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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B24B
管理番号 1391492
総通号数 12 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2022-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2021-08-04 
確定日 2022-11-10 
事件の表示 特願2018− 23969「両面研磨方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年 8月22日出願公開、特開2019−136837〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成30年2月14日を出願日とする特願2018−23969号の特許出願であって、その手続の経緯は、概略、以下のとおりである。

令和 3年 2月 1日付け :拒絶理由通知
令和 3年 3月15日 :意見書の提出
令和 3年 5月18日付け :拒絶査定
令和 3年 8月 4日 :拒絶査定不服審判の請求
拒絶査定不服審判の請求と同時:手続補正書の提出
令和 4年 3月31日付け :当審拒絶理由通知
令和 4年 5月26日 :意見書の提出

第2 本願発明
本願の請求項1〜2に係る発明は、令和3年8月4日にされた拒絶査定不服審判の請求と同時に提出された手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1〜2に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
両面研磨装置を用い、キャリアに形成されたワーク保持孔にウェーハを保持して、研磨パッドがそれぞれ貼付された上定盤と下定盤とで挟み込み、スラリーを上定盤に備えられたN個の供給孔からロータリージョイントを介して圧送形式により研磨面に供給しながら両面研磨するウェーハの両面研磨方法であって、
前記供給孔が、前記上定盤の任意の半径から回転角度αだけ回転した半径上にM1個備えられ、
前記回転角度αよりも180度大きい回転角度をβとしたとき、
前記供給孔が、前記任意の半径から回転角度βだけ回転した半径上にM2個備えられ、
前記任意の半径から回転角度αだけ回転した半径と前記任意の半径から回転角度βだけ回転した半径とがなす直径上の供給孔に、前記直径の一端より1からM1+M2までの番号を付し、
前記直径上の供給孔のうち、i番目の供給孔の前記上定盤の中心からの距離をriとし、
前記任意の半径から回転角度αだけ回転した半径上の前記i番目の供給孔から供給されるスラリーの流量をx(ri,α)とし、
前記直径上の供給孔のうち、j番目の供給孔の前記上定盤の中心からの距離をrjとし、
前記任意の半径から回転角度βだけ回転した半径上の前記j番目の供給孔から供給されるスラリーの流量をx(rj,β)とし、
前記上定盤に備えられたN個全ての供給孔から供給されるスラリーの流量の平均値をxaveとしたとき、
前記任意の半径から回転角度αだけ回転した半径上の供給孔から供給されるスラリーの流量の平均値と前記任意の半径から回転角度βだけ回転した半径上の供給孔から供給されるスラリーの流量の平均値との差の絶対値の全ての供給孔から供給されるスラリーの流量の平均値xaveに対する割合Diffが下記式(1)の関係を満たすように制御しながら研磨し、
前記ロータリージョイントを介して前記研磨面に圧送するスラリーの全流量が4L/min以上となるように供給しながら両面研磨することを特徴とする両面研磨方法。
【数1】



第3 当審拒絶理由
当審が、令和4年3月31日付けで、本願発明に対して通知した進歩性に係る拒絶の理由(以下、「当審拒絶理由」という。)の概要は、本願発明は、引用文献1に記載された発明、引用文献1の記載事項、引用文献2及び3に記載された周知技術1、並びに引用文献2及び3に記載された周知技術2に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:特開2004−142040号公報
引用文献2:特開2015−98065号公報
引用文献3:特開2012−171042号公報


第4 引用文献1の記載、技術的事項及び引用発明
1 記載事項
当審拒絶理由で引用された引用文献1には、以下の事項が記載されている(下線は、当審で付した。以下同じ。)。
(1)発明の詳細な説明
「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は両面研磨装置およびこれを用いた研磨加工方法に関し、より詳細にはワークへのスラリーの供給方法を特徴とする両面研磨装置およびこれを用いた研磨加工方法に関する。」

「【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好適な実施の形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。
図1は本発明に係る両面研磨装置の主要部の構成を示す断面図である。同図で10は上定盤、12は下定盤であり、18はキャリア、20はワークである。ワーク20は、キャリア18に設けられた透孔内にセットされている。
キャリア18はキャリアホルダ19により外周縁が支持され、キャリアホルダ19は基体100に回動自在に支持されたクランク21に係合する。クランク21はキャリアホルダ19の周方向に均等配置で複数設けられ、各々、スプロケット104を介して同期して回転駆動されるよう駆動モータ102に連繋されている。
【0014】
キャリア18は、クランク21が駆動モータ102によって回転駆動されることによって、全体として旋回移動(自転しない円運動)する。これによって、キャリア18に支持されたワーク20もキャリア18とともに、上定盤10と下定盤12とで挟圧された状態で旋回移動し、両面研磨がなされる。
106は下定盤12を回転駆動するモータである。108は上定盤10の中央部に連結して設けられたスプライン軸である。スプライン軸108の上下方向の中途位置には上定盤10を回転させる回転駆動機構(不図示)が設けられている。上定盤10と下定盤12は駆動モータ106と回転駆動機構によって、互いに逆方向に回転駆動される。
【0015】
48は上定盤10を厚さ方向に貫通して設けられたスラリー供給孔である。スプライン軸108の内部にはスラリーを供給するための供給管110と、上定盤を冷却するための冷却水を通流させるための流路が形成され、供給管110と各々のスラリー供給孔48とが接続チューブ112を介して連通されている。これによって、供給管110から供給されたスラリーは接続チューブ112を介して各々のスラリー供給孔48に供給される。
【0016】
本実施形態の両面研磨装置において特徴的な構成は、スラリーをワーク20に供給する際に、スラリーに圧力を加えて供給するようにした点にある。60はスラリーの供給管110に、スラリーに圧力を加えて供給するための圧送供給装置(供給装置)である。スプライン軸108の上端部にはロータリーシールを介して供給管110に対して液密にシールしたディストリビュータが設けられており、スラリーの圧送供給装置はこのディストリビュータを介して供給管110に連通する。すなわち、ディストリビュータを介して供給管110と圧送供給装置60とを連通させることによって、上定盤10が常時回転した状態でスラリーを供給することができる。なお、冷却水もディストリビュータを介して給排水される。
【0017】
本実施形態では、上定盤10に設けた各々のスラリー供給孔48に、スラリーの流通を制御する弁機構として調節弁70を設け、スラリーの圧送供給装置60から各々のスラリー供給孔48に供給されるスラリーの供給を制御するように設けている。
調節弁70は電磁弁等の弁機構を備えるものであり、各々の調節弁70は制御部によって個別に開閉が制御されるように設けられている。調節弁70は弁の開閉量を制御することによってスラリーの供給量を制御することができ、弁を完全に閉止させてスラリーの供給を停止させることもできる。また、調節弁70は上定盤10と下定盤12を駆動させて研磨加工をしている際においても随時、制御可能に設けられている。
【0018】
図2は、上定盤10とキャリア18とワーク20の平面配置を示す。図示例の装置は、半導体ウエハを研磨する装置で、ワーク20が周方向に8枚セットされる。前述したように、ワーク20はキャリア18に設けた透孔内にセットされ、キャリア18の旋回運動にともなって、個々に旋回移動して研磨される。
上定盤10には図のように多数個のスラリー供給孔48が設けられ、加工時に個々のスラリー供給孔48からワーク20にスラリーが供給される。
スラリー供給孔48の配置位置は、上定盤10で固定されているから、加工時のキャリア18の移動位置によってワーク20とスラリー供給孔48の相対位置は変動する。図2は、キャリア18が基準位置にある場合を示している。
【0019】
上述したように、本実施形態の両面研磨装置ではスラリーの圧送供給装置60から圧力を加えてスラリーを送出するから、各々のスラリー供給孔48に設けられている調節弁70を制御することによって、個々のスラリー供給孔48から供給されるスラリーの量を調節することができる。
たとえば、定盤の内周側と外周側とでスラリーの流動量が異なる場合に、内周側のスラリー供給孔48と外周側のスラリー供給孔48から供給するスラリーの量を調節弁70を制御して調節することにより、全体として均一にスラリーが供給されるようにするといったことが可能である。
また、スラリーを供給するスラリー供給孔48を選択し、残りのスラリー供給孔48からはスラリーを供給しないといったように、上定盤10から供給するスラリーの供給位置を調節することも可能である。
【0020】
従来のように自重によってスラリーを流下させる方法による場合はスラリーの流下量がばらついたりすることがあり、スラリーの供給量を精度よく制御することは困難である。これに対して、本実施形態のようにスラリーの圧送供給装置60から一定の圧力を加えてスラリーを供給する方法による場合は、調節弁70を制御することによってスラリーの供給量を適正に制御することが可能になるという利点がある。
また、個々のスラリー供給孔48ごとにスラリーの供給量あるいはスラリー供給のON−OFFを制御する方法によれば、製品に合わせて、また、加工内容に合わせてスラリーの供給方法をきめ細かく制御することが可能であり、これによって高精度の研磨加工が可能になる。
【0021】
また、本実施形態の両面研磨装置では、研磨装置を作動している途中で随時調節弁70を制御することができるから、研磨加工の進展度合いを見ながらスラリーの供給量を制御することができる。たとえば、研磨加工が進むにしたがって、スラリーの供給量を増減調節する必要がある場合には有効である。また、ワークの加工状態を監視しながら、ワークの加工状態に応じてスラリーの供給量を制御するといったように使用することも可能である。
【0022】
また、本実施形態の両面研磨装置では、スラリーの供給圧力を利用して定盤の面形状を調節するといった制御も可能である。すなわち、ワークを加工していくことによって定盤の温度が変動し、定盤の面形状が所定の面形状からずれてきたような場合に、スラリーの供給圧力を利用して定盤の面形状を補正することも可能である。また、定盤の面形状を特定の形状に積極的に調節して加工するような場合にも、スラリーの供給圧力を利用することで定盤の面形状を調節することが可能である。圧送供給装置60からスラリーは所定の圧力で送出されるから、スラリー供給孔48からの吐出圧力を調節弁70によって調節することにより定盤面に作用する圧力を調節することができるからである。」
【0023】
また、研磨加工が終了した際には上定盤10を上位置に吊り上げて、ワーク20の搬出操作等を行うが、上定盤10を吊り上げる際にスラリー供給孔48からスラリーを吐出させることで、スラリーの吐出圧力によってワーク20を上定盤10の研磨面から剥離させることができる。加工終了時にキャリア18が基準位置に戻って停止するようにしておけば、上定盤10を吊り上げる際に、どのスラリー供給孔48からスラリーを吐出させるようにするかは、あらかじめ設定しておくことができる。
ワーク20を上定盤10から剥離する際にスラリー供給孔48からスラリーを吐出させて剥離させる方法は、エア等の圧力流体を使用する方法にくらべて、当該研磨加工で使用していたスラリーと同じ液体を使用して剥離操作ができる点で、ワーク20に悪影響を及ぼさないという利点もある。」

「【0028】
【発明の効果】
本発明に係る両面研磨装置およびこれを用いた研磨加工方法によれば、上述したように、ワークに的確にスラリーを供給することができ、これによって高精度の研磨加工を行うことができる。また、スラリーを供給するスラリー供給孔を選択することによって異種のワークに対しても汎用的に使用することが可能になる。また、ワークに向けてスラリーを吐出し、スラリーの吐出圧によって上定盤からワークを剥離させることによりワークが上定盤に貼り付くことを防止し、装置の取り扱い性を向上させることができる等の著効を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る両面研磨装置の第1の実施形態の構成を示す断面図である。
【図2】第1の実施形態において、上定盤に設けたスラリー供給孔の平面配置を示す説明図である。
・・・
【符号の説明】
10 上定盤
12 下定盤
14 太陽ギア
16 インターナルギア
18 キャリア
19 キャリアホルダ
20 ワーク
21 クランク
22 下定盤受け
40 吊り板
42 スラリーリング
46 接続チューブ
48 スラリー供給孔
50 流量調節バルブ
60 圧送供給装置(供給装置)
62 ディストリビュータ
64 接続チューブ
70 調節弁(弁機構)
108 スプライン軸
110 供給管
112 接続チューブ」

(2)図面
【図1】




【図2】




(3)引用文献1記載の技術的事項
上記(1)及び(2)の記載事項からみて、引用文献1には以下の技術的事項が記載されていると認められる。
ア 段落【0001】、【0028】の記載からみて、引用文献1には、両面研磨装置を用いた研磨加工方法に関する発明が記載されている。

イ 段落【0013】の記載からみて、引用文献1に記載の両面研磨装置を用いた研磨加工方法では、キャリア18に設けられた透孔内にワーク20をセットする工程を有する。

ウ 段落【0014】の記載からみて、引用文献1に記載の両面研磨装置を用いた研磨加工方法では、キャリア18に支持されたワーク20は、キャリア18とともに、上定盤10と下定盤12とで挟圧された状態で両面研磨する工程を有する。

エ 段落【0018】、図2の記載からみて、引用文献1に記載の両面研磨装置には、上定盤10に多数個のスラリー供給孔48が設けられ、加工時に個々のスラリー供給孔48からワーク20にスラリーが供給される。また、段落【0023】、図1の記載からみて、スラリー供給孔48からワーク20にスラリーが供給される際には、当然に、ワーク20と上定盤10とが対向する研磨面にスラリーが供給される。

オ 段落【0016】の記載からみて、引用文献1に記載の両面研磨装置では、スラリーをワーク20に供給する際に、圧送供給装置60によりスラリーに圧力を加えて供給するものであって、段落【0015】、【0016】の記載をあわせてみれば、スラリーは、スラリーに圧力を加えて供給するための圧送供給装置60から、ロータリーシールを介して供給管110に対して液密にシールしたディストリビュータ、供給管110、接続チューブ112を介して、各々のスラリー供給孔48に供給されることによって、上定盤10が常時回転した状態でスラリーを研磨面に供給するものである。

カ 段落【0019】、【0020】の記載からみて、引用文献1に記載の両面研磨装置には、各々のスラリー供給孔48に調節弁70が設けられており、各々のスラリー供給孔48に設けられている調節弁70を制御することによって、個々のスラリー供給孔48から供給されるスラリーの量を調節することができ、全体として均一にスラリーが供給されるように調整するなど、調節弁70を制御することによってスラリーの供給量を適正に制御することが可能になるものである。また、段落【0017】の記載からみて、調節弁70は上定盤10と下定盤12を駆動させて研磨加工をしている際においても随時、制御可能に設けられているものである。

2 引用発明
上記1(1)−(3)より、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が、記載されている。

「両面研磨装置を用い、キャリア18に設けられた透孔内にワーク20をセットして、上定盤10と下定盤12とで挟圧された状態で、スラリーを上定盤10に設けられた多数個のスラリー供給孔48からロータリーシールを介して供給管110に対して液密にシールしたディストリビュータを介して圧力を加えて研磨面に供給しながら両面研磨するワーク20の研磨加工方法であって、
全体として均一にスラリーが供給されるように個々のスラリー供給孔48から供給されるスラリーの量を制御しながら研磨加工する、研磨加工方法。」


第5 本願発明と引用発明の対比
1 本願発明と引用発明との相当関係
(1)引用発明の「キャリア18」は、その機能及び構造からみて、本願発明の「キャリア」に相当し、
以下同様に、「透孔」は「ワーク保持孔」に相当し、
「ワーク20」は「ウェーハ」に相当することから、
引用発明における「キャリア18に設けられた透孔内にワーク20をセットして」との事項は、本願発明における「キャリアに形成されたワーク保持孔にウェーハを保持して」との事項に相当する。

(2)引用発明の「上定盤10」は、その機能及び構造からみて、本願発明の「上定盤」に相当し、
以下同様に、「下定盤12」は「下定盤」に相当することから、
引用発明における「上定盤10と下定盤12とで挟圧された状態で」との事項は、本願発明における「上定盤と下定盤とで挟み込み」との事項に相当する。

(3)引用発明の「多数個のスラリー供給孔48」は、その機能及び構造からみて、本願発明の「N個の供給孔」に相当し、
以下同様に、「ロータリーシールを介して供給管110に対して液密にシールしたディストリビュータ」は、「ロータリージョイント」に相当し、
「圧力を加えて」は、「圧送形式により」に相当することから、
引用発明における「スラリーを上定盤10に設けられた多数個のスラリー供給孔48からロータリーシールを介して供給管110に対して液密にシールしたディストリビュータを介して圧力を加えて研磨面に供給しながら両面研磨する」との事項は、本願発明における「スラリーを上定盤に備えられたN個の供給孔からロータリージョイントを介して圧送形式により研磨面に供給しながら両面研磨する」との事項に相当する。

(4)引用発明における「全体として均一にスラリーが供給されるように個々のスラリー供給孔48から供給されるスラリーの量を制御しながら研磨加工する」という事項と、
本願発明における、
「前記供給孔が、前記上定盤の任意の半径から回転角度αだけ回転した半径上にM1個備えられ、
前記回転角度αよりも180度大きい回転角度をβとしたとき、
前記供給孔が、前記任意の半径から回転角度βだけ回転した半径上にM2個備えられ、
前記任意の半径から回転角度αだけ回転した半径と前記任意の半径から回転角度βだけ回転した半径とがなす直径上の供給孔に、前記直径の一端より1からM1+M2までの番号を付し、
前記直径上の供給孔のうち、i番目の供給孔の前記上定盤の中心からの距離をriとし、
前記任意の半径から回転角度αだけ回転した半径上の前記i番目の供給孔から供給されるスラリーの流量をx(ri,α)とし、
前記直径上の供給孔のうち、j番目の供給孔の前記上定盤の中心からの距離をrjとし、
前記任意の半径から回転角度βだけ回転した半径上の前記j番目の供給孔から供給されるスラリーの流量をx(rj,β)とし、
前記上定盤に備えられたN個全ての供給孔から供給されるスラリーの流量の平均値をxaveとしたとき、
前記任意の半径から回転角度αだけ回転した半径上の供給孔から供給されるスラリーの流量の平均値と前記任意の半径から回転角度βだけ回転した半径上の供給孔から供給されるスラリーの流量の平均値との差の絶対値の全ての供給孔から供給されるスラリーの流量の平均値xaveに対する割合Diffが下記式(1)の関係を満たすように制御しながら研磨」する事項、及び式(1)の


」という事項を対比すると、両者は「供給孔から供給されるスラリーの流量を制御しながら研磨する」という事項の限りにおいて一致する。

(5)引用発明における「両面研磨装置を用い」た「ワーク20の研磨加工方法」は、本願発明における「両面研磨装置を用い」た「ウェーハの両面研磨方法」に相当する。

2 一致点
したがって、本願発明と引用発明とは、以下の点で一致する。
「両面研磨装置を用い、キャリアに形成されたワーク保持孔にウェーハを保持して、上定盤と下定盤とで挟み込み、スラリーを上定盤に備えられたN個の供給孔からロータリージョイントを介して圧送形式により研磨面に供給しながら両面研磨するウェーハの両面研磨方法であって、
供給孔から供給されるスラリーの流量を制御しながら研磨する、両面研磨方法。」

3 相違点
本願発明と引用発明とは、以下の点で相違する。
(1)相違点1
本願発明においては、上定盤と下定盤とに「研磨パッドがそれぞれ貼付され」ているのに対して、引用発明においては、上定盤10と下定盤12とに「研磨パッド」に相当する部材がそれぞれ貼付されているか不明である点。

(2)相違点2
「供給孔から供給されるスラリーの流量を制御しながら研磨する」との点に関して、
本願発明においては、
「前記供給孔が、前記上定盤の任意の半径から回転角度αだけ回転した半径上にM1個備えられ、
前記回転角度αよりも180度大きい回転角度をβとしたとき、
前記供給孔が、前記任意の半径から回転角度βだけ回転した半径上にM2個備えられ、
前記任意の半径から回転角度αだけ回転した半径と前記任意の半径から回転角度βだけ回転した半径とがなす直径上の供給孔に、前記直径の一端より1からM1+M2までの番号を付し、
前記直径上の供給孔のうち、i番目の供給孔の前記上定盤の中心からの距離をriとし、
前記任意の半径から回転角度αだけ回転した半径上の前記i番目の供給孔から供給されるスラリーの流量をx(ri,α)とし、
前記直径上の供給孔のうち、j番目の供給孔の前記上定盤の中心からの距離をrjとし、
前記任意の半径から回転角度βだけ回転した半径上の前記j番目の供給孔から供給されるスラリーの流量をx(rj,β)とし、
前記上定盤に備えられたN個全ての供給孔から供給されるスラリーの流量の平均値をxaveとしたとき、
前記任意の半径から回転角度αだけ回転した半径上の供給孔から供給されるスラリーの流量の平均値と前記任意の半径から回転角度βだけ回転した半径上の供給孔から供給されるスラリーの流量の平均値との差の絶対値の全ての供給孔から供給されるスラリーの流量の平均値xaveに対する割合Diffが下記式(1)の関係を満たすように制御しながら研磨」すること、及び、


」であるのに対し、
引用発明においては、「全体として均一にスラリーが供給されるように個々のスラリー供給孔48から供給されるスラリーの量を制御しながら研磨加工する」ものの、本願発明の式(1)の関係を満たすように制御しているか不明である点。

(3)相違点3
「スラリーを上定盤に備えられたN個の供給孔からロータリージョイントを介して圧送形式により研磨面に供給しながら両面研磨する」にあたり、本願発明においては、「圧送するスラリーの全流量が4L/min以上となるように」供給するのに対して、引用発明においては、圧送するスラリーの全流量が不明である点。


第6 相違点の検討
1 相違点1について
(1)周知技術1
当審拒絶理由で周知例として引用された引用文献2及び引用文献3には、それぞれ、以下の事項が記載されている。

ア 引用文献2
「【0024】
この両面研磨装置1を用いて、ワークを保持する1つ以上の保持孔が設けられたキャリアプレート7にワークを保持し、該ワークを上定盤2及び下定盤3からなる回転定盤4で挟み込み、研磨スラリーを上下定盤2、3に貼布された研磨パッド(図示せず)上に供給しながら、サンギア5とインターナルギア6を回転させることにより、回転定盤4とキャリアプレート7とを相対回転させてワークの両面を同時に研磨することができる。
ここで、研磨スラリーの供給は、研磨スラリーを滴下供給部8によって滴下して上下定盤2、3間に供給するのと同時に、研磨スラリーを圧送供給部16によって圧送して上下定盤2、3間に供給することで行う。このとき、滴下による研磨スラリーの流量及び圧送による研磨スラリーの流量は、流量調整弁10、18の弁の開閉量により調整することができる。
以下、本実施形態の作用効果について説明する。」

イ 引用文献3
「【0056】
次いで、予備研磨した30枚の試料基材を15枚づつ実施例1、比較例1に分け、図示した両面研磨装置10を用いて、試料基材の両主表面を仕上げ研磨した。実施例1では、試料基材の両主表面のうち、評価対象面を研磨スラリーの供給孔が設けられてない下定盤14の研磨面(下定盤14に取り付けられた研磨パッド24のパッド面)と対面するように設置して仕上げ研磨を実施した。比較例1では、評価対象面を研磨スラリーの供給孔30が設けられた上定盤12の研磨面(上定盤12に取り付けられた研磨パッド24のパッド面)と対面するように設置して仕上げ研磨を実施した。使用した研磨スラリーはすべて同一であり、平均一次粒子径10〜20nmのコロイダルシリカを純水に20質量%含有させた研磨スラリーに、硝酸を添加しpHを2に調整して用いた。また、研磨パッドはスウェード系パッドを使用し、試料基材の仕上げ研磨に先がけて電着ダイヤでドレッシング加工したものを用いた。仕上げ研磨の研磨条件は以下の通りである。
(研磨条件)
研磨機 : 両面研磨装置
研磨パッド : スウェード系研磨パッド
Rh : 3μm
平均開口径 : 12μm
研磨定盤回転数 : 35rpm
研磨荷重 : 80g/cm2
研磨時間 : 50分
希釈水 : 純水(比抵抗値4.2MΩ・cm、0.2μm以上異物濾過)
スラリー流量 : 10L/min
上記条件で試料基材を仕上げ研磨したあと、第一槽目が界面活性剤溶液による洗浄槽、これ以降を超純水によるすすぎ槽とIPAによる乾燥槽で構成した多段式自動洗浄機で洗浄した。この洗浄した試料基材の表面対象面をフォトマスク用表面欠点検査機(レーザーテック社製M1350A)で検査し、142mm×142mm内における凹欠点数を実施例1および比較例1で検出した。検査はそれぞれ15枚全てについて行い、凹欠点の検出数を比較した。その結果、実施例1では15枚全てで凹欠点は検出されなかった。一方、比較例では凹欠点の検出数の平均値が5個/枚であった。」

ウ 周知技術1の認定
上定盤と下定盤とで挟み込み、スラリーを研磨面に供給しながら両面研磨する両面研磨方法において、上定盤と下定盤にそれぞれ研磨パッドを設けることは、例えば、上記ア、イにそれぞれ記載されるように、本願出願前において常套手段であって、これらの定盤に研磨パッドを貼付して設けることも、例えば上記アに記載されるように、周知の技術(以下、「周知技術1」という。)であった。

(2)引用発明に周知技術1を適用することの容易想到性について
引用発明と周知技術1とは、両面研磨方法である点で技術分野が関連し、また、上定盤と下定盤とで挟み込み、スラリーを研磨面に供給しながら両面研磨する点で作用機能も共通することから、引用発明1に周知技術1を採用し、引用発明における上定盤10と下定盤12とに、当該周知技術1に係る「研磨パッド」をそれぞれ貼付することで、上記相違点1に係る本願発明のようにすることは、当業者であれば容易になし得たことである。

2 相違点2について
(1)引用発明において個々のスラリー供給孔48からの供給量を同一とすることが容易想到であること
ア 引用文献1の段落【0022】には、次の事項が記載されている(再掲)。
「【0022】
また、本実施形態の両面研磨装置では、スラリーの供給圧力を利用して定盤の面形状を調節するといった制御も可能である。すなわち、ワークを加工していくことによって定盤の温度が変動し、定盤の面形状が所定の面形状からずれてきたような場合に、スラリーの供給圧力を利用して定盤の面形状を補正することも可能である。また、定盤の面形状を特定の形状に積極的に調節して加工するような場合にも、スラリーの供給圧力を利用することで定盤の面形状を調節することが可能である。圧送供給装置60からスラリーは所定の圧力で送出されるから、スラリー供給孔48からの吐出圧力を調節弁70によって調節することにより定盤面に作用する圧力を調節することができるからである。」

イ 当該記載は、ワークの加工により定盤の温度が変動して、定盤の面形状にずれが生じ、ワークの加工精度が下がることを防止するために、スラリー供給孔48からの吐出圧力を調節弁70によって調節することで、定盤面に作用する圧力を調節して、定盤の面形状のずれを補正することを意味すると解される。
そして、当該記載の「スラリー供給孔48からの吐出圧力を調節弁70によって調節」することは、個々のスラリー供給孔からの吐出圧力に差異を生じさせることであり、吐出圧力が異なれば、個々のスラリー供給孔の供給量にも差異が生じることは明らかである。

ウ 引用文献1の当該記載に接した当業者であれば、定盤の面形状にずれが生じる場合に、個々のスラリー供給孔からの吐出圧力に差異を生じさせて補正することを理解するのであるから、そうではない場合、例えば、ワークの加工初期のように、定盤の温度が一定であり、定盤が所定形状を保っているような場合には、定盤面に作用する圧力が均一となるように、個々のスラリー供給孔からの吐出圧力が同一となるように制御するべきであることを当然に想到するといえる。そして、吐出圧力が同一であれば、個々のスラリー供給孔の供給量も同一であるといえる。

(2)引用発明において、個々のスラリー供給孔48からの供給量が同一であれば、本願発明に特定される(1)式を満たすこと
ア 引用文献1の【図2】の記載からみて、上定盤10の回転中心を通る任意の直径上において、同回転中心を挟んでその両側に位置する両半径上に設けられたスラリー供給孔48の数は同数とされているものと認められる。

イ 上記(1)ウのとおり、定盤が所定形状を保っているような場合で、各スラリー供給孔48から供給されるスラリーの量をすべて同一となるように制御することを当業者が当然に想到するのであるから、上記アのような回転中心を挟んで同数だけスラリー供給孔48が設けられた引用発明については、次のことがいえる。すなわち、本願発明にて特定される式(1)でみた場合、上定盤の任意の半径から回転角度αだけ回転した半径上の供給孔から供給されるスラリーの流量の平均値と同任意の半径から回転角度βだけ回転した半径上の供給孔から供給されるスラリーの流量の平均値については、各半径上のスラリー供給孔48から供給されるスラリー流量の合計値は同量でありかつ各半径上のスラリー供給孔48の個数は同数である以上、両平均値は同じ値となり、その差は0となることから、同式(1)の最右辺の25%を下回る値となる。よって、引用発明における「個々のスラリー供給孔48から供給されるスラリーの量を制御しながら研磨加工する」点は、同式(1)の関係を満たすことと等価であるといえる。

(3)小括
したがって、引用発明において、定盤が所定形状を保っているような場合に、各スラリー供給孔48から供給されるスラリーの量をすべて同一となるように制御することは、上記(1)のとおり、当業者であれば容易に想到し得たことであって、その結果として引用発明においてなされる「個々のスラリー供給孔48から供給されるスラリーの量を制御しながら研磨加工する」点は、上記(2)のとおり、上記相違点2に係る本願発明における「式(1)の関係を満たすように制御しながら研磨」することと等価であるといえることから、引用発明は、相違点2に係る本願発明の、式(1)の関係を満たすように制御しながら研磨するとの概念を、必然的に備えたものであるといえる。

3 相違点3について
(1)周知技術2
当審拒絶理由で周知例として引用された引用文献2及び引用文献3には、それぞれ、以下の事項が記載されている。
ア 引用文献2
「【0033】
<比較例1>
図2は、比較例1にかかる圧送のみによる研磨スラリーの供給を行う場合について、研磨スラリーの流量を1L/min毎に変化させたときの研磨レート及びGBIRの評価結果を示す図である。
図2に示すように、圧送方式のみによる研磨スラリーの供給の場合、研磨スラリー流量を増大させると、GBIRが小さくなり、ウェーハの平坦度は向上するものの、研磨レートは漸減していくことがわかる。」

【図2】




イ 引用文献3
「【0056】
・・・
スラリー流量 : 10L/min
・・・」

ウ 周知技術2の認定
上定盤と下定盤とで挟み込み、スラリーを研磨面に供給しながら両面研磨する両面研磨方法において、研磨面に圧送するスラリーの全流量が4L/min以上となるように供給することは、例えば、上記ア、イにそれぞれ記載されるように、本願出願前において周知の技術(以下、「周知技術2」という。)であった。

(2)引用発明に周知技術2を適用することの容易想到性について
引用発明と周知技術2とは、両面研磨方法である点で技術分野が関連し、また、上定盤と下定盤とで挟み込み、スラリーを研磨面に供給しながら両面研磨する点で作用機能も共通し、さらに、研磨面に圧送するスラリーの全流量をどの程度とするかは、ワークや定盤の大きさ、研磨条件等に応じて当業者が適宜決定し得る設計的事項であることから、引用発明において、スラリーの全流量を周知技術2のような数値範囲のものとして、上記相違点3に係る本願発明の数値範囲を想到することは、当業者であれば容易になし得たことである。

4 小括
本願発明は、引用発明、引用文献1の記載事項、引用文献2及び3に記載された周知技術1、並びに引用文献2及び3に記載された周知技術2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。


第7 請求人の主張について
1 請求人の主張の概要
請求人は、当審拒絶理由に対する令和4年5月26日提出の意見書にて、特に上記相違点2に関して、概ね、以下の主張(【意見の内容】3.(4)−(8))をしている。

ア 本願請求項1に記載した式(1)について何ら着目していない引用文献1の技術では、個々のスラリー供給孔の供給量を全て同一にしようとしても、以下に説明するように、式(1)の関係を満たすことはできない。
イ 両面研磨装置において、スラリー供給を行う場合には、上定盤の半径方向に内側から外側にかけてスラリー供給孔が配置され、上定盤が回転する構造により、上定盤回転中心に設けられたロータリージョイントを通して、各供給孔へとスラリーが供給されるが、このような構造では、回転中心部から内側に配置された供給孔(以下、内側供給孔)へのスラリー供給管と、回転中心部から外側に配置された供給孔(以下、外側供給孔)へのスラリー供給管とは、長さが異なることになり、また、上定盤の回転時に内側供給孔と外側供給孔とで周速も当然異なるため、スラリー供給方式が自重(重力)落下式の場合、内側供給孔と外側供給孔とでスラリー供給量は同一とならない。
ウ さらに、本願のように圧送式にした場合にも、条件によっては、内側供給孔と外側供給孔とでスラリー供給量は同一とはならず、式(1)のDiffが25%を超えてしまい、ウェーハのグローバル形状のばらつきがどうしても大きくなっていた。
エ 本発明者は、鋭意研究を行ってこれら課題を解決できる方法、すなわち式(1)を見出し、本願請求項1に記載した式(1)に着目することで初めて、式(1)の関係を満たすようにスラリー供給量を制御して研磨を行うことができ、本願の実施例1〜6では、式(1)の関係を満たすように各供給孔のスラリー流量を調整して研磨を行うことで、ウェーハのグローバル形状のばらつきを小さくすることができたことを実証している。
オ つまり、式(1)の関係を満たすようにスラリーの供給量を調整しようとしない限り、たとえ個々のスラリー供給孔の供給量を全て同一にしようとしても、式(1)の関係を満たすことはできないため、当業者は、引用文献1〜3を読んだとしても、これらの文献は式(1)に着目すらしていないので、式(1)の関係を満たすように各供給孔のスラリー流量を調整して研磨を行うことはできないし、本発明の、両面研磨したワーク厚さばらつき(GBIRばらつき)を小さくできるという効果は、式(1)に着目していない引用文献1〜3からは予期することができない顕著な効果である。

2 請求人の主張に対する検討
しかしながら、以下の理由により、請求人の主張については、採用できない。

(1)請求人は、スラリー供給管の長さの違いや周速の違いにより、自重落下式の供給方法では、個々のスラリー供給孔の供給量を全て同一にできないこと(上記1イ)を説明した上で、圧送式であっても、条件によっては、内側供給孔と外側供給孔とでスラリー供給量は同一とはならない(上記1ウ)から、式(1)に着目することで初めて、式(1)の関係を満たすようにスラリー供給量を制御して研磨を行うことができる(上記1エ)と主張している。

(2)しかし、圧送式であっても、内側供給孔と外側供給孔とでスラリー供給量は同一とはならないような「条件」について、具体的には何ら説明しておらず、請求項1に、その「条件」が具体的に特定されているとはいえない。
そうすると、本願発明は、請求人のいう「条件」を満たす場合(圧送式であっても、内側供給孔と外側供給孔とでスラリー供給量は同一とはならない場合)だけでなく、請求人のいう「条件」を満たさない場合(圧送式であって、内側供給孔と外側供給孔とでスラリー供給量が同一となる場合)も含んでいると解するほかない。

(3)そして、上記第6の2(3)アで説示するとおり、引用発明において、各スラリー供給孔48から供給されるスラリーの量がすべて同一となるように制御すること(圧送式であって、内側供給孔と外側供給孔とでスラリー供給量を同一とすること)は、当業者が容易に想到できる事項であるから、請求人の当該主張は採用できない。

(4)また、請求人は、厚さのばらつきを小さくできる効果(上記1エ及びオ)を主張しているが、引用発明は、スラリーの供給圧力を利用して定盤の面形状を補正することも可能なのであるから、定盤が平坦である場合に、各スラリー供給孔48から供給されるスラリーの量がすべて同一となるように制御することで、均一に研磨を行い、厚さのばらつきが小さくなることは当然である。
したがって、厚さのばらつきの効果に関する主張についても採用できない。

(5)なお、請求人は、圧送式であっても、「条件」によって、スラリー供給管の長さの違いや周速の違いにより、内側供給孔と外側供給孔とでスラリー供給量を全て同一にできないことを主張している(上記1イ、ウ)ところ、仮に、請求人のいう上記「条件」が常に満たされるとしても、以下に説示するとおり、当審の判断を覆すことにはならない。

ア 引用文献1の図2に下記の補助線(「任意の半径A」、任意の半径Aから「回転角度αだけ回転した半径B」、及び、任意の半径Aから「回転角度β(=α+180度)だけ回転した半径C」)を付して参照すると、本願発明にて特定されるパラメータに当てはめて、次の(※)の点が看取される。



(※)上定盤10に設けられた多数個のスラリー供給孔48は、上定盤10の中心Oに対して点対称に複数の同心円上に配置されているため、図中に付した「半径B」上と「半径C」上には、M1=M2=2個のスラリー供給孔48を備えるとともに、本願発明にて特定されるとおりにスラリー供給孔48に番号を付すと、r1=r4、r2=r3 の関係にある点。

イ 仮に請求人の主張のとおり内側供給孔と外側供給孔とでスラリー供給量を全て同一にできないとしても、スラリー供給孔48からの流量は、中心Oからの距離rによって異なるのみで、任意の半径Aからの角度(α、β)には依存しないことから、中心Oから同一の距離に設けられたスラリー供給孔48からの流量については、次の関係式が成り立つ。
x(r1,α)=x(r4,β)、
x(r2,α)=x(r3,β)
ウ してみると、次の関係式が成り立つ。
(x(r1,α)+x(r2,α))/M1
=(x(r4,β)+x(r3,β))/M2
エ 当該関係式は、角度(α、β)が変化してM1=M2=1個となる場合にも成り立つことから、引用発明に係る両面研磨方法は、本願発明の式(1)の以下の絶対値の項が0となるように、スラリー供給孔48からの流量を制御しながら研磨することと等価である。

オ このように、引用発明は、仮に、上記1ウの「条件」を常に満たす場合であったとしても、本願発明の式(1)を満たすような流量の制御が行われるものであって、さらに、引用文献1の段落【0019】に記載されるように、全体として均一にスラリーが供給されることから、請求人の上記1エ、オの主張についても採用することができない。

(6)以上のように、引用発明は、上記1ウの「条件」の如何にかかわらず、本願発明にて特定される式(1)に着目していなくとも、結果として当該式(1)を満たすような制御が行われるものであるといえることから、請求人の主張を採用することができない。


第8 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明、並びに、引用文献1の記載事項、例えば引用文献2及び3に記載された周知技術1、及び 例えば引用文献2及び3に記載された周知技術2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、請求項2について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
審理終結日 2022-08-31 
結審通知日 2022-09-06 
審決日 2022-09-27 
出願番号 P2018-023969
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B24B)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 刈間 宏信
特許庁審判官 鈴木 貴雄
田々井 正吾
発明の名称 両面研磨方法  
代理人 小林 俊弘  
代理人 好宮 幹夫  
代理人 大塚 徹  

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