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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H05K
管理番号 1391450
総通号数 12 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-06-30 
確定日 2022-11-17 
事件の表示 特願2016−192188「半導体装置の製造方法、及び、半導体装置」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 4月 5日出願公開、特開2018− 56397〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成28年9月29日の出願であって、その手続の経緯の概略は以下のとおりである。
令和 2年 5月15日付け:拒絶理由通知
令和 2年 7月22日 :意見書、手続補正書の提出
令和 2年11月10日付け:拒絶理由通知(最後)
令和 2年12月24日 :意見書、手続補正書の提出
令和 3年 3月23日付け:令和2年12月24日付けの手続補正についての補正の却下の決定、拒絶査定
令和 3年 6月30日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和 3年 8月 2日 :手続補正書(方式)の提出
令和 4年 4月 8日付け:拒絶理由通知(当審)
令和 4年 6月13日 :意見書、手続補正書の提出

第2 本願発明
本願の請求項1ないし6に係る発明は、令和4年6月13日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項4に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「金属板と、金属板用接着層と、フィルム基板と、がこの順に配置され、
前記フィルム基板は、5μm以上50μm以下の厚さのフィルムと配線層とが配線層用接着層を介して貼合され、前記金属板用接着層が設けられた面と反対側の面に前記配線層を有し、
前記フィルムは、ポリイミド、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、フッ素樹脂のうち少なくとも1種であり、
前記配線層用接着層の一部は前記配線層から露出しており、
前記配線層用接着層が前記配線層から露出した前記配線層上に、半導体素子が載置され、
前記半導体素子は、発光素子であり、
前記フィルム基板の厚み方向に貫通する複数の貫通孔を有し、
前記貫通孔は凹部となり、前記凹部の底面は、前記貫通孔を塞ぐように前記金属板用接着層が配置されている半導体装置。」
(下線部は、補正箇所を示す。)

第3 令和4年4月8日付け拒絶理由通知の概要
令和3年6月30日提出の手続補正書に記載された請求項1ないし15に対して令和4年4月8日付けで当審が通知した拒絶理由のうちの理由1は、次のとおりのものである。なお、当該拒絶理由に対して、令和4年6月13日に手続補正書が提出され、補正前の請求項10、13及び14を引用する補正前の請求項15が、本願の請求項4に対応する。

この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

・請求項 1
・引用文献 1−4

・請求項 2ないし5
・引用文献 1−7

・請求項 6ないし9
・引用文献 1−8

・請求項 10ないし15
・引用文献 1−4

<引用文献一覧>
1.特開平6−342986号公報
2.特開2003−298198号公報
3.特開2001−223447号公報
4.特開昭59−117290号公報
5.特開2012−230977号公報
6.特開2012−015367号公報
7.特開2007−109950号公報

第4 引用文献の記載および引用発明
1 引用文献1
(1)当審拒絶理由に引用された引用文献1(特開平6−342986号公報)には、図面とともに、次の記載がある。(下線は、当審で付加した。)

「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、制御機能付きパワーモジュール・ハイブリッドIC等の電子装置部品の実装に好適な多層金属ベース基板の製造に用いる多層回路基板の構造およびその構造を有する多層回路基板を用いてなる多層金属ベース基板に関する。
【0002】
【従来の技術】パワー回路等の熱を発生する回路部品を実装するための基板として、アルミニウム等の金属をベース基材として放熱性に優れる金属ベース基板が多用されるなか、より多くの機能回路部品の実装を可能にすべく、リジッド型やフレキシブル型の多層回路基板を金属ベース基材に接続してなる多層金属ベース基板が知られている。この多層回路基板の裏面には、電磁シールドのために大面積導体パターンが形成されることが多い。上記多層金属ベース基板は、多層回路基板の大面積導体パターン側を、接着剤の塗布や接着シートまたはフィルム等により形成する絶縁性接着剤層を介して、ベース金属、金属ベース基板等の金属ベース基材に貼合わせて製造されている。
・・・(中略)・・・。
【0006】以下、本発明の一実施例を示す図面に基づき本発明をより詳細に説明する。図1は、本発明の多層金属ベース基板の一例を示す部分断面図である。同図において、Tは多層金属ベース基板を示し、絶縁層9を有する金属ベース基材1と多層回路基板10とを、絶縁性接着剤層6を介して貼合わせた構造である。上記多層回路基板10は、基体3の上面には上層回路用導体パターン4が、裏面には電磁シールドを兼ねる大面積導体パターン5が形成されている。図2は、上記多層回路基板10の回路用導体パターンの一例を示す平面図であり、図2(a)は上層回路用導体パターン4を、図2(b)は大面積導体パターン5を示しており、本発明では、電気的導通用スルーホール20に加えて上記上層回路用導体パターン4および大面積導体パターン5を貫通する貫通孔8a,8b,8cを増設している。図3は、上記多層回路基板に貫通孔を増設した部分を示す部分拡大断面図である。同図において、10は多層回路基板で、基体3の片面に設けた上層回路用導体パターン4と、裏面に設けた大面積導体パターン5とを電気的に接続するスルーホール20に加えて、貫通孔8(8a,8b,8c)を増設している。
・・・(中略)・・・。
【0012】本発明で用いる多層回路基板の基体としては、リジッド型やフレキシブル型の多層回路基板が使用でき、その基体としては例えばエポキシ樹脂含浸ガラスクロス基体(所謂ガラエポ基板)やポリイミドフィルムベース基体(所謂フレキシブルポリイミド基板)等が使用できる。上記多層回路基板に形成される導体層としては、銅、ニッケル、金、アルミニウム等の金属や、それらのメッキ、クラッド等による複合体が好適に使用できるが、これら以外にも、適宜な導体が使用できる。上記各導体層の回路パターンは公知の方法で形成でき、例えばレジストとパターンマスクを介したエッチング方式等によって導体層の不要部分を除去することにより形成される。
【0013】一方、金属ベース基材としては、アルミニウム、鉄、銅等の熱伝導性に優れる金属やその複合体が使用できる。上記金属ベース基材上には、通常、絶縁層が形成される。この絶縁層としては、一般的に使用される各種絶縁材料が使用できるが、特に金属ベース基材による放熱を効率良く行うため、熱伝導性に優れる、例えばエポキシ、アクリルエポキシ、ポリイミド、ポリアミドイミド等の樹脂が好適に使用できる。上記絶縁層の厚さは、通常、10〜300μm 、好ましくは50〜200μm 程度に形成される。なお、上記の樹脂に無機酸化物微粉やその他の良熱伝導性の微粉を充填し、熱伝導性をさらに向上させることができる。なお、本発明では、金属ベース基材として、上記金属ベース基材の絶縁層上に下層回路用導体パターンを形成してなる金属ベース基板を用いることができる。」

図1


(2)引用文献1の上記記載及び図面によれば、次の事項が記載されている。
ア 段落【0001】に「制御機能付きパワーモジュール・ハイブリッドIC等の電子装置部品の実装に好適な多層金属ベース基板」と記載され、段落【0002】には「【従来の技術】パワー回路等の熱を発生する回路部品を実装するための基板として」「多層金属ベース基板が知られている。」と記載されている。ここで、引用文献1に記載された発明における「多層金属ベース基板」は従来の技術のものと変わらないので、「熱を発生する回路部品を実装するための基板」である。
よって、引用文献1には、「熱を発生する回路部品を実装するための基板である多層金属ベース基板」が記載されているといえる。

イ 段落【0006】に「図1は、本発明の多層金属ベース基板の一例を示す部分断面図である。同図において、Tは多層金属ベース基板を示し、絶縁層9を有する金属ベース基材1と多層回路基板10とを、絶縁性接着剤層6を介して貼合わせた構造である。」と記載され、図1によれば、多層金属ベース基板は金属ベース基材1と、絶縁性接着剤層6と、多層回路基板10とをこの順で配置されることが見て取れる。
また、段落【0012】によれば、多層回路基板10はポリイミドフィルムベース基体(所謂フレキシブルポリイミド基板)が使用され、同段落【0013】によれば、金属ベース基材として金属ベース基板を用いられる。
よって、引用文献1に記載された多層金属ベース基板は、金属ベース基板が用いられる金属ベース基材と、絶縁性接着剤層と、ポリイミドフィルムベース基体(所謂フレキシブルポリイミド基板)が使用される多層回路基板とをこの順で配置されるといえる。

ウ 段落【0006】に「上記多層回路基板10は、基体3の上面には上層回路用導体パターン4が」「形成されている。」と記載され、図1によれば、多層回路基板10は絶縁性接着剤層6が設けられた面と反対側の面に上層回路用導体パターン4を有していることが見て取れる。
そして、段落【0012】の「各導体層の回路パターンは」「エッチング方式等によって導体層の不要部分を除去することにより形成される。」との記載によれば、上層回路用導体パターン4は、多層回路基板に形成される導体層の不要部分をエッチング方式によって除去し形成される。
してみると、引用文献1に記載された多層回路基板は、絶縁性接着剤層が設けられた面と反対側の面に導体層の不要部分をエッチング方式によって除去し形成される上層回路用導体パターンを有しているといえる。

エ 段落【0006】に「本発明では、電気的導通用スルーホール20に加えて上記上層回路用導体パターン4および大面積導体パターン5を貫通する貫通孔8a,8b,8cを増設している。図3は、上記多層回路基板に貫通孔を増設した部分を示す部分拡大断面図である。同図において、10は多層回路基板で、基体3の片面に設けた上層回路用導体パターン4と、裏面に設けた大面積導体パターン5とを電気的に接続するスルーホール20に加えて、貫通孔8(8a,8b,8c)を増設している。」と記載され、図3によれば、多層回路基板10を厚み方向に貫通する貫通孔8a,8b,8cが見て取れる。
してみると、引用文献1に記載された多層金属ベース基板は、多層回路基板を厚み方向に貫通する3つの貫通孔を有しているといえる。

オ 図1によれば、3つの貫通孔8a,8b,8cは凹部となり、凹部の底面は各貫通孔8a,8b,8cを塞ぐように絶縁性接着剤層6が配置されていることが見て取れる。
してみると、引用文献1に記載された多層金属ベース基板では、3つの貫通孔は凹部となり、凹部の底面は各貫通孔を塞ぐように絶縁性接着剤層が配置されているといえる。

(3)上記アないしオによれば、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「金属ベース基板が用いられる金属ベース基材と、絶縁性接着剤層と、ポリイミドフィルムベース基体(所謂フレキシブルポリイミド基板)が使用される多層回路基板とをこの順で配置され、
多層回路基板は、絶縁性接着剤層が設けられた面と反対側の面に導体層の不要部分をエッチング方式によって除去し形成される上層回路用導体パターンを有し、
多層回路基板を厚み方向に貫通する3つの貫通孔を有し、
3つの貫通孔は凹部となり、凹部の底面は各貫通孔を塞ぐように絶縁性接着剤層が配置されている、
熱を発生する回路部品を実装するための基板である多層金属ベース基板。」

2 引用文献2
(1)当審拒絶理由に引用された引用文献2(特開2003−298198号公報)には、図面とともに、次の記載がある。(下線は、当審で付加した。)

「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ハードディスクドライブ(HDD)の配線などに用いられるフレキシブルプリント基板に関し、特に、耐湿熱性と耐屈曲性の向上を図ったフレキシブルプリント基板に関する。」

「【0030】「実施例1」まず、図2に示すように、ベースフィルム1として厚さ25μmのポリイミド樹脂フィルムを用い、このベースフィルム1の上にシラン変性エポキシ樹脂接着剤を10μmの厚さにて塗布してベースフィルム側接着剤層2とし、このベースフィルム側接着剤層2の上に厚さ35μmの銅箔6を積層して、銅張積層板11を作製した。次いで、図3に示すように、得られた銅張積層板11の銅箔6を塩化第二鉄水溶液によりエッチングしてパターン回路3を形成した。また、図4に示すように、カバーレイフィルム5として厚さ25μmのポリイミド樹脂フィルムを用い、この上にシラン変性エポキシ樹脂接着剤を30μmの厚さに塗布し、乾燥させることにより、カバーレイフィルム側接着剤層4を形成して、保護シート12を作製した。そして、銅張積層板11のパターン回路3の上に、前記保護シート12を、カバーレイフィルム側接着剤層4が内面となるように積層し、熱ラミネートにより貼り合わせ、200℃/20分の条件で熱硬化処理を行うことにより、FPC10を作製した。図5に、得られたFPC10の平面図を示す。このFPC10は、長さLが100mm、幅Wが10mmであり、パターン回路3の配線の両端に端子7を有するものである。」

図2



図3



上記図2、図3によれば、ベースフィルム側接着剤層2の一部を銅箔6から露出させるようにエッチングしてパターン回路を形成することが見て取れる。

(2)上記記載及び図面によれば、引用文献2には次の技術事項(以下、「引用文献2に記載された技術事項1」という。)が記載されている。
「フレキシブルプリント基板において、ベースフィルムとして厚さ25μmのポリイミド樹脂フィルムを用いること。」

(3)また、上記「(1)」の記載及び図面によれば、引用文献2には次の技術事項(以下、「引用文献2に記載された技術事項2」という。)も記載されている。
「フレキシブルプリント基板において、ベースフィルムの上に接着剤を塗布し、この接着剤層の上に銅箔を積層し、次いで、接着剤層の一部を銅箔から露出させるように銅箔をエッチングしてパターン回路を形成すること。」

3 引用文献3
(1)当審拒絶理由に引用された引用文献3(特開2001−223447号公報)には、図面とともに、次の記載がある。(下線は、当審で付加した。)

「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、フレキシブル回路基板に係り、特に屈曲に耐え得るフレキシブル回路基板(FPC)であって、携帯電話などの小型電子機器に使用するのに好適なものに関する。」

「【0010】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態を、図1ないし図7に基づいて説明する。図1ないし図3は、本発明のフレキシブル回路基板の一実施形態を示すものである。この実施例の回路基板1は、図3に示すように、25μm厚みのポリイミドフィルムからなるテープ状の基板2上に接着剤3が25μm厚さで塗布され、その上に35μm厚さの銅箔が積層されると共にその銅箔がエッチング処理されることにより、所望形状の回路パターン4が形成されている。ここまでの積層体をCCL(銅クラッドラミネートフィルム)フィルムと呼ぶ。」

図3



上記図3によれば、接着剤3の一部を銅箔から露出させるようにエッチングして回路パターン4を形成することが見て取れる。

(2)上記記載及び図面によれば、引用文献3には次の技術事項(以下、「引用文献3に記載された技術事項1」という。)が記載されている。
「フレキシブル回路基板において、25μm厚みのポリイミドフィルムからなるテープ状の基板を用いること。」

(3)また、上記「(1)」の記載及び図面によれば、引用文献3には次の技術事項(以下、「引用文献3に記載された技術事項2」という。)も記載されている。
「フレキシブル回路基板において、ポリイミドフィルムからなるテープ状の基板上に接着剤が塗布され、その上に銅箔が積層されると共に、接着剤の一部を銅箔から露出させるように銅箔がエッチング処理され、回路パターンが形成されること。」

4 引用文献4
(1)当審拒絶理由に引用された引用文献4(特開昭59−117290号公報)には、図面とともに、次の記載がある。(下線は、当審で付加した。)

「第1図は従来の片面銅貼り構成でなるフレキシブル銅貼りプリント基板の断面構成図であり、厚さ35μm程度のプリント基板用銅箔1と厚さ35μm〜50μmのポリイミドフィルム基板2が樹脂の接着剤3を介してラミネータの加圧プレス及び加熱エージングによって貼り合わされ、片面銅貼りのフレキシブル銅貼りプリント基板が構成されている。」(1頁右欄18行ないし2頁左上欄5行)

第1図


(2)上記記載及び図面によれば、引用文献4には次の技術事項(以下、「引用文献4に記載された技術事項」という。)が記載されている。
「フレキシブル銅貼りプリント基板において、厚さ35μm〜50μmのポリイミドフィルム基板2を用いること。」

第5 対比・判断
1 対比
(1)本願発明と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「金属ベース基板が用いられる金属ベース基材」は、本願発明1の「金属板」に相当する。
また、引用発明の「絶縁性接着剤層」は、「金属ベース基材」の上に配置されるから、「金属ベース基材」用の接着剤といえ、本願発明の「金属板用接着剤」に相当する。
そして、引用発明の「多層回路基板」は、「ポリイミドフィルムベース基体(所謂フレキシブルポリイミド基板)が使用され」ることから、本願発明の「フィルム基板」に相当する。
よって、引用発明の「金属ベース基板が用いられる金属ベース基材と、絶縁性接着剤層と、ポリイミドフィルムベース基体(所謂フレキシブルポリイミド基板)が使用される多層回路基板とをこの順で配置され」ることは、本願発明の「金属板と、金属板用接着層と、フィルム基板と、がこの順に配置され」ることに相当する。

イ 引用発明の「ポリイミドフィルムベース基体」は、本願発明の「フィルム」に相当する。
また、引用発明の「多層回路基板」において「絶縁性接着剤層が設けられた面と反対側の面に」「形成される上層回路用導体パターン」は「上層回路」のための配線パターンといえるから、「上層回路用導体パターン」が形成される「導体層」は、本願発明の「配線層」に相当する。
してみると、引用発明の「多層回路基板」と本願発明の「フィルム基板」とは、「フィルムと配線層」を有し、「金属板用接着層が設けられた面と反対側の面に前記配線層を有し」ている点で共通する。
ただし、フィルムに関し、本願発明は「5μm以上50μm以下の厚さ」であるのに対し、引用発明はその旨特定されていない点で相違する。
また、本願発明は「フィルムと配線層とが配線層用接着層を介して貼合され」ているのに対し、引用発明はその旨特定されていない点で相違する。

ウ 引用発明の「ポリイミドフィルムベース基体」は、本願発明の「フィルムは、ポリイミド、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、フッ素樹脂のうち少なくとも1種であ」ることに含まれる。

エ 本願発明は「前記配線層用接着層の一部は前記配線層から露出して」いるのに対し、引用発明はその旨特定されていない点で相違する。

オ 本願発明は「前記配線層用接着層が前記配線層から露出した前記配線層上に、半導体素子が載置され、前記半導体素子は、発光素子であ」るのに対し、引用発明はその旨特定されていない点で相違する。

カ 引用発明の「多層回路基板を厚み方向に貫通」する「貫通孔」は、本願発明の「フィルム基板の厚み方向に貫通」する「貫通孔」に相当する。
してみると、引用発明の「多層回路基板を厚み方向に貫通する3つの貫通孔を有し、多層回路基板を厚み方向に貫通する3つの貫通孔を有し、3つの貫通孔は凹部となり、凹部の底面は各貫通孔を塞ぐように絶縁性接着剤層が配置されている」ことは、本願発明の「フィルム基板の厚み方向に貫通する複数の貫通孔を有し、前記貫通孔は凹部となり、前記凹部の底面は、前記貫通孔を塞ぐように前記金属板用接着層が配置されている」ことに相当する。

キ 引用発明の「多層金属ベース基板」は、「上層回路用導体パターン」という電子部品を備えているから、電子部品を備えた一つの装置といえる。
してみれば、本願発明の「半導体装置」と引用発明の「多層金属ベース基板」とは共に装置である点で共通する。
ただし、本願発明は「半導体装置」であるのに対し引用発明はその旨特定されていない点で相違する。

(2)アないしキによれば、本願発明と引用発明との一致点、及び、相違点は以下のとおりである。
(一致点)
「金属板と、金属板用接着層と、フィルム基板と、がこの順に配置され、
前記フィルム基板は、フィルムと配線層を有し、前記金属板用接着層が設けられた面と反対側の面に前記配線層を有し、
前記フィルムは、ポリイミド、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、フッ素樹脂のうち少なくとも1種であり、
前記フィルム基板の厚み方向に貫通する複数の貫通孔を有し、
前記貫通孔は凹部となり、前記凹部の底面は、前記貫通孔を塞ぐように前記金属板用接着層が配置されている装置。」

(相違点1)
フィルムに関し、本願発明は「5μm以上50μm以下の厚さ」であるのに対し、引用発明はその旨特定されていない点。
(相違点2)
本願発明は「フィルムと配線層とが配線層用接着層を介して貼合され」ているのに対し、引用発明はその旨特定されていない点。
(相違点3)
本願発明は「前記配線層用接着層の一部は前記配線層から露出して」いるのに対し、引用発明はその旨特定されていない点。
(相違点4)
本願発明は「前記配線層用接着層が前記配線層から露出した前記配線層上に、半導体素子が載置され、前記半導体素子は、発光素子であ」るのに対し、引用発明はその旨特定されていない点。
(相違点5)
本願発明は「半導体装置」であるのに対し、引用発明はその旨特定されていない点。

2 相違点に対する判断
(1)相違点1について
引用文献2に「フレキシブルプリント基板において、ベースフィルムとして厚さ25μmのポリイミド樹脂フィルムを用いること」(「第4 2(2)」「引用文献2に記載された技術事項1」を参照)と、引用文献3に「フレキシブル回路基板において、25μm厚みのポリイミドフィルムからなるテープ状の基板を用いること」(「第4 3(2)」「引用文献3に記載された技術事項1」を参照)と、引用文献4に「フレキシブル銅貼りプリント基板において、厚さ35μm〜50μmのポリイミドフィルム基板2を用いること」(「第4 4(2)」「引用文献4に記載された技術事項」)にそれぞれ記載されているように、フレキシブル基板におけるポリイミドフィルムからなる基体の厚みを5μm以上50μm以下程度とすることは普通に行われている事項である。
してみれば、引用発明においても相違点1に係る構成とすることは当業者が適宜なし得る設計的事項にすぎない。

(2)相違点2及び相違点3について
引用文献2に「フレキシブルプリント基板において、ベースフィルムの上に接着剤を塗布し、この接着剤層の上に銅箔を積層し、次いで、接着剤層の一部を銅箔から露出させるように銅箔をエッチングしてパターン回路を形成すること」(「第4 2(3)」「引用文献2に記載された技術事項2」を参照)が、引用文献3に「フレキシブル回路基板において、ポリイミドフィルムからなるテープ状の基板上に接着剤が塗布され、その上に銅箔が積層されると共に、接着剤の一部を銅箔から露出させるように銅箔がエッチング処理され、回路パターンが形成されること。」(「第4 3(3)」「引用文献3に記載された技術事項2」を参照)にそれぞれ記載されているように、フレキシブル基板を作成する際、フィルムに接着層を介して銅箔を貼合し、接着層の一部を銅箔から露出させるように銅箔をエッチング処理して回路パターンを形成することは周知技術である。
そして、引用発明と周知技術とは、フレキシブル基板において導体層をエッチングすることにより回路パターンを形成するという共通の技術分野に属しており、引用発明の「多層回路基板」に周知技術を採用する上で格別な阻害要因は見当たらないことからすれば、引用発明に周知技術を採用し、相違点2及び相違点3に係る構成にすることは当業者が容易になし得たことである。

(3)相違点4及び相違点5について
ア 本願発明の「配線層用接着層が前記配線層から露出した前記配線層上」とは、「配線用接着層が配線層から露出した」部分の「配線層上」のみに限定されず、「配線用接着層が配線層から露出した」部分以外の「配線層上」をも含むものである。
ここで、引用発明の「多層金属ベース基板」は「熱を発生する回路部品を実装するための基板」であるところ、熱を発生する回路部品として発光素子は従来から広く知られていることから、引用発明の「熱を発生する回路部品」として発光素子を採用することは当業者であれば当然想起し得たことである。また、発光素子は半導体素子の一つであるから、引用発明の「多層金属ベース基板」に発光素子を実装したものは半導体装置といえる。
したがって、引用発明に基づいて、相違点4及び相違点5に係る構成とすることは当業者が容易になし得たことである。

イ 仮に、本願発明の「配線層用接着層が前記配線層から露出した前記配線層上」とは、「配線用接着層が配線層から露出した」部分の「配線層上」であると解釈されるとしても、以下の理由により、「配線用接着層が配線層から露出した」部分の「配線層上」に「発光素子」を載置することは適宜なし得たことである。
(ア)発光素子を実装する基板において、発光素子の端子それぞれが接続される基板上の各回路パターンを隙間を空けて形成することは当然のことであり、発光素子を該隙間を跨いで配置することも一般的な実装技術に過ぎない。(必要であれば、特開2016−122818号公報の段落【0024】、【0036】、図2,図4、特開2016−162830号公報の段落【0019】、【0023】、【0025】、図3、図4、特開2016−157713号公報の段落【0075】ないし【0079】、図7、図8を参照)
(イ)ここで、引用文献1の図2には「上層回路用導体パターン」が複数の回路パターンを隙間を空けて形成されることが図示されていることも考慮すれば、引用発明の「上層用回路用導体パターン」における該隙間を跨いで発光素子を配置することも当業者であれば適宜なし得たことである。
(ウ)そして、上記「(2)」を踏まえると、この場合「回路パターン」間の隙間上、即ち、「導体層」のうち接着層が「導体層」から露出された部分上を跨いで発光素子が配置されるといえる。

(4)小括
以上から、相違点1ないし相違点5に係る構成は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 審判請求人の主張について
(1)請求人は、令和4年6月13日提出の意見書において以下の点のとおり主張する。
ア 引用文献2、3は、製造工程の途中過程を示したものであり、最終形態を示したものではない。例えば、引用文献2は、パターン回路を形成した後、カバーレイフィルム5として厚さ25μmのポリイミド樹脂フィルムを用い、この上にシラン変性エポキシ樹脂接着剤を塗布し乾燥することにより、保護シート12を作製し(引用文献2の段落[0030]図1参照)、また、ベースフィルム1にベースフィルム側接着層を用いてパターン回路3を形成しており、そのパターン回路3の上に、カバーレイフィルム側接着剤層4を介してカバーレイフィルム5を形成している。よって、引用文献2、3に貫通孔を形成する動機付けがないため、引用文献1に引用文献2、3を組み合わせる動機付けがない。

イ 引用文献1の多層回路基板に実装するのはパワーモジュール・ハイブリッドICであるため、光が放出されるものではないため、パワーモジュール・ハイブリッドICが配置される位置は明確ではない。それに対し、本願発明は、配線層用接着層が配線層から露出した配線層上に発光素子を載置し、配線層用接着層を被覆することなく露出させていることにより、発光素子から直下に出射された光はフィルム11で反射させることができる。このときフィルム11に熱が加わるものの、フィルムを5μm以上50μm以下に薄くしているため、熱伝導性を高め金属板16に熱を伝えやすくし、放熱させることできるため、フィルム及び配線層用接着層が劣化し難い構造となっている(本願明細書段落[0018]参照)。このように、本願発明は引用文献1からは容易に想到できない顕著な効果を奏する。

ウ 本願発明は、フィルム基板の配線層が設けられた面と反対側の面には配線層を有さず金属板用接着層が配置される(本願の請求項1、4、図1B)のに対し、引用文献1の多層回路基板においては、基体の片面に上層回路用導体パターンが、その裏面に大面積導体パターンもしくは導体パターンで囲まれた大面積非導体パターンが形成され、上層回路用導体パターンと大面積導体パターンとを電気的に接続する電気的導通用スルーホールを有することを必須の構成としており(引用文献1の請求項1)、本願発明と引用文献1に記載の発明とでは、その構成が全く異なる。
また、引用文献1の多層回路基板においては、貫通孔の開口部の総面積が、上記大面積導体パターン面積、もしくは、導体パターンで囲まれた大面積非導体パターン1cm2当たり0.5〜10%を占める割合に設けられることを必須の構成としている(引用文献1の請求項1)ため、基体の裏面に導体パターンを有することは不可欠であるから、引用文献1において、金属ベースを配置する側に、基体の裏面に導体パターンを配置しない構成とすることは想定し得ない。

(2)審判請求人の上記各主張について検討する。
ア 上記「(1)ア」について
引用文献2及び引用文献3は、上記「第5 2(2)」で述べたように、フレキシブル基板において、ベースフィルムの上に接着剤を塗布し、この上に銅箔を積層し、接着剤層の一部を銅箔から露出させるように銅箔をエッチングしてパターン回路を形成することが周知の技術事項であることを説明するために提示したものである。
そして、引用文献2の【請求項2】、段落【0007】、【0040】によれば、引用文献2には最終形態を示したものとして「フレキシブルプリント基板を構成する銅張積層板」が記載されているから、該請求人が主張する「カバーレイフィルム5」や「保護シート12」を必須の構成として認定する必要性はなく、また、引用文献3(段落【0011】、図3を参照)に記載された「カバーレイフィルム」も、あくまでも表面保護フィルムに過ぎず、引用文献3に記載された技術を認定する上で「カバーレイフィルム」を必須の構成として採用する理由も見当たらない。
また、上記「第5 2(2)」では、引用文献2、3に記載された技術事項に「貫通孔」を形成することは何等説示していない。
してみれば、請求人の「引用文献1に引用文献2、3を組み合わせる動機付けがない」との主張は採用できない。

イ 上記「(1)イ」について
上記「第5 2(3)」でも述べたように、「配線層用接着層が配線層から露出した配線層上に発光素子を載置」することは、引用発明に基づいて当業者が容易になし得たことである。
ここで、「発光素子から直下に出射された光」を「フィルム11」で「反射」する機能に関する事項は本願発明に何等記載されていないから、請求人の主張は特許請求の範囲に基づくものではない。
そして、本願明細書の段落【0018】には「フィルム11は、絶縁性と熱伝導性を両立させるため、厚みは5μm〜50μmであることが好ましい。」と記載されているものの、本願明細書にはフィルム11の厚みを5μm〜50μmとすることで「配線層用接着層」が劣化し難い構造とすることは記載されていない。よって、請求人の「フィルム11に熱が加わりますが、フィルムを5μm以上50μm以下に薄くしているため、熱伝導性を高め、金属板16に熱を伝えやすくし、放熱させることできるため」「配線層用接着層が劣化し難い構造となっています(本願明細書の段落[0018]参照)」との主張は本願明細書に基づくものではない。
なお、上記「第5 2(1)」で述べたように、引用発明においても「ポリイミドフィルムベース基体」の厚みを5μm以上50μm程度とすることは当業者が適宜なし得る設計的事項にすぎず、フィルムベース基体の厚みを薄くすることで熱伝導性が高まることは当業者であれば容易に予測し得たことである。
してみれば、請求人の「本願発明は引用文献1からは容易に想到できない顕著な効果を奏します」との主張は採用できない。

ウ 上記「(1)ウ」について
本願発明に「金属板と、金属板用接着層と、フィルム基板と、がこの順に配置され、前記フィルム基板は、5μm以上50μm以下の厚さのフィルムと配線層とが配線層用接着層を介して貼合され、前記金属板用接着層が設けられた面と反対側の面に前記配線層を有し、」と記載されている。
しかしながら、本願発明には「フィルム基板の配線層が設けられた面と反対側の面には配線層を有さず」とは記載されてされていないことから、本願発明は、フィルム基板の配線層が設けられた面と反対側の面に「配線層」を介して金属板用接着層が配置されることを排除するものではない。
してみると、請求人の「本願発明は、フィルム基板の配線層が設けられた面と反対側の面には配線層を有さず金属板用接着層が配置される(本願の請求項1、4、図1B)」との主張は採用できない。

エ まとめ
上記アないしウによれば、審判請求人の主張は採用できない。

第7 むすび
以上のとおり、本願の請求項4に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
審理終結日 2022-09-06 
結審通知日 2022-09-13 
審決日 2022-09-29 
出願番号 P2016-192188
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H05K)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 酒井 朋広
特許庁審判官 木下 直哉
畑中 博幸
発明の名称 半導体装置の製造方法、及び、半導体装置  
代理人 弁理士法人磯野国際特許商標事務所  

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