乃至、これと接続されている、乃至、これが、車載カメラ装置のハウジング内に内蔵されている。」(【0021】)と記載されているように、運転手アシスタント装置は、車載カメラ装置と接続され、車載カメラ装置から画像データを送信されて物体を認識することも含まれており、この場合は、車載カメラ装置と運転手アシスタント装置とは、いわゆるサブコンビネーションの関係となる。
また、本願発明の請求項1〜8のいずれか1項に記載の車載カメラ装置によって撮影された画像は、例えば、請求項1に記載の車載カメラ装置によって撮影された画像であれば、上記「第2 本願発明」の請求項1にあるように、「第一オプトエレクトロニクス装置(5)」が、「周辺部のうちの第一の捕捉領域(7)を撮影」し、「第二オプトエレクトロニクス装置(6)」が、「周辺部のうちの第二の捕捉領域(8)を撮影」し、「前記第一オプトエレクトロニクス装置及び前記第二オプトエレクトロニクス装置(5,6)は、これらの捕捉領域(7,8)の重複区域(9)を有すると共に異なる画角(α1,α2)を有し」、「前記第一オプトエレクトロニクス装置(5)によって撮影された前記重複区域(9)は、前記第一の捕捉領域(7)のその他の領域内よりも低い別の角解像度(x1)を有し」、「前記第一オプトエレクトロニクス装置と前記第二オプトエレクトロニクス装置とによって撮影された前記重複区域は、同じ水平画角及び/又は同じ垂直画角を有し」、「前記第二の捕捉領域(8)は、前記重複区域(9)に相当する」「車載カメラ装置」によって撮影された画像であるが、当該画像は、運転手アシスタント装置に送信される際、単なる画像データとして送信されていることから、運転手アシスタント装置における物体の認識に対して何らかの影響を及ぼすものではない。
そのため、運転手アシスタント装置は、車載カメラ装置から送信された画像を受信すれば足りるものであって、車載カメラ装置の構成は、運転手アシスタント装置に画像データを送信するものであれば、いかなるものでも良いこととなり、車載カメラ装置が「請求項1〜8のいずれか1項に記載の」ものであることは、本願発明の「運転手アシスタント装置」の構成として技術的意味を成さないものである。
したがって、相違点1は、実質的な相違点ではない。

イ 相違点2について
引用文献2には、前記「第2 2(2)」のように、車載された可視光カメラ、赤外線カメラなどの撮像装置で撮像された画像上で、被写体中の特定種類の物体(例えば、道路標識、他の車両、歩行者、植物など)の画像認識を行い、画像認識の結果を運転手に提示することが記載されており、運転手に画像認識の結果を提示することによって運転手のアシスタントをしているといえる。
そして、引用発明と引用文献2に記載された技術的事項とは、ともに運転手のアシスタント装置において、車載カメラ装置で撮影した画像の物体に対する処理を行う点で共通するから、引用発明において、得られた検出情報を、運転支援機能に特有の少なくとも1つの処理ステージにかける際の処理ステージとして、引用文献2に記載されているように物体を認識することを行って、その結果を運転手に提示することを適用して、本願発明の構成Cのようにすることは、当業者にとって容易である。

第6 意見書の主張について
請求人は、令和4年2月15日付け意見書において、理由3に関し、以下のように主張している。
「一方で、引用例1(特に、明細書の[0043]及び図2参照)に記載の発明の場合、立体画像捕捉システムが開示されています。この場合、特定の領域203及び204が、が、第1の画像201及び第2の画像202から抽出され分析されます。当該構成は、本願発明の「前記第二の捕捉領域(8)は、前記重複区域(9)に相当する」構成と相違し、したがって本願発明は、引用例1に開示されておらず、引用例1及び引用例2に記載された技術事項に基づき容易に想到し得ないと思料します。よって、請求項1を引用する請求項9及び10に記載の発明も進歩性を有すると思料します。」
上記主張について検討すると、上記請求人の主張は、車載カメラ装置と運転手アシスタント装置とが、いわゆるサブコンビネーションの関係となっており、運転手アシスタント装置が車載カメラ装置から送信された画像を受信すれば足りるものであって、車載カメラ装置の構成は、運転手アシスタント装置に画像データを送信するものであれば、いかなるものでも良いことである点について主張しておらず、また、車載カメラ装置において、「前記第二の捕捉領域(8)は、前記重複区域(9)に相当する」構成を持っていたとしても、運転手アシスタント装置に送信されて物体を認識する際には、単に画像データとなっており、何ら運転手アシスタント装置の構成を特定するものではないことから、上記主張を採用することはできない。

第7 むすび
上記のとおりであるから、本願発明は、本願の優先権主張の日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用発明と引用文献2に記載された事項とに基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。

審判長 千葉 輝久
出訴期間として在外者に対し90日を附加する。
 
審理終結日 2022-06-13 
結審通知日 2022-06-15 
審決日 2022-06-28 
出願番号 P2018-501904
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H04N)
P 1 8・ 537- WZ (H04N)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 千葉 輝久
特許庁審判官 畑中 高行
渡辺 努
発明の名称 車両の周辺部を撮影するための車載カメラ装置、並びに、この様な車載カメラ装置を備えた物体を認識するための運転手アシスタント装置  
代理人 中村 真介  
代理人 鍛冶澤 實  
代理人 鈴木 友子  
代理人 江崎 光史  
代理人 石田 大成  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ