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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06T
審判 査定不服 (159条1項、163条1項、174条1項で準用) 特許、登録しない。 G06T
管理番号 1391399
総通号数 12 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-05-27 
確定日 2022-11-10 
事件の表示 特願2017−70293「顔認証装置および顔認証方法」拒絶査定不服審判事件〔平成30年11月8日出願公開、特開2018−173731〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成29年3月31日の出願であって、令和2年12月1日付け拒絶理由通知に対して令和3年2月3日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが、同年2月10日付けで拒絶査定がなされた。
これに対し、同年5月27日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに手続補正がなされた。


第2 令和3年5月27日になされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和3年5月27日になされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正のうち請求項1に係る補正について
本件補正は、特許請求の範囲について、本件補正前の請求項1(令和3年2月3日になされた手続補正により補正された請求項1)が、下記(1)に示すとおりのものであったところ、本件補正後の請求項1である下記(2)に示すとおりのものへと補正することを含むものである。なお、下線は、補正箇所を示す。また、当審にて、本件補正前の請求項1及び本件補正後の請求項1を(A)ないし(G)に分説した。以下それぞれ「構成A」ないし「構成G」という。

(1)本件補正前の請求項1
(A)少なくとも1つの3次元顔情報を保存している3次元顔情報記録部と、
(B)認証対象者の顔を含む光学像を形成する撮像光学系と、
(C)前記認証対象者の前記光学像を撮像し、前記認証対象者の前記顔の2次元画像データおよび像面位相差情報を取得する撮像素子と、
(D)前記認証対象者の前記顔の前記2次元画像データおよび前記像面位相差情報から、前記認証対象者の3次元顔情報を生成する3次元顔情報生成部と、
(E)前記認証対象者の前記3次元顔情報に基づいて、前記3次元顔情報記録部内に保存されている前記3次元顔情報と前記認証対象者の前記顔との照合を実行することにより、前記認証対象者の3次元顔認証を実行する顔認証処理部と、
(F)を備えることを特徴とする顔認証装置。

(2)本件補正後の請求項1
(A)少なくとも1つの3次元顔情報を保存している3次元顔情報記録部と、
(B)認証対象者の顔を含む光学像を形成する撮像光学系と、
(G)前記認証対象者の前記光学像を撮像し、前記認証対象者の前記顔の2次元画像データおよび像面位相差情報を取得する1つの撮像素子と、
(D)前記認証対象者の前記顔の前記2次元画像データおよび前記像面位相差情報から、前記認証対象者の3次元顔情報を生成する3次元顔情報生成部と、
(E)前記認証対象者の前記3次元顔情報に基づいて、前記3次元顔情報記録部内に保存されている前記3次元顔情報と前記認証対象者の前記顔との照合を実行することにより、前記認証対象者の3次元顔認証を実行する顔認証処理部と、
(F)を備えることを特徴とする顔認証装置。

2 本件補正のうち請求項1に係る補正事項
本件補正のうち、本件補正後の請求項1に関する補正は、本件補正前の請求項1に対して、以下の「補正事項1」に係る補正を行うものである。なお、下線は、補正箇所を示す。

・補正事項1
本件補正前の請求項1における構成Cの「前記認証対象者の前記顔の2次元画像データおよび像面位相差情報を取得する撮像素子」を、本件補正後の請求項1の構成Gの「前記認証対象者の前記顔の2次元画像データおよび像面位相差情報を取得する1つの撮像素子」に改める補正。

3 補正事項1の適否
本件補正後の請求項1の構成Gについては、本願の当初明細書の段落【0033】に「このような撮像素子5を用いることにより、認証対象者の顔の2次元画像データと、認証対象者の顔の奥行情報に対応する像面位相差情報とを1つの撮像素子で取得することができる。」と記載されていることから、「前記認証対象者の前記顔の2次元画像データおよび像面位相差情報を取得する」ことができる「撮像素子」が、「1つの撮像素子」であることは、本願の当初明細書に記載されていると言える。
よって、補正事項1は、本願の当初明細書に記載された事項の範囲内においてするものであって、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たすものである。

また、補正事項1は、特別な技術的特徴の変更(シフト補正)をしようとするものではなく、同条第4項の規定に適合している。

そして、補正事項1は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「撮像素子」に対して限定を付加するものであって、本件補正前の請求項1に記載された発明と、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本件補正発明1」という。)とは、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、同条第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
この場合、本件補正発明1は、同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定(以下「独立特許要件」という。)に適合するものでなければならない。
以下、下記(1)及び(2)において、本件補正発明1の独立特許要件について検討する。

(1)本件補正発明1の進歩性について
ア 各引用文献の記載事項
(ア)引用文献1の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1である特開2014−178969号公報には、次の記載がある。なお、下線は、当審で付した。

「【0022】
[第1実施形態]
〔装置構成〕
図2は、第1実施形態における顔認証装置10のハードウェア構成例を概念的に示す図である。第1実施形態における顔認証装置10は、いわゆるコンピュータであり、例えば、バス5で相互に接続される、CPU(Central Processing Unit)2、メモリ3、入出力インタフェース(I/F)4等を有する。メモリ3は、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、ハードディスク、可搬型記憶媒体等である。
【0023】
入出力I/F4は、図2に示されるように、3次元センサ7等と接続される。なお、第1実施形態は、入出力I/F4に接続される機器を制限せず、キーボード、マウス等のようなユーザ操作の入力を受け付ける入力装置や、ディスプレイ等の表示装置や、プリンタや、ネットワークを介して他のコンピュータと通信を行う通信装置等と接続されてもよい。顔認証装置10のハードウェア構成は制限されない。
【0024】
3次元センサ7は、被判定者の少なくとも顔の3次元情報を検出する。検出される3次元情報は、可視光により得られる対象者の2次元像(画像)の情報と、3次元センサ7からの距離の情報(深度情報)とを含む。3次元センサ7は、例えば、Kinect(登録商標)のように、可視光カメラ及び距離画像センサにより実現される。距離画像センサは、深度センサとも呼ばれ、レーザから近赤外光のパターンを対象者に照射し、そのパターンを近赤外光を検知するカメラで撮像して得られる情報から距離画像センサから対象者までの距離(深度)が算出される。
【0025】
なお、3次元センサ7の実現手法は制限されず、当該3次元センサ7は、複数の可視光カメラを用いる3次元スキャナ方式で実現されてもよい。また、図2では、1つの3次元センサ7のみが図示されるが、3次元センサ7として、対象者の2次元画像を撮像する可視光カメラ及び対象者までの距離を検出する深度センサといった複数の機器が設けられてもよい。
【0026】
〔処理構成〕
図3は、第1実施形態における顔認証装置10の処理構成例を概念的に示す図である。第1実施形態における顔認証装置10は、情報取得部11、2次元特徴抽出部(以降、2D抽出部と表記する)12、3次元特徴抽出部(以降、3D抽出部と表記する)13、条件取得部14、判定部15、特徴情報格納部16等を有する。これら各処理部は、例えば、CPU2によりメモリ3に格納されるプログラムが実行されることにより実現される。また、当該プログラムは、例えば、CD(Compact Disc)、メモリカード等のような可搬型記録媒体やネットワーク上の他のコンピュータから入出力I/F4を介してインストールされ、メモリ3に格納されてもよい。
【0027】
情報取得部11は、3次元センサ7から、被判定者の顔の3次元情報を取得する。この3次元情報は、被判定者の顔が少なくとも一部に写る2次元画像、及び、その2次元画像の被写体に関する深度情報を含む。以降、3次元を3Dと表記し、2次元を2Dと表記する場合もある。
【0028】
2D抽出部12は、情報取得部11により取得された2D画像から被判定者の対象部位に関する2D特徴情報を抽出する。例えば、2D抽出部12は、目、鼻、口等のような被判定者の顔の少なくとも1つの部位に関する2D特徴情報を抽出する。判定精度を上げるためには、複数の部位の2D特徴情報が抽出されることが望ましい。2D抽出部12は、目の2D特徴情報として、目尻、目頭及び目の中心の位置(2D位置)を両目について抽出する。また、2D抽出部12は、鼻の2D特徴情報として、鼻幅を決める鼻翼の両縁及び鼻尖を抽出する。第1実施形態は、2D抽出部12が2D特徴情報を抽出する顔の部位や、2D特徴情報の具体的内容を制限しない。また、2D画像からの2D特徴情報の抽出手法には周知の手法が用いられればよい。」

「【0030】
3D抽出部13は、2D抽出部12により抽出された2D特徴情報、及び、情報取得部11により取得された深度情報に基づいて、被判定者の特徴分類情報を抽出する。具体的には、3D抽出部13は、2D特徴情報により示される2D位置と深度情報の座標とを重ねあわせることにより、2D特徴情報で示される被判定者の顔の対象部位の3D形状情報を抽出する。3D抽出部13は、抽出された3D形状情報に基づいて、当該対象部位の特徴分類情報を抽出する。例えば、3D抽出部13は、抽出された目の3D情報に基づいて、まぶたと眼球との境を検出し、検出された境界に基づいて、目の形を認識し、その目の形に関する特徴分類情報を抽出する。また、3D抽出部13は、抽出された鼻の3D情報に基づいて、鼻尖(鼻先)の向きや形、鼻背の形や高さ、鼻翼の形などを認識し、そのような鼻の形に特徴分類情報を抽出する。3D抽出部13は、被判定者の口に関しては、唇の厚さなどを認識することができる。」

「【0033】
特徴情報格納部16は、被判定者の正当性を証明し得る、正当な2D特徴情報及び正当な特徴分類情報を格納する。以降、このような正当な特徴情報のペア(2D特徴情報及び特徴分類情報)が特徴情報格納部16に格納される人を登録者と表記する。即ち、特徴情報格納部16は、このような正当な特徴情報のペアを、認証すべき登録者毎にそれぞれ格納することもできる。このような正当な特徴情報のペアは、登録者自身の3D情報から2D抽出部12及び3D抽出部13により抽出された情報であり、任意のタイミングで特徴情報格納部16に格納される。」

「【0035】
判定部15は、被判定者の2D特徴情報と、条件取得部14により取得された正当な2D特徴情報とを比較し、かつ、被判定者の特徴分類情報と、条件取得部14により取得された正当な特徴分類情報とを比較することで、被判定者が登録者であるか否か、即ち、被判定者の正当性を判定する。具体的には、判定部15は、被判定者の2D特徴情報と登録者の2D特徴情報とが一致又は近似し、かつ、被判定者の特徴分類情報と登録者の特徴分類情報とが一致又は近似する場合に、被判定者を正当と判定する。」

「【0044】
顔認証装置10は、被判定者の正当性を証明し得る、正当な2D特徴情報及び正当な特徴分類情報(正当な特徴情報のペア)を特徴情報格納部16から取得する(S44)。顔認証装置10は、特徴情報格納部16に格納される全ての正当な特徴情報のペアを取得してもよいし、被判定者のID等により特定可能であれば、1つの正当な特徴情報のペアを取得してもよい。
【0045】
顔認証装置10は、(S42)で抽出された被判定者の2D特徴情報と(S44)で取得された正当な2D特徴情報とを比較し、かつ、(S43)で抽出された被判定者の特徴分類情報と(S44)で取得された正当な特徴分類情報とを比較する(S45)。ここで、顔認証装置10は、2D特徴情報間の比較結果を示す2D適合値を決定し、特徴分類情報間の比較結果を示す3D適合値を決定するようにしてもよい。」

(イ)引用文献2の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2である特開2016−173322号公報には、次の記載がある。なお、下線は、当審で付した。

「【0002】
デジタルスチルカメラやデジタルビデオカメラ等の撮像装置において、観賞用画像信号と同時に複数の画素位置にて撮像装置から被写体までの距離(以降、被写体距離と呼ぶ。さらに、複数の画素位置にて取得した被写体距離から構成される画像信号を距離画像信号と呼ぶ)を取得できる測距機能を備えた撮像装置が提案されている。
【0003】
例えば、撮像素子の一部あるいは全部の画素に測距機能を有する画素を配置し、位相差方式で被写体距離を検出するようにした固体撮像素子が特許文献1に提案されている。特許文献1に記載の測距方式は、撮像面にて位相差方式の測距を行うため、撮像面位相差測距方式と呼ばれる。特許文献1に記載の固体撮像素子を用いると、撮像装置が備える結像光学系の異なる瞳領域を通過した光束により生成される像に基づく少なくとも2つの画像信号を取得することができる。2つの画像信号間の相対的な位置ズレ量を、ステレオ画像を用いた視差量検出方法と類似の手法で検出し、所定の変換係数を介してデフォーカス量に変換することで被写体距離を取得することができる。さらに、撮像面位相差測距方式では、2つの画像信号を合成することで、観賞用画像信号を生成することができる。その他の測距方式として、DFD(Depth from Defocus)方式と呼ばれる手法が特許文献2にて提案されている。DFD方式は、撮影条件(絞り値、焦点距離など)を変えて2つの画像信号を時間的に連続して取得し、2つの画像間のボケ量の差異から被写体距離を取得する測距方式である。DFD方式では、2つの画像信号のうち、一方の画像信号を観賞用画像信号として利用することができる。」

イ 各引用文献に記載された発明及び技術
(ア)引用文献1に記載された発明について
上記ア(ア)によれば、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。なお、記載箇所を「( )」で示した。また、当審にて、引用発明を(a)ないし(n)に分説した。以下それぞれ「構成a」ないし「構成n」という。
なお、段落【0022】には、「入出力インタフェース(I/F)4」と記載されているので、引用文献1の「入出力インタフェース(I/F)4」及び「入出力I/F4」は、引用発明において、ともに、「入出力インタフェース4」と表記する。
また、段落【0026】には、「2次元特徴抽出部(以降、2D抽出部と表記する)12、3次元特徴抽出部(以降、3D抽出部と表記する)13」と記載されており、段落【0027】には、「以降、3次元を3Dと表記し、2次元を2Dと表記する場合もある」と記載されているので、引用文献1の「2D抽出部」及び「3D抽出部」は、引用発明において、それぞれ「2次元特徴抽出部」及び「3次元特徴抽出部」と表記し、引用文献1の「2D」及び「3D」は、引用発明において、それぞれ「2次元」及び「3次元」と表記する。
また、段落【0024】に記載された「2次元像(画像)」と、段落【0027】に記載された「2次元画像」とは同じものと認められるため、引用文献1における「2次元像(画像)」については、引用発明において「2次元画像」と表記する。

(引用発明)
「(a)3次元センサ7及び顔認証装置10からなる構成(【0022】、【0023】)であって、
(b)顔認証装置10は、装置構成として、入出力インタフェース4を有し(【0022】)、
(c)入出力インタフェース4は、3次元センサ7と接続され(【0023】)、
(d)3次元センサ7は、被判定者の顔の3次元情報を検出し、検出される3次元情報は、可視光により得られる対象者の2次元画像の情報と、3次元センサ7からの距離の情報(深度情報)とを含み(【0024】)、
(e)3次元センサ7は、Kinect(登録商標)のような可視光カメラ及び距離画像センサにより実現され(【0024】)、
(f)顔認証装置10は、処理構成として、情報取得部11、2次元特徴抽出部12、3次元特徴抽出部13、判定部15、特徴情報格納部16を有し(【0026】)、
(g)情報取得部11は、3次元センサ7から、被判定者の顔の3次元情報を取得し、この3次元情報は、被判定者の顔が写る2次元画像、及び、その2次元画像の被写体に関する深度情報を含み(【0027】)、
(h)2次元特徴抽出部12は、2次元画像から被判定者の対象部位に関する2次元特徴情報を抽出し(【0028】)、
(i)3次元特徴抽出部13は、2次元特徴抽出部12により抽出された2次元特徴情報、及び、情報取得部11により取得された深度情報に基づいて、被判定者の特徴分類情報を抽出し(【0030】)、
(j)3次元特徴抽出部13は、2次元特徴情報により示される2次元位置と深度情報の座標とを重ねあわせることにより、2次元特徴情報で示される被判定者の顔の対象部位の3次元形状情報を抽出し、抽出された3次元形状情報に基づいて、当該対象部位の特徴分類情報を抽出し(【0030】)、
(k)正当な2次元特徴情報及び正当な特徴分類情報は、登録者自身の3次元情報から2次元特徴抽出部12及び3次元特徴抽出部13により抽出された情報であり、特徴情報格納部16に格納され(【0033】)、
(l)判定部15は、被判定者の2次元特徴情報と登録者の2次元特徴情報とが一致又は近似し、かつ、被判定者の特徴分類情報と登録者の特徴分類情報とが一致又は近似する場合に、被判定者を正当と判定し(【0035】)、
(m)顔認証装置10は、被判定者の正当性を証明し得る、正当な2次元特徴情報及び正当な特徴分類情報を特徴情報格納部16から取得し(【0044】)、
(n)顔認証装置10は、抽出された被判定者の2次元特徴情報と、取得された正当な2次元特徴情報とを比較し、かつ、抽出された被判定者の特徴分類情報と、取得された正当な特徴分類情報とを比較する(【0045】)、
(a)3次元センサ7及び顔認証装置10からなる構成(【0022】、【0023】)。」

(イ)引用文献2に記載された技術について
上記ア(イ)によれば、引用文献2には、1つの固体撮像素子から、「被写体距離を取得することができ」、さらに、「観賞用画像信号を生成することができる」ことが記載されている。
したがって、引用文献2には、測距機能を備えた撮像装置に関して、以下の技術(以下「文献2技術」という。)が記載されている。

(文献2技術)
「1つの固体撮像素子を用いて、観賞用画像と同時に撮像面位相差測距方式による被写体距離を取得する技術」

ウ 対比
本件補正発明1と、引用発明とを対比する。

(ア)構成Bについて
引用発明の「3次元センサ7」は、入出力インタフェース4を介して顔認証装置10と接続される(構成b、構成c)ものであって、被判定者の顔の3次元情報を検出し、検出される「3次元情報」は、可視光により得られる対象者の2次元画像の情報を含む(構成d)ものである。
そして、引用発明は、被判定者の「顔」が写る2次元画像(構成g)を扱うものであり、引用発明の「被判定者」及び「対象者」は、本願発明の「認証対象者」に相当するから、引用発明の3次元センサ7から検出した、「可視光により得られる対象者の2次元画像」(構成d)は、本件補正発明1の「認証対象者の顔を含む光学像」に相当する。
よって、引用発明の可視光カメラによって実現される「3次元センサ7」は、被判定者の顔について、可視光により得られる情報を形成する「撮像光学系」と言えるものである。
したがって、引用発明の顔認証装置10に接続された「3次元センサ7」は、本件補正発明1の構成Bである「認証対象者の顔を含む光学像を形成する撮像光学系」に相当する機能を含むものである。

(イ)構成Gについて
上記(ア)のとおりであるから、引用発明の「3次元センサ7」は、本件補正発明1の構成Gにおける「前記認証対象者」の「前記光学像を撮像」するものであり、引用発明の「可視光により得られる対象者の2次元画像」は、本件補正発明1の「前記認証対象者の前記光学像を撮像し」て取得する「認証対象者の前記顔の2次元画像データ」に相当する。
次に、本件補正発明1の「認証対象者の前記顔の2次元画像データ」と共に取得する「像面位相差情報」に関して、明細書の発明の詳細な説明を参照すると、
「【0032】
したがって、認証対象者の顔の像面位相差情報は、認証対象者の顔の各部位の撮像光学系3のベストフォーカス面からの奥行方向の離間距離、すなわち、認証対象者の顔の奥行情報を表す。なお、認証対象者の顔の像面位相差情報は、認証対象者の顔の2次元画像データの全ての画素に対応していてもよいし、認証対象者の3次元顔認証を実行するために必要なだけの画素に対応していてもよい。例えば、認証対象者の顔の像面位相差情報は、認証対象者の顔の2次元画像データの全ての画素のうちの数%(例えば、3%)にだけ対応していてもよい。」(下線は当審で付与)
と記載されており、本件補正発明1の「像面位相差情報」は、認証対象者の顔の奥行情報に対応するものである。
ここで、引用発明の「3次元センサ7」は、被判定者の顔の3次元情報を検出し、検出される「3次元情報」は、可視光により得られる対象者の2次元画像の情報と、3次元センサ7からの深度情報とを含む(構成d)ものである。
そして、引用発明において「被判定者の顔の3次元情報」として検出される「深度情報」は、顔の奥行情報といえるものであり、引用発明の「深度情報」と本件補正発明1の「前記認証対象者の前記顔」の「像面位相差情報」は、顔の「奥行情報」である点で共通する。
よって、引用発明の「3次元センサ7」と、本件補正発明1の「撮像素子」とは、「前記認証対象者の前記光学像を撮像し、前記認証対象者の前記顔の2次元画像データおよび奥行データを取得する」「撮像」手段である点で共通する。
しかし、撮像手段が、本件補正発明1では「1つの撮像素子」であり、顔の奥行情報として「像面位相差情報」を取得するのに対し、引用発明では、Kinectのような「可視光カメラ」及び「距離画像センサ」であり、顔の奥行情報として「深度情報」を取得する点で相違する。

(ウ)構成Dについて
上記(イ)のとおりであるから、引用発明の「可視光により得られる対象者の2次元画像」は、本件補正発明1の構成Dにおける「認証対象者の前記顔の2次元画像データ」に相当する。
また、引用発明の構成iにおける「3次元特徴抽出部13」は、「顔認証装置10」に含まれるもの(構成f)であり、被判定者の顔が写る2次元画像から抽出される2次元特徴情報(構成g、構成h)と、深度情報すなわち奥行情報とから、「特徴分類情報」を抽出(構成i、構成j)するものである。また、当該3次元特徴抽出部13が抽出する「特徴分類情報」は、3次元の顔に関する3次元顔情報と言えるものである。
よって、引用発明の「3次元特徴抽出部13」と、本件補正発明1の構成Dである「3次元顔情報生成部」とは、「前記認証対象者の前記顔の前記2次元画像データ」と、奥行情報とから、「前記認証対象者の3次元顔情報を生成する3次元顔情報生成部」構成である点で共通する。
しかし、3次元顔情報を生成する際に、2次元画像データと共に用いる奥行情報が、本件補正発明1では「前記像面位相差情報」であるのに対し、引用発明では「深度情報」である点で相違する。

(エ)構成Aについて
引用発明の「特徴情報格納部16」は、「顔認証装置10」に含まれるもの(構成f)であり、登録者自身の3次元情報から3次元特徴抽出部13により抽出された情報である、正当な特徴分類情報が格納される(構成k)ものである。また、特徴分類情報は、上記(ウ)のとおり、3次元の「顔」に関する情報である。
よって、引用発明において特徴分類情報を格納する「特徴情報格納部16」は、本件補正発明1の構成Aにおける「3次元顔情報を保存している3次元顔情報記録部」に相当する。
また、特徴情報格納部16に格納される登録者の特徴分類情報は、「少なくとも1つ」はあるものと認められる。
よって、引用発明の「特徴情報格納部16」は、本件補正発明1の構成Aである「少なくとも1つの3次元顔情報を保存している3次元顔情報記録部」に相当する。

(オ)構成Eについて
上記(ウ)のとおり、引用発明の「被判定者の特徴分類情報」は、本件補正発明1の構成Eにおける「認証対象者の前記3次元顔情報」に相当する。また、引用発明の特徴情報格納部16に格納され、被判定者の特徴分類情報と比較される「正当な特徴分類情報」(構成k、構成m、構成n)は、本件補正発明1の構成Eにおける「前記3次元顔情報記録部内に保存されている3次元顔情報」に相当する。そして、引用発明の「判定部15」は、「顔認証装置10」に含まれるもの(構成f)である。ここで、引用発明が「判定部15」において、「被判定者の正当性を証明」するために被判定者の特徴分類情報と取得された正当な特徴分類情報とを「比較する」処理(構成k、構成m、構成n)は、「前記認証対象者の前記顔との照合を実行することにより、前記認証対象者の3次元顔認証を実行する」処理と言えるものである。
よって、引用発明の「判定部15」は、本件補正発明1の構成Eである「前記認証対象者の前記3次元顔情報に基づいて、前記3次元顔情報記録部内に保存されている前記3次元顔情報と前記認証対象者の前記顔との照合を実行することにより、前記認証対象者の3次元顔認証を実行する顔認証処理部」に相当する。

(カ)構成Fについて
上記(ア)ないし(オ)から、引用発明の「3次元センサ7」及び「顔認証装置10」からなる構成(構成a)は、本件補正発明1の構成Fにおける「顔認証装置」に相当する。

(キ)まとめ
上記(ア)ないし(カ)から、本件補正発明1と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。

[一致点]
(A)少なくとも1つの3次元顔情報を保存している3次元顔情報記録部と、
(B)認証対象者の顔を含む光学像を形成する撮像光学系と、
(G’)前記認証対象者の前記光学像を撮像し、前記認証対象者の前記顔の2次元画像データおよび奥行情報を取得する撮像手段と、
(D’)前記認証対象者の前記顔の前記2次元画像データおよび奥行情報から、前記認証対象者の3次元顔情報を生成する3次元顔情報生成部と、
(E)前記認証対象者の前記3次元顔情報に基づいて、前記3次元顔情報記録部内に保存されている前記3次元顔情報と前記認証対象者の前記顔との照合を実行することにより、前記認証対象者の3次元顔認証を実行する顔認証処理部と、
(F)を備えることを特徴とする顔認証装置。

[相違点]
・相違点1
撮像手段が、本件補正発明1では「1つの撮像素子」であり、顔の奥行情報として「像面位相差情報」を取得するのに対し、引用発明では、Kinectのような「可視光カメラ」及び「距離画像センサ」であり、顔の奥行情報として「深度情報」を取得する点。

・相違点2
3次元顔情報を生成する際に、2次元画像データと共に用いる顔の奥行情報が、本件補正発明1では「像面位相差情報」であるのに対し、引用発明では「深度情報」である点。

エ 判断
相違点1及び相違点2について検討する。

引用発明の「3次元センサ7」は、被判定者の顔の3次元情報を検出するために、「可視光カメラ」から得られる対象者の2次元画像の情報と、「距離画像センサ」からの距離の情報(深度情報)とを取得する構成を備えるものである。
一方で、可視光カメラにおいて、被写体までの距離の情報を得る方法として、撮像面位相差測距方式により、被写体までの距離の情報を得る技術は、周知の技術であり、引用文献2には、上記イ(イ)のとおり、「1つの固体撮像素子を用いて、観賞用画像と同時に撮像面位相差測距方式による被写体距離を取得する技術」(文献2技術)が記載されている。ここで、文献2技術の「1つの固体撮像素子」から、被写体距離を得るために撮像面位相差測距方式により得られる情報は、本件補正発明1における構成Dの「像面位相差情報」に相当する。
そして、引用発明と文献2技術はともに測距機能を備えた撮像装置を用いて、2次元画像データ及び被写体までの距離を取得する点で共通しており、引用発明のKinectのような「可視光カメラ」及び「距離画像センサ」に代えて、文献2技術を適用して上記相違点1、2に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たものである。

オ 効果について
本件補正発明1は、上記アないしエのとおり、当業者が容易に想到できたものであるところ、本件補正発明1が奏する効果は、その容易想到である構成から当業者が容易に予測しうる範囲内のものであり、同範囲を超える格別顕著なものがあるとは認められない。

カ まとめ
上記アないしオのとおりであるから、引用発明に文献2技術を適用することにより、本件補正発明1に係る構成とすることは、当業者が容易に想到できたものである。

(2)むすび
本件補正発明1は、上記(1)のとおり、引用発明及び文献2技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本件補正に係る本件補正発明1は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合しないものである。

4 むすび
上記1ないし3のとおりであるから、上記[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。


第3 本願に係る発明について
1 本願の請求項1に係る発明
令和3年5月27日にされた手続補正は、上記「第2」のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明1」という。)は、同年2月3日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載されたものであり、上記「第2」における[理由]の1に(1)として示したとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、本願発明1について上記引用文献1及び2、または、上記引用文献1及び3に基づいて、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものを含むものである。

3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1及び2に記載された事項、並びに、引用発明及び文献2技術は、上記「第2」における[理由]の3(1)において、ア及びイで述べたとおりである。

4 対比・判断
本願発明1は、本件補正発明1から上記「第2」における[理由]の2で示した補正事項1の限定を省いたものである。そうすると、本願発明1の発明特定事項のすべてを含み、さらに補正事項1に係る他の限定事項を付加したものに相当する本件補正発明1が、上記「第2」における[理由]の3のとおり、引用発明及び文献2技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明1についても本件補正発明1と同様の理由により、引用発明及び文献2技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、本願発明1は、引用発明及び文献2技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。


第4 むすび
以上のとおり、本願発明1は、引用発明及び文献2技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
審理終結日 2022-09-09 
結審通知日 2022-09-13 
審決日 2022-09-27 
出願番号 P2017-070293
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G06T)
P 1 8・ 56- Z (G06T)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 五十嵐 努
特許庁審判官 木方 庸輔
樫本 剛
発明の名称 顔認証装置および顔認証方法  
代理人 朝比 一夫  

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