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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1391351
総通号数 12 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-04-06 
確定日 2022-11-08 
事件の表示 特願2019−518559「チャネル病を引き起こす薬物に対するDMPC、DMPG、DMPC/DMPG、LYSOPG及びLYSOPCの防御効果」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 4月26日国際公開、WO2018/075801、令和 1年10月31日国内公表、特表2019−531309〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2017年10月19日(パリ条約による優先権主張 2016年10月19日 アメリカ合衆国(US))を国際出願日とする出願であって、その主な手続の経緯は以下のとおりである。

令和1年 6月19日 :手続補正書の提出
令和2年 5月26日付け :拒絶理由通知書
令和2年 9月 8日 :意見書及び手続補正書の提出
令和2年11月30日付け :拒絶査定
令和3年 4月 6日 :審判請求書及び手続補正書の提出
令和3年 6月29日付け :前置報告書

第2 令和3年4月6日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和3年4月6日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 補正の内容
本件補正は、令和2年9月8日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1(下記(1)に示す。以下「補正前の請求項1」という。)を、令和3年4月6日提出の手続補正書に記載される特許請求の範囲の請求項1(下記(2)に示す。以下「補正後の請求項1」という。)のように補正する事項(以下「補正事項1」という。)を含むものである。

(1)補正前の請求項1
「【請求項1】
ヒト又は動物対象において活性剤又は薬物により引き起こされる心臓パターンにおける不規則性又は変化に起因する1又は2以上の心臓チャネル病又は状態を予防するための組成物であって、
前記活性剤又は薬物により引き起こされる心臓パターンにおける不規則性又は変化に起因する1又は2以上の心臓チャネル病又は状態を低減又は予防するのに有効な、経口投与用に適合されたある量のホスファチジルグリセロール、並びに1又は2以上の官能剤、チキソトロピー剤、又は官能剤及びチキソトロピー剤の両方
を含み、前記心臓パターンにおける前記不規則性若しくは変化に起因する前記心臓チャネル病若しくは状態が、心臓内の遅延整流性K+電流に関与するイオンチャネルの阻害、多形性心室性頻拍、QTc、LQT2、LQTSの延長、若しくはトルサード・ド・ポアンツである、又は、心臓、アレルギー若しくはがん関連疾患の治療に使用される前記活性剤若しくは薬物の投与により誘導されるIKrチャネル阻害の延長若しくはQT延長の治療若しくは予防に使用される、前記組成物であり、前記ホスファチジルグリセロールが、リゾホスファチジルコリン、ラウロイル−リゾホスファチジルコリン、ミリストイル−リゾホスファチジルコリン、パルミトイル−リゾホスファチジルコリン、ステアロイル−リゾホスファチジルコリン、アラキドイル−リゾホスファチジルコリン、オレオイル−リゾホスファチジルコリン、リノレオイル−リゾホスファチジルコリン、リノレノイル−リゾホスファチジルコリン若しくはエルコイル−リゾホスファチジルコリン、1−ミリストイル−2−ヒドロキシ−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(DMPC)、12−ミステロイル−2−ヒドロキシ−sn−グリセロ−3−[ホスホ−rac−(グリセロール)](DMPG)、又はDMPC/DMPGの少なくとも1つから選択される、前記組成物。」

(2)補正後の請求項1(下線部は補正箇所である。)
「【請求項1】
ヒト又は動物対象において活性剤又は薬物により引き起こされる心臓パターンにおける不規則性又は変化に起因する1又は2以上の心臓チャネル病又は状態を予防するための組成物であって、
前記活性剤又は薬物により引き起こされる心臓パターンにおける不規則性又は変化に起因する1又は2以上の心臓チャネル病又は状態を低減又は予防するのに有効な、経口投与用に適合されたある量のホスファチジルグリセロール、並びに1又は2以上の官能剤、チキソトロピー剤、又は官能剤及びチキソトロピー剤の両方を含み、前記心臓パターンにおける前記不規則性若しくは変化に起因する前記心臓チャネル病若しくは状態が、心臓内の遅延整流性K+電流に関与するイオンチャネルの阻害、多形性心室性頻拍、QTc、LQT2、LQTSの延長、若しくはトルサード・ド・ポアンツである、又は、心臓、アレルギー若しくはがん関連疾患の治療に使用される前記活性剤若しくは薬物の投与により誘導されるIKrチャネル阻害の延長若しくはQT延長の治療若しくは予防に使用される、前記組成物であり、前記ホスファチジルグリセロールが、ラウロイル−リゾホスファチジルコリン、ミリストイル−リゾホスファチジルコリン、パルミトイル−リゾホスファチジルコリン、ステアロイル−リゾホスファチジルコリン、アラキドイル−リゾホスファチジルコリン、オレオイル−リゾホスファチジルコリン、リノレオイル−リゾホスファチジルコリン、リノレノイル−リゾホスファチジルコリン若しくはエルコイル−リゾホスファチジルコリン、1、2−ジミリストイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(DMPC)、1、2−ジミリストイル−sn−グリセロ−3−ホスホリルグリセロール(DMPG)、又はDMPC/DMPGの少なくとも1つから選択され、前記薬物が、アルブテロール(サルブタモール)、アルフゾシン、アマンタジン、アミオダロン、アミスルプリド、アミトリプチリン、アモキサピン、アンフェタミン、アナグレリド、アポモルヒネ、アルフォルモテロール、アリピプラゾール、三酸化ヒ素、アステミゾール、アタザナビル、アトモキセチン、アジスロマイシン、ベダキリン、ベプリジル、ボルテゾミブ、ボスチニブ、抱水クロラール、クロロキン、クロルプロマジン、シプロフロキサシン、シサプリド、シタロプラム、クラリスロマイシン、クロミプラミン、クロザピン、コカイン、ダブラフェニブ、ダサチニブ、デシプラミン、デクスメデトミジン、デクスメチルフェニデート、デキストロアンフェタミン(d−アンフェタミン)、ジヒドロアルテミシニン+ピペラキン、ジフェンヒドラミン、ジソピラミド、ドブタミン、ドフェチリド、ドラセトロン、ドンペリドン、ドーパミン、ドキセピン、ドロネダロン、ドロペリドール、エフェドリン、エピネフリン(アドレナリン)、エリブリン、エリスロマイシン、エスシタロプラム、ファモチジン、フェルバメート、フェンフルラミン、フィンゴリモド、フレカイニド、フルコナゾール、フルオキセチン、ホルモテロール、ホスカルネット、ホスフェニトイン、フロセミド(フルセミド)、ガランタミン、ガチフロキサシン、ゲミフロキサシン、ゲラニセトロン、ハロファントリン、ハロペリドール、ヒドロクロロチアジド、イブチリド、イロペリドン、イミプラミン(メリプラミン)、インダパミド、イソプロテレノール、イスラジピン、イトラコナゾール、イバブラジン、ケトコナゾール、ラパチニブ、レブアルブテロール(レブサルブタモール)、レボフロキサシン、レボメタジル、リスデキサンフェタミン、リチウム、メソリダジン、メタプロテレノール、メサドン、メタンフェタミン(Methamphetamine)(メタンフェタミン(methamfetamine))、メチルフェニデート、ミドドリン、ミフェプリストン、ミラベグロン、ミルタザピン、モエキシプリル/HCTZ、モキシフロキサシン、ネルフィナビル、ニカルジピン、ノルエピネフリン(ノルアドレナリン)、ノルフロキサシン、ノルトリプチリン、オフロキサシン、オランザピン、オンダンセトロン、オキシトシン、パリペリドン、パロキセチン、パシレオチド、パゾパニブ、ペンタミジン、パーフルトレン脂質ミクロスフェア、フェンテルミン、フェニレフリン、フェニルプロパノールアミン、ピモジド、ポサコナゾール、プロブコール、プロカインアミド、プロメタジン、プロトリプチリン、プソイドエフェドリン、クエチアピン、キニジン、硫酸キニーネ、ラノラジン、リルピビリン、リスペリドン、リトドリン、リトナビル、ロキシスロマイシン、サルメテロール、サキナビル、セルチンドール、セルトラリン、セボフルラン、シブトラミン、ソリフェナシン、ソラフェニブ、ソタロール、スパルフロキサシン、スルピリド、スニチニブ、タクロリムス、タモキシフェン、テラプレビル、テラバンシン、テリスロマイシン、テルブタリン、テルフェナジン、テトラベナジン、チオリダジン、チザニジン、トルテロジン、トレミフェン、トラゾドン、トリメトプリム−サルファ、トリミプラミン、バンデタニブ、バルデナフィル、ベムラフェニブ、ベンラファキシン、ボリコナゾール、ボリノスタット、又はジプラシドンから選択される、前記組成物。」

2 補正の適否
補正事項1は、補正前の請求項1に記載された「ホスファチジルグリセロール」の選択肢の中から「リゾホスファチジルコリン」を削除することによってホスファチジルグリセロールの種類を限定するとともに、補正前の請求項1に記載された「薬物」を、補正前の請求項4に記載された「アルブテロール(サルブタモール)、アルフゾシン、アマンタジン・・・又はジプラシドンから選択される薬物」から「クリゾチニブ」と「ニロチニブ」を削除したものにすることによって薬物の種類を限定するものである。
したがって、補正事項1は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

3 そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(2)に記載したとおりのものである。

(2)引用文献の記載事項
ア 引用文献1
(ア)原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1である「米国特許出願公開第2015/0343063号明細書」には、以下の事項が記載されている。原文は外国語のため日本語訳で記載する。なお、当審合議体により、必要な箇所に下線を付した。

(1a)「1. 1又は2以上の活性剤がヒト又は動物対象へ投与される場合に前記1又は2以上の活性剤により引き起こされる心臓パターンにおける不規則性又は変化に起因する1又は2以上の心臓チャネル病又は状態を予防又は治療するための組成物であって、
前記活性剤により引き起こされる心臓パターンにおける不規則性又は変化に起因する1又は2以上の心臓チャネル病又は状態を低減又は予防するのに有効な量のリゾホスファチジル化合物を含む、前記組成物。」(請求項1)

(1b)「1又は2以上の活性剤が、アルブテロール(サルブタモール)、アルフゾシン、アマンタジン、アミオダロン、アミスルプリド、アミトリプチリン、アモキサピン、アンフェタミン、アナグレリド、アポモルヒネ、アルフォルモテロール、アリピプラゾール、三酸化ヒ素、アステミゾール、アタザナビル、アトモキセチン、アジスロマイシン、ベダキリン、ベプリジル、ボルテゾミブ、ボスチニブ、抱水クロラール、クロロキン、クロルプロマジン、シプロフロキサシン、シサプリド、シタロプラム、クラリスロマイシン、クロミプラミン、クロザピン、コカイン、クリゾチニブ、ダブラフェニブ、ダサチニブ、デシプラミン、デクスメデトミジン、デクスメチルフェニデート、デキストロアンフェタミン(d−アンフェタミン)、ジヒドロアルテミシニン及びピペラキン、ジフェンヒドラミン、ジソピラミド、ドブタミン、ドフェチリド、ドラセトロン、ドンペリドン、ドーパミン、ドキセピン、ドロネダロン、ドロペリドール、エフェドリン、エピネフリン(アドレナリン)、エリブリン、エリスロマイシン、エスシタロプラム、ファモチジン、フェルバメート、フェンフルラミン、フィンゴリモド、フレカイニド、フルコナゾール、フルオキセチン、ホルモテロール、ホスカルネット、ホスフェニトイン、フロセミド(フルセミド)、ガランタミン、ガチフロキサシン、ゲミフロキサシン、ゲラニセトロン、グリパフロキサシン、ハロファントリン、ハロペリドール、ヒドロクロロチアジド、イブチリド、イロペリドン、イミピラミン(メリプラミン)、インダパミド、イソプロテレノール、イスラジピン、イトラコナゾール、イバブラジン、ケトコナゾール、ラパチニブ、レブアルブテロール(レブサルブタモール)、レボフロキサシン、レボメタジル、リドフラジン、リスデキサンフェタミン、リチウム、メソリダジン、メタプロテレノール、メサゾン、メタンフェタミン(Methamphetamine)(メタンフェタミン(methamfetamine))、メチルフェニデート、ミドドリン、ミフェプリストン、ミラベグロン、ミルタザピン、モエキシプリル/HCTZ、モキシフロキサシン、ネルフィナビル、ニカルジピン、ニロチニブ、ノルエピネフリン(ノルアドレナリン)、ノルフロキサシン、ノルトリプチリン、オフロキサシン、オランザピン、オンダンセトロン、オキシトシン、パリペリドン、パロキセチン、パシレオチド、パゾパニブ、ペンタミジン、パーフルトレン脂質ミクロスフェア、フェンテルミン、フェニレフリン、フェニルプロパノールアミン、ピモジド、ポサコナゾール、プロブコール、プロカインアミド、プロメタジン、プロトリプチリン、プソイドエフェドリン、クエチアピン、キニジン、硫酸キニーネ、ラノラジン、リルピビリン、リスペリドン、リトドリン、リトナビル、ロキシスロマイシン、サルメテノール、サキナビル、セルチンドール、セルトラリン、セボフルラン、シブトラミン、ソリフェナシン、ソラフェニブ、ソタロール、スパルフロキサシン、スルピリド、スニチニブ、タクロリムス、タモキシフェン、テラプレビル、テラバンシン、テリスロマイシン、テルブタリン、テルフェナジン、テロジレン、テトラベナジン、チオリダジン、チザニジン、トルテロジン、トレミフェン、トラゾドン、トリメトプリム−サルファ、トリミプラミン、バンデタニブ、バルデナフィル、ベムラフェニブ、ベンラファキシン、ボリコナゾール、ボリノスタット、又はジプラシドンから選択される、請求項1に記載の組成物。」(請求項26)

(1c) 「23. 心臓パターンにおける不規則性又は変化に起因する心臓チャネル病又は状態が、心臓内の遅延整流性K+電流に関与するイオンチャネルの阻害、多形性心室性頻拍、QTc、LQT2、LQTSの延長、又はトルサード・ド・ポアンツである、請求項1に記載の組成物。」(請求項23)

「24. 心臓、アレルギー又はがん関連疾患の治療に使用される活性剤又は薬物の投与により誘導されるIKrチャネル阻害の延長又はQT延長の治療又は予防に使用される、請求項1に記載の組成物。」(請求項24)

「別の態様では、心臓パターンにおける不規則性又は変化に起因する心臓チャネル病又は状態は、心臓内の遅延整流性K+電流に関与するイオンチャネルの阻害、多形性心室性頻拍、QTc、LQT2、LQTSの延長、又はトルサード・ド・ポアンツである。別の態様では、組成物は、心臓、アレルギー又はがん関連疾患の治療に使用される活性剤又は薬物の投与により誘導されるIKrチャネル阻害の延長又はQT延長の治療又は予防に使用される。」([0016])

(1d)「別の態様では、リゾホスファチジル化合物は、リゾホスファチジルコリンである。別の態様では、リゾホスファチジルコリンは、1−ミリストイル−2−ヒドロキシ−sn−グリセロ−3−ホスホコリンである。」([0058])

(1e)「特定の実施形態では、R1は、13個の炭素長の飽和炭素鎖であり、化合物は、構造IK

を有する。」([0059])

(1f)「28. ヒト又は動物対象における疾患を治療するのに使用される1又は2以上の活性剤により引き起こされるヒト又は動物対象における1又は2以上の心臓チャネル病、心臓パターンにおける不規則性若しくは変化、IKrチャネル阻害又はQT延長を予防又は治療する方法であって、
前記ヒト又は動物対象へ、前記1又は2以上の活性剤により引き起こされる心臓チャネル病、心臓パターンにおける不規則性若しくは変化、IKrチャネル阻害、又はQT延長のうちの1つを低減又は予防するのに有効な量の、経口投与用に適合されたリゾホスファチジル化合物、及び前記疾患を治療するのに十分な有効量の前記1又は2以上の活性剤を投与するステップ
を含み、経口供給されるリゾホスファチジル化合物が、少なくとも1つの心臓チャネル病、心臓パターンにおける不規則性若しくは変化、IKrチャネル阻害又はQT延長を低減又は排除する、前記方法。」(請求項28)

「1つの実施形態では、本開示の組成物は、経口投与用に適合されている。」([0083])

(1g)「ある特定の実施形態では、組成物は、下記略記、化学名及び構造を有する。
・・・中略・・・
DMPC:1,2−ジミリストイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(677.94)(MW)
一般用語−ホスファチジルコリン


DMPG:1,2−ジミリストイル−sn−グリセロ−3−[ホスホリック−(1−グリセロール)](ナトリウム塩)(688.86)(MW)
一般用語−ホスファチジルグリセロール


14:0 LysoPG、14:0 LPG、14:0 リゾホスファチジルグリセロール、ミリストイルリゾホスファチジルグリセロール:1−ミリストイル−2−ヒドロキシ−sn−グリセロ−3−[ホスホ−rac−(1−グリセロール)](ナトリウム塩)(478)(MW)


」([0084]〜[0090])
(当審注:上記「14:0 LysoPG」の構造式中、

上記構造の中心部分の原子が炭素(C)である記載は誤記であり、正しくは、下記のように、中心部分の原子はリン(P)である。



「被検試料:
1−DMPC
・・・中略・・・
4−14:0 LysoPC
・・・中略・・・
9−14:0 LysoPC+ニロチニブ(0.1μM)」([0133]〜[0142])

(1h)「[0186]
リポソーム分解産物の経口製剤は、in vivoで静脈内モキシフロキサシン誘導性QTc延長を緩和する。
[0187]
構造的に多様な抗がん薬は、ether−a−go−go遺伝子(hERG)によりコードされる心臓遅延整流性K+チャネル(IKr)を遮断して、後天性QT延長症候群(LQTS)をもたらす。重篤な心不整脈及び突然死の蓋然性は、LQTS誘導性抗がん薬を投薬した患者において増加する。このリスクは、薬物開発の障害であり、薬物は、市場から取り下げられたか、又は黒枠警告を割り当てられた。抗がん薬としてのクルクミンの開発中に、クルクミンが、IC504.9μMで、濃度依存的様式でhERGチャネルを遮断したことを、本発明者らは確認した。この効果は、1,2−ジミリストイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(DMPC)及び1,2−ジミリストイル−sn−グリセロ−3−[ホスホリック−1−グリセロール)]−ナトリウム塩(DMPG)から構成される可溶化リポソーム製剤により抑止された。本明細書中で上記に示したように、この効果は、クリゾチニブ、ニロチニブ及びメタンスルホンアミド抗不整脈誘導剤E4031などの他のLQTS誘導薬を用いた場合に見られた。個々のリポソーム構成成分DMPC及びDMPG並びにそれらの分解産物は、ウサギ及びラットに静脈内投与されると、in vitroでhERGチャネルに対するニロチニブの効果を抑止した。本研究では、本発明者らは、モキシフロキサシンにより誘導されるLQTSに対する分解産物のうちの1つの経口製剤の効果を試験した。モキシフロキサシンは、気管支炎、肺炎、及び静脈洞、皮膚、又は胃の感染を含むある特定の細菌感染を治療するのに使用される抗生物質である。モキシフロキサシンは、錠剤及び静脈内注射フロキサシン静脈内注射として利用可能であり、病院向けのみである。
[0188]
方法。本発明者らは、経口LQTS誘導薬で治療されているがん患者における薬物送達を促進するために、経口用途として複合体混合物中に生成物を配合した。経口用途の前臨床評価は、機器を装着したスプラーグドーリー雄(250〜300g)ラットで行った。皮膚ECGリードを使用して、T波検出を最大にした。3匹のラットのグループの動物を、少量のイソフルランで一時的に麻酔して、前処置ECGを獲得して、明確なT波を確立して、既存の不整脈素因を除外した。前処置ECGプロフィールは正常であった。
[0189]
9:1のモキシフロキサシンの比での単回用量の経口複合体を連続して5分間ボルテックスして、エマルジョンを得て、経管栄養により即座に投与した。立証されたLQTS活性を有する広域抗生物質であるモキシフロキサシンをDMSO中に配合して、2時間後、開始用量2.8mg/kgで20分かけて、静脈内に(大腿カニューレ)注入した。注入の5分前から注入の20分の間、ECGを記録した。次に、動物に20分かけて、6.1mg/kgで、続いて20分かけて20mg/kgで投薬した。正の対照群では、モキシフロキサシンを単独で注入した。ラットの第2の群では、モキシフロキサシンの最初の用量の2時間前に、複合体を経口投与した。ラットの第3の群では、モキシフロキサシンの各用量レベルの5分前に、複合体を静脈内に投与した。
[0190]
6.1mg/kg及び20mg/kgでのモキシフロキサシンは、それぞれ、30及び48msのQtc延長を引き起こした。FDAでの認容性に関する閾値は30msであり、その時点で、薬物は、黒枠警告QT延長ラベルを獲得する。20mg/kgのモキシフロキサシンは、55msの生命に関わるQT延長を引き起こす。経口複合体による前処置により、QT延長を、20mg/kgのモキシフロキサシン用量に関しては11ms未満へと著しく下げた。
[0191]
これらの見解により、経口複合体をLQTS誘導薬と組み合わせることは、がん患者で使用されるモキシフロキサシン及び他のLQTS延長薬の臨床的脅威及び黒枠警告ラベルを除去し得ることがさらに実証される。
[0192]
図8は、55msの生死に関わるQT延長を引き起こす最高用量のモキシフロキサシン(20mg/kg)で(FDAでの認容性に関する閾値は30msであり、その時点で、薬物は、黒QTラベルを依然として獲得している)、本発明は、QTc延長を排除したことを示すグラフである。」([0186]〜[0192])

(1i)

「[図8]最高用量のモキシフロキサシン(20mg/kg)が55msの生死に関わるQT延長を引き起こすことを示すグラフである(FDAでの認容性に関する閾値は30msであり、その時点で、薬物は、黒QTラベルを得ている)。」([0031])

(1j)

「図10は、様々なリン脂質(PL)によるIKr阻害の除去を示す。DMPC、DMPG、DMPC/DMPG、LysoPC及びLysoPGを用いて作製されたリポソームは、hERGテール電流のいかなる阻害も引き起こさなかった。0.1μMでのニロチニブ単独は、hERG電流の54%の阻害を引き起こした。DMPC、DMPG、DMPC/DMPG、LysoPC又はLysoPGと同時配合したニロチニブ(PL/Nilo比:9:1)は、hERGテール電流をもはや阻害しなかった。」([0215])

(イ)上記(ア)摘記(1a)〜摘記(1c)を踏まえると、引用文献1には、上記(ア)摘記(1b)に列挙される活性剤が、実施例(上記(ア)摘記(1h)〜摘記(1j))で使用されたモキシフロキサシンやニロチニブと同様に、心臓パターンにおける不規則性又は変化に起因する心臓チャネル病又は状態、あるいはIKrチャネル阻害の延長若しくはQT延長をもたらし、それらの原因となる活性剤(上記(ア)摘記(1b)に列挙される活性剤)の具体的な種類によらず、LyzoPC等のリゾホスファチジル化合物は、それらの予防又は治療に有効であることが記載されているといえる。
そして、上記(ア)摘記(1f)には、経口投与用に適合されたリゾホスファチジル化合物を使用することが記載されており、上記(ア)摘記(1h)(1i)には、LysoPGを経口投与することにより、実際にモキシフロキサンによるQT延長を排除した例が示されている。

(ウ)上記(イ)から、引用文献1には、
「1又は2以上の活性剤がヒト又は動物対象へ投与される場合に前記1又は2以上の活性剤により引き起こされる心臓パターンにおける不規則性又は変化に起因する1又は2以上の心臓チャネル病又は状態を予防又は治療するための組成物であって、
前記活性剤により引き起こされる心臓パターンにおける不規則性又は変化に起因する1又は2以上の心臓チャネル病又は状態を低減又は予防するのに有効な量の、経口投与用に適合されたリゾホスファチジル化合物を含み、
前記心臓パターンにおける前記不規則性又は変化に起因する前記心臓チャネル病又は状態は、心臓内の遅延整流性K+電流に関与するイオンチャネルの阻害、多形性心室性頻拍、QTc、LQT2、LQTSの延長、又はトルサード・ド・ポアンツである、前記組成物、
又は、心臓、アレルギー若しくはがん関連疾患の治療に使用される活性剤の投与により誘導されるIKrチャネル阻害の延長若しくはQT延長の治療もしくは予防に使用される、前記組成物であり、
前記活性剤が、アルブテロール(サルブタモール)、アルフゾシン、アマンタジン、アミオダロン、アミスルプリド、アミトリプチリン、アモキサピン、アンフェタミン、アナグレリド、アポモルヒネ、アルフォルモテロール、アリピプラゾール、三酸化ヒ素、アステミゾール、アタザナビル、アトモキセチン、アジスロマイシン、ベダキリン、ベプリジル、ボルテゾミブ、ボスチニブ、抱水クロラール、クロロキン、クロルプロマジン、シプロフロキサシン、シサプリド、シタロプラム、クラリスロマイシン、クロミプラミン、クロザピン、コカイン、クリゾチニブ、ダブラフェニブ、ダサチニブ、デシプラミン、デクスメデトミジン、デクスメチルフェニデート、デキストロアンフェタミン(d−アンフェタミン)、ジヒドロアルテミシニン及びピペラキン、ジフェンヒドラミン、ジソピラミド、ドブタミン、ドフェチリド、ドラセトロン、ドンペリドン、ドーパミン、ドキセピン、ドロネダロン、ドロペリドール、エフェドリン、エピネフリン(アドレナリン)、エリブリン、エリスロマイシン、エスシタロプラム、ファモチジン、フェルバメート、フェンフルラミン、フィンゴリモド、フレカイニド、フルコナゾール、フルオキセチン、ホルモテロール、ホスカルネット、ホスフェニトイン、フロセミド(フルセミド)、ガランタミン、ガチフロキサシン、ゲミフロキサシン、ゲラニセトロン、グリパフロキサシン、ハロファントリン、ハロペリドール、ヒドロクロロチアジド、イブチリド、イロペリドン、イミピラミン(メリプラミン)、インダパミド、イソプロテレノール、イスラジピン、イトラコナゾール、イバブラジン、ケトコナゾール、ラパチニブ、レブアルブテロール(レブサルブタモール)、レボフロキサシン、レボメタジル、リドフラジン、リスデキサンフェタミン、リチウム、メソリダジン、メタプロテレノール、メサゾン、メタンフェタミン(Methamphetamine)(メタンフェタミン(methamfetamine))、メチルフェニデート、ミドドリン、ミフェプリストン、ミラベグロン、ミルタザピン、モエキシプリル/HCTZ、モキシフロキサシン、ネルフィナビル、ニカルジピン、ニロチニブ、ノルエピネフリン(ノルアドレナリン)、ノルフロキサシン、ノルトリプチリン、オフロキサシン、オランザピン、オンダンセトロン、オキシトシン、パリペリドン、パロキセチン、パシレオチド、パゾパニブ、ペンタミジン、パーフルトレン脂質ミクロスフェア、フェンテルミン、フェニレフリン、フェニルプロパノールアミン、ピモジド、ポサコナゾール、プロブコール、プロカインアミド、プロメタジン、プロトリプチリン、プソイドエフェドリン、クエチアピン、キニジン、硫酸キニーネ、ラノラジン、リルピビリン、リスペリドン、リトドリン、リトナビル、ロキシスロマイシン、サルメテノール、サキナビル、セルチンドール、セルトラリン、セボフルラン、シブトラミン、ソリフェナシン、ソラフェニブ、ソタロール、スパルフロキサシン、スルピリド、スニチニブ、タクロリムス、タモキシフェン、テラプレビル、テラバンシン、テリスロマイシン、テルブタリン、テルフェナジン、テロジレン、テトラベナジン、チオリダジン、チザニジン、トルテロジン、トレミフェン、トラゾドン、トリメトプリム−サルファ、トリミプラミン、バンデタニブ、バルデナフィル、ベムラフェニブ、ベンラファキシン、ボリコナゾール、ボリノスタット、又はジプラシドンから選択される、
前記組成物。」
の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

イ 引用文献4
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献4である「米国特許出願公開第2012/0308643号明細書」には、以下の事項が記載されている。原文は外国語のため日本語訳で記載する。なお、当審合議体により、必要な箇所に下線を付した。

(4a)「1. ヒト又は動物対象において心臓パターンにおける不規則性又は変化に起因する1又は2以上の心臓チャネル病又は状態を予防するための組成物であって、
β−ブロッカー、ナトリウムチャネルブロッカー、カリウム補給剤、カリウムチャネル開口薬、hERG電流増強剤、カルシウムチャネルブロッカー、輸送血管修正用薬剤、ギャップ結合連結増強剤、あるいはその組み合わせを含む1又は2以上の薬剤クラスの中から選択される1又は2以上の薬理学的活性剤、
空のリポソームであって、前記薬理学的活性剤の投与前、同時又は投与後に投与される1又は2以上のリポソーム、及び、
前記活性剤、リポソーム、あるいはその両方が溶解、分散もしくは懸濁される、任意の薬学的に許容される分散媒、溶媒又は賦形剤、
を含む、前記組成物。」(請求項1)

(4b)「7. 前記組成物は、非経口又は経口投与に適している、請求項1に記載の組成物。」(請求項7)

(4c)「1つの態様において、組成物は、希釈剤、保存剤、潤滑剤、乳化剤、着色剤、増粘剤、香味剤、充填剤、増量剤、又はそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される、任意の薬学的に許容される添加剤を含む。」([0014]の最終文)

ウ 引用文献6
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献6である「特開2010−275242号公報」には、以下の事項が記載されている。なお、当審合議体により、必要な箇所に下線を付した。

(6a)「【請求項1】
脂質で形成された小胞と該小胞内に存在する内水相とを備えたリポソームを含み、当該リポソームの内水相のpHが3以下であり、かつ当該リポソームが酸性で安定な薬物を担持している、経口投与用リポソーム製剤。」(【請求項1】)

(6b)「【0030】
上記経口投与用組成物の味や物性等は、患者に応じて調整することが好ましい。本発明の経口投与用リポソーム製剤は、それ自体で薬物の苦み等の不快な味をマスキングすることができるが、例えば乳児や小児など患者に対しては、さらに飲みやすくするために、当該経口投与用組成物に甘味料等を添加して提供することもできる。あるいは、嚥下障害のある患者に対しては、物性を調整して嚥下に適したとろみを当該経口投与用組成物に付与した上で、提供することができる。」(【0030】)

エ 引用文献7
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献7である「国際公開第2008/093848号」には、以下の事項が記載されている。なお、当審合議体により、必要な箇所に下線を付した。

(7a)「[1]大豆由来のホスファチジルコリンを含有する炎症マーカー低減用組成物。
・・・中略・・・
[7]さらに、ω3系不飽和脂肪酸を含有する請求項1から6のいずれかに記載する組成物。
・・・中略・・・
[9]ω3系不飽和脂肪酸がホスファチジルコリンのリポソーム又はリピッドマイクロスフェアに内包されたものである請求項7又は8に記載の組成物。
[10]経口および/又は口腔用である請求項1から9のいずれかに記載の組成物。」(請求の範囲)

(7b)「以上のようなTLR4を介したシグナル伝達を抑制し、そして、炎症マーカーを低減させるための組成物、あるいはTLR4関連疾患を予防ないし治療するための医薬組成物ないし医薬製剤は、経口用組成物および/又は口腔用組成物として利用でき、具体的には、医薬品、食品、機能性食品、口腔用外用剤とすることができる。医薬品、機能性食品として摂取する際には、通常、経口用の医薬品、機能性食品として配合できる担体を適宜添加することができる。このような担体として・・・中略・・・スクラロース、アセスルファムカリウム、アスパルテーム、グリシルリチン等の甘味料、ミント、メントール、ステビア等の香料、などが例示される。」([0045])

(3)本件補正発明と引用発明との対比
ア 本件補正発明の
「前記心臓パターンにおける前記不規則性若しくは変化に起因する前記心臓チャネル病若しくは状態が、心臓内の遅延整流性K+電流に関与するイオンチャネルの阻害、多形性心室性頻拍、QTc、LQT2、LQTSの延長、若しくはトルサード・ド・ポアンツである、又は、心臓、アレルギー若しくはがん関連疾患の治療に使用される前記活性剤若しくは薬物の投与により誘導されるIKrチャネル阻害の延長若しくはQT延長の治療若しくは予防に使用される、前記組成物であり、」
という記載は、本件の出願当初の特許請求の範囲の請求項10及び請求項17、及び、本願明細書【0018】の「別の態様では、心臓パターンにおける不規則性又は変化に起因する心臓チャネル病又は状態は、心臓内の遅延整流性K+電流(delayed-rectifier K+ current)に関与するイオンチャネルの阻害、多形性心室性頻拍、QTc、LQT2、LQTSの延長、又はトルサード・ド・ポアンツである。別の態様では、組成物は、心臓、アレルギー又はがん関連疾患の治療に使用される1又は2以上の薬物の投与により誘導されるIKrチャネル阻害の延長又はQT延長の治療又は予防に使用される。」との記載を参酌すると、
「前記心臓パターンにおける前記不規則性若しくは変化に起因する前記心臓チャネル病若しくは状態が、心臓内の遅延整流性K+電流に関与するイオンチャネルの阻害、多形性心室性頻拍、QTc、LQT2、LQTSの延長、若しくはトルサード・ド・ポアンツである、前記組成物、
又は、心臓、アレルギー若しくはがん関連疾患の治療に使用される前記活性剤若しくは薬物の投与により誘導されるIKrチャネル阻害の延長若しくはQT延長の治療若しくは予防に使用されるものである、前記組成物であり、」ということを意味するものと解される。

イ 引用発明の「活性剤」のうち、「アルブテロール(サルブタモール)、アルフゾシン、アマンタジン、アミオダロン、アミスルプリド、アミトリプチリン、アモキサピン、アンフェタミン、アナグレリド、アポモルヒネ、アルフォルモテロール、アリピプラゾール、三酸化ヒ素、アステミゾール、アタザナビル、アトモキセチン、アジスロマイシン、ベダキリン、ベプリジル、ボルテゾミブ、ボスチニブ、抱水クロラール、クロロキン、クロルプロマジン、シプロフロキサシン、シサプリド、シタロプラム、クラリスロマイシン、クロミプラミン、クロザピン、コカイン」、「ダブラフェニブ、ダサチニブ、デシプラミン、デクスメデトミジン、デクスメチルフェニデート、デキストロアンフェタミン(d−アンフェタミン)」、「ジフェンヒドラミン、ジソピラミド、ドブタミン、ドフェチリド、ドラセトロン、ドンペリドン、ドーパミン、ドキセピン、ドロネダロン、ドロペリドール、エフェドリン、エピネフリン(アドレナリン)、エリブリン、エリスロマイシン、エスシタロプラム、ファモチジン、フェルバメート、フェンフルラミン、フィンゴリモド、フレカイニド、フルコナゾール、フルオキセチン、ホルモテロール、ホスカルネット、ホスフェニトイン、フロセミド(フルセミド)、ガランタミン、ガチフロキサシン、ゲミフロキサシン、ゲラニセトロン」、「ハロファントリン、ハロペリドール、ヒドロクロロチアジド、イブチリド、イロペリドン」、「インダパミド、イソプロテレノール、イスラジピン、イトラコナゾール、イバブラジン、ケトコナゾール、ラパチニブ、レブアルブテロール(レブサルブタモール)、レボフロキサシン、レボメタジル」、「リスデキサンフェタミン、リチウム、メソリダジン、メタプロテレノール」、「メタンフェタミン(Methamphetamine)(メタンフェタミン(methamfetamine))、メチルフェニデート、ミドドリン、ミフェプリストン、ミラベグロン、ミルタザピン、モエキシプリル/HCTZ、モキシフロキサシン、ネルフィナビル、ニカルジピン」、「ノルエピネフリン(ノルアドレナリン)、ノルフロキサシン、ノルトリプチリン、オフロキサシン、オランザピン、オンダンセトロン、オキシトシン、パリペリドン、パロキセチン、パシレオチド、パゾパニブ、ペンタミジン、パーフルトレン脂質ミクロスフェア、フェンテルミン、フェニレフリン、フェニルプロパノールアミン、ピモジド、ポサコナゾール、プロブコール、プロカインアミド、プロメタジン、プロトリプチリン、プソイドエフェドリン、クエチアピン、キニジン、硫酸キニーネ、ラノラジン、リルピビリン、リスペリドン、リトドリン、リトナビル、ロキシスロマイシン」、「サキナビル、セルチンドール、セルトラリン、セボフルラン、シブトラミン、ソリフェナシン、ソラフェニブ、ソタロール、スパルフロキサシン、スルピリド、スニチニブ、タクロリムス、タモキシフェン、テラプレビル、テラバンシン、テリスロマイシン、テルブタリン、テルフェナジン」、「テトラベナジン、チオリダジン、チザニジン、トルテロジン、トレミフェン、トラゾドン、トリメトプリム−サルファ、トリミプラミン、バンデタニブ、バルデナフィル、ベムラフェニブ、ベンラファキシン、ボリコナゾール、ボリノスタット、又はジプラシドン」は、本件補正発明の「薬物」と同一である。
そうすると、引用発明の「活性剤」は、本件補正発明の「活性剤又は薬物」に相当する。

ウ 引用発明の「ジヒドロアルテミシニン及びピペラキン」、「イミピラミン(メリプラミン)」、「メサゾン」、「サルメテノール」は、それぞれ、本件補正発明の「ジヒドロアルテミシニン+ピペラキン」、「イミプラミン(メリプラミン)」、「メサドン」、「サルメテロール」に相当するものと認められる。

エ 本件補正発明の「前記ホスファチジルグリセロールが、ラウロイル−リゾホスファチジルコリン、ミリストイル−リゾホスファチジルコリン・・・又はDMPC/DMPGの少なくとも1つから選択され」という記載から、本件補正発明の「ホスファチジルグリセロール」は、ラウロイル基やミリストイル基が結合したリゾホスファチジルコリンを包含する意図で使用されていることは明らかである。
そして、ラウロイル基やミリストイル基が結合したリゾホスファチジルコリンは、リゾホスファチジル部分を含む化合物、すなわちリゾホスファチジル化合物であるから、引用発明の「リゾホスファチジル化合物」と、本件補正発明の「ホスファチジルグリセロール」は、いずれもリゾホスファチジル化合物である限りにおいて一致するので、引用発明の「リゾホスファチジル化合物」は、本件補正発明の「ホスファチジルグリセロール」に相当する。

オ 本件補正発明における「前記活性剤又は薬物により引き起こされる心臓パターンにおける不規則性又は変化に起因する1又は2以上の心臓チャネル病又は状態を低減又は予防するのに有効な、経口投与用に適合されたある量のホスファチジルグリセロール」という記載は、
(i)前記活性剤又は薬物により引き起こされる心臓パターンにおける不規則性又は変化に起因する1又は2以上の心臓チャネル病又は状態を低減又は予防するのに有効になるように調整された量であり、かつ、経口投与用に適合されたホスファチジルグリセロールという意味、あるいは、
(ii)前記活性剤又は薬物により引き起こされる心臓パターンにおける不規則性又は変化に起因する1又は2以上の心臓チャネル病又は状態を低減又は予防するのに有効であり、かつ、経口投与用に適合するように調整された量のホスファチジルグリセロールという意味と、いずれの意味にも解される記載であるが、上記(i)と(ii)とは、結局、「前記活性剤又は薬物により引き起こされる・・・を低減又は予防するのに有効」であるとともに「経口投与用」に適合するように調整された量のホスファチジルグリセロールである点で、同義と解される。
他方、引用発明の「前記活性剤により引き起こされる心臓パターンにおける不規則性又は変化に起因する1又は2以上の心臓チャネル病又は状態を低減又は予防するのに有効な量の、経口投与用に適合されたリゾホスファチジル化合物」という記載は、「前記活性剤又は薬物により引き起こされる・・・を低減又は予防するのに有効になるように調整された量であり、かつ、経口投与用に適合されたリゾホスファチジル化合物」、すなわち「前記活性剤又は薬物により引き起こされる・・・を低減又は予防するのに有効」であるとともに「経口投与用」に適合するように調整された量のリゾホスファチジル化合物という意味に解される。
そうすると、引用発明の「前記活性剤により引き起こされる・・・を低減又は予防するのに有効な量の、経口投与用に適合されたリゾホスファチジル化合物」は、本件補正発明の「前記活性剤又は薬物により引き起こされる心臓パターンにおける不規則性又は変化に起因する1又は2以上の心臓チャネル病又は状態を低減又は予防するのに有効な、経口投与用に適合されたある量のホスファチジルグリセロール」に相当するといえる。

カ 上記ア〜オから、本件補正発明と引用発明とは、以下の点で一致し、以下の点で相違する。

(一致点)
「1又は2以上の活性剤又は薬物がヒト又は動物対象へ投与される場合に前記1又は2以上の活性剤により引き起こされる心臓パターンにおける不規則性又は変化に起因する1又は2以上の心臓チャネル病又は状態を予防するための組成物であって、
前記活性剤又は薬物により引き起こされる心臓パターンにおける不規則性又は変化に起因する1又は2以上の心臓チャネル病又は状態を低減又は予防するのに有効な、経口投与用に適合されたある量のホスファチジルグリセロールを含み、
前記心臓パターンにおける前記不規則性又は変化に起因する前記心臓チャネル病又は状態は、心臓内の遅延整流性K+電流に関与するイオンチャネルの阻害、多形性心室性頻拍、QTc、LQT2、LQTSの延長、又はトルサード・ド・ポアンツである、前記組成物、
又は、心臓、アレルギーもしくはがん関連疾患の治療に使用される活性剤又は薬物の投与により誘導されるIKrチャネル阻害の延長もしくはQT延長の治療もしくは予防に使用される、前記組成物であり、
前記薬物が、アルブテロール(サルブタモール)、アルフゾシン、アマンタジン、アミオダロン、アミスルプリド、アミトリプチリン、アモキサピン、アンフェタミン、アナグレリド、アポモルヒネ、アルフォルモテロール、アリピプラゾール、三酸化ヒ素、アステミゾール、アタザナビル、アトモキセチン、アジスロマイシン、ベダキリン、ベプリジル、ボルテゾミブ、ボスチニブ、抱水クロラール、クロロキン、クロルプロマジン、シプロフロキサシン、シサプリド、シタロプラム、クラリスロマイシン、クロミプラミン、クロザピン、コカイン、ダブラフェニブ、ダサチニブ、デシプラミン、デクスメデトミジン、デクスメチルフェニデート、デキストロアンフェタミン(d−アンフェタミン)、ジヒドロアルテミシニン+ピペラキン、ジフェンヒドラミン、ジソピラミド、ドブタミン、ドフェチリド、ドラセトロン、ドンペリドン、ドーパミン、ドキセピン、ドロネダロン、ドロペリドール、エフェドリン、エピネフリン(アドレナリン)、エリブリン、エリスロマイシン、エスシタロプラム、ファモチジン、フェルバメート、フェンフルラミン、フィンゴリモド、フレカイニド、フルコナゾール、フルオキセチン、ホルモテロール、ホスカルネット、ホスフェニトイン、フロセミド(フルセミド)、ガランタミン、ガチフロキサシン、ゲミフロキサシン、ゲラニセトロン、ハロファントリン、ハロペリドール、ヒドロクロロチアジド、イブチリド、イロペリドン、イミプラミン(メリプラミン)、インダパミド、イソプロテレノール、イスラジピン、イトラコナゾール、イバブラジン、ケトコナゾール、ラパチニブ、レブアルブテロール(レブサルブタモール)、レボフロキサシン、レボメタジル、リスデキサンフェタミン、リチウム、メソリダジン、メタプロテレノール、メサドン、メタンフェタミン(Methamphetamine)(メタンフェタミン(methamfetamine))、メチルフェニデート、ミドドリン、ミフェプリストン、ミラベグロン、ミルタザピン、モエキシプリル/HCTZ、モキシフロキサシン、ネルフィナビル、ニカルジピン、ノルエピネフリン(ノルアドレナリン)、ノルフロキサシン、ノルトリプチリン、オフロキサシン、オランザピン、オンダンセトロン、オキシトシン、パリペリドン、パロキセチン、パシレオチド、パゾパニブ、ペンタミジン、パーフルトレン脂質ミクロスフェア、フェンテルミン、フェニレフリン、フェニルプロパノールアミン、ピモジド、ポサコナゾール、プロブコール、プロカインアミド、プロメタジン、プロトリプチリン、プソイドエフェドリン、クエチアピン、キニジン、硫酸キニーネ、ラノラジン、リルピビリン、リスペリドン、リトドリン、リトナビル、ロキシスロマイシン、サルメテロール、サキナビル、セルチンドール、セルトラリン、セボフルラン、シブトラミン、ソリフェナシン、ソラフェニブ、ソタロール、スパルフロキサシン、スルピリド、スニチニブ、タクロリムス、タモキシフェン、テラプレビル、テラバンシン、テリスロマイシン、テルブタリン、テルフェナジン、テトラベナジン、チオリダジン、チザニジン、トルテロジン、トレミフェン、トラゾドン、トリメトプリム−サルファ、トリミプラミン、バンデタニブ、バルデナフィル、ベムラフェニブ、ベンラファキシン、ボリコナゾール、ボリノスタット、又はジプラシドンから選択される、
前記組成物。」

(相違点1)本件補正発明では、ホスファチジルグリセロールが「ラウロイル−リゾホスファチジルコリン、ミリストイル−リゾホスファチジルコリン、パルミトイル−リゾホスファチジルコリン、ステアロイル−リゾホスファチジルコリン、アラキドイル−リゾホスファチジルコリン、オレオイル−リゾホスファチジルコリン、リノレオイル−リゾホスファチジルコリン、リノレノイル−リゾホスファチジルコリン若しくはエルコイル−リゾホスファチジルコリン、1、2−ジミリストイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(DMPC)、1、2−ジミリストイル−sn−グリセロ−3−ホスホリルグリセロール(DMPG)、又はDMPC/DMPGの少なくとも1つから選択」されるのに対して、引用発明にはそのような特定がなされていない点。

(相違点2)本件補正発明には、「1又は2以上の心臓チャネル病又は状態を予防するための組成物」が、「1又は2以上の官能剤、チキソトロピー剤、又は官能剤及びチキソトロピー剤の両方」を含むことが特定されているのに対して、引用発明にはそのような特定がなされていない点。

(4)相違点についての判断
ア 相違点1について
(ア)上記(2)ア(ア)摘記(1j)の「LyzoPC」とは、上記(2)ア(ア)摘記(1g)の「DMPC:1,2−ジミリストイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン」、「DMPG:1,2−ジミリストイル−sn−グリセロ−3−[ホスホリック−(1−グリセロール)](ナトリウム塩)」及び「14:0LysoPG・・・1−ミリストイル−2−ヒドロキシ−sn−グリセロ−3−[ホスホ−rac−(1−グリセロール)](ナトリウム塩)」という記載における略号と名称の対応(下線は当審合議体による。)を考慮すると、「LyzoPG」のホスホ−rac−(1−グリセロール)(PG)部分がホスファチジルコリン(PC)である化合物、すなわち上記(2)ア(ア)摘記(1d)の1−ミリストイル−2−ヒドロキシ−sn−グリセロ−3−ホスホコリンを意味するものと解される。
つまり、引用文献1には、引用発明の「リゾホスファチジル化合物」の一つである1−ミリストイル−2−ヒドロキシ−sn−グリセロ−3−ホスホコリンについて、活性剤(ニロチニブ)により引き起こされる心臓パターンにおける不規則性又は変化に起因する1又は2以上の心臓チャネル病又は状態を予防又は治療するために有効であることが実験的に確認されている(上記(2)ア(ア)摘記(1d)、摘記(1g)及び摘記(1j))。
そして、1−ミリストイル−2−ヒドロキシ−sn−グリセロ−3−ホスホコリンは、上記(2)ア(ア)摘記(1e)にある以下の構造であって、本件補正発明の「ミリストイル−リゾホスファチジルコリン」に相当する。

(イ)そうすると、引用発明の「リゾホスファチジル化合物」として、1−ミリストイル−2−ヒドロキシ−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(上記(ア))を用いることによって、引用発明を相違点1に係る本件補正発明の構成を備えたものとすることは、引用発明及び引用文献1に記載された事項から、当業者が容易に想到し得たといえる。

イ 相違点2について
(ア)本件補正発明の「官能剤」について、本願明細書には以下の記載がある。なお、当審合議体により、必要な箇所に下線を付した。

「官能剤として、1若しくは2以上の香味料、甘味料、冷却剤、色素、又はこれらの組合せ及び混合物が挙げられる。」(【0013】【0014】【0018】【0019】【0022】)

「本明細書中で使用する場合、「官能剤」は、食品又は飲料、特に本明細書で供給される経口組成物の感覚的性状を有する添加剤を指す。当業者はこうした特性を理解し、必要に応じて定量することができる。官能特性として、限定されるものではないが、味覚、臭気及び/又は外観が挙げられる。」(【0027】)

これらの記載から、本件補正発明の「官能剤」は、経口組成物の感覚的性状を有する、香味料、甘味料、冷却剤、色素等を意味するものである。

(イ)他方、引用文献4には、ヒト又は動物対象において心臓パターンにおける不規則性又は変化に起因する1又は2以上の心臓チャネル病又は状態を予防するための、経口投与に適している組成物において、着色剤、香味剤等を含有させることが記載されている(上記(2)イ摘記(4a)〜 (4c))。
また、引用文献6には、経口投与用組成物の味や物性等は患者に応じて調整することが好ましく、例えば乳児や小児などに対しては、さらに飲みやすくするために、甘味料等を添加することが記載されている(上記(2)ウ摘記(6a)及び (6b))。
さらに、引用文献7には、経口投与用の組成物に、スクラロース等の甘味料、ミント等の香料を含有させることが記載されている(上記(2)エ摘記(7a)及び (7b))。
これらの記載から、経口投与用の組成物に、着色剤、香味剤、甘味料、香料等の「官能剤」を必要に応じて含有させることは、本願優先日当時の周知技術であったといえる。

(ウ)そうすると、経口投与用に適合されたリゾホスファチジル化合物を含む、引用発明の組成物を調製する際に、上記(イ)の周知技術を適用すること、すなわち、引用発明の組成物に甘味料、香味剤、着色剤等の「官能剤」を配合することは、当業者が適宜なし得たことにすぎない。

(エ)さらに、医薬組成物にチキソトロピー性を付与するために、キサンタンガム等を「チキソトロピー剤」として配合することも、本願優先日当時の周知技術であったと認められるから(必要であれば、特表2015−510514号公報の【0157】〜【0161】、特公平6−43304号公報の3ページ左欄2行〜同ページ右欄1行、特表平8−503482号公報の5ページ21行〜6ページ12行、特表2005−500363号公報の【0022】〜【0026】参照。)、引用発明の組成物にチキソトロピー性を付与するために、キサンタンガム等の「チキソトロピー剤」を配合することも、引用発明及び上記周知技術に基づき、当業者が適宜なし得たことにすぎない。

ウ 以上のとおりであるから、引用発明を、相違点1及び相違点2に係る本件補正発明の構成を備えたものとすることは、引用発明、並びに引用文献1、引用文献4、引用文献6及び引用文献7に記載された事項から、当業者が容易に想到し得たといえる。

エ 本件補正発明による効果について検討する。
(ア)本願明細書の【0051】〜【0092】及び図1〜7には、「ニロチニブによるhERG阻害に対するDMPC、DMPG、DMPC/DMPG、LysoPG及びLysoPCの防御効果の評価」について、具体的な実験データとともに記載されている。
しかし、本件補正発明は、「薬物」の選択肢にニロチニブを含まないから、上記【0051】〜【0092】及び図1〜図7は、本件補正発明の効果を示すものではない。
なお、仮に上記図1〜7に示されるものが本件補正発明の効果と同等であるとしても、それは、引用文献1の図1〜7に示されるものと同じといえる。

(イ)また、本願明細書には以下の記載がある。なお、当審合議体により、必要な箇所に下線を付した。

「【0093】
活性剤−空リポソーム懸濁液。ある用量の活性剤、空リポソーム(例えば、DMPG、DMPC、又はDMPG及びDMPCの両方)並びに官能剤を有して配合された懸濁液は、懸濁液中に形成され得、さらにキサンタンガム(Rhodia社)を懸濁化剤として含み得、いくつかの他の成分、例えば、顔料、香料、パラベン(例えば、メチルパラベン及びプロピルパラベン)(防腐剤)、高果糖コーンシロップ(粘度上昇剤及び甘味料)、プロピレングリコール(溶媒及び分散剤)、並びにアスコルビン酸(懸濁液のpH調節のため)を、安定な懸濁液を達成するために使用した。懸濁液は、900mlの溶解媒体を有するUSP溶解装置IIを使用して、pH1.2で0.1NのHCl中の放出プロファイルについて研究され得る。手短に言えば、試料を所定時間間隔で取り出し、HPLC分析を使用して、活性剤含量について分析した。時間に対する活性剤の放出をプロットすることができる。異なる量のチキソトロピー剤(必要があれば塩)を3つの懸濁液に添加し、例えば、0.1、0.3、及び0.5重量パーセントの様々なチキソトロピー剤を有する懸濁液を得ることができる。懸濁液を混合し24時間保持して、平衡を達成することができる。」(【0093】)

(ウ)上記(イ)に記載された「懸濁液」は、本件補正発明の構成を満たすのか不明であり、上記(イ)の記載は、具体的な実験結果を示すものでもない。

(エ)そして、上記(2)ア(ア)摘記(1h)(1i)のとおり、引用文献1には、リポソーム分解産物の経口製剤が、モキシフロキサシン(本件補正発明の「薬物」の選択肢の一つである。)誘導性のQTc延長を緩和したことを示すin vivoの実験データが開示されていることに鑑みると、本件補正発明による効果が、引用発明、並びに引用文献1、引用文献4、引用文献6及び引用文献7に記載された事項から、当業者が予測できない程に格別顕著なものとはいえない。

オ 他方、審判請求人は、審判請求書において、以下(i)〜(iii)を主張している。

(i)「本願発明においては、特許請求の範囲に記載され、選択されるホスファチジルグリセロールはリポソームを形成することなく、また、活性剤をカプセルで包むことなく、有効に機能します。したがいまして、空リポソームを使用する引用文献1に記載の発明とリポソームを形成することなく有効に機能するホスファチジルグリセロールを使用する本願発明とは、審査官殿の認定された相違点に加えて、空リポソームが実質的に用いられているかどうかという点においても相違しています。そして、空リポソームを使用する引用文献1に記載の発明に基づいて、リポソームを形成することなく有効に機能するホスファチジルグリセロールを使用する本願発明がどのように想到し得るものであるのかについて、審査官殿は、自明であるかどうかを含めて、何らの判断も示されておりません。したがって、審査官殿による文献1に基づいた本願発明についての進歩性に係るご判断は、その前提となる本願発明と文献1に記載された発明との相違点の認定において正確な認定とは言えないことから、妥当とは言えません。」

(ii)「引用文献4の特許請求の範囲及び段落0014には、薬学的に受容可能な賦形剤が希釈剤、保存剤、滑剤、乳化剤、着色剤、増粘剤、香味剤、フィラー及び充填剤から選択されることが記載されていますが、「官能剤」や「チキソトロピー剤」を示唆する記載はありません。・・・引用文献6の特許請求の範囲、段落0029及び0030には、安定化剤、酸化防止剤、および/ または添加物が、さらに甘味料等を添加することが記載されていますが、「官能剤」や「チキソトロピー剤」を示唆する記載はありません。引用文献7の特許請求の範囲及び段落0045には、経口用の医薬品、機能性食品として配合できる担体として賦形剤、湿潤剤、溶解剤、増粘剤、界面活性剤、pH調整剤、抗酸化剤、酸味剤、強化剤、流動化剤、滑沢剤、食物繊維、甘味料及び香料が記載されていますが、「官能剤」や「チキソトロピー剤」を示唆する記載はありません。」

(iii)「本願発明において、特許請求の範囲に記載されたホスファチジルグリセロールが、経口的に投与されても、なおその有効性を維持していることは当業者の予測を超えるものです。すなわち、当業者であれば、このようなホスファチジルグリセロールは経口的に投与されることにより消化されてしまい、心疾患に対する悪い影響を軽減する効果を喪失するものと技術的には考えられていました。しかしながら、本願特許請求の範囲に記載された特定のホスファチジルグリセロール、活性剤並びに官能剤及び/又はチキソトロピー剤の組み合わせを含む組成物は、活性剤又は薬物の心疾患に対する悪い影響を軽減するという効果を維持する、格別なものです。」

そこで、上記(i)〜(iii)の主張について検討する。
[上記(i)について]
本件補正発明に「リポソームを形成することなく有効に機能するホスファチジルグリセロールを使用する」点は特定されていないし、本願明細書には、DMPGやDMPCを空リポソームの形態で用いることが一貫して記載されていることからみて(【0013】【0014】【0093】等)、本件補正発明は、空リポソームの形態で「ホスファチジルグリセロール」を用いる態様を包含するものと解するのが相当である。したがって、「空リポソームが実質的に用いられているかどうかという点」は、本件補正発明と引用発明との相違点とならない。
また、審判請求人のいう「本願発明においては、特許請求の範囲に記載され、選択されるホスファチジルグリセロールはリポソームを形成することなく、また、活性剤をカプセルで包むことなく、有効に機能します」という主張は、その根拠となる事項が本願明細書に一切記載されておらず、本願優先日当時の技術常識に照らして合理的に推認できるものでもないから、採用できない。

[上記(ii)について]
上記イ(ア)〜(ウ)で説示したとおり、引用文献4、引用文献6又は引用文献7に記載される甘味料、香味剤、着色剤等は、本件補正発明の「官能剤」に相当するものと認められる。
なるほど、引用文献4、6、7に「官能剤」という用語自体は記載されていない。しかし、本件補正発明の「官能剤」とは、「経口組成物の感覚的性状を有する添加剤を指す」(本願明細書の【0027】)ものであるところ、例えば引用文献6に「上記経口投与用組成物の味や物性等は、患者に応じて調整することが好ましい。」(上記(2)ウ摘記(6b))と記載されているように、本願優先日当時の周知技術であった甘味料、香味剤、着色剤等は、経口組成物の味や物性といった「感覚的性状」を調整するために、つまり、まさに本件補正発明の「官能剤」と同じ目的で添加されるものといえる。
そうすると、添加剤の種類としても、その配合目的としても、引用文献4、6、7に記載される甘味料、香味剤、着色剤等は、本件補正発明の「官能剤」と何ら異ならないから、引用文献4、6、7に「官能剤」を示唆する記載がないとする上記(ii)の主張も採用できない。
なお、引用文献6の【0029】や引用文献7の[0045]に記載されるキサンタンガム等は、本件補正発明の「チキソトロピー剤」に相当するものと認められるし、上記イ(エ)で説示したとおり、キサンタンガム等を「チキソトロピー剤」として医薬組成物に配合することも、本願優先日当時の周知技術であったものと認められるから(必要であれば、特表2015−510514号公報の【0157】〜【0161】、特公平6−43304号公報の3ページ左欄2行〜同ページ右欄1行、特表平8−503482号公報の5ページ21行〜6ページ12行、特表2005−500363号公報の【0022】〜【0026】参照。)、「チキソトロピー剤」に関する上記(ii)の主張も採用できない。

[上記(iii)について]
本願明細書の実施例に示された実験データは、全てin vitroの実験データであり、生体に経口投与した実験やその結果得られたデータは本願明細書に全く記載されていない。したがって、審判請求人の主張する「特許請求の範囲に記載されたホスファチジルグリセロールが、経口的に投与されても、なおその有効性を維持している」という効果は、本願明細書に記載されていないし、本願明細書の記載及び本願優先日当時の技術常識に照らして推認できるものでもない。
よって、上記(iii)の主張も採用できない。

以上のとおりであるから、審判請求人による上記(i)〜(iii)の主張は、いずれも採用できない。

カ 上記ア〜オに説示したとおり、本件補正発明は、引用発明、並びに引用文献1、引用文献4、引用文献6及び引用文献7に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4 本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものであるから、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
令和3年4月6日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の特許請求の範囲に係る発明は、令和2年9月8日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1〜9に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
ヒト又は動物対象において活性剤又は薬物により引き起こされる心臓パターンにおける不規則性又は変化に起因する1又は2以上の心臓チャネル病又は状態を予防するための組成物であって、
前記活性剤又は薬物により引き起こされる心臓パターンにおける不規則性又は変化に起因する1又は2以上の心臓チャネル病又は状態を低減又は予防するのに有効な、経口投与用に適合されたある量のホスファチジルグリセロール、並びに1又は2以上の官能剤、チキソトロピー剤、又は官能剤及びチキソトロピー剤の両方
を含み、前記心臓パターンにおける前記不規則性若しくは変化に起因する前記心臓チャネル病若しくは状態が、心臓内の遅延整流性K+電流に関与するイオンチャネルの阻害、多形性心室性頻拍、QTc、LQT2、LQTSの延長、若しくはトルサード・ド・ポアンツである、又は、心臓、アレルギー若しくはがん関連疾患の治療に使用される前記活性剤若しくは薬物の投与により誘導されるIKrチャネル阻害の延長若しくはQT延長の治療若しくは予防に使用される、前記組成物であり、前記ホスファチジルグリセロールが、リゾホスファチジルコリン、ラウロイル−リゾホスファチジルコリン、ミリストイル−リゾホスファチジルコリン、パルミトイル−リゾホスファチジルコリン、ステアロイル−リゾホスファチジルコリン、アラキドイル−リゾホスファチジルコリン、オレオイル−リゾホスファチジルコリン、リノレオイル−リゾホスファチジルコリン、リノレノイル−リゾホスファチジルコリン若しくはエルコイル−リゾホスファチジルコリン、1−ミリストイル−2−ヒドロキシ−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(DMPC)、12−ミステロイル−2−ヒドロキシ−sn−グリセロ−3−[ホスホ−rac−(グリセロール)](DMPG)、又はDMPC/DMPGの少なくとも1つから選択される、前記組成物。」

2 原査定の拒絶の理由
本願発明に対する原査定の拒絶の理由の概要は、令和2年11月30日付け拒絶査定に記載のように、本願発明は下記の引用文献1〜7に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるという理由1(進歩性)である。

引用文献1.米国特許出願公開第2015/0343063号明細書
引用文献2. Anticancer Research,2014年,Vol.34,p.4733-4740
引用文献3. 新・薬剤学総論,株式会社南山堂,1987年,改訂第3版,p.414-416(周知技術を示す文献)
引用文献4. 米国特許出願公開第2012/0308643号明細書(周知技術を示す文献)
引用文献5. 特開2012−140395号公報(周知技術を示す文献)
引用文献6. 特開2010−275242号公報(周知技術を示す文献)
引用文献7. 国際公開第2008/093848号(周知技術を示す文献)

3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1、4、6及び7、並びにそれぞれに記載された事項は、上記第2の3(2)に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明の「ホスファチジルグリセロール」と「薬物」は、それぞれ、本件補正発明の「ホスファチジルグリセロール」と「薬物」を包含するので、本願発明は、本件補正発明の発明特定事項を全て含む発明である。
そうすると、上記第2の3(3)及び(4)で説示したとおり、本願発明は、引用発明、並びに引用文献1、引用文献4、引用文献6及び引用文献7に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。

審判長 前田 佳与子
出訴期間として在外者に対し90日を附加する。
 
審理終結日 2022-05-31 
結審通知日 2022-06-06 
審決日 2022-06-28 
出願番号 P2019-518559
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
P 1 8・ 575- Z (A61K)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 前田 佳与子
特許庁審判官 藤原 浩子
鳥居 敬司
発明の名称 チャネル病を引き起こす薬物に対するDMPC、DMPG、DMPC/DMPG、LYSOPG及びLYSOPCの防御効果  
代理人 園元 修一  
代理人 東海 裕作  
代理人 廣田 雅紀  
代理人 山内 正子  
代理人 堀内 真  
代理人 篠田 真希恵  
代理人 廣田 鉄平  
代理人 渡辺 仁  

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